IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電信電話株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-二酸化炭素還元装置 図1
  • 特許-二酸化炭素還元装置 図2
  • 特許-二酸化炭素還元装置 図3
  • 特許-二酸化炭素還元装置 図4
  • 特許-二酸化炭素還元装置 図5
  • 特許-二酸化炭素還元装置 図6
  • 特許-二酸化炭素還元装置 図7
  • 特許-二酸化炭素還元装置 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】二酸化炭素還元装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 3/26 20210101AFI20241204BHJP
   C25B 1/23 20210101ALI20241204BHJP
   C25B 1/55 20210101ALI20241204BHJP
   C25B 3/21 20210101ALI20241204BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20241204BHJP
【FI】
C25B3/26
C25B1/23
C25B1/55
C25B3/21
C25B9/00 G
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023523788
(86)(22)【出願日】2021-05-26
(86)【国際出願番号】 JP2021019945
(87)【国際公開番号】W WO2022249314
(87)【国際公開日】2022-12-01
【審査請求日】2023-10-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100129230
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 理恵
(72)【発明者】
【氏名】鴻野 晃洋
(72)【発明者】
【氏名】渦巻 裕也
(72)【発明者】
【氏名】里 紗弓
(72)【発明者】
【氏名】小松 武志
【審査官】隅川 佳星
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/1729(WO,A1)
【文献】特開2020-45527(JP,A)
【文献】米国特許第4523981(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00 - 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板の上に成膜され外部からの光を受光する酸化電極と、
前記酸化電極が浸漬される電解液を保持する酸化槽と、
還元電極と、
前記還元電極が浸漬され、外部から二酸化炭素がバブリングされる前記電解液を保持する還元槽と、
前記酸化槽と前記還元槽の間に配置され前記電解液を酸化側と還元側に二分する電解質膜と、
前記酸化電極と前記還元電極の間に接続される可変抵抗器と
を備える二酸化炭素還元装置。
【請求項2】
前記酸化電極は、
2層の半導体膜が積層されて構成され、前記還元電極側に配置される第2の前記半導体膜の伝導体帯のエネルギー準位は、第1の前記半導体膜の価電子帯のエネルギー準位より高く、第2の半導体膜の価電子帯のエネルギー準位は、第1の半導体膜の伝導帯のエネルギー準位より低い
請求項1に記載の二酸化炭素還元装置。
【請求項3】
太陽電池を備え、
該太陽電池は、前記可変抵抗器に直列に接続される
請求項1又は2に記載の二酸化炭素還元装置。
【請求項4】
前記太陽電池は、
前記酸化電極が成膜される前記透明基板の前記電解液と反対側の面に形成され、前記電解液の表面から露出している請求項3に記載の二酸化炭素還元装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素還元装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の主因として大気中の二酸化炭素濃度の増加が挙げられている。二酸化炭素の排出量の削減は、世界的規模で長期的な課題になっている。一方、エネルギー問題として中長期的に、化石燃料に頼ったエネルギー供給の見直しが迫られ、次世代のエネルギー供給源の創出が求められている。
【0003】
二酸化炭素の排出を抑制してエネルギーを得る手段としては、排熱、雪氷熱、振動、電磁波等の未使用エネルギーや、太陽光等の再生可能エネルギーを活用する技術開発が進められている。これらの発電技術は、電気エネルギーを創出するに止まりエネルギーを貯蓄することができない。また、化石燃料を原料とした化学製品を創ることもできない。
【0004】
これらの課題を同時に解決する方法として、光エネルギーを用いて二酸化炭素を還元する技術が注目されている。例えば非特許文献1は、光照射による二酸化炭素の還元装置を開示している。その還元装置は、酸化電極に光を照射すると、酸化電極で電子・正孔対の生成及び分離が生じ、水の酸化反応により酸素及びプロトン(H+)が生成される。還元電極でプロトンと電子の結合により水素が生成され、還元反応が引き起こされる。この還元反応により、エネルギー資源として利用できる一酸化炭素、ギ酸、及びメタン等が生成される。
【0005】
二酸化炭素還元反応の効率は、ファラデー効率で表せる。ファラデー効率は、酸化電極と還元電極の間を移動した電子数に対して、二酸化炭素還元反応に使われた電子数の割合で表される。
【0006】
ファラデー効率は、還元電極の電圧と密接な関係があることが知られている。そこで、ファラデー効率を向上させるために還元装置に太陽電池を組み込み、太陽電池の素子数を変化させることで還元電極の電圧を変化させる方法が開示されている(例えば非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Satoshi Yotsuhashi et al.”CO2Conversion with Light and Water by GaN Photo electroade”,Japanese Journal of Applied Physics,51,2012,p.02BP07-1-p.02BP07-3
【文献】Qingxin Jia et al.”Direct Gas-phase CO2 reduction for Solar Methane Generation Using a Gas Diffusion Electrode with a BiVO4:Mo and a Cu-In-e Photoanode”,Chem .Lett.,47,2018,p.436-p.439
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献2に開示された方法では、太陽電池の1素子当たりの起電力は0.5~0.6Vであることから還元電極の電圧を離散的にしか調整できない。よって、還元電極の電圧は、その起電力を単位に段階的に設定される。
【0009】
例えば一酸化炭素の生成効率のよい還元電極の電圧は、酸化電極を基準に1.25Vである。この電圧に設定するには、任意の電圧に設定できる外部電源が必要になる。
【0010】
本発明は、この課題に鑑みてなされたものであり、外部電源を用いずに還元電極の電圧を連続的に変化させられる二酸化炭素還元装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様に係る二酸化炭素還元装置は、透明基板の上に成膜され外部からの光を受光する酸化電極と、前記酸化電極が浸漬される電解液を保持する酸化槽と、還元電極と、前記還元電極が浸漬され、外部から二酸化炭素がバブリングされる前記電解液を保持する還元槽と、前記酸化槽と前記還元槽の間に配置され前記電解液を酸化側と還元側に二分する電解質膜と、前記酸化電極と前記還元電極の間に接続される可変抵抗器とを備えることを要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、外部電源を用いずに還元電極の電圧を連続的に変化させられる二酸化炭素還元装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1実施形態に係る二酸化炭素還元装置の構成例を示す模式図である。
図2図1に示す二酸化炭素還元装置の変形例を示す模式図である。
図3】本発明の第2実施形態に係る二酸化炭素還元装置の構成例を示す模式図である。
図4図3に示す太陽電池の変形例を示す模式図である。
図5】実験例1の還元電極の電圧とファラデー効率(生成物が一酸化炭素の場合)の関係を示す図である。
図6】実験例1の還元電極の電圧とファラデー効率(生成物がギ酸の場合)の関係を示す図である。
図7図5に対応する比較例の結果を示す図である。
図8図6に対応する比較例の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。複数の図面中同一のものには同じ参照符号を付し、説明は繰り返さない。
【0015】
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態に係る二酸化炭素還元装置の構成例を示す模式図である。図1において、左右をX方向、図面の奥をY方向、図面の上をZ方向と定義する。
【0016】
図1に示す二酸化炭素還元装置100は、酸化電極2、酸化槽6、還元電極3、還元槽7、電解質膜4、及び可変抵抗器8を備える。二酸化炭素還元装置100は、酸化還元反応により、エネルギー資源として利用できる一酸化炭素、ギ酸、及びメタン等を生成する。
【0017】
酸化電極2は、透明基板1の上に成膜され外部からの光9を受光する。透明基板1は、XY方向の平面に所定の面積を持つ例えばサファイアである。その透明基板1の上に、例えば、窒化物半導体、酸化チタン、アモルファスシリコン、ルテニウム錯体、又はレニウム錯体からなる群より選択される少なくとも一つを含む化合物が平面上に成膜されて酸化電極2が形成される。これらの化合物は、光活性やレドックス活性を示す。
【0018】
光9は、例えば太陽光である。なお、光9は、太陽光で無くても構わない。例えばキセノンランプ、疑似太陽光源、ハロゲンランプ、水銀ランプ、又はこれらの光源の組合せた光であってもよい。
【0019】
酸化槽6は、酸化電極2が浸漬される電解液5を保持する。電解液5は、例えば、炭酸水素カリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、塩化カリウム水溶液、塩化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化ルビジウム水溶液、及び水酸化セシウム水溶液からなる群より選択される少なくとも一つを含む。図1は、光9が酸化槽6の底からZ方向に照射される例を示す。
【0020】
還元電極3は、例えば、銅、白金、金、銀、インジウム、パラジウム、ガリウム、ニッケル、錫、カドミウム、及び、それらの合金の多孔質体の何れかを用いることができる。また、還元電極3は、酸化銀、酸化銅、酸化銅(II)、酸化ニッケル、酸化インジウム、酸化錫、酸化タングステン、酸化タングステン(VI)、酸化銅等の化合物、若しくは金属イオンとアニオン性配位子を有する多孔質金属錯体であってもよい。還元電極3は、酸化電極2と同様にXY方向の平面に所定の面積を持つ。なお、還元電極3は、後述する電解質膜4と同様にY方向に平面を形成するように配置しても構わない。
【0021】
還元槽7は、還元電極3が浸漬され、外部から二酸化炭素がバブリングされる電解液5を保持する。電解液5は酸化槽6中のものと同じである。
【0022】
電解質膜4は、酸化槽6と還元槽7の間に配置され電解液5を酸化側と還元側に二分する。電解質膜4は、例えば、炭素-フッ素から成る骨格を持つ電解質膜であるナフィオン(登録商標)、フォアブルー、アクイビオン(登録商標)の何れか、又は炭素水素系骨格を持つ電解質膜であるセレミオンやネオセプタであってもよい。
【0023】
可変抵抗器8は、酸化電極2と還元電極3の間に接続される。可変抵抗器8の抵抗値は、その最大値を例えば酸化電極2と還元電極3の間の抵抗値と同じ値に設定する。可変抵抗器8の抵抗値を最小にした場合は、酸化電極2を基準にした還元電極3の電圧を最も高くすることができる。また、可変抵抗器8の抵抗値を最大にした場合は、同還元電極3の電圧を最も低く設定することができる。
【0024】
摺動子を回転させる一般的な可変抵抗器8の場合、回転軸の可動角度は約310度であり、任意の角度に調整することが可能である。よって、還元電極3の電圧は任意の電圧に設定することができ、ファラデー効率を最適化できる。
【0025】
(変形例1)
図2は、二酸化炭素還元装置100の変形例1を示す模式図である。図2に示す二酸化炭素還元装置110は、酸化電極2を2層の半導体層を積層して構成した例である。
【0026】
酸化電極2は、第1の半導体膜21と第2の半導体膜22の2層で構成される。例えば、第1の半導体膜21の半導体材料をGaNにした場合、第2の酸化電極22はCdS又はC3N4を用いることができる。
【0027】
以上説明したように本実施形態に係る二酸化炭素還元装置100は、透明基板1の上に成膜され外部からの光を受光する酸化電極2と、酸化電極2が浸漬される電解液5を保持する酸化槽6と、還元電極3と、還元電極3が浸漬され、外部から二酸化炭素がバブリングされる電解液5を保持する還元槽7と、酸化槽6と還元槽7の間に配置され電解液5を酸化側と還元側に二分する電解質膜4と、酸化電極2と還元電極3の間に接続される可変抵抗器8とを備える。これにより、外部電源を用いずに還元電極の電圧を連続的に変化させられる二酸化炭素還元装置を提供することができる。
【0028】
また、変形例1の酸化電極2は、2層の半導体層が積層されて構成され、還元電極3側に配置される第2の半導体膜22の伝導帯のエネルギー準位は、第1の半導体膜21の価電子帯のエネルギー準位より高く、第2の半導体膜22の価電子帯のエネルギー準位は、第1の半導体膜21の伝導帯のエネルギー準位より低い。これにより、還元電極3の電圧を高めることができる。
【0029】
{第2実施形態}
図3は、本発明の第2実施形態に係る二酸化炭素還元装置の構成例を示す模式図である。図3に示す二酸化炭素還元装置200は、太陽電池20を備える点で二酸化炭素還元装置100(図1)と異なる。
【0030】
太陽電池20は、透明基板1の上に配置され、酸化電極2と透明基板1を透過した光9で電圧を生じさせる。太陽電池20は、結晶系シリコン太陽電池、単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、アモルファスシリコン太陽電池、化合物半導体太陽電池、色素増感太陽電池の何れかを用いることができる。
【0031】
太陽電池20は、透明基板20cの上にカソード電極20aとアノード電極20bが成膜されて構成される。カソード電極20aは酸化電極2に接続され、アノード電極20bは可変抵抗器8の酸化電極2側の端子に接続される。
【0032】
カソード電極20aとアノード電極20bのバンドギャップは、酸化電極2のバンドギャップより狭いことが好ましい。酸化電極2は、上記の変形例1の構成であっても構わない。
【0033】
以上説明したように本実施形態に係る二酸化炭素還元装置200は、酸化電極2にカソード電極20aを接続させ、アノード電極20bを可変抵抗器8に接続させる太陽電池20を備える。これにより、光エネルギーを利用して還元電極3の電圧を更に高めることができる。また、太陽電池20は、酸化電極2で吸収される光9以外の波長の光を電力に変換する。よって、二酸化炭素還元装置200は、光エネルギーを広い波長領域にわたって有効に利用することができる。
【0034】
なお、図3に示す太陽電池20は、PN接合が1層の1素子の例を示す。1素子の場合の太陽電池20の端子電圧は0.3V~約0.6V、2素子の場合は約0.6V~1.2V、3素子の場合は約0.9V~1.8Vである。2素子又は3素子の場合は、カソード電極20aとアノード電極20bの組を2つ又は3つ積層する。このように太陽電池20の積層数で還元電極3の電圧を変えることができる。
【0035】
また、太陽電池20と可変抵抗器8は、その接続関係を入れ替えてもよい。つまり、可変抵抗器8を酸化電極2側に、太陽電池20を還元電極3側に配置してもよい。
【0036】
要するに太陽電池20は、可変抵抗器8に直列に接続される。可変抵抗器8を酸化電極2側に配置すると、酸化電極2の電圧が太陽電池20の発電電圧よりも小さい場合、可変抵抗器8による電圧調整は酸化電極2のみに影響を及ぼすので、より細かな電圧調整が可能になる。
【0037】
(変形例2)
図4は、第2実施形態で説明した太陽電池20の変形例を示す模式図である。図4に示すように、太陽電池20は、酸化電極2と反対側の透明基板1の表面に形成してもよい。なお、太陽電池20は、電解液5の表面から露出させる。
【0038】
このように、本変形例の太陽電池20は、酸化電極2が成膜される透明基板1の電解液5と反対側の面に形成され、電解液5の表面から露出している。これにより、透明基板20cが不要になり、透明基板の数を1枚に減らせるので光エネルギーの利用効率を高めることができる。
【0039】
(実験)
上記の第2実施形態で電気化学測定を行った。実験条件を説明する。
【0040】
酸化電極2は、サファイア上にn型半導体であるGaNの薄膜、AlGaNの順にエピタキシャル成長させ、その上にNiを真空蒸着し、熱処理を行うことでNiOの助触媒薄膜を形成して構成した。透明基板と酸化電極2は、電解液5に浸漬させた。
【0041】
電解液5は、1.0mol/Lの水酸化カリウム水溶液を用いた。
【0042】
還元電極3は銅板を用いた。銅板の表面において二酸化炭素の還元反応が進行する。
【0043】
酸化槽6と還元槽7を分ける電解質膜4は、ナフィオン(登録商標)を用いた。
【0044】
太陽電池20は、スフェラーパワー社製(形名:KSP-0C-1830MR-ER-X03)を任意の数、直列接続して用いた。
【0045】
可変抵抗器8は、Bourns社製のポテンショメーター(型番:3386V-1-203LF)を用いた。
【0046】
光9は、太陽光の代わりに300Wのキセノンランプを用いた。450nm以上の波長をフィルターでカットし、照度を6.6mW/cm2とした。そして、酸化電極2の光9の照射面を2.5cm2とした。
【0047】
酸化槽6にヘリウム、還元槽7に二酸化炭素を、それぞれ流量5ml/minで且つ圧力0.18MPaでバブリングした。ヘリウムのバブリングは、反応生成物を分析する目的で行った。ヘリウムと二酸化炭素を十分に置換し、上記の光9を照射した。
【0048】
光9の照射によって、酸化電極2と還元電極3の間に流れる電流を、電気化学測定装置(Solartron社製、1287型ポテンショガルバノスタット)で測定した。
【0049】
酸化槽6及び還元槽7で生じるガスと液体を採取し、ガスクロマトグラフ、液体クロマトグラフ、及びガスクロマトグラフ質量分析計を用いて反応生成物を分析した。
【0050】
二酸化炭素還元反応のファラデー効率を計算した。二酸化炭素のファラデー効率は、光照射又は電圧印加によって酸化電極2と還元電極3の間を移動した電子数に対して、二酸化炭素還元反応に使われた電子数の割合を示すものである。
【0051】
【数1】
【0052】
ここで式(1)の「還元反応の電子数」は、二酸化炭素の還元生成物の積算生成量の測定値を、その生成反応に必要な電子数に換算することで求める。還元反応生成物の濃度をA(ppm)、キャリアガスの流量をB(L/sec)、還元反応に必要な電子数をZ(mol)、ファラデー定数をF(C/mol)、気体のモデル体をV(L/mol)、光照射又は電圧印加時間をT(sec)とした場合、「還元反応の電子数」は次式で計算できる。
【0053】
【数2】
【0054】
(実験)
実験は、第2実施形態(図3)の構成で二酸化炭素還元反応のファラデー効率を求めた。
【0055】
光9は、定量化が容易な光にする目的で300Wの高圧キセノンランプ(波長450nm以上をフィルターでカット)、照度6.6mW/cm2の光を用いた。そして、酸化電極2が照射面となるように配置した。
【0056】
太陽電池20は、スフェラーパワー社製(形名:KSP-0C-1830MR-ER-X03)を2個直列接続して用いた。
【0057】
可変抵抗器8は、Bourns社製のポテンショメーター(型番:3386V-1-203LF)を用いた。
【0058】
還元電極3の電圧を、可変抵抗器8を変化させて0.1Vずつ変化させた場合の実験1の結果を図5図6に示す。それぞれの横軸は酸化電極2を基準にした還元電極3の電圧、縦軸はファラデー効率を示す。
図5は、生成物を一酸化炭素とした場合である。図5に示すように、可変抵抗器8を用いることで還元電極3の電圧を連続的に変化させることができる。その結果、一酸化炭素のファラデー効率の最大値は0.7~0.9Vの間にあり、約18%であることが分かる。
【0059】
図6は、生成物をギ酸とした場合である。図5に示すように、ギ酸のファラデー効率の最大値は0.6~0.8Vの間にあり、約2%であることが分かる。
【0060】
図7図8は、比較例の還元電極3の電圧とファラデー効率の関係を示す。比較例は、第2実施形態(図3)の構成から可変抵抗器8を削除した構成である。比較例の図示は省略する。
【0061】
図7は、図5に対応する比較例の結果を示す。図8は、図6に対応する比較例の結果を示す。図7の横軸と縦軸の関係は図5と同じである。図8の横軸と縦軸の関係は図6と同じである。
【0062】
図7に示すように、還元電極3の電圧は太陽電池20の素子数で制御するため、0.6Vと1.2Vといった離散的な値しかとることができない。したがって、本実施形態で得られるファラデー効率の最大値(約18%)は、比較例で得ることができない。図7に示す例では、約16%(0.6V)と約9%(1.2V)である。
【0063】
図8に示す生成物をギ酸とした場合の結果も同様である。図8の説明は省略する。
【0064】
以上説明したように、本実施形態に係る二酸化炭素還元装置100,200によれば、電力を使用することなく還元電極3の電圧を連続的に可変することができる。よって、外部電源を用いることなく二酸化炭素還元反応のファラデー効率を最大化することが可能である。したがって、二酸化炭素還元装置100,200を用いたシステム全体の効率を高めることができる。
【0065】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で変形が可能である。例えば、実施形態では光9をキセノンランプで生じさせたが、太陽光を用いてもよい。
【0066】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、二酸化炭素の再資源化に関する分野に広く利用することができる。
【符号の説明】
【0068】
1:透明基板
2:酸化電極
3:還元電極
4:電解質膜
5:電解液
6:酸化槽
7:還元槽
8:可変抵抗器
9:光
20:太陽電池
20a:カソード電極
20b:アノード電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8