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特許7597218電波到来方向推定装置、電波到来方向推定方法、及び電波到来方向推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】電波到来方向推定装置、電波到来方向推定方法、及び電波到来方向推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 3/20 20060101AFI20241203BHJP
【FI】
G01S3/20
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023528818
(86)(22)【出願日】2021-06-15
(86)【国際出願番号】 JP2021022733
(87)【国際公開番号】W WO2022264281
(87)【国際公開日】2022-12-22
【審査請求日】2023-10-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 正文
(72)【発明者】
【氏名】永瀬 文昭
(72)【発明者】
【氏名】栗山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】宮城 利文
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-235044(JP,A)
【文献】特開平01-292277(JP,A)
【文献】国際公開第2021/001934(WO,A1)
【文献】特開2004-144543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 3/00- 3/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナパターンが不均一であるアンテナが任意の順次に向けられた複数の異なる方向を示すアンテナ角度をそれぞれ取得するアンテナ角度取得部と、
前記アンテナ角度取得部が取得したアンテナ角度それぞれにおいて前記アンテナが電波を受信した受信強度をそれぞれ測定する受信強度測定部と、
前記アンテナ角度取得部が取得したアンテナ角度、及び前記受信強度測定部が測定した受信強度と、前記アンテナのアンテナパターンとの一致度を、前記アンテナ角度取得部が取得したアンテナ角度ごとに算出する一致度算出部と、
前記一致度算出部が算出した一致度が最大であるアンテナ角度を電波の到来方向と推定する推定部と、
前記受信強度測定部が測定した受信強度から到来波又は遅延波の成分を分離させる分離部と
を有し、
前記一致度算出部は、
前記アンテナ角度取得部が取得したアンテナ角度、及び前記分離部が分離させた到来波又は遅延波の受信強度と、前記アンテナのアンテナパターンとの一致度を、前記アンテナ角度取得部が取得したアンテナ角度ごとに算出し、
前記分離部は、
送信局が送信した既知パターンとの相関により、送信局からの伝搬時間が同一である到来波又は遅延波ごとに分離させること
を特徴とする電波到来方向推定装置。
【請求項2】
アンテナパターンが不均一であるアンテナが任意の順次に向けられた複数の異なる方向を示すアンテナ角度をそれぞれ取得するアンテナ角度取得工程と、
取得したアンテナ角度それぞれにおいて前記アンテナが電波を受信した受信強度をそれぞれ測定する受信強度測定工程と、
取得したアンテナ角度、及び測定した受信強度と、前記アンテナのアンテナパターンとの一致度を、取得したアンテナ角度ごとに算出する一致度算出工程と、
算出した一致度が最大であるアンテナ角度を電波の到来方向と推定する推定工程と、
測定した受信強度から到来波又は遅延波の成分を分離させる分離工程
を含み、
前記一致度算出工程では、
取得したアンテナ角度、及び分離させた到来波又は遅延波の受信強度と、前記アンテナのアンテナパターンとの一致度を、取得したアンテナ角度ごとに算出し、
前記分離工程では、
送信局が送信した既知パターンとの相関により、送信局からの伝搬時間が同一である到来波又は遅延波ごとに分離させること
を特徴とする電波到来方向推定方法。
【請求項3】
請求項1に記載の電波到来方向推定装置の各部としてコンピュータを機能させるための電波到来方向推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波到来方向推定装置、電波到来方向推定方法、及び電波到来方向推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信システムにおける電波の到来方向を推定する方法として、従来から多くの方法が提案されている。例えば、複数のアンテナ素子を備えたアレーアンテナを用いて得られる相関行列から電波の到来方向を推定する方法は公知である。
【0003】
また、非特許文献1には、MUSICアルゴリズム(MUltiple SIgnal Classification)を使用し、アレイ・アンテナを用いて電波の到来方向を推定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Minseok Kim、「到来方向推定システムの基礎と実施例」、Design Wave Magazine、CQ出版株式会社、2007年12月号、p.112-118
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来は、メインローブやNULL点を自由に設定可能なアレーアンテナを用いることが前提とされていた。また、VHF帯(Very High Frequency band)などの低周波数帯を用いる無線通信システムでは、アンテナ素子のサイズが大きくなってしまい、複数のアンテナ素子を用いたアレーアンテナを用意することは大きな負担となり、設置も困難になることがあった。
【0006】
本発明は、指向性の強いアレーアンテナが用いられなくても、電波の到来方向を推定することができる電波到来方向推定装置、電波到来方向推定方法、及び電波到来方向推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様にかかる電波到来方向推定装置は、アンテナパターンが不均一であるアンテナが任意の順次に向けられた複数の異なる方向を示すアンテナ角度をそれぞれ取得するアンテナ角度取得部と、前記アンテナ角度取得部が取得したアンテナ角度それぞれにおいて前記アンテナが電波を受信した受信強度をそれぞれ測定する受信強度測定部と、前記アンテナ角度取得部が取得したアンテナ角度、及び前記受信強度測定部が測定した受信強度と、前記アンテナのアンテナパターンとの一致度を、前記アンテナ角度取得部が取得したアンテナ角度ごとに算出する一致度算出部と、前記一致度算出部が算出した一致度が最大であるアンテナ角度を電波の到来方向と推定する推定部と、前記受信強度測定部が測定した受信強度から到来波又は遅延波の成分を分離させる分離部とを有し、前記一致度算出部は、前記アンテナ角度取得部が取得したアンテナ角度、及び前記分離部が分離させた到来波又は遅延波の受信強度と、前記アンテナのアンテナパターンとの一致度を、前記アンテナ角度取得部が取得したアンテナ角度ごとに算出し、前記分離部は、送信局が送信した既知パターンとの相関により、送信局からの伝搬時間が同一である到来波又は遅延波ごとに分離させることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の一態様にかかる電波到来方向推定方法は、アンテナパターンが不均一であるアンテナが任意の順次に向けられた複数の異なる方向を示すアンテナ角度をそれぞれ取得するアンテナ角度取得工程と、取得したアンテナ角度それぞれにおいて前記アンテナが電波を受信した受信強度をそれぞれ測定する受信強度測定工程と、取得したアンテナ角度、及び測定した受信強度と、前記アンテナのアンテナパターンとの一致度を、取得したアンテナ角度ごとに算出する一致度算出工程と、算出した一致度が最大であるアンテナ角度を電波の到来方向と推定する推定工程と、測定した受信強度から到来波又は遅延波の成分を分離させる分離工程を含み、前記一致度算出工程では、取得したアンテナ角度、及び分離させた到来波又は遅延波の受信強度と、前記アンテナのアンテナパターンとの一致度を、取得したアンテナ角度ごとに算出し、前記分離工程では、送信局が送信した既知パターンとの相関により、送信局からの伝搬時間が同一である到来波又は遅延波ごとに分離させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、指向性の強いアレーアンテナが用いられなくても、電波の到来方向を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】通信装置の構成例を示す図である。
図2】(a)は、3つの異なるアンテナ角度でアンテナが受信した電波の受信強度を例示する図である。(b)は、遅延波の成分及び雑音などを分離させた後の3つのアンテナ角度と電波強度を例示する図である。
図3】(a)は、アンテナのアンテナパターンを例示する図である。(b)は、推定部がアンテナパターンを用いて電波の到来方向を推定した結果を模式的に示す図である。
図4】一実施形態にかかる電波到来方向推定装置の動作例を示すフローチャートである。
図5】(a)は、アンテナパターン記憶部が記憶しているアンテナパターンのデータを例示する図である。(b)は、アンテナが回転したときのアンテナ角度取得部が取得したアンテナ角度と、受信強度測定部が測定した受信強度との対応を例示する図である。(c)は、一致度算出部が一致度を算出するときに行う処理を例示する図である。(d)は、推定部が電波の到来方向を推定した結果を例示する図である。
図6】一実施形態にかかる電波到来方向推定装置のハードウェア構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、図面を用いて一実施形態にかかる電波到来方向推定装置について説明する。図1は、通信装置1の構成例を示す図である。通信装置1は、アンテナ2、回転駆動部3、制御部4、及び一実施形態にかかる電波到来方向推定装置5を備え、受信局としての機能を有する。
【0012】
アンテナ2は、例えば水平方向に回転自在に設けられており、VHF帯などの低周波数帯の送信局から送信された電波(信号)を受信し、受信信号を電波到来方向推定装置5に対して出力する。アンテナ2のアンテナパターン(放射パターン)は、不均一になっている(図4参照)。なお、アンテナパターンが不均一であるとは、無指向性ではなく、弱い指向性があることを示すこととする。
【0013】
回転駆動部3は、制御部4の制御に応じてアンテナ2を例えば水平方向に回転させるように駆動し、アンテナ2を順次に360度の全方向へ向ける。
【0014】
制御部4は、操作部(図示せず)に対する作業者の操作に応じて、回転駆動部3及び電波到来方向推定装置5を制御する。なお、アンテナ2は、回転駆動部3及び制御部4によらず、作業者の手によって任意の方向に向けられてもよい。
【0015】
電波到来方向推定装置5は、アンテナ角度取得部50、受信強度測定部51、分離部52、取得情報記憶部53、アンテナパターン記憶部54、一致度算出部55、及び推定部56を有する。
【0016】
アンテナ角度取得部50は、回転駆動部3が回転させたアンテナ2が順次に向けられた複数の異なる方向を示すアンテナ角度をそれぞれ取得し、受信強度測定部51及び取得情報記憶部53に対して出力する。アンテナ角度取得部50は、アンテナ角度を示すデータをアンテナ2から受信してもよいし、制御部4から取得してもよい。また、アンテナ角度取得部50は、作業者が操作部(図示せず)に対して入力するデータからアンテナ角度をそれぞれ取得してもよい。
【0017】
受信強度測定部51は、アンテナ角度取得部50が取得したアンテナ角度それぞれにおいてアンテナ2が電波を受信した受信強度をそれぞれ対応づけて測定し、測定結果を分離部52に対して出力する。
【0018】
例えば、受信強度測定部51は、等間隔に離れた複数のアンテナ角度において受信強度を測定する。また、受信強度測定部51は、受信強度を測定するアンテナ角度の全部又は一部を、設定可能なアンテナ角度の両端(最大角度と最小角度)と、残りの範囲の等間隔で離れたアンテナ角度に設定されて電波の受信強度を測定してもよい。また、受信強度測定部51は、作業者が操作部(図示せず)に対して入力する受信強度の測定データから、アンテナ角度それぞれに対する受信強度をそれぞれ取得してもよい。
【0019】
分離部52は、受信強度測定部51が測定した受信強度から、例えば遅延波の成分及び雑音などを分離させ、所定の到来波又は遅延波の受信強度とアンテナ角度を対応付けたデータそれぞれを取得情報記憶部53に対して出力する。例えば、分離部52は、送信局が送信する同期信号などの既知パターンと受信信号の相関により、干渉波や雑音を含まないように到来波及び遅延波を分離させる。
【0020】
図2は、分離部52が遅延波の成分及び雑音などを分離させて取得情報記憶部53へ出力するデータを例示する図である。図2(a)は、3つの異なるアンテナ角度でアンテナ2が受信した電波の受信強度(縦軸)を例示する図である。図2(b)は、遅延波の成分及び雑音などを分離させた後の3つのアンテナ角度と電波強度を例示する図である。
【0021】
送信局が送信し、マルチパスを介して伝搬される電波は、受信局では、到来波及び遅延波がある方向からある強度で到来しているように測定される。このとき、到来波及び遅延波が到来する方向は、一定(真値・一定値)である。
【0022】
電波を受信するアンテナに指向性がある場合には、受信強度は、そのアンテナが向けられている角度における特性(指向性)により、測定値が大きくなったり小さくなったりする。つまり、受信強度は、アンテナの向けられている方向によって異なるように歪んでおり、均一ではない。
【0023】
そこで、電波到来方向推定装置5は、アンテナ2の指向性(歪みの特性:アンテナパターン)を後述するアンテナパターン記憶部54が記憶しているので、当該アンテナパターンを用いて到来方向(真値)を推定する。
【0024】
図2(a)に示すように、例えば3つの異なるアンテナ角度A,B,Cにおいて、アンテナ2は、それぞれ異なる受信強度の到来波及び遅延波を受信する。
【0025】
そして、分離部52は、送信局からアンテナ2までの伝搬時間などに基づいて、アンテナ2のアンテナ角度A,B,Cそれぞれで受信した同一伝搬時間の到来波又は遅延波(若しくは第2遅延波以降の遅延波)ごとに分離する(図2(a))。
【0026】
また、図2(b)に示すように分離部52は、アンテナ2の回転によるアンテナ角度A,B,Cにおける同一伝搬時間の到来波(又は同一伝搬時間の遅延波)ごとに分離した受信強度を取得情報記憶部53に対して出力する。つまり、分離部52が取得情報記憶部53に対して出力するデータは、アンテナ角度A,B,Cの値と、アンテナ角度それぞれの受信強度との組み合わせであるため、図2(b)に示した3つのベクトルに相当する。
【0027】
ただし、分離部52が取得情報記憶部53に対して出力するデータは、送信局からアンテナ2までの距離が遠い場合には、いずれのアンテナ角度であっても受信強度が小さくなってしまう。そのため、後述する一致度算出部55は、アンテナ角度A,B,Cの値と、アンテナ角度それぞれの受信強度との組み合わせを、全体的に原点を基準として拡大又は縮小させて、アンテナパターンとの対比を容易にする。つまり、原点を基準に拡大又は縮小させた後の同一伝搬時間のアンテナ角度それぞれの受信強度の組合せを、原点を基準に回転させることによって、電波の真の到来方向を推定することが可能となる。
【0028】
分離部52は、アンテナ角度それぞれに対して、同一伝搬時間の到来波ごとに分離してもよいし、同一伝搬時間の遅延波ごとに分離してもよい。例えば、分離部52は、最初の到来波を分離することが容易でない場合には、同一伝搬時間の遅延波ごとに分離したデータを取得情報記憶部53に対して出力する。すなわち、電波到来方向推定装置5は、同一伝搬時間の到来波、又は同一伝搬時間の遅延波ごとに、受信強度の測定時刻における電波の到来方向をそれぞれ推定可能である。
【0029】
取得情報記憶部53(図1)は、例えばアンテナ角度取得部50が取得したアンテナ角度を示すデータ、及び分離部52が分離させた所定の到来波の受信強度とアンテナ角度を対応付けたデータそれぞれを記憶し、一致度算出部55からのアクセスに応じて出力する。
【0030】
アンテナパターン記憶部54は、アンテナ2のアンテナパターンを示すデータ(アンテナ角度それぞれの利得)を記憶しており、一致度算出部55からのアクセスに応じて出力する。
【0031】
一致度算出部55は、取得情報記憶部53が記憶しているデータと、アンテナパターン記憶部54が記憶しているデータとをそれぞれ読出して取得し、マッチング(一致度の比較)を図る。
【0032】
例えば、一致度算出部55は、アンテナ角度取得部50が取得したアンテナ角度、及び受信強度測定部51が測定した受信強度と、アンテナ2のアンテナパターンとの一致度を、アンテナ角度取得部50が取得したアンテナ角度ごとに算出し、推定部56に対して出力する。
【0033】
より具体的には、一致度算出部55は、アンテナ角度取得部50が取得したアンテナ角度、及び分離部52が遅延波の成分及び雑音を分離させた後の受信強度と、アンテナ2のアンテナパターンとの一致度を、アンテナ角度取得部50が取得したアンテナ角度ごとに算出し、推定部56に対して出力する。
【0034】
また、一致度算出部55は、伝送距離などによる受信電力の強弱を調整するために、任意のアンテナ角度の受信強度、受信電力の平均値に近いアンテナ角度の受信強度、受信電力が最大のアンテナ角度の受信強度等、又は所定のアンテナ角度の受信強度などを基準にして、他のアンテナ角度における受信強度を補正してもよい。また、一致度算出部55は、アンテナ角度A,B,Cの値と、アンテナ角度それぞれの受信強度との組み合わせを、全体的に原点を基準として拡大又は縮小させて、アンテナパターンとの照合を行ってもよい。
【0035】
このように、一致度算出部55は、同一伝搬時間のアンテナ角度それぞれの到来波(又は遅延波)の受信強度と、アンテナパターンとを照合して一致度を算出する。例えば、一致度算出部55は、全体的に原点を基準として拡大又は縮小させたアンテナ角度それぞれの受信強度の組み合わせを、原点を基準として回転させて、アンテナパターンとの一致度を各方向に対して算出する。
【0036】
このとき、一致度算出部55は、同一伝搬時間に測定された受信強度の全てのデータを用いなくてもよい。例えば、一致度算出部55は、図5を用いて後述する電波到来方向推定装置5の具体的な動作例のように、アンテナパターンとの差が大きな受信強度のデータを除外対象として用いずに、アンテナパターンとの一致度を算出する。
【0037】
ただし、送信局からアンテナ2までの距離が長い場合には、アンテナ角度それぞれにおける受信強度が小さくなるため、アンテナパターンと照合して一致度を算出するときに、精度が低下することが考えられる。
【0038】
そのため、一致度算出部55は、まずアンテナ角度それぞれの受信強度の組み合わせを、全体的に原点を基準として拡大(又は縮小)させて、照合対象となるアンテナ角度それぞれにおける受信強度の大きさをアンテナパターンの大きさに近づける処理を行う。このとき、一致度算出部55は、図5を用いて後述するように、ずれが大きな異常値と推定されるデータを除外する。
【0039】
そして、一致度算出部55は、大きさを近づけた照合対象を、原点を基準として回転させて、アンテナパターンとの一致度を各方向に対して算出することにより、一致度の算出精度を向上させる。
【0040】
なお、一致度算出部55は、到来波の角度及び受信強度と、アンテナパターンとの一致度の比較方法として、利得の差の絶対値の総和が最小になる組合せを選択してもよいし、絶対値の2乗の総和が最小になる組合せなどを選択してもよい。
【0041】
推定部56は、一致度算出部55が算出した一致度が最大であるアンテナ角度を、通信装置1に対する電波の到来方向であると推定する。ここで、一致度が最大とは、例えば、アンテナ角度及び受信強度と、アンテナパターンとの差が最小になる組合せとする。
【0042】
図3は、推定部56が推定する電波の到来方向を例示する図である。図3(a)は、アンテナ2のアンテナパターンを例示する図である。図3(b)は、推定部56がアンテナパターンを用いて電波の到来方向を推定した結果を模式的に示す図である。
【0043】
推定部56は、例えば一致度算出部55がアンテナパターンの大きさに近づけるように拡大(又は縮小)させて算出したアンテナ角度それぞれの受信強度(図2(b)参照)を、原点を基準として回転させて、アンテナパターン(図3(a))に対する一致度が最大であるアンテナ角度(図3(b))を、通信装置1に対する電波の到来方向であると推定する。
【0044】
図4は、一実施形態にかかる電波到来方向推定装置5の動作例を示すフローチャートである。図4に示すように、電波到来方向推定装置5は、回転するアンテナ2を介して、送信局が送信した信号を受信し(S100)、複数のアンテナ角度に対する受信強度として到来波を取得する(S102)。
【0045】
次に、電波到来方向推定装置5は、アンテナ角度それぞれにおける到来順が同じになる到来波を選択(抽出)し(S104)、アンテナ角度及び受信強度と、アンテナパターンとの一致度を、アンテナ角度ごとに算出する(S106)。
【0046】
そして、電波到来方向推定装置5は、一致度が最大であるアンテナ角度を、通信装置1に対する電波の到来方向であると推定する(S108)。つまり、電波到来方向推定装置5は、アンテナパターンと実際に測定したアンテナ角度とを合わせて、電波の到来方向を推定する。
【0047】
次に、電波到来方向推定装置5が電波の到来方向を推定する場合の具体的な動作例について説明する。図5は、電波到来方向推定装置5が電波の到来方法を推定する場合の具体的な動作例を示す図である。ここでは、1波のみが到来していることとする。
【0048】
図5(a)は、アンテナパターン記憶部54(図1)が記憶しているアンテナパターンのデータを例示する図である。図5(b)は、アンテナ2が回転したときのアンテナ角度取得部50が取得したアンテナ角度と、受信強度測定部51が測定した受信強度との対応を例示する図である。図5(c)は、一致度算出部55が一致度を算出するときに行う処理を例示する図である。図5(d)は、推定部56が電波の到来方向を推定した結果を例示する図である。
【0049】
図5(a)に示したように、アンテナパターン記憶部54は、例えば-179度~+180度の範囲で複数の角度(方向)と利得との組合せによって示されるアンテナパターンを示すデータを記憶している。
【0050】
一致度算出部55は、アンテナパターン記憶部54が記憶しているデータから、例えば測定角度の組合せ(例えば、角度Eを中心に、角度Dと角度Eの差、及び角度Eと角度Fの差の3ポイント)を抜き出す。
【0051】
例として、一致度算出部55は、例えば以下の3ポイントを組みとして、アンテナパターン記憶部54から複数の組(例1、例2など)を取得する。
【0052】
(例1)
-45度、-5dB
0度、0dB
+45度、-5dB
(例2)
0度、0dB
+45度、-5dB
+90度、-20dB
【0053】
また、一致度算出部55は、図5(b)に示したような測定されたデータを取得情報記憶部53から取得する。また、一致度算出部55は、図5(c)に例示したように、測定された各アンテナ角のデータに対し、以下のように最大値に対する相対電力と反転角度(±の入れ替え)を算出する。
【0054】
・角度D → 0度、-5dB
・角度E → -45度、0dB
・角度F → -90度、-6dB
【0055】
次に、一致度算出部55は、アンテナ角度の小さい方から順に、(アンテナパターンdB)-(測定結果dB)を算出し、±の差分が大きいデータを測定できなかったものとして除外対象とする。このとき、一致度算出部55は、送信局からの距離などによって生じる受信電力の減衰の影響を補うように、アンテナ角度ごとの受信強度を、原点を基準として拡大(又は縮小)させて、アンテナパターンからずれていると推定されるデータを除外対象とする。
【0056】
(例1)
-45度→(-5dB)-(-6dB)=1dB ・・・(除外対象)
0度→ (0dB)-(0dB)=0dB
+45度→(-5dB)-(-5dB)=0dB
(例2)
0度→(0dB)-(-6dB)=6dB
+45度→(-5dB)-(0dB)=-5dB
+90度→(-20dB)-(-5dB)=-15dB ・・・(除外対象)
【0057】
一致度算出部55は、除外対象としたデータ以外の結果を用いて、アンテナパターンに対する差分を算出し記憶する。
【0058】
(例1)
0度→(0dB)-(0dB)=0dB
+45度→(-5dB)-(-5dB)=0dB
差分合計値→|0dB|+|0dB|=0dB
(例2)
0度→(0dB)-(-6dB)=6dB
+45度→(-5dB)-(0dB)=-5dB
差分合計値→|6dB|+|-5dB|=11dB
【0059】
そして、推定部56は、一致度算出部55が記憶している各データを取得し、アンテナ角度及び受信強度と、アンテナパターンとの差が最小(一致度が最大)になる組合せを選択する。ここでは、例1の組合せが選択される。
【0060】
つまり、推定部56は、複数のアンテナ角度で測定された到来波に対し、アンテナ角度それぞれの受信強度と、アンテナパターン(アンテナの角度と利得)とのマッチング(一致度の比較)を行うことにより、各到来波の到来方向を推定する(図5(d))。
【0061】
このように、電波到来方向推定装置5は、一致度算出部55が算出した一致度が最大であるアンテナ角度を電波の到来方向と推定するので、指向性の強いアレーアンテナが用いられなくても、電波の到来方向を推定することができる。すなわち、電波到来方向推定装置5は、電波の到来方向を推定するための指向性の強いアレーアンテナなどを準備されなくても、VHF帯等の比較的低周波の電波に対しても、容易かつ低コストに到来方向を推定することができる。
【0062】
なお、電波到来方向推定装置5は、受信した信号から自信号を取り出するために、送信局が信号の送信を止めた状態と、信号を送信した状態との差(C/N)を、受信強度の代わりに用いてもよい。
【0063】
また、電波到来方向推定装置5が有する各機能は、それぞれ一部又は全部がPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアによって構成されてもよいし、CPU等のプロセッサが実行するプログラムとして構成されてもよい。
【0064】
例えば、本発明にかかる電波到来方向推定装置5は、コンピュータとプログラムを用いて実現することができ、プログラムを記憶媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。
【0065】
図6は、一実施形態にかかる電波到来方向推定装置5のハードウェア構成例を示す図である。図6に示すように、例えば電波到来方向推定装置5は、入力部60、出力部61、通信部62、CPU63、メモリ64及びHDD65がバス66を介して接続され、コンピュータとしての機能を備える。また、電波到来方向推定装置5は、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体67との間でデータを入出力することができるようにされている。
【0066】
入力部60は、例えばキーボード及びマウス等である。出力部61は、例えばディスプレイなどの表示装置である。通信部62は、例えば有線又は無線のネットワークインターフェースなどである。
【0067】
CPU63は、電波到来方向推定装置5を構成する各部を制御し、所定の処理等を行う。メモリ64及びHDD65は、データ等を記憶する上述の取得情報記憶部53及びアンテナパターン記憶部54に対応する。記憶媒体67は、電波到来方向推定装置5が有する機能を実行させるプログラム等を記憶可能にされている。なお、電波到来方向推定装置5を構成するアーキテクチャは図6に示した例に限定されない。
【符号の説明】
【0068】
1・・・通信装置、2・・・アンテナ、3・・・回転駆動部、4・・・制御部、5・・・電波到来方向推定装置、50・・・アンテナ角度取得部、51・・・受信強度測定部、52・・・分離部、53・・・取得情報記憶部、54・・・アンテナパターン記憶部、55・・・一致度算出部、56・・・推定部、60・・・入力部、61・・・出力部、62・・・通信部、63・・・CPU、64・・・メモリ、65・・・HDD、66・・・バス、67・・・記憶媒体
図1
図2
図3
図4
図5
図6