(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】セラミックス回路基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 3/06 20060101AFI20241202BHJP
H05K 3/38 20060101ALI20241202BHJP
C23F 1/18 20060101ALI20241202BHJP
C23F 1/30 20060101ALI20241202BHJP
H01L 23/13 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
H05K3/06 P
H05K3/06 N
H05K3/38 E
C23F1/18
C23F1/30
H01L23/12 C
(21)【出願番号】P 2023511240
(86)(22)【出願日】2022-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2022014915
(87)【国際公開番号】W WO2022210507
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2021057055
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】303058328
【氏名又は名称】東芝マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004026
【氏名又は名称】弁理士法人iX
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 亮人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 寛正
(72)【発明者】
【氏名】平林 英明
【審査官】齊藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/054294(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第111403347(CN,A)
【文献】特開平1-206508(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 1/00
C23F 1/18
C23F 1/30
C23F 3/06
C04B 37/02
H01L 23/15
H05K 3/06
H05K 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Agを含有せず、Cuと、活性金属と、SnおよびInから選ばれる1種以上の第1元素と、を含有するろう材層を介して、セラミックス基板の少なくとも一方の面に銅部材が接合された接合体を用意する工程と、
前記銅部材の一部と、前記ろう材層に含まれるCuおよび前記第1元素を主成分とする層と、を塩化鉄または塩化銅のいずれか1種以上を用いた水溶液によりエッチングする
ことで、前記ろう材層に含まれる活性金属反応層がむき出しになった個所を存在させる第一の銅エッチング工程と、
過酸化水素及びペルオキソ二硫酸アンモニウムから選ばれる1種または2種を含有するpH4以上12以下のエッチング液を用いて、
むき出しになった前記活性金属反応層をエッチングする第一のろう材エッチング工程と、
前記第一のろう材エッチング工程によって露出した前記ろう材層の端部を化学研磨する第一の化学研磨工程と、
を備えることを特徴とするセラミックス回路基板の製造方法。
【請求項2】
前記セラミックス基板の長辺の長さが100mm以上であることを特徴とする請求項1記載のセラミックス回路基板の製造方法。
【請求項3】
前記セラミックス基板の長辺の長さが200mm以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項2のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板の製造方法。
【請求項4】
エッチングされた前記銅部材同士の間の距離が2mm以下の個所を具備していることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板の製造方法。
【請求項5】
前記エッチング液は、フッ化アンモニウムと、pH安定化剤と、をさらに含む請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板の製造方法。
【請求項6】
前記pH安定化剤は、HBF
4、EDTA、NTA、CyDTA、DTPA、TTHA、GEDTA、グリシン、ジカルボン酸、トリカルボン酸、オキシカルボン酸およびこれらの塩から選ばれる1種以上である請求項5記載のセラミックス回路基板の製造方法。
【請求項7】
前記エッチング液のpHは、4.0以上6.0以下である請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板の製造方法。
【請求項8】
前記第一のろう材エッチング工程および前記第一の化学研磨工程の後に、前記接合体を洗浄する洗浄工程をさらに備えた請求項1ないし請求項
7のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板の製造方法。
【請求項9】
前記セラミックス基板は、窒化物系セラミックス基板である請求項1ないし請求項
8のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板の製造方法。
【請求項10】
前記第一の銅エッチング工程において、前記銅部材にエッチングレジストを塗布した後に前記銅部材の前記一部をエッチングすることで、前記銅部材をパターン形状に加工することを特徴とする請求項1ないし請求項
9のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板の製造方法。
【請求項11】
前記銅部材をエッチングした後、前記エッチングレジストを除去した前記接合体に対して、前記第一のろう材エッチング工程を行うことを特徴とする請求項
10記載のセラミックス回路基板の製造方法。
【請求項12】
前記第一のろう材エッチング工程は、前記接合体に超音波をかけながら行うことを特徴とする請求項1ないし請求項
11のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板の製造方法。
【請求項13】
前記第一の化学研磨工程後に、前記銅部材をエッチングする第二の銅エッチング工程を行うことを特徴とする請求項1ないし請求項
12のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板の製造方法。
【請求項14】
仕上げの洗浄工程として、洗浄水の流量が1.3L(リットル)/分以上ある洗浄工程を行うことを特徴とする請求項1ないし請求項
13のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板の製造方法。
【請求項15】
仕上げの洗浄工程として、ノズルから水を噴射させて前記接合体を洗浄する洗浄工程を行い、
前記洗浄工程において、ノズルと接合体の距離は5cm以上40cm以下の範囲内に設定されることを特徴とする請求項1ないし請求項13のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板の製造方法。
【請求項16】
仕上げの洗浄工程として、ノズルから水を噴射させて前記接合体を洗浄する洗浄工程を行い、
前記洗浄工程において、ノズル1個あたりの着弾水量が0.01L(リットル)/(分・cm
2
)以上0.1L/(分・cm
2
)以下の範囲内に設定されることを特徴とする請求項1ないし請求項13のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板の製造方法。
【請求項17】
前記仕上げの洗浄工程の後の乾燥工程は、70%以下の湿度の風を、20m/s以上150m/s以下の範囲内で行うことを特徴とする請求項
14~16のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、セラミックス回路基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュールの高出力化が進んでいる。これに伴い半導体素子の動作保証温度が高くなり、175℃以上となっている。このため、半導体素子を搭載するセラミックス回路基板にも、サーマルサイクルテスト(TCT)特性の向上が求められている。
例えば、国際公開第2017/056360号公報(特許文献1)では、銅板側面に傾斜構造を設けること、および接合層のはみ出し部サイズの最適化が記載されている。特許文献1では、優れたTCT特性を得ている。特に、特許文献1によれば、接合層のはみ出し部のサイズを最適化することが好ましいとされている。
接合層のはみ出し部のサイズを制御するために、ろう材層のエッチングが行われている。例えば、国際公開第2019/054294号公報(特許文献2)には、ろう材層のエッチング工程が開示されている。特許文献2では、化学研磨工程とエッチング工程を組合せている。このような方法により、接合層のはみだし部のサイズを制御できている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/056360号
【文献】国際公開第2019/054294号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示されているように、セラミックス基板と銅板の接合には活性金属接合法が用いられている。活性金属接合法では、活性金属であるTiを含有したろう材を用いている。セラミックス基板が窒化物系セラミックス基板である場合、ろう材中のTiとセラミックス基板が反応して窒化チタン(TiN)層が形成される。セラミックス回路基板のエッチング工程は、接合層と窒化チタン層の両方を除去する必要がある。
このため、セラミックス回路基板のエッチング工程では、様々な薬液を用いている。特許文献2では、ろう材層を除去する薬液と窒化チタン層を除去する薬液と異ならせている。エッチング工程を繰り返していくと、薬液は劣化していく。薬液の劣化はエッチング精度の低下を招く。このため、エッチング工程を繰り返していると、接合層はみ出し部のサイズがばらつくという問題が生じていた。
本発明は、このような課題に対応するためのものであり、エッチング工程に用いる薬液の耐久性を向上させたセラミックス回路基板の製造方法を提供するためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係るセラミックス回路基板の製造方法は、Agを含有せず、Cuと、活性金属と、SnおよびInから選ばれる1種以上の第1元素と、を含有するろう材層を介して、セラミックス基板の少なくとも一方の面に銅部材が接合された接合体を用意する工程と、前記銅部材の一部と、前記ろう材層に含まれるCuおよび前記第1元素を主成分とする層と、をエッチングする第一の銅エッチング工程と、過酸化水素及びペルオキソ二硫酸アンモニウムから選ばれる1種または2種を含有するpH4以上12以下のエッチング液を用いて、前記ろう材層に含まれる活性金属反応層をエッチングする第一のろう材エッチング工程と、前記第一のろう材エッチング工程によって露出した前記ろう材層の端部を化学研磨する第一の化学研磨工程と、を備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図7】セラミックス回路基板の一部を例示する平面図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
実施形態に係るセラミックス回路基板の製造方法は、Agを含有せず、Cuと、活性金属と、SnおよびInから選ばれる1種以上の第1元素と、を含有するろう材層を介して、セラミックス基板の少なくとも一方の面に銅部材が接合された接合体を用意する工程と、前記銅部材の一部と、前記ろう材層に含まれるCuおよび前記第1元素を主成分とする層と、をエッチングする第一の銅エッチング工程と、過酸化水素及びペルオキソ二硫酸アンモニウムから選ばれる1種または2種を含有するpH4以上12以下のエッチング液を用いて、前記ろう材層に含まれる活性金属反応層をエッチングする第一のろう材エッチング工程と、前記第一のろう材エッチング工程によって露出した前記ろう材層の端部を化学研磨する第一の化学研磨工程と、を備えることを特徴とする。
【0008】
セラミックス回路基板は、ろう材層を介してセラミックス基板と銅板を接合した部材である。
セラミックス基板としては、窒化珪素基板、窒化アルミニウム基板、酸化アルミニウム基板、アルジル基板などが挙げられる。例えば、セラミックス基板の板厚は、0.2~0.8mmである。例えば、窒化珪素基板の熱伝導率は80W/m・K以上、3点曲げ強度は600MPa以上である。例えば、窒化アルミニウム基板の熱伝導率は150W/m・K以上、3点曲げ強度は300~550MPaである。例えば、酸化アルミニウム基板の熱伝導率は20~40W/m・K、3点曲げ強度は400~500MPaである。
アルジル基板は、酸化ジルコニウムと酸化アルミニウムを含有した基板である。アルジル基板の熱伝導率は20~40W/m・Kであり、3点曲げ強度は450~600MPaである。窒化珪素基板については、強度が高いので、基板を0.33mm以下に薄型化できる。窒化アルミニウム基板は、高い熱伝導率を有する。また、酸化アルミニウム基板及びアルジル基板の熱伝導率は低いが、これらの基板は安価である。セラミックス基板の種類は、目的に合わせて適宜選択できる。また、窒化珪素基板および窒化アルミニウム基板は、窒化物系セラミックスと呼ばれる。酸化アルミニウム基板、アルジル基板、及び酸化ジルコニウム基板は、酸化物系セラミックスと呼ばれる。また、窒化珪素基板などはSi含有セラミックスである。酸化アルミニウム基板、アルジル基板、及び窒化アルミニウム基板などは、Al含有セラミックスである。
【0009】
銅部材は、無酸素銅からなることが好ましい。この無酸素銅とは、純度99.96wt%以上の銅である。銅部材中の酸素が多いと、活性金属接合の際に、接合強度が低下する可能性がある。銅部材は、銅板であっても良いし、ろう材層のうえに形成された銅の膜であっても良い。また、銅部材は、銅と炭素の複合材料からなり、銅の中にグラファイトの層が存在するような構造を有していてもよい。以降では、銅部材が銅板である場合について説明する。
銅板の板厚は、0.2mm以上が好ましい。板厚を0.7mm以上と厚くすることにより、銅板の放熱性を向上させることができる。板厚の上限は特に限定されないが、5mm以下が好ましい。板厚が5mmを超えると、銅板とセラミックス基板を接合した際の接合体の反りが大きくなる可能性がある。また、エッチングにより銅板をパターン形状に加工することが難しくなる。銅板は、セラミックス基板の両面にそれぞれ接合されていても良いし、セラミックス基板の片面のみに接合されていてもよい。より好ましくは、銅板は、セラミックス基板の両面に接合される。両面に銅板が接合されている場合、これらの銅板の厚さは同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。量産性を考慮すると、これらの銅板の厚さは、同じであることが好ましい。銅板にパターン形状(回路形状)を付与する際には、付与されるパターン形状の個数は特に限定されない。銅板の1個所にパターン形状が設けられてもよいし、銅板の複数個所にパターン形状が設けられてもよい。
【0010】
ろう材層は、銀(Ag)を含有せず、Cu、Ti、及び第1元素を含有することを特徴とする。第1元素は、SnおよびInから選ばれる1種以上である。ここでは、Agを含有しないろう材を、Agレスろう材とも呼ぶ。「銀を含有しない」とは、銀の含有量が0.01wt%以下であることを指す。0.01wt%以下とは、不可避不純物程度含有してもよいことを示す。また、セラミックス基板と銅板の接合には、活性金属接合法が用いられる。活性金属接合法では、活性金属としてTi(チタン)を含有したろう材を用いている。一般的な活性金属ろう材は、Ag(銀)、Cu(銅)およびTi(チタン)を含有している。AgとCuは、互いに共晶を形成する成分である。AgCu共晶を形成することにより、接合性を向上させている。Agを含有したろう材層については、銅板のエッチングにおいて塩化鉄や塩化銅などの塩化物を用いた場合に、塩化銀(AgCl)が形成されていた。この塩化銀は、溶解度が非常に低く、エッチング性が悪かった。このため、Agを含有したろう材層をエッチングする薬液は、劣化し易かった。薬液が劣化すると、薬液の交換が必要である。薬液の交換頻度が上がるとコストアップの要因となる。Agを含有しないろう材層を用いることにより、薬液の耐久性を向上させることができる。また、Agを含有しないろう材層とAgを含有するろう材層を比較したとき、同じ量をエッチングすると、Agを含有しないろう材層の方が、エッチング時間を短くできる。また、エッチング回数を減らすこともできる。この点からも、薬液の耐久性を向上させることができる。また、特許文献2では、塩化銀を取り除くために、ろう材層のエッチング工程の前に化学研磨工程が必要であった。
【0011】
ろう材層は、Cu(銅)とTi(チタン)を必須成分としている。Cuは、ろう材層の母材となる成分である。また、Tiは活性金属であり、セラミックス基板と反応してTi反応層を形成する成分である。このTi反応層があることにより、セラミックス基板と銅板の接合強度を向上させることができる。酸化物系セラミックス基板では、Ti反応層は酸化チタン(TiO2)が主体となる。また、窒化物系セラミックス基板では、Ti反応層は窒化チタン(TiN)が主体となる。酸化物系セラミックス基板として、アルミナ基板、ジルコニア基板、アルジル基板などがあげられる。また、窒化物系セラミックスとして、窒化アルミニウム基板、窒化珪素基板などがあげられる。これらのTiN層には、ろう材成分の銅などが含有されていてもよい。ここでは、窒化チタン(TiN)層を活性金属反応層と呼ぶ。また、活性金属反応層のことを、活性金属ろう材層と呼ぶこともある。活性金属として、Zr、Hf、Nbなどの他の活性金属を添加してもよいが、その場合に用いられる活性金属の量は、Tiと合計して25質量%以下であることが好ましい。この活性金属ろう材層中には、銅、錫、またはインジウムが含まれている個所も存在している。
また、ろう材層は、Sn(錫)またはIn(インジウム)の1種または2種を含有している。SnまたはInは、ろう材の融点を下げる効果を有する。ろう材は、C(炭素)を含有していてもよい。炭素は、ろう材の流動性を向上させることができる。大型のセラミックス基板にろう材を塗布するためには、ろう材の流動性が良いことが望ましい。
ろう材において、粉末原料全体を100質量%としたとき、Cuの含有量は20質量%以上90質量%以下であることが好ましい。また、Tiの単体または化合物の含有量は、0.5質量%以上25質量%以下が好ましい。Tiの単体または化合物は、Tiまたは水素化チタン(TiH2)で添加される。また、SnまたはInの含有量は、合計で5質量%以上50質量%以下が好ましい。Cの含有量は、0質量%以上5質量%以下が好ましい。例えば、ろう材がCu、Ti、Snからなる場合は、Cu+Ti+Sn=100質量%とする。また、ろう材がCu、TiH2、Sn、Cからなる場合は、Cu+TiH2+Sn+C=100質量%とする。
【0012】
前記ろう材を用いて、セラミックス基板と銅板の接合体を製造する。前記ろう材を用いた接合方法として、ろう材成分を溶媒と混合し、ペースト状にして塗布する方法や、合金箔などを所定の形状に加工して接合させる方法などがある。ペーストを用いた接合方法であれば、所定の形状に加工する手間を減らすことができるため好ましい。ここで、溶媒(有機化合物を含有する)に溶かした前記ろう材をろう材ペーストと呼ぶ。ろう材ペーストをセラミックス基板上に塗布し、その上に銅板を配置する。その後、加熱接合工程を行う。ろう材ペーストの塗布厚さは、10μm以上100μm以下の範囲内であることが好ましい。ろう材ペーストの塗布厚さは、10μm以上60μm以下の範囲内であることがさらに好ましい。また、加熱接合工程の温度は、650℃以上900℃以下の範囲内であることが好ましい。接合工程の雰囲気は、真空中(10-3Pa以下)または不活性雰囲気が好ましい。不活性雰囲気は、酸素濃度の低い雰囲気を示す。不活性雰囲気として、酸素分圧が5%以下であることが好ましい。この不活性雰囲気とは、窒素雰囲気中、アルゴン、ネオン、ヘリウム、キセノンなどの希ガス雰囲気中などが挙げられる。この真空中または不活性雰囲気にすることは、加熱前から行ってもよい。加熱接合工程を経て、ろう材ペーストはろう材層となる。
【0013】
セラミックス基板の長辺の長さは、100mm以上であってもよい。また、セラミックス基板の長辺の長さは、200mm以上であってもよい。セラミックス基板の長辺が長くなることにより、多数個取りが可能となる。多数個取りとは、大型のセラミックス回路基板を分割して、複数個のセラミックス回路基板を製造する方法である。このように多数個取りをする場合においては、セラミックス基板にスクライブ溝を形成することが好ましい。スクライブ溝の形成のタイミングは、特に限定されない。形成のタイミングは、銅部材接合前であっても良いし、接合後のいかなるタイミングであっても良い。また、銅部材との接合前にスクライブ溝を形成する場合には、焼結されたセラミックス基板に対してスクライブ溝を形成することがより好ましい。スクライブ溝の形状は、ドット形状、線形状、これらの組み合わせであってもよいし、その他の形状であってもよい。また、スクライブ溝は、貫通した箇所を有していても良いし、有さなくても良い。スクライブ溝の形状は、特に限定されない。また、スクライブ溝の形成とは別にブレイク(分割)工程を設けてもよい。さらに、接合体には、必要に応じて切り欠き部や貫通孔などを形成してもよい。このように、前記接合体の具体的形状は、任意であり、特に限定されない。後述するように、大型のセラミックス基板に銅板を接合した接合体を用意する。大型のセラミックス基板を用いることにより、大型の接合体を用意することができる。銅板にエッチング加工を施し、目的とするパターン形状を付与した後、スクライブ加工を施すことでセラミックス回路基板を分割する。大型の接合体を分割することにより、量産性を向上させることができる。セラミックス基板の長辺の長さの上限は特に限定されないが、500mm以下が好ましい。セラミックス基板の長辺の長さが500mmを超えると、セラミックス基板が重くなり過ぎて運搬作業の負荷が増える可能性がある。セラミックス基板の短辺の長さは特に限定されないが、50mm以上が好ましい。また、セラミックス基板は各辺の長さが同じであってもよい。実施形態に係るセラミックス回路基板の製造方法によれば、セラミックス基板が大型になったとしてもエッチング性がよい。なお、実施形態に係るセラミックス回路基板の製造方法は、長辺100mm未満または短辺50mm未満のセラミックス基板にも適用可能である。
接合体のセラミックス基板と銅板の縦方向及び横方向におけるサイズ差は、±2mm以内であることが好ましい。セラミックス基板と銅板の縦横サイズは、実質的に同じであることが好ましい。また、接合体では、セラミックス基板の両面に銅板が接合されていることが好ましい。両面に銅板を接合することにより、表面と裏面のどちらの銅板にもパターン形状を付与することができる。
また、接合体について、前記セラミックス基板の同じ面には、銅板パターン間の距離が2mm以下の個所が設けられていても良い。銅板パターン間の距離とは、エッチングによって回路パターンが付与された後の隣り合う銅板同士の最短距離を示す。銅板側面が傾斜形状を具備する場合は、傾斜形状同士の最短距離が、銅板パターン間の距離である。
実施形態に係るセラミックス回路基板の製造方法であれば、銅板パターン間の距離が2mm以下の微細パターンであっても歩留まり良く製造することができる。つまり、長辺長さが100mm以上の大型基板かつ銅板パターン間距離が2mm以下のセラミックス回路基板であっても、歩留まりが良い。また、銅板パターン間距離が2mm以下とは、最も狭いパターン間距離が2mm以下であることを示す。つまり、最も狭いパターン間距離が2mm以下の個所があれば、パターン間距離が2mmを超える個所があってもよい。
【0014】
図1は、実施形態に係るセラミックス回路基板の製造工程の一例を示す。
実施形態に係る製造方法は、銅板の接合されたセラミックス銅接合体を用意する工程と、第一の銅エッチング工程と、第一のろう材エッチング工程と、第一の化学研磨工程と、仕上げの洗浄工程と、を備える。第一の銅エッチング工程では、銅板と、銅錫または銅インジウムのいずれか1種以上を主成分とする層と、をエッチングする。第一のろう材エッチング工程では、過酸化水素及びペルオキソ二硫酸アンモニウムから選ばれる1種または2種を含有するpH4以上12以下のエッチング液で、ろう材層の一部である活性金属反応層をエッチングする。第一の化学研磨工程では、第一のろう材エッチング工程によって露出したろう材層の端部を化学研磨する。仕上げの洗浄工程では、処理された接合体(セラミックス回路基板)を洗浄する。
【0015】
第一の銅エッチング工程では、セラミックス銅接合体における銅板と、前記ろう材層の銅錫または銅インジウムを主成分とする層と、がエッチングされる。銅板のエッチングにより、銅板にパターン形状が付与される。言い換えると、エッチング後には、パターンに対応した銅板が残り、パターン間の銅は除去される。また、銅錫または銅インジウムを主成分とする層がエッチングされることで、銅板のパターン形状間において、活性金属反応層がむき出しになる。銅錫または銅インジウムを主成分とする層とは、銅錫および銅インジウムの1種または2種が、40%以上含有される領域を示す。以降では、銅錫または銅インジウムを主成分とする層を、「銅合金層」と呼ぶ。活性金属反応層は、ろう材層の一部である。第一の銅エッチング工程により、活性金属反応層がむき出しになった接合体が用意される。
銅エッチング工程では、パターンとして残したい個所にエッチングレジストを塗布する。銅エッチング工程では、塩化鉄または塩化銅の水溶液が主に使われる。塩化鉄または塩化銅は、銅板、銅層、銅錫層、銅インジウム層などをエッチングするのに有効である。一方、塩化鉄または塩化銅では、活性金属を含有した活性金属反応層をエッチングすることはできない。このため、第一の銅エッチング工程によれば、活性金属反応層がむき出しになった個所を存在させることができる。ろう材層がAgを含有していないため、一回のエッチング工程により銅板と銅合金層の両方をエッチングすることが可能である。
必要に応じ、銅エッチング工程後に洗浄工程を行っても良い。なお、銅板および銅合金層のエッチングには、塩化鉄として塩化第二鉄(FeCl3)を使っても良く、塩化銅として塩化銅(I)(CuCl)を使っても良い。
塩化鉄または塩化銅の水溶液の濃度は特に限定されないが、0.2wt%以上であることがこのましい。このようにすることで、効率よくエッチングが行える。また、前記水溶液の濃度としては、50wt%以下であることが好ましい。50wt%を超えて多いとエッチングの速度の調整ができず、オーバーエッチングを引き起こす可能性がある。塩化銅と塩化鉄を混合した場合も、それらの水溶液の合計の濃度が前述の範囲内であることが好ましい。塩化鉄または塩化銅を含む水溶液の濃度のより好ましい範囲は、5wt%以上40wt%以下である。
銅板と銅合金層のエッチング工程は、1回のみ実行されても良いし、2回以上のステップに分けて実行されてもよい。また、第一の銅エッチング工程後、銅板パターン間において、少量の銅合金層が残存していてもよい。
【0016】
次のろう材エッチング工程では、過酸化水素及びペルオキソ二硫酸アンモニウムから選ばれる1種または2種を含有するエッチング液で、前記ろう材層の一部である活性金属反応層をエッチングする。
ろう材エッチング工程で使用されるろう材エッチング液のpHは、4以上であることが好ましい。pH4未満であると、ろう材層をエッチングする速度が速くなりすぎる可能性がある。セラミックス回路基板のTCT特性を向上させるためには、ろう材はみ出し部(接合層はみ出し部)を残すことが効果的である。ろう材はみ出し部とは、平面視した場合に、銅板パターン間において銅板から面内方向にはみ出した部分を示す。平面視は、セラミックス基板表面に対して垂直な方向から見た場合を示す。面内方向は、セラミックス基板表面に平行な方向である。ろう材層のエッチング速度が速すぎると、ろう材はみ出し部のサイズ制御が難しくなる。
また、ろう材エッチング液のpHは、12以下であることが好ましい。pHが12を超えて大きいと塩基性が強すぎてエッチング速度の調整が難しくなる可能性がある。溶液の液性とpHの関係について説明する。pHが7未満の水溶液は、酸性水溶液である。pHが7の水溶液は、中性水溶液である。pHが7を超えて大きい水溶液は、塩基性(アルカリ性)水溶液である。ここで、過酸化水素とペルオキソ二硫酸アンモニウムのそれぞれの液性(酸性、中性、塩基性のいずれであるか)を考える。過酸化水素水溶液は、酸性水溶液である。ペルオキソ二硫酸アンモニウム水溶液も、酸性水溶液である。したがって過酸化水素及びペルオキソ二硫酸アンモニウムから選ばれる1種または2種を含有する水溶液の液性を中性または塩基性にするには、塩基性の水溶液と混合する必要があり、必要な溶質量が増加してコストが増加する可能性がある。塩基性の溶液と混合してエッチング液の液性を塩基性にする方法としては、例えば、水酸化ナトリウムなどと混合しpHを調整する方法が挙げられる。pHが12以下の塩基性の水溶液に調整するためには、その他の成分を添加する必要が生じる。コストを考慮すると、液性は酸性(pH7未満)であることが好ましい。
ろう材エッチング液が酸性(pHが7未満)の場合、そのpHが6を超えて大きいと、ろう材層をエッチングする速度が遅くなる。よって、ろう材エッチング液のpHは、4.0以上6.0以下であることがより好ましい。
ろう材エッチング液のpHは、さらに好ましくは、4.0以上5.8以下である。この範囲であると、ろう材はみだし部の制御とエッチング速度の制御を両立することができる。
過酸化水素及びペルオキソ二硫酸アンモニウムから選ばれる1種または2種を含有するpH4以上のエッチング液には、フッ素含有化合物を混合することがより好ましい。フッ素含有化合物としては、ホウフッ化水素酸、フッ化アンモニウム、フッ化水素、ヘキサフルオロリン酸、トリフルオロ酢酸(TFA)などが挙げられる。フッ素含有化合物は、フッ化物であることが好ましい。フッ化物の中では、ホウフッ化水素酸、フッ化アンモニウム、フッ化水素から選ばれる1種以上を含有することがさらに好ましい。また、前述のフッ化物はいずれも強塩基ではない。そのためpHを制御するのに悪影響をおよぼしにくい。1種以上とは、1種のみであってもよいし、2種または3種を混合させてもよいことを示す。
さらに、過酸化水素及びペルオキソ二硫酸アンモニウムから選ばれる1種または2種を含有するpH4以上のエッチング液には、pH安定化剤が含まれることがより好ましい。
過酸化水素及びペルオキソ二硫酸アンモニウムから選ばれる1種または2種を含有するpH4以上のエッチング液は、過酸化水素を含有し、フッ素含有化合物としてフッ化アンモニウム含有することがより好ましい。過酸化水素とフッ化アンモニウムを含有した水溶液は、pH安定化剤を含有することがさらに好ましい。
【0017】
過酸化水素(H2O2)またはペルオキソ二硫酸アンモニウム((NH4)2S2O8)は、Cuを除去する効果を有する。これらの成分は、Cuをイオン化して除去することができる。液性を酸性(特に、pHを6以下)にすることにより、イオン化の効果が高まる。また、過酸化水素またはペルオキソ二硫酸アンモニウムは、活性金属、Sn、In、炭素を酸化する酸化剤としての効果も有する。例えば、ろう材にTiを用いた場合、窒化物系セラミックス基板上でTiN(窒化チタン)が形成されている。上述したエッチング成分は、TiまたはTiNをTiO2に変えていく効果を有する。同様に、ろう材中のSnまたはSnの窒化物をSnO2に変えていく効果を有する。Inなどについても同様である。
このため、過酸化水素またはペルオキソ二硫酸アンモニウムを含有したエッチング液は、活性金属反応層の除去に効果的である。また、銅部材および銅合金層をエッチング工程で少量の銅合金層が残存していても、過酸化水素またはペルオキソ二硫酸アンモニウムを含有したエッチング液は、残存した銅合金層を除去可能である。
過酸化水素は、JIS-K-1463(2007)に示された品質を有することが好ましい。JIS-K-1463については、ISO6352-2が参照される。また、ペルオキソ二硫酸アンモニウムは、JIS-K-8252(2010)に示された品質を有することが好ましい。
フッ化アンモニウム(NH4F)は、酸化物のエッチャントとして機能する。フッ化アンモニウムは、活性金属酸化物を酸化物から、フッ素原子を含有する化合物またはそのイオンに変えることができる。例えば、TiO2をTiOF2やTiF6
2-などに変えて除去することができる。また、フッ化アンモニウムには、フッ化水素アンモニウム((NH4)HF2)も含まれる。また、TiO2などの酸化物は、前述のように過酸化水素(H2O2)またはペルオキソ二硫酸アンモニウム((NH4)2S2O8)といった酸化剤によって形成されるほか、酸化物系セラミックスとの接合時に形成されることもある。
【0018】
pH安定化剤は、フッ化アンモニウムと、過酸化水素及びペルオキソ二硫酸アンモニウムから選ばれる1種または2種と、の混合溶液のpHを安定化させることができる。pH安定化剤は、HBF4、EDTA、NTA、CyDTA、DTPA、TTHA、GEDTA、グリシン、ジカルボン酸、トリカルボン酸、オキシカルボン酸およびこれらの塩から選ばれる1種以上であることが好ましい。これらのpH安定化剤であれば、pHを4以上6以下の範囲内に調整することができる。
pH安定化剤は、HBF4であることが好ましい。HBF4を用いることにより、pHを4.0以上5.8以下に調整することができる。HBF4はテトラフルオロホウ酸のことである。HBF4は、硼弗化水素酸とも呼ばれる。
【0019】
HBF4に、EDTA、NTA、CyDTA、DTPA、TTHA、GEDTA、グリシン、ジカルボン酸、トリカルボン酸、オキシカルボン酸およびこれらの塩から選ばれ1種以上を組み合わせてもよい。
EDTA、NTA、CyDTA、DTPA、TTHA、GEDTA、グリシン、ジカルボン酸、トリカルボン酸、オキシカルボン酸およびこれらの塩はキレート剤と呼ばれる。キレート剤は、Cuの析出を抑制する効果を有する。ろう材層は、Cuを含有する。ろう材層のエッチングを進めていくと、エッチング液中にCuイオンが増加していく。Cuイオンが一定量を超えると、Cuが析出する。一旦エッチングしたCuが再度析出すると、エッチング速度が低下する。また、キレート剤を添加すると、エッチング液のpHを下げることができる。キレート剤としては、CyDTA、グリシン、ジカルボン酸、トリカルボン酸、オキシカルボン酸およびこれらの塩から選ばれる1種が好ましい。これらのキレート剤は、Cuイオンと錯イオンを形成し易い材料である。また、キレート剤として、CyDTA、グリシン、ジカルボン酸、トリカルボン酸、オキシカルボン酸およびこれらの塩から選ばれる1種を用いる場合、エッチング液中の含有量は0.01wt%以上5wt%以下が好ましい。この含有量であれば、エッチング液のpHを4.0以上5.8以下の範囲内に調整することができる。
【0020】
過酸化水素とフッ化アンモニウムとpH安定化剤の質量の合計を100wt%としたとき、過酸化水素の含有量は5wt%以上90wt%以下が好ましい。また、フッ化アンモニウムの含有量は2wt%以上45wt%以下が好ましい。また、pH安定化剤の含有量は2wt%以上50wt%以下が好ましい。この範囲内であると、それぞれの成分の役割を活かすことができる。また、ろう材をエッチングする際の酸化還元電位(ORP)を高くすることができる。これにより、ろう材エッチングの速度を速めることができる。
【0021】
過酸化水素、フッ化アンモニウムおよびpH安定化剤は、それぞれ水溶液として混合することが好ましい。過酸化水素含有水溶液において、過酸化水素の含有量は5wt%以上70wt%以下が好ましい。フッ化アンモニウム含有水溶液において、フッ化アンモニウムの含有量は5wt%以上60wt%以下が好ましい。pH安定化剤含有水溶液において、pH安定化剤の含有量は5wt%以上60wt%以下が好ましい。
過酸化水素含有水溶液、フッ化アンモニウム含有水溶液およびpH安定化剤含有水溶液を混合してろう材エッチング液を調整する。ろう材エッチング液に、水を混合して希釈してもよい。過酸化水素含有水溶液、フッ化アンモニウム含有水溶液およびpH安定化剤含有水溶液の合計を1L(リットル)としたとき、水を0.5~2L混合してもよい。また、十分に撹拌して均一に混合することが好ましい。攪拌して混合する方法としては、例えばマグネチックスターラーなどの撹拌子を用いて撹拌子を回転させて混合する方法や、撹拌機を用いてかき混ぜる方法、ポンプを用いた方法などが挙げられる。
水の品質は、JIS-K-0557(1998)を満たすことが好ましい。JIS-K-0557ではA1~A4の品質が示されている。JIS-K-0557については、ISO3696が参照される。また、用いられるエッチング液の成分全体に含まれる不純物量は、少なければ少ないほど好ましい。エッチング液中に含まれる不純物を低減させることで、液の交換回数をさらに低減することができる。エッチング液に添加される水以外に溶液についても、その純度が高いことが好ましい。
【0022】
ペルオキソ二硫酸アンモニウムとフッ化アンモニウムとpH安定化剤の質量の合計を100wt%としたとき、ペルオキソ二硫酸アンモニウムの含有量は20wt%以上95wt%以下、フッ化アンモニウムの含有量は3wt%以上55wt%以下、pH安定化剤の含有量は2wt%以上60wt%以下が好ましい。この範囲であると、それぞれの成分の役割を活かすことができる。また、ろう材をエッチングする際の酸化還元電位(ORP)を高くすることができる。酸化還元電位(ORP)を高くすることで、エッチング速度は速くなる。したがって、酸化還元電位(ORP)を高くすることで、ろう材エッチングを行う速度を、ろう材はみ出し部を残すことのできる程度に制御しつつ、速めることができる
【0023】
ペルオキソ二硫酸アンモニウム含有水溶液、フッ化アンモニウム含有水溶液およびpH安定化剤含有水溶液を混合してろう材エッチング液を調整する。ろう材エッチング液は、水を混合して希釈してもよい。ペルオキソ二硫酸アンモニウム含有水溶液、フッ化アンモニウム含有水溶液およびpH安定化剤含有水溶液の合計を1L(リットル)としたとき、水を0.5L以上2L以下混合してもよい。また、十分に撹拌して均一に混合することが好ましい。水は、JIS-K-0557(1998)の品質を満たす純水であることが好ましい。JIS-K-0557ではA1~A4の品質が示されている。
上述した過酸化水素またはペルオキソ二硫酸アンモニウムを含有したろう材エッチング液を用いてろう材層をエッチングすることにより、エッチング時間を短縮することができる。ろう材層の厚さが60μm以下であれば、30分以下でエッチングすることができる。
【0024】
ろう材エッチング工程は、ろう材エッチング液を介して接合体に超音波をかけながら行うことが好ましい。ここでは、超音波とは、10kHz以上の周波数の音波として定義する。超音波の周波数は、10kHz以上100kHz以下が好ましい。周波数が10kHz未満であると、超音波を印加した効果が十分に得られない可能性がある。一方、100kHzを超えて大きいと超音波を印加した効果が大きすぎてエッチング速度の制御が難しくなる可能性がある。
超音波をかけながらろう材エッチング工程を行うことにより、ろう材エッチング時間をさらに短縮することができる。超音波をかけながらろう材エッチング工程を行うことにより、1回のろう材エッチング工程の時間を15分以下にすることができる。なお、ろう材エッチング工程の時間の下限は、特に限定されるものではないが1分間以上が好ましい。1分未満では、ろう材層の除去効果、ろう材層の酸化効果が不十分になりやすい。これらの効果が小さいと、3回目以降のろう材エッチング工程が必要になる可能性がある。ろう材エッチング工程の回数が増えると、セラミックス回路基板の製造装置の大型化を招く。
ろう材エッチング工程を2回以上行う場合、ろう材エッチング液やエッチング条件(温度、時間、超音波など)を変えてもよい。
ろう材エッチング工程において、ろう材エッチング液を、30℃以上70℃以下に加熱することも有効である。加熱することにより、エッチング液に含まれる分子の運動エネルギーを増加させ、ろう材のエッチング反応を活発にすることができる。一方、加熱の温度が70℃を超えて高いとエッチング速度が速くなりすぎて制御できない可能性がある。そのため、エッチング液を加熱する場合には70℃以下とすることが好ましい。また、加熱時には、常に一定の温度を保持してもよいし、温度が30℃以上70℃以下になるように必要な時だけ加熱してもよい。
ろう材エッチング液の量は、接合体が完全に浸かる量とする。また、各エッチング工程の間、エッチング工程と化学研磨工程の間において、各水溶液がなるべく混ざりあわないことが好ましい。各水溶液が混ざり合うと、基板表面に前工程に用いた水溶液が多量に付着していた場合に、その液の成分が次工程に悪影響を及ぼすことがある。したがって、各エッチング工程の間、エッチング工程と化学研磨工程の間には、洗浄工程を挟んでもよい。洗浄工程を行わない場合には、基板を斜めにして水溶液成分が落ちるようにしてもよいし、水切り籠や網などを用いて水溶液成分が落ちるようにしてもよい。または、自然乾燥させてもよいし、空気、窒素、または不活性ガスなどを吹き付けて水溶液を吹き飛ばしてもよい。
【0025】
ろう材エッチング工程の後に、化学研磨工程を行う。化学研磨工程は、前記ろう材層の端部を化学研磨する工程を含む。化学研磨工程後で除去しきれていないろう材層があった場合には、再度、ろう材エッチング工程を行うことが有効である。また、ろう材エッチング工程の後および化学研磨工程の後に、洗浄工程を行うことがより好ましい。洗浄工程を行うことにより、ろう材エッチング液または化学研磨液が残って、次の工程に悪影響を与えることを防ぐことができる。
前記ろう材層には、活性金属反応層のエッチングの際に、銅イオンが電子を受け取り、銅が析出することがある。この銅の析出は、チタンや水素イオンと比較して銅イオンは酸化還元電位が高く、電子を受け取りやすいことに起因する。つまり銅のイオン化傾向は、チタンや水素のイオン化傾向よりも小さいことに起因する。ここで、イオン化傾向とは、一価の陽イオンへのなりやすさのことである。つまり、イオン化傾向が小さい原子はイオンになりにくく、電子を受け取りやすい。銅イオンは、銅板またはろう材中の銅より発生する。析出した銅が存在すると、はみ出し部の形状及び長さが制御できなくなる。したがって、化学研磨工程において、このようにろう材層端部に析出した銅の除去が必要となる。化学研磨工程では、硫酸または塩酸を含有する化学研磨液を用いることが好ましい。化学研磨液は、硫酸および塩酸の両方を含有していても良いが、硫酸および塩酸の一方のみを含有していることが好ましい。化学研磨液は、硫酸水溶液、塩酸水溶液、または硫酸と過酸化水素を混合した水溶液が好ましい。硫酸水溶液は、チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)などの硫酸塩を含有した水溶液も含む。
硫酸の品質は、JIS-K-8951(2006)を満たすことが好ましい。塩酸の品質は、JIS-K-8180(2015)を満たすことが好ましい。JIS-K-8951およびJIS-K-8180は、ISO6352-2に対応する。また、チオ硫酸ナトリウムの品質は、JIS-K-8638(2011)を満たすことが好ましい。JIS-K-8638については、ISO6352-2が参照される。
【0026】
硫酸水溶液については、硫酸濃度が0.5wt%以上25wt%以下の範囲内であることが好ましい。塩酸水溶液については、塩酸濃度が0.5wt%以上20wt%以下の範囲内であることが好ましい。硫酸と過酸化水素を混合した水溶液については、硫酸と過酸化水素の合計が0.5wt%以上30wt%以下の範囲内であることが好ましい。それぞれ、濃度が0.5wt%未満では、化学研磨の効果が不足する可能性がある。濃度が30wt%を超えて多いと、化学研磨効果が高くなりすぎる可能性がある。化学研磨効果が高くなりすぎると、ろう材はみ出し部のサイズ調整が難しくなる。このため、硫酸、塩酸、過酸化水素のそれぞれの濃度は、0.5wt%以上20wt%以下の範囲内であることが好ましい。より好ましくは、各濃度は、1wt%以上10wt%以下の範囲内である。また、硫酸水溶液としてチオ硫酸ナトリウム水溶液を用いる場合、キレート剤を0.01wt%以上1wt%以下添加することが好ましい。キレート剤を添加することにより、pHを下げることができる。
【0027】
1回の化学研磨工程は5分以下が好ましい。5分を超えて長いと銅板表面を粗くしてしまう可能性がある。5分以下であれば、銅板の表面粗さRaは2μm以下となる。また、化学研磨工程時間を20秒以上2分以下にすれば、銅板の表面粗さRaが1μm以下の平坦面を維持することができる。このため、銅エッチング工程の際に、銅板表面に塗布したエッチングレジストをはがしてからろう材エッチング工程を行ったとしても、銅板表面粗さRaを0.1μm以上1μm以下の平坦面とすることができる。エッチングレジストとろう材エッチング液またはエッチングレジストと化学研磨液が反応して不具合が起きることを回避できる。
1回の化学研磨工程で、2種類以上の化学研磨液を用いてもよい。すなわち、1回の化学研磨工程において、ある成分を含有する化学研磨液を用いて化学研磨を行った後、別の成分を含有する化学研磨液を用いて化学研磨を行っても良い。また、2回以上の化学研磨工程を行う場合、工程ごとに化学研磨液や条件(時間など)を変えてもよい。また、第二のろう材エッチング工程行うことで、はみ出し部の形状を整えることができる。そのため、必要に応じて第二のろう材エッチング工程を行うことが好ましい。また、第二のろう材エッチング工程の後には、第一のろう材エッチング工程の後と同様に第2の化学研磨工程を有することがさらに好ましい。このように第2の化学研磨工程を有することで、第二のろう材エッチング工程で析出した銅を取り除くことができる。ここで、化学研磨とエッチングの言葉の使い分けについて説明する。「化学研磨」とは、「エッチング」と表現する工程よりも取り除かれる量が少ない工程を指す。このように前述の溶液を用いてエッチングまたは化学研磨を行う際には、複数枚の接合体を同時にエッチングや化学研磨してもよいし、接合体を一枚ずつエッチングまたは化学研磨してもよい。各工程を同時に行う接合体の枚数は、特に限定されない。また、各エッチング溶液または化学研磨溶液を用いて行われる工程において、溶液の用い方は特に限定されない。エッチングまたは溶液化学研磨工程において、各溶液の入った容器に対してどのような向きで接合体を入れてもよいし、スプレーのようにして各溶液を接合体に吹き付けてもよい。
仕上げの洗浄工程とは、最後の洗浄工程のことである。以後、仕上げの洗浄工程のことを、単に洗浄工程と呼ぶこともある。
洗浄工程では、水洗浄、アルカリ洗浄、およびアルコール洗浄から選択される1種以上が実施される。水洗浄としては、浸漬型と水流型がある。浸漬型とは、水をためた洗浄槽に接合体を漬ける方法である。水流型とは、洗浄水に流れを付与する方法である。水流型には、シャワー型と、洗浄槽内の洗浄水に水流を付与する方法と、がある。ノズルを設けて流量を調整する方法においては、ノズルを基板の表裏両面に設けて表裏を一度に洗浄する方法であってもよい。このように表裏を一度に洗浄することにより、より効率的に接合体を洗浄することが可能となる。
また、エッチング工程後および化学研磨後に洗浄工程を設けてもよい。このような洗浄工程では、通常の水洗浄が行われてもよいし、流量を制御した水洗浄であってもよい。通常の洗浄工程とは、水洗浄槽に接合体を浸漬する方法である。前述のように、純水へ接合体を浸漬する場合においては、浸漬時間が10秒~10分あればよい。また、個々の洗浄工程は、バッチ式または連続式のどちらでもよい。バッチ式は、複数の接合体を洗浄かごに収納して洗浄工程を行う方法である。連続式は、複数の接合体をベルトコンベアで搬送しながら洗浄工程を行う方法である。洗浄を行う際に、水を介して超音波を印加してもよい。超音波を印加することで洗浄効率を高める効果が期待できる。また、各エッチング工程または化学研磨工程の後に、次工程としてエッチング工程または化学研磨工程が行われる場合は、次工程の溶液の成分を洗浄水に少量添加してもよい。このように次工程の溶液の成分を洗浄水に添加することにより、洗浄によって次工程の溶液が薄まるのを抑制することができる。
水洗浄のみを行う場合は、水流型水洗浄工程が少なくとも一回以上実施されることが好ましい。特に、洗浄工程について、最後の仕上げの洗浄工程は、水流型の水洗浄工程であることが好ましい。水洗浄のみを行う場合の洗浄工程において、水流型の洗浄工程の回数が多くてもよい。また、一回の洗浄工程において、複数の洗浄方法を組み合わせても良い。これらの洗浄は、導体部のみではなく、接合体全体が洗浄されることが好ましい。また、各エッチング工程の間、エッチング工程と化学研磨工程の間でも洗浄を行うことで異なる組成の水溶液同士が混ざることを防ぐことができ、エッチング液の交換回数や成分の調整のための薬液の追加回数を減らすことができる。そのため、各エッチング工程の間、エッチング工程と化学研磨工程の間にも洗浄工程を設けることがより好ましい。
水洗浄では、流量が1.3L(リットル)/分以上であることが好ましい。流量が1.3L/分以上であれば、銅板表面に付着した水溶液の成分を洗い流す効果が十分に得られる。流量が1.3L/分未満では、洗い流す効果が不足する可能性がある。例えば、水の溜まった洗浄槽に接合体を浸漬して放置する方法では、流量が不足するため水溶液の成分を洗い流す効果が十分得られない。なお、流量の上限は特に限定されないが、10L/分以下であることが好ましい。流量が10L/分を超えて大きいと、水圧が高すぎて銅板表面が変形する可能性がある。このため、水洗浄の流量は1.3L/分以上10L/分以下が好ましい。より好ましくは、水洗浄の流量は、1.5L/分以上6L/分以下である。
流量の調整方法として、洗浄槽に溜めた水を循環させて制御する方法、ノズルを使って制御する方法などが挙げられる。流量は、ノズルを使って制御する方法が好ましい。ノズルを使った方が、流量を制御し易い。洗浄槽に溜めた水を循環させる方法では、水の量が多くなると、流量の制御が困難となる可能性がある。ノズルを使った場合、ノズルから噴射される水の流量が1.3L/分以上となるように設定する。また、この水には、超音波を印加してもよく、炭酸または酸素を水に溶かしてもよい。
ノズルと接合体の距離は、5cm以上40cm以下の範囲内であることが好ましい。当該距離は、5cm以上20cm以下の範囲内であることがさらに好ましい。この範囲内であると、接合体に当たる水の量を調整し易くなる。ノズルから噴射された水の着弾形状は、点型、円型、楕円型形、扁平型、四角形型など様々な形状がある。ノズルの型には、コーン型、扇型など様々な形態を適用可能である。ノズルを利用する際は、接合体1枚当たり複数のノズルを用いてもよく、表導体部と裏導体部を同時に洗浄してもよい。また、洗浄は接合体表面全体に対して行われることが好ましい。このようにノズルを設けて流量を調整し、接合体表面全体に洗浄を行う方法においては、ノズルを基板の表裏両面に設けて表裏を一度に洗浄する方法であってもよい。このように表裏を一度に洗浄することにより、より効率的に洗浄することが可能となる。
接合体に着弾する水量は、ノズル1個あたり0.01L/(分・cm2)以上0.1L/(分・cm2)以下の範囲内であることが好ましい。接合体に着弾する水量のことを着弾水量と呼ぶ。着弾水量は、接合体を上から見たとき、1cm2あたりに着弾する水量を示している。接合体への着弾水量の調整は、前述のノズルからの水量、ノズル型、ノズルとの距離、などで調整できる。ノズルから水を噴射する際に、空気噴射を合わせて行うこともできる。洗浄工程では、超音波が付与されてもよい。接合体を搬送しながら洗浄工程を行うことも有効である。この際に、洗浄効率(液体の回収効率)や、設置面積効率を上げるために、接合体を斜めにしてもよい。斜めとは、接合体の少なくとも1つの辺の向きが、重力方向に対して垂直な水平面と平行でないことである。水平面と前記少なくとも1つの辺との間の角度は、10度以上90度未満であることがさらに好ましい。ノズルからの流量を1.3L/分以上とし、接合体を搬送しながら、接合体への着弾水量をノズル1個あたり0.01L/分/cm2以上0.1L/分/cm2以下の範囲内にする方法が効率的である。
【0028】
水の品質は、JIS-K-0557(1998)を満たすことが好ましい。JIS-K-0557では、A1~A4の品質が示されている。JIS-K-0557については、ISO3696が参照される。
アルカリ洗浄は、pH10以上のアルカリ性水溶液で接合体を洗浄する工程を指す。pH10以上のアルカリ性水溶液としては、有機アルカリ、金属水酸化物、金属水酸化物と弱酸の塩などの水溶液があげられる。特に、金属水酸化物およびその塩を用いる場合には、その金属の種類として、リチウム、カリウム、ナトリウム、バリウム、カルシウムなどがあげられる。Kb(塩基解離定数)が小さすぎると、必要な溶質量が増加するため、用いる金属水酸化物およびその塩の金属の種類としては、カリウム、ナトリウム、リチウムから選ばれるものが好ましい。
特に、コストを考慮すると、水酸化ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウムが好ましく、これらのナトリウム化合物から選ばれる1種以上を含む水溶液が好ましい。これら成分を0.5質量%以上5質量%以下含有する水溶液がさらに好ましい。アルカリ洗浄は、銅板表面のレジストなどの有機物を除去し、エッチング液の汚染を抑制する効果を有する。
これらのアルカリ性水溶液の純度は、高いことが好ましい。純度は96質量%以上であることがより好ましい。純度が96質量%より小さいと、洗浄液の交換回数が増加する可能性がある。また、純度は98質量%以上であることがさらに好ましい。この純度(質量%)とは、溶媒とアルカリ性の化合物(混合した場合はそれらの化合物の和)の質量の和を、水溶液全体の質量で割って100をかけて%にした値である。
レジストには、有機化合物が多用される。有機化合物の極性は水よりも低いため、有機化合物は有機溶媒に溶ける性質を有する。そのため、レジストに有機化合物を用いた場合には、アルコール類またはケトン類を用いた洗浄を行ってもよい。アルコールとしては、イソプロパノール、メタノール、ブタノール、ヘキサノール、エタノールなどがあげられる。また、ケトン類としてはアセトンなどがあげられる。有機化合物の溶解性や揮発性も考慮すると、エタノールまたはイソプロパノールが好ましい。イソプロパノールは、CAS登録番号67-63-0であり、IUPAC名では2-プロパノールである。イソプロパノールは、IPAまたはイソプロピルアルコールと呼ばれることもある。
これらの水や溶媒成分を除いたアルコール類の純度は、99質量%以上であることが好ましい。洗浄に用いられるアルコール類またはケトン類について、水や溶媒成分を除いた純度が99質量%より小さいと、洗浄液の交換回数が増加する可能性がある。
また、アルコール洗浄では、2種以上のアルコールを混合して用いても良い。さらに、アルコールを水と混合していてもよい。アルコールを水と混合する場合に、用いられる水の品質は、JIS-K-0557(1998)を満たすことが好ましい。アルコール類にアセトンなどのケトン類を溶媒として添加してもよい。つまり、アルコール洗浄に用いられる溶液は、水または溶媒を除いた不純物量が1質量%以下であることが好ましい。アルコール類を用いた洗浄のことをアルコール洗浄と呼ぶ。
コスト面を考慮すると、洗浄方法としては、アルコール洗浄よりもアルカリ洗浄または水洗浄が好ましい。また、アルカリ洗浄の後に水洗浄を行うなど、複数の洗浄方法を組み合わせてもよい。また、これらの洗浄工程の後に、乾燥工程を設けることが好ましい。
以上のような洗浄工程を行うことにより、エッチング液の交換回数を低減できる。また、洗浄工程は、レジストを除去する工程の後に行うことが好ましい。レジストを除去する工程を複数回行う場合は、その都度、洗浄工程を行うことが好ましい。
上記洗浄方法は、仕上げ洗浄工程として行うことが好ましい。仕上げ洗浄工程とは、セラミックス回路基板の製造工程で最後に行う洗浄工程のことである。例えば、最後にレジスト除去工程を行う場合は、最後のレジスト除去工程の後の洗浄を上記洗浄方法で実行し、その他のレジスト除去工程後の洗浄は、通常の水洗浄であってもよい。この場合、最後のレジスト除去工程後の洗浄工程の時間を、他の洗浄工程の時間に比べて長めに設定することが好ましい。
洗浄方法としては、塩素系洗浄剤を用いる方法もある。塩素系洗浄剤では、銅板表面の塩素量が増加する可能性がある。塩素量の増加は、半導体素子の接合層またはメッキ膜に回路基板を接合する際に、接合の信頼性に悪影響を及ぼす可能性がある。そのため、塩素系洗浄剤は、上述した洗浄方法に比べると好ましくない。また、水蒸気またはオゾン水を使った洗浄工程は、銅板を酸化させる可能性があるため好ましくない。このため、水洗浄、アルカリ洗浄、またはアルコール洗浄の洗浄工程が好ましい。
以上の工程により、実施形態に係るセラミックス回路基板を製造することができる。具体的には、少なくとも1回の銅エッチング工程によって銅部材にパターン形状が付与され、少なくとも1回のろう材エッチング工程によってろう材層が分断されることで、接合体がセラミックス回路基板に加工される。ろう材エッチング工程の後の化学研磨工程によりろう材層が分断され、接合体がセラミックス回路基板に加工されても良い。
【0029】
乾燥工程は、自然乾燥であってもよい。効率よく乾燥させるには、乾燥工程で、揮発し易い溶液での処理、遠心力処理、送風処理などを少なくとも1回以上行うことが好ましい。また、1回以上の洗浄工程を行った場合、洗浄工程の後に少なくとも一回以上の乾燥工程を有することが好ましい。この乾燥工程のタイミングは、特に仕上げの洗浄工程の後を含むことが好ましい。洗浄工程に例えば水を用いた場合、この水が接合体に多量に付着していると、次の工程が実行される場合に、エッチング液または化学研磨液の成分を薄める可能性がある。これにより、乾燥工程を有しない場合に比べて、次の工程の液の交換回数が増加する可能性がある。仕上げの洗浄工程の後に乾燥工程を有する場合には、自然乾燥よりも効率的に接合体を乾燥させることで、歩留まりが向上する。また、効率的な乾燥により、自然乾燥を用いた場合よりも酸素と接する時間が短いため、酸化が少ない。
乾燥工程として、揮発し易い溶液での処理、遠心力処理、送風処理などが挙げられる。複数の乾燥工程を組み合わせてもよい。洗浄後の接合体に対して、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、またはアセトンなどのケトン類など、揮発しやすい溶媒を用いて残った水を洗い流してもよい。また、アルコール類とケトン類は、混合させて用いてもよい。この際、引火性などの安全面を考慮すると、イソプロパノールを用いることが好ましい。また洗浄後の接合体を回転させ遠心力を用いて、残った水滴を除去してもよい。
また、接合体を斜めにしてもよい。この斜めとは、重力方向に対して垂直な平面上に存在する任意の向きを水平方向としたとき、接合体のいずれか1つ以上の辺の向きが、この水平方向に対して平行ではない状態を指す。この際、水平方向と重力方向からなる角度を90度としたとき、水平方向と接合体のいずれか1つ以上の辺の向きからなる角度が10度以上90度以下であることがさらに好ましい。この接合体の向きは、斜めであることがさらに好ましい。このように接合体の向きを斜めにすることにより接合体に付着した水滴が重力にしたがって落ちやすくなる。この斜めにする方法としては例えば、接合体の対角線が斜めになるようにすることなどがあげられる。
また、接合体の対角線が重力方向に対しておおよそ平行になるように立てかけて乾燥させてもよい。
このようにしてある程度の乾燥された接合体に対して、乾燥空気または窒素ガスを送風し、残った水滴を吹き飛ばすことが好ましい。空気、乾燥空気、または窒素ガスを送風する方法は、エアナイフと呼ばれることもある。このエアナイフは、エアブローの一種である。
このようにして得られた接合体をさらに確実に乾燥させるため、10℃以上の温度、70%以下の湿度の風を、20m/s以上150m/s以下の風速で接合体に当ててもよい。このように接合体に風にあてる乾燥工程をエアブローという。またこのエアブロー工程での好ましい風の温度は、10℃以上150℃以下であり、より好ましくは15℃以上100℃未満である。この温度を超えると、熱により銅部材表面が酸化する可能性がある。また、エアブロー工程での好ましい湿度は、5%以上70%以下である。湿度が70%より大きいと、乾燥工程にかかる時間が長くなる可能性がある。湿度を5%より小さくするには、コストが増加する可能性がある。風速は20m/s以上150m/s以下が好ましい。風速は20m/s以上100m/s以下がさらに好ましい。風速が小さすぎると乾燥に時間がかかる。また、風速が大きすぎると銅板の搬送に悪影響を与える可能性がある。この乾燥工程を行う際には、その他の乾燥工程を組み合わせることで温風での乾燥工程を用いたとき温風を当てる乾燥時間を短くし、温風の熱による導体部である銅板表面の酸化を抑制することができる。このため、複数の乾燥工程を組み合わせてもよい。
【0030】
図1は、第一の実施形態にかかるセラミックス回路基板の製造方法を例示する工程図である。
第一の実施形態にかかる製造方法は、接合体を用意する工程と、第一の銅エッチング工程1-1と、第一の洗浄工程4-1と、第一のろう材エッチング工程2-1と、第一の化学研磨工程3-1と、仕上げの洗浄工程5と、を備える。接合体では、セラミックス基板と銅部材とが接合されている。
第一の銅エッチング工程では、銅部材および銅合金層がエッチングされる。第一の洗浄工程4-1では、第一の銅エッチング工程で処理された接合体が洗浄される。第一のろう材エッチング工程では、第一の銅エッチング工程によって露出した活性金属反応層がエッチングされる。第一の化学研磨工程では、第一のろう材エッチング工程によって露出したろう材層の端部に析出した銅が除去される。仕上げの洗浄工程では、接合体(セラミックス回路基板)が洗浄される。
必要に応じて、第一のろう材エッチング工程と第一の化学研磨工程との間で、洗浄工程および乾燥工程の1種以上を行ってもよい。1種以上とは乾燥工程と洗浄工程の両方をおこなってもよいことを示す。
図2は、第二の実施形態にかかるセラミックス回路基板の製造方法を例示する工程図である。第二の実施形態にかかる製造方法は、仕上げの洗浄工程よりも前に、2回の洗浄工程が行われる点で第一の実施形態と異なる。第二の実施形態にかかる製造方法は、第一の銅エッチング工程1と、第一の洗浄工程4-1と、第一のろう材エッチング工程2-1と、第二の洗浄工程4-2と、第一の化学研磨工程3-1と、仕上げの洗浄工程5-1と、を備える。第一のろう材エッチング工程2-1の後と第一の化学研磨工程3-1の後に、それぞれ洗浄工程が設けられている。それぞれ洗浄工程を行うことにより、エッチング液または化学研磨液が接合体に残ることを防ぐことができる。また、洗浄工程後は、必要に応じ、乾燥工程を行う。
図3は、第三の実施形態にかかるセラミックス回路基板の製造方法を例示する工程図である。第三の実施形態にかかる製造方法は、第一の銅エッチング工程1と、第一のろう材エッチング工程2-1と、第一の化学研磨工程3-1と、第二のろう材エッチング工程2-2と、第二の化学研磨工程3-2と、を備える。
図3に示すように、ろう材エッチング工程および化学研磨工程は繰り返し行ってもよい。ろう材エッチング工程と化学研磨工程は、交互に実行される。ろう材エッチング工程と化学研磨工程との間に洗浄工程が実行されても良い。第三の実施形態にかかる製造方法は、第一のろう材エッチング工程2-1および第一の化学研磨工程3-1により、ろう材層が十分に除去できない場合に有効である。第二のろう材エッチング工程2-2で用いられるろう材エッチング液の成分は、第一のろう材エッチング工程2-1で用いられるろう材エッチング液の成分と同じであっても良いし、異なっていても良い。第二の化学研磨工程3-2で用いられる化学研磨液の成分は、第一の化学研磨工程3-1で用いられる化学研磨液の成分と同じであっても良いし、異なっていても良い。第二の化学研磨工程3-2の後に、さらにろう材エッチング工程および化学研磨工程が行われても良い。ろう材エッチング工程と化学研磨工程との間で、洗浄工程および乾燥工程の1種以上が行われてもよい。
図4は、第四の実施形態にかかるセラミックス回路基板の製造方法を例示する工程図である。第四の実施形態にかかる製造方法は、第三の実施形態と比べて、仕上げの洗浄工程5-1および仕上げの乾燥工程5-2をさらに備える。仕上げの洗浄工程5-1は、最後の化学研磨工程の後に行われる。仕上げの乾燥工程5-2は、仕上げの洗浄工程5-1の後に行われる。
図5は、第五の実施形態にかかるセラミックス回路基板の製造方法を例示する工程図である。第五の実施形態にかかる製造方法は、第三の実施形態と比べて、第二の銅エッチング工程1-2をさらに備える。第二の銅エッチング工程は、第一の化学研磨工程の後に実行される。
図5に示すように、第二の銅エッチング工程1-2の後に、第二のろう材エッチング工程2-2および第二の化学研磨工程3-2が行われても良い。その後、
図4に示す例と同様に、仕上げの洗浄工程5-1および仕上げの乾燥工程5-2が行われても良い。
実施形態にかかる製造方法によって得られたセラミックス回路基板に対するその他の工程は、特に限定されない。例えば、仕上げの洗浄工程の前に防錆剤を塗布する工程が設けられてもよいし、得られた回路基板にメッキ処理を施す工程が設けられてもよい。また、パターン形状が付与された銅部材に直接半導体素子を搭載して半導体装置としてもよいし、半田層や銀層を介して半導体素子を搭載してもよい。また用いられる防錆剤は、ベンゾトリアゾール系化合物などであってもよいし、非ベンゾトリアゾール系であってもよい。防錆剤の塗布する工程のタイミングは特に限定されないが、防錆剤を塗布した後に仕上げの洗浄工程を設けることがさらに好ましい。
【0031】
図6(a)~
図6(d)は、実施形態に係るセラミックス回路基板の製造工程を例示する断面図である。
図6(a)~
図6(d)において、10は接合体、11はセラミックス基板、12はろう材層、13は銅板である。ろう材層12は、銅合金層12aと活性金属ろう材層12bを含む。活性金属ろう材層12bは、セラミックス基板11と銅合金層12aとの間に位置する。
図6(a)は、用意された接合体を例示している。セラミックス基板の一方の面に、ろう材層を介して銅板が接合されている。第一の銅エッチング工程により、銅板の一部が除去される。
図6(b)に示すように、銅板に付与されたパターン形状同士の間において、活性金属ろう材層がむき出しになっている。なお、ここでは、エッチングによって複数に分断され、回路形状が付与された銅部材も説明の便宜上「銅板」と呼ぶ。
図6(c)は、第一のろう材エッチング工程により、むき出しになっていた活性金属ろう材層の一部が除去された状態である。ろう材層12の端部には、エッチング液中のCuが析出した析出物12cが存在している。
図6(d)は、第一の化学研磨工程後の状態を示す。第一の化学研磨工程により、ろう材層端部の析出物12cが除去される。析出物が除去された後、ろう材層12のうち銅板から側方にはみ出した部分が、ろう材はみ出し部12dである。
例えば、
図6(c)及び
図6(d)に示す状態の接合体は、パターン形状同士が電気的に絶縁されており、セラミックス回路基板となっている。
図示していないが、第一のろう材エッチング工程後にろう材層が残存する可能性がある場合、
図3及び
図4に例示したように、第二のろう材エッチング工程および第二の化学研磨工程を行ってもよい。必要に応じて、第二のろう材エッチング工程の後に、第三のろう材エッチング工程および第三の化学研磨工程を行ってもよい。また、
図6では、セラミックス基板の表面に設けられた銅板およびろう材層に対するエッチング工程を示した。セラミックス基板の裏面にもろう材層を介して銅板が接合されている場合は、必要に応じ、裏面の銅板およびろう材層に対してもエッチング工程を行うことができる。また、連続的に複数のセラミックス回路基板を製造することにより、ろう材エッチング液の濃度が変化したときは、必要量のエッチング液をつぎ足す。化学研磨液についても同様である。
【0032】
ろう材エッチング液の濃度変化の目安として、過酸化水素の濃度が初期濃度から10~20wt%低下したときに、減った分の過酸化水素を注ぎ足すことが有効である。ペルオキソ二硫酸アンモニウムを用いる場合も同様である。過酸化水素またはペルオキソ二硫酸アンモニウムは、活性金属ろう材層成分のイオン化または酸化剤として機能する。これらの機能が発揮されることにより、活性金属ろう材層のエッチング工程が始まる。過酸化水素またはペルオキソ二硫酸アンモニウムから消費されていくので、これらの濃度の変化がエッチング液組成の中で最も顕著である。したがって、これらの濃度変化を確認して補充の目安とすることが好ましい。また、過酸化水素またはペルオキソ二硫酸アンモニウムが減っていくと、ろう材エッチング液のpHが変化する。ろう材エッチング液のpHを測定して、補充していく方法も有効である。
ろう材エッチング液の消費量は、エッチングされる活性金属ろう材層の面積によって変わる。一度に複数枚のセラミックス回路基板をエッチングする場合は、エッチングされる活性金属ろう材層の合計面積とする。ろう材エッチング液の成分量やpHを確認しながら、補充していく方法が好ましい。なお、ろう材エッチング液を全部交換しながら、ろう材エッチング工程を進める方式を用いてもよい。
また、ろう材層がAgを含有していないため、Agを含有したろう材層と比較して、エッチング液の寿命を延ばすことができる。前述のように、ろう材エッチング工程の回数を減らすことや処理時間を短くすることなどが可能となる。これにより、エッチング液の寿命を延ばすことができる。一例として、Agを含有したろう材層のエッチング工程が3回行われていた場合、Agを含有しないろう材層のエッチング工程は、1回または2回で足りる。処理回数が減るため、エッチング液の寿命を延ばすことができる。
また、ろう材エッチング工程の回数および処理時間が同じである場合、エッチング液の濃度を下げることができる。Agを含有したろう材層のエッチング液に対し、エッチング液濃度を40wt%以上70wt%以下の範囲内にすることができる。一例として、過酸化水素を30wt%含有したろう材エッチング液を用いてAgを含有したろう材層をエッチング処理していたとする。Agを含有しないろう材層をエッチングするときは、過酸化水素濃度を12wt%以上21wt%以下の範囲内で処理が可能となる。
【0033】
銅板およびろう材層の銅合金層に対する第一の銅エッチング工程は、活性金属ろう材層をエッチング加工する前の接合体への加工である。第一の銅エッチング工程では、銅板にエッチングレジストを塗布してから銅板および銅合金層をエッチング加工することにより、これらの部材をパターン形状に加工することが好ましい。エッチングレジストを塗布することにより、パターン形状およびパターン間の距離を任意に変えることができる。
第一の銅エッチング工程の後、エッチングレジストを除去した接合体をろう材エッチング加工することが好ましい。エッチングレジストを除去することにより、エッチングレジストがろう材エッチング液または化学研磨液と反応して不具合を発生するのを防ぐことができる。エッチングレジストが反応すると、ろう材エッチング液のpHが6を超える可能性がある。
なお、pH安定化剤として、HBF4とキレート剤の組合せを用いる場合、エッチングレジストを残したままろう材層をエッチングしたとしても、ろう材エッチング液のpHが6を超えるのを防ぐことができる。
【0034】
実施形態にかかるセラミックス回路基板の製造方法であれば、ろう材エッチング工程の回数を例えば2回以下にすることができる。また、1回のろう材エッチング工程の時間も15分以下にできるので、銅板へのダメージも少ない。このため、エッチングレジストを除去してろう材エッチング工程を行ったとしても、銅板の表面粗さRaを0.2μm以上1μm以下にすることができる。銅板の表面粗さRaを0.2μm以上1μm以下にしておくと、銅板のモールド樹脂との密着性が向上する。セラミックス回路基板に半導体素子を搭載した半導体装置は、樹脂によりモールドされる。銅板と樹脂との密着強度を向上させるために、銅板表面を荒らす工程が行われる。実施形態にかかるセラミックス回路基板の製造方法であれば、ろう材エッチング工程を行うことにより銅板表面の表面粗さを制御できる。このため、ブラスト処理など特別に銅板表面を荒らす工程を行わなくても済む。この点からも、製造効率が向上する。特に、樹脂モールドされるセラミックス回路基板の製造方法に好適である。
以上のようなセラミックス回路基板の製造方法であれば、1回のろう材エッチング工程の時間を15分以下、さらには7分以下と短縮できる。また、パターン間の距離が2mm以下、さらには1.5mm以下と狭くなったとしても、セラミックス回路基板を製造可能である。また、前述のようにパターン間の距離が短くなっても、銀を含有したろう材を用いた場合に比べて、イオンマイグレーションの発生を抑制することができる。これはイオンマイグレーションの発生が、銅よりも銀で起こりやすいためである。また、ろう材はみ出し部のサイズを、10μm以上200μm以下、さらには10μm以上100μm以下と残すことができる。つまり、パターン間の距離とろう材はみ出し部のサイズを制御しながら、ろう材エッチング工程の時間を短くすることができる。また、セラミックス回路基板1枚当たりのろう材がむき出しになった合計面積が2000mm2以上と広くなったとしても、セラミックス回路基板を歩留まり良く製造することができる。
また、ろう材層にAgを含有していないので、大型のセラミックス回路基板であっても歩留まり良く製造することができる。得られたセラミックス回路基板は、必要に応じ、分割して多数個取り工程を行ってもよい。また、予めスクライブ加工を行ったセラミックス基板を用いてセラミックス回路基板を製造してもよい。
【0035】
(実施例1~5、比較例1)
セラミックス基板として、窒化珪素基板(基板厚さ0.32mm、熱伝導率90W/m・K、3点曲げ強度650MPa)、窒化アルミニウム基板(基板厚さ0.635mm、熱伝導率180W/m・K、3点曲げ強度350MPa)を用意した。窒化珪素基板を「Si3N4」、窒化アルミニウムを「AlN」と示した。
また、厚さが0.3mm、0.5mm、0.8mmの3種類の銅板を用意した。厚さが0.3mmの銅板を「銅板1」、厚さが0.5mmの銅板を「銅板2」、厚さが0.8mmの銅板を「銅板3」と示した。
セラミックス基板の縦横サイズは、表1に示した通りである。また、銅板の縦横サイズは、セラミックス基板の縦横サイズとそれぞれ同じである。
【0036】
【0037】
次に、表2に示した活性金属ろう材を用いて、加熱接合工程を行って接合体を製造した。実施例ではAgを含有しないろう材を用い、比較例ではAgを含有するろう材を用いた。
【0038】
【0039】
実施例および比較例の接合体に対し、表面側の銅板にエッチングレジストを塗布した後、エッチング加工して銅板をパターン形状に加工した。銅板および銅合金層のエッチングには、第二塩化鉄水溶液を用いた。銅板パターンについては、パターン間距離が1.5mmの個所と2.0mmの個所をそれぞれ設けた。銅板および銅合金層のエッチング加工により、ろう材層がむき出しになった接合体を作製した。むき出しになったろう材層の面積として、1枚の接合体あたりの合計面積(mm2)を表3に示した。
【0040】
【0041】
次に、表4に示すろう材エッチング液と、表5に示した化学研磨液を用意した。ろう材エッチング液について、過酸化水素(H2O2)、フッ化アンモニウム(NH4F)、及びpH安定化剤の質量の合計を100wt%としたときの質量比を示した。それぞれ表3に示した質量比になるように水溶液で混合した。pH安定化剤には、硼弗化水素酸(HBF4)を用いた。また、過酸化水素(H2O2)含有水溶液、フッ化アンモニウム(NH4F)含有水溶液、pH安定化剤含有水溶液の合計1Lに対し、混合した純水の量(L:リットル)を示した。また、ろう材エッチング液のpHを示した。
表5には、使用した化学研磨液とその含有量(wt%)を示した。表5のクエン酸は、キレート剤の一種であり、トリカルボン酸である。
【0042】
【0043】
【0044】
実施例および比較例にかかる接合体、ろう材エッチング液1~4、及び化学研磨液1~3を組み合わせて、表6に示すセラミックス回路基板の製造方法を行った。それぞれの例では、銅板のパターン形状間でろう材層のむき出しになった個所を除去した。また、ろう材エッチング工程の後および化学研磨工程の後は、純水による洗浄工程を5分間行った。
ろう材エッチング工程は「超音波」を付加しながら行ったものは、「×超音波」と表示した。また、超音波の周波数は10~100kHzの範囲内とした。また、ろう材エッチング液を30~60℃に加温しながらエッチング工程を行った。
【0045】
【0046】
1回につき30枚の接合体に対しろう材エッチング工程を実施した。得られた接合体に対し、ろう材はみ出し部の残存量を調べた。銅板のパターン形状間で銅板端部からのろう材はみ出し部の長さが20μm以上60μm以下の範囲に収まった領域の割合を求めた。
図7は、セラミックス回路基板の一部を例示する平面図であり、前記領域の割合の算出方法を説明するための模式図である。
図7には、銅エッチング工程によって分断された銅板13-1および13-2を示した。銅板13-1と銅板13-2との間には、溝Tが形成されている。平面視した場合に、銅板13-1と銅板13-2の間には、ろう材はみ出し部12d-1及び12d-2が見えている。パターン形状同士を結ぶ第1方向D1において、銅板13-1の側面からろう材はみ出し部12d-1先端までの長さを、ろう材はみ出し部の長さL1として測定した。また、第1方向D1において、銅板13-2の側面からろう材はみ出し部12d-2先端までの長さを、ろう材はみ出し部の長さL2として測定した。溝Tに沿った第2方向D2におけるパターン形状間の長さL3を測定した。第2方向D2は、第1方向D1に直交する。第1方向D1および第2方向D2は、面内方向に平行である。ろう材はみ出し部12d-1および12d-2のそれぞれにおいて、長さL1およびL2の両方が20μm以上60μm以下の範囲W1内にある領域を特定した。特定された領域の第2方向D2の長さL4を測定した。銅板のパターン形状間の長さL3を100とし、長さL1およびL2の両方が範囲W1内に収まった割合(L4/L3)を算出した。また、銅板の表面粗さRa(μm)の測定も行った。その結果を表7に示した。
【0047】
【0048】
表から分かる通り、実施例に係るセラミックス回路基板の製造方法によれば、ろう材はみ出し部のサイズの制御ができていた。このため、大型のセラミックス回路基板であっても歩留まり良く製造することができる。また、比較例1ではろう材層がAgを含有しているため、セラミックス回路基板が大型化したときには、歩留まりが低下した。実施例によれば、エッチング工程の回数を減らせるので、エッチング液の寿命も延びた。
【0049】
(実施例6~7)
表8に示すろう材エッチング液5、6を用意した。ろう材エッチング液5の濃度は、ろう材エッチング液1の濃度の約半分である。ろう材エッチング液6の濃度は、ろう材エッチング液2の濃度の約半分である。
【0050】
【0051】
ろう材エッチング工程を、比較例1と同様の条件で行った。比較例1のろう材エッチング液1をろう材エッチング液5に置き換えた例を実施例6とした。比較例1のろう材エッチング液1をろう材エッチング液6に置き換えた例を実施例7とした。比較例1と同様にろう材はみ出し部の残存量、および銅板表面の表面粗さを調べた。その結果を表9に示す。
【0052】
【0053】
表9から分かるように、実施例は、ろう材エッチング液の濃度を下げても、比較例に比べて良好な結果が得られた。Agを含有しないろう材であることにより、ろう材エッチング液の濃度を下げても良好な結果が得られることが分かった。この点からもろう材エッチング液の寿命を延ばすことができることが分かった。
また仕上げの洗浄工程の効果を調べるために種々の残渣量を調べた。この測定方法は後述するXPSを用いた方法で行った。
【0054】
各実施例における洗浄方法や流量および乾燥工程を表10に示した。表に記載した“無し”は、その工程を行わなかったことを示す。また、洗浄工程における“IPA”は、イソプロパノールを用いて洗浄したことを示す。“アルカリ”は、pH10以上のアルカリ性溶液を用いて洗浄を行ったことを示す。また、洗浄方法について、流量(L/分/cm2)の数字が記載したものは、ノズルを用いたことを示す。「浸漬」の記載は、接合体を洗浄槽に浸漬したことを示す。「無し」は洗浄工程を行わなかったことを示す。
次に乾燥工程について説明する。乾燥工程における自然乾燥とは、特に表面に付着した水滴を除去などせずに接合体を静置する方法である。斜めにとは接合体を斜めに置くことで水滴の付着量を減少させる方法である。“アセトン”は、アセトンを用いたことを示す。“エアブロー”は、エアブローを用いたことを示す。
【0055】
【0056】
表10に示した洗浄方法と残渣との相関および洗浄方法と各溶液の耐久性との相関を調べた。その結果を表11に示す。エッチング液の交換は過酸化水素の濃度が初期濃度から10~20wt%低下したときに行った。表11において、銅部材表面における窒素、酸素、炭素および銅の量を100原子%としたとき、窒素、酸素、および炭素がそれぞれ30原子%以下であった場合を“〇”と記載した。窒素、酸素、および炭素がそれぞれ30原子%を超えた場合を“×”と記載した。表面における原子量の測定には、XPS分析を用いた。XPS分析装置として、SSI社Xプローブを用いた。XPS分析では、AlKα線(hν=1486.6eV)を用い、X線のスポット径は、直径1mmに設定した。また、耐久性とは、エッチング液の耐久性である。エッチング速度が20%低下するまでの使用回数を、耐久性として示した。
【0057】
【0058】
表10および表11よりわかるように、仕上げの洗浄方法と残渣量には相関があり、浸漬以外の洗浄方法であれば残渣を減らすことができた。
したがって、仕上げの洗浄工程を行うことにより残渣が少ない基板の提供が可能になった。これにより、例えば半導体素子などを実装する際に種々の残渣による悪影響の少ない使い勝手の良い基板の提供が可能となったことを示すものである。また表10より、各エッチング工程または化学研磨工程においてその工程同士の間に洗浄工程または乾燥工程を有することにより次工程のエッチング液の交換頻度をより下げることができることが分かった。
【0059】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0060】
1-1,1-2…銅エッチング工程
2-1、2-2…ろう材エッチング工程
3-1,3-2…化学研磨工程
4-1、4-2…洗浄工程
5-1…仕上げの洗浄工程
5-2…仕上げの乾燥工程
10…セラミックス回路基板
11…セラミックス基板
12…ろう材層
12a…銅合金層
12b…活性金属ろう材層
12c…銅析出物
12d…ろう材はみ出し部
13,13-1,13-2…銅板