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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】筐体用積層体
(51)【国際特許分類】
   H05K 5/02 20060101AFI20241203BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20241203BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20241203BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20241203BHJP
   C08F 20/18 20060101ALI20241203BHJP
   C09D 4/02 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
H05K5/02 J
B32B7/025
B32B27/30 A
B32B27/36 102
C08F20/18
C09D4/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022508398
(86)(22)【出願日】2021-03-17
(86)【国際出願番号】 JP2021010750
(87)【国際公開番号】W WO2021187509
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2024-02-26
(31)【優先権主張番号】P 2020049047
(32)【優先日】2020-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100226894
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 夏詩子
(72)【発明者】
【氏名】河谷 俊宏
(72)【発明者】
【氏名】磯崎 正義
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 憲
(72)【発明者】
【氏名】森 亮
(72)【発明者】
【氏名】梅田 研二
【審査官】太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-215452(JP,A)
【文献】特開2019-197048(JP,A)
【文献】特開2018-150522(JP,A)
【文献】特開2009-096758(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 5/00- 5/06
B32B 7/025
B32B 27/30
B32B 27/36
C08F 20/18
C09D 4/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート基材またはポリメチルメタクリレートとポリカーボネートとからなる複合板である基材に、コーティング層を有して、筐体に用いられる積層体であって、コーティング層が光硬化性樹脂組成物の硬化物であって、該組成物が(a)光硬化性化合物、(b)光重合開始剤および(c)溶剤を含み、光硬化性化合物が、下記式(1)または(2)で表される光硬化性多官能モノマーを必須の成分として含有し、光硬化性化合物の100g当たりのアクリルモル数が0.8以上、1.1以下であり、以下の条件1及び条件2を満たすことを特徴とする筐体用積層体。
【化1】
【化2】
条件1:5GHz以上の周波数帯においてスプリットポスト誘電体共振器法により測定された比誘電率Dk及び誘電正接Dfの関係が以下の式を満たすこと。
Df×(√Dk)<0.02
条件2:コーティング層に対して#0000のスチールウールを1.5kg/cm荷重で300往復させた後に目視で傷が確認されないこと。
【請求項7】
コーティング層の厚みが1~30μmである請求項1、2、5、6のいずれかに記載の筐体用積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスマートフォンに代表される携帯通信機器の筐体用として優れた特性を有する筐体用積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンや携帯電話、通信機能付きのタブレット端末などの携帯性に優れた端末機器が広く普及している。
通信機器においては、通信速度、送受信データ量の増大に対応しミリ波など高周波帯域における通信手段が現実となってきており、データ送受信におけるノイズ、誘電損失などによる通信エラーの低減が緊急の課題となっている。
【0003】
このような通信機器にはこれまで金属やガラスが好適に用いられてきたが、金属は電波透過性が悪く、ガラスについても高周波電波を通しにくいといった報告がなされている。その対応手段として、上記端末機器の筐体として誘電損失に優れたプラスチック筐体の採用が期待されている。
【0004】
一方、プラスチック筐体は表面が傷つきやすく、ガラス筐体や金属筐体に比べて外観の高級感に劣るという欠点を有している。そのため、プラスチック筐体の表面にコーティングを設ける手法が用いられている。こうしたコーティングにはアクリル系の樹脂が多く用いられており、活性光線の照射により光硬化することで優れた表面硬度(耐スチールウール性)を発現している。
【0005】
プラスチック筐体用のコーティング層として、下記特許文献1には耐擦傷性を満足するために機能性を有したハードコート層を転写する方法が提案されている。特許文献2~4ではケイ素化合物を用いることで、滑り性、離形性、可とう性(柔軟性)および応力緩和により耐スチールウール性を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-25739号公報
【文献】特開2015-196748号公報
【文献】国際公開WO 2015/152288号
【文献】国際公開WO 2015/152289号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような積層体では、コーティング層の耐スチールウール性を向上させることは常に求められる。一方で、通信機器の筐体においては高周波帯域の通信に適用するため誘電損失の低いものが必要となる。そこで、本発明は、スマートフォンなどの筐体用に使用した場合、耐スチールウール性かつ、5GHz以上の周波数帯における誘電損失の低い筐体用積層体を提供することを課題とする。
【0008】
すなわち本発明は、ポリカーボネート基材またはポリメチルメタクリレートとポリカーボネートとからなる複合板である基材に、コーティング層を有して、筐体に用いられる積層体であって、以下の条件1及び条件2を満たすことを特徴とする筐体用積層体である。
条件1:5GHz以上の周波数帯においてスプリットポスト誘電体共振器法により測定された比誘電率Dk及び誘電正接Dfの関係が以下の式を満たすこと。
Df×(√Dk)<0.02
条件2:コーティング層に対して#0000のスチールウールを1.5kg/cm2荷重で300往復させた後に目視で傷が確認されないこと。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐擦傷性かつ、5GHz以上の周波数帯において低い誘電損失特性を兼ね備えた筐体用積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を構成するそれぞれの要素について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。また、本発明において、「(メタ)アクリル」という表現を用いた場合、「アクリル」と「メタクリル」の一方又は両方を意味する。「(メタ)アクリレート」、「(メタ)アクリロイル」についても同様である。
【0011】
本発明の筐体用積層体は基材にコーティング層を備えたものであり、基材はポリカーボネート基材であるかまたはポリメチルメタクリレートとポリカーボネートとからなる複合板である。
【0012】
積層体の誘電損失は比誘電率Dk、誘電正接Df、信号の周波数fから次式で求められる。
誘電損失=k×f×Df×(√Dk)
(k:定数, f:信号の周波数, Df:誘電正接, Dk:比誘電率)
そのため、高周波領域で使用するためにはDf×(√Dk)を低く抑える必要がある。本発明においては、5GHz以上の周波数帯において、スプリットポスト誘電体共振器法によって測定されるDk、Dfについて、Df×(√Dk)が<0.02、好ましくは<0.015、より好ましくは<0.012である。このDf×(√Dk)の範囲であれば、筐体用積層体として高周波帯の通信でも問題なく利用することができる。
【0013】
スプリットポスト誘電体共振器法は1GHz~20GHzの周波数帯において比誘電率Dk、誘電正接Dfを精度よく測定できる方法の1つである。本測定は共振法の一種であり、共振器の中央部に被測定基板を挿入するスペースがあり、このスペースの中に被測定基板を挿入する前と、挿入した後の共振周波数を求めることで比誘電率Dk、誘電正接Dfを測定することができる。なお、用いる共振器はIEC-61189に準じたものを使用する。
【0014】
本発明の基材であるポリカーボネート基材、またはポリメチルメタクリレートとポリカーボネートとからなる複合板である基材の厚みが0.4mm~2.0mmであることが好ましい。これは支持基材の厚みが0.4mm未満であると積層体の耐久性に問題を生じる可能性があり、2.0mmを超えると基材の加工性や透明性に問題が生じる可能性があるためである。また基材の厚みは誘電特性にも影響するが、この厚みの範囲内であれば筐体用積層体の誘電損失に影響するDf×(√Dk)が0.02を超えることはない。ポリカーボネート基材は表面硬度が比較的低いことから、目的の耐スチールウール性を備えるようにするためにはコーティング層を厚くすることが好ましいが、表面硬度のより高いポリメチルメタクリレートとポリカーボネートからなる複合板基材を用いることでコーティング層が比較的薄くても耐スチールウール性と耐衝撃性に優れた積層板を得ることができる。
【0015】
スマートフォンに代表される携帯通信機器の筐体は外部との接触が多いため耐擦り傷性が求められている。その評価として耐スチールウール性が求められ、具体的には#0000のスチールウールを1.5kg/cm荷重で300往復させた後に目視で傷が確認されないことが必要となる。
【0016】
コーティング層は、以下の光硬化性樹脂組成物の硬化物である。コーティング層を形成させる光硬化性樹脂組成物は、(a)光硬化性化合物、(b)光重合開始剤および(c)溶剤から構成されることが好ましい。
【0017】
さらに(a)成分の光硬化性化合物は下記式(1)または(2)で表される光硬化性多官能モノマーを必須の成分として含有することが好ましい。
【化1】
【化2】
【0018】
(1)および(2)を含有することで硬化時の架橋密度が高くなり、結果、耐スチールウール性を満足することができる。上記(1)または(2)を含まない場合、硬化時の架橋密度が不足し、耐スチールウール性を満足することが困難となるため好ましくない。
【0019】
(a)成分の光硬化性化合物は100g当たりのアクリルモル数が0.8~1.1の範囲が良く、好ましくは0.9~1.1、より好ましくは0.95~1.05の範囲である。アクリルモル数が0.8より小さい場合、架橋密度が低くなり耐擦傷性が低下するおそれがある。反対に1.1より大きいと硬化時の収縮により過度な応力によるクラックが発生し、外観不良の原因となるおそれがある。
【0020】
上記100g当たりのアクリルモル数は、光硬化性化合物100g当たりの各成分のアクリルモル数(アクリル官能基数/分子量g・mol-1)の総和を示す。
【0021】
(a)成分の光硬化性化合物は75質量(wt)%以上が分子中に3個以上の(メタ)アクリル基を有することが好ましい。75wt%より少ないと架橋密度が低下し、耐スチールウール性を満足することが困難である。
【0022】
分子中に3個以上の(メタ)アクリル基を有する化合物としてはペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジメチロールプロパンテトラアクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキシド変性トリアクリレート、トリメチロールプロパンプロピレンオキシド変性トリアクリレート、ペンタエリスリトールエチレンオキシド変性テトラアクリレート、ジペンタエリスリトールエチレンオキシド変性ペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールエチレンオキシド変性ヘキサアクリレート、トリス(2-アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレートが挙げられる。
【0023】
(a)成分の光硬化性化合物は100g当たりの水酸基のモル数が0.06~0.20の範囲が良く、好ましくは0.07~0.15、より好ましくは0.08~0.12の範囲である。この範囲に満たないと弾性率が低下し、所望する耐スチールウール性が得られないおそれがある。反対にこの範囲を超えて含有しても更なる向上は望めない。
【0024】
上記100g当たりの水酸基のモル数は光硬化性化合物100g当たりの各成分の水酸基数(水酸基数/分子量g・mol-1)の総和を示す。
【0025】
水酸基含有(メタ)アクリレートとしては2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸、グリセリンジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートなどが挙げられる。中でも3官能以上のものが好ましい。
【0026】
(a)成分の光硬化性化合物については、100g当たりのアクリルモル数および水酸基のモル数を調整するため、分子内に2個以下のアクリレートを含むことができる。
【0027】
上記分子内に2個以下のアクリレートを含む化合物の具体例としては、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ジシクロペンタニルジメチロールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0028】
また、(a)成分の光硬化性化合物はウレタン変性(メタ)アクリレート類やエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート類を含んでもよい。これらは硬化時の収縮により発生するクラックを抑止するのに有効である。
【0029】
光硬化性樹脂組成物の(b)光重合開始剤としては、例えばベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン類;アセトフェノン、2,2-ジエトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジエトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1,1-ジクロロアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-フェニルプロパン-1-オン、ジエトキシアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1-〔4-(メチルチオ)フェニル〕-2-モルホリノプロパン-1-オンなどのアセトフェノン類;2-エチルアントラキノン、2-ターシャリーブチルアントラキノン、2-クロロアントラキノン、2-アミルアントラキノンなどのアントラキノン類;2,4-ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントンなどのチオキサントン類;アセトフエノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタールなどのケタール類;ベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4'-メチルジフェニルサルファイド、4,4'-ビスメチルアミノベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類;2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド等のホスフィンオキサイド類等が挙げられる。
【0030】
これら(b)成分は、単独又は2種以上の混合物として使用でき、更にはトリエタノールアミン、メチルジエタノールアミンなどの第3級アミン、N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、N,N-ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル等の安息香酸誘導体等の促進剤などと組み合わせて使用することができる。
【0031】
(b)成分の光重合開始剤の使用量は、(a)成分の合計100wt%に対し0.1~20wt%が好ましく、より好ましくは1~10wt%である。この範囲に満たないと架橋が不十分になって弾性率が低下し、所望する耐スチールウール性が得られないおそれがある。反対にこの範囲を超えて含有しても更なる反応率の向上は望めないおそれがある。
【0032】
(c)成分の溶剤としては、トルエン、キシレン等の芳香族系有機溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系有機溶剤、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル等のエステル系有機溶剤、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール等のアルコール系有機溶剤プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル系有機溶剤など公知の有機溶剤を使用できる。特にグリコール系有機溶剤を含むことが好ましい。
【0033】
上記グリコールエーテル系有機溶剤としては、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールn-プロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールイソアミルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル、メトキシエトキシエタノール、エチレングリコールモノアリルエーテル等のエチレングリコールエーテル類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ブトキシプロパノール等のプロピレングリコール類が挙げられ、中でもプロピレングリコールモノメチルエーテルが好ましい。
【0034】
コーティング層の厚みは1~30μmであることが好ましい。より好ましくは5μm~20μmである。1μm未満であると支持基材の影響を受けやすく、所望する耐スチールウール性が得られないおそれがある。反対にこの範囲を超えると硬化時の収縮により過度な応力によるクラックが発生し、外観不良の原因となるおそれがある。またこの範囲内であれば筐体用積層体の誘電損失に影響するDf×(√Dk)が0.02を超えることはない。
【0035】
光硬化性樹脂組成物には、本発明の目的から外れない範囲で各種添加剤を添加することができる。各種添加剤として有機/無機フィラー、スリップ剤、可塑剤、難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、帯電防止剤、離型剤、発泡剤、核剤、着色剤、架橋剤、分散助剤、樹脂成分等を例示することができる。
【0036】
光硬化性樹脂組成物は、波長10~400nmの紫外線や波長400~700nmの可視光線を照射することで、硬化することができる。用いる光の波長は特に制限されるものではないが、特に波長200~400nmの近紫外線が好適に用いられる。紫外線発生源として用いられるランプとしては、低圧水銀ランプ(出力:0.4~4W/cm)、高圧水銀ランプ(40~160W/cm)、超高圧水銀ランプ(173~435W/cm)、メタルハライドランプ(80~160W/cm)等を例示することができる。
【0037】
光照射によってコーティング膜を得る方法としては、酸素遮断雰囲気下あるいは大気雰囲気下のどちらであってもよいが、本発明の組成物は大気雰囲気下での重合硬化であっても、良好なコーティングを与える。例えば流涎法、ローラーコート法、バーコート法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、スピンコート法、フローコート法、カーテンコート法およびディッピング法が挙げられる。なお、塗工膜厚については。乾燥と硬化後の成形膜厚を考慮して、固形分濃度により調整する。
【実施例
【0038】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
(参考例1)<コーティング膜用光硬化性樹脂組成物A1の作製>
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート:Mw=578.57、アクリル基数=6、水酸基数=0(内ジペンタエリスリトールペンタアクリレート:Mw=524.52、アクリル基数=5、水酸基数=1を35%含む)(共栄社化学社製 製品名DPHA)60重量部、ペンタエリスリトールトリアクリレート:Mw=298.29、アクリル基数=3、水酸基数=1(内ペンタエリスリトールテトラアクリレート:Mw=352.34、アクリル基数=4、水酸基数=0を40%含む)(共栄社化学社製 ライトアクリレートPE-3A)20重量部、トリメチロールプロパントリアクリレート:Mw=296.32、アクリル基数=3、水酸基数=0(共栄社化学社製 ライトアクリレートTMP-A)20重量部を混合し、さらに光重合開始剤として2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン(IGM Resins B.V.社製 Omnirad 907)8重量部、有機溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルを固形分40%となるように調整して、コーティング膜用の光硬化性樹脂組成物A1を得た。この組成物A1において、光硬化性化合物100gあたりのアクリルモル数は{[(6/578.57×0.65)+(5/524.52×0.35)]×0.6+[(4/352.34×0.4)+(3/298.29×0.6)]×0.2+(3/296.32)×0.2}×100=1.02であり、同じく光硬化性化合物100gあたりの水酸基のモル数は[(1/524.52×0.35)×0.6+(1/298.29×0.6)×0.2]×100=0.08であった。なお、光硬化性化合物の構成成分のうち、(メタ)アクリル基が3官能以上のものの比率は100%であった。
【0040】
(参考例2~4および比較参考例1~4)
表1に記載の原料および組成比率を用いた以外は、参考例1と同様の手順でコーティング膜用の光硬化性樹脂組成物A2~A4およびB1~B4を得た。
なお、表中の他の略称は以下を示す。
PE-4A:ペンタエリスリトールテトラアクリレート Mw=352.34、アクリル基数=4(共栄社化学社製)
DCPA:ジメチロール-トリシクロデカンジアクリレート Mw=304.39、アクリル基数=2(共栄社化学社製)
G201P:2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート Mw=214.22、(メタ)アクリル基数=2、水酸基数=1(共栄社化学社製)
TMP-6EO-3A:6EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート Mw=560.64、アクリル基数=3(共栄社化学社製)
EBECRYL210:芳香族ウレタンアクリレート Mw=1,500、アクリル基数=2(ダイセル・オルネクス社製)
光硬化性化合物100g当たりのアクリルモル数=光硬化性化合物100g当たりの各成分のアクリルモル数(アクリル官能基数/分子量g・mol-1)の総和
光硬化性化合物100g当たりの水酸基モル数=光硬化性化合物100g当たりの各成分の水酸基数(水酸基数/分子量g・mol-1)の総和
【0041】
(実施例1、2)<筐体用積層体 S1、S2の作製>
上記の光硬化性樹脂組成物A1をポリカーボネート基材(厚み0.54mm、長さ10cm、幅10cm エスカーボシート社製)上にスピンコート法により乾燥後の膜厚が10μm(S1)及び20μm(S2)になるように塗布し、80℃で5分乾燥した後、室温下5分冷却した。その後、酸素雰囲気下、2kW/cmの高圧水銀ランプを用い、2,800mJ/cm積算露光量(365nm換算)で製膜し、それぞれ筐体用積層体S1及びS2を得た。
【0042】
(実施例9、10)<筐体用積層体 T1、T2の作製>
上記の光硬化性樹脂組成物A1をポリメチルメタクリレート/ポリカーボネートからなる複合板(厚み650μm、長さ10cm、幅10cm エスカーボシート社製)のポリメチルメタクリレート側にスピンコート法により乾燥後の膜厚が10μm(T1)及び20μm(T2)になるように塗布し、80℃で5分乾燥した後、室温下5分冷却した。その後、酸素雰囲気下、2kW/cmの高圧水銀ランプを用い、2,800mJ/cm積算露光量(365nm換算)で製膜し、それぞれ筐体用積層体T1及びT2を得た。
【0043】
(実施例3~8)
<積層体S3~S8の作製>
表1の組成比率で配合された光硬化性樹脂組成物A2~A4を用いたこと以外は、実施例1、2と同じ手順で筐体用積層体S3~S8を作製した。
【0044】
(実施例11~12)
<積層体T3~T4の作製>
表1の組成比率で配合された光硬化性樹脂組成物A2を用いたこと以外は、実施例9、10と同じ手順で筐体用積層体T3~T4を作製した。
【0045】
(比較例1,2,3)
コーティング層を有さないゴリラガラス(強化品、コーニング社製)、コーティング層を有さないポリカーボネート及びコーティング層を有さないポリメチルメタクリレート/ポリカーボネート複合板を、それぞれ比較例1、2、3とした。
【0046】
(比較例4~比較例11)
表1の組成比率で配合された光硬化性樹脂組成物B1~B4を用いたこと以外は、実施例9、10と同じ手順で筐体用積層体U1~U8を作製した。
【0047】
<評価>
上記にて得られた筐体用積層体S1~S8(実施例)、T1~T4(実施例)、コーティング層を有さないゴリラガラス、コーティング層を有さないポリカーボネート及びコーティング層を有さないポリメチルメタクリレート/ポリカーボネート複合板(比較例)、並びに筐体用積層体U1~U8、(比較例)を用いて、以下の評価を行った。なお評価結果を表2および表3に示した。
<耐スチールウール性>
♯0000のスチールウールを用い、往復摩耗試験機(Type:30S HEIDON社製)を用いて、荷重1.5kg/cmにてコーティング層の表面を300往復摩耗した。傷の長さ1mm以上を傷と判断し、傷の発生の有無を蛍光灯下で目視により観察し、以下の基準にのっとり傷の本数を評価した。
〇:傷なし
△:10本未満の傷あり
×:10本以上の傷あり
【0048】
<誘電率Df、誘電正接Dk、Df×(√Dk)>
23℃、50%RHの雰囲気下に24hr以上静置したサンプルを、23℃の雰囲気下Agilent Technologies社製 商品名:Network Analyzer E8363Cを用いて、スプリットポスト誘電体共振器法により周波数5GHz、10GHzでの誘電率Dfおよび誘電正接Dkを測定した。また、得られた数値からDf×(√Dk)を算出した。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】