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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】レンズ鏡筒及び撮像装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 7/04 20210101AFI20241203BHJP
   G02B 7/08 20210101ALI20241203BHJP
【FI】
G02B7/04 D
G02B7/04 E
G02B7/08 B
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021129472
(22)【出願日】2021-08-06
(65)【公開番号】P2023023703
(43)【公開日】2023-02-16
【審査請求日】2024-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100136261
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 俊成
(72)【発明者】
【氏名】徳川 智之
(72)【発明者】
【氏名】浜崎 拓司
(72)【発明者】
【氏名】井上 住吉
【審査官】門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-054265(JP,A)
【文献】特開2007-218393(JP,A)
【文献】特開2019-151318(JP,A)
【文献】特開2011-028092(JP,A)
【文献】特開2010-139916(JP,A)
【文献】特開2009-205106(JP,A)
【文献】特開2009-134249(JP,A)
【文献】特開平04-141610(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0232014(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0108760(KR,A)
【文献】特開2012-053202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/02-7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源と、
第1ねじ溝が形成され、前記駆動源によって回転駆動されるリードスクリューと、
前記第1ねじ溝と係合する第2ねじ溝が形成された第1係合部と、前記第1ねじ溝と係合する第3ねじ溝が形成された第2係合部と、第4ねじ溝が形成された補助部と、を有し、前記リードスクリューの回転に伴って前記リードスクリューの軸方向に移動するナットと、
前記ナットの回転を規制する回転規制軸と、
第1レンズを保持する第1レンズ保持枠と、
前記ナットが前記第1レンズ保持枠と当接するように前記ナットを付勢する第1付勢部と、
を備え、
前記第2ねじ溝の位相は、前記第3ねじ溝の位相と異なり、
前記第4ねじ溝は、前記ナットが前記リードスクリューの回転に伴って前記リードスクリューの軸方向に移動している間は、前記第1ねじ溝から離間しており
前記ナットにおいて、前記補助部は、前記リードスクリューの軸方向において前記第1係合部及び前記第2係合部とは異なる位置に配置され、
前記ナットを前記リードスクリューの軸方向から見た場合、前記第1係合部及び前記第2係合部は前記リードスクリューの一部を囲んでおらず、前記補助部は少なくとも前記リードスクリューの前記一部を囲む、
レンズ鏡筒。
【請求項2】
前記リードスクリューの軸方向と直交する方向において、前記第1係合部および前記第2係合部を前記リードスクリューに向かって付勢する第2付勢部を備える、
請求項1記載のレンズ鏡筒。
【請求項3】
前記ナットと前記第2付勢部の間に、前記第2付勢部を係止する係止部が配置され、
前記第2付勢部は、前記係止部を介して前記第1係合部と前記第2係合部を付勢する
請求項2に記載のレンズ鏡筒。
【請求項4】
前記第2ねじ溝の位相と、前記第3ねじ溝の位相と、及び前記第4ねじ溝の位相と、は互いに異なる、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のレンズ鏡筒。
【請求項5】
前記第1係合部、前記補助部、及び前記第2係合部は、光軸に沿って、前記第1係合部、前記補助部、前記第2係合部の順に配置されている、
請求項1から請求項のいずれか1項記載のレンズ鏡筒。
【請求項6】
前記ナットを前記リードスクリューの軸方向から見た場合、前記ナットは、前記第1係合部と、前記第2係合部と、前記補助部とにより、全体として前記リードスクリューの全周を囲む、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のレンズ鏡筒。
【請求項7】
前記ナットは一体成型されている、
請求項1から請求項のいずれか1項記載のレンズ鏡筒。
【請求項8】
前記第1ねじ溝は、光軸方向において対向する第1フランク面および第2フランク面を有し、前記第2ねじ溝は前記第1フランク面と当接し、前記第3ねじ溝は前記第2フランク面と当接する、
請求項1から請求項のいずれか1項記載のレンズ鏡筒。
【請求項9】
前記第2ねじ溝および前記第3ねじ溝は、前記リードスクリューの軸を中心とする円弧状に延伸している、
請求項1から請求項のいずれか1項記載のレンズ鏡筒。
【請求項10】
前記第2ねじ溝と前記第3ねじ溝とは、前記第1ねじ溝と円周方向に面接触して係合する、
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のレンズ鏡筒。
【請求項11】
前記第2ねじ溝と前記第3ねじ溝とは、前記リードスクリューの半周にわたって前記第1ねじ溝と係合する、
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載のレンズ鏡筒。
【請求項12】
前記回転規制軸は、前記第1レンズ保持枠に保持され、
前記回転規制軸の長さは、前記リードスクリューの長さと略等しい、
請求項1から請求項11のいずれか1項記載のレンズ鏡筒。
【請求項13】
前記第1レンズ保持枠は、光軸を中心とする円の周方向に突出し前記回転規制軸を支持する支持部を有し、
前記支持部は前記回転規制軸の端部に配置される、
請求項12に記載のレンズ鏡筒。
【請求項14】
前記第1付勢部は、前記ナットと前記支持部とが離れる方向に前記ナットを付勢する、
請求項13に記載のレンズ鏡筒。
【請求項15】
操作環と、
第2レンズを保持し、前記操作環の操作により光軸方向に移動可能な第2レンズ保持枠と、を備え、
前記駆動源に電力が供給されていない状態において、前記操作環の操作により前記第2レンズ保持枠が移動したとき、前記第1レンズ保持枠と前記第2レンズ保持枠と接触した場合であっても、前記支持部と前記ナットとは衝突しない
請求項13又は請求項14に記載のレンズ鏡筒。
【請求項16】
請求項1から請求項15のいずれか1項記載のレンズ鏡筒を備える撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ鏡筒及び撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズを光軸方向に移動させるために、例えば、モータに取り付けられたリードスクリューと、リードスクリューに係合するねじ溝が形成されたナットと、を備える駆動装置が用いられている(例えば、特許文献1)。レンズの高精度な位置制御が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-7938号公報
【発明の概要】
【0004】
第1の態様によれば、レンズ鏡筒は、駆動源と、第1ねじ溝が形成され、前記駆動源によって回転駆動されるリードスクリューと、前記第1ねじ溝と係合する第2ねじ溝が形成された第1係合部と、前記第1ねじ溝と係合する第3ねじ溝が形成された第2係合部と、第4ねじ溝が形成された補助部と、を有し、前記リードスクリューの回転に伴って前記リードスクリューの軸方向に移動するナットと、前記ナットの回転を規制する回転規制軸と、第1レンズを保持する第1レンズ保持枠と、前記ナットが前記第1レンズ保持枠と当接するように前記ナットを付勢する第1付勢部と、を備え、前記第2ねじ溝の位相は、前記第3ねじ溝の位相と異なり、前記第4ねじ溝は、前記ナットが前記リードスクリューの回転に伴って前記リードスクリューの軸方向に移動している間は、前記第1ねじ溝から離間しており前記ナットにおいて、前記補助部は、前記リードスクリューの軸方向において前記第1係合部及び前記第2係合部とは異なる位置に配置され、前記ナットを前記リードスクリューの軸方向から見た場合、前記第1係合部及び前記第2係合部は前記リードスクリューの一部を囲んでおらず、前記補助部は少なくとも前記リードスクリューの前記一部を囲む
【0005】
第2の態様によれば、撮像装置は、上記レンズ鏡筒を備える。
【0006】
なお、後述の実施形態の構成を適宜改良しても良く、また、少なくとも一部を他の構成物に代替させても良い。更に、その配置について特に限定のない構成要件は、実施形態で開示した配置に限らず、その機能を達成できる位置に配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施形態に係るレンズ鏡筒と、カメラボディと、を備えるカメラを示す断面図である。
図2図2(A)は、第5レンズ保持枠と、駆動源ユニットと、を示す斜視図であり、図2(B)は、第5レンズ保持枠と、駆動源ユニットと、を図2(A)において矢印A1で示す方向から見た図である。
図3図3(A)は、第5レンズ保持枠と、駆動源ユニットの各構成と、の関係を示す断面図であり、図3(B)は、ばねの斜視図であり、図3(C)は、図3(A)のA-A線断面図である。
図4図4(A)及び図4(B)は、ナットの斜視図であり、図4(C)は、図4(A)の部分断面図であり、図4(D)は、ナットをリードスクリューの軸方向から見た断面図である。
図5図5は、リードスクリューのねじ溝と、第1係合部のねじ溝、第2係合部のねじ溝、および補助部のねじ溝と、の係合状態を示す断面図である。
図6図6(A)は、ズーム状態で至近に合焦した状態における第4レンズ保持枠と第5レンズ保持枠との位置関係を示す図であり、図6(B)は、図6(A)の状態における第5レンズ保持枠の状態を示す図である。図6(C)は、図6(A)の状態において、カメラの電源をオフした後、ズーム操作環の操作によってワイド状態にしたときの第4レンズ保持枠と第5レンズ保持枠との位置関係を示す図であり、図6(D)は、図6(C)の状態における第5レンズ保持枠の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、一実施形態に係るレンズ鏡筒について、図面を参照し、詳細に説明する。なお、実施形態に示す各部の形状や、長さ、厚みなどの縮尺は必ずしも実物と一致するものではなく、また、各図において、理解を容易にするため、一部の要素の図示を省略している場合がある。また、断面図において一部の要素のハッチングを省略している場合がある。
【0009】
図1は、本実施形態に係るレンズ鏡筒2と、カメラボディ3と、を備えるカメラ1を示す断面図である。なお、図1では、中心線より上側にワイド(広角)状態を、下側にテレ(望遠)状態を示している。
【0010】
カメラ1は、カメラボディ3とレンズ鏡筒2とを備える。レンズ鏡筒2は、後部(基端部)にレンズマウントLMが設けられ、カメラボディ3のボディマウント(不図示)と係合することで、カメラボディ3に着脱可能に装着されている。なお、本実施形態において、レンズ鏡筒2は、カメラボディ3に対して着脱可能であるが、これに限定されず、レンズ鏡筒2とカメラボディ3とは一体であってもよい。
【0011】
カメラボディ3は、内部に撮像素子IS及び制御部(不図示)等を備えている。撮像素子ISは、たとえばCCD(Charge Coupled Device)等の光電変換素子によって構成され、結像光学系(カメラボディ3に装着されたレンズ鏡筒2)によって結像された被写体像を電気信号に変換する。
【0012】
制御部は、CPU(Central Processing Unit)等を備え、カメラボディ3及び装着されたレンズ鏡筒2における合焦駆動、及び手振れなどによる撮像画像のブレ補正を含む撮影に係る当該カメラ1全体の動作を統括制御する。
【0013】
図1に示すように、本実施形態に係るレンズ鏡筒2は、共通の光軸OAに沿って順次配列された第1レンズ群L1~第7レンズ群L7を備え、焦点距離が変更可能ないわゆるズームレンズである。なお、レンズ鏡筒2は、ズームレンズに限定されるものではなく、焦点距離が変更できない単焦点のレンズであってもよい。また、第1レンズ群L1~第7レンズ群L7はそれぞれ、1枚のレンズで構成されていてもよいし、複数のレンズで構成されていてもよい。
【0014】
第1レンズ群L1~第7レンズ群L7は、ズーミング時に光軸OA方向に移動する。また、第5レンズ群L5は、フォーカシング時に移動するフォーカスレンズ群である。なお、フォーカスレンズ群は複数あってもよい。例えば、第6レンズ群L6もフォーカスレンズ群としても良い。
【0015】
第1レンズ群L1は第1レンズ保持枠F1に保持され、第2レンズ群L2は第2レンズ保持枠F2に保持され、第3レンズ群L3は第3レンズ保持枠F3に保持され、第4レンズ群L4は第4レンズ保持枠F4に保持されている。また、第5レンズ群L5は第5レンズ保持枠F5に保持され、第6レンズ群L6は第6レンズ保持枠F6に保持され、第7レンズ群L7は第7レンズ保持枠F7に保持されている。
【0016】
レンズ鏡筒2は、外固定筒21と、外固定筒21の外周に設けられたズーム操作環22と、を備える。ズーム操作環22の内周側には、外周側から順に、ズーム連動環23と、第1レンズ群L1(第1レンズ保持枠F1)を保持する第1群鏡筒24と、カム筒25と、内固定筒26と、が配置されている。
【0017】
ズーム連動環23外周側にはピン(不図示)が設けられ、当該ピンは、ズーム操作環22の内周面に光軸方向へ形成された溝と係合する。これにより、ズーム操作環22の回転は、ズーム連動環23へ伝達される。
【0018】
カム筒25の外周側にはピン(不図示)が設けられ、当該ピンによってカム筒25とズーム連動環23は固定される。また、カム筒25にはカム筒25自身を回転繰出しさせるカム溝25aが形成されており、内固定筒26に固定されたピン32bと係合している。これにより、ズーム操作環22が回転すると、ズーム連動環23及びカム筒25は光軸OAまわりに回転しながら光軸OA方向へ移動する。
【0019】
カム筒25には、カム溝25a以外にも複数のカム溝が形成されている。第1群鏡筒24の内周側にはピン(不図示)が設けられ、当該ピンは内固定筒26に設けられた直進溝とカム筒25に設けられたカム溝との両方に係合している。そのため、第1群鏡筒24は、カム筒25の回転に連動して光軸OA方向へ直進移動する。
【0020】
また、第3レンズ保持枠F3の外周側に設けられたピンP2と、第4レンズ保持枠F4の外周側に設けられたピンP3と、は、内固定筒26に設けられた直進溝とカム筒25に設けられたカム溝との両方に係合している。これにより、カム筒25の回転に連動して、第3レンズ保持枠F3と、第4レンズ保持枠F4と、は、光軸OAまわりに回転することなく光軸OA方向に直進移動する。
【0021】
第5レンズ保持枠F5は、駆動源ユニット200によって駆動される。以下、第5レンズ保持枠F5と、駆動源ユニット200と、について詳細に説明する。
【0022】
図2(A)は、第5レンズ保持枠F5と、駆動源ユニット200と、を示す斜視図であり、図2(B)は、第5レンズ保持枠F5と、駆動源ユニット200と、を図2(A)において矢印A1で示す方向から見た図である。図3(A)は、第5レンズ保持枠F5と、駆動源ユニット200の各構成と、の関係を示す断面図であり、図3(B)は、ばね310の斜視図であり、図3(C)は、図3(A)のA-A線断面図である。
【0023】
まず、第5レンズ保持枠F5の構成について説明する。図2(A)及び図2(B)に示すように、第5レンズ保持枠F5は、第5レンズ群L5を保持する筒部240を有し、筒部240の外周部には、第5レンズ保持枠F5を光軸OA方向に案内するための第1案内部210と、第5レンズ保持枠F5の回転方向の動きを抑制するための第2案内部220と、が設けられている。
【0024】
図2(B)に示すように、第1案内部210は光軸OA方向に延在し、光軸OA方向において対向する第1端部210aと第2端部210bとを有する。第1端部210aおよび第2端部210bには、貫通孔210cが形成されている。貫通孔210cには、ガイドバー301が挿通される。
【0025】
ガイドバー301は、光軸OAと平行に第3レンズ保持枠F3に固定されている。貫通孔210cが摺動することで、第5レンズ保持枠F5は光軸OA方向に案内される。
【0026】
一方、第2案内部220は、サブガイドバー302と係合する。サブガイドバー302は、第3レンズ保持枠F3に固定され、第5レンズ保持枠F5の回転方向の動きを抑制する。
【0027】
図2(B)に示すように、第5レンズ保持枠F5は、回転規制バー支持部211を有する。回転規制バー支持部211は、第1案内部210から、光軸OAを中心とする円の周方向に突出する、第1支持部211aと、第2支持部211bと、を有する。第1支持部211aと第2支持部211bとは、後述する駆動源ユニット200が備える回転規制バー206を支持する。
【0028】
次に、駆動源ユニット200について説明する。図2(A)及び図2(B)に示すように、駆動源ユニット200は、ステッピングモータ201と、リードスクリュー202と、ナット203と、取付部材205と、回転規制バー206と、を備える。
【0029】
取付部材205は、ステッピングモータ201に固定され、リードスクリュー202を回転可能に支持する。取付部材205には、図2(B)に示すように複数の穴205aが形成されており、ビスなどによって、取付部材205を第3レンズ保持枠F3にビス止めすることによって、駆動源ユニット200が第3レンズ保持枠F3に固定される。
【0030】
リードスクリュー202は、ステッピングモータ201の出力軸に直結され、ステッピングモータ201によって回転駆動される。リードスクリュー202は、光軸OA方向に伸びており、リードスクリュー202の外周には、ねじ溝202aが形成されている。
【0031】
リードスクリュー202には、ナット203が係合している。図4(A)及び図4(B)は、ナット203の斜視図であり、図4(C)は、図4(A)の部分断面図であり、図4(D)は、ナット203をリードスクリュー202の軸AX1方向から見た断面図である。
【0032】
ナット203は、例えば樹脂製の一体成型品で、リードスクリュー202のねじ溝202aに係合するねじ溝231aが形成された第1係合部231と、ねじ溝202aに係合するねじ溝232aが形成された第2係合部232と、を有する。
【0033】
第1係合部231及び第2係合部232は、ハーフナット状になっている。すなわち、第1係合部231及び第2係合部232は、リードスクリュー202の軸AX1方向から見た場合にC字形状(半環状)となっており、その内周面にねじ溝231aおよびねじ溝232aがそれぞれ形成されている。このため、ねじ溝231aおよびねじ溝232aは、リードスクリュー202の軸AX1を中心とする円弧状に延伸している。より具体的には、本実施形態では、ねじ溝231aおよびねじ溝232aは、リードスクリュー202の半周を囲むように、円弧上に延伸している。
【0034】
また、ナット203は、ねじ溝233aが形成された補助部233を有する。補助部233のねじ溝233aは、ナット203がリードスクリュー202の回転に伴ってリードスクリュー202の軸AX1方向に移動しているときには、リードスクリュー202とは係合しない(離間した状態を維持する)ようになっている。なお、ねじ溝233aは、例えば、リードスクリュー202の半周を取り囲むように形成されていてもよいし、全周を取り囲むように形成されていてもよい。
【0035】
本実施形態において、第1係合部231が有するねじ溝231aの位相と、第2係合部232が有するねじ溝232aの位相とは、異なっている。この点について、説明する。図5は、リードスクリュー202のねじ溝202aと、第1係合部231のねじ溝231a、第2係合部232のねじ溝232a、および補助部233のねじ溝233aと、の係合状態を示す断面図である。
【0036】
図5に示すように、本実施形態において、リードスクリュー202のねじ溝202aは、光軸OA方向において対向する第1フランク面204aと、第2フランク面204bと、を有する。第1係合部231のねじ溝231aは、第2フランク面204bに当接し、第2係合部232のねじ溝232aは、第1フランク面204aに当接する。言い換えると、第1係合部231のねじ溝231aは、カメラボディ3側の面がねじ溝202aと接触し、第2係合部232のねじ溝232aは、被写体側の面がねじ溝202aと接触する。
【0037】
例えば、ナット203がカメラボディ3側から被写体側へ光軸OA方向に移動した後、被写体側からカメラボディ3側へと移動する場合を考える。この場合において、第1係合部231のねじ溝231aの位相と、第2係合部232のねじ溝232aの位相と、が同位相である場合、ナット203の移動方向が変わるときに、リードスクリュー202と第1係合部231および第2係合部232との間には隙間があるため、ナット203がリードスクリュー202に追従するまでに遅れが生じてしまう。言い換えると、ねじ溝231aの位相と、ねじ溝232aの位相と、が同位相である場合、リードスクリュー202と第1係合部231および第2係合部232との間にはガタが生じるため、ナット203の移動方向を反転した場合には、ガタ分の遅れが生じてしまう。
【0038】
一方、本実施形態では、第1係合部231のねじ溝231aは、カメラボディ3側の面がねじ溝202aと接触するように形成されており、第2係合部232のねじ溝232aは、被写体側の面がねじ溝202aと接触するように形成されている。このため、ナット203が光軸OA方向において被写体側及びカメラボディ3側のいずれの方向に移動する場合にも、第1係合部231のねじ溝231a又は第2係合部232のねじ溝232aのいずれかが、リードスクリュー202のねじ溝202aと接触しているため(リードスクリュー202のねじ溝202aとの間に隙間が生じないため)、ナット203がリードスクリュー202に追従するまでに遅延が生じない。これにより、第5レンズ保持枠F5の光軸OA方向の移動精度を向上させることができ、第5レンズ群L5の位置制御精度が向上する。
【0039】
本実施形態において、過剰拘束を避けるために、補助部233が有するねじ溝233aは、被写体側およびカメラボディ3側のいずれの面も、ねじ溝202aに接触しないように形成されている。このため、第1係合部231のねじ溝231aの位相と、第2係合部232のねじ溝232aの位相と、及び補助部233のねじ溝233aの位相とは、互いに異なっている。
【0040】
なお、補助部233が有するねじ溝233aは、通常時には、ねじ溝202aと接触しないようになっているが、例えば、ナット203又は第5レンズ保持枠F5に衝撃等が加わり、ナット203とリードスクリュー202とが軸AX1方向に相対的に移動しようとする場合には、ねじ溝202aと接触するようになっている。これにより、ねじ溝231aおよび232aに加えて、ねじ溝233aもリードスクリュー202と接触することにより、ナット203がリードスクリュー202から受ける力を受け止めることができ、衝撃等によってナット203が歯飛びしてしまう事態を防止することができる。
【0041】
図4(A)及び図4(B)に戻り、ナット203は、回転規制バー206と係合するフォーク部234を有する。フォーク部234は、二股になっており、図2(B)に示すように、回転規制バー206を挟みこむ。これにより、ナット203は、回転規制バー206によって回転が制限され、ステッピングモータ201によってリードスクリュー202が回転されると、光軸OA方向に直進移動される。
【0042】
図2(A)及び図2(B)に示すように、ナット203のフォーク部234と第5レンズ保持枠F5の第2支持部211bとの間にはばね310が設けられている。ばね310には、回転規制バー206が挿通されている。
【0043】
図3(B)に示すように、ばね310は、圧縮コイルばね部310bと、ねじりばね部310aと、を備える。
【0044】
圧縮コイルばね部310bは、第2支持部211bとナット203とを互いに離間させる方向に、第2支持部211bとナット203とを付勢する。これにより、第1支持部211aがナット203に押し付けられ、また、ナット203は、圧縮コイルばね部310bの圧縮荷重によって第1支持部211aに向かって押圧される。
【0045】
ナット203が第1支持部211aに押し付けられるため、ナット203が光軸OA方向に移動すると、第5レンズ保持枠F5がナット203と一体となって光軸OA方向に移動する。これにより、リードスクリュー202を回転駆動させることによって、第5レンズ保持枠F5を光軸OA方向に駆動することができる。
【0046】
図2(B)に示すように、ばね310とナット203との間には、係止部311が設けられており、図3(C)に示すように、ばね310のねじりばね部310aは、係止部311に係止されている。係止部311は、図3(C)に示すように、ナット203に形成された収容部203bに、その一部が収容されている。
【0047】
図3(C)に示すように、ねじりばね部310aは、係止部311を矢印A11の方向に付勢する。その結果、ナット203が矢印A13の方向に付勢される。これにより、第1係合部231のねじ溝231aおよび第2係合部232のねじ溝232aは、リードスクリュー202のねじ溝202aに密着するため、リードスクリュー202とナット203との間のガタが抑制される。ねじりばね部310aは、係止部311を介して、軸AX1と垂直な方向に、ナット203をリードスクリュー202に向かって付勢するため、ナット203には光軸OA方向には負荷がかからない。これにより、ステッピングモータ201への負荷を増加させることなく、リードスクリュー202とナット203との間のガタを抑制することができる。
【0048】
次に、回転規制バー206について説明する。図3(A)に示すように、回転規制バー206は、リードスクリュー202と平行となるように、即ち、光軸OA方向に延在するように、一端部が第5レンズ保持枠F5の第1支持部211aに支持され、他端部が第2支持部211bに支持されている。
【0049】
本実施形態において、回転規制バー206の光軸OA方向の長さは、リードスクリュー202の光軸OA方向の長さと略等しい。この理由について、図6(A)~図6(D)を用いて説明する。
【0050】
図6(A)は、ズーム状態で至近に合焦した状態における第4レンズ保持枠F4と第5レンズ保持枠F5との位置関係を示す図であり、図6(B)は、図6(A)の状態における第5レンズ保持枠F5の状態を示す図である。図6(C)は、図6(A)の状態において、カメラボディ3の電源をオフした後、ズーム操作環22の操作によってワイド状態にしたときの第4レンズ保持枠F4と第5レンズ保持枠F5との位置関係を示す図であり、図6(D)は、図6(C)の状態における第5レンズ保持枠F5の状態を示す図である。
【0051】
図6(A)に示すように、ズーム状態で至近に合焦した状態では、第4レンズ保持枠F4と第5レンズ保持枠F5とは接触しない。このため、図6(B)に示すように、ナット203は、ばね310により付勢されて第5レンズ保持枠F5の第1支持部211aに当接している。
【0052】
ここで、図6(A)の状態において、カメラボディ3の電源をオフした後、ズーム操作環22の操作によってワイド状態にしたとする。この場合、ズーム操作環22の操作に連動して回転するカム筒25により移動される第4レンズ保持枠F4の移動量が、第5レンズ保持枠F5の移動量よりも大きいため、第4レンズ保持枠F4が第5レンズ保持枠F5に衝突する。第5レンズ保持枠F5は、第4レンズ保持枠F4に押されて、カメラボディ3側に移動する。
【0053】
このとき、電源がオフされているため、リードスクリュー202と係合したナット203の位置は電源オフ時の位置から移動しない。そのため、第5レンズ保持枠F5がカメラボディ3側に移動するにつれて、第5レンズ保持枠F5の第2支持部211bがナット203に近づくことになる。このとき、回転規制バー206が短いと、ナット203と第5レンズ保持枠F5の第2支持部211bとが衝突し、第5レンズ保持枠F5が損傷してしまうおそれがある。そこで、本実施形態では、第4レンズ保持枠F4と第5レンズ保持枠F5とが衝突した場合にも、ナット203が第2支持部211bに衝突しないように、回転規制バー206をリードスクリュー202と略同じ長さにしている。これにより、電源オフ後のズーム操作環22の操作によって、第4レンズ保持枠F4と第5レンズ保持枠F5とが衝突した場合にも、第5レンズ保持枠F5が損傷することを防止することができる。
【0054】
ところで、リードスクリュー202と係合したナット203の位置が電源オフ時の位置に維持されたまま、第5レンズ保持枠F5がカメラボディ3側に移動すると、ナット203と第2支持部211bとの間のばね310が圧縮される。ばね310は、圧縮されるほど付勢力が強くなるため、図6(D)の状態では、ナット203には光軸OA方向に強い付勢力が加わる。
【0055】
ここで、例えば、本実施形態のナット203の代わりにラックを用いた場合、ラックが有するねじ溝とリードスクリュー202のねじ溝202aとは、線接触であるため、接触面積が小さい。そのため、光軸OA方向の大きな付勢力がラックに加わると、当該付勢力をラックのねじ溝によって受け止めきれず、ラックが歯飛びして異音が発生するおそれがある。
【0056】
一方、本実施形態では、ナット203のねじ溝231aおよびねじ溝232aは、リードスクリュー202の半周において、リードスクリュー202のねじ溝202aに係合している。これにより、ねじ溝231aおよびねじ溝232aがねじ溝202aと接触する面積がラックの場合よりも大きくなる。そのため、光軸OA方向に大きな付勢力が加わっている状態でも、ナット203は、電源オフ時の位置を維持することができ、ナット203が歯飛びして異音が発生するなどの事態を防止することができる。
【0057】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によれば、レンズ鏡筒2は、ステッピングモータ201と、ねじ溝202aが形成され、ステッピングモータ201によって回転駆動されるリードスクリュー202と、リードスクリュー202の回転に伴ってリードスクリュー202の軸AX1方向に移動するナット203と、ナット203の回転を規制する回転規制バー206と、第5レンズ群L5を保持する第5レンズ保持枠F5と、ナット203が第5レンズ保持枠F5と当接するようにナット203を付勢するばね310と、を備える。ナット203は、ねじ溝202aと係合するねじ溝231aが形成された第1係合部231と、ねじ溝202aと係合するねじ溝232aが形成された第2係合部232と、ねじ溝233aが形成された補助部233と、を有する。リードスクリュー202のねじ溝202aは、光軸OA方向において対向する第1フランク面204aと、第2フランク面204bと、を有する。第1係合部231のねじ溝231aは、第2フランク面204bに当接し、第2係合部232のねじ溝232aは、第1フランク面204aに当接する。補助部233のねじ溝233aは、ナット203がリードスクリュー202の回転に伴ってリードスクリューの軸AX1方向に移動している間は、リードスクリュー202のねじ溝202aから離間している。これにより、ナット203がカメラボディ3側及び被写体側のいずれの方向に移動する場合にも、ナット203が移動する方向に存在する面が第1係合部231又は第2係合部232のいずれかにおいてリードスクリュー202のねじ溝202aと接触する。そのため、ナット203がリードスクリュー202に追従するまでに遅延が生じず、第5レンズ保持枠F5の光軸OA方向の移動精度を向上させることができ、ひいては、第5レンズ群L5の位置制御精度が向上させることができる。
【0058】
また、本実施形態において、ばね310のねじりばね部310aは、リードスクリュー202の軸AX1方向と直交する方向において、第1係合部231および第2係合部232をリードスクリュー202に向かって付勢する。これにより、ナット203には光軸OA方向には負荷がかからないため、ステッピングモータ201への負荷を増加させることなく、リードスクリュー202とナット203との間のガタを抑制することができる。
【0059】
また、本実施形態において、ねじ溝231aの位相と、ねじ溝232aの位相と、ねじ溝233aの位相と、は互いに異なる。これにより、ナット203によりリードスクリュー202が過剰に拘束されるのを抑制することができる。
【0060】
また、本実施形態において、ナット203は一体成型されている。これにより、必要な強度を有するナット203を得ることができる。
【0061】
また、本実施形態において、ねじ溝231aおよびねじ溝232aは、リードスクリュー202の軸AX1を中心とする円弧状に延伸している。これにより、ねじ溝231aおよびねじ溝232aと、リードスクリュー202のねじ溝202aとの接触面積をラックと比較して大きくできるため、ラックと比較して歯飛びを抑制することができる。
【0062】
また、本実施形態において、レンズ鏡筒2は、ズーム操作環22と、第4レンズ群L4を保持し、ズーム操作環22の操作により光軸OA方向に移動可能な第4レンズ保持枠F4と、を備え、ステッピングモータ201に電力が供給されていない状態において、第5レンズ保持枠F5と第4レンズ保持枠F4とは接触する場合がある。また、回転規制バー206は、第5レンズ保持枠F5に保持され、回転規制バー206の長さは、リードスクリュー202の長さと略等しい。これにより、電源がオフの場合にズーム操作環22の操作により第5レンズ保持枠F5と第4レンズ保持枠F4とが接触する場合にも、第5レンズ保持枠F5が損傷するのを抑制することができる。
【0063】
なお、上記実施形態では、第1係合部231のねじ溝231aが、リードスクリュー202のねじ溝202aの第2フランク面204bに当接し、第2係合部232のねじ溝232aが、リードスクリュー202のねじ溝202aの第1フランク面204aに当接していたが、これに限られるものではない。例えば、第1係合部231のねじ溝231aが、リードスクリュー202のねじ溝202aの第1フランク面204aに当接し、第2係合部232のねじ溝232aが、リードスクリュー202のねじ溝202aの第2フランク面204bに当接していてもよい。言い換えると、第1係合部231のねじ溝231aが、被写体側の面がねじ溝202aと接触し、第2係合部232のねじ溝232aが、カメラボディ3側の面がねじ溝202aと接触していてもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、第1係合部231のねじ溝231aと第2係合部232のねじ溝232aとは、リードスクリュー202のねじ溝202aと接触していたが、第1係合部231のねじ溝231aと第2係合部232のねじ溝232aとは、リードスクリュー202のねじ溝202aと接触していなくてもよい。このような構成の場合、ねじ溝231aの位相と、ねじ溝232aの位相とが異なるため、例えば、ねじ溝231aとリードスクリュー202のねじ溝202aの第1フランク面204aとの間の距離は、ねじ溝232aと第1フランク面204aとの間の距離よりも短くなり、ねじ溝231aと第2フランク面204bとの間の距離は、ねじ溝232aと第2フランク面204bとの距離よりも長くなる。したがって、ナット203がカメラボディ3側及び被写体側のいずれの方向に移動する場合にも、第1係合部231又は第2係合部232の一方が、他方よりも先にリードスクリュー202のねじ溝202aと接触する。そのため、ナット203がリードスクリュー202に追従するまでの時間を短縮でき、第5レンズ保持枠F5の光軸OA方向の移動精度を向上させることができ、ひいては、第5レンズ群L5の位置制御精度が向上させることができる。
【0065】
また、上記実施形態において、ねじりばね部310aと、圧縮コイルばね部310bと、を有するばね310を使用していたが、これに限られるものではない。ねじりばね部310aと圧縮コイルばね部310bとは、別部材であってもよい。
【0066】
また、上記実施形態において、ナット203の第1係合部231のねじ溝231aと、第2係合部232のねじ溝232aと、は、リードスクリュー202の半周を囲むように円弧状に延伸していたが、これに限られるものではない。図6(A)~図6(D)で説明したように、ナット203に光軸OA方向の強い付勢力が加わっても、当該付勢力を受け止めて、ナット203の歯飛びを防止できる程度に、ねじ溝231aおよびねじ溝232aと、リードスクリュー202のねじ溝202aとの間の接触面積を確保できていればよい。例えば、ねじ溝231aおよびねじ溝232aは、リードスクリュー202の4分の1周を囲むように円弧状に延伸していてもよいし、8分の1周を囲むように円弧状に延伸していてもよい。
【0067】
上述した実施形態は好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能であり、任意の構成要件を組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 カメラ
2 レンズ鏡筒
3 カメラボディ
22 ズーム操作環
L4 第4レンズ群
L5 第5レンズ群
F4 第4レンズ保持枠
F5 第5レンズ保持枠
200 駆動源ユニット
201 ステッピングモータ
202 リードスクリュー
202a ねじ溝
203 ナット
204a 第1フランク面
204b 第2フランク面
206 回転規制バー
231 第1係合部
231a ねじ溝
232 第2係合部
232a ねじ溝
233 補助部
233a ねじ溝
310 ばね
310a ねじりばね部
310b 圧縮コイルばね部
図1
図2
図3
図4
図5
図6