(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】ナノワイヤレーザおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01S 5/10 20210101AFI20241203BHJP
H01S 5/11 20210101ALI20241203BHJP
H01S 3/16 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
H01S5/10
H01S5/11
H01S3/16
(21)【出願番号】P 2023552649
(86)(22)【出願日】2021-10-08
(86)【国際出願番号】 JP2021037314
(87)【国際公開番号】W WO2023058217
(87)【国際公開日】2023-04-13
【審査請求日】2024-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】滝口 雅人
(72)【発明者】
【氏名】納富 雅也
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 智
(72)【発明者】
【氏名】章 国強
(72)【発明者】
【氏名】舘野 功太
(72)【発明者】
【氏名】角倉 久史
(72)【発明者】
【氏名】新家 昭彦
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-007136(JP,A)
【文献】特開2019-110180(JP,A)
【文献】特開2018-032751(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0148682(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/10
H01S 5/11
H01S 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に形成された、断面の形状が、長尺の方向が前記基板の平面に平行な方向とされた楕円とされたナノワイヤと、
共振器と
を備え
、
前記共振器は、前記ナノワイヤの一端側および他端側の各々に、各々が離間して形成された1次元フォトニック結晶から構成されている
ことを特徴とするナノワイヤレーザ。
【請求項2】
基板の上に形成された、断面の形状が、長尺の方向が前記基板の平面に平行な方向とされた楕円とされたナノワイヤと、
共振器と
を備え、
前記共振器は、前記基板の上で、前記ナノワイヤに接して形成された金属層から構成されていることを特徴とするナノワイヤレーザ。
【請求項3】
請求項1
または2記載のナノワイヤレーザにおいて、
前記ナノワイヤは、基底モードの縮退が解ける太さとされていることを特徴とするナノワイヤレーザ。
【請求項4】
基板の上に、断面が円形のナノワイヤを配置する配置工程と、
垂直異方性を有するドライエッチング法により、前記基板の平面に対して垂直な
上方より、前記ナノワイヤをエッチング処理して、前記ナノワイヤの断面の形状を、長尺の方向が前記基板の平面に平行な方向とされた楕円とする加工工程と、
共振器を形成する共振器工程と
を備えるナノワイヤレーザの製造方法。
【請求項5】
請求項
4記載のナノワイヤレーザの製造方法において、
前記共振器工程は、前記ナノワイヤの一端側および他端の側の各々に、各々離間させて1次元フォトニック結晶を形成する工程を含む
ことを特徴とするナノワイヤレーザの製造方法。
【請求項6】
請求項
4記載のナノワイヤレーザの製造方法において、
前記共振器工程は、前記基板と前記ナノワイヤとの間の前記基板の表面に、金属層を形成する工程を含むことを特徴とするナノワイヤレーザの製造方法。
【請求項7】
請求項
4~
6のいずれか1項に記載のナノワイヤレーザの製造方法において、
前記加工工程は、前記ナノワイヤを、基底モードの縮退が解ける太さに形成する工程を含むことを特徴とするナノワイヤレーザの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノワイヤレーザおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体ナノワイヤを用いた光学素子の研究が盛んに行われている。ナノワイヤは、半導体から構成され、径が数10nm~数μmで長さが数μmの非常に小さな構造体である。ナノワイヤは、一度に大量に基板から成長させることが可能であり、条件次第ではシリコン基板上にも直接成長できる。このため、ナノワイヤは、将来の半導体素子だけでなく、量子情報デバイスや光電融合素子にも利用できる重要なナノ材料と考えられている(非特許文献1)。
【0003】
これまでナノワイヤは、トランジスタなどの電子デバイスやセンシング用途で研究されているが、ナノワイヤを構成する半導体の組成を変えれば、様々な波長帯で発光させることが可能であり、レーザとしても有望であると考えられている。
【0004】
ナノワイヤを用いたレーザは様々な波長帯で実証されてきた。特にシリコンに対して透明である通信波長帯ナノワイヤレーザはシリコン光回路に集積し動作させることができるので、将来の光電融合チップに利用できる光源として有望な候補になっている。この中で、シリコン光回路に集積してデバイスとして利用する場合、光導波路への結合が効率的に行えるTE偏波を選択的に発振するナノワイヤレーザの実現が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】M. Notomi et al., "Nanowire photonics toward wide wavelength range and subwavelength confinement [Invited]", Optical Materials Express, vol. 10, no. 10, pp. 2560-2596, 2020.
【文献】M. Takiguchi et al., "Thermal effect of InP/InAs nanowire lasers integrated on different optical platforms", OSA Continuum, vol. 4, no. 6, pp. 1838-1845, 2021.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これまでのナノワイヤレーザは、TE、TMの両方で発振するマルチモードでの動作であり、光導波路への結合が効率的に行えないという問題があった。
【0007】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、TE偏波を選択的に発振して光導波路への結合が効率的に行えるナノワイヤレーザの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るナノワイヤレーザは、基板の上に形成された、断面の形状が、長尺の方向が基板の平面に平行な方向とされた楕円とされたナノワイヤと、共振器とを備える。
【0009】
また、本発明に係るナノワイヤレーザの製造方法は、基板の上に、断面が円形のナノワイヤを配置する配置工程と、垂直異方性を有するドライエッチング法により、基板の平面に対して垂直な上方より、ナノワイヤをエッチング処理して、ナノワイヤの断面の形状を、長尺の方向が基板の平面に平行な方向とされた楕円とする加工工程と、共振器を形成する共振器工程とを備える。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、断面形状が楕円のナノワイヤを用いるので、TE偏波を選択的に発振して光導波路への結合が効率的に行えるナノワイヤレーザが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態1に係るナノワイヤレーザの構成を示す斜視図である。
【
図2A】
図2Aは、本発明の実施の形態1に係るナノワイヤレーザの製造方法を説明するための途中工程のナノワイヤレーザの状態を示す斜視図である。
【
図2B】
図2Bは、本発明の実施の形態1に係るナノワイヤレーザの製造方法を説明するための途中工程のナノワイヤレーザの状態を示す斜視図である。
【
図2C】
図2Cは、本発明の実施の形態1に係るナノワイヤレーザの製造方法を説明するための途中工程のナノワイヤレーザの状態を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、実施の形態1に係るナノワイヤレーザの1次元フォトニック結晶103a、103bによるフォトニック結晶構造の電磁界シミュレーションを示す分布図である。
【
図4A】
図4Aは、実際に作製した実施の形態1に係るナノワイヤレーザの電子顕微鏡画像を示す写真である。
【
図4B】
図4Bは、実際に作製した実施の形態1に係るナノワイヤレーザの電子顕微鏡画像を示す写真である。
【
図5A】
図5Aは、断面が円形のナノワイヤの直径の変化に対する実効屈折率(等価屈折率)の変化を示す特性図である。
【
図5B】
図5Bは、断面が楕円形のナノワイヤの短径の変化に対する実効屈折率(等価屈折率)の変化を示す特性図である。
【
図6】
図6は、ダメージ部分を除去するとともに楕円とするドライエッチング処理をする前後の、ナノワイヤレーザの発光強度の変化を示す特性図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施の形態2に係るナノワイヤレーザの構成を示す斜視図である。
【
図8A】
図8Aは、本発明の実施の形態2に係るナノワイヤレーザの製造方法を説明するための途中工程のナノワイヤレーザの状態を示す斜視図である。
【
図8B】
図8Bは、本発明の実施の形態2に係るナノワイヤレーザの製造方法を説明するための途中工程のナノワイヤレーザの状態を示す斜視図である。
【
図9】
図9は、ナノワイヤを金属基板の上に配置したナノワイヤレーザの基底モードの光閉じ込めを示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態に係るナノワイヤレーザについて説明する。
【0013】
[実施の形態1]
はじめに、本発明の実施の形態1に係るナノワイヤレーザについて、
図1を参照して説明する。このナノワイヤレーザは、基板101の上に形成されたナノワイヤ102、および、ナノワイヤ102の一端側および他端側の各々に形成された1次元フォトニック結晶103a、103bから構成されている。
【0014】
この例において、基板101の上に、上面が平坦な凸部101aが形成され、凸部101aの上にナノワイヤ102が配置されている。凸部101aの上面は、基板101の平面に平行に形成されている。また、凸部101aは、上面からみて、ナノワイヤ102と略同じ面積とされている。ナノワイヤ102は、断面の形状が、長尺の方向が凸部101a(基板101)の平面に平行な方向とされた楕円とされている。また、ナノワイヤ102は、基底モードの縮退が解ける太さとされている。
【0015】
1次元フォトニック結晶103a、103bは、所定の間隔で直線状に周期的に設けられた格子要素104から構成されている。格子要素104は、ナノワイヤ102とは屈折率とされた部分であり、柱状(例えば円柱)の穴部である。このように構成された1次元フォトニック結晶103aおよび1次元フォトニック結晶103bは、各々が離間して形成され、共振器を構成している。
【0016】
このナノワイヤレーザによれば、ナノワイヤ102に励起光を照射することで、レーザ発振を得ることができる。また、光励起ではなく、電流注入によりキャリアを注入することでレーザ発振させることができる。この場合、ナノワイヤ102に、活性層および活性層を挟む状態にp型領域,n型領域を形成する。p型領域,n型領域に電流を注入することで、レーザ発振させることができる。
【0017】
次に、実施の形態1に係るナノワイヤレーザの製造方法について、
図2A、
図2B、
図2Cを参照して説明する。
【0018】
まず、
図2Aに示すように、断面が円形で所定の径のナノワイヤ121を用意し、用意したナノワイヤ121を、基板101の上に配置(転写)する(配置工程)。次に、
図1Bに示すように、ナノワイヤ121の表面に、酸化膜122を形成する。例えば、よく知られた原子層堆積(Atomic Layer Deposition:ALD)装置を用いることで、ナノワイヤ121を被覆する状態に、酸化膜122が形成できる。また、このように酸化膜122を形成することで、基板101とナノワイヤ121との間の接着をよくするので、最終的に、後工程で基板101を洗浄する際に、ナノワイヤが吹き飛んでしまうのを防ぐことも期待できる。
【0019】
次に、
図2Cに示すように、ナノワイヤ121の一端側および他端の側の各々に、各々離間させて1次元フォトニック結晶103a、1次元フォトニック結晶103bを形成し、共振器を形成する(共振器工程)。例えば、電子線描画法になどにより、格子要素104を形成する箇所の酸化膜122に開口を形成する。次いで、開口を形成した酸化膜122をマスクとし、ドライエッチング法によりナノワイヤ121をエッチング加工して格子要素104を形成することで、1次元フォトニック結晶103a、1次元フォトニック結晶103bを形成する。
【0020】
また、集束イオンビーム(FIB)を用いた加工により、格子要素104を形成することができる。FIB加工によれば、上述した方法より、作製の難易度を下げることができる。ただし、FIB加工では、観察におけるチャージアップの発生を抑制するために、酸化膜122の厚さは、厚くても100nm程度とすることが望ましい。
【0021】
次に、垂直異方性を有するドライエッチング法により、基板101の平面に対して垂直な上方より、ナノワイヤ121をエッチング処理して、断面の形状を長尺の方向が基板101の平面に平行な方向とされた楕円のナノワイヤ102とする(加工工程)。この加工により、ナノワイヤ121の径の縦横比が変わり、断面楕円のナノワイヤ102が形成される。また、この加工により、ナノワイヤ102の周囲の基板101もエッチングされ、凸部101aが形成され、凸部101aの上にナノワイヤ102が配置された状態となる(
図1参照)。
【0022】
前述したFIB加工は、非常に加工精度が高く任意の構造を形成可能であるが、加工に用いられるイオン(GaやNeイオンなど)が、ナノワイヤ121にダメージや、撃ち込まれたイオンが吸収媒体となり、発光特性を著しく劣化させてしまう場合がある。これに対し、上述した径の縦横比を変えるための垂直異方性を有するドライエッチングを実施することで、断面楕円とするとともに、FIB加工で受けたダメージを取り除くことができる。
【0023】
上述した実施の形態1によれば、ナノワイヤ102は、断面の形状を楕円として異方向形状としたのでモードの選択性が向上し、TE偏波を選択的に発振させることが可能となる。また、ナノワイヤ102を、基底モードの縮退が解ける太さとすることで、シングルモードでTE偏波を選択的に発振させることができる。
【0024】
また、1次元フォトニック結晶103a、103bによる共振器によれば、ナノワイヤの端面反射によるファブリーペロー共振器に比較して、より高い反射率を得ることができ、発振閾値を低くすることができる。このフォトニック結晶構造は、
図3に示す電磁界シミュレーションが示すように、断面が楕円形状のナノワイヤ102に共振器をつくり、強く光を閉じ込めることを可能にする。端面反射は通常30%程度であるが、フォトニック結晶構造とすることで、反射率は90%以上にすることは可能である。なお、フォトニック結晶構造による反射率は、格子要素の数を多くすることや、1つ1つの格子要素の径の大きさを微調整することで制御できる。
【0025】
上述したように、高い反射率の共振器とした実施の形態1によれば、レーザ発振閾値を下げることができ、室温で連続発振が実現できる。これまでのナノワイヤレーザは、室温で連続発振の実現には至っていないが、この原因は、レーザ発振閾値が高いことにある。レーザ発振の閾値が高いと、利得の飽和や、熱による利得のブロードニングが影響し、連続発振ができず、パルス発振するものと考えられている(非特許文献2)。これに対し、実施の形態1では、共振器において高い反射率が得られるので、レーザ発振閾値を低くでき、この結果、室温における連続発振を可能としている。
【0026】
FIBを用いて実際に作製したナノワイヤレーザの電子顕微鏡画像を
図4Aに示す。ナノワイヤに周期的な空気穴が作製できている。また、基板面に対して垂直方向にドライエッチングで表層を削り取った後のナノワイヤを、斜め45度方向から観測した電子顕微鏡画像を
図4Bに示す。ナノワイヤの断面が楕円になっており、本発明の構造が作製可能であることを示している。
【0027】
例えば、通信波長帯の材料の場合は、直径が400-500nm程度のナノワイヤでは、
図5Aに示すように、光はシングルモード伝播する。なお、
図5Aにおいて、凡例の数字は、モード次数を示している。ここで、
図5Aでは、次数1のモードと次数2のモードとが重なって示されており、縮退していることが示されている。
【0028】
上述したようにFIBで加工する場合、ナノワイヤの上面から数100nm程度の深さまでは、FIBで打ち込まれたイオンによりダメージを受けている。このため、この部分を削ることが必要となる。従って、
図2Aを用いて説明した工程では、ターゲットの径よりも数100nm太い径のナノワイヤ121を用意し、基板101の上に配置(転写)する。
【0029】
上述した太めのナノワイヤ121を、垂直異方性を有するドライエッチング法により、基板101の平面に対して垂直な上方よりエッチング処理して形成したナノワイヤ102は、全体的に径が細くなり、また、径の縦横比が変わる。初期に径が1μmのナノワイヤ121を、上述したドライエッチング法により加工して得られるナノワイヤ102の導波モードを
図5Bに示す。
図5Bにおいて、横軸の直径(Diameter)は短径である。また、
図5Bにおいても、凡例の数字は、モード次数を示している。
【0030】
図5Bでは、次数1のモード(基底モード)と次数2のモードとが分離し、この分離が、短径が小さくなるほど明瞭となり、次数1のモードと次数2のモードとの縮退が解けている(基底モードの縮退が解けている)ことがわかる。径が0.4μmより小さくなると、シングルモードによる導波となり、縮退が解けている状態であれば、TMモードを排除し、TEモードを選択的に取り出すことができる。
【0031】
FIBで加工して1次元フォトニック結晶による共振器を形成したナノワイヤレーザについて、ダメージ部分を除去するとともに楕円とするドライエッチング処理をする前後の、発光強度の変化を
図6に示す。
図6において、(a)は、上述したドライエッチング処理をする前の発光強度を示し、(b)は、上述したドライエッチング処理をした後の発光強度を示す。
図6に示されているように、ダメージ部分を除去することで、発光強度が改善している。
【0032】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2に係るナノワイヤ102レーザについて、
図7を参照して説明する。このナノワイヤレーザは、基板101の上に形成されたナノワイヤ102と、金属層105とから構成されている。金属層105は、基板101の上で、ナノワイヤ102に接して形成されている。
【0033】
この例において、基板101の上に、上面が平坦な凸部101aが形成され、凸部101aの上面に金属層105が形成されている。また、金属層105の上に接してナノワイヤ102が配置されている。凸部101aの上面は、基板101の平面に平行に形成されている。また、凸部101aおよび金属層105は、上面からみて、ナノワイヤ102と略同じ面積とされている。ナノワイヤ102は、断面の形状が、長尺の方向が凸部101a(基板101)の平面に平行な方向とされた楕円とされている。また、ナノワイヤ102は、基底モードの縮退が解ける太さとされている。
【0034】
実施の形態2では、ナノワイヤ102と、ナノワイヤ102に接して形成されている金属層105とにより、共振器が構成されている。金属層105のナノワイヤ102と接している箇所には、プラズモニック導波路が形成される。
【0035】
ナノワイヤ102に接している箇所の金属層105においては、ナノワイヤ102よりみ出している光が、金属層105の表面に表面プラズモンポラリトンを誘起する。表面プラズモンポラリトンは、自由電子を持つ金属層105の表面に誘起される表面プラズモンと金属層105に照射された光がカップリングした素励起の一種である。このようにして誘起された表面プラズモンポラリトンが、上述したプラズモニック導波路を導波する。
【0036】
実施の形態2においては、上述したプラズモニック導波路を構成しているナノワイヤ102の端面反射により、ファブリーペロー共振器が構成される。この構成によれば、プラズモニック導波路構造としているため、通常のナノワイヤの端面反射に比較し、プラズモンの光閉じ込めの効果により高い光閉じ込め効果が得られる。これに加え、実施の形態2では、ナノワイヤ102の断面形状を楕円としているので、さらに高い光閉じ込め効果が得られるものとなる。この結果、実施の形態2によれば、発振閾値をより低くすることができる。
【0037】
次に、実施の形態2に係るナノワイヤレーザの製造方法について、
図8A、
図8B、
図8Cを参照して説明する。
【0038】
まず、
図8Aに示すように、基板101の上に、金属層105を形成する。例えば、よく知られた蒸着法により金(Au)を堆積することで、基板101の上に、Auからなる金属層105を形成することができる。次に、
図8Bに示すように、断面が円形で所定の径(例えば直径1μm)のナノワイヤ121を用意し、用意したナノワイヤ121を、金属層105が形成されている基板101の上に配置(転写)する(配置工程)。
【0039】
次に、垂直異方性を有するドライエッチング法により、基板101の平面に対して垂直な上方より、ナノワイヤ121をエッチング処理して、断面の形状を長尺の方向が基板101の平面に平行な方向とされた楕円のナノワイヤ102とする(加工工程)。この加工により、ナノワイヤ121の径の縦横比が変わり、断面楕円のナノワイヤ102が形成される。この加工において、例えば、ナノワイヤ102の短尺の長さを、0.4μmにすることができる。また、この加工により、ナノワイヤ102の周囲の金属層105および基板101もエッチングされ、凸部101aが形成され、凸部101aの上に、金属層105を介してナノワイヤ102が配置された状態となる(
図7参照)。
【0040】
上述した実施の形態2おいても、ナノワイヤ102は、断面の形状を楕円として異方向形状としたのでモードの選択性が向上し、TE偏波を選択的に発振させることが可能となる。また、ナノワイヤ102を、基底モードの縮退が解ける太さとすることで、シングルモードでTE偏波を選択的に発振させることができる。
【0041】
直径1μmのナノワイヤを上述した製造方法により加工して得られた断面楕円のナノワイヤを金属基板に配置したナノワイヤレーザと、直径1μmの断面円形のナノワイヤを金属基板の上に配置したナノワイヤレーザの、基底モードの光閉じ込めについて
図9に示す。断面楕円のナノワイヤによるナノワイヤレーザの、基底モードの光閉じ込めは、
図9の黒丸で示されている。断面円形のナノワイヤによるナノワイヤレーザの、基底モードの光閉じ込めは、
図9の黒四角で示されている。
図9に示されているように、断面楕円のナノワイヤを金属基板に配置したナノワイヤレーザの方が、高い光閉じ込めが得られている。
【0042】
以上に説明したように、本発明によれば、断面形状が楕円のナノワイヤを用いるので、TE偏波を選択的に発振して光導波路への結合が効率的に行えるナノワイヤレーザが提供できるようになる。
【0043】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0044】
101…基板、101a…凸部、102…ナノワイヤ、103a,103b…1次元フォトニック結晶、104…格子要素。