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特許7597825二次電池用バインダー組成物、電極用組成物、電極シート及び二次電池、並びに、これら電極シート及び二次電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】二次電池用バインダー組成物、電極用組成物、電極シート及び二次電池、並びに、これら電極シート及び二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20241203BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20241203BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20241203BHJP
   C08F 220/18 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/139
C08F220/18
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022553813
(86)(22)【出願日】2021-09-16
(86)【国際出願番号】 JP2021034113
(87)【国際公開番号】W WO2022070951
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2020166584
(32)【優先日】2020-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000252300
【氏名又は名称】富士フイルム和光純薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 育男
(72)【発明者】
【氏名】河野 景
(72)【発明者】
【氏名】瀧本 一樹
(72)【発明者】
【氏名】森 歌穂
(72)【発明者】
【氏名】三村 智則
(72)【発明者】
【氏名】木下 郁雄
(72)【発明者】
【氏名】菅▲崎▼ 敦司
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-521279(JP,A)
【文献】米国特許第06566006(US,B1)
【文献】国際公開第2016/186076(WO,A1)
【文献】特開2018-106935(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0076296(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/05-10/0587
C08F 220/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成成分として(メタ)アクリル酸成分及び(メタ)アクリル酸エステル成分を含有する共重合体をアジリジン化合物により架橋してなる水溶性架橋ポリマーと、水とを含み、周期律表第1族又は第2族に属する金属のイオンの挿入放出が可能な活物質を含まない、二次電池用バインダー組成物。
【請求項2】
前記水溶性架橋ポリマーが、20℃における水に対する溶解度が10g/L以上である、請求項1に記載の二次電池用バインダー組成物。
【請求項3】
前記(メタ)アクリル酸エステル成分が、ガラス転移温度が20℃以下の成分を含む、請求項1又は2に記載の二次電池用バインダー組成物。
【請求項4】
前記水溶性架橋ポリマーが下記<条件I>を満たす、請求項1~3のいずれか1項に記載の二次電池用バインダー組成物。
<条件I>
アセチレンブラックの含有量60質量部に対し前記水溶性架橋ポリマーの含有量を50質量部とし、かつ、前記アセチレンブラックと前記水溶性架橋ポリマーの各含有量の合計が0.015質量%である水分散液において、該水分散液中の粒子の平均粒径が9.0μm以下となる。
【請求項5】
前記アジリジン化合物が下記一般式(1)~(3)のいずれかの式で表される化合物である、請求項1~4のいずれか1項に記載の二次電池用バインダー組成物。
【化1】
式中、R11は水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基を示す。L11~L18は単結合又は2価の連結基を示す。
【請求項6】
前記アジリジン化合物が前記一般式(1)又は(2)で表される化合物である、請求項5に記載の二次電池用バインダー組成物。
【請求項7】
前記水溶性架橋ポリマーが下記<条件II>を満たす、請求項1~6のいずれか1項に記載の二次電池用バインダー組成物。
<条件II>
エチレンカーボネート1質量部に対してエチルメチルカーボネートを2質量部混合してなる混合溶媒に対し、前記水溶性架橋ポリマーの膨潤率が1質量%以上100質量%未満である。
【請求項8】
前記(メタ)アクリル酸成分が(メタ)アクリル酸塩構造を有する成分を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の二次電池用バインダー組成物。
【請求項9】
前記(メタ)アクリル酸塩構造が多価アミン由来の対イオンを有する、請求項8に記載の二次電池用バインダー組成物。
【請求項10】
前記水溶性架橋ポリマーの10質量%水溶液の粘度が300mPa・s~50000mPa・sである、請求項1~9のいずれか1項に記載の二次電池用バインダー組成物。
【請求項11】
前記共重合体の重量平均分子量が100000以上である、請求項1~10のいずれか1項に記載の二次電池用バインダー組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の二次電池用バインダー組成物と周期律表第1族又は第2族に属する金属のイオンの挿入放出が可能な活物質とを含む電極用組成物。
【請求項13】
請求項12に記載の電極用組成物で構成した層を有する電極シート。
【請求項14】
正極とセパレータと負極とをこの順で具備する二次電池であって、前記正極を構成する正極活物質層及び前記負極を構成する負極活物質層の少なくとも1つの層が、請求項12に記載の電極用組成物で構成した層である、二次電池。
【請求項15】
請求項12に記載の電極用組成物の膜を形成し、該膜を乾燥することを含む、電極シートの製造方法。
【請求項16】
請求項15に記載の製造方法により得られた電極シートを二次電池の電極に組み込むことを含む、二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用バインダー組成物、電極用組成物、電極シート、二次電池、電極シートの製造方法、及び二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される二次電池は、パソコン、ビデオカメラ、携帯電話等のポータブル電子機器の動力源として用いられている。最近では、二酸化炭素排出量削減という地球規模の環境課題を背景に、自動車等の輸送機器の動力電源として、また、夜間電力、自然エネルギー発電による電力等の蓄電用途としても普及してきている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の電極(正極及び負極)は電極活物質層(正極活物質層及び負極活物質層)を有し、この電極活物質層は、充放電時にリチウムイオンを吸蔵ないし放出可能な電極活物質粒子を含む。また、電極活物質粒子間、ないし電極活物質粒子と集電体との間では電子輸送も行われるため、電子伝導性を確保することが要求される。この電子伝導の効率化には電極活物質粒子間、ないし電極活物質粒子と集電体との間の結着性が重要であり、電極活物質層は通常、バインダーを有している。しかし、バインダーそれ自体は電子輸送能が低く、結着性の向上と電子伝導性の向上とは、通常、互いにいわゆるトレードオフの関係にある。
【0004】
リチウムイオン二次電池の電極は通常、電極形成用の組成物(スラリー)を集電体上に塗布し、乾燥して形成される。したがって、電極形成のためのスラリーは、電極活物質とバインダーとを液媒体中に分散して調製される。近年の環境問題への関心の高まりを背景に、液媒体として水系のものが求められるようになっており、水系スラリーに適した水溶性(メタ)アクリル系バインダーが開発されている。
例えば特許文献1には、活物質とバインダーとを少なくとも含む非水電解質二次電池用負極剤が記載され、このバインダーが、架橋処理が為されている直鎖の第一の水溶性高分子と、架橋処理がなされていない直鎖の第二の水溶性高分子とを含むことが記載されている。この負極剤によれば、充放電時の体積膨張収縮時の内部応力に対する耐久性の高い活物質層が得られるとともに、繰り返し充放電に伴う継続的なSEI(Solid Electrolyte Interphase)の破壊と生成の抑制が可能となると記載されている。
【0005】
近年、リチウムイオン二次電池の更なる高容量化を実現するために、負極活物質としてケイ素系活物質を用いる検討が盛んに行われている。負極にケイ素系活物質を用いると高エネルギー密度化が可能となる。しかし、ケイ素系活物質は充電時にはリチウムイオンを多量に吸蔵して大きく膨張し、その分、放電時におけるケイ素系活物質の収縮幅も大きくなる。したがって、負極活物質としてケイ素系活物質を用いたリチウムイオン電池は充放電時の負極活物質の体積変化が大きく、充放電の繰り返しにより電池性能が低下しやすい。つまり、サイクル寿命の向上には制約がある。
このような問題に対処した技術として、例えば、特許文献2には、負極活物質、導電助剤、バインダーを含む非水電解質二次電池用負極剤が記載され、このバインダーが、分子量100万から500万のポリアクリル酸カルシウム又はポリアクリル酸エステルにアジリジン系架橋剤等の架橋剤を添加して架橋処理した水系高分子と、分子量1000から100万の水系高分子との混合体からなることが記載されている。この特許文献2によれば、負極剤の機械的強度を向上できるとともに、繰り返し充放電に伴う継続的なSEIの破壊と生成の抑制が可能となると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2016/051811号
【文献】特開2017-004682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非水二次電池の用途の拡大に伴い、非水二次電池には高エネルギー密度化、低抵抗化、及びサイクル寿命の更なる向上が求められている。しかし、本発明者らが上記各特許文献に記載された電極用バインダーを含む従来の電極用バインダーについて検討した結果、負極活物質としてケイ素系活物質を用いて非水二次電池の高エネルギー密度化を図った場合に、電池抵抗を十分に抑えることは難しく、また、サイクル寿命についても目的の高いレベルへと導くには至っていないことが明らかとなってきた。また、上記従来の電極用バインダーを用いた場合には、溶媒を含む電極用組成物中における電極活物質、導電助剤等の固体粒子の分散性の向上にも制約があることが分かってきた。
【0008】
本発明は、電極活物質、導電助剤等の固体粒子と混合することにより、これらの固体粒子の分散性に優れた組成物(スラリー)を得ることができ、この組成物を用いて電極活物質層を形成すれば、電極活物質粒子間、ないし電極活物質粒子と集電体との間の結着性を十分に高めることができ、充放電時の体積変化の大きな電極活物質を用いた場合でも、得られる二次電池を十分に低抵抗化でき、かつ、この二次電池のサイクル寿命も十分に長期化することができる、二次電池用のバインダー組成物を提供することを課題とする。
さらに、本発明は、上記バインダー組成物と電極活物質とを組合せた電極用組成物、上記電極用組成物を用いた電極シート及び二次電池を提供することを課題とする。さらに本発明は、上記電極シート及び二次電池の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の上記課題は以下の手段により解決された。
<1>
構成成分として(メタ)アクリル酸成分及び(メタ)アクリル酸エステル成分を含有する共重合体をアジリジン化合物により架橋してなる水溶性架橋ポリマーと、水とを含む二次電池用バインダー組成物。
<2>
上記水溶性架橋ポリマーが、20℃における水に対する溶解度が10g/L以上である、<1>に記載の二次電池用バインダー組成物。
<3>
上記(メタ)アクリル酸エステル成分が、ガラス転移温度が20℃以下の成分を含む、<1>又は<2>に記載の二次電池用バインダー組成物。
<4>
上記水溶性架橋ポリマーが下記<条件I>を満たす、<1>~<3>のいずれか1つに記載の二次電池用バインダー組成物。
<条件I>
アセチレンブラックの含有量60質量部に対し上記水溶性架橋ポリマーの含有量を50質量部とし、かつ、上記アセチレンブラックと上記水溶性架橋ポリマーの各含有量の合計が0.015質量%である水分散液において、この水分散液中の粒子の平均粒径が9.0μm以下となる。
<5>
上記アジリジン化合物が下記一般式(1)~(3)のいずれかの式で表される化合物である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の二次電池用バインダー組成物。
【化1】

式中、R11は水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基を示す。L11~L18は単結合又は2価の連結基を示す。
<6>
上記アジリジン化合物が上記一般式(1)又は(2)で表される化合物である、<5>に記載の二次電池用バインダー組成物。
<7>
上記水溶性架橋ポリマーが下記<条件II>を満たす、<1>~<6>のいずれか1つに記載の二次電池用バインダー組成物。
<条件II>
エチレンカーボネート1質量部に対してエチルメチルカーボネートを2質量部混合してなる混合溶媒に対し、上記水溶性架橋ポリマーの膨潤率が1質量%以上100質量%未満である。
<8>
上記(メタ)アクリル酸成分が(メタ)アクリル酸塩構造を有する成分を含む、<1>~<7>のいずれか1つに記載の二次電池用バインダー組成物。
<9>
上記(メタ)アクリル酸塩構造が多価アミン由来の対イオンを有する、<8>に記載の二次電池用バインダー組成物。
<10>
上記水溶性架橋ポリマーの10質量%水溶液の粘度が300mPa・s~50000mPa・sである、<1>~<9>のいずれか1つに記載の二次電池用バインダー組成物。
<11>
上記共重合体の重量平均分子量が100000以上である、<1>~<10>のいずれか1つに記載の二次電池用バインダー組成物。
<12>
<1>~<11>のいずれか1つに記載の二次電池用バインダー組成物と周期律表第1族又は第2族に属する金属のイオンの挿入放出が可能な活物質とを含む電極用組成物。
<13>
<12>に記載の電極用組成物で構成した層を有する電極シート。
<14>
正極とセパレータと負極とをこの順で具備する二次電池であって、上記正極を構成する正極活物質層及び上記負極を構成する負極活物質層の少なくとも1つの層が、<12>に記載の電極用組成物で構成した層である、二次電池。
<15>
<12>に記載の電極用組成物の膜を形成し、この膜を乾燥することを含む、電極シートの製造方法。
<16>
<15>に記載の製造方法により得られた電極シートを二次電池の電極に組み込むことを含む、二次電池の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の二次電池用バインダー組成物は、電極活物質、導電助剤等の固体粒子と混合することにより、これらの固体粒子の分散性に優れた組成物(スラリー)を得ることができる。本発明の二次電池用バインダー組成物、電極用組成物、電極シートは、これらを用いて電極を作製した二次電池において、電極活物質粒子間、ないし電極活物質粒子と集電体との間の結着性を十分に高めることができ、充放電時の体積変化の大きな電極活物質を用いた場合でも二次電池の低抵抗化を実現でき、かつ二次電池のサイクル寿命も十分に長期化することができる。
本発明の二次電池は、電極活物質粒子間、ないし電極活物質粒子と集電体との間の結着性が十分に高められ、電極活物質として充放電時の体積変化の大きなものを採用した場合にも電池駆動時の低抵抗化を実現でき、かつ十分に長いサイクル寿命を有する。
本発明の電極シートの製造方法によれば、本発明の上記電極シートを得ることができる。また、本発明の二次電池の製造方法によれば、本発明の上記二次電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明に係る二次電池の一実施形態について、基本的な積層構成を模式化して示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の説明において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本発明において化合物、構成成分又は置換基の表示については、化合物そのもの、構成成分そのもの又は置換基そのもののほか、その塩、そのイオンを含む意味に用いる。例えば、化合物中におけるカルボキシ基のように解離性の水素原子(水素原子が塩基の作用により解離する基)を有する基は、水素原子が解離してイオン構造を採っていてもよく、塩構造を採っていてもよい。すなわち、本発明において、「化合物又は構成成分が有するカルボキシ基」はカルボン酸イオン又はその塩を含む意味である。上記塩構造を構成する際の対イオンについては、後述の(メタ)アクリル酸成分が塩構造を有する場合の対イオンの記載を適用することができる。
塩構造の場合、その塩の種類は1種類でもよく、2種類以上混在していてもよく、化合物(ポリマー)中で塩型と遊離酸構造の基が混在していてもよく、また、塩構造の化合物と遊離酸構造化合物が混在していてもよい。
また、本発明の効果を奏する範囲で、構造の一部を変化させたものを含む意味である。更に、本発明において置換又は無置換を明記していない化合物又は構成成分については、本発明の効果を奏する範囲で、任意の置換基を有していてもよい意味である。このことは、置換基(例えば、「アルキル基」、「メチル基」、「メチル」等のように表現される基)及び連結基(例えば、「アルキレン基」、「メチレン基」、「メチレン」等のように表現される基)についても同様である。このような任意の置換基のうち、本発明において好ましい置換基は、後記する置換基群Qから選択される置換基である。
本発明において、特定の符号又は式で示された置換基若しくは連結基等(以下、置換基等という)が複数あるとき、又は複数の置換基等を同時に規定するときには、特段の断りがない限り、それぞれの置換基等は互いに同一でも異なっていてもよい。このことは、ポリマーの構成成分についても同様である。
本発明において、「(メタ)アクリル」とは、メタクリルとアクリルの両方を包含する概念であり、「(メタ)アクリロイル」とは、メタクリロイルとアクリロイルの両方を包含する概念である。
本発明において、各成分は1種含有されていてもよく、2種以上含有されていてもよい。
本発明において「非水二次電池」とは、非水電解液二次電池と全固体二次電池とを含む意味である。本発明において「非水電解液」とは、水を実質的に含まない電解液を意味する。すなわち、「非水電解液」は本発明の効果を妨げない範囲で微量の水を含んでいてもよい。本発明において「非水電解液」は、水の濃度が200ppm(質量基準)以下であり、100ppm以下が好ましく20ppm以下がより好ましい。なお、非水電解液を完全に無水とすることは現実的に困難であり、通常は水が1ppm以上含まれる。「全固体二次電池」とは、電解質として液を用いず、無機固体電解質、固体状ポリマー電解質等の固体電解質を用いた二次電池を意味する。
本発明において、ある基の炭素数を規定する場合、この炭素数は、本発明ないし本明細書において特段の断りのない限りは、基そのものの炭素数を意味する。つまり、この基がさらに置換基を有する形態である場合、この置換基の炭素数は含まずに数えた場合の炭素数を意味する。
本発明において、含有量又は含有割合を記載する場合に使用する「固形分」とは、後述する水及び液媒体以外の成分を意味する。
【0013】
[二次電池用バインダー組成物]
本発明の二次電池用バインダー組成物(以降、「本発明のバインダー組成物」とも称す。)は、二次電池、好ましくは非水二次電池、より好ましくは非水電解液二次電池を構成する部材ないし構成層の形成材料として好適なバインダー組成物である。典型的には、本発明のバインダー組成物は、二次電池の電極における電極活物質層の形成に好適に用いることができる。具体的には、本発明のバインダー組成物を電極活物質(正極活物質又は負極活物質を包含する意味で使用し、これらを合わせて、単に「活物質」とも称す。)と混合して非水二次電池の電極(正極及び/又は負極)活物質層の形成に用いることができる。なお、本発明のバインダー組成物は、耐熱層を形成するために二次電池のセパレータ表面に塗布する等して用いたり、集電体のコート用のバインダーとして用いたりすることもできる。
【0014】
本発明のバインダー組成物は、構成成分として(メタ)アクリル酸成分及び(メタ)アクリル酸エステル成分を含有する共重合体を、アジリジン化合物により架橋してなる水溶性架橋ポリマーと、水とを含有する。
本発明のバインダー組成物が含有する水溶性架橋ポリマーは、例えば、本発明のバインダー組成物と固体粒子(電極活物質、導電助剤等)とを混合した組成物で形成した層中において、これらの固体粒子同士を結着させる結着剤(バインダー)として機能する。また、集電体と固体粒子とを結着させる結着剤としても機能し得る。
さらには、上記水溶性架橋ポリマーは、上記固体粒子の水系分散液中に共存させることにより、これらの固体粒子の表面に吸着して固体粒子の水系媒体中への分散剤としても機能する。これにより、固体粒子の水系分散液中において固体粒子の分散性ないし分散安定性を高めることができる。ここで、水溶性架橋ポリマーの固体粒子に対する吸着は、物理的吸着だけでなく、化学的吸着(化学結合形成による吸着、電子の授受による吸着等)も含む。
【0015】
上記の先行技術文献1及び2には、2種類の単独重合体の混合体からなるバインダーであって、一方の単独重合体が架橋構造を有することが記載されている。しかし、これらの混合体からなるバインダーではサイクル寿命を十分に高めることができない。これに対し、本発明では(メタ)アクリル酸成分と(メタ)アクリル酸エステル成分とを構成成分とする共重合体を、アジリジン架橋して水溶性架橋ポリマーを得ている。このような水溶性架橋ポリマーを二次電池のバインダーとして用いることにより、優れたサイクル寿命を実現することができる。この理由は定かではないが、重合体の親水性及び疎水性の細かなコントロールは、単独重合体では困難である一方、共重合体では可能であり、特定の共重合体をアジリジン架橋してなる水溶性架橋ポリマーとすることにより、電極活物質をはじめとする固体粒子の分散性ないし分散安定性を高められることが一因と考えられる。
【0016】
<水溶性架橋ポリマー>
本発明のバインダー組成物は、バインダーとして、(メタ)アクリル酸由来の構成成分及び(メタ)アクリル酸エステル由来の構成成分とを有する共重合体をアジリジン化合物を用いて架橋してなる水溶性架橋ポリマーを含有する。
【0017】
上記水溶性架橋ポリマーにおける「水溶性」とは、20℃において、水に対する溶解度が0.1g/L(水1リットル中に水溶性架橋ポリマーが0.1グラム溶解することを意味する。)以上であることを意味し、1g/L以上であることが好ましく、10g/L以上であることがより好ましく、50g/L以上であることが更に好ましく、100g/L以上であることがさらに好ましい。
【0018】
上記水溶性架橋ポリマーは、下記<条件I>を満たすことが好ましい。
<条件I>
アセチレンブラックの含有量60質量部に対し水溶性架橋ポリマーの含有量を50質量部とし、かつ、上記アセチレンブラックと上記水溶性架橋ポリマーの各含有量の合計が0.015質量%となるようにアセチレンブラックを水中に分散させた水分散液において、この水分散液中の粒子の平均粒径が9.0μm以下となる。
ただし、上記水分散液は、水溶性架橋ポリマー、アセチレンブラック及び水以外の成分を含まない。
また、上記アセチレンブラックとしては、平均粒径30~40nmかつ比表面積65~70m/gのアセチレンブラックが好ましい。アセチレンブラックの平均粒径は体積平均粒径を意味し、比表面積はBET法により測定される値を意味する。平均粒径30~40nmかつ比表面積65~70m/gの条件を満たすアセチレンブラックとしては、具体的には例えば、デンカ社製のデンカブラック粉状品(平均粒径:35nm、比表面積:68m/g(デンカ社HP掲載代表値))を用いればよい。
その他、上記水分散液の調製条件、測定条件については、後述の実施例に記載の通りである。上記<条件I>で規定する、水分散液中の粒子の平均粒径は、ゼータ電位計を用い、動的光散乱法により測定される値である。
【0019】
上記水溶性架橋ポリマーが上記<条件I>を満たす場合、アセチレンブラックはその周りに水溶性架橋ポリマーが吸着した状態で水中に分散することにより、アセチレンブラック同士の凝集が効果的に抑えられる。従って、上記<条件I>を満たす水溶性架橋ポリマーは、水分散液中におけるアセチレンブラックの分散性ないし分散安定性に優れており、これを電極活物質、導電助剤等の固体粒子と混合すれば、固体粒子の分散性ないし分散安定性に優れた組成物を得ることができる。また、この組成物を二次電池の電極形成に用いることにより、固体粒子と集電体との間の結着性(以下、単に結着性とも称す。)をより向上させることができ、得られる二次電池のサイクル特性も効果的に高めることができる。
【0020】
上記<条件I>における粒子の平均粒径は、8.0μm以下が好ましく、6.0μm以下がより好ましく、4.0μm以下が更に好ましく、2.5μm以下が特に好ましい。
【0021】
上記水溶性架橋ポリマーは、構成成分として(メタ)アクリル酸成分及び(メタ)アクリル酸エステル成分を含有する共重合体を、アジリジン化合物により架橋してなる構造を有し、所定の粘性を示す。
上記水溶性架橋ポリマーの10質量%水溶液の粘度は、電極用組成物の集電体等の基材への塗工性を向上させる観点から、300mPa・s~50000mPa・sであることが好ましく、500mPa・s~30000mPa・sであることがより好ましく、500mPa・s~20000mPa・sであることがさらに好ましい。
上記粘度は、VISCOMETER TVB-10(商品名、東機産業社製)を用いて、ローターNo.M4、回転速度12rpm、測定温度20℃、測定時間2分にて、水溶性架橋ポリマーの10質量%水溶液の粘度を測定することにより得られる。
【0022】
(構成成分として(メタ)アクリル酸成分及び(メタ)アクリル酸エステル成分を含有する共重合体)
(1)(メタ)アクリル酸成分
共重合体の構成成分として含まれる(メタ)アクリル酸成分はカルボキシ基又はその塩構造を有するため、上記水溶性架橋ポリマー中において、ケイ素系活物質等の固体粒子の表面に吸着可能な基による固体粒子の分散に寄与し、また、上記水溶性架橋ポリマーへ水溶性を付与する機能を担う。
上記(メタ)アクリル酸成分は、(メタ)アクリル酸塩構造を有する成分を含むことが好ましい。なお、後述するように、二価以上の金属又は多官能の有機塩基による中和によって、後述するアジリジン化合物による架橋とは異なる架橋構造が形成されている形態も好ましい。
上記塩構造を有する(メタ)アクリル酸成分を構成成分として含む共重合体を、適量のアジリジン化合物により架橋することにより、水溶性架橋ポリマー中における塩構造の含有量を調整し、ポリマーの水溶性を所望のレベルへと高めることができる。また、活物質ないし集電体の表面との相互作用性も高められ、結着性の向上にも寄与し得ると考えられる。
【0023】
上記(メタ)アクリル酸塩構造を形成するための対イオンとしては、通常のカチオンを用いることができる。
対イオンとしてのカチオンの例としては、金属のカチオンが挙げられ、例えば、ナトリウムイオン、リチウムイオン又はカリウムイオン等の周期律表第1族に属する金属のカチオン、カルシウムイオン又はマグネシウムイオン等の周期律表第2族に属する金属のカチオン、亜鉛イオン等を挙げることができる。
また、対イオンとしてはアミン由来のカチオンを有することも好ましい。かかるアミンとしては、1価のモノアミンでもよく、2価以上の多価アミンであってもよく、低分子化合物であってもよく、ポリマー等の高分子量の化合物であってもよい。
1価のアミンとしては、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン等のモノアルキルアミン、ジブチルアミン等のジアルキルアミン、トリエチルアミン等のトリアルキルアミン、エタノールアミン等のアルコールアミン、ベンジルアミン、ジメチルアミノピリジン等の芳香環含有アミン、又は、ジアザビシクロウンデセン等の多環式アミンを好ましく用いることができる。
多価アミンとしては、エチレンジアミン、ヒスチジン等の低分子多価アミン、又は、ポリエチレンイミン等のポリマー構成単位中にアミノ基を有する高分子多価アミンを好ましく用いることができ、高分子多価アミンがより好ましい。なお、多価アミンである場合、分子中に存在する複数のアミンは、各々独立に、1級アミン、2級アミン及び3級アミンのいずれであってもよい。また、高分子多価アミンである場合、ポリマー構造は直鎖状及び分岐状のいずれでもでもよく、分岐状であることが好ましい。高分子多価アミンの重量平均分子量は1000~50000が好ましく、5000~30000がより好ましい。
対イオンとしては、周期律表第1族に属する金属のカチオンを含むことが好ましく、ナトリウムイオン又はリチウムイオンを含むことがより好ましく、ナトリウムイオンを含むことがさらに好ましい。
対イオンとしてナトリウムイオンを含む場合、水溶性架橋ポリマーが有する後記(メタ)アクリル酸エステル成分が1種である場合には、二次電池の抵抗及びサイクル特性をより向上させることができ、水溶性架橋ポリマーが有する後記(メタ)アクリル酸エステル成分が2種以上である場合にはサイクル特性をより向上させることができる。
対イオンとしてアミン由来のカチオン、特に多価アミン由来のカチオンを含むことも、上記水溶性架橋ポリマーの破断エネルギーの向上の観点から好ましい。
塩構造の形成のために、2種以上の対イオンを用いてもよい。例えば、金属カチオンとアミン由来のカチオンとを併用することも好ましく、周期律表第1族に属する金属のカチオンと多価アミン由来のカチオンとを併用することがより好ましく、ナトリウムイオンとポリエチレンイミン由来のカチオンとを併用することがさらに好ましい。
金属カチオンとアミン由来のカチオンとを併用する場合、水溶性架橋ポリマーが有する後記(メタ)アクリル酸エステル成分は1種であっても2種以上であってもよい。
対イオンに占める周期律表第1族に属する金属のカチオンの割合は、50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、90モル%以上が更に好ましい。上限値に特に制限はなく、100モル%以下とすることができる。
対イオンに占める多価アミン由来のカチオンの割合は、50モル%以下が好ましく、30モル%以下がより好ましく、10モル%以下が更に好ましい。下限値に特に制限はなく、0モル%以上とすることができる。
【0024】
上記(メタ)アクリル酸成分は、カルボン酸の末端が水素原子である構成成分と(メタ)アクリル酸塩構造を有する構成成分(すなわち、カルボン酸の末端が水素原子でない構成成分)とを含有することが好ましい。この場合、全ての(メタ)アクリル酸成分に占める(メタ)アクリル酸塩構造を有する構成成分の含有割合、すなわち、上記共重合体の中和度は20モル%以上が好ましく、40モル%以上がより好ましく、50モル%以上とすることが更に好ましく、70モル%以上とすることが特に好ましい。上記ポリマーの中和度は100モル%でもよく、95モル%以下であることが好ましく、90モル%以下であることがより好ましい。
なお、上記中和度は、アジリジン化合物により架橋される前の共重合体の中和度を意味する。中和度は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0025】
上記(メタ)アクリル酸塩構造を有する構成成分は、(メタ)アクリル酸成分と中和剤との反応により得ることができる。中和剤を反応させるタイミングに特に制限はないが、上記共重合体に対して中和剤を反応させることが好ましい。
上記中和剤として、例えば、周期律表第1族に属する金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩周期律表第2族に属する金属の水酸化物、炭酸塩等の無機塩基、モノアミン、多価アミン、ジアザビシクロウンデセン、ピリジン等の有機塩基等が挙げられる。中和剤は1種単独で使用してもよく、2種以上で使用してもよい。好ましい中和剤としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、ポリエチレンイミンが挙げられる。
【0026】
以下に、(メタ)アクリル酸成分の具体例を示すが、本発明において(メタ)アクリル酸成分はこれらに限定されず、下記具体例中のアクリル酸部分がメタクリル酸であってもよく、また、下記具体例以外のその他の塩構造を有していてもよい。
【0027】
【化2】
【0028】
(2)(メタ)アクリル酸エステル成分
共重合体の構成成分として含まれる(メタ)アクリル酸エステル成分は、上記水溶性架橋ポリマー中において、水溶性架橋ポリマーのガラス転移温度(Tgとも略す。)を低くし、引張試験における破断伸びを大きくすることにより、破断エネルギーを向上させることに寄与する。
上記(メタ)アクリル酸エステル成分は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル成分又は(メタ)アクリル酸アリールエステル成分を含むことが好ましく、(メタ)アクリル酸アルキルエステル成分を含むことがより好ましい。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル成分を構成するアルキルエステル部分及び(メタ)アクリル酸アリールエステル成分を構成するアリールエステル部分は置換基を有していてもよい。この置換基としては、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、アルコキシ基、フェニル基、脂肪族環基(例えば、脂肪族炭化水素環基、環状エーテル基)又はハロゲン原子が挙げられる。
上記(メタ)アクリル酸エステル成分は、水溶性架橋ポリマーのTgを低い温度に調整する観点から、カルボン酸塩を有しないことが好ましい。
また、上記(メタ)アクリル酸エステル成分は、非水電解液による水溶性架橋ポリマーのゲル化を抑制する観点から、非水電解液に対して高い溶解性を示し、非水電解液によりゲル化し易い官能基(例えば、シアノ基、メトキシカルボニル基等)を有しないことが好ましい。
上記(メタ)アクリル酸エステル成分は、(メタ)アクリロイルオキシ基由来の構造を一構成成分中に2つ以上有しないことが好ましい。
【0029】
上記(メタ)アクリル酸エステル成分は、固体粒子の分散性ないし分散安定性をより向上させる観点から、ガラス転移温度が20℃以下である成分(以下、成分Tとも称す。)を含むことが好ましい。上記成分Tのガラス転移温度は、15℃以下であることが好ましく、10℃以下であることがより好ましい。下限値に特に制限はないが、-100℃以上であることが実際的である。
上記成分Tのガラス転移温度は、上記成分Tの単独重合体のガラス転移温度を意味し、POLYMER HANDBOOK 4thの36章における表中のガラス転移温度の値を採用することができる。上記文献にガラス転移温度が記載されていない場合は、実施例に記載の測定条件により示差走査熱量計(DSC:Differential Scanning Calorimeter)を用いて測定される値を採用する。
上記成分Tを導くモノマーの一例としては、メチルアクリレート(8℃)、エチルアクリレート(-20℃)、ブチルアクリレート(-55℃)、イソアミルアクリレート(-45℃)、2-エチルヘキシルアクリレート(-70℃)、ラウリルアクリレート(-3℃)、メトキシ-トリエチレングルコールアクリレート(-50℃)、フェノキシエチルアクリレート(-22℃)、フェノキシ-ポリエチレングリコールアクリレート(例えば、共栄社化学社製の商品名:ライトアクリレートP-200Aは-25℃)、2-ヒドロキシエチルアクリレート(-7℃)、2-アクリロイロキシエチル-コハク酸(-40℃)が挙げられる。( )内の温度はガラス転移温度である。ただし、上記成分Tを導くモノマーはこれらに限定されるものではない。
また、(メタ)アクリル酸エステル成分の単独重合体は、メタアクリル酸エステル成分はアルキル基の炭素数が4~16のものが、アクリル酸エステル成分はアルキル基の炭素数が1~14のものがガラス転移温度20℃以下となることが知られており、これに基づき適宜選択することができる。
【0030】
上記水溶性架橋ポリマー中、上記(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量に占める上記成分Tの含有割合は、40質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。上限値に特に制限はなく、100質量%とすることができる。なお、上記共重合体の全構成成分に占める上記成分Tの含有割合は、20質量%を越えることが好ましく、80質量%を越えることがより好ましい。
【0031】
上記(メタ)アクリル酸エステル成分は、下記一般式(E-1)で表されることが好ましい。
【0032】
【化3】
【0033】
上記式中、R31は水素原子又はメチル基を示す。R31として採り得るメチル基は無置換のメチル基であることが好ましい。
【0034】
32は水素原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、炭素数1~12のアルキル基、フェニル基、脂肪族環基又はハロゲン原子を示す。R32の化学式量は1~2000が好ましく、15~500がより好ましく、17~200が更に好ましい。炭素数1~12のアルキル基は直鎖でも分岐を有してもよい。このアルキル基の炭素数は1~6が好ましく、1~4がより好ましい。
32として採り得る脂肪族環基としては、脂肪族炭化水素環基又は環状エーテル基が好ましく挙げられる。
上記脂肪族炭化水素環基の炭素数は、3~18が好ましく、3~12がより好ましい。例えば、イソボルニルが挙げられる。
上記環状エーテル基は3~6員環であることが好ましく、5又は6員環であることがより好ましい。例えば、テトラヒドロフリルが挙げられる。
32として採り得るアミノ基としては、窒素原子がアルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。アミノ基としては、-NH又は窒素原子がアルキルで置換されたアミノ基が好ましく、ジアルキルアミノ基がより好ましい。
32は水素原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、炭素数1~12のアルキル基又は脂肪族環基が好ましく、ヒドロキシ基、カルボキシ基、炭素数1~12のアルキル基又は脂肪族環基がより好ましく、ヒドロキシ基がさらに好ましい。
【0035】
41は炭素数1~16のアルキレン基、炭素数6~12のアリーレン基、酸素原子、硫黄原子若しくはカルボニル基、又はこれらを組み合わせた連結基を示す。ただし、(メタ)アクリロイルオキシ基との結合部分は炭素数1~16のアルキレン基又は炭素数6~12のアリーレン基であり、L41のR32と結合する側が炭素数1~16のアルキレン基であるとき、R32は水素原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、フェニル基又はハロゲン原子(好ましくはフッ素原子、又は塩素原子)を示す。炭素数1~16のアルキレン基の炭素数は1~12が好ましく、1~10がより好ましく、1~8が更に好ましく、1~6とすることが特に好ましい。
41の化学式量は14~2000が好ましく、28~500がより好ましく、40~200が更に好ましい。L41が有しうる炭素数1~16のアルキレン基は直鎖でも分岐を有してもよい。このアルキレン基の炭素数は1~12が好ましく、1~10がより好ましく、1~8が更に好ましく、1~6とすることが特に好ましい。
41として採り得る、炭素数1~16のアルキレン基、炭素数6~12のアリーレン基、酸素原子、硫黄原子若しくはカルボニル基を組み合わせた連結基としては、-[炭素数1~16のアルキレン-O]-、-[炭素数1~16のアルキレン]-[O-カルボニル]-[炭素数1~16のアルキレン]-が好ましく挙げられる。mは、平均繰り返し数を意味し、1~50であり、1~10が好ましく、2又は3がより好ましい。
41としては、炭素数1~16のアルキレン基、-[炭素数1~16のアルキレン-O]-、又は、-[炭素数1~16のアルキレン]-[O-カルボニル]-[炭素数1~16のアルキレン]-が好ましく、炭素数1~16のアルキレン基がより好ましい。アルキレン基の炭素数については、上述の記載を適用することができる。
【0036】
上記(メタ)アクリル酸エステル成分の化学式量は80~4100が好ましく、80~1100がより好ましい。
【0037】
上記(メタ)アクリル酸エステル成分は、固体粒子の分散性ないし分散安定性をより向上させる観点から、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート成分を含有することが好ましい。上記水溶性架橋ポリマーが有する全(メタ)アクリル酸エステル成分に占めるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート成分の割合は、40質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、85質量%以上が特に好ましく、90質量%以上がなかでも好ましい。上限値に特に制限はなく、100質量%とすることができる。なお、上記共重合体の全構成成分に占めるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート成分の含有割合は、20質量%を越えることが好ましく、80質量%を越えることがより好ましい。
なかでも、二次電池の抵抗をより向上させ(低抵抗化させ)、サイクル特性をより向上させる観点から、上記水溶性架橋ポリマーを構成する上記(メタ)アクリル酸エステル成分の全てが、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート成分であることが好ましい。すなわち、上記共重合体は、(メタ)アクリル酸成分とヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート成分とから構成されることが特に好ましい。
【0038】
以下に、(メタ)アクリル酸エステル成分の具体例を示すが、本発明において(メタ)アクリル酸エステル成分はこれらに限定されない。なお、下記構造式における( )は、繰り返し単位であることを意味し、その繰り返し数は上記mと同義である。
【0039】
【化4】
【0040】
(3)その他の構成成分
上記共重合体は、本発明の効果を奏する範囲内で、上記の(メタ)アクリル酸成分以外で、かつ(メタ)アクリル酸エステル成分以外の構成成分(以下、その他の構成成分とも称す。)を含有していてもよい。
上記その他の構成成分としては、二次電池用バインダーにおいて用い得る構成成分を特に制限することなく用いることができる。例えば、(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、スチレン等のビニル系成分、(メタ)アクリルアミド成分等が挙げられる。
【0041】
上記共重合体の全構成成分中、(メタ)アクリル酸成分の含有量は、1~50質量%が好ましく、3~40質量%がより好ましく、5~30質量%が更に好ましく、5~20質量%が特に好ましい。
上記共重合体の全構成成分中、(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量は、50~99質量%が好ましく、60~97質量%がより好ましく、70~95質量%が更に好ましく、80~95質量%が特に好ましい。
上記共重合体の全構成成分中、上記その他の構成成分の含有量は、例えば、0~49質量%が好ましく、0~37質量%がより好ましく、0~25質量%が更に好ましく、0~15質量%が特に好ましい。
【0042】
(アジリジン化合物)
上記アジリジン化合物としては、上記共重合体を架橋し得る限り特に制限されない。アジリジン架橋剤として知られた化合物を特に制限なく用いることができる。
上記アジリジン化合物中におけるアジリジニル基の数は2つ以上であればよく、2~4個であることが好ましく、2又は3個であることがより好ましい。
上記アジリジン化合物の分子量は、本発明の効果を奏する限り特に制限されないが、例えば、80~800が好ましく、150~600がより好ましく、250~500がさらに好ましい。
【0043】
上記アジリジン化合物は、下記一般式(1)~(3)のいずれかの式で表される化合物であることが好ましく、下記一般式(1)又は(2)で表される化合物であることがより好ましい。
【0044】
【化5】
【0045】
式中、R11は水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基を示し、L11~L18は単結合又は2価の連結基を示し、2価の連結基が好ましい。
【0046】
11として採り得るアルキル基及びハロゲン原子は、後述する置換基群Qにおけるアルキル基及びハロゲン原子と同義であり、好ましい範囲も同じである。
11として採り得るアルキル基は、無置換であってもよく、置換基を有していてもよい。R11におけるアルキル基が有していてもよい置換基としては、後述する置換基群Qから選ばれる置換基が挙げられる。
11として採り得るアルキル基の炭素数は、1~20が好ましく、1~12がより好ましく、1~6が更に好ましく、1~3が特に好ましい。
11して採り得るハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子又は塩素原子が好ましい。
11はアルキル基が好ましい。
【0047】
11~L18として採り得る2価の連結基は、アジリジニル基における窒素原子と結合できれば(連結基として機能すれば)制限されず、例えば、アルキレン基、アリーレン基、-O-、-S-、-COO-及び-CONR50-から選ばれる基、又はこれらの基の2つ以上が結合して形成される2価の連結基が好ましく挙げられる。R50は水素原子又はアルキル基を示す。
11~L18として採り得る2価の連結基を構成するアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、1~8がより好ましく、1~6がさらに好ましく、1~4が特に好ましく、1又は2が最も好ましい。
11~L18として採り得る2価の連結基を構成するアリーレン基の炭素数は、6~14が好ましく、6~10がより好ましく、6がさらに好ましい。上記アリーレン基としては1,4-フェニレン基が最も好ましい。
50として採り得るアルキル基は、上記R11におけるアルキル基の記載を好ましく適用することができる。
50としては水素原子が好ましい。
11として採り得る2価の連結基の連結原子数は、1~30が好ましく、3~25がより好ましく、5~20がさらに好ましい。
12~L18として採り得る2価の連結基の連結原子数は、1~20が好ましく、1~15がより好ましく、3~10がさらに好ましい。
本発明において、「L11として採り得る2価の連結基の連結原子数」とは、2つのアジリジニル基における窒素原子同士を連結する最短分子鎖を構成する連結原子数を意味する。例えば、後述するアジリジニル化合物であるケミタイトDZ-22E(商品名、日本触媒社製)の場合、連結基L11の原子数は13である。
本発明において、「L12~L18として採り得る2価の連結基の連結原子数」とは、アジリジニル基における窒素原子と、R11が結合する炭素原子又はL15~L18が結合する炭素原子とを連結する最短分子鎖を構成する連結原子数を意味する。例えば、後述するアジリジン化合物であるケミタイトPZ-33(商品名、日本触媒社製)の場合、連結基L12~L14の原子数はいずれも5である。
連結基L11~L18を構成し得る2価の連結基としては、-COO-又は-CONR50-の少なくとも一方を含む基であることがより好ましく、-COO-又は-CONR50-の少なくとも一方を含み、かつ、アルキレン基及びアリーレン基から選ばれる基の1つ又は2つ以上と結合して形成される2価の連結基であることがさらに好ましい。
連結基L11~L18を構成し得る上記のアルキレン基、アリーレン基、-O-、-S-、-COO-及び-CONR50-を組合せる数としては、1~7が好ましく、1~5がより好ましい。
連結基L11の具体例としては、例えば、-CONH-アリーレン-アルキレン-アリーレン-NHCO-が挙げられる。
連結基L12~L18の具体例としては、例えば、アルキレン-COO-アルキレンが挙げられる。
【0048】
上記水溶性架橋ポリマーを構成する上記共重合体由来の構造部の含有量とアジリジン化合物由来の構造部の含有量の比は、共重合体が架橋され、本発明の効果を奏する限り特に制限されない。例えば、上記共重合体由来の構造部100質量部に対し上記アジリジン化合物由来の構造部の含有量は、0.3~10質量部が好ましく、0.7~7.0質量部がより好ましく、1.0~5.0質量部がさらに好ましい。
【0049】
- 置換基群Q -
本発明において、好ましい置換基としては、下記置換基群Qから選ばれる置換基が挙げられる。
また、本発明において、単に置換基としてしか記載されていない場合は、この置換基群Qを参照するものであり、各々の基、例えば、アルキル基、が記載されているのみの場合は、この置換基群Qの対応する基が好ましく適用される。
さらに、本明細書において、アルキル基を環状(シクロ)アルキル基と区別して記載している場合、アルキル基は、直鎖アルキル基及び分岐アルキル基を包含する意味で用いる。一方、アルキル基を環状アルキル基と区別して記載していない場合、及び、特段の断りがない場合、アルキル基は、直鎖アルキル基、分岐アルキル基及びシクロアルキル基を包含する意味で用いる。このことは、環状構造を採り得る基(アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等)を含む基(アルコキシ基、アルキルチオ基、アルケニルオキシ基等)、環状構造を採り得る基を含む化合物についても同様である。基が環状骨格を形成しうる場合、環状骨格を形成する基の原子数の下限は、この構造を採り得る基について下記に具体的に記載した原子数の下限にかかわらず、3以上であり、5以上が好ましい。
下記置換基群Qの説明においては、例えば、アルキル基とシクロアルキル基のように、直鎖又は分岐構造の基と環状構造の基とを明確にするため、これらを分けて記載していることもある。
【0050】
置換基群Qとしては、下記の基が挙げられる。
アルキル基(好ましくは炭素数が1~20であるアルキル基、例えばメチル、エチル、イソプロピル、t-ブチル、ペンチル、ヘプチル、1-エチルペンチル、ベンジル、2-エトキシエチル、1-カルボキシメチル等)、アルケニル基(好ましくは炭素数が2~20であるアルケニル基、例えば、ビニル、アリル、オレイル等)、アルキニル基(好ましくは炭素数が2~20であるアルキニル基、例えば、エチニル、ブタジイニル、フェニルエチニル等)、シクロアルキル基(好ましくは炭素数が3~20であるシクロアルキル基、例えば、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、4-メチルシクロヘキシル等)、アリール基(好ましくは炭素数が6~26であるアリール基、例えば、フェニル、1-ナフチル、4-メトキシフェニル、2-クロロフェニル、3-メチルフェニル等)、ヘテロ環基(好ましくは炭素数が2~20であるヘテロ環基で、より好ましくは、酸素原子、硫黄原子及び窒素原子の少なくとも1種を環構成原子として有する5又は6員のヘテロ環基である。ヘテロ環基は芳香族ヘテロ環基及び脂肪族ヘテロ環基を含む。例えば、テトラヒドロピラン環基、テトラヒドロフラン環基、2-ピリジル、4-ピリジル、2-イミダゾリル、2-ベンゾイミダゾリル、2-チアゾリル、2-オキサゾリル等)、アルコキシ基(好ましくは炭素数が1~20であるアルコキシ基、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロピルオキシ、ベンジルオキシ等)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数が6~26であるアリールオキシ基、例えば、フェノキシ、1-ナフチルオキシ、3-メチルフェノキシ、4-メトキシフェノキシ等)、ヘテロ環オキシ基(上記ヘテロ環基に-O-基が結合した基)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数が2~20であるアルコキシカルボニル基、例えば、エトキシカルボニル、2-エチルヘキシルオキシカルボニル等)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数が6~26であるアリールオキシカルボニル基、例えば、フェノキシカルボニル、1-ナフチルオキシカルボニル、3-メチルフェノキシカルボニル、4-メトキシフェノキシカルボニル等)、アミノ基(好ましくは炭素数が0~20であるアミノ基であり、アルキル基及びアリール基から選択される基で置換されたアミノ基を含む。例えば、アミノ(-NH)、N,N-ジメチルアミノ、N,N-ジエチルアミノ、N-エチルアミノ、アニリノ等)、スルファモイル基(好ましくは炭素数が0~20であるスルファモイル基であり、アルキル基及びアリール基から選択される基で置換されたスルファモイル基を含む。例えば、スルファモイル(-SONH)、N,N-ジメチルスルファモイル、N-フェニルスルファモイル等)、アシル基(アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、アルキニルカルボニル基、アリールカルボニル基及びヘテロ環カルボニル基を含み、好ましくは炭素数が1~20であるアシル基、例えば、アセチル、プロピオニル、ブチリル、オクタノイル、ヘキサデカノイル、アクリロイル、メタクリロイル、クロトノイル、ベンゾイル、ナフトイル、ニコチノイル等)、アシルオキシ基(アルキルカルボニルオキシ基、アルケニルカルボニルオキシ基、アルキニルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基及びヘテロ環カルボニルオキシ基を含み、好ましくは炭素数が1~20であるアシルオキシ基、例えば、アセチルオキシ、プロピオニルオキシ、ブチリルオキシ、オクタノイルオキシ、ヘキサデカノイルオキシ、アクリロイルオキシ、メタクリロイルオキシ、クロトノイルオキシ、ベンゾイルオキシ、ナフトイルオキシ、ニコチノイルオキシ等)、カルバモイル基(好ましくは炭素数が1~20であるカルバモイル基であり、アルキル基及びアリール基から選択される基で置換されたカルバモイル基を含む。例えば、N,N-ジメチルカルバモイル、N-フェニルカルバモイル等)、アシルアミノ基(好ましくは炭素数が1~20であるアシルアミノ基であり、アシルアミノ基におけるアシル基としては、上記アシル基が好ましく挙げられる。例えば、アセチルアミノ、ベンゾイルアミノ等)、アルキルチオ基(好ましくは炭素数が1~20であるアルキルチオ基、例えば、メチルチオ、エチルチオ、イソプロピルチオ、ベンジルチオ等)、アリールチオ基(好ましくは炭素数が6~26であるアリールチオ基、例えば、フェニルチオ、1-ナフチルチオ、3-メチルフェニルチオ、4-メトキシフェニルチオ等)、アリールシリル基(好ましくは炭素数が6~42であるアリールシリル基、例えば、トリフェニルシリル等)、ヘテロ環チオ基(上記ヘテロ環基に-S-基が結合した基)、アルキルスルホニル基(好ましくは炭素数が1~20であるアルキルスルホニル基、例えば、メチルスルホニル、エチルスルホニル等)、アリールスルホニル基(好ましくは炭素数が6~22であるアリールスルホニル基、例えば、ベンゼンスルホニル等)、アルキルシリル基(好ましくは炭素数が1~20であるアルキルシリル基、例えば、モノメチルシリル、ジメチルシリル、トリメチルシリル、トリエチルシリル等)、亜リン酸基(好ましくは炭素数が0~20である亜リン酸基、例えば、-OP(=O)(OH)(R))、次亜リン酸基(好ましくは炭素数が0~20である次亜リン酸基、例えば、-OP(=O)(R)、ホスホリル基(好ましくは炭素数が0~20であるホスホリル基、例えば、-P(=O)(R)、ホスフィニル基(好ましくは炭素数が0~20であるホスフィニル基、例えば、-P(R)、スルホ基(スルホン酸基、-S(=O)(OH))、リン酸基(-OP(=O)(OH))、ホスホン酸基(-P(=O)(OH))、カルボキシ基、ヒドロキシ基、スルファニル基、シアノ基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)が挙げられる。Rは、水素原子又は置換基(好ましくは置換基群Qから選択される基)である。
また、これらの置換基群Qで挙げた各基は、上記置換基群Qを更に置換基として有していてもよい。
【0051】
本発明のバインダー組成物を構成するバインダー成分である上記水溶性架橋ポリマーは、電解液による膨潤が抑制されることにより、電極構造を十分に維持でき、サイクル寿命の長期化が可能となる観点から、電解液に対する膨潤性が低いことが好ましい。
例えば、上記水溶性架橋ポリマーは下記<条件II>を満たすことが好ましい。
<条件II>
エチレンカーボネート1質量部に対してエチルメチルカーボネートを2質量部混合してなる混合溶媒に対し、水溶性架橋ポリマーの膨潤率が1質量%以上100質量%未満である。
すなわち、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとを質量比で、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/2として混合した溶媒(疑似電解液)に対する、上記水溶性架橋ポリマーの膨潤率は1質量%以上100質量%未満であることが好ましく、1質量%以上50質量%未満がより好ましく、1質量%以上20質量%未満が更に好ましく、1質量%以上10質量%未満が特に好ましい。ここで、上記溶媒中において水溶性架橋ポリマーが膨潤しない場合、膨潤率は0質量%である。膨潤率は後述する実施例に記載の方法により決定される。
【0052】
また、本発明のバインダー組成物を構成するバインダー成分である上記水溶性架橋ポリマーは、活物質の膨潤と収縮の繰り返しに追従可能な特性と、所望の結着性とを発現してサイクル寿命をより長期化する観点から、ある程度の破断エネルギー示すことが好ましい。
上記水溶性架橋ポリマーの破断エネルギーは、4.0~15.0MPaであることが好ましく、4.5~13.0MPaであることがより好ましく、4.8~11.0MPaであることが更に好ましい。破断エネルギーは後述する実施例に記載の方法により測定、算出される。
【0053】
上記共重合体の重量平均分子量は100000以上であることが好ましく、200000以上であることがより好ましく、300000以上であることがさらに好ましい。上記共重合体の重量平均分子量が十分に大きいと、共重合体をアジリジン化合物により架橋させてなる水溶性架橋ポリマーを二次電池用バインダーとして用いた場合に大きな結着性が得られ、上記水溶性架橋ポリマーを含む上記バインダー組成物を用いて形成された二次電池のサイクル寿命が長期化される。上限値は、3000000以下であることが実際的であり、2000000以下であることが好ましい。
【0054】
本発明において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリアクリル酸ナトリウム換算の重量平均分子量であり、下記測定条件1の方法により測定した値を採用する。ただし、測定する試料に応じて、適宜適切な溶離液を選定して用いることができる。
(測定条件1)
測定器:HLC-8220GPC(商品名、東ソー社製)
カラム:TOSOH TSKgel 5000PWXL(商品名、東ソー社製)、TOSOH TSKgel G4000PWXL(商品名、東ソー社製)、TOSOH TSKgel G2500PWXL(商品名、東ソー社製)をつなげる。
キャリア:200mM 硝酸ナトリウム水溶液
測定温度:40℃
キャリア流量:1.0mL/min
試料濃度:0.2%
検出器:RI(屈折率)検出器
【0055】
測定する試料が架橋構造を有するポリマーである場合など、上記測定条件1で重量平均分子量が測れない場合は、下記測定条件2の静的光散乱により、重量平均分子量を測定する。
測定器:DLS-8000(商品名、大塚電子社製)
測定濃度:0.25、0.50、0.75、1.00mg/mL
希釈液:0.1M NaCl水溶液
レーザー波長:633nm
ピンホール:PH1=Open、PH2=Slit
測定角度:60、70、80、90、100、110、120、130度
解析法:Zimm平方根プロットより、分子量を測定した。解析に必要なdn/dcはAbbe屈折率計で実測する。
【0056】
本発明のバインダー組成物は、上記水溶性架橋ポリマーを1種単独で含有していてもよく、2種以上含有していてよい。上記水溶性架橋ポリマーを1種単独で含有していることが好ましい。
本発明のバインダー組成物は、上記水溶性架橋ポリマー以外に、電池用のバインダーとして常用されるその他のポリマーを含有していてもよい。この場合、その他のポリマーの重量平均分子量は10000を越えることが好ましい。
ただし、本発明のバインダー組成物に含有される全てのポリマーに占める上記水溶性架橋ポリマーの含有量は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、99質量%以上が特に好ましい。また、100質量%とすることもできる。
【0057】
上記水溶性架橋ポリマーは、上記構成成分を導くモノマーを目的に応じて組み合わせ、必要により触媒(重合開始剤、連鎖移動剤等を含む。)の存在下、付加重合させることで共重合体を合成し、さらに、得られた共重合体に上記アジリジン化合物を反応させて架橋することにより、合成することができる。付加重合させる方法及び条件、並びに、アジリジン化合物を反応させる方法及び条件は、特に限定されず、通常の方法及び条件を適宜に選択できる。
【0058】
本発明のバインダー組成物は、水を含有する。本発明のバインダー組成物中における水の含有量は、特に制限されないが、例えば、10質量%以上とすることができ、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量%、特に好ましくは50質量%以上含有する。本発明のバインダー組成物は、水を60質量%以上含有してもよく、70質量%以上含有してもよく、80質量%以上含有してもよい。上限値に特に制限はないが、95質量%以下が実際的である。
本発明のバインダー組成物は、水以外の液媒体を含有していてもよい。水以外の液媒体としては、例えば、水と混合したときに相分離せずに混じり合う有機溶媒(以下、水溶性有機溶媒と称す。)が挙げられ、N-メチルピロリドン、メタノール、エタノール、アセトン、テトラヒドロフラン等が好ましく挙げられる。
バインダー成分である上記水溶性架橋ポリマーは、本発明のバインダー組成物を構成する液媒体中に溶解していてもよく、溶解していなくてもよい。
【0059】
本発明のバインダー組成物中、上記水溶性架橋ポリマーの含有量は目的に応じて適宜に設定すればよい。例えば、バインダー組成物中の水溶性架橋ポリマーの含有量を2~50質量%とすることができ、好ましくは4~30質量%、より好ましくは5~20質量%とすることができる。
本発明のバインダー組成物は、上記水溶性架橋ポリマー、水、水以外の液媒体の他にも、目的に応じて他の成分を含有することができる。他の成分としては、例えば、多価アルコール(ヒドロキシ基を2つ以上有するアルコール)が挙げられる。ただし、組成物中に後述する周期律表第1族又は第2族に属する金属のイオンの挿入放出が可能な活物質を含有する場合には、この組成物は本発明のバインダー組成物ではなく、本発明の電極用組成物となる。
また、本発明のバインダー組成物は、上記水溶性架橋ポリマーの合成液を希釈する等により調製することもできる。そのため、本発明のバインダー組成物中には、上記の共重合体及び水溶性架橋ポリマーの合成に使用した化合物又はその反応後の副生成物が含まれていてもよい。
【0060】
[電極用組成物]
本発明の電極用組成物は、本発明のバインダー組成物と、周期律表第1族又は第2族に属する金属のイオンの挿入放出が可能な活物質とを含有する。必要に応じてさらに導電助剤、他の添加剤を含むことができる。活物質は正極活物質でもよく、負極活物質でもよい。電極用組成物が正極活物質を含む場合、電極用組成物を、二次電池の正極活物質層形成用スラリーとして用いることができる。また、電極用組成物が負極活物質を含む場合、電極用組成物を負極活物質層形成用スラリーとして用いることができる。上記バインダー組成物は正極又は負極どちらの電極用組成物にも適用できるが、負極に用いることが好ましく、特にケイ素原子含有活物質を有する負極の電極用組成物に用いることが好ましい。
上記活物質、導電助剤、他の添加剤としては、特に限定されるものではなく、二次電池に常用されるものから目的に応じて適宜選択して用いればよい。
【0061】
本発明の電極用組成物中における本発明のバインダー組成物の含有量は、各組成物を構成する固形分量により算出される割合(電極用組成物の固形分中に占めるバインダー組成物の固形分の割合)で、0.5~30質量%が好ましく、1.0~20質量%がより好ましく、1.5~15質量%が更に好ましく、2.5~10質量%が特に好ましい。典型的には、本発明のバインダー組成物中の固形分とは上記バインダー成分(水溶性架橋ポリマー)を意味し、本発明の電極用組成物中の固形分とは上記のバインダー成分、固体粒子(電極活物質、導電助剤、他の添加剤等)等を意味する。
【0062】
(正極活物質)
正極活物質は、可逆的にリチウムイオンを挿入及び放出できるものが好ましい。その材料は、上記特性を有するものであれば、特に制限はなく、遷移金属酸化物、有機物、硫黄等のLiと複合化できる元素や硫黄と金属の複合物等でもよい。
中でも、正極活物質としては、遷移金属酸化物を用いることが好ましく、遷移金属元素M(Co、Ni、Fe、Mn、Cu及びVから選択される1種以上の元素)を有する遷移金属酸化物がより好ましい。また、この遷移金属酸化物に元素M(リチウム以外の周期律表の第1(Ia)族の元素、第2(IIa)族の元素、Al、Ga、In、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Si、P又はB等の元素)を混合してもよい。元素Mの混合量としては、遷移金属元素M100モルに対して0~30モルが好ましい。遷移金属元素Mに対するLiのモル比(Li/M)が0.3~2.2になるように混合して合成されたものが、より好ましい。
遷移金属酸化物の具体例としては、(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物、(MB)スピネル型構造を有する遷移金属酸化物、(MC)リチウム含有遷移金属リン酸化合物、(MD)リチウム含有遷移金属ハロゲン化リン酸化合物及び(ME)リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物等が挙げられる。
【0063】
(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物の具体例として、LiCoO(コバルト酸リチウム[LCO])、LiNi(ニッケル酸リチウム)、LiNi0.85Co0.10Al0.05(ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム[NCA])、LiNi1/3Co1/3Mn1/3(ニッケルマンガンコバルト酸リチウム[NMC])及びLiNi0.5Mn0.5(マンガンニッケル酸リチウム)が挙げられる。
(MB)スピネル型構造を有する遷移金属酸化物の具体例として、LiMn(LMO)、LiCoMnO、LiFeMn、LiCuMn、LiCrMn及びLiNiMnが挙げられる。
(MC)リチウム含有遷移金属リン酸化合物としては、例えば、LiFePO及びLiFe(PO等のオリビン型リン酸鉄塩、LiFeP等のピロリン酸鉄類、LiCoPO等のリン酸コバルト類並びにLi(PO(リン酸バナジウムリチウム)等の単斜晶ナシコン型リン酸バナジウム塩が挙げられる。
(MD)リチウム含有遷移金属ハロゲン化リン酸化合物としては、例えば、LiFePOF等のフッ化リン酸鉄塩、LiMnPOF等のフッ化リン酸マンガン塩及びLiCoPOF等のフッ化リン酸コバルト類が挙げられる。
(ME)リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物としては、例えば、LiFeSiO、LiMnSiO及びLiCoSiO等が挙げられる。
本発明では、(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物が好ましく、LCO又はNMCがより好ましい。
【0064】
正極活物質の形状は特に制限されないが粒子状が好ましい。正極活物質の平均粒径(球換算平均粒子径)は特に制限されない。例えば、0.1~50μmとすることができる。正極活物質を所定の粒子径にするには、粉砕機又は分級機を用い常法により調製すればよい。後述の負極活物質の所定の粒子径への調整方法も適用することができる。焼成法によって得られた正極活物質は、水、酸性水溶液、アルカリ性水溶液又は有機溶剤等にて洗浄した後使用してもよい。
【0065】
上記正極活物質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
正極活物質層を形成する場合、正極活物質層の単位面積(cm)当たりの正極活物質の質量(mg)(目付量)は特に限定されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができる。
【0066】
正極活物質の、本発明の電極用組成物中における含有量は、特に限定されず、全固形分量に対して、10~99質量%が好ましく、30~98質量%がより好ましく、50~97質量が更に好ましく、55~95質量%が特に好ましい。
【0067】
(負極活物質)
負極活物質は、可逆的にリチウムイオンを吸蔵及び放出できるものが好ましい。その材料は、上記特性を有するものであれば、特に制限はなく、炭素質材料、ケイ素系材料(ケイ素原子を含有する材料を意味する。)、金属酸化物、金属複合酸化物、リチウム単体、リチウム合金、リチウムと合金形成可能な負極活物質等が挙げられる。中でも、炭素質材料又はケイ素系材料が信頼性の点から好ましく用いられる。
【0068】
負極活物質として用いられる炭素質材料とは、実質的に炭素からなる材料である。例えば、石油ピッチ等のカーボンブラック、黒鉛(鱗片状黒鉛、塊状黒鉛等の天然黒鉛、気相成長黒鉛、繊維状黒鉛等の人造黒鉛、膨張黒鉛等)、活性炭、カーボンファイバー、コークス、ソフトカーボン、ハードカーボン、及びPAN(ポリアクリロニトリル)系の樹脂若しくはフルフリルアルコール樹脂等の各種の合成樹脂を焼成した炭素質材料を挙げることができる。更に、PAN系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、脱水PVA(ポリビニルアルコール)系炭素繊維、リグニン炭素繊維、ガラス状炭素繊維及び活性炭素繊維等の各種炭素繊維類、メソフェーズ微小球体、グラファイトウィスカー並びに平板状の黒鉛等を挙げることもできる。
【0069】
負極活物質として適用される金属酸化物及び金属複合酸化物としては、リチウムを吸蔵及び放出可能な酸化物であれば特に制限されず、非晶質酸化物が好ましく、更に金属元素と周期律表第16族の元素との反応生成物であるカルコゲナイトも好ましく挙げられる。ここでいう非晶質とは、CuKα線を用いたX線回折法で、2θ値で20°~40°の領域に頂点を有するブロードな散乱帯を有するものを意味し、結晶性の回折線を有してもよい。
上記非晶質酸化物及びカルコゲナイドからなる化合物群の中でも、半金属元素の非晶質酸化物、及び上記カルコゲナイドがより好ましく、周期律表第13(IIIB)族~15(VB)族の元素、Al、Ga、Si、Sn、Ge、Pb、Sb及びBiの1種単独若しくはそれらの2種以上の組み合わせからなる酸化物、又はカルコゲナイドが特に好ましい。好ましい非晶質酸化物及びカルコゲナイドの具体例としては、例えば、Ga、GeO、PbO、PbO、Pb、Pb、Pb、Sb、Sb、SbBi、SbSi、Sb、Bi、Bi、GeS、PbS、PbS、Sb及びSbが好ましく挙げられる。
【0070】
金属(複合)酸化物及び上記カルコゲナイドは、構成成分として、チタン及びリチウムの少なくとも一方を含有していることが、高電流密度充放電特性の観点で好ましい。リチウムを含有する金属複合酸化物(リチウム複合金属酸化物)としては、例えば、酸化リチウムと上記金属(複合)酸化物若しくは上記カルコゲナイドとの複合酸化物、より具体的には、LiSnOが挙げられる。
【0071】
負極活物質はチタン原子を含有することも好ましい。より具体的にはTiNb(チタン酸ニオブ酸化物[NTO])、LiTi12(チタン酸リチウム[LTO])がリチウムイオンの吸蔵放出時の体積変動が小さいことから急速充放電特性に優れ、電極の劣化が抑制され、リチウムイオン二次電池の寿命向上が可能となる点で好ましい。
【0072】
負極活物質としてのリチウム合金としては、二次電池の負極活物質として通常用いられる合金であれば特に制限されず、例えば、リチウムアルミニウム合金が挙げられる。
【0073】
リチウムと合金形成可能な負極活物質は、二次電池の負極活物質として通常用いられるものであれば特に制限されない。このような活物質は、充放電による膨張収縮が大きく、上述のように通常であれば固体粒子間ないし固体粒子と集電体との間の結着性が低下するものの、本発明では上記水溶性架橋ポリマーがバインダーとして機能することにより高い結着性を達成できる。このような活物質として、ケイ素原子若しくはスズ原子を有する負極活物質、Al及びIn等の各金属が挙げられ、より高い電池容量を可能とするケイ素原子を有する負極活物質(ケイ素原子含有活物質)が好ましく、ケイ素原子の含有量が全構成原子の40モル%以上であるケイ素原子含有活物質がより好ましい。
一般的に、これらの負極活物質を含有する負極(例えば、ケイ素原子含有活物質を含有するSi負極、スズ原子を有する活物質を含有するSn負極)は、炭素質材料のみからなる負極(黒鉛、カーボンブラック等)に比べて、より多くのLiイオンを吸蔵できる。すなわち、単位質量あたりのLiイオンの吸蔵量が増加する。そのため、電池容量(エネルギー密度)を大きくすることができる。その結果、バッテリー駆動時間を長くすることができるという利点がある。このように、ケイ素原子若しくはスズ原子を有する負極活物質は、高容量活物質とも称される。
ケイ素原子含有活物質としては、例えば、Si、SiOx(0<x≦1)等のケイ素材料、更には、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、ニッケル、銅若しくはランタンを含む合金(例えば、LaSi、VSi)、又は組織化した活物質(例えば、LaSi/Si)、他にも、SnSiO、SnSiS等のケイ素原子及びスズ原子を含有する活物質等が挙げられる。なお、SiOxは、それ自体を負極活物質(半金属酸化物)として用いることができ、また、電池の稼働によりSiを生成するため、リチウムと合金化可能な活物質(その前駆体物質)として用いることができる。
スズ原子を有する負極活物質としては、例えば、Sn、SnO、SnO、SnS、SnS、更には上記ケイ素原子及びスズ原子を含有する活物質等が挙げられる。また、酸化リチウムとの複合酸化物、例えば、LiSnOも包含される。
【0074】
負極活物質の形状は特に制限されないが粒子状が好ましい。負極活物質の平均粒子径は、0.1~60μmが好ましい。所定の粒子径にするには、粉砕機又は分級機を用い常法により調製することができる。例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、衛星ボールミル、遊星ボールミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等が好適に用いられる。粉砕時には水、あるいはメタノール等の有機溶媒を共存させた湿式粉砕も行うことができる。所望の粒子径とするためには分級を行うことが好ましい。分級方法としては、特に限定はなく、篩、風力分級機等を所望により用いることができる。分級は乾式及び湿式ともに用いることができる。
【0075】
上記負極活物質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。その中でケイ素原子含有活物質と炭素質材料の組み合わせが好ましく、SiOx(0<x≦1)と黒鉛の組み合わせが特に好ましい。SiOx(0<x≦1)と黒鉛とを組み合わせる場合、黒鉛に対するSiOxの質量比率(SiOx/黒鉛)は2以下が好ましく、1以下がより好ましく、0.5以下が更に好ましい。黒鉛に対するSiOxの質量比率の下限値に特に制限はないが、0.05以上が実際的である。
負極活物質層を形成する場合、負極活物質層の単位面積(cm)当たりの負極活物質の質量(mg)(目付量)は特に限定されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができる。
【0076】
負極活物質の、本発明の電極用組成物中における含有量は、特に限定されず、全固形分量に対して、10~99質量%が好ましく、30~98質量%がより好ましく、50~97質量%が更に好ましく、55~95質量%が特に好ましい。
【0077】
上記焼成法により得られた化合物の化学式は、測定方法として誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法、簡便法として、焼成前後の粉体の質量差から算出できる。
【0078】
本発明において、負極活物質層を電池の充電により形成する場合、上記負極活物質に代えて、二次電池内に発生する周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンを用いることができる。このイオンを電子と結合させて金属として析出させることで、負極活物質層を形成できる。
【0079】
(活物質の被覆)
正極活物質及び負極活物質の表面は別の金属酸化物で表面被覆されていてもよい。表面被覆剤としてはTi、Nb、Ta、W、Zr、Al、Si又はLiを含有する金属酸化物等が挙げられる。具体的には、チタン酸スピネル、タンタル系酸化物、ニオブ系酸化物、ニオブ酸リチウム系化合物等が挙げられ、更に具体的には、LiTi12、LiTi、LiTaO、LiNbO、LiAlO、LiZrO、LiWO、LiTiO、Li、LiPO、LiMoO、LiBO、LiBO、LiCO、LiSiO、SiO、TiO、ZrO、Al、B等が挙げられる。
また、正極活物質又は負極活物質を含む電極表面は硫黄又はリンで表面処理されていてもよい。
更に、正極活物質又は負極活物質の粒子表面は、上記表面被覆の前後において活性光線又は活性気体(プラズマ等)により表面処理を施されていてもよい。
【0080】
(導電助剤)
本発明の電極用組成物は、導電助剤を含有することもでき、特に負極活物質としてのケイ素原子含有活物質は導電助剤と併用されることが好ましい。
導電助剤としては、特に制限はなく、一般的な導電助剤として知られているものを用いることができる。例えば、電子伝導性材料である、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック等のカーボンブラック類、ニードルコークス等の無定形炭素、気相成長炭素繊維若しくはカーボンナノチューブ等の炭素繊維類、グラフェン若しくはフラーレン等の炭素質材料であってもよいし、銅、ニッケル等の金属粉、金属繊維でもよく、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリフェニレン誘導体等の導電性高分子を用いてもよい。
本発明において、活物質と導電助剤とを併用する場合、上記の導電助剤のうち、電池を充放電した際にLiの挿入と放出が起きず、活物質として機能しないものを導電助剤とする。したがって、導電助剤の中でも、電池を充放電した際に活物質層中において活物質として機能しうるものは、導電助剤ではなく活物質に分類する。電池を充放電した際に活物質として機能するか否かは、一義的ではなく、活物質との組み合わせにより決定される。
【0081】
導電助剤は、1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
導電助剤の、本発明の電極用組成物中の含有量は、全固形分量に対して、0.5~60質量%が好ましく、1.0~50質量%がより好ましく、1.5~40質量%が更に好ましく、2.5~35質量%が特に好ましい。
【0082】
導電助剤の形状は、特に制限されないが、粒子状が好ましい。導電助剤のメジアン径D50は、特に限定されず、例えば、0.01~50μmが好ましく、0.02~10.0μmが好ましい。
【0083】
(他の添加剤)
本発明の電極用組成物は、上記各成分以外の他の成分として、所望により、リチウム塩、イオン液体、増粘剤、消泡剤、レベリング剤、脱水剤、酸化防止剤等を含有することができる。
上記活物質、導電助剤、他の添加剤に関し、例えば、国際公開2019/203334号、特開2015-46389号公報等を参照することができる。
【0084】
(溶媒)
本発明の電極用組成物は、溶媒として、水を含有し、水以外の液媒体を含有していてもよい。水以外の液媒体としては、例えば、本発明のバインダー組成物における水以外の液媒体の記載を適用することができる。
バインダー成分である上記水溶性架橋ポリマーは、本発明の電極用組成物中における電極活物質、導電助剤等の固体粒子を分散させている限り、本発明の電極用組成物を構成する液媒体中に溶解していてもよく、溶解していなくてもよい。
【0085】
本発明の電極用組成物中における溶媒の含有量は、例えば10~90質量%に調整することができ、20~80質量%とすることが好ましく、30~70質量%とすることがより好ましい。
【0086】
[電極シート]
本発明の電極シートは、本発明の電極用組成物を用いて構成された層(電極活物質層、すなわち、負極活物質層又は正極活物質層)を有する。本発明の電極シートは、電極活物質層を有する電極シートであればよく、電極活物質層が、集電体等の基材上に形成されているシートでも、基材を有さず、電極活物質層(負極活物質層又は正極活物質層)だけで形成されているシートであってもよい。この電極シートは、通常、集電体上に電極活物質層を積層した構成のシートであり、電極合材の密度は特に制限されないが、例えば、1.4~1.6g/cmとすることができる。本発明の電極シートは、他の層として、例えば、剥離シート等の保護層、コート層を有してもよい。
本発明の電極シートは、二次電池の負極活物質層又は正極活物質層を構成する材料として好適に用いることができる。
【0087】
[電極シートの製造方法]
本発明の電極シートは、本発明の電極用組成物を用いて電極活物質層を形成することにより得ることができる。例えば、本発明の電極用組成物を用いて製膜することにより、本発明の電極シートを製造することができる。具体的には、集電体等を基材として、その上(他の層を介していてもよい)に本発明の電極用組成物を塗布して塗膜を形成し、これを乾燥して、基材上に活物質層(塗布乾燥層)を有する電極シートを得ることができる。
また、本発明の二次電池は、上記電極シートの製造方法により得られた電極シートを二次電池の電極に組み込むことにより得ることができる。
【0088】
[二次電池]
本発明の二次電池は、充放電により電解質を介して正負極間をイオンが通過し、正負極においてエネルギーを貯蔵、放出するデバイス全般を意味する。すなわち、本発明において二次電池という場合、電池とキャパシタ(例えば、リチウムイオンキャパシタ)の両方を包含する意味である。エネルギー貯蔵量の観点から、本発明の二次電池は電池用途に用いること(キャパシタでないこと)が好ましい。
【0089】
本発明の二次電池について、非水電解液二次電池の形態を例にして説明するが、本発明の二次電池は非水電解液二次電池に限定されるものではなく、全固体二次電池を含む二次電池全般を広く包含するものである。
本発明の好ましい一実施形態である非水電解液二次電池は、正極と、負極と、正極と負極との間に配されたセパレータとを含む構成を有する。正極は、正極集電体と、この正極集電体に接する正極活物質層とを有し、負極は、負極集電体と、この負極集電体に接する負極活物質層とを有する。本発明の非水電解液二次電池は、上記正極活物質層及び上記負極活物質層の少なくとも1つの層が、本発明の電極用組成物を用いて構成されている。本発明の非水電解液二次電池は、正極と負極との間に非水電解液を満たすことにより、充放電により二次電池として機能する。
【0090】
図1は、一般的な非水電解液二次電池10の積層構造を、電池として作動させる際の作動電極も含めて、模式化して示す断面図である。非水電解液二次電池10は、負極側からみて、負極集電体1、負極活物質層2、セパレータ3、正極活物質層4、正極集電体5を、この順に有する積層構造を有している。負極活物質層と正極活物質層との間は非水電解液(図示せず)で満たされ、かつセパレータ3で分断されている。セパレータ3は空孔を有し、通常の電池の使用状態では電解液及びイオンをこの空孔により透過しながら正負極間を絶縁する正負極分離膜として機能する。このような構造により、例えばリチウムイオン二次電池であれば、充電時には外部回路を通って負極側に電子(e)が供給され、同時に電解液を介して正極からリチウムイオン(Li)が移動してきて負極に蓄積される。一方、放電時には、負極に蓄積されたリチウムイオン(Li)が電解液を介して正極側に戻され、作動部位6には電子が供給される。図示した例では、作動部位6に電球を採用しており、放電によりこれが点灯するようにされている。
本発明において、負極集電体1と負極活物質層2とを合わせて負極と称し、正極活物質層4と正極集電体5とを合わせて正極と称している。
【0091】
上記非水電解液二次電池に用いる各材料、非水電解液、部材等は、本発明のバインダー組成物ないし電極用組成物を用いて特定の層を形成すること以外は特に制限されない。これらの材料、部材等は、通常の非水電解液二次電池に用いられるものを適宜に適用することができる。また、非水電解液二次電池の作製方法についても、本発明のバインダー組成物ないし電極用組成物を用いて特定の層を形成すること以外は、電極シートの製造を介する通常の方法を適宜に採用することができる。例えば、特開2016-201308号公報、特開2005-108835号公報、特開2012-185938号公報等を適宜に参照することができる。
非水電解液の好ましい形態について、より詳しく説明する。
【0092】
(電解質)
非水電解液に用いる電解質は周期律表第1族又は第2族に属する金属イオンの塩が好ましい。使用する金属イオンの塩は非水電解液の使用目的により適宜選択される。例えば、リチウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等が挙げられ、二次電池等に使用される場合には、出力の観点からリチウム塩が好ましい。本発明の非水電解液をリチウムイオン二次電池用非水電解液として用いる場合には、金属イオンの塩としてリチウム塩を選択すればよい。リチウム塩としては、リチウムイオン二次電池用非水電解液の電解質に通常用いられるリチウム塩が好ましく、例えば、以下のリチウム塩が挙げられる。
【0093】
(L-1)無機リチウム塩:LiPF、LiBF、LiAsF、LiSbF等の無機フッ化物塩、LiClO、LiBrO、LiIO等の過ハロゲン酸塩、LiAlCl等の無機塩化物塩等
【0094】
(L-2)含フッ素有機リチウム塩:LiCFSO等のパーフルオロアルカンスルホン酸塩、LiN(CFSO、LiN(CFCFSO、LiN(FSO、LiN(CFSO)(CSO)等のパーフルオロアルカンスルホニルイミド塩、LiC(CFSO等のパーフルオロアルカンスルホニルメチド塩、Li[PF(CFCFCF)]、Li[PF(CFCFCF]、Li[PF(CFCFCF]、Li[PF(CFCFCFCF)]、Li[PF(CFCFCFCF]、Li[PF(CFCFCFCF]等のパーフルオロアルキルフッ化リン酸塩等
【0095】
(L-3)オキサラトボレート塩:リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムジフルオロオキサラトボレート等
【0096】
これらのなかで、LiPF、LiBF、LiAsF、LiSbF、LiClO、Li(Rf1SO)、LiN(Rf1SO、LiN(FSO、及びLiN(Rf1SO)(Rf2SO)が好ましく、LiPF、LiBF、LiN(Rf1SO、LiN(FSOおよびLiN(Rf1SO)(Rf2SO)等のリチウムイミド塩がさらに好ましい。ここで、Rf1、Rf2はそれぞれパーフルオロアルキル基を示す。
なお、非水電解液に用いる電解質は、1種を単独で使用しても、2種以上を任意に組み合わせてもよい。
【0097】
非水電解液における電解質(好ましくは周期律表第1族又は第2族に属する金属のイオン若しくはその金属塩)の塩濃度は非水電解液の使用目的により適宜選択されるが、一般的には非水電解液の全質量中10~50質量%であり、さらに好ましくは15~30質量%である。モル濃度としては0.5~1.5Mが好ましい。なお、イオンの濃度として評価するときには、その好適に適用される金属との塩換算で算定すればよい。
【0098】
(非水溶媒)
非水電解液は、非水溶媒を含有する。
非水溶媒としては、非プロトン性有機溶媒が好ましく、なかでも炭素数が2~10の非プロトン性有機溶媒がより好ましい。
このような非水溶媒としては、鎖状若しくは環状のカーボネート化合物、ラクトン化合物、鎖状若しくは環状のエーテル化合物、エステル化合物、ニトリル化合物、アミド化合物、オキサゾリジノン化合物、ニトロ化合物、鎖状又は環状のスルホン若しくはスルホキシド化合物、リン酸エステルが挙げられる。
なお、エーテル結合、カルボニル結合、エステル結合又はカーボネート結合を有する化合物が好ましい。これらの化合物は置換基を有していてもよく、例えば上述の置換基群Qから選ばれる置換基が挙げられる。
【0099】
非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、フッ化エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチル、トリメチル酢酸エチル、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリジノン、N-メチルオキサゾリジノン、N,N’-ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、リン酸トリメチル、ジメチルスルホキシドあるいはジメチルスルホキシドリン酸等が挙げられる。これらは、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。なかでも、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネート、γ-ブチロラクトンからなる群のうちの少なくとも1種が好ましく、特に、エチレンカーボネート又はプロピレンカーボネート等の高粘度(高誘電率)溶媒(例えば、比誘電率ε≧30)とジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート又はジエチルカーボネート等の低粘度溶媒(例えば、粘度≦1mPa・s)との組み合わせがより好ましい。このような組み合わせの混合溶媒とすることで、電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上する。
なお、本発明に用いられる非水溶媒は、これらに限定されるものではない。
【0100】
本発明の二次電池は、例えば、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、コードレスフォン子機、ページャー、ハンディーターミナル、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、電気シェーバー、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、メモリーカード等の電子機器に搭載することができる。また、民生用として、自動車、電動車両、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、ロードコンディショナー、時計、ストロボ、カメラ、医療機器(ペースメーカー、補聴器、肩もみ機等)等に搭載することができる。また、太陽電池と組み合わせることもできる。
【実施例
【0101】
以下に、実施例に基づき本発明についてさらに詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例に限定して解釈されるものではない。
以下の実施例において組成を表す「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0102】
(1)バインダーB-1の合成
還流冷却管、ガス導入コックを付した1L容の三つ口フラスコに、蒸留水260.0gを加えた。流速200mL/minにて窒素ガスを60分間導入した後に、75℃に昇温した。別容器にて、アクリル酸5.4g、ヒドロキシエチルアクリレート48.6g、蒸留水80.0g及びVA-057(商品名、水溶性アゾ重合開始剤、富士フイルム和光純薬社製)0.46gを撹拌し、混合液Aを調製した。
上記の三つ口フラスコ中に、上記で調製した混合液Aを1時間かけて滴下した。滴下完了後、75℃で3時間撹拌を続けた。その後氷浴で冷却し、48%水酸化ナトリウム水溶液を5.00g加えた。その後蒸留水を171.54g加えた。続けて、ケミタイトPZ-33(商品名、アジリジン化合物、日本触媒社製)1.0gを蒸留水9.0gで希釈した溶液を加えて、固形分濃度10.0質量%の、バインダーB-1の水溶液を得た。なお、アジリジン化合物による架橋を行う前の共重合体について、重量平均分子量は331000、中和度は80モル%であった。

(酸価(中和度)の測定)
試料として上記で調製したバインダー水溶液約10gを精密に量り、水150mLを加えて溶かし、試料溶液を調製した。試料溶液について、滴定液を用いて下記測定条件により電位差滴定を行い、下記計算式により酸価(中和度)を算出した。なお、空試験は、試料溶液に代えて水150mLを用いて行った。

酸価(mgKOH/g)={(V-B)×f×0.1×56.11}/(W×固形分濃度×0.01)
上記式中において、Vは試料溶液に対する滴定液の滴定量(mL)、fは滴定液の力価、Bは空試験における滴定液の滴定量(mL)、Wは試料の採取量(g)を示す。また、固形分濃度とは、試料の固形分濃度(質量%)を示す。

(測定条件)
測定装置:自動滴定装置 GT-100(商品名、日東精工アナリテック社製)
参照電極:ダブルジャンクション型Ag/AgCl参照電極
(内部液:1mol/L塩化カリウム水溶液、
外部液:1mol/L硝酸カリウム水溶液)
指示電極:ガラス電極
滴定液:0.1mol/Lの水酸化カリウム水溶液
【0103】
(2)バインダーB-2~B-10、BC-1~BC-3、BC-5の合成
後記表1に記載のように、モノマー成分、中和剤、架橋剤を変更した以外は上記バインダーB-1の合成と同様にして、バインダーB-2~B-10、BC-1~BC-3、BC-5の水溶液を調製した。いずれの水溶液も、固形分濃度は10.0質量%であった。架橋を行う前の重合体の中和度及び重量平均分子量(Mw)は後記表1に記載の通りである。
【0104】
(3)バインダーBC-4の合成
特表2016-528357に記載の合成方法に基づき、下記の通り、バインダーBC-4を合成した。
窒素ガスが還流され、温度調節が容易となるように冷却装置を設置した1000cc容の反応器に、n-ブチルアクリレート58g、メトキシエチルアクリレート40g及びヒドロキシブチルアクリレート2gで構成される単量体混合物と、連鎖移動剤であるn-ドデカンチオール0.02gを投入し、溶媒としてエチルアセテート150gを投入した。次に、酸素を除去するために、60℃で、窒素ガスを60分間パージングした後、60℃に維持した。混合物を均一にした後、反応開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.04gを投入した。混合物を8時間反応させた。続けて、ケミタイトPZ-33(商品名、アジリジン化合物、日本触媒社製)2.0gをエチルアセテート18.0gで希釈した溶液を加えて、バインダーBC-4のエチルアセテート溶液を得た。
【0105】
バインダーB-1~B-10、BC-1~BC-5の構造を下記に示す。
【0106】
【化6】
【0107】
(重量平均分子量)
上記で作製したバインダーの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリアクリル酸ナトリウム換算の重量平均分子量であり、下記条件で測定した値である。
測定器:HLC-8220GPC(商品名、東ソー社製)
カラム:TOSOH TSKgel 5000PWXL(商品名、東ソー社製)、TOSOH TSKgel G4000PWXL(商品名、東ソー社製)、TOSOH TSKgel G2500PWXL(商品名、東ソー社製)をつなげた。
キャリア:200mM 硝酸ナトリウム水溶液
測定温度:40℃
キャリア流量:1.0mL/min
試料濃度:0.2質量%
検出器:RI(屈折率)検出器
【0108】
バインダーB-4及びB-7の重量平均分子量については、上記測定条件により測定できなかったため、下記条件で静的光散乱により測定した。
測定器:DLS-8000(商品名、大塚電子社製)
測定濃度:0.25、0.50、0.75、1.00mg/mL
希釈液:0.1M NaCl水溶液
レーザー波長:633nm
ピンホール:PH1=Open、PH2=Slit
測定角度:60、70、80、90、100、110、120、130度
解析法:Zimm平方根プロットより、分子量を測定した。解析に必要なdn/dcはAbbe屈折率計で実測した。
【0109】
(ガラス転移温度)
共重合体の各構成成分を導くモノマー成分の単独重合体のガラス転移温度(Tg)は、POLYMER HANDBOOK 4thの36章における表中のガラス転移温度の値を採用した。なお、上記文献にガラス転移温度が記載されていない場合は、下記測定条件で測定された値を採用した。なお、単独重合体は、数平均分子量が10000~50000のものを測定試料として用いた。

- ガラス転移温度の測定 -
ガラス転移温度(Tg)は、単独重合体の乾燥試料を用いて、示差走査熱量計:X-DSC7000(商品名、SII・ナノテクノロジー社製)を用いて下記測定条件で測定した。測定は同一の試料を用いて二回実施し、二回目の測定結果を採用した。
(測定条件)
測定室内の雰囲気:窒素ガス(50mL/min)
昇温速度:5℃/min
測定開始温度:-80℃
測定終了温度:250℃
試料パン:アルミニウム製パン
測定試料の質量:5mg
Tgの算定:DSCチャートのガラス転移に伴いベースラインが変化しはじめる温度(下降開始点)と再びベースラインに戻る温度(下降終了点)との平均の小数点以下を四捨五入することでTgを算定する。
【0110】
[試験例1]模擬電解液に対する膨潤率の評価
SUS板の上に上記で作製したバインダー溶液を載せ、50℃で6時間乾燥した後、SUS板からバインダー膜を剥離した。得られたバインダー膜を150℃、真空条件(10Torr以下)下で6時間乾燥し、溶媒を除去するのに十分な乾燥を行った。乾燥後の各バインダー膜をガラス瓶中に0.10g秤量し、さらに、模擬電解液として、質量比でエチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/2で混合した溶媒1.90gを加え、60℃で24時間加熱した。加熱後のバインダー膜をガラス瓶から取り出し、質量Wsを測定した。バインダー膜を150℃の真空条件(10Torr以下)下で5時間乾燥した後、再度、質量Wdを測定した。得られたWsとWdの値を下記式に当てはめ、膨潤率を算出した。結果を表1に示す。
膨潤率=[(Ws-Wd)/Wd]×100
【0111】
[試験例2]破断エネルギーの評価(ポリマーの引っ張り試験)
PET(ポリエチレンテレフタレート)剥離フィルム上に上記で作製したバインダー溶液を塗布し、150℃、10Torr以下の条件下で10時間乾燥し、剥離することにより、膜厚0.030~0.150mmのバインダー膜を作製した。このバインダー膜を縦3cm、横1cmの長方形状に切り出し、試験片を作製した。試験片の上下1cmをアルミテープで覆い、覆った箇所を治具に固定し、引張試験機(商品名:FGS-TV、日本電産シンポ社製)を用いて、変位に対する荷重を測定した結果から、応力-ひずみ曲線を得た。なお、測定時の室温は23℃であった。得られた応力-ひずみ曲線の面積値(破断までのエネルギー)より破断エネルギーを算出した。結果を表1に示す。
【0112】
[試験例3]AB分散性の評価
60mLの軟膏容器(馬野化学社製)に、上記で作製したバインダー溶液とAB(アセチレンブラック、商品名:デンカブラック(粉状)、平均粒径:35nm、比表面積:68m/g、デンカ社製)とを、ABに対するバインダー(固形分)の質量比が50/60となるように加え、全固形分の濃度が2.2質量%となるように蒸留水を加え、泡取り練太郎(商品名、THINKY社製)を用いて2000rpmで3分間の分散を3回繰り返した。分散した液に、全固形分の濃度が0.015質量%となるように更に蒸留水を加え、泡取り練太郎(商品名、THINKY社製)を用いて2000rpmで3分間分散した。分散処理を終えてから1分後の、得られた分散液中におけるABの粒径をゼータ電位計(商品名:ELSZ-1000、大塚電子社製)を用い、動的光散乱法により測定した。なお、全固形分とは、バインダーとABとを意味する。
結果を表1に示す。
【0113】
【表1】
【0114】
(表の注)
「-」:その成分を含有していないことを示す。
PEI:ポリエチレンイミン(重量平均分子量:10000、富士フイルム和光純薬社製)
PZ-33:ケミタイトPZ-33(商品名、日本触媒社製)、DZ-22E:ケミタイトDZ-22E(商品名、日本触媒社製)は、下記構造の化合物である。
【0115】
【化7】
【0116】
EX-810:デコナールEX-810(商品名、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ナガセケムテックス社製)
TDI:トリレンジイソシアネートは、下記化合物の混合物である。
【0117】
【化8】
【0118】
M-1~M-3は、共重合体の各構成成分を導くモノマー成分を意味し、それぞれ下記構造を有する。また、各モノマー成分の下に記載する温度は対応する単独重合体のTgであり、求め方は上述の通りである。
【0119】
【化9】
【0120】
<二次電池電極用組成物の調製>
60mLの軟膏容器(馬野化学社製)に、一酸化ケイ素(平均粒子径:5μm、大阪チタニウム社製)1.35g、黒鉛(商品名:MAG-D、日立化成社製)3.15g、アセチレンブラック(商品名:デンカブラック(粉状)、平均粒径:35nm、比表面積:68m/g、デンカ社製)0.25g、バインダーB-1の水溶液2.50g(固形分量0.25g)、蒸留水1.6gを加え、泡取り練太郎(商品名、THINKY社製)を用いて2000rpmで10分間分散した。分散した液に蒸留水を1.3g加え、泡取り練太郎(商品名、THINKY社製)を用いて2000rpmで10分間分散し、二次電池電極用組成物C-1を調製した。
上記二次電池電極用組成物C-1の調製において、バインダーの固形分量が同量となるように後記表2に記載のバインダーに変更した以外は同様にして、二次電池電極用組成物C-2~C-10、CC-1~CC-5を調製した。
【0121】
<電極シートの作製>
得られた二次電池電極用組成物を厚み20μmの銅箔上に、アプリケーター(商品名:SA-204 マイクロメーター付フィルムアプリケーター、テスター産業社製)により塗布し、80℃で1時間で乾燥させた。その後、ロールプレス機を用いて加圧して、電極合材の密度が1.5g/cmの電極シートを得た。その後、150℃、真空条件(10Torr以下)下で6時間乾燥することにより厚み25μmの電極活物質層を形成し、総厚45μmの電極シートを得た。
【0122】
[試験例4]結着性の評価
上記で作製した電極シートから幅10mm、長さ50mmの試験片を切り出し、この試験片の電極活物質層側の面に、同じ幅の粘着テープを電極活物質層の全面を覆うように貼り、90°の角度で100mm/minの速度で長さ方向に引き剥がした際の平均応力を測定した。上記測定を8回繰り返し、8回の平均応力の平均値を下記評価ランクにあてはめ、結着性を評価した。本試験の合格レベルは評価基準「3」以上である。結果を表2に示す。

- 結着性の評価ランク -
6:0.6N以上
5:0.4N以上、0.6N未満
4:0.2N以上、0.4N未満
3:0.1N以上、0.2N未満
2:0.05N以上、0.1N未満
1:0.05N未満
【0123】
<2032型コイン電池の作製>
上記で作製した電極シートを直径13.0mmの円板状に切り出し、負極として用いた。リチウム箔(厚み50μm、14.5mmφ)、ポリプロピレン製セパレータ(厚み25μm、16.0mmφ)、の順番に重ね、下記電解液Aを200μLセパレータにしみこませた。セパレータの上にさらに下記電解液Aを200μL加えて(しみこませて)、負極を電極活物質層面がセパレータに接するように重ねた。その後、2032型コインケースをかしめることで、コイン電池(二次電池)を作製した。このコイン電池は、Li箔、セパレータ、負極活物質層、銅箔がこの順に積層されてなる。
(電解液A)
質量比で、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/2の混合溶媒を溶媒とする、LiPFの1M電解液
【0124】
[試験例5]サイクル特性の評価
二次電池の電池特性として、放電容量維持率によりサイクル特性を評価した。
具体的には、上記で作製した二次電池の放電容量維持率を、充放電評価装置:TOSCAT-3000(商品名、東洋システム社製)を用いて測定した。充電は、Cレート0.2C(5時間で満充電になる速度)で電池電圧が0.02Vに達するまで行った。放電は、Cレート0.2Cで電池電圧が1.5Vに達するまで行った。この充電1回と放電1回とを充放電1サイクルとして3サイクル充放電を繰り返して、二次電池を初期化した。
初期化後、充電を0.5Cで電池電圧が0.02Vに達するまで行い、その後、放電を0.5Cで1.5Vに達するまで行った。この充電1回と放電1回とを充放電1サイクルとして50サイクル充放電を繰り返した。初期化後1サイクル目の放電容量(初期放電容量)を100%としたときの、上記50サイクル目の放電容量維持率(初期放電容量に対する50サイクル目の放電容量の割合)を測定し、放電容量維持率を下記評価ランクにあてはめ、サイクル特性を評価した。本試験の合格レベルは評価基準「3」以上である。結果を表2に示す。
なお、二次電池No.C-1~C-10の初期放電容量は、いずれも、二次電池として機能するのに十分な値を示した。

- サイクル特性の評価ランク -
6:92%以上
5:87%以上、92%未満
4:80%以上、87%未満
3:70%以上、80%未満
2:50%以上、70%未満
1:50%未満
【0125】
[試験例6]抵抗の評価
二次電池の電池特性として、抵抗の高低を評価した。
上記サイクル特性の評価と同様の方法により、上記で作製した二次電池の初期化を行った。初期化後、充電をCレート0.2Cで電池電圧が0.02Vに達するまで行い、放電を2Cで1.5Vに達するまで行った。この際の放電容量Aの、初期化時の3サイクル目の放電容量に対する割合を下記評価ランクにあてはめ、抵抗を評価した。放電容量Aの割合(放電容量維持率)が小さいほど、抵抗が高いことを示す。本試験の合格レベルは評価基準「3」以上である。結果を表2に示す。

- 抵抗の評価ランク -
6:96%以上
5:94%以上、96%未満
4:92%以上、94%未満
3:87%以上、92%未満
2:80%以上、87%未満
1:80%未満
【0126】
【表2】
【0127】
上記表2中、各成分の含有量(質量%)は、組成物の全固形分中に占める各成分の含有量である。
上記表1、2の結果から、以下のことがわかる。
バインダーBC-1及びBC-2はいずれも、アクリル酸の単独重合体をアジリジン架橋してなる水溶性架橋ポリマーであって、(メタ)アクリル酸エステル成分を含有しない。これらのバインダーBC-1及びBC-2は、固体粒子の分散性に劣り、また、破断エネルギーが低かった。これらのバインダーを含有する組成物を用いて作製した電極活物質層を備えた二次電池No.CC-1及びCC-2は、結着性及びサイクル特性が劣っていた。
バインダーBC-3は(メタ)アクリル酸成分及び(メタ)アクリル酸エステル成分を含有する共重合体をイソシアネート化合物によって架橋してなる水溶性架橋ポリマーであり、BC-5は(メタ)アクリル酸成分及び(メタ)アクリル酸エステル成分を含有する共重合体をグリシジル化合物によって架橋してなる水溶性架橋ポリマーである。これらのバインダーBC-3及びBC-5は、模擬電解液に対する膨潤率が高く、かつ破断エネルギーが低かった。これらのバインダーを含有する組成物を用いて作製した電極活物質層を備えた二次電池No.CC-3及びCC-5は、サイクル特性が劣っていた。
バインダーBC-4は(メタ)アクリル酸エステル成分を含有する共重合体をアジリジン架橋してなる非水溶性架橋ポリマーであって、(メタ)アクリル酸成分を含有しない。このバインダーBC-4は、非水溶性であり、模擬電解液に対する膨潤率が高く、水系スラリーへの適用がそもそも困難であった。
これらに対して、本発明で規定する水溶性架橋ポリマーB-1~B-10は、いずれも、固体粒子の分散性に優れており、また、模擬電解液に対する膨潤率は低く、かつ、破断エネルギーが高かった。しかも、これらの水溶性架橋ポリマーを含む本発明のバインダー組成物を用いて作製した電極シートは結着性に優れ、かつ、この電極シートを備えた二次電池No.C-1~C-10は、抵抗が十分に低く、サイクル寿命も十分に長期化されることがわかった。
【0128】
本願は、2020年9月30日に日本国で特許出願された特願2020-166584に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。
【符号の説明】
【0129】
10 非水電解液二次電池
1 負極集電体
2 負極活物質層
3 セパレータ
4 正極活物質層
5 正極集電体
6 作動部位(電球)
図1