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特許7596593豆類含有麺類、麺セット及び豆類含有麺類の製造方法
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  • 特許-豆類含有麺類、麺セット及び豆類含有麺類の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】豆類含有麺類、麺セット及び豆類含有麺類の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/109 20160101AFI20241202BHJP
   C11B 9/00 20060101ALI20241202BHJP
   A23L 5/20 20160101ALI20241202BHJP
【FI】
A23L7/109
C11B9/00
A23L5/20
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2024189804
(22)【出願日】2024-10-29
【審査請求日】2024-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2023186030
(32)【優先日】2023-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003753
【氏名又は名称】弁理士法人シエル国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋岡 靖隆
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 正則
(72)【発明者】
【氏名】中山 大地
【審査官】大西 隆史
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-165879(JP,A)
【文献】特開2007-215415(JP,A)
【文献】特開2022-155950(JP,A)
【文献】特開昭59-154950(JP,A)
【文献】特開昭56-058460(JP,A)
【文献】国際公開第2019/059145(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00-35/00
C11B 1/00-15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料粉中に大豆粉が20質量%以上含まれる大豆含有麺類であって、
原料粉100質量部に対して、HEMFを1×10-5~3.5×10-3質量部含有する大豆含有麺類。
【請求項2】
原料粉中に大豆粉が20質量%以上含まれる大豆含有麺類であって、
HEMFを麺類全質量の0.077~35ppm含有する大豆含有麺類。
【請求項3】
乾燥麺類であり、
HEMF含有量が麺類全質量の0.1~35ppmである請求項2に記載の大豆含有麺類。
【請求項4】
グルテンを含有する請求項1又は2に記載の大豆含有麺類。
【請求項5】
更に、小麦粉を含有し、前記グルテンの一部又は全部が前記小麦粉由来のグルテンである請求項4に記載の大豆含有麺類。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の大豆含有麺類と、調味液とを備える麺セット。
【請求項7】
大豆粉を20質量%以上含有する原料粉100質量部に対して、HEMFを1×10-5~3.5×10-3質量部配合した原料組成物を用いて生地を調製する工程と、
該生地を成形して麺類を得る製麺工程と、
を有する大豆含有麺類の製造方法。
【請求項8】
更に、前記麺類を乾燥させる乾燥工程を有する請求項7に記載の大豆含有麺類の製造方法。
【請求項9】
前記原料粉はグルテンを含有する請求項7又は8に記載の大豆含有麺類の製造方法。
【請求項10】
前記原料粉は、更に、小麦粉を含有し、前記グルテンの一部又は全部が前記小麦粉由来のグルテンである請求項9に記載の大豆含有麺類の製造方法。
【請求項11】
原料粉中に豆類粉が20質量%以上含まれる豆類含有麺類であって、
原料粉100質量部に対して、HEMFを1×10-5~3.5×10-3質量部含有する豆類含有麺類。
【請求項12】
原料粉中に豆類粉が20質量%以上含まれる豆類含有麺類であって、
HEMFを麺類全質量の0.077~35ppm含有する豆類含有麺類。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の豆類含有麺類と、調味液とを備える麺セット。
【請求項14】
豆類粉を20質量%以上含有する原料粉100質量部に対して、HEMFを1×10-5~3.5×10-3質量部配合した原料組成物を用いて生地を調製する工程と、
該生地を成形して麺類を得る製麺工程と、
を有する豆類含有麺類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆粉などの豆類粉を含む原料を用いて製造される豆類含有麺類、この豆類含有麺類を備える麺セット及び大豆粉などの豆類粉を含む原料を用いて豆類含有麺類を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康志向の高まりから、高たんぱく低糖質の食品が求められており、麺類も原料粉に大豆粉を用いたものが提案されている(例えば、特許文献1~4参照。)。例えば、特許文献1には、小麦全粒粉を15質量%以上22質量%以下、大豆粉を3質量%以上15質量%以下、米糠を3質量%以上6質量%以下含有する麺が記載されている。また、特許文献2には、粒径255μm以上の粒子を3質量%以上含み、且つ中位径が70μm未満である大豆粉砕物を5質量%以上含む麺類用組成物を用いた麺類が記載されている。
【0003】
更に、特許文献3には、大豆臭さやエグミを抑制するため、大豆由来たんぱく質含有材料と、タピオカ澱粉とを含み、大豆由来たんぱく質含有材料の量が、大豆由来たんぱく質含有材料と澱粉質原料との合計量100質量部に対して、40質量部以上である大豆麺が記載されている。一方、特許文献4には、大豆含有麺質量比で1倍量の水との攪拌混合物をレオメータにより直径1.8mmの円錐型プランジャーを用いて測定した付着性が300J/m以下である大豆粉を7~50質量%の範囲で含有する原料穀粉を用いて製造することで、製麺適性を良好にした大豆含有麺が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2022/004126号
【文献】特開2022-097951号公報
【文献】特開2022-110419号公報
【文献】特開2022-155950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した従来の大豆含有麺類は、原料粉中の大豆粉量を多くすればより高たんぱくで低糖質な麺類が得られるが、大豆含有量が多くなると、麺類を茹で調理する際に大豆由来の豆臭が発生する。そして、発生した豆臭がキッチンに充満したり、調理時に豆臭が強く感じられたりすると、大豆含有麺類に対してネガティブなイメージを抱く原因となり得る。
【0006】
そこで、本発明は、加熱調理する際に、原料粉に含まれる大豆粉などの豆類粉に由来する豆臭が発生しにくい豆類含有麺類、麺セット及び豆類含有麺類の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る大豆含有麺類は、原料粉中に大豆粉が20質量%以上含まれる大豆含有麺類であって、原料粉100質量部に対して、HEMFを1×10-5~3.5×10-3質量部含有するものである。
本発明に係る他の大豆含有麺類は、原料粉中に大豆粉が20質量%以上含まれる大豆含有麺類であって、HEMFを麺類全質量の0.077~35ppm含有するものである。
本発明の大豆含有麺類が乾燥麺類である場合、HEMF含有量は例えば麺類全質量の0.1~35ppmである。
本発明の大豆含有麺類は、グルテンを含有していてもよい。
本発明の大豆含有麺類は、更に、小麦粉を含有し、前記グルテンの一部又は全部が前記小麦粉由来のグルテンでもよい。
【0008】
本発明に係る麺セットは、前述した大豆含有麺類と、調味液とを備える。
【0009】
本発明に係る大豆含有麺類の製造方法は、大豆粉を20質量%以上含有する原料粉100質量部に対して、HEMFを1×10-5~3.5×10-3質量部配合した原料組成物を用いて生地を調製する工程と、該生地を成形して麺類を得る製麺工程とを行う。
本発明の大豆含有麺類は、更に、前記麺類を乾燥させる乾燥工程を有していてもよい。
本発明の大豆含有麺類は、前記原料粉にグルテンが配合されていてもよい。
本発明の大豆含有麺類は、前記原料粉が、更に、小麦粉を含有していてもよく、その場合、前記グルテンの一部又は全部が前記小麦粉由来のグルテンでもよい。
【0010】
本発明に係る豆類含有麺類は、原料粉中に豆類粉が20質量%以上含まれる豆類含有麺類であって、原料粉100質量部に対して、HEMFを1×10-5~3.5×10-3質量部含有するか、又は、HEMFを麺類全質量の0.077~35ppm含有する。
また、本発明に係る麺セットは前述した豆類含有麺類と、調味液とを備える。
更に、本発明に係る豆類含有麺類の製造方法は、豆類粉を20質量%以上含有する原料粉100質量部に対して、HEMFを1×10-5~3.5×10-3質量部配合した原料組成物を用いて生地を調製する工程と、該生地を成形して麺類を得る製麺工程とを有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、原料粉全質量に対して大豆粉などの豆類粉を20質量%以上含有する豆類含有麺類について、加熱調理時に発生する豆臭を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施形態の大豆含有麺類の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0014】
(第1の実施形態)
先ず、本発明の第1の実施形態に係る大豆含有麺類について説明する。本実施形態の大豆含有麺類は、原料粉中に大豆粉が20質量%以上含まれ、更に、HEMF(4-Hydroxy-2(or5)-ethyl-5(or2)-methyl-3(2H)-furanone)を特定量含有する。本実施形態の大豆含有麺類の形態は、特に限定されるものではなく、生麺類、半生麺類及び乾燥麺類のいずれでもよい。
【0015】
[大豆粉]
大豆粉は、本実施形態の大豆含有麺類における主原料の1つであり、原料粉中に20質量%以上配合されている。原料粉中の大豆粉量の下限値は、特に限定されるものではないが、大豆粉量が原料粉全質量の20質量%未満の場合、HEMFを添加しなくても茹で調理などの加熱調理時に大豆由来の豆臭はあまり感じられないため、本実施形態の大豆含有麺類では、原料粉中の大豆粉量を20質量%以上としている。ただし、原料粉に大豆粉が含まれていればHEMFによる豆臭低減効果は得られるため、大豆粉含有率が20質量%未満の大豆含有麺類を除外するものではない。
【0016】
なお、原料粉全質量に対する大豆粉含有率は30質量%以上とすることが好ましい。これにより、高たんぱく・低糖質化といった原料粉に大豆を用いることにより得られる効果が高くなると共に、茹で調理時に発生する大豆由来の豆臭が強くなるため、HEMFによる豆臭低減効果が顕著になる。
【0017】
一方、大豆粉量の上限も、特に限定されるものではなく、原料粉が大豆粉のみ(原料粉の大豆粉含有量100質量%)の麺類でも前述した豆臭抑制効果は得られるが、製麺性や得られた麺線の強度の観点から、原料粉の大豆粉含有率は90質量%以下であることが好ましく、より好ましくは84質量%未満、更に好ましくは81質量%以下、特に好ましくは70質量%以下である。これらの範囲にすることにより、大豆粉含有量が高くても、製麺性及び麺線強度に優れ、かつ、加熱調理したときに大豆由来の豆臭が発生しにくい大豆含有麺類が得られる。
【0018】
本実施形態の大豆含有麺類に配合される大豆粉は、全脂大豆粉及び脱脂大豆粉のいずれでもよく、また、加熱大豆粉及び生大豆粉のいずれでもよいが、全脂大豆粉を用いると麺の風味が向上し、生大豆粉を用いると製麺適性が向上する。更に、大豆の種類も特に限定されるものではなく、黄大豆、黒大豆、赤大豆、青大豆、白大豆、大粒種、中粒種及び小粒種などの各種大豆を用いることができ、リポキシゲナーゼ欠失大豆を用いてもよい。
【0019】
[HEMF]
HEMFは、醸造醤油の特徴的な香りを呈する香味成分であるが、原料粉に大豆粉が配合されている麺類に特定量を練りこむと、茹で調理などの加熱調理時に発生する大豆由来の豆臭を低減する効果が得られる。ただし、HEMF含有量が、原料粉100質量部に対して1×10-5質量部未満、又は、麺類全質量の0.077ppm未満の場合、前述した効果が十分に得られず、特に茹で調理時に大豆由来の豆臭が感じられる。
【0020】
一方、HEMF含有量が、原料粉100質量部に対して3.5×10-3質量部を超えるか、又は、麺類全質量の35ppmを超えると、豆臭の抑制効果は得られるが、麺類にHEMF特有の香りが付与され、調理後の麺類の風味に影響がでるため好ましくない。よって、本実施形態の大豆含有麺類では、HEMF含有量を、原料粉100質量部に対して1×10-5~3.5×10-3質量部、及び/又は、麺類全質量の0.077~35ppmとする。
【0021】
なお、大豆含有麺類が乾燥麺類である場合は、豆臭抑制効果及び調理後の麺類の風味への影響の観点から、HEMF含有量は麺類全質量の0.1~35ppmとすることが好ましい。なお、乾燥麺類におけるHEMF含有量は、麺類全質量の10ppm未満であることが好ましく、5ppm未満であることがより好ましい。これにより、調理後の麺類の香味に影響を与えずに、茹で調理などの加熱調理時に発生する大豆由来の豆臭を低減することができる。
【0022】
[グルテン]
小麦に含まれるたんぱく質であるグルテンは、麺線の結着性を良好にする作用があり、本実施形態の大豆含有麺類では、必要に応じて配合される。本実施形態の大豆含有麺類におけるグルテン量は、特に限定されるものではないが、製麺適性向上の観点から、原料粉中に5~15質量%の割合で配合されているか、又は、前述した大豆粉100質量部に対して10~29質量部配合されていることが好ましい。
【0023】
本実施形態の大豆含有麺類においてグルテンは、主にグルテン粉として添加されるが、原料粉として小麦粉を配合する場合には、グルテンの一部又は全部を小麦粉由来としてもよい。原料粉にグルテン粉又は小麦粉のみ配合する場合は、グルテン粉中のたんぱく質の量が前述した範囲になるようグルテン粉又は小麦粉を配合すればよく、また、原料粉にグルテン粉と小麦粉の両方が含まれる場合は、グルテン粉中のたんぱく質と小麦粉中のたんぱく質の総量が前述した範囲になるようにそれぞれ配合すればよい。
【0024】
[その他の原料]
本実施形態の大豆含有麺類に用いられる原料粉には、前述した各成分の他に、大豆粉以外の穀粉や澱粉類が配合されていてもよい。大豆粉以外の穀粉としては、例えば小麦、大麦及びライ麦などの麦類、米、蕎麦及びトウモロコシなどの穀物を、必要に応じて精選、洗浄又は精白し、生のまま又は熱加工してアルファー化した後、製粉(粉化)したものなどが挙げられる。
【0025】
これらの穀粉は、用途や目的に応じて適宜選択して使用すればよく、単独で用いても、複数の穀粉を組み合わせて使用してもよい。例えばうどん、冷や麦、そうめん、中華麺及びパスタなどを製造する場合は小麦粉、そばを製造する場合はそば粉又はそば粉と小麦粉、ビーフンやフォーなどを製造する場合は米粉が用いられる。
【0026】
また、澱粉類としては、例えばコーンスターチ、馬鈴薯、かんしょ、タピオカ、サゴ椰子、小麦、米、葛、わらび、蓮根、緑豆及びその他の豆類由来の澱粉が挙げられ、生澱粉の他、α化澱粉、アセチル化澱粉、エーテル化澱粉及び架橋澱粉などの加工澱粉でもよい。これらの澱粉類は、麺の食感改善、麺線の表面をなめらかにする、調理の際の茹で時間短縮などの目的で、必要に応じて添加される。
【0027】
更に、原料粉には、増粘多糖類、食塩、野菜粉末、マンナン粉、粉末油脂、色素、アミノ酸類、糖類、デキストリン、乾燥卵白、pH調整剤、日持向上剤などが添加されていてもよい。
【0028】
本実施形態の大豆含有麺類には、前述した原料粉以外に、例えば、水、醸造酢、酒精、酵母、香料、豆乳、牛乳及びその加工品、昆布やかつおなどのダシ原料が配合されていてもよい。原料粉以外の原料及びその配合量は、麺の種類や目的などに応じて適宜選択し設定することができる。
【0029】
[製造方法]
次に、本実施形態の大豆含有麺類の製造方法について説明する。図1は本実施形態の大豆含有麺類の製造方法を示すフローチャートである。図1に示すように、本実施形態の大豆含有麺類の製造方法では、生地調製工程S1と、製麺工程S2とを行い、必要に応じて乾燥工程S3を行う。
【0030】
〔生地調製工程S1〕
生地調製工程S1では、原料粉にその他の原料を加えた原料組成物を混練し、生地を調製する。その際、大豆粉を20質量%以上含有する原料粉100質量部に対して、HEMFを1×10-5~3.5×10-3質量部配合する。原料組成物にHEMFを添加する方法は、特に限定されるものではなく、例えば水にHEMFを溶解した水溶液の状態で添加することができるが、醤油などのようにHEMFを含む調味料を添加してもよい。
【0031】
本実施形態の大豆含有麺類を製造する際は、本発明の効果を阻害しない範囲で、原料粉にグルテンを配合してもよい。その場合、原料粉にグルテン粉を配合してもよく、また、グルテン粉と共に又はグルテン粉に代えて小麦粉を配合し、グルテンの一部又は全部を小麦粉由来のグルテンとしてもよい。
【0032】
生地調製工程S1における生地の調製方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法や装置を適用することができる。また、原料の混練は、減圧下で行ってもよい。
【0033】
〔製麺工程S2〕
製麺工程S2では、生地調製工程S1で調製した生地を成形して麺類(生麺類)とする。製麺方法は、特に限定されるものではなく、公知の手法や装置を用いることができるが、生産性の観点から、生地を圧延して麺帯を形成し、該麺帯から麺線を切り出す方法が好適である。なお、生地の圧延は1段で行ってもよく、また、複数対のローラを用いて多段で行ってもよい。
【0034】
又は、圧延に代えて、押出機を用いて麺帯や麺線を形成してもよく、その場合、例えば、生地調製工程S1において真空押出機を用いて原料を混練して生地を調製し、引き続き、製麺工程S2において真空押出機から生地を押し出して麺帯を形成してもよい。
【0035】
〔乾燥工程S3〕
大豆含有麺類が半生麺類又は乾燥麺類である場合は、乾燥工程S3を行い、製麺工程S2で得た麺類(生麺類)を乾燥させる。麺類の乾燥方法は、特に限定されるものではなく、麺類の種類や調理方法に応じて、熱風乾燥法、低温乾燥法、高温高速気流乾燥法、フライ乾燥法及びフリーズドライ法などの公知の方法から適宜選択することができる。また、各麺類の水分量も、特に限定されるものではないが、一般には、生麺が28~33%程度、半生麺類が24%前後、乾麺類が14%以下である。
【0036】
〔その他の工程〕
本実施形態の大豆含有麺類の製造方法では、前述したS1~S3の各工程に加えて、熟成工程を行ってもよい。熟成工程の時期及び回数は、特に限定されるものではなく、麺帯形成後に行ってもよく、また、麺線形成後に麺塊の状態で行ってもよい。熟成の方法及び条件は、麺の種類に応じて適宜選択することができ、常圧下、減圧下又は加圧下のいずれで行ってもよい。
【0037】
以上詳述したように、本実施形態の大豆含有麺類は、原料組成物にHEMF又はHEMFを含む成分を添加することで、麺類中に特定量のHEMFを含有させているため、茹で調理などの加熱調理の際に発生する大豆に由来する豆臭を低減することができる。その結果、原料粉に大豆粉が20質量%以上含まれている場合でも、大豆を含まない従来の麺類と同様に豆臭を感じることなく加熱調理することができるため、大豆含有麺類に対するネガティブなイメージを払拭することができる。
【0038】
本実施形態の大豆含有麺類は、HEMFを外面に付着させるのではなく、麺類中に練りこんでいるため、麺類の種類や形態にかかわらず適用することができ、また、調理法や保存法にかかわらずその効果を維持することができ、更に、調理後の麺類の風味にも影響しない。
【0039】
なお、前述した豆臭低減効果は、鍋や電子レンジを用いて茹で調理される麺類で特に顕著に感じられるが、湯戻しや電子レンジで加熱調理される大豆含有麺類においても、加熱時に大豆由来の豆臭が発生する可能性のある場合は、麺類中にHEMFを含有させることで、同様に豆臭を低減する効果が得られる。
【0040】
また、前述した第1の実施形態では、大豆粉を用いた大豆含有麺類について説明したが、本発明は大豆粉を用いた麺類に限定されるものではなく、金時豆、うずら豆、大福豆、白花豆、紫花豆、とら豆、手亡及びレッドキドニーなどのインゲン豆、青えんどう、赤えんどう及び黄えんどうなどのエンドウ豆、ヒヨコ豆、レンズ豆などのヒラ豆といった大豆以外の豆類を用いた麺類についても、加熱により豆臭が発生する可能性のある場合は、同様に麺類中にHEMFを含有させることにより、豆臭を低減することが可能である。
【0041】
具体的には、原料粉中に豆類粉が20質量%以上含まれる豆類含有麺類について、原料粉100質量部に対して、HEMFを1×10-5~3.5×10-3質量部含有させるか、或いは、HEMFを麺類全質量の0.077~35ppm含有させることにより、茹で調理などの加熱調理の際に発生する豆臭を低減することができる。また、大豆粉以外の豆類粉を含む豆類含有麺類も、前述した大豆粉含有麺類の製造方法と同様の方法で製造することができる。
【0042】
(第2の実施形態)
次に、本実施形態の第2の実施形態に係る麺セットについて説明する。本実施形態の麺セットは、前述した第1の実施形態の大豆含有麺類と、調味液とを備える。本実施形態の麺セットに用いられる麺類は、前述した第1の実施形態の大豆含有麺類であればよく、その種類は特に限定されず、うどん、そば、中華麺、パスタ及びビーフンなどの各種麺類を用いることができる。また、調味液は、麺類を調味するものであればよく、めんつゆ、濃縮スープ、パスタソースなどが挙げられ、液体成分の他に具材を含んでいてもよい。
【0043】
また、大豆含有麺類の調理方法は、特に限定されるものではないが、HEMFの添加効果を顕著に感じられるのは、豆臭が発生しやすい茹で調理である。ここでいう「茹で調理」には、電子レンジを用いて茹でる調理方法も含む。ただし、本実施形態の麺セットにおける麺類の調理方法は、茹で調理に限定されるものではなく、湯戻しや電子レンジでの加熱調理でもよく、麺類の種類、麺厚及び麺セットの形態などに応じて適宜選択することができる。
【0044】
本実施形態の麺セットは、HEMFを特定量含有する(HEMFが特定量練りこまれている)大豆含有麺類を用いているため、茹で調理などの加熱調理の際に発生する大豆に由来する豆臭を低減することができる。なお、前述した第2の実施形態では、大豆含有麺類を用いた麺セットを例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、原料粉に含まれる豆類粉が大豆粉でなくても、HEMFを特定量含有する(HEMFが特定量練りこまれている)豆類含有麺類を用いた麺セットであれば、同様の効果が得られる。また、本実施形態における上記以外の構成及び効果は、前述した第1の実施形態と同様である。
【実施例
【0045】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。
【0046】
〔予備試験〕
先ず、以下に示す方法で大豆含有麺類を作製し、大豆粉含有量と大豆由来の豆臭のとの関係を調べた。
【0047】
<評価用試料の作製方法>
下記表1に示す組成で配合した原料組成物を手で1分間攪拌混合し、得られた生地を製麺ロールにて圧延を繰り返し、1.3mmの厚さになるよう調整して麺帯を形成した。その際、大豆粉には非加熱の全脂大豆粉を用い、小麦粉は乾燥状態でのたんぱく質含有量が12質量%の強力粉を用いた。そして、圧延成形した麺帯から麺線を切刃にて切り出し、恒温恒湿機により乾燥して乾燥麺(評価用試料)を得た。なお、乾燥後の麺(評価用試料)の質量は101gであった。
【0048】
<評価方法>
前述した方法で作製した各乾燥麺68gを、800ml~1Lのお湯で5~7分間茹でて、その際生じる豆臭の強さを、5名の専門パネル(訓練期間:1~5年)が評価した。具体的には、麺の茹で時間が5分に達したときに、専門パネルが鍋から30cm離れた位置で臭いを嗅ぎ、豆臭の強さを下記の5段階で官能評価した。その結果を下記表1に併せて示す。なお、下記表1に示す「豆臭の強さ」の数値は、各パネルの評価点を平均した値である。
【0049】
5点:豆臭を強く感じる(原料粉の大豆粉含有率が90質量%である麺を茹でたときと同程度の豆臭がする)。
4点:豆臭をやや強く感じる。
3点:豆臭を少し感じる。
2点:豆臭をわずかに感じる。
1点:豆臭は感じられない(原料粉が小麦粉100%であり、大豆粉を含まない麺を茹でたときと同程度の臭い)。
【0050】
【表1】
【0051】
上記表1に示すように、本予備試験において、大豆粉配合量が原料粉の20質量%以上の麺では、茹で調理において大豆由来の豆臭が感じられることが確認された。
【0052】
(第1実施例)
次に、本発明の第1実施例として、大豆粉含有量が50質量%、90質量%及び100%である原料粉にHEMF(濃度100ppmのHEMF水溶液)を添加し、豆臭低減効果を確認した。具体的には、下記表2~4に示す組成で配合した原料組成物を用い、前述した予備試験と同様の方法及び条件で作製した乾燥麺(評価用試料)を、予備試験と同様の方法及び条件で評価した。その結果を、下記表2~4に併せて示す。なお、下記表2~4には、比較のため、上記表1に示すHEMFを添加していない麺類の評価結果も示す。
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
【表4】
【0056】
上記表2~4に示すように、原料組成物にHEMFを添加し、麺にHEMFを練りこむことにより、茹で調理時に発生する豆臭が低減することが確認された。特に、原料粉100質量部に対してHEMFを1×10-5~3.5×10-3質量部の範囲で配合したNo.11~14,16~19,21~24,40,41の麺では、豆臭の低減効果が高かった。
【0057】
(第2実施例)
次に、本発明の第2実施例として、濃度100ppmのHEMF水溶液に代えて醤油(HEMF濃度50ppm)を添加して乾燥麺(評価用試料)を作製し、豆臭の低減効果を評価した。その際、乾燥麺の作製方法及び条件、評価の方法及び条件は、前述した第1実施例と同じにした。各評価用試料の組成及び評価結果を、下記表5に示す。
【0058】
【表5】
【0059】
【表6】
【0060】
上記表5,6に示すように、HEMFを醤油で添加した場合でも、茹で調理時に発生する豆臭を低減できることが確認された。特に、原料粉100質量部に対してHEMFが1×10-5~3.5×10-3質量部となるよう醤油を添加したNo.31~34,36~39の麺では、豆臭の低減効果が高かった。
【0061】
(第3実施例)
次に、本発明の第3実施例として、前述した第1実施例のNo.12の原料組成物を用いて生麺(No.42)と半生麺(No.43)を作製し、豆臭低減効果を確認した。その際、生麺は乾燥工程を行わず、半生麺は乾燥条件を変えて、それ以外の方法及び条件は前述した第1実施例と同じにして評価用試料を作製した。そして、各評価用試料(麺)を、前述した第1実施例と同様の方法及び条件で評価した。その結果を、下記表7に示す。
【0062】
【表7】
【0063】
上記表7に示すように、乾燥麺だけでなく、生麺及び半生麺であっても、HEMFを特定量添加することで、茹で調理時に発生する豆臭を低減できることが確認された。
【0064】
(第4実施例)
次に、本発明の第4実施例として、大豆粉に代えてレンズ豆粉を用い、HEMFの添加による豆臭低減効果を確認した。具体的には、下記表8に示す組成で配合した原料組成物を用い、前述した予備試験と同様の方法及び条件で作製した乾燥麺(評価用試料)を、予備試験と同様の方法で、下記の基準で評価した。
【0065】
5点:豆臭を強く感じる(原料粉のレンズ豆粉含有率が90質量%である麺を茹でたときと同程度の豆臭がする)。
4点:豆臭をやや強く感じる。
3点:豆臭を少し感じる。
2点:豆臭をわずかに感じる。
1点:豆臭は感じられない(原料粉が小麦粉100%であり、レンズ豆粉を含まない麺を茹でたときと同程度の臭い)。
【0066】
その結果を、下記表8に併せて示す。なお、下記表8には、比較のため、上記表1に示すレンズ豆粉を配合していないNo.1の麺の評価結果も示す。
【0067】
【表8】
【0068】
上記表8に示すように、豆類粉としてレンズ豆粉を配合した原料組成物にHEMFを添加し、麺にHEMFを練りこんだNo.46の試料(麺)は、HEMFを添加していないNo.45の試料(麺)に比べて、茹で調理時に発生する豆臭が低減していた。
【0069】
(第5実施例)
次に、本発明の第5実施例として、大豆粉に代えて緑豆粉を用い、HEMFの添加による豆臭低減効果を確認した。具体的には、下記表9に示す組成で配合した原料組成物を用い、前述した予備試験と同様の方法及び条件で作製した乾燥麺(評価用試料)を、予備試験と同様の方法により、下記の基準で評価した。
【0070】
5点:豆臭を強く感じる(原料粉の緑豆粉含有率が90質量%である麺を茹でたときと同程度の豆臭がする)。
4点:豆臭をやや強く感じる。
3点:豆臭を少し感じる。
2点:豆臭をわずかに感じる。
1点:豆臭は感じられない(原料粉が小麦粉100%であり、緑豆粉を含まない麺を茹でたときと同程度の臭い)。
【0071】
その結果を、下記表9に併せて示す。なお、下記表9には、比較のため、上記表1に示すレンズ豆粉を配合していないNo.1の麺の評価結果も示す。
【0072】
【表9】
【0073】
上記表9に示すように、豆類粉として緑豆粉を配合した原料組成物にHEMFを添加し、麺にHEMFを練りこんだNo.49の試料(麺)は、HEMFを添加していないNo.49の試料(麺)に比べて、茹で調理時に発生する豆臭が低減していた。
【0074】
以上の結果から、本発明によれば、茹で調理などの加熱調理する際に、原料粉に含まれる豆類に由来する臭いが発生しにくい豆類含有麺類が得られることが確認された。
【0075】
なお、本発明は、以下の構成を採ることもできる。
〔1〕
原料粉中に豆類粉が20質量%以上含まれる豆類含有麺類であって、
原料粉100質量部に対して、HEMFを1×10-5~3.5×10-3質量部含有する豆類含有麺類。
〔2〕
原料粉中に豆類粉が20質量%以上含まれる豆類含有麺類であって、
HEMFを麺類全質量の0.077~35ppm含有する豆類含有麺類。
〔3〕
乾燥麺類であり、
HEMF含有量が麺類全質量の0.1~35ppmである〔2〕に記載の豆類含有麺類。
〔4〕
前記豆類粉が、大豆粉、レンズ豆粉及び緑豆粉から選択される少なくとも1種である〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の豆類含有麺類。
〔5〕
グルテンを含有する〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の豆類含有麺類。
〔6〕
更に、小麦粉を含有し、前記グルテンの一部又は全部が前記小麦粉由来のグルテンである〔5〕に記載の豆類含有麺類。
〔7〕
〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の豆類含有麺類と、調味液とを備える麺セット。
〔8〕
豆類粉を20質量%以上含有する原料粉100質量部に対して、HEMFを1×10-5~3.5×10-3質量部配合した原料組成物を用いて生地を調製する工程と、
該生地を成形して麺類を得る製麺工程と、
を有する豆類含有麺類の製造方法。
〔9〕
更に、前記麺類を乾燥させる乾燥工程を有する〔8〕に記載の豆類含有麺類の製造方法。
〔10〕
前記豆類粉が、大豆粉、レンズ豆粉及び緑豆粉から選択される少なくとも1種である〔8〕又は〔9〕に記載の豆類含有麺類。
〔11〕
前記原料粉はグルテンを含有する〔8〕~〔10〕のいずれかに記載の豆類含有麺類の製造方法。
〔12〕
前記原料粉は、更に、小麦粉を含有し、前記グルテンの一部又は全部が前記小麦粉由来のグルテンである〔11〕に記載の豆類含有麺類の製造方法。
【要約】
【課題】加熱調理する際に、原料粉に含まれる大豆などの豆類に由来する豆臭が発生しにくい豆類含有麺類、麺セット及び豆類含有麺類の製造方法を提供する。
【解決手段】大豆粉などの豆類粉を20質量%以上含有する原料粉100質量部に対して、HEMFを1×10-5~3.5×10-3質量部配合した原料組成物を用いて生地を調製する工程S1と、該生地を成形して麺類を得る製麺工程S2とを行い、HEMFを麺類全質量の0.077~35ppm含有する豆類含有麺類を製造する。
【選択図】図1
図1