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  • 特許-研磨用組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】研磨用組成物
(51)【国際特許分類】
   C03C 19/00 20060101AFI20241203BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20241203BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20241203BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20241203BHJP
【FI】
C03C19/00 Z
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
H01L21/304 622B
B24B37/00 H
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021086958
(22)【出願日】2021-05-24
(65)【公開番号】P2022180055
(43)【公開日】2022-12-06
【審査請求日】2023-05-24
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鎗田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】原田 大実
(72)【発明者】
【氏名】松井 晴信
(72)【発明者】
【氏名】竹内 正樹
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-069260(JP,A)
【文献】国際公開第2016/132676(WO,A1)
【文献】特開2019-039004(JP,A)
【文献】特開2009-297814(JP,A)
【文献】特開2019-089692(JP,A)
【文献】特表2012-500766(JP,A)
【文献】特開2000-199739(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 3/00-3/60
21/00-39/06
C03C 15/00-23/00
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロイダルシリカ粒子(ただし、アニオン性官能基を担持したコロイダルシリカ粒子を除く)を含むコロイダルシリカと、pH調整剤と、キレート剤とを含有する研磨用組成物であって、
前記研磨用組成物中に存在するコロイダルシリカ粒子の並進運動を動的光散乱法によってレーザー測定することにより得られる散乱光強度の時間依存性を表すI(t)から、下記式(1)
【数1】
(式中、Tは散乱光強度の測定時間、I(t)は任意の時tにおける散乱光強度、I(t+τ)は、前記任意の時tから所定の時間τ経過後の散乱光強度である。)
により算出されるG2(τ)を、周波数f=1/τに変数変換することにより得られる自己相関関数G2(f)の最大値が、周波数fが0.001MHz以上1MHz以下の領域において1.40以上であることを特徴とする研磨用組成物。
【請求項2】
前記研磨用組成物中に存在するコロイダルシリカ粒子のゼータ電位が-40mV以上-5mV以下であることを特徴とする請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記コロイダルシリカ粒子の、ガス吸着法により測定される比表面積から算出される平均一次粒子径DA1が5nm以上50nm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記コロイダルシリカに含まれるコロイダルシリカ粒子の、動的光散乱法により測定される平均二次粒子径DA2を、前記平均一次粒子径DA1で除して求められる会合度P=DA2/DA1が1.8以下であることを特徴とする請求項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記研磨用組成物中に存在するコロイダルシリカ粒子の多分散指数が0.3以下であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記研磨用組成物中のコロイダルシリカ粒子の濃度が10質量%以上40質量%以下であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
前記研磨用組成物中のpH調整剤の濃度が0.1質量%以上10質量%以下であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
pHが8以上10.5以下であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
前記研磨用組成物中のキレート剤の濃度が0.1質量%以上10質量%以下であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項10】
SiO2を主成分とするガラス基板の研磨用であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiO2を主成分とするガラス基板等のマスクブランクス用基板の表面研磨、特に、EUVリソグラフィ用のマスクブランクス用基板の表面研磨に好適な研磨用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、従来の紫外線によるフォトリソグラフィより更に微細なパターンの形成を実現するため、EUV(Extreme Ultra Violet、以下、「EUV」と略す。)光を用いた露光技術であるEUVリソグラフィ(以下、「EUVL」と略す。)が注目されている。EUV光とは、波長が0.2~100nm程度の軟X線領域又は真空紫外領域の波長帯域の光であり、EUVLで用いられる転写マスクとしては、反射型マスクが実用されている。このような反射型マスクに用いられるマスクブランクス用基板には、表面粗さ、平坦度、微小欠陥数が極めて低減された表面をもつことが求められる。
【0003】
このようなマスクブランクス用基板の表面品質は、研磨工程の最終段(以下、最終研磨と称する。)で用いられる研磨剤の特性が大きく影響する。マスクブランクス用基板の最終研磨用の研磨剤としては、コロイダルシリカ分散液が広く用いられてきたが、EUVL用のマスクブランクス用基板の表面に求められる、極めて低減された表面粗さと微小欠陥数を実現するためには、従来使用されてきたものよりコロイダルシリカ粒子の径が更に小さいコロイダルシリカ分散液を使用する必要がある。
【0004】
例えば、特開2006-35413号公報(特許文献1)には、平均一次粒子径が5nm以上20nm未満の微小なコロイダルシリカ粒子と水と酸とを含み、pHが0.5~4の範囲となるように調整されたスラリーで、EUVL用の反射型マスク用のSiO2を主成分とするガラス基板の表面を、表面粗さが極めて小さく、平滑で表面精度が高い表面に研磨する方法が記載されている。
【0005】
また、国際公開第2013/146990号(特許文献2)には、触媒基準エッチングCARE(Catalyst-Referred Etching、以下、「CARE」と略す。)によってガラス基板表面の高空間周波数領域の粗さを低減する方法が記載されている。CAREは触媒に吸着している処理液中の分子から生成された活性種によって基板表面の凸部を除去し、表面粗さを低減する方法である。国際公開第2013/146990号では、CAREにより、主表面を構成する凹凸(表面粗さ)が、非常に高い平滑性を維持しつつ、非常に揃った表面形態となり、しかも、ガラス基板の表面が、基準面に対して凸部よりも凹部を構成する割合が高い形態となるため、主表面の欠陥サイズが小さくなる傾向となることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-35413号公報
【文献】国際公開第2013/146990号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特開2006-35413号公報に記載されているように、平均一次粒子径が5nm以上20nm未満の微小なコロイダルシリカ粒子を用いれば、表面粗さをある程度まで低減することが可能であるが、平均一次粒子径が上記範囲にあっても、会合度が高い会合型のコロイダルシリカ粒子を使用した場合には、EUVL用のマスクブランクス用基板の表面に必要な表面粗さを得ることは難しい。また、平均一次粒子径が小さいコロイダルシリカ粒子は、平均一次粒子径が大きいものと比較して、SiO2を主成分とするガラス基板の表面に固着し易く、超音波洗浄やスクラブ洗浄等の物理的除去方法で除去することが困難である。
【0008】
更に、pHが0.5~4の酸性研磨条件では、ガラス基板表面のゼータ電位の絶対値が小さくなり、コロイダルシリカ粒子やスラリー中に存在する微小異物が研磨中に、SiO2を主成分とするガラス基板表面に強く固着し易くなるために、洗浄工程でそれらを除去することは、更に困難である。従って、この場合、コロイダルシリカ粒子や微小異物の除去には、表面粗さを悪化させるエッチング性が高い洗浄が必要となり、結果として、EUVL用のマスクブランクス用基板の表面に求められる、表面粗さと微小欠陥の低減との両立が非常に難しい。実際に、特開2006-35413号公報に記載されているガラス基板は、表面粗さが十分には低減されず、表面粗さRMSは最小でも0.09nm程度となっており、EUVL用のマスクブランクス用基板の表面品質として十分とは言えない。
【0009】
一方、国際公開第2013/146990号に記載されているCAREは、化学研磨であり、この方法は、砥粒を用いた研磨と比べて加工効率が低く、加工に長時間を要する。実際に、国際公開第2013/146990号の実施例5では、CAREの加工時間として50分間を要している。また、汎用の方法である砥粒を用いる研磨に用いられている装置とは全く別の研磨機構を適用した装置を必要とし、更に、触媒として、非常に高価なPtを用いている。そのため、CAREは、生産性が低く、また、経済性にも劣っている。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、SiO2を主成分とするガラス基板等の基板の表面研磨、特に、EUVL用のマスクブランクス用基板の表面研磨に好適であり、高平坦、低欠陥で、表面粗さが小さい表面を有する基板を、生産性よく製造することができる研磨用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、コロイダルシリカ粒子を含むコロイダルシリカと、pH調整剤と、キレート剤とを含有する研磨用組成物、特に、研磨用組成物中に存在するコロイダルシリカ粒子に関し、所定の式から算出される自己相関関数G2(f)の最大値が、周波数fが0.001MHz以上1MHz以下の領域において1.40以上である研磨用組成物を、基板表面の研磨に用いることで、高平坦、低欠陥で、表面粗さが小さい表面を有する基板を、安価に生産性よく製造できること、更に、この研磨用組成物を、基板表面の最終研磨に用いることが特に効果的であることを見出し、本発明をなすに至った。
【0012】
従って、本発明は、以下の研磨用組成物を提供する。
.コロイダルシリカ粒子(ただし、アニオン性官能基を担持したコロイダルシリカ粒子を除く)を含むコロイダルシリカと、pH調整剤と、キレート剤とを含有する研磨用組成物であって、
前記研磨用組成物中に存在するコロイダルシリカ粒子の並進運動を動的光散乱法によってレーザー測定することにより得られる散乱光強度の時間依存性を表すI(t)から、下記式(1)
【数1】
(式中、Tは散乱光強度の測定時間、I(t)は任意の時tにおける散乱光強度、I(t+τ)は、前記任意の時tから所定の時間τ経過後の散乱光強度である。)
により算出されるG2(τ)を、周波数f=1/τに変数変換することにより得られる自己相関関数G2(f)の最大値が、周波数fが0.001MHz以上1MHz以下の領域において1.40以上であることを特徴とする研磨用組成物。
.前記研磨用組成物中に存在するコロイダルシリカ粒子のゼータ電位が-40mV以上-5mV以下であることを特徴とする1に記載の研磨用組成物。
.前記コロイダルシリカ粒子の、ガス吸着法により測定される比表面積から算出される平均一次粒子径DA1が5nm以上50nm以下であることを特徴とする1又は2に記載の研磨用組成物。
.前記コロイダルシリカに含まれるコロイダルシリカ粒子の、動的光散乱法により測定される平均二次粒子径DA2を、前記平均一次粒子径DA1で除して求められる会合度P=DA2/DA1が1.8以下であることを特徴とするに記載の研磨用組成物。
.前記研磨用組成物中に存在するコロイダルシリカ粒子の多分散指数が0.3以下であることを特徴とする1~のいずれかに記載の研磨用組成物。
.前記研磨用組成物中のコロイダルシリカ粒子の濃度が10質量%以上40質量%以下であることを特徴とする1~のいずれかに記載の研磨用組成物。
.前記研磨用組成物中のpH調整剤の濃度が0.1質量%以上10質量%以下であることを特徴とする1~のいずれかに記載の研磨用組成物。
.pHが8以上10.5以下であることを特徴とする1~のいずれかに記載の研磨用組成物。
.前記研磨用組成物中のキレート剤の濃度が0.1質量%以上10質量%以下であることを特徴とする1~のいずれかに記載の研磨用組成物。
10.SiO2を主成分とするガラス基板の研磨用であることを特徴とする1~のいずれかに記載の研磨用組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明の研磨用組成物は、研磨後の洗浄において除去が容易であり、本発明の研磨用組成物を用いた表面研磨により、高平坦、低欠陥で、表面粗さが小さい表面を有する基板を、安価に生産性よく製造でき、SiO2を主成分とするガラス基板等のマスクブランクス用基板、特に、EUVL用のマスクブランクス用基板として好適な、高い表面品質を有する基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1~4及び比較例1の研磨用組成物中のコロイダルシリカ粒子の自己相関関数G2(f)の値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の研磨用組成物は、コロイダルシリカ粒子を含むコロイダルシリカ(コロイダルシリカ分散液)と、pH調整剤と、キレート剤とを含有する。コロイダルシリカは、コロイダルシリカ粒子(コロイド状シリカ粒子)を含む水分散液である。コロイダルシリカ粒子の合成法は特に制限されるものではないが、金属のコンタミネーションを低減する観点から、アルコキシシラン等の有機シリケート化合物等を加水分解することによって生成させた高純度のものが好ましい。コロイダルシリカとしては、市販品を使用することができる。市販のものとしては、例えば扶桑化学工業(株)製GPシリーズ、PLシリーズ、BSシリーズ等が挙げられる。
【0016】
コロイダルシリカ粒子の平均一次粒子径DA1は、研磨後の基板表面に残留した研磨用組成物中のコロイダルシリカ粒子の除去のし易さや、表面粗さ及び凹状欠陥の低減と、研磨効率とを両立させる観点から5nm以上であることが好ましく、50nm以下、特に30nm以下であることが好ましい。なお、コロイダルシリカ粒子の平均一次粒子径DA1は、ガス吸着法により測定された比表面積(例えば、BET比表面積)から算出することができる。この場合、比表面積は、研磨用組成物とする前のコロイダルシリカを用い、コロイダルシリカ粒子を乾燥状態として測定することができる。
【0017】
コロイダルシリカに含まれるコロイダルシリカ粒子の平均二次粒子径DA2(この平均二次粒子径は、研磨用組成物とする前のコロイダルシリカ粒子を含む水分散液の状態でのコロイダルシリカ粒子の平均二次粒子径である。)を、平均一次粒子径DA1で除して求められる会合度P=DA2/DA1が1.8以下、特に1.3以下であることが好ましい。なお、コロイダルシリカ粒子の平均二次粒子径DA2は、コロイダルシリカ粒子の一次粒子が会合して形成された二次粒子(例えば、コロイダルシリカ粒子の一次粒子の合成時に一次粒子が会合して二次粒子が形成される。)の平均粒子径を意味しているので、会合度Pが1より低くなることはない。会合度Pは、理論上は1以上であるが、実用上の下限は、一般的には1.1以上である。
【0018】
会合度Pには、コロイダルシリカ粒子の形状が反映されており、会合度Pの高低は、通常、コロイダルシリカ粒子の合成条件に依存する。一般に、コロイダルシリカ粒子の会合度Pが1に近いほど、より真球に近い粒子形状となり、基板表面に求められる表面粗さ及び凹状欠陥の低減を実現する上で有利となる。一方、形状に異方性をもつ粒子の割合が高くなることで、研磨後の基板の表面形状の不均一性が増すため、表面粗さの悪化や凹状欠陥の発生につながることを抑制するために、会合度Pは1.8以下であることが好ましい。なお、コロイダルシリカ粒子の平均二次粒子径DA2は動的光散乱法により測定することができる。この場合、動的光散乱法による測定は、研磨用組成物とする前のコロイダルシリカ粒子を含む水分散液を用いて(水中にコロイダルシリカ粒子が分散している状態で)測定することができる。
【0019】
本発明の研磨用組成物は、研磨効率が低下することによる生産性の悪化や、研磨後の基板表面に付着するコロイダルシリカ粒子が増加することによる洗浄工程での負荷の増大を抑制するため、研磨用組成物中のコロイダルシリカ粒子の濃度が10質量%以上であることが好ましく、40質量%以下、特に30質量%以下であることが好ましい。
【0020】
pH調整剤としては、特に限定されるものではないが、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、塩基性塩類、アミン類、アンモニア等を使用することができる。具体例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、ホウ酸ナトリウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン等が挙げられる。これらの中でも、水と任意の比率で均一に混和し、金属イオンとキレート錯体を形成し得るジエタノールアミン、トリエタノールアミンが好ましい。pH調整剤は、単独で使用しても、複数種を組み合わせて使用してもよい。また、研磨用組成物の増粘を抑えつつ、研磨用組成物のpHを望ましい範囲に調整する観点から、研磨用組成物中のpH調整剤の濃度は、0.1質量%以上であることが好ましく、10質量%以下、特に5質量%以下であることが好ましい。
【0021】
本発明の研磨用組成物のpHは、研磨用組成物中のコロイダルシリカ粒子の良好な分散安定性を得るため、また、基板表面のゼータ電位の絶対値が小さくなることでコロイダルシリカ粒子や研磨用組成物中に存在する微小異物が研磨中に基板表面に強く固着し易くなることに起因する洗浄性の悪化を抑制する観点から8以上であることが好ましく、8.5以上であることがより好ましい。一方、基板の表面粗さが悪化することでEUVL用マスクブランクス用基板の表面に求められる表面粗さが得難くなることを抑制する観点から、研磨用組成物のpHは10.5以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。
【0022】
キレート剤としては、特に限定されるものではないが、アルドン酸類、アミノカルボン酸類、ヒドロキシカルボン酸類、ホスホン酸類及びこれらの塩等を使用することができる。具体例としては、グルコン酸、グルコヘプトン酸、ニトリロ三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、クエン酸、リンゴ酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、ピロリン酸及びこれらの塩等が挙げられる。これらの中でも、クエン酸、リンゴ酸等のヒドロキシカルボン酸類、ニトリロ三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸等のアミノカルボン酸類が好ましく、研磨環境から完全に除去することが難しい金属イオンと安定なキレート錯体を形成するクエン酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸がより好ましい。キレート剤は、単独で使用しても、複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
研磨用組成物中に金属イオンが存在すると、コロイダルシリカ粒子の分散を著しく阻害し、基板表面へのコロイダルシリカ粒子の固着や研磨キズの原因となる粗大粒子の発生を促進する。研磨用組成物がキレート剤を含むことで、金属イオンの影響を抑制することができる。また、金属イオンの影響を十分に抑制しつつ、コロイダルシリカ粒子の分散安定性を確保する観点から、研磨用組成物中のキレート剤の濃度は、0.1質量%以上であることが好ましく、10質量%以下、特に5質量%以下、とりわけ1質量%以下であることが好ましい。
【0024】
コロイダルシリカに、pH調整剤とキレート剤とを加えることで、コロイダルシリカ中のコロイダルシリカ粒子の表面を取り囲む電気二重層に変化が生じ、コロイダルシリカ粒子の表面の性質が、pH調整剤とキレート剤とを加えていないコロイダルシリカ中のコロイダルシリカ粒子とは全く異なるものとなる。
【0025】
本発明の研磨用組成物は、研磨用組成物中に存在するコロイダルシリカ粒子の並進運動を動的光散乱法によってレーザー測定することにより得られる散乱光強度の時間依存性(時間的ゆらぎ)を表すI(t)から、下記式(1)
【数2】
(式中、Tは散乱光強度の測定時間、I(t)は任意の時tにおける散乱光強度、I(t+τ)は、前記任意の時tから所定の時間τ経過後の散乱光強度である。)
により算出されるG2(τ)を、周波数f=1/τに変数変換することにより得られる自己相関関数G2(f)の最大値が、周波数fが0.001MHz以上1MHz以下の領域において1.40以上、特に1.45以上であることが好ましい。
【0026】
周波数fが0.001MHz以上1MHz以下の領域における自己相関関数G2(f)の最大値が1.40未満であると、研磨後に基板表面に残留したコロイダルシリカ粒子を超音波洗浄によって除去することが困難となる場合がある。G2(τ)を周波数f=1/τに変数変換することで得られるG2(f)は、研磨用組成物中のコロイダルシリカ粒子の並進運動の特徴を周波数の観点から把握する上で有益である。これは、研磨用組成物中でコロイダルシリカ粒子同士がどの程度集まって存在しているかを示す指標であるということができる。基板の超音波洗浄において用いられる周波数帯である1kHz(0.001MHz)~1MHzの領域におけるG2(f)の最大値が1.4以上となるように研磨用組成物の各成分の濃度を調整することで、平均一次粒子径が小さいコロイダルシリカ粒子を含む場合でも、研磨後の基板表面に付着したコロイダルシリカ粒子を超音波洗浄によって除去し易くなる。
【0027】
本発明の研磨用組成物中に存在するコロイダルシリカ粒子のゼータ電位(コロイダルシリカ粒子の、研磨用組成物中に存在している状態でのゼータ電位)は、コロイダルシリカ粒子の分散安定性が低いことによる研磨中の凝集やゲル化の進行を防ぐ観点から、-5mV以下であることが好ましく、-10mV以下であることがより好ましい。なお、ゼータ電位が0mVを超えると、ガラス基板のようなマイナスに帯電した基板の場合、表面に、研磨用組成物中のコロイダルシリカ粒子が強く固着し、洗浄によって除去することが困難となりやすく、ゼータ電位が-5mVを超えて0mV以下の範囲であっても、同様の傾向がある。また、ゼータ電位が低いほど、コロイダルシリカ粒子の分散安定性は高くなるものの、分散安定性が高いと、基板表面に研磨用組成物中のコロイダルシリカ粒子が単独で(一次粒子の状態で)固着して、洗浄性が悪化するおそれがあり、これを抑制する観点から、研磨用組成物中に存在するコロイダルシリカ粒子のゼータ電位は-40mV以上であることが好ましく、-35mV以上であることがより好ましい。
【0028】
本発明の研磨用組成物中に存在するコロイダルシリカ粒子の多分散指数(コロイダルシリカ粒子の、研磨用組成物中に存在している状態での多分散指数)は、二次粒子の粒子径が不均一であることに起因して研磨後の基板の表面形状が不均一となることによる表面粗さの悪化、凹状欠陥の増加を抑制する観点から、0.3以下、特に0.2以下であることが好ましい。なお、多分散指数は、二次粒子の粒子径の均一性を示す指標であり、動的光散乱法により測定することができる。多分散指数は、理論上は0以上であるが、実用上の下限は、一般的には0.01以上である。
【0029】
本発明の研磨用組成物は、SiO2を主成分とするガラス基板等の基板の研磨、特に、最終研磨(仕上げ研磨)の研磨剤として好適に用いることができる。EUV光を用いて微細なパターンを描画をするリソグラフィ技術に用いられるマスクブランクス用基板として、一般に、SiO2を主成分とするガラス基板が用いられるが、本発明の研磨用組成物を用いた表面研磨は、特に、SiO2を主成分とするガラス基板の表面研磨において、高平坦、低欠陥で、表面粗さが小さい表面を形成することができる。SiO2を主成分とするガラス基板としては、特に限定されるものではないが、SiO2からなる合成石英ガラス基板、チタニアドープ合成石英ガラス基板(例えば、合成石英ガラスにチタニアを5~10質量%の濃度でドープしたチタニアドープ合成石英ガラス基板)が挙げられる。特に、EUVLでの露光工程では、熱膨張係数の小さい基板を用いる必要があることから、チタニアドープ合成石英ガラス基板は、EUVL用のマスクブランクス用基板として好適である。
【0030】
基板は、素材に応じて、所定のサイズに切り出し、必要に応じて更に加工して、表面研磨される。例えば、SiO2を主成分とするガラス基板等のガラス基板であれば、例えば、素材のガラスインゴットを成型、アニール、スライス加工、面取り、ラッピングして原料基板とする。原料基板の研磨は、例えば、粗研磨工程、粗研磨した基板の表面の平坦度を測定する平坦度測定工程、部分研磨工程、最終研磨工程により製造することができる。表面品質を決定する最終研磨工程において、本発明の研磨用組成物を用いることが特に効果的である。なお、研磨剤を用いた研磨としては、バッチ式の両面研磨が一般的であるが、本発明の研磨用組成物を用いた研磨は、バッチ式の研磨でも枚葉式の研磨でもよく、また、両面研磨でも片面研磨でもよい。
【0031】
本発明の研磨用組成物を用いて研磨されたSiO2を主成分とするガラス基板は、半導体関連電子材料用に好適に用いることができ、特に、リソグラフィ技術の分野で最先端プロセスとされるEUVL用マスクブランクス用基板に求められる低欠陥(例えば、132mm×132mmの主表面において、34nm以上の欠陥数が5点以下)のマスクブランクス用基板として好適である。
【実施例
【0032】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0033】
[実施例1]
平均一次粒子径DA1が14nm、平均二次粒子径DA2が18nm、会合度P=DA2/DA1が1.3であるコロイダルシリカ粒子を含むコロイダルシリカに、pH調整剤としてトリエタノールアミン、キレート剤としてクエン酸を添加し、コロイダルシリカ粒子濃度が20質量%、pH調整剤濃度が0.3質量%、キレート剤濃度が0.1質量%の研磨用組成物を調製した。
【0034】
研磨用組成物中に存在するコロイダルシリカ粒子の並進運動を動的光散乱法によってレーザー測定することにより得られる散乱光強度の時間依存性を表すI(t)から、下記式(1)
【数3】
(式中、Tは散乱光強度の測定時間、I(t)は任意の時tにおける散乱光強度、I(t+τ)は、前記任意の時tから所定の時間τ経過後の散乱光強度である。)
により算出されるG2(τ)を、周波数f=1/τに変数変換することにより得られる自己相関関数G2(f)を求めた。結果を図1に示す。周波数fが0.001MHz以上1MHz以下の領域における、自己相関関数G2(f)の最大値は1.46であった。また、研磨用組成物中に存在するコロイダルシリカ粒子のゼータ電位は-35mV、多分散指数は0.04であり、研磨用組成物のpHは8.2であった。
【0035】
得られた研磨用組成物を用いて、チタニアドープ合成石英ガラス基板(152mm×152mm、厚さ6.35mm)4枚の主表面(両面)の最終研磨(仕上げ研磨)を行った。軟質のスェード製研磨布を用い、研磨圧は100gf/cm2(約9.81kPa)、研磨時間は30分間、研磨取代は、粗研磨工程で入ったキズを除去するのに十分な量(0.1μm以上)とした。
【0036】
研磨後、基板を洗浄・乾燥し、原子間力顕微鏡(オックスフォード・インストゥルメンツ社製)を用いて、被研磨面の表面粗さ(RMS)を測定したところ、表面粗さは平均で56pmであった。また、フォトマスク用平面度測定機(TROPEL社製)を用いて、被研磨面の平坦度(TIR)を測定したところ、平坦度は平均で19nmであった。更に、レーザーコンフォーカル光学系高感度欠陥検査装置(レーザーテック(株)製)を用いて、被研磨面の欠陥検査を実施したところ、34nm以上の欠陥は平均で1.5個であった。この欠陥の形状を原子間力顕微鏡で観察したところ、凹状欠陥が平均で0.75個、凸状欠陥が平均で0.75個であった。
【0037】
[実施例2]
pH調整剤濃度を3.0質量%、キレート剤濃度を1.0質量%とした以外は実施例1と同様にして研磨用組成物を調製した。実施例1と同様に、自己相関関数G2(f)を求めた。結果を図1に示す。周波数fが0.001MHz以上1MHz以下の領域における、自己相関関数G2(f)の最大値は1.50であった。また、研磨用組成物中に存在するコロイダルシリカ粒子のゼータ電位は-30mV、多分散指数は0.04であり、研磨用組成物のpHは8.5であった。
【0038】
得られた研磨用組成物を用いて、実施例1と同様に、チタニアドープ合成石英ガラス基板の最終研磨(仕上げ研磨)を行った。研磨後、実施例1と同様に、被研磨面の表面粗さ(RMS)及び平坦度(TIR)を測定したところ、表面粗さは平均で55pm、平坦度は平均で20nmであった。また、実施例1と同様に、被研磨面の欠陥検査を実施したところ、34nm以上の欠陥は平均で3.50個であった。この欠陥の形状を原子間力顕微鏡で観察したところ、凹状欠陥が平均で0.50個、凸状欠陥が平均で3.0個であった。
【0039】
[実施例3]
pH調整剤をジエタノールアミンとした以外は実施例2と同様にして研磨用組成物を調製した。実施例1と同様に、自己相関関数G2(f)を求めた。結果を図1に示す。周波数fが0.001MHz以上1MHz以下の領域における、自己相関関数G2(f)の最大値は1.46であった。また、研磨用組成物中に存在するコロイダルシリカ粒子のゼータ電位は-29mV、多分散指数は0.03であり、研磨用組成物のpHは9.4であった。
【0040】
得られた研磨用組成物を用いて、実施例1と同様に、チタニアドープ合成石英ガラス基板の最終研磨(仕上げ研磨)を行った。研磨後、実施例1と同様に、被研磨面の表面粗さ(RMS)及び平坦度(TIR)を測定したところ、表面粗さは平均で58pm、平坦度は平均で22nmであった。また、実施例1と同様に、被研磨面の欠陥検査を実施したところ、34nm以上の欠陥は平均で3.00個であった。この欠陥の形状を原子間力顕微鏡で観察したところ、凹状欠陥が平均で0.75個、凸状欠陥が平均で2.25個であった。
【0041】
[実施例4]
キレート剤をジエチレントリアミン五酢酸とした以外は実施例2と同様にして研磨用組成物を調製した。実施例1と同様に、自己相関関数G2(f)を求めた。結果を図1に示す。周波数fが0.001MHz以上1MHz以下の領域における、自己相関関数G2(f)の最大値は1.46であった。また、研磨用組成物中に存在するコロイダルシリカ粒子のゼータ電位は-19mV、多分散指数は0.03であり、研磨用組成物のpHは8.4であった。
【0042】
得られた研磨用組成物を用いて、実施例1と同様に、チタニアドープ合成石英ガラス基板の最終研磨(仕上げ研磨)を行った。研磨後、実施例1と同様に、被研磨面の表面粗さ(RMS)及び平坦度(TIR)を測定したところ、表面粗さは平均で55pm、平坦度は平均で21nmであった。また、実施例1と同様に、被研磨面の欠陥検査を実施したところ、34nm以上の欠陥は平均で4.0個であった。この欠陥の形状を原子間力顕微鏡で観察したところ、凹状欠陥が平均で0.50個、凸状欠陥が平均で3.50個であった。
【0043】
[比較例1]
pH調整剤及びキレート剤をいずれも添加せずに、平均一次粒子径DA1が14nm、平均二次粒子径DA2が18nm、会合度P=DA2/DA1が1.3であるコロイダルシリカ粒子を含むコロイダルシリカのみで、コロイダルシリカ粒子濃度が20質量%の研磨用組成物を調製した。実施例1と同様に、自己相関関数G2(f)を求めた。結果を図1に示す。周波数fが0.001MHz以上1MHz以下の領域における、自己相関関数G2(f)の最大値は1.35であった。また、研磨用組成物中に存在するコロイダルシリカ粒子のゼータ電位は-44mV、多分散指数は0.32であり、研磨用組成物のpHは7.7であった。
【0044】
得られた研磨用組成物を用いて、実施例1と同様に、チタニアドープ合成石英ガラス基板の最終研磨(仕上げ研磨)を行った。研磨後、実施例1と同様に、被研磨面の表面粗さ(RMS)及び平坦度(TIR)を測定したところ、表面粗さは平均で65pm、平坦度は平均で25nmであった。また、実施例1と同様に、被研磨面の欠陥検査を実施したところ、34nm以上の欠陥は平均で299.00個であった。この欠陥の形状を原子間力顕微鏡で観察したところ、凹状欠陥が平均で1.25個、凸状欠陥が平均で297.75個であった。
図1