(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】粉体組成物、フィルム、及びフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 27/18 20060101AFI20241203BHJP
C08L 67/04 20060101ALI20241203BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20241203BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20241203BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
C08L27/18
C08L67/04
C08K3/36
C08K3/38
C08J5/18 CEW
C08J5/18 CEZ
(21)【出願番号】P 2021556069
(86)(22)【出願日】2020-11-06
(86)【国際出願番号】 JP2020041536
(87)【国際公開番号】W WO2021095656
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2023-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2019204147
(32)【優先日】2019-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(72)【発明者】
【氏名】光永 敦美
(72)【発明者】
【氏名】尾澤 紀生
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 崇
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-278966(JP,A)
【文献】国際公開第2014/171029(WO,A1)
【文献】特開2018-177931(JP,A)
【文献】国際公開第2015/016370(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/083007(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00-13/08
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位又はヘキサフルオロプロピレンに基づく単位を含むテトラフルオロエチレン系ポリマーの粉体と、
シリカ又は窒化ホウ素である無機フィラーの粉体と、熱可塑性の芳香族ポリマーの粉体とを含
み、
前記芳香族ポリマーが、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミドイミド、芳香族ポリエステル、芳香族ポリエステルアミド、ポリフェニレンエーテル又はポリフェニレンサルファイドであり、
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粉体の平均粒子径が、前記無機フィラーの平均粒子径より大きく、
前記芳香族ポリマーの含有量が、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量より多く、
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量、前記無機フィラーの含有量、前記芳香族ポリマーの含有量が、この順に、10~40質量%、5~40質量%、20~85質量%である、粉体組成物。
【請求項2】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、テトラフルオロエチレンに基づく単位及びペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含む、酸素含有極性基を有するポリマーである、請求項1に記載の粉体組成物。
【請求項3】
前記芳香族ポリマーが、液晶ポリマーである、請求項1
又は2に記載の粉体組成物。
【請求項4】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量に対する前記無機フィラーの含有量の比が、0.2~0.6である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の粉体組成物。
【請求項5】
溶融押出成形に用いられる、請求項1~
4のいずれか1項に記載の粉体組成物。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の粉体組成物を溶融押出成形してフィルムを得る、フィルムの製造方法。
【請求項7】
ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位又はヘキサフルオロプロピレンに基づく単位を含むテトラフルオロエチレン系ポリマーと、
シリカ又は窒化ホウ素である無機フィラーと、熱可塑性の芳香族ポリマーとを含み、前記芳香族ポリマーを含む海相と前記テトラフルオロエチレン系ポリマーを含む島相とから構成された海島構造を少なくとも有
し、
前記芳香族ポリマーが、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミドイミド、芳香族ポリエステル、芳香族ポリエステルアミド、ポリフェニレンエーテル又はポリフェニレンサルファイドであり、
前記芳香族ポリマーの含有量が、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量より多く、
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量、前記無機フィラーの含有量、前記芳香族ポリマーの含有量が、この順に、10~40質量%、5~40質量%、20~85質量%である、フィルム。
【請求項8】
前記フィルムの厚さ方向における表面領域の前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの分布量が、前記フィルムの厚さ方向における中心領域の前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの分布量より高い、請求項
7に記載のフィルム。
【請求項9】
前記フィルムの厚さ方向における中心領域の前記無機フィラーの分布量が、前記フィルムの厚さ方向における表面領域の前記無機フィラーの分布量より高い、請求項
7又は
8に記載のフィルム。
【請求項10】
前記フィルムの厚さが、5~1000μmである、請求項
7~
9のいずれか1項に記載のフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の粉体組成物と、所定のフィルム及びその製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信の分野では、信号の高周波化やダウンサイジング化の観点から、それに使用するプリント基板の高密度化が要求されている。
プリント基板における絶縁体材料としては、ガラスクロスに熱硬化性樹脂を含浸させて成形したフィルムや、ポリイミド、液晶性の芳香族ポリマー等の芳香族ポリマーから成形されたフィルムが使用されている。
さらに、これらの芳香族ポリマーより電気特性に優れたテトラフルオロエチレン系ポリマーが注目されており、両者の粉体をブレンドした粉体組成物、それから形成される成形物が提案されている(特許文献1~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-265729号公報
【文献】特開2003-171538号公報
【文献】特開2003-200534号公報
【文献】特開2019-065061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
テトラフルオロエチレン系ポリマーは表面張力が低く、その粉体は芳香族ポリマーとの親和性が極めて低い。そのため、両者の粉体をブレンドした粉体組成物から形成される成形物は、層分離等により、機械的強度等の形状物性や加工性は無論、両者のポリマーの物性を充分に具備しにくい。粉体組成物に、さらに他のフィラーをブレンドする場合、かかる傾向は顕著になりやすく、他のフィラーのブレンドによる効果を発現しにくい点を、本発明者らは知見している。
本発明の目的は、それぞれ所定の、テトラフルオロエチレン系ポリマー、芳香族ポリマー及びフィラーを含み、機械的強度等の形状物性に限らず、3者の物性を高度に具備する成形物の形成に適した粉体組成物、3者の物性を高度に具備するフィルム、及び、その製造方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位又はヘキサフルオロプロピレンに基づく単位を含むテトラフルオロエチレン系ポリマーの粉体と、モース硬度が3~9である無機フィラーの粉体と、熱可塑性の芳香族ポリマーの粉体とを含む、粉体組成物。
[2] 前記前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、テトラフルオロエチレンに基づく単位及びペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含む、酸素含有極性基を有するポリマーである、[1]の粉体組成物。
[3] 前記無機フィラーが、酸化ケイ素を含むフィラーである、[1]又は[2]の粉体組成物。
[4] 前記芳香族ポリマーが、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステル、ポリエステルアミド、ポリフェニレンエーテル又はポリフェニレンサルファイドである、[1]~[3]のいずれかの粉体組成物。
[5] 前記芳香族ポリマーが、液晶ポリマーである、[1]~[4]のいずれかの粉体組成物。
【0006】
[6] 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粉体の平均粒子径が、前記無機フィラーの平均粒子径より大きい、[1]~[5]のいずれかの粉体組成物。
[7] 前記芳香族ポリマーの含有量が、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量より多い、[1]~[6]のいずれかの粉体組成物。
[8] 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量に対する前記無機フィラーの含有量の比が、0.2~0.6である、[1]~[7]のいずれかの粉体組成物。
[9] 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量、前記無機フィラーの含有量、前記芳香族ポリマーの含有量が、この順に、10~40質量%、5~40質量%、20~85質量%である、[1]~[8]のいずれかの粉体組成物。
[10] 溶融押出成形に用いられる、[1]~[9]のいずれかの粉体組成物。
【0007】
[11] [1]~[10]のいずれかの粉体組成物を溶融押出成形してフィルムを得る、フィルムの製造方法。
[12] ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位又はヘキサフルオロプロピレンに基づく単位を含むテトラフルオロエチレン系ポリマーと、モースが硬度である3~9の無機フィラーと、熱可塑性の芳香族ポリマーとを含み、前記芳香族ポリマーを含む海相と前記テトラフルオロエチレン系ポリマーを含む島相とから構成された海島構造を少なくとも有する、フィルム。
[13] 前記フィルムの厚さ方向における表面領域の前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの分布量が、前記フィルムの厚さ方向における中心領域の前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの分布量より高い、[12]のフィルム。
[14] 前記フィルムの厚さ方向における中心領域の前記無機フィラーの分布量が、前記フィルムの厚さ方向における表面領域の前記無機フィラーの分布量より高い、[12]又は[13]のフィルム。
[15] 前記フィルムの厚さが、5~1000μmである、[12]~[14]のいずれかのフィルム。
【発明の効果】
【0008】
本発明の粉体組成物によれば、それぞれ所定の、テトラフルオロエチレン系ポリマーの粉末、芳香族ポリマーの粉末及びフィラーの粉末を含み、機械的強度等の形状物性に限らず、3者の物性を高度に具備するフィルム等の成形物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の用語は、以下の意味を有する。
「平均粒子径」は、レーザー回折・散乱法によって求められる対象物の体積基準累積50%径である。
「溶融温度(融点)」は、示差走査熱量測定(DSC)法でポリマーを分析して求められる、融解ピークの最大値に対応する温度である。
「ガラス転移点」は、動的粘弾性測定(DMA)法でポリマーを分析して測定される値である。
「略真球状の無機フィラー」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察した際に、長径に対する短径の比が0.7以上である球形の粒子の占める割合が95%以上である無機フィラーを意味する。
【0010】
本発明の粉体組成物(以下、「本組成物」とも記す。)は、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)に基づく単位(PAVE単位)又はヘキサフルオロプロピレン(HFP)に基づく単位(HFP単位)を含むテトラフルオロエチレン系ポリマー(以下、「TFE系ポリマー」とも記す。)の粉体と、モース硬度が3~9である無機フィラー(以下、この特定硬度を有する無機フィラーを「硬質無機フィラー」とも記す。)の粉体と、熱可塑性の芳香族ポリマー(以下、「TArポリマー」とも記す。)の粉体と、を含む。
本組成物を溶融押出成形に供すれば、TFE系ポリマーの物性(低誘電正接等の電気物性等)と、TArポリマーの物性(加工性、光学特性等)と、硬質無機フィラーの物性(低線膨張性等)とがバランスした、フィルム等の成形物が得られる。その理由は必ずしも明確ではないが、以下の様に考えられる。
【0011】
TFE系ポリマーは、熱可塑性かつ結晶性ポリマーとも言え、物理的な応力耐性と耐熱性とに優れており、その粉体は、所定の硬度を有する。そのため、溶融押出成形に際して、軟化状態にあるTFE系ポリマーの粉体は、硬質無機フィラーによって粉砕されて微粒化しつつ、溶融又は軟化したTArポリマー中に緻密に分散すると考えられる。また、この分散に際して、TFE系ポリマー自体は、変質(フィブリル化等)しないため、いずれの成分間の親和性も損われないと考えられる。
これにより、本組成物を溶融押出成形に供すれば、TArポリマーを含む海相とTFE系ポリマーを含む微細な島相とから構成された海島構造を有する、硬質無機フィラーを緻密に含む成形物が形成され易くなるとも考えられる。そのため、本組成物から得られる成形物は、3者(TFE系ポリマー、TArポリマー及び硬質無機フィラー)の物性を高度に具備した成形物になると考えられる。
具体的には、本組成物を溶融押出成形して得られる成形物(フィルム等)は、低誘電率性、低誘電正接性、低線膨張率性、接着性、成形性等の物性を具備している。かかる成形物は、プリント基板の材料又は部材として好適に使用できる。なお、本組成物から得られる成形物の10GHzで測定した誘電率は、2.0~4.0であるのが好ましい。
【0012】
本発明におけるTFE系ポリマーは、TFE単位とPAVE単位又はHFP単位とを含むポリマー、すなわち、TFE単位とPAVE単位とを含むポリマー(PFA系ポリマー)、又は、TFE単位とHFP単位とを含むポリマー(FEP系ポリマー)であり、物理的な応力耐性と耐熱性とにより優れ、成形物において微小な球晶を形成して接着性がより高まる観点から、PFA系ポリマーであるのがより好ましい。
PAVEとしては、CF2=CFOCF3(PMVE)、CF2=CFOCF2CF3及びCF2=CFOCF2CF2CF3(PPVE)が好ましい。
TFE系ポリマーの溶融温度(融点)としては、260~320℃が好ましく、285~320℃がより好ましい。
TFE系ポリマーのガラス転移点としては、75~125℃が好ましく、80~100℃がより好ましい。
【0013】
TFE系ポリマーは、さらに、他のモノマーに基づく単位を有するのが好ましい。
上記他のモノマーとしては、オレフィン(エチレン、プロピレン等)、クロロトリフルオロエチレン、フルオロオレフィン(ヘキサフルオロプロピレン、フルオロアルキルエチレン等)、後述する酸素含有極性基を有するモノマーが挙げられる。
フルオロアルキルエチレンの具体例としては、CH2=CH(CF2)2F、CH2=CH(CF2)4F、CH2=CF(CF2)2H、CH2=CF(CF2)4Hが挙げられる。
【0014】
TFE系ポリマーは、酸素含有極性基を有するのが好ましい。酸素含有極性基は、TFE系ポリマーが含有する単位に含まれていてもよく、ポリマー主鎖の末端基に含まれていてもよい。後者のTFE系ポリマーとしては、重合開始剤、連鎖移動剤等に由来する末端基として酸素含有極性官能基を有するTFE系ポリマーや、プラズマ処理、電離線処理、放射線処理によって調製された、酸素含有極性基を有するTFE系ポリマーが挙げられる。
酸素含有極性基としては、水酸基含有基、カルボニル基含有基、及びホスホノ基含有基が好ましく、水酸基含有基及びカルボニル基含有基がより好ましく、カルボニル基含有基が特に好ましい。
水酸基含有基としては、アルコール性水酸基含有基が好ましく、-CF2CH2OH、-C(CF3)2OH及び1,2-グリコール基(-CH(OH)CH2OH)がより好ましい。
カルボニル基含有基としては、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アミド基、イソシアネート基、カルバメート基(-OC(O)NH2)、酸無水物残基(-C(O)OC(O)-)、イミド残基(-C(O)NHC(O)-等)及びカーボネート基(-OC(O)O-)が好ましく、酸無水物残基がより好ましい。
TFE系ポリマーがカルボニル基含有基を有する場合、TFE系ポリマー中のカルボニル基含有基の数は、主鎖炭素数1×106個あたり、10~5000個が好ましく、50~2000個がより好ましい。なお、TFE系ポリマーにおけるカルボニル基含有基の数は、ポリマーの組成又は国際公開2020/145133号に記載の方法によって定量できる。
【0015】
酸素含有極性基を有するTFE系ポリマーとしては、酸素含有極性基を有するモノマーに基づく単位を有するのが特に好ましい。
上記モノマーとしては、水酸基含有基又はカルボニル基含有基を有するモノマーが好ましく、カルボニル基含有基を有するモノマーがより好ましい。
カルボニル基含有基を有するモノマーとしては、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(別称:無水ハイミック酸;以下、「NAH」とも記す。)及び無水マレイン酸が好ましく、NAHがより好ましい。
TFE系ポリマーの好適な具体例としては、TFE単位、PAVE単位及び酸素含有極性基を有するモノマーに基づく単位を含むポリマー(1)、95.0~98.0モル%のTFE単位及び2.0~5.0モル%のPAVE単位からなるポリマー(2)、TFE単位及びPMVE単位を含むポリマーが挙げられる。
これらのポリマーは、特に、物理的な応力耐性に優れており、その粉体組成物を溶融押出成形に供すれば、微小な球晶が形成されて接着性により優れた成形物を形成しやすい。
【0016】
ポリマー(1)としては、TFE単位と、PAVE単位及び水酸基含有基又はカルボニル基含有基を有するモノマーとを含むポリマーが好ましい。ポリマー(1)としては、全単位に対して、TFE単位を90~98モル%、PAVE単位を1.5~9.97モル%、及び上記モノマーに基づく単位を0.01から3モル%、それぞれ含むポリマーが好ましい。
ポリマー(1)の具体例としては、国際公開第2018/16644号に記載されるポリマーが挙げられる。
【0017】
ポリマー(2)としては、TFE単位及びPAVE単位のみからなるポリマーが好ましい。
ポリマー(2)におけるPAVE単位の含有量は、全モノマー単位に対して、2.1モル%以上であるのが好ましく、2.2モル%以上であるのがより好ましい。
ポリマー(2)は酸素含有極性基を有さないのが好ましい。なお、ポリマー(2)が酸素含有極性基を有さないとは、ポリマー主鎖を構成する炭素原子数の1×106個あたり、ポリマーが有する酸素含有極性基の数が、500個未満であることを意味する。酸素含有極性基の数は、100個以下が好ましく、50個未満がより好ましい。酸素含有極性基の数の下限は、通常、0個である。
【0018】
ポリマー(2)は、ポリマー鎖の末端基として酸素含有極性基を生じない重合開始剤や連鎖移動剤等を使用して製造されてもよく、酸素含有極性基を有するTFE系ポリマーをフッ素化処理して製造されてもよい。
フッ素化処理の方法としては、フッ素ガスを使用する方法(特開2019-194314号公報等を参照)が挙げられる。
【0019】
TFE系ポリマーの粉体を構成する微粒子の少なくとも一部は、TFE系ポリマー以外の成分を含む微粒子であってもよいが、TFE系ポリマーからなる微粒子であることが好ましい。TFE系ポリマー以外の成分としては、例えば、熱可塑性のポリマーが挙げられる。熱可塑性のポリマーとしては、TArポリマーであってもよい。
TArポリマー以外の熱可塑性のポリマーとしては、TFE系ポリマー及びTArポリマー以外の後述のポリマーが挙げられる。
TFE系ポリマーの粉体がTFE系ポリマー以外のポリマー成分を含む粉体である場合、TFE系ポリマー以外のポリマー成分の量は、全ポリマー成分の30質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。また、TFE系ポリマー以外のポリマー成分がTArポリマーである場合は、TArポリマーの含有量は全ポリマー成分の20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
【0020】
TFE系ポリマーの粉体を構成する微粒子の少なくとも一部は、無機フィラーを含むTFE系ポリマーの微粒子であってもよい。
無機フィラーの材料としては、酸化物、窒化物、金属単体、合金及びカーボンが好ましく、酸化ケイ素(シリカ)、金属酸化物(酸化ベリリウム、酸化セリウム、アルミナ、ソーダアルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン等)、窒化ホウ素、及びメタ珪酸マグネシウム(ステアタイト)がより好ましく、シリカ及び窒化ホウ素がさらに好ましく、シリカが特に好ましい。無機フィラーとしては硬質無機フィラーであってもよいが、その場合は、本発明の粉体組成物に含まれる硬質無機フィラーの全量の一部であり、他は硬質無機フィラーの粉体である。
TFE系ポリマーと無機フィラーとを含む微粒子は、TFE系ポリマーをコアとし、このコアの表面に無機フィラーを有する粒子が好ましい。かかる粒子は、例えば、TFE系ポリマーの粒子と無機フィラーの粒子とを合着(衝突、凝集等)させて得られる。
TFE系ポリマーの粉体が、TFE系ポリマーと無機フィラーを含む微粒子を含む粉体である場合、溶融成形の際にTArポリマー中にTFE系ポリマーが均一に分散しやすい。
TFE系ポリマーの粉体の少なくとも一部がTFE系ポリマーと無機フィラーを含む微粒子を含む粉体である場合、かかる粉体中の無機フィラーの量は、粉体に対して50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。また、無機フィラーの少なくとも一部が硬質無機フィラーである場合は、その硬質無機フィラーの量は、粉体に対して40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。
【0021】
さらに、TFE系ポリマーの粉体を構成する微粒子は、後述の、有機フィラー、有機顔料、金属せっけん、界面活性剤、紫外線吸収剤、潤滑剤、シランカップリング剤等の添加剤を含有していてもよい。かかる添加剤を含む場合、粉体中のかかる添加剤の量は、粉体に対して10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0022】
上記TFE系ポリマーの粉体の平均粒子径(すなわち、TFE系ポリマーの粉体を構成する微粒子の平均粒子径)は、0.1~200μmが好ましく、1~100μmがより好ましい。この場合、溶融押出成形において、硬質無機フィラーによるTFE系ポリマーの粉体の粉砕が高度に進行し、より緻密な海島構造を有する成形物を形成しやすい。
【0023】
本発明における硬質無機フィラーは、モース硬度が3~9の無機フィラーである。
硬質無機フィラーのモース硬度としては、5以上が好ましく、6以上がより好ましい。この場合、溶融押出成形において、硬質無機フィラーによる、TFE系ポリマーの粉体の粉砕が高度に進行しやすい。
硬質無機フィラーは、無機成分以外の成分を含んでいてもよいが、無機成分からなるのが好ましい。無機成分以外の成分としては、後述する表面処理剤に用いられる有機物等の有機化合物、窒化ホウ素等の軟質の無機化合物が挙げられる。
硬質無機フィラーとしては、窒化アルミ、酸化ベリリウム(べリリア)、酸化ケイ素(シリカ)、酸化セリウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化マグネシウム(マグネシア)、酸化亜鉛又は酸化チタンからなる無機フィラーが好ましい。
硬質無機フィラーは、2種以上の無機成分からなっていてもよい。
【0024】
硬質無機フィラーとしては、酸化ケイ素を含むものが好ましい。酸化ケイ素を含む硬質無機フィラーは、高硬度であるだけでなく、TFE系ポリマーとの相互作用が亢進しやすい。そのため、かかる無機フィラーを含む成形物からは、溶融押出成形において、より緻密な海島構造を有する成形物を形成しやすい。また、その低線膨張性が特に発現しやすい。
硬質無機フィラーにおける、酸化ケイ素の含有量は、50質量%以上が好ましく、75質量%以上がより好ましい。酸化ケイ素の含有量は、100質量%以下が好ましい。
硬質無機フィラーとしては、ベリリアフィラー(モース硬度:9)、マグネシアフィラー(モース硬度:5.5)及びシリカフィラー(モース硬度:7)が好ましく、シリカフィラーがより好ましい。
シリカフィラーは、溶融シリカフィラー又は非晶質シリカフィラーであるのが好ましい。この場合、その低熱膨張性を成形物が具備しやすい。
【0025】
硬質無機フィラーは、その表面の少なくとも一部が、表面処理されていてもよい。かかる表面処理に用いられる表面処理剤としては、多価アルコール(トリメチロールエタン、ペンタエリストール、プロピレングリコール等)、飽和脂肪酸(ステアリン酸、ラウリン酸等)、そのエステル、アルカノールアミン、アミン(トリメチルアミン、トリエチルアミン等)、パラフィンワックス、シランカップリング剤、シリコーン、ポリシロキサン、及び、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、スズ、チタニウム、アンチモン等の金属の酸化物、それら金属の水酸化物、それら金属の水和酸化物、それら金属のリン酸塩が挙げられる。
シランカップリング剤としては、官能基を有するシランカップリング剤が好ましく、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン及び3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランがより好ましい。
【0026】
硬質無機フィラーの粉体の平均粒子径(すなわち、硬質無機フィラーの粉体を構成する微粒子の平均粒子径)としては、0.01μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましい。また、10μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましく、1μm以下が特に好ましい。
硬質無機フィラーの平均粒子径は、TFE系ポリマーの粉体の平均粒子径以下であるのが好ましい。
硬質無機フィラーの粉体の平均粒子径が、かかる範囲にあれば、溶融押出成形において、それによるTFE系ポリマーの粉体の粉砕が高度に進行し、より緻密な海島構造を有する成形物を形成しやすい。
具体的には、平均粒子径が0.10μm超かつ1μm以下である硬質無機フィラーの粉体と、平均粒子径が1μm以上かつ3μm以下であるTFE系ポリマーの粉体との組合せが好ましい。
【0027】
硬質無機フィラーを構成する微粒子の形状は、略真球状であるのが好ましい。略真球状である硬質無機フィラーの95%以上を占める球形の粒子において、長径に対する短径の比は、0.8以上が好ましく、0.9以上がより好ましい。上記比は、1未満が好ましい。
略真球状の微粒子からなる硬質無機フィラーの粉体は、溶融押出成形において、各成分との相互作用が亢進しやすい。
硬質無機フィラーの粉体の好適な具体例としては、平均粒子径が1μm以下であるシリカフィラー(アドマテックス社製の「アドマファイン」シリーズ等)、平均粒子径が0.10μm超かつ0.5μm以下である球状溶融シリカ(デンカ社製の「SFP」シリーズ等)が挙げられる。
【0028】
本発明におけるTArポリマーとしては、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミドイミド、芳香族ポリエステル、芳香族ポリエステルアミド、ポリフェニレンエーテル及びポリフェニレンサルファイドが好ましい。
TArポリマーとしては、液晶ポリマーが好ましい。液晶ポリマーは、異方性溶融相を形成するTArポリマーであり、一般的にサーモトロピック液晶ポリマーと呼称される。具体的な液晶ポリマーとしては、熱可塑性かつ液晶性の、芳香族ポリエステル及び芳香族ポリエステルアミドが挙げられ、前者はサーモトロピック液晶ポリエステル、後者はサーモトロピック液晶ポリエステルアミドと呼称される場合が多い。液晶ポリマーには、更にイミド結合、カーボネート結合、カルボジイミド結合、イソシアヌレート結合等が導入されていてもよい。
【0029】
上述したとおり、本組成物を溶融押出成形に供すると、TFE系ポリマーと硬質無機フィラーとがTArポリマー中に高度に分散して成形物が形成される。
このため、TArポリマーが液晶ポリマーである場合に発現しやすい、成形物の流れ方向(MD方向)における液晶ポリマー由来の物性の異方性が、高度に分散したTFE系ポリマーや硬質無機フィラーによって緩和されやすい。換言すれば、TArポリマーが液晶ポリマーである本組成物から溶融押出成形によって得られる成形物(フィルム等)は、等方性が高まりやすい。
その結果、液晶ポリマー固有の物性(強度、弾性、振動吸収性等の機械物性や、誘電特性等の電気物性)を具備しつつ、異方性に起因する引張強度や熱膨張性の低下が抑制された成形物が得られやすい。特に、薬液浸漬時や加熱処理時に寸法安定性に優れた、フィルム等の成形物が得られやすい。
【0030】
なお、液晶ポリマーの異方性溶融相は、例えば、ポリマー試料をホットステージに載置した後、窒素ガス雰囲気下で昇温加熱し、ポリマー試料の透過光を観察して確認すればよい。
液晶ポリマーの溶融温度(融点)は、250~370℃が好ましく、270~350℃がより好ましい。
液晶ポリマーであるTArポリマーの具体例としては、ポリプラスチックス社製の「ラペロス」、セラニーズ社製の「ベクトラ」、上野製薬社製の「UENOLCP」、住友化学社製の「スミカスーパーLCP」、SOLVAY SPECIALTY POLYMERS社製の「XYDAR」、JX日鉱日石エネルギー社製の「ザイダー」、東レ社製の「シベラス」が挙げられる。
【0031】
TArポリマーの粉体は、TArポリマーを50質量%以上の割合で含む微粒子からなる粉体であり、TArポリマーを60~100質量%の割合で含む微粒子からなる粉体が好ましい。上記粉体を構成する微粒子は、TArポリマー以外の成分を含む微粒子であってもよい。かかる成分としては、TArポリマー以外の熱可塑性ポリマー、繊維状の無機フィラー、繊維状の有機フィラー、非繊維状の無機フィラー、非繊維状の有機フィラー、有機顔料、金属せっけん、界面活性剤、紫外線吸収剤、潤滑剤、シランカップリング剤等の添加剤が挙げられる。TArポリマー以外の熱可塑性ポリマーとしては、TFE系ポリマーであってもよく、非繊維状の無機フィラーは硬質無機フィラーであってもよい。
TArポリマー以外の成分としては、ガラス繊維、炭素繊維(PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維)、有機合成繊維(芳香族ポリアミド繊維等)、金属繊維(ステンレス繊維、アルミニウム繊維等)、無機系繊維(炭化ケイ素繊維、チタン酸カリウム繊維、アルミナ繊維等)、天然鉱石系繊維(ウオラスナイト、アスベスト等)等の繊維状フィラーが好ましい。
【0032】
TArポリマーの粉体微粒子が繊維状フィラーを含む場合、粉体中の繊維状フィラーの含有量は40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましい。
TArポリマーの粉体微粒子がTArポリマー以外の熱可塑性ポリマーを含む場合、粉体中のかかる熱可塑性ポリマーの含有量は全ポリマー成分の40質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。ただし、熱可塑性ポリマーがTFE系ポリマーである場合は、全ポリマー成分の20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
TArポリマーの粉体微粒子が非繊維状の無機フィラー等の上記以外の添加剤を含む場合、粉体中のかかる添加剤の含有量は30質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。ただし、添加剤が硬質無機フィラーである場合は、その硬質無機フィラーの量は、粉体に対して20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
【0033】
TArポリマーの粉体の平均粒子径(すなわち、TArポリマーの粉体を構成する微粒子の平均粒子径)は、0.1~200μmが好ましく、1~100μmがより好ましい。この場合、溶融押出成形において、TArポリマー中にTFE系ポリマー及び硬質無機フィラーが分散して、緻密な海島構造を有する成形物を形成しやすい。
【0034】
本組成物は、TFE系ポリマーの粉体、硬質無機フィラーの粉体及びTArポリマーの粉体以外の粉体を、さらに含んでいてもよい。
他の粉体としては、TFE系ポリマー及びTArポリマー以外の熱可塑性ポリマーの粉体、熱可塑性ポリマー以外のポリマーの粉体、硬質無機フィラー以外のフィラー(前記無機フィラーや有機フィラー等)の粉体、等が挙げられる。有機フィラーとしては、溶融押出成形において溶融しないポリマーの繊維からなる繊維状有機フィラーが挙げられる。
前記熱可塑性ポリマーの具体例としては、ポリオレフィン系ポリマー(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、酸変性ポリエチレン、酸変性ポリプロピレン、酸変性ポリブチレン等)、TFE系ポリマー以外のフッ素系ポリマー(ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等)、スチレン系ポリマー(ポリスチレン、ポリアクリロニトリルスチレン、ポリアクリロニトリルブタジエンスチレン等)、ポリカーボネート系ポリマー、ポリ(メタ)アクリル系ポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリアリレートン系ポリマー、ポリウレタン系ポリマーが挙げられる。
熱可塑性ポリマー以外のポリマーの粉体としては、熱硬化性樹脂の硬化物からなる粉体、非熱溶融性ポリテトラフルオロエチレンの粉体等が挙げられる。
有機フィラーの粉体としては、芳香族ポリアミド繊維、ポリアラミド繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、ポリエチレン繊維等からなる粉体が挙げられる。
本組成物が上記他の粉体を含む場合、本組成物中の他の粉体の含有量は、30質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。
【0035】
本組成物としては、TFE系ポリマーの粉体、硬質無機フィラーの粉体及びTArポリマーの粉体の3種の粉体からなる組成物であることが、特に好ましい。以下の本組成物におけるこれら3者の粉体の含有割合は、これら3種の粉体からなる組成物における割合をいう。
本組成物におけるTFE系ポリマーの含有量としては、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。また、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。
本組成物における、TArポリマーの含有量としては、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。また、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましい。
本組成物における、TArポリマーの含有量は、上記TFE系ポリマーの含有量より多いのが好ましい。つまり、本組成物は、TArポリマーを主たるポリマー成分として含むのが好ましい。この場合、TFE系ポリマーとの相互作用が亢進しやすいため、溶融押出成形において、より緻密な海島構造を有する成形物を形成しやすい。また、その低線膨張性が特に発現しやすい。
【0036】
本組成物における、硬質無機フィラーの含有量としては、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。また、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。
本組成物における、TFE系ポリマーの含有量に対する硬質無機フィラーの含有量の比としては、0.2~1.0が好ましく、0.2~0.6がより好ましい。この場合、溶融押出成形において、TFE系ポリマーの粉体が高度に粉砕され、硬質無機フィラーが高度に分散した成形物が得られやすい。また、成形物において3者の物性を高度に具備しやすい。
本組成物における、TFE系ポリマー、TArポリマー、硬質無機フィラーのそれぞれの含有量としては、この順に、10~40質量%、5~40質量%、20~85質量%であるのが好ましい。
【0037】
本組成物は、それぞれの成分をドライブレンドして製造するのが好ましい。ドライブレンドに際しては、タンブラー、ヘンシェルミキサー、ホッパー、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー等の混合装置を使用できる。
本組成物は、溶融押出成形に用いられるのが好ましく、溶融押出成形によってフィルムに成形されるのが好ましい。
溶融押出成形は、Tダイを用いた方法により行うのが好ましく、ホッパーから投入される本組成物を押出機(1軸スクリュー又は2軸スクリュー)中にて溶融混練し、押出機先端部に設置されたTダイより押出してフィルムに成形する方法による行うのがより好ましい。
【0038】
溶融押出成形によって得られたフィルムは、さらに延伸処理するのが好ましい。これにより、より等方的なフィルムが得られる。延伸処理とは、フィルムを、その融点以下の温度にて軟化させ、1方向(1軸:MD方向)又は2方向(2軸:MD方向及びTD方向)に延伸する処理である。
延伸処理は、等方的なフィルムが得られる観点から、2軸延伸処理がより好ましい。
延伸方法としては、インフレーション方式、フラット方式が挙げられる。フラット方式としては、同時2軸延伸、逐次2軸延伸のいずれの方式も採用できる。
【0039】
溶融押出成形によるフィルムの製造においては、得られるフィルムに、さらに積層処理、延伸処理、冷却処理及び剥離処理を施してもよい。
積層処理とは、得られるフィルムの両面または片面に、剥離フィルムをラミネートし、積層体を形成する処理である。
ラミネート法としては、熱圧着法、表面処理法が挙げられ、それに際しては、熱圧着ロールや、熱プレス装置、ラミネーターが用いられる。
例えば、熱圧着ロールを用いる場合には、得られるフィルムと剥離フィルムとを重ね、熱圧着ロールを通過させて熱圧着すればよい。
熱プレス装置を用いる場合には、熱プレス装置の底板上に得られたフィルムと剥離フィルムとを重ねて熱圧着して冷却すればよい。
【0040】
また、一対の熱圧着ロールを用い、二枚の剥離フィルムの間隙に、Tダイより押し出された溶融状態の本組成物を供給し、この熱圧着ロールの間隙部で積層体を成形してもよい。
この積層体の形成に際しては、多層ダイを用いた共押出法を用いれば、本組成物から形成されたフィルムと剥離フィルムとをそれぞれ層とする多層体を形成できる。
剥離フィルムの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミド、ポリアミドイミド、熱可塑性ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体、ポリテトラフルオロエチレンとエチレンの共重合体、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリ三フッ化塩化エチレンが挙げられる。
剥離フィルムの厚さは、10~200μmが好ましく、20~100μmがより好ましい。
【0041】
延伸処理とは、積層処理にて得られた積層体の剥離フィルム層を軟化させつつ、上記積層体を延伸して延伸物を得る処理である。この延伸処理は、連続的に実施してもよい。
冷却処理とは、延伸処理で得られた延伸物を冷却する処理である。冷却は、自然冷却してもよく、冷却ロール等を用いてもよい。
剥離処理とは、冷却された延伸物から、剥離フィルムを剥離する処理である。剥離処理は、90°剥離法又は180°剥離法によって行える。
かかる一連の処理により、本組成物から、より熱膨張係数が抑制されたフィルムが得られる。
【0042】
フィルムの成形においては、インフレーション成形を用いてもよい。
インフレーション成形においては、環状ダイ(丸ダイ、サーキュラーダイ)から押出した本組成物の溶融混練物が、2方向(MD方向及びTD方向)に延伸されるため、フィルムの等方性が向上しやすい。インレーション成形においては、溶融混練物が、引取と膨張とによって2方向に機械的に延伸されるため、ポリマーの分子が2方向に配向されたフィルムを成形しやすい。
また、この際、インフレーション成形により、上述した積層体と類似する構成のフィルムを形成してもよい。
すなわち、本組成物と他の熱可塑性ポリマーを環状ダイから溶融押出し、インフレーション成形によって積層体とする。
【0043】
この際に形成し得る積層体としては、1つの本組成物から形成されたフィルム層と1つの剥離フィルム層からなる2層積層体(タイプ1)、2つの剥離フィルム層の間に1つの本組成物から形成されたフィルム層が挟まれた3層積層体(タイプ2)、2つの本組成物から形成されたフィルム層の間に1つの剥離フィルム層が挟まれた3層積層体(タイプ3)が挙げられ、タイプ1の積層体又はタイプ3の積層体が好ましい。
これらの積層体における、本組成物から形成されたフィルム層の厚さとしては、3~150μmが好ましい。また、剥離フィルム層の厚さとしては、上記フィルム層の厚さ以上、2倍以下が好ましい。
かかる一連の処理によっても、本組成物から、より熱膨張係数が抑制されたフィルムが得られる。
【0044】
本発明のフィルム(以下、「本フィルム」とも記す。)は、TFE系ポリマーと、モース硬度が3~9である無機フィラーと、TArポリマーとを含み、TArポリマーを含む海相とTFE系ポリマーを含む島相とから構成された海島構造を有する。
本フィルムにおける、TFE系ポリマー、硬質無機フィラー及びTArポリマーのそれぞれの定義は、好適な範囲も含めて、本組成物におけるそれらと同様である。
本フィルムにおいて、TFE系ポリマー、硬質無機フィラー及びTArポリマーは、均一に分布して存在していてもよく、偏在して存在していてもよい。
【0045】
本フィルムの厚さ方向における表面領域のTFE系ポリマーの分布量は、フィルムの厚さ方向における中心領域のTFE系ポリマーの分布量より高いのが好ましい。この場合、本フィルムにおけるTFE系ポリマーに起因する物性(特に、低誘電接性等の誘電物性及び接着性)が顕著に発現しやすい。
本フィルムの厚さ方向における中心領域の硬質無機フィラーの分布量は、フィルムの厚さ方向における表面領域の硬質無機フィラーの分布量より高いのが好ましい。この場合、本フィルムにおける硬質無機フィラーに起因する物性(特に、低線膨張性等)が顕著に発現しやすい。
【0046】
本フィルムの厚さとしては、5~1000μmが好ましく、10~200μmがより好ましい。
本フィルムは、本組成物を溶融押出成形によって、製造するのが好ましい。この場合、機械的な強度や折り曲げ性等の加工性を損なうことなく、上述した種々の任意な態様のフィルムを製造しやすい。
本フィルムの製造方法としては、Tダイコート法を使用するのが好ましく、具体的には、溶融混練された本組成物をTダイから溶融状態で吐出し、冷却ロールに接触させてフィルムに成形するのが好ましい。溶融混練された本組成物は、冷却ロールに接触する前に非接触式加熱部で加熱保持するのが好ましい。
冷却ロールで冷却された本組成物は、搬送ローラにて搬送されつつフィルム状に成形され、巻取ロールで巻き取られて長尺フィルムに成形されるのが好ましい。
【0047】
本フィルムは、その表面に金属層を形成して、金属張積層体とするのが好ましい。金属としては、銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金、スズ等の各種金属、これらの合金(ステンレススチール等)が挙げられる。
かかる金属張積層体としては、金属層及び本フィルムをこの順に有する片面金属張積層体、金属層、本フィルム層及び金属層をこの順に有する両面金属張積層体が挙げられる。また、これらの金属張積層体は、さらに別の層(プリプレグ層、ガラス部材層、セラミックス部材層、他の樹脂フィルム層)を有していてもよい。
本フィルムの表面に金属層を形成する方法としては、ラミネート法や熱圧着法によって本フィルムの表面に金属箔を貼着する方法、スパッタリング法や蒸着法によって本フィルムの表面に金属層を形成する方法、メッキ法(無電解メッキや無電解メッキ後の電解メッキを含む。)によって本フィルムの表面に金属層を形成する方法、金属導電性インクを用いた印刷法(スクリーン印刷法、インクジェット法、イオンプレーティング法)によって本フィルムの表面に金属層を形成する方法が挙げられる。
なお、金属箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等の銅箔が好ましい。
【0048】
金属層との接着性をより向上させるため、本フィルムの表面を表面処理してもよい。表面処理としては、プラズマ処理、コロナ処理、火炎処理、イトロ処理が挙げられる。
かかる金属張積層体は、プリント基板、高放熱基板、アンテナ基板等の材料又は部材として使用できる。
例えば、かかる金属張積層体の金属層をエッチングしてパターン回路を形成すればプリント基板が得られる。この際、パターン回路を形成した後に、上記パターン回路上に層間絶縁膜を形成し、上記層間絶縁膜上にさらにパターン回路を形成してもよい。
また、パターン回路上にソルダーレジストを積層してもよく、カバーレイフィルムを積層してもよい。カバーレイフィルムは、典型的には、基材フィルムと、その表面に形成された接着剤層とから構成され、接着剤層側の面がプリント基板に貼着される。カバーレイフィルムの基材フィルムとして、本フィルムを使用してもよい。また、パターン回路上に、本フィルムを用いた層間絶縁膜(接着層)を形成し、カバーレイフィルムとしてポリイミドフィルムを積層してもよい。
【実施例】
【0049】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
使用した原材料を、以下に示す。
1.各成分の準備
PFA系粉体1:TFE単位、NAH単位及びPPVE単位を、この順に98.0モル%、0.1モル%、1.9モル%含む、カルボニル基含有基を主鎖炭素数1×106個あたり1000個有するPFA系ポリマー(溶融温度:300℃)からなる粉体(平均粒子径:2.0μm)
PFA系粉体2:TFE単位及びPPVE単位からなる、カルボニル基含有基を主鎖炭素数1×106個あたり40個有するPFA系ポリマー(溶融温度:305℃)からなる粉体(平均粒子径:2.4μm)
芳香族系粉体1:ガラス繊維を30質量%含む、芳香族ポリマーである液晶ポリマーの粉体(溶融温度:320℃;上野製薬社製、「UENO LCP 6030G」)
無機フィラー1:モース硬度が7であり、かつ略真球状であるシリカフィラー(平均粒子径:0.5μm;アドマテックス社製、「アドマファインSO-C2」)
無機フィラー2:モース硬度が7であり、かつ略真球状であるシリカフィラー(平均粒子径:5μm)
無機フィラー3:モース硬度が1であり、タルクフィラー(平均粒子径:0.7μm)
【0050】
フィルムの寸法安定性の評価は、JIS C 6481:1996に準拠した。
得られたフィルムの幅方向の端から、流れ方向に沿った2辺及び幅方向に沿った2辺を有する30cm角の正方形状のサンプルを切り出した。
このサンプルの表面の対角線(流れ方向とのなす角度が45°である45°方向、及びこの45°方向と直交する135°方向)上に、それぞれ長さ25cmの線分を描画し、各線分の両端部をそれぞれ中心とするパンチ孔を形成した。
サンプルを塩化鉄水溶液に浸漬し、浸漬前後の2つのパンチ孔の中心間の距離を測定し、エッチングにおけるフィルムの斜め方向の伸縮率を求めた。
サンプルに、150℃にて30分間加熱した後、25℃まで冷却する熱処理を施し、熱処理前後の2つのパンチ孔の中心間の距離を測定し、熱処理におけるフィルムの斜め方向の伸縮率を求めた。
【0051】
2.粉体組成物及びフィルムの製造例
[例1]
PFA系粉体1(20質量部)、芳香族系粉体1(100質量部)、及び硬質無機フィラー1(15質量部)をドライブレンドして粉体組成物1を調製した。粉体組成物1を2軸押出機(テクノベル社製、「KZW15TW-45MG」)に投入して溶融混練(スクリュー回転数:200rpm、設定樹脂温度:370℃)し、その先端に設置したTダイから2.0kg/hrにて吐出して、平坦状のフィルム1(厚さ:100μm)を成形した。
フィルム1は、銅箔に対して高い接着性を示し、その誘電率は2.9であり誘電特性に優れていた。また、フィルム1のエッチングにおけるフィルムの斜め方向の伸縮率と、熱処理におけるフィルムの斜め方向の伸縮率(絶対値)とは、いずれも0.1%未満であり、フィルム1は、寸法安定性に優れていた。
[例2~4]
それぞれの粉体及び無機フィラーの種類と量とを下表1に示す通り変更した以外は、フィルム1と同様にして、フィルム2~4を得た。
【0052】
3.評価
3-1.寸法熱安定性の評価
それぞれのフィルムの寸法変化率を以下の通り測定し、以下の基準に従って評価した。なお、フィルムの寸法安定性の評価は、JIS C 6481:1996に準拠した。
それぞれのフィルムから、30cm角の正方形状のサンプルを切り出した。
このサンプルの表面に、長さ25cmの線分を描画し、線分の両端部をそれぞれ中心とするパンチ孔を形成した。
サンプルを、150℃にて30分間加熱した後、25℃まで冷却する熱処理を施し、熱処理前後の2つのパンチ孔の中心間の距離を測定し、熱処理におけるフィルムの伸縮率の絶対値を寸法熱変化率とした。
[評価基準]
〇:寸法熱変化率が1.5%未満
△:寸法熱変化率が1.5以上2%以下
×:寸法熱変化率が2%超
【0053】
3-2.接着性の評価
それぞれのフィルムの接着性を以下の通り測定し、以下の基準に従って評価した。
それぞれのフィルムと無垢の銅箔とを対向して配置し、熱プレス(温度:340℃、加圧力:15kN/m)して、フィルム層と銅箔層を有する積層体を得た。この積層体から、長さ100mm、幅10mmの矩形状の試験片を切り出した。試験片の長さ方向の一端から50mmの位置までフィルム層から銅箔層を剥離した。剥離に際しては、試験片の長さ方向の一端から50mmの位置を中央にして、引張り試験機(オリエンテック社製)を用いて、引張り速度50mm/分で90度剥離し、測定距離10mmから30mmまでの平均荷重を測定して、剥離強度(N/cm)とした。
[評価基準]
〇:剥離強度が10N/cm以上である。
△:剥離強度が5N/cm以上10N/cm未満である。
×:剥離強度が5N/cm未満である。
【0054】
【0055】
それぞれのフィルムを液体窒素中で凍結した後、切断し、切断面を、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製、FE-SEM)で観察した結果、フィルム1~4は、液晶ポリマー1を含む海相と、PFA系ポリマー1又は2を含む島相とから構成された海島構造を有していた。また、フィルム1~3は、フィルムの厚さ方向における表面領域のPFA系ポリマーの分布量が、フィルムの厚さ方向における中心領域のPFA系ポリマーの分布量より高かった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の粉体組成物及び本発明のフィルムは、高周波特性、特にミリ波帯域の伝送損失低減が必要とされる電子機器(レーダー、ネットワークのルーター、バックプレーン、無線インフラ、自動車用センサ、エンジンマネージメントセンサ等)に用いられるプリント基板の材料又は部材等として有用である。
なお、2019年11月11日に出願された日本特許出願2019-204147号の明細書、特許請求の範囲及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。