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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】醤油
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/50 20160101AFI20241203BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20241203BHJP
【FI】
A23L27/50 A
A23L27/00 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024015032
(22)【出願日】2024-02-02
(62)【分割の表示】P 2023201278の分割
【原出願日】2023-11-29
【審査請求日】2024-02-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100206689
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】市川 惠一
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 遼子
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-035167(JP,A)
【文献】特開2019-004770(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2023/0284666(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エルゴチオネインを10ppm以上0.09重量%以下含有する、醤油(レトルト食品製造用を除く。)。
【請求項2】
醤油が減塩醤油である、請求項1に記載の醤油。
【請求項3】
エルゴチオネイン高生産麹菌株を使用して製造される、請求項1または2に記載の醤油。
【請求項4】
エルゴチオネインを5ppm以上0.09重量%以下含有する、醤油含有調味料(レトルト食品製造用を除く。)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呈味が増強された醤油に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食塩(塩化ナトリウム)の摂取量を低減して、高血圧、腎疾患、心疾患などの疾病を予防することが社会全体で要望されており、飲食品全般について低塩化の流れがある。従来品から単に塩分を低減すると、食味がぼけてまずくなることから、うま味成分を増加させることで、塩味の低減を補って食味を満足させる減塩方法が知られているが、この場合うま味成分をかなり増加させる必要がある。
【0003】
低塩化は、和食にかかせない醤油にとっても例外ではなく、食塩含有量が低くても塩味や呈味のよい醤油を製造する技術開発が進められている。
例えば、特許文献1には、メチオナールを含有させることにより、グルタミン酸のうま味が増強された醤油が記載され、特許文献2には、食塩0.5~5%(w/v)とアンモニウムイオンを0.2~4%(w/v)含有し、pHが3.2~5.0である塩味と醤油らしさに優れた醤油が報告されている。
また、特許文献3には、トレハロースを有効成分とする塩味および/又はうま味増強剤により、塩化ナトリウムの持つ塩味とうま味を増強して、結果として食味が充実し味の優れた飲食品が製造できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-18146号公報
【文献】特許第5812864号公報
【文献】特開平10-66540号公報
【文献】国際公開第2019/240243号
【非特許文献】
【0005】
【文献】BIOSCIENCE BIOTECHNOLOGY AND BIOCHEMISTRY(2019)Vol.83,No.1,p.181‐184
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は、醤油の食塩含有量を増加させることなく塩味が増強されるとともに、うま味等の呈味も増強された醤油を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、醤油の塩味およびうま味を同時に増強できる物質について鋭意研究を行った結果、キノコ、麹菌などの真菌類、放線菌、シアノバクテリアといった一部の微生物だけが産生できるエルゴチオネインが、醤油に微量含有されると醤油の塩味とうま味を同時に増強することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明は、以下(1)~(3)に記載の醤油、または(4)に記載の醤油含有調味料に関する。
(1)エルゴチオネインを10ppm以上含有する、醤油。
(2)醤油が減塩醤油である、請求項1に記載の醤油。
(3)エルゴチオネイン高生産麹菌株を使用して製造される、上記(1)または(2)に記載の醤油。
(4)エルゴチオネインを5ppm以上含有する、醤油含有調味料。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、以下(1)~(3)に記載の醤油、または(4)に記載の醤油含有調味料に関する。
(1)エルゴチオネインを10ppm以上0.09重量%以下含有する、醤油(レトルト食品製造用を除く。)
(2)醤油が減塩醤油である、請求項1に記載の醤油。
(3)エルゴチオネイン高生産麹菌株を使用して製造される、上記(1)または(2)に記載の醤油。
(4)エルゴチオネインを5ppm以上0.09重量%以下含有する、醤油含有調味料(レトルト食品製造用を除く。)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、エルゴチオネインを含有し塩味とうま味等の呈味が増強された醤油に関する。
なお、本発明では、「%」とは単位を明記していなくとも「重量%」を意味し、1ppmは0.0001重量%である。
【0011】
醤油は、大豆や小麦などの植物性原料を加熱処理してこれに麹菌を繁殖させた後、食塩水中で発酵、熟成させて製造される醸造醤油が代表的なものであり、塩分濃度は一般に15~18重量%である。醤油にはその他にも、植物性原料を酸や酵素で分解して造られる化学醤油、魚介類を発酵させた魚醤、蓄肉類を発酵させた肉醤等があるが、本発明の醤油は、麹菌を使用する醸造醤油が好ましい。
醸造醤油には、原料の大豆と小麦との比率、原料処理の方法、塩分濃度等の製法の違いによる種類があり、例えば、こいくち、うすくち、たまり、しろ、さいしこみ等が挙げられる。また、普通の醤油の塩分を半分近く減らした減塩醤油があり、本発明の醤油には、減塩醤油も含まれる。
【0012】
エルゴチオネイン(以下、「ERG」ともいう。)は、ライムギ麦角菌(Claviceps purpurea)から単離された含硫アミノ酸として発見され、植物や動物の生体内にも存在することが確認されている。しかしながら、植物や動物は、エルゴチオネインを合成することはできず、生体内のエルゴチオネインは、担子菌類などの微生物により合成されたエルゴチオネインに由来するものと考えられている。担子菌類の一部のキノコ、例えば、ヒラタケ、シイタケ、マイタケ、エリンギなどの食用キノコに含まれており、特にタモギタケに多く含まれていることが知られている。また、麹菌がERGを生産することも知られている。
【0013】
ERGは、微生物中ではヒスチジンからの生合成経路が知られており、硫黄原子はシステインから供給される。ERGは、高い抗酸化性を有しており、また、エラスターゼ阻害作用、チロシナーゼ阻害作用が報告されており、美白やしわ予防といった美容・食品分野で特に注目されている。また、ERGが生体酸化防御システムに関与することが判明されてきており、医療分野での応用も試みられている。ERGは、熱安定性やpH安定性が高く、高温でもその抗酸化作用を維持することができ、生理作用を期待して食品へ配合される他、抗酸化剤としての食品への使用も期待されている。
【0014】
ERGの製造方法としては、タモギタケなどの担子菌からの抽出、化学合成、および微生物を用いた発酵が行われている。タモギタケなどの担子菌からの抽出は、原材料の取得に時間がかかり、大量生産には適していない。大量生産には化学合成が適しているが、高価な合成試薬を用いる必要がある。そのため、C1化合物資化性の細菌や酵母を用いる発酵や、ERG生合成遺伝子を過剰発現させた微生物を用いる発酵や、ERG生合成遺伝子を導入してERGを過剰発現させた麹菌を用いる固体培養(非特許文献1)などの発酵による製造方法の研究が進められている。
【0015】
本発明のEGRとしては、化学合成による市販品のERGを用いてもよいし、ERGを含むキノコ類やERGを生産する麹菌およびその培養物、または麹菌を使用して製造した酒粕などからの抽出物やその精製品を用いてもよい。また、麹菌を原料として用いる醤油に対しては、ERGを添加することなく、ERGを高生産する麹菌を用いることにより、醤油中のERG量を増加させることができる。
ERGの抽出に用いるキノコ類としては、ヒラタケ科ヒラタケ属のキノコであるタモギタケ(Pleurotus cornucopiae var.citrinopileatus)、ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)、シイタケ(Lentinula edodes)、マイタケ(Grifola Frondosa)等をERG含有量の多さから好ましく挙げることができ、これらの1種または複数種類を組み合わせて用いることができる。
【0016】
また、ERGを生産する麹菌としては、アスペルギルス(Aspergillus)属に属する任意の菌種を用いることができる。一例として、アスペルギルス オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス ソーヤ(Aspergillus sojae)、アスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス リューキューエンシス(Aspergillus luchuensis)、アスペルギルス タマリ(Aspergillus tamarii)が挙げられる。麹菌の菌株としては、例えば、Aspergillus oryzae RIB326株など寄託機関から入手可能な菌株、市販されている種麹に含まれる菌株、または清酒、醤油醸造蔵等の飲食品製造環境などから分離して得られる菌株を使用できる。
【0017】
また、ERGを生産する麹菌として、上記野生株の他に一般的な突然変異導入方法を用いて、ERG高生産の変異株を分離して使用できる。突然変異導入方法は、例えば、物理的にDNAを損傷し変異を導入する紫外線(UV)やX線照射、化学的にDNAを損傷し変異を導入するN-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(NTG)やエチルメタンスルホン酸(EMS)などのアルキル化試薬による処理などが挙げられる。
【0018】
さらに、遺伝子組換えによりERG生合成に関連する遺伝子を導入したERG高生産麹菌株を使用することができる。例えば、egtA遺伝子を導入した麹菌変異株(特許文献4、非特許文献1参照)や、G428S変異またはC459F変異を導入、または、W404~Q515の領域のアミノ酸を1~112個欠失させる等の特定の遺伝子変異を導入したアスペルギルス属に特有のAO090005000664遺伝子(コードするアミノ酸配列:配列番号1)およびそのオルソログ遺伝子を導入して、ERGの発現を増加させたアスペルギルス属変異株(PCT/JP2023/020131号参照)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0019】
本明細書においてERG高生産麹菌株とは、生産されるERGが、突然変異していないまたは形質転換していない菌株に比べて、20~30℃で3~14日間の液体培養(パフミンSM培地(パフミンSM(キッコーマン株式会社製)を5~10%、水に添加し懸濁した溶液)、pH無調整のもの)で5~10倍以上、好ましくは20倍以上であるものを指す。例えば、上記egtA遺伝子を強制発現させたアスペルギルス ソーヤ株、または、上記変異AO090005000664遺伝子およびそのオルソログ遺伝子のW404~Q515の領域にアミノ酸変異またはアミノ酸欠失を含むアスペルギルス オリゼ変異株等が該当する。
【0020】
また、醤油は麹菌発酵物を原料とするため、製造時にERGを添加しなくても、ERG高生産麹菌株を使用して製麹することにより、醤油中のERG含有量を高めることができる。また、醤油の製造にERG高生産麹菌株を使用すると、ERGを添加した場合に比べて、醤油製造工程での濾過性が向上するという利点がある。
【0021】
うま味および/または塩味が増強されるとは、これらによるうま味、塩味が、本発明のうま味塩味増強剤がない場合と比較して、より強く感じられることを意味する。具体的にはERGの添加により、食塩またはうま味成分を例えば1~50%減らしても、同等の塩味またはうま味を感じることができることを意味する。また、ERGの添加により、例えば1.1~2倍の量の食塩またはうま味成分を含んでいる場合と同等の塩味またはうま味を感じることができることを意味する。あるいは、食塩またはうま味成分を少量含んでいてもそれを感じられない場合に、うま味塩味増強剤の添加によって、初めて塩味またはうま味が感じられるようになることを意味する。
【0022】
本発明のERGは、醤油に対して、5ppm以上、例えば、10ppm、15ppm、25ppm、30ppm以上、あるいは35ppm、40ppm、45ppm、50ppm以上含有させることにより、醤油の塩味とうま味等の呈味が増強される。また、減塩醤油でも同じく5ppm以上、例えば、上記濃度以上含有させることにより、減塩醤油の塩味とうま味等の呈味が増強される。
さらに、醤油を含む醤油含有調味料に対しても、ERGを5ppm以上が含有させることにより、塩味とうま味等の呈味が増強される。
また、ERGを多量に含有させても醤油に対するうま味塩味増強効果が高まるわけではないことから、経済性を考慮して、醤油中に、ERGを0.15重量%以下、例えば0.12、0.09重量%以下、あるいは0.06重量%以下含有させることができる。
【0023】
また、ERGの濃度は、LCMSによって以下の条件で測定する。
(HPLC条件)
HPLC分析は以下の条件で行う。
装置:HPLC装置:HPLC:Nexeraシリーズ一式(島津製作所社製)
カラム:COSMOSIL 2.5HILICカラム3.0×150 2.5μm 3.0 mmI.D.×15.0 cm(ナカライ社製)
流速:0.5mL/min
温度:40℃
移動相:A)0.1%(v/v)ギ酸水溶液、B)0.1(v/v)ギ酸アセトニトリル
アイソクラティック:0-10分(B:80%)
注入量:5μL
(質量分析)
装置:LCMS-2020(島津製作所社製)
(質量分析(LC-MS)分析条件)
イオン化条件:ESI+
MS条件:SIM ERG: m/z230.1([M+H]
保持時間:5分付近
【0024】
また、醤油を製造する工程において、本発明のERGを醤油に添加する場合には、その添加時期はいずれの工程で添加してもよく、最終製品である醤油に必要量含まれていれば、添加方法も限定されない。
【実施例
【0025】
以下、実施例を示して本発明の詳細を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
なお、実施例中で単に「%」と記載した場合、「重量%」を意味する。また、官能評価には常温のサンプルを用いた。
【0026】
[試験1:醤油の塩味を増強するERG添加量]
(1)特選丸大豆醤油の場合
市販の特選丸大豆醤油(キッコーマン株式会社)に、エルゴチオネイン(Tetrahedron社製)を添加濃度が5ppm、20ppm、50ppmになるように添加した試料(下記表1のERG5~50であり、以下「ERGX」とは、ERGをXppm添加した試料を意味する。)を調製した。
各濃度のERGを添加した特選丸大豆醤油(パネルに対して濃度は非開示)について、エルゴチオネイン無添加の醤油を対照として、5名の専門パネルによる飲用試験を実施し、専門パネルに対し、対照の醤油と各濃度のエルゴチオネイン添加醤油を組み合わせたペアを提示し、パネルは提示されたペアのうちどちらのサンプルが塩味を感じるか、2点識別試験により評価した。結果を表1に示す。
【0027】
<2点識別試験の評価方法>
対照と比較しての試験品の塩味の評価結果
〇:対照と比較して塩味が増強している。
◇:対照と同様の塩味である。
なお、2点識別試験の評価方法とその評価結果の表示は、他の試験でも同様である。
【0028】
【表1】
ERGを5ppm以上添加した醤油は、パネル全員が塩味が増強されたと評価した。
【0029】
(2)うすくち醤油の場合
同様の2点識別試験を市販のうすくち醤油に対しても実施した。結果を表2に示す。
【表2】
ERGを5ppm以上添加したうすくち醤油は、パネル全員が塩味が増強されたと評価した。
【0030】
(3)減塩醤油の場合
同様の2点識別試験を市販の減塩醤油に対しても実施した。結果を表3に示す。
【表3】
ERGを5ppm以上添加した減塩醤油は、パネル全員が塩味が増強されたと評価した。
【0031】
[試験2:醤油のうま味を増強するERG添加量]
(1)濃口醤油の場合
濃口醤油原液に、エルゴチオネインを添加濃度が5ppm、10ppm、50ppm、100ppm、200ppmになるように添加した試料(ERG5~200)を調製した。
各濃度のERGを添加した濃口醤油(パネルに対して濃度は非開示)について、エルゴチオネイン無添加の醤油を対照として、5名の専門パネルによる飲用試験を実施し、専門パネルに対し、対照の醤油と各濃度のエルゴチオネイン添加醤油を組み合わせたペアを提示し、パネルは提示されたペアのうちどちらのサンプルがうま味を感じるか、2点識別試験により評価した。結果を表4に示す。
【0032】
<2点識別試験の評価方法>
対照と比較しての試験品のうま味の評価結果
〇:対照と比較してうま味が増強している。
◇:対照と同様のうま味である。
なお、2点識別試験の評価方法とその評価結果の表示は、他の試験でも同様である。
【0033】
【表4】
ERGを5ppm以上添加した醤油は、4名のパネルがうま味が増強されていると評価し、10ppm以上添加した醤油は、パネル全員がうま味が増強されたと評価した。
【0034】
濃口醤油に、エルゴチオネインを添加濃度が5ppm、10ppm、50ppm、100ppm、200ppmになるように添加した試料(ERG5~200)を調製し、それらをそれぞれ純水で10倍希釈した。各濃度のERGを添加した醤油について、同じ5名の専門パネルによる飲用試験を実施し、うま味を官能評価した。5名の専門パネルに対し、濃度が順次異なるERG添加醤油(例えばERG10ppmと50ppmのペア)を組み合わせたペアを提示し、パネルは提示されたペアのうちどちらのサンプルがうま味を感じるか、2点識別試験により評価した。結果を表5に示す。
【0035】
【表5】
ERGを200ppm添加した醤油は、ERGを100ppm添加したものとうま味の程度は同等であると4名のパネルが評価したことから、ERGを200ppm添加しても、うま味増強の程度は100ppm添加したものと変わらないと評価された。
以上から、濃口醤油では、ERGを5ppm~100ppm添加した場合に、添加量が増加すると順次うま味が増強されていると評価された。100ppmを超えると、うま味増強効果は100ppmの添加の場合と変わらなかった。
【0036】
(2)減塩醤油の場合
市販の本醸造減塩醤油(塩分50%カット、キッコーマン株式会社)4mlにERG水溶液1mlを加えて、エルゴチオネインを添加濃度が5ppm、10ppm、50ppm、100ppm、200ppmになるように添加した試料(ERG5~200)を調製した。エルゴチオネイン無添加の減塩醤油(ERG0)には、4mlの減塩醤油に水1mlを加えた。
各濃度のERGを添加した減塩醤油(パネルに対して濃度は非開示)について、5名の専門パネルに対し、濃度が順次異なるERG添加減塩醤油(例えばERG10ppmと50ppmのペア)を組み合わせたペアを提示し、パネルは提示されたペアのうちどちらのサンプルがうま味または塩味を感じるか、2点識別試験により評価した。結果を表6(うま味)と表7(塩味)に示す。
【0037】
<2点識別試験の評価方法>
対照と比較しての試験品のうま味(塩味)の評価結果
〇:対照と比較してうま味(塩味)が増強している。
◇:対照と同様のうま味(塩味)である。
【0038】
【表6】
【0039】
【表7】
【0040】
ERGを5ppm添加した減塩醤油は、うま味も塩味も増強されているとパネル全員が評価した。
また、減塩醤油にERGを5ppm~200ppm添加した場合には、添加量が増加すると順次うま味も塩味も増強されていると評価された。
減塩醤油4mlにERG水溶液1mlを加えてERG濃度を200ppmとした試料ERG200を、本醸造醤油2mlと減塩醤油2mlと水1mlを混合した比較対象と比べたところ、ERG200は比較対象と同等のうま味と塩味であると評価された。
【0041】
(3)特選丸大豆醤油、またはうすくち醤油の場合
市販の特選丸大豆醤油(キッコーマン株式会社)に、エルゴチオネインを添加濃度が5ppm、10ppm、50ppm、100ppm、200ppmになるように添加した試料(ERG5~200)を調製して、上記(1)と同じく、5名の専門パネルによる飲用試験を実施し、専門パネルに対し、エルゴチオネイン無添加の対照の醤油と各濃度のエルゴチオネイン添加醤油を組み合わせたペアを提示し、パネルは提示されたペアのうちどちらのサンプルがうま味を感じるか、2点識別試験により評価した。
また、同様の2点識別試験を市販のうすくち醤油に対しても実施した。
結果は、特選丸大豆醤油およびうすくち醤油のいずれも、ERGを5ppm以上添加した醤油は、パネル全員がうま味が増強されたと評価した。
【0042】
[試験3:醤油の甘味増強効果]
(1)特選丸大豆醤油
市販の特選丸大豆醤油(キッコーマン株式会社)にエルゴチオネイン添加濃度が10ppm、20ppm、50ppm(EGR10、20、50)になるように添加した醤油を調製した。
各濃度のERGを添加した醤油(パネルに対して濃度は非開示)について、エルゴチオネイン無添加(ERG0)の醤油を対照として、3名の専門パネルによる飲用試験を実施し、2点識別試験により甘味を官能評価した。結果を表8に示す。
【0043】
<2点識別試験の評価方法>
対照と比較しての試験品の甘味の評価結果
〇:対照と比較して甘味が増強している。
◇:対照と同様の甘味である。
なお、2点識別試験の評価方法とその評価結果の表示は、他の試験でも同様である。
【0044】
【表8】
ERGを10ppm以上添加した醤油は、パネル全員が甘味が増強されていると評価した。
【0045】
(2)甘口醤油
市販の甘口醤油(ゴールデン紫、フンドーキン醤油)にERGを添加して、上記(1)と同じ試験を行った。結果を表9に示す。
【表9】
ERGを10ppm以上添加した甘口醤油は、パネル全員が甘味が増強されていると評価した。
【0046】
[試験4:醤油の製造]
蒸煮変性した脱脂大豆と割砕した焙煎小麦とを等量混合し、これに種麹を接種し、常法により42時間製麹して醤油麹を得た。種麹には、4コピーのegtA遺伝子を導入し、かつ、該挿入された遺伝子を過剰発現させたAspergillus sojae変異株(実施例1)、AO090005000664遺伝子にG428S変異を導入したAspergillus oryzae株(実施例2)をそれぞれ用いた。得られた醤油麹100質量部を、130質量部の食塩水(食塩濃度26%(w/v))に仕込み、25~30℃で、適宜撹拌しながら150日間常法に従った諸味管理を行い、発酵および熟成させた。得られた熟成後の諸味を圧搾および濾過して生醤油を得た。得られた生醤油を80℃で1時間火入れした後、清澄濾過して醤油を得た。上記清澄濾過して得られた醤油におけるERGの濃度は、実施例1が566ppm、実施例2が250ppmであった。
実施例の醤油は市販品と比べて、うま味、塩味、甘味が増強されていた。さらに実施例2の醤油は、その製造時の濾過工程において、圧搾性が良くなり作業性が向上した。
【0047】
[試験5:ERGの醤油含有調味料に対する呈味増強効果]
醤油含有調味料にERGを添加した試験品と、ERGを添加していない対照の醤油含有調味料について、対照と比較して試験品の呈味(うま味、甘味、苦味)がどうなったか、専門パネルによる2点識別試験により評価した。官能評価の結果を、以下の表10~表11に示す。
なお、試験品の「ERGX」とは、ERGをXppm添加した試験品を意味する。
官能評価
〇:対照と比較して呈味が増強している。
◇:対照と同様の呈味である。
【0048】
(1)本つゆ
本つゆ(キッコーマン株式会社)の原液にERG5ppm添加後、4倍希釈して官能試験を行った。
【表10】
ERG5ppmの添加により、本つゆのうま味と甘味が増強された。
【0049】
(2)ざるそばつゆ
ざるそばつゆ(ストレートつゆ:キッコーマン株式会社)にERG5ppm添加後、官能試験を行った。
【表11】
ERG5ppmの添加により、ざるそばつゆのうま味と甘味と塩味が増強された。
【要約】
【課題】塩味とうま味が増強された醤油を提供する。
【解決手段】エルゴチオネインを、醤油に10ppm以上含有させることにより、塩味とうま味等の呈味が増強された醤油が得られる。
【選択図】 なし
【配列表】
0007597962000001.xml