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特許7596524塩化ビニル系重合体の製造方法およびそれにより製造された塩化ビニル系重合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】塩化ビニル系重合体の製造方法およびそれにより製造された塩化ビニル系重合体
(51)【国際特許分類】
   C08F 14/06 20060101AFI20241202BHJP
   C08F 2/20 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
C08F14/06
C08F2/20
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023521787
(86)(22)【出願日】2022-06-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-26
(86)【国際出願番号】 KR2022009235
(87)【国際公開番号】W WO2023277530
(87)【国際公開日】2023-01-05
【審査請求日】2023-04-10
(31)【優先権主張番号】10-2021-0086440
(32)【優先日】2021-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ジェ・ヒュン・パク
(72)【発明者】
【氏名】ジュン・チュル・リム
(72)【発明者】
【氏名】クン・フン・ユ
(72)【発明者】
【氏名】ヒョン・ミン・イ
(72)【発明者】
【氏名】ギュ・スン・キム
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-061657(JP,A)
【文献】特表2021-512975(JP,A)
【文献】国際公開第2019/189625(WO,A1)
【文献】特開昭55-031820(JP,A)
【文献】特開昭63-268713(JP,A)
【文献】特表2004-534867(JP,A)
【文献】国際公開第02/079279(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00
C08F301/00
C08F 2/00- 2/60
C08C 19/00- 19/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合分散剤およびカーボネート金属塩を重合反応器に投入するステップ(S1)と、
前記混合分散剤およびカーボネート金属塩の存在下で塩化ビニル系単量体を重合するステップ(S2)と、
を含み、
前記混合分散剤は、水和度が80モル%以上の高水和度ポリビニルアルコールを含み、
前記ポリビニルアルコールは、ポリビニルアセテートを水和させてアセテート中の一部をアルコールに置換した形態であり、前記水和度は前記ポリビニルアセテート中のアルコールに置換された程度と定義され、
前記混合分散剤中の高水和度ポリビニルアルコールの含量が50~60重量%である、塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項2】
前記混合分散剤およびカーボネート金属塩は、予め混合されて重合反応器に投入される、請求項1に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項3】
前記混合分散剤は、水和度が80モル%未満の低水和度ポリビニルアルコールおよびセルロース系分散剤をさらに含む、請求項1に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項4】
前記セルロース系分散剤は、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、およびヒドロキシプロピルメチルセルロースからなる群から選択される1つ以上である、請求項3に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項5】
前記カーボネート金属塩は、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸カリウム(KCO)、および炭酸水素ナトリウム(NaHCO)からなる群から選択される1つ以上である、請求項1に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項6】
前記混合分散剤は、塩化ビニル系単量体100重量部に対して0.05~0.15重量部で用いられる、請求項1に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項7】
前記カーボネート金属塩は、塩化ビニル系単量体100重量部に対して0.01~0.03重量部で用いられる、請求項1に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項8】
前記重合は、50~65℃で行われる、請求項1に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年7月1日付けの韓国特許出願第10-2021-0086440号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は、本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、高水和度分散剤を含む混合分散剤とカーボネート金属塩を一定量で用いることで、溶融速度が速く、残留する未反応単量体の含量が低く、重合体のかさ密度も高く維持することができる塩化ビニル系重合体の製造方法および前記製造方法により製造された塩化ビニル系重合体に関する。
【背景技術】
【0003】
PVCは、代表的な熱可塑性樹脂であって、安価かつ硬度の調節が容易であり、機械的強度、耐候性、耐薬品性などの物理化学的特性に優れており、フィルム、シート、成形品などの多様な製品分野に用いられている。
【0004】
PVC樹脂を最終製品に加工するためには、各製品分野に必要な特性に応じて適した添加剤をPVC樹脂に混合した後に押出する過程が必要である。この際、PVC樹脂混合物の溶融が速いほど、塩化ビニル系重合体の鎖構造が解けやすく、互いに強い結合を形成することになり、これにより、最終製品の機械的物性も上昇することになる。これに対し、溶融速度が低いため、鎖構造が十分に解けないと、この過程で未ゲル化粒子が形成され、形成された未ゲル化粒子は、最終製品の欠陥として作用して機械的物性を低下させる。したがって、高い機械的強度が求められる製品分野においては、より速い溶融速度を有するPVC樹脂を必要とする。
【0005】
一方、CPA(Cold Plasticizer Absorption、可塑剤吸収率)は、PVC樹脂の特性を示す主な物性であり、CPAが高いほど、前述した溶融速度が速い傾向がある。ただし、前記CPAは、塩化ビニル系重合体のかさ密度とトレード-オフ関係にあり、塩化ビニル系重合体のかさ密度が高いほど、押出加工時に押出量が増加して生産性に優れるという特徴がある。すなわち、機械的強度に優れたPVC樹脂を製造するために、PVC樹脂のCPAを高めるほど、かさ密度が低下し、加工時に生産性が低下するという問題がある。したがって、適正レベルの生産性および機械的強度を実現するために、CPAとかさ密度とのバランスを合わせたPVC樹脂を製造できる方法に関する研究が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】KR10-2021-0034418A
【文献】KR10-2017-0124959A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、塩化ビニル系重合体のCPAとかさ密度とのバランスに優れながらも、最終製品に残存する未反応単量体の含量を減らすことができる塩化ビニル系重合体の製造方法および前記製造方法により製造された塩化ビニル系重合体を提供するためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、塩化ビニル系重合体の製造方法および塩化ビニル系重合体を提供する。
(1)本発明は、混合分散剤およびカーボネート金属塩を重合反応器に投入するステップ(S1)と、前記混合分散剤およびカーボネート金属塩の存在下で塩化ビニル系単量体を重合するステップ(S2)と、を含み、前記混合分散剤は、水和度が80モル%以上の高水和度ポリビニルアルコールを含み、前記混合分散剤中の高水和度ポリビニルアルコールの含量が50~60重量%である、塩化ビニル系重合体の製造方法を提供する。
【0009】
(2)本発明において、前記混合分散剤およびカーボネート金属塩は、予め混合されて重合反応器に投入される、前記(1)に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法を提供する。
【0010】
(3)本発明において、前記混合分散剤は、水和度が80モル%未満の低水和度ポリビニルアルコールおよびセルロース系分散剤をさらに含む、前記(1)または(2)に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法を提供する。
【0011】
(4)本発明において、前記セルロース系分散剤は、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、およびヒドロキシプロピルメチルセルロースからなる群から選択される1つ以上である、前記(1)~(3)のいずれか一項に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法を提供する。
【0012】
(5)本発明において、前記カーボネート金属塩は、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸カリウム(KCO)、および炭酸水素ナトリウム(NaHCO)からなる群から選択される1つ以上である、前記(1)~(4)のいずれか一項に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法を提供する。
【0013】
(6)本発明において、前記混合分散剤は、塩化ビニル系単量体100重量部に対して0.05~0.15重量部で用いられる、前記(1)~(5)のいずれか一項に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法を提供する。
【0014】
(7)本発明において、前記カーボネート金属塩は、塩化ビニル系単量体100重量部に対して0.01~0.03重量部で用いられる、前記(1)~(6)のいずれか一項に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法を提供する。
【0015】
(8)本発明において、前記重合は、50~65℃で行われる、前記(1)~(7)のいずれか一項に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法を提供する。
【0016】
(9)本発明は、XPS分析により測定された表面層中の塩化ビニル系重合体の含量が50%以上である、塩化ビニル系重合体を提供する。
【0017】
(10)本発明は、CPA(cold plasticizer absorption)が18%以上であることを特徴とする、前記(9)に記載の塩化ビニル系重合体を提供する。
【0018】
(11)本発明は、かさ密度が0.580g/cm以上であることを特徴とする、前記(9)または(10)に記載の塩化ビニル系重合体を提供する。
【0019】
(12)本発明は、球形の粒子状である、前記(9)~(11)のいずれか一項に記載の塩化ビニル系重合体を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の製造方法を用いて製造された塩化ビニル系重合体は、高いCPAとかさ密度を同時に示し、押出加工時の生産性および最終製品に製造時の機械的強度のいずれにも優れ、未反応単量体の含量が低く、有害性がない。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本明細書および特許請求の範囲で用いられている用語や単語は、通常のもしくは辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者らは、自分の発明を最善の方法で説明するために、用語の概念を適切に定義することができるという原則に則って、本発明の技術的思想に合致する意味と概念に解釈すべきである。
【0022】
一方、本明細書で用いられる用語「塩化ビニル系重合体」は、塩化ビニル系単量体、すなわち、塩化ビニル単量体の単独、または塩化ビニル単量体と塩化ビニル単量体との共重合が可能なビニル系単量体が混合している混合物を重合して生成された化合物を包括して示すものであり、塩化ビニル系単量体から誘導された重合体鎖を意味し得る。
【0023】
塩化ビニル系重合体の製造方法
本発明は、混合分散剤およびカーボネート金属塩を重合反応器に投入するステップ(S1)と、前記混合分散剤およびカーボネート金属塩の存在下で塩化ビニル系単量体を重合するステップ(S2)と、を含み、前記混合分散剤は、水和度が80モル%以上の高水和度ポリビニルアルコールを含み、前記混合分散剤中の高水和度ポリビニルアルコールの含量が50~60重量%である、塩化ビニル系重合体の製造方法を提供する。
【0024】
前述したように、塩化ビニル系重合体のCPAとかさ密度はトレード-オフ関係にあり、機械的強度および押出時の生産性を適正レベルに維持するために、塩化ビニル系重合体のCPAとかさ密度との適したバランスを探す必要がある。このために研究を行った結果、本発明の発明者は、高水和度ポリビニルアルコールを含む混合分散剤とカーボネート金属塩を予め混合した後、前記混合物の存在下で塩化ビニル系単量体を重合する場合、かさ密度が損なわれることなく、塩化ビニル系重合体のCPAを高めることができながらも、最終重合体に残存する未反応単量体の量を減らすことができることを見出し、本発明の塩化ビニル系重合体の製造方法を完成するに至った。
【0025】
以下、本発明の塩化ビニル系重合体の製造方法を各ステップ別に説明する。
混合分散剤およびカーボネート金属塩の投入ステップ(S1)
本発明の製造方法は、重合反応を行う前に、混合分散剤およびカーボネート金属塩を重合反応器に投入するステップ(S1)を含む。
【0026】
本ステップで用いられる混合分散剤は、後述するステップで投入される塩化ビニル系単量体を溶媒に分散させる役割を行うためのものであり、互いに異なる2種以上の分散剤が混合されたものであってもよく、混合分散剤に含まれる2種以上の分散剤のうち少なくとも1つは、水和度が80モル%以上の高水和度ポリビニルアルコールであってもよい。特に好ましくは、前記高水和度ポリビニルアルコールの水和度は85モル%以上であってもよい。このように高い水和度を有するポリビニルアルコールを他の分散剤と混合して用いる場合、最終生成粒子の安定性をさらに高めることができるという利点がある。一方、本ステップにおいて、分散剤として用いられるポリビニルアルコールは、ポリビニルアセテートを水和させてアセテート中の一部をアルコールに置換した形態であり、水和度は、アセテート中のアルコールに置換された程度と定義される。
【0027】
前記混合分散剤中の高水和度ポリビニルアルコールの含量は50~60重量%であってもよい。混合分散剤中の高水和度ポリビニルアルコールの含量が過度に少ない場合には、重合過程中に粒子の安定性が低下してスケールが多量発生し、塩化ビニル系重合体粒子を一定の形態で得ることができない。さらには、最終的に製造された塩化ビニル系重合体のかさ密度が過度に低いため、押出量が低下する問題が発生し得る。逆に、混合分散剤中の高水和度ポリビニルアルコールの含量が過度に多い場合には、得られる塩化ビニル系重合体粒子内部の空隙が減って可塑剤吸収率が低くなり得、このため、大気中への残留単量体の排出が円滑でないため、最終製品に残存する未反応単量体の含量が急激に増加し得る。
【0028】
前記混合分散剤は、前述した高水和度ポリビニルアルコールの他に、80モル%未満の低水和度ポリビニルアルコールおよびセルロース系分散剤をさらに含んでもよい。高水和度ポリビニルアルコールと低水和度ポリビニルアルコールを共に用いる場合、重合体の粒径および可塑剤吸収率などの基本物性を容易に制御することができ、製品に求められる基本的な物性を満たしながらも、スキン層の厚さが厚すぎないため、相対的に溶融性の速い重合体粒子を得ることができる。前記低水和度ポリビニルアルコールの水和度は80モル%未満、好ましくは50~75モル%であってもよく、前記低水和度ポリビニルアルコールは、上述した範囲内の水和度を有するポリビニルアルコール2種以上を含んでもよい。
【0029】
前記混合分散剤は、塩化ビニル系単量体100重量部に対して0.05~0.15重量部、好ましくは0.08~0.12重量部で用いられてもよい。前記混合分散剤の使用量が過度に少ない場合には、前述した混合分散剤の役割が十分に行われることができず、重合安定性が低下し得、前記混合分散剤の使用量が過度に多い場合には、分散剤成分が残存して最終製品の不純物として作用し、製品の品質に悪影響を及ぼし得る。
【0030】
前記セルロース系分散剤は、重合過程中に反応物を安定化させる保護コロイド助剤の役割を行うことができる。前記セルロース系分散剤としては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、およびヒドロキシプロピルメチルセルロースからなる群から選択される1つ以上が用いられてもよい。
【0031】
本ステップで用いられるカーボネート系金属塩は、pH調節剤の役割を行い、最終製品に残存し得る未反応単量体の含量を低減することができる。前記カーボネート系金属塩としては、水に溶解されてイオン化できるものが用いられてもよく、具体的には、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸カリウム(KCO)、および炭酸水素ナトリウム(NaHCO)からなる群から選択される1つ以上が用いられてもよい。
【0032】
前記カーボネート金属塩は、塩化ビニル系単量体100重量部に対して0.01~0.03重量部、好ましくは0.015~0.025重量部で用いられてもよい。前記カーボネート金属塩の使用量が過度に少ない場合には、前述したカーボネート金属塩の役割が十分に行われることができず、前記カーボネート金属塩の使用量が過度に多い場合には、カーボネート金属塩成分が分散剤に影響を及ぼして分散安定性を低下させ、このため、重合体粒子の大きさが過度に大きくなり得る。
【0033】
一方、本ステップにおいて、前記混合分散剤およびカーボネート金属塩は、予め混合されて重合反応器に投入されてもよい。前記混合分散剤およびカーボネート金属塩を重合反応の開始以後に投入せず、重合反応の開始以前に予め混合して投入することで、最終製品の表面層中の塩化ビニル系重合体の含量をさらに高めることができ、これにより、溶融速度を高めることができる。
【0034】
重合ステップ(S2)
前述したように、混合分散剤およびカーボネート金属塩を重合反応器に投入した後、塩化ビニル系単量体を投入して重合反応を行うことができる。特に、本ステップにおける重合反応は、懸濁重合方法により行われてもよい。
【0035】
前記塩化ビニル系単量体は、塩化ビニル単量体の1種であるか、または塩化ビニル単量体および前記塩化ビニル単量体との共重合が可能なビニル系単量体を含む混合単量体であってもよい。前記混合単量体は、前記塩化ビニル単量体100重量部を基準として、共重合が可能なビニル系単量体を1~50重量部で含んでもよい。共重合するビニル系単量体を上述した範囲で含むと、懸濁重合が安定的に行われながらも、最終製品である塩化ビニル系重合体の加工性に優れるという長所がある。前記ビニル系単量体は、エチレン、プロピレンなどのオレフィン化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類;アクリロニトリルなどの不飽和ニトリル類;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテルなどのビニルアルキルエーテル類;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸などの不飽和脂肪酸;およびこれらの脂肪酸の無水物からなる群から選択される1種以上であってもよい。
【0036】
本ステップにおいては、懸濁重合のための溶媒が用いられてもよく、前記溶媒は、脱イオン水であってもよい。前記溶媒の使用量は、重合反応器の大きさおよび用いられる単量体の量に応じて適宜調節されてもよく、例えば、塩化ビニル系単量体100重量部に対して70重量部以上で用いられてもよい。前記溶媒は、以前のS1ステップにおいて、混合分散剤およびカーボネート金属塩とともに混合して投入されてもよい。
【0037】
本ステップにおいては、重合反応を開始するための重合開始剤が用いられてもよい。前記重合開始剤は、重合対象となる塩化ビニル系単量体100重量部に対して0.02~0.2重量部で用いられてもよい。仮に前記重合開始剤が0.02重量部未満で用いられる場合には、重合反応時間が長くなり、塩化ビニル系重合体への転化率が低くなって生産性が低下する恐れがあり、0.2重量部を超過して用いられる場合には、重合過程中に重合開始剤を完全に消費することができず、最終的に製造された塩化ビニル系重合体スラリー中に残留して熱安定性などを低下させる恐れがある。より具体的には、前記重合開始剤は、塩化ビニル系単量体100重量部に対して0.04~0.12重量部で用いられてもよい。
【0038】
前記重合開始剤としては、具体的に、ジクミルパーオキサイド、ジペンチルパーオキサイド、ジ-3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、またはジラウリルパーオキサイドなどのパーオキサイド系化合物;ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネート、またはジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネートなどのパーオキシジカーボネート系化合物;t-ブチルパーオキシピバレート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエ-ト、またはt-ブチルパーオキシネオデカノエートなどのパーオキシエステル系化合物;アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリルなどのアゾ系化合物;t-ブチルヒドロパーオキサイドなどのヒドロパーオキサイド系化合物;またはカリウムパーサルフェートまたはアンモニウムパーサルフェートなどのサルフェート系化合物などが挙げられるが、これらのいずれか1つまたは2つ以上の混合物が用いられてもよい。
【0039】
本ステップにおいて、前記重合は50~65℃、より具体的には50~60℃の温度範囲で行われてもよい。また、塩化ビニル系重合体の重合反応は発熱反応であるため、重合過程中の温度変化が最小化されるように、反応器ジャケットおよび還流冷却器(R/CN)を介した除熱工程が行われてもよい。前記範囲の温度で重合反応が行われる際に、フォームの発生が防止されながらも、再重合およびスケールの生成が抑制されることができる。また、前記温度範囲で反応末期に残留している重合開始剤の分解が誘導され、反応後にさらに優れた物性を有する塩化ビニル系重合体が製造されることができる。
【0040】
本ステップにおいて、酸化防止剤、塩基、架橋剤、重合調節剤、連鎖移動剤、帯電防止剤、スケール防止剤、界面活性剤などの添加剤をさらに添加してもよく、前記添加剤の種類および含量は、特に制限されず、当業界で公知の通常の種類および含量で用いられてもよい。前記添加剤は、重合過程中のどの時点で添加してもよく、一時に添加しても連続的に添加してもよい。
【0041】
塩化ビニル系重合体
本発明は、前述した塩化ビニル系重合体の製造方法を用いて製造可能な塩化ビニル系重合体を提供する。具体的に、本発明は、XPS分析により測定された表面層中の塩化ビニル系重合体の含量が50%以上である、塩化ビニル系重合体を提供する。
【0042】
懸濁重合を用いて塩化ビニル系重合体を製造する場合、最終製品は、内部に塩化ビニル系重合体が存在し、その表面を分散剤が囲んだ形態で得られる。この際、表面を形成する帯をスキン(skin)層といい、通常、スキン層の厚さが厚いほど、溶融速度が遅いため、溶融時間が増加する傾向を示す。このようなスキン層の厚さは、得られた重合体粒子の表面をXPS分析して得られた表面中の塩化ビニル系重合体の含量から類推することができ、具体的に、表面中の塩化ビニル系重合体の含量が低いほど、スキン層が薄いものと評価される。
【0043】
これと関連し、前述した本発明の塩化ビニル系重合体の製造方法を用いる場合、重合体粒子表面の分散剤の含量が少なくなり、塩化ビニル系重合体の含量が増加し、スキン層の厚さが薄い塩化ビニル系重合体を得ることができる。具体的に、本発明の製造方法を用いる場合、表面層中の塩化ビニル系重合体の含量が50%以上である塩化ビニル系重合体を得ることができる。本発明の塩化ビニル系重合体は、薄いスキン層の厚さを有することで、溶融速度が速くなることができる。
【0044】
前記表面層中の塩化ビニル系重合体の含量は、XPS分析を用いて、以下の方法により測定することができる。
1)塩化ビニル系重合体の表面をなす物質は、PVC、PVA、およびPVAcしかないと仮定する。
【0045】
2)分散剤を用いずにバルク重合により製造されたPVCを用いて、PVC粒子のC元素とCl元素との相対比を計算する(C:Cl=2.17:1)。バルク重合により製造されたPVCは、単にPVCのみからなるため、先に計算された相対比は、純粋なPVCにおけるC元素とCl元素との相対比となる。次いで、計算された相対比を用いて、対象塩化ビニル系重合体表面層で測定されたClの含量からPVCの含量を逆算する。
【0046】
3)Cピーク中のPVAcに存在するカルボニルピークに現れる特定のBE値を用いてPVAcの含量を計算する。
4)全含量中のPVCとPVAcの含量を引いた残りのCピークをPVAの含量に定める。
【0047】
5)前記過程により計算されたPVC、PVA、およびPVAcの含量の全量を基準としたPVCの含量(PVC/(PVC+PVA+PVAc))*100%を塩化ビニル系重合体の含量と定義する。
【0048】
前記測定に用いられるXPS設備としては通常の設備を利用してもよく、例えば、K-ALPHA+(製造会社:Thermofisher)を利用してもよい。
【0049】
さらに、本発明の塩化ビニル系重合体は、CPA(cold plasticizer absorption)が18%以上であってもよい。具体的に、本発明の塩化ビニル系重合体は、薄いスキン層の厚さを有しており、溶融速度が速く、それに合わせてCPAが18%以上と高くなることができる。また、本発明の塩化ビニル系重合体は、かさ密度が0.580g/cm以上であってもよい。かさ密度は、CPAとトレード-オフ関係にあるが、本発明の塩化ビニル系重合体粒子は、既存の方法により製造された塩化ビニル系重合体と比べて相対的に球形にさらに近い形状を有するため、高いCPAを示すにもかかわらず、それとともに高いかさ密度を示すことができる。
本発明の塩化ビニル系重合体は、球形の粒子状であってもよく、特に具体的に、縦横比が1~1.2である球形の粒子状であってもよい。
【0050】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示する。ただし、下記の実施例は、本発明を例示するためのものにすぎず、本発明の範囲を限定するためのものではない。
【0051】
実施例1
還流凝縮器および撹拌器付きの内部容積1mのステンレス重合反応器に、重合水130重量部、炭酸ナトリウム0.02重量部、水和度が88モル%のポリビニルアルコール0.055重量部、水和度が72モル%のポリビニルアルコール0.025重量部、水和度が55モル%のポリビニルアルコール0.009重量部、ヒドロキシプロピルメチルセルロース0.011重量部、t-ブチルパーオキシネオデカノエート(BND)0.088重量部を添加した後、撹拌しつつ内部を真空ポンプで脱気した。その後、塩化ビニル単量体100重量部を投入し、重合反応器内の温度を57.2℃に維持しつつ反応を進行させた。重合反応中に反応器内の圧力が1.0kg/cm下降した時点で重合を停止し、酸化防止剤としてトリエチレングリコール-ビス-[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.05重量部添加した後、未反応単量体を回収し、樹脂スラリーを重合反応器にて回収した。
【0052】
実施例2
前記実施例1において、ポリビニルアルコールとして水和度が88モル%のポリビニルアルコール0.050重量部、水和度が72モル%のポリビニルアルコール0.028重量部、水和度が55モル%のポリビニルアルコール0.010重量部、およびヒドロキシプロピルメチルセルロース0.012重量部を用いたことを除いては同様に行い、樹脂スラリーを得た。
【0053】
実施例3
前記実施例1において、ポリビニルアルコールとして水和度が88モル%のポリビニルアルコール0.06重量部、水和度が72モル%のポリビニルアルコール0.022重量部、水和度が55モル%のポリビニルアルコール0.008重量部、およびヒドロキシプロピルメチルセルロース0.010重量部を用いたことを除いては同様に行い、樹脂スラリーを得た。
【0054】
比較例1
前記実施例1において、炭酸ナトリウムを投入しなかったことを除いては同様に行い、樹脂スラリーを得た。
【0055】
比較例2
前記実施例1において、炭酸ナトリウムを投入せず、水和度が88モル%のポリビニルアルコール0.045重量部、水和度が72モル%のポリビニルアルコール0.037重量部、水和度が55モル%のポリビニルアルコール0.008重量部、ヒドロキシプロピルメチルセルロース0.010重量部を投入したことを除いては同様に行い、樹脂スラリーを得た。
【0056】
比較例3
前記実施例1において、炭酸ナトリウムを投入するが、その投入時点を単量体の投入以後にしたことを除いては同様に行い、樹脂スラリーを得た。
【0057】
比較例4
前記実施例2において、炭酸ナトリウムを投入するが、その投入時点を単量体の投入以後にしたことを除いては同様に行い、樹脂スラリーを得た。
【0058】
比較例5
前記実施例3において、炭酸ナトリウムを投入するが、その投入時点を単量体の投入以後にしたことを除いては同様に行い、樹脂スラリーを得た。
【0059】
比較例6
前記実施例1において、水和度が88モル%のポリビニルアルコール0.045重量部、水和度が72モル%のポリビニルアルコール0.037重量部、水和度が55モル%のポリビニルアルコール0.008重量部、ヒドロキシプロピルメチルセルロース0.010重量部を投入したことを除いては同様に行い、樹脂スラリーを得た。
【0060】
比較例7
前記実施例1において、水和度が88モル%のポリビニルアルコールを0.065重量部、水和度が72モル%のポリビニルアルコール0.020重量部、水和度が55モル%のポリビニルアルコール0.008重量部、ヒドロキシプロピルメチルセルロース0.007重量部を投入したことを除いては同様に行い、樹脂スラリーを得た。
前記実施例および比較例で用いられた混合分散剤中の高水和度ポリビニルアルコールの含量および炭酸ナトリウムの投入時点をまとめて下記表1に示した。
【0061】
【表1】
【0062】
実験例1.塩化ビニル系重合体のCPAおよびかさ密度の測定
前記実施例および比較例で製造された樹脂スラリーを脱水および乾燥し、粒子状の塩化ビニル系重合体を得た。得られた塩化ビニル系重合体に対してCPAおよびかさ密度を測定した。CPAは、ASTM D 3367-95に準じて、かさ密度は、ASTM D 1895 Method Aに準じて測定し、その結果を下記表2に示した。
【0063】
【表2】
【0064】
上記の結果に示されたように、本発明の塩化ビニル系重合体は、実施例と比較例の中でCPAが最も高いながらも、優れたかさ密度が維持されることを確認した。これは、すなわち、本発明の塩化ビニル系重合体は、優れた機械的物性と高い溶融速度を共に示すことを意味する。特に、前記結果から、混合分散剤中の高水和度ポリビニルアルコールの含量が50~60重量%であり、かつ、カーボネート金属塩を単量体の投入前に予め投入することで、上記のような高いCPAおよび優れたかさ密度の塩化ビニル系重合体を製造可能であることを確認した。
【0065】
実験例2.溶融速度の測定
前記実施例および比較例で製造された樹脂300gに、Ca-Zn系安定剤15g、塩化ポリエチレン(CPE7000、製造会社:Weipren)21g、TiO 9g、CaCO 36gを投入した後、ミキサー(製造会社:HANIL ELECTRIC、製品名:HMF-3100S)を用いて6分間混合した。その後、配合物56gをブラベンダープラストグラフミキサー(Brabender plastograph mixer)に、165℃、45rpmの条件で6分間溶融時間を測定した。その結果を下記表3に示した。
【0066】
【表3】
【0067】
以前の実験例1から予想したように、本発明の実施例が、最も速い溶融時間が測定された。これは、すなわち、本発明の塩化ビニル系重合体が比較例と比べて優れた機械的物性を示すことを意味する。特に、炭酸ナトリウムの投入時点だけを異にする実施例1~3と比較例3~5を比較すると、炭酸ナトリウムが単量体の投入後に投入される比較例3~5の溶融時間が約7秒程度さらに長いことを確認することができ、このことから、炭酸ナトリウム、すなわち、カーボネート金属塩の投入時点に応じて最終的に製造される重合体の機械的物性が変化し得ることを確認することができる。
【0068】
実験例3.表面層中の塩化ビニル系重合体の含量の測定
実施例および比較例で得られた樹脂スラリーを脱水および乾燥して粒子状の塩化ビニル系重合体を得て、当該粒子の表面層中の塩化ビニル系重合体の含量を測定した。前記含量は、下記条件を前提にして計算した。
【0069】
前記表面層中の塩化ビニル系重合体の含量は、XPS分析を用いて、以下の方法により計算された。XPS分析設備としては、K-ALPHA+(製造会社:Thermofisher)を利用した。
【0070】
1)塩化ビニル系重合体の表面をなす物質は、PVC、PVA、およびPVAcしかないと仮定する。
2)分散剤を用いずにバルク重合により製造されたPVCを用いて、PVC粒子のC元素とCl元素との相対比を計算する(C:Cl=2.17:1)。バルク重合により製造されたPVCは、単にPVCのみからなるため、先に計算された相対比は、純粋なPVCにおけるC元素とCl元素との相対比となる。次いで、計算された相対比を用いて、対象塩化ビニル系重合体表面層で測定されたClの含量からPVCの含量を逆算する。
【0071】
3)Cピーク中のPVAcに存在するカルボニルピークに現れる特定のBE値を用いてPVAcの含量を計算する。
4)全含量中のPVCとPVAcの含量を引いた残りのCピークをPVAの含量に定める。
【0072】
5)前記過程により計算されたPVC、PVA、およびPVAcの含量の全量を基準としたPVCの含量(PVC/(PVC+PVA+PVAc))*100%を塩化ビニル系重合体の含量と定義する。
その結果を下記表4に示した。
【0073】
【表4】
【0074】
実施例1~3は、比較例と比べて高い表面層中の塩化ビニル系重合体の含量を示し、これは、本発明の実施例による塩化ビニル系重合体が最も薄いスキン層の厚さを有し、溶融しやすいことを意味する。
【0075】
実験例4.残留塩化ビニル系単量体の含量の測定
前記実施例および比較例で得られた樹脂スラリーを含水率15%程度まで脱水した後、紙コップ(直径9cm、高さ12cm)に20gを小分けして入れた後、80℃のオーブンで8時間乾燥させた。その後、バイアルに入れ、HS-GS(Headspace-Gas chromatography)で残留する塩化ビニル系単量体の含量を測定した(測定条件:20mlのバイアルに樹脂1gを密封し、90℃で20分間出る塩化ビニル系単量体の成分を分析)。測定結果を下記表5に示した。
【0076】
【表5】
【0077】
前記表から確認できるように、本発明の実施例で製造された塩化ビニル系重合体が、残留塩化ビニル系単量体成分が著しく低く確認され、これは、すなわち、本発明の塩化ビニル系重合体は、溶融速度および機械的物性の面で優れるだけでなく、有害性の面でも既存の方法により製造された塩化ビニル系重合体と比べて利点を有することを意味する。