(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】エレクトロクロミック素子
(51)【国際特許分類】
G02F 1/15 20190101AFI20241203BHJP
G02F 1/1516 20190101ALI20241203BHJP
C09K 9/02 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
G02F1/15 508
G02F1/1516
C09K9/02 A
(21)【出願番号】P 2021060656
(22)【出願日】2021-03-31
【審査請求日】2024-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】金子 史育
(72)【発明者】
【氏名】松岡 悠斗
(72)【発明者】
【氏名】浦 直樹
(72)【発明者】
【氏名】井上 満美子
(72)【発明者】
【氏名】大屋 彼野人
【審査官】山本 貴一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-267919(JP,A)
【文献】特開昭58-120221(JP,A)
【文献】特開2017-111389(JP,A)
【文献】特開2013-076907(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0176658(US,A1)
【文献】特開平04-324842(JP,A)
【文献】特開平02-287515(JP,A)
【文献】特開2017-207729(JP,A)
【文献】国際公開第2019/188736(WO,A1)
【文献】特開2020-140053(JP,A)
【文献】特開2018-120199(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/15-1/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極と、
前記第1の電極上に設けられたエレクトロクロミック層と、
第2の電極と、
前記エレクトロクロミック層と前記第2の電極との間に電解質層と、
を有
するエレクトロクロミック素子であって、
前記第2の電極上に無機酸化物を含む電気化学的に活性な層を有し、
前記電解質層が塩基性化合物を含むことを特徴とするエレクトロクロミック素子。
【請求項2】
前記塩基性化合物がピリジン骨格を有する化合物である、請求項1に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項3】
前記塩基性化合物が塩基性ポリマーである、請求項1から2のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項4】
前記塩基性化合物がポリビニルピリジンである、請求項1から3のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項5】
前記無機酸化物は、導電性微粒子又は半導体性微粒子である、請求項1から4のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項6】
前記無機酸化物が酸化スズである、請求項5に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項7】
前記電気化学的に活性な層がエレクトロクロミック材料を含む、請求項5から6のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項8】
前記エレクトロクロミック材料がホスホン酸基及びリン酸基の少なくともいずれかを有する化合物である、請求項7に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項9】
前記エレクトロクロミック材料がビオロゲン誘導体である、請求項7から8のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロクロミック素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のエレクトロクロミック素子では、多数の繰り返し駆動、長時間の連続駆動、又は高温環境下での駆動などの高負荷環境において、一度発色した後に色が残ってしまい、透明な状態に戻れないという現象が発生する。この現象は一対の電極の電荷バランスが崩れることによって発生するものであり、一方の電極側に電荷が残ることによって生じると考えられる。この現象は「消え残り(又は「色残り」)と呼ばれている。この消え残り現象によって十分に長寿命なエレクトロクロミック素子を提供することができていないという課題がある。
【0003】
前記消え残り現象を解消する手段として過剰に高い消色電圧を印加することによって、残った電荷を解消する方法があるが、高い電圧印加によって素子内の物質が予期せぬ反応を起こし、エレクトロクロミック素子が劣化して寿命が短くなってしまう。そこで、そのような劣化を防ぎつつ消え残り現象を解消する手段として、例えば、一対の電極以外に第3の電極を配置して残った電荷を逃がす手法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、エレクトロクロミック材料よりも反応しやすく、反応によって色変化を生じない材料を用いる手法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。この手法は「レドックスバッファー」と呼ばれるものであり、電荷が残った場合でも、エレクトロクロミック材料ではなく「レドックスバッファー」が電荷を保持するため、エレクトロクロミック素子は消色状態を保持することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、消え残り現象の発生を防止できるエレクトロクロミック素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段としての本発明のエレクトロクロミック素子は、第1の電極と、前記第1の電極上に設けられたエレクトロクロミック層と、第2の電極と、前記エレクトロクロミック層と前記第2の電極との間に電解質層と、を有し、前記電解質層が塩基性化合物を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、消え残り現象の発生を防止できるエレクトロクロミック素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係るエレクトロクロミック素子の一例を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、第2の実施形態に係るエレクトロクロミック素子の他の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(エレクトロクロミック素子)
本発明のエレクトロクロミック素子は、第1の電極と、前記第1の電極上に設けられたエレクトロクロミック層と、第2の電極と、前記エレクトロクロミック層と前記第2の電極との間に電解質層と、を有し、前記電解質層が塩基性化合物を含み、更に必要に応じてその他の部材を有する。
【0010】
特許文献1に記載の従来技術(特許第6597373号公報)では、第3の電極を配置する構成であり、エレクトロクロミック素子の厚み及び形状に制限を受けるため、期待されているエレクトロクロミック素子の用途に適したエレクトロクロミック素子を提供することができないという課題がある。
また、特許文献2に記載の従来技術(米国特許第6188505号公報)では、通常の発色駆動においても「レドックスバッファー」の反応が生じるため、発色に必要な電流量が増大し、消費電力を増加させてしまうという欠点がある。また一部の「レドックスバッファー」が反応済みの状態から再度発色させた場合、「レッドクスバッファー」とエレクトロクロミック材料への投入電荷の配分が初期状態と異なってしまうため、想定される発色状態を保てないという欠点がある。
【0011】
したがって、本発明においては、第1の電極と、前記第1の電極上に設けられたエレクトロクロミック層と、第2の電極と、前記エレクトロクロミック層と前記第2の電極との間に電解質層と、を有し、前記電解質層が塩基性化合物を含むことにより、電荷バランスの崩れを防止し、消え残り現象の発生を防止でき、その結果、長寿命なエレクトロクロミック素子を提供することができる。
【0012】
以下、本発明のエレクトロクロミック素子に用いられる、本発明の電解質組成物について、詳細に説明する。
【0013】
(電解質組成物)
本発明の電解質組成物は、電解質、及び塩基性化合物を含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有する。
【0014】
<電解質>
電解質としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の無機イオン塩、4級アンモニウム塩や酸類、アルカリ類の支持塩などが挙げられる。
電解質としては、例えば、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、LiPF6、LiCF3SO3、LiCF3COO、KCl、NaClO3、NaCl、NaBF4、NaSCN、KBF4、Mg(ClO4)2、Mg(BF4)2などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0015】
また、電解質として、イオン液体を用いることもできる。
イオン液体としては、特に制限はなく、一般的に研究・報告されている物質であればどのようなものでも構わない。特に有機のイオン液体は、室温を含む幅広い温度領域で液体を示す分子構造がある。
イオン液体の分子構造としては、カチオン成分として、例えば、N,N-ジメチルイミダゾール塩、N,N-メチルエチルイミダゾール塩、N,N-メチルプロピルイミダゾール塩等のイミダゾール誘導体;N,N-ジメチルピリジニウム塩、N,N-メチルプロピルピリジニウム塩等のピリジニウム誘導体等の芳香族系の塩;トリメチルプロピルアンモニウム塩、トリメチルヘキシルアンモニウム塩、トリエチルヘキシルアンモニウム塩等のテトラアルキルアンモニウム等の脂肪族4級アンモニウム系化合物などが挙げられる。
アニオン成分としては、大気中の安定性の面でフッ素を含んだ化合物が好ましく、例えば、BF4
-、CF3SO3
-、PF4
-、(CF3SO2)2N-、TCB-、FSI-、TFSI-、TCHB-、TCFB-などが挙げられる。これらのカチオン成分とアニオン成分の組み合わせにより処方したイオン液体を用いることができる。
【0016】
前記イオン液体としては、例えば、エチルメチルイミダゾリウムテトラシアノボレート、エチルメチルイミダゾリウムビストリフルオロメタンスルホンイミド、エチルメチルイミダゾリウムトリペンタフルホロエチルトリフロオロホスフェート、エチルメチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド、エチルメチルイミダゾリウムジエチルホスフェ-ト、ブチルメチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、エチルメチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホナート、エチルメチルイミダゾリウムアセテート、エチルメチルイミダゾリウムトリシアノメタニド、エチルメチルイミダゾリウムジシアナミド、メチルオクチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、メチルプロピルピロリジニウムビスフルオロスルホンイミド、ブチルメチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート、ブチルメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ヘキシルメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、アリルブチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0017】
<塩基性化合物>
塩基性化合物としては、窒素原子を含むアミン、アミドあるいは複素環式化合物、塩基性の有機リン化合物、更には有機酸の共役塩などが挙げられる。
塩基性化合物としては、例えば、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチルジイソプロピルアミン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アニリン、1,8-ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン、ピロリジン、ピロール、N-メチルピロリドン、1-メチル-2-ピロリドン、N-メチルアセトアミド、N-メチルホルムアミド、ピリジン、イミダゾール、ピリミジン、ピラジン、インドール、ジアザビシクロウンデセン、1,10-フェナントロリン、トリフェニルホスフィン、トリエチルホスフィン、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酢酸テトラメチルアンモニウム、ベタイン、アクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、3-[(3-アクリルアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]プロパノアート、4-アクリロイルモルホリン、メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、構造中にピリジン基を有する化合物が好ましい。
【0018】
ピリジン基を有する化合物としては、例えば、ピリジン、4-ジメチルアミノピリジン、2,6-ルチジン、ビピリジン、フルオロピリジン、4-tert-ブチルピリジン、2,6-ジ-tert-ブチルピリジン、5-エチル-2-ピリジンエタノール、エチル4-ピリジルアセテート、エチル3-ピリジルアセテート、エチル2-ピリジルアセテート、4-ベンジルピリジン、3-ベンジルピリジン、2-ベンジルピリジン、4-(3-フェニルプロピル)ピリジン、4-ピリジル酢酸エチルなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
塩基性化合物は、塩基性ポリマーであることが、電極表面への拡散が抑制されるため、塩基性化合物自体の反応が少なく、劣化しにくいという利点から好ましい。
塩基性ポリマーの重量平均分子量は、10,000~1,000,000が好ましく、10,000~200,000がより好ましい。
重量平均分子量が10,000未満であると、電解質組成物中で拡散し電極表面で予期しない反応を引き起こし劣化につながることがあり、重量平均分子量が1,000,000を超えると、溶解性が不足することがある。
重量平均分子量は、例えば、ゲルパーミエィションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
塩基性ポリマーとしては、例えば、ポリ(4-ビニルピリジン)、ポリ(2-ビニルピリジン)等のポリビニルピリジン、ポリ(4-ビニルピリジン-co-スチレン)、ポリ(2-ビニルピリジン-co-スチレン)、ポリ(4-ビニルピリジン-co-ブチルメタクリレート)、ポリアクリルアミド、ポリ(メタクリル酸ジメチルアミノエチル)、ポリアミンなどが挙げられる。これらの中でも、ポリマー重合時の重合反応性に影響を与えることなく、かつ電解質組成物中への良好な溶解性が得られる点から、ポリビニルピリジンが好ましい。
【0020】
塩基性ポリマーを電解質組成物中に混合する方法として、塩基性ポリマーを直接混合してもよく、電解質と溶媒を保持するためのポリマー鎖中に共重合ユニットとして組み込んでもよい。
ポリマー鎖中に共重合ユニットとして組み込む方法としては、塩基性モノマーを重合させることによって、塩基性ポリマーを合成する。塩基性モノマーとしては、例えば、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、アクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル、3-[(3-アクリルアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]プロパノアートなどが挙げられる。
【0021】
塩基性化合物の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、電解質組成物の全量に対して、0.01質量%以上10質量%以下が好ましく、0.01質量%以上2質量%以下がより好ましい。
【0022】
-電解質溶媒-
電解質溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、アセトニトリル、γ-ブチロラクトン、エチレンカーボネート、スルホラン、ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,2-ジメトキシエタン、1,2-エトキシメトキシエタン、ポリエチレングリコール、アルコール類、又はこれらの混合溶媒などが挙げられる。
なお、電解質としてイオン液体を用いる場合には、イオン液体が電解質溶媒を兼ねるために別途電解質溶媒を用いる必要は必ずしもない。
【0023】
前記電解質組成物は低粘性の液体である必要はなく、ゲル状や高分子架橋型、液晶分散型などの様々な形態をとることが可能である。これらの中でも、取り扱いの容易さ及び液漏れ防止の観点から、固体又はゲル状であることが好ましい。ゲル状又は固体状に形成することで、素子強度向上及び信頼性向上などの利点が得られる。
固体化手法としては、電解質と塩基性化合物と電解質溶媒とをバインダー樹脂中に保持することが好ましい。これにより、高いイオン伝導度と固体強度が得られるためである。
【0024】
前記バインダー樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、セルロース誘導体等の多糖類系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリビニルエステル系樹脂、光重合性モノマー及び光重合性オリゴマーを重合させた樹脂などが挙げられる。また、塩基性のポリマー樹脂を用いることで本発明の塩基性化合物を兼ねることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、熱重合や溶剤を蒸発させることにより薄膜化する方法に比べて、低温かつ短時間で製造できる点から、光重合性モノマー及び光重合性オリゴマーを重合させた樹脂が特に好ましい。
【0025】
光重合性モノマーとしては、単官能の光重合性モノマー、2官能の光重合性モノマー及び3官能以上の光重合性モノマーの多官能の光重合性モノマーが用いられる。
【0026】
単官能の光重合性モノマーとしては、例えば、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、メチルメタクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、2-アクリロイルオキシエチルサクシネート、アクリロイルモルフォリン、2-エチルヘキシルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2-エチルヘキシルカルビトールアクリレート、3-メトキシブチルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、イソアミルアクリレート、イソブチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールアクリレート、セチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、ステアリルアクリレート又はスチレンモノマーが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
2官能の光重合性モノマーとしては、例えば、1,3-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、EO変性ビスフェノールAジアクリレート、EO変性ビスフェノールFジアクリレート又はネオペンチルグリコールジアクリレートが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、上記において、「EO変性」はエチレンオキシ変性を指し、「PO変性」はプロピレンオキシ変性を指す。
【0028】
3官能以上の光重合性モノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、トリメチロールプロパントリメタクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリアクリレート、HPA変性トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA)、グリセロールトリアクリレート、ECH変性グリセロールトリアクリレート、EO変性グリセロールトリアクリレート、PO変性グリセロールトリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジメチロールプロパンテトラアクリレート(DTMPTA)、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、EO変性リン酸トリアクリレート又は2,2,5,5-テトラヒドロキシメチルシクロペンタノンテトラアクリレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
光重合性のオリゴマーとしては、例えば、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、アクリルアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、各種反応性ポリマーなどが挙げられる。
【0030】
-その他の成分-
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、重合開始剤などが挙げられる。
【0031】
前記重合開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ラジカル重合開始剤などが挙げられる。
前記ラジカル重合開始剤としては、例えば、熱重合開始剤、光重合開始剤などが挙げられる。
【0032】
前記熱重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレート、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]等のアゾ化合物;2,5-ジメチル-2,5-ビス(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ(4-tert-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート等の有機過酸化物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
前記光重合開始剤としては、例えば、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン等のケタール系光重合開始剤;1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、4-フェノキシジクロロアセトフェノン、4-(t-ブチル)ジクロロアセトフェノン等のアセトフェノン系光重合開始剤、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル系光重合開始剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
前記重合開始剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、全モノマー成分100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部以下が好ましく、0.01質量部以上2質量部以下がより好ましく、0.01質量部以上1質量部以下が特に好ましい。
【0035】
電解質層の形成方法としては、例えば、エレクトロクロミック層と、電気化学的に活性な層との隙間に液状に調整した電解質組成物を注入し、光硬化によって固体化することができる。又は事前に電解質をシート状に固体化した後に、他の層と貼り合わせる手法を用いることができる。
電解質組成物として液状の電解質組成物を用いる場合は、例えば、エレクトロクロミック層と、電気化学的に活性な層との隙間に液状に調整した電解質組成物を注入し、外周を封止材などで密封固定することで電解質組成物からなる層を形成することができる。
【0036】
本発明の電解質組成物は、エレクトロクロミック素子、有機エレクトロルミネッセンス素子、リチウムイオン二次電池、太陽電池、燃料電池、イオン伝導型アクチュエータなどの種々の電気化学デバイスに好適に使用できるが、以下に説明するエレクトロクロミック素子の電解質層に特に好適に用いられる。本発明の電解質組成物をエレクトロクロミック素子の電解質層として用いることにより、エレクトロクロミック素子における電荷バランスの崩れを防止し、消え残り現象の発生を防止できる。その結果、長寿命なエレクトロクロミック素子の提供を実現できる。
【0037】
本発明のエレクトロクロミック素子は、第1の電極と、前記第1の電極上に設けられたエレクトロクロミック層と、第2の電極と、前記エレクトロクロミック層と前記第2の電極との間に電解質層と、を有し、第2の電極上に無機酸化物を含む電気化学的に活性な層を有することが好ましく、更に必要に応じてその他の部材を有する。
【0038】
<第1の電極>
第1の電極の材料としては、導電性を有する透明材料であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
第1の電極の材料としては、例えば、スズをドープした酸化インジウム(以下、「ITO」と称する)、フッ素をドープした酸化スズ、アンチモンをドープした酸化スズ、酸化亜鉛等の無機材料などが挙げられる。
更に、透明性を有するカーボンナノチューブ、Au、Ag、Pt又はCu等の高導電性の非透過性材料等を微細なネットワーク状に形成して、透明度を保持したまま、導電性を改善した電極を用いてもよい。
【0039】
前記第1の電極の厚みは、エレクトロクロミック層の酸化還元反応に必要な電気抵抗値が得られるように調整される。第1の電極の材料としてITOを用いた場合、第1の電極の平均厚みは、50nm以上500nm以下が好ましい。
【0040】
前記第1の電極の作製方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等を用いることができる。第1の電極の材料が塗布形成できるものであれば特に制限はなく、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法又はインクジェットプリント法等の各種印刷法を用いることができる。
【0041】
<エレクトロクロミック層>
エレクトロクロミック層は、電気化学的な酸化還元反応により変色する性質を持つエレクトロクロミック材料を含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有する。
【0042】
-エレクトロクロミック材料-
エレクトロクロミック材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、酸化反応によって発色する化合物が好ましい。
酸化反応によって発色する材料としては、例えば、アゾベンゼン化合物、テトラチアフルバレン化合物、トリフェニルメタン化合物、トリアリールアミン化合物、ロイコ染料などが挙げられる。これらの中でも、トリアリールアミン化合物がより好適に用いることができる。
【0043】
前記トリアリールアミン化合物としては、例えば、下記一般式1で表される化合物などが挙げられる。
An-Bm ・・・[一般式1]
ただし、n=2のときにはmは0であり、n=1のときmは0又は1である。
前記Aは、下記一般式2で示される構造であり、R1からR15のいずれかの位置で前記Bと結合している。
前記Bは下記一般式3で示される構造であり、R16からR21のいずれかの位置で前記Aと結合している。
【0044】
【化1】
【化2】
ただし、R
1からR
21のいずれかは重合性官能基、又は水酸基に対して直接的若しくは間接的に結合可能な官能基を介し、エレクトロクロミック層中で化学的に結合されることが好ましい。これによって酸化エレクトロクロミック化合物がエレクトロクロミック層に担持可能となる。残りのR
1からR
21は、いずれも1価の有機基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい
【0045】
前記重合性官能基としては、炭素-炭素2重結合を有し、重合可能な基であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択でき、例えば、ビニル基、スチリル基、2-メチル-1,3-ブタジエニル基、ビニルカルボニル基、アクリロイルオキシ基、アクリロイルアミド基、ビニルチオエーテル基などが挙げられる。
【0046】
前記水酸基に対して直接的又は間接的に結合可能な官能基としては、水酸基に対して水素結合、吸着又は化学反応により直接的若しくは間接的に結合可能な官能基であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。その構造の具体例としては、ホスホン酸基、リン酸基、トリクロロシリル基、トリアルコキシシリル基、モノクロロシリル基、モノアルコキシシリル基等のシリル基(又はシラノール基)やカルボキシル基などが挙げられる。
前記トリアルコキシシリル基としては、トリエトキシシリル基、トリメトキシシリル基等が挙げられる。
これらの中でも、導電性又は半導体性ナノ構造体への結合力が高いホスホン酸基、シリル基(トリアルコキシシリル基、あるいはトリヒドキシシリル基)が好ましい。
【0047】
前記1価の有機基としては、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールカルボニル基、アミド基、置換基を有していてもよいモノアルキルアミノカルボニル基、置換基を有していてもよいジアルキルアミノカルボニル基、置換基を有していてもよいモノアリールアミノカルボニル基、置換基を有していてもよいジアリールアミノカルボニル基、スルホン酸基、置換基を有していてもよいアルコキシスルホニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシスルホニル基、置換基を有していてもよいアルキルスルホニル基、置換基を有していてもよいアリールスルホニル基、スルホンアミド基、置換基を有していてもよいモノアルキルアミノスルホニル基、置換基を有していてもよいジアルキルアミノスルホニル基、置換基を有していてもよいモノアリールアミノスルホニル基、置換基を有していてもよいジアリールアミノスルホニル基、アミノ基、置換基を有していてもよいモノアルキルアミノ基、置換基を有していてもよいジアルキルアミノ基、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアリールチオ基、置換基を有していてもよい複素環基などが挙げられる。 これらの中でも、安定動作の点から、アルキル基、アルコキシ基、水素原子、アリール基、アリールオキシ基、ハロゲン原子、アルケニル基、アルキニル基が好ましい。
前記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などが挙げられる。
前記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
前記アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基などが挙げられる。
前記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などが挙げられる。
前記アリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、1-ナフチルオキシ基、2-ナフチルオキシ基、4-メトキシフェノキシ基、4-メチルフェノキシ基などが挙げられる。
前記複素環基としては、例えば、カルバゾール、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、オキサジアゾ-ル、チアジアゾ-ルなどが挙げられる。
前記置換基に更に置換される置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、メチル基、エチル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基等のアリールオキシ基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基などが挙げられる。
【0048】
前記一般式1により表されるトリアリールアミン化合物としては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。ただし、Meはメチル基、Etはエチル基を表す。
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
-バインダ-
前記エレクトロクロミック層は、バインダを含有していてもよい。
前記バインダとしては、例えば、ポリエチレンオキサイド系、ポリビニルアルコール系、ポリアクリロニトリル系、メタクリレート系、アクリレート系、フッ化ブニリデン系等のポリマーなどが挙げられる。
【0070】
また、エレクトロクロミック組成物は、バインダの代わりにバインダ前駆体を含んでもよいし、バインダとバインダ前駆体とを含んでもよい。
バインダ前駆体としては、例えば、モノマー等の重合性化合物が挙げられる。
【0071】
バインダ前駆体として重合性化合物を用いる場合、例えば、重合性化合物が液体に溶解しているエレクトロクロミック組成物を塗布した後に、加熱する、又は、非電離放射線、電離放射線、赤外線、紫外線等を照射することにより、重合性化合物を重合させることで、
図2に示すようにバインダを生成する。
【0072】
重合性化合物としては、重合性基を有していれば、特に制限は無いが、25℃で重合することが可能な化合物が好ましい。
【0073】
重合性化合物は、単官能であってもよいし、多官能であってもよい。なお、多官能の重合性化合物とは、重合性基を2個以上有する化合物を意味する。
【0074】
多官能の重合性化合物としては、加熱する、又は、非電離放射線、電離放射線、赤外線を照射することによって重合することが可能であれば、特に制限はない。例えば、アクリレート樹脂、メタアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ビニルエーテル、エン-チオール反応を活用した樹脂などが挙げられる。これらの中でも、生産性の観点から、アクリレート樹脂、メタアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ビニルエステル樹脂が好ましい。
【0075】
多官能のアクリレート樹脂としては、例えば、ジプロピレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート等の低分子化合物、ポリエチレングリコールジアクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート等の高分子化合物等の二官能のアクリレート;トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート等の三官能のアクリレート;ペンタエリトリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等の四官能以上のアクリレートなどが挙げられる。
【0076】
エレクトロクロミック組成物がバインダ前駆体を含む場合、エレクトロクロミック組成物は、バインダ前駆体の重付加反応の触媒や重合開始剤を含むことが好ましい。
【0077】
重付加反応の触媒としては、マイケル付加反応に通常用いられる触媒を適宜選択して使用することができるが、例えば、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、N-メチルジシクロヘキシルアミン等のアミン触媒、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt-ブトキシド、水酸化ナトリウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等の塩基触媒、金属ナトリウム、ブチルリチウムなどが挙げられる。
【0078】
重合開始剤としては、例えば、光重合開始剤、熱重合開始剤を用いることができる。
【0079】
前記熱重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレート、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]等のアゾ化合物;2,5-ジメチル-2,5-ビス(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ(4-tert-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート等の有機過酸化物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0080】
前記光重合開始剤としては、例えば、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン等のケタール系光重合開始剤;1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、4-フェノキシジクロロアセトフェノン、4-(t-ブチル)ジクロロアセトフェノン等のアセトフェノン系光重合開始剤、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル系光重合開始剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0081】
前記重合開始剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、全モノマー成分100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部以下が好ましく、0.01質量部以上2質量部以下がより好ましく、0.01質量部以上1質量部以下が特に好ましい。
【0082】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フィラー、溶媒、可塑剤、レベリング剤、増感剤、分散剤、界面活性剤、酸化防止剤などが挙げられる。
【0083】
<電解質層>
電解質層は、エレクトロクロミック層へのイオン供給のためにイオン伝導可能な層である。
電解質層は、エレクトロクロミック素子の表示装置及び調光装置としての性質より、透明な層であることが好ましい。
電解質層としては、本発明の電解質組成物を用いることができる。
前記電解質層の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、100nm以上100μm以下が好ましい。
【0084】
<第2の電極>
第2の電極は、上記第1の電極と対向して形成される。第2の電極は上記第1の電極と同様に透明な電極であってもよく、透明ではない電極を用いてもよい。透明である場合は、スズをドープした酸化インジウム(ITO)、フッ素をドープした酸化スズ、アンチモンをドープした酸化スズ、酸化亜鉛等の無機材料などが挙げられる。更に、透明性を有するカーボンナノチューブや、他のAu、Ag、Pt、Cuなど高導電性の非透過性材料等を微細なネットワーク状に形成して、透明度を保持したまま、導電性を改善した電極を用いてもよい。
電極が透明ではない電極の場合はPt、Au、Cu、Al、Ti、ステンレスなどの金属板を用いることができる。
前記第2の電極の作製方法としては、上記第1の電極と同様である。
【0085】
<電気化学的に活性な層>
エレクトロクロミック素子の発色時においてエレクトロクロミック層の発色に用いられる電荷を補償するために、第2の電極上には、電気化学的に活性な層が形成される。
電気化学的に活性な層とは、静電的及び/又は酸化還元反応的に電荷を可逆的に蓄積又は放出できる層を意味する。
電気化学的に活性な層としては、導電性又は半導体性微粒子を積層した構造を有することが好ましい。具体的には、電極表面に粒径5nm~50nm程度の微粒子を焼結して作製される。このような構造では、微粒子の大きな表面効果を利用して電荷を蓄積することができる。
前記導電性又は半導体性微粒子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、無機酸化物が好ましい。
無機酸化物としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ホウ素、酸化マグネシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、酸化カルシウム、フェライト、酸化ハフニウム、酸化タングステン、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化バリウム、酸化ストロンチウム、酸化バナジウム、アルミノケイ酸、リン酸カルシウム、アルミノシリケートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、電気伝導性等の電気的特性及び光学的性質等の物理的特性の点から、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化インジウム、酸化タングステンが好ましく、酸化スズが特に好ましい。なお、酸化スズはスズ以外の元素によってドープされていてもよい。
【0086】
前記導電性又は半導体性微粒子は、電気化学的に活性な層に含まれる無機酸化物を兼ねることができるが、これとは別に無機酸化物を前記電気化学的に活性な層に含有させてもよい。例えば、第2の電極上に真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法などの方法で薄膜状の無機酸化物を形成して電気化学的に活性な層とすることができる。無機酸化物としては、例えば、前記導電性又は半導体性微粒子として用いる無機酸化物と同様のものを用いることができる。
【0087】
電気化学的に活性な層の材料が塗布形成できるものであれば、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の各種印刷法を用いることができる。これらの中でも、生産性の点から、粒子分散ペーストとして塗布形成することが好ましい。
前記電気化学的に活性な層の平均厚みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.2μm以上5.0μm以下が好ましい。前記平均厚みが、0.2μm未満であると、発色濃度が得にくくなることがあり、5.0μmを超えると、製造コストが増大すると共に、視認性が低下しやすいことがある。
【0088】
<対向エレクトロクロミック層(第2のエレクトロクロミック層)>
上記電気化学的に活性な層は、発色濃度の向上及び発色時の色彩の制御を目的としてエレクトロクロミック化合物を含有させることも可能である。
この場合、電気化学的に活性な層は、第2のエレクトロクロミック層(対向エレクトロクロミック層)となる。第1の電極に接するエレクトロクロミック層(第1のエレクトロクロミック層)と第2のエレクトロクロミック層は発消色の変化を同時に起こすことが求められる。
本発明においては、第1のエレクトロクロミック層が酸化反応によって発色するため、第2のエレクトロクロミック層は還元反応によって発色するエレクトロクロミック材料を含むことが好ましい。
【0089】
-還元反応によって発色するエレクトロクロミック材料-
第2のエレクトロクロミック層に含まれる還元反応によって発色するエレクトロクロミック材料としては、例えば、ポリマー系又は色素系のエレクトロクロミック化合物が挙げられる。
還元反応によって発色するエレクトロクロミック材料としては、例えば、アゾベンゼン系、アントラキノン系、ジアリールエテン系、ジヒドロプレン系、ジピリジン系、スチリル系、スチリルスピロピラン系、スピロオキサジン系、スピロチオピラン系、チオインジゴ系、テトラチアフルバレン系、テレフタル酸系、トリフェニルメタン系、トリフェニルアミン系、ナフトピラン系、ビオロゲン系、ピラゾリン系、フェナジン系、フェニレンジアミン系、フェノキサジン系、フェノチアジン系、フタロシアニン系、フルオラン系、フルギド系、ベンゾピラン系、メタロセン系等の低分子系有機エレクトロクロミック化合物、ポリアニリン、ポリチオフェン等の導電性高分子化合物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、発消色電位が低く、良好な色値を示す点から、ビオロゲン誘導体が好ましい。
上記還元反応によって発色するエレクトロクロミック材料は、第2のエレクトロクロミック層に含まれる無機酸化物に対して吸着させるために、ホスホン酸基及びリン酸基の少なくともいずれかを有する化合物であることがより好ましい。
【0090】
還元反応によって発色するエレクトロクロミック材料としては、例えば、以下に示すような例示化合物などが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
<その他の部材>
前記その他の部材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、支持体、絶縁性多孔質層、劣化防止層、保護層、白色反射層などが挙げられる。
【0095】
-支持体-
前記支持体としては、各層を支持できる透明材料で形成され、各層を支持することができる構造であれば、その形状、構造、大きさ、材質などの特に限定はなく、目的に応じて適宜選択することができる。1
【0096】
前記支持体の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平板形状、曲面を有する形状などが挙げられる。
前記支持体の構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記支持体の大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0097】
前記支持体の材質としては、透明であればよく、周知の有機材料及び無機材料をそのまま用いることができ、例えば、無アルカリガラス、硼珪酸ガラス、フロートガラス、及びソーダ石灰ガラス等のガラス基板、並びに、ポリカーボネイト樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、及びポリイミド樹脂等の樹脂基板などが挙げられる。
【0098】
なお、前記支持体の表面に、水蒸気バリア性、ガスバリア性、紫外線耐性、及び視認性を高めるために、透明絶縁層、UVカット層、反射防止層などを施してもよい。
【0099】
-絶縁性多孔質層-
前記絶縁性多孔質層は、前記第1の電極層と前記第2の電極層とが電気的に絶縁されるように隔離すると共に、電解質を保持する機能を有する。前記絶縁性多孔質層の材料としては、多孔質であれば特に制限はなく、適宜選択することができるが、絶縁性及び耐久性が高く成膜性に優れた有機材料や無機材料、及びそれらの複合体を用いることが好ましい。
前記絶縁性多孔質層の形成方法としては、例えば、焼結法(高分子微粒子や無機粒子を、バインダ等を添加して部分的に融着させ粒子間に生じた孔を利用する)、抽出法(溶剤に可溶な有機物又は無機物類と溶剤に溶解しないバインダ等で構成層を形成した後に、溶剤で有機物又は無機物類を溶解させ細孔を得る)、発泡させる発泡法、良溶媒と貧溶媒を操作して高分子類の混合物を相分離させる相転換法、各種放射線を輻射して細孔を形成させる放射線照射法などが挙げられる。
【0100】
-劣化防止層-
前記劣化防止層の役割は、前記エレクトロクロミック層と逆の化学反応をし、電荷のバランスをとって前記第1の電極層や前記第2の電極層が不可逆的な酸化還元反応により腐食や劣化することを抑制することである。なお、逆反応とは、劣化防止層が酸化還元する場合に加え、キャパシタとして作用することも含む。
前記劣化防止層の材料としては、前記第1の電極層及び第2の電極層の不可逆的な酸化還元反応による腐食を防止する役割を担う材料であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸化アンチモン錫や酸化ニッケル、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、又はそれらを複数含む導電性又は半導体性金属酸化物などが挙げられる。
前記劣化防止層は、電解質の注入を阻害しない程度の多孔質薄膜から構成することができ、例えば、酸化アンチモン錫、酸化ニッケル、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫等の導電性又は半導体性金属酸化物微粒子を、例えば、アクリル系、アルキド系、イソシアネート系、ウレタン系、エポキシ系、フェノール系等のバインダー樹脂により第2の電極に固定化することで、電解質の浸透性と、劣化防止層としての機能を満たす、好適な多孔質薄膜を得ることができる。
【0101】
-保護層-
前記保護層の役割は、外的応力や洗浄工程の薬品から素子を守ることや、電解質の漏洩を防ぐこと、大気中の水分や酸素など前記エレクトロクロミック素子が安定的に動作するために不要なものの侵入を防ぐことなどである。
前記保護層の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1μm以上200μm以下が好ましい。
前記保護層の材料としては、例えば、紫外線硬化型や熱硬化型の樹脂を用いることができ、具体的には、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂などが挙げられる。
【0102】
本発明のエレクトロクロミック素子は、下記数式1で表される消色率が95%以上であることが好ましく、97%以上であることがより好ましい。
[数式1]
消色率(%)=(T2/T1)×100
エレクトロクロミック素子の対向する一対の電極間に1.2Vの電圧を1時間印加して発色駆動した後、一対の電極間を30分間短絡して消色駆動した際における発色駆動前の視感透過率をT1とし、消色駆動後の視感透過率をT2とする。
【0103】
ここで、本発明のエレクトロクロミック素子の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0104】
<第1の実施形態>
図1は、第1の実施形態に係るエレクトロクロミック素子の一例を示す概略図である。この
図1のエレクトロクロミック素子は、第1の電極1と、第1の電極上に設けられたエレクトロクロミック層2と、第2の電極5と、第2の電極上に無機酸化物を含む電気化学的に活性な層4と、エレクトロクロミック層と第2の電極との間に電解質層3とを有する。
【0105】
<第2の実施形態>
図2は、第2の実施形態に係るエレクトロクロミック素子の一例を示す概略図である。この
図2のエレクトロクロミック素子は、電気化学的に活性な層4は、対向エレクトロクロミック層(第2のエレクトロクロミック層)6となる。第1の電極1に接する第1のエレクトロクロミック層2と第2のエレクトロクロミック層6は発消色の変化を同時に起こすことが求められる。したがって、第1のエレクトロクロミック層2が酸化反応によって発色するため、第2のエレクトロクロミック層6は還元反応によって発色するエレクトロクロミック材料を含むことが好ましい。
【0106】
(エレクトロクロミック調光装置)
本発明のエレクトロクロミック調光装置は、本発明の前記エレクトロクロミック素子を有し、更に必要に応じてその他の部材を有する。
その他の手段としては、特に制限はなく、用途に応じて適宜選択することができ、例えば、電源、固定手段、制御手段などが挙げられる。
前記エレクトロクロミック調光装置としては、例えば、防眩ミラー、調光ガラス、調光眼鏡、双眼鏡、オペラグラス、自転車用ゴーグル、時計などが挙げられる。
【0107】
(エレクトロクロミック表示装置)
本発明のエレクトロクロミック表示装置は、本発明のエレクトロクロミック素子を有し、更に必要に応じてその他の手段を有する。
その他の手段としては、特に制限はなく、用途に応じて適宜選択することができ、例えば、電源、固定手段、制御手段などが挙げられる。
エレクトロクロミック装置としては、例えば、電子ペーパー、電子アルバム、電子広告板、表示ディスプレイなどが挙げられる。
【実施例】
【0108】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0109】
(実施例1)
<エレクトロクロミック素子の作製>
-第一の電極及びエレクトロクロミック層の形成-
透明支持体として40mm×40mm、平均厚み0.7mmのガラス基板を準備した。透明支持体上にITO膜をスパッタ法により平均厚み約100nmに製膜して、第1の電極を形成した。第1の電極のシート抵抗は40Ω/□であった。
次に、ポリエチレンオキサイドジアクリレート(PEG400DA、日本化薬株式会社製)と、光重合開始剤(IRG184、BASF社製)と、下記構造式Aで表されるトリアリールアミン化合物と、下記構造式Bで表されるトリアリールアミン化合物と、シクロヘキサノン(関東化学株式会社製)とを質量比(20:1:14:6:500)で混合させてエレクトロクロミック溶液を作製した。
次に、第1の電極上に、作製したエレクトロクロミック溶液を塗布し、窒素雰囲気下、紫外線照射により硬化させ、エレクトロクロミック層をITO膜表面のエレクトロクロミック反応領域(30mm×30mm)に形成した。エレクトロクロミック層の平均厚みは1.3μmであった。
【0110】
【0111】
【0112】
-第2の電極の形成-
第1の電極と同様に、40mm×40mm、平均厚み0.7mmのガラス基板上に、ITO膜をスパッタ法により平均厚み約100nmに製膜して、第2の電極を形成した。
【0113】
-電気化学的に活性な層の形成-
酸化スズ粒子分散液(メタノール分散、固形分濃度50質量%、平均粒子径:18nm)に増粘材を添加して、スクリーン印刷法により上記第2の電極上に塗布した。更に120℃で15分間アニール処理を行うことによって、平均厚み約3.5μmの酸化スズ粒子膜を得て、ITO膜表面のエレクトロクロミック反応領域(30mm×30mm)に電気化学的に活性な層を形成した。
【0114】
-電解質層の形成-
ポリエチレングリコールジアクリレート(PEG400DA、日本化薬株式会社製)と、光重合開始剤(IRG184、BASF社製)と、電解質(1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビスフルオロスルホンイミド、関東化学株式会社製)とを質量比100:5:100で混合して電解質前駆体とし、その電解質前駆体と塩基性化合物(ポリ(4-ビニルピリジン)、重量平均分子量(Mw)60,000、Sigma-Aldrich社製)を、質量比(電解質前駆体:塩基性化合物)=100:0.05で混合した溶液を、ガラス基板上のエレクトロクロミック層上に、ディスペンス装置を用いて塗布し、上記電気化学的に活性な層を有するガラス基板と真空貼り合せ装置を用いて貼り合わせ、紫外線(UV)硬化させて電解質層を形成した。
その後、素子外周をUV接着剤(フォトレックE、低透湿タイプ、積水化学工業株式会社製)によって封止した。以上により、
図1に示すような実施例1のエレクトロクロミック素子を作製した。
【0115】
(実施例2)
実施例1において、以下に示すように、酸化スズ粒子層に対し追加の処理を施すことによって、第2のエレクトロクロミック層を形成した以外は、実施例1と同様にして、
図2に示すような実施例2のエレクトロクロミック素子を作製した。
<第2のエレクトロクロミック層の形成>
実施例1と同様な工程で得られた酸化スズ粒子層に対し、下記構造式Cで表される還元反応性のエレクトロクロミック化合物を2.0質量%含む、2,2,3,3-テトラフロロプロパノール溶液をスピンコート法により塗布した後、120℃で10分間アニール処理を行うことにより、酸化スズ粒子層に吸着させて、還元反応性の第2のエレクトロクロミック層を形成した。
【0116】
【0117】
(実施例3、5、7、14、15、20、22、31、33、及び35)
実施例1において、表1及び表2に示すように電解質層に用いた塩基性化合物の種類と質量比(電解質前駆体:塩基性化合物B)を変更した以外は、実施例1と同様にして、
図1に示すような実施例3、5、7、14、15、20、22、31、33、及び35のエレクトロクロミック素子を作製した。
【0118】
(実施例49)
実施例1において、電気化学的に活性な層の形成方法を以下のように変更した以外は、実施例1と同様にして、
図1に示すような実施例49のエレクトロクロミック素子を作製した。
<電気化学的に活性な層の形成>
酸化チタンナノ粒子分散液(商品名:SP210、昭和タイタニウム株式会社製、平均粒子径:約20nm)を、スピンコート法により上記第2の電極上に塗布した。更に120℃で15分間アニール処理を行うことによって、平均厚み約2.5μmの酸化チタン粒子膜を得て、ITO膜表面のエレクトロクロミック反応領域(30mm×30mm)に電気化学的に活性な層を形成した。
【0119】
(実施例51)
実施例1において、電解質層の形成を以下のように変更した以外は、実施例1と同様にして、
図1に示すような実施例51のエレクトロクロミック素子を作製した。
<電解質層の形成>
ジメトキシポリエチレングリコール(ユニオックスMM400、日油株式会社製)と、電解質(1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビスフルオロスルホンイミド、関東化学株式会社製)とを質量比100:100で混合して電解質前駆体とし、その電解質前駆体と塩基性化合物(ポリ(4-ビニルピリジン)、重量平均分子量(Mw)60,000、Sigma-Aldrich社製)を、質量比(電解質前駆体:塩基性化合物)=100:0.05で混合した溶液を、ガラス基板上のエレクトロクロミック層上に、ディスペンス装置を用いて塗布し、上記電気化学的に活性な層を有するガラス基板と真空貼り合せ装置を用いて貼り合わせて電解質層を形成した。
【0120】
(実施例52~54)
実施例51において、表3に示すように電解質層に用いた塩基性化合物の種類と質量比(電解質前駆体:塩基性化合物B)を変更した以外は、実施例51と同様にして、
図1に示すような実施例52~54のエレクトロクロミック素子を作製した。
【0121】
(実施例4、6、8~13、16~19、21、23~30、32、34、及び36~48)
実施例2において、表1及び表2に示すように電解質層に用いた塩基性化合物の種類と質量比(電解質前駆体:塩基性化合物B)を変更した以外は、実施例2と同様にして、
図2に示すような実施例4、6、8~13、16~19、21、23~30、32、34、及び36~48のエレクトロクロミック素子を作製した。
【0122】
(実施例50)
実施例2において、電気化学的に活性な層の形成方法を以下のように変更した以外は、実施例2と同様にして、
図2に示すような実施例50のエレクトロクロミック素子を作製した。
<電気化学的に活性な層の形成>
酸化チタンナノ粒子分散液(商品名:SP210、昭和タイタニウム株式会社製、平均粒子径:約20nm)を、スピンコート法により上記第2の電極上に塗布した。更に120℃で15分間アニール処理を行うことによって、平均厚み約2.5μmの酸化チタン粒子膜を得て、ITO膜表面のエレクトロクロミック反応領域(30mm×30mm)に電気化学的に活性な層を形成した。
【0123】
(実施例55)
実施例2において、電解質層の形成を以下のように変更した以外は、実施例2と同様にして、
図2に示すような実施例55のエレクトロクロミック素子を作製した。
<電解質層の形成>
ジメトキシポリエチレングリコール(ユニオックスMM400、日油株式会社製)と、電解質(1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビスフルオロスルホンイミド、関東化学株式会社製)とを質量比100:100で混合して電解質前駆体とし、その電解質前駆体と塩基性化合物(ポリ(4-ビニルピリジン)、重量平均分子量(Mw)60,000、Sigma-Aldrich社製)を、質量比(電解質前駆体:塩基性化合物)=100:0.05で混合した溶液を、ガラス基板上のエレクトロクロミック層上に、ディスペンス装置を用いて塗布し、上記電気化学的に活性な層を有するガラス基板と真空貼り合せ装置を用いて貼り合わせて電解質層を形成した。
【0124】
(実施例56~71)
実施例55において、表3に示すように電解質層に用いた塩基性化合物の種類と質量比(電解質前駆体:塩基性化合物B)を変更した以外は、実施例55と同様にして、
図2に示すような実施例56~71のエレクトロクロミック素子を作製した。
【0125】
(比較例1)
実施例1において、表2に示すように電解質層に塩基性化合物を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、
図1に示すような比較例1のエレクトロクロミック素子を作製した。
【0126】
(比較例2)
実施例2において、表2に示すように電解質層に塩基性化合物を添加しなかった以外は、実施例2と同様にして、
図2に示すような比較例2のエレクトロクロミック素子を作製した。
【0127】
(比較例3)
実施例2において、表2に示すように電解質層に酸性化合物であるリン酸エチル(東京化成工業株式会社製)を用いた以外は、実施例2と同様にして、
図2に示すような比較例3のエレクトロクロミック素子を作製した。
【0128】
(比較例4)
実施例51において、表3に示すように電解質層に塩基性化合物を添加しなかった以外は、実施例51と同様にして、
図1に示すような比較例4のエレクトロクロミック素子を作製した。
【0129】
(比較例5)
実施例55において、表3に示すように電解質層に塩基性化合物を添加しなかった以外は、実施例55と同様にして、
図2に示すような比較例5のエレクトロクロミック素子を作製した。
【0130】
次に、作製した各エレクトロクロミック素子について、以下のようにして、発消色駆動試験を行った。結果を表1~表3した。
【0131】
<発消色駆動試験>
作製した各エレクトロクロミック素子において、対向する1対の電極間に一定の電圧(1.2V)を1時間印加して発色させた(発色駆動)。その後、電極間を30分間短絡して消色させた(消色駆動)。以上の発色駆動と消色駆動を行った前後での素子の視感透過率をOcean Optics社製のUSB4000を用いて測定した透過スペクトルより算出した。
発消色駆動試験前の視感透過率をT1、発消色駆動試験後の視感透過率をT2とし、下記数式1によって消色率A[%]を算出した。消え残り現象が全く発生せず完全に色を消せた場合は、発消色駆動試験前後で視感透過率が変化しないため、T1とT2は同じ値となり消色率Aが100%となる。消色率Aの値が100に近いほど消え残り現象の無いエレクトロクロミック素子が得られる。
[数式1]
消色率A(%)=(T2/T1)×100
【0132】
[判定基準]
〇:消色率Aが95%以上であり、適切に色を消すことができた
×:消色率Aが95%未満であり、色を消すことができず消え残り現象が発生した
【0133】
【0134】
【0135】
【0136】
表1~表3の結果から、実施例1~71は電解質層中に塩基性化合物を含有することによって、消え残り現象の発生が防止でき、その結果、長寿命なエレクトロクロミック素子が実現できることがわかった。
【0137】
本発明の態様としては、例えば、以下のとおりである。
<1> 第1の電極と、
前記第1の電極上に設けられたエレクトロクロミック層と、
第2の電極と、
前記エレクトロクロミック層と前記第2の電極との間に電解質層と、
を有し、
前記電解質層が塩基性化合物を含むことを特徴とするエレクトロクロミック素子である。
<2> 前記塩基性化合物がピリジン骨格を有する化合物である、前記<1>に記載のエレクトロクロミック素子である。
<3> 前記塩基性化合物が塩基性ポリマーである、前記<1>から<2>のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子である。
<4> 前記塩基性化合物がポリビニルピリジンである、前記<1>から<3>のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子である。
<5> 前記第2の電極上に無機酸化物を含む電気化学的に活性な層を有する、前記<1>から<4>のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子である。
<6> 前記無機酸化物が酸化スズである、前記<5>に記載のエレクトロクロミック素子である。
<7> 前記電気化学的に活性な層がエレクトロクロミック材料を含む、前記<5>から<6>のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子である。
<8> 前記エレクトロクロミック材料がホスホン酸基及びリン酸基の少なくともいずれかを有する化合物である、前記<7>に記載のエレクトロクロミック素子である。
<9> 前記エレクトロクロミック材料がビオロゲン誘導体である、前記<7>から<8>のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子である。
<10> 下記数式1で表される消色率が95%以上である、前記<1>から<9>のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子である。
[数式1]
消色率(%)=(T2/T1)×100
エレクトロクロミック素子の対向する一対の電極間に1.2Vの電圧を1時間印加して発色駆動した後、一対の電極間を30分間短絡して消色駆動した際における発色駆動前の視感透過率をT1とし、消色駆動後の視感透過率をT2とする。
<11> 前記<1>から<10>のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子を含むことを特徴とするエレクトロクロミック表示装置である。
<12> 前記<1>から<10>のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子を含むことを特徴とするエレクトロクロミック調光装置である。
<13> 電解質及び塩基性化合物を含有することを特徴とする電解質組成物である。
<14> 前記塩基性化合物がピリジン骨格を有する化合物である、前記<13>に記載の電解質組成物である。
<15> 前記塩基性化合物が塩基性ポリマーである、前記<13>から<14>のいずれかに記載の電解質組成物である。
<16> 前記塩基性化合物がポリビニルピリジンである、前記<13>から<15>のいずれかに記載の電解質組成物である。
<17> 前記塩基性化合物の含有量が0.01質量%以上2質量%以下である、前記<13>から<16>のいずれかに記載の電解質組成物である。
<18> 液状、ゲル状又は固体状である、前記<13>から<17>のいずれかに記載の電解質組成物である。
<19> エレクトロクロミック素子に用いられる、前記<13>から<18>のいずれかに記載の電解質組成物である。
【0138】
前記<1>から<10>のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子、前記<11>に記載のエレクトロクロミック表示装置、前記<12>に記載のエレクトロクロミック調光装置、及び前記<13>から<19>のいずれかに記載の電解質組成物によると、従来における諸問題を解決し、本発明の目的を達成することができる。
【符号の説明】
【0139】
1 第1の電極
2 エレクトロクロミック層(第1のエレクトロクロミック層)
3 電解質層
4 電気化学的に活性な層
5 第2の電極
6 対向エレクトロクロミック層(第2のエレクトロクロミック層)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0140】
【文献】特許第6597373号公報
【文献】米国特許第6188505号公報