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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】ガラス板用合紙
(51)【国際特許分類】
   B65D 85/48 20060101AFI20241203BHJP
   D21H 27/00 20060101ALI20241203BHJP
   G01N 23/223 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
B65D85/48
D21H27/00 Z
G01N23/223
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021138311
(22)【出願日】2021-08-26
(65)【公開番号】P2022041953
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2024-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2020145749
(32)【優先日】2020-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】堀江 満
(72)【発明者】
【氏名】嶋村 剛直
【審査官】米村 耕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-210286(JP,A)
【文献】特開2016-098468(JP,A)
【文献】特開2014-118663(JP,A)
【文献】国際公開第2015/194511(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/098162(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 85/48
D21H 27/00
G01N 23/223
C03B 40/033
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースパルプを主成分とし、
坪量が10g/m以上、100g/m以下であるガラス板用合紙であって、
前記ガラス板用合紙は、蛍光X線分析で測定したケイ素濃度をX、カルシウム濃度をYとしたとき、
Xが10ppm以上、150ppm以下であり、
Yが20ppm以上、400ppm以下であり、
ケイ素濃度をカルシウム濃度で除した値であるX/Y比が4.00以下であることを特徴とするガラス板用合紙。
【請求項2】
前記ガラス板用合紙は、蛍光X線分析で測定したマグネシウム濃度をZとしたとき、
ケイ素濃度をマグネシウム濃度で除した値であるX/Z比が3.00以下である、請求項1に記載のガラス板用合紙。
【請求項3】
前記Zは20ppm以上、100ppm以下である、請求項2に記載のガラス板用合紙。
【請求項4】
前記ガラス板用合紙は、少なくとも一方の合紙表面に存在する0.5μm以上50μm以下のケイ素含有異物の数が2000個/mm以下である請求項1~のいずれか一項に記載のガラス板用合紙。
【請求項5】
前記ガラス板用合紙は、少なくとも一方の合紙表面に存在する1μm以上10μm以下のケイ素含有異物の数が1000個/mm以下である請求項1~のいずれか一項に記載のガラス板用合紙。
【請求項6】
前記ガラス板用合紙は、少なくとも一方の合紙表面に存在する0.5μm以上50μm以下のシリカ異物の数が100個/mm以下である請求項1~のいずれか一項に記載のガラス板用合紙。
【請求項7】
前記ガラス板用合紙は、少なくとも一方の合紙表面に存在する1μm以上10μm以下のシリカ異物の数が50個/mm以下である請求項1~のいずれか一項に記載のガラス板用合紙。
【請求項8】
前記ガラス板用合紙は透気抵抗度が5秒以上である、
請求項1~のいずれか一項に記載のガラス板用合紙。
【請求項9】
少なくとも2枚以上のガラス板を積層させたガラス板積層体であって、
隣り合うガラス板間に請求項1~のいずれか1項に記載のガラス板用合紙を有するガラス板積層体。
【請求項10】
請求項に記載のガラス板積層体と、前記ガラス板積層体を載置するパレットとを備えるガラス板梱包体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板用合紙、ガラス板積層体、およびガラス板梱包体に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)に用いられるガラス板では、ガラス板表面に対して微細な電子配線(以下、「配線」ともいう)が形成されるため、表面の僅かなキズや汚れが、断線等の不良の原因となる。そのため、ガラス板の表面には高い清浄度が求められる。
【0003】
ガラス板は、搬送効率を高める目的で、ガラス板を重ねて搬送される。このとき、隣り合うガラス板の間にガラス板用合紙(以下、単に「合紙」ともいう)を介在させ、搬送中にガラス板表面にキズなどがつくことを抑制している。
【0004】
しかし、合紙を製造する工程で混入した異物や、種々の化学物質の影響で合紙からガラス板の表面に異物が付着することがある。ガラス板表面に付着した異物の多くは、ガラス板表面に配線を形成する工程前の洗浄で除去されるが、洗浄後もガラス板表面に残存し、断線等の原因となるおそれある。そのため、ガラス板の表面に付着する異物を低減させるガラス板用合紙が求められる。
【0005】
特許文献1では、ガラス板用合紙中に含まれる、アルミニウムやケイ素やマグネシウム等の濃度を低くすることで、ガラス板の表面の汚染を低減しようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-210286
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、近年のディスプレイの高精細化に伴い、従来よりもガラス板の表面に形成される配線の幅やピッチが細化していくことにより、例えば特許文献1のようなガラス板用合紙を用いても、配線形成時に断線等の問題が生じるようになってきた。
【0008】
発明者らが上記問題を調べたところ、洗浄後もガラス板表面に残存してしまう微小サイズのシリカ異物が原因であることを見出した。微小サイズのシリカ異物は、配線を形成する前の洗浄工程で除去することが難しいため、微小サイズのシリカ異物をガラス板の表面に付着させないことが重要である。
【0009】
本発明は、ガラス板の表面に、微小サイズのシリカ異物が付着することを抑制することで、配線形成時の断線等の不良の発生を抑制するガラス板用合紙の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るガラス板用合紙は、セルロースパルプを主成分とし、坪量が10g/m以上、100g/m以下であり、前記ガラス板用合紙は、蛍光X線分析で測定したケイ素濃度をX、カルシウム濃度をYとしたとき、Xが200ppm以下であり、ケイ素濃度をカルシウム濃度で除した値であるX/Y比が4.00以下であることを特徴とする。
【0011】
前記ガラス板用合紙は、蛍光X線分析で測定したマグネシウム濃度をZとしたとき、ケイ素濃度をマグネシウム濃度で除した値であるX/Z比が、3.00以下であることが好ましい。
【0012】
前記Zは20ppm以上、100ppm以下であることが好ましい。
【0013】
前記Yは20ppm以上、400ppm以下であることが好ましい。
【0014】
前記ガラス板用合紙は、少なくとも一方の合紙表面に存在する0.5μm以上50μm以下のケイ素含有異物の数が2000個/mm以下であることが好ましい。
【0015】
前記ガラス板用合紙は、少なくとも一方の合紙表面に存在する1μm以上10μm以下のケイ素含有異物の数が1000個/mm以下であることが好ましい。
【0016】
前記ガラス板用合紙は、少なくとも一方の合紙表面に存在する0.5μm以上50μm以下のシリカ異物の数が100個/mm以下であることが好ましい。
【0017】
前記ガラス板用合紙は、少なくとも一方の合紙表面に存在する1μm以上10μm以下のシリカ異物の数が50個/mm以下であることが好ましい。
【0018】
前記ガラス板用合紙の透気抵抗度は5秒以上であることが好ましい。
【0019】
本発明にかかるガラス板積層体は、少なくとも2枚以上のガラス板を積層させ、隣り合うガラス板間に、本発明に係るガラス板用合紙を有する。
【0020】
本発明にかかるガラス板梱包体は、前記ガラス板積層体と、前記ガラス板積層体を載置するパレットとを有する。
【発明の効果】
【0021】
ガラス板の表面に、微小サイズのシリカ異物が付着することを抑制するガラス板用合紙を提供できる。これにより、配線形成時の断線等の不良の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】ガラス板用合紙の製造方法を示す概念図である。
図2】ガラス板を載置するパレットを示す概念図である。
図3】ガラス板梱包体の一実施形態を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係るガラス板用合紙の好ましい実施形態について説明する。以下に示す実施形態は一例であり、本発明はこれらの実施形態に限定して解釈されるものではない。
【0024】
ガラス板は、搬送効率の観点から、少なくとも2枚以上のガラス板を積層させ、パレットに載置して搬送する。少なくとも2枚以上のガラス板を積層し、隣り合うガラス板間に合紙を介在させたものをガラス板積層体といい、前記ガラス板積層体をパレットに載置したものをガラス板梱包体という。ガラス板積層体において、ガラス板同士が接触すると、ガラス板の表面にキズが生じるおそれがある。このようなキズは、ディスプレイなどの製造工程において、断線等の問題を引き起こすことが知られている。そこで、ガラス板とガラス板との間にガラス板用合紙を介在させることで、ガラス板の表面にキズが生じることを抑制している。
【0025】
しかし、ガラス板用合紙に含まれる異物がガラス板の表面に付着することにより、断線等の問題が生じることがある。特に、近年のディスプレイの高精細化に伴い、従来問題とならなかったガラス板用合紙を用いても、断線等の問題が生じるようになってきた。
【0026】
そこで、本発明者らは、ガラス板に付着している異物について分析をした。その結果、ガラス板の表面にはケイ素含有異物が多く付着していることが判明した。また、ケイ素含有異物の中でも、特に微小サイズのシリカ異物は配線形成前の洗浄で除去され難く、洗浄後も残存して問題となることを見出した。本明細書において、微小サイズのシリカ異物とは、最長径が10μm以下のシリカ異物をいう。
【0027】
なお、最長径が10μm超のシリカ異物は、ガラス板上に配線を形成する前に実施する洗浄で除去し易いため、最長径が10μm以下のシリカ異物に比べて、断線等の不良を引き起こす原因となり難いと考えられる。
【0028】
ケイ素含有異物の中でも特に微小サイズのシリカ異物は洗浄で除去され難く、洗浄後も残存しやすい。これは、タルク等のシリカ異物以外のケイ素含有異物は球形状が多いのに対して、シリカ異物の形状は扁平であることが多いのが理由であると考えられる。すなわち、扁平な形状の場合、高さが低いので、例えばブラシ洗浄などの洗浄工程で除去し難いため、残存しやすいと考えられる。
【0029】
また、発明者らは、ガラス板の表面に残存しているシリカ異物は合紙からガラス板の表面に付着したものであることを見出した。以上より、ガラス板用合紙に存在する微小サイズのシリカ異物を低減させることが重要である。
【0030】
(ガラス板用合紙の製造方法)
ガラス板用合紙の原料液(パルプを水で希釈した液体)は、ヘッドボックス112から、ワイヤパート114に設置された下ワイヤ116の上に、シート状に供給される。下ワイヤ116に供給された原料液は、次いで、下ワイヤ116と上ワイヤ118とによって挟み込まれることにより、均一の厚さに広げられ、かつ脱水されて、湿紙(紙)となる。
【0031】
ワイヤパート114の下ワイヤ116および上ワイヤ118は、無端帯状に形成された透過膜である。具体的には、プラスチックまたは金属材料で作られた網、もしくは、天然繊維または合成繊維からなるフェルト製の無端帯である。
【0032】
下ワイヤ116および上ワイヤ118は、複数のローラに掛け渡されて、図示を省略するモータの駆動力を、複数のローラの中の駆動ローラに伝達することにより、所定の速度で周回移動されている。
【0033】
ワイヤパート114で形成された湿紙は、プレスローラ、無端帯状のフェルト、およびプレスローラ対等を有するプレスパート120に搬送され、ここで、さらなる脱水とプレスとが行われる。
【0034】
プレスパート120を通過した湿紙は、複数本のローラで構成されるドライヤパート124に搬送され、ドライヤパート124を通過中に、例えば約120℃の雰囲気で乾燥される。
【0035】
ドライヤパート124を通過する際、湿紙をそのまま高速で搬送すると紙切れのおそれがあるため、カンバスと呼ばれる補助部材を湿紙に接触させた状態で搬送する。
【0036】
ドライヤパート124で乾燥された紙は、カレンダパート126に搬送され、カレンダロールによる挟持搬送等によってカレンダ処理を施されて、表裏面が平滑化されてもよい。なお、必要に応じて、ドライヤパート124とカレンダパート126との間にコータパートを設け、平滑化された紙の表面に塗料等を塗布してもよい。
【0037】
カレンダパート126においてカレンダ処理を施された紙は、ガラス板用合紙としてリール128に巻き取られ、ロール状(以下、ジャンボロール130とする)にされる。
【0038】
ジャンボロール130とされたガラス板用合紙は、通常、例えば、ガラス板用合紙は、製品に応じた幅に切断されて、巻き取られ、8000~10000m程度の所定長の長尺なガラス板用合紙を巻回した合紙ロール42とされる。
【0039】
ガラス板用合紙は、ジャンボロール130から送り出され、カッタ134によって所定幅に切断(長手方向に切断)され、ワインダ136によって巻き取られる。ジャンボロール130から送り出したガラス板用合紙が、所定の長さになった時点で、カッタ134によって所定長さに切断(幅方向に切断)されて、所定の幅で、長尺なガラス板用合紙を巻回してなる合紙ロール42とされる。
【0040】
合紙ロール42に巻回された長尺なガラス板用合紙は、積層するガラス板に応じたサイズのカットシート状(矩形状)に切断され、積層されるガラス板の間に介在される。
【0041】
(ケイ素濃度)
ガラス板用合紙に含まれるケイ素は、主に原料となるセルロースパルプや水、製造過程で混入する空気中の塵に由来するものである。ケイ素は、製造されたガラス板用合紙において、主に含水ケイ酸マグネシウム(以下、「タルク」ともいう)やシリカといったケイ素含有異物として存在するようになる。
【0042】
本発明のガラス板用合紙は、蛍光X線分析で測定したときのケイ素濃度を200ppm以下とすることにより、ガラス板用合紙のシリカ異物を充分に低減し、断線等の不良の発生を抑制したものである。
【0043】
前記ケイ素濃度は、好ましくは150ppm以下であり、より好ましくは130ppm以下であり、さらに好ましくは100ppm以下であり、特に好ましくは50ppm以下である。
【0044】
なお、本明細書において、ガラス板用合紙を蛍光X線分析で測定したときのケイ素濃度をXとも称する。Xは以下の方法で測定される。
【0045】
(ケイ素濃度Xの測定方法)
本発明における蛍光X線分析は、例えば、ZXS PRIMUS(株式会社リガク)等の市販の蛍光X線分析装置を使用して実施できる。蛍光X線分析の前処理としてガラス板用合紙は刃物などで測定に適したサイズに予め切断される。切断された紙は試料台に載せられる。この際、試料台の成分が測定のノイズとならないように予め組成が既知で純度の高い試料台を用いてもよく、底の深いカップ型の試料台を用いてもよく、ガラス板用合紙を重ねてもよい。次に測定エリアに穴のあいた蓋を用いガラス板用合紙を固定させる。試料台は蛍光X線分析装置に入れられ、装置内が真空にされた後、測定面にX線が照射され、ガラス板用合紙から発生した蛍光X線が測定、分析される。
【0046】
評価領域が広いほど安定した結果が得られるため、評価領域は好ましくは10平方ミリメートル以上であり、より好ましくは100平方ミリメートル以上であり、さらに好ましくは600平方ミリメートル以上である。本明細書においては特に説明が無い限り、評価領域は700平方ミリメートルである。
【0047】
検出元素の定量のため、予め濃度が既知である基準試料を測定した後にそのX線強度から各元素の数値を補正した。測定の際の電力は3000Wとした。
【0048】
測定に際してはナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、硫黄、塩素、カリウム、カルシウム、鉄、ニッケル、銅、ジルコンの各元素の含有量を定量した。
【0049】
ケイ素濃度が小さすぎると、ガラス板用合紙の原料液を撹拌した際の破泡性が悪く、ガラス板用合紙に穴が開く場合がある。そのためケイ素濃度は、好ましくは10ppm以上であり、より好ましくは15ppm以上であり、さらに好ましくは20ppm以上である。
【0050】
ケイ素濃度は、原料のセルロースパルプや、原料の水や、合紙の製造方法に影響される。
【0051】
原料のセルロースパルプとして、シリコーンオイルを含まないもしくは使用量が少ないものや、ピッチコントロール剤としてタルクを含まないものや、強い遠心力をかけて微小な鉱石、土埃が除かれたものを選定することにより、ケイ素濃度を小さくできる。原料の水として、充分なろ過などで地下水もしくは河川水の鉱石に由来するケイ素成分を除いた水を使用することによってもケイ素濃度を小さくできる。また、合紙の製造方法において、抄造工程をクリーンルームで行うことで、土埃の侵入を防いだり、シリコーンオイルを含むセルロースパルプを使った抄造工程とガラス板用合紙の抄造工程を別にしたりすることで、ケイ素濃度を小さくできる。
【0052】
前記セルロースパルプとしては、クラフトパルプ(KP)、サルファイトパルプ(SP)、ソーダパルプ(AP)等の化学パルプ;セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグランドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ; 砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)、リファイナーグランドウッドパルプ(RGP)等の機械パルプ;楮、三椏、麻、ケナフ等を原料とする非木材繊維パルプ;合成パルプ;等、各種の原料からなるガラス板用合紙を利用できる。また、これらを混合したものでもよい。
【0053】
(カルシウム濃度)
ガラス板用合紙に含まれるカルシウムは、主に原料となるセルロースパルプや水、製造過程で混入する空気中の塵に由来するものである。カルシウムは製造されたガラス板用合紙において、例えばメタケイ酸カルシウム、オルトケイ酸カルシウムといったケイ素含有異物、または炭酸カルシウムとして存在するようになる。
【0054】
本明細書において、ガラス板用合紙を蛍光X線分析で測定したときのカルシウム濃度をYとも称する。Yは上記の(ケイ素濃度Xの測定方法)と同様の手順で測定される。
【0055】
ケイ素濃度をカルシウム濃度で除した値であるX/Y比が小さいほど、ケイ素に対してカルシウムが多く存在していることを意味する。カルシウムは炭酸カルシウムとして存在する以外に、メタケイ酸カルシウムやオルトケイ酸カルシウムのような、ケイ素を含む化合物としても存在するため、カルシウム濃度Yが大きいほど、シリカとして存在するケイ素の割合は小さくなり、シリカ異物が少なくなると考えられる。
【0056】
本発明のガラス板用合紙は、X/Y比を4.00以下とすることにより、ガラス板用合紙のシリカ異物を充分に低減できたものである。前記X/Y比は好ましくは3.50以下であり、より好ましくは3.00以下であり、さらに好ましくは2.00以下であり、特に好ましくは1.00以下であり、最も好ましくは0.50以下である。
【0057】
また、Yが大きすぎると、シリカ異物は少なくなると考えられるが、炭酸カルシウムなどのカルシウム含有異物が多くなり、問題となるおそれがある。そのため、Yは、400ppm以下が好ましく、300ppm以下がより好ましく、250ppm以下がさらに好ましい。
【0058】
また、Yが小さすぎると、ガラス板用合紙の原料液を撹拌した際の破泡性が悪く、ガラス板用合紙に穴があく場合がある。そのためYは、好ましくは20ppm以上であり、より好ましくは30ppm以上であり、さらに好ましくは50ppm以上である。
【0059】
カルシウム含有濃度が高いバージンパルプを用いることで、X/Y比を小さくできる。
【0060】
(マグネシウム濃度)
ガラス板用合紙中に含まれるマグネシウムは、主に原料となるセルロースパルプや水、製造過程で混入する空気中の塵に由来するものである。マグネシウムは、製造されたガラス板用合紙において、主にタルクといったケイ素含有異物として存在するようになる。
【0061】
本明細書において、ガラス板用合紙を蛍光X線分析で測定した時のマグネシウム濃度をZとも称する。Zは、上記の(ケイ素濃度Xの測定方法)と同様の手順で測定される。
【0062】
ケイ素濃度をマグネシウム濃度で除した値であるX/Z比が小さいほど、ケイ素に対してマグネシウムが多く存在していることを意味する。マグネシウムは前記の通り、タルクといったケイ素を含む化合物として存在しているため、Zが大きいほど、シリカとして存在するケイ素の割合は小さくなり、シリカ異物が少なくなると考えられる。
【0063】
本発明のガラス板用合紙のX/Z比は、好ましくは3.00以下であり、より好ましくは2.50以下であり、さらに好ましくは2.00以下であり、特に好ましくは1.00以下である。
【0064】
また、Zが大きければ、シリカ異物は少なくなると考えられるが、タルクが多くなり、問題となるおそれがある。そのため、マグネシウムの含有量は、100ppm以下が好ましく、70ppm以下がより好ましい。Zの下限値は特に限定されないが、10ppm以上が好ましく、20ppm以上がより好ましい。
【0065】
(ケイ素含有異物及びシリカ異物の測定方法)
ケイ素含有異物は、例えば走査型電子顕微鏡と走査型電子顕微鏡に取り付けられるエネルギー分散型X線分析装置にて測定される。測定の前処理として小さく切断したサンプルに測定しない元素、例えばカーボンや白金の導電膜処理を実施してもよい。走査型電子顕微鏡に合紙をセットした後は、反射電子検出器を用いて画像の明暗から主に合紙を構成する元素であるカーボンよりも重い元素を判別する。この反射電子検出器を用いた方法ではカーボンより重い元素は一般的に明るい画素で表現される。最初に例えば0.1mm×0.1mmのエリアを100エリア測定する。次に、1μm以上10μm以下のケイ素含有異物、およびシリカ異物の個数を測定する場合においては、1μm以上のカーボン以外の異物をカウントする。この反射電子検出器により検出した異物1つずつに対し、画素数からサイズを算出し、最長径が1μm以上10μm以下の粒子について1つずつエネルギー分散型X線分析装置で元素を分析し、カーボンと酸素を除いた元素の中でケイ素を10重量%以上含有する粒子をケイ素含有物とした。またケイ素を80重量%以上含有する粒子をシリカ異物とした。
【0066】
0.5μm以上50μm以下のケイ素含有異物、およびシリカ異物の個数を測定する場合においては、0.5μm以上のカーボン以外の異物をカウントし、同様に測定した。
【0067】
ケイ素含有異物の最長径が1μm未満であり配線幅やピッチ幅より充分に小さい場合、断線等の不具合となり難い。また、シリカ異物の中でも最長径が小さい程、洗浄で除去し難く、特に最長径が10μm以下のシリカ異物は、洗浄後においてもガラス板の表面に残存しやすいことが分かった。
【0068】
本実施形態の合紙は、少なくとも一方の合紙表面に存在する0.5μm以上50μm以下のケイ素含有異物が2000個/mm以下であることが好ましく、1000個/mm以下であることがより好ましく、200個/mm以下であることがさらに好ましく、20個/mm以下であることが特に好ましい。合紙中に含まれる0.5μm以上50μm以下のケイ素含有異物が少ないほど、問題となる1μm以上10μm以下のシリカ異物もまた少ないと考えられる。
【0069】
また、本実施形態の合紙は、少なくとも一方の合紙表面に存在する1μm以上10μm以下のケイ素含有異物が1000個/mm以下であることが好ましく、100個/mm以下であることがより好ましく、10個/mm以下であることがさらに好ましい。合紙中に含まれる1μm以上10μm以下のケイ素含有異物が少ないほど、1μm以上10μm以下のシリカ異物もまた少ないと考えられる。
【0070】
また、本実施形態の合紙は、少なくとも一方の合紙表面に存在する0.5μm以上50μm以下のシリカ異物が100個/mm以下が好ましく、50個/mm以下がより好ましく、20個/mm以下がさらに好ましく、10個/mm以下が特に好ましい。合紙中に含まれる0.5μm以上50μm以下のシリカ異物が少ないほど、1μm以上10μm以下のシリカ異物もまた少ないと考えられる。
【0071】
また、本実施形態の合紙は、少なくとも一方の合紙表面に存在する1μm以上10μm以下のシリカ異物が50個/mm以下が好ましく、30個/mm以下がより好ましく、10個/mm以下がさらに好ましく、5個/mm以下が特に好ましい。1μm以上10μm以下のシリカ異物が少ないほど、ガラス板に転写される前記シリカ異物が少なくなり、断線等の問題が生じ難くなる。
【0072】
(透気抵抗度)
透気抵抗度はJIS P8117に準拠した方法で測定される。透気抵抗度は、5秒以上が好ましく、10秒以上がより好ましく、15秒以上が特に好ましい。透気抵抗度が5秒以上あると真空吸着パッドでガラス板梱包体から合紙1枚のみを除去し易い。一方透気抵抗度が5秒未満である場合は真空吸着パッドでガラス板梱包体から合紙を除去しようとする際に、除去しようとした合紙の下にあるガラス板を同時に除去してしまうといった異常が発生しやすくなる。また透気抵抗度の上限は特に限定されないが、50秒以下が好ましく、45秒以下がより好ましく、40秒以下がさらに好ましい。
【0073】
(ガラス板用合紙の特性)
ガラス板用合紙の坪量は、JIS P8118に準拠した方法で測定される。合紙の坪量が小さい方が搬送時の質量が小さくなるため好ましいが、小さすぎると、十分な緩衝性を得ることができない。そのため、合紙の坪量は10g/m以上が好ましく、20g/m以上がより好ましく、30g/m以上がさらに好ましい。また、合紙の坪量が大きすぎると搬送時の質量が大きくなるため好ましくない。そのため、合紙の坪量は100g/m以下が好ましく、90g/m以下がより好ましく、80g/m以下がさらに好ましい。
【0074】
合紙の厚さは緩衝性の観点から、50μm以上200μm以下が好ましい。また、合紙の密度は0.30g/cm以上、1.00g/cm以下が好ましい。
【0075】
(ガラス板積層体)
本実施形態のガラス板積層体12は、少なくとも2枚以上のガラス板14を積層させ、隣り合うガラス板間に本発明にかかるガラス板用合紙16を有している。
【0076】
(ガラス板梱包体)
本実施形態のガラス板梱包体10は、ガラス板積層体12と、ガラス板積層体12を載置するパレットとを有している。
【0077】
パレットは公知のガラス板梱包用のパレットであり、基台22と、基台22の上面に設置された傾斜台18と、ガラス板積層体12の端面を支持する載置台24とを有する。載置台24と傾斜台18との角度θはガラス板14を安定して積載できれば特に限定されないが、90°が好ましい。
【0078】
傾斜台18の角度γとは、傾斜台18と水平面との角度である。すなわち、図1のように傾斜台18および載置台24が設置される基台上面が水平である場合には、傾斜台18の角度γは、傾斜台18と基台22とがなす角度をいう。傾斜台18の角度γを90°に近付けるほど、省スペース化につながるが、ガラス板14の端面に大きな圧力がかかるため、欠け等の不良が発生する恐れがある。また、傾斜台18を0°に近付けるほど、ガラス板14にかかる圧力が分散し、端面の欠け等の不良を抑制できるが、大きなスペースを必要とするため、保管や搬送の効率が落ちる。本明細書において、傾斜台18の角度が10°以下のパレットを平積みのパレットといい、10°超のパレットを縦積みのパレットという。
【0079】
使用するパレットは平積みのパレットでも縦積みのパレットでもよいが、大型のガラス板の場合、ガラス板14の自重によってガラス板14の端部に大きな圧力がかかる。そのため、大型のガラス板である場合、ガラス板を平積み状態で載置するパレットを用いることが好ましい。また、ガラス板14が大型であるほど、ガラス板14の端面にかかる圧力が大きくなるため、傾斜台の角度は0°以上5°以下が好ましく、0°以上3°以下がより好ましく、0°以上1°以下がさらに好ましい。しかし、ガラス板14の輸送用のトラックやコンテナ等に収納する際に平積みのパレットでは収納できない場合がある。そのため、省スペース化のために縦積みのパレットを用いてもよい。
【0080】
大型のガラス板とは、例えば少なくとも一辺が2400mm以上のガラス板、具体的な例としては、長辺2400mm以上、短辺2000mm以上のガラス板をいう。前記大型のガラス板は、少なくとも一辺が2400mm以上のガラス板、例えば、長辺2400mm以上、短辺2100mm以上のガラス板が好ましく、少なくとも一辺が3000mm以上のガラス板、例えば、長辺3000mm以上、短辺2800mm以上のガラス板がより好ましく、少なくとも一辺が3200mm以上のガラス板、例えば、長辺3200mm以上、短辺2900mm以上のガラス板がさらに好ましく、少なくとも一辺が3300mm以上のガラス板、例えば、長辺3300mm以上、短辺2950mm以上のガラス板が特に好ましい。
【0081】
ガラス板14の厚みは1mm以下が好ましい。ガラス板14を薄くすることで、軽量化が達成できる。本発明のガラス板14の厚みは0.75mm以下がより好ましく、0.6mm以下がさらに好ましく、0.5mm以下が特に好ましく、最も好ましくは0.4mm以下である。厚みを0.1mm以下、あるいは0.05mm以下とすることもできる。ただし、自重たわみを防ぐ観点からは、厚みは0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましい。
【0082】
ガラス板14は、ディスプレイに用いることが好ましい。ガラス板14の主表面に存在する1μm以上10μm以下のシリカ異物が少ないため、断線等の不良を抑制できる。ディスプレイとしては、液晶ディスプレイの基板に用いることが好ましい。
【0083】
以上、ガラス板用合紙16、ガラス板積層体12、及びガラス板梱包体10について詳細に説明したが、本発明は、上述の例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよいのは、勿論である。
【0084】
<実施例>
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。以下において、例1~4は実施例であり、例5~7は比較例である。また、特に記載の無い場合については、製造した合紙はJIS P8111に準じて処理を行ったあと測定した。
【0085】
例1~例7の合紙に含まれるケイ素濃度、マグネシウム濃度およびカルシウム濃度を、蛍光X線分析を用いてそれぞれ2回ずつ測定し、その平均値を算出した。次に、走査型電子顕微鏡と走査型電子顕微鏡に取り付けられるエネルギー分散型X線分析装置にて最長径が0.5μm以上50μm以下、および1μm以上10μm以下のケイ素含有異物の個数(個/mm)、並びに最長径が0.5μm以上50μm以下および1μm以上10μm以下のシリカ異物の個数(個/mm)を測定した。各サイズのケイ素含有異物およびシリカ異物を、異なる合紙を用いてそれぞれ2回ずつ測定し、その平均値を算出した。
【0086】
例1~7のガラス板用合紙を、2330mm×1990mmサイズに成形し、それぞれ板厚が0.5mmで、2250mm×1950mmサイズのFPD用のガラス板の間に介在させて、複数枚のガラス板を積層したガラス板積層体とした。
【0087】
各ガラス板積層体を、図2に示す縦積みのパレットに載置し(ガラス板600枚)、ガラス板梱包体を作製した。作製したガラス板梱包体を10日間保管した。
【0088】
ガラス板梱包体から、パレットの傾斜台に最も近いガラス板を取り出し、前記ガラス板を洗浄した後、ガラス板の表面に残っている異物数を光学式検査機で測定した。
【0089】
各測定は下記の方法でおこなった。
【0090】
<蛍光X線分析によるガラス板用合紙の元素濃度の測定>
蛍光X線分析装置(メーカ:株式会社リガク社製、型式:ZXS PRIMUSII)を使用して合紙の略中央部を測定した。次に、検出元素の定量のため予め濃度が既知である基準試料を測定した後に、そのX線強度から各元素の数値を補正した。測定の際の電力は3000Wとし、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、カルシウム、の各元素の含有量を定量した。
【0091】
<ガラス板用合紙中に含まれるケイ素含有異物、およびシリカ異物の個数の測定>
合紙中に含まれるケイ素含有異物は、走査型電子顕微鏡(メーカ:日本電子株式会社製、型式:JSM-6490LA)及びエネルギー分散型X線分析装置(メーカ:オックスフォード・インストゥルメンツ株式会社製、型式:X-MAXN50)を使用して合紙の略中央部を測定した。観察時の加速電圧は20kVとした。
【0092】
最長径が0.5μm以上50μm以下のケイ素含有異物、およびシリカ異物を測定する場合においては、まず、0.1mm×0.1mmのエリアを100エリア測定し、最長径が0.5μm以上のカーボン以外の異物をカウントした。この反射電子検出器により検出した異物1つずつに対し、画素数からサイズを算出し、最長径が0.5μm以上50μm以下の粒子について1つずつエネルギー分散型X線分析装置で元素を分析し、カーボンと酸素を除いた元素の中で、ケイ素を10重量%以上含有する粒子(ケイ素含有異物)およびケイ素を80重量%以上含有する粒子(シリカ異物)の個数をカウントした。
【0093】
また、最長径が1μm以上10μm以下のケイ素含有異物、およびシリカ異物を測定する場合においても同様に測定した。
【0094】
<ガラス板表面に残存する異物の測定と評価>
10日間保管したガラス板梱包体から、パレットの傾斜台に最も近いガラス板を取り出し、前記ガラス板を洗浄した後、ガラス板の表面に残っている異物数を光学式検査機(メーカ:株式会社日立ハイテクファインシステムズ社製、型式:GI)で測定した。ガラス板の洗浄は、ガラス板を水平方向に搬送しつつ、純水をかけながらPVAスポンジにて擦ることで行った。
【0095】
ガラス板の表面に存在する異物が50個未満をA、50個以上60個未満をB、60個以上をCとした。
【0096】
(例1、例2)
原料としてカルシウム含有濃度が高いバージンパルプを、ろ過精度200μmのプロセスフィルターでろ過した地下水で希釈することで、合紙の原料液を得た。前記原料液を均一の厚さに広げ、脱水することで湿紙を得た。得られた湿紙を、プレスローラでプレスすることで脱水し、プレス後の湿紙を約120℃の雰囲気で乾燥させることで合紙を得た。
【0097】
(例3、例4)
原料として、ケイ素含有濃度が高いバージンパルプを用いた以外は例1と同様の方法で製造した。
【0098】
(例5)
原料として、ケイ素含有濃度が高く、カルシウム含有濃度が低いバージンパルプを用いた以外は例1と同様の方法で製造した。
【0099】
(例6、例7)
原料として、タルクが添加され、ケイ素及びマグネシウム含有濃度が高いバージンパルプを用いた以外は例1と同様の方法で製造した。
【0100】
<結果>
表1は測定結果と評価結果を示している。表1によれば、ケイ素濃度が200ppm以下であり、ケイ素濃度をカルシウム濃度で除したX/Y比が4.00以下である場合、汚染性はAまたはBであった。一方で、ケイ素濃度が200ppm超であり、X/Y比が4.00より大きい場合は、汚染性はすべてCであった。
【0101】
この結果からケイ素濃度と、X/Y比が、合紙中に存在するシリカの個数及びガラス板の汚染性に関連していることが理解できる。
【0102】
【表1】
【符号の説明】
【0103】
10…ガラス板梱包体、12…ガラス板積層体、14…ガラス板、16…ガラス板用合紙、18…傾斜台、22…基台、24…載置台、42…合紙ロール、100…ガラス板用合紙の製造装置、112…ヘッドボックス、114…ワイヤパート、116…下ワイヤ、118…上ワイヤ、120…プレスパート、124…ドライヤパート、126…カレンダパート、128…リール、130…ジャンボロール、134…カッタ、136…ワインダ。
図1
図2
図3