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特許7597596谷地形の抽出方法及び水系の抽出方法並びにプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】谷地形の抽出方法及び水系の抽出方法並びにプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06T 17/05 20110101AFI20241203BHJP
   G01C 7/02 20060101ALI20241203BHJP
   G09B 29/00 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
G06T17/05
G01C7/02
G09B29/00 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021011819
(22)【出願日】2021-01-28
(65)【公開番号】P2022115289
(43)【公開日】2022-08-09
【審査請求日】2024-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】平田 康人
【審査官】渡部 幸和
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-221886(JP,A)
【文献】特開2012-003400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 17/00
G01C 7/00
G09B 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地表面を一辺がLminである正方形のセルで区切り、各セルに標高が割り当てられた数値標高モデル(Lmin)を用いた谷地形の抽出方法であって、
数値標高モデル(Lmin)に含まれるn×n個のセルについて平均標高を計算し、一辺の長さがL(Lmin×n)である正方形のセルの標高として前記平均標高を割り当てることで低解像度の数値標高モデル(L)を作成する集約ステップと、
数値標高モデル(L)に含まれる3×3のセル(以下セル群)を抽出し、抽出した全てのセル群について中央のセルの平面曲率を計算する工程を、前記集約ステップで作成した複数の数値標高モデル(L)のそれぞれについて実行する平面曲率計算ステップと、
前記平面曲率にセルの辺の長さLを乗じた正規平面曲率を計算する工程を、前記集約ステップで作成した複数の数値標高モデル(L)のそれぞれについて実行する正規平面曲率計算ステップと、
前記セル群の中央のセルが凹地領域と判定されるための正規平面曲率に対する第1閾値であって複数の数値標高モデル(L)に共通の第1閾値を設定し、前記第1閾値以下となる前記正規平面曲率のセルを凹地領域と判定する凹地判定ステップと、
複数の数値標高モデル(L)ごとに抽出された凹地領域を重ね合わせ、連続する凹地領域からなるポリゴンを作成し、前記ポリゴンの谷線方向の長さが第2閾値以上となる前記ポリゴンを谷領域として抽出する谷領域抽出ステップと、を備える
ことを特徴とする谷地形の抽出方法。
【請求項2】
請求項1に記載する谷地形の抽出方法であって、
前記谷領域抽出ステップは、複数の前記数値標高モデルごとに抽出した凹地領域を重ね合わせて、それらの前記数値標高モデルの中で最小の傾斜角が第3閾値以上であるセルを重ね合わせた凹地領域から抽出し、抽出した連続するセルからなる前記ポリゴンを作成する
ことを特徴とする谷地形の抽出方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する谷地形の抽出方法であって、
前記谷領域抽出ステップは、前記ポリゴンの面積を前記ポリゴンに含まれる最大のセルの長さの二乗で割った値が前記第2閾値である2.4以上であるならば前記ポリゴンを谷領域として抽出する
ことを特徴とする谷地形の抽出方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れか一項に記載する谷地形の抽出方法であって、
前記凹地判定ステップでは、第1閾値の絶対値として式(1)を用いる
ことを特徴とする谷地形の抽出方法。
【数1】
ただし、Kplan,normalは第1閾値、mは整数、kは谷線方向の高低差aと、谷に直交する方向の標高差の倍率である。
【請求項5】
請求項1から請求項3の何れか一項に記載する谷地形の抽出方法であって、
前記集約ステップでは、前記凹地判定ステップにより得られた凹地領域が尾根を超えないように、集約に用いるセルの一辺の長さLを定める
ことを特徴とする谷地形の抽出方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5の何れか一項に記載する谷地形の抽出方法によって得られた谷領域を用いた水系の抽出方法であって、
前記谷領域を一辺がlの正方形の解析用セルで分割し、各解析用セルに一定値を与えて累積流量を計算し、累積流量が第4閾値を越える解析用セルからなる水系を抽出する水系抽出ステップを備え、
前記第4閾値は、V字谷地形の谷頭における累積流量である
ことを特徴とする水系の抽出方法。
【請求項7】
請求項6に記載の水系の抽出方法であって、
前記水系抽出ステップは、谷次数で区切られた谷の長さが第5閾値より長い解析用セルからなる水系を抽出する
ことを特徴とする水系の抽出方法。
【請求項8】
請求項7に記載の水系の抽出方法であって、
前記水系抽出ステップは、水系を細線化し、水系の最も上流から再度累積流量を計算し、累積流量が前記第4閾値を越える解析用セルからなる水系を抽出する
ことを特徴とする水系の抽出方法。
【請求項9】
請求項1から請求項5の何れか一項に記載の谷地形の抽出方法の各ステップをコンピュータに実行させる
ことを特徴とするプログラム。
【請求項10】
請求項6から請求項8の何れか一項に記載の水系の抽出方法の各ステップをコンピュータに実行させる
ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、数値標高モデル(DEM;Digital Elevation Model)から谷地形及び水系を抽出する方法並びにプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、山地の地形表現図を得たり、斜面災害のリスク評価のために谷地形や水系図を数値標高モデルから抽出することが行われている。
【0003】
水系図は、地図上の等高線の曲がり具合を人の目で判読し、谷地形と判断される最も上流側の位置から下流に向かって谷線を連続させることにより作成されている。谷地形と判断する基準は、等高線の折入角が90度又は53度とすることが一般的である。
【0004】
このような方法においては、谷地形の抽出結果は作成者に依存してしまうため、作成者によって異なる谷地形や水系図が得られることになる。また、広範囲の水系図の作成には相応の時間を要してしまう。
【0005】
このような作成方法とは別に、数値標高モデルを用いて上流側の集水面積を計算し、ある閾値以上の集水面積を谷地形と、水系図を得る方法もある。この閾値は作成者により任意に決定される。
【0006】
このような方法においては、深い谷でなくとも集水量が増えれば水系とみなすことになるので、厳密には谷地形の基準に従った水系図ではない。また、人工構造物がなす水平面も水系図に含まれてしまう。
【0007】
さらに、上述した2つの方法の何れについても、地図の縮尺によって作成される水系図が異なるという問題がある。
【0008】
特許文献1に記載の技術では、集水地形とされる斜面などを数値標高モデルから抽出するが、上述したような問題を解決できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2013-221886号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】河田 佳樹, 仁木 登. 2001. 3次元曲率特徴の抽出アルゴリズム. MEDICAL IMAGING TECHNOLOGY 19: 142-153
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記事情に鑑み、地図の縮尺や作成者の主観によらず客観的に谷地形及び水系を作成することができる谷地形の抽出方法及び水系の抽出方法並びにプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明の態様は、地表面を一辺がLminである正方形のセルで区切り、各セルに標高が割り当てられた数値標高モデル(Lmin)を用いた谷地形の抽出方法であって、数値標高モデル(Lmin)に含まれるn×n個のセルについて平均標高を計算し、一辺の長さがL(Lmin×n)である正方形のセルの標高として前記平均標高を割り当てることで低解像度の数値標高モデル(L)を作成する集約ステップと、数値標高モデル(L)に含まれる3×3のセル(以下セル群)を抽出し、抽出した全てのセル群について中央のセルの平面曲率を計算する工程を、前記集約ステップで作成した複数の数値標高モデル(L)のそれぞれについて実行する平面曲率計算ステップと、前記平面曲率にセルの辺の長さLを乗じた正規平面曲率を計算する工程を、前記集約ステップで作成した複数の数値標高モデル(L)のそれぞれについて実行する正規平面曲率計算ステップと、前記セル群の中央のセルが凹地領域と判定されるための正規平面曲率に対する第1閾値であって複数の数値標高モデル(L)に共通の第1閾値を設定し、前記第1閾値以下となる前記正規平面曲率のセルを凹地領域と判定する凹地判定ステップと、複数の数値標高モデル(L)ごとに抽出された凹地領域を重ね合わせ、連続する凹地領域からなるポリゴンを作成し、前記ポリゴンの谷線方向の長さが第2閾値以上となるポリゴンを谷領域として抽出する谷領域抽出ステップと、備えることを特徴とする谷地形の抽出方法にある。
【0013】
上記目的を達成するための本発明の他の態様は、上記谷地形の抽出方法によって得られた谷領域を用いた水系の抽出方法であって、前記谷領域を一辺がlの正方形の解析用セルで分割し、各解析用セルに一定値を与えて累積流量を計算し、累積流量が第4閾値を越える解析用セルからなる水系を抽出する水系抽出ステップを備え、前記第4閾値は、V字谷地形の谷頭における累積流量であることを特徴とする水系の抽出方法にある。
【0014】
上記目的を達成するための本発明の他の態様は、上記谷地形の抽出方法の各ステップをコンピュータに実行させることを特徴とするプログラムにある。
【0015】
上記目的を達成するための本発明の他の態様は、上記水系の抽出方法の各ステップをコンピュータに実行させることを特徴とするプログラムにある。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、地図の縮尺や作成者の主観によらず客観的に谷地形及び水系を作成することができる谷地形の抽出方法及び水系の抽出方法並びにプログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】谷地形の抽出方法及び水系の抽出方法のフロー図である。
図2】DEM(1)及びDEM(2)の一部を示す図である。
図3】DEM(1)及びDEM(2)の一部を示す図である。
図4】DEMの3×3のセルの標高を示す図である。
図5】V字谷地形における平面曲率及び正規平面曲率と谷地形の関係を示す図である。
図6】nが奇数である場合におけるDEMの集約を説明するための図である。
図7】nが偶数である場合におけるDEMの集約を説明するための図である。
図8】nが偶数である場合におけるDEMの集約を説明するための図である。
図9】nが偶数である場合におけるDEMの集約を説明するための図である。
図10】凹地領域の実施例を示す図である。
図11】谷領域と傾斜を示す図である。
図12】長さに基づいて谷領域を抽出する方法を説明するための図である。
図13】V字谷地形における累積流量を示す図である。
図14】水系から短い谷を除去する方法を説明するための図である。
図15】水系を細線化する方法を説明するための図である。
図16】DEMから谷地形及び水系の抽出方法により得られた実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態に係る谷地形の抽出方法及び水系の抽出方法について説明する。図1は谷地形の抽出方法及び水系の抽出方法のフロー図である。まず、谷地形の抽出方法では、基準となる最も高解像度の数値標高モデルから、それよりも低解像度の数値標高モデルを作成する。
【0019】
数値標高モデルとは、地表面を一辺がLminである正方形のセルで区切り、各セルに標高が割り当てられたデータである。本実施形態ではLminが1mである場合について説明する。以後、セルの長さL(メートル)の数値標高モデルをDEM(L)と表記する。
【0020】
図2(a)に、DEM(1)の一部を例示する。各セルには標高が割り当てられており、各セルの標高をhij(i=1,2,・・・;j=1,2,・・・)とする。このようなDEM(1)に含まれるn×nこのセルについて平均標高を計算し、一辺の長さがL(Lmin×n)である正方形のセルの標高としてその平均標高を割り当てる。このようにして得られる長さLのセルからなる低解像度の数値標高モデル(L)を作成する(集約ステップ;図1のステップS1)。
【0021】
例えば、図2(b)に、nを2とし、長さLが2であるDEM(2)を示す。まず、DEM(1)に含まれる2×2個のセルについて平均標高を計算する。例えば、左上の2×2個のセルの標高h11、h12、h21、h22の平均標高をH11とする。
【0022】
そして、2×2個のセルと同じ辺の長さである2mを有する一つのセルの標高として上述した平均標高H11を割り当てる。同様にして、DEM(1)に含まれる2×2個のセルについて平均標高を計算し、長さ2mのセルの標高とすることでDEM(2)が作成される。
【0023】
図2の例では、DEM(2)のセルの境界(辺)は、DEM(1)の境界と一致する場合について説明したが、このような低解像度化に限定されない。
【0024】
図3(a)はDEM(2)のセル(点線で示されている)の境界がDEM(1)のセルの境界に対して半分だけズレて配置された状態を表している。図3(b)は図3(a)のDEM(2)を抜き出して表したものである。
【0025】
DEM(2)は、DEM(1)の各辺から0.5(DEM(1)の辺の長さの半分)だけズレている。このように低解像度、高解像度のセルの境界が一致しない場合は、DEM(2)の一つのセルに重なるDEM(1)の複数のセルの標高から平均標高を計算する。
【0026】
例えば、DEM(2)の左上のセルの標高H11は、そのセルが重なっているDEM(1)の9個のセルの標高h11、h12、h13、h21、h22、h23、h31、h32、h33から求めれば良い。詳細な計算は、図9で説明するので後述する。
【0027】
なお、特に図示しないが、境界のズレがDEM(1)のセル長の半分以外である場合は、DEM(1)とDEM(2)の境界のズレた位置に応じて適宜加重平均を計算すればよい。
【0028】
このようにして、境界の位置に応じて図2(b)や図3に示したように異なる複数のDEM(2)がDEM(1)から得られることになる。本実施形態では、DEM(1)から、境界が一致するDEM(2)、及び境界がDEM(1)のセルの長さの半分だけズレたDEM(2)を作成することとする。
【0029】
低解像度のDEMは、1つに限らず、複数個作成することが好ましい。後述する実施例では、DEM(1)を元にして、1mごとにDEM(2)~DEM(500)を作成した。また、それぞれのDEM(L)は、上述したように境界が一致するものと、境界がDEM(1)のセルの長さの半分だけズレた2パターンを作成した。
【0030】
次に、複数のDEM(L)について平面曲率の計算を行う(平面曲率計算ステップ;図1のステップS2)。平面曲率をKplan、横断面曲率をKcross、谷線上の最大傾斜角をθ、図4に示す一辺の長さがdの3×3のセル(以下「セル群」とも称する)の各標高をZ1からZ9とすると、次のようにして求めることができる。Kplan、Kcrossの計算は、非特許文献1に記載の公知の方法であるので詳細な説明は省略する。
【数1】
【0031】
平面曲率及び横断面曲率は、何れも斜面方位に対して垂直な方位に延びる断面線の曲率の一つである。平面曲率は、最大傾斜角法項に対して直角方向の曲率である。横断面曲率は、曲率を調べる断面を標高方向と平行にとった最大傾斜角方向の曲率である。平面曲率及び横断面曲率は、負の値であれば上方に凹型の地形であり、正の値であれば上方に凸型の地形であることを表す。
【0032】
このように、平面曲率計算ステップでは、あるDEMに含まれるセル群を抽出し、抽出した全てのセル群について上述の式(1)を用いてセル群の中央のセルの平面曲率を計算する。そしてこの計算を集約ステップで作成した複数のDEMの全てについて実行する。
【0033】
次に、正規平面曲率を計算する(正規平面曲率計算ステップ;図1のステップS3)。正規平面曲率は、平面曲率にセルの辺の長さを乗じたものである。具体的には、DEM(L)に含まれるセルの平面曲率にセルの辺の長さLを乗じて正規平面曲率を計算し、この計算を集約ステップで作成したDEMの全てについて実行する。
【0034】
ここで、図5を用いて、平面曲率及び正規平面曲率と谷地形との関係について説明する。図5(a)~(c)は、ある解像度のDEMに含まれる一つのセル群とその標高を表している。図5(d)~(f)は図5(a)~(c)の標高差及び高低差を表している。図5(g)は図5(a)~(c)のX方向の断面を表している。図5(h)は図5(a)~(c)の谷線におけるY方向の断面を表している。図5(i)は図5(a)を水平方向及び鉛直方向を2倍にしたときのX方向の断面を表している。
【0035】
最も単純なV字谷地形は、同じ傾斜角、同じ高さを持つ2つの斜面が谷線で接合する形態である。このようなV字谷地形は、図5(a)から図5(c)に示すセル群において標高の特有のパターンで表現される。図5(a)から図5(c)では、点線は等高線を示しており、各セル内の数字及び記号は標高を示している。i行j列のセルをCijとも表記する。また、セル群のうち中央に位置してY方向に沿った3つのセル(C12、C22、C32)が谷線を含むセルとなっている。
【0036】
セル内の全ての等高線の形状が一様になるためには、第一に、谷線となる中央のセルとそれに隣接するセルの標高差は一定であることが必要である。第二に、等高線の間隔が一定になるためには、セル間の流下方向の高低差は一定となる必要がある。
【0037】
第一の条件を図示すると、図5(a)のパターンは図5(d)に示すように、中央のセルであるC12は、両隣のC11及びC13との標高差は2aである。中央のセルC22、C23についても両隣のセルとの標高差は2aである。つまり、標高差は一定である。同様に、図5(b)のパターンは図5(e)に示すように標高差はaで一定であり、図5(c)のパターンは図5(f)に示すように標高差は1/2aで一定である。
【0038】
第二の条件を図示すると、図5(a)のパターンは図5(d)に示すように、上流側のセルであるC21と、下流側のセルであるC11との高低差はaである。その他の上流側と下流側の高低差についても高低差はaである。つまり、高低差は一定である。同様に、図5(b)のパターンは図5(e)に示すように高低差はaで一定であり、図5(c)のパターンは図5(f)に示すように高低差はaで一定である。
【0039】
図5(a)から図5(c)に示したV字谷形状は、図5(g)及び図5(h)に示すように谷線方向(Y方向)の高低差aと、谷に直交する方向(X方向)の標高差の倍率kによって決定される。ここで、kは斜面の標高が谷線に向かって減少する場合を正とする。つまり、V字谷形状の場合はkは正である。
【0040】
図5(a)~図5(c)に示すV字谷形状のkはそれぞれ2、1、1/2である。また、谷線上の最大傾斜角θは、tan-1(a/L)であり、側壁の傾斜角Φはtan-1(ka/L)である。図5(a)~図5(c)の何れのV字谷地形は、中央のセルにおける最大傾斜方向の曲率は0であり、横断面曲率Kcrossは、中心のセルと左右のセルとの標高差、及びセルの幅Lから計算される。したがって、図5(a)~図5(c)に示すようなパターンにおける平面曲率は式(2)のように表せる。
【数2】
【0041】
例えば、図5(a)のように等高線の開口幅と奥行きが等しいとき(等高線の折入れ角が約53度であるとき)、平面曲率Kplanはk=2として-4/Lとなる。図5(b)のように等高線の折入れ角が90度であるとき、平面曲率Kplanはk=1として-2/Lとなる。これらの平面曲率はDEMを平面上で回転させても同じ値を持つ。
【0042】
上述の式(2)の通り、平面曲率Kplanはセルの長さLに依存している。例えば、図5(i)に示すように谷の形状を水平と鉛直方向へ2倍に拡大すると、平面曲率は2分の1となる。一方、平面曲率にセルの幅を掛けた値は一定となる。この値を正規平面曲率と称し、Kplan,normalとも表記する。
【0043】
正規平面曲率の絶対値は、谷の幅やセルサイズに依存せず、セルの中心がV字谷地形の中央にあるときに大きくなり、谷線から離れるほどに小さくなる。この性質を利用すると、セル群を用いて正規平面曲率を異なるセルの長さで計算することにより、異なる縮尺のV字谷地形を一つの閾値を用いて抽出することができる。
【0044】
例えば、図5(a)、図5(b)のパターンのV字谷地形において、異なるセルの長さL(異なる縮尺)ごとにKplan,normalを計算すると次のようになる。
L Kplan,normal
1 -4 -2
2 -4 -2
3 -4 -2
・・・
【0045】
あるセルについてのKplan,normalが-4以下であれば、どの様なセルの長さ、縮尺であっても、当該セルは図5(a)のようなパターンのV字谷地形、又はそれよりも折入角が小さいV字谷地形(厳密にはセル1つであるので凹地である)として抽出することができる。同様に、あるセルについてのKplan,normalが-2以下であれば、どの様なセルの長さ、縮尺であっても、当該セルは図5(b)のようなパターンのV字谷地形、又はそれよりも折入角が小さいV字谷地形として抽出することができる。
【0046】
このような性質の正規平面曲率に基づいて凹地判定を行う(凹地判定ステップ;図1のステップS4)。具体的には上述の「2」や「4」のようにセル群の中央のセルが谷地形と判定されるための正規表面曲率に対する第1閾値を適宜設定する。第1閾値は、上述したように複数のDEM(L)に共通なものである。DEMに含まれる各セルの正規平面曲率が第1閾値以下となるものを谷地形(凹地)として判定する。そして、同じ第1閾値を用いて、このような谷地形の抽出を全てのDEM(L)について行う。
【0047】
ただし、基準となるDEM(本実施形態ではDEM(1))から低解像度のDEMを得る場合、平均化した際に用いたセルの辺の長さ(平均化した際に用いたn×nのセルにおけるnで決まる長さ)によって正規平面曲率は変化する。なぜならば、V字谷地形の中央のセルと、周囲の壁面との比高とセルの長さとの比が小さくなるからである。
【0048】
Lmin=1としたDEM(1)について、n×n個のセルについて平均標高を計算して新たな低解像度のDEMを作成したとき、V字谷地形を示すセル群の正規平面曲率の分布は、nが偶数の場合と奇数の場合とで異なる。
【0049】
図6を用いて、nが奇数である場合について説明する。図6(a)は、セルC55を中心とし、谷線が第5列(j=5)に沿って延びるV字谷地形のDEM(1)を表している。図6(b)は、DEM(1)をn×n個のセルで集約したL=n×LminのDEM(L)を表している。例えば、DEM(L)のC11の標高は、(k-1)anとなり、nを3とすれば3(k-1)aとなる。なおDEM(L)のC11は、DEM(1)の太線で囲まれた3×3個のC11、C12、C13、C21、C22、C23、C31、C32、C33の標高を平均化したものである。DEM(L)の他のセルについても同様である。
【0050】
図7から図9を用いて、nが偶数である場合について説明する。図7の実線で示す9×9のセルは図6(a)と同じであるが、標高は一部のみを表示していある。点線で示す3×3のセルは、DEM(1)を2×2のセルで集約したL=2(2×Lmin)のDEM(2)を表しており、そのDEM(2)は谷線が第2列(j=2)に沿って延びるV字谷地形を表している。DEM(2)は、DEM(1)に対して、セルの長さL=1の半分ズレて配置されている。
【0051】
図8(a)は図7に示したDEM(2)を抜き出したものであり、DEM(1)のセルから求めた標高が表記されている。図8(b)は、図8(a)を一般化したもの、すなわちnが偶数である場合についての低解像度化したDEM(L)を表している。
【0052】
なお、図8(a)の標高の計算は、次のように行っている。図9(a)の実線で示す9×9のセルは図6(a)と同じであるが、標高は一部のみを表示している。図9(a)の点線は、図(7)に示したDEM(2)に重なる位置に配置した6×6のセルからなるDEM(1’)を表している。図9(a)の点線で示すDEM(1’)は、実線のDEM(1)からセルの長さの半分だけズレて配置されている。
【0053】
図9(b)に点線で示すDEM(1’)の各セルCIJ(I行J列で示す)の標高は、セルCIJに重なる、図9(a)に示す実線のDEM(1)の4個のセルの標高を平均化したものである。例えば、図9(b)に示すDEM(1’)のセルC11(I=1、J=1)は、図9(a)に示すDEM(1)の4個のセルC22(i=2、j=2)、C23(i=2、j=3)、C32(i=3、j=2)、C33(i=3、j=3)に重なっている。DEM(1’)のセルC11の標高は、DEM(1)の4個のセルC22、C23、C32、C33の標高を平均化した(k-1)5a/2となる。
【0054】
そして、このような点線で示すDEM(1’)に含まれる2×2のセルについて平均標高を求めることで、図8(a)に示したDEM(2)の標高が得られる。例えば、図9(b)のDEM(1’)のセルC11、C12、C21、C22の標高の平均を求めると、2(k-1)aとなり、図8(a)のDEM(2)のセルC11の標高となる。
【0055】
なお、図9に示したようなDEM(1)から、セルの長さの半分ズレて配置されたDEM(2)を計算する方法は、図3の標高Hijを求める場合についても同様に適用できる。
【0056】
上述した図6(b)や図8(b)に示したように、低解像度化する際に用いるn×nのセルのnが偶数か奇数かによって標高は異なる。このような偶数奇数の相違を考慮にいれて正規平面曲率を補正すると、V字谷地形の中央のセルにおける正規平面曲率は次のように表される。
【数3】
【0057】
mは整数である。nが奇数の場合、正規平面曲率の絶対値は集約する個数に依存し、最小値1.5kにすぐに収束する。例えば、L=1であり、k=1であるV字谷地形は、L=3に集約すると約1.55のKplanの値を示す。一方、nが偶数の場合には、最小セルサイズLminの2つのセルの間に谷線が通り、谷線を挟む2つの標高が一致し、正規平面曲率は常に1.5kとなる。
【0058】
例えば、折入角が90度であるとき、つまりk=1としたとき、式(3)から得られる正規平面曲率の絶対値はnが偶数の場合1.5であり、奇数の場合も最小値1.5×1に収束する。したがって、折入角が90度であるV字谷地形の正規平面曲率である-1.5を第1閾値とすれば、その第1閾値以下の正規平面曲率となるセルは折入角が90度以下の凹地領域として抽出される。
【0059】
セル群の中央のセルが凹地領域であるとみなすための正規平面曲率に対する第1閾値を、低解像度化する際に用いたn×nのセルのnに応じて変化させれば、高解像度DEMを平均化した低解像度のDEMであっても、平均化の影響を加味して凹地領域を抽出することができる。
【0060】
このようにして定めた第1閾値は、低解像度化する際に用いたn×nのセルのnに応じて異なるものであるが、同じn×nのセルで低解像度化した複数のDEM(L)について共通して用いることができる。
【0061】
以上に説明した集約ステップ、平面曲率計算ステップ、正規平面曲率計算ステップ、凹地判定ステップをまとめると次のようになる。まず、基準となる高解像度のDEM(1)の解像度を多段階で低下させたDEM(L)を作成する。次に各DEM(L)に含まれる各セルについて正規平面曲率を計算する。
【0062】
次に、理想的なV字谷地形と判断される、等高線の折入角が90度と53度であるときの正規平面曲率を上記の式(3)から求めて第1閾値とする。例えば、折入角が90度であればk=1とし(図5(b)参照)、式(3)より得られた値を第1閾値とする。同様に折入角が53度であればk=2とし(図5(a)参照)、式(3)より得られた値を第1閾値とする。
【0063】
次に、DEM(L)ごとに計算した正規平面曲率が上記の第1閾値以下となるセルを凹地領域として抽出する。図10に抽出された凹地領域を例示する。
【0064】
図10(a)~(f)は、第1閾値として-1.5を用い、その第1閾値以下となる正規平面曲率のセル、すなわち凹地領域として判定されたセルを黒い四角で表したものである。図10(a)の背景は10m間隔の等高線を表し、図10(b)~(f)の背景は2mメッシュの傾斜量図である。
【0065】
図10(a)は、セルの辺の長さLが10m、つまりDEM(10)において凹地領域として判定されたセルが黒い四角形で表されている。図10(b)は、1m間隔のDEM(2)~DEM(10)を一つのグループとし、各DEMにおいて凹地領域として判定されたセルが黒い四角形で重ねて表されている。図10(c)~(f)は、それぞれDEM(11)~DEM(20)、DEM(41)~(50)、DEM(91)~DEM(100)、DEM(191)~DEM(200)の各グループについて、図10(b)と同様に凹地領域として判定されたセルが黒い四角形で重ねて表されている。
【0066】
図10(a)では図10(b)~(c)と比べて凹地領域が点在しているが、図10(b)~(c)では凹地領域が連なって抽出されていることが分かる。図10(d)~(f)では、セルが大きくなり尾根を超えてしまっている。したがって、セルの長さの上限としては尾根を超えないように適宜設定する(図1のステップS5)。同図では、例えば、セルの長さの上限としてL=20mとした。なお、凹地領域が尾根を越えているか否かは、凹地領域と等高線との位置関係に基づいて人が判断してもよいし、画像処理技術を用いてコンピューターにより判断してもよい。
【0067】
次に、上述のようにして得られた凹地領域から谷領域を判定する。谷地形は凹地領域が落水線の方向に連続する地形であることを踏まえると、傾斜角と長さに基づいて凹地領域から谷領域を抽出することができる。
【0068】
まず、1つのグループに属する複数のDEMごとに抽出した凹地領域を重ね合わせる(図10参照)。次に、1つのグループに属する複数のDEMの中で1mのセルごとに傾斜角を計算する。つまり、一つの1mのセルには、DEM(L)ごとに計算した複数の傾斜角が得られる。次に、重ね合わせて得られた凹地領域から、最小の傾斜角が第3閾値以上であるセルを抽出し(図1のステップS4)、抽出された連続するセルからなるポリゴンを作成する。
【0069】
傾斜角の計算は、図5(a)のセル群を例にとると、セルC22が凹地領域として判定されたセルであるが、その周囲のセルC11~セルC33の全てのセルを元にセルC22の傾斜角を計算する。このような傾斜角の計算は公知の方法であるので詳細な説明は省略する。
【0070】
図11は、凹地領域とその傾斜角を示す図である。図11(a)はDEM(2)~DEM(10)のそれぞれで抽出された凹地領域を重ね合わせたものである。凹地領域に含まれる1mのセルごとに、DEM(2)を用いて計算した傾斜角、DEM(3)を用いて計算した傾斜角、・・・、DEM(10)を用いて計算した傾斜角の中から最小の傾斜角を第3閾値に比較される傾斜角として採用する。同図の例では、セルは、最小の傾斜角が0度~2度、3度~4度、・・・など、どの範囲に属するかに応じて色分けされている。同様に、図11(b)は、DEM(11)~DEM(20)についてセルが最小の傾斜角に応じて色分けされている。
【0071】
セルの傾斜角と比較される第3閾値は、谷地形とみなす傾斜角である。この第3閾値は、図11のように地図上に谷地形とその傾斜角を表示し、視覚的に判断して設定する。例えば、DEMと重ね合わせて表された等高線などを見て谷地形と判断できるセルがあったとき、そのセルにおける傾斜角が採用されるように第3閾値を定める。他にも、DEMと重ね合わせて表された等高線などを見て尾根や林道と判断できるセルがあったときに、そのセルにおける傾斜角が採用されないように第3閾値を定める。図11の例では、7度を傾斜角に対する第3閾値として定めた。
【0072】
さらに、谷地形の傾斜角は、谷地形以外の尾根や林道の傾斜角と比べて急であると考えられる。ある傾斜角を第3閾値としたときには、尾根や林道などが除外される結果、谷地形として抽出される広さ(セルの数)は大きく変化すると考えられる。したがって、第3閾値を変化させたときに、抽出される谷地形の広さの変化に基づいて第3閾値を決定することができる。
【0073】
なお、地域によって谷地形と判断される傾斜角は異なるので、傾斜角に対する第3閾値は地域毎に設定することが好ましい。
【0074】
次に、図12を用いて、長さに基づいて谷領域を抽出する方法について説明する(谷領域抽出ステップ;図1のステップS6)。まず、低解像度化した複数のDEMについて、セルの長さに応じてグループ分けする。例えば、セルの長さが2~10m、11~20m、21~30m、・・・であるDEMをグループ化する。そして、グループ内の何れかのDEMにおいて、正規平面曲率が第1閾値以下かつ傾斜角が第3閾値以上となるセルを抽出したものをポリゴンとする。
【0075】
図12には、セルの長さが2~10mのグループ(DEM(2)~DEM(10))について抽出された6個のセルからなるポリゴンPが例示されている。セルの大きさが同じであれば大きな面積のポリゴンは細帯形であるが、小さいポリゴンは楕円形に近似される。また、ポリゴンPに含まれるセルのうち最大のセルの長さは4mである。ポリゴンPの面積は、楕円形の面積Spである(4/2)×(17/2)×π=17πに近似できる。
【0076】
一方、一つのセルの長さをポリゴンPの最大のセルの長さとした3×3のセル群においては、最短の谷の長さは3個のセルであると考えられる。3個のセルに内接する楕円形の面積Sthは、3πL/4である。
【0077】
面積Sthをセルの長さLの二乗で割った値は約2.4となる。ポリゴンPの近似の面積SpをLで割った値が2.4以上であるならば、ポリゴンPは最短の谷よりも長い谷であると判別できる。同図の例では、SpをLで割った値は約3.3であり、第2閾値の2.4以上であるので、ポリゴンPは十分な長さを有する谷領域であると判定することができる。
【0078】
凹地領域から谷領域を抽出するステップを纏めると次のようになる。まず、グループ化した複数のDEM(L)の凹地領域についてセル毎に最小の傾斜角が第3閾値以上となるものを抽出する。そして、複数のDEM(L)ごとに抽出された傾斜角が第3閾値以上の凹地領域(セル)を重ね合わせ、連続した凹地領域をポリゴンPとして抽出する。ポリゴンPの谷線方向の長さが第2閾値以上であれば当該ポリゴンPを谷領域として抽出する。ポリゴンPの長さが第2閾値以上であるかを判定する具体的な方法としては次のように行う。ポリゴンPを近似した楕円形の面積Spを求めるとともに、その面積SpをポリゴンPに含まれる最大のセルの長さの二乗で割った値を計算する。その値が第2閾値である2.4以上であればポリゴンPは谷領域であり、2.4未満であれば谷領域ではなく局所的な凹地として除外する。
【0079】
次に、水系を作成する(水系抽出ステップ;図1ステップS7)。具体的には、上述のようにして作成した谷領域を解析用に設定した大きさのセル(以下解析用セル)で分割し、各解析用セルに一定値を与え、上流から下流へ累積流量を計算する。累積流量が第4閾値を越える解析用セルを水系とする。この水系は、第4閾値を始めて越えた解析用セルを基点とする。累積流量の計算については公知の方法を用いることができるので詳細な説明は省略する。
【0080】
図13は、V字谷地形の開始点付近に重なる谷領域から生じる累積流量を示す図である。解析用セルは一辺がlの正方形のセルとする。Lは谷の幅を表している。これらの比であるL/lをwとする。点線で示すValley lineは谷線を表し、灰色のセルで示すValley zoneは谷領域を表している。同図には比が3、5、7のそれぞれについて累積流量が示されている。谷領域に含まれる解析用セルに流量として1を与え、累積流量を計算すると図に記載したとおりとなる。なお、谷線における累積流量を下側に抜き出してある。
【0081】
図13に示すようなV字谷地形の開始点付近に重なる谷領域に流量として1を与えた場合において、V字谷地形の開始点における累積流量vは式(4)で表される。
【数4】
【0082】
図13に示すように、V字谷地形の開始点における累積流量は、w=3のときは4、w=5のときは14、w=7のときは30となっている。したがって、式(4)で表される累積流量を第4閾値とすることで、累積流量が第4閾値以上であるセルは(同図では下側に抜き出した連続するセル)、最初に第4閾値を越えたセル(同図の例では累積流量が「4」「14」「30」のセル)を基点(谷頭)とする水系となる。
【0083】
例えば、DEM(2)~DEM(10)のグループから得られた谷領域について、l=5、L=10、w=2として累積流量の計算を行う場合は、式(4)より第4閾値として1(式の計算結果の小数点以下を切り捨ててある)を用いる。同様に、DEM(11)~DEM(20)のグループから得られた谷領域についてl=5、L=20、w=2、第4閾値として8(同様に小数点以下を切り捨ててある)を用い、DEM(21)~DEM(30)のグループから得られた谷領域についてl=5、L=30、w=6、第4閾値として21(同様に小数点以下を切り捨ててある)を用いる。このようにしてDEMのグループごとに、谷領域の最上流の位置から開始する水系を得ることができる。
【0084】
図14に示すように、上述のようにして得られた水系は、屈曲部や合流点の近傍において第4閾値以上の累積流量を示す可能性がある。同図のセルは谷領域を表し、そのうち斜線のセルは水系を表している。「×」が付されたセルは、屈曲部や合流点の近傍において第4閾値以上の累積流量を示すセルを示している。このように一つの谷領域内であるにも関わらず、主要な谷から分岐した短い谷(「×」のセル)が多数生じる。
【0085】
そこで、谷幅のセルの長さlを第5閾値に設定し、谷次数で区切られた谷の長さがその第5閾値よりも長いものを取り出す(水系抽出ステップ;図1のステップS8)。谷次数の区分はStrahler方式をとり、同次の谷が合流するときに、合流後の谷の次数は谷の次数+1となる。図14の例では、L1の谷は、第5閾値lより長いので水系として残る。L1、L3、L4及びLbは一次谷、Laは二次谷となり、これらは個別に長さの判定を行う。L1、La及びLbは第5閾値lよりも長いので水系として残る。L3及びL4の「×」が付された谷は第5閾値以下であるので水系から除外される。LaとLbは最終的に一つの一次谷を成す水系であるL2として残る。第5閾値は、例えば、DEM(2)~DEM(10)では5m、DEM(11)~DEM(20)では15m、DEM(21)~DEM(30)では25mとする。
【0086】
次に、水系を細線化する(水系抽出ステップ;図1のステップS8)。図15を用いて細線化について説明する。同図のセルは谷領域を表し、そのうち斜線のセルは水系を表している。図15(a)に示すように、水系は、一方向(同図の上下方向)に延び、セル1個分の幅を有する2本の流路を含んでいる。このうちの一本の流路を残し、その余の流路を除去する。その結果、図15(b)に示すように、一本の流路からなる細線化された水系を得ることができる。
【0087】
図14及び図15で説明した処理によって、本流の近傍に発生する谷の開始点が除去されることになる。換言すれば、谷の最も上流側に特定された谷の開始点のみを取り出すことができる。このようにして取り出された谷の開始点を元に、再度、累積流量の計算を行うことで、谷幅分布図に調和的な水系を得ることができる(水系抽出ステップ;図1のステップS9)。
【0088】
図16を用いてDEMから谷地形及び水系の抽出方法により得られた結果を示す。
図16(a)には、黒で塗られたセルからなるセルが凹地領域として抽出されている。図16(b)には、凹地領域について傾斜角及び長さの第2閾値に基づいて抽出して得られた谷領域(ポリゴン)が示されている。赤で塗られたセルは傾斜角が0度~7度であり、青で塗られたセルは傾斜角が7度~40度である。傾斜角が7度~40度の谷領域は、実際の谷地形に適合していることが分かる。
【0089】
図16(c)には、傾斜角が7度~40度の谷領域について累積流量を計算し、第4閾値以上である累積流量を示す緑色のセルからなる水系が示されている。図16(d)には、水系について短い谷を除去したものが赤色で示されている。図16(e)には、細線化された水系が黄色で示されている。図16(f)には、青色のセルで示される谷頭から累積流量を計算して得られた水色の水系が示されている。
【0090】
以上に説明した谷地形の抽出方法及びそのプログラムは、低解像度化した複数のDEM(L)について正規平面曲率を計算する。正規平面曲率は、DEMのセルの長さLに依存しない値である。したがって、正規平面曲率に対して設定した第1閾値は、異なる解像度の複数のDEM(L)に共通して用いることができ、客観的にV字谷地形を凹地領域として抽出することができる。
また、谷地形の抽出方法は、凹地領域の長さと第2閾値に基づいて谷領域を抽出する。これにより、孤立した凹地領域を除外し、V字谷地形として適切な長さを有する谷領域を客観的に抽出することができる。
さらに、谷地形の抽出方法は、複数のDEM(L)ごとに得られた凹地領域を重ね合わせたポリゴンを谷領域として抽出する。例えば、横断面の傾斜が緩やかなV字谷地形は、短いLのDEM(L)では凹地領域として抽出できないが、長いLのDEM(L)では凹地領域として抽出できる場合がある。本発明の谷地形の抽出方法では、複数の解像度のDEM(L)から得られた凹地領域を重ね合わせてポリゴン(谷領域)とするので、様々な形状のV字谷地形が漏れにくく、網羅的に谷領域を抽出することができる。したがって、谷地形の抽出方法により抽出された谷領域は、現実の谷地形に適合したものとなる。
【0091】
また、谷地形の抽出方法は、傾斜角が第3閾値以上である凹地領域について谷領域(ポリゴン)を作成する。これにより、現実の谷地形に、より一層適合した谷領域を得ることができる。
【0092】
また、谷地形の抽出方法は、ポリゴンの面積と第2閾値に基づいて谷領域を抽出する。これにより、現実の谷地形に、より一層適合した谷領域を得ることができる。
【0093】
また、谷地形の抽出方法は、第1閾値の絶対値として本明細書に記載の式(3)を用いる。これにより、より一層客観的に凹地領域を抽出することができる。
【0094】
また、谷地形の抽出方法は、凹地領域が尾根を越えないように、集約に用いるセルの一辺の長さを定める。これにより、現実の谷地形により一層適合した凹地領域を得ることができる。
【0095】
水系の抽出方法及びそのプログラムは、谷地形の抽出方法によって得られた谷領域から水系を抽出する。水系の抽出は累積流量と第4閾値に基づいて行われる。これにより、V字谷地形の谷頭から始まる水系を得ることができる。また、谷地形の抽出方法によって得られた谷領域の範囲内で累積流量の計算を行えばよいので、DEM全体から累積流量を計算するよりも効率的に水系を得ることができる。
また、水系の抽出は、解析用セルの長さlと谷領域の幅Lの比wとし、図13に示したように比wごとに累積流量を計算する。ある比wでは谷頭が検出できなくても、他の比wでは谷頭を検出することができる場合もある。したがって、様々な形状のV字谷地形であっても谷頭が漏れにくく、網羅的に谷頭を抽出し、その谷頭から開始する水系を抽出することができる。
また、谷地形に適合した谷領域を対象として水系を作成するので、従来技術のように谷地形ではないが集水面積が大きい箇所を水系として抽出することを回避でき、かつ人工構造物がなす水平面を含まない水系を抽出することができる。
また、異なる解像度のDEM(L)から作成された谷領域に基づいて水系を作成するので、地図の縮尺によって異なる水系が作成されることはない。
【0096】
また、水系の抽出方法は、谷の長さ及び第5閾値に基づいて短い谷を除外する。これにより、その短い谷を起点とする水系を除外することができる。さらに、水系を細線化し、水系の最も上流から再度累積流量を計算し、第4閾値を越える解析用セルからなる水系を抽出する。これにより、地域で主要な谷地形に基づく水系を得ることができる。
【0097】
なお、谷地形の抽出方法及び水系の抽出方法における各ステップをプログラムとし、このプログラムをコンピュータに実行させてもよい。これにより各ステップがコンピュータ上で実現される。
【0098】
また、 上記プログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録しておくことができる。コンピュータで読み取り可能な記録媒体としては、例えば、磁気記録装置、光ディスク、光磁気記録媒体、半導体メモリ等が挙げられる。また、上記プログラムは、インターネット等の通信手段を介してダウンロード可能としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0099】
山地の地形表現図を利用したり、斜面災害のリスクを評価する産業分野などで利用したりすることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16