(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】改変された組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)結合性タンパク質及び感染能に基づくAAVの分析方法
(51)【国際特許分類】
C07K 14/015 20060101AFI20241203BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20241203BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20241203BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20241203BHJP
C12N 7/00 20060101ALI20241203BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20241203BHJP
C07K 1/22 20060101ALI20241203BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
C07K14/015
C12N15/63 Z
C12N1/21
C07K16/28
C12N7/00
C12N15/12 ZNA
C07K1/22
C12P21/02 C
(21)【出願番号】P 2023575235
(86)(22)【出願日】2023-01-13
(86)【国際出願番号】 JP2023000872
(87)【国際公開番号】W WO2023140197
(87)【国際公開日】2023-07-27
【審査請求日】2023-12-26
(31)【優先権主張番号】P 2022007922
(32)【優先日】2022-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022043222
(32)【優先日】2022-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】栗原 健人
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 和哉
(72)【発明者】
【氏名】大村 慧太
(72)【発明者】
【氏名】吉田 浩平
(72)【発明者】
【氏名】牧野 友理子
(72)【発明者】
【氏名】田中 亨
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0327752(US,A1)
【文献】PILLAY, S. et al.,An essential receptor for adeno-associated virus infection,Nature,2016年,vol. 530,pp. 108-112
【文献】ZHANG, R. et al.,Adeno-associated virus 2 bound to its cellular receptor AAVR,Nat. Microbiol.,2019年02月11日,vol. 4,pp. 675-682
【文献】SUMMERFORD, C. et al.,AAVR: A multi-serotype receptor for AAV,Mol. Ther.,2016年,vol. 24, no. 4,pp. 663-666
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00- 15/90
C07K 1/00- 19/00
C12M 1/00- 3/10
C12P 1/00- 41/00
C12Q 1/00- 3/00
B01J 20/00- 20/28
B01J 20/30- 20/34
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該312番目から500番目までのアミノ酸残基において
以下の
配列番号1の317番目のバリンがアスパラギン酸に置換
配列番号1の342番目のチロシンがセリンに置換
配列番号1の362番目のリジンがグルタミン酸に置換
配列番号1の371番目のリジンがアスパラギンに置換
配列番号1の381番目のバリンがアラニンに置換
配列番号1の382番目のイソロイシンがバリンに置換
配列番号1の390番目のグリシンがセリンに置換
配列番号1の399番目のリジンがグルタミン酸に置換
配列番号1の476番目のセリンがアルギニンに置換
配列番号1の487番目のアスパラギンがアスパラギン酸に置換
の全てのアミノ酸置換が生じており、かつ
以下の(1)から(5)のうち少なくともいずれか1つのアミノ酸置換が生じている、アデノ随伴ウイルス(AAV)結合性タンパク質;
(1)配列番号1の330番目のアラニンがバリンに置換
(2)配列番号1の330番目のアラニンがシステイン、フェニルアラニン、ロイシン、アルギニン、トリプトファン、チロシンのいずれかに置換
(3)配列番号1の331番目のチロシンがシステインに置換
(4)配列番号1の332番目のバリンがトリプトファンまたはチロシンに置換
(5)配列番号1の333番目のロイシンがシステインに置換。
【請求項2】
配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該312番目から500番目までのアミノ酸残基において以下の(1)のアミノ酸置換が少なくとも生じている、請求項1に記載のAAV結合性タンパク質;
(1)配列番号1の330番目のアラニンがバリンに置換。
【請求項3】
配列番号15から25
、54から63、65、83、85、87、88ならびに90から92のいずれかに記載のアミノ酸配列のうち、25番目のセリンから213番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含む、
アデノ随伴ウイルス(AAV)結合性タンパク質。
【請求項4】
請求項2に記載のAAV結合性タンパク質にさらに以下の(I)から
(CXVIII)のアミノ酸置換
又はアミノ酸置換の組み合わせのいずれか1つが生じた、AAV結合性タンパク質:
(I)配列番号1の313番目のアラニンをバリンに置換
(II)配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換
(III)配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換
(IV)配列番号1の359番目のメチオニンをイソロイシンに置換
(V)配列番号1の366番目のイソロイシンをスレオニン置換
(VI)配列番号1の367番目のロイシンをバリンに置換
(VII)配列番号1の369番目のロイシンをグルタミンに置換
(VIII)配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換
(IX)配列番号1の380番目のリジンをアスパラギンに置換
(X)配列番号1の394番目のバリンをアラニンに置換
(XI)配列番号1の398番目のバリンをアラニンに置換
(XII)配列番号1の404番目のリジンをアラニンに置換
(XIII)配列番号1の419番目のイソロイシンをフェニルアラニンに置換
(XIV)配列番号1の440番目のバリンをアラニンに置換
(XV)配列番号1の446番目のグルタミン酸をアスパラギン酸に置換
(XVI)配列番号1の448番目のリジンをグルタミン酸に置換
(XVII)配列番号1の453番目のグルタミン酸をリジンに置換
(XVIII)配列番号1の464番目のリジンをアスパラギンに置換
(XIX)配列番号1の464番目のリジンをグルタミン酸に置換
(XX)配列番号1の472番目のアスパラギンをチロシンに置換
(XXI)配列番号1の478番目のスレオニンをアラニンに置換
(XXII)配列番号1の480番目のバリンをアスパラギン酸に置換
(XXIII)配列番号1の318番目のグルタミンをアルギニンに置換および配列番号1の420番目のセリンをスレオニンに置換
(XXIV)配列番号1の328番目のロイシンをグルタミンに置換および配列番号1の343番目のスレオニンをプロリンに置換
(XXV)配列番号1の332番目のバリンをグルタミン酸に置換および配列番号1の412番目のバリンをイソロイシンに置換
(XXVI)配列番号1の332番目のバリンをアラニンに置換および配列番号1の473番目のチロシンをヒスチジンに置換
(XXVII)配列番号1の334番目のグルタミンをヒスチジンに置換および配列番号1の476番目のセリンをグリシンに置換
(XXVIII)配列番号1の340番目のグルタミン酸をアスパラギン酸に置換および配列番号1の369番目のロイシンをグルタミンに置換
(XXIX)配列番号1の350番目のスレオニンをアラニンに置換および配列番号1の476番目のセリンをグリシンに置換
(XXX)配列番号1の359番目のメチオニンをロイシンに置換および配列番号1の425番目のセリンをグリシンに置換
(XXXI)配列番号1の376番目のロイシンをプロリンに置換および配列番号1の488番目のセリンをスレオニンに置換
(XXXII)配列番号1の380番目のリジンをアルギニンに置換および配列番号1の389番目のヒスチジンをロイシンに置換
(XXXIII)配列番号1の382番目のイソロイシンをアスパラギン酸に置換および配列番号1の496番目のアスパラギンをチロシンに置換
(XXXIV)配列番号1の384番目のグルタミン酸をバリンに置換および配列番号1の479番目のバリンをアラニンに置換
(XXXV)配列番号1の389番目のヒスチジンをアスパラギン酸に置換および配列番号1の455番目のリジンをグルタミン酸に置換
(XXXVI)配列番号1の395番目のアスパラギンをアスパラギン酸に置換および配列番号1の430番目のグリシンをアラニンに置換
(XXXVII)配列番号1の396番目のバリンをグリシンに置換および配列番号1の411番目のイソロイシンをスレオニンに置換
(XXXVIII)配列番号1の409番目のイソロイシンをアスパラギンに置換および配列番号1の428番目のイソロイシンをバリンに置換
(XXXIX)配列番号1の416番目のフェニルアラニンをセリンに置換および配列番号1の434番目のスレオニンをアラニンに置換
(XL)配列番号1の423番目のスレオニンをアラニンに置換および配列番号1の480番目のバリンをアスパラギン酸に置換
(XLI)配列番号1の448番目のリジンをグルタミン酸に置換および配列番号1の478番目のスレオニンをアラニンに置換
(XLII)配列番号1の484番目のグリシンをセリンに置換および配列番号1の486番目のスレオニンをセリンに置換
(XLIII)配列番号1の312番目のセリンをプロリンに置換、配列番号1の329番目のアスパラギンをチロシンに置換および配列番号1の469番目のバリンをグルタミン酸に置換
(XLIV)配列番号1の315番目のグルタミン酸をグリシンに置換、配列番号1の411番目のイソロイシンをロイシンに置換および配列番号1の448番目のリジンをアスパラギンに置換
(XLV)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換および配列番号1の464番目のリジンをグルタミン酸に置換
(XLVI)配列番号1の326番目のバリンをグルタミン酸に置換、配列番号1の403番目のアルギニンをセリンに置換および配列番号1の425番目のセリンをグリシンに置換
(XLVII)配列番号1の327番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の338番目のリジンをグルタミン酸に置換および配列番号1の451番目のロイシンをイソロイシンに置換
(XLVIII)配列番号1の328番目のロイシンをアルギニンに置換、配列番号1の360番目のグルタミン酸をアスパラギン酸に置換および配列番号1の403番目のアルギニンをヒスチジンに置換
(XLIX)配列番号1の343番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の345番目のアスパラギン酸をグリシンに置換および配列番号1の394番目のバリンをアスパラギン酸に置換
(LI)配列番号1の355番目のチロシンをヒスチジンに置換、配列番号1の472番目のアスパラギンをアスパラギン酸に置換および配列番号1の479番目のバリンをアラニンに置換
(LII)配列番号1の368番目のリジンをアスパラギンに置換、配列番号1の390番目のグリシンをアスパラギンに置換および配列番号1の479番目のバリンをアラニンに置換
(LIII)配列番号1の382番目のイソロイシンをアラニンに置換、配列番号1の388番目のアラニンをスレオニンに置換および配列番号1の471番目のグリシンをシステインに置換
(LIV)配列番号1の389番目のヒスチジンをアルギニンに置換、配列番号1の403番目のアルギニンをヒスチジンに置換および配列番号1の406番目のアルギニンをセリンに置換
(LV)配列番号1の389番目のヒスチジンをアスパラギンに置換、配列番号1の480番目のバリンをアラニンに置換および配列番号1の496番目のアスパラギンをアスパラギン酸に置換
(LVI)配列番号1の448番目のリジンをグルタミン酸に置換、配列番号1の455番目のリジンをアルギニンに置換および配列番号1の479番目のバリンをアラニンに置換
(LVII)配列番号1の315番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の323番目のリジンをメチオニンに置換、配列番号1の330番目のアラニンをアラニンに置換および配列番号1の419番目のイソロイシンをバリンに置換
(LVIII)配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の343番目のスレオニンをセリンに置換、配列番号1の419番目のイソロイシンをフェニルアラニンに置換および配列番号1の489番目のスレオニンをアラニンに置換
(LIX)配列番号1の328番目のロイシンをプロリンに置換、配列番号1の337番目のプロリンをグルタミンに置換、配列番号1の349番目のイソロイシンをスレオニンに置換、配列番号1の354番目のアスパラギン酸をバリンに置換および配列番号1の437番目のアスパラギン酸をアスパラギンに置換
(LX)配列番号1の332番目のバリンをアラニンに置換、配列番号1の333番目のロイシンをプロリンに置換、配列番号1の392番目のグリシンをアルギニンに置換、配列番号1の486番目のスレオニンをセリンに置換および配列番号1の489番目のスレオニンをセリンに置換
(LXI)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換
(LXII)配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換
(LXIII)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換および配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換
(LXIV)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換および配列番号1の341番目のスレオニンがアラニンに置換
(LXV)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換および配列番号1の334番目のグルタミンがロイシンに置換
(LXVI)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換および配列番号1の359番目のメチオニンがイソロイシンに置換
(LXVII)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換および配列番号1の379番目のフェニルアラニンがチロシンに置換
(LXVIII)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンがロイシンに置換および配列番号1の341番目のスレオニンがアラニンに置換
(LXIX)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンがロイシンに置換および配列番号1の359番目のメチオニンがイソロイシンに置換
(LXX)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンがロイシンに置換および配列番号1の379番目のフェニルアラニンがチロシンに置換
(LXXI)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換
(LXXII)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換および配列番号1の317番目のバリンをアスパラギンに置換
(LXXIII)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換および配列番号1の325番目のグルタミン酸をリジンに置換
(LXXIV)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換および配列番号1の326番目のバリンをアラニンに置換
(LXXV)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換および配列番号1の333番目のロイシンをメチオニンに置換
(LXXVI)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換および配列番号1の339番目のグリシンをグルタミン酸に置換
(LXXVII)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換および配列番号1の359番目のメチオニンをバリンに置換
(LXXVIII)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換および配列番号1の361番目のグリシンをグルタミン酸に置換
(LXXIX)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換および配列番号1の366番目のセリンをプロリンに置換
(LXXX)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換および配列番号1の380番目のリジンをアルギニンに置換
(LXXXI)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換および配列番号1の381番目のバリンをスレオニンに置換
(LXXXII)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換および配列番号1の399番目のリジンをグリシンに置換
(LXXXIII)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換および配列番号1の421番目のロイシンをプロリンに置換
(LXXXIV)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換および配列番号1の422番目のプロリンをセリンに置換
(XC)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換および配列番号1の425番目のセリンをグリシンに置換
(XCI)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換および配列番号1の454番目のグルタミン酸をグリシンに置換
(XCII)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換および配列番号1の467番目のリジンをグルタミン酸に置換
(XCIII)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換および配列番号1の467番目のリジンをグルタミンに置換
(XCIV)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換および配列番号1の476番目のセリンをグリシンに置換
(XCV)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換および配列番号1の482番目のセリンをスレオニンに置換
(XCVI)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換および配列番号1の491番目のアラニンをセリンに置換
(XCVII)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換および配列番号1の492番目のアスパラギンをアスパラギン酸に置換
(XCVIII)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換および配列番号1の496番目のアスパラギンをチロシンに置換
(XCIX)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換および配列番号1の500番目のアスパラギン酸をグリシンに置換
(C)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換、配列番号1の319番目のイソロイシンをバリンに置換、および配列番号1の368番目のリジンをアルギニンに置換
(CI)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換、配列番号1の323番目のリジンをアスパラギンに置換および配列番号1の368番目のリジンをグルタミン酸に置換,
(CII)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換、配列番号1の329番目のアスパラギンをセリンに置換および配列番号1の338番目のリジンをアルギニンに置換
(CIII)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換、配列番号1の362番目のリジンをアスパラギン酸に置換、配列番号1の443番目のヒスチジンをチロシンに置換および配列番号1の455番目のリジンをアルギニンに置換
(CIV)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換、配列番号1の368番目のリジンをグルタミン酸に置換および配列番号1の443番目のヒスチジンをアルギニンに置換
(CV)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換、配列番号1の368番目のリジンをアルギニンに置換および配列番号1の382番目のイソロイシンをアスパラギン酸に置換
(CVI)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換、配列番号1の369番目のロイシンをプロリンに置換および配列番号1の488番目のセリンをフェニルアラニンに置換
(CVII)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換および配列番号1の326番目のバリンをアラニンに置換
(CVIII)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換および配列番号1の380番目のリジンをアルギニンに置換
(CVIV)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換および配列番号1の467番目のリジンをグルタミンに置換
(CX)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換および配列番号1の482番目のセリンをスレオニンに置換
(CXI)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換および配列番号1の492番目のアスパラギンをアスパラギン酸に置換
(CXII)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換、配列番号1の467番目のリジンをグルタミンに置換、配列番号1の482番目のセリンをスレオニンに置換および配列番号1の326番目のバリンをアラニンに置換
(CXIII)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換、配列番号1の467番目のリジンをグルタミンに置換、配列番号1の482番目のセリンをスレオニンに置換および配列番号1の492番目のアスパラギンをアスパラギン酸に置換
(CXIV)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換、配列番号1の467番目のリジンをグルタミンに置換、配列番号1の482番目のセリンをスレオニンに置換および配列番号1の380番目のリジンをアルギニンに置換
(CXV)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換、配列番号1の467番目のリジンをグルタミンに置換、配列番号1の482番目のセリンをスレオニンに置換、配列番号1の326番目のバリンをアラニンに置換および配列番号1の492番目のアスパラギンをアスパラギン酸に置換
(CXVI)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換、配列番号1の467番目のリジンをグルタミンに置換、配列番号1の482番目のセリンをスレオニンに置換、配列番号1の326番目のバリンをアラニンに置換および配列番号1の380番目のリジンをアルギニンに置換
(CXVII)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換、配列番号1の467番目のリジンをグルタミンに置換、配列番号1の482番目のセリンをスレオニンに置換、配列番号1の380番目のリジンをアルギニンに置換および配列番号1の492番目のアスパラギンをアスパラギン酸に置換
(CXVIII)配列番号1の324番目のアスパラギンをヒスチジンに置換、配列番号1の334番目のグルタミンをロイシンに置換、配列番号1の335番目のグルタミン酸をバリンに置換、配列番号1の341番目のスレオニンをアラニンに置換、配列番号1の379番目のフェニルアラニンをチロシンに置換、配列番号1の467番目のリジンをグルタミンに置換、配列番号1の482番目のセリンをスレオニンに置換、配列番号1の326番目のバリンをアラニンに置換、配列番号1の380番目のリジンをアルギニンに置換および配列番号1の492番目のアスパラギンをアスパラギン酸に置換。
【請求項5】
請求項1から
4のいずれか一項に記載のAAV結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項6】
請求項
5に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項7】
請求項
6に記載の発現ベクターで大腸菌を形質転換して得られる形質転換体。
【請求項8】
請求項
7に記載の形質転換体を培養することによりAAV結合性タンパク質を発現させる工程と、得られた培養物から発現されたAAV結合性タンパク質を回収する工程とを含む、AAV結合性タンパク質の製造方法。
【請求項9】
不溶性担体と、当該担体に固定化した請求項1から
4のいずれか一項に記載のAAV結合性タンパク質とを含む、AAV吸着剤。
【請求項10】
請求項
9に記載のAAV吸着剤を含むカラム。
【請求項11】
請求項
10に記載のカラムにAAVを含む溶液を添加して当該AAVを前記吸着剤に吸着させる工程と、前記吸着剤に吸着したAAVを溶出液を用いて溶出させる工程とを含む、AAVの精製方法。
【請求項12】
請求項
10に記載のカラムにAAVを含む試料を添加して当該AAVを前記吸着剤に吸着させる工程と、前記吸着剤に吸着したAAVを溶出液を用いて溶出させる工程とを含む、当該試料中に含まれるAAVを感染能の強さに基づき分析する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アデノ随伴ウイルス(Adeno-Associated Virus:AAV)に結合性を有するタンパク質及びアデノ随伴ウイルス(AAV)の分析方法に関する。より詳しくは、本発明は、AAVへの結合活性が向上した、改良AAV結合性タンパク質及び試料中に含まれるAAVを感染能の強さに基づき分析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アデノ随伴ウイルス(AAV)はパルボウイルス科(Parvoviridae)、ディペンドウイルス属(Dependovirus)に分類される非エンベロープウイルスである。AAV外殻粒子は3種類のタンパク質(VP1、VP2およびVP3)で構成されており、約60のタンパク質分子がおよそVP1:VP2:VP3=1:1:10の比率で混在し集合することで、直径20nmから30nmの正二十面体の形状をしている。
【0003】
自然界でのAAVは自立性の増殖能を欠き、複製はアデノウイルスやヘルペスウイルスなどのヘルパーウイルスに依存する。前記ヘルパーウイルスが存在すると、AAVゲノムは宿主細胞内で複製され、AAVゲノムを含む完全なAAV粒子が形成され、宿主細胞からAAV粒子が放出される。一方、前記ヘルパーウイルスが存在しない場合、AAVゲノムはエピソームに維持された状態または宿主染色体に組込まれた状態(潜伏状態)となる。
【0004】
AAVはヒトを含む広範な種の細胞に感染可能で、血球、筋、神経細胞などの分化を終えた非分裂細胞にも感染すること、ヒトに対する病原性がないため副作用の心配が低いこと、ウイルス粒子が物理化学的に安定であること、などから、先天性遺伝子疾患の治療を目的とした遺伝子導入用のベクターとしての利用価値が注目されている。
【0005】
AAVのうち特定位置のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することで、細胞への感染能の強さに違いが生じることが報告されている(非特許文献1)。したがって、AAVを遺伝子導入用のベクターとして用いる際は、前記感染能の強さの違いを迅速かつ簡便に分析する必要がある。
【0006】
遺伝子組換えAAVベクター(以下、単に「AAVベクター」とも表記)の製造は、通常、AAV粒子形成に必須な要素をコードする核酸を細胞に導入することで、AAVを産生する能力を有する細胞(以下、AAV産生細胞とも表記)を作製し、当該細胞を培養してAAV粒子形成に必須な要素を発現させることで行なう。製造したAAVベクターはAAV産生細胞から回収精製し、治療用AAVベクター製剤を得る。
【0007】
AAV産生細胞からAAVベクターを回収精製する方法として、不溶性担体と当該担体に固定化したAAV結合性タンパク質とを含む吸着剤を用いた、AAVとの結合親和性に基づくアフィニティークロマトグラフィによる方法があり、夾雑物質が共存したAAVベクターを含む溶液から当該ベクターを回収精製できる。具体例として、特許文献1には、KIAA0319L(UniProt No.Q8IZA0)の細胞外領域ドメイン1(PKD1)およびドメイン2(PKD2)を含み、ただしこれらドメイン中の特定位置にあるアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することで、熱、酸およびアルカリに対する安定性が向上したポリペプチドを、不溶性担体に固定化するAAV結合性タンパク質(以下、単に「リガンドタンパク質」とも表記)として用いることで、AAVベクターの高純度な精製を実現している。
【0008】
AAVのうち特定位置のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することで、細胞への感染能の強さに違いが生じることが報告されている(非特許文献1)。したがって、AAVを遺伝子導入用のベクターとして用いる際は、前記感染能の強さの違いを迅速かつ簡便に分析する必要がある。しかしながら、従来の分析方法は、非特許文献1でも開示しているように、培養細胞を用いた方法であり、多くの時間と労力を要した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【文献】Lochrie,M.A.,et al.,Journal of virology,80(2),821,2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述した通り、WO2021/106882号でリガンドタンパク質として用いたアデノ随伴ウイルス(AAV)結合性タンパク質は、天然型(アミノ酸置換がないAAV結合性タンパク質)よりも熱、酸およびアルカリに対する安定性が向上している。一方で、AAVに対するさらなる結合活性の向上が求められた。
【0012】
また前述した通り、AAVを遺伝子導入用のベクターとして用いる際は、前記感染能の強さの違いを迅速かつ簡便に分析する必要がある。しかしながら、従来の分析方法は、Lochrie,M.A.,et al.,Journal of virology,80(2),821,2006(非特許文献1)でも開示しているように培養細胞を用いた方法であり、多くの時間と労力を要した。
【0013】
つまり本発明の課題は、AAVへの結合活性が向上した、改良AAV結合性タンパク質を提供すること及び、試料中に含まれるアデノ随伴ウイルスを感染能の強さに基づき分析する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、アデノ随伴ウイルス(AAV)結合性タンパク質を構成するアミノ酸残基のうち特定の残基を他のアミノ酸残基に置換することにより、AAVへの結合活性が向上すること、および、試料中に含まれるアデノ随伴ウイルス(AAV)を、不溶性担体と当該担体に固定化したAAV結合性タンパク質とを含む吸着剤を用いて分析することで、AAVを感染能の強さに基づき分析できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
本願発明は、以下の[1]から[14]の態様を包含する:
[1]以下の(i)から(iii)のいずれかから選択されるアデノ随伴ウイルス(AAV)
結合性タンパク質:
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該312番目から500番目までのアミノ酸残基において以下の(1)から(5)のうち少なくともいずれか1つのアミノ酸置換が生じている、AAV結合性タンパク質;
(1)配列番号1の330番目のアラニンがバリンに置換
(2)配列番号1の330番目のアラニンがシステイン、フェニルアラニン、ロイシン、アルギニン、トリプトファン、チロシンのいずれかに置換
(3)配列番号1の331番目のチロシンがシステインに置換
(4)配列番号1の332番目のバリンがトリプトファンまたはチロシンに置換
(5)配列番号1の333番目のロイシンがシステインに置換。
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該312番目から500番目までのアミノ酸残基において前記(1)から(5)のうち少なくともいずれか1つのアミノ酸置換が生じており、さらに前記(1)から(5)に示すアミノ酸置換以外に1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上さらに生じ、かつAAV結合活性を有するAAV結合性タンパク質。
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸配列において、前記(1)から(5)のうち少なくともいれか1つのアミノ酸置換が生じたアミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、前記少なくともいずれか1つのアミノ酸置換が残存したアミノ酸配列を含み、かつAAV結合活性を有するAAV結合性タンパク質。
【0016】
[2]以下の(iv)から(vi)のいずれかから選択される、[1]に記載のAAV結合性タンパク質:
(iv)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該312番目から500番目までのアミノ酸残基において以下の(1)のアミノ酸置換が少なくとも生じている、AAV結合性タンパク質;
(1)配列番号1の330番目のアラニンがバリンに置換。
(v)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該312番目から500番目までのアミノ酸残基において前記(1)のアミノ酸置換が少なくとも生じており、さらに前記(1)に示すアミノ酸置換以外に1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上さらに生じ、かつAAV結合活性を有するAAV結合性タンパク質。
(vi)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸配列において、前記(1)のアミノ酸置換が少なくとも生じたアミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、前記アミノ酸置換が残存したアミノ酸配列を含み、かつAAV結合活性を有するAAV結合性タンパク質。
【0017】
[3]さらに以下に示す10箇所のアミノ酸置換が少なくとも生じた、[1]に記載のAAV結合性タンパク質;
配列番号1の317番目のバリンがアスパラギン酸に置換
配列番号1の342番目のチロシンがセリンに置換
配列番号1の362番目のリジンがグルタミン酸に置換
配列番号1の371番目のリジンがアスパラギンに置換
配列番号1の381番目のバリンがアラニンに置換
配列番号1の382番目のイソロイシンがバリンに置換
配列番号1の390番目のグリシンがセリンに置換
配列番号1の399番目のリジンがグルタミン酸に置換
配列番号1の476番目のセリンがアルギニンに置換
配列番号1の487番目のアスパラギンがアスパラギン酸に置換。
【0018】
[4]以下の(vii)から(ix)のいずれかから選択される、[3]に記載のAAV結合性タンパク質:
(vii)配列番号15から25のいずれかに記載のアミノ酸配列のうち、25番目のセリンから213番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含む、AAV結合性タンパク質。
(viii)配列番号15から25のいずれかに記載のアミノ酸配列のうち、25番目のセリンから213番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該25番目から213番目までのアミノ酸残基において、前記アミノ酸配列が有するアミノ酸置換以外に1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上さらに生じ、かつAAV結合活性を有するAAV結合性タンパク質。
(ix)配列番号15から25のいずれかに記載のアミノ酸配列のうち、25番目のセリンから213番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該25番目から213番目までのアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有し、かつ前記アミノ酸配列が有するアミノ酸置換が残存し、かつAAV結合活性を有する、AAV結合性タンパク質。
【0019】
[5]さらに以下の(I)から(LXXXVII)のうち少なくともいずれか1つのアミノ酸置換が生じた、[3]に記載のAAV結合性タンパク質:
(I)配列番号1の312番目のセリンがプロリンに置換
(II)配列番号1の313番目のアラニンがバリンに置換
(III)配列番号1の315番目のグルタミン酸がグリシンまたはバリンに置換
(IV)配列番号1の318番目のグルタミンがアルギニンに置換
(V)配列番号1の319番目のイソロイシンがバリンに置換
(VI)配列番号1の323番目のリジンがメチオニンまたはアスパラギンに置換
(VII)配列番号1の324番目のアスパラギンがヒスチジンに置換
(VIII)配列番号1の325番目のグルタミン酸がリジンに置換
(IX)配列番号1の326番目のバリンがグルタミン酸またはアラニンに置換
(X)配列番号1の327番目のグルタミンがロイシンに置換
(XI)配列番号1の328番目のロイシンがグルタミン、アルギニンおよびプロリンのいずれかに置換
(XII)配列番号1の329番目のアスパラギンがチロシンまたはセリンに置換
(XIII)配列番号1の332番目のバリンがグルタミン酸またはアラニンに置換
(XIV)配列番号1の333番目のロイシンがプロリンまたはメチオニンに置換
(XV)配列番号1の334番目のグルタミンがロイシンまたはヒスチジンに置換
(XVI)配列番号1の335番目のグルタミン酸がバリンに置換
(XVII)配列番号1の337番目のプロリンがグルタミンに置換
(XVIII)配列番号1の338番目のリジンがグルタミン酸またはアルギニンに置換
(XIX)配列番号1の339番目のグリシンがグルタミン酸に置換
(XX)配列番号1の340番目のグルタミン酸がアスパラギン酸に置換
(XXI)配列番号1の341番目のスレオニンがアラニンに置換
(XXII)配列番号1の343番目のスレオニンがプロリン、アラニンおよびセリンのいずれかに置換
(XXIII)配列番号1の345番目のアスパラギン酸がグリシンに置換
(XXIV)配列番号1の349番目のイソロイシンがスレオニンに置換
(XXV)配列番号1の350番目のスレオニンがアラニンに置換
(XXVI)配列番号1の354番目のアスパラギン酸がバリンに置換
(XXVII)配列番号1の355番目のチロシンがヒスチジンに置換
(XXVIII)配列番号1の359番目のメチオニンがイソロイシン、ロイシンおよびバリンのいずれかに置換
(XXIX)配列番号1の360番目のグルタミン酸がアスパラギン酸に置換
(XXX)配列番号1の361番目のグリシンがグルタミン酸に置換
(XXXI)配列番号1の366番目のイソロイシンがスレオニンまたはプロリンに置換
(XXXII)配列番号1の367番目のロイシンがバリンに置換
(XXXIII)配列番号1の368番目のリジンがアスパラギン、アルギニンおよびグルタミン酸のいずれかに置換
(XXXIV)配列番号1の369番目のロイシンがグルタミンまたはプロリンに置換
(XXXV)配列番号1の376番目のロイシンがプロリンに置換
(XXXVI)配列番号1の379番目のフェニルアラニンがチロシンに置換
(XXXVII)配列番号1の380番目のリジンがアスパラギンまたはアルギニンに置換
(XXXVIII)配列番号1の384番目のグルタミン酸がバリンに置換
(XXXIX)配列番号1の388番目のアラニンがスレオニンに置換
(XL)配列番号1の389番目のヒスチジンがアスパラギン、アスパラギン酸、アルギニンおよびロイシンのいずれかに置換
(XLI)配列番号1の392番目のグリシンがアルギニンに置換
(XLII)配列番号1の394番目のバリンがアラニンまたはアスパラギン酸に置換
(XLII)配列番号1の395番目のアスパラギンがアスパラギン酸に置換
(XLIII)配列番号1の396番目のバリンがグリシンに置換
(XLIV)配列番号1の398番目のバリンがアラニンに置換
(XLV)配列番号1の403番目のアルギニンがセリンまたはヒスチジンに置換
(XLVI)配列番号1の404番目のリジンがアラニンに置換
(XLVII)配列番号1の406番目のアルギニンがセリンに置換
(XLVIII)配列番号1の409番目のイソロイシンがアスパラギンに置換
(XLIX)配列番号1の411番目のイソロイシンがスレオニンまたはロイシンに置換
(L)配列番号1の412番目のバリンがイソロイシンに置換
(LI)配列番号1の416番目のフェニルアラニンがセリンに置換
(LII)配列番号1の419番目のイソロイシンがフェニルアラニンまたはバリンに置換
(LIII)配列番号1の420番目のセリンがスレオニンに置換
(LIV)配列番号1の421番目のロイシンがプロリンに置換
(LV)配列番号1の422番目のプロリンがセリンに置換
(LVI)配列番号1の423番目のスレオニンがアラニンに置換
(LVII)配列番号1の425番目のセリンがグリシンに置換
(LVIII)配列番号1の428番目のイソロイシンがバリンに置換
(LIX)配列番号1の430番目のグリシンがアラニンに置換
(LX)配列番号1の434番目のスレオニンがアラニンに置換
(LXI)配列番号1の437番目のアスパラギン酸がアスパラギンに置換
(LXII)配列番号1の440番目のバリンがアラニンに置換
(LXIII)配列番号1の443番目のヒスチジンがチロシンまたはアルギニンに置換
(LXIV)配列番号1の446番目のグルタミン酸がアスパラギン酸に置換
(LXV)配列番号1の448番目のリジンがグルタミン酸またはアスパラギンに置換
(LXVI)配列番号1の451番目のロイシンがイソロイシンに置換
(LXVII)配列番号1の453番目のグルタミン酸がリジンに置換
(LXVIII)配列番号1の454番目のグルタミン酸がグリシンに置換
(LXIX)配列番号1の455番目のリジンがグルタミン酸またはアルギニンに置換
(LXX)配列番号1の464番目のリジンがアスパラギンまたはグルタミン酸に置換
(LXXI)配列番号1の467番目のリジンがグルタミンまたはグルタミン酸に置換
(LXXII)配列番号1の469番目のバリンがグルタミン酸に置換
(LXXIII)配列番号1の471番目のグリシンがシステインに置換
(LXXIV)配列番号1の472番目のアスパラギンがチロシンまたはアスパラギン酸に置換
(LXXV)配列番号1の473番目のチロシンがヒスチジンに置換
(LXXVI)配列番号1の478番目のスレオニンがアラニンに置換
(LXXVII)配列番号1の479番目のバリンがアラニンに置換
(LXXVIII)配列番号1の480番目のバリンがアスパラギン酸またはアラニンに置換
(LXXIX)配列番号1の482番目のセリンがスレオニンに置換
(LXXX)配列番号1の484番目のグリシンがセリンに置換
(LXXXI)配列番号1の486番目のスレオニンがセリンに置換
(LXXXII)配列番号1の488番目のセリンがスレオニンまたはフェニルアラニンに置換
(LXXXIII)配列番号1の489番目のスレオニンがアラニンまたはセリンに置換
(LXXXIV)配列番号1の491番目のアラニンがセリンに置換
(LXXXV)配列番号1の492番目のアスパラギンがアスパラギン酸に置換
(LXXXVI)配列番号1の496番目のアスパラギンがチロシンまたはアスパラギン酸に置換
(LXXXVII)配列番号1の500番目のアスパラギン酸がグリシンに置換。
【0020】
[6]以下の(x)から(xii)のいずれかから選択される、[5]に記載のAAV結合性タンパク質:
(x)配列番号54から63、65、83、85、87、88ならびに90から92のいずれかに記載のアミノ酸配列のうち、25番目のセリンから213番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含む、AAV結合性タンパク質。
(xi)配列番号54から63、65、83、85、87、88ならびに90から92のいずれかに記載のアミノ酸配列のうち、25番目のセリンから213番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該25番目から213番目までのアミノ酸残基において、前記アミノ酸配列が有するアミノ酸置換以外に1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上さらに生じ、かつAAV結合活性を有するAAV結合性タンパク質。
(xii)配列番号54から63、65、83、85、87、88ならびに90から92のいずれかに記載のアミノ酸配列のうち、25番目のセリンから213番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該25番目から213番目までのアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有し、かつ前記アミノ酸配列が有するアミノ酸置換が残存し、かつAAV結合活性を有する、AAV結合性タンパク質。
【0021】
[7] [1]から[6]のいずれかに記載のAAV結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【0022】
[8] [7]に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【0023】
[9] [8]に記載の発現ベクターで大腸菌を形質転換して得られる形質転換体。
【0024】
[10] [9]に記載の形質転換体を培養することによりAAV結合性タンパク質を発現させる工程と、得られた培養物から発現されたAAV結合性タンパク質を回収する工程とを含む、AAV結合性タンパク質の製造方法。
【0025】
[11] 不溶性担体と、当該担体に固定化した[1]から[6]のいずれかに記載のAAV結合性タンパク質とを含む、AAV吸着剤。
【0026】
[12] [11]に記載のAAV吸着剤を含むカラム。
【0027】
[13] [12]に記載のカラムにAAVを含む溶液を添加して当該AAVを前記吸着剤に吸着させる工程と、前記吸着剤に吸着したAAVを溶出液を用いて溶出させる工程とを含む、AAVの精製方法。
【0028】
[14] [12]に記載のカラムにAAVを含む試料を添加して当該AAVを前記吸着剤に吸着させる工程と、前記吸着剤に吸着したAAVを溶出液を用いて溶出させる工程とを含む、当該試料中に含まれるAAVを感染能の強さに基づき分析する方法。
【0029】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0030】
本明細書において感染能とは、AAV等のウイルスによる宿主細胞への感染する能力を指す。感染能は、感染する能力を示す公知の指標を用い、かかる指標について天然型に対する変異体(アミノ酸置換体)の割合または比として表してもよい。感染する能力を示す指標としては、例えば、ウイルスを宿主細胞に感染させた際の感染率、ウイルスによる宿主細胞の細胞膜上の受容体への結合能、内包した遺伝子の活性量や当該遺伝子がコードしているタンパク質、例えばGFPなどの発光、動物の体内又は対外の発光量の濃淡(例えば、Amanda M. Dudek, et al.,Journal of virology,92(7),e02213-17,2018のFig.6)など、AAV等のウイルスの効果を示すマーカーの発現量が挙げられる。宿主細胞は、一般的に、HEK293やHT-1080などの各種細胞やマウスやサルなどの動物などを指し、浮遊細胞でも接着細胞でも生体でも、形態は問わない。AAV等のウイルスを感染させる濃度は適宜差が見やすいように変更可能である。また、AAV変異体の感染能の定義は、限定されないものの、例えば、非特許文献1に記載のようにAAV変異体及び野生型AAVをヒトHepG2細胞等の宿主細胞に感染させ感染率を測定し、野生型AAVの感染率を100としたときのAAV変異体の感染率の比を算出することにより求めることができる。あるいは、変異体の感染能は、野生型の感染能に対する相対値として求めてもよい。
【0031】
本明細書においてAAV結合性タンパク質とは、配列番号1に記載のKIAA0319L(UniProt No.Q8IZA0)のアミノ酸配列のうち、細胞外領域ドメイン1(PKD1)およびドメイン2(PKD2)に相当する領域である312番目のセリン(Ser)から500番目のアスパラギン酸(Asp)までのアミノ酸残基を少なくとも含むタンパク質であり、ただし当該312番目から500番目までのアミノ酸残基において特定位置にあるアミノ酸置換が生じたタンパク質である。したがって、本発明のAAV結合性タンパク質は、前記タンパク質のC末端側にある他の細胞外領域ドメイン(ドメイン3(PKD3)、ドメイン4(PKD4)およびドメイン5(PKD5))の全てまたは一部を含んでもよいし、PKD1のN末端側にあるMANSC(Motif At N terminus with Seven Cysteines)ドメインなどのシグナル配列やシステインリッチな領域の全てまたは一部を含んでもよいし、細胞外領域のN末端側および/またはC末端側にある膜貫通領域ならびに細胞内領域の全てまたは一部を含んでもよい。
【0032】
前記特定位置におけるアミノ酸置換は、具体的には、配列番号1に記載のアミノ酸配列において、
(1)Ala330Val(この表記は、配列番号1の330番目のアラニンがバリンに置換されていることを表す、以下同様)、
(2)Ala330Cys、Ala330Phe、Ala330Leu、Ala330Arg、Ala330TrpおよびAla330Tyrのいずれか、
(3)Tyr331Cys、
(4)Val332TrpまたはVal332Tyr、ならびに
(5)Leu333Cysのうち、少なくともいずれか1つのアミノ酸置換であり、これらアミノ酸置換が生じると、AAVに対する結合活性が向上する。
【0033】
中でも(1)Ala330Valは、AAVに対する結合活性が大幅に向上するとともに、組換え大腸菌を用いた遺伝子工学的手法でAAV結合性タンパク質を製造する際、当該AAV結合性タンパク質由来の分解物の生成が大幅に抑制し、当該組換え大腸菌でのAAV結合性タンパク質の製造効率が大幅に向上するアミノ酸置換である。そのため、(1)Ala330Valのアミノ酸置換が少なくとも生じたAAV結合性タンパク質は、本発明のAAV結合性タンパク質の好ましい態様である。
【0034】
なお前記(1)から(5)に示すアミノ酸置換の数に限定はない。すなわち、前記(1)から(5)に示すアミノ酸置換のうちいずれか1つのみ生じてもよく、前記(1)から(5)に示すアミノ酸置換のうち2以上生じてもよい。ただし、前記(1)および前記(2)に示すアミノ酸置換は同一の位置に生じる置換であるため、アミノ酸置換が生じたとしても前記(1)または前記(2)のいずれかとなる。
【0035】
結合活性が向上するAAVの限定は特になく、自然界に存在するAAVであってもよいし、人工的に作製されたAAVでもよい。自然界に存在するAAVの例として、血清型1(AAV1)、血清型2(AAV2)、血清型3(AAV3)、血清型5(AAV5)、血清型6(AAV6)、血清型7(AAV7)、血清型8(AAV8)、血清型9(AAV9)、血清型10(AAV10)、血清型11(AAV11)、血清型12(AAV12)、血清型13(AAV13)があげられる。また人工的に作製されたAAVとしては、AAVrh8、AAVrh10や、これら血清型のうち二以上の特徴(細胞指向性や感染能)を有したキメラAAVがあげられる。
【0036】
前記(ii)、(v)、(viii)、および(xi)において、「1もしくは数個」とは、AAV結合性タンパク質の立体構造におけるアミノ酸置換の位置やアミノ酸残基の種類によっても異なるが、一例として、1から50個、1から30個、1から20個、1から10個、1から9個、1から8個、1から7個、1から6個、1から5個、1から4個、1から3個、1から2個、1個のいずれかを意味する。
【0037】
前記(ii)、(v)、(viii)、および(xi)に記載の置換、欠失、挿入、または付加の例として、WO2021/106882号で開示しているアミノ酸残基の置換があげられる。中でもVal317Asp、Tyr342Ser、Lys362Glu、Lys371Asn、Val381Ala、Ile382Val、Gly390Ser、Lys399Glu、Ser476ArgおよびAsn487Aspの置換が少なくとも生じると、熱、酸およびアルカリに対する安定性が特に向上するため、本発明のAAV結合性タンパク質の特に好ましい態様である。
【0038】
前記特に好ましい態様の一例として、以下の(A)から(K)に示すAAV結合性タンパク質があげられる。
(A)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を含み、ただし当該312番目から500番目までのアミノ酸残基において、Val317Asp、Ala330Val、Tyr342Ser、Lys362Glu、Lys371Asn、Val381Ala、Ile382Val、Gly390Ser、Lys399Glu、Ser476ArgおよびAsn487Aspのアミノ酸置換が少なくとも生じたAAV結合性タンパク質。
(B)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を含み、ただし当該312番目から500番目までのアミノ酸残基において、Val317Asp、Ala330Cys、Tyr342Ser、Lys362Glu、Lys371Asn、Val381Ala、Ile382Val、Gly390Ser、Lys399Glu、Ser476ArgおよびAsn487Aspのアミノ酸置換が少なくとも生じたAAV結合性タンパク質。
(C)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を含み、ただし当該312番目から500番目までのアミノ酸残基において、Val317Asp、Ala330Phe、Tyr342Ser、Lys362Glu、Lys371Asn、Val381Ala、Ile382Val、Gly390Ser、Lys399Glu、Ser476ArgおよびAsn487Aspのアミノ酸置換が少なくとも生じたAAV結合性タンパク質。
(D)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を含み、ただし当該312番目から500番目までのアミノ酸残基において、Val317Asp、Ala330Leu、Tyr342Ser、Lys362Glu、Lys371Asn、Val381Ala、Ile382Val、Gly390Ser、Lys399Glu、Ser476ArgおよびAsn487Aspのアミノ酸置換が少なくとも生じたAAV結合性タンパク質。
(E)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を含み、ただし当該312番目から500番目までのアミノ酸残基において、Val317Asp、Ala330Arg、Tyr342Ser、Lys362Glu、Lys371Asn、Val381Ala、Ile382Val、Gly390Ser、Lys399Glu、Ser476ArgおよびAsn487Aspのアミノ酸置換が少なくとも生じたAAV結合性タンパク質。
(F)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を含み、ただし当該312番目から500番目までのアミノ酸残基において、Val317Asp、Ala330Trp、Tyr342Ser、Lys362Glu、Lys371Asn、Val381Ala、Ile382Val、Gly390Ser、Lys399Glu、Ser476ArgおよびAsn487Aspのアミノ酸置換が少なくとも生じたAAV結合性タンパク質。
(G)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を含み、ただし当該312番目から500番目までのアミノ酸残基において、Val317Asp、Ala330Tyr、Tyr342Ser、Lys362Glu、Lys371Asn、Val381Ala、Ile382Val、Gly390Ser、Lys399Glu、Ser476ArgおよびAsn487Aspのアミノ酸置換が少なくとも生じたAAV結合性タンパク質。
(H)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を含み、ただし当該312番目から500番目までのアミノ酸残基において、Val317Asp、Tyr331Cys、Tyr342Ser、Lys362Glu、Lys371Asn、Val381Ala、Ile382Val、Gly390Ser、Lys399Glu、Ser476ArgおよびAsn487Aspのアミノ酸置換が少なくとも生じたAAV結合性タンパク質。
(I)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を含み、ただし当該312番目から500番目までのアミノ酸残基において、Val317Asp、Val332Trp、Tyr342Ser、Lys362Glu、Lys371Asn、Val381Ala、Ile382Val、Gly390Ser、Lys399Glu、Ser476ArgおよびAsn487Aspのアミノ酸置換が少なくとも生じたAAV結合性タンパク質。
(J)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を含み、ただし当該312番目から500番目までのアミノ酸残基において、Val317Asp、Val332Tyr、Tyr342Ser、Lys362Glu、Lys371Asn、Val381Ala、Ile382Val、Gly390Ser、Lys399Glu、Ser476ArgおよびAsn487Aspのアミノ酸置換が少なくとも生じたAAV結合性タンパク質。
(K)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を含み、ただし当該312番目から500番目までのアミノ酸残基において、Val317Asp、Leu333Cys、Tyr342Ser、Lys362Glu、Lys371Asn、Val381Ala、Ile382Val、Gly390Ser、Lys399Glu、Ser476ArgおよびAsn487Aspのアミノ酸置換が少なくとも生じたAAV結合性タンパク質。
【0039】
また前記特に好ましい態様の具体例として、以下に示すAAV結合性タンパク質が挙げられる。
前記(A)に示すAAV結合性タンパク質の一態様である、配列番号19に記載のアミノ酸配列のうち、25番目のセリンから213番目のアスパラギン酸までのアミノ酸配列を少なくとも含むAAV結合性タンパク質。
前記(B)に示すAAV結合性タンパク質の一態様である、配列番号15に記載のアミノ酸配列のうち、25番目のセリンから213番目のアスパラギン酸までのアミノ酸配列を少なくとも含むAAV結合性タンパク質。
前記(C)に示すAAV結合性タンパク質の一態様である、配列番号16に記載のアミノ酸配列のうち、25番目のセリンから213番目のアスパラギン酸までのアミノ酸配列を少なくとも含むAAV結合性タンパク質。
前記(D)に示すAAV結合性タンパク質の一態様である、配列番号17に記載のアミノ酸配列のうち、25番目のセリンから213番目のアスパラギン酸までのアミノ酸配列を少なくとも含むAAV結合性タンパク質。
前記(E)に示すAAV結合性タンパク質の一態様である、配列番号18に記載のアミノ酸配列のうち、25番目のセリンから213番目のアスパラギン酸までのアミノ酸配列を少なくとも含むAAV結合性タンパク質。
前記(F)に示すAAV結合性タンパク質の一態様である、配列番号20に記載のアミノ酸配列のうち、25番目のセリンから213番目のアスパラギン酸までのアミノ酸配列を少なくとも含むAAV結合性タンパク質。
前記(G)に示すAAV結合性タンパク質の一態様である、配列番号21に記載のアミノ酸配列のうち、25番目のセリンから213番目のアスパラギン酸までのアミノ酸配列を少なくとも含むAAV結合性タンパク質。
前記(H)に示すAAV結合性タンパク質の一態様である、配列番号22に記載のアミノ酸配列のうち、25番目のセリンから213番目のアスパラギン酸までのアミノ酸配列を少なくとも含むAAV結合性タンパク質。
前記(I)に示すAAV結合性タンパク質の一態様である、配列番号23に記載のアミノ酸配列のうち、25番目のセリンから213番目のアスパラギン酸までのアミノ酸配列を少なくとも含むAAV結合性タンパク質。
前記(J)に示すAAV結合性タンパク質の一態様である、配列番号24に記載のアミノ酸配列のうち、25番目のセリンから213番目のアスパラギン酸までのアミノ酸配列を少なくとも含むAAV結合性タンパク質。
前記(K)に示すAAV結合性タンパク質の一態様である、配列番号25に記載のアミノ酸配列のうち、25番目のセリンから213番目のアスパラギン酸までのアミノ酸配列を少なくとも含むAAV結合性タンパク質。
【0040】
なお前記(ii)、(v)、(viii)、および(xi)における「1もしくは数個のアミノ酸残基の置換」には、前述した特定位置におけるアミノ酸置換の他に、物理的性質および/または化学的性質が類似したアミノ酸間で置換が生じる保守的置換が生じてもよい。保守的置換の場合、一般に、置換が生じているものと置換が生じていないものとの間でタンパク質の機能が維持されることが当業者において知られている。保守的置換の一例としては、グリシンとアラニン間、セリンとプロリン間、またはグルタミン酸とアラニン間での置換があげられる(タンパク質の構造と機能,メディカル・サイエンス・インターナショナル社,9,2005)。また前記アミノ酸置換の別の例としては、本発明のAAV結合性タンパク質を単量体化させるための置換があげられる。具体的には、高次構造を構成しやすいシステイン残基をセリン残基またはメチオニン残基とするアミノ酸置換があげられる。
【0041】
また前記(ii)、(v)、(viii)、および(xi)における「1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、または付加」には、AAV結合性タンパク質の由来の違いや、種の違いなどに基づく、天然にも存在する変異(mutantまたはvariant)も含まれる。
【0042】
前記(iii)、(vi)、(ix)、および(xii)におけるアミノ酸配列の相同性は70%以上あればよく、それ以上の相同性(例えば、80%以上、85%以上、90%以上または95%以上)を有してもよい。なお本明細書において「相同性」とは、類似性(similarity)または同一性(identity)を意味してよく、特に同一性を意味してもよい。「アミノ酸配列の相同性」とは、アミノ酸配列全体に対する相同性を意味する。
アミノ酸配列間の「同一性」とは、それらアミノ酸配列における種類が同一であるアミノ酸残基の比率を意味する(実験医学,31(3),羊土社)。アミノ酸配列間の「類似性」とは、それらアミノ酸配列における種類が同一であるアミノ酸残基の比率と側鎖の性質が類似したアミノ酸残基の比率の合計を意味する(実験医学,31(3),羊土社)。アミノ酸配列の相同性は、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)やFASTA等のアラインメントプログラム(alignment program)を利用して決定できる。
【0043】
本発明のAAV結合性タンパク質は、そのN末端側またはC末端側に、夾雑物質存在下の溶液から分離する際に有用なオリゴペプチドをさらに付加してもよい。前記オリゴペプチドとしては、ポリヒスチジン、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸等があげられる。また本発明のAAV結合性タンパク質をクロマトグラフィ用の支持体等の固相に固定化する際に有用な、システインを含むオリゴペプチドを、本発明のAAV結合性タンパク質のN末端側またはC末端側にさらに付加してもよい。
【0044】
AAV結合性タンパク質のN末端側またはC末端側に付加するオリゴペプチドの長さは、本発明のAAV結合性タンパク質のAAV結合性や安定性を損なわない限り特に制限はない。前記オリゴペプチドを本発明のAAV結合性タンパク質に付加させる際は、前記オリゴペプチドをコードするポリヌクレオチドを作製後、当業者に周知の方法を用いて遺伝子工学的にAAV結合性タンパク質のN末端側またはC末端側に付加させてもよいし、化学的に合成した前記オリゴペプチドを本発明のAAV結合性タンパク質のN末端側またはC末端側に化学的に結合させて付加させてもよい。
【0045】
さらに本発明のAAV結合性タンパク質のN末端側には、宿主として用いる大腸菌(Escherichia coli)での効率的な発現を促すためのシグナルペプチドを付加してもよい。前記シグナルペプチドとしては、PelB、OmpA,DsbA、DsbC、MalE、TorTなどといったペリプラズムにタンパク質を分泌させるシグナルペプチドを例示できる(特開2011-097898号公報)。
【0046】
本発明のAAV結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド(以下、「本発明のポリヌクレオチド」とも表記)の作製方法の一例として、
(I)本発明のAAV結合性タンパク質のアミノ酸配列からヌクレオチド配列に変換し、当該ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを人工的に合成する方法や、
(II)AAV結合性タンパク質の全体または部分配列を含むポリヌクレオチドを直接人工的に、またはAAV結合性タンパク質のcDNA等からPCR法といったDNA増幅法を用いて調製し、調製した当該ポリヌクレオチドを適当な方法で連結する方法、が例示できる。
【0047】
前記(I)の方法において、アミノ酸配列からヌクレオチド配列に変換する際、形質転換させる宿主である大腸菌におけるコドンの使用頻度を考慮して変換するのが好ましい。具体的には、アルギニン(Arg)ではAGA/AGG/CGG/CGAが、イソロイシン(Ile)ではATAが、ロイシン(Leu)ではCTAが、グリシン(Gly)ではGGAが、プロリン(Pro)ではCCCが、それぞれ使用頻度が少ないため(いわゆるレアコドンであるため)、それらのコドンを避けるように変換すればよい。コドンの使用頻度の解析は公的データベース(例えば、かずさDNA研究所のウェブサイトにあるCodon Usage Databaseなど)を利用することによっても可能である。
【0048】
本発明のポリヌクレオチドへ変異を導入する場合、エラープローンPCR法が利用できる。エラープローンPCR法における反応条件は、AAV結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドに所望の変異を導入できる条件であれば特に限定はなく、例えば、基質である4種類のデオキシヌクレオチド(dATP/dTTP/dCTP/dGTP)の濃度を不均一にし、MnCl2を0.01mM以上10mM以下(好ましくは0.1mM以上1mM以下)の濃度でPCR反応液に添加してPCRを行なうことで、ポリヌクレオチドに変異を導入できる。またエラープローンPCR法以外の変異導入方法としては、AAV結合性タンパク質の全体または部分配列を含むポリヌクレオチドに、変異原となる薬剤を接触・作用させたり、紫外線を照射したりして、ポリヌクレオチドに変異を導入して作製する方法があげられる。当該方法において変異原として使用する薬剤としては、ヒドロキシルアミン、N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン、亜硝酸、亜硫酸、ヒドラジン等、当業者が通常用いる変異原性薬剤を用いればよい。
【0049】
本発明のポリヌクレオチドを用いて宿主である大腸菌を形質転換する場合、本発明のポリヌクレオチドそのものを用いてもよいが、発現ベクター(例えば、原核細胞や真核細胞の形質転換に通常用いるバクテリオファージ、コスミドやプラスミド等)の適切な位置に本発明のポリヌクレオチドを挿入したものを用いると、より好ましい。なお当該発現ベクターは、形質転換する宿主(大腸菌)内で安定に存在し複製できるものであれば特に制限はなく、pETプラスミドベクター、pUCプラスミドベクター、pTrcプラスミドベクター、pCDFプラスミドベクターを例示できる。
【0050】
また前記適切な位置とは、発現ベクターの複製機能、所望の抗生物質マーカー、伝達性に関わる領域を破壊しない位置を意味する。前記発現ベクターに本発明のポリヌクレオチドを挿入する際は、発現に必要なプロモータといった機能性ポリヌクレオチドに連結される状態で挿入すると好ましい。当該プロモータの例として、trpプロモータ、tacプロモータ、trcプロモータ、lacプロモータ、T7プロモータ、recAプロモータ、lppプロモータがあげられる。
【0051】
前記方法により作製した、本発明のポリヌクレオチドを挿入した発現ベクター(以下、単に「本発明の発現ベクター」とも表記)を用いて宿主である大腸菌を形質転換するには、当業者が通常用いる方法で行なえばよい。具体的には、Molecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory),256,1992等の公知の文献に記載の方法により形質転換すればよい。前述した方法で形質転換して得られた形質転換体は、適切な方法でスクリーニングすることにより、本発明のAAV結合性タンパク質を発現可能な形質転換体(以下、単に「本発明の形質転換体」とも表記)を取得できる。
【0052】
本発明の形質転換体から、本発明の発現ベクターを調製するには、本発明の形質転換体を培養して得られる培養物からアルカリ抽出法またはQIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン社製)等の市販の抽出キットを用いて調製すればよい。
【0053】
本発明の形質転換体を培養し、得られた培養物から本発明のAAV結合性タンパク質を回収することで、本発明のAAV結合性タンパク質を製造できる。なお本明細書において培養物とは、培養された本発明の形質転換体の細胞そのもののほか、培養に用いた培地も含まれる。
【0054】
本発明のタンパク質製造方法で用いる形質転換体は、対象宿主(大腸菌)の培養に適した培地で培養すればよく、好ましい培地の一例として、必要な栄養源を補ったLB(Luria-Bertani)培地があげられる。なお、本発明のベクターの導入の有無により本発明の形質転換体を選択的に増殖させるために、培地に当該ベクターに含まれる薬剤耐性遺伝子に対応した薬剤を添加して培養すると好ましい。例えば、当該ベクターがカナマイシン耐性遺伝子を含んでいる場合は、培地にカナマイシンを添加すればよい。
【0055】
また培地には、炭素、窒素および無機塩供給源の他に、適当な栄養源を添加してもよく、所望により、グルタチオン、システイン、シスタミン、チオグリコレートおよびジチオスレイトールからなる群から選択される一種類以上の還元剤を含んでもよい。培養温度は一般に10℃以上40℃以下、好ましくは20℃以上37℃以下、より好ましくは25℃前後であるが、発現させるタンパク質の特性により選択すればよい。培地のpHは、pH6.8以上pH7.4以下、好ましくはpH7.0前後である。また本発明のベクターに誘導性のプロモータが含まれている場合は、本発明のAAV結合性タンパク質が良好に発現できるような条件下で誘導をかけると好ましい。
【0056】
誘導剤としてはIPTG(Isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside)を例示できる。培養液の濁度(600nmにおける吸光度)を測定し、概ね0.5以上1.0以下となったときに適当量のIPTGを添加後、引き続き培養することで、AAV結合性タンパク質の発現を誘導できる。IPTGの添加濃度は0.005mM以上1.0mM以下の範囲から適宜選択すればよいが、0.01mM以上0.5mM以下の範囲が好ましい。IPTG誘導に関する種々の条件は当該技術分野において周知の条件で行なえばよい。
【0057】
本発明の形質転換体を培養して得られた培養物から本発明のAAV結合性タンパク質を回収するには、本発明の形質転換体における本発明のAAV結合性タンパク質の発現形態に適した方法で、当該培養物から分離/精製して本発明のAAV結合性タンパク質を回収すればよい。例えば、培養上清に発現する場合は菌体を遠心分離操作によって分離し、得られる培養上清から本発明のAAV結合性タンパク質を精製すればよい。また、細胞内(ペリプラズムを含む)に発現する場合には、遠心分離操作により菌体を集めた後、酵素処理剤や界面活性剤等を添加することにより菌体を破砕して本発明のAAV結合性タンパク質を抽出した後、精製すればよい。
【0058】
本発明のAAV結合性タンパク質を精製するには、当該技術分野において公知の方法を用いればよく、一例として液体クロマトグラフィを用いた分離/精製があげられる。液体クロマトグラフィには、イオン交換クロマトグラフィ、疎水性相互作用クロマトグラフィ、ゲルろ過クロマトグラフィ、アフィニティークロマトグラフィ等があり、これらのクロマトグラフィを組み合わせて精製操作を行なうことで、本発明のAAV結合性タンパク質を高純度に調製できる。
【0059】
得られた本発明のAAV結合性タンパク質のAAVに対する結合活性を測定する方法としては、例えばAAVに対する結合活性をEnzyme-Linked ImmunoSorbent Assay法(以下、ELISA法と表記)や表面プラズモン共鳴法などを用いて測定すればよい。結合活性の測定に使用するAAVとしてはAAVベクターでもVLP(ウイルス様粒子)でもよい。また、本発明のAAV結合性タンパク質に対し結合活性を示せば、どのセロタイプ(血清型)のAAVベクターおよびVLPを使用してもよい。
【0060】
本発明のAAV結合性タンパク質は、例えば、AAVの精製または分析に使用できる。本発明のAAV結合性タンパク質は、例えば、不溶性担体に固定化して使用できる。すなわち、AAVの精製または分析は、具体的には、例えば、不溶性担体と、当該不溶性担体に固定化された本発明のAAV結合性タンパク質とを含む、AAV吸着剤を用いて実施できる。本明細書では、不溶性担体と、当該不溶性担体に固定化された本発明のAAV結合性タンパク質とを含むAAV吸着剤を、本発明のAAV吸着剤ともいう。なおAAVの精製とは、夾雑物質共存化の溶液からAAVの精製に限らず、構造、性質または活性等に基づくAAVの精製も含まれる。不溶性担体の素材、形状等に限定はなく、一例としてWO2021/106882号で開示の不溶性担体があげられる。また不溶性担体は多孔性であってもよく、非多孔性であってもよい。
【0061】
本発明のAAV結合性タンパク質は、例えば、共有結合を介して不溶性担体に固定化できる。本発明のAAV結合性タンパク質は、具体的には、例えば、不溶性担体が有する活性基を介して本発明のAAV結合性タンパク質と不溶性担体とを共有結合させることで、不溶性担体に固定化できる。本発明のAAV結合性タンパク質の不溶性担体への固定化は、例えば、WO2021/106882号での開示内容に基づき実施すればよい。
【0062】
本発明のAAV吸着剤は、例えば、カラムに充填してAAVの精製に使用できる。具体的には、例えば、本発明のAAV吸着剤を充填したカラム(以下、単に「本発明のカラム」とも表記)にAAVを含む溶液を添加して当該AAVを前記吸着剤に吸着させ、前記吸着剤に吸着したAAVを溶出させることで、AAVを精製できる。すなわち、本発明は、例えば、本発明のカラムにAAVを含む溶液を添加して当該AAVを前記吸着剤に吸着させる工程と、前記吸着剤に吸着したAAVを溶出させる工程とを含む、AAVの精製方法を提供する。本発明のカラムを用いたAAVの精製は、例えば、WO2021/106882号での開示内容に基づき実施すればよい。
【0063】
本発明のAAV吸着剤を用いてAAVの精製を実施することで、例えば、精製されたAAVが得られる。すなわち、AAVの精製方法は、一態様において、AAVの製造方法であってよく、具体的には、精製されたAAVの製造方法であってよい。AAVは、例えば、AAVを含む溶出画分として得られる。すなわち、溶出されたAAVを含む画分を分取できる。AAV画分の分取は、例えば、常法で行なえる。AAV画分を分取する方法としては、一定の時間ごとや、一定の容量ごとに回収容器を交換する方法や、溶出液のクロマトグラムの形状に合わせて回収容器を換える方法や、オートサンプラー等の自動フラクションコレクター等画分の分取をする方法が挙げられる。さらに、AAVを含む画分からAAVを回収することもできる。AAVを含む画分からのAAVの回収は、例えば、タンパク質の精製に用いられる公知の方法で行なえる。
【0064】
また、本願発明は、以下の[15]から[17]の態様も包含する:
[15]試料中に含まれるアデノ随伴ウイルス(AAV)を感染能の強さに基づき分析する方法であって、
前記分析を不溶性担体と当該担体に固定化したAAV結合性タンパク質とを含むAAV吸着剤に前記AAVを吸着させる工程と前記吸着剤に吸着したAAVを溶出液を用いて溶出させる工程とを含む方法で行ない、かつ前記AAV結合性タンパク質が以下の(xiii)から(xv)のいずれかから選択されるポリペプチドである、前記方法;
(xiii)配列番号94に記載のアミノ酸配列のうち、312番目のセリンから401番目のグルタミン酸までのアミノ酸残基または409番目のイソロイシンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド、
(xiv)配列番号94に記載のアミノ酸配列のうち、312番目のセリンから401番目のグルタミン酸までのアミノ酸残基または409番目のイソロイシンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただしこれらアミノ酸残基において、1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を有し、かつAAV結合活性を有するポリペプチド、
(xv)配列番号94に記載のアミノ酸配列のうち、312番目のセリンから401番目のグルタミン酸までのアミノ酸残基または409番目のイソロイシンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただしこれらアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有し、かつAAV結合活性を有するポリペプチド。
【0065】
[16]AAV結合性タンパク質が、以下の(xvi)から(xviii)のいずれかから選択されるポリペプチドである、[15]に記載の方法;
(xvi)配列番号94に記載のアミノ酸配列のうち312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド、
(xvii)配列番号94に記載のアミノ酸配列の312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該312番目から500番目までのアミノ酸残基において、1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を有し、かつAAV結合活性を有するポリペプチド、
(xviii)配列番号94に記載のアミノ酸配列の312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該312番目から500番目までのアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有し、かつAAV結合活性を有するポリペプチド。
【0066】
[17]AAV吸着剤が当該吸着剤を充填したカラムの態様である、[15]または[16]に記載の方法。
【0067】
本発明でAAVの分析に用いる吸着剤(以下、「AAV吸着剤」とも表記)のリガンドタンパク質(不溶性担体に固定化させるタンパク質)であるAAV結合性タンパク質は、AAV受容体(AAVR)の一態様であるKIAA0319L(UniProtアクセッションナンバー:Q8IZA0、配列番号94)のうち、AAV結合活性を有する、細胞外領域ドメイン1(PKD1)(配列番号94の312番目のセリン(Ser)から401番目のグルタミン酸(Glu)までのアミノ酸残基)またはドメイン2(PKD2)(配列番号94の409番目のイソロイシン(Ile)から500番目のアスパラギン酸(Asp)までのアミノ酸残基)に相当する領域を少なくとも含むポリペプチドである。具体的には、以下の(xiii)から(xv)のいずれかから選択されるポリペプチドがあげられる。
(xiii)配列番号94に記載のアミノ酸配列のうち、312番目のセリンから401番目のグルタミン酸までのアミノ酸残基または409番目のイソロイシンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド、
(xiv)配列番号94に記載のアミノ酸配列のうち、312番目のセリンから401番目のグルタミン酸までのアミノ酸残基または409番目のイソロイシンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただしこれらアミノ酸残基において、1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を有し、かつAAV結合活性を有するポリペプチド、
(xv)配列番号94に記載のアミノ酸配列のうち、312番目のセリンから401番目のグルタミン酸までのアミノ酸残基または409番目のイソロイシンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただしこれらアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有し、かつAAV結合活性を有するポリペプチド。
【0068】
またAAV結合性タンパク質の好ましい態様として、KIAA0319L(配列番号94)のPKD1およびPKD2(配列番号94の312番目のセリン(Ser)から500番目のアスパラギン酸(Asp)までのアミノ酸残基)に相当する領域を少なくとも含むポリペプチドがあげられ、具体的には、以下の(xvi)から(xviii)のいずれかから選択されるポリペプチドがあげられる。
(xvi)配列番号94に記載のアミノ酸配列のうち312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド、
(xvii)配列番号94に記載のアミノ酸配列の312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該312番目から500番目までのアミノ酸残基において、1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を有し、かつAAV結合活性を有するポリペプチド、
(xviii)配列番号94に記載のアミノ酸配列の312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該312番目から500番目までのアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有し、かつAAV結合活性を有するポリペプチド。
【0069】
前記(xiii)から(xviii)のいずれかに示すポリペプチドは、前述したKIAA0319LのPKD1および/またはPKD2に相当する領域を少なくとも含んでいればよく、例えば、PKD2のC末端側にある他の細胞外領域ドメイン(ドメイン3(PKD3)、ドメイン4(PKD4)およびドメイン5(PKD5))に相当する領域の全てまたは一部を含んでもよいし、PKD1のN末端側にあるMANSC(Motif At N terminus with Seven Cysteines)ドメインなどのシグナル配列に相当する領域やシステインリッチな領域の全てまたは一部を含んでもよいし、細胞外領域のN末端側および/またはC末端側にある膜貫通領域ならびに細胞内領域の全てまたは一部を含んでもよい。
【0070】
前記(xiv)および前記(xvii)の一例として、配列番号97に記載のアミノ酸配列のうち25番目のセリン(Ser)から213番目のアスパラギン酸(Asp)までのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチドや、WO2021/106882号で開示のAAV結合性タンパク質、があげられる。また前記(xiv)および前記(xvii)に記載の置換、欠失、挿入、または付加の例として、WO2021/106882号で開示しているアミノ酸残基の置換があげられる。
【0071】
前記(xiv)および前記(xvii)における、「1もしくは数個」とは、AAVRの立体構造におけるアミノ酸置換の位置やアミノ酸残基の種類によっても異なるが、一例として、1個以上50個以下、1個以上30個以下、1個以上20個以下、1個以上10個以下、1個以上9個以下、1個以上8個以下、1個以上7個以下、1個以上6個以下、1個以上5個以下、1個以上4個以下、1個以上3個以下、1個以上2個以下、1個のいずれかを意味する。「1もしくは数個」のアミノ酸残基の置換は、例えば、AAV結合活性を有する限り、WO2021/106882号で開示のアミノ酸残基の置換以外の位置に生じてよい。
【0072】
なお前記(xiv)および前記(xvii)における「1もしくは数個のアミノ酸残基の置換」には、前述した特定位置におけるアミノ酸置換の他に、物理的性質および/または化学的性質が類似したアミノ酸間で置換が生じる保守的置換が生じてもよい。保守的置換は、一般に、置換が生じているものと置換が生じていないものとの間でタンパク質の機能が維持されることが当業者において知られている。保守的置換の一例としては、グリシンとアラニン間、セリンとプロリン間、またはグルタミン酸とアラニン間での置換があげられる(タンパク質の構造と機能,メディカル・サイエンス・インターナショナル社、9、2005)。また前記(xiv)および前記(xvii)における「1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、または付加」には、AAVRの由来の違いや、種の違いなどに基づく、天然にも存在する変異(mutantまたはvariant)も含まれる。
【0073】
前記(xv)および前記(xviii)におけるアミノ酸配列の相同性は70%以上あればよく、それ以上の相同性(例えば、80%以上、85%以上、90%以上または95%以上)を有してもよい。なお本明細書において「相同性」とは、類似性(similarity)または同一性(identity)を意味してよく、特に同一性を意味してもよい。「アミノ酸配列の相同性」とは、アミノ酸配列全体に対する相同性を意味する。アミノ酸配列間の「同一性」とは、それらアミノ酸配列における種類が同一であるアミノ酸残基の比率を意味する(実験医学、31(3)、羊土社)。アミノ酸配列間の「類似性」とは、それらアミノ酸配列における種類が同一であるアミノ酸残基の比率と側鎖の性質が類似したアミノ酸残基の比率の合計を意味する(実験医学、31(3)、羊土社)。アミノ酸配列の相同性は、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)やFASTA等のアラインメントプログラム(alignment program)を利用して決定できる。
【0074】
本発明において、前述したAAV結合性タンパク質の固定化に用いる不溶性担体は、AAVを含む試料、分析や精製に用いる溶液(溶出液、平衡化液、洗浄液など)に対して不溶性であれば特に制限されない。一例として、アガロース、アルギネート(アルギン酸塩)、カラゲナン、キチン、セルロース、デキストリン、デキストラン、デンプン等の多糖質を原料とした担体や、ポリビニルアルコール、ポリメタクレート、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリウレタン等の合成高分子を原料とした担体や、シリカ等のセラミックスを原料とした担体があげられる。中でも、多糖質を原料とした担体や合成高分子を原料とした担体が不溶性担体として好ましい。前記好ましい担体の一例として、トヨパール(東ソー社製)等のヒドロキシ基を導入したポリメタクリレートゲル、Sepharose(サイティバ社製)等のアガロースゲル、セルファイン(JNC社製)等のセルロースゲルが挙げられる。不溶性担体の形状は特に制限されないが、カラムに充填できる形状であると好ましい。例えば、粒状物、モノリス状物、膜状物および繊維状物のいずれであってもよく、また多孔性および非多孔性のいずれであってもよい。
【0075】
不溶性担体へのAAV結合性タンパク質の固定化は、例えば、共有結合を介して固定化すればよい。具体的には、例えば、不溶性担体が有する活性基を介してAAV結合性タンパク質と不溶性担体とを共有結合させることで、不溶性担体に固定化し、本発明で用いるAAV吸着剤を製造すればよい。前記活性基としては、N-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)活性化エステル基、エポキシ基、カルボキシ基、マレイミド基、ハロアセチル基、トレシル基、ホルミル基、ハロアセトアミド基が挙げられる。活性基を有する不溶性担体としては、例えば、活性基を有する市販の不溶性担体をそのまま用いてもよいし、不溶性担体に活性基を導入して用いてもよい。活性基を有する市販の担体としては、TOYOPEARL AF-Epoxy-650M、TOYOPEARL AF-Tresyl-650M(いずれも東ソー社製)、HiTrap NHS-activated HP Columns、NHS-activated Sepharose 4 Fast Flow、Epoxy-activated Sepharose 6B(いずれもサイティバ社製)、SulfoLink Coupling Resin(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)が例示できる。
【0076】
担体表面に活性基を導入する方法としては、担体表面に存在するヒドロキシ基、エポキシ基、カルボキシ基、アミノ基等に対して2個以上の活性部位を有する化合物の一方を反応させる方法が例示できる。
【0077】
担体表面に存在するヒドロキシ基やアミノ基にエポキシ基を導入する化合物としては、エピクロロヒドリン、エタンジオールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルが例示できる。ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルの具体例として、デナコールEX-810(n=1)、デナコールEX-811(n=1)、デナコールEX-850(n=2)、デナコールEX-851(n=2)、デナコールEX-821(n=4)、デナコールEX-830(n=9)、デナコールEX-832(n=9)、デナコールEX-841(n=13)、デナコールEX-861(n=22)(いずれもナガセケムテックス社製)があげられる。
【0078】
また担体表面に存在するエポキシ基にカルボキシ基を導入する化合物としては、2-メルカプト酢酸、3-メルカプトプロピオン酸、4-メルカプト酪酸、6-メルカプト酪酸、グリシン、3-アミノプロピオン酸、4-アミノ酪酸、6-アミノヘキサン酸を例示できる。
【0079】
また担体表面に存在するヒドロキシ基、エポキシ基、カルボキシ基またはアミノ基にマレイミド基を導入する化合物としては、N-(ε-マレイミドカプロン酸)ヒドラジド、N-(ε-マレイミドプロピオン酸)ヒドラジド、4-(4-N-マレイミドフェニル)酢酸ヒドラジド、2-アミノマレイミド、3-アミノマレイミド、4-アミノマレイミド、6-アミノマレイミド、1-(4-アミノフェニル)マレイミド、1-(3-アミノフェニル)マレイミド、4-(マレイミド)フェニルイソシアナート、2-マレイミド酢酸、3-マレイミドプロピオン酸、4-マレイミド酪酸、6-マレイミドヘキサン酸、N-(α-マレイミドアセトキシ)スクシンイミドエステル、(m-マレイミドベンゾイル)N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、スクシンイミジル-4-(マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボニル-(6-アミノヘキサン酸)、スクシンイミジル-4-(マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボン酸、(p-マレイミドベンゾイル)N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、(m-マレイミドベンゾイル)N-ヒドロキシスクシンイミドエステルやデキストランを例示できる。
【0080】
また担体表面に存在するヒドロキシ基やアミノ基にハロアセチル基を導入する化合物としては、クロロ酢酸、ブロモ酢酸、ヨード酢酸、クロロ酢酸クロリド、ブロモ酢酸クロリド、ブロモ酢酸ブロミド、クロロ酢酸無水物、ブロモ酢酸無水物、ヨード酢酸無水物、2-(ヨードアセトアミド)酢酸-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、3-(ブロモアセトアミド)プロピオン酸-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、4-(ヨードアセチル)アミノ安息香酸-N-ヒドロキシスクシンイミドエステルを例示できる。
【0081】
また担体表面に活性基を導入する方法としては、担体表面に存在するヒドロキシ基やアミノ基にω-アルケニルアルカングリシジルエーテルを反応させた後、ハロゲン化剤でω-アルケニル部位をハロゲン化することで活性化する方法も例示できる。ω-アルケニルアルカングリシジルエーテルとしては、アリルグリシジルエーテル、3-ブテニルグリシジルエーテル、4-ペンテニルグリシジルエーテルを例示できる。ハロゲン化剤としては、N-クロロスクシンイミド、N-ブロモスクシンイミド、N-ヨードスクシンイミドを例示できる。
【0082】
また担体表面に活性基を導入する方法としては、担体表面に存在するカルボキシ基に対して縮合剤と添加剤を用いて活性基を導入する方法も例示できる。縮合剤としては1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、ジシクロヘキシルカルボジアミド、カルボニルジイミダゾールを例示できる。添加剤としては、NHS、4-ニトロフェノール、1-ヒドロキシベンズトリアゾールを例示できる。
【0083】
AAV結合性タンパク質の不溶性担体への固定化は、例えば、緩衝液中で実施できる。緩衝液としては、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、MES(2-MorpholinoEthaneSulfonic acid)緩衝液、HEPES(4-(2-HydroxyEthyl)-1-PiperazineEthaneSulfonic acid)緩衝液、トリス(Tris(hydroxymethyl)aminomethane)緩衝液、ホウ酸緩衝液を例示できる。固定化させるときの反応温度は、例えば、活性基の反応性やAAV結合性タンパク質の安定性等の諸条件に応じて適宜設定できる。固定化させるときの反応温度は、例えば、4℃以上50℃以下であってよく、好ましくは10℃以上35℃以下であってよい。
【0084】
本発明では、試料中に含まれるAAVを前述した方法で作製したAAV吸着剤に吸着させる工程(以下、単に「吸着工程」とも表記)と、前記吸着剤に吸着したAAVを、溶出液を用いて溶出させる工程(以下、単に「溶出工程」とも表記)と、を含む方法で試料中に含まれるAAVを感染能の強さに基づき分析することを特徴としている。なお吸着工程および溶出工程に用いるAAV吸着剤がカラムに充填した態様(以下、「AVRカラム」とも表記)であると、これら工程を簡便に行なえる点で好ましい。以下、AVRカラムを用いた態様を例に、詳細に説明する。
【0085】
AAVを含む試料は、例えば、ポンプ等の送液手段を用いてAVRカラムに添加(アプライ)できる。なお本明細書では、液体をカラムに添加することを、「液体をカラムに送液する」ともいう。なおAAVを含む試料は、AVRカラムに添加する前に予め適切な緩衝液を用いて溶媒置換してよい。また、AAVを含む試料をAVRカラムに添加する前(すなわち吸着工程前)に、適切な緩衝液(平衡化液)を用いてAVRカラムを平衡化してよい。前記平衡化により、例えば、AAVをより高精度に分析できると期待される。溶媒置換や平衡化に用いる緩衝液としては、中性領域(本明細書ではpH4.0以上9.0以下の領域を指す)で緩衝能を有する、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、コハク酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液、HEPES緩衝液、MES緩衝液を例示できる。そのような緩衝液には、例えば、さらに、10mM以上600mM以下の塩化ナトリウムや塩化カルシウム等の無機塩を添加してもよい。溶媒置換に用いる緩衝液と平衡化液は、同一であってもよく、同一でなくてもよい。また、AAVを含む試料のAVRカラムへの通液後に夾雑物質等のAAV以外の成分がAVRカラムに残存している場合、AAV吸着剤に吸着したAAVを溶出液で溶出させる前(すなわち溶出工程前)に、そのような成分をAVRカラムから除去(洗浄)してよい。AAV以外の成分は、例えば、適切な緩衝液を洗浄液として用いることでAVRカラムから除去できる。当該洗浄液については、例えば、溶媒置換や平衡化に用いる緩衝液についての記載を準用できる。
【0086】
溶出工程では、AAVを感染能の強さに基づき溶出させるため、グラジエントで溶出させる。グラジエントは、二以上の段階に分けて(ステップワイズに)変化させてもよく(ステップグラジエント)、直線的(リニア)な勾配をつけて変化させてもよい(リニアグラジエント)。グラジエント溶出の例として、pHを前述した中性領域から酸性領域(前述した中性領域よりも酸性側の領域)に下げるグラジエントがあげられる。開始時の溶出液のpHは前述した中性領域すなわちpH4.0以上9.0以下であればよく、pH4.5以上pH6.0以下が好ましい。グラジエント後の溶出液のpHである酸性領域はpH3.5以下であればよく、pH2.0以上pH2.5以下が好ましい。流速の下限は特に制限はなく、上限はAAV吸着剤で使用している不溶性担体の背圧に依存する。標準的には、0.5mL/分以上2.0mL/分以下が好ましい。グラジエントの時間は、感染能の強さの違いが溶出時間の違いとして識別できればよい。具体的には5分以上が好ましく、より好ましくは20分以上、さらに好ましくは45分以上である。
【0087】
本発明の方法で分析可能なAAVは、自然界に存在するAAVであってもよいし、人工的に作製されたAAVでもよい。例えば、各血清型(AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13など)のAAV、アミノ酸置換したAAV、ペプチドまたはタンパク質が融合されたAAV、高分子で修飾されたAAVが挙げられる。
【0088】
本発明の方法を利用すれば、例えば所望の感染能を有したAAVアミノ酸置換体(AAV変異体)のスクリーニングを簡便に実施できる。具体的には、エラープローンPCRなどの遺伝子改変によりAAVのカプシドをコードするプラスミドの変異体ライブラリを作製し、その他のAAV形成に必要なプラスミドとともに宿主を形質転換後、当該形質転換体より発現したAAV変異体をAVRカラムにアプライすることで、当該カラムからの溶出ピークに基づき、所望の感染能を有したAAV変異体のスクリーニングを実施できる。
【0089】
本発明により、試料中に含まれるAAVを感染能の強弱に応じて分析することができる。これにより例えば、感染能の高いAAVを精製し、高効率な遺伝子治療医薬品として利用することができる。また、感染能の異なるAAVが混在していた場合には、その比率を確認することができる。さらに、ロット間差や、均一性を確認するために、AAV製造工程における品質管理にも利用できる可能性がある。
【発明の効果】
【0090】
本発明のアデノ随伴ウイルス(AAV)結合性タンパク質は、KIAA0319L(UniProt No.Q8IZA0)の細胞外領域ドメイン1(PKD1)およびドメイン2(PKD2)に相当する領域中の特定位置におけるアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換したタンパク質である。本発明のAAV結合性タンパク質は、従来のAAV結合性タンパク質よりもAAVに対する結合活性が向上している。さらに本発明のAAV結合性タンパク質を、組換え大腸菌を用いた遺伝子工学的手法で製造する際、従来のAAV結合性タンパク質と比較し、当該タンパク質由来の分解物の生成が抑制されている。したがって、AAV結合性タンパク質を効率的に製造でき、当該タンパク質の工業的製造に有用である。また、本発明は、試料中に含まれるアデノ随伴ウイルス(AAV)の、感染能の強さに基づく分析を、不溶性担体と当該担体に固定化したKIAA0319Lの細胞外領域ドメイン1またはドメイン2に相当するアミノ酸配列を少なくとも含むポリペプチドとを含む吸着剤に吸着させる工程と、前記吸着剤に吸着したAAVを溶出液を用いて溶出させる工程とを含む方法で行なうことを特徴としている。本発明により、従来の方法では培養細胞を用いて多くの時間と労力を要していた、試料中に含まれるAAVの、感染能の強さに基づく分析を、迅速かつ簡便に実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【
図1】AAV2(天然型およびそのアミノ酸置換体)の、AVR10sカラムによる分析結果をまとめた図。緩衝液のpHを4.5から2.2とするグラジエントをかけることでAAVを溶出させた。各AAV2の感染能(天然型に対する相対値)を縦軸とし、当該AAV2の溶出時間を横軸として、プロットしている。なおAAV2アミノ酸置換体のうち、G383A、H271FおよびD529Aは、AVR10s固定化ゲルに吸着せず、AVR10sカラムを素通りしたため、図示していない。
【
図2】AAV2(天然型およびそのアミノ酸置換体)の、AAVXカラムによる分析結果をまとめた図。緩衝液のpHを4.5から2.2とするグラジエントをかけることでAAVを溶出させた。各AAV2の感染能(天然型に対する相対値)を縦軸とし、当該AAV2の溶出時間を横軸として、プロットしている。
【
図3】AAV2(天然型およびそのアミノ酸置換体)の、AVR11aカラムによる分析結果をまとめた図。緩衝液のpHを6.0から2.0とするグラジエントをかけることでAAVを溶出させた。各AAV2の感染能(天然型に対する相対値)を縦軸とし、当該AAV2の溶出時間を横軸として、プロットしている。なおAAV2アミノ酸置換体のうち、H271A、H271Q、H271T、G383A、H271FおよびD529Aは、AVR11a固定化ゲルに吸着せず、AVR11aカラムを素通りしたため、図示していない。
【
図4】AAV2(天然型およびそのアミノ酸置換体)の、AVR21カラムによる分析結果をまとめた図。緩衝液のpHを6.0から2.0とするグラジエントをかけることでAAVを溶出させた。各AAV2の感染能(天然型に対する相対値)を縦軸とし、当該AAV2の溶出時間を横軸として、プロットしている。なおAAV2アミノ酸置換体のうち、G383A、H271FおよびD529Aは、AVR21固定化ゲルに吸着せず、AVR21カラムを素通りしたため、図示していない。
【
図5】AAV2(天然型およびそのアミノ酸置換体)の、AAVXカラムによる分析結果をまとめた図。緩衝液のpHを6.0から2.0とするグラジエントをかけることでAAVを溶出させた。各AAV2の感染能(天然型に対する相対値)を縦軸とし、当該AAV2の溶出時間を横軸として、プロットしている。
【実施例】
【0092】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は前記例に限定されるものではない。
【0093】
実施例1 アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの作製(その1)
AAVのうち血清型5(AAV5)を選択し、以降の実施例に用いるウイルスベクターを作製した。
【0094】
(1)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるEGFP(Enhanced Green Fluorescent Protein)をコードするポリヌクレオチドの5’末端側に制限酵素EcoRI認識配列(GAATTC)を、3’末端側に終止コドン(TAG)およびBamHI認識配列(GGATCC)を、それぞれ付加したヌクレオチド配列(配列番号3)を設計した。
【0095】
(2)配列番号3に記載の配列からなるポリヌクレオチドを全合成しプラスミドにクローニングした(FASMAC社に委託、pUC-EGFPと命名)。pUC-EGFPで大腸菌JM109株を形質転換し、得られた形質転換体を培養した。培養液からQIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン社製)を用いてpUC-EGFPを抽出した。
【0096】
(3)(2)で得られたpUC-EGFPを制限酵素EcoRIとBamHIで消化後、あらかじめ制限酵素EcoRIとBamHIで消化した発現ベクターpAAV-CMV(タカラバイオ社製)にライゲーションし、当該ライゲーション産物を用いて大腸菌JM109株を形質転換した。
【0097】
(4)(3)で得られた形質転換体を、100μg/mLのカルベニシリンを含む2×YT培地(1.6%(w/v)Tryptone、1%(w/v)Yeast Extract、0.5%(w/v)塩化ナトリウム)1Lが入った、5Lバッフルフラスコにて、37℃で一晩振とう培養した。培養終了後、遠心分離することで菌体を回収し、Plasmid Mega Kit(キアゲン社製)を用いて、当該回収した菌体からEGFPを発現するベクターpAAV-EGFPを大量に調製した。
【0098】
(5)AAV5のカプシドをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミド(以下、「pRC5 Vector」と表記)およびpHelper Vector(タカラバイオ社製)で大腸菌JM109株を形質転換した。得られた形質転換体を用いて(4)と同様の操作を行なうことで、pRC5 VectorおよびpHelperを大量に調製した。
【0099】
(6)5%(v/v)のウシ血清を含むD-MEM培地(富士フイルム和光純薬社製)500mLが入ったセルスタック細胞培養表面処理済み5チャンバー(コーニング社製)8枚でHEK293T細胞を培養した。そこへ(4)で調製したpAAV-EGFP、(5)で調製したpRC5 VectorおよびpHelper、ならびにポリエチレンイミン(Polysciences社製)の複合体を添加することで遺伝子導入し、5%(v/v)の二酸化炭素、37℃の条件で3日間静置培養した。
【0100】
(7)(6)で得られた培養液に、Triton X-100(シグマ社製)を終濃度として0.1%(w/v)、Benzonase(メルクミリポア社製)を終濃度として1U/mL、それぞれ培養液中に添加し、37℃の条件で3時間静置した。
【0101】
(8)静置後の溶液を遠心分離して上清を回収後、300kD-cutoffのタンジェンシャルフローシステム用メンブレンカセット(ポール社製)を用いて濃縮し、0.5Mの塩化ナトリウムを含む20mMのトリス塩酸緩衝液(pH8.0)(以下、「平衡化液A」とも表記)に溶媒置換した。得られた濃縮液を孔径0.22μmのフィルターに供し、浮遊物を除去した。
【0102】
(9)浮遊物を除去した溶液を、7mLのPOROS AAVXカラム(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)にアプライした。
【0103】
(10)平衡化液Aで洗浄後、0.5Mの塩化ナトリウムを含む0.1Mの酢酸緩衝液(pH2.5)で溶出した。得られたAAVベクターを含む溶出画分に、20mMの塩化マグネシウムを含む1Mのトリス塩酸緩衝液(pH8.5)を1/4量加えて中和することで、AAVベクター(AAV5-EGFP)溶液を得た。
【0104】
(11)(10)で得られた溶液中のAAVベクター濃度を、AAVpro Titration Kit(タカラバイオ社製)を用いてqPCRで定量した。また(10)で得られた溶液をSDS-PAGE(SDS-ポリアクリルアミド電気泳動)に供し、Pierce Silver Stain Kit(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて銀染色することで前記溶液中に含まれるAAVベクターの純度を確認した。
【0105】
qPCRの結果、溶液中に含まれるAAVベクター(AAV5-EGFP)の濃度は2.5×1013cp/mL(cp:AAV粒子数)であった。またSDS-PAGE(銀染色)の結果、AAVベクターを構成する3種類の外殻タンパク質(VP1、VP2、VP3)に相当するバンドのみが観測され、純度に問題ないことを確認した。
【0106】
実施例2 AAV結合性タンパク質への部位特異的アミノ酸置換およびライブラリ作製(その1)
AAV結合性タンパク質AVR10sを含むポリペプチド(配列番号4)を発現可能なベクターpET-AVR10s(WO2021/106882号)を鋳型とし、配列番号1の330番目(配列番号4では43番目)のアラニン(Ala330)、331番目(配列番号4では44番目)のチロシン(Tyr331)、332番目(配列番号4では45番目)のバリン(Val332)および333番目(配列番号4では46番目)のロイシン(Leu333)に相当するアミノ酸残基に対する飽和置換体ライブラリを作製した。なお配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドのうち、1番目のメチオニン(Met)から22番目のアラニン(Ala)までがPelBシグナルペプチドであり、25番目のセリン(Ser)から213番目のアスパラギン酸(Asp)までがAAV結合性タンパク質AVR10sであり、214番目から219番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。AVR10sは、KIAA0319L(UniProt No.Q8IZA0)の細胞外領域ドメイン1(PKD1)およびドメイン2(PKD2)に相当する、配列番号1の312番目から500番までアミノ酸残基において、以下の10箇所のアミノ酸置換が生じたポリペプチドである。
配列番号1の317番目(配列番号4では30番目)のバリンがアスパラギン酸に置換
配列番号1の342番目(配列番号4では55番目)のチロシンがセリンに置換
配列番号1の362番目(配列番号4では75番目)のリジンがグルタミン酸に置換
配列番号1の371番目(配列番号4では84番目)のリジンがアスパラギンに置換
配列番号1の381番目(配列番号4では94番目)のバリンがアラニンに置換
配列番号1の382番目(配列番号4では95番目)のイソロイシンがバリンに置換
配列番号1の390番目(配列番号4では103番目)のグリシンがセリンに置換
配列番号1の399番目(配列番号4では112番目)のリジンがグルタミン酸に置換
配列番号1の476番目(配列番号4では189番目)のセリンがアルギニンに置換
配列番号1の487番目(配列番号4では200番目)のアスパラギンがアスパラギン酸に置換。
【0107】
(1)前記飽和置換体ライブラリを作成するためのPCRプライマーセットを設計した。具体的には、
Ala330に対するアミノ酸置換用PCRプライマーとして、配列番号5(Forward)および6(Reverse)を、
Tyr331に対するアミノ酸置換用PCRプライマーとして、配列番号7(Forward)および8(Reverse)を、
Val332に対するアミノ酸置換用PCRプライマーとして、配列番号9(Forward)および10(Reverse)を、
Leu333に対するアミノ酸置換用PCRプライマーとして、配列番号11(Forward)および12(Reverse)を、
それぞれ設計した。
【0108】
(2)表1に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップを55℃で5秒間の第2ステップを72℃で6分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することでPCRを行なった。なおAla330に対するアミノ酸置換を行なう場合は配列番号5および6に記載の配列からなるPCRプライマーを、Tyr331に対するアミノ酸置換を行なう場合は配列番号7および8に記載の配列からなるPCRプライマーを、Val332に対するアミノ酸置換を行なう場合は配列番号9および10に記載の配列からなるPCRプライマーを、Leu333に対するアミノ酸置換を行なう場合は配列番号11および12に記載の配列からなるPCRプライマーを、それぞれ用いた。
【0109】
【0110】
(3)増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、当該ゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン社製)を用いて精製した。
【0111】
(4)得られたPCR産物を制限酵素DpnI(NEB社製)で37℃で1.5時間処理後、80℃で20分間処理した。得られたポリヌクレオチドをアガロースゲル電気泳動に供し、当該ゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン社製)を用いて精製した。
【0112】
(5)表2に示す組成の反応液を調製し、(4)で精製したDpnI処理PCR産物を、制限酵素BsaI(NEB社製)で消化しながら、T4 DNA ligase(NEB社製)を用いて、25℃で1.0時間、ライゲーション反応させた。
【0113】
【0114】
(6)得られたライゲーション産物を用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、50μg/mLのカナマイシンを含むLBプレート培地で培養(37℃、16時間)した後、プレート上に形成したコロニーを部位特異的変異体ライブラリとした。
【0115】
実施例3 AVR10sアミノ酸置換体のスクリーニング(その1)
(1)実施例2で作製した部位特異的変異体ライブラリ(形質転換体)を50μg/mLのカナマイシンを含む2×YT液体培地300μLに接種し、96ディープウェルプレートを用いて37℃で終夜振とう培養した。
【0116】
(2)培養後、50μg/mLのカナマイシンおよび0.1mMのIPTG(Isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside)を含む2×YT液体培地500μLに(1)の培養液5μLを植え継ぎ、96ディープウェルプレートを用いてさらに25℃で終夜振とう培養した。
【0117】
(3)培養後、遠心操作によって得られた培養上清を150mMの塩化ナトリウムを含む20mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.4)で10倍に希釈した。
【0118】
(4)(3)で調製した培養上清中のAAV結合性タンパク質と実施例1で調製したAAVベクター(AAV5-EGFP)との結合性を以下に示すELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)法で評価した。
(4-1)実施例1で調製したAAV5-EGFPを150mMの塩化ナトリウムを含む20mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.4)で200倍に希釈し、96穴マイクロプレート(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)に100μL/wellで加え、固定化した(4℃で18時間)。固定化終了後、2%(w/v)のSKIM MILK(Becton Dickinson社製)および150mMの塩化ナトリウムを含む20mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.4)でブロッキングした。
(4-2)洗浄緩衝液(0.05%[w/v]のTween 20(商品名)、150mMの塩化ナトリウムを含む20mM Tris塩酸緩衝液(pH7.4))で洗浄後、(3)で調製した培養上清を添加し、AAV結合性タンパク質とAAV5-EGFPとを反応させた(30℃で1時間)。
(4-3)反応終了後、前記洗浄緩衝液で洗浄し、100ng/mLに希釈したAnti-6His抗体(Bethyl Laboratories社製)を100μL/wellで添加した。
(4-4)30℃で1時間反応させ、前記洗浄緩衝液で洗浄した後、TMB Peroxidase Substrate(KPL社製)を50μL/wellで添加した。1Mのリン酸を50μL/wellで添加することで発色を止め、マイクロプレートリーダー(テカン社製)にて450nmの吸光度を測定した。
【0119】
(5)約400株の形質転換体を評価し、その中からAVR10s(配列番号4)と比較してAAV5に対する結合活性が向上したAAV結合性タンパク質を発現する形質転換体を選択した。
【0120】
(6)選択した形質転換体を培養し、QIAprep Spin Miniprep kit(QIAGEN社製)を用いて発現ベクターを調製した。
【0121】
(7)(6)で作製した発現ベクターのうち、AAV結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドおよびその周辺の領域について、全自動DNAシークエンサーGenetic Analyzer 3500(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)にてヌクレオチド配列を解析し、アミノ酸置換箇所を特定した。なお当該解析の際、配列番号13(5’-TAATACGACTCACTATAGGG-3’)または配列番号14(5’-ATGCTAGTTATTGCTCAGCGG-3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをシークエンス用プライマーとして使用した。
【0122】
前記(5)で選択した形質転換体が発現するAAV結合性タンパク質の、AVR10sに対するアミノ酸置換位置およびAAV5に対する結合活性(AVR10sでの前記結合活性を1としたときの比)をまとめたものを表3に示す。
【0123】
配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち312番目のセリン(Ser)から500番目のアスパラギン酸(Asp)までのアミノ酸残基において、Ala330Cys(この表記は、配列番号1の330番目(配列番号4では43番目)のアラニンがシステインに置換されていることを表す、以下同様)、Ala330Phe、Ala330Leu、Ala330Arg、Ala330Val、Ala330Trp、Ala330Tyr、Tyr331Cys、Val332Trp、Val332TyrおよびLeu333Cysのいずれかのアミノ酸置換が少なくとも1つ生じているAAV結合性タンパク質は、これらアミノ酸置換のないAAV結合性タンパク質(AVR10s)と比較し、AAV5に対する結合活性が向上していることがわかる。
【0124】
中でもAla330Cys、Ala330Val、Ala330TyrおよびVal332Trpのいずれかのアミノ酸置換が生じたAAV結合性タンパク質は、AAV5に対する結合活性が特に向上していることがわかる。
【0125】
【0126】
本実施例で取得した、AAV5に対する結合活性が向上したAAV結合性タンパク質のうち、AVR10sに対しAla330Cysのアミノ酸置換が生じたAAV結合性タンパク質をAVR10s_A330C(配列番号15)と、
AVR10sに対しAla330Pheのアミノ酸置換が生じたAAV結合性タンパク質をAVR10s_A330F(配列番号16)と、
AVR10sに対しAla330Leuのアミノ酸置換が生じたAAV結合性タンパク質をAVR10s_A330L(配列番号17)と、
AVR10sに対しAla330Argのアミノ酸置換が生じたAAV結合性タンパク質をAVR10s_A330R(配列番号18)と、
AVR10sに対しAla330Valのアミノ酸置換が生じたAAV結合性タンパク質をAVR10s_A330V(配列番号19)と、
AVR10sに対しAla330Trpのアミノ酸置換が生じたAAV結合性タンパク質をAVR10s_A330W(配列番号20)と、
AVR10sに対しAla330Tyrのアミノ酸置換が生じたAAV結合性タンパク質をAVR10s_A330Y(配列番号21)と、
AVR10sに対しTyr331Cysのアミノ酸置換が生じたAAV結合性タンパク質をAVR10s_Y331C(配列番号22)と、
AVR10sに対しVal332Trpのアミノ酸置換が生じたAAV結合性タンパク質をAVR10s_V332W(配列番号23)と、
AVR10sに対しVal332Tyrのアミノ酸置換が生じたAAV結合性タンパク質をAVR10s_V332Y(配列番号24)と、
AVR10sに対しLeu333Cysのアミノ酸置換が生じたAAV結合性タンパク質をAVR10s_L333C(配列番号25)と、それぞれ命名する。
【0127】
なお配列番号15から25に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドのうち、1番目のメチオニン(Met)から22番目のアラニン(Ala)までがPelBシグナルペプチドであり、25番目のセリン(Ser)から213番目のアスパラギン酸(Asp)までがAAV結合性タンパク質(AVR10sアミノ酸置換体)であり、214番目から219番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。
【0128】
実施例4 AAV結合性タンパク質の調製および分解物比率算出
(1)実施例3で取得した11種類のAAV結合性タンパク質(AVR10s_A330C、AVR10s_A330F、AVR10s_A330L、AVR10s_A330R、AVR10s_A330V、AVR10s_A330W、AVR10s_A330Y、AVR10s_Y331C、AVR10s_V332W、AVR10s_V332YおよびAVR10s_L333C)ならびにAVR10sのいずれかをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドで大腸菌株BL21(DE3)を形質転換し得られた、AAV結合性タンパク質を発現可能な形質転換体を、それぞれ50μg/mLのカナマイシンを含む3mLの2×YT液体培地に接種し、37℃で一晩、好気的に振とう培養することで前培養を行なった。
【0129】
(2)1Lのバッフルフラスコに50μg/mLのカナマイシンを添加した200mLの2×YT液体培地に(1)の前培養液をそれぞれ2mL接種し、37℃で好気的に振とう培養を行なった。
【0130】
(3)培養開始2.0時間後、氷上にて冷却し、終濃度0.1mMとなるようIPTGをそれぞれ添加後、引き続き25℃で20時間、好気的に振とう培養した。
【0131】
(4)培養終了後、培養液を4℃、8000rpmで20分間遠心分離することで各菌体を回収した。
【0132】
(5)(4)で回収した菌体を150mMの塩化ナトリウムおよび20mMのイミダゾールを含む20mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.4)(以下、「平衡化液B」とも表記)に5mL/1g(菌体)となるように懸濁後、超音波発生装置(インソネーター201M[久保田商事社製])を用いて、8℃で約10分間、約150Wの出力で菌体を破砕した。菌体破砕液は4℃で20分間、8000rpmの遠心分離を2回行ない、各上清を回収した。
【0133】
(6)(5)で得られた上清を、あらかじめ平衡化液Bで平衡化した、Ni Sepharose 6 Fast Flow(サイティバ社製)1.5mLを充填したオープンカラムにアプライした。平衡化液Bで洗浄後、0.5Mのイミダゾールおよび150mMの塩化ナトリウムを含む20mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.4)で溶出した。
【0134】
(7)(6)で得た各溶出液を、150mMの塩化ナトリウムを含む20mMのHEPES(2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic acid)緩衝液(pH7.4)で透析することで、AAV結合性タンパク質を調製した。
【0135】
(8)(7)で得られたAAV結合性タンパク質をキャピラリー電気泳動装置(SCIEX社製)に供し、AAV結合性タンパク質の分解物割合[%]を算出した。
【0136】
結果を表4に示す。配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち312番目のセリン(Ser)から500番目のアスパラギン酸(Asp)までのアミノ酸残基において、Ala330Cys、Ala330Phe、Ala330Leu、Ala330Arg、Ala330Val、Ala330Trp、Ala330Tyr、Tyr331Cys、Val332Trp、Val332TyrおよびLeu333Cysのいずれかのアミノ酸置換が少なくとも1つ生じているAAV結合性タンパク質は、これらアミノ酸置換のないAAV結合性タンパク質(AVR10s:分解率30.0%)と比較し、AAV結合性タンパク質由来の分解物の割合が減少しており、組換え大腸菌を用いたAAV結合性タンパク質製造効率の向上が示唆される。
【0137】
中でもAla330ValまたはTyr331Cysのアミノ酸置換が生じたAAV結合性タンパク質(AVR10s_A330VまたはAVR10s_Y331C)はAAV結合性タンパク質由来の分解物の割合が特に減少しており(AVR10s_A330V:分解率1.9%、AVR10s_Y331C:分解率2.0%)、組換え大腸菌を用いたAAV結合性タンパク質の製造効率が大幅に向上することが見込まれる。
【0138】
【0139】
実施例5 AAV結合性タンパク質への部位特異的アミノ酸置換およびライブラリ作製(その2)
AAV結合性タンパク質AVR10sを含むポリペプチド(配列番号4)を発現可能なベクターpET-AVR10s(WO2021/106882号)を鋳型とし、配列番号1の347番目(配列番号4では60番目)のグルタミン(Gln347)、348番目(配列番号4では61番目)のロイシン(Leu348)および349番目(配列番号4では62番目)のイソロイシン(Ile349)に相当するアミノ酸残基に対する飽和置換体ライブラリを作製した。
【0140】
(1)前記飽和置換体ライブラリを作成するためのPCRプライマーセットを設計した。具体的には、
Gln347に対するアミノ酸置換用PCRプライマーとして、配列番号26(Forward)および27(Reverse)を、
Leu348に対するアミノ酸置換用PCRプライマーとして、配列番号28(Forward)および29(Reverse)を、
Ile349に対するアミノ酸置換用PCRプライマーとして、配列番号30(Forward)および31(Reverse)を、
それぞれ設計した。
【0141】
(2)Gln347に対するアミノ酸置換を行なう場合は配列番号26および27に記載の配列からなるPCRプライマーを、Leu348に対するアミノ酸置換を行なう場合は配列番号28および29に記載の配列からなるPCRプライマーを、Ile349に対するアミノ酸置換を行なう場合は配列番号30および31に記載の配列からなるPCRプライマーを、それぞれ用いた他は、実施例2(2)と同様な方法でPCRを行なった。
【0142】
(3)実施例2(3)および(4)に記載の方法で増幅したPCR産物を精製後、実施例2(5)に記載の方法でライゲーション反応させた。
【0143】
(4)得られたライゲーション産物を用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、50μg/mLのカナマイシンを含むLBプレート培地で培養(37℃、16時間)した後、プレート上に形成したコロニーを部位特異的変異体ライブラリとした。
【0144】
実施例6 AVR10sアミノ酸置換体のスクリーニング(その2)
(1)実施例5で作製した部位特異的変異体ライブラリ(形質転換体)を実施例3(1)および(2)に記載の方法で培養後、遠心操作によって得られた培養上清を150mMの塩化ナトリウムを含む20mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.4)で10倍に希釈した。
【0145】
(2)(1)で調製した培養上清希釈液中のAAV結合性タンパク質と実施例1で調製したAAVベクター(AAV5-EGFP)との結合性を、実施例3(4)に記載のELISA法で評価した。
【0146】
(3)約400株の形質転換体を評価し、その中からAVR10s(配列番号4)と比較してAAV5に対する結合活性が向上したAAV結合性タンパク質を発現する形質転換体を選択した。
【0147】
(4)選択した形質転換体を培養し、QIAprep Spin Miniprep kit(QIAGEN社製)を用いて発現ベクターを調製した。
【0148】
(5)(4)で作製した発現ベクターのうち、AAV結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドおよびその周辺の領域について、実施例3(7)に記載の方法でヌクレオチド配列を解析し、アミノ酸置換箇所を特定した。
【0149】
前記(3)で選択した形質転換体が発現するAAV結合性タンパク質の、AVR10sに対するアミノ酸置換位置およびAAV5に対する結合活性(AVR10sでの前記結合活性を1としたときの比)をまとめたものを表5に示す。
【0150】
配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち312番目のセリン(Ser)から500番目のアスパラギン酸(Asp)までのアミノ酸残基において、Gln347Ser、Leu348CysおよびIle349Asnのいずれかのアミノ酸置換が少なくとも1つ生じているAAV結合性タンパク質は、これらアミノ酸置換のないAAV結合性タンパク質(AVR10s)と比較し、AAV5に対する結合活性が向上していることがわかる。
【0151】
【0152】
本実施例で取得した、AAV5に対する結合活性が向上したAAV結合性タンパク質のうち、AVR10sに対しGln347Serのアミノ酸置換が生じたAAV結合性タンパク質をAVR10s_Q347S(配列番号32)と、
AVR10sに対しLeu348Cysのアミノ酸置換が生じたAAV結合性タンパク質をAVR10s_L348C(配列番号33)と、
AVR10sに対しIle349Asnのアミノ酸置換が生じたAAV結合性タンパク質をAVR10s_I349N(配列番号34)と、それぞれ命名する。
【0153】
なお配列番号32から34に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドのうち、1番目のメチオニン(Met)から22番目のアラニン(Ala)までがPelBシグナルペプチドであり、25番目のセリン(Ser)から213番目のアスパラギン酸(Asp)までがAAV結合性タンパク質(AVR10sアミノ酸置換体)であり、214番目から219番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。
【0154】
実施例7 AAV結合性タンパク質の調製および分解物比率算出(その2)
(1)実施例6で取得した3種類のAAV結合性タンパク質(AVR10s_Q347S、AVR10s_L348CおよびAVR10s_I349N)ならびにAVR10sのいずれかをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドで大腸菌株BL21(DE3)を形質転換し得られた、AAV結合性タンパク質を発現可能な形質転換体から、実施例4(1)から(7)に記載の方法で、前記タンパク質を調製した。
【0155】
(2)(1)で得られたAAV結合性タンパク質をキャピラリー電気泳動装置(SCIEX社製)に供し、AAV結合性タンパク質の分解物割合[%]を算出した。
【0156】
結果を表6に示す。配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち312番目のセリン(Ser)から500番目のアスパラギン酸(Asp)までのアミノ酸残基において、Gln347Ser、Leu348CysおよびIle349Asnのいずれかのアミノ酸置換が少なくとも1つ生じているAAV結合性タンパク質は、これらアミノ酸置換のないAAV結合性タンパク質(AVR10s:分解率18.4%)と比較し、AAV結合性タンパク質由来の分解物の割合が減少しており、組換え大腸菌を用いたAAV結合性タンパク質製造効率の向上が示唆される。
【0157】
【0158】
実施例8 AAVベクターの作製(その2)
(1)AAV血清型2(AAV2)のカプシドをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpRC2-mi342 Vector(タカラバイオ社製)およびpHelper Vector(タカラバイオ社製)を用いて大腸菌JM109株を形質転換した。得られた形質転換体を、実施例1(4)に記載の方法で培養した。
【0159】
(2)(1)の培養液を遠心することで菌体を回収後、当該回収菌体からPlasmid Mega Kit(キアゲン社製)を用いて、pRC2-mi342 VectorおよびpHelper Vectorを大量に調製した。
【0160】
(3)10%(v/v)のウシ血清を含んだD-MEM培地(富士フイルム和光純薬社製)40mLが入ったT-225フラスコ(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)5枚でHEK293T細胞を培養した。
【0161】
(4)TransIT-ViruGEN Transfection Reagent(タカラバイオ社製)を用いて、(2)で調製したpRC2-mi342 VectorおよびpHelper Vectorを、(3)で培養したHEK293T細胞に遺伝子導入し、5%の二酸化炭素、37℃の条件で3日間静置培養した。
【0162】
(5)(4)で培養した細胞を回収し、AAVpro Purification Kit(タカラバイオ社製)で抽出、精製することでVLP2(ウイルス様粒子、AAVセロタイプ2型の外殻タンパク粒子)を得た。5枚のT-225フラスコから約1mLのVLP2精製溶液を調製した。
【0163】
実施例9 AAV結合性タンパク質の変異ライブラリ作製とスクリーニング(その1)
実施例2および3で評価したAAV結合性タンパク質のうち、Ala330Valのアミノ酸置換が生じたタンパク質(配列番号19、以降AVR11aとも表記)を選択し、当該タンパク質をコードするポリヌクレオチド部分に、エラープローンPCRを用いてランダムに変異導入を施した。
【0164】
(1)鋳型として実施例2で作製したAVR11aを含むポリペプチド(配列番号19)を発現可能なベクターpET-AVR11aを用いてエラープローンPCRを行なった。エラープローンPCRは、表7に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で2分間熱処理し、98℃で30秒間の第1ステップ、55℃で20秒間の第2ステップ、72℃で90秒間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。前記エラープローンPCRによりAAV結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドに良好に変異が導入され、その平均変異導入率は1分子当たり1.0アミノ酸変異であった。
【0165】
【0166】
(2)(1)で得られたPCR産物を精製後、制限酵素NcoIとXhoIで消化し、あらかじめ同じ制限酵素で消化した発現ベクターpET26b(メルクミリポア社製)にライゲーションした。
【0167】
(3)ライゲーション反応終了後、反応液により大腸菌BL21(DE3)を形質転換し、50μg/mLのカナマイシンを含むLBプレート培地で培養(37℃で18時間)後、プレート上に形成したコロニーをランダム変異体ライブラリとした。
【0168】
(4)(3)で作製したランダム変異体ライブラリ(形質転換体)を、50μg/mLのカナマイシンを含む2YT液体培地200μLに接種し、96穴ディープウェルプレートを用いて、37℃で一晩振とう培養した。
【0169】
(5)(4)の培養液を遠心分離し、得られた培養上清を超純水で2倍に希釈した。希釈した培養液60μLと0.1M水酸化ナトリウム水溶液60μLとを混合し61.2℃で15分間アルカリ処理を行なった。
【0170】
(6)(5)の処理を行なったときのAAV結合性タンパク質とVLP2との結合活性と、(5)の処理を行なわなかったときのAAV結合性タンパク質とVLP2との結合活性を、実施例3(4)に記載のELISA法にて測定した。熱処理を行なった時のAAV結合性タンパク質とVLP2との結合活性を、熱処理を行なわなかったときのAAV結合性タンパク質とVLP2との結合活性で除することで、残存活性を算出した。
【0171】
(7)(6)の方法で約1800株のランダム変異体ライブラリを評価し、その中から親分子であるAVR11aと比較して残存活性が向上したAAV結合性タンパク質を発現する形質転換体を選択した。前記選択した形質転換体を培養し、QIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン社製)を用いて発現ベクターを調製した。
【0172】
(8)得られた発現ベクターに挿入されたAAV結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド領域の配列を、実施例3(7)に記載の方法によりヌクレオチド配列を解析し、アミノ酸の変異箇所を特定した。
【0173】
前記(7)で選択した形質転換体が発現するAAV結合性タンパク質の、AVR11aに対するアミノ酸置換位置ならびにアルカリ処理後の残存活性(%)をまとめたものを表8および9に示す。
【0174】
配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち312番目のセリン(Ser)から500番目のアスパラギン酸(Asp)までのアミノ酸残基において、Ser312Pro、Ala313Val、Glu315Gly、Glu315Val、Gln318Arg、Lys323Met、Asn324His、Val326Glu、Gln327Leu、Leu328Gln、Leu328Arg、Leu328Pro、Asn329Tyr、Val332Glu、Val332Ala、Leu333Pro、Gln334Leu、Gln334His、Glu335Val、Pro337Gln、Lys338Glu、Glu340Asp、Thr341Ala、Thr343Pro、Thr343Ala、Thr343Ser、Asp345Gly、Ile349Thr、Thr350Ala、Asp354Val、Tyr355His、Met359Ile、Met359Leu、Glu360Asp、Ile366Thr、Leu367Val、Lys368Asn、Leu369Gln、Leu376Pro、Phe379Tyr、Lys380Asn、Lys380Arg、Ile(Val)382Asp(この表記は、配列番号1の382番目のイソロイシンが一旦バリンに置換された後、さらにアスパラギン酸に置換されていることを表す、以下同様)、Ile(Val)382Ala、Glu384Val、Ala388Thr、His389Asp、His389Arg、His389Asn、His389Leu、Gly(Ser)390Asn、Gly392Arg、Val394Ala、Val394Asp、Asn395Asp、Val396Gly、Val398Ala、Arg403Ser、Arg403His、Lys404Ala、Arg406Ser、Ile409Asn、Ile411Thr、Ile411Leu、Val412Ile、Phe416Ser、Ile419Phe、Ile419Val、Ser420Thr、Thr423Ala、Ser425Gly、Ile428Val、Gly430Ala、Thr434Ala、Asp437Asn、Val440Ala、Glu446Asp、Lys448Glu、Lys448Asn、Leu451Ile、Glu453Lys、Lys455Glu、Lys455Arg、Lys464Asn、Lys464Glu、Val469Glu、Gly471Cys、Asn472Tyr、Asn472Asp、Tyr473His、Ser(Arg)476Gly、Thr478Ala、Val479Ala、Val480Asp、Val480Ala、Gly484Ser、Thr486Ser、Ser488Thr、Thr489Ala、Thr489Ser、Asn496TyrおよびAsn496Aspのいずれかのアミノ酸置換が少なくとも1つ生じているAAV結合性タンパク質は、AVR11aと比較しアルカリへの安定性が向上しているといえる。
【0175】
【0176】
【0177】
実施例10 AVR11aアミノ酸置換集積体の作製
実施例9で明らかになった、AAV結合性タンパク質のアルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換をAVR11a(配列番号19)に対し集積することで、さらなるアルカリ安定性の向上を図った。具体的には、以下の(a)から(k)に示す11種類のAAV結合性タンパク質を設計し、作製した。
【0178】
(a)AVR11aに対し、Asn324Hisのアミノ酸置換を導入したタンパク質(配列番号54、AVR12aと命名)
(b)AVR11aに対し、Glu335Valのアミノ酸置換を導入したタンパク質(配列番号55、AVR12bと命名)
(c)AVR11aに対し、Asn324HisおよびGlu335Valのアミノ酸置換を導入したタンパク質(配列番号56、AVR13と命名)
(d)AVR11aに対し、Asn324His、Thr341AlaおよびGlu335Valのアミノ酸置換を導入したタンパク質(配列番号57、AVR14aと命名)
(e)AVR11aに対し、Asn324His、Glu335ValおよびGln334Leuのアミノ酸置換を導入したタンパク質(配列番号58、AVR14bと命名)
(f)AVR11aに対し、Asn324His、Glu335ValおよびMet359Ileのアミノ酸置換を導入したタンパク質(配列番号59、AVR14cと命名)
(g)AVR11aに対し、Asn324His、Glu335ValおよびPhe379Tyrのアミノ酸置換を導入したタンパク質(配列番号60、AVR14dと命名)
(h)AVR11aに対し、Asn324His、Gln334Leu、Glu335ValおよびThr341Alaのアミノ酸置換を導入したタンパク質(配列番号61、AVR15aと命名)
(i)AVR11aに対し、Asn324His、Gln334Leu、Glu335ValおよびMet359Ileのアミノ酸置換を導入したタンパク質(配列番号62、AVR15bと命名)
(j)AVR11aに対し、Asn324His、Gln334Leu、Glu335ValおよびPhe379Tyrのアミノ酸置換を導入したタンパク質(配列番号63、AVR15cと命名)
(k)AVR11aに対し、Asn324His、Gln334Leu、Glu335Val、Thr341AlaおよびPhe379Tyrのアミノ酸置換を導入したタンパク質(配列番号65、AVR16と命名)
【0179】
以下、前記(a)から(k)に示す11種類のAAV結合性タンパク質の作製方法について説明する。
(a)AVR12a
本タンパク質は、実施例9で明らかになったアルカリ安定性に関与するアミノ酸置換の中から、Asn324Hisを選択し、当該アミノ酸置換をAVR11a(配列番号19)に導入することで作製した。
【0180】
(a-1)AVR11aを含むポリペプチド(配列番号19)を発現可能なベクターpET-AVR11aを鋳型とし、配列番号44(5’-TTTT[GGTCTC]ACATTCAGTTGTACTTCGTGCTTCGGCAG-3’)および配列番号45(5’-TTTT[GGTCTC]AAATGTTTATGTGCTGCAGGAACCACCGAAAG-3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド(配列番号44および45中の角かっこは制限酵素BsaI認識配列を示している)をPCRプライマー(Forward:配列番号44、Reverse:配列番号45)とした他は、実施例2(2)と同様な方法でPCRを行なった。
【0181】
(a-2)実施例2(3)および(4)に記載の方法で増幅したPCR産物を精製後、実施例2(5)に記載の方法でライゲーション反応させた。
【0182】
(a-3)得られたライゲーション産物を用いて大腸菌BL21株(DE3)を形質転換した。得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養後、遠心分離で回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、野生型AAV結合性タンパク質に対して12箇所アミノ酸置換したAVR12aをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミド(発現ベクター)pET-AVR12aを得た。
【0183】
(a-4)pET-AVR12aのヌクレオチド配列を実施例3(7)と同様な方法で解析し、確認した。
【0184】
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したAVR12aのアミノ酸配列を配列番号54に示す。なお配列番号54において、1番目のメチオニン(Met)から22番目のアラニン(Ala)までがPelBシグナルペプチドであり、25番目のセリン(Ser)から213番目のアスパラギン酸(Asp)がAAV結合性タンパク質AVR12a(配列番号1の312番目から500番目までの領域に相当)であり、214番目から219番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号54において、Val317Aspのアスパラギン酸は30番目に、Asn324Hisのヒスチジンは37番目に、Ala330Valのバリンは43番目に、Tyr342Serのセリンは55番目に、Lys362Gluのグルタミン酸は75番目に、Lys371Asnのアスパラギンは84番目に、Val381Alaのアラニンは94番目に、Ile382Valのバリンは95番目に、Gly390Serのセリンは103番目に、Lys399Gluのグルタミン酸は112番目に、Ser476Argのアルギニンは189番目に、Asn487Aspのアスパラギン酸は200番目に、それぞれ存在する。
【0185】
(b)AVR12b
本タンパク質は、実施例9で明らかになったアルカリへの安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Glu335Valを選択し、当該アミノ酸置換をAVR11a(配列番号19)に導入することで作製した。
【0186】
(b-1)前述したpET-AVR11aを鋳型とし、配列番号46(5’-TTTT[GGTCTC]ACATTCAGTTGTACTTCGTTCTTCGGCAG-3’)および配列番号47(5’-TTTT[GGTCTC]AAATGTTTATGTGCTGCAGGTACCACCGAAAG-3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド(配列番号46および47中の角かっこは制限酵素BsaI認識配列を示している)をPCRプライマー(Forward:配列番号46、Reverse:配列番号47)とした他は、実施例2(2)と同様な方法でPCRを行なった。
【0187】
(b-2)増幅したPCR産物から、(a-2)から(a-3)と同様な方法で、野生型AAV結合性タンパク質に対して12箇所アミノ酸置換したAVR12bをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミド(発現ベクター)pET-AVR12bを取得後、実施例3(7)と同様な方法で、前記プラスミドのヌクレオチド配列を解析し、確認した。
【0188】
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したAVR12bのアミノ酸配列を配列番号55に示す。なお配列番号55において、1番目のメチオニン(Met)から22番目のアラニン(Ala)までがPelBシグナルペプチドであり、25番目のセリン(Ser)から213番目のアスパラギン酸(Asp)がAAV結合性タンパク質AVR12b(配列番号1の312番目から500番目までの領域に相当)であり、214番目から219番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号55において、Val317Aspのアスパラギン酸は30番目に、Ala330Valのバリンは43番目に、Glu335Valのバリンは48番目に、Tyr342Serのセリンは55番目に、Lys362Gluのグルタミン酸は75番目に、Lys371Asnのアスパラギンは84番目に、Val381Alaのアラニンは94番目に、Ile382Valのバリンは95番目に、Gly390Serのセリンは103番目に、Lys399Gluのグルタミン酸は112番目に、Ser476Argのアルギニンは189番目に、Asn487Aspのアスパラギン酸は200番目に、それぞれ存在する。
【0189】
(c)AVR13
本タンパク質は、実施例9で明らかになったアルカリへの安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Asn324HisおよびGlu335Valを選択し、これらアミノ酸置換をAVR11a(配列番号19)に導入することで作製した。
【0190】
(c-1)前述したpET-AVR11aを鋳型とし、配列番号48(5’-TTTT[GGTCTC]ACATTCAGTTGTACTTCGTGCTTCGGCAG-3’)および配列番号49(5’-TTTT[GGTCTC]AAATGTTTATGTGCTGCAGGTACCACCGAAAG-3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド(配列番号48および49中の角かっこは制限酵素BsaI認識配列を示している)をPCRプライマー(Forward:配列番号48、Reverse:配列番号49)とした他は、実施例2(2)と同様な方法でPCRを行なった。
【0191】
(c-2)増幅したPCR産物から、(a-2)から(a-3)と同様な方法で、野生型AAV結合性タンパク質に対して13箇所アミノ酸置換したAVR13をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミド(発現ベクター)pET-AVR13を取得後、実施例3(7)と同様な方法で、前記プラスミドのヌクレオチド配列を解析し、確認した。
【0192】
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したAVR13のアミノ酸配列を配列番号56に示す。なお配列番号56において、1番目のメチオニン(Met)から22番目のアラニン(Ala)までがPelBシグナルペプチドであり、25番目のセリン(Ser)から213番目のアスパラギン酸(Asp)がAAV結合性タンパク質AVR13(配列番号1の312番目から500番目までの領域に相当)であり、214番目から219番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号56において、Val317Aspのアスパラギン酸は30番目に、Asn324Hisのヒスチジンは37番目に、Ala330Valのバリンは43番目に、Glu335Valのバリンは48番目に、Tyr342Serのセリンは55番目に、Lys362Gluのグルタミン酸は75番目に、Lys371Asnのアスパラギンは84番目に、Val381Alaのアラニンは94番目に、Ile382Valのバリンは95番目に、Gly390Serのセリンは103番目に、Lys399Gluのグルタミン酸は112番目に、Ser476Argのアルギニンは189番目に、Asn487Aspのアスパラギン酸は200番目に、それぞれ存在する。
【0193】
(d)AVR14a
本タンパク質は、実施例9で明らかになったアルカリへの安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Asn324His、Glu335ValおよびThr341Alaを選択し、これらアミノ酸置換をAVR11a(配列番号19)に集積させたタンパク質である。具体的には、実施例9で取得した、AVR11aにThr341Alaのアミノ酸置換を導入したタンパク質(AVR11a_T341Aと命名、配列番号39)をコードするポリヌクレオチド(配列番号38)に対してAsn324HisおよびGlu335Valのアミノ酸置換を生じさせる変異を導入することにより、AVR14aを作製した。
【0194】
(d-1)AVR11a_T341Aを含むポリペプチド(配列番号39)を発現可能なベクターpET-AVR11a_T341Aを鋳型とした他は、(c-1)と同様な方法でPCRを行なった。
【0195】
(d-2)増幅したPCR産物から、(a-2)から(a-3)と同様な方法で、野生型AAV結合性タンパク質に対して14箇所アミノ酸置換したAVR14aをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミド(発現ベクター)pET-AVR14aを取得後、実施例3(7)と同様な方法で、前記プラスミドのヌクレオチド配列を解析し、確認した。
【0196】
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したAVR14aのアミノ酸配列を配列番号57に示す。なお配列番号57において、1番目のメチオニン(Met)から22番目のアラニン(Ala)までがPelBシグナルペプチドであり、25番目のセリン(Ser)から213番目のアスパラギン酸(Asp)がAAV結合性タンパク質AVR14a(配列番号1の312番目から500番目までの領域に相当)であり、214番目から219番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号57において、Val317Aspのアスパラギン酸は30番目に、Asn324Hisのヒスチジンは37番目に、Ala330Valのバリンは43番目に、Glu335Valのバリンは48番目に、Thr341Alaのアラニンは54番目に、Tyr342Serのセリンは55番目に、Lys362Gluのグルタミン酸は75番目に、Lys371Asnのアスパラギンは84番目に、Val381Alaのアラニンは94番目に、Ile382Valのバリンは95番目に、Gly390Serのセリンは103番目に、Lys399Gluのグルタミン酸は112番目に、Ser476Argのアルギニンは189番目に、Asn487Aspのアスパラギン酸は200番目に、それぞれ存在する。
【0197】
(e)AVR14b
本タンパク質は、実施例9で明らかになったアルカリへの安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Asn324His、Gln334LeuおよびGlu335Valを選択し、これらアミノ酸置換をAVR11a(配列番号19)に集積させたタンパク質である。具体的には、実施例9で取得した、AVR11aにGln334Leuのアミノ酸置換を導入したタンパク質(AVR11a_Q334Lと命名、配列番号37)をコードするポリヌクレオチド(配列番号36)に対してAsn324HisおよびGlu335Valのアミノ酸置換を生じさせる変異を導入することにより、AVR14bを作製した。
【0198】
(e-1)AVR11a_Q334Lを含むポリペプチド(配列番号37)を発現可能なベクターpET-AVR_Q334Lを鋳型とした他は、(c-1)と同様な方法でPCRを行なった。
【0199】
(e-2)増幅したPCR産物から、(a-2)から(a-3)と同様な方法で、野生型AAV結合性タンパク質に対して14箇所アミノ酸置換したAVR14bをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミド(発現ベクター)pET-AVR14bを取得後、実施例3(7)と同様な方法で、前記プラスミドのヌクレオチド配列を解析し、確認した。
【0200】
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したAVR14bのアミノ酸配列を配列番号58に示す。なお配列番号58において、1番目のメチオニン(Met)から22番目のアラニン(Ala)までがPelBシグナルペプチドであり、25番目のセリン(Ser)から213番目のアスパラギン酸(Asp)がAAV結合性タンパク質AVR14b(配列番号1の312番目から500番目までの領域に相当)であり、214番目から219番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号58において、Val317Aspのアスパラギン酸は30番目に、Asn324Hisのヒスチジンは37番目に、Ala330Valのバリンは43番目に、Gln334Leuのロイシンは47番目に、Glu335Valのバリンは48番目に、Tyr342Serのセリンは55番目に、Lys362Gluのグルタミン酸は75番目に、Lys371Asnのアスパラギンは84番目に、Val381Alaのアラニンは94番目に、Ile382Valのバリンは95番目に、Gly390Serのセリンは103番目に、Lys399Gluのグルタミン酸は112番目に、Ser476Argのアルギニンは189番目に、Asn487Aspのアスパラギン酸は200番目に、それぞれ存在する。
【0201】
(f)AVR14c
本タンパク質は、実施例9で明らかになったアルカリへの安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Asn324His、Glu335ValおよびMet359Ileを選択し、これらアミノ酸置換をAVR11a(配列番号19)に集積させたタンパク質である。具体的には、実施例9で取得した、AVR11aにMet359Ileのアミノ酸置換を導入したタンパク質(AVR11a_M359Iと命名、配列番号41)をコードするポリヌクレオチド(配列番号40)に対してAsn324HisおよびGlu335Valのアミノ酸置換を生じさせる変異を導入することにより、AVR14cを作製した。
【0202】
(f-1)AVR11a_M359Iを含むポリペプチド(配列番号41)を発現可能なベクターpET-AVR_M359Iを鋳型とした他は、(c-1)と同様な方法でPCRを行なった。
【0203】
(f-2)増幅したPCR産物から、(a-2)から(a-3)と同様な方法で、野生型AAV結合性タンパク質に対して14箇所アミノ酸置換したAVR14cをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミド(発現ベクター)pET-AVR14cを取得後、実施例3(7)と同様な方法で、前記プラスミドのヌクレオチド配列を解析し、確認した。
【0204】
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したAVR14cのアミノ酸配列を配列番号59に示す。なお配列番号59において、1番目のメチオニン(Met)から22番目のアラニン(Ala)までがPelBシグナルペプチドであり、25番目のセリン(Ser)から213番目のアスパラギン酸(Asp)がAAV結合性タンパク質AVR14c(配列番号1の312番目から500番目までの領域に相当)であり、214番目から219番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号59において、Val317Aspのアスパラギン酸は30番目に、Asn324Hisのヒスチジンは37番目に、Ala330Valのバリンは43番目に、Glu335Valのバリンは48番目に、Tyr342Serのセリンは55番目に、Met359Ileのイソロイシンは72番目に、Lys362Gluのグルタミン酸は75番目に、Lys371Asnのアスパラギンは84番目に、Val381Alaのアラニンは94番目に、Ile382Valのバリンは95番目に、Gly390Serのセリンは103番目に、Lys399Gluのグルタミン酸は112番目に、Ser476Argのアルギニンは189番目に、Asn487Aspのアスパラギン酸は200番目に、それぞれ存在する。
【0205】
(g)AVR14d
本タンパク質は、実施例9で明らかになったアルカリへの安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Asn324His、Glu335ValおよびPhe379Tyrを選択し、これらアミノ酸置換をAVR11a(配列番号19)に集積させたタンパク質である。具体的には、実施例9で取得した、AVR11aにPhe379Tyrのアミノ置換を導入したタンパク質(AVR11a_F379Yと命名、配列番号43)をコードするポリヌクレオチド(配列番号42)に対してAsn324HisおよびGlu335Valのアミノ酸置換を生じさせる変異を導入することにより、AVR14dを作製した。
【0206】
(g-1)AVR11a_F379Yを含むポリペプチド(配列番号41)を発現可能なベクターpET-AVR_F379Yを鋳型とした他は、(c-1)と同様な方法でPCRを行なった。
【0207】
(g-2)増幅したPCR産物から、(a-2)から(a-3)と同様な方法で、野生型AAV結合性タンパク質に対して14箇所アミノ酸置換したAVR14dをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミド(発現ベクター)pET-AVR14dを取得後、実施例3(7)と同様な方法で、前記プラスミドのヌクレオチド配列を解析し、確認した。
【0208】
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したAVR14dのアミノ酸配列を配列番号60に示す。なお配列番号60において、1番目のメチオニン(Met)から22番目のアラニン(Ala)までがPelBシグナルペプチドであり、25番目のセリン(Ser)から213番目のアスパラギン酸(Asp)がAAV結合性タンパク質AVR14d(配列番号1の312番目から500番目までの領域に相当)であり、214番目から219番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号60において、Val317Aspのアスパラギン酸は30番目に、Asn324Hisのヒスチジンは37番目に、Ala330Valのバリンは43番目に、Glu335Valのバリンは48番目に、Tyr342Serのセリンは55番目に、Lys362Gluのグルタミン酸は75番目に、Lys371Asnのアスパラギンは84番目に、Phe379Tyrのチロシンは92番目に、Val381Alaのアラニンは94番目に、Ile382Valのバリンは95番目に、Gly390Serのセリンは103番目に、Lys399Gluのグルタミン酸は112番目に、Ser476Argのアルギニンは189番目に、Asn487Aspのアスパラギン酸は200番目に、それぞれ存在する。
【0209】
(h)AVR15a
本タンパク質は、実施例9で明らかになったアルカリへの安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Asn324His、Gln334Leu、Glu335ValおよびThr341Alaを選択し、これらアミノ酸置換をAVR11a(配列番号19)に集積させたタンパク質である。具体的には、AVR11a_T341A(配列番号39)をコードするポリヌクレオチド(配列番号38)に対してAsn324His、Gln334LeuおよびGlu335Valのアミノ酸置換を生じさせる変異を導入することにより、AVR15aを作製した。
【0210】
(h-1)前述したpET-AVR_T341Aを鋳型とし、配列番号50(5’-TTTT[GGTCTC]ACATTCAGTTGTACTTCGTGCTTCGGCAG-3’)および配列番号51(5’-TTTT[GGTCTC]AAATGTTTATGTGCTGCTGGTACCACCGAAAG-3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド(配列番号50および51中の角かっこは制限酵素BsaI認識配列を示している)をPCRプライマー(Forward:配列番号50、Reverse:配列番号51)とした他は、実施例2(2)と同様な方法でPCRを行なった。
【0211】
(h-2)増幅したPCR産物から、(a-2)から(a-3)と同様な方法で、野生型AAV結合性タンパク質に対して15箇所アミノ酸置換したAVR15aをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミド(発現ベクター)pET-AVR15aを取得後、実施例3(7)と同様な方法で、前記プラスミドのヌクレオチド配列を解析し、確認した。
【0212】
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したAVR15aのアミノ酸配列を配列番号61に示す。なお配列番号61において、1番目のメチオニン(Met)から22番目のアラニン(Ala)までがPelBシグナルペプチドであり、25番目のセリン(Ser)から213番目のアスパラギン酸(Asp)がAAV結合性タンパク質AVR15a(配列番号1の312番目から500番目までの領域に相当)であり、214番目から219番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号61において、Val317Aspのアスパラギン酸は30番目に、Asn324Hisのヒスチジンは37番目に、Ala330Valのバリンは43番目に、Gln334Leuのロイシンは47番目に、Glu335Valのバリンは48番目に、Thr341Alaのアラニンは54番目に、Tyr342Serのセリンは55番目に、Lys362Gluのグルタミン酸は75番目に、Lys371Asnのアスパラギンは84番目に、Val381Alaのアラニンは94番目に、Ile382Valのバリンは95番目に、Gly390Serのセリンは103番目に、Lys399Gluのグルタミン酸は112番目に、Ser476Argのアルギニンは189番目に、Asn487Aspのアスパラギン酸は200番目に、それぞれ存在する。
【0213】
(i)AVR15b
本タンパク質は、実施例9で明らかになったアルカリへの安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Asn324His、Gln334Leu、Glu335ValおよびMet359Ileを選択し、これらアミノ酸置換をAVR11a(配列番号19)に集積させたタンパク質である。具体的には、AVR11a_M359I(配列番号41)をコードするポリヌクレオチド(配列番号40)に対してAsn324His、Gln334LeuおよびGlu335Valのアミノ酸置換を生じさせる変異を導入することにより、AVR15bを作製した。
【0214】
(i-1)前述したpET-AVR11a_M359Iを鋳型とした他は、(h-1)と同様な方法でPCRを行なった。
【0215】
(i-2)増幅したPCR産物から、(a-2)から(a-3)と同様な方法で、野生型AAV結合性タンパク質に対して15箇所アミノ酸置換したAVR15bをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミド(発現ベクター)pET-AVR15bを取得後、実施例3(7)と同様な方法で、前記プラスミドのヌクレオチド配列を解析し、確認した。
【0216】
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したAVR15bのアミノ酸配列を配列番号62に示す。なお配列番号62において、1番目のメチオニン(Met)から22番目のアラニン(Ala)までがPelBシグナルペプチドであり、25番目のセリン(Ser)から213番目のアスパラギン酸(Asp)がAAV結合性タンパク質AVR15b(配列番号1の312番目から500番目までの領域に相当)であり、214番目から219番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号62において、Val317Aspのアスパラギン酸は30番目に、Asn324Hisのヒスチジンは37番目に、Ala330Valのバリンは43番目に、Gln334Leuのロイシンは47番目に、Glu335Valのバリンは48番目に、Tyr342Serのセリンは55番目に、Met359Ileのイソロイシンは72番目に、Lys362Gluのグルタミン酸は75番目に、Lys371Asnのアスパラギンは84番目に、Val381Alaのアラニンは94番目に、Ile382Valのバリンは95番目に、Gly390Serのセリンは103番目に、Lys399Gluのグルタミン酸は112番目に、Ser476Argのアルギニンは189番目に、Asn487Aspのアスパラギン酸は200番目に、それぞれ存在する。
【0217】
(j)AVR15c
本タンパク質は、実施例9で明らかになったアルカリへの安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Asn324His、Gln334Leu、Glu335ValおよびPhe379Tyrを選択し、これらアミノ酸置換をAVR11a(配列番号19)に集積させたタンパク質である。具体的には、AVR11a_F379Y(配列番号43)をコードするポリヌクレオチド(配列番号42)に対してAsn324His、Gln334LeuおよびGlu335Valのアミノ酸置換を生じさせる変異を導入することにより、AVR15cを作製した。
【0218】
(j-1)前述したpET-AVR11a_F379Yを鋳型とした他は、(h-1)と同様な方法でPCRを行なった。
【0219】
(j-2)増幅したPCR産物から、(a-2)から(a-3)と同様な方法で、野生型AAV結合性タンパク質に対して15箇所アミノ酸置換したAVR15cをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミド(発現ベクター)pET-AVR15cを取得後、実施例3(7)と同様な方法で、前記プラスミドのヌクレオチド配列を解析し、確認した。
【0220】
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したAVR15cのアミノ酸配列を配列番号63に示す。なお配列番号63において、1番目のメチオニン(Met)から22番目のアラニン(Ala)までがPelBシグナルペプチドであり、25番目のセリン(Ser)から213番目のアスパラギン酸(Asp)がAAV結合性タンパク質AVR15c(配列番号1の312番目から500番目までの領域に相当)であり、214番目から219番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号63において、Val317Aspのアスパラギン酸は30番目に、Asn324Hisのヒスチジンは37番目に、Ala330Valのバリンは43番目に、Gln334Leuのロイシンは47番目に、Glu335Valのバリンは48番目に、Tyr342Serのセリンは55番目に、Lys362Gluのグルタミン酸は75番目に、Lys371Asnのアスパラギンは84番目に、Phe379Tyrのチロシンは92番目に、Val381Alaのアラニンは94番目に、Ile382Valのバリンは95番目に、Gly390Serのセリンは103番目に、Lys399Gluのグルタミン酸は112番目に、Ser476Argのアルギニンは189番目に、Asn487Aspのアスパラギン酸は200番目に、それぞれ存在する。
【0221】
(k)AVR16
本タンパク質は、実施例9で明らかになったアルカリへの安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Asn324His、Gln334Leu、Glu335Val、Thr341AlaおよびPhe379Tyrを選択し、これらアミノ酸置換をAVR11a(配列番号19)に集積させたタンパク質である。具体的には、AVR15c(配列番号63)をコードするポリヌクレオチド(配列番号64)に対してThr341Alaのアミノ酸置換を生じさせる変異を導入することにより、AVR16を作製した。
【0222】
(k-1)(j)で作製したAVR15cを含むポリペプチド(配列番号63)を発現可能なベクターpET-AVR 15cを鋳型とし、配列番号52(5’-TTTT[GGTCTC]ATTTCGGTGGTACCAGCAGCACATAAAC-3’)および配列番号53(5’-TTTT[GGTCTC]AGAAAGGGGAAGCCTCGACGTATG-3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド(配列番号52および53中の角かっこは制限酵素BsaI認識配列を示している)をPCRプライマー(Forward:配列番号52、Reverse:配列番号53)とした他は、実施例2(2)と同様な方法でPCRを行なった。
【0223】
(k-2)増幅したPCR産物から、(a-2)から(a-3)と同様な方法で、野生型AAV結合性タンパク質に対して16箇所アミノ酸置換したAVR16をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミド(発現ベクター)pET-AVR16を取得後、実施例3(7)と同様な方法で、前記プラスミドのヌクレオチド配列を解析し、確認した。
【0224】
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したAVR16のアミノ酸配列を配列番号65に示す。なお配列番号65において、1番目のメチオニン(Met)から22番目のアラニン(Ala)までがPelBシグナルペプチドであり、25番目のセリン(Ser)から213番目のアスパラギン酸(Asp)がAAV結合性タンパク質AVR16(配列番号1の312番目から500番目までの領域に相当)であり、214番目から219番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号65において、Val317Aspのアスパラギン酸は30番目に、Asn324Hisのヒスチジンは37番目に、Ala330Valのバリンは43番目に、Gln334Leuのロイシンは47番目に、Glu335Valのバリンは48番目に、Thr341Alaのアラニンは54番目に、Tyr342Serのセリンは55番目に、Lys362Gluのグルタミン酸は75番目に、Lys371Asnのアスパラギンは84番目に、Phe379Tyrのチロシンは92番目に、Val381Alaのアラニンは94番目に、Ile382Valのバリンは95番目に、Gly390Serのセリンは103番目に、Lys399Gluのグルタミン酸は112番目に、Ser476Argのアルギニンは189番目に、Asn487Aspのアスパラギン酸は200番目に、それぞれ存在する。
【0225】
実施例11 AVR11aアミノ酸置換集積体のアルカリ安定性評価
(1)AAV結合性タンパク質を発現可能な形質転換体として、実施例10で取得した11種類のAAV結合性タンパク質(AVR11aアミノ酸置換集積体、具体的にはAVR12a[配列番号54]、AVR12b[配列番号55]、AVR13[配列番号56]、AVR14a[配列番号57]、AVR14b[配列番号58]、AVR14c[配列番号59]、AVR14d[配列番号60]、AVR15a[配列番号61]、AVR15b[配列番号62]、AVR15c[配列番号63]、およびAVR16[配列番号65])ならびにAVR11a(配列番号19)のいずれかをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドで大腸菌株BL21(DE3)を形質転換し得られた形質転換体を用いた他は、実施例4(1)から(3)と同様な方法で培養した。
【0226】
(2)培養終了後、実施例4(4)に記載の方法で各菌体を回収し、実施例4(5)から(7)に記載の方法で当該回収した菌体からAAV結合性タンパク質を調製した。
【0227】
(3)実施例3(4)に記載のELISA法を用いて、(2)で調製したAAV結合性タンパク質と、実施例8で調製したVLP2との結合活性を測定した。前記測定結果である450nmにおける吸光度に基づき、当該測定値が同様になるよう(2)で得たAAV結合性タンパク質を純水で希釈した。
【0228】
(4)(3)で希釈した各AAV結合性タンパク質溶液を2つの画分に分けた。そのうち一方の画分には、0.1Mの水酸化ナトリウム水溶液を等量混合し、一定温度/一定時間静置するアルカリ処理を行ない(処理温度:30℃、処理時間:3時間)、もう一方の画分は前記アルカリ処理を行なわなかった(アルカリ処理「開始時」に相当)。
【0229】
(5)(4)の処理後の画分に、0.5MのMES緩衝液(pH6.0)を、7:3の割合で混合することでpHを6付近にした後、実施例3(4)に記載のELISA法にてVLP2との結合活性を測定した。
【0230】
(6)(4)のアルカリ処理を行なったときの450nmの吸光度を、処理時間0時間のときの450nmの吸光度で除することで、残存活性を算出した。
【0231】
結果を表10に示す。実施例10で取得したAVR11aアミノ酸置換集積体は、いずれもAVR11a(配列番号19)と比較して残存活性が高く、アルカリに対する安定性が向上していることがわかる。
【0232】
【0233】
実施例12 AAV結合性タンパク質の変異ライブラリ作製とスクリーニング(その2)
実施例11で評価したAAV結合性タンパク質のうち、AVR16(配列番号65)を選択し、当該タンパク質をコードするポリヌクレオチド(配列番号66)部分に、エラープローンPCRを用いてランダムに変異導入を施した。
【0234】
(1)鋳型として実施例10(k)で作製したAVR16を含むポリペプチド(配列番号65)を発現可能なベクターpET-AVR16を用いた他は、実施例9(1)と同様な方法でエラープローンPCRを行なった。当該エラープローンPCRによりAAV結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドに良好に変異が導入され、その平均変異導入率は1分子当たり0.8アミノ酸変異であった。
【0235】
(2)(1)で得られたPCR産物から、実施例9(2)から(3)に記載の方法でランダム変異体ライブラリを作製した。
【0236】
(3)(2)で作製したランダム変異体ライブラリ(形質転換体)を、50μg/mLのカナマイシンを含む2YT液体培地200μLに接種し、96穴ディープウェルプレートを用いて、37℃で一晩振とう培養した。
【0237】
(4)(3)の培養液を遠心分離し、得られた培養上清を超純水で16倍に希釈した。希釈した培養液60μLと0.1M 水酸化ナトリウム水溶液60μLとを混合し42.1℃で15分間アルカリ処理を行なった。
【0238】
(5)(4)の処理を行なったときのAAV結合性タンパク質とVLP2との結合活性と、(4)の処理を行なわなかったときのAAV結合性タンパク質とVLP2との結合活性を、実施例3(4)に記載のELISA法にて測定した。熱処理を行なった時のAAV結合性タンパク質とVLP2との結合活性を、熱処理を行なわなかったときのAAV結合性タンパク質とVLP2との結合活性で除することで、残存活性を算出した。
【0239】
(6)(5)の方法で約1800株のランダム変異体ライブラリを評価し、その中から親分子であるAVR16と比較して残存活性が向上したAAV結合性タンパク質を発現する形質転換体を選択した。前記選択した形質転換体を培養し、QIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン社製)を用いて発現ベクターを調製した。
【0240】
(7)得られた発現ベクターに挿入されたAAV結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド領域の配列を、実施例3(7)に記載の方法によりヌクレオチド配列を解析し、アミノ酸の変異箇所を特定した。
【0241】
前記(6)で選択した形質転換体が発現するAAV結合性タンパク質の、AVR16に対するアミノ酸置換位置ならびにアルカリ処理後の残存活性(%)をまとめたものを表11および12に示す。
【0242】
配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち312番目のセリン(Ser)から500番目のアスパラギン酸(Asp)までのアミノ酸残基において、Val(Asp)317Asn、Ile319Val、Lys323Asn、Glu325Lys、Val326Ala、Asn329Ser、Leu333Met、Lys338Arg、Gly339Glu、Met359Val、Gly361Glu、Lys(Glu)362Asp、Ser366Pro、Lys368Arg、Lys368Glu、Leu369Pro、Lys380Arg、Val(Ala)381Thr、Ile(Val)382Asp、Lys(Glu)399Gly、Leu421Pro、Pro422Ser、Ser425Gly、His443Tyr、His443Arg、Glu454Gly、Lys455Arg、Lys467Glu、Lys467Gln、Ser(Arg)476Gly、Ser482Thr、Ser488Phe、Ala491Ser、Asn492Asp、Asn496TyrおよびAsp500Glyのいずれかのアミノ酸置換が少なくとも1つ生じているAAV結合性タンパク質は、AVR11a(配列番号19)よりアルカリ安定性が向上したAVR16(配列番号65)と比較しても、アルカリへの安定性が向上しているといえる。
【0243】
【0244】
【0245】
実施例13 AVR16アミノ酸置換集積体の作製
実施例12で明らかとなった、AAV結合性タンパク質のアルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換をAVR16(配列番号65)に対しに集積することで、さらなるアルカリ安定性の向上を図った。具体的には、以下の(a)から(g)に示す7種類のAAV結合性タンパク質を設計し、作製した。
【0246】
(a)AVR16に対し、Val326Ala、Lys467GlnおよびSer482Thrのアミノ酸置換を導入したタンパク質(配列番号83、AVR19aと命名)
(b)AVR16に対し、Lys467Gln、Ser482ThrおよびAsn492Aspのアミノ酸置換を導入したタンパク質(配列番号85、AVR19bと命名)
(c)AVR16に対し、Lys380Arg、Lys467GlnおよびSer482Thrのアミノ酸置換を導入したタンパク質(配列番号87、AVR19cと命名)
(d)AVR16に対し、Val326Ala、Lys467Gln、Ser482ThrおよびAsn492Aspのアミノ酸置換を導入したタンパク質(配列番号88、AVR20aと命名)
(e)AVR16に対し、Val326Ala、Lys380Arg、Lys467GlnおよびSer482Thrのアミノ酸置換を導入したタンパク質(配列番号90、AVR20bと命名)
(f)AVR16に対し、Lys380Arg、Lys467Gln、Ser482ThrおよびAsn492Aspのアミノ酸置換を導入したタンパク質(配列番号91、AVR20cと命名)
(g)AVR16に対し、Val326Ala、Lys380Arg、Lys467Gln、Ser482ThrおよびAsn492Aspのアミノ酸置換を導入したタンパク質(配列番号92、AVR21と命名)
【0247】
以下、前記(a)から(g)に示す8種類のAAV結合性タンパク質の作製方法について説明する。
(a)AVR19a
本タンパク質は、実施例12で明らかになったアルカリへの安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Val326Ala、Lys467GlnおよびSer482Thrを選択し、これらアミノ酸置換をAVR16(配列番号65)に集積させたタンパク質である。具体的には、実施例12で取得したAVR16にLys467Glnのアミノ酸置換を導入したタンパク質(AVR16_K467Qと命名、配列番号70)をコードするポリヌクレオチド(配列番号69)に対してSer482Thrのアミノ酸置換を生じさせる変異を導入した後(AVR18と命名)、当該AVR18をコードするポリヌクレオチドに対してVal326Alaのアミノ酸置換を生じさせる変異を導入することにより、AVR19cを作製した。
【0248】
(a-1)AVR16_K467Qを含むポリペプチド(配列番号70)を発現可能なベクターpET-AVR16_K467Qを鋳型とし、配列番号73(5’-TTTT[GGTCTC]AGTGGTCGATACCGATGGCG-3’)および配列番号74(5’-TTTT[GGTCTC]ACCACCGTCAGTCTGAAC-3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド(配列番号73および74中の角かっこは制限酵素BsaI認識配列を示している)をPCRプライマー(Forward:配列番号73、Reverse:配列番号74)とした他は、実施例2(2)と同様な方法でPCRを行なった。
【0249】
(a-2)実施例2(3)および(4)に記載の方法で増幅したPCR産物を精製後、実施例2(5)に記載の方法でライゲーション反応させた。
【0250】
(a-3)得られたライゲーション産物を用いて大腸菌BL21株(DE3)を形質転換した。得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養後、遠心分離で回収した菌体(形質転換体)からプラスミド(発現ベクター)を抽出することで、野生型AAV結合性タンパク質に対して18箇所アミノ酸置換したAVR18をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET-AVR18を得た。
【0251】
(a-4)pET-AVR18のヌクレオチド配列を実施例3(7)と同様な方法で解析し、確認した。シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したAVR18のアミノ酸配列を配列番号81に示す。
【0252】
(a-5)(a-3)で取得したpET-AVR18を鋳型とし、配列番号75(5’-TTTT[GGTCTC]ACCGAAGCACGAAGCACAACTG-3’)および配列番号76(5’-TTTT[GGTCTC]ATCGGCAGGGTAATCTGATC-3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド(配列番号75および76中の角かっこは制限酵素BsaI認識配列を示している)をPCRプライマー(Forward:配列番号75、Reverse:配列番号76)とした他は、実施例2(2)と同様な方法でPCRを行なった。
【0253】
(a-6)増幅したPCR産物から、(a-2)から(a-3)と同様な方法で、野生型AAV結合性タンパク質に対して19箇所アミノ酸置換したAVR19aをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミド(発現ベクター)pET-AVR19aを取得後、実施例3(7)と同様な方法で、前記プラスミドのヌクレオチド配列を解析し、確認した。
【0254】
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したAVR19aのアミノ酸配列を配列番号83に示す。なお配列番号83において、1番目のメチオニン(Met)から22番目のアラニン(Ala)までがPelBシグナルペプチドであり、25番目のセリン(Ser)から213番目のアスパラギン酸(Asp)がAAV結合性タンパク質AVR19a(配列番号1の312番目から500番目までの領域に相当)であり、214番目から219番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号83において、Val317Aspのアスパラギン酸は30番目に、Asn324Hisのヒスチジンは37番目に、Val326Alaのアラニンは39番目に、Ala330Valのバリンは43番目に、Gln334Leuのロイシンは47番目に、Glu335Valのバリンは48番目に、Thr341Alaのアラニンは54番目に、Tyr342Serのセリンは55番目に、Lys362Gluのグルタミン酸は75番目に、Lys371Asnのアスパラギンは84番目に、Phe379Tyrのチロシンは92番目に、Val381Alaのアラニンは94番目に、Ile382Valのバリンは95番目に、Gly390Serのセリンは103番目に、Lys399Gluのグルタミン酸は112番目に、Lys467Glnのグルタミンは180番目に、Ser476Argのアルギニンは189番目に、Ser482Thrのスレオニンは195番目に、Asn487Aspのアスパラギン酸は200番目に、それぞれ存在する。
【0255】
(b)AVR19b
本タンパク質は、実施例12で明らかになったアルカリへの安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Lys467Gln、Ser482ThrおよびAsn492Aspを選択し、これらアミノ酸置換をAVR16(配列番号65)に集積させたタンパク質である。具体的には、AVR18(配列番号81)をコードするポリヌクレオチド(配列番号82)に対してAsn492Aspのアミノ酸置換を生じさせる変異を導入することにより、AVR19bを作製した。
【0256】
(b-1)(a-3)で取得したpET-AVR18を鋳型とし、配列番号77(5’-TTTT[GGTCTC]ACACCGCCGATCTTACCGTC-3’)および配列番号78(5’-TTTT[GGTCTC]AGGTGGTGGAGTCGGTTGC-3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド(配列番号77および78中の角かっこは制限酵素BsaI認識配列を示している)をPCRプライマー(Forward:配列番号77、Reverse:配列番号78)とした他は、実施例2(2)と同様な方法でPCRを行なった。
【0257】
(b-2)増幅したPCR産物から、(a-2)から(a-3)と同様な方法で、野生型AAV結合性タンパク質に対して19箇所アミノ酸置換したAVR19bをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミド(発現ベクター)pET-AVR19bを取得後、実施例3(7)と同様な方法で、前記プラスミドのヌクレオチド配列を解析し、確認した。
【0258】
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したAVR19bのアミノ酸配列を配列番号85に示す。なお配列番号85において、1番目のメチオニン(Met)から22番目のアラニン(Ala)までがPelBシグナルペプチドであり、25番目のセリン(Ser)から213番目のアスパラギン酸(Asp)がAAV結合性タンパク質AVR19b(配列番号1の312番目から500番目までの領域に相当)であり、214番目から219番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号85において、Val317Aspのアスパラギン酸は30番目に、Asn324Hisのヒスチジンは37番目に、Ala330Valのバリンは43番目に、Gln334Leuのロイシンは47番目に、Glu335Valのバリンは48番目に、Thr341Alaのアラニンは54番目に、Tyr342Serのセリンは55番目に、Lys362Gluのグルタミン酸は75番目に、Lys371Asnのアスパラギンは84番目に、Phe379Tyrのチロシンは92番目に、Val381Alaのアラニンは94番目に、Ile382Valのバリンは95番目に、Gly390Serのセリンは103番目に、Lys399Gluのグルタミン酸は112番目に、Lys467Glnのグルタミンは180番目に、Ser476Argのアルギニンは189番目に、Ser482Thrのスレオニンは195番目に、Asn487Aspのアスパラギン酸は200番目に、Asn492Aspのアスパラギン酸は205番目に、それぞれ存在する。
【0259】
(c)AVR19c
本タンパク質は、実施例12で明らかになったアルカリへの安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Lys380Arg、Lys467GlnおよびSer482Thrを選択し、これらアミノ酸置換をAVR16(配列番号65)に集積させたタンパク質である。具体的には、AVR18(配列番号81)をコードするポリヌクレオチド(配列番号82)に対してLys380Argのアミノ酸置換を生じさせる変異を導入することにより、AVR19cを作製した。
【0260】
(c-1)(a-3)で取得したpET-AVR18を鋳型とし、配列番号79(5’-TTTT[GGTCTC]ATATGAATACCGTGCTGTCGTTG-3’)および配列番号80(5’-TTTT[GGTCTC]ACATACAGACCCGGCGTC-3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド(配列番号79および80中の角かっこは制限酵素BsaI認識配列を示している)をPCRプライマー(Forward:配列番号79、Reverse:配列番号80)とした他は、実施例2(2)と同様な方法でPCRを行なった。
【0261】
(c-2)増幅したPCR産物から、(a-2)から(a-3)と同様な方法で、野生型AAV結合性タンパク質に対して19箇所アミノ酸置換したAVR19cをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミド(発現ベクター)pET-AVR19cを取得後、実施例3(7)と同様な方法で、前記プラスミドのヌクレオチド配列を解析し、確認した。
【0262】
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したAVR19cのアミノ酸配列を配列番号87に示す。なお配列番号87において、1番目のメチオニン(Met)から22番目のアラニン(Ala)までがPelBシグナルペプチドであり、25番目のセリン(Ser)から213番目のアスパラギン酸(Asp)がAAV結合性タンパク質AVR19c(配列番号1の312番目から500番目までの領域に相当)であり、214番目から219番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号87において、Val317Aspのアスパラギン酸は30番目に、Asn324Hisのヒスチジンは37番目に、Ala330Valのバリンは43番目に、Gln334Leuのロイシンは47番目に、Glu335Valのバリンは48番目に、Thr341Alaのアラニンは54番目に、Tyr342Serのセリンは55番目に、Lys362Gluのグルタミン酸は75番目に、Lys371Asnのアスパラギンは84番目に、Phe379Tyrのチロシンは92番目に、Lys380Argのアルギニンは93番目に、Val381Alaのアラニンは94番目に、Ile382Valのバリンは95番目に、Gly390Serのセリンは103番目に、Lys399Gluのグルタミン酸は112番目に、Lys467Glnのグルタミンは180番目に、Ser476Argのアルギニンは189番目に、Ser482Thrのスレオニンは195番目に、Asn487Aspのアスパラギン酸は200番目に、それぞれ存在する。
【0263】
(d)AVR20a
本タンパク質は、実施例12で明らかになったアルカリへの安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Val326Ala、Lys467Gln、Ser482ThrおよびAsn492Aspを選択し、これらアミノ酸置換をAVR16(配列番号65)に集積させたタンパク質である。具体的には、AVR19a(配列番号83)をコードするポリヌクレオチド(配列番号84)に対してAsn492Aspのアミノ酸置換を生じさせる変異を導入することにより、AVR20aを作製した。
【0264】
(d-1)(a)で作製したAVR19aを含むポリペプチド(配列番号83)を発現可能なベクターpET-AVR19aを鋳型とした他は、(b-1)と同様な方法でPCRを行なった。
【0265】
(d-2)増幅したPCR産物から、(a-2)から(a-3)と同様な方法で、野生型AAV結合性タンパク質に対して20箇所アミノ酸置換したAVR20aをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミド(発現ベクター)pET-AVR20aを取得後、実施例3(7)と同様な方法で、前記プラスミドのヌクレオチド配列を解析し、確認した。
【0266】
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したAVR20aのアミノ酸配列を配列番号88に示す。なお配列番号88において、1番目のメチオニン(Met)から22番目のアラニン(Ala)までがPelBシグナルペプチドであり、25番目のセリン(Ser)から213番目のアスパラギン酸(Asp)がAAV結合性タンパク質AVR20a(配列番号1の312番目から500番目までの領域に相当)であり、214番目から219番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号88において、Val317Aspのアスパラギン酸は30番目に、Asn324Hisのヒスチジンは37番目に、Val326Alaのアラニンは39番目に、Ala330Valのバリンは43番目に、Gln334Leuのロイシンは47番目に、Glu335Valのバリンは48番目に、Thr341Alaのアラニンは54番目に、Tyr342Serのセリンは55番目に、Lys362Gluのグルタミン酸は75番目に、Lys371Asnのアスパラギンは84番目に、Phe379Tyrのチロシンは92番目に、Val381Alaのアラニンは94番目に、Ile382Valのバリンは95番目に、Gly390Serのセリンは103番目に、Lys399Gluのグルタミン酸は112番目に、Lys467Glnのグルタミンは180番目に、Ser476Argのアルギニンは189番目に、Ser482Thrのスレオニンは195番目に、Asn487Aspのアスパラギン酸は200番目に、Asn492Aspのアスパラギン酸は205番目に、それぞれ存在する。
【0267】
(e)AVR20b
本タンパク質は、実施例12で明らかになったアルカリへの安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Val326Ala、Lys380Arg、Lys467GlnおよびSer482Thrを選択し、これらアミノ酸置換をAVR16(配列番号65)に集積させたタンパク質である。具体的には、AVR19a(配列番号83)をコードするポリヌクレオチド(配列番号84)に対してLys380Argのアミノ酸置換を生じさせる変異を導入することにより、AVR20bを作製した。
【0268】
(e-1)(a)で作製したpET-AVR19aを鋳型とした他は、(c-1)と同様な方法でPCRを行なった。
【0269】
(e-2)増幅したPCR産物から、(a-2)から(a-3)と同様な方法で、野生型AAV結合性タンパク質に対して20箇所アミノ酸置換したAVR20bをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミド(発現ベクター)pET-AVR20bを取得後、実施例3(7)と同様な方法で、前記プラスミドのヌクレオチド配列を解析し、確認した。
【0270】
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したAVR20bのアミノ酸配列を配列番号90に示す。なお配列番号90において、1番目のメチオニン(Met)から22番目のアラニン(Ala)までがPelBシグナルペプチドであり、25番目のセリン(Ser)から213番目のアスパラギン酸(Asp)がAAV結合性タンパク質AVR20b(配列番号1の312番目から500番目までの領域に相当)であり、214番目から219番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号90において、Val317Aspのアスパラギン酸は30番目に、Asn324Hisのヒスチジンは37番目に、Val326Alaのアラニンは39番目に、Ala330Valのバリンは43番目に、Gln334Leuのロイシンは47番目に、Glu335Valのバリンは48番目に、Thr341Alaのアラニンは54番目に、Tyr342Serのセリンは55番目に、Lys362Gluのグルタミン酸は75番目に、Lys371Asnのアスパラギンは84番目に、Phe379Tyrのチロシンは92番目に、Lys380Argのアルギニンは93番目に、Val381Alaのアラニンは94番目に、Ile382Valのバリンは95番目に、Gly390Serのセリンは103番目に、Lys399Gluのグルタミン酸は112番目に、Lys467Glnのグルタミンは180番目に、Ser476Argのアルギニンは189番目に、Ser482Thrのスレオニンは195番目に、Asn487Aspのアスパラギン酸は200番目に、それぞれ存在する。
【0271】
(f)AVR20c
本タンパク質は、実施例12で明らかになったアルカリへの安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Lys380Arg、Lys467Gln、Ser482ThrおよびAsn492Aspを選択し、これらアミノ酸置換をAVR16(配列番号65)に集積させたタンパク質である。具体的には、AVR19b(配列番号85)をコードするポリヌクレオチド(配列番号86)に対してLys380Argのアミノ酸置換を生じさせる変異を導入することにより、AVR20cを作製した。
【0272】
(f-1)(b)で作製したAVR19bを含むポリペプチド(配列番号85)を発現可能なベクターpET-AVR19bを鋳型とした他は、(c-1)と同様な方法でPCRを行なった。
【0273】
(f-2)増幅したPCR産物から、(a-2)から(a-3)と同様な方法で、野生型AAV結合性タンパク質に対して20箇所アミノ酸置換したAVR20cをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミド(発現ベクター)pET-AVR20cを取得後、実施例3(7)と同様な方法で、前記プラスミドのヌクレオチド配列を解析し、確認した。
【0274】
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したAVR20cのアミノ酸配列を配列番号91に示す。なお配列番号91において、1番目のメチオニン(Met)から22番目のアラニン(Ala)までがPelBシグナルペプチドであり、25番目のセリン(Ser)から213番目のアスパラギン酸(Asp)がAAV結合性タンパク質AVR20c(配列番号1の312番目から500番目までの領域に相当)であり、214番目から219番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号91において、Val317Aspのアスパラギン酸は30番目に、Asn324Hisのヒスチジンは37番目に、Ala330Valのバリンは43番目に、Gln334Leuのロイシンは47番目に、Glu335Valのバリンは48番目に、Thr341Alaのアラニンは54番目に、Tyr342Serのセリンは55番目に、Lys362Gluのグルタミン酸は75番目に、Lys371Asnのアスパラギンは84番目に、Phe379Tyrのチロシンは92番目に、Lys380Argのアルギニンは93番目に、Val381Alaのアラニンは94番目に、Ile382Valのバリンは95番目に、Gly390Serのセリンは103番目に、Lys399Gluのグルタミン酸は112番目に、Lys467Glnのグルタミンは180番目に、Ser476Argのアルギニンは189番目に、Ser482Thrのスレオニンは195番目に、Asn487Aspのアスパラギン酸は200番目に、Asn492Aspのアスパラギン酸は205番目に、それぞれ存在する。
【0275】
(g)AVR21
本タンパク質は、実施例12で明らかになった、アルカリへの安定性向上に関与するアミノ酸置換の中からVal326Ala、Lys380Arg、Lys467Gln、Ser482ThrおよびAsn492Aspを選択し、これらアミノ酸置換をAVR16(配列番号65)に集積させたタンパク質である。具体的には、AVR20a(配列番号88)をコードするポリヌクレオチド(配列番号89)に対してLys380Argのアミノ酸置換を生じさせる変異を導入することにより、AVR21を作製した。
【0276】
(g-1)(d)で作製したAVR20aを含むポリペプチド(配列番号88)を発現可能なベクターpET-AVR20aを鋳型とした他は、(c-1)と同様な方法でPCRを行なった。
【0277】
(g-2)増幅したPCR産物から、(a-2)から(a-3)と同様な方法で、野生型AAV結合性タンパク質に対して21箇所アミノ酸置換したAVR21をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミド(発現ベクター)pET-AVR21を取得後、実施例3(7)と同様な方法で、前記プラスミドのヌクレオチド配列を解析し、確認した。
【0278】
(g-2)で解析した、AVR21を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号93に、シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したAVR21のアミノ酸配列を配列番号92に、それぞれ示す。なお配列番号92において、1番目のメチオニン(Met)から22番目のアラニン(Ala)までがPelBシグナルペプチドであり、25番目のセリン(Ser)から213番目のアスパラギン酸(Asp)がAAV結合性タンパク質AVR21(配列番号1の312番目から500番目までの領域に相当)であり、214番目から219番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号92において、Val317Aspのアスパラギン酸は30番目に、Asn324Hisのヒスチジンは37番目に、Val326Alaのアラニンは39番目に、Ala330Valのバリンは43番目に、Gln334Leuのロイシンは47番目に、Glu335Valのバリンは48番目に、Thr341Alaのアラニンは54番目に、Tyr342Serのセリンは55番目に、Lys362Gluのグルタミン酸は75番目に、Lys371Asnのアスパラギンは84番目に、Phe379Tyrのチロシンは92番目に、Lys380Argのアルギニンは93番目に、Val381Alaのアラニンは94番目に、Ile382Valのバリンは95番目に、Gly390Serのセリンは103番目に、Lys399Gluのグルタミン酸は112番目に、Lys467Glnのグルタミンは180番目に、Ser476Argのアルギニンは189番目に、Ser482Thrのスレオニンは195番目に、Asn487Aspのアスパラギン酸は200番目に、Asn492Aspのアスパラギン酸は205番目に、それぞれ存在する。
【0279】
実施例14 AVR16アミノ酸置換集積体のアルカリ安定性評価
(1)AAV結合性タンパク質を発現可能な形質転換体としてAVR16[配列番号65]、ならびにAVR16アミノ酸置換集積体である、実施例12で取得した5種類のAAV結合性タンパク質(AVR16_K467Q[配列番号70]、およびAVR16にVal326Ala[AVR16_V326Aと命名、配列番号67]、Lys380Arg[AVR16_K380Rと命名、配列番号68]、Ser482Thr[AVR16_S482Tと命名、配列番号71]またはAsn492Asp[AVR16_N492Dと命名、配列番号72]のアミノ酸置換を導入したタンパク質)、および実施例13で取得した7種類のAAV結合性タンパク質(AVR19a[配列番号83]、AVR19b[配列番号85]、AVR19c[配列番号87]、AVR20a[配列番号89]、AVR20b[配列番号90]、AVR20c[配列番号91]およびAVR21[配列番号92])のいずれかをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドで大腸菌株BL21(DE3)を形質転換し得られた形質転換体を用いた他は、実施例4(1)から(3)と同様な方法で培養した。
【0280】
(2)培養終了後、実施例4(4)に記載の方法で各菌体を回収し、実施例4(5)から(7)に記載の方法で当該回収した菌体からAAV結合性タンパク質を調製した。
【0281】
(3)実施例3(4)に記載のELISA法を用いて、(2)で調製したAAV結合性タンパク質と、実施例8で調製したVLP2との結合活性を測定した。前記測定結果である450nmにおける吸光度に基づき、当該測定値が同様になるよう(2)で得たAAV結合性タンパク質を純水で希釈した。
【0282】
(4)(3)で希釈した各AAV結合性タンパク質溶液を2つの画分に分けた。そのうち一方の画分には、0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を等量混合し、30℃で1時間アルカリ処理を行ない、もう一方の画分は前記アルカリ処理を行なわなかった(アルカリ処理「開始時」に相当)。
【0283】
(5)(4)の処理後の画分に、0.5MのMES緩衝液(pH6.0)を、8:2の割合で混合することでpHを6付近にした後、実施例3(4)に記載のELISA法にてVLP2との結合活性を測定した。
【0284】
(6)(4)のアルカリ処理を行なったときの450nmの吸光度を、処理時間0時間のときの450nmの吸光度で除することで、残存活性を算出した。
【0285】
結果を表13に示す。本実施例で評価したAVR16アミノ酸置換集積体は、いずれもAVR11a(配列番号19)よりもアルカリ安定性が向上したAVR16(配列番号65)と比較しても、残存活性が高く、アルカリに対する安定性がさらに向上していることがわかる。
【0286】
【0287】
実施例15 アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの調製
(1)配列番号95に記載のアミノ酸配列からなるEGFP(Enhanced Green Fluorescent Protein)をコードするポリヌクレオチドの5’末端側に制限酵素EcoRI認識配列(GAATTC)を、3’末端側に終止コドン(TAG)およびBamHI認識配列(GGATCC)を、それぞれ付加したヌクレオチド配列(配列番号96)を設計した。
【0288】
(2)配列番号96に記載の配列からなるポリヌクレオチドを全合成しプラスミドにクローニングした(FASMAC社に委託、pUC-EGFPと命名)。pUC-EGFPで大腸菌JM109株を形質転換し、得られた形質転換体を培養した。培養液からQIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン社製)を用いてpUC-EGFPを抽出した。
【0289】
(3)(2)で得られたpUC-EGFPを制限酵素EcoRIとBamHIで消化後、あらかじめ制限酵素EcoRIとBamHIで消化した発現ベクターpAAV-CMV(タカラバイオ社製)にライゲーションし、当該ライゲーション産物を用いて大腸菌JM109株を形質転換した。
【0290】
(4)(3)で得られた形質転換体を、100μg/mLのカルベニシリンを含む2YT培地(1.6%(w/v)Tryptone、1%(w/v)Yeast Extract、0.5%(w/v)塩化ナトリウム)1Lが入った、5Lバッフルフラスコにて、37℃で一晩振とう培養した。培養終了後、遠心分離することで菌体を回収し、Plasmid Mega Kit(キアゲン社製)を用いて、回収した菌体からEGFPを発現するベクターpAAV-EGFPを大量に調製した。
【0291】
(5)血清型2のAAV(AAV2)のカプシド領域VP1(UniProtアクセッションナンバー:P03135、配列番号99)および以下の(a)から(m)に示す前記VP1のアミノ酸置換体(以下、総称して単に「AAV2」とも表記)のいずれかをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミド(以下、総称して「pRC2 Vector」とも表記)およびpHelper Vector(タカラバイオ社製)で大腸菌JM109株を形質転換した。得られた形質転換体を用いて(4)と同様の操作を行なうことで、pRC2 VectorおよびpHelperを大量に調製した。
(a)配列番号99の263番目のグルタミンがアラニンに置換(以下、「AAV2 Q263A」とも表記)
(b)配列番号99の264番目のセリンがアラニンに置換(以下、「AAV2 S264A」とも表記)
(c)配列番号99の267番目のセリンがアラニンまたはスレオニンに置換(以下、それぞれ「AAV2 S267A」「AAV2 S267T」とも表記)
(d)配列番号99の271番目のヒスチジンがアラニン、フェニルアラニン、グルタミンおよびスレオニンのいずれかに置換(以下、それぞれ「AAV2 H271A」「AAV2 H271F」「AAV2 H271Q」「AAV2 H271T」とも表記)
(e)配列番号99の382番目のアスパラギンがアラニンに置換(以下、「AAV2 N382A」とも表記)
(f)配列番号99の383番目のグリシンがアラニンに置換(以下、「AAV2 G383A」とも表記)
(g)配列番号99の384番目のセリンがアラニンに置換(以下、「AAV2 S384A」とも表記)
(h)配列番号99の385番目のグルタミンがアラニンに置換(以下、「AAV2 Q385A」とも表記)
(i)配列番号99の471番目のアルギニンがアラニンに置換(以下、「AAV2 R471A」とも表記)
(j)配列番号99の499番目のグルタミン酸がアラニンに置換(以下「AAV2 E499A」とも表記)
(k)配列番号99の503番目のスレオニンがセリンに置換(以下、「AAV2 T503S」とも表記)
(l)配列番号99の528番目のアスパラギン酸がアラニンに置換(以下、「AAV2 D528A」とも表記)
(m)配列番号99の529番目のアスパラギン酸がアラニンまたはグルタミン酸に置換(以下、それぞれ「AAV2 D529A」「AAV2 D529E」とも表記)
なお前記(a)から(m)に示すアミノ酸置換体の、天然型(配列番号99)に対する感染能の強さを表14にまとめた(出典:Lochrie,M.A.,et al.,Journal of virology,80(2),821)。
【0292】
【0293】
(6)Viral Production medium(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)60mLが入った250mL三角フラスコ(コーニング社製)で、Viral Production Cell(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を8%(v/v)の二酸化炭素、37℃の条件で3.0×106cells/mLに達するまで、120rpmで振とう培養した。
【0294】
(7)AAV-MAX Enhancer(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)、(4)で調製したpAAV-EGFP、(5)で調製したpRC2 VectorおよびpHelper、ならびにAAV-MAX Transfection Reagent、Viral Plex ComplexationおよびAAV-MAX Transfection Booster(いずれもサーモフィッシャーサイエンティフィック社製)の混合液を(6)で得られた培養液に添加することで遺伝子導入し、8%(v/v)の二酸化炭素、37℃の条件で3日間、120rpmで振とう培養した。
【0295】
(8)(7)で得られた培養液に、AAV-MAX Lysis Buffer(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を培地に対し10分の1量、Benzonase(メルクミリポア社製)を終濃度で1U/mL、塩化マグネシウムを終濃度で2mM、それぞれ添加後、37℃で2.0時間、120rpmで振とうすることで溶菌処理した。
【0296】
(9)溶菌処理後の溶液を8000×g、4℃で10分間遠心分離し、上清を孔径0.22μmのフィルターに供して浮遊物を除去することで、AAV2を含む溶液を得た。
【0297】
(10)(9)で得られた溶液中のAAV2の濃度を、AAV2 Titration ELISA Kit(PROGEN社製)を用いて定量した。
【0298】
結果、いずれの溶液も8.2×109cp/mL(cpはAAV粒子数を示す)以上のAAV2を含んでおり、HPLC M40A(島津製作所社製)を用いて280nmの励起光に対する350nmの蛍光強度で検出した際に十分ピークを確認できる程度の溶液は得られている。
【0299】
実施例16 AAV結合性タンパク質の調製(その1)
(1)配列番号97に記載のアミノ酸配列からなるAAV結合性タンパク質AVR10sを含むポリペプチド、をコードするポリヌクレオチド(配列番号98)を含むプラスミドpET-AVR10sで大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し得られた、AVR10sを発現可能な形質転換体を、50μg/mLのカナマイシンを含む3mLの2YT液体培地に接種し、37℃で一晩、好気的に振とう培養することで前培養を行なった。なお配列番号97において、1番目のメチオニン(Met)から22番目のアラニン(Ala)までがPelBシグナルペプチドであり、25番目のセリン(Ser)から213番目のアスパラギン酸(Asp)までがAAV結合性タンパク質AVR10sであり、220番目のシステイン(Cys)から226番目のグリシン(Gly)までが固定化用のタグであるシステインタグ配列である。またAVR10sは、AAV受容体KIAA0319Lの細胞外ドメイン1(PKD1)およびドメイン2(PKD2)(配列番号94の312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基)に対して、以下の<I>から<X>に示すアミノ酸置換が生じたポリペプチドである。
<I>配列番号94の317番目(配列番号97では30番目)のバリンがアスパラギン酸に置換
<II>配列番号94の342番目(配列番号97では55番目)のチロシンがセリンに置換
<III>配列番号94の362番目(配列番号97では75番目)のリジンがグルタミン酸に置換
<IV>配列番号94の371番目(配列番号97では84番目)のリジンがアスパラギンに置換
<V>配列番号94の381番目(配列番号97では94番目)のバリンがアラニンに置換
<VI>配列番号94の382番目(配列番号97では95番目)のイソロイシンがバリンに置換
<VII>配列番号94の390番目(配列番号97では103番目)のグリシンがセリンに置換
<VIII>配列番号94の399番目(配列番号97では112番目)のリジンがグルタミン酸に置換
<IX>配列番号94の476番目(配列番号97では189番目)のセリンがアルギニンに置換
<X>配列番号94の487番目(配列番号97では200番目)のアスパラギンがアスパラギン酸に置換
【0300】
(2)1Lのバッフルフラスコに50μg/mLのカナマイシンを添加した200mLの2YT液体培地に(1)の前培養液を2mL接種し、37℃で好気的に振とう培養を行なった。
【0301】
(3)培養開始2.0時間後、氷上にて冷却し、終濃度0.1mMとなるようIPTG(IsoPropyl-β-D-ThioGalactopyranoside)を添加後、引き続き25℃で一晩、好気的に振とう培養した。
【0302】
(4)培養終了後、培養液を4℃、8000rpmで20分間遠心分離することで菌体を回収した。
【0303】
(5)(4)で回収した菌体を150mMの塩化ナトリウム、20mMのイミダゾールを含む20mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.4)に5mL/1g(菌体)となるように懸濁後、超音波発生装置(インソネーター201M[久保田商事社製])を用いて、8℃で約10分間、約150Wの出力で菌体を破砕した。菌体破砕液は4℃で20分間、8000rpmの遠心分離を2回行ない、上清を回収した。
【0304】
(6)(5)で得られた上清を、あらかじめ150mMの塩化ナトリウムおよび20mMのイミダゾールを含むトリス塩酸緩衝液(pH7.4)(以下、「平衡化液B」とも表記)で平衡化した、Ni Sepharose 6 Fast Flow(サイティバ社製)50mLを充填したXK26/20カラム(サイティバ社製)にアプライした。平衡化液Bで洗浄後、0.5Mのイミダゾールおよび150mMの塩化ナトリウムを含む20mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.4)で溶出した。
【0305】
(7)(6)で得た溶出液を、150mMの塩化ナトリウムを含む20mMのトリス緩衝液(pH7.4)で透析することで、AAV吸着剤作製に必要な量のAVR10sタンパク質を調製した。
【0306】
実施例17 AAV吸着剤の調製(その1)
(1)不溶性担体として分離剤用親水性ビニルポリマー(東ソー社製:トヨパール)を用意し、当該ポリマー表面のヒドロキシ基に化学修飾を施すことでヨードアセトアミド基を導入した担体を調製した。
【0307】
(2)(1)で調製した担体7g(湿重量)に、実施例16で調製したAAV結合性タンパク質AVR10sを14mg、および還元剤として終濃度0.3mMのTCEP(Tris(2-CarboxyEthyl)Phosphine)を加え、pH8.1、25℃の条件で3時間振とうすることで反応させた。これによりAVR10sを固定化したAAV吸着剤であるAVR10s固定化ゲルを調製した。
【0308】
実施例18 AAV吸着剤を用いたAAV分析(その1)
(1)実施例17で調製したAAV吸着剤AVR10s固定化ゲル1.25mLを、ステンレス製空カラム(φ4.6mm×75mm、東ソー社製)にそれぞれ充填し、カラムを作製した(AVR10sカラムと命名)。
【0309】
(2)AVR10sカラムを、HPLC M40A(島津製作所社製)に接続し、50mMの塩化カルシウムおよび15mMの酢酸ナトリウムを含む10mMのグリシン緩衝液(pH4.5)(以下、「平衡化液C」とも表記)で平衡化した。
【0310】
(3)(2)で平衡化したAVR10sカラムに対して、実施例15で得られたAAV2を含む溶液を0.01mLアプライした。
【0311】
(4)平衡化液Cを用いて流速0.5mL/分で30分間洗浄後、50mMの塩化カルシウムおよび15mMの酢酸ナトリウムを含む10mMのグリシン緩衝液(pH2.2)(以下、「溶出液A」とも表記)と平衡化液Cとを用いて、60分間で溶出液A濃度が0%から100%になるリニアグラジエントとなるよう、AVR10sカラムに送液した(流速0.5mL/分)。リニアグラジエント終了後は、溶出液Aを5分間送液した後、再び平衡化液CをAVR10sカラムに送液し、再平衡化した。
【0312】
(5)AVR10sカラムより溶出したAAV2を、280nmの励起光に対する350nmの蛍光強度で検出し、AAV2に相当する溶出ピークの頂点での時間を当該AAV2の溶出時間とした。
【0313】
AVR10sカラムによる各AAV2の溶出時間を表15に示す。また各AAV2の感染能(天然型AAV2(配列番号99)に対する相対値)を縦軸に、当該AAV2の溶出時間を横軸に、それぞれプロットした結果を
図1に示す。なおAVR10s固定化ゲルに吸着せず、AVR10sカラムを素通りしたAAV2(AAV2 G383A、AAV2 H271FおよびAAV2 D529A)は
図1のプロットから除外している。
【0314】
表15および
図1より、感染能の強いAAVは、溶出時間が遅れる(すなわちAVR10s固定化ゲルへの結合力が強い)ことがわかる。このことから、試料中に含まれるAAVを、不溶性担体と当該担体に固定化したKIAA0319LのPKD1またはPKD2に相当するアミノ酸配列を少なくとも含むポリペプチドとを含むAAV吸着剤を用いて分析することで、感染能の強さに基づき分析できることがわかる。
【0315】
【0316】
比較例1 AAV吸着剤を用いたAAV分析(その2)
実施例18(1)でステンレス製カラムに充填するゲルとして、AVR10s固定化ゲルとは異なるAAV吸着剤であるPOROS CaptureSelect AAVX Affinity Resin(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)1.25mLを用いた他は、実施例18と同様な方法でAAV2を分析した。
【0317】
POROS CaptureSelect AAVX Affinity Resinを充填したステンレス製カラム(以下、「AAVXカラム」とも表記)による各AAV2の溶出時間を表16に示す。また各AAV2の感染能(天然型AAV2(配列番号99)に対する相対値)を縦軸に、当該AAV2の溶出時間を横軸に、それぞれプロットした結果を
図2に示す。
【0318】
表16および
図2より、感染能の強さに関係なく、ほぼ一定の溶出時間でAAV2が溶出されることがわかる。以上の結果から、AAVXカラムでは感染能の強さに基づくAAVの分析ができないことがわかる。
【0319】
【0320】
実施例19 AAV結合性タンパク質の調製
AAV結合性タンパク質を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドとして、以下のいずれかを用いた他は、実施例16と同様な方法でAAV結合性タンパク質を調製した。
配列番号100に記載のアミノ酸配列からなるAAV結合性タンパク質AVR11aを含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(配列番号101)を含むプラスミドpET-AVR11a、
配列番号102に記載のアミノ酸配列からなるAAV結合性タンパク質AVR21を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(配列番号103)を含むプラスミドpET-AVR21、
なお配列番号100および102において、1番目のメチオニン(Met)から22番目のアラニン(Ala)までがPelBシグナルペプチドであり、25番目のセリン(Ser)から213番目のアスパラギン酸(Asp)までがAAV結合性タンパク質(AVR11aまたはAVR21)であり、220番目のシステイン(Cys)から226番目のグリシン(Gly)までが固定化用のタグであるシステインタグ配列である。またAVR11aは、AAV受容体KIAA0319Lの細胞外ドメイン1(PKD1)およびドメイン2(PKD2)(配列番号94の312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基)に対して、以下の<I>から<XI>に示すアミノ酸置換が生じたポリペプチドであり、AVR21は、前記PKD1およびPKD2に対して、以下の<I>から<XXI>に示すアミノ酸置換が生じたポリペプチドである。
<I>配列番号94の317番目(配列番号100および102では30番目)のバリンがアスパラギン酸に置換
<II>配列番号94の342番目(配列番号100および102では55番目)のチロシンがセリンに置換
<III>配列番号94の362番目(配列番号100および102では75番目)のリジンがグルタミン酸に置換
<IV>配列番号94の371番目(配列番号100および102では84番目)のリジンがアスパラギンに置換
<V>配列番号94の381番目(配列番号100および102では94番目)のバリンがアラニンに置換
<VI>配列番号94の382番目(配列番号100および102では95番目)のイソロイシンがバリンに置換
<VII>配列番号94の390番目(配列番号100および102では103番目)のグリシンがセリンに置換
<VIII>配列番号94の399番目(配列番号100および102では112番目)のリジンがグルタミン酸に置換
<IX>配列番号94の476番目(配列番号100および102では189番目)のセリンがアルギニンに置換
<X>配列番号94の487番目(配列番号100および102では200番目)のアスパラギンがアスパラギン酸に置換
<XI>配列番号94の330番目(配列番号100および102では43番目)のアラニンがバリンに置換
<XII>配列番号94の324番目(配列番号102では37番目)のアスパラギンがヒスチジンに置換
<XIII>配列番号94の326番目(配列番号102では39番目)のバリンがアラニンに置換
<XIV>配列番号94の334番目(配列番号102では47番目)のグルタミンがロイシンに置換
<XV>配列番号94の335番目(配列番号102では48番目)のグルタミン酸がバリンに置換
<XVI>配列番号94の341番目(配列番号102では54番目)のスレオニンがアラニンに置換
<XVII>配列番号94の379番目(配列番号102では92番目)のフェニルアラニンがチロシンに置換
<XVIII>配列番号94の380番目(配列番号102では93番目)のリジンがアルギニンに置換
<XIX>配列番号94の467番目(配列番号102では180番目)のリジンがグルタミンに置換
<XX>配列番号94の482番目(配列番号102では195番目)のセリンがスレオニンに置換
<XXI>配列番号94の492番目(配列番号102では205番目)のアスパラギンがアスパラギン酸に置換
【0321】
実施例20 AAV吸着剤の調製(その2)
AAV結合性タンパク質として実施例19で調製したAAV11aまたはAAV21を用いた他は、実施例17と同様な方法でAAV吸着剤を調製した。なおAVR11aを固定化したAAV吸着剤をAVR11a固定化ゲルと、AVR21を固定化したAAV吸着剤をAVR21固定化ゲルと、それぞれ命名する。
【0322】
実施例21 AAV吸着剤を用いたAAV分析(その3)
(1)実施例20で調製したAAV吸着剤(AVR11a固定化ゲルまたはAVR21固定化ゲル)1.25mLを、ステンレス製空カラム(φ4.6mm×75mm、東ソー社製)にそれぞれ充填し、カラムを作製した。なおAVR11a固定化ゲルを充填したカラムをAVR11aカラムと、AVR21固定化ゲルを充填したカラムをAVR21カラムと、それぞれ命名する。
【0323】
(2)カラムとしてAVR11aカラムまたはAVR21カラムを、平衡化液Cとして
50mMの塩化カルシウムおよび15mMの酢酸ナトリウムを含む10mMのグリシン緩衝液(pH6.0)を、溶出液Aとして50mMの塩化カルシウムおよび15mMの酢酸ナトリウムを含む10mMのグリシン緩衝液(pH2.0)を、それぞれ用いた他は、実施例18(2)から(5)と同様な方法でAAV2を分析した。
【0324】
AVR11aカラムおよび
AVR21カラムによる各AAV2の溶出時間を表17に示す。また各AAV2の感染能(天然型AAV2(配列番号99)に対する相対値)を縦軸に、当該AAV2の溶出時間を横軸に、それぞれプロットした結果を
図3および
図4に示す。なおAVR11a固定化ゲルに吸着せず、AVR11aカラムを素通りしたAAV2(AAV2 H271A、AAV2 H271Q、AAV2 H271T、AAV2 G383A、AAV2 H271FおよびAAV2 D529A)は
図3のプロットから除外しており、AVR21固定化ゲルに吸着せず、AVR21カラムを素通りしたAAV2(AAV2 G383A、AAV2 H271FおよびAAV2 D529A)は
図4のプロットから除外している。
【0325】
表17、
図3および
図4より、感染能の強いAAVは、溶出時間が遅れる(すなわちAVR11a固定化ゲルまたはAVR21固定化ゲルへの結合力が強い)ことがわかる。このことから、試料中に含まれるAAVを、不溶性担体と当該担体に固定化したKIAA0319LのPKD1またはPKD2に相当するアミノ酸配列を少なくとも含むポリペプチドとを含むAAV吸着剤を用いて分析することで、感染能の強さに基づき分析できることがわかる。
【0326】
【0327】
比較例2 AAV吸着剤を用いたAAV分析(その4)
実施例21(1)でステンレス製カラムに充填するゲルとして、AVR11a固定化ゲルおよびAVR21固定化ゲルとは異なるAAV吸着剤であるPOROS CaptureSelect AAVX Affinity Resin(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)1.25mLを用いた他は、実施例20と同様な方法でAAV2を分析した。
【0328】
POROS CaptureSelect AAVX Affinity Resinを充填したステンレス製カラム(以下、「AAVXカラム」とも表記)による各AAV2の溶出時間を表18に示す。また各AAV2の感染能(天然型AAV2(配列番号99)に対する相対値)を縦軸に、当該AAV2の溶出時間を横軸に、それぞれプロットした結果を
図5に示す。
【0329】
表18および
図5より、感染能の強さに関係なく、ほぼ一定の溶出時間でAAV2が溶出されることがわかる。以上の結果から、AAVXカラムでは感染能の強さに基づくAAVの分析ができないことがわかる。
【0330】
【配列表】