(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】チアゾール化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 277/66 20060101AFI20241203BHJP
【FI】
C07D277/66
(21)【出願番号】P 2020105412
(22)【出願日】2020-06-18
【審査請求日】2023-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】石川 俊
【審査官】谷尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-040911(JP,A)
【文献】Feng, Xian et al.,Fe-promoted oxidative cyclization of α-benzoylthioformanilides for the synthesis of 2-benzoylbenzothiazoles,RSC Advances,2014年,4(97),p.54719-54724
【文献】Muller, Annerose et al.,Syntheses of substituted 2-aryl(hetaryl)-naphtho[1,2-d]thiazoles,Zeitschrift fuer Chemie,1985年,25(1),p.23-4
【文献】Hoppe, H. et al.,Thiono and dithio esters. 17. Reaction of dithionoxalic esters with amines,Archiv der Pharmazie (Weinheim, Germany),1975年,308(7),p.526-41
【文献】Wang, Haibo et al.,Fe-catalyzed oxidative C-H functionalization/C-S bond formation,Chemical Communications (Cambridge, United Kingdom),2012年,48(1),p.76-78
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 277/66
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の酸化剤、少なくとも1種の酸化助剤
、少なくとも1種の塩基
、および溶媒の存在下で、式(1)
【化1】
[式中、A
1およびA
2は互いに独立して、
炭素数1~10のアルキル基または炭素数1~10のアルコキシ基を有する、炭素数4~15の芳香環または複素環を表す]
で表される化合物を環化させる工程を含
み、
前記酸化剤は、ハロゲン化鉄化合物を含み、
前記酸化助剤は、過硫酸塩を含み、
前記塩基は、ピリジン誘導体を含み、
前記溶媒は、非プロトン性極性溶媒および/または芳香族系溶媒を含み、
前記酸化剤は、前記式(1)で表される化合物1モル当量に対して、0.01モル当量以上4モル当量以下で存在し、
前記酸化助剤は、前記式(1)で表される化合物1モル当量に対して、2モル当量以上10モル当量以下で存在し、
前記塩基は、前記式(1)で表される化合物1モル当量に対して、2モル当量以上82.5モル当量以下で存在し、
前記溶媒は、前記式(1)で表される化合物1質量部に対して2質量部以上100質量部以下で存在する、
式(2)
【化2】
[式中、B
1およびB
2で表される点線の円弧は、実線で表される骨格部分と共に置換基を有していてもよい環構造を形成していることを表し
、かつ式(1)で表される化合物中の窒素原子および硫黄原子がA
1
およびA
2
中の炭素原子と結合し形成されたものであり;実線で表される骨格部分における点線部分は、点線で結ばれる1対の原子が二重結合で結ばれていてもよいことを表す]
で表されるチアゾール化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チアゾール化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チアゾール環を有する化合物は、医薬品や電気材料等の用途に有用な化合物である。そのような化合物の合成方法として、非特許文献1には、エタノール溶媒中で1つのチオカルボニル基を有する化合物にフェリシアン化カリウムを使用した合成方法が記載されている。また、非特許文献2には、ジメチルスルホキシド(DMSO)溶媒中で塩化鉄を使用した合成方法が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Annerose Muller et al. “Darstellung von substituierten 2-Aryl(Hetaryl)-naphtho-[1,2-d]thiazolen”, Zeitschrift fuer Chemie, 1985年, Volume 25, Issue 1, pp.23-24
【文献】Haibo Wang et al. “Fe-catalysed oxidative C-H functionalization/C-S bond formation”, Chemical Communications, 2012年, Volume 48, pp.76-78
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、非特許文献1および2に記載の方法を2つのチアゾール環を有する化合物の合成に適用すると、多段の工程を必要とする場合があり、該化合物の製造方法としては十分なものではなかった。
【0005】
したがって、本発明は、2つのチアゾール環を有する化合物を、少ない工程によって効率よく得ることができる、チアゾール化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、前記課題を解決するために詳細に検討を重ねた結果、酸化剤、酸化助剤および塩基を併用することで、2つのチアゾール環を有する化合物を効率よく得ることができることを見出した。すなわち、本発明は、以下の好適な態様を包含する。
〔1〕少なくとも1種の酸化剤、少なくとも1種の酸化助剤および少なくとも1種の塩基の存在下で、式(1)
【化1】
[式中、A
1およびA
2は互いに独立して、置換基を有していてもよい炭素数4~15の芳香環または複素環を表す]
で表される化合物を環化させる工程を含む、式(2)
【化2】
[式中、B
1およびB
2で表される点線の円弧は、実線で表される骨格部分と共に置換基を有していてもよい環構造を形成していることを表し;実線で表される骨格部分における点線部分は、点線で結ばれる1対の原子が二重結合で結ばれていてもよいことを表す]
で表されるチアゾール化合物の製造方法。
〔2〕前記式(1)中のA
1および/またはA
2は、電子供与性基を有する芳香環を含む、〔1〕に記載の方法。
〔3〕前記酸化剤はハロゲン化鉄化合物を含む、〔1〕または〔2〕に記載の方法。
〔4〕前記酸化助剤は過硫酸塩を含む、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の方法。
〔5〕前記酸化剤は、前記式(1)で表される化合物1モル当量に対して、0.01モル当量以上4モル当量以下で存在する、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔6〕前記塩基はピリジン誘導体を含む、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の方法。
〔7〕前記塩基は、前記式(1)で表される化合物1モル当量に対して、2モル当量以上82.5モル当量以下で存在する、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の方法。
〔8〕前記環化は溶媒の存在下で行う、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の方法。
〔9〕前記溶媒は非プロトン性極性溶媒および/または芳香族系溶媒を含む、〔8〕に記載の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、2つのチアゾール環を有する化合物を、少ない工程によって効率よく得ることができる、チアゾール化合物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更をすることができる。
【0009】
本発明は、少なくとも1種の酸化剤、少なくとも1種の酸化助剤および少なくとも1種の塩基の存在下で、式(1)
【化3】
[式中、A
1およびA
2は互いに独立して、置換基を有していてもよい炭素数4~15の芳香環もしくは複素環を表す]
で表される化合物を環化させる工程を含む、式(2)
【化4】
[式中、B
1およびB
2で表される点線の円弧は、実線で表される骨格部分と共に置換基を有していてもよい環構造を形成していることを表し;実線で表される骨格部分における点線部分は、点線で結ばれる1対の原子が二重結合で結ばれていてもよいことを表す]
で表されるチアゾール化合物の製造方法に関する。
【0010】
本発明において、環化が進行する機構は明らかではないが、以下の機構が推定される。三価の鉄が、式(1)で示される化合物の硫黄原子を酸化することによって硫黄ラジカルが形成される。硫黄ラジカルがA1およびA2中の炭素原子と結合し、環化が進行することで、チアゾール環が形成される。硫黄ラジカルを形成するために三価から二価に還元された鉄は、酸化助剤によって再び三価に酸化される。ただし、環化が進行する機構について、仮に前記推定とは異なっていたとしても、本発明の範囲内に含まれる。
【0011】
本発明において、前記一般式(1)で表される化合物中のA1およびA2は、互いに独立して、置換基を有していてもよい炭素数4~15の芳香環または複素環を表す。そのような芳香環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環およびアントラセン環等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0012】
本発明において、複素環とは、環を構成する原子として、酸素原子、硫黄原子および窒素原子等の炭素原子以外の原子を少なくとも1つ含む環を意味する。そのような複素環としては、例えば、フラン環、ベンゾフラン環、ピラン環、ピロール環、インドール環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピロリン環、ピラゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、チエノチアゾール環、オキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、キノリン環およびフェナンスロリン環等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0013】
前記の芳香環および複素環のうち、反応が進行しやすい観点からベンゼン環、ナフタレン環が好ましく、ベンゼン環がより好ましい。
【0014】
前記A1およびA2が有していてもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、アリール基、炭素数1~8のアルコシキカルボニル基、ヒドロキシ基、スルホン酸基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、シアノ基、ニトロ基、ニトロソ基、アミノ基、カルボキシ基、炭素数1~8のアルキルスルファニル基、炭素数1~8のアリールオキシ基、チオール基およびスルファモイル基等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0015】
置換基の数は特に限定されないが、置換基を有する場合、通常1~2個が好ましい。
【0016】
前記A1および/またはA2は反応が進行しやすい観点から、好ましくは電子供与性基を有する芳香環を含み、より好ましくは炭素数1~10のアルキル基または炭素数1~10のアルコキシ基を有する芳香環を含み、さらに好ましくはメチル基またはメトキシ基を有する芳香環を含む。
【0017】
A
1および/またはA
2としては、例えば、下記式(A-1)~(A-11)
【化5】
[式中、*は結合部を表し、Meはメチル基を表す]
で表される基が挙げられる。
【0018】
本発明において、前記酸化剤はハロゲン化鉄化合物を含むことが好ましい。ハロゲン化鉄化合物としては、例えば、フッ化鉄、塩化鉄、臭化鉄およびヨウ化鉄等が挙げられるが、目的とするチアゾール環を有する物質を高収率で得られやすく、取扱性に優れることから、塩化鉄または臭化鉄が好ましい。ハロゲン化鉄は1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
ハロゲン化鉄化合物には水和物が存在するが、水和水の系中への混入による反応効率低下の虞がないことから無水物を使用することが好ましい。さらに、ハロゲン化鉄化合物として、二価の鉄を含むものおよび三価の鉄を含むものが存在するが、前述の環化機構において、式(1)で表される化合物中の硫黄元素を酸化し、硫黄ラジカルを形成させやすいことから、三価の鉄を含むハロゲン化鉄が好ましい。この反応では、三価の鉄は二価の鉄へと還元され得る。
【0020】
前記酸化剤は、前記式(1)で表される化合物1モル当量に対して、好ましくは0.01モル当量以上、より好ましくは0.1モル当量以上で存在し、好ましくは4モル当量以下、より好ましくは2モル当量以下で存在する。前記酸化剤の量が前記下限値以上および前記上限値以下であると環化に必要な硫黄ラジカルを形成させやすく、また副反応を抑制しやすい。ハロゲン化鉄化合物以外の酸化剤を併用する場合、全酸化剤中のハロゲン化鉄化合物の割合は好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。
【0021】
本発明において、前記酸化助剤は過硫酸塩を含むことが好ましい。過硫酸塩としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等が挙げられるが、酸化剤を再酸化させやすく環化が効率よく進行しやすいことから、過硫酸アンモニウムが好ましい。過硫酸塩は1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。上述の通り、酸化剤であるハロゲン化鉄に含まれる三価の鉄は、式(1)で表される化合物中の硫黄を酸化して、自身は二価の鉄へと還元され得るが、本発明における酸化助剤は、前記還元された二価の鉄を再び三価の鉄へと酸化する働きを主に担う。酸化助剤が存在しないと、式(1)で表わされる化合物の酸化に大量の酸化剤が必要となると考えられるが、酸化助剤を併用することで酸化剤の再利用が可能となり、必要な酸化剤が少量となり得る。本発明では、反応条件に応じて、酸化剤として作用する化合物が酸化助剤として作用することおよび/または、酸化助剤として作用する化合物が酸化剤として作用することもできる。本発明の好適な一態様において、酸化剤は塩化鉄および臭化鉄からなる群から選択される1種以上を含み、酸化助剤は過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウムおよび過硫酸カリウムからなる群から選択される1種以上を含む。
【0022】
前記酸化助剤は、前記式(1)で表される化合物1モル当量に対して、好ましくは2モル当量以上、より好ましくは4モル当量以上で存在し、好ましくは10モル当量以下、より好ましくは8モル当量以下で存在する。酸化助剤の量が前記下限値以上および前記上限値以下であると、酸化剤を十分に再酸化しやすく、また過剰な酸化を抑えやすい。過硫酸塩以外の酸化助剤を併用する場合、全酸化助剤中の過硫酸塩の割合は好ましくは85質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上である。
【0023】
本発明において、前記塩基はピリジン誘導体を含むことが好ましい。ピリジン誘導体としては、例えば、ピリジン、2-メチルピリジン(α-ピコリン)、3-メチルピリジン(β-ピコリン)、4-メチルピリジン(γ-ピコリン)、5-エチル-2-ピコリンおよび2,6-ルチジン等が挙げられるが、環化が選択的に進み副反応を抑制しやすいことから、ピリジンおよび3-メチルピリジンが好ましい。ピリジン誘導体は1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0024】
前記塩基は、前記式(1)で表される化合物1モル当量に対して、好ましくは2モル当量以上、より好ましくは10モル当量以上、さらに好ましくは15モル当量以上であり、好ましくは82.5モル当量以下、より好ましくは65モル当量以下、さらに好ましくは55モル当量以下である。塩基の量が前記下限値以上および前記上限値以下であると選択的に環化が進みやすいので、目的のチアゾール環誘導体を得やすい。また、任意の精製工程において、溶媒の除去が容易となり得る。ピリジン誘導体以外の塩基を併用する場合、全塩基中のピリジンの割合は好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。後述する溶媒として、ピリジン誘導体を使用した場合、溶媒であるピリジン誘導体は塩基としての役割も兼ね得る。
【0025】
本発明において、前記少なくとも1種の酸化剤、少なくとも1種の酸化助剤および少なくとも1種の塩基の存在下で、前記式(1)の化合物を環化させ、前記式(2)で表される化合物を得る工程は好ましくは溶媒の存在下で行う。
【0026】
前記溶媒は、非プロトン性極性溶媒および/または芳香族系溶媒を含むことが好ましい。そのような非プロトン性極性溶媒は、例えば、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジクロロメタン、ジクロロエタン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトン、ジメチルイミダゾリジノン、ヘキサメチルリン酸トリアミドおよびN-メチルピロリドン等が挙げられる。芳香族系溶媒としては、例えば、ピリジンおよびその誘導体、ベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、キシレン、トルエン、ジメトキシベンゼン、メシチレンおよびジメチルアニリン等が挙げられる。これらの溶媒は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。上述のように、溶媒がピリジンおよび/またはその誘導体を含む場合、塩基としての役割を兼ね得ることから、溶媒がピリジンおよび/またはその誘導体を含む態様が好ましい。ピリジンおよび/またはその誘導体以外の溶媒を併用する場合、各溶媒の比率は特に限定されないが、全溶媒中のピリジンおよび/またはその誘導体の量は前記塩基で規定した範囲の量で含まれる。
【0027】
前記溶媒の使用量は特に限定されないが、各化合物が十分に溶解して環化が効率よく進行し得るよう、通常、前記式(1)で表される化合物1質量部に対して2質量部以上、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上であり、過剰な溶媒の使用を避けるため、通常100質量部以下、好ましくは70質量部以下、より好ましくは50質量部以下である。
【0028】
本発明において、環化工程の温度は、例えば、0~50℃、好ましくは5~40℃、より好ましくは10~30℃、さらに好ましくは室温(15~25℃程度)で実施してよい。環化工程の温度が前記範囲内であると、副反応を抑制しやすい。また、柔和な条件であるため、より安全に目的の化合物を得やすい。温度の調整方法は特に限定されないが、例えば、オイルバスまたはウォーターバスを使用できる。
【0029】
環化工程の時間も特に限定されない。温度が高いと環化工程に必要な時間は短くなる傾向にあるが、副反応が起こりやすくなるため、使用する化合物の種類、比率および温度等に応じて任意の時間で実施してよい。環化工程の時間は、例えば、0.5~24時間、好ましくは1~18時間、より好ましくは3~12時間であってよい。本発明において、環化工程の時間は、式(1)で表される化合物、塩基、ならびに酸化剤および酸化助剤のうちの1種以上が併存し始めた時点を始点とし、原料および反応中間体の変換が停止した時点を終点とする。
【0030】
環化工程は空気中、または不活性ガス雰囲気下(例えば窒素、アルゴン等)で実施してよく、常圧下、加圧下または減圧下で実施してもよい。好ましい態様においては、常圧下および不活性ガス雰囲気下で実施する。
【0031】
本発明において、式(1)で表される化合物、酸化剤、酸化助剤および塩基は、環化工程前に脱水しておくことが好ましい。脱水の方法としては特に限定されないが、例えば、乾燥等が挙げられる。
【0032】
本発明において、前記式(1)で表される化合物を、前記酸化剤、酸化助剤および塩基の存在下で環化させる方法は特に限定されず、使用する化合物の種類や量等に応じて任意の方法を選択してよい。例えば、前記式(1)で表される化合物、酸化剤、酸化助剤および塩基を溶媒に溶解させて混合する方法が挙げられる。この場合、式(1)で表される化合物、酸化剤、酸化助剤および塩基を溶媒に溶解させる順番は問わず、使用する化合物の種類または量等に応じて任意の順番で溶解させてよい。また、化合物を混合する方法も特に限定はなく、各化合物をそのまま溶媒中に添加してもよいし、各化合物をそれぞれあらかじめ溶媒に溶解させて溶液状態とし、その溶液を混合してもよい。あるいは前記2つの方法を組み合わせる方法、すなわち、一部の化合物はそのまま添加し、一部の化合物は溶液状態で添加してもよい。混合法も特に限定されず、各化合物を同時に系に加えてもよく、1種類ごとに連続して加えてもよい。各化合物が溶液状態で連続添加する場合、溶液を滴下して添加してもよい。また、酸化剤または酸化助剤についても溶媒に溶解させてから、溶液を滴下して添加してもよい。
【0033】
反応系は、環化に影響を及ぼさない限り、上述の各化合物以外の物質を含んでいてもよい。そのような物質としては、例えば、モレキュラーシーブ等が挙げられる。
【0034】
前記環化工程を経て、前記式(1)で示される化合物から、式(2)
【化6】
[式中、B
1およびB
2で表される点線の円弧は、実線で表される骨格部分と共に置換基を有していてもよい環構造を形成していることを表し;実線で表される骨格部分における点線部分は、点線で結ばれる1対の原子が二重結合で結ばれていてもよいことを表す]
で表される化合物を得ることができる。すなわち、式(1)で表される化合物中の窒素原子および硫黄原子がA
1およびA
2中の炭素原子と結合し、B
1およびB
2で表される環構造を形成した、チアゾール環を有する式(2)で表される化合物を得ることができる。
【0035】
式(1)で表される化合物から式(2)で表される化合物への環化の進行は、例えばin-situ FTIR(フーリエ変換赤外分光分析法)等によってモニタリングすることができる。
【0036】
前記モニタリングによって環化が完全に進行した後、必要に応じて、環化に使用した溶媒等を除去して式(2)で表される化合物を精製してもよい。精製する方法は特に限定されず、既知の方法、例えば、蒸留、分液、濾過等を実施してよい。
【0037】
本発明の製造方法によれば、得られにくいとされていた置換基を有する出発化合物に対しても、目的とする2つの環を有する化合物を少ない工程で効率よく得ることができる。具体的には、繰り返しの環化工程を経ることなく、1工程で2つのチアゾール環を形成させることができる。さらに、目的とする2つの環を有する化合物を、比較的高い収率で得ることができる。
【実施例】
【0038】
以下の実施例および比較例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0039】
<収率>
目的の化合物の収率は、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)を用いて以下の測定条件より求めた。
(測定条件)
測定装置:HPLC LC-10AT(島津製作所製)
カラム:L-Column ODS(内径3.0mm、長さ150mm、粒径3μm)
温度:40℃
移動相A:0.1%(v/v)-TFA/水
移動相B:0.1%(v/v)-TFA/アセトニトリル
グラジエント:0min 10%-B
30min 100%-B
45min 100%-B
流速:0.5mL/min
注入量:5μL
検出波長:254nm
【0040】
<チアゾール化合物の製造>
(実施例1)
以下の式
【化7】
[式中、Meはメチル基を表す]
で表される化合物(以下、化合物Aと称する)0.40gを撹拌機、ジムロート冷却管、および温度計を設置した20mL-四つ口フラスコ内に加え、ピリジン(富士フイルム和光純薬(株)製)4.48g(化合物Aに対して11.2質量部)を加え、撹拌し溶解させた。次いで、臭化鉄(III)(シグマ・アルドリッチジャパン(株)製)0.033g(化合物Aに対して0.1モル当量)、過硫酸アンモニウム(富士フイルム和光純薬(株)製)1.01g(化合物Aに対して4.0モル当量)を加え撹拌し、内温25℃とした。25℃で12時間撹拌した後、水4.0gを加え濾過し、濾物として粗生成物を0.40g得た。化合物Aから以下の式
【化8】
[式中、Meはメチル基を表す]
で表される化合物(以下、化合物Bと称する)が収率96%で得られた。
【0041】
(実施例2)
ピリジンを3-メチルピリジン(富士フイルム和光純薬(株)製)(化合物Aに対して11.2質量部)に変えたこと以外は実施例1と同様にして環化を実施した。化合物Bの収率は71%であった。
【0042】
(実施例3)
過硫酸アンモニウムから過硫酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬(株)製)(化合物Aに対して4.0モル当量)に変えたこと以外は実施例1と同様にして環化を実施した。化合物Bの収率は89%であった。
【0043】
(実施例4)
撹拌機、ジムロート冷却管、および温度計を設置した20mL-四つ口フラスコ内にジメチルスルホキシド(DMSO)(富士フイルム和光純薬(株)製)(化合物Aに対して7.0質量部)およびピリジン(化合物Aに対して4モル当量)を加え、臭化鉄(III)(化合物Aに対して0.1モル当量)および過硫酸アンモニウム(化合物Aに対して2.0モル当量)を加えて撹拌混合し、内温を25℃とした。
そこへ、化合物A0.40gをDMSO(化合物Aに対して4.2質量部)に溶解したものを2時間かけて徐々に添加し、さらに25℃で10時間撹拌した。その後水4.0gを加え濾過し、化合物Bを得た。化合物Bの収率は91%であった。
【0044】
(実施例5)
臭化鉄(III)を塩化鉄(III)(化合物Aに対して0.1モル当量)に変更し、過硫酸アンモニウム(化合物Aに対して4.0モル当量)を過硫酸ナトリウム(化合物Aに対して8.0モル当量)に変更し、ピリジンを化合物Aに対して50.1モル当量から4モル当量に変更し、溶媒としてアセトニトリル(化合物Aに対して12.0質量部)を使用したこと以外は実施例1と同様にして環化を実施した。化合物Bの収率は69%であった。
【0045】
(実施例6)
臭化鉄(III)を塩化鉄(III)(化合物Aに対して0.1モル当量)に変更し、過硫酸アンモニウムを過硫酸ナトリウム(化合物Aに対して4.0モル当量)に変更し、ピリジンをピリジンとモノクロロベンゼンの混合物(質量比で1:1)(化合物Aに対して11.2質量部)に変更したこと以外は実施例1と同様にして環化を実施した。化合物Bの収率は69%であった。
【0046】
(実施例7)
ピリジンとモノクロロベンゼンの混合物(質量比で1:1)をピリジンとジメトキシベンゼンの混合物(質量比で1:1)(化合物Aに対して11.2質量部)に変更したこと以外は実施例6と同様にして環化を実施した。化合物Bの収率は76%であった。
【0047】
(実施例8)
臭化鉄(III)を塩化鉄(III)(化合物Aに対して0.1モル当量)に変更し、過硫酸アンモニウムを過硫酸ナトリウム(化合物Aに対して4.0モル当量)に変更したこと以外は実施例1と同様にして環化を実施した。化合物Bの収率は80%であった。
【0048】
(実施例9)
臭化鉄(III)を塩化鉄(III)(化合物Aに対して0.1モル当量)に変更し、過硫酸ナトリウムを過硫酸カリウム(化合物Aに対して4.0モル当量)に変更したこと以外は実施例1と同様にして環化を実施した。化合物Bの収率は66%であった。
【0049】
(実施例10)
臭化鉄(III)を塩化鉄(III)(化合物Aに対して0.1モル当量)に変更したこと以外は実施例1と同様にして環化を実施した。化合物Bの収率は86%であった。
【0050】
(実施例11)
塩化鉄(III)の量を化合物Aに対して0.1モル当量から0.01モル当量に変更したこと以外は実施例8と同様にして環化を実施した。化合物Bの収率は77%であった。
【0051】
(実施例12)
撹拌機、ジムロート冷却管、および温度計を設置した20mL-四つ口フラスコ内に0.40gの化合物A、過硫酸ナトリウム(化合物Aに対して4.0モル当量)およびピリジン(化合物Aに対して11.2質量部)を撹拌混合し、内温を25℃とした。そこへ、塩化鉄(III)(化合物Aに対して2.0モル当量)を3時間かけて徐々に添加しさらに25℃で9時間撹拌した。その後水4.0gを加え濾過し、化合物Bを得た。化合物Bの収率は75%であった。
【0052】
(実施例13)
化合物Aの代わりに、以下の式
【化9】
[式中、Meはメチル基を表す]
で表される化合物(以下、化合物Cと称する)を使用し、塩化鉄(III)の量を化合物Cに対して0.1モル当量、過硫酸ナトリウムの量を化合物Cに対して8.0モル当量、アセトニトリルの量を化合物Cに対して11.2質量部、ピリジンの量を化合物Cに対して4.0モル当量としたこと以外は実施例5と同様に環化を実施した。以下の式
【化10】
[式中、Meはメチル基を表す]
で表される化合物(以下、化合物Dと称する)の収率は35%であった。
【0053】
(実施例14)
塩化鉄(III)を臭化鉄(III)(化合物Cに対して0.1モル当量)に変更し、過硫酸ナトリウム(化合物Cに対して8.0モル当量)を過硫酸アンモニウム(化合物Cに対して4.0モル当量)に変更したこと以外は実施例13と同様に環化を実施した。化合物Dの収率は34%であった。
【0054】
(実施例15)
化合物Cの代わりに以下の式
【化11】
で表される化合物(以下、化合物Eと称する)使用し、塩化鉄(III)の量を化合物Eに対して0.1モル当量、溶媒をアセトニトリル(化合物Cに対して11.2質量部)からピリジン(化合物Eに対して12質量部)に変更し、過硫酸ナトリウム(化合物Cに対して8.0モル当量)から過硫酸アンモニウム(化合物Eに対して4.0モル当量)に変更したこと以外は実施例13と同様に環化を実施した。以下の式
【化12】
で表される化合物(以下、化合物Fと称する)の収率は98%であった。
【0055】
(比較例1)
臭化鉄(III)(化合物Aに対して0.1モル当量)をフェリシアン化カリウム(化合物Aに対して4.0モル当量)に変更し、ピリジン(化合物Aに対して11.2質量部)をエタノール(化合物Aに対して12.0質量部)に変更し、塩基として水酸化ナトリウム(化合物Aに対して4.0モル当量)を使用し、過硫酸アンモニウムを用いなかったこと以外は実施例1と同様に環化を実施した。化合物Bの収率は0%であった。
【0056】
(比較例2)
臭化鉄(III)(化合物Aに対して0.1モル当量)を塩化チオニル(化合物Aに対して10.0モル当量)に変更し、ピリジン(化合物Aに対して11.2質量部)を水(化合物Aに対して10.0質量部)に変更し、過硫酸アンモニウムを用いなかったこと以外は実施例1と同様に環化を実施した。化合物Bの収率は0%であった。
【0057】
(比較例3)
臭化鉄(III)(化合物Aに対して0.1モル当量)をN-ブロモスクシンイミド(化合物Aに対して1.2モル当量)、ピリジン(化合物Aに対して11.2質量部)をクロロホルム(化合物Aに対して10.0質量部)に変更し、過硫酸アンモニウムを用いなかったこと以外は実施例1と同様に環化を実施した。化合物Bの収率は0%であった。
【0058】
(比較例4)
臭化鉄(III)(化合物Aに対して0.1モル当量)を硝酸セリウム(IV)アンモニウム(化合物Aに対して4.2モル当量)に変更し、ピリジン(化合物Aに対して11.2質量部)をアセトニトリル100質量部と水10.0質量部の混合物に変更し、塩基として炭酸水素ナトリウム(化合物Aに対して6.0質量部)を使用し、過硫酸アンモニウムを使わなかったこと以外は実施例1と同様に環化を実施した。化合物Bの収率は0%であった。
【0059】
以上の結果を表1にまとめる。
【0060】
【0061】
実施例1~15はいずれも、少ない工程によって2つのチアゾール環を有する化合物を得ることができる製造方法であることがわかる。一方、比較例1~4では2つのチアゾール環を有する化合物を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明により、少ない工程によって効率よく2つのチアゾール環を有するチアゾール化合物を得ることができる製造方法が提供される。このような製造方法は、医薬品や電気材料等の用途に有用なチアゾール化合物を効率的に製造するのに役立つ。
本明細書の好ましい態様は、少なくとも下記を包含する。
[1]少なくとも1種の酸化剤、少なくとも1種の酸化助剤および少なくとも1種の塩基の存在下で、式(1)
[式中、A
1
およびA
2
は互いに独立して、置換基を有していてもよい炭素数4~15の芳香環または複素環を表す]
で表される化合物を環化させる工程を含む、式(2)
[式中、B
1
およびB
2
で表される点線の円弧は、実線で表される骨格部分と共に置換基を有していてもよい環構造を形成していることを表し;実線で表される骨格部分における点線部分は、点線で結ばれる1対の原子が二重結合で結ばれていてもよいことを表す]
で表されるチアゾール化合物の製造方法。
[2]前記式(1)中のA
1
および/またはA
2
は、電子供与性基を有する芳香環を含む[1]に記載の方法。
[3]前記酸化剤はハロゲン化鉄化合物を含む、[1]または[2]に記載の方法。
[4]前記酸化助剤は過硫酸塩を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記酸化剤は、前記式(1)で表される化合物1モル当量に対して、0.01モル当量以上4モル当量以下で存在する、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]前記塩基はピリジン誘導体を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]前記塩基は、前記式(1)で表される化合物1モル当量に対して、2モル当量以上82.5モル当量以下で存在する、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]前記環化は溶媒の存在下で行う、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]前記溶媒は非プロトン性極性溶媒および/または芳香族系溶媒を含む、[8]に記載の方法。