(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】オキシトシン受容体作動性組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/047 20060101AFI20241203BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20241203BHJP
A61K 31/215 20060101ALI20241203BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20241203BHJP
A61P 19/00 20060101ALI20241203BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20241203BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20241203BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20241203BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20241203BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
A61K31/047
A23L33/10
A61K31/215
A61K31/704
A61P19/00
A61P21/00
A61P25/00
A61P25/18
A61P25/28
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2020182493
(22)【出願日】2020-10-30
【審査請求日】2023-08-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】林 遼太郎
(72)【発明者】
【氏名】松田 久司
(72)【発明者】
【氏名】西森 克彦
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-057365(JP,A)
【文献】特開2009-249374(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101824067(CN,A)
【文献】特開2006-070018(JP,A)
【文献】特開2005-053815(JP,A)
【文献】特表2014-530219(JP,A)
【文献】林遼太郎,高脂肪食で誘発される精神性障害とそのメカニズムの研究:オキシトシン投与で改善する高脂肪食餌誘発性肥満マウスの社会認知機能と物体認知機能の障害,学位論文,東北大学機関リポジトリ TOUR,2020年10月20日,[検索日:2024.06.11], インターネット, <URL:https://tohoku.repo.nii.ac.jp/records/131933>
【文献】Weiwei Rong et al.,A time-of-flight mass spectrometry based strategy to fast screen triterpenoids in Xanthoceras sorbifolia Bunge husks for bioactive substances against Alzheimer's disease,RSC Adv.,2018年,8,14732,DOI:10.1039/c8ra01765d
【文献】Xin-Fu Zhang et al.,Qualitative and Quantitative Analysis of Triterpene Saponins from Tea Seed Pomace (Camellia oleifera Abel) and Their Activities against Bacteria and Fungi,Molecules,2014年,19,7568-7580,DOI:10.3390/molecules19067568
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A23L 33/00-33/29
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式IのR
1-バリゲノール及び/又はR
1-バリゲノール誘導体を含み、前記R
1-バリゲノール誘導体が、R
1-バリゲノールの配糖体又はアシル化体である、オキシトシン受容体作動
用組成物
式I
。
【請求項2】
前記R
1-バリゲノールの配糖体又はアシル化体が、下記の化合物から選択される、請求項1に記載のオキシトシン受容体作動
用組成物
。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のオキシトシン受容体作動
用組成物を含む、オキシトシン受容体作動
用食品。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のオキシトシン受容体作動性組成物を含む、オキシトシン受容体作動
用医薬。
【請求項5】
オキシトシン受容体の活性化を介した疾患の予防、または緩和のための請求項3に記載の食品。
【請求項6】
オキシトシン受容体の活性化を介した疾患の予防、緩和、または治療のための請求項4に記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はR1-バリゲノール及び/又はその誘導体を有効成分とするオキシトシン受容体作動性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
オキシトシン(以下、OXTとも称する)は9アミノ酸から成る環状ペプチドホルモンであり、子宮筋収縮剤として古くから臨床的に利用されている。OXTは、室傍核や視索上核で合成され、下垂体後葉から血中に分泌される。分泌されたOXTは、生殖器官 (子宮、乳腺、卵巣、精巣)、腎臓、脳等の各種生体内器官の細胞膜に局在しているオキシトシン受容体(以下、OXTRとも称する)にリガンドとして作用する。
OXTRとは、GタンパクとしてGαq/11とGαiとが共役する7回膜貫通型ドメインを持つGPCRの1種である。OXTRがリガンドにより刺激を受けると、フォスフォリパーゼCが活性化されて細胞内Ca2+動員系が作動し、下流のカスケードにシグナルが伝達され、その結果、子宮筋収縮や乳汁射出といった生理機能が発現する。
近年の研究では、OXTRが筋肉再生(非特許文献1)、骨形成(非特許文献2)、甘味感受性の修飾(非特許文献3)、腸炎の抑制(非特許文献4)、ストレス緩和(非特許文献5)、摂食行動(非特許文献6)、アルコール摂取の抑制(非特許文献7)、夫婦等のつがいの形成(非特許文献8)、母性行動(非特許文献9)、共感性行動(非特許文献10)、社会認知機能(非特許文献11)、物体認知機能(非特許文献12)、攻撃行動(非特許文献9)、抗不安作用(非特許文献13)などの制御にも関与していることが明らかになってきた。更には、OXT投与により信頼の情勢(非特許文献14)、心の理解の増加(非特許文献15)、夫婦間のもめ事会話の改善(非特許文献16)、自閉症症状の改善(非特許文献17)、間食の減少(非特許文献18)などの効果も報告されている。
OXTRを活性化させるアゴニストは種々報告されており、非ペプチド性とペプチド性の化合物とに大別される。非ペプチド性のアゴニストとしてはWAY-267474、LIT-001(非特許文献19、20)などが挙げられるが、いずれも化学合成されたものであり安全性への懸念などから実用化には至っていない。ペプチド性のアゴニストとしては、OXTやOXTと類縁のホルモンとしてバソプレシン(以下、AVPと略す)が挙げられるが、消化酵素などにより体内で分解されやすいことや、血中に移行した後も体内半減期が短いなどの課題がある。
一方で、OXTと同様にAVPは9アミノ酸から成る神経ペプチドホルモンであり、9アミノ酸の内7アミノ酸がOXTと共通するという高い相同性を有している。AVP受容体(以降、AVPRと略す)はVasopressin 1A receptor(以下、V1aRと略す),Vasopressin V1b receptor(以下、V1bRと略す),Vasopressin 2 receptor(以下、V2Rと略す)の3種類が知られている。構造類似体のV1aR,V1bRは主に血管・肝臓,下垂体前葉などに発現しており、またV2Rは主に腎臓で発現している。
OXTRとAVPRは相同性も高く、ヒトにおいて、AVPはAVPR(V1aR、V1bR、V2R)およびOXTRに対して同程度の親和性で結合することが知られている(非特許文献21)。ここで、AVPRのうちV1aRと精神疾患の関係性が知られており、AVPがV1aRに作用して不安や恐怖が高まること報告されている。OXTとAVPとの相同性が高く、OXTRとAVPRとの親和性も高く、更にはAVPに対するOXTRとAVPRとの親和性が同程度であることから、OXTRアゴニストがAVPRを介した副作用をもたらす恐れがある。例えば、これまでにOXTRリガンドとして報告されているcompound13(非特許文献22)やVal3Pro8-OT(非特許文献23)はアゴニストとして作用してV1aRを活性化させることが報告されている。
以上のことから、OXTRアゴニストには、OXTと相同性の高いリガンドのレセプターに対して意図せざる作用を示して副作用をもたらすことなく(OXTRに対して特異的であり)、体内半減期の長い非ペプチド性であることが望ましく、更には、食経験のある天然加食性素材由来で、安全かつ手軽に摂取可能であることが求められている。
R1-バリゲノール(R1-barrigenol)及びその配糖体やアシル化体などの誘導体は、茶花やトベラの葉などに含まれている天然成分であり、R1-バリゲノールは抗菌活性等(非特許文献24)、R1-バリゲノールの配糖体は腸運動亢進作用や遊離脂肪酸産生作用等(特許文献1)や抗高脂血症、胃腸保護作用、膵リパーゼ阻害作用、摂食抑制効果等(非特許文献25)を示すことが知られている。しかしながらR1-バリゲノール及びその誘導体がOXTRアゴニスト活性を有することは、従来は全く知られていなかた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Elabd C et al.Nat Commun 5:4082, 2014
【文献】Tamma R et al.Proc Natl Acad Sci USA 106:7149-7154, 2009
【文献】Sinclair MS et al. Physiol Behav 141:103-1010, 2014
【文献】De Araujo AD et al. Nat Commun 5:3165, 2014
【文献】Zheng J et al., Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol. 2010;299(4):G946-G953.
【文献】Maejima Y et al.,Sci Rep. 2017;7(1):8599. Published 2017 Aug 17.
【文献】Bowen MT et al. Proc Natl Acad Sci USA 112:3104-3109, 2015
【文献】Bosch, Oliver J et al.,Springer, Cham, 2017. 97-117.
【文献】TakayanagiY, et al., Proc Natl Acad Sci USA 102.44 (2005): 16096-16101.
【文献】Li, Lai-Fu, et al. Psychoneuroendocrinology 103 (2019): 14-24.
【文献】Hara, Yuta, et al. Hormones and behavior 96 (2017): 130-136.
【文献】Park, Seong-Hae, et al. Int J Neuropsychopharmacol.20.10 (2017): 861-866.
【文献】J Neurosci. 2009 Feb 18;29(7):2259-71.
【文献】Kosfeld et al., Nature, 2005, 435, 673(添付)
【文献】Domes et al., Biol Psychiatry, 2007, 61, 731(添付)
【文献】Ditzen et al., Biol Psychiatry, 2009, 65, 728 (添付)
【文献】Hollander, Eric, et al. Biological psychiatry 61.4 (2007): 498-503.
【文献】Ott, Volker, et al., Diabetes 62.10 (2013): 3418-3425.
【文献】Frantz, Marie-Celine, et al. Journal of medicinal chemistry 61.19 (2018): 8670-8692.
【文献】Gulliver, Damien, et al. Trends in pharmacological sciences 40.1 (2019): 22-37.
【文献】生体の科学 64巻5号 (2013年10月)pp.392-393
【文献】Kablaoui, Natasha,et al.,Bioorganic & medicinal chemistry letters 28.3 (2018): 415-419.
【文献】Parreiras-e-Silva, Lucas T., et al. Proceedings of the National Academy of Sciences 114.34 (2017): 9044-9049.
【文献】Oh JH, et al. Molecules. 2014;19(3):3607-3616. Published 2014 Mar 24. doi:10.3390/molecules19033607
【文献】Matsuda H., et al. J Nat Med. 2016;70(4):689-701. doi:10.1007/s11418-016-1021-1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、天然物由来の素材から得られ、安全性が高く手軽に摂取可能であるオキシトシン受容体作動性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、各種食用素材由来の各種抽出物について、In vitroでの系を用いてオキシトシン受容体アゴニストの探索を行った。その結果、日常容易に入手または食用とし得る天然物由来の素材、すなわち式Iの化合物R
1-バリゲノール及び/又はその誘導体を含む組成物がオキシトシン受容体アゴニストとして活性を有することを見出し、本発明の完成に至った。
すなわち本発明は以下の通りである。
[1]下記の式IのR
1-バリゲノール及び/又はR
1-バリゲノール誘導体を含み、前記R
1-バリゲノール誘導体が、R
1-バリゲノールの配糖体又はアシル化体である、オキシトシン受容体作動性組成物
式I
。
[2]前記R
1-バリゲノールの配糖体又はアシル化体が、下記の化合物から選択される、[1]に記載のオキシトシン受容体作動性組成物
[3][1]又は[2]に記載のオキシトシン受容体作動性組成物を含む、オキシトシン受容体作動性食品。
[4][1]又は[2]に記載のオキシトシン受容体作動性組成物を含む、オキシトシン受容体作動性医薬。
[5]オキシトシン受容体の活性化を介した疾患の予防、または緩和のための[3]に記載の食品。
[6]オキシトシン受容体の活性化を介した疾患の予防、緩和、または治療のための[4]に記載の医薬。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、本発明のR1-バリゲノール及び/又はR1-バリゲノール誘導体を含む組成物はオキシトシン受容体アゴニスト活性を有し、オキシトシン受容体を活性化することが出来る。また本発明の組成物は、食経験のある天然物(食品素材)由来の成分を含む組成物であり、安価に、長期間にわたって継続的に摂取することができる。
さらに本発明は、筋肉、骨に関わるロコモティブシンドローム、甘味感受性の修飾、腸炎の抑制、ストレス緩和、摂食行動抑制、アルコール摂取の抑制、パートナー嗜好性の調節、母性行動の促進、共感性行動の促進、コミュニケーション能力の改善、認知機能の改善、攻撃行動の抑制、抗不安作用等のオキシトシン受容体に関連する疾患または症状の治療、改善、抑制、または予防に用いられる食品又は医薬に利用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】OXTRアゴニスト評価系の構築のためのpGL4.3ベクターとpF9Aベクターを示す。
【
図2】OXTRアゴニスト評価系の動作確認の結果を示す。
【
図3】AVPRアゴニスト評価系の反応性の確認の結果を示す。
【
図4】OXTRアゴニスト評価系を用いたR
1-バリゲノールの評価の結果を示す。
【
図5】V1aRアゴニスト評価系を用いたR
1-バリゲノールの評価の結果を示す。
【
図6】R
1-バリゲノールが有するOXTR反応性の濃度依存性の検討の結果を示す。
【
図7】pGL4.3ベクターと、pF9AからOXTR cDNAを除いたベクター(pF9A control)を示す。
【
図8】R
1-バリゲノールのOXTR非特異的なシグナルについての検討の結果を示す。
【
図9】カルシウムイメージング評価系の動作確認の結果を示す。
【
図10】カルシウムイメージング評価系によるR
1-バリゲノールのOXTRアゴニスト活性の評価の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のオキシトシン受容体作動性組成物は、下記の式IのR
1バリゲノール及び/又はR
1-バリゲノール誘導体を含む
式I
。
【0010】
本発明において、R
1-バリゲノール誘導体はR
1-バリゲノールの配糖体又はアシル化体である。R
1-バリゲノールの配糖体又はアシル化体は、天然物に含まれる成分として含まれるものであれば特に限定されない。R
1-バリゲノールの配糖体又はアシル化体は好ましくは下記の化合物から選択される。
【0011】
本発明のオキシトシン受容体作動性組成物は、オキシトシン受容体アゴニスト活性を有する。当該活性は、公知の方法によって評価することが可能であるが、In vitroではオキシトシン受容体発現細胞を用いたレポーターアッセイ及び細胞内Ca2+イメージングにより評価することが可能である。さらに当該オキシトシン受容体アゴニスト活性はオキシトシン受容体アンタゴニストによりその活性が阻害されるかで評価することもできる。
【0012】
すでに生体内においてオキシトシン受容体に関連する機能が示されているオキシトシンは、In vitroにおけるヒトオキシトシン受容体発現細胞を用いたレポーターアッセイ及び細胞内Ca2+イメージングによりその活性が確認されている。以上より、In vitroにおけるオキシトシン受容体アゴニスト活性とIn vivoにおけるオキシトシン受容体に関連する効果が相関関係を有することは明らかである。
また、配糖体は腸内細菌で加水分解を受けてからアグリコンが吸収されるとされており、R1-バリゲノールの配糖体である化合物(1)チャカサポニンII(chakasaponin II)、化合物(2)チャカサポニンIII(chakasaponin III)、化合物(3)デスアシルフロラテアサポニンB(desacyl-floratheasaponin B)についても経口投与でR1-バリゲノールと同様の効果が期待できる。また、アシル化体は体内のエステラーゼによって加水分解されR1-バリゲノールが生成することから、R1-バリゲノールのアシル化体である化合物(4)21-O-アンゲロイル-R1-バリゲノール(21-O-angeloyl-R1-barrigenol)についても経口投与でR1-バリゲノールと同様の効果が期待できる。
【0013】
本発明において、R1-バリゲノール及び/又はR1-バリゲノール誘導体はそれらが含まれる茶花やトベラの葉などの天然物それ自体又はそれ自体を乾燥させたものやさらに粉砕物としたものとして含まれていても良く、また天然物由来の素材である茶花及びトベラより抽出して得られる抽出物から精製することができる。
茶はツバキ科ツバキ属の植物チャノキ(学名Camellia sinensis)、トベラはトベラ科トベラ属の植物トベラ(学名Pittosporum tobira)である。抽出試料として例えば茶の花部、トベラの葉部を用いることが出来る。本発明においてこれらの抽出試料の保存状態、粉砕方法、品種または産地は特に限定されない。
【0014】
抽出物は、当業者に公知の抽出方法によって得ることができ、例えば抽出方法として、有機溶媒抽出、超臨界流体抽出法、加温加圧抽出法などを挙げることができる。上記抽出方法は、それぞれを単独で用いてもよいし、複数の抽出方法を組合せて用いてもよい。
本発明において、特に好ましい抽出方法は溶媒抽出である。溶媒抽出は当業者に知られる一般的な手法を用いて行うことができる。具体的には、まず、粉砕物または乾燥破砕物に水と有機溶媒とを添加して、室温または加温にて抽出する。
抽出溶媒としては、エタノール、メタノール、酢酸エチル、アセトン、水などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらの溶媒は単独または2種類以上を混合して用いてもよい。好ましくは、食品等への使用の安全性からエタノールを用いるのが望ましい。添加する溶媒の量は、抽出素材の重量の1~100倍、好ましくは5~50倍、例えば10倍量を用いる。
抽出方法としては、例えば、茶花若しくはトベラの葉と前記抽出溶媒とを混合し、室温で1~5時間攪拌または抽出溶媒の煮沸温度で1~5時間還流して抽出を行った後、ろ過や遠心分離などにより抽出液から試料残渣を取り除き、減圧または限外ろ過により抽出物を濃縮する方法が挙げられる。また必要に応じて酸若しくはアルカリによる加水分解を行う。さらに、抽出液を乾固、凍結乾燥、スプレードライなどの一般的な方法により乾燥させることも出来る。
【0015】
上記のようにして得られた抽出物より、R1-バリゲノール及び/又はR1-バリゲノール誘導体を適当な分離法および精製法を組み合わせて精製して用いることが可能である。当該精製法としては、例えば、液-液分配、有機溶媒沈澱、各種カラムクロマトグラフィー(例えばHPLC、シリカゲルクロマトグラフィー、分子ふるいクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィーなど)、結晶化などを使用することができる。
得られた、R1-バリゲノール及び/又はR1-バリゲノール誘導体は、オキシトシン受容体アゴニストとしてそのまま直接摂取することも出来るし、また、公知の担体や各種基材などに配合することも出来る。
【0016】
R1-バリゲノール及び/又はR1-バリゲノール誘導体の投与量または摂取量は、所与の症状や用法について治療効果を与え得る量であり、その量は、動物を用いた試験、臨床試験の実施により当業者によって適宜決定されるが、投与対象の年齢、性別、体重、適用疾患およびその症状、剤形、投与方法などが考慮されるべきである。例えば、経口剤により経口投与される場合には、上記投与量または摂取量は、R1-バリゲノールの量に換算して0.01~100mg/kg体重/日、好ましくは0.01~20mg/kg体重/日とすることができる。
食品に含まれる場合、R1-バリゲノール及び/又はR1-バリゲノール誘導体はR1-バリゲノールに換算して0.01~50重量%、好ましくは1~30重量%程度であり、成人1人(体重約50kg)につき、1日当たり0.5~5000mg、好ましくは0.5~100mgの摂取量となるように摂取すればよい。
【0017】
本発明は上記オキシトシン受容体作動性組成物を含有する食品に関する。本発明のオキシトシン受容体作動性組成物は、健康食品、機能性表示食品、特定保健用食品、栄養補助食品、栄養機能食品等の保健機能食品、特別用途食品(例えば、病者用食品)、疾病リスク低減表示を付した食品、健康補助食品、サプリメント等として調製されてもよい。
サプリメントとして、例えば、一般的なサプリメントの製造に用いられる種々の添加剤とともに錠剤、丸状、カプセル(ハードカプセル、ソフトカプセル、マイクロカプセルを含む)状、粉末状、顆粒状、細粒状、トローチ状、液状(シロップ状、乳状、懸濁状を含む)等の形状とすることができる。また液状、半液体状もしくは固体状にしたもの、ペースト状にしたもの、または、一般の飲食品へ添加したものであってもよい。
【0018】
配合可能な食品に特に限定はないが、例えば、飯類、餅類、麺類、パン類およびパスタ類等の炭水化物含有飲食品;クッキーやケーキなどの洋菓子類、饅頭や羊羹等の和菓子類、キャンディー類、ガム類、ヨーグルトやプリンなどの冷菓や氷菓などの各種菓子類;ジュース、清涼飲料水、乳飲料、茶飲料、機能性飲料、栄養補助飲料、ノンアルコールビール等の各種飲料;ビール、発泡酒等のアルコール飲料;スープ、味噌汁、お吸い物などの飲食品;卵を用いた加工品、魚介類(イカ、タコ、貝、ウナギなど)や畜肉(レバー等の臓物を含む)の加工品(珍味類を含む);だし、しょうゆ、みりんその他の調味料などが挙げられる。
【0019】
また、本発明の食品は、本発明の効果を損なわない範囲で、オキシトシン受容体作動性組成物の他、栄養補助成分などの他の成分を含むことができる。かかる成分には、ビタミン類(例えばビタミンA、ビタミンB群、ビタミンE、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンK、ナイアシン、パントテン酸、葉酸等)、カロチノイド(例えばβ-カロチン、リコピン、フコキサンチン等)、ミネラル類(例えば海藻成分、CCM、ヘム鉄、鉄塩系、乳清カルシウム、発酵乳酸カルシウム、牛骨カルシウム、珊瑚カルシウム、卵殻カルシウム等)、各種植物体並びにその抽出物、精製物および分画物(例えばオオバコ、クロレラ、スピルリナ、にんにく、いちょう葉、ギムネマ、杜仲の葉、しその葉、ハトムギ、大豆グロブリン、ルチン、緑茶抽出物、テアニン、ポリフェノール類、甘草、ユッカ、大豆サポニン、カフェイン、ホワトルベリーエキス、シャンピニオンエキス、ガルシニア・カンボジアエキス等)、微生物並びにその増殖因子および微生物生産物(例えば乳酸菌、酵母、乳酸菌増殖因子等)、食物繊維およびその酵素分解物(例えばアップルファイバー、コーンファイバー、澱粉由来の食物繊維、難消化性デキストリン、グアガム酵素分解物、サツマイモ繊維、大豆繊維、海藻繊維、きのこ繊維、茶繊維、酸性多糖類、植物粘質物、小麦フスマ等)、動物体並びにその抽出物、精製物、分解物および生産物(例えばローヤルゼリー、プロポリス、牡蠣エキス、キチン、キトサン、タウリン、コラーゲン、ゼラチン等)、各種オリゴ糖(例えばガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、大豆オリゴ糖、フラクトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、乳果オリゴ糖等)、脂質(例えば不飽和脂肪酸(DHA、EPA等)、リン脂質、サラトリム等)、各種蛋白質および蛋白分解物(例えばとうもろこし蛋白、大豆蛋白、TMP(トータルミルクプロテイン)、ラクトアルブミン、カゼイン、ホエー、グルタチオン、大豆ペプチド、卵白ペプチド、グルタミンペプチド等)、脱脂胚芽等の小麦胚芽などが挙げられる。
【0020】
本発明は上記オキシトシン受容体作動性組成物を含有する医薬に関する。本発明のオキシトシン受容体作動性組成物は、助剤とともに任意の形態に製剤化して、経口投与または非経口投与が可能な医薬品とすることができる。例えば、経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤(糖衣錠を含む)、丸剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤が挙げられる。非経口剤としては、注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤)、点滴剤、外用剤(例えば、経鼻投与製剤、経皮製剤、軟膏剤)、坐剤(例えば、直腸坐剤、膣坐剤)が挙げられる。これらの製剤は、当分野で通常行われている手法により、薬学上許容される担体を用いて製剤化することができる。薬学上許容される担体としては、賦形剤、結合剤、希釈剤、添加剤、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤等が挙げられ、例えば、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、砂糖、ラクトース、ペクチン、デキストリン、澱粉、ゼラチン、トラガント、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、低融点ワックス、カカオバターを担体として使用できる。
【0021】
経口剤の態様とする場合は、有効成分に、例えば賦形剤(例えば、乳糖、白糖、デンプン、マンニトール)、崩壊剤(例えば、炭酸カルシウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム)、結合剤(例えば、α化デンプン、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニールピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース)または滑沢剤(例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール6000)を添加して圧縮成形し、次いで必要により、味のマスキング、腸溶性あるいは持続性の目的のため自体公知の方法でコーティングすることにより製造することができる。コーティング剤としては、例えばエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリオキシエチレングリコール、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートおよびオイドラギット(ローム社製、ドイツ、メタアクリル酸・アクリル酸共重合物)などを用いることができる。
【0022】
注射剤の態様とする場合は、有効成分を分散剤(例えば、ツイーン(Tween)80(アトラスパウダー社製、米国)、HCO60(日光ケミカルズ製)、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなど)、保存剤(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン、ベンジルアルコール、クロロブタノール、フェノール)、等張化剤(例えば、塩化ナトリウム、グリセリン、ソルビトール、ブドウ糖、転化糖)などと共に水性溶剤(例えば、蒸留水、生理的食塩水、リンゲル液等)あるいは油性溶剤(例えば、オリーブ油、ゴマ油、綿実油、コーン油などの植物油、プロピレングリコール)などに溶解、懸濁あるいは乳化することにより製造することができる。この際、所望により溶解補助剤(例えば、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウム)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカイン)等の添加物を添加してもよい。
【0023】
外用剤の態様とする場合は、有効成分を固状、半固状または液状の組成物とすることにより製造することができる。例えば、上記固状の組成物は、有効成分をそのまま、あるいは賦形剤(例えば、ラクトース、マンニトール、デンプン、微結晶セルロース、白糖)、増粘剤(例えば、天然ガム類、セルロース誘導体、アクリル酸重合体)などを添加、混合して粉状とすることにより製造できる。上記液状の組成物は、注射剤の場合とほとんど同様にして製造できる。半固状の組成物は、水性または油性のゲル剤、あるいは軟骨状のものがよい。また、これらの組成物は、いずれもpH調節剤(例えば、炭酸、リン酸、クエン酸、塩酸、水酸化ナトリウム)、防腐剤(例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、塩化ベンザルコニウム)などを含んでいてもよい。坐剤は、有効成分を油性または水性の固状、半固状あるいは液状の組成物とすることにより製造できる。該組成物に用いる油性基剤としては、高級脂肪酸のグリセリド〔例えば、カカオ脂、ウイテプゾル類(ダイナマイトノーベル社製)〕、中級脂肪酸〔例えば、ミグリオール類(ダイナマイトノーベル社製)〕、あるいは植物油(例えば、ゴマ油、大豆油、綿実油)が挙げられる。水性基剤としては、ポリエチレングリコール類、プロピレングリコールが挙げられる。また、水性ゲル基剤としては、天然ガム類、セルロース誘導体、ビニール重合体、アクリル酸重合体が挙げられる。
【0024】
上記本発明の食品および医薬は、上記の通り天然物由来の成分を有効成分として含むため、副作用等の心配が少なく、安価にかつ長期間にわたって継続的に摂取することができる。
【0025】
本発明の食品又は医薬は、オキシトシン受容体作動性組成物によってオキシトシン受容体が活性化されることにより、オキシトシン受容体活性化を介した症状又は疾患の予防、緩和、または治療等に使用することができる。そのような症状又は疾患としては、以下に限定されるものではないが、例えば、筋肉、骨に関わるロコモティブシンドローム、甘味感受性の修飾、腸炎の抑制、ストレス緩和、摂食行動抑制、アルコール摂取の抑制、パートナー嗜好性の調節、母性行動の促進、共感性行動の促進、コミュニケーション能力の改善、認知機能の改善、攻撃行動の抑制、抗不安作用等を挙げることが出来る。
【実施例】
【0026】
以下本発明を具体的に説明する為に実施例を示すが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0027】
実験1 OXTRに作用するアゴニストの評価系の構築と反応性の確認
(1)OXTRに作用するアゴニストの評価系の構築
OXTRに作用するアゴニストの反応性を調べるために、培養細胞に外因性のOXTRを発現させ、OXTRの下流シグナルの活性化をルシフェラーゼ(レポーター遺伝子)で検出する評価系を構築した。すなわち、pGL4.3とpF9A-OXTRをヒト胎児腎細胞であるHEK293細胞に二重形質転換し、OXTRに作用するアゴニストの評価系を構築した(
図1参照;以降、本評価系をOXTRアゴニスト評価系と称す)。この評価系によれば、二重形質転換した細胞内にはCMVプロモーターによりOXTRが発現しており、この培養細胞へOXTRに作用するアゴニストを添加すると、OXTRが活性化してシグナルを発し、そのシグナルがOXTRの下流シグナルのレスポンスエレメントであるNFAT-REに伝達されて活性化され、その下流にコードされているホタルルシフェラーゼ(Luc-2P)が発現するので、このホタルルシフェラーゼの活性を測定することによりOXTRに作用するアゴニストの反応性を評価することができる。なお、本OXTRアゴニスト評価系を用いてOXTRに作用するアンタゴニストをも評価できることは言うまでもない。
なお、pF9A-OXTRは、ウミシイタケルシフェラーゼ(hRluc)を発現するpF9A CMV hRluc-neo Flexi Vector(Promega社製)にヒト由来OXTRのcDNAを導入したものである。pGL4.3は、OXTRの下流シグナルのレスポンスエレメントであるNFAT-REの下流にホタルルシフェラーゼがコードされているものである。
【0028】
(2)OXTRに作用するアゴニストの評価系の動作確認
(2)-1 形質転換細胞の調製
ヒト胎児腎細胞であるHEK293細胞を3×10
6 cell/dishとなるように細胞培養用の10cm dishに播種して37℃、5%-CO
2の条件下で培養した。培地にはDMEM+10%FBSを用いた。pF9A OXTRとpGL4.3の2種類のベクターを pF9A OXTR: pGL4.30 = 1:50となるように混合し、培養24時間後にFugene HD transfection reagent(Promega)を用いて形質転換し、OXTRアゴニスト評価系に使用する形質転換細胞を調製した。形質転換24時間後にトリプシン処理して細胞を回収し、DMEM+10%FBSに懸濁してコラーゲンコートした白色壁面の96well microplateに5×10
4 cell/wellとなるように播種した。
(2)-2 リガンドのレポーターアッセイ
96well microplateに播種して12時間培養した後、DMEM+10%FBSに培地を置換し、試験区3(OXT+ antagonist)にはDMSOに溶かしたL‐371,257(OXTRに対するアンタゴニスト)を終濃度10
-4Mとなるように添加、1時間インキュベートした。なお、試験区1(Negative Control)と試験区2(OXT)とには、試験区3のDMSO濃度と同じになるようにDMSOを添加した。各試験区はn=7~8である。
インキュベート後、試験区2と試験区3とにOXTの終濃度が2×10
‐5MとなるようOXT 10
‐2M水溶液を添加し、4時間37℃、5%-CO
2条件下で更にインキュベートした。なお、試験区1には同量の水を添加した。
インキュベート後、Dual-Luciferase(登録商標) Reporter Assay System(Promega)を用いてウミシイタケルシフェラーゼに対するホタルルシフェラーゼのシグナル強度を測定した。なお、試験区1をリファレンスとし、試験区1のホタルルシフェラーゼのシグナル強度を1とし、それに対する相対値(Negative Controlに対する誘導倍率:Hold induction vs Negative Control)として試験区2及び3のシグナル強度を求めた。その結果を
図2に示す。
試験区2では、OXTの添加によりホタルルシフェラーゼのシグナルが有意に上昇した。試験区3では、OXTRに対するアンタゴニストがOXTRに作用したために、OXT添加によるホタルルシフェラーゼのシグナルの上昇が有意に抑制された。以上のことから、OXTRにリガンド及びアンタゴニストを作用させた際のOXTRの挙動を評価できることが示され、OXTRアゴニスト評価系として妥当であることが判った。
【0029】
実験2 AVPRに作用するアゴニストの評価系の構築と反応性の確認
ヒト由来OXTRのcDNAに代えてヒトAVPRとしてヒト由来V1aRのcDNAを導入したpF9A AVPRを用いてAVPRに作用するアゴニストの評価系(以降、V1aRアゴニスト評価系と称す)を構築し、同評価系の動作確認においてリガンドとしてOXTに代えてAVPを添加し、アンタゴニストとしてL‐371,257に代えてSR49059を添加した以外は実験1に従ってV1aRアゴニスト評価系の構築と反応性の確認を行った。なお、NFAT-REは、OXTR同様に、AVPRが活性化されて発するシグナルを受けて活性化されることが知られている。
その結果、実験1と同様に、AVPの添加によりホタルルシフェラーゼのシグナルが有意に上昇し、AVPアンタゴニストによりホタルルシフェラーゼのシグナルの上昇が有意に抑制された(
図3)。よって、OXTRに対するアゴニストの評価系として妥当であることが判った。
【0030】
実験3 R
1
-バリゲノールのOXTRに対する特異的アゴニストとしての評価
実験3-1 OXTRアゴニスト評価系を用いたR
1
-バリゲノールの評価
OXTに代えてR
1-バリゲノールを終濃度2×10
‐5Mとなるように形質転換細胞に添加した以外は実験1に従ってR
1-バリゲノールのOXTRに対する反応性を調べた(
図4)。その結果、R
1-バリゲノールの添加によりホタルルシフェラーゼのシグナルが有意に上昇し、このシグナル上昇はOXTRアンタゴニストにより有意に抑制された。よって、R
1-バリゲノールがOXTRアゴニストとしての活性を有することが示された。
【0031】
実験3-2 V1aRアゴニスト評価系を用いたR
1
-バリゲノールの評価
AVPに代えて、R
1-バリゲノールを終濃度2×10
‐5Mとなるように形質転換細胞に添加した以外は実験2に従ってR
1‐バリゲノールのV1aRに対する反応性を調べた(
図5)。
その結果R
1-バリゲノールの添加によりホタルルシフェラーゼのシグナルは変化しなかった。このことからR
1-バリゲノールはV1aRアゴニストとしての活性を有しないことが示された。
【0032】
実験3-3 R
1
-バリゲノールが有するOXTR反応性の濃度依存性の検討
R
1-バリゲノールを終濃度、1×10
‐4、1×10
‐5、1×10
‐6、1×10
‐7となるように形質転換細胞に添加した以外は実験3-1に従ってR
1-バリゲノールのOXTRに対する反応性を調べた(
図6)。その結果、添加したR
1-バリゲノールが高くなるにつれて、シグナルが上昇した。これによりR
1-バリゲノール のOXTRアゴニストとしての活性に濃度依存性が確認された。
【0033】
実験4 R
1
-バリゲノールのOXTR非特異的なシグナルについての検討
実験1、3で用いたpGL4.3のNFAT-REはOXTR以外のGPCRの活性化によっても反応する可能性がある。そのため、実験3で認められたR
1-バリゲノールの添加によるシグナル上昇がOXTR依存的なシグナルであることを確認するため、pGL4.3とpF9AからOXTR cDNAを除いたベクター(以下pF9A controlとする:
図7)を細胞に形質転換した以外は実験1に従ってOXT若しくはR
1-バリゲノール添加によるホタルルシフェラーゼのシグナルを評価した。その結果OXT及び R
1-バリゲノールの添加によるシグナル上昇は認められなかった(
図8)。このことからR
1-バリゲノールはOXTRを形質転換させた細胞でのみシグナルが上昇することが明らかになり、R
1-バリゲノールはOXTRを介してシグナルを上昇させることが明らかになった。
【0034】
実験5.カルシウムイメージング評価系の構築
実験5-1 OXTR安定発現細胞株の樹立
OXTRはカルシウム動員系のGPCRであり、カルシウムイオンを検出することで活性化を評価することが出来る(以下、カルシウムイメージング評価系と称する)。OXTRを安定的に発現させた細胞にR1-バリゲノールを添加し、カルシウムイオンを検出することでR1-バリゲノールのOXTRへの反応性を評価した。
細胞にOXTRを安定的に発現させる方法は以下の通りである。pF9A-OXTRをHEK293細胞に形質転換させ、抗生物質G418を終濃度500μg/mlとなるように添加し薬剤選択を行った。pF9A OXTRにはネオマイシン耐性遺伝子が導入されており、pF9A-OXTRが導入された細胞をG418によって薬剤選択できる。pF9A-OXTRが導入された細胞はOXTRがCMVプロモーターにより発現するため、薬剤選択により得られた細胞をOXTR安定発現細胞とした。
【0035】
実験5-2 カルシウムイメージング評価系の動作確認
96well microplateに5×10
4 cell/wellとなるようにOXTR高発現細胞を播種した。96well microplateに播種して12時間培養した後、試験区3(OXT+ L371,257)にはDMSOに溶かしたL‐371,257(OXTRに対するアンタゴニスト)を終濃度10
‐4Mとなるように添加、1時間インキュベートした。なお、試験区1(Negative Control)と試験区2(OXT)とには、試験区3のDMSO濃度と同じになるようにDMSOを添加した。各試験区はn=7~8であり、発光シグナルの検出はCalcium Kit - Fluo 4(同仁化学)を用いた。
インキュベート後、試験区2と試験区3とにOXTの終濃度が2×10
‐5MとなるようOXT 2×10
‐4M水溶液を添加し、添加後60秒間の発光シグナルをプレートリーダーで測定した。尚、試験区1には同量の水を添加し同様に60秒間のシグナルを測定した。添加後60秒間の最大シグナルを各wellのシグナル値とし、添加前のシグナル値に対してのシグナルの増加割合(Signal induction)を算出することで評価を行った。結果、OXTの添加によってシグナルが有意に上昇し、さらにOXTRアンタゴニストを加えることでそのシグナルが有意に減少していたことから、OXTRアゴニストの評価系として妥当であることが判った。(
図9)。
【0036】
実験6.カルシウムイメージング評価系によるOXTRアゴニスト活性の評価
OXTに代えて2×10
‐4MのR
1-バリゲノールを終濃度2×10
‐5Mとなるように細胞に添加した以外は実験5に従ってR
1‐バリゲノールのOXTRに対する反応性を調べた(
図10)。その結果、R
1‐バリゲノールの添加によりカルシウムイオンのシグナルが有意に上昇し、このシグナル上昇はOXTRアンタゴニストにより有意に抑制された。これにより、R
1‐バリゲノールがOXTRアゴニストとしての活性を有することが示された。