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特許7596784荒引線の製造方法および荒引線の製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】荒引線の製造方法および荒引線の製造装置
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/06 20060101AFI20241203BHJP
   B22D 11/108 20060101ALI20241203BHJP
   B22D 11/00 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
B22D11/06 320F
B22D11/108 D
B22D11/108 M
B22D11/00 F
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020218285
(22)【出願日】2020-12-28
(65)【公開番号】P2022103567
(43)【公開日】2022-07-08
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤戸 啓輔
(72)【発明者】
【氏名】辻 隆之
(72)【発明者】
【氏名】秦 昌平
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-001174(JP,A)
【文献】特開2017-020085(JP,A)
【文献】特開2015-004126(JP,A)
【文献】特開2007-038252(JP,A)
【文献】特開昭59-035863(JP,A)
【文献】特開昭57-025262(JP,A)
【文献】特開昭53-086632(JP,A)
【文献】特開平07-266012(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/06
B22D 11/108
B22D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造圧延によって得られる荒引線の製造方法であって、
(a)母材からなる溶融金属を得る工程と、
(b)前記溶融金属を鋳型に供給する工程と、
(c)前記鋳型内の前記溶融金属に添加元素を連続的に供給し、前記鋳型内で前記添加元素を前記溶融金属に混合する工程と、
(d)前記添加元素が混合された前記溶融金属を前記鋳型内で連続的に鋳造し、鋳造材を成形する工程と、
を有し、
前記添加元素は、前記母材よりも酸素に対する活性が高い、荒引線の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の荒引線の製造方法において、
前記添加元素は、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)、ジルコニウム(Zr)、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)、リン(P)、インジウム(In)、および錫(Sn)のうち1種または2種以上の元素である、荒引線の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の荒引線の製造方法において、
前記添加元素は、線状物からなり、前記鋳型に供給する前の前記溶融金属を貯留するタンディッシュと前記鋳型との間に配置された添加元素供給用ノズルから前記鋳型内の前記溶融金属に連続的に供給される、荒引線の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の荒引線の製造方法において、
前記(c)工程では、前記鋳型内の前記溶融金属に第1添加元素が連続的に供給され、
前記(b)工程で前記鋳型に供給される溶融金属には、前記母材と、前記第1添加元素よりも酸素に対する活性が低い第2添加元素とが含まれている、荒引線の製造方法。
【請求項5】
連続鋳造圧延によって得られる荒引線の製造装置であって、
溶融金属を貯留するタンディッシュと、
前記タンディッシュから供給された前記溶融金属を連続的に鋳造する鋳型と、
前記鋳型の供給口に母材よりも酸素に対する活性が高い添加元素を連続的に供給する添加元素供給部と、
を有する、荒引線の製造装置。
【請求項6】
請求項5に記載の荒引線の製造装置において、
前記添加元素供給部は、線状物からなる前記添加元素を前記鋳型の前記供給口に連続的に供給する添加元素供給用ノズルを有し、
前記添加元素供給用ノズルは、前記タンディッシュと前記鋳型との間に配置されている、荒引線の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荒引線の製造方法およびその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
荒引線の原料となる鋳造合金を連続的に鋳造する方法として、鋳造合金の母材となる金属および添加元素が混合された溶融金属を鋳型に連続的に注ぎ、溶融金属を連続的に鋳造させる方法がある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-482255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
連続鋳造圧延法を用いて荒引線を製造する方法において、溶融金属に添加元素を混合させる場合、添加元素を溶融金属へ供給する供給装置のレイアウト等を考慮すると、鋳型に溶融金属を注ぐ前に予め添加元素を溶融金属に混合しておく方法が好ましい。ところが、本願発明者の検討によれば、以下のような課題があることが判った。すなわち、予め添加元素が混合された溶融金属を鋳型に注ぐ場合、溶融金属を貯液するタンディッシュと鋳型との間に存在する大気中の酸素等が溶融金属に巻き込まれ、酸素等が巻き込まれた状態の溶融金属が鋳型に注がれることがある。特に、添加元素が酸素に対して活性が高い元素を含む場合、添加元素の一部と酸素とが反応してしまい、添加歩留が低減する。すなわち、酸素に対して活性が高い添加元素を含む溶融金属によって荒引線を製造する場合に、荒引線の製造効率が低下することがある。
【0005】
そこで、本発明は、酸素に対して活性が高い添加元素を含む鋳造合金から成る荒引線の製造効率を向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施の形態である荒引線の製造方法は、[1]連続鋳造圧延によって得られる荒引線の製造方法であって、(a)母材からなる溶融金属を得る工程と、(b)前記溶融金属を鋳型に供給する工程と、(c)前記鋳型内の前記溶融金属に添加元素を連続的に供給し、前記鋳型内で前記添加元素を前記溶融金属に混合する工程と、(d)前記添加元素が混合された前記溶融金属を前記鋳型内で連続的に鋳造し、鋳造材を成形する工程と、を有する。
【0007】
[2][1]において、前記添加元素は、前記母材よりも酸素に対する活性が高い。
【0008】
[3][1]において、前記添加元素は、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)、ジルコニウム(Zr)、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)、リン(P)、インジウム(In)、および錫(Sn)のうち1種または2種以上の元素である。
【0009】
[4][1]において、前記添加元素は、線状物からなり、前記鋳型に供給する前の前記溶融金属を貯留するタンディッシュと前記鋳型との間に配置された添加元素供給用ノズルから前記鋳型内の前記溶融金属に連続的に供給される。
【0010】
[5][1]において、前記(c)工程では、前記鋳型内の前記溶融金属に第1添加元素が連続的に供給され、前記(b)工程で前記鋳型に供給される溶融金属には、前記母材と、前記第1添加元素よりも酸素に対する活性が低い第2添加元素とが含まれている。
【0011】
[6]ほかの実施の形態である荒引線の製造装置は、連続鋳造圧延によって得られる荒引線の製造装置であって、溶融金属を貯留するタンディッシュと、前記タンディッシュから供給された前記溶融金属を連続的に鋳造する鋳型と、前記鋳型の供給口に添加元素を連続的に供給する添加元素供給部と、を有する。
【0012】
[7][6]において、前記添加元素供給部は、線状物からなる前記添加元素を前記鋳型の前記供給口に連続的に供給する添加元素供給用ノズルを有し、前記添加元素供給用ノズルは、前記タンディッシュと前記鋳型との間に配置されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の代表的な実施の形態によれば、酸素に対して活性が高い添加元素を含む添加元素を含む鋳造合金から成る荒引線の製造効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施の形態である荒引線の連続製造装置(連続鋳造圧延装置)の構成例を示す説明図である。
図2図1に示す鋳造輪の周縁部に形成された溝の断面形状の一例を示す拡大断面図である。
図3】鋳型の供給口付近において、溶銅中に添加元素から成るワイヤが供給されている状態を模式的に示す説明図である。
図4図3に対する変形例を示す説明図である。
図5図3に示す荒引線の製造装置を用いて製造された鋳造材の断面を9つの領域に分割し、各領域における添加元素の濃度分布の測定結果を模式的に示す説明図である。
図6図3に対する検討例である荒引線の製造装置を用いて製造された鋳造材の断面を9つの領域に分割し、各領域における添加元素の濃度分布の測定結果を模式的に示す説明図である。
図7】変形例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0016】
<荒引線の製造装置の構成例>
図1は、本実施の形態の荒引線の製造装置の構成例を示す説明図である。図2は、図1に示す鋳造輪の周縁部に形成された溝の断面形状の一例を示す拡大断面図である。本実施の形態で製造される荒引線80は、銅を母材とし、母材中に含まれる添加元素を備える鋳造合金から成る。荒引線80は、用途に応じてさらに延伸され、例えば導線などの用途に利用される荒引線である。銅を母材とする鋳造合金から成る銅荒引線である荒引線80の製造方法を取り上げて、荒引線の製造方法および製造装置について説明する。
【0017】
図1に示すように、本実施の形態の荒引線の製造装置100は、溶解炉10、保持炉20、タンディッシュ30、添加元素供給部40、鋳型50、圧延部60、および巻取り部70を備えている。溶解炉10と保持炉20との間、および保持炉20とタンディッシュ30との間は、それぞれ移送樋11により接続されている。また、タンディッシュ30には、ノズル31が接続され、タンディッシュ30に貯液された溶融金属は、図示しない流量調整ピンによってノズル31へ供給される流量が調整され、ノズル31を介して鋳型50内に供給される。
【0018】
本実施の形態の荒引線の製造方法は、荒引線80を構成する鋳造合金の母材である銅(例えば、タフピッチ銅、無酸素銅、銅の純度が99.999%~99.99999%の高純度銅)を溶解させて溶融金属を得る工程(母材溶解工程)を有する。この母材溶解工程は、図1に示す溶解炉10で行う。溶解炉10で溶解した銅からなる溶融金属は、移送樋11を介して保持炉20に移送される。保持炉20では、溶融金属が溶融状態を維持しつつストックされる。保持炉20にストックされた溶融金属は、移送樋11を介して、順次タンディッシュ30に移送される。
【0019】
タンディッシュ30では、溶融金属中に介在する異物(介在物)が除去される(異物除去工程)。異物の除去方法としては、例えば、溶融金属の液面に浮かぶ異物をすくって除去する方法がある。なお、図1では、保持炉20とタンディッシュ30とが移送樋11を介して接続される例を示しているが、変形例として、保持炉20とタンディッシュ30との間に、図示しない取鍋と呼ばれる容器が介在する場合がある。この場合、異物の除去は、取鍋でも実施される場合がある。
【0020】
また、本実施の形態の荒引線の製造方法は、タンディッシュ30に貯留した溶融金属を鋳型50に供給する工程(溶融金属供給工程)を有する。溶融金属供給工程では、例えばタンディッシュ30に溜まった溶融銅(溶融金属)を、ノズル31を介して鋳型50に供給する。鋳型50は、側面視において円形を成し、円の中心を回転軸として回転運動する鋳造輪51を有する。図1では鋳造輪51の回転方向r1を模式的に示している。
【0021】
鋳造輪51の周縁部には、図2に示すように、鋳造輪51の円周方向に沿って溝52が形成されている。また、鋳造輪51の周縁部には、鋳造輪51の溝52と対向するように、鋳造ベルト53が配置されており、溝52と鋳造ベルト53により、溶融金属を鋳造する鋳型として機能する。溶融金属は、図2に示す鋳型50内(言い換えれば溝52内)に供給される。溝52内に供給された金属は、鋳造輪51を介して冷却され、鋳型50の形状、すなわち、溝52の形状に成形された鋳造材(インゴット)81が得られる。
【0022】
詳細は後述するが、本実施の形態の荒引線の製造方法は、鋳型50内の溶融した金属に添加元素を連続的に供給する工程(添加元素供給工程)を有する。荒引線80の母材である銅に添加される添加元素は、添加元素供給部40から、鋳型50のうち、タンディッシュ30からの溶融金属が供給される供給口(以下、鋳型50の供給口ともいう)に連続的に供給される。すなわち、鋳型50の溝52が、タンディッシュ30からの溶融金属が供給される供給口であり、供給口から添加元素が鋳型50内の溶融金属に連続的に供給されことになる。図1に示すワイヤ42は、添加元素を線状に成形したワイヤ(線状物)である。図1に示すように鋳型50の供給口に添加元素を添加すれば、鋳型50内において、溶融金属の対流により添加元素が攪拌され、溶融金属と添加元素とが混合する。そして、添加元素が混合された溶融金属を連続的に鋳造することにより、母材を構成する金属(例えば、銅)と添加元素との合金からなる鋳造材81が得られる。
【0023】
また、本実施の形態の荒引線の製造方法は、得られた鋳造材81を圧延して、圧延材を成形する工程(圧延工程)を有する。圧延工程では、例えば、図1に示す圧延部60が備える複数のローラ(図示は省略)を用いて鋳造材81を徐々に圧延し、荒引線80のような線材に圧延して圧延材を成形する。得られた圧延材に対して表面清浄化処理を施すことにより、荒引線80が得られる。
【0024】
圧延工程を経て得られた荒引線80は、巻取り部70によりリール(図示は省略)に巻き取られ、必要な検査の後、導線を製造する工程に搬送される。あるいは、巻取り部70でリールに巻き取られた荒引線80は、必要な検査の後、中間製品として出荷される。
【0025】
なお、上述した本実施の形態に係る荒引線の製造方法において、鋳型内に供給された添加元素が混合される前の溶融金属を「第1溶融金属」とし、添加元素が混合された後の鋳型内の溶融金属を「第2溶融金属」としてもよい。例えば、本実施の形態である荒引線の製造方法は、連続鋳造圧延によって得られる荒引線の製造方法であって、(a)母材からなる第1溶融金属を得る工程と、(b)第1溶融金属を鋳型に供給する工程と、(c)鋳型内の第1溶融金属に添加元素を連続的に供給し、鋳型内で添加元素を溶融金属に混合して第2溶融金属を得る工程と、(d)第2溶融金属を鋳型内で連続的に鋳造し、鋳造材を成形する工程と、を有する。
【0026】
<添加元素供給工程の詳細>
次に、上記した添加元素供給工程の詳細について説明する。荒引線80のように導線等に用いられる荒引線は、導線化された時の機能あるいは特性を向上させる観点から、様々な添加元素が母材に添加される場合がある。この添加元素は、溶解した母材金属中に添加される。添加元素を添加する作業のし易さ、あるいは、装置のレイアウトを考慮すれば、図1に示す移送樋11やタンディッシュ30において添加元素を添加する方法が好ましい。例えば、タンディッシュ30では、溶融金属中に含まれる異物を浮上除去する工程を実施する場合があるので、溶融金属の液面の上方には、異物の除去作業を行うことができる程度のスペースが確保されている。このため、このスペースを利用して添加元素を添加すれば、添加作業を用意に行うことができる。また、添加元素の供給装置の配置スペースも確保し易い。
【0027】
ところが、本願発明者の検討によれば、移送樋11やタンディッシュ30において添加元素を添加する方法の場合、以下の課題が生じることが判った。すなわち、タンディッシュ30等において、添加元素が混合された溶融金属を鋳型50に注ぐ場合、溶融金属を貯液するタンディッシュ30に接続されるノズル31と鋳型50との間の大気中の酸素等が溶融金属に巻き込まれやすい。特に、添加元素が酸素に対して活性が高い元素を含む場合、合金化される前に添加元素の一部と酸素とが反応してしまう。この場合、酸化した添加元素が溶融金属中に溶けにくい場合がある。溶融金属に溶けなかった添加元素は、鋳造材81は含有されないので、鋳造材81に所定の割合で添加元素を含有させるためには、溶けない添加元素の割合を考慮して多くの添加元素を供給する必要が生じる。つまり、添加元素の一部が酸素と反応することにより添加歩留まりが低下する。
【0028】
また、酸素と反応する添加元素の割合が高くなると、鋳造材81における添加元素の分布にバラつきが生じ易い。詳細は後述するが、例えば、鋳造材81の切断面を複数の領域に分割して、複数の領域のそれぞれにおける添加元素の含有割合を確認すると、局所的に添加元素の含有割合が高い部分が生じる場合がある。添加元素の含有割合が極端に高い領域、あるいは極端に低い領域は、製品として使用することができないので、その領域を除去する必要がある。この場合、母材を含めた仕込み量に対する鋳造材81の取得量としての歩留が低下する。
【0029】
また、溶融金属に溶けない添加元素が増加すれば、その添加元素の酸化物は、タンディッシュ30等の底に堆積されるので、タンディッシュ30等の寿命が低下する原因になる。
【0030】
上記した課題は、荒引線の製造効率を向上させる観点における課題と言い換えることができる。上記した本願発明者の検討によれば、荒引線の製造効率を向上させる観点からは、溶融金属に溶けない添加元素の量を低減させる技術、あるいは、鋳造材81の断面視における添加元素の含有割合の分布を均一化させる技術、が重要であることが判った。
【0031】
図3は、図2に示す鋳型の供給口付近において、溶融金属(溶銅)13中に添加元素から成るワイヤが供給されている状態を模式的に示す説明図である。図3に示すように、本実施の荒引線の製造装置100は、鋳型50の供給口から鋳型50内の溶融金属13に、線状に成形された添加元素であるワイヤ42を供給することが可能な構造になっている。ワイヤ42は、添加元素供給部40が備えるノズル41から鋳造輪51の回転方向に沿って連続的に繰り出される。ノズル41は、タンディッシュ30と鋳造輪51との間に配置されている。
【0032】
図3において、鋳型50のうち、溶融金属13がノズル31から供給される部分であり、溶融金属13が凝固する前の状態(溶融状態)である部分をプール部54と定義する。プール部54では、溶融金属13が高温状態である。また、プール部54には、新たに高温の溶融金属13が順次供給される。このため、プール部54では、流体としての溶融金属13が対流している。
【0033】
本実施の形態の場合、ワイヤ42は、鋳型50のプール部54に供給され、プール部54内において、溶融金属13の熱により溶解する。この場合、プール部54内に挿入されるまでの添加元素は固形の状態なので、酸素を含む大気に接した場合でも、酸素との過剰な反応の発生を抑制できる。
【0034】
また、プール部54内ではワイヤ42が溶解するので、添加元素は液体になる。プール部54内の溶融金属13は、大気に触れる部分の面積(液面の面積)がタンディッシュ30内の溶融金属13と比較して小さい。このため、プール部54内では、溶融した添加元素が酸素と接触する可能性は、タンディッシュ30内よりも低い。この結果、本実施の形態の方法の場合、タンディッシュ30に添加元素を添加する方法と比較して、添加元素が酸素と反応する頻度を抑制できる。添加元素と酸素との反応を抑制できれば、添加元素の添加歩留まりを向上させることができるので、添加元素の供給量を低減させることができる。また、添加元素と酸素との反応を抑制できれば、鋳型50内に溶けずに残る添加元素の酸化物の発生量を低減できる。このため、添加元素の酸化物に起因して鋳型50の寿命が低下することを抑制できる。また、タンディッシュ30において添加元素を添加しない場合には、添加元素の酸化物に起因するタンディッシュ30の寿命低下を抑制できる。
【0035】
また、上記したようにプール部54では、流体としての溶融金属13が対流するので、溶融した添加元素が攪拌され易い。この結果、本実施の形態により得られる鋳造材81(図1参照)における添加元素の分布は均一化されやすい。鋳造材81における添加元素の分布を均一化することができれば、鋳造材81の全部を製品化することができる。この結果、母材を含めた仕込み量に対する鋳造材81の取得量としての歩留を向上させることができる。
【0036】
本実施の形態の場合、上記したように、添加元素と酸素との反応の頻度を抑制できるので、添加元素として、母材となる金属(例えば銅)よりも酸素に対する活性が高い元素を用いる場合に特に有効である。
【0037】
添加元素の例としては、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)、ジルコニウム(Zr)、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)、リン(P)、インジウム(In)、あるいは錫(Sn)を例示することができる。また、添加元素は1種類には限定されず、例えば、上記した添加元素の具体例のうち、2種以上の元素を添加する場合がある。2種以上の添加元素を添加する場合の実施態様については、変形例として後述する。
【0038】
ところで、本実施の形態の変形例として、図4に示すように、添加元素のワイヤ42を、ノズル31と鋳造ベルト53との間から鋳型50のプール部54に供給する方法がある。図4は、図3に対する変形例を示す説明図である。図4に示す荒引線の製造装置101は、添加元素から成るワイヤ42を供給する方向が図3に示す荒引線の製造装置100と相違する。図4に示す例の場合、添加元素供給用のノズル41がノズル31と鋳造ベルト53との間に配置されている。この場合、図3に示す例と比較して、ノズル41からプール部54までの距離が短くなるので、ワイヤ42のうち、ノズル41の外部に露出している部分の長さを短くすることができる。
【0039】
ただし、図4に示す例の場合、ノズル31と鋳造ベルト53との間にノズル31を挿入するスペースを確保する必要があるので、ノズル31とプール部54との距離を図3に示す例と比較して長くとる必要がある。言い換えれば、図3に示すように、ノズル41がタンディッシュ30と鋳型50の鋳造輪51との間に配置されている場合、ノズル31とプール部54との距離を近づけることができる。ノズル31から排出された溶融金属13が大気と接触する面積を小さくし、溶融金属13に巻き込まれる大気中の酸素を低減させる観点からは、ノズル31とプール部54との距離を近づけることが好ましい。したがって、溶融金属13に大気中の酸素が巻き込まれることを抑制する観点からは、図3に示す実施態様の方が好ましい。図4に示す荒引線の製造装置101は、上記した相違点を除き、図3に示す荒引線の製造装置100と同様なので重複する説明は省略する。
【0040】
<評価>
次に、図3に示す荒引線の製造装置100により製造された鋳造材と、図3に対する検討例である荒引線の製造装置により製造された鋳造材とを比較して、荒引線の製造装置100を用いた荒引線の製造方法の評価を実施した結果について説明する。図5は、実施例であり,図3に示す荒引線の製造装置を用いて製造された鋳造材の断面を9つの領域に分割し、各領域における添加元素の濃度分布の測定結果を模式的に示す説明図である。図6は、図3に対する比較例である荒引線の製造装置を用いて製造された鋳造材の断面を9つの領域に分割し、各領域における添加元素の濃度分布の測定結果を模式的に示す説明図である。
【0041】
図5に示す鋳造材81および図6に示す鋳造材82は、添加元素を供給する場所が互いに異なる製造方法により製造されている。図5に示す鋳造材81は、図3を用いて説明した製造方法により鋳造された鋳造材である。一方、図6に示す鋳造材82は、図3に示すプール部54にはワイヤ42が供給されず、タンディッシュ30にワイヤ42が供給される荒引線の製造装置により鋳造された鋳造材である。図5に示す鋳造材81および図6に示す鋳造材82のそれぞれは、鋳型により成形された鋳造材の長手方向に対して直交する方向に切断した切断面を示している。鋳造材81および鋳造材82のそれぞれは、台形の切断面を有する。図5および図6において2点鎖線で示すように、断面はそれぞれ9つの領域に区画されている。図5および図6では、9つに区画された各領域における添加元素の濃度がppmオーダーで記載されている。図5に示す鋳造材81および図6に示す鋳造材82の製造条件は以下の通りである。母材は銅とし、添加元素はチタンである。チタンは銅と比較して酸素に対する活性が高い。また添加元素の仕込み量は、合金全体に対する添加元素の濃度が図5に示す実施例では18ppmとなる量に,図6に示す比較例では42ppmとなる量に設定されている。
【0042】
図5図6を比較して判るように、本実施の形態に係る荒引線の製造方法によれば、鋳造材81を9つに分割した各領域において、添加元素の濃度の偏差を小さくすることができる。図5に示す例の場合、偏差は0.31となっている。図6に示す鋳造材82の場合、9つの領域の添加元素の濃度の偏差は、52.7である。特に濃度が高くなっている紙面右下の領域を除き、残りの8つの領域で偏差をとった場合、5.2である。したがって、本実施の形態に係る荒引線の製造方法により、鋳造材81における添加元素の分布の均一性が大幅に改善されていることが判る。
【0043】
また、図5に示す9つの領域の濃度の平均は17.9ppmである。添加元素の仕込み量(18ppm)に対する鋳造材81に含有される添加元素の歩留は99.5%である。図6に示す鋳造材82の場合、紙面右下の領域に偏って添加元素が含まれているので、これを除く8つの領域の平均は31.5ppmである。添加元素の仕込み量(42ppm)に対する鋳造材82に含有される添加元素の歩留は74.9%である。この結果から、本実施の形態に係る荒引線の製造方法によれば、添加元素を効率的に鋳造材81に含有させることができる。
【0044】
なお、図5および図6に示す例では、一例として添加元素をチタンとした。ただし、添加元素を、例えば、マグネシウム(Mg)、ジルコニウム(Zr)、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)、リン(P)、インジウム(In)、あるいは錫(Sn)に変更した場合でも同様の結果が得られる。また、仕込み量を変更した場合でも、例えば、鋳造材81における添加元素の濃度が1%以下の範囲では、同様の結果が得られる。
【0045】
<複数の添加元素を添加する例>
次に、図3および図4に示す例に対する変形例として、複数種類の添加元素を添加する実施態様について説明する。図7図3に対する他の変形例を示す説明図である。
【0046】
図7に示す荒引線の製造装置103は、第1添加元素から成るワイヤ42を順次送り出すノズル41を備える添加元素供給部40の他に、第2添加元素から成る添加剤45をタンディッシュ30内の溶融金属13に順次供給する添加元素供給部46を備えている。
【0047】
上記したように、添加元素と酸素との反応を抑制するためには、添加元素は鋳型50内に供給されることが好ましい。ただし、複数の添加元素を供給する場合、添加元素の数によっては、プール部54の周辺の機器のレイアウトの関係から、図7に変形例として示すように複数の添加元素のうちの一部を、タンディッシュ30において予め添加しておく方法が考えられる。
【0048】
タンディッシュ30において添加元素を添加する場合、鋳型50において添加元素を添加する場合と比較して酸素と反応する可能性が高い。したがって、図7に示す荒引線の製造装置103を用いた荒引線の製造方法では、添加元素の種類の選択が重要である。
【0049】
すなわち、本変形例の場合、添加元素供給工程では、鋳型50内の溶融金属に第1添加元素から成るワイヤ42が連続的に供給される。また、溶融金属供給工程で鋳型50に供給される溶融金属13には、母材である第1金属(例えば銅)と、第1添加元素よりも酸素に対する活性が低い第2添加元素とが含まれている。第2添加元素から成る添加剤45は、例えばリンである。ワイヤ42を構成する第1添加元素は、例えばチタン、ジルコニウム、あるいはマグネシウムである。このような組み合わせの場合、第2添加元素は第1添加元素よりも酸素に対する活性が低い。このためタンディッシュ30において、第1添加元素を添加する場合と比較すれば、添加元素と酸素との反応の頻度を抑制できる。
【0050】
また、図示は省略するが、図7に対する変形例として、図3に示す荒引線の製造装置100において、添加元素供給部40から供給されるワイヤ42が複数本である場合がある。この時、複数本のワイヤ42は、同じ添加元素である場合、および互いに異なる添加元素である場合がある。例えば、一つのワイヤ42を構成する第1添加元素がインジウムであり、他のワイヤ42を構成する第2添加元素が、錫である例が挙げられる。この変形例の場合、第1添加元素の添加濃度と、第2添加元素の添加濃度を互いに異なる値にすることができる。
【0051】
なお、上記した実施の形態では、荒引線の製造方法および荒引線の製造装置として説明したが、荒引線の製造方法のうち、図1に示す鋳造材81を成形する部分までを抽出して、鋳造材の製造方法および鋳造装置とすることができる。
【0052】
本発明は前記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0053】
例えば添加元素の供給方法として線状に成形した添加元素を順次溶融金属に送り込む方法について説明したが、変形例として、図7に示す添加剤45として模式的に示すように、錠剤化された添加元素を、図3図4、あるいは図7に示すプール部53の溶融金属13に連続的に供給する場合がある。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、電線をはじめとする種々の導線に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0055】
10 溶解炉
11 移送樋
13 溶融金属
20 保持炉
30 タンディッシュ
31 ノズル
40,46 添加元素供給部
41,44 ノズル(添加元素供給用ノズル)
42 ワイヤ
45 添加剤
50 鋳型
51 鋳造輪
52 溝
53 鋳造ベルト
54 プール部
60 圧延部
70 巻取り部
80 荒引線
81,82 鋳造材(インゴット)
100,101,102 荒引線の製造装置
r1 回転方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7