(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】蒸し野菜調理用調味料
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20241203BHJP
【FI】
A23L27/00 D
(21)【出願番号】P 2020159595
(22)【出願日】2020-09-24
【審査請求日】2023-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川口 滋歩未
(72)【発明者】
【氏名】町田 彩香
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-073243(JP,A)
【文献】国際公開第2012/001770(WO,A1)
【文献】特開2020-099204(JP,A)
【文献】特開2015-104330(JP,A)
【文献】特開2018-171036(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
野菜を蒸して調理するための蒸し野菜調理用調味料であって、
増粘剤の含有量が0.01~5%であり、
水相中食塩濃度が
15~20%であり、
食用油脂の含有量が20~70%であ
り、
粘度が100~5000mPa・sであり、
前記増粘剤としてジェランガム及びキサンタンガムを含有するものであり、
ジェランガム1部に対するキサンタンガムの割合が0.2~1.0部であり、
調理器具にあらかじめ前記調味料を広げた上に、具材を並べて用いるものである、
蒸し野菜調理用調味料。
【請求項2】
アルコールを0.5~5%含有するものである、
請求項1に記載の蒸し野菜調理用調味料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜と一緒に蒸し調理するだけで、野菜の旨みを逃さず、野菜本来の香りや美味しさを余すことなく感じることができる蒸し野菜調理用調味料に関する。
【背景技術】
【0002】
生野菜を加熱調理した蒸し野菜は、ヘルシーなイメージを有することから、近年人気のメニューであり、種々の喫食方法が提案されている。特に、素材の持つ水分のみを使って蒸しながら煮る調理法(例えばエチュベ)は、素材の水分を使って蒸し煮するため、素材本来の味を存分に楽しむことができるとして注目されている。また、電子レンジでの加熱調理により製することが可能な野菜メニューは、野菜を多く摂取できること、調理が簡単なことから、手軽に調理できるメニューの一つとして選択されることが多い(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、調理法に関わらず、蒸し野菜を調理すると、少なからず野菜からでる水分とともに野菜の旨みが流れ出てしまうため、野菜本来の香りや美味しさを余すことなく感じることが難しいという問題があった。また、特にフライパン等で蒸し野菜料理を調理する場合は、野菜の種類によっては、焦げないように調理途中で混ぜたり、蓋を開けて水分を飛ばす必要があり、自宅で手軽に調理できるという点においてもさらなる改善が求められていた。
そこで本発明の目的は、調理途中で混ぜたり、水分を飛ばす等の余計な手間をかけることなく、野菜と一緒にフライパン等に投入し、蓋をして蒸し調理するだけで、野菜の旨みを逃さず、野菜本来の香りや美味しさを余すことなく感じられる蒸し野菜料理を調理できる、蒸し野菜調理用の調味料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた。その結果、調味料に配合する増粘剤、水相中の塩分含量、食用油脂の含有量を調整することにより、意外にも、調理途中で混ぜたり、水分を飛ばす等の余計な手間をかけることなく、野菜と一緒に蒸し調理するだけで、野菜の旨みを逃さず、野菜本来の香りや美味しさを余すことなく感じられる蒸し野菜料理が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1)野菜を蒸して調理するための蒸し野菜調理用調味料であって、
増粘剤の含有量が0.01~5%であり、
水相中食塩濃度が5~25%であり、
食用油脂の含有量が20~70%である、
蒸し野菜調理用調味料、
(2)前記増粘剤としてジェランガムを含有するものである、(1)記載の蒸し野菜調理用調味料、
(3)前記増粘剤としてさらにジェランガム以外の増粘剤を含有するものである、(2)に記載の蒸し野菜調理用調味料、
(4)前記ジェランガム以外の増粘剤がキサンタンガムである、(3)に記載の蒸し野菜調理用調味料、
(5)アルコールを0.5~5%含有するものである、(1)乃至(4)に記載の蒸し野菜調理用調味料、
(6)粘度が100~10000mPa・sである、(1)乃至(5)に記載の蒸し野菜調理用調味料、
である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、調理途中で混ぜたり、水分を飛ばす等の余計な手間をかけることなく、野菜と一緒に蒸し調理するだけで、野菜の旨みを逃さず、野菜本来の香りや美味しさを余すことなく感じることができる蒸し野菜調理用調味料を提供することができる。その結果、野菜摂取量の増加により、国民の健康増進が期待される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を、「部」
は「質量部」を意味する。
【0009】
<蒸し野菜調理用調味料>
本発明の蒸し野菜調理用調味料は、増粘剤の含有量が0.01~5%であり、水相中食塩濃度が5~25%であり、食用油脂の含有量が20~70%である液状調味料であり、野菜を蒸し調理する際に、野菜と一緒にフライパンや電子レンジ等で蒸し調理することで、野菜の旨みを逃さず、野菜本来の香りや美味しさを余すことなく感じることができる。
特に本発明の蒸し野菜調理用調味料は、フランパンや鍋を用いた蒸し煮調理に好適に用いることができる。
【0010】
<野菜>
本発明の蒸し野菜調理用調味料は、種々の野菜の蒸し調理に用いることができる。例えば、葉菜類である白菜、キャベツ、小松菜、チンゲン菜、レタス、ホウレンソウ、シュンギク、バジル、水菜、ツルムラサキ等、花菜類であるブロッコリー、カリフラワー、菜の花、つくし等、根菜類であるジャガイモ、サツマイモ等の芋類、ダイコン、人参、カブ等、果菜類であるトマト、カボチャ、ナス、ズッキーニ、ピーマン等が挙げられる。中でも水分の多い葉菜類、花菜類の野菜は、野菜から旨みが流出しやすいため、本発明の効果が得られやすく好ましい。
【0011】
<野菜以外の食材>
また、本発明の蒸し野菜調理用調味料は、上記野菜の他、その他の食材を適宜組み合わせて蒸し調理に用いることができる。例えば、鮭、スズキ、イワシ、ブリ、サバ、タコ、イカ、アサリ等の魚介類、鶏肉、豚肉、牛肉、羊肉等の肉類、椎茸、シメジ、エノキダケ、エリンギ、マッシュルーム等のキノコ類などが挙げられる。
【0012】
<水相中食塩濃度>
本発明の蒸し野菜調理用調味料は、水相中の食塩濃度が5~25%である。食塩濃度が前記範囲より低い場合には、塩味が弱く、野菜の青臭さを感じやすくなることや、野菜からでる水分が少なくなり、具材が焦げやすくなる。一方、食塩濃度が前記範囲を超える場合には、塩味が強すぎてしまい、野菜本来の香りや美味しさが感じられなくなる。また、野菜本来の香りや美味しさが感じられる蒸し野菜料理が得られやすいことから、水相中の食塩濃度は、10~20%であると好ましく、13~17%であるとより好ましい。なお、本発明において水相中食塩濃度とは、脂質を除いた全原料に対する食塩の含有割合を指す。
【0013】
<増粘剤>
本発明の蒸し野菜調理用調味料は、増粘剤を含有するものである。増粘剤を含有することにより、加熱により野菜から流出する水分を野菜の周りに保持することができ、野菜本来の香りや旨みを逃さない。増粘剤の種類は特に限定しないが、例えばキサンタンガム、グアガム、ジェランガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、タラガム、アラビアガム、タマリンドガム、サイリュームシードガム等のガム質、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、コンニャクマンナン等の多糖類、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉、甘藷澱粉、小麦澱粉、及び米澱粉等の澱粉類、それらの澱粉類に、架橋処理、エステル化処理、エーテル化処理、酸化処理等の化学的処理を加工澱粉等したが挙げられる。特に、本発明の効果を奏しやすいことから、ジェランガムを含有することが好ましく、ジェランガムとジェランガム以外の増粘剤を併用することがより好ましい。
【0014】
本発明の蒸し野菜調理用調味料に含まれる増粘剤の含有量は、0.01~5%である。増粘剤の含有量が前記範囲より少ない場合は、野菜から出る水分を保持できず、野菜本来の香りや旨みが感じられなくなる。また、前記範囲より多い場合は、粘度が高くなりすぎて、焦げやすくなることや、蒸し料理の食感を損ないやすくなるため好ましくない。また、野菜本来の香りや美味しさが感じられる蒸し野菜料理が得られやすいことから、前記増粘剤の含有量は0.1~3%であると好ましく、0.1~1%であるとより好ましい。
また、前記増粘剤としてジェランガムとジェランガム以外の増粘剤を併用した場合、ジェランガムに対するジェランガム以外の増粘剤の割合は、ジェランガム1部に対して0.2~1部であると好ましく、0.3~0.5部であるとより好ましい。ジェランガムに対するキサンタンガムの割合が前記範囲の場合、野菜本来の香りや美味しさが感じられる蒸し野菜料理が得られやすくなる。
【0015】
<食用油脂>
本発明の蒸し野菜調理用調味料は、食用油脂を含有するものである。食用油脂を含有することにより、野菜等が焦げにくくなるともに、野菜からの過度な水分の流出を抑制することができ、野菜本来の香りや旨みを保持することができる。食用油脂の種類は特に限定しないが、例えば菜種油、大豆油、ごま油、オリーブ油、米油、綿実油、パーム油、コーン油等を用いることができる。
【0016】
本発明の蒸し野菜調理用調味料に含まれる食用油脂の含有量は、20~70%である。食用油脂の含有量が前記範囲より少ない場合は、塩味を強く感じやすくなり、野菜本来の香りや旨みを感じにくくなる。また、食用油脂の含有量が前記範囲より多い場合は、野菜が油っぽくなり、野菜本来の香りや美味しさが感じられなくなる。野菜本来の香りや美味しさを感じやすいことから、前記食用油脂の含有量は、30~60%であると好ましく、40~55%であるとより好ましい。
【0017】
<粘度>
本発明の蒸し野菜調理用調味料は、粘度を100~10000mPa・sとすることができ、300~5000mPa・sとすることがより好ましい。粘度が前記範囲内であることにより、蒸し野菜調理用調味料が焦げにくいことや、野菜に絡みやすく、野菜の旨みを逃しにくなり、野菜本来の香りや美味しさを感じやすい。なお、前記粘度は、BH型粘度計を用い、回転数10rpmの条件でローターNo.2を使用し、粘度が1200mPa・s未満の時はローターNo.1、3200mPa・s以上の時はローターNo.3を使用し、測定開始後ローターが3回転した時の示度により求めた値である。
【0018】
<水分活性>
本発明の蒸し野菜調理用調味料は、水分活性を0.80~0.90とすることができる。水分活性が前記範囲内であることによって、保存性を高めることができるとともに、野菜から適度な水分がでることで、蒸し野菜調理がしやすくなる。
【0019】
<アルコール>
本発明の蒸し野菜調理用調味料は、アルコールを0.5~5%含有することでき、1~3%含有するとより好ましい。アルコール含有量が前記範囲内であることによって、野菜の旨味が引き立ち、野菜本来の香りや美味しさを感じやすくなる。
【0020】
<その他の原料>
本発明の蒸し野菜調理用調味料は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の原料を適宜配合することができる。例えば、醤油、砂糖、食塩、食酢、核酸系旨味調味料、柑橘果汁、ケチャップ等の各種調味料、牛乳、脱脂粉乳、全脂粉乳、乳清蛋白等の乳類、卵黄、卵白、全卵、ホスフォリパーゼA処理卵黄などの卵類、各種スパイスオイル、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、リゾレシチン、オクテニルコハク酸化澱粉などの乳化剤、クエン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸等の有機酸又はその塩、アスコルビン酸、ビタミンE等の酸化防止剤、各種ペプチド、香辛料、香料、色素などが挙げられる食酢、かんきつ類果汁、食塩、砂糖類、香辛料等を配合することができる。
【0021】
<野菜に対する蒸し野菜調理用調味料の割合>
本発明の蒸し野菜調理用調味料は、野菜とともに蒸し調理に用いるものであるが、野菜100部に対して、本発明の蒸し野菜調理用調味料を5~50部の割合で用いることが好ましく、10~50部の割合で用いることがより好ましい。前記範囲で用いることにより、野菜の旨みを逃さず、野菜本来の香りや美味しさを感じやすくなる。
【0022】
<蒸し調理の方法>
本発明の蒸し野菜調理用調味料を用いて蒸し調理する方法は特に限定していないが、例えば、フライパンや鍋にあらかじめ本発明の蒸し野菜調理用調味料を広げた上に、野菜等の具材を敷き詰め、蓋をした後、火にかけて蒸し調理する方法、皿に本発明の蒸し野菜調理用調味料を広げた上に野菜等の具材を敷き詰め、ラップをした後、電子レンジで加熱する方法、本発明の蒸し野菜調理用調味料を野菜等の具材と混合した後、前述の様にフライパンや電子レンジで蒸し調理する方法等が挙げられる。中でも野菜が焦げ付きにくく、野菜本来の香りや美味しさを感じられる蒸し野菜が得られやすいことから、フライパン等の調理器具にあらかじめ本発明の蒸し野菜調理用調味料を広げた上に、野菜等の具材を敷き詰め、蓋をした後、火にかけて蒸し調理する方法が好ましい。
【0023】
以下、本発明について、実施例、比較例及び試験例に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例】
【0024】
[実施例1]
<蒸し野菜調理用調味料の調製>
撹拌タンクに下記原料を投入して撹拌することにより、実施例1の蒸し野菜調理用調味料を調製した。なお、実施例1の蒸し野菜調理用調味料は、水相中の食塩含有量が15%であった。
【0025】
(調味料配合)
食用油脂 50%
食塩 8%
その他調味料 3%
酒精(アルコール95%) 2%
キサンタンガム 0.1%
ジェランガム 0.1%
清水 残余
――――――――――――――――――――
計 100%
【0026】
[試験例1]
増粘剤(キサンタンガム、ジェランガム)の含有量を表1に記載の割合に変更した以外は、実施例1と同様の方法で実施例2~5、比較例1の蒸し野菜調理用調味料を調製した。実施例1~6の蒸し野菜調理用調味料の粘度はいずれも100~10000mPa・sの範囲内であった。
次いで、実施例1~5、比較例1の蒸し野菜調理用調味料30gをフライパンに敷いた後、前記調味料の上に鶏肉250g、キャベツ200g、ミニトマト100gを並べて、蓋をして10分加熱し、蒸し煮調理を行った。加熱後、調理した蒸し野菜を試食し、下記評価基準で評価を行った。結果は表1に示した
【0027】
<評価基準>
◎:野菜本来の香り、美味しさが余すことなく感じられる。
○:野菜本来の香り、美味しさが感じられる。
×:野菜本来の香り、美味しさが感じられない。
【0028】
【0029】
表1の結果から、増粘剤を0.01~5%含有することにより、野菜本来の香り、美味しさが感じられることが分かった。特に、ジェランガムとジェランガム以外の増粘剤を併用することにより、野菜本来の香り、美味しさが余すことなく感じられることが分かった。
【0030】
[試験例2]
清水を食塩に置き換え、水相中食塩濃度を表2に記載の割合に変更した以外は、実施例1と同様の方法で実施例6~8、比較例2の蒸し野菜調理用調味料を調製した。実施例6~8の蒸し野菜調理用調味料の粘度はいずれも100~10000mPa・sの範囲内であった。調製した蒸し野菜調理用調味料を用い、試験例1と同様の方法で評価を行った。結果は表2に示した。
【0031】
【0032】
表2の結果から水相中の食塩濃度が5~25%であることにより、野菜本来の香り、美味しさが感じられることが分かった。
【0033】
[試験例3]
食用油脂を清水に置き換え、表3に記載の割合に変更した以外は、実施例1と同様の方法で実施例9及び10、比較例3の蒸し野菜調理用調味料を調製した。水相中食塩濃度はいずれも15%となるように食塩の配合量を調整した。また、実施例9及び10の蒸し野菜調理用調味料の粘度はいずれも100~10000mPa・sの範囲内であった。調製した蒸し野菜調理用調味料を用い、試験例1と同様の方法で評価を行った。結果は表3に示した。
【0034】
【0035】
表3の結果から食用油脂の含有量が20~70%であることにより、野菜本来の香り、美味しさが感じられることが分かった。比較例3の蒸し野菜調理用調味料は、野菜の食感や見た目の色合いが悪く、野菜本来の香りや美味しさが感じられなかった。