(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】塗布装置、塗布装置を備える印刷装置
(51)【国際特許分類】
B05C 11/10 20060101AFI20241203BHJP
B05C 1/02 20060101ALI20241203BHJP
B05C 11/00 20060101ALI20241203BHJP
B05C 13/02 20060101ALI20241203BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
B05C11/10
B05C1/02 102
B05C11/00
B05C13/02
B41J2/01 123
B41J2/01 451
B41J2/01 401
(21)【出願番号】P 2020195960
(22)【出願日】2020-11-26
【審査請求日】2023-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100186853
【氏名又は名称】宗像 孝志
(72)【発明者】
【氏名】沼田 洋典
【審査官】河村 勝也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-018967(JP,A)
【文献】特開2012-130878(JP,A)
【文献】特開平10-323596(JP,A)
【文献】特開2009-066524(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 11/10
B05C 1/02
B05C 11/00
B05C 13/02
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
枚葉メディアに処理液を塗布する第一回転体と、
前記第一回転体で前記処理液が塗布された枚葉メディアを下流に搬送する第二回転体と、
前記第一回転体によって処理液が塗布された枚葉メディアを検出する第一メディアセンサと、
前記第一メディアセンサの検出結果に応じて、前記第一回転体の回転速度を制御する制御手段と、
前記第二回転体の下流に、前記第二回転体によって搬送された前記枚葉メディアを検出する下流メディアセンサと、
を備え、
前記制御手段は、
前記第一メディアセンサによって検出された前記枚葉メディアの搬送速度と前記下流メディアセンサによって検出された前記枚葉メディアの搬送速度とに基づいて、前記第一回転体に前記枚葉メディアを接触していない無接触時間に前記回転速度を補正する、
ことを特徴とする塗布装置。
【請求項2】
枚葉メディアに処理液を塗布する第一回転体と、
前記第一回転体で前記処理液が塗布された枚葉メディアを下流に搬送する第二回転体と、
前記第一回転体によって処理液が塗布された枚葉メディアを検出する第一メディアセンサと、
前記第一メディアセンサの検出結果に応じて、前記第一回転体の回転速度を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記第一回転体に前記枚葉メディアを接触していない無接触時間に、前記第一回転体による前記枚葉メディアの搬送速度が前記第二回転体による当該枚葉メディアの搬送速度以上になるように、前記回転速度を補正する、
ことを特徴とする塗布装置。
【請求項3】
枚葉メディアに処理液を塗布する第一回転体と、
前記第一回転体で前記処理液が塗布された枚葉メディアを下流に搬送する第二回転体と、
前記第一回転体によって処理液が塗布された枚葉メディアを検出する第一メディアセンサと、
前記第一メディアセンサの検出結果に応じて、前記第一回転体の回転速度を制御する制御手段と、
前記枚葉メディアの特性を示す特性情報によって区別して、各特性情報に対応する前記第一回転体の回転速度を補正する速度補正値の初期値を格納するテーブルデータを記憶する記憶部と、を備え、
前記制御手段は、
前記テーブルデータを参照して、前記第一回転体に前記枚葉メディアを接触していない無接触時間に前記回転速度を補正する、
ことを特徴とする塗布装置。
【請求項4】
枚葉メディアに処理液を塗布する第一回転体と、
前記第一回転体で前記処理液が塗布された枚葉メディアを下流に搬送する第二回転体と、
前記第一回転体によって処理液が塗布された枚葉メディアを検出する第一メディアセンサと、
前記第一メディアセンサの検出結果に応じて、前記第一回転体の回転速度を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記第一メディアセンサが検出する前記枚葉メディアの前記第一回転体への搬送間隔に基づいて、前記第一回転体の回転速度を補正する補正値を算出し、前記第一回転体に前記枚葉メディアを接触していない無接触時間に、前記補正値に基づき前記回転速度を補正する、
ことを特徴とする塗布装置。
【請求項5】
前記第一メディアセンサは、前記枚葉メディアの搬送タイミングを検出するタイミングセンサである、
請求項1
乃至4のいずれか一項に記載の塗布装置。
【請求項6】
前記第一メディアセンサは、前記枚葉メディアの搬送速度を検出する速度センサである、
請求項1
乃至5のいずれか一項に記載の塗布装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記第一メディアセンサが前記枚葉メディアを検出してから、
当該第一メディアセンサが前記第一回転体に向けて次に搬送されてくる枚葉メディアを検出するまでの時間に基づいて、前記第一回転体の回転速度を補正する、
請求項1
乃至6のいずれか一項に記載の塗布装置。
【請求項8】
前記第二回転体は、表面にガラスビーズを備える、
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の塗布装置。
【請求項9】
処理液が塗布された枚葉メディアに対して画像を形成する画像形成部と、
当該枚葉メディアに前記処理液を塗布する塗布部と、を備え、
前記塗布部が請求項1乃至
8のいずれか一項に記載の塗布装置である、
ことを特徴とする印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布装置及び塗布装置を備える印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
枚葉の記録媒体としての枚葉メディアに対して液体インクを用いて画像を形成する印刷装置が知られている。また、液体インクを凝集させる効果を有する処理液を印刷前の枚葉メディアに塗布する塗布装置も知られている。
【0003】
塗布装置は、搬送されてくる枚葉メディアに接触するローラに処理液を付着させて、枚葉メディアの印刷面に処理液を塗布する。塗布装置において処理液が意図しない面に付着することを防止することを目的として、塗布ローラによる処理液が塗布される位置に枚葉メディアが存在しないときは塗布ローラの回転を停止する技術が知られている(特許文献1を参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術によれば、処理液を塗布しているときに塗布ローラの回転速度が変動するので、処理液が塗布されている状態の枚葉メディアの搬送速度が変動する。枚葉メディアの搬送速度に対する塗布ローラの回転速度が相対的に変動すると、処理液の塗布ムラが生ずることになる。また、塗布ローラと枚葉メディアが接触中に塗付ローラの回転数が変動することで、塗布ローラが枚葉メディアに対して擦れて、印刷面を傷付ける可能性もある。
【0005】
本発明は、枚葉メディアへの処理液の塗布の均一性を向上させ、塗布後の枚葉メディアの搬送において塗布面の品質の劣化を防止する塗布装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は塗布装置に関し、枚葉メディアに処理液を塗布する第一回転体と、前記第一回転体で前記処理液が塗布された枚葉メディアを下流に搬送する第二回転体と、前記第一回転体によって処理液が塗布された枚葉メディアを検出する第一メディアセンサと、前記第一メディアセンサの検出結果に応じて、前記第一回転体の回転速度を制御する制御手段と、前記第二回転体の下流に、前記第二回転体によって搬送された前記枚葉メディアを検出する下流メディアセンサと、を備え、前記制御手段は、前記第一メディアセンサによって検出された前記枚葉メディアの搬送速度と前記下流メディアセンサによって検出された前記枚葉メディアの搬送速度とに基づいて、前記第一回転体に前記枚葉メディアを接触していない無接触時間に前記回転速度を補正する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、枚葉メディアへの処理液の塗布の均一性を向上させ、塗布後の枚葉メディアの搬送において塗布面の品質の劣化を防止する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係る印刷装置の実施形態としてのプリンタの例を示す概略説明図。
【
図2】本発明に係る塗布装置の実施形態としての塗布ユニットの要部構造を示す構成図。
【
図3】比較例としての塗布ユニットの動作例の説明図。
【
図4】比較例としての塗布ユニットの動作例の説明図。
【
図5】第一実施形態に係る塗布ユニットの動作の例の説明図。
【
図6】第一実施形態に係る塗布ユニットの制御系の構成を示すブロック図。
【
図7】第一実施形態に係る塗布ユニットが利用するデータテーブル例を示す図。
【
図8】第一実施形態に係る塗布ユニットの動作の別例の説明図。
【
図9】第一実施形態に係る塗布ユニットの動作の流れの例を示すフローチャート。
【
図10】第一実施形態に係る塗布ユニットの変形例の動作の例の説明図。
【
図11】第二実施形態に係る塗布ユニットの動作の例の説明図。
【
図12】第二実施形態に係る塗布ユニットの動作の流れの例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る塗布装置、及び塗布装置を備える印刷装置の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、印刷装置の実施形態としてのプリンタ1000の全体構成を示す図である。なお、プリンタ1000は、インクジェット方式のものを例示する。プリンタ1000について
図1を参照しながら説明する。
【0010】
[プリンタ1000の全体構成]
図1は、枚葉の記録媒体の例であり、枚葉メディアとしてのシートPに対して液体インクを吐出して画像を形成するインクジェット方式のプリンタ1000を例示している。プリンタ1000は、搬入部100と、塗布装置としての塗布部500と、画像形成部200と、乾燥部300と、搬出部400とを備えている。
【0011】
搬入部100は、印刷処理に用いられる枚葉メディアとしてのシートPを複数枚積載して保持するシート搬入トレイ101と、シート搬入トレイ101からシートPを一枚ずつ分離して送り出す給送装置102と、を備えている。なお、給送装置102は、シートPを分離して搬送する機能を発揮するものであれば、ローラやコロを用いた装置や、エアー吸引を利用した装置など、あらゆる構成を採用してよい。給送装置102によりシート搬入トレイ101から送り出されたシートPは、塗布装置としての塗布部500へと送り出される。
【0012】
塗布部500は、複数の搬送ローラ対501と、塗布装置としての塗布ユニット600と、を備えている。給送装置102から送られてきたシートPは、複数の搬送ローラ対501により塗布ユニット600へと搬送される。塗布ユニット600では、シートPに処理液17を塗布する。処理液17が塗布されたシートPは、複数の搬送ローラ対501により画像形成部200へ送り出される。
【0013】
なお、塗布ユニット600は、本発明に係る塗布装置の実施形態に相当する。そして、塗布部500には、塗布ユニット600に処理液17を供給する液供給ユニット700と、複数の搬送ローラ対501を駆動するモータ502と、複数の搬送ローラ対501が配置されて形成されるシートPの搬送パスと、が備わっている。
【0014】
画像形成部200は、レジストローラ対201、シート搬送装置202、液体吐出部205、渡し胴206,207を備えている。レジストローラ対201は、塗布部500から送り出されたシートPが到達した後、所定のタイミングで駆動し、シートPをシート搬送装置202に送り出すようになっている。
【0015】
シート搬送装置202は、シートPを周面に担持して回転するドラム203と、ドラム203の周面に吸引力を生じさせる吸引装置204などを有している。これらの構成により、シート搬送装置202は、シートPをドラム203の周面に吸着しながら搬送し、液体吐出部205を通過させる。
【0016】
また、ドラム203の上流には、レジストローラ対201から送り込まれたシートPを受け取ってドラム203との間でシートPを渡す渡し胴206が設けられている。ドラム203の下流には、ドラム203によって搬送されるシートPを乾燥部300へ受け渡す渡し胴207が設けられている。
【0017】
レジストローラ対201からのシートPは、所定のタイミングで渡し胴206に送られて、渡し胴206に設けられた把持手段(グリッパ)によって先端が把持される。シートPを把持した渡し胴206は回転してシートPを搬送し、ドラム203との対向位置でドラム203にシートPを受け渡す。
【0018】
ドラム203の表面にも、把持手段(グリッパ)が設けられており、渡し胴206に把持されて搬送されてくるシートPを、渡し胴206から受け取り、シートPを把持する。ドラム203の表面には、複数の吸引穴が分散して形成され、吸引装置204によってドラム203の所要の吸引穴から内側へ向かう吸い込み気流を発生させる。渡し胴206からドラム203へ受け渡されたシートPは、グリッパによって先端が把持されるとともに、吸引装置による吸い込み気流によってドラム203上に吸着担持され、ドラム203の回転に伴って搬送される。
【0019】
液体吐出部205は、ドラム203に担持されて搬送されるシートPに向けて異なる色の液体を吐出して付与する構成として吐出ユニット208を備えている。吐出ユニット208には、例えば、ブラック(K)の液体を吐出する吐出ユニット208aが含まれる。また、吐出ユニット208には、シアン(C)の液体を吐出する吐出ユニット208bが含まれる。また、吐出ユニット208には、マゼンタ(M)の液体を吐出する吐出ユニット208cが含まれる。そして、吐出ユニット208には、イエロー(Y)の液体を吐出する吐出ユニット208dが含まれる。
【0020】
また、吐出ユニット208には、YMCKのいずれか、或いは、白色、金色(銀色)などの特殊な液体の吐出に使用する吐出ユニット208eと吐出ユニット208fが、さらに含まれる。なお、上記の他に、表面コート液などの処理液を吐出する吐出ユニットを更に設けてもよい。
【0021】
吐出ユニット208は、例えば、複数のノズルを配列したノズル列を有する複数の液体吐出ヘッド(以下、単に「ヘッド」という。)で構成されるフルライン型ヘッドである。
【0022】
液体吐出部205を構成する各吐出ユニット208は、印刷処理に使用する印刷情報に応じた駆動信号によって、それぞれが吐出動作をする。吐出ユニット208は、ドラム203に担持されたシートPが液体吐出部205との対向領域を通過するときに、吐出ユニット208から各色の液体を吐出する。この吐出動作によって、シートPに対して、印刷情報に応じた画像が印刷される。
【0023】
液体吐出部205によって印刷処理が行われたシートPには液体が付与された状態である。この液体が付与されたシートPは、ドラム203の表面から渡し胴207に送り出される。渡し胴207の表面にもシートPの先端を把持する把持手段(グリッパ)が設けられており、ドラム203のグリッパから渡し胴207のグリッパへとシートPの先端の掴み替えが行われることで、シートPはドラム203の表面から渡し胴207に受け渡される。そして、シートPは渡し胴207の回転によって渡し胴207の周面を経て乾燥部300へ送られる。
【0024】
乾燥部300は、画像形成部200の渡し胴207から渡されるシートPを吸引した状態で搬送する吸引搬送機構部301と、吸引搬送機構部301で搬送されるシートP上の液体を乾燥させる乾燥機構部302とを備えている。
【0025】
搬出部400は、複数のシートPが積載される搬出トレイ401を備える。乾燥部300から搬送されてくるシートPは、搬出トレイ401に順次積み重ねられて保持される。
【0026】
[塗布装置の第一実施形態]
次に、本発明に係る塗布装置の第一実施形態としての塗布ユニット600について説明する。
図2に示すように、塗布ユニット600は、転写ローラ1、第一回転体としての塗布ローラ4、計量ローラ50および汲み上げローラ8を有している。
【0027】
転写ローラ1は、TRアーム2の一端に回転可能に支持されている。TRアーム2は、他端にTRばね3が接続されている。TRアーム2の中間位置には、TRアーム2が回動するときの支点となる回転軸5が配置されている。転写ローラ1は、TRばね3の引張力によって、回転軸5を回転中心とするTRアーム2の回動によって、塗布ローラ4に押し付けられる方向に付勢されている。
【0028】
なお、TRアーム2には、TRカム6が接触している。転写ローラ1は、TRカム6が回転することで、TRばね3の引張力に抗う方向に力が作用する。この力によって、転写ローラ1は、塗布ローラ4から離間する方向に移動することができる。TRカム6の回転動作は、モータ7の駆動により行われる。
【0029】
塗布ローラ4と計量ローラ50は、汲み上げローラ8に弾性圧接している。汲み上げローラ8は、塗布ユニット600の側板に回転可能に支持されている。また、汲み上げローラ8は、塗布ユニット600の側板に対して、転写ローラ1に接触又は離間する方向に支持されている。
【0030】
汲み上げローラ8は、供給液室9の側板に回転可能に支持されている。供給液室9は、支点13に揺動可能に支持されている。また、供給液室9の側板には、アーム10が設けられている。アーム10は、ピン11を介して、圧縮バネ12により付勢されている。この圧縮バネ12の付勢によって、汲み上げローラ8が計量ローラ50に押し付けられる。そして、圧縮バネ12の付勢により、汲み上げローラ8が計量ローラ50に押し付けられて、その結果、計量ローラ50が塗布ローラ4に弾性圧接する。
【0031】
ピン11には、カム14が接触している。圧縮バネ12は、カム14が回転することによって、カム14がピン11を押す力が変化する。カム14がピン11を押す力と、圧縮バネ12の付勢力の相関によって、塗布ローラ4と計量ローラ50とのニップ荷重と、計量ローラ50と汲み上げローラ8とのニップ荷重を変更することができる。カム14の回転動作は、モータ15の駆動により行われる。
【0032】
また、転写ローラ1、塗布ローラ4、計量ローラ50、汲み上げローラ8は、ギヤで連結されていて、モータ16により回転駆動されるように構成されている。なお、これら転写ローラ1、塗布ローラ4、計量ローラ50、汲み上げローラ8は、弾性圧接による接触により回転させることも可能である。
【0033】
供給液室9には、処理液17が収容されている。処理液17には、汲み上げローラ8が浸漬されている。したがって、汲み上げローラ8が回転することで、処理液17が汲み上げローラ8の外周面に付着して汲み上げられる。供給液室9には、処理液17の液位を検出するための液面センサ18が取り付けられている。液面センサ18の出力を制御手段が監視することで、汲み上げローラ8が処理液17に浸かる位置を調整できる。
【0034】
シートPに対して処理液17を塗布する塗布動作を行うと、処理液17が消費されて、供給液室9の貯留されている処理液17の液位が低くなる。そして、液面センサ18が検出する処理液17の液位が、予め規定する閾値を下回るときに、供給弁19を開放して、供給ポンプ20を駆動する。供給ポンプ20が駆動すると、供給タンク21に貯留されている処理液17を供給液室9に送ることができる。これによって、塗布ローラ4の塗布動作によって消費される処理液17が補充される。そして、所定の液位になった時点で供給弁19を閉じて、供給ポンプ20を停止させる。これによって、供給液室9に貯留する処理液17の液位を一定に保つことができる。
【0035】
処理液17は、シートPの印刷面に対して、印刷処理の前に塗布することで、液体インクの凝集させる効果を発揮する液体であって、貯留されている時間によって粘度が増加するなどの経年劣化を起こすことがある。劣化した処理液17を塗布動作に使用することは、好ましくない。そこで、一定の経年結果などが生じていると想定する状態に至った処理液17は、供給液室9から排出する。排出機構として、排液弁22と排液ポンプ23ならびに廃液タンク24が設けられている。排液弁22を開放して、排液ポンプ23を駆動させると、供給液室9に貯留している処理液17を廃液タンク24へ排出できる。
【0036】
以上の構成を備える塗布ユニット600は、供給液室9の貯留されている処理液17を汲み上げローラ8の回転によって汲み上げる。汲み上げられた処理液17は、汲み上げローラ8と計量ローラ50との接触位置に運ばれる。そして、汲み上げローラ―8と計量ローラ50の接触位置(ニップ部)を通過することにより、処理液17の量が調整されて計量ローラ50の表面に転写される。
【0037】
計量ローラ50の表面に転写された処理液17は、塗布ローラ4との接触位置(ニップ部)に運ばれる。そして、計量ローラ50と塗布ローラ4の接触位置(ニップ部)を通過することにより、処理液17が薄膜化されて塗布ローラ4の表面に転写される。
【0038】
そして、塗布ローラ4に形成された処理液17の薄膜は、転写ローラ1との接触位置(ニップ部)に運ばれて、シートPと接触し。シートPの印刷面に処理液17が塗布される。
【0039】
ここで、シートPへの処理液17の塗布量は、塗布ローラ4の回転速度によって変動する。すなわち、塗布ローラ4の回転速度が速いほどにシートPに対する処理液17の塗布量が多くなる。したがって、枚葉のシートPの一枚単位の途中で塗布ローラ4の回転数が変化すると、処理液17の塗布量が不均一になる。すなわち、塗布ローラ4の回転速度の変動が、一枚のシートPへの塗布動作の途中で生ずると、印刷処理によって得られる画像品質を低下させることになる。
【0040】
また、塗布ローラ4の回転速度が一定でも、塗布ローラ4に対するシートPの搬送速度が変化することがある。その場合も、同様に、処理液17の塗布量が不均一になる。塗布ローラ4に対するシートPの相対的な搬送速度が変化する要因として、シートPの種類の違いが挙げられる。一般的に、塗布ローラ4に対するシートPの相対的な搬送速度は、シートPの種類に依存して変動する。
【0041】
例えば、オフセット用コート紙のように処理液17が浸透し難いシートPでは、シートPと塗布ローラ4との間に液膜ができるので、塗布ローラ4の外周面とシートPの塗布面との間の摩擦係数が低下して、シートPが塗布ローラ4に対してスリップし易くなる。また、普通紙のような処理液17が浸透し易いシートPでは、処理液17がすぐに用紙層に吸収されるため、液膜ができず、スリップし難くなる。したがって、塗布ユニット600は、塗布ローラ4を通過するシートPの速度は、シートPの種類に応じて調整することができるように構成されている。
【0042】
図2に示すように、シートPの搬送方向において、塗布ローラ4の上流側には、塗布ローラ4と転写ローラ1との接触部にシートPを送り込む第三回転体としての上流側搬送ローラ対25が設けられている。上流側搬送ローラ対25から塗布ローラ4と転写ローラ1への経路には、ガイド板対26が設けられている。塗布部500の複数の搬送ローラ対501を通過したシートPは、上流側搬送ローラ対25、ガイド板対26を通過して、塗布ローラ4と転写ローラ1の接触部へ搬送される。そして、シートPは、塗布ローラ4と転写ローラ1の接触部の間を通過するときに処理液17が塗布される。
【0043】
塗布ローラ4の下流側には、処理液17が塗布された直後のシートPを搬送するための、第二回転体としての下流側搬送ローラ対27と、下流側搬送ローラ対27にシートPを導くガイド部材28が設けられている。なお、下流側搬送ローラ対27と上流側搬送ローラ対25は、塗布ローラ4とは別のモータ30によって駆動されるように構成されている。すなわち、塗布ローラ4はモータ16によって駆動されるが、下流側搬送ローラ対27と上流側搬送ローラ対25はモータ30によって駆動される。したがって、塗布ローラ4の回転速度と、下流側搬送ローラ対27及び上流側搬送ローラ対25の回転速度は、制御手段によって、それぞれ独立して調整可能である。
【0044】
また、下流側搬送ローラ対27は、表面にガラスビーズを接着したローラで構成されている。このローラを用いることで下流側搬送ローラ対27とシートPがスリップして生ずる、処理液17の塗布面の擦れを抑制できる。その結果、擦れムラを抑制できる。また、下流側搬送ローラ対27の表面に処理液17が付着することによる塗布ムラも抑制できる。
【0045】
下流側搬送ローラ対27を通過したシートPは、
図1に示したように、塗布部500の複数の搬送ローラ対501へ受け渡され、下流側に運ばれる。
【0046】
図2に戻る。塗布ローラ4の下流側には、塗布ローラ4と転写ローラ1の回転によって搬送されたシートPの先端又は後端を検出する第一センサとしての第一メディアセンサ29がシートPの搬送路に対向して配置されている。第一メディアセンサ29は、複数枚のシートPそれぞれの搬送タイミングを検出するタイミングセンサである。後述する制御手段としての制御部800は、第一メディアセンサ29がシートPを検出したタイミングに応じて、塗布ローラ4を回転駆動させるモータ16の回転速度を補正する。すなわち制御部800は、第一メディアセンサ29の検出結果に基づいて塗布ローラ4の回転速度を補正する。
【0047】
以下では第一メディアセンサ29がタイミングセンサの場合を例示して説明する。しかし、第一メディアセンサ29はタイミングセンサに限定されるものでもない。例えば、シートPの搬送速度を検出する速度センサであってもよい。すなわち、複数枚のシートPが連続して搬送される際に、先行するシートPの先端を第一メディアセンサ29が検知したタイミングと後続のシートPの先端を検知したタイミングとの時間差(シートPの搬送間隔)に基づき、シートPの搬送速度を検出してもよい。この場合、制御部800は、第一メディアセンサ29が検出したシートの搬送速度に基づいて塗布ローラ4の回転速度を補正する。
【0048】
モータ16の回転速度を補正することで、塗布ローラ4に対するシートPの搬送速度を、塗布動作の間は一定になるように調整することができる。また、モータ16の回転速度によって影響を受ける、シートPへの処理液17の塗布量を均一にすることができる。また、シートPの表面性状に影響されて変動しやすい、シートPの相対的な搬送速度を、下流側搬送ローラ対27に回転速度を合わせることできる。
【0049】
[比較例の説明]
仮に、塗布ローラ4によって処理液17が塗布された直後のシートPの搬送タイミングに基づいて、塗布ローラ4の回転速度を下流側搬送ローラ対27の回転速度に合うように調整できない場合、塗布ローラ4と転写ローラ1の接触部での搬送速度が不安定になる。ここで、当該搬送速度が不安定になった場合に生ずる現象について説明する。
【0050】
図3に示すように、塗布ローラ4と転写ローラ1の接触部におけるシートPの搬送速度が、下流側搬送ローラ対27のニップ部におけるシートPの搬送速度に対して遅くなった場合には、塗布ローラ4と転写ローラ1による接触部と下流側搬送ローラ対27にニップ部との間で、シートPに速度差が生ずることになる。その結果、シートPには、それぞれのニップ部において、相対的に逆方向へシートPを引っ張ろうとする張力が加わることになる。シートPに張力が加わると、特に、下流側搬送ローラ対27とシートPとの間でスリップや擦れが発生する。その卦化、塗布ローラ4によって塗布された処理液17が、下流側搬送ローラ対27によって剥ぎ取られるなどの現象が生ずることになり、シートPに対する処理液17の塗布ムラが発生する。その結果、シートPに対する印刷処理で得られる画像の品質を低下させることになる。
【0051】
また、
図4に示すように、塗布ローラ4と転写ローラ1の接触部におけるシートPの搬送速度が、下流側搬送ローラ対27のニップ部におけるシートPの搬送速度に対して速くなった場合を想定する。この場合は、塗布ローラ4と転写ローラ1による接触部と下流側搬送ローラ対27のニップ部との間でシートPがたるむことになる。シートPがたるむとガイド部材28にシートPが詰まりジャムになることがある。
【0052】
以上のような理由により、本実施形態に係る塗布ユニット600は、塗布ローラ4と転写ローラ1による接触部におけるシートPの搬送速度を、下流側搬送ローラ対27のニップ部におけるシートPの搬送速度に合うように、モータ16の回転数を制御する。すなわち、塗布ユニット600は、塗布ローラ4のニップ部におけるシートPの搬送速度を、下流側搬送ローラ対27のニップ部におけるシートPの搬送速度に応じて補正する。そのために、制御手段がモータ16の回転速度を補正するとき、塗布ローラ4のニップ部におけるシートPの搬送速度が下流側搬送ローラ対27のニップ部におけるシートPの搬送速度以上になるようにする。
【0053】
塗布ローラ4のニップ部におけるシートPの搬送速度を速くすると、
図5に示すように、塗布ローラ4と下流側搬送ローラ対27との間でシートPにたるむ状態になる。シートPにたるみを与えると、張力を発生させない方向での調整となる。こうすることで、塗布ローラ4の回転速度の補正精度が精緻でなくても、シートPと下流側搬送ローラ対27との擦れを防止できる。なお、シートPのたるみ方は、ジャムが生じない程度とする。
【0054】
以上のように、塗布ユニット600は、シートPを搬送するように、塗布ローラ4と転写ローラ1の接触部での搬送速度を下流側搬送ローラ対27におけるシートPの搬送速度以上になるように調整することで、処理液17の塗布面における擦れを防止する。また、塗布ローラ4と下流側搬送ローラ対27の間でシートPに張力を発生させないように搬送速度差を調整することで、塗布面の状態を維持したままで、安定した搬送を行うことができる。なお、調整された搬送速度差は、シートPがたるみすぎてジャムを発生させない程度とする。
【0055】
[塗布ユニット600の制御構成]
次に、塗布ユニット600の動作を制御する制御手段としての、塗布部500が備える制御部800について説明する。
図6に示すように、制御部800は、操作部801と、記憶部802と、センサ情報部803と、モータ速度補正部804と、塗布ローラ駆動部805と、搬送ローラ駆動部806と、を連携するように構成されている。
【0056】
制御部800は、所定の制御プログラムを実行するCPUや、制御プログラムを格納しているROM及びCPUの演算処理のワークエリア等として機能するRAMなどを供えている。制御部800が、制御プログラムを実行することによって、その他の各部の動作を制御する。すなわち、制御部800が塗布部500の動作の全体を統括的に制御する。
【0057】
操作部801は、塗布部500の筐体の外側面や天面に配置されるタッチパネルなどの入力インターフェースからの入力を受け付けて、制御部800に渡す。また、操作部801は、制御部800の処理結果を表示する機能や、塗布部500の動作の状態を報知する機能も供え、報知手段としても機能する。操作部801を介して、制御部800には、シートPの銘柄や坪量または厚みの、シートPの特性を示す特性情報としてのシート特性情報を設定することができる。
【0058】
なお、操作部801に相当する機能を、プリンタ1000が備える操作パネルによって実現してもよい。その場合、プリンタ1000が備える操作パネルによって、シート特性情報を設定し、その情報が制御部800に通知される。また、プリンタ1000に接続した印刷指示端末(たとえばコンピューター)の操作画面を介して、上記情報を設定してもよい。設定されたシートPのシート特性情報は、操作部801から制御部800へ伝達される。
【0059】
塗布ローラ駆動部805は、制御部800からの指令に基づいてモータ16を所定の回転速度で回転するように駆動を制御する。搬送ローラ駆動部806は、制御部800からの指令に基づいてモータ30およびモータ502を所定の回転速度で回転するように駆動を制御する。
【0060】
記憶部802には、複数のシート特性情報によって区別され、各シート特性情報に対する速度補正値が、テーブルデータとして格納されている。なお、速度補正値は、モータ16の回転速度を補正するための補正データの初期値を、シート特性情報ごとに関連付けた情報である。
図7は、記憶部802に記憶されているテーブルデータとしての補正テーブル807の例である。補正テーブル807は、シートPの銘柄A~C、これに対応する坪量または厚みa~cの組み合わせごとによって構成されるシート特性情報に対し、塗布ローラ4によるシートPの搬送速度の初期値を設定し調整するためのデータが格納されている。搬送速度の初期値は、シートPの特性によって変動する傾向を加味して設定される。
【0061】
補正データは、塗布ローラ4とシートPの相対的な搬送速度が変動しても、下流側搬送ローラ対27との速度差を一定に保つためにモータ16の回転数を調整するためのデータ(モータ補正データV1~V12)である。なお、
図7に示す補正テーブル807に該当するシートPの特性情報が格納されていないときは、ユーザが、操作部801を介して追加的に設定して格納することもできる。なお、補正テーブル807に格納される補正データは、例えば、塗布ローラ4との間で滑りが発生し易いコート紙の場合であれば、塗布ローラ4による搬送速度を速くするようにモータ16の回転速度を上げるデータ設定である。また、滑りが発生しにくい普通紙であれば、塗布ローラ4による搬送速度を遅くするようにモータ16の回転速度を下げるデータ設定である。
【0062】
また、センサ情報部803には、常時、第一メディアセンサ29など各種センサが出力するセンサ情報が取り込まれている。そして、各種センサの出力によって検出される情報は、制御部800に伝達される。制御部800は、センサ情報部803から伝達される情報に基づいて、塗布ローラ4と転写ローラ1の接触部に、シートPが接触しているか否かを判定できる構成になっている。さらに、制御部800は、センサ情報部803からのセンサ情報に基づいて記憶部802に格納された補正データを読み込み、モータ速度補正部804を制御し、モータ速度補正を行う。なお、モータ速度の補正は、シートPが塗布ローラ4に接触していない「無接触時間」において実行される。
【0063】
モータ速度補正部804は、第一メディアセンサ29へのシートPの到達タイミングが規定値となっているか否かを判定する処理を実行する。そして、モータ速度補正部804は、判定結果を制御部800に伝達する。制御部800は、モータ速度補正部804の判定処理において、シートPの到達タイミングが規定値と判定されれば、速度補正値を変更することなく塗布動作を継続するように制御する。また、制御部800は、モータ速度補正部804の判定処理において、シートPの到達タイミングが規定値から外れていると判定されれば、補正データの変更値を算出する。そして、制御部800は、算出した変更値を用いて補正テーブル807に格納されている、モータ補正データV1~V12の該当する値を、変更値を用いて更新する。
【0064】
本実施形態において、制御部800は、塗布ローラ4の上流側に設けられた上流側搬送ローラ対25でシートPを一時停止させて、そのシートPの搬送を再開してから第一メディアセンサ29がシートPを検出するまでの時間、すなわち、シートPが第一メディアセンサ29に到達するまでの時間に基づいて塗布ローラ4の搬送速度を補正する。
【0065】
記憶部802に格納されている補正テーブル807のモータ補正データV1~V12は、第一メディアセンサ29へのシートPの到達タイミングにより設定値を更新する。本実施形態では、上記の到達タイミングにより塗布ローラ4の回転速度を制御しているが、シートPの搬送速度を検出するセンサを用いても、同様の制御を実施することはできる。
【0066】
補正テーブル807を用いてモータ16の回転数を補正する補正データを更新する処理は、例えば、画像形成部200において液体吐出部205が印刷処理を開始する前に、吐出ユニット208の動作確認を行うための試験印刷を行うことで実行する。例えば、試験印刷によって、吐出ユニット208が備える液体吐出ヘッドの不吐出の有無の確認や、印刷品質の確認を行う。この試験印刷を行うときに、シートPに対して処理液17を塗布する動作を実行する。その実行時に、塗布ローラ4に搬送したシートPの、第一メディアセンサ29に到達するタイミングを検出し、その到達タイミングと、シートPの特性情報によって、補正テーブル807に格納されているモータ補正データV1~V12の更新値を算出する。
【0067】
そして、試験印刷後、本番印刷の実行時に、シートPが塗布ローラ4に搬送されるまでの間に、モータ補正データV1~V12を更新する。すなわち、シートPが塗布ローラ4を接触していないタイミングで、制御部800は、モータ補正データV1~V12を更新する。このように制御することで、本番印刷に係る印刷ジョブの第一枚目のシートPに対する処理液17の塗布動作において、補正されたモータ16の回転数による搬送が行われる。以上のような利用方法により、同一の印刷ジョブや、同一の動作環境において更新された補正データを利用して、新規の印刷ジョブを実行するときには、最初から補正された条件で塗布動作を実行することができる。これによって、よりいっそう安定した塗布面の品質を得ることができる。
【0068】
また、モータ速度補正部804は、塗布ローラ4と転写ローラ1の接触部にシートPが存在していない状態において、補正データを記憶部802に格納されたデータに書き込む。また、モータ速度補正部804は、塗布ローラ4と転写ローラ1の接触部にシートPが存在していない状態において、モータ16の速度補正を実行する。
【0069】
回転速度の補正タイミングを、
図8を用いて説明する。
図8に示すように、先行するシートPが塗布ローラ4と転写ローラ1の接触部を通過したのち、シートPの後端Prを第一メディアセンサ29が検出してから、次のシートPの先端Pfが塗布ローラ4と転写ローラ1の接触部に到達するまでに間に補正処理を実行する。そして、シートPが塗布ローラ4と転写ローラ1の接触部を通過している間は、モータ16の回転速度を一定に維持する。すなわち、塗布ローラ4によってシートPに処理液17を塗布している間は、塗布ローラ4の回転速度を一定に維持する。なお、シートPが塗布ローラ4と転写ローラ1の接触部を通過している間は、第一メディアセンサ29がシートPを検出している間に相当する。
【0070】
塗布ローラ―4と転写ローラ―1の接触部にシートPが存在するときに、モータ16の回転速度を変更すると、一枚のシートPの途中で、塗布する処理液17の量が変動するので、シートPに対する処理液17の塗布品質に悪影響を与える。シートPと塗布ローラ4が接触していないときにモータ16の回転速度を調整して、塗布ローラ4の回転数が変動しても、塗布ムラには影響しない。したがって、上記のタイミングでモータ16の回転速度を調整する理由は、塗布ムラを防止するためである。シートPの印刷面に対する処理液17の塗布ムラが発生すると、液体吐出部205により吐出されるインクの凝集状態に差異が発生することで、画像品質を低下させることにあるが、塗布ユニット600であれば、画像品質の低下を防止できる。
【0071】
[塗布ユニット600の制御処理]
次に、本実施形態に係る塗布ユニット600が実行する塗布処理における制御の例について、
図9のフローチャートを用いて説明する。まず、ユーザは、操作部801を介して、シートPの銘柄や坪量または厚みなどを含む特性情報を設定する(S901)。設定されたシートPの特性情報は、操作部801から制御部800へと伝達される。
【0072】
続いて、制御部800は、記憶部802に格納され補正データから、特性情報に該当するデータを読み込む(S902)。より詳細には、
図7に示した補正テーブル807に格納されている特性情報に関連付けられているモータ補正データをRAMに読み込む。
【0073】
続いて、S903において、制御部800は、第一メディアセンサ29がシートPを検出しているか否かを判定する(S903)。第一メディアセンサ29の出力は、センサ情報部803において常時取り込まれている。したがって、制御部800は、センサ情報部803に対して、第一メディアセンサ29の出力状態を問い合せることで、シートPが塗布ローラ4に接触する位置に存在するか否かの判定することができる。ここで、第一メディアセンサ29がシートPを検出していれば(S903:NO)、モータ16の回転速度の調整は行わないので、処理をループする。
【0074】
第一メディアセンサ29が、シートPを検出していなければ(S903:YES)、制御部800は、記憶部802から読み込んだ補正データを、モータ速度補正部804に書き込む処理を実行する(S904)。続いて、モータ速度補正部804は、モータ16の回転速度を変更する制御処理を実行する(S905)。
【0075】
続いて、塗布ローラ4により、処理液17を塗布されながら搬送されたシートPが、第一メディアセンサ29に到達したタイミングが、規定値であるか否かを判定する(S906)。S906において判定されるタイミングは、塗布ローラ4の上流に配置されている上流側搬送ローラ対25において、シートPの搬送を一時的に停止した後に、搬送を再開してからシートPが第一メディアセンサ29に到達するまでの時間を意味する。すなわち、S906では、シートPが第一メディアセンサ29に到達したタイミングは、一時停止後に搬送を再開した後に、シートPが第一メディアセンサ29で検出するまでの時間が、予め設定した閾値としての規定時間内か否かの判定をする。S906において、第一メディアセンサ29がシートPを検出するまでの経過時間が規定時間内と判定されたときは(S906:YES)、塗布ユニット600の動作を終了するタイミングか否かを判定する。ここで、塗布ユニット600の動作を終了するタイミングであれば、当該処理を終了する(S909:YES)。一方、塗布ユニット600の動作を終了するタイミングでなければ、処理をS902に戻す(S909:NO)。
【0076】
S906において規定時間内ではないと判定されたときは(S906:NO)、検出された到達タイミングに基づいて、モータ速度補正部804は補正データの変更値を算出する(S907)。補正データの変更値が算出された後、制御部800は、モータ速度補正部804からの変更値に基づいて記憶部802に格納されている補正データの補正値を更新する(S908)。その後、制御部800は、処理をS902に戻す。
【0077】
上記の説明において、制御部800は、塗布ローラ4の上流側に設けられた上流側搬送ローラ対25で、シートPの搬送を一時停止し、搬送再開後に第一メディアセンサ29がシートPを検出するまでの時間に基づいて、モータ16の制御パラメータを変更した。本実施形態において、これに限定せず、
図10に示すように、塗布ローラ4の上流に第二センサとしての第二メディアセンサ40を設けてもよい。
【0078】
図10のように、第二メディアセンサ40を設ける場合、シートPの検知に第一メディアセンサ29と第二メディアセンサ40とを併用してもよい。この場合、第一メディアセンサ29と第二メディアセンサ40からの出力となるセンサ情報も、センサ情報部803に取り込まれる。
【0079】
また、
図8に示した構成において、複数のシートPが連続して搬送されるときは、第一メディアセンサ29が先のシートPを検出してから、その後、後のシートPを第一メディアセンサ29が検出したタイミングの間隔を、規定時間と対比して判定してもよい。
【0080】
以上説明したように、第一実施形態に係る塗布ユニット600は、塗布ローラ4で処理液17を塗布されながら搬送されるシートPにおける搬送速度若しくは当該シートPの塗布ローラ4の通過タイミングを計測する。計測値に基づいて、塗布ローラ4における搬送速度を調整するための補正値を算出する。
【0081】
そして、先のシートPの通過タイミングと、それに続く後のシートPの通過タイミングの隙間、すなわち、シートPが塗布ローラ4に接触していない間で、補正値を用いて塗布ローラ4による搬送速度を補正する。以上のように、塗布ローラ4の搬送速度を補正するので、シートPへの処理液17の塗布中は、塗布ローラ4の回転速度が一定に維持される。塗布ローラ4の回転速度は、シートPへの処理液17の塗布量に影響を与えるので、回転速度が一定であれば、安定した塗布性能を得られる。
【0082】
また、第一実施形態に係る塗布ユニット600によれば、補正値を更新することで、塗布ローラ4と下流側搬送ローラ対27との回転速度の差を補正できる。この回転速度の差を補正することで、塗布ローラ4と下流側搬送ローラ対27の間において、シートPにかかる張力を調整できる。この張力の調整によって、シートPが下流側搬送ローラ対27においてスリップすることを防止できる。
【0083】
したがって、第一実施形態に係る塗布ユニット600によれば、処理液17を塗布後のシートPが、搬送手段によってスリップすることを防止でき、塗布後の塗布面の品質低下を防止できる。すなわち、シートPの先端から後端までムラ無く均一に処理液17を塗布することができ、しかも塗布後のシートPの搬送において塗布面の品質を低下させる現象を防止できる。さらに、搬送ドラムなどの大掛かりな構成を用いる必要がないので、安価かつ小型の構成で、上記の効果を実現できる。
【0084】
また、第一実施形態に係る塗布ユニット600によれば、塗布ローラ4の速度を補正するときに、下流側搬送ローラ対27による搬送速度よりも塗布ローラ4による搬送速度が速くなるように、塗布ローラ4の回転速度を調整する。こうすることによって、塗布ローラ4と、下流側搬送ローラ対27との間で、シートPが突っ張らないようできる。その結果、塗布ローラ4の回転速度の補正精度を精緻にしなくても、上記と同様の効果を得ることができる。
【0085】
また、第一実施形態に係る塗布ユニット600によれば、塗布ローラ4の回転速度を補正するための速度補正値を、予め、シートPの種別ごとに決定される好適な初期値としてテーブルデータで保持する。そして、テーブルデータに格納される初期値に対して、塗布ローラ4による塗布処理を実行しながら複数のセンサから検出される搬送状況を示す情報に基づいて、補正値を算出する。これによって、補正値を小さくでき、大きな速度変化を抑制できるので、より安定した塗布動作が可能となる。すなわち、第一実施形態に係る塗布ユニット600によれば、補正の速度差を大きくした場合に塗布ローラ4へ過剰な処理液17の供給が行われることが想定されるが、そのような処理液17の過剰供給を防止できる。
【0086】
なお、第一実施形態に係る塗布ユニット600が備える下流側搬送ローラ対27は、表面にガラスビーズを接着したローラを用いることで、処理液17が付着し難くなり、スリップの発生を抑制できる。その結果、より安定した塗布品質を得ることができる。
【0087】
[塗布装置の第二実施形態]
次に、本発明に係る塗布装置の第二実施形態としての塗布ユニット600aについて説明する。
図11に示すように、塗布ユニット600aは、第一メディアセンサ29とは別に、下流側搬送ローラ対27の下流に下流メディアセンサとしての第三メディアセンサ45が配置されている。塗布ユニット600aは、第三メディアセンサ45がシートPを検出したタイミングを用いることで、第三メディアセンサ45に向かうシートPの搬送速度を算出できる。したがって、第一メディアセンサ29に対するシートPの搬送速度を、第三メディアセンサ45に対するシートPの搬送速度に合わせて調整できる。これによって、より安定した塗布性能を得ることができる。
【0088】
[塗布ユニット600aの制御処理]
続いて、塗布ユニット600aが実行する塗布処理における制御の例について、
図12のフローチャートを用いて説明する。なお、塗布ユニット600aが備える制御構成は、第一実施形態に係る制御構成と同様である。したがって、制御構成の詳細な説明は省略し、制御部800に連携する各制御ブロックの符号は同じ符号を用いて、以下の説明をする。また、
図12における、S1201からS1205は、すでに説明したS901からS905と同様の処理であるので、詳細な説明を省略する。
【0089】
モータ速度補正部804が、モータ16の回転速度を変更する制御処理を実行した後(S1205)、塗布ローラ4の下流に配置されている第一メディアセンサ29において、シートPの到達時間としての第一到達時間t1を計測する(S1209)。続けて下流側搬送ローラ対27の下流に配置されている第三メディアセンサ45において、シートPの到達時間としての第二到達時間t2を計測する(S1210)。
【0090】
その後、第二到達時間t2に対する第一到達時間t1のズレ量が、規定値どおりであるか否かを判定する(S1211)。S1211において、ズレ量が規定値内であると判定されたときは(S1211:YES)、塗布ユニット600aの動作を終了するタイミングであれば、当該処理を終了し(S1214:YES)、塗布ユニット600aの動作を終了するタイミングでなければ、処理をS1203に戻す(S1214:NO)。
【0091】
S1211において、ズレ量が規定値内ではないと判定されたときは(S1211:NO)、検出された到達タイミングに基づいて、モータ速度補正部804は補正データの変更値を算出する(S1212)。補正データの変更値が算出された後、制御部800は、モータ速度補正部804からの変更値に基づいて記憶部802に格納されている補正データの補正値を更新する(S1213)。その後、制御部800は、処理をS1202に戻す。
【0092】
以上説明したように、第二実施形態に係る塗布ユニット600aは、塗布ローラ4の下流に第一メディアセンサ29を備え、また、下流側搬送ローラ対27の下流に第三メディアセンサ45を備える。これら複数のセンサの検出に基づいて、塗布ローラ4において処理液17が塗布されたシートPと、次のシートPが塗布ローラ4に至るまでに下流側搬送ローラ対27によるシートPの搬送速度に合わせて、塗布ローラ4の速度を補正することができる。これによって、シートPに処理液17を塗布している最中、すなわち、シートPと塗布ローラ4が接触している間は、塗布ローラ4の回転を一定に維持することができる。塗布ローラ4の回転速度は、シートPへの処理液17の塗布量に影響を与えるので、回転速度が一定であれば、安定した塗布性能を得られる。
【0093】
また、第二実施形態に係る塗布ユニット600aによれば、塗布ローラ4と下流側搬送ローラ対27との速度差を補正できる。その結果、塗布ローラ4と下流側搬送ローラ対27との間において、シートPにかかる張力を調整できる。この張力の調整によって、シートPが下流側搬送ローラ対27においてスリップすることを防止できる。さらに、下流側搬送ローラ対27による搬送速度も計測しながら、塗布ローラ4の回転速度を補正することで、より効果的な補正が可能となる。
【0094】
なお、第一実施形態に係る塗布ユニット600、および第二実施形態に係る塗布ユニット600aは、シートPを塗布ローラ4に対して搬送する搬送手段として、回転体としての下流側搬送ローラ対27と、上流側搬送ローラ対25を搬送手段として例示した。しかし、本実施形態は、これら搬送手段を回転体に限定する必要はなく、搬送ベルトによって実現されてもよい。
【0095】
また、上記の説明では、
図2に示す第一実施形態、
図10に示す第一実施形態の変形例、
図2に示す第一実施形態の連続給紙の例、および
図11に示す第二実施形態について、それぞれを別々に実施する説明をした。しかし、本発明に係る塗布装置は、これら複数の実施形態及び変形例を組み合わせて構成してもよい。
【符号の説明】
【0096】
4 :塗布ローラ
16 :モータ
17 :処理液
25 :上流側搬送ローラ対
27 :下流側搬送ローラ対
29 :第一メディアセンサ
30 :モータ
40 :第二メディアセンサ
45 :第三メディアセンサ
102 :給送装置
200 :画像形成部
201 :レジストローラ対
202 :シート搬送装置
208 :吐出ユニット
300 :乾燥部
501 :搬送ローラ対
502 :モータ
600、600a :塗布ユニット
800 :制御部
801 :操作部
802 :記憶部
803 :センサ情報部
804 :モータ速度補正部
805 :塗布ローラ駆動部
806 :搬送ローラ駆動部
807 :補正テーブル
1000 :プリンタ
P :シート
t1 :第一到達時間
t2 :第二到達時間
【先行技術文献】
【特許文献】
【0097】