(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】微粉炭バーナーを用いた燃料の燃焼方法とセメントの製造方法
(51)【国際特許分類】
F23D 17/00 20060101AFI20241202BHJP
C04B 7/44 20060101ALI20241202BHJP
F23C 1/12 20060101ALI20241202BHJP
F27B 7/34 20060101ALI20241202BHJP
F27D 7/02 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
F23D17/00 103
C04B7/44
F23C1/12
F27B7/34
F27D7/02 A
(21)【出願番号】P 2022032650
(22)【出願日】2022-03-03
【審査請求日】2024-07-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】河野 肇
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼山 佳典
【審査官】柳本 幸雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2024-117396(JP,A)
【文献】国際公開第2023/120701(WO,A1)
【文献】特開2019-137579(JP,A)
【文献】特開2019-172484(JP,A)
【文献】特開昭62-116818(JP,A)
【文献】特開昭60-162108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23C 1/12
C04B 7/44
F27B 7/34
F27D 7/02
F23D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同心状に流路を複数有する微粉炭バーナーを用いたセメント原料焼成用の燃料の燃焼方法であって、
前記燃料として、前記微粉炭バーナーの先端から中空の微粉炭流を噴出させると共に、前記微粉炭流のまわりと前記微粉炭流で囲われる内部空間とに可燃性のガス流を噴出させることを特徴とする、燃料の燃焼方法。
【請求項2】
前記ガス流が、ガス燃料と不活性ガスとの混合気体で成ることを特徴とする、請求項1に記載の燃料の燃焼方法。
【請求項3】
前記ガス燃料が再生メタン、グリーン水素、ブルー水素の何れかであることを特徴とする、請求項2に記載の燃料の燃焼方法。
【請求項4】
燃焼熱[J/kg]と投入速度[kg/s]とを掛けて算出される前記燃料全体の投入エネルギー[W]の中で、前記ガス流の投入エネルギー[W]が占める割合が30%以上、且つ50%未満であることを特徴とする、請求項1から請求項3の何れかに記載の燃料の燃焼方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4の何れかに記載の燃焼方法を用いてロータリーキルンでセメント原料を焼成することを特徴とする、セメントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粉炭バーナーを用いた燃料の燃焼方法とセメントの製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セメント原料の焼成装置では、ロータリーキルン内に先端を突出させた微粉炭バーナーに燃料となる微粉炭を供給し、微粉炭を燃焼させてセメント原料を焼成する。微粉炭バーナーは、微粉炭、空気が吹き出る複数の噴出口を設けている。
【0003】
特許文献1に開示の焼成装置は、ガス燃料を主燃料とすると共に、可燃性廃棄物と空気とをガスバーナーに供給して、ロータリーキルン内へ噴出して燃焼する。特許文献2に開示の焼成装置は、微粉炭と重油とを燃料に用いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-52746号公報
【文献】特開2018-96610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
脱炭素社会の実現へ向けて、微粉炭の使用量を低減することが望まれる。微粉炭の燃焼による二酸化炭素の排出量を低減するように、微粉炭に代えてガス燃料を用いることが考えられる。微粉炭を燃料とする焼成装置において、ガス燃料を用いるためには、微粉炭燃焼バーナーを構造の異なるガスバーナーに換える必要がある。
さらにガス燃料を燃焼させて形成される火炎(フレーム)では、ロータリーキルンの温度分布が、微粉炭燃料を燃焼させて形成される火炎(フレーム)と比べて、焼成に適した温度分布が狭くなり、補助バーナーをロータリーキルンの途中に設けることができないので、ガスバーナーではロータリーキルンの使用の条件が大きく変わってしまう。従来の微粉炭だけを燃料とする微粉炭専焼と同様の温度分布を確保したセメント原料の焼成を確保しつつ、温室効果ガスの排出を低減することが望まれる。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、微粉炭バーナーを用いて微粉炭とガス燃料と燃焼させる燃焼方法と、この燃焼方法を用いるセメントの製造方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、同心状に流路を複数有する微粉炭バーナーを用いたセメント原料焼成用の燃料の燃焼方法であって、前記燃料として、微粉炭バーナーの先端から中空の微粉炭流を噴出させると共に、前記微粉炭流のまわりと前記微粉炭流で囲われる内部空間とに可燃性のガス流を噴出させる。
【0008】
ガス燃料が微粉炭流の内側と外側とを覆うように噴出して、微粉炭流はガス流(内側ガス流,外側ガス流)の間を通ってロータリーキルンの上流側へ移動することで、ガス燃料が先に燃焼して、微粉炭流への空気の供給が抑制される。微粉炭流はガス燃料の燃焼区間での微粉炭の燃焼が抑えられて、ガス燃料の燃焼区間よりも上流側で燃焼する。これにより、微粉炭流がガス流との割合を調整することで、微粉炭専焼と同等の火炎を形成することもでき、ガス燃料を使用する分、微粉炭の量を削減できる。
【0009】
さらに、本発明では、前記ガス流を、ガス燃料と不活性ガスとの混合気体で構成してもよい。
二酸化炭素やアルゴンなどの不活性ガスを用いることで、微粉炭流が燃焼して形成される火炎(フレーム)の長さを調節することができる。
さらに、本発明では、好ましくは、燃焼熱[J/kg]と投入速度[kg/s]とを掛けて算出される投入エネルギー[W]の中で、前記ガス流の投入エネルギー[W]が占める割合が30%以上、且つ50%未満である。
ガス流の投入エネルギー[W]が占める割合が30%以上、且つ50%未満であると、微粉炭バーナーを用いて、微粉炭の量を低減しつつ、セメント原料の焼成に好適な火炎を形成することができる。前記ガス流の割合が30%未満であると微粉炭の削減量が少なく、50%以上であると主にガス燃焼となりセメント原料の焼成に好適な火炎を形成することができず、微粉炭バーナーをガスバーナーに交換する必要がある。
本発明のセメントの製造方法は前記燃焼方法を用いてロータリーキルンでセメント原料を焼成する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、微粉炭燃料の一部をガス燃料に代えて、微粉炭バーナーによって燃焼させてセメント原料の焼成を行うことができる。従来の微粉炭専焼で使用する微粉炭の量を低減することができ、脱炭素化社会への実現にも貢献することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係るセメント製造システムを示す図である。
【
図2】(a)は本発明の実施形態に係る微粉炭バーナーの正面図であり、(b)は(a)の微粉炭バーナーのS1-S1線に沿った部分断面図である。
【
図3】
図2の微粉炭バーナーで形成される火炎を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るセメント製造システムの変形例を示す図である。
【
図5】(a)は他の構成例の微粉炭バーナーの正面図であり、(b)は(a)の微粉炭バーナーのS2-S2線に沿った部分断面図である。
【
図6】(a)から(d)は
図2の微粉炭バーナーで形成される火炎を示す図である。
【
図7】実施例でのロータリーキルンの温度分布を示す図である。
【
図8】実施例でのロータリーキルンの断面平均温度を示すグラフである。
【
図9】実施例でのロータリーキルンの熱流束を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態のセメント製造システム1について説明する。
セメント製造システム1は、セメント原料として石灰石、粘土、珪石、鉄原料等を個別に貯蔵する原料貯蔵庫2と、これらセメント原料を粉砕、乾燥する原料ミル及びドライヤ3Aと、原料供給管L1を介して供給され、この原料ミルで得られた粉体状のセメント原料を予熱するプレヒータ4と、プレヒータ4によって予熱されたセメント原料を仮焼する仮焼炉5と、仮焼されたセメント原料を焼成するロータリーキルン6と、ロータリーキルン6で焼成された後のセメントクリンカを冷却するためのクーラ7と、ロータリーキルン6の内部空間に先端を突出させていて微粉炭と共にガス燃料を燃焼する微粉炭バーナー10等と、を備えている。
【0013】
セメント製造システム1では、セメント原料の焼成に際して、微粉炭バーナー10の燃料として、微粉炭に加えてガス燃料を用いる。
微粉炭バーナー10は、微粉炭専焼用に構成されている。具体的には、微粉炭バーナー10は、
図2に示すように、中心側から外周側に向かって順次同心に設けられた中空部100、第一外側流路110、第二外側流路120、第三外側流路130を備えており、先端には、中心に設けられる開口101と、開口101の外側に設けられ周方向に沿って複数設けられた第一外側噴出口111と、第一外側噴出口111よりも外側に設けられ周方向に沿って複数設けられた第二外側噴出口121と、第二外側噴出口121よりも外側に設けられ周方向に沿って複数設けられた第三外側噴出口131と、を備えている。
【0014】
第一外側流路110の第一外側噴出口111は、複数の孔として設けられており、微粉炭バーナー10の前方を臨む面とその外周面に設けられている。
第二外側流路120が微粉炭バーナー10の中心軸O方向と平行に第一外側流路110と第三外側流路130との間に設けられ、複数の第二外側噴出口121が微粉炭バーナー10の先端に設けられ、これらは中心軸Oのまわりで等間隔に並んでいる。
第三外側流路130は、中心軸O方向と平行に、かつ、微粉炭バーナー10の最も外周側に設けられている。複数の第三外側噴出口131が微粉炭バーナー10の先端に設けられ、これらは中心軸Oのまわりで等間隔に並んで先端周縁に寄せて設けられている。
【0015】
このように構成された微粉炭バーナー10の用い方について、従来の微粉炭専焼の場合と、本実施形態の微粉炭とガス燃料とを燃焼する方法による場合と、を分けて説明する。
【0016】
従来の微粉炭専焼の場合、中空部100には、オイルバーナーが挿入される。第一外側流路110は空気の流路として用いられ、空気が複数の第一外側噴出口111からバーナー前方と半径外向きに噴出する。
第二外側流路120は微粉炭の流路として用いられ、微粉炭と空気とが複数の第二外側噴出口121からバーナー前方に噴出する。
第三外側流路130は空気の流路として用いられ、空気が複数の第三外側噴出口131からバーナー前方に噴出する。微粉炭専焼の場合の中空部100の用い方と、第一外側流路110,第二外側流路120及び第三外側流路130それぞれに流れる流体を表1に示す。
【0017】
本実施形態の燃焼方法は、前記の微粉炭専焼の場合と比べると、第一外側流路110と第二外側流路120との用い方は同じであるが、中空部100と第三外側流路130とをガス燃料供給の流路に用いる点が異なる。
ガス燃料は可燃性ガスだけで構成され、可燃性ガスとしては例えばメタン、二酸化炭素を排出せずに製造されたグリーン水素、二酸化炭素の排出を抑えて製造されたブルー水素などを利用することができ、液状から気化し更に圧縮されて中空部100と第三外側流路130とを流れる。さらに、ガス燃料としては、可燃性ガスに不活性ガスを混ぜて圧縮した混合気体を利用することもでき、不活性ガスとしては、二酸化炭素、窒素、アルゴンを利用することができる。
本実施形態の燃焼方法において、中空部100,第一外側流路110,第二外側流路120及び第三外側流路130それぞれに流れる流体を表1に示す。
【0018】
【0019】
セメント製造システム1は、
図1に示すように、燃料や空気を微粉炭バーナー10へ供給する供給部9を備えており、供給部9は、微粉炭と共に空気を送る微粉炭供給系91と、空気だけを送る空気供給系92と、ガス燃料供給系93と、を備えている。ガス燃料供給系93は、液化ガスを貯蔵するタンクなどの収容部93Aと、液化ガスを気化する気化装置93Bと、気化したガスを昇圧して微粉炭バーナー10へ送る圧縮装置93Cなどを備えている。
ガス燃料は、圧縮装置93Cから供給ラインL2を経て、微粉炭バーナー10の中空部100や第三外側流路130を流れる。さらにガス燃料は、圧縮装置93Cから供給ラインL3を経て仮焼炉5のバーナー10Aにも供給される。なお、図示例では、供給ラインL2を一本表しているが、中空部100と第三外側流路130用に別々に設けられてもよいし、供給ラインL2の途中で分岐してガス燃料を中空部100と第三外側流路130とに流してもよい。
【0020】
図3は本実施形態の燃焼方法によって、微粉炭バーナー10からロータリーキルン6内へ噴出する燃料及びその燃焼によって形成される火炎を示す概略断面図である。微粉炭は、空気と共に微粉炭バーナー10の第二外側流路120の第二外側噴出口121からロータリーキルン6内に筒状に噴出する。以下、第二外側流路120の複数の第二外側噴出口121から噴出した微粉炭を含む空気の流れを微粉炭流200と呼ぶ。なお、
図2(a)に示すように、第二外側噴出口121が微粉炭バーナー10の先端に中心軸Oまわりに所定の間隔で周方向の全体にわたって等しい間隔で設けられており、これらの第二外側噴出口121から微粉炭を含む空気が吹き出すため、微粉炭流200は中空の内部空間P
INを有する。
【0021】
ガス燃料は、中空部100の開口101と第三外側流路130の複数の第三外側噴出口131とから微粉炭流200で囲われる内部空間P
INと微粉炭流200の外にある外部空間P
OUTへ噴出している。以下、中空部100から内部空間P
INへ噴出するガス燃料を『内側ガス流310』と呼び、第三外側流路130の複数の第三外側噴出口131から微粉炭流200のまわりに噴出するガス燃料を『外側ガス流320』と呼ぶ。空気として、空気410が、第一外側流路110の複数の第一外側噴出口111から内部空間P
INへ噴出している。さらに、外部空間P
OUTにある二次空気420は、二次空気供給部によってロータリーキルン6内に給気されている。
図1では、符号SAが二次空気供給部を表している。
【0022】
これらの微粉炭,ガス燃料300(内側ガス流310,外側ガス流320)が空気410,420によって拡散し燃焼することで、火炎Fが形成される。
図面では、クロスハッチングを付した箇所が空気410,420と混合して燃焼する火炎を表している。内側ガス流310が主に内部空間PINにある空気410と混合し燃焼して、火炎f1を形成する。外側ガス流320が主に二次空気420と混合し燃焼して、火炎f2を形成する。微粉炭流200が二次空気420と混合し燃焼して、火炎f3を形成する。
【0023】
内側ガス流310と外側ガス流320とは、ロータリーキルン6内で微粉炭バーナー10寄りの位置で、微粉炭流200を間に入れて燃焼する。具体的には、内側ガス流310は微粉炭流200で囲われてその中で燃焼し、外側ガス流320は微粉炭流200のまわりで燃焼する。内側ガス流310の噴出量と外側ガス流320の噴出量とは、限定されるものではないが、例えば同じ密度で同量(同速度)を噴出させる。
【0024】
微粉体流200が燃焼する主な位置は、外側ガス流320の燃焼位置よりもロータリーキルン6の上流側にずれている。微粉体流200は、内側ガス流310が燃焼して形成される火炎f1と外側ガス流320が燃焼して形成される火炎f2との間を通って、ロータリーキルン6の上流側へ向いながら燃焼して火炎f3を形成する。
【0025】
さらに、本実施形態の燃料の燃焼方法では、単位時間当たりに投入される投入エネルギーE1[W]が燃料の燃焼熱[J/kg]と投入速度[kg/s]とを掛けて算出され、これは微粉炭専焼における投入エネルギーE2[W]に等しくなるように設定されている。投入速度は、単位時間当たりロータリーキルン6に投入される燃料の重量である。なお、投入エネルギーE1[W]は、微粉炭による投入エネルギーE11[W]と、ガス燃料による投入エネルギーE12[W]との和で成り、微粉炭による投入エネルギーE11[W]は微粉炭の燃焼熱[J/kg]とその投入速度[kg/s]とを掛けて算出され、ガス燃料による投入エネルギーE12[W]はガス燃料の燃焼熱[J/kg]とその投入速度[kg/s]とを掛けて算出される。投入エネルギーE1[W]の中でガス燃料による投入エネルギーE12[W]が占める割合は例えば30%以上、且つ50%未満である。
【0026】
本実施形態の燃料の燃焼方法によれば、可燃性のガス流として内側ガス流310と外側ガス流320とが微粉炭バーナー10から供給された空気410やその周辺の二次空気420と混合して微粉体流200よりも早く燃焼する。ロータリーキルン6の微粉炭バーナー10寄りの箇所では、内側ガス流310と外側ガス流320が空気410、420と混合し燃焼することで微粉炭流200の燃焼を抑えることができ、これにより微粉炭流200がガス燃焼位置よりも離れた箇所まで飛距離を延ばして燃焼する。
このようにロータリーキルン6では、微粉炭とガス燃料300とがそれぞれの主な燃焼位置をずらして燃焼することで、火炎Fが形成される。
【0027】
内側ガス流310による火炎f1の長さは、主に中空部100からの内側ガス流310の流量と第一外側流路110からの空気の流量の割合に依る。
外側ガス流320による火炎f2の長さは、主に第三外側流路130から噴出する外側ガス流320の流量と二次空気420の量に依る。
微粉炭から成る微粉炭流200による火炎f3の長さは、主に第二外側流路120からの微粉炭の流量と二次空気420の量に依る。
これらから、ガス燃料300(内側ガス流310,外側ガス流320),微粉炭及び空気の割合を変えることで、火炎(フレーム)の長さを変えることができる。
全燃料(微粉炭流200,内側ガス流310,外側ガス流320)に拠る全体の投入エネルギーと微粉炭流200の投入速度[kg/s]とを一定にした条件の下で、内側ガス流310の投入速度[kg/s]を外側ガス流320の投入速度[kg/s]よりも多くすると、ロータリーキルン6の内部の最高温度は内側ガス流310の投入速度[kg/s]と外側ガス流320の投入速度[kg/s]とが同じであるときの温度よりも高くなり、内側ガス流310の投入速度[kg/s]を外側ガス流320の投入速度[kg/s]よりも少なくすると、ロータリーキルン6の内部の最高温度は内側ガス流310の投入速度[kg/s]と外側ガス流320の投入速度[kg/s]とが同じであるときの温度よりも低くなる。
このように、全燃料(微粉炭流200,内側ガス流310,外側ガス流320)に拠る全体の投入エネルギーと微粉炭流200の投入速度[kg/s]とを一定にした条件の下では、内側ガス流310の流量と外側ガス流320の流量とを調整することで、火炎の長さ、ロータリーキルン6の内部の温度の分布を微粉炭専焼の温度分布相当に合わせることができる。
【0028】
本実施形態の燃料の燃焼方法によれば、セメント製造システム1で、ガス燃料300を微粉炭で成る微粉炭流200の内と外とに噴出させ更に燃焼させることで、微粉炭流200がガス燃焼位置よりも離れた位置で燃焼することができ、ロータリーキルン6内で所望の温度分布やその熱流束を得ることがでる。例えば所定量の微粉炭を燃料とする微粉炭専焼の場合と、同程度の火炎Fをロータリーキルン6内に生成して、セメント原料の焼成に必要なセメントキルン内の温度分布やセメントキルンの内周面における熱流束を得ることもできる。
さらに、セメント製造システム1では、セメントクリンカの製造に伴いロータリーキルン6及び仮焼炉5で発生する排ガスは、プレヒータ4を下方から上方に経由した後、排気管L4を通って原料ミル及びドライヤ3Aに導入され、セメント原料の乾燥に用いられた後、集塵機3Bを介して煙突3Cから排出されるが、前記のように微粉炭燃料の一部をガス燃料300としてセメント原料の焼成を行うことで、従来の微粉炭専焼で使用する微粉炭の量と共に排出する二酸化炭素の量を低減することができる。
【0029】
本発明は、前記の実施形態に限らず、発明の趣旨の範囲で様々な形態で実施をすることができる。
【0030】
(変形例)
図4に示すセメント製造システム1Aでは、セメント製造プロセスで生じる排ガスを用いてメタンを製造し、この再生メタンをセメント焼成用の燃料に用いる。
セメント製造システム1Aは、前記のセメント製造システム1Aの構成に加えて、ロータリーキルン6及び仮焼炉5で発生し、煙突3Cから排出される前の排ガスを収集する排ガス収集ラインL5と、排ガス収集ラインL5から送られてくる排ガスから二酸化炭素を分離回収すると共に分離回収した二酸化炭素に水素を添加してメタン(再生メタン)を生成するメタン化装置8と、を備えている。
セメント製造システム1Aでは、メタン化装置8によってセメント焼成時に生じた排ガスの一部を集塵機3Bと煙突3Cとの間から収集して、メタン化装置8が、排ガスから二酸化炭素の回収と、回収した二酸化炭素を用いてメタンの生成と、を行う。
二酸化炭素の回収プロセスでは、排ガスから窒素酸化物(NO
X)や硫黄酸化物(SO
X)、ハロゲン、及びH
2O、ダストなどの酸性成分及び有害成分の除去と、窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SO
X)、ハロゲン、及び水(H
2O)、ダストなどの除去と、有害成分等を除去した排ガスから二酸化炭素を取り出す分離・回収と、二酸化炭素を除去した排ガスの外部への排出と、を行う。
メタンの生成プロセスでは、回収された二酸化炭素を0.1MPa以上好ましくは0.5~1.0MPaの圧力をかけて圧縮し、二酸化炭素内に含まれる水分を除去する。さらに、除湿された二酸化炭素に水素ガスを供給して混合し、加圧して、二酸化炭素からメタンを生成する。メタン化装置8で生成された液化ガスとしてのメタンは送出ラインL6を介してガス燃料供給系93の収容部93Aに送られて貯蔵される。メタンは使用の際に、気化装置93B及び圧縮装置93Cによって、気化し更に昇圧されて微粉炭バーナー10へ供給される。前記の実施形態と同様に、メタンが微粉炭流200の内側と外側とを覆うように噴出し燃焼する。
セメント製造システム1Aによれば、セメント原料の焼成で生じる二酸化炭素を用いてメタンを製造し、これをセメント製造に利用することで、二酸化炭素の排出量を一層低減することができ、脱炭素化社会への実現に貢献することができる。
【0031】
(微粉炭バーナー)
さらに、本発明は、微粉炭バーナー10に代えて、例えば
図5に示す微粉炭バーナー10′などを用いて実施をすることもできる。微粉炭バーナー10′で、微粉炭バーナー10の前記の中空部100,第一外側流路110(第一外側噴出口111)、第二外側流路120(第二外側噴出口121)、第三外側流路130(第三外側噴出口131)に相当する箇所に同じ符号を用いている。
【0032】
(ガス燃料)
ガス燃料としては、セメント原料の焼成の際に生じた排ガスから二酸化炭素回収装置によって抽出した二酸化炭素と、可燃性ガスと、を混合して成る混合気体を用いてもよい。
再生メタンなどの可燃性ガスは、液化せずに、気体の状態でタンクに収容してもよい。
さらに、外側ガス流210の投入エネルギーが一定である条件の下で、外側ガス流210に含まれる二酸化炭素の量と外側ガス流210の流速とを調整すると、ロータリーキルンの内部の温度や熱流束の分布を変えることができる。
【実施例】
【0033】
(1―1)解析内容
流体解析ソフトウェアを利用して、複数の噴出口を有する微粉炭バーナー10を用いた燃料の燃焼方法を変えて、ロータリーキルン6内の温度分布と内周面の熱流束を、従来の微粉炭専焼(以下、従来例と呼ぶ。)と比較する。
流体解析ソフトウェア:ANSYS, Inc.社製の「Ansys Fluent」
【0034】
(1―2)燃料
各燃焼方法では、それぞれ微粉炭及びメタンを用いるが、噴出口の用い方が異なっていて、メタン供給の流路を中空部100及び第三外側流路130の一方、或いは両方とした。各燃料供給方法では、微粉炭を第二外側流路120から空気と共に噴出させる。さらに、各燃焼方法では、投入エネルギーE1′[W]が従来例の投入エネルギーE2′[W]に等しい。各燃焼方法における投入エネルギーE1′[W]は、微粉炭による投入エネルギーE11′[W]と、ガス燃料による投入エネルギーE12′[W]との和で表され、これらの割合が調整されている。
表2に、発明実施例と従来例と比較例1,2とにおける投入エネルギーの内訳として、中空部100、第一外側流路110、第二外側流路120、第三外側流路130からロータリーキルン6内へ噴出される燃料と、それらの割合とを示した。なお、従来例で第二外側流路120からロータリーキルン6内へ噴出される微粉炭の投入エネルギーE2′[W]を100%として表している。
【0035】
【0036】
発明実施例と比較例2では燃料の一部に、第三外側噴出口131から噴出する外側ガス流320を用いており、発明実施例の外側ガス流320は、気化したメタンと二酸化炭素が混じった混合気体として構成されているのに対して、比較例2の外側ガス流320は気化したメタンである。
発明実施例の外側ガス流320は、二酸化炭素がメタンよりも多く含まれていて、モル比で0.83である。
【0037】
(1―3)空気
発明実施例,比較例1,2の何れにおいても、第一外側流路110を空気の流路として用い、何れの供給方法でも供給する空気の量を等しいものとした。また、第三外側流路130からロータリーキルン6内へ供給される空気と、二次空気供給部SAからロータリーキルン6内へ供給される空気の割合を変えている。発明実施例と従来例と比較例1,2とにおける空気の割合を表3に示した。なお、従来例で第一外側流路110から噴出する空気の量を基準として、これとの比率として発明実施例及び比較例1,2の空気の量を表している。なお、中空部100を流れるガス燃料は気化したメタンだけで構成され、第三外側流路130を流れるガス燃料はメタンと二酸化炭素とで構成されていて、表3では空気の量を『0.00』と表している。
【0038】
【0039】
(1―4)燃料の燃焼
(1―4-1)発明実施例
図6(a)に示すように、発明実施例の燃焼方法では、燃料として微粉炭とガス燃料とを用いる。微粉炭は、空気と共に微粉炭バーナー10の第二外側流路120の複数の第二外側噴出口121からロータリーキルン6内に噴出して、微粉炭流200を形成する。ガス燃料としてメタンを用い、内側ガス流310が中空部100から内部空間P
INへ噴出し、外側ガス流320が第三外側流路130の複数の第三外側噴出口131から外部空間P
OUTへ噴出する。内側ガス流310ではメタンの流量が0.2[kg/s]であり、メタンの平均密度が標準状態で0.7[kg/m
3]である。外側ガス流320は、流量が0.2[kg/s]のメタンと流量が0.6[kg/s]の二酸化炭素とが混合して、合計流量を0.8[kg/s]とする混合気体であり、メタンの平均密度は標準状態で1.4[kg/m
3]である。さらに、空気が第一外側流路110の複数の第一外側噴出口111から内部空間P
INへ噴出する。
【0040】
内側ガス流310と外側ガス流320とは、微粉炭バーナー10寄りの位置で燃焼して火炎f1,f2を形成する。微粉体流200は、内側ガス流310が燃焼して形成される火炎f1と外側ガス流320が燃焼して形成される火炎f2との間を通り、さらにロータリーキルン6の上流側へ向いながら燃焼して火炎f3を形成する。なお、
図6では空気を省略している。
【0041】
(1―4-2)従来例
図6(b)に示すように、従来例は、空気と共に第二外側流路120の複数の第二外側噴出口121からロータリーキルン6内に噴出し、微粉炭流200を形成する。さらに、空気が、第一外側流路110の複数の第一外側噴出口111から内部空間P
INへ噴出し、さらに第三外側流路130の複数の第三外側噴出口131から外部空間P
OUTへ噴出する。微粉炭流200は内部空間P
INと外部空間P
OUTにある空気とも混合して燃焼する。なお、内部空間P
INでは、微粉炭バーナー10寄りの位置で火炎f1が形成され、また、微粉炭流200は外部空間P
OUTにある空気と混合して燃焼し火炎f3を形成する。
【0042】
(1―4-3)比較例1
図6(c)に示すように、比較例1の燃焼方法では、微粉炭は、空気と共に第二外側流路120の複数の第二外側噴出口121からロータリーキルン6内に噴出し、微粉炭流200を形成する。ガス燃料として、メタンで成る内側ガス流310が、中空部100から内部空間P
INへ噴出する。空気が、第一外側流路110の複数の第一外側噴出口111から内部空間P
INへ噴出し、さらに第三外側流路130の複数の第三外側噴出口131から外部空間P
OUTへ噴出する。
【0043】
内側ガス流310は、微粉炭バーナー10から供給された空気と混合して燃焼する。微粉炭流200は外部空間POUTにある空気と混合して燃焼し火炎f3を形成する。微粉炭流200は、微粉炭バーナー10寄りの箇所から離れた箇所まで、そのほぼ全長に亘って外部空間POUTの空気と混合して燃焼する。
【0044】
(1―4-4)比較例2
図6(d)に示すように、比較例2の燃焼方法では、微粉炭は、空気と共に第二外側流路120の複数の第二外側噴出口121からロータリーキルン6内に噴出し、微粉炭流200を形成する。ガス燃料として、メタンで成る外側ガス流320が、第三外側流路130の複数の第三外側噴出口131から外部空間P
OUTへ噴出する。外側ガス流320は、同じ噴出量がバーナーへ供給される。外側ガス流320ではメタンの流量が0.4[kg/s]であり、メタンの密度が標準状態で0.7[kg/m
3]である。空気が、第一外側流路110の複数の第一外側噴出口111から内部空間P
OUTへ噴出する。
【0045】
外側ガス流320は、微粉炭バーナー10から供給された空気などと混合して燃焼する。微粉炭流200は、微粉炭バーナー10寄りの位置で内側に火炎f1を形成し、さらに外側ガス流320の燃焼位置よりもロータリーキルン6の上流側では、外部空間POUTにある空気と混合して燃焼し、火炎f3を形成する。
【0046】
(1―5)解析結果
解析ツールの解析結果として、温度と熱流束の分布を
図7~
図9に示す。
図7はロータリーキルン6の軸に沿った縦断面で軸より上方にある火炎Fの温度[K]の分布を表しており、
図8は断面平均温度[K]としてロータリーキルン6の軸に沿った各位置で軸と直交する断面の平均温度[K]の分布を表すグラフであり、
図9は熱流束としてロータリーキルン6の内周面での熱量[W/m
2]の分布を表すグラフである。
発明実施例の燃焼方法によれば、ロータリーキルン6の軸に沿った各位置で、断面平均温度[K]と熱流束[W/m
2]の何れも従来例に近い値を有してグラフ線の全体の形も従来例のグラフ線の形と似通っており、従来例と同等の火炎Fを形成する。さらに、発明実施例の燃焼方法は、外部へ排出される二酸化炭素の量を従来例と比べると、排出量を数%低減することができる。発明実施例の燃焼方法において、外側ガス流320に含まれる二酸化炭素として排ガスから抽出した二酸化炭素を用いると、微粉炭の一部をガス燃料に代替した場合よりも二酸化炭素の排出量を低減することができ、さらに内側ガス流310及び外側ガス流320を構成するメタンを排ガスから生成して用いると、二酸化炭素の排出量を一層低減することができる。
一方、比較例1の燃焼方法では、断面平均温度[K]と熱流束[W/m
2]の何れも噴出口からの距離が特に15m~20m程のところでは従来例の値よりも大きく、その差が大きいためグラフ線の全体の形も従来例のグラフ線と異なっており、従来例の火炎に相当するものではない。
比較例2の燃焼方法では、断面平均温度[K]と熱流束[W/m
2]の何れも噴出口からの距離が特に10m~25m程のところでは従来例の値よりも小さく、その差が大きいためグラフ線の全体の形も従来例のグラフ線の形と異なっており、従来例の火炎に相当するものではない。
このような解析結果から、発明実施例のように、ガス燃料(内側ガス流310,外側ガス流320)が微粉炭流200の内側と外側とを覆うように噴出することで、ガス燃料300(310,320)の燃焼区間での微粉炭流200の燃焼を抑えて火炎Fの長さを制御できること、を確認した。
【符号の説明】
【0047】
1 セメント製造システム
10 微粉炭バーナー
100 中空部
110 第一外側流路
111 第一外側噴出口
120 第二外側流路
121 第二外側噴出口
130 第三外側流路
131 第三外側噴出口
PIN 内部空間
POUT 外部空間