(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】ダイシング装置及びダイシング方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20241203BHJP
B24B 49/12 20060101ALI20241203BHJP
B24B 27/06 20060101ALI20241203BHJP
B24B 47/22 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
H01L21/78 F
B24B49/12
B24B27/06 M
B24B47/22
(21)【出願番号】P 2023195030
(22)【出願日】2023-11-16
(62)【分割の表示】P 2019026610の分割
【原出願日】2019-02-18
【審査請求日】2023-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【氏名又は名称】松浦 憲政
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【氏名又は名称】松村 潔
(72)【発明者】
【氏名】對馬 健夫
【審査官】湯川 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-142022(JP,A)
【文献】特開2016-182651(JP,A)
【文献】特開2015-174205(JP,A)
【文献】特開2005-203540(JP,A)
【文献】米国特許第07495759(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
B24B 49/12
B24B 27/06
B24B 47/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークテーブルにダイシングテープを介して加工対象のワークを保持した状態で、ブレードと前記ワークテーブルとを相対移動させてダイシング加工を行うダイシング装置であって、
前記ワークテーブルに保持された校正用ワークの表面の形状の測定結果から、前記ワークテーブルの表面の形状を示す校正用マップを作成するマップ作成部と、
前記ブレードを用いて前記加工対象のワークの表面より反射率の高いブレード判定用ワークの表面に形成した溝を撮像することにより輪郭の明確な前記溝の平面画像を取得し、前記平面画像から前記ブレードの先端形状を判定するブレード形状判定部と、
前記校正用マップ、前記ブレードの先端形状、並びに前記ブレードの先端形状及びブレードの高さの補正量の関係を示すテーブルに基づき、前記加工対象のワークを加工するときの前記ブレードの高さを制御する制御部と、
を備えるダイシング装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記ブレードの先端形状から前記ブレードの磨耗の状況を判定し、前記磨耗が進行しているほど、前記ブレードの高さを低くする、
請求項1記載のダイシング装置。
【請求項3】
前記ワークが貼り付けられていない前記ダイシングテープの表面領域に形成された切削痕情報を検出する切削痕検出部をさらに備え、
前記制御部は、前記切削痕検出部が検出した前記切削痕情報に基づき、前記ダイシングテープへの切り込み深さが一定となるように前記ブレードの高さを制御する、
請求項1又は2記載のダイシング装置。
【請求項4】
前記切削痕検出部は、前記切削痕情報に基づいて前記ダイシングテープの表面領域における切削痕形成率を算出し、
前記制御部は、前記切削痕検出部が算出した前記切削痕形成率に基づいて、前記切削痕形成率が一定の範囲内となるように前記ブレードの高さを制御する、
請求項3に記載のダイシング装置。
【請求項5】
ワークテーブルにダイシングテープを介して加工対象のワークを保持した状態で、ブレードと前記ワークテーブルとを相対移動させてダイシング加工を行うダイシング方法であって、
前記ワークテーブルに保持された校正用ワークの表面の形状の測定結果から、前記ワークテーブルの表面の形状を示す校正用マップを作成する校正用マップ作成工程と、
前記ブレードを用いて前記加工対象のワークの表面より反射率の高いブレード判定用ワークの表面に形成した溝を撮像することにより輪郭の明確な前記溝の平面画像を取得し、前記平面画像から前記ブレードの先端形状を算出するブレード形状判定工程と、
前記校正用マップ、前記ブレードの先端形状、並びに前記ブレードの先端形状及びブレードの高さの補正量の関係を示すテーブルに基づき、前記加工対象のワークを加工するときの前記ブレードの高さを制御する制御工程と、
を備えるダイシング方法。
【請求項6】
前記校正用ワークは均一な厚みを有する、
請求項5記載のダイシング方法。
【請求項7】
前記ブレード判定用ワークは前記表面が鏡面仕上げされたもの、又はガラスプレートである、
請求項5又は6記載のダイシング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はダイシング装置及びダイシング方法に係り、特に、半導体装置や電子部品が形成されたウェーハ等のワークを個々のチップに分割するダイシング装置及びダイシング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置や電子部品が形成されたウェーハ等のワークを個々のチップに分割するダイシング装置においては、スピンドルによって高速に回転されるブレードと、ワークを吸着保持するワークテーブルと、ワークテーブルとブレードとの相対的位置を変化させるX、Y、Z、θ駆動部とを備えている。このダイシング装置では、各駆動部によりブレードとワークとを相対的に移動させながら、ブレードによってワークを切り込むことによりダイシング加工(切削加工)する。
【0003】
ダイシング装置においては、ブレードの切り込み量を設定値と一致させることは重要な要素であり、ブレードの切り込み量を設定値と一致させるにはワークへの切り込み方向であるZ軸の位置決めを繰返し高精度に行い、かつブレードの摩耗を検知して補正する必要がある。
【0004】
例えば、特許文献1に記載されるように、従来はZ軸の位置決めにおいて、先ずブレードをワークテーブル上面に接触させて電気的導通を検出し、このときのブレードの中心位置を基準位置としてZ軸のコントロールを行っている。このブレードをワークテーブル上面に接触させて電気的導通を検出する動作をカッターセットという。また、ブレードの磨耗補正は、設定されたライン数ワークを加工する度にブレードとワークテーブルとを接触させ、上記基準位置を補正している。しかしながら、この方法は、ブレードをワークテーブルに接触させるので、ブレードにダメージを与えるおそれがある。
【0005】
この接触式のカッターセットの問題を解決するために、例えば、特許文献2には、光学式カッターセット装置が提案されている。この光学式カッターセット装置は、投光手段と受光手段との間で光軸に直交するZ軸方向にブレードを移動させて、ブレードで徐々に検出光を遮光し、予め設定した受光量に達したときのブレード中心位置を基準としてブレードを位置決めするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-211350号公報
【文献】特開2003-234309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ブレードダイシング方式には、ハーフカット、セミフルカット、フルカットの3つの方式がある。近年では、ワークの大径化に伴い、完全にワークを切断するフルカット方式が主流となっている。フルカット方式では、ワークをダイシングテープに貼り付けた状態でワークテーブルに載置し、ブレードとワークテーブルとを相対的に移動させながら、ブレードによりワークの表面側からダイシングテープまで切り込むことにより、ワークを個々のチップに分割する。
【0008】
しかしながら、上述した従来の技術では、ワークのフルカットを行うダイシングに十分に対応できていないという問題点がある。
【0009】
すなわち、フルカット方式の場合には、ブレードがワークを十分に貫通し且つワークテーブルには達しないようにブレードの切り込み深さ(切り込み量)を制御する必要がある。
【0010】
例えば、
図18に示すように、ワークWのフルカットが行われる場合、ブレード90の高さ(ワークテーブル表面からブレード90の中心位置までの高さ)Hは、ワークWへの切り込み深さDがワークWの厚さMよりも大きくなるように位置付けられる。そして、高速回転されたブレード90に対してワークテーブル(不図示)がX方向に切削送りされることで、ワークWには1ライン分の切削溝92が形成される。
【0011】
しかしながら、ワークテーブルの表面のうねりがある場合及びダイシングテープTの厚さにばらつきが存在する場合、例えば、
図19に示すように、ダイシングテープ厚さK1が
図18に示したダイシングテープ厚さKに比べて薄い部分では、ワークWへの切り込み深さD1が
図18に示した切り込み深さDよりも小さくなる。すなわち、ワークWに対してブレード90が浅切りとなる。この場合、ブレード90がワークWに十分に切り込んでおらず、切削不良が生じる要因となる。
【0012】
一方、
図20に示すように、ダイシングテープ厚さK2が
図18に示したダイシングテープ厚さKに比べて厚い部分では、ワークWへの切り込み深さD2が
図18に示した切り込み深さDよりも大きくなる。すなわち、ワークWに対してブレード90が深切りとなる。この場合、ブレード90がダイシングテープTに必要以上に切り込むことになる。そのため、ダイシングテープ表面の粘着剤などによりブレード90が目詰まりを起こしやすく、ブレード90の切れ味が悪くなる要因となる。あるいは、ダイシング工程の後工程で実施されているエクスパンド工程でテープ破断等の要因となる。
【0013】
このように、ブレードが所定の高さに設定された場合であっても、ダイシングテープに厚さばらつきが存在すると、ブレードがダイシングテープに切り込む深さにばらつきが生じてしまうため、加工品質が安定しない問題が生じる可能性がある。なお、ダイシングテープの厚さばらつきに限らず、ワークテーブルの表面のうねりやブレードの摩耗などによっても同様の問題が発生する。
【0014】
特に近年においては、1ウェーハ当たりのチップ数の増加に伴い、ブレードのブレード幅が薄くなる傾向にある。ブレード幅が薄くなると、それに伴ってブレードの砥粒も少なくなるので、ダイシングテープ表面の粘着剤などによりブレードが目詰まりを起こしやすく、上述した問題はより顕著なものとなる。
【0015】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、ワークテーブルの表面のうねり及びダイシングテープの厚さばらつきなどの影響を受けることなく、加工品質の安定化を図ることができるダイシング装置及びダイシング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、以下の発明を提供する。
【0017】
本発明の第1の態様に係るダイシング装置は、ワークテーブルにダイシングテープを介して加工対象のワークを保持した状態で、スピンドルにより回転するブレードとワークテーブルとを相対移動させてダイシング加工を行うダイシング装置であって、ワークテーブルに保持された校正用ワークの表面の形状の測定結果から、ワークテーブルの表面の形状を示す校正用マップを作成するマップ作成部と、ブレードを用いてブレード判定用ワークの表面に形成した溝の画像を取得し、画像からブレードの先端形状を判定するブレード形状判定部と、校正用マップ、及びブレードの先端形状に基づき、加工対象のワークを加工するときのブレードの高さを制御する制御部とを備える。
【0018】
本発明の第2の態様に係るダイシング装置は、第1の態様において、制御部は、ブレードの先端形状からブレードの磨耗の状況を判定し、磨耗が進行しているほど、ブレードの高さを低くする。
【0019】
本発明の第3の態様に係るダイシング装置は、第1又は第2の態様において、ワークが貼り付けられていないダイシングテープの表面領域に形成された切削痕情報を検出する切削痕検出部をさらに備え、制御部は、切削痕検出部が検出した切削痕情報に基づき、ダイシングテープへの切り込み深さが一定となるようにブレードの高さを制御する。
【0020】
本発明の第4の態様に係るダイシング装置は、第3の態様において、切削痕検出部は、切削痕情報に基づいてダイシングテープの表面領域における切削痕形成率を算出し、制御部は、切削痕検出部が算出した切削痕形成率に基づいて、切削痕形成率が一定の範囲内となるようにブレードの高さを制御する。
【0021】
本発明の第5の態様に係るダイシング方法は、ワークテーブルにダイシングテープを介して加工対象のワークを保持した状態で、スピンドルにより回転するブレードとワークテーブルとを相対移動させてダイシング加工を行うダイシング方法であって、ワークテーブルに保持された校正用ワークの表面の形状の測定結果から、ワークテーブルの表面の形状を示す校正用マップを作成する校正用マップ作成工程と、ブレードを用いてブレード判定用ワークの表面に形成した溝の画像を取得し、画像からブレードの先端形状を判定するブレード形状判定工程と、校正用マップ、及びブレードの先端形状に基づき、加工対象のワークを加工するときのブレードの高さを制御する制御工程とを備える。
【0022】
本発明の第6の態様に係るダイシング方法は、第5の態様において、校正用ワークは均一な厚みを有する。
【0023】
本発明の第7の態様に係るダイシング方法は、第5又は第6の態様において、ブレード判定用ワークは表面が鏡面仕上げされたもの、又はガラスプレートである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ワークテーブルの表面のうねり及びダイシングテープの厚さばらつきなどの影響を受けることなく、加工品質の安定化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本実施形態に係るダイシング装置の構成を示した概略図
【
図5】ブレードの先端形状の判定結果ごとのブレードの高さの補正量の例を示すテーブル
【
図6】ワークに対してダイシング加工が行われる様子を示した概略図
【
図7】撮像装置がダイシングテープ領域を撮像する様子を示した概略図
【
図8】ラインセンサカメラがダイシングテープ領域を撮像する様子を示した概略図
【
図10】本実施形態における具体的な動作例を示した図
【
図11】ブレード18の先端部(-Z側端部)の軌跡を示す図
【
図12】ブレード高さ補正動作の流れを示すフローチャート
【
図13】校正用マップ作成工程を示すフローチャート
【
図14】ブレード形状判定工程を示すフローチャート
【
図16】他の実施形態に係るダイシング装置の構成を示した概略図
【
図17】切削痕検出部で生成される高さグラフの一例を示した図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態に係るダイシング装置及びダイシング方法について説明する。
【0027】
[ダイシング装置10の構成]
図1は、本実施形態に係るダイシング装置10の構成を示した概略図である。
【0028】
図1に示すように、ダイシング装置10は、ワークテーブル12と、サブテーブル13と、θテーブル14と、Xテーブル16と、ブレード18と、スピンドル20と、Yテーブル(不図示)と、Zテーブル(不図示)と、撮像装置22と、変位センサー25と、制御装置50とを備えている。
【0029】
本実施形態では、ダイシング加工の前に、ワークテーブル12の表面のうねりが反映された校正用マップを作成する。また、ダイシング加工の前に、ブレード18の先端形状の判定を行う。そして、ダイシング加工を行うときには、校正用マップ、ブレード18の先端形状の判定結果及び後述の切削痕形成率に基づいて、ダイシングテープTへの切り込み深さが一定となるようにブレード18の高さを制御する。
【0030】
Xテーブル16は、図示しないXベースの上面に設けられている。Xテーブル16は、モータ及びボールねじ等を含むX駆動部(不図示)によりX方向に移動可能に構成される。Xテーブル16にはθテーブル14が載置され、θテーブル14にはワークテーブル12が取り付けられている。θテーブル14は、モータ等を含む回転駆動部(不図示)によりθ方向(Z軸を中心とする回転方向)に回転可能に構成される。
【0031】
Yテーブルは、図示しないYベースの側面に設けられている。Yテーブルは、モータ及びボールねじ等を含むY駆動部(不図示)によりY方向に移動可能に構成される。Yテーブルには、Zテーブル(不図示)が取り付けられている。Zテーブルは、モータ及びボールねじ等を含むZ駆動部(不図示)によりZ方向に移動可能に構成される。Zテーブルには、先端にブレード18が取り付けられた高周波モータ内蔵型のスピンドル20が固定されている。
【0032】
かかる構成により、ブレード18は、Y方向にインデックス送りされるとともにZ方向に切り込み送りされる。また、ワークテーブル12は、θ方向に回転されるとともにX方向に切削送りされる。
【0033】
スピンドル20は、例えば30,000rpm~60,000rpmで高速回転される。
【0034】
ブレード18は、薄い円盤状に構成された切削刃である。ブレード18としては、ダイヤモンド砥粒やCBN(Cubic form of Boron Nitride)砥粒をニッケルで電着した電着ブレードや、樹脂で結合したレジンブレード等が用いられる。また、ブレード18の寸法は、加工内容によって種々選択されるが、通常の半導体ウェーハをワークWとしてダイシングする場合は直径50mm、厚さ30μm前後のものが用いられる。
【0035】
校正用マップの作成時には、ワークテーブル12は、校正用ワークを吸着保持する。校正用ワークとしては、均一な厚みを有するワーク(例えば、シリコンウェハ)であって、平面形状が加工対象のワークWと略同一のもの又は加工対象のワークWよりも大きいものを用いることが好ましい。なお、校正用ワークは、加工対象のワークWのダイシング加工に用いるものと同じダイシングテープTに貼着された状態でワークテーブル12の表面に吸着保持されるようにしてもよい。
【0036】
変位センサー25は、校正用ワークをワークテーブル12に吸着保持した状態で、校正用ワークの表面の各位置の形状(凹凸)を測定する。変位センサー25としては、例えば、レーザー変位センサー、光学式又は接触式の変位センサーもしくはTOF(Time of Flight)カメラ等を用いることができる。変位センサー25は、ワークテーブル12に対して相対的に移動可能となっている。なお、変位センサー25は、Yテーブルにスピンドル20とともに取り付けられていてもよいし、変位センサー25をXYZ方向に移動させるための駆動機構を別途備えていてもよい。
【0037】
変位センサー25により測定された校正用ワークの表面の形状のデータは、制御装置50のマップ作成部58に入力される。マップ作成部58は、例えば、ワークテーブル12の表面(設計値)をXY平面(Z=0)とした場合におけるワークテーブル12の表面の各位置のZ座標(実測値)を算出することにより、校正用マップのデータを作成して記憶部54に保存する。
【0038】
次に、ブレード18の先端形状の判定について説明する。ブレード18の先端形状の判定時には、サブテーブル13に吸着保持されたブレード判定用ワークW0に対して、ブレード18により溝を形成する。そして、この溝の画像を撮像装置22により撮像し、溝の平面形状に基づいてブレード18の先端形状の判定を行う。
【0039】
サブテーブル13は、ワークテーブル12の近傍に保持部材(アーム)によって固定されており、ワークテーブル12と一体的に移動可能となっている。サブテーブル13は、ブレード判定用ワークW0を吸着保持する。
【0040】
撮像装置22は、ワークテーブル12の対向位置に配置される。撮像装置22は、ブレード18の先端形状の判定、ワークWのアライメント、及び加工状態の評価(カーフチェック)を行うために、ワークWの表面を撮像するものである。なお、撮像装置22は、本発明の撮像装置(アライメント用カメラ)の一例である。
【0041】
撮像装置22は、顕微鏡やカメラ等により構成され、顕微鏡のレンズを切り替えるなどの方法により、ワークWの表面を高倍率(例えば8.0倍)または低倍率(例えば1.0倍)により撮像することが可能である。カメラとしては、エリアセンサカメラが用いられる。
【0042】
撮像装置22は、保持部材24を介してスピンドル20に固定されており、スピンドル20と一体となってY方向及びZ方向に移動可能となっている。また、撮像装置22の顕微鏡とスピンドル20の位置を個別に制御するためにステージを2つ設けるようにしてもよい。この場合、スピンドル20の駆動軸とは別に顕微鏡の駆動軸が設けられ、スピンドル20と顕微鏡とがそれぞれの駆動軸に沿って個別に移動される。
【0043】
ブレード18の先端形状の判定時には、Zテーブルにより、サブテーブル13に吸着保持されたブレード判定用ワークW0に対してブレード18を-Z方向に移動させる。そして、ブレード18の先端部(刃先)をブレード判定用ワークW0に対して略垂直に当接させて、ブレード判定用ワークW0を貫通しない所定深さの溝(カーフ)を形成する(チョップカット又はチョップ加工)。その後、Zテーブルにより、ブレード18を+Z方向に移動させる。この間、サブテーブル13のブレード18に対する相対位置は不変とする。なお、ブレード18とサブテーブル13の双方の温度特性に応じて、サブテーブル13のブレード18に対する相対位置が常に一定になるように、相対位置の補正を行ってもよい。
【0044】
撮像装置22は、撮像対象に光を照射する投光部を備えており、ブレード判定用ワークW0に光を照射して、ブレード判定用ワークW0からの反射光を受光してカーフの平面画像を撮像する。このカーフの平面画像は制御部56に入力されて、制御部56において、ブレード18の先端形状の判定が行われる。ここで、ブレード判定用ワークW0としては、表面が鏡面仕上げされたもの(ミラーワーク)又はガラスプレート等の表面の反射率が高いものを用いられる。これにより、ブレード判定用ワークW0の表面とカーフとの間の反射率の違いによりカーフの輪郭が明確になるため、ブレード18の先端形状の判定を精度よく行うことが可能になる。なお、制御部56及び撮像装置22は、本発明のブレード形状判定部の一例である。
【0045】
ダイシング加工時には、ワークテーブル12は、加工対象のワークWを吸着保持する。ワークWは、表面に粘着剤を有するダイシングテープТを介してフレームFに貼着され、ワークテーブル12に吸着保持される。なお、ダイシングテープTが貼着されたフレームFは、ワークテーブル12に配設されたフレーム保持手段(不図示)に保持される。
【0046】
図2は、加工対象のワークWを示した平面図である。
図2に示すように、ワークWの表面には、加工ライン(分割予定ライン)Sが格子状に形成され、これらの加工ラインSによって区画された複数の領域(デバイス形成領域)Cにそれぞれデバイスが形成されている。
【0047】
制御装置50は、ダイシング装置10の各部の動作を制御する。制御装置50は、例えばパーソナルコンピュータやマイクロコンピュータなどの汎用のコンピュータによって実現されるものである。
【0048】
制御装置50は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ハードディスク等を備えている。制御装置50では、ROMに記憶されている制御プログラム等の各種プログラムがRAMに展開され、RAMに展開されたプログラムがCPUによって実行されることにより、
図1において制御装置50内に示した各部の機能が実現されるものである。
【0049】
制御装置50は、切削痕検出部52と、記憶部54と、マップ作成部58と、制御部56として機能する。
【0050】
制御部56は、制御装置50の各部の動作を制御する。具体的には、制御部56は、X駆動部を介してワークテーブル12のX方向の切削送りや、θ駆動部を介してワークテーブル12のθ方向の回転を制御する。また、制御部56は、Y駆動部を介してスピンドル20のY方向のインデックス送りや、Z駆動部を介してスピンドル20のZ方向の切り込み送りを制御する。また、制御部56は、スピンドル20の回転動作や、撮像装置22の撮像動作を制御する。
【0051】
記憶部54は、ダイシング装置10の動作に必要な各種データを記憶する。記憶部54に記憶される各種データには、ワークWに関するデータや、アライメントに関するデータ及びダイシングテープTの厚さが含まれる。例えば、ワークWに関するデータとしては、品種番号、材質、外形寸法、厚さ、チップサイズ等がある。また、記憶部54に記憶される各種データには、校正用マップのデータ及びブレード18の先端形状の判定結果のデータも含まれる。さらに、記憶部54に記憶される各種データには、後述する切削痕形成率Qや補正テーブル(
図9参照)なども含まれる。
【0052】
切削痕検出部52は、ダイシング加工中に撮像装置22が撮像した画像データを受けて、画像処理等によって後述する切削痕情報を検出するものである。
【0053】
[ダイシング装置10の作用]
次に、このように構成されたダイシング装置10の作用について説明する。
【0054】
まず、ダイシングテープТを介してフレームFに貼着された加工対象のワークWが、不図示の搬送手段によって搬送されてワークテーブル12に載置される。ワークテーブル12上に載置されたワークWは撮像装置22により撮像され、ワークWとブレード18との相対的な位置合わせを行うアライメント動作を開始する。
【0055】
アライメント動作が終了すると、スピンドル20が起動してブレード18が回転するとともに、ブレード18を覆うホイールカバー(不図示)に備えられた各種ノズル(不図示)より切削水や冷却水が供給される。この状態でワークテーブル12がX方向に切削送りされるとともにスピンドル20がZ方向に切り込み送りされてワークWが加工ラインSに沿ってダイシング加工される。1ライン加工する毎にスピンドル20はY方向にインデックス送りされ、一方向の加工が終了するとワークテーブル12が90度回転してワークWは格子状にダイシング加工される。
【0056】
本実施形態では、加工対象のワークWに対するダイシング加工の前に、校正用マップの作成とブレード18の先端形状の判定が行われる。そして、ワークWのダイシング加工中には、加工ラインS毎に、後述する切削痕検出動作及びブレード高さ補正動作が行われる。
【0057】
なお、本実施形態では、加工ラインS毎に、後述する切削痕検出動作及びブレード高さ補正動作が行われるようにしたが、これに限らず、ユーザにより指定された加工ライン数毎(例えば、加工ライン5本毎)に実施してもよい。また、ユーザにより指定された加工ラインS(例えば、1ライン目、5ライン目、7ライン目などの加工ラインS)で実施してもよい。
【0058】
(校正用マップの作成)
次に、校正用マップの作成について説明する。
【0059】
本実施形態では、加工対象のワークWが載置されるワークテーブル12の表面の形状(凹凸)をあらかじめ計測して校正用マップを作成する。そして、この校正用マップを用いてブレード18の高さ制御を行う。これにより、ブレード18のダイシングテープTへの切り込み深さが一定になるようにすることが可能になる。
【0060】
校正用マップの作成時には、変位センサー25をXY方向に走査しながら、ワークテーブル12に吸着保持された校正用ワークの表面の各位置の形状(凹凸)を測定する。このとき、変位センサー25のXY方向の走査は、Xテーブル16及びYテーブルにより行われる。
【0061】
マップ作成部58は、変位センサー25から出力された検出信号から校正用ワークの表面の高さ位置(Z座標)を求める。そして、マップ作成部58は、校正用ワークの表面の高さ位置(Z座標)から校正用ワークの厚みを減算して、ワークテーブル12の表面の各位置の高さ位置(Z座標)を算出し、ワークテーブル12の表面の各位置の形状を示す校正用マップを作成する。
【0062】
図3は、校正用マップの例を示す図である。
図3に示す例では、ワークテーブル12の表面の各位置の形状が、ワークテーブル12をXY平面(Z=0)とした場合におけるワークテーブル12の表面の各位置のZ座標として表されている。
【0063】
本実施形態では、加工対象のワークWと略同一の形状の校正用ワーク又は加工対象のワークWよりも大きい校正用ワークを用いて、変位センサー25をXY方向に走査しながら、校正用ワークが吸着保持された面全面の校正用マップを作成する。そして、この校正用マップを用いて加工対象のワークWに対するブレード18の高さを制御する(
図11参照)。これにより、加工対象のワークWが吸着保持されるワークテーブル12の表面の形状に応じたブレード18の高さ制御が可能になる。
【0064】
(ブレードの先端形状の判定)
次に、ブレード18の先端形状の判定について説明する。
【0065】
ブレード18の磨耗が進行すると、加工対象のワークWを切削するため、ブレード18に円環状に形成された切れ刃部が薄くなったり、ブレード18の径が小さくなる。すると、加工対象のワークWの裏面(ダイシングテープTが貼着される面)側における切削量が減少する。このため、磨耗前のブレード18と同様の高さ制御を行ったのでは、ワークWの裏面側の切削量の減少に起因して、ワークWの切削が不十分になり、ワークWの裏面側に欠け、亀裂(チッピング)が生じやすくなる。そこで、本実施形態では、ダイシング加工の前に、ブレード18の先端形状、すなわち、ブレード18の切れ刃部の外周端を含む外周部の形状を判定する。そして、校正用マップに加えて、ブレード18の先端形状の判定結果に基づいて、ダイシング加工時のブレード18の高さを制御する。これにより、ブレード18の磨耗に起因するチッピングを防止することが可能になる。
【0066】
ブレード18の先端形状の判定は、サブテーブル13に吸着保持されたブレード判定用ワークW0の表面にブレード18を用いて溝(カーフ)を形成する。そして、制御部56は、このカーフの画像を撮像装置22により撮像し、撮像したカーフの平面形状に基づいてブレード18の先端形状の判定を行う。
【0067】
具体的には、ブレード18の磨耗が進行していない場合には、カーフの長さ方向に関してカーフの幅の変動が小さく、カーフの両端部の形状が略矩形になる(
図4のカーフC1参照)。一方、ブレード18の磨耗が進行すると、ブレード18の切れ刃部の厚みが薄くなるため、カーフの両端部に近づくにつれてカーフの幅が狭く、三角形状になる。そして、ブレード18の磨耗が進行するほど、カーフの両端部の幅がより狭く、カーフの両端部の角度がより小さくなる(
図4のカーフC2及びC3参照)。
【0068】
また、変位センサー25等を用いてカーフの深さを測定することにより、ブレード18の先端形状の判定を行ってもよい。ブレード18の磨耗が進行していない場合には、カーフの幅方向についてカーフの深さの変動が小さい。これに対して、ブレード18の磨耗が進行するほど、ブレード18の切れ刃部の厚みが薄く、又はブレード18の径が減少するため、カーフの幅方向についてカーフの深さの変動が大きくなり、また、カーフの深さが浅くなる。
【0069】
本実施形態では、上記のブレード判定用ワークW0に形成したカーフの特徴を利用して、ブレード18の先端形状の判定を行う。なお、ブレード18の先端形状の判定は、例えば、特開2017-164843号公報に記載のブレード診断方法を適用することが可能である。また、ブレード18の先端形状の判定方法は、カーフの画像を用いるものに限定されない。例えば、カメラを用いてブレード18の切れ刃部の外周端を含む先端部をブレード18に平行な方向から撮影し、この画像を解析することによりブレード18の先端形状の判定を行うことも可能である。例えば、ブレード18の先端部の画像を蓄積しておき、ブレード18の先端部の画像の経時変化からブレード18の先端形状の判定を行ってもよい。
【0070】
図4は、カーフの平面形状を示す平面図である。
図5は、ブレード18の先端形状の判定結果ごとのブレード18の高さの補正量の例を示すテーブルである。
【0071】
図4の符号C1に示すカーフは、両端部の平面形状が略矩形であり、ブレード18の磨耗量が最小となっている。この場合、
図5に示すように、ブレード18のダイシングテープTへの切り込み量を5μm加算する。
【0072】
一方、
図4の符号C3に示すカーフは、両端部の平面形状が鋭角の略三角形状であり、ブレード18の磨耗量が最大となっている。この場合、
図5に示すように、ブレード18のダイシングテープTへの切り込み量を15μm加算する。
【0073】
また、
図4の符号C2に示すカーフは、両端部の平面形状が鋭角の略三角形状であるが、両端部の角度がC3より小さく、ブレード18の磨耗量がC1とC3の例の中間である。この場合、
図5に示すように、ブレード18のダイシングテープTへの切り込み量を7.5μm加算する。
【0074】
本実施形態では、ブレード18の磨耗量が大きいほど、ダイシング加工時のブレード18の高さを低くして、ダイシングテープTへの切り込み量を大きくする。これにより、ブレード18の磨耗に起因するチッピングの発生を防止することができる。
【0075】
なお、校正用マップの作成とブレード18の先端形状の判定は、ダイシング加工を実施するごとに行う必要はなく、例えば、ダイシング加工を所定の回数実施するごとに行うようにしてもよい。また、ワークテーブル12の表面の形状の変化よりもブレード18の磨耗の方が発生しやすいと考えられるため、校正用マップの作成は、ブレード18の先端形状の判定よりも実施頻度を少なくしてもよい。
【0076】
(切削痕検出動作)
次に、切削痕検出動作について説明する。
【0077】
図6は、ワークWに対してダイシング加工が行われる様子を示した概略図である。
【0078】
本実施形態においては、
図6に示すように、ブレード18が、ワークWを挟んで一方側の切削開始位置P1から他方側の切削終了位置P4までワークWに対して相対的に移動しながらダイシング加工が行われる。このとき、ワークWには切削溝26が形成されるとともに、ワークWが貼り付けられていないダイシングテープTの表面領域R(以下、「ダイシングテープ領域R」という。)には、ブレード18による切削痕28が形成される。
【0079】
例えば、ダイシングテープ領域Rにおける切削痕28が全体的に短く細切れ状になっているような場合(
図6参照)、あるいは、切削痕28がまったく存在しないような場合には、ブレード18が浅切りとなっている。この場合、ブレード18がワークWに十分に切り込んでおらず、切削不良が生じる要因となる。
【0080】
一方、ダイシングテープ領域Rにおける切削痕28が全体的に長くつながっているような場合には、ブレード18が深切りとなっている。この場合、ブレード18の目詰まりにより切れ味が悪くなる可能性がある。
【0081】
本発明者は、検討を重ねた結果、加工品質の安定化を図るためには、ダイシングテープ領域Rにおける切削痕形成率Qに基づいて、ブレード18の高さ(Z方向位置)を補正すればよいことを見出した。ここで、切削痕形成率Qとは、ダイシングテープ領域Rにおいて切削痕28が形成された領域(切削送り方向の長さ)が全体(ダイシングテープ領域Rの切削送り方向の全長さ)に占める割合をいう。
【0082】
本実施形態における切削痕検出動作では、ダイシングテープ領域Rを撮像装置22により撮像して行われる。
【0083】
図7は、撮像装置22がダイシングテープ領域Rを撮像する様子を示した概略図である。
図7に示すように、撮像装置22は、ダイシングテープ領域Rに対する位置をX方向にずらしながら、ダイシングテープ領域Rを高倍率により複数個所撮像し、ダイシングテープ領域Rを複数の分割画像に分けて全体を撮像する。撮像装置22が撮像した画像データは制御装置50に出力される。なお、撮像装置22は、低倍率によりダイシングテープ領域Rの広い範囲を一度に撮像してもよい。
【0084】
なお、本実施形態では、撮像装置22を構成するカメラとして、エリアセンサカメラが用いられているが、これに限らず、例えばラインセンサカメラが用いられてもよい。
【0085】
図8は、ラインセンサカメラ30がダイシングテープ領域Rを撮像する様子を示した概略図である。
図8に示すように、ラインセンサカメラ30は、Y方向に複数の受光素子(不図示)が1列に並べられており、X方向にスキャンしながら、ダイシングテープ領域R全体を撮像するようになっている。
【0086】
切削痕検出部52は、撮像装置22が撮像した画像データに既知の手法により画像処理することで、ダイシングテープ領域Rに形成された切削痕28の長さ(切削送り方向の長さ)を検出する。また、切削痕検出部52は、検出した切削痕28の長さに基づいて、ダイシングテープ領域Rにおける切削痕形成率Qを算出する。
【0087】
ここで、ダイシングテープ領域Rにおける切削痕形成率Qの算出方法について説明する。
【0088】
図6において、ブレード18が切削開始位置P1から切削終了位置P4までワークWに対して相対移動する際、ブレード18がワークWへの切り込みを開始する位置をワーク進入位置P2とし、ブレード18がワークWへの切り込みを終了する位置をワーク退出位置P3とする。
【0089】
このとき、切削痕28は、切削開始位置P1とワーク進入位置P2との間のダイシングテープ領域R1、およびワーク退出位置P3と切削終了位置P4との間のダイシングテープ領域R2にそれぞれ形成される。
【0090】
また、各ダイシングテープ領域R1、R2の切削送り方向(X方向)の全長さをそれぞれL1、L2とし、各ダイシングテープ領域R1、R2にそれぞれ形成された切削痕28の長さの総和をl1、l2とする。例えば、
図6に示すように、ダイシングテープ領域R1に複数の切削痕28が形成される場合には、各切削痕28の長さの総和をl1とする。ダイシングテープ領域R2についても同様である。
【0091】
切削痕検出部52は、以下の式(1)によって切削痕形成率Qを算出する。この切削痕形成率Qは、切削痕28が形成されたときの加工ライン情報(加工ライン番号等)と関連付けて記憶部54に記憶される。なお、切削痕形成率Qの単位は%である。
【0092】
Q={(l1+l2)/(L1+L2)}×100 ・・・(1)
(ブレード高さ補正動作)
次に、ブレード高さ補正動作について説明する。
【0093】
ブレード高さ補正動作では、制御部56は、記憶部54から参照ラインの切削痕形成率Qを取得する。参照ラインは、現在の加工ラインSの直前にダイシング加工が行われた加工ラインSであり、上述した切削痕検出動作により切削痕形成率Qが既に算出されたものである。
【0094】
制御部56はさらに、記憶部54に記憶された補正テーブル(
図9参照)に従って、参照ラインの切削痕形成率Qに対応したブレード高さ補正量Gを決定する。そして、制御部56は、決定したブレード高さ補正量Gに基づいてブレード18の高さ(Z方向位置)を制御する。
【0095】
(補正テーブル)
図9は、補正テーブルの一例を示した図である。
図9に示すように、補正テーブルは、切削痕形成率Qとブレード高さ補正量Gとの対応関係を示したものである。この補正テーブルには、目標とする切削痕形成率(目標形成率)とその許容範囲(目標形成率許容範囲)も含まれている。なお、補正テーブルの各数値は、制御装置50に接続される操作部(不図示)を介してユーザが適宜設定可能となっている。また、ブレード高さ補正量Gは、正の値である場合には設定値からワークWへの切り込み深さが深くなる方向への補正を示しており、負の値である場合には設定値からワークWへの切り込み深さが浅くなる方向への補正を示している。
【0096】
(具体的な動作例)
図10は、本実施形態における具体的な動作例を示した図である。
図11は、ブレード18の先端部(-Z側端部)の軌跡を示す図である。なお、ここでは、説明を簡略化するため、切削送り方向(X方向)に沿った4つの加工ラインS1~S4をライン番号順にダイシング加工を行う場合について説明する。
【0097】
図10に示すように、まず、第1加工ラインS1に対してダイシング加工が行われる。この場合、参照ラインが存在しないため、制御部56は、ブレード高さ補正量Gを0とし、ブレード18の高さを補正せずに設定値のままとする。そして、加工対象のワークWの切り込み側からダイシング加工を開始する。
【0098】
ブレード18が加工対象のワークWに到達すると、制御部56は、校正用マップ及びブレード18の先端形状の判定結果に基づいてブレード18の高さを補正しながら、ダイシング加工を行う。
図11の符号18Tは、ブレード18の先端部の軌跡を示している。具体的には、
図11に示すように、制御部56は、スピンドル20にかかるトルクの変化等に基づいて、ブレード18の刃先が加工対象のワークWの上端部に当接したことを検出する。なお、制御部56は、撮像装置22又は位置センサー等により検出された加工対象のワークWとブレード18との位置関係に基づいて、ブレード18の刃先が加工対象のワークWの上端部に当接したことを検出するようにしてもよい。すると、ブレード18をX方向に走査させながら徐々に-Z側に押し下げる。そして、校正用マップに基づくブレード18の高さの補正量と、ブレード18の先端形状の判定結果に基づく補正量(
図5参照)を、ブレード高さ補正量Gに加算した高さ位置になるように、ブレード18の位置を制御しながらダイシング加工を行う。
【0099】
次に、制御部56は、ブレード18が加工対象のワークWから離れた(切り抜けた)ことを検出すると、ブレード18を徐々に+Z側に引き上げて、ブレード高さ補正量G(第1加工ラインS1では、G=0)のみによる高さ制御に移行する。ここで、切り抜けの検出についても、スピンドル20にかかるトルクの変化、又は加工対象のワークWとブレード18との位置関係に基づいて検出することが可能である。
【0100】
切削痕検出部52は、加工対象のワークWの切り抜け側において、撮像装置22が撮像した画像データに基づいて第1加工ラインS1の切削痕形成率(本例では23%)を算出して、記憶部54に記憶する。
【0101】
次に、第2加工ラインS2に対してダイシング処理が行われる。この場合、制御部56は、参照ラインである第1加工ラインS1の切削痕形成率Q(23%)を記憶部54から取得する。そして、制御部56は、ブレード高さ補正量Gを+0.006mmに決定し、そのブレード高さ補正量Gに従ってブレード18の高さを制御して、加工対象のワークWの切り込み側からダイシング加工を開始する。
【0102】
ブレード18が加工対象のワークWに到達すると、ブレード18をX方向に走査させながら徐々に-Z側に押し下げる。そして、校正用マップに基づくブレード18の高さの補正量と、ブレード18の先端形状の判定結果に基づく補正量(
図5参照)を、ブレード高さ補正量Gに加算した高さ位置になるように、ブレード18の位置を制御しながらダイシング加工を行う。制御部56は、ブレード18が加工対象のワークWから離れた(切り抜けた)ことを検出すると、ブレード18を徐々に+Z側に引き上げて、ブレード高さ補正量Gのみによる高さ制御に移行する。
【0103】
切削痕検出部52は、加工対象のワークWの切り抜け側(+X側)において、撮像装置22が撮像した画像データに基づいて第2加工ラインS2の切削痕形成率(本例では78%)を算出して、記憶部54に記憶する。
【0104】
次に、第3加工ラインS3に対してダイシング加工が行われる。この場合、制御部56は、参照ラインである第2加工ラインS2の切削痕形成率(78%)を記憶部54から取得する。このとき、切削痕形成率(78%)が目標割合(70%)の許容範囲(±5%)を超えているため、制御部56は、ブレード高さ補正量Gを-0.001mmと決定し、そのブレード高さ補正量Gに従ってブレード18の高さを制御して、加工対象のワークWの切り込み側からダイシング加工を開始する。
【0105】
ブレード18が加工対象のワークWに到達すると、上記の場合と同様に、校正用マップに基づくブレード18の高さの補正量と、ブレード18の先端形状の判定結果に基づく補正量(
図5参照)を、ブレード高さ補正量Gに加算した高さ位置になるように、ブレード18の位置を制御しながらダイシング加工を行う。制御部56は、ブレード18が加工対象のワークWから離れた(切り抜けた)ことを検出すると、ブレード高さ補正量Gのみによる高さ制御に移行する。
【0106】
切削痕検出部52は、加工対象のワークWの切り抜け側(+X側)において、撮像装置22が撮像した画像データに基づいて第3加工ラインS3の切削痕形成率(本例では73%)を算出して、記憶部54に記憶する。
【0107】
次に、第4加工ラインS4に対してダイシング加工が行われる。この場合、制御部56は、参照ラインである第3加工ラインS3の切削痕形成率(73%)を記憶部54から取得する。このとき、切削痕形成率(73%)が目標割合(70%)の許容範囲(±5%)内であるため、制御部56は、ブレード高さ補正量Gを0mmと決定し、そのブレード高さ補正量Gに従ってブレード18の高さを制御する。以降の制御は、第1から第3加工ラインS1からS3と同様であるため説明を省略する。
【0108】
なお、本実施形態では、校正用マップ、ブレード18の先端形状及び切削痕形成率に基づいて、ブレード18のブレード高さ補正量を制御するようにしたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、ブレード18の磨耗状況に関わらず、ワークWに対して確実にダイシング加工を行うために、ブレード18を-Z側に所定量オフセットさせるようにしてもよい。
【0109】
(フローチャート)
図12は、ブレード高さ補正動作の流れを示すフローチャートである。
図12に示すように、本実施形態では、ダイシング加工(ステップS30)に先立って、校正用マップの作成(ステップS10)及びブレード18の先端形状の判定(ステップS20)が行われる。
【0110】
(校正用マップ作成工程)
図13は、校正用マップ作成工程を示すフローチャートである。
【0111】
まず、
図13に示すように、ワークテーブル12の表面にダイシングテープTを介して校正用ワークを吸着保持(設置)し(ステップS100)、変位センサー25により校正用ワークの表面の形状を測定する。
【0112】
次に、マップ作成部58は、校正用ワークの表面の形状の測定結果に基づいてワークテーブル12の表面の形状を算出する(ステップS102)。そして、マップ作成部58は、ワークテーブル12の表面の形状を示す校正用マップのデータを作成して、記憶部54に保存する(ステップS104)。
【0113】
(ブレードの形状判定工程)
図14は、ブレード形状判定工程を示すフローチャートである。
【0114】
まず、ブレード判定用ワークW0をサブテーブル13に吸着保持する。そして、ブレード判定用ワークW0にブレード18を当接させて、ブレード判定用ワークW0の表面に所定深さのカーフを形成する(ステップS200)。
【0115】
次に、撮像装置22により、カーフの平面画像を撮像する(ステップS202)。切削痕検出部52は、カーフの平面画像からカーフの輪郭を抽出し、カーフの寸法を測定する(ステップS204)。そして、制御部56は、このカーフの寸法に基づいて、ブレード18の先端部の形状を算出する(ステップS206)。
【0116】
(ダイシング工程)
図15は、ダイシング工程を示すフローチャートである。
【0117】
まず、加工対象のワークWをワークテーブル12の表面に吸着保持する。そして、1本目の加工ラインS(i)(i=1)から切削を開始する(ステップS300)。
【0118】
加工ラインS(i)の切削に当たっては、ワークWの切り込み側において、切削痕形成率に基づいてブレード高さ補正量Gを決定し、ブレード18の高さを制御しながら、加工ラインS(i)を切削する(ステップS302)。
【0119】
ブレード18が加工対象のワークWに到達したことを検出すると(ステップS304のYes)、制御部56は、切削痕形成率に基づいて決定したブレード高さ補正量Gに加えて、校正用マップ及びブレード18の先端形状に基づいて、ブレード18の高さを制御しながら、加工ラインS(i)を切削する(ステップS306:制御工程)。そして、ワークWを切り抜けたことを検出すると(ステップS308のYes)、制御部56は、切削痕形成率に基づくブレード18の高さ制御に移行する(ステップS310)。
【0120】
次に、切削痕検出部52は、加工ラインS(i)の切り抜け側において、切削痕情報を検出する(ステップS312のYes、ステップS314)。そして、切削痕検出部52は、検出した切削痕情報に基づいて、ダイシングテープ領域Rにおける切削痕形成率Qを算出する。そして、切削痕検出部52は、算出した切削痕形成率Qを加工ラインSに関する情報(ライン情報)と関連付けて記憶部54に記憶する。
【0121】
次に、i=i+1として、次の加工ラインS(i)に移動し(ステップS316)、切削を行う(ステップS302からS312)。そして、ステップS302からS312を繰り返し、XY方向のすべての加工ラインS(i)(
図2参照)の切削が終了すると(ステップS312のYes)、ダイシング加工を終了する。
【0122】
[本実施形態の作用効果]
次に、本実施形態の作用効果について説明する。
【0123】
本実施形態によれば、加工対象のワークWが吸着保持されるワークテーブル12の表面の形状に基づいて、ブレード18の高さが制御され、かつ、ブレード18の磨耗の進行状況を考慮してブレード18の切り込み深さが調整される。さらに、本実施形態によれば、ダイシングテープ領域R(ワークWが貼り付けられていないダイシングテープTの表面領域)における切削痕情報に基づいて、ダイシングテープTへの切り込み深さが一定となるようにブレード18の高さが制御される。これにより、ワークテーブル12のうねり及びダイシングテープTの厚さばらつきなどの影響を受けることなく、ブレード18がダイシングテープTに切り込む深さを比較的浅くかつ一定にすることが可能となるので、加工品質の安定化を図ることができる。さらに、ブレード18の磨耗の進行状況を考慮してブレード18の切り込み深さが調整されるので、ワークWの裏面側におけるチッピングの発生を防止することが可能になる。
【0124】
また、本実施形態によれば、切削痕検出部52は、撮像装置22が撮像した画像データに基づいて、ダイシングテープ領域Rにおける切削痕情報を検出するようになっている。この撮像装置22はアライメント用カメラで構成され、ダイシング装置10にもともと具備されているものであり、これによる装置構成の複雑化やコストの増大という問題は起こらない。
【0125】
なお、本実施形態においては、撮像装置22が撮像した画像データに基づいて切削痕情報を検出するように構成したが、これに限らず、例えば、後述する距離測定装置32(
図16参照)を用いて切削痕情報を検出してもよい。また、目視で切削痕情報を検出してもよい。
【0126】
また、加工ライン数(例えば2067ライン)が多い場合、全ての加工ラインSのダイシング加工が完了するまでのブレード摩耗量は無視できない。そのため、従来は、ダイシング加工中に何度もカッターセットを実施して現在のブレード摩耗量を計測し、ブレード18の高さを調整する必要があった。これに対し、本実施形態では、ワークWのダイシング加工中において、加工ラインS毎に、切削痕検出動作が行われる。そのため、現在のブレード摩耗量をリアルタイムで把握できるため、従来のようなブレード摩耗量の計測動作を頻繁に行うことが不要となり、ダイシング加工が完了するまでの時間を減らせることができるというメリットがある。
【0127】
また、本実施形態では、現在の加工ラインSに対してダイシング加工する際に、直前の加工ラインSを参照ラインとして、その切削痕形成率Qを用いてブレード高さ補正量Gを決定するようにしたが、これに限らず、現在の加工ラインSに時間的または空間的に隣接又は近接した加工ラインSを参照ラインとしてもよい。なお、隣接した加工ラインSとは、現在の加工ラインSと時間的または空間的に隣り合った加工ラインであることを意味する。また、近接した加工ラインSとは、現在の加工ラインから時間的または空間的に数ライン(例えば1~5ライン)の範囲にある加工ラインSを意味する。また、参照ラインは1つの加工ラインSに限らず、複数の加工ラインSであってもよい。この場合、例えば、複数の加工ラインSにそれぞれ対応する切削痕形成率Qの平均値に基づいてブレード高さ補正量Gを決定してもよい。
【0128】
また、本実施形態では、ブレード18の高さが安定するまでの間にダイシング加工した加工ラインS(最初の1~3ライン)の切削品質が悪くなってしまう可能性がある。この問題は、実際にダイシング加工を開始する前にダイシングテープT上で空切りを何度か行って、予めブレード18の高さを調整した上でダイシング加工を行うことにより解決することができる。
【0129】
また、本実施形態では、切削痕検出動作において、切り込み側となるダイシングテープ領域R1と、切り抜け側となるダイシングテープ領域R2との両方の切削痕28の長さを計測しているが、切削条件によっては以下のような動作も考えらえる。
【0130】
(切削の負荷が高いワークの場合)
ダイシング加工中にブレード18がより摩耗するため、切り抜け側となるダイシングテープ領域R2に存在する切削痕28の長さのみを計測する。ダイシング加工中にブレード18が激しく摩耗してしまうため、切り込み側となるダイシングテープ領域R1の切削痕28の長さを計測しても、ブレード18の高さ補正の参考にならないためである。
【0131】
(全体のスループットを向上させたい場合)
切り込み側となるダイシングテープ領域R1、もしくは、切り抜け側となるダイシングテープ領域R2の切削痕28のみを計測し、両側を計測する場合よりも切削痕検出動作に要する時間の短縮を行う。この場合、切削痕28を計測しない側はダイシングテープTに切削痕28を残す必要がないため、ワークWを切削できるぎりぎりの位置で切削を行うことができ、さらに切削時間を短縮できる。
【0132】
(ダイシングテープTの剛性を考慮する場合)
ダイシングテープTは、温度に応じてその剛性が変化する場合がある。具体的には、切削を行う環境の温度が高い場合には、ダイシングテープTの剛性が低くなる。ダイシングテープTの剛性が低くなると、ブレード18を用いてワークWの切削を行う場合に、ブレード18によってワークWが-Z側に押し込まれて、切削が十分に行われない場合がある。このため、上記の条件に加えて、ダイシングテープTの剛性の温度依存性を考慮して、ブレード18の押し下げ量を調整するようにしてもよい。
【0133】
具体的には、ダイシングテープTの剛性の温度依存性(例えば、温度とワークWが押し込まれる量の関係)をあらかじめ実験的に求めておき、切削を行う環境の温度に応じて、ワークWが押し込まれる量を推定し、ブレード18の押し下げ量を加算するようにしてもよい。例えば、切削を行う環境の温度が高いと、ダイシングテープTの剛性が低くなるため、切削を行う環境の温度が高いほど、ブレード18の押し下げ量の加算値を大きくする。一方、切削を行う環境の温度が低いほど、ブレード18の押し下げ量の加算値を小さくする。
【0134】
[他の実施形態]
図16は、他の実施形態に係るダイシング装置10Aの構成を示した概略図である。
図16中、
図1と共通する構成要素には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0135】
図16に示すように、他の実施形態に係るダイシング装置10Aは、本実施形態に係るダイシング装置10の構成に加え、距離測定装置32を備えている。
【0136】
距離測定装置32は、ワークテーブル12の対向位置に配置されている。距離測定装置32は、測定対象物であるダイシングテープ領域Rの表面までの距離を測定するものであり、例えば、レーザー変位計や干渉顕微鏡などで構成される。距離測定装置32の測定結果は距離データとして切削痕検出部52に出力される。
【0137】
また、距離測定装置32は、撮像装置22の側面に固定されており、スピンドル20及び撮像装置22と一体となってY方向及びZ方向に移動可能となっている。
【0138】
かかる構成により、ワークWがダイシング中に行われる切削痕検出動作として、距離測定装置32は、ダイシングテープ領域Rに対する位置をX方向にずらしながら、ダイシングテープ領域Rまでの距離を測定する。距離測定装置32の測定結果である距離データは切削痕検出部52に出力される。
【0139】
切削痕検出部52は、距離測定装置32から取得した距離データに基づき、ダイシングテープ領域Rにおける高さの変化(凹凸状態)を示す高さグラフを生成する。
【0140】
図17は、切削痕検出部52で生成される高さグラフの一例を示した図である。
図17に示すように、切削痕検出部52は、生成した高さグラフにおいて、所定の閾値高さ(
図17において破線で示した高さ)よりも低い領域を切削痕形成領域K(切削痕28が形成された領域)として検出する。そして、切削痕検出部52は、検出した切削痕形成領域Kに基づいて、切削痕形成率Qを算出する。その後の処理は本実施形態と同様である。
【0141】
他の実施形態によれば、距離測定装置32の測定結果に基づいてダイシングテープ領域R(ワークWが貼り付けられていないダイシングテープTの表面領域)における切削痕情報を検出することができるので、上述した本実施形態と同様に加工品質の安定化を図ることが可能となる。
【0142】
本発明の一例について詳細に説明したが、本発明は、これに限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0143】
10…ダイシング装置、12…ワークテーブル、13…サブテーブル、14…θテーブル、16…Xテーブル、18…ブレード、20…スピンドル、22…撮像装置、24…保持部材、26…切削溝、28…切削痕、30…ラインセンサカメラ、32…距離測定装置、50…制御装置、52…切削痕検出部、54…記憶部、56…制御部、58…マップ作成部、90…ブレード、92…切削溝、W…ワーク、W0…ブレード判定用ワーク、T…ダイシングテープ、Q…切削痕形成率、G…ブレード高さ補正量