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  • 特許-全固体電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20241203BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20241203BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20241203BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20241203BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20241203BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241203BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241203BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20241203BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M4/13
H01M4/134
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/62 Z
H01M10/052
H01M10/0585
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021031396
(22)【出願日】2021-03-01
(65)【公開番号】P2022132763
(43)【公開日】2022-09-13
【審査請求日】2023-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】大浦 慶
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼島 義徳
(72)【発明者】
【氏名】原田 明
(72)【発明者】
【氏名】大▲崎▼ 基史
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-136018(JP,A)
【文献】特表2020-534652(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/006704(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0112344(KR,A)
【文献】特開2017-045515(JP,A)
【文献】特開2019-204719(JP,A)
【文献】特開2018-174038(JP,A)
【文献】特開2018-016704(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562
H01M 4/13
H01M 4/134
H01M 4/38
H01M 4/48
H01M 4/62
H01M 10/052
H01M 10/0585
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極層と、負極層と、前記正極層および前記負極層の間に形成された固体電解質層とを有する全固体電池であって、
前記正極層、前記負極層および前記固体電解質層の少なくとも一つの層が、硫化物固体電解質およびホストゲスト型バインダーを含有し、
前記ホストゲスト型バインダーは、環状ホスト基を含有するモノマー単位と、ゲスト基を含有するモノマー単位とを有し、
前記ゲスト基は、前記環状ホスト基に包接され、
前記ホストゲスト型バインダーのガラス転移温度(Tg)が、30℃以下である、全固体電池。
【請求項2】
前記環状ホスト基が、シクロデキストリン骨格、シクロファン骨格およびククルビットウリル骨格の少なくとも1種を含有する、請求項1に記載の全固体電池。
【請求項3】
前記ゲスト基が、アダマンチル基を含有する、請求項1または請求項2に記載の全固体電池。
【請求項4】
前記負極層が、負極活物質と、前記硫化物固体電解質と、前記ホストゲスト型バインダーとを含有する、請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の全固体電池。
【請求項5】
前記負極活物質が、Si系活物質である、請求項4に記載の全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池には、硫化物固体電解質およびバインダーを用いることが知られている。例えば、特許文献1には、全固体電池に用いられるバインダーとして、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリフッ化ビニリレン(PVDF)、アクリル、またはエチルメチルセルロース等を使用することが開示されている。また、全固体電池に関する技術ではないが、特許文献2には、ホストゲスト構造を有するゲル電解質バインダーを用いたゲル電池が開示されている。さらに、特許文献3には、環状ホスト基およびゲスト基を含有する重合体を含有する負極活物質層を備えた負極が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-069843号公報
【文献】中国特許出願公開第108258322号明細書
【文献】特開2019-204719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
全固体電池は充放電により膨張収縮しやすく、それに起因してサイクル特性等の性能が低下する恐れがある。本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、サイクル特性に優れた全固体電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本開示においては、正極層と、負極層と、上記正極層および上記負極層の間に形成された固体電解質層とを有する全固体電池であって、上記正極層、上記負極層および上記固体電解質層の少なくとも一つの層が、硫化物固体電解質およびホストゲスト型バインダーを含有し、上記ホストゲスト型バインダーは、環状ホスト基を含有するモノマー単位と、ゲスト基を含有するモノマー単位とを有し、上記ゲスト基は、上記環状ホスト基に包接され、上記ホストゲスト型バインダーのガラス転移温度(Tg)が、30℃以下である、全固体電池を提供する。
【0006】
本開示によれば、正極層、負極層および固体電解質層の少なくとも一つの層が、硫化物固体電解質および所定のガラス転移温度を有するホストゲスト型バインダーを含有するため、サイクル特性に優れた全固体電池となる。
【0007】
上記開示においては、上記環状ホスト基が、シクロデキストリン骨格、シクロファン骨格およびククルビットウリル骨格の少なくとも1種を含有してもよい。
【0008】
上記開示においては、上記ゲスト基が、アダマンチル基を含有してもよい。
【0009】
上記開示においては、上記負極層が、負極活物質と、上記硫化物固体電解質と、上記ホストゲスト型バインダーとを含有してもよい。
【0010】
上記開示においては、上記負極活物質が、Si系活物質であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本開示においては、サイクル特性に優れた全固体電池を提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示における全固体電池の一例を示す概略断面図である。
図2】本開示におけるホストゲスト型バインダーの構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示における全固体電池について、詳細に説明する。
【0014】
図1は、本開示における全固体電池の一例を示す概略断面図である。図1に示される全固体電池10は、正極層1と、負極層2と、正極層1および負極層2の間に形成された固体電解質層3と、正極層1の集電を行う正極集電体4と、負極層2の集電を行う負極集電体5と、これらの部材を収納する電池ケース6とを有する。また、正極層1、負極層2および固体電解質層3の少なくとも一つの層が、硫化物固体電解質および所定のガラス転移温度を有するホストゲスト型バインダーを含有する。
【0015】
本開示によれば、正極層、負極層および固体電解質層の少なくとも一つの層が、硫化物固体電解質および所定のガラス転移温度を有するホストゲスト型バインダーを含有するため、サイクル特性に優れた全固体電池となる。
【0016】
上述したように、特許文献2には、ホストゲスト構造を有するゲル電解質バインダーを用いたゲル電池が開示されている。このような構造を有するバインダーは自己修復性を有することが知られており、電極層に添加することで電極層に亀裂が生じた場合でも自己修復できることが期待される。一方、特許文献2に開示されたバインダーは、有機溶媒や電解液に膨潤した状態では、つまり液系の電池では自己修復性が発揮されるが、バインダーを乾燥した状態で使用する全固体電池では十分な自己修復性が発揮されないと考えられる。これは、以下の理由によると考えられる。
【0017】
特許文献2は、バインダー(ポリマー)の構成材料として、メタクリル酸メチル、アクリロニトリル、ヘキサフルオロプロペン、ビニルアセタール、ビニリデン、ビニルアルコール、テトラフロオロエチレンを挙げている。これらはいずれも室温以上のガラス転移温度(Tg)を有しているため、得られるバインダーのTgも室温以上であることが推察される。ここで、電池は室温付近の温度を想定して使用される。そのため、Tgが室温よりも高いと、電池ではポリマーの運動性が低下する。液系電池ではポリマーをゲル状で使用するため、Tgに起因するポリマーの運動性の影響は小さいと考えられるが、乾燥状態でバインダーを使用する全固体電池で顕著にポリマーの運動性が低下すると考えられる。そのため、特許文献2で開示されたようなバインダーを全固体電池に応用しても、全固体電池では、ポリマーの運動性が小さく、かつ、修復部分の接触面積が小さいため、自己修復に要する時間が非常に長くなることが予想される。その結果、十分な自己修復性が発揮されないと考えられる。
【0018】
一方、本開示におけるホストゲスト型バインダーは、Tgが30℃以下である。そのため、乾燥状態の固体電池においてもバインダー(ポリマー)の運動性が良好である。ポリマーの運動性が良好であれば、電極層の亀裂を十分に修復することができるため、全固体電池のサイクル特性が良好となる。また、電池におけるイオンの輸送はポリマーの分子運動に依存するため、運動性が良好な本開示におけるバインダーを用いた電池では、イオン伝導性も良好となる。
【0019】
また、本開示におけるホストゲスト型バインダーは、全固体電池において硫化物固体電解質とともに用いられる。硫化物固体電解質は、その界面構築が比較的低温(例えば250℃以下)で可能であるため、バインダーが分解しないと考えられる。一方、酸化物固体電解質では、その界面構築のために高温で焼成する必要があり、その熱でバインダーが炭化分解してしまう可能性がある。なお、上記特許文献3は、電池に固体電解質を用いることができることが開示されているものの、ホストゲスト型バインダーを硫化物固体電解質と共に用いることは記載も示唆もしていない。後述する実施例で示すように、本開示においては、ホストゲスト型バインダーを硫化物固体電解質と共に用いることで、サイクル特性が顕著に良好となる。
【0020】
1.ホストゲスト型バインダー
図2は、本開示におけるホストゲスト型バインダーの構造を示す模式図である。図2に示すように、本開示におけるホストゲスト型バインダーは、環状ホスト基を含有するモノマー単位と、ゲスト基を含有するモノマー単位とを有し、ゲスト基は、環状ホスト基に包接されている。また、ホストゲスト型バインダーのガラス転移温度は30℃以下である。なお、図2では、環状ホスト基がシクロデキストリン骨格を含有し、ゲスト基がアダマンチル基である。
【0021】
(1)環状ホスト基を含有するモノマー単位
本開示におけるホストゲスト型バインダーは、環状ホスト基を含有するモノマー単位(以下、第1モノマー単位とも称する)を有する。ホストゲスト型バインダーは、1種の第1モノマー単位を有していてもよく、2種以上の第1モノマー単位を有していてもよい。
【0022】
環状ホスト基は、例えば、シクロデキストリン骨格、シクロファン骨格およびククルビットウリル骨格の少なくとも1種を含有する。また、環状ホスト基は、これらの置換体を含有していてもよい。
【0023】
環状ホスト基の具体例としては、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、カリックス[6]アレーンスルホン酸、カリックス[8]アレーンスルホン酸、12-クラウン-4、18-クラウン-6、[6]パラシクロファン、[2,2]パラシクロファン、ククルビット[6]ウリル、ククルビット[8]ウリルが挙げられる。これらの中でも、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンが好ましい。
【0024】
第1モノマー単位の化学構造は、例えば、下記一般式(1)で表される。
【0025】
【化1】
【0026】
一般式(1)中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Rは、ヒドロキシル基、チオール基、1個以上の置換基を有していてもよいアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいチオアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、1個の置換基を有していてもよいアミノ基、1個以上の置換基を有していてもよいアミド基、または、アルデヒド基およびカルボキシル基等の1価の基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基を表し、nは0または1を表し、Hostは環状ホスト基を表す。
【0027】
ホストゲスト型バインダーを構成する全モノマー単位に対する第1モノマー単位の割合は、例えば0.05mol%以上であり、0.5mol%以上であってもよく、1.0mol%以上であってもよい。一方、ホストゲスト型バインダーを構成する全モノマー単位に対する第1モノマー単位の割合は、例えば3.0mol%以下であり、2.5mol%以下であってもよく、2.0mol%以下であってもよく、1.5mol%以下であってもよい。ホストモノマーの割合が多すぎたり少なすぎたりすると、十分な接着性を付与できない場合がある。
【0028】
第1モノマー単位は、通常、環状ホスト基を含有するモノマー(ホストモノマー)を用いて形成される。ホストモノマーは、上述した第1モノマー単位が得られるモノマーであれば特に限定されない。また、第1モノマー単位は、環状ホスト基を2つ以上含有する化合物を用いて形成されていてもよい。このような化合物としては、例えば、ジシクロデキストリンポリ(アリルアミン)デンドリマー(世代0)モノアクリルアミド、ジシクロデキストリンポリ(アリルアミン)デンドリマー(世代0)ジアクリルアミド、ジシクロデキストリンポリ(アリルアミン)デンドリマー(世代0)モノアクリレート、ジシクロデキストリンポリ(アリルアミン)デンドリマー(世代0)ジアクリレート、トリシクロデストリンポリ(アリルアミン)デンドリマー(世代0)モノアクリルアミド、トリシクロデストリンポリ(アリルアミン)デンドリマー(世代0)モノアクリレート等が挙げられる。
【0029】
(2)ゲスト基を含有するモノマー単位
本開示におけるホストゲスト型バインダーは、ゲスト基を含有するモノマー単位(以下、第2モノマー単位とも称する)を有する。ゲスト基は、環状ホスト基に包接されている。ホストゲスト型バインダーは、1種の第2モノマー単位を有していてもよく、2種以上の第2モノマー単位を有していてもよい。
【0030】
ゲスト基は、対応する環状ホスト基に包接される基であれば特に限定されない。ゲスト基としては、例えば、直鎖、分岐または環状の炭素数が1から18のアルキル基が挙げられる。具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、イソへキシル基、ドデシル基、オクタデシル基、アダマンチル基等のアルキル基が挙げられる。これらは、それぞれ置換基を有していてもよい。このうち、アダマンチル基およびブチル基が好ましく、アダマンチル基が特に好ましい。環状ホスト基がシクロデキストリン骨格を有する場合に、バインダーの自己修復性が特に良好となるからである。
【0031】
第2モノマー単位の化学構造は、例えば、下記一般式(2)で表される。
【0032】
【化2】
【0033】
一般式(2)中、R’は水素原子またはメチル基を表し、Rは、ヒドロキシル基、チオール基、1個以上の置換基を有していてもよいアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいチオアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、1個の置換基を有していてもよいアミノ基、1個以上の置換基を有していてもよいアミド基、または、アルデヒド基およびカルボキシル基等の1価の基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基を表し、nは0または1を表し、Guestはゲスト基を表す。
【0034】
ホストゲスト型バインダーを構成する全モノマー単位に対する第2モノマー単位の割合は、例えば0.05mol%以上であり、0.5mol%以上であってもよく、1.0mol%以上であってもよい。一方、ホストゲスト型バインダーを構成する全モノマー単位に対する第2モノマー単位の割合は、例えば3.0mol%以下であり、2.5mol%以下であってもよく、2.0mol%以下であってもよく、1.5mol%以下であってもよい。ホストモノマーの割合が多すぎたり少なすぎたりすると、十分な接着性を付与できない場合がある。
【0035】
ホストゲスト型バインダーを構成する全モノマー単位に対する、第1モノマー単位および第2モノマー単位の割合は、例えば0.1mol%以上であり、1.0mol%以上であってもよく、2.0mol%以上であってもよい。一方、ホストゲスト型バインダーを構成する全モノマー単位に対する、第1モノマー単位および第2モノマー単位の割合は、例えば6.0mol%以下であり、5.0mol%以下であってもよく、4.0mol%以下であってもよく、3mol%以下であってもよい。
【0036】
第2モノマー単位は、通常、ゲスト基を含有するモノマー(ゲストモノマー)を用いて形成される。ゲストモノマーは、上述した第2モノマー単位が得られるモノマーであれば特に限定されない。
【0037】
(3)環状ホスト基もゲスト基も含有しないモノマー単位
本開示におけるホストゲスト型バインダーは、通常、環状ホスト基もゲスト基も含有しないモノマー単位(以下、第3モノマー単位とも称する)を有する。第3モノマー単位は、通常、ホストゲスト型バインダーにおける主たるモノマー単位である。ホストゲスト型バインダーは、1種の第3モノマー単位を有していてもよく、2種以上の第3モノマー単位を有していてもよい。
【0038】
ホストゲスト型バインダーを構成する全モノマー単位に対する第3モノマー単位の割合は、例えば70mol%以上であり、80mol%以上であってもよく、90mol%以上であってもよい。
【0039】
第3モノマー単位は、通常、環状ホスト基もゲスト基も含有しないモノマー(主モノマー)を用いて形成される。主モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、およびそれらのエステルおよびアミド等の誘導体が挙げられる。具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル(アクリル酸n-ブチルおよびアクリル酸t-ブチル)およびメタクリル酸ブチル(メタクリル酸n-ブチルおよびメタクリル酸t-ブチル)が挙げられる。
【0040】
(4)ホストゲスト型バインダー
本開示におけるホストゲスト型バインダーは、環状ホスト基を含有するモノマー単位と、ゲスト基を含有するモノマー単位とを有する。環状ホスト基およびゲスト基については、上述したとおりである。
【0041】
また、本開示におけるホストゲスト型バインダーは、ガラス転移温度(Tg)が、30℃以下である。Tgは、20℃以下であってもよく、10℃以下であってもよく、0℃以下であってもよい。また、Tgは、例えば-40℃以上であり、-30℃以上であってもよく、-20℃以上であってもよく、-10℃以上であってもよい。Tgは、例えば示差走査熱量測定(DSC)等の一般的な方法により測定することができる。Tgは、バインダーを構成するモノマーの種類および割合を調製することで変更することができる。
【0042】
本開示におけるホストゲスト型バインダーは、通常、Tgを有する。一方、ホストゲスト型バインダーは、融点(Tm)を有していてもよく、有していなくてもよい。通常、前者は、結晶性樹脂であり、後者は、非晶質性樹脂である。ホストゲスト型バインダーがTmを有する場合、Tmは30℃以下であってもよく、20℃以下であってもよく、10℃以下であってもよい。
【0043】
ホストゲスト型バインダーでは、環状ホスト基とゲスト基との疎水性相互作用、水素結合、分子間力、静電相互作用、配位結合およびπ電子相互作用等のホストゲスト相互作用によって、ゲスト基は環状ホスト基に包接される。そのため、本開示におけるホストゲスト型バインダーは、上述したホストゲスト相互作用を架橋点とした三次元網目構造を取り得る。
【0044】
本開示におけるホストゲスト型バインダーの製造方法は、例えば、上述した主モノマー、ホストモノマーおよびゲストモノマーを有機溶媒に混合および溶解させ、そして、重合開始剤を添加して反応させることで製造することができる。有機溶媒としては、上述した各モノマーを溶解でき、かつ、重合開始剤により発生するラジカルを失活しないものであれば特に限定されない。有機溶媒としては、例えば、エタノール、N,N-ジメチルホルムアミド、ジオキサン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、クロロホルム、トルエンおよびヘキサンが挙げられる。
【0045】
また、重合開始剤としては、ラジカル重合の場合は、例えば、アゾ化合物、ラジカル系光重合開始剤およびパーオキサイドが挙げられる。イオン重合の場合は、例えば、n-ブチルリチウム等のアルキルリチウム化合物および三酸化アルミニウム等のルイス酸が挙げられる。反応温度および反応時間は、適宜調整することができる。
【0046】
2.負極層
本開示における負極層は、少なくとも負極活物質を含有する。負極層は、上述したホストゲスト型バインダーおよび硫化物固体電解質を含有することが好ましい。ホストゲスト型バインダーについては、上記「1.ホストゲスト型バインダー」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0047】
負極層はバインダーとして、上述したバインダーのみを含有していてもよく、他のバインダーを含有していてもよいが前者が好ましい。負極層におけるバインダーの割合は、例えば10重量%以下であり、5重量%以下であってもよく、3重量%以下であってもよい。一方、負極層におけるバインダーの割合は、例えば0.1重量%以上である。
【0048】
負極活物質としては、例えば、金属活物質、カーボン活物質および酸化物活物質が挙げられる。金属活物質としては、例えば、Li、In、Al、Si、Sn、および、これらの少なくとも1種を含む合金が挙げられる。カーボン活物質としては、例えば、グラファイト、ハードカーボン、ソフトカーボンが挙げられる。酸化物活物質としては、例えば、LiTi12、SiO、Nbが挙げられる。これらの中でも、Siを含有するSi系活物質が特に好ましい。Si系活物質としては、Si単体、Si合金およびSiO(0<x<2)が挙げられる。Si系活物質を用いることで高容量な電池とすることができる。また、Si系活物質は一般的に膨張収縮量が大きいため、本開示の自己修復性を有するバインダーとともに用いた場合、より顕著にサイクル特性向上の効果が得られる。負極活物質の形状としては、例えば粒子状が挙げられる。
【0049】
硫化物固体電解質は、Li元素と、A元素(Aは、P、Ge、Si、Sn、BおよびAlの少なくとも1種である)と、S元素とを有することが好ましい。硫化物固体電解質は、ハロゲン元素をさらに有していてもよい。ハロゲン元素としては、例えば、F元素、Cl元素、Br元素、I元素が挙げられる。また、硫化物固体電解質は、O元素をさらに有していてもよい。
【0050】
硫化物固体電解質は、オルト組成のアニオン構造(PS 3-構造、SiS 4-構造、GeS 4-構造、AlS 3-構造、BS 3-構造)をアニオンの主成分として有することが好ましい。化学安定性が高いからである。オルト組成のアニオン構造の割合は、硫化物固体電解質における全アニオン構造に対して、例えば70mol%以上であり、90mol%以上であってもよい。オルト組成のアニオン構造の割合は、例えば、ラマン分光法、NMR、XPSにより決定することができる。
【0051】
硫化物固体電解質は、ガラス系硫化物固体電解質であってもよく、ガラスセラミックス系硫化物固体電解質であってもよい。ガラス系硫化物固体電解質は、原料をガラス化することにより得ることができる。ガラスセラミックス系硫化物固体電解質は、例えば、上述したガラス系硫化物固体電解質を熱処理することにより得ることができる。また、硫化物固体電解質は、所定の結晶構造を有することが好ましい。結晶構造としては、例えば、Thio-LISICON型結晶構造、LGPS型結晶構造、アルジロダイト型結晶構造が挙げられる。
【0052】
硫化物固体電解質の具体例としては、LiS-P、LiS-P-LiI、LiS-P-GeS、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI、LiS-P-LiI-LiBr、LiS-SiS、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-B、LiS-P-ZSn(ただし、m、nは正の数。Zは、Ge、Zn、Gaのいずれか。)、LiS-GeS、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiMO(ただし、x、yは正の数。Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれか。)が挙げられる。また、硫化物固体電解質の組成の具体例としては、xLiS・(1-x)P(0.7≦x≦0.8)、yLiI・zLiBr・(100-y-z)LiPS(0≦y≦30、0≦z≦30)が挙げられる。
【0053】
また、負極層は必要に応じて導電助剤を含有していてもよい。導電助剤としては、例えば炭素材料、金属材料が挙げられる。炭素材料としては、例えば、気相成長カーボンファイバ(VGCF)、アセチレンブラック、活性炭、ファーネスブラック、カーボンナノチューブ、ケッチェンブラック、グラフェンが挙げられる。負極層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0054】
3.正極層
正極層は、少なくとも正極活物質を含有する層である。正極層は、上述したホストゲスト型バインダーおよび硫化物固体電解質を含有することが好ましい。ホストゲスト型バインダーおよび硫化物固体電解質については、上記「1.ホストゲスト型バインダー」および「2.負極層」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。さらに、正極層は、必要に応じて導電助剤を含有していてもよい。導電助剤についても、上述した負極層と同様である。
【0055】
正極活物質としては、例えば酸化物活物質が挙げられる。酸化物活物質としては、例えば、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3等の岩塩層状型活物質、LiMn、LiTi12、Li(Ni0.5Mn1.5)O等のスピネル型活物質、LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、LiCoPO等のオリビン型活物質が挙げられる。正極活物質の表面は、LiNbO等のイオン伝導性酸化物で被覆されていてもよい。正極層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0056】
4.固体電解質層
固体電解質層は、正極層および負極層の間に形成される層である。また、固体電解質層は、少なくとも固体電解質を含有する層である。また、固体電解質層は、上述したホストゲスト型バインダーおよび硫化物固体電解質を含有することが好ましい。ホストゲスト型バインダーおよび硫化物固体電解質については、上記「1.ホストゲスト型バインダー」および「2.負極層」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。固体電解質層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0057】
5.全固体電池
本開示における全固体電池は、上述した正極層、負極層および固体電解質層を有する。さらに通常は、正極層の集電を行う正極集電体、および負極層の集電を行う負極集電体を有する。正極集電体の材料としては、例えばSUS、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタンおよびカーボンが挙げられる。一方、負極集電体の材料としては、例えばSUS、銅、ニッケルおよびカーボンが挙げられる。
【0058】
本開示における全固体電池は、一次電池であってもよく、二次電池であってもよいが、後者が好ましい。繰り返し充放電でき、例えば車載用電池として有用だからである。なお、二次電池には、二次電池の一次電池的使用(充電後、一度の放電だけを目的とした使用)も含まれる。
【0059】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例
【0060】
[実施例1]
(ホストゲスト型バインダーの製造)
ホストゲスト型バインダーは、以下のように、環状ホスト基含有モノマー(ホストモノマー)、ゲスト基含有モノマー(ゲストモノマー)および主モノマーとして(メタ)アクリル系モノマーを有機溶媒に混合および溶解させ、そして、重合開始剤を添加して反応させることで製造した。
【0061】
まず、反応容器に有機溶媒としてジメチルスルホキシド(DMSO)100重量部を添加した。次に、反応容器に、主モノマーとしてアクリル酸エチルを87重量部、ゲストモノマーとしてアクリル酸アダマンタン-1-イル(Ad-Ac)を2重量部、ホストモノマーとしてアクリル酸-ベータ-シクロデキストリン(β-CDAc)を11重量部添加した。これは、mol%に換算すると、主モノマー:ゲストモノマー:ホストモノマー=98:1:1となる。次に、これらを均一になるまで撹拌し、そして、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を0.2重量部添加した。そして、80℃に昇温して、8時間還流させながら加熱を行った。反応後の溶液を150℃で真空乾燥させることで残留したモノマーと溶媒を除去した。これにより、乾燥したバインダー(ベータシクロデキストリンアダマンチルアクリレート:β-CD-Ad-EA)を得た。バインダーはMIBK(メチルイソブチルケトン)に溶解させ、10wt%MIBK溶液として、電池の製造に使用した。なお、β-CDAcは、例えば特開平10-259202号公報等の従来公知の方法に基づき調製した。
【0062】
(全固体電池の製造)
正極活物質(LiNi1/3Mn1/3Co1/3)および硫化物固体電解質(LiI-LiO-LiS-P)の重量比率が活物質:硫化物固体電解質=70:30となるように混合した。この混合物を正極層100重量部に対して94.0重量部となるように秤量した。次に、正極層100重量部に対してPVDFバインダー溶液が固形分で3.0重量部、導電助剤(気相成長炭素繊維、昭和電工株式会社製)が3.0重量部となるように秤量した。さらに、溶媒(分散媒)として固形分率が60wt%となるようにメチルイソブチルケトン(脱水品)を添加し、超音波ホモジナイザー(株式会社エスエムテー製、UH-50)を用いて1分間に亘って混練することにより正極用スラリーを作製した。その後、アルミニウム箔(正極集電体)の表面に、アプリケータを用いて、正極用スラリーを塗工し、5分間自然乾燥させた。その後、100℃で60分間温風乾燥させて正極層を形成した。これにより正極集電体および正極層を有する正極を作製した。
【0063】
負極活物質(SiO、粒子径15.0μm)および硫化物固体電解質(LiI-LiO-LiS-P)の重量比率が活物質:硫化物固体電解質=70:30となるように混合した。この混合物を負極層100重量部に対して94.0重量部となるように秤量した。次に、負極層100重量部に対して上記バインダー溶液(10wt%MIBK溶液)を固形分が3.0重量部となる量、導電助剤(気相成長炭素繊維、昭和電工株式会社製)が3.0重量部となるように秤量した。溶媒(分散媒)としてメチルイソブチルケトン(脱水品)を固形分率60wt%となるように添加し、超音波ホモジナイザー(株式会社エスエムテー製、UH-50)を用いて1分間混練した。その後、SUS箔(負極集電体)の表面に、アプリケータを用いて、スラリーを塗工し、30分間自然乾燥させた。その後、100℃で60分間温風乾燥させて負極層を形成した。これにより、負極集電体および負極層を有する負極を作製した。
【0064】
硫化物固体電解質97.0重量部、PVDFバインダー溶液を固形分で3.0重量部を容器に添加した。さらに、溶媒(分散媒)としてメチルイソブチルケトンを、固形分が45wt%となるように加えた。これを超音波ホモジナイザー(SMT社製UH-50)を用いて混練することにより、固体電解質層用スラリーを得た。アルミニウム箔(転写箔)にアプリケータを用いて固体電解質層用スラリーを塗工し、5分間自然乾燥させた。その後、100℃で30分間温風乾燥させることにより固体電解質層を得た。
【0065】
不活性ガス中で、アルミニウム箔をはがした固体電解質層を挟んで正極層および負極層が対向するように重ねて、積層体を得た。この積層体を4.3tonでプレスした。これにより、全固体電池を得た。
【0066】
[実施例2~11]
表1および表2に示すように、ホストモノマーの種類、主モノマーの種類、ホストモノマー量、ゲストモノマー量、負極活物質の種類を変更したこと以外は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。なお、表中の、γ-CDAcはアクリル酸-γ-シクロデキストリンを、BAはアクリル酸ブチルを、MAはアクリル酸メチルを、nBMAはメタクリル酸nブチルを意味する。
【0067】
[比較例1~3]
比較例1は、主モノマーとしてメタクリル酸エチル(EMA)用いて、Tgを30℃より高くしたこと以外は実施例1と同様に全固体電池を作製した。比較例2は、ホストモノマーおよびゲストモノマーを用いなかったこと以外は実施例1と同様に全固体電池を作製した。比較例3は、バインダーとしてフッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重(PVDF-HFP)を用いたこと以外は実施例1と同様に全固体電池を作製した。
【0068】
[比較例4]
バインダーとして、スライドリングマテリアルであるポリロタキサン(アドバンスト・ソフトマテリアルズ社製、商品名:セルムスーパーポリマーSH3400P、重量平均分子量700、000)を用いたこと以外は、実施例1と同様に全固体電池を作製した。
【0069】
[比較例5]
以下のようにして、液系のリチウムイオン電池を作製した。
正極活物質としてLiNi1/3Mn1/3Co1/3を85重量部、導電助剤(気相成長炭素繊維、昭和電工株式会社製)を10重量部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)のNMP溶液を固形分で5重量部を、樹脂製容器に秤量した。これをハイブリッドミキサーで混合してスラリー状の正極合剤を作製した。この正極合剤をアルミニウム箔(正極集電体)にドクターブレードで塗布し、110℃で乾燥した。これにより、アルミニウム箔の片面に正極層が形成された正極を作製した。この正極を所定の密度になるように、ロールプレスした。
【0070】
天然黒鉛95重量部と、バインダーおよび電解質としてβ-CD-Ad-EAを5重量部とを混合した。この混合物を、分量外のNMPに分散させてスラリー状の負極合剤を調製した。この負極合剤を、銅箔(負極集電体)に均一に塗布し、120℃雰囲気下で12時間減圧乾燥し、そして、ロールプレス機で加圧成型した。これにより、銅箔の片面に負極層が形成された負極を作製した。
【0071】
作製した負極および正極と、セパレータ(ポリエチレン製の微多孔質膜)とを所定の寸法に切断した。続いて、セパレータを挟んで正極層および負極層が対向するように、正極、セパレータおよび負極をこの順序で積層して積層体を作製した。積層体は、正極、セパレータおよび負極がずれないようにテープで固定した。正極および負極には、それぞれ、外部引き出し端子としてアルミニウム箔(幅4mm、長さ40mm、厚み100μm)、ニッケル箔(幅4mm、長さ40mm、厚み100μm)を超音波溶接した。
【0072】
アルミニウムラミネート材料からなる電池外装体に、上記積層体(電池要素)を電解液とともに封入し真空密閉することで、液系のリチウムイオン二次電池を作製した。電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とを等容量で混合した混合溶媒に、電解質塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1mol/L溶解させて調製した電解液を用いた。
【0073】
[評価]
(剥離強度測定)
実施例1~11および比較例1~5で作製した負極について、以下の方法により剥離強度を測定した。結果を表1~3に示す。両面テープの一面を負極層の表面側に、もう一面を金属板に貼った。金属板は固定されており、負極集電体のうち、負極層が表面に形成されていない箇所をロードセルと接続させ、金属部品を鉛直方向に50mm/分の速度で移動させた。この時のロードセルにかかる平均荷重を負極層の幅(2cm)で除することで、剥離強度を算出した。
【0074】
(Liイオン伝導度測定)
実施例1~11および比較例1~5で得られた電池に対して、交流インピーダンス法によるLiイオン伝導度(常温)の測定を行った。測定にはソーラトロン1260を用い、測定条件は印加電圧10mV、測定周波数域0.01MHz~1MHzとした。結果を表1~3に示す。なお、各試験セルは以下のように準備した。まず、充電前の電池に対し、25℃±4℃の環境下で0.1Cの電流値でセル当たりの端子電圧が設定電圧になるまで定電流充電を行い、その後、設定電圧に保持する定電圧充電を行う定電流定電圧充電によって、1時間、充電を行った。初回充電ののち、0.2Cで4.2Vまで10時間、定電流定電圧放電を行った。その後、25±4℃の環境下で0.2Cの電流値にて4.0Vまで定電流充電した。これにより伝導度測定で使用する試験セルを準備して上記測定を行った。
【0075】
(サイクル試験)
実施例1~11および比較例1~5で作製した電池(試験セル)に対して、40℃の環境下で、1Cの電流値での4.2Vまでの2.5時間の定電流定電圧充電と、1Cの電流値にて3.0Vまで定電流放電とを繰り返すサイクルを300サイクル実行した。そして、5サイクル目の放電容量で300サイクル目の放電容量を除算することによって、容量維持率(%)を算出した。このサイクル試験を、各実施例および比較例につき3つの試験セルで行い平均値を算出した。結果を表1~3に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
実施例1~11に示すように、本開示におけるバインダーを用いた全固体電池は、サイクル特性が良好であることが確認された。特に、充放電に伴う膨張収縮が大きいSi活物質を用いた場合でも良好なサイクル特性を示すことが確認された。
【0080】
また、実施例1および比較例5からわかるように、本開示におけるバインダーは固体電池に使用した場合に有効であることが確認された。これは、以下の理由によるものと考える。液系電池の電極は電解液がしみこむことができるよう、ある程度の空隙を設けて形成されている。そのため、負極活物質同士の接触面積が少なく、本開示におけるバインダーの自己修復性が十分に活かされなかったためと考える。
【符号の説明】
【0081】
1 …正極層
2 …負極層
3 …固体電解質層
4 …正極集電体
5 …負極集電体
6 …電池ケース
10 …全固体電池
図1
図2