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特許7597975ゲル状卵加工品の素及びゲル状卵加工品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】ゲル状卵加工品の素及びゲル状卵加工品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 15/00 20160101AFI20241203BHJP
   A23L 29/269 20160101ALI20241203BHJP
   A23L 35/00 20160101ALI20241203BHJP
【FI】
A23L15/00 D
A23L29/269
A23L35/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024088806
(22)【出願日】2024-05-31
【審査請求日】2024-08-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 希実
(72)【発明者】
【氏名】小田 佳史
(72)【発明者】
【氏名】磯部 愛実
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-169956(JP,A)
【文献】特開平11-18708(JP,A)
【文献】特開2010-239928(JP,A)
【文献】特開2020-036584(JP,A)
【文献】特開2004-261082(JP,A)
【文献】日本調理科学会誌,2000年,Vol. 33, No. 4,pp.27-31
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
袋状容器に容器詰めされた、80質量%以上の水分を含む液状のゲル状卵加工品の素であって、
卵白、卵黄、及びジェランガムを含有し、60℃以上100℃以下において前記袋状容器から取り出すことでゲル状卵加工品を製するために用いられ、
前記卵白の含有量は、生換算で5質量%以上25質量%以下であり、
前記ジェランガムの含有量は、0.03質量%以上0.6質量%以下である、
ゲル状卵加工品の素。
【請求項2】
前記ジェランガムの含有量は、0.08質量%以上0.5質量%以下である、
請求項1に記載のゲル状卵加工品の素。
【請求項3】
前記卵白の含有量は、生換算で10質量%以上23質量%以下である、
請求項1又は2に記載のゲル状卵加工品の素。
【請求項4】
前記ゲル状卵加工品の素の前記水分中の食塩濃度が、0.05質量%以上1質量%以下である、
請求項1又は2に記載のゲル状卵加工品の素。
【請求項5】
前記ゲル状卵加工品は、茶碗蒸しである、
請求項1又は2に記載のゲル状卵加工品の素。
【請求項6】
ゲル状卵加工品の製造方法であって、
80質量%以上の水分を含む卵液であって、卵白、卵黄、及びジェランガムを含有し、前記卵白の含有量が生換算で5質量%以上25質量%以下であり、前記ジェランガムの含有量が0.03質量%以上0.6質量%以下である、卵液を調製する卵液調製工程と、
前記卵液を袋状容器に充填する充填工程と、
前記卵液が充填された前記袋状容器を75℃以上100℃以下で加熱する加熱工程と、
60℃以上100℃以下において、前記袋状容器から前記ゲル状卵加工品を取り出す取り出し工程と、
を含むゲル状卵加工品の製造方法。
【請求項7】
前記ゲル状卵加工品では、下記の(1)~(3)の手順で測定された液の60℃における粘度が0.008Pa・s以上0.200Pa・s以下である、
請求項6に記載のゲル状卵加工品の製造方法。
(1)ボウル上に30メッシュ(目開き0.5mm)の篩を配置し、60℃以上100℃以下において前記袋状容器を開封し、開封した口を下に向けて前記篩上に前記ゲル状卵加工品を取り出す。
(2)30秒後に前記ボウルに染み出した液を測定用試料として回収する。
(3)前記測定用試料を90℃まで加温させた後、レオメーターを用いて、下記の測定条件で前記測定用試料の60℃における粘度を測定する。
(測定条件)
使用装置:Discovery Hybrid Rheometer2(商品名)(ティー・エイ・インスツルメント株式会社製)
使用治具:starch-pasting-cell
せん断速度:10回転/s
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茶碗蒸し等のゲル状卵加工品の素及びゲル状卵加工品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水分を添加した卵液を加熱してゲル化させた茶碗蒸し等の食品は、タンパク質の豊富な卵を含み、柔らかく食べやすいため、幅広く親しまれている。例えば、特許文献1には、卵、水及び調味液を主成分とする茶碗蒸しの素において、前記卵が卵白であることを特徴とする茶碗蒸しの素が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-239928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、嚥下障害による誤嚥防止等のため、食品にとろみを付与することがある。特許文献1に記載の技術等の既存の技術により製された茶碗蒸しにとろみを付与するためには、茶碗蒸しに対してとろみのある液を別に添加する必要があり、手間が生じていた。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、とろみのあるゲル状卵加工品を容易に製することが可能なゲル状卵加工品の素及びゲル状卵加工品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、とろみのあるゲル状卵加工品を容易に製する技術について鋭意研究を重ねた。本発明者らは、茶碗蒸し等のゲル状卵加工品が崩れた際に離水することに着想を得て、この液にとろみを付与することに想到した。さらに本発明者らは、多数の増粘多糖類からジェランガムを選択し、卵液中の卵白の含有量及びジェランガムの含有量を所定の範囲に調整し、卵液を袋状容器に充填して加熱し、60℃以上100℃以下において袋状容器からゲルを取り出すことで、卵のゲルが適度に崩れてとろみのある液が染み出すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
<1>袋状容器に容器詰めされた、80質量%以上の水分を含む液状のゲル状卵加工品の素であって、
卵白、卵黄、及びジェランガムを含有し、60℃以上100℃以下において前記袋状容器から取り出すことでゲル状卵加工品を製するために用いられ、
前記卵白の含有量は、生換算で5質量%以上25質量%以下であり、
前記ジェランガムの含有量は、0.03質量%以上0.6質量%以下である、
ゲル状卵加工品の素、
<2>前記ジェランガムの含有量は、0.08質量%以上0.5質量%以下である、
<1>に記載のゲル状卵加工品の素、
<3>前記卵白の含有量は、生換算で10質量%以上23質量%以下である、
<1>又は<2>に記載のゲル状卵加工品の素、
<4>前記ゲル状卵加工品の素の前記水分中の食塩濃度が、0.05質量%以上1質量%以下である、
<1>~<3>に記載のゲル状卵加工品の素、
<5>前記ゲル状卵加工品は、茶碗蒸しである、
<1>~<3>に記載のゲル状卵加工品の素、
<6>ゲル状卵加工品の製造方法であって、
80質量%以上の水分を含む卵液であって、卵白、卵黄、及びジェランガムを含有し、前記卵白の含有量が生換算で5質量%以上25質量%以下であり、前記ジェランガムの含有量が0.03質量%以上0.6質量%以下である、卵液を調製する卵液調製工程と、
前記卵液を袋状容器に充填する充填工程と、
前記卵液が充填された前記袋状容器を75℃以上100℃以下で加熱する加熱工程と、
60℃以上100℃以下において、前記袋状容器から前記ゲル状卵加工品を取り出す取り出し工程と、
を含むゲル状卵加工品の製造方法、
<7>前記ゲル状卵加工品では、下記の(1)~(3)の手順で測定された液の60℃における粘度が0.008Pa・s以上0.200Pa・s以下である、
<6>に記載のゲル状卵加工品の製造方法、である。
(1)ボウル上に30メッシュ(目開き0.5mm)の篩を配置し、60℃以上100℃以下において前記袋状容器を開封し、開封した口を下に向けて前記篩上に前記ゲル状卵加工品を取り出す。
(2)30秒後に前記ボウルに染み出した液を測定用試料として回収する。
(3)前記測定用試料を90℃まで加温させた後、レオメーターを用いて、下記の測定条件で前記測定用試料の60℃における粘度を測定する。
(測定条件)
使用装置:Discovery Hybrid Rheometer2(商品名)(ティー・エイ・インスツルメント株式会社製)
使用治具:starch-pasting-cell
せん断速度:10回転/s
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明によれば、とろみのあるゲル状卵加工品を容易に製することが可能なゲル状卵加工品の素及びゲル状卵加工品の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
<本発明の特徴>
本発明は、ゲル状卵加工品を製するためのゲル状卵加工品の素及びゲル状卵加工品の製造方法に関する。本発明のゲル状卵加工品の素及びゲル状卵加工品の製造方法によれば、ゲルが適度に崩れてとろみのある液が染み出すゲル状卵加工品を製造することができる。これにより、とろみのある液をまとったゲル状卵加工品を容易に製造することができる。
【0011】
<ゲル状卵加工品>
本発明において、ゲル状卵加工品は、80質量%以上の水分を含む卵液を加熱してゲル化させた卵加工品であり、後述するゲル状卵加工品の素、又はゲル状卵加工品の製造方法によって調製される。本発明のゲル状卵加工品は、例えば、茶碗蒸し、卵豆腐、プリン等が挙げられ、これらのうち、茶碗蒸しであることが好ましい。さらに、ゲル状卵加工品は、とろみが付与されているため、誤嚥防止用のゲル状卵加工品として用いられることが好ましい。
【0012】
<ゲル状卵加工品の素>
本発明のゲル状卵加工品の素は、袋状容器に容器詰めされた、80質量%以上の水分を含む液状の素である。本発明において、「液状」とは、常温(25℃)で液体であることをいう。本発明のゲル状卵加工品の素は、60℃以上100℃以下において袋状容器から取り出すことで上記ゲル状卵加工品を製するために用いられる。袋状容器から取り出す態様の詳細については、後述する。本発明のゲル化物の素は、卵白、卵黄、及びジェランガムを含有し、例えばこれらの原料が混合された卵液である。本発明のゲル状卵加工品の素は、0℃以上10℃以下で保存される冷蔵品でもよく、-15℃以下で保存される冷凍品でもよい。なお、ゲル状卵加工品の素が冷凍品である場合、解凍された常温(25℃)の状態で液体であればよい。
【0013】
<水分>
本発明のゲル状卵加工品の素は、生液全卵の水分含有量(約75質量%)よりも多い80質量%以上の水分を含む。この水分含有量は、原料に含まれる水分、及び原料として配合された水の合計の水分含有量とする。本発明のゲル状卵加工品は、とろみのある液の染み出しを促進する観点から、85質量%以上の水分を含むことが好ましい。水分は、当業者に公知の方法で測定することができる。
【0014】
<卵白>
本発明において、卵白は、食用に供される鶏等の鳥類の卵を割卵して得られた生液全卵から生卵黄を分離した生液卵白、及び生液卵白に加熱凝固以外の処理を行った加工品を含む。当該処理としては、殺菌処理、冷凍処理、酵素処理、脱糖処理、脱塩処理、食塩又は糖類等の混合処理、乾燥処理等から選択される1種以上の処理が挙げられる。
【0015】
<卵白の含有量>
本発明のゲル状卵加工品の素において、卵白の含有量は、生換算で5質量%以上25質量%以下である。ここでいう卵白の含有量は、卵白の成分の含有量を生液卵白(水分量88質量%)における含有量に換算した値とする。卵白の含有量を5質量%以上とすることで、卵白の熱凝固性によってゲル化させることができる。卵白の含有量を25質量%以下とすることで、加熱されゲル化したゲル状卵加工品を60℃以上100℃以下において袋状容器から取り出すことで、ゲル状卵加工品が均一に崩れて、とろみのある液の染み出しが可能となる。さらに、ゲル状卵加工品の素における卵白の含有量の下限値は、より安定してゲル化させる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。ゲル状卵加工品の素における卵白の含有量の上限値は、ゲル状卵加工品の崩れと液の染み出しをより安定化させる観点から、好ましくは23質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。
【0016】
<卵黄>
本発明において、卵黄は、食用に供される鶏等の鳥類の卵を割卵して得られた生全卵から生卵白を分離した生卵黄、及び生卵黄に加熱凝固以外の処理を行った加工品を含む。当該処理としては、殺菌処理、冷凍処理、酵素処理、脱コレステロール処理、食塩又は糖類等の混合処理、脱脂処理、乾燥処理等から選択される1種以上の処理が挙げられる。
【0017】
<卵黄の含有量>
本発明のゲル状卵加工品の素において、卵黄の含有量は特に限定されないが、卵の風味やコク、色合いを再現する観点から、生換算で1質量%以上20質量%以下、さらに2質量%以上15質量%以下であると好ましい。なお、ここでいう卵黄の含有量は、卵黄の成分の含有量を生卵黄(水分量50質量%)における含有量に換算した値をいう。
【0018】
<ジェランガム>
本発明のゲル状卵加工品の素は、卵白によるゲル化を補助し、かつ、染み出した液にとろみを付与するため、ジェランガムを含む。ジェランガムは、アシル基を高度に含有するネイティブジェランガムと、脱アシル化処理によってアシル基の含有量を低減させた脱アシル化ジェランガムと、に分類される。本発明において、ジェランガムは、いずれのジェランガムを用いてもよく、その中でも、部分的に脱アシル化され、溶解温度が卵の凝固開始温度(約65℃)に近い65℃以上で、ゲル化温度が60℃以上に調整されたものがより好ましい。
【0019】
<ジェランガムの含有量>
本発明のゲル状卵加工品の素において、ジェランガムの含有量は、0.03質量%以上0.6質量%以下である。ジェランガムの含有量を0.03質量%以上とすることで、ゲル状卵加工品が崩れて染み出した液にとろみを付与することができる。ジェランガムの含有量を0.6質量%以下とすることで、加熱されゲル化したゲル状卵加工品を60℃以上100℃以下において袋状容器から取り出すことで、ゲル状卵加工品が均一に崩れて、とろみのある液の染み出しが可能となる。さらに、ゲル状卵加工品の素におけるジェランガムの含有量の下限値は、ゲル状卵加工品が崩れて染み出した液にとろみを付与する観点から、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.08質量%以上、さらにより好ましくは0.2質量%以上である。ゲル状卵加工品の素におけるジェランガムの含有量の上限値は、ゲル状卵加工品の崩れと液の染み出しをより安定化させる観点から、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.4質量%以下である。
【0020】
<食塩>
ゲル状卵加工品の素は、さらに食塩を含有するとよい。これにより、ゲル状卵加工品の食味を向上させることができる。また、陽イオンであるナトリウムイオンの作用により、ジェランガムによるとろみの発現を補助するという利点もある。本発明のゲル状卵加工品の素において、食塩の濃度は、水分中の食塩濃度として表される。水分中の食塩濃度とは、ゲル状卵加工品の素の水分における食塩の濃度をいう。上記作用効果をより効果的に得るため、本発明のゲル状卵加工品の素における水分中の食塩濃度の下限値は、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上である。また、当該食塩濃度の上限値は、自然な風味とする観点から、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。
【0021】
<袋状容器>
本発明に用いられる袋状容器は、袋状であって75℃以上100℃以下の温度帯における耐熱性を有する食品用の容器であれば特に限定されない。このような当該容器の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂、ポリ塩化ビニリデン等の熱可塑性樹脂等が挙げられる。袋状容器は、例えば、平袋、スタンディングパウチ型等の任意の形状を採り得る。
【0022】
<その他の原料>
本発明のゲル状卵加工品の素は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の原料を含有することができる。このような原料としては、例えば、調味料類(醤油、醸造調味料、甘味料、アミノ酸類等)、糖質(単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類、加工澱粉、糖アルコール、食物繊維等)、食用油脂、乳化剤、乳製品、静菌剤、pH調整剤、保存料、酸化防止剤、香料等が挙げられる。さらに、本発明のゲル状卵加工品は、本発明の効果を損なわない範囲で、具材を含んでいてもよい。具材としては、特に限定されないが、肉、野菜、きのこ類、魚介類、及びそれらの加工品等が挙げられる。
【0023】
<ゲル状卵加工品の製造方法>
本発明のゲル状卵加工品の製造方法は、卵液調製工程と、充填工程と、加熱工程と、取り出し工程と、を含む。本発明のゲル状卵加工品の製造方法の各工程は、卵液調製工程、充填工程、加熱工程、及び取り出し工程の順に行われる。以下、各工程について説明する。
【0024】
<卵液調製工程>
本工程では、80質量%以上の水分を含む卵液であって、卵白、卵黄、及びジェランガムを含有する卵液を調製する。本工程における卵液は、上述のゲル状卵加工品の素と同様の卵白の含有量及びジェランガムの含有量を有する。すなわち、当該卵液において、卵白の含有量は生換算で5質量%以上25質量%以下であり、ジェランガムの含有量は0.03質量%以上0.6質量%以下である。さらに、卵液は、本発明の効果を損なわない範囲で、上述のその他の原料を含有していてもよい。本工程では、ミキサーや撹拌機などを用いて原料を混合することが好ましい。
【0025】
<充填工程>
本工程では、卵液を袋状容器に充填する。充填方法は特に限定されず、容器の開口部から充填機等を用いて卵液を充填することができる。充填時の品温は特に限定されず、例えば5℃以上、後述する加熱温度の75℃以下である。本工程では、さらに卵液を充填した袋状容器を密封することが好ましい。
【0026】
<加熱工程>
本工程では、卵液が充填された袋状容器を75℃以上100℃以下に加熱する。これにより、卵液がゲル化する。加熱方法は特に限定されず、スチームコンベクションオーブンによる加熱、湯煎による加熱、電子レンジによる加熱等が挙げられ、製造効率の観点から、スチームコンベクションオーブンによる加熱が好ましい。また、本工程の加熱は、卵のゲル化を促進するため、袋状容器を静置して行われることが好ましい。加熱時間は、卵液がゲル化する時間であれば特に限定されず、例えば5分以上120分以下である。
【0027】
<取り出し工程>
本工程では、60℃以上100℃以下において、袋状容器からゲル状卵加工品を取り出す。これにより、ゲル状卵加工品が製造される。60℃以上100℃以下の温度は、袋状容器の品温とする。「袋状容器からゲル状卵加工品を取り出す」とは、開封された袋状容器から、ゲル状卵加工品を直接、又は器具などを用いて外部に取り出すことをいう。具体的な態様は特に限定されず、例えば袋状容器を開封した口を下に向けて、食器や調理皿上にゲル状卵加工品を滑り出させる。これにより、ゲル状卵加工品が取り出された際に自重や加速度によって適度に崩れて、とろみのついた液の染み出しを促進させることができる。あるいは、袋状容器を開封し、スプーンなどを用いて崩しながらゲル状卵加工品を取り出して食器などに盛り付けてもよい。本発明のゲル状卵加工品は、実施例でも後述するように、取り出し工程においてゲルが適度に崩れ、とろみのついた液の染み出しを促進させることができる。なお、本工程におけるゲルの崩れは、ゲルの状態を維持しながら崩れることをいう。
【0028】
<染み出した液の粘度>
本発明のゲル状卵加工品では、下記の(1)~(3)の手順で測定された液の60℃における粘度が0.008Pa・s以上0.200Pa・s以下であることが好ましい。
(1)ボウル上に30メッシュ(目開き0.5mm)の篩を配置し、60℃以上100℃以下において袋状容器を開封し、開封した口を下に向けて上記篩上にゲル状卵加工品を取り出す。
(2)30秒後にボウルに染み出した液を測定用試料として回収する。
(3)前記測定用試料を90℃まで加温させた後、レオメーターを用いて、下記の測定条件で測定用試料の60℃における粘度を測定する。
(測定条件)
使用装置:Discovery Hybrid Rheometer2(商品名)(ティー・エイ・インスツルメント株式会社製)
使用治具:starch-pasting-cell
せん断速度:10回転/s
【0029】
上記手順で測定された液の60℃における粘度が0.008Pa・s以上0.200Pa・s以下であることで、崩れたゲル状卵加工品から染み出した液に十分にとろみを付与することができる。さらに、上記作用効果をより確実に発揮させる観点から、当該粘度は、0.010Pa・s以上0.150Pa・s以下であることがより好ましい。
【0030】
<作用効果>
このように、本発明のゲル状卵加工品の素及びゲル状卵加工品の製造方法によれば、ゲル状卵加工品にとろみのついた液を添加するという従来の発想を覆し、ゲル状卵加工品から離水する液にとろみを付与するという新規な着想のゲル状卵加工品を実現することができる。さらに、本発明では、袋状容器から取り出す際に敢えてゲルが崩れるようにゲル状卵加工品の柔らかさを調整し、取り出し後に手間を加えることなくとろみをまとったゲル状卵加工品を製することができる。具体的に、卵白の含有量を生換算で5質量%以上25質量%以下とすることで、袋状容器からの取り出し時に柔らかく崩れる程度の卵のゲルを形成することができる。また、ジェランガムの含有量を0.03質量%以上0.6質量%以下とすることで、ゲルの適度な崩れと液の染み出しを促すとともに、その液にとろみを付与することができる。ここで、ジェランガムは、一般に、離水防止やゲルの強化等の用途が知られるところ、本発明では、卵白の含有量とジェランガムの含有量を上記範囲に調整し、かつ、60℃以上100℃以下において袋状容器からゲル状卵加工品を取り出すことで、卵のゲルからの離水を許容し、さらにジェランガムが離水した液における粘度の向上に寄与することができる。また、上記含有量のジェランガムは、卵のゲル化を阻害せずに、均一に崩れて液が染み出る程度の適度な柔らかさのゲルの形成に寄与することができる。したがって、本発明は、とろみのついたゲル状卵加工品を製する手間を大幅に削減することが可能となり、とろみのついた誤嚥防止用食品の需要が高い介護施設や医療施設等の負担の軽減に寄与することができる。
【0031】
以下、本発明について、実施例及び比較例に基づき具体的に説明する。以下の説明において、「%」は「質量%」を意味する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えることが可能である。
【実施例
【0032】
<ゲル状卵加工品の製造>
表1及び表2に示す配合の原料をミキサーにより混合し、実施例1~9及び比較例1~6の卵液(ゲル状卵加工品の素)のサンプルを製造した。液卵白は鶏卵を割卵して分離した液卵白、液卵黄は鶏卵を割卵して分離した液卵黄を用いた。実施例1~6,9及び比較例1~6のジェランガムとしては、部分的に脱アシル化されたジェランガム(「ケルコゲル(登録商標)DGA」、MP五協フード&ケミカル株式会社製)を用いた。実施例7のジェランガムとしては、脱アシル型ジェランガムを用いた。実施例8のジェランガムとしては、ネイティブ型ジェランガムを用いた。なお、実施例1の配合と実施例9及び比較例6の配合は同一とした。いずれのサンプルも、水分含有量は80質量%以上であった。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
調製された卵液を、それぞれ、平袋である袋状容器に充填し密封した。袋状容器に充填密封された卵液の各サンプルを、スチームコンベクションオーブンに静置して、約90℃で約30分加熱した。
【0036】
<官能評価>
タマゴ加工品の開発経験10年以上の複数(3名)の訓練されたパネルにより、以下の評価基準に基づき評価を行った。
【0037】
[ゲルの崩れ方の評価]
ボウル上に30メッシュ(目開き0.5mm)の篩を配置した。各サンプルの袋状容器の一端をはさみで開封し、開封した口を下に向けて上記篩上にゲル状卵加工品を滑り出させるように取り出した。なお、実施例1~8及び比較例1~4のサンプルは90℃で取り出し、実施例9のサンプルは60℃で取り出し、比較例6のサンプルは50℃で取り出した。篩上に取り出されたゲルの外観を確認し、以下の評価基準によって評価した。その結果を表1及び表2に示す。
(評価基準)
〇:加熱により全体が十分にゲル化しており、かつ、袋から出す際に全体的に均一にゲルが崩れた。
×:ゲル化が不十分であり篩上に十分なゲルが残らなかった、又はゲルが強固であり全部若しくは一部のゲルが崩れなかった
【0038】
表1及び表2に示すように、卵白の含有量が生換算で5質量%以上25質量%以下であり、ジェランガムの含有量が0.03質量%以上0.6質量%以下であって、60℃以上100℃以下で取り出された実施例1~9のサンプルは、いずれも加熱により全体が十分にゲル化しており、かつ、袋から出す際に全体的に均一にゲルが崩れ、「〇」評価であった。特に、実施例1~5、7、及び8のサンプルは、ゲルの柔らかさ及び崩れ方が非常に良好であった。なお、ジェランガムの含有量が0.03質量%未満である比較例5、及び0.6質量%超である比較例2も、ゲルの崩れ方は「〇」評価であった。
【0039】
一方で、卵白の含有量が25質量%超の比較例1、ジェランガムの含有量が0.6質量%超の比較例3及び4、及び取り出す温度が50℃の比較例6は、全体的にゲルが固く均一にゲルが崩れず、「×」評価となった。
【0040】
なお、篩上のゲルの一部を喫食したところ、ジェランガムの含有量が0.4質量%以下の実施例1~4,6~8及び比較例5のサンプルは、いずれもゲルが柔らかく、卵の滑らかな舌触りを有しており、茶碗蒸しとして非常に好ましい食感であった。ジェランガムの含有量が0.5質量%の実施例5のサンプルは、上記サンプルよりはやや固い食感であった。取り出し温度がそれぞれ60℃及び50℃である実施例9及び比較例6のサンプルは、実施例1~8のサンプルよりはやや固めの食感ではあるが、卵豆腐のような食感で、ゲル状卵加工品として好ましい食感であった。卵白の含有量又はジェランガムの含有量の一方が多い比較例1~4のサンプルは、いずれもゲルの食感が固く、茶碗蒸しや卵豆腐のような食感とは異なり、好ましい食感とは言えなかった。
【0041】
[染み出した液の量の評価]
篩上に取り出されたゲルを30秒間静置し、ボウルに染み出した液の量を測定し、事前に測定していたサンプル全体の質量に対する染み出した液の量の割合を算出した。算出された割合に基づき、以下の評価基準によって評価した。その結果を表1及び表2に示す。
(評価基準)
〇:サンプル全体の1質量%以上の染み出しがあった。
×:サンプル全体の1質量%未満の染み出しであり、染み出しが少なかった、又は染み出しがなかった
【0042】
表1及び表2に示すように、実施例1~9のサンプルは、いずれも適量の染み出しがあり、「〇」評価であった。但し、ジェランガムの含有量が0.5質量%の実施例5のサンプル及び取り出す温度が60℃である実施例9のサンプルは、その他の実施例のサンプルと比較して、やや染み出した液の量が少なかった。なお、ジェランガムの含有量が0.03質量%未満の比較例5のサンプルは、染み出した液の量は問題なかったが、後述するように染み出した液にとろみが無かった。
【0043】
一方で、卵白の含有量が25質量%超の比較例1、ジェランガムの含有量が0.6質量%超の比較例2~4、及び取り出す温度が50℃の比較例6のサンプルは、染み出した液の量が少なく、「×」評価であった。特に、ジェランガムの含有量が1質量%以上の比較例3及び4のサンプルは、染み出した液が全くなかった。
【0044】
<染み出した液の粘度の評価>
十分な染み出した液が得られた実施例1~9及び比較例1、5のサンプルについて、染み出した液を測定用試料として、レオメーターにより、以下の測定条件で40~70℃における粘度を測定した。レオメーターでは、測定用試料を90℃まで加温して、降温させながら5℃間隔で粘度を測定した。その結果を、表3に示す。
(測定条件)
使用装置:Discovery Hybrid Rheometer2(商品名)(ティー・エイ・インスツルメント株式会社製)
使用治具:starch-pasting-cell
せん断速度:10回転/s
【0045】
【表3】
【0046】
表3に示すように、実施例1~9のサンプルは、ジェランガムの含有量が0.03質量%未満の比較例5と比較して、いずれの温度においても染み出した液の粘度が高く、例えば60℃における粘度が0.008Pa・s以上0.200Pa・s以下であった。実施例1~9のうち、実施例1~5、7では、実施例6、8、9と比較していずれの温度においても液の粘度が高く、例えば60℃において0.010Pa・s以上0.150Pa・s以下であった。
【0047】
これに対して、ジェランガムの含有量が0.03質量%未満である比較例5では、染み出した液の粘度が低く、60℃においても液にとろみが十分に付与されていなかった。
【0048】
<総括>
以上の各評価により、卵白の含有量が生換算で5質量%以上25質量%以下であり、ジェランガムの含有量が0.03質量%以上0.6質量%以下であって、60℃以上100℃以下で取り出された実施例1~9のサンプルは、ゲルの崩れ方及びゲルからの液の染み出しのいずれも良好であり、染み出した液の粘度も十分であることがわかった。これにより、本発明のゲル状卵加工品の素及びゲル状卵加工品の製造方法により、ゲルが均一に崩れてゲルからとろみのついた液が染み出るゲル状卵加工品を製造できることが示された。
【要約】
【課題】とろみのあるゲル状卵加工品を容易に製することが可能なゲル状卵加工品の素及びゲル状卵加工品の製造方法を提供する。
【解決手段】袋状容器に容器詰めされた、80質量%以上の水分を含む液状のゲル状卵加工品の素であって、
卵白、卵黄、及びジェランガムを含有し、60℃以上100℃以下において前記袋状容器から取り出すことでゲル状卵加工品を製するために用いられ、
前記卵白の含有量は、生換算で5質量%以上25質量%以下であり、
前記ジェランガムの含有量は、0.03質量%以上0.6質量%以下である、
ゲル状卵加工品の素。
【選択図】なし