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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】経路制御方法および経路制御装置
(51)【国際特許分類】
   H04L 45/00 20220101AFI20241204BHJP
【FI】
H04L45/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023543567
(86)(22)【出願日】2021-08-25
(86)【国際出願番号】 JP2021031227
(87)【国際公開番号】W WO2023026417
(87)【国際公開日】2023-03-02
【審査請求日】2023-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100164471
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 大和
(74)【代理人】
【識別番号】100176728
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】竹下 絵莉奈
(72)【発明者】
【氏名】森田 章弘
(72)【発明者】
【氏名】小杉 友哉
(72)【発明者】
【氏名】山田 友輝
【審査官】羽岡 さやか
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-086803(JP,A)
【文献】特開2010-088031(JP,A)
【文献】特開2018-20741(JP,A)
【文献】佐竹 幸大 Kodai SATAKE,予測分布を用いたネットワーク制御におけるトラヒックの観測スケジューリング手法 Traffic observation sc,電子情報通信学会技術研究報告 Vol.116 No.485 IEICE Technical Report,日本,一般社団法人電子情報通信学会,2017年02月23日,P.19-24
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の転送装置により、複数のエンド端末間でデータを転送する通信システムにおいて、前記データを転送する経路を制御する経路制御方法であって、
前記転送装置間のリンクごとの通信トラフィックに関するパラメータの分布を予測するステップと、
前記パラメータの測定値が、前記予測された前記パラメータの分布における、信頼度が所定値以上の区間である信頼区間内であるか否かを判定するステップと、
前記測定値が前記信頼区間外であると判定した場合、前記経路の選択を行わず、前記測定値が前記信頼区間内であると判定した場合、前記測定値に基づき前記経路の選択を行うステップと、を含む経路制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の経路制御方法において、
前記測定値が前記信頼区間外であっても、前記測定値が所定時間以上、前記信頼区間外である場合、前記測定値に基づき前記経路の選択を行う、経路制御方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の経理制御方法において、
前記測定値に基づき、予め設定された第1の経路から第2の経路に前記経路を切り替えたのち、前記第1の経路における前記パラメータの測定値が前記信頼区間内であると判定すると、前記測定値に基づき、前記第2の経路から前記第1の経路に前記経路を切り替えるか否かを判定する、経路制御方法。
【請求項4】
複数の転送装置により、複数のエンド端末間でデータを転送する通信システムにおいて、前記データを転送する経路を制御する経路制御装置であって、
前記転送装置間のリンクごとの通信トラフィックに関するパラメータの分布を予測する予測部と、
前記パラメータの測定値が、前記予測部により予測された前記パラメータの分布における、信頼度が所定値以上の区間である信頼区間内であるか否かを判定する判定部と、
前記測定値が前記信頼区間外であると前記判定部により判定された場合、前記経路の選択を行わず、前記測定値が前記信頼区間内であると前記判定部により判定された場合、前記測定値に基づき前記経路の選択を行う選択部と、を備える経路制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の経路制御装置において、
前記選択部は、前記測定値が前記信頼区間外であっても、前記測定値が所定時間以上、前記信頼区間外である場合、前記測定値に基づき前記経路の選択を行う、経路制御装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の経路制御装置において、
前記選択部は、前記測定値に基づき、予め設定された第1の経路から第2の経路に前記経路を切り替えたのち、前記判定部により、前記第1の経路における前記パラメータの測定値が前記信頼区間内であると判定されると、前記測定値に基づき、前記第2の経路から前記第1の経路に前記経路を切り替えるか否かを判定する、経路制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、経路制御方法および経路制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、複数の転送装置により、複数のエンド端末間でデータを転送する通信システムにおいて、データを転送する経路を制御する経路制御方法が記載されている。以下では、図12に示すように、エンド端末10-1とエンド端末10-2との間で、4つの転送装置20-1~20-4によりデータを転送する通信システム1aを例として説明する。転送装置20-1は、転送装置20-2,20-3と接続され、転送装置20-2は、転送装置20-1,20-4と接続され、転送装置20-3は、転送装置20-1,20-4と接続され、転送装置20-4は、転送装置20-2,20-3と接続される。以下では、転送装置20-1と転送装置20-2との間の通信経路をリンク#12と称し、転送装置20-1と転送装置20-3との間の通信経路をリンク#13と称し、転送装置20-2と転送装置20-4との間の通信経路をリンク#24と称し、転送装置20-3と転送装置20-4との間の通信経路をリンク#34と称する。
【0003】
図13は、非特許文献1に記載の経路制御方法を説明するためのフローチャートである。各転送装置20は、任意の単位(例えば、リンクごとあるいはデータ転送のフローごと)で、トラフィック統計あるいはリソース利用率などのネットワークパラメータ(以下、単に「パラメータ」と称する。)を測定する。非特許文献1に記載の技術では、各転送装置20によるパラメータの測定結果が収集され、収集されたパラメータの測定結果に基づき、図14に示すように、リンクごとに、パラメータの将来の予測値が算出される(ステップS101)。図14では、リンク#12およびリンク#34のパラメータを示している。
【0004】
図13を再び参照すると、パラメータの予測値と予め定められた閾値とに基づき、経路が選択される(ステップS102)。具体的には、エンド端末10-1とエンド端末10-2とを繋ぐ複数の最短経路のうち、最短経路に含まれるリンクのパラメータの将来の予測値が閾値を超えていない経路が選択される。図14に示す例では、リンク#12のパラメータの予測値が閾値を超えているため、リンク#12を含まない経路が選択される。非特許文献1に記載の経路制御方法では、ステップS101およびステップS102の処理を繰り返すことで、ネットワークの負荷増加を抑制することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Wang, Yutong, et al. "Routing Algorithm for Elastic Optical Network Based on Machine Learning assisted Traffic Prediction." Journal of Physics: Conference Series. Vol. 1550. No. 3. IOP Publishing, 2020.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に記載の経路制御方法では、パラメータが不規則に大きく変動する(マイクロバースト)場合、不要な経路変更が発生し、ネットワークの負荷の軽減を図ることが困難であるという問題がある。
【0007】
例えば、図15Aに示すように、パラメータの実際の値は、一度大きく増加して閾値を超過しても、すぐに定常状態に戻る場合がある。この場合、瞬間的なパラメータの増加であるため、本来は経路の変更は不要である。しかしながら、非特許文献1に記載の経路制御方法では、予測値が閾値を超過すると、経路変更が発生してしまう。このような不要な経路変更は、ネットワークの運用・管理の複雑化を招いてしまう。
【0008】
また、図15Bに示すように、パラメータの実際の値が不規則に大きく変動する場合に、その変動を予測することが困難であるという問題がある。パラメータの測定値に基づく将来のパラメータの予測には、例えば、機械学習が用いられる。機械学習による時系列予測は、自己相似性の高い変動に対しては高精度に予測が可能であるが、図15Bに示すような、不規則かつ大きな変動に対しては、予測精度が低くなる。そのため、予測値と実際の値との乖離が大きくなり、適切な経路変更ができず、ネットワークの負荷の増大をもたらす可能性がある。
【0009】
上記のような問題点に鑑みてなされた本開示の目的は、パラメータが不規則に大きく変動する場合にも、不要な経路変更の発生を抑制し、ネットワークの負荷の軽減を図ることができる、経路制御方法および経路制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本開示に係る経路制御方法は、複数の転送装置により、複数のエンド端末間でデータを転送する通信システムにおいて、前記データを転送する経路を制御する経路制御方法であって、前記転送装置間のリンクごとの通信トラフィックに関するパラメータの分布を予測するステップと、前記パラメータの測定値が、前記予測された前記パラメータの分布における、信頼度が所定値以上の区間である信頼区間内であるか否かを判定するステップと、前記測定値が前記信頼区間外であると判定した場合、前記経路の選択を行わず、前記測定値が前記信頼区間内であると判定した場合、前記測定値に基づき前記経路の選択を行うステップと、を含む。
【0011】
また、上記課題を解決するため、本開示に係る経路制御装置は、複数の転送装置により、複数のエンド端末間でデータを転送する通信システムにおいて、前記データを転送する経路を制御する経路制御装置であって、前記転送装置間のリンクごとの通信トラフィックに関するパラメータの分布を予測する予測部と、前記パラメータの測定値が、前記予測部により予測された前記パラメータの分布における、信頼度が所定値以上の区間である信頼区間内であるか否かを判定する判定部と、前記測定値が前記信頼区間外であると前記判定部により判定された場合、前記経路の選択を行わず、前記測定値が前記信頼区間内であると前記判定部により判定された場合、前記測定値に基づき前記経路の選択を行う選択部と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本開示に係る経路制御方法および経路制御装置によれば、パラメータが不規則に大きく変動する場合にも、不要な経路変更の発生を抑制し、ネットワークの負荷の軽減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本開示の一実施形態に係る経路制御装置を含む通信システムの構成例を示す図である。
図2図1に示す経路制御装置の構成例を示す図である。
図3図2に示す経路制御装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図4図2に示す経路制御装置の動作の別の一例を示すフローチャートである。
図5図2に示す選択部の動作の一例を説明するための図である。
図6図2に示す選択部による経路の選択の一例を示す図である。
図7図2に示す選択部の動作の別の一例を説明するための図である。
図8図2に示す選択部の動作のさらに別の一例を説明するための図である。
図9図2に示す選択部の動作のさらに別の一例を説明するための図である。
図10図2に示す選択部による経路の選択の別の一例を示す図である。
図11】信頼区間の設定方法について説明するための図である。
図12】従来の通信システムの構成例を示す図である。
図13】従来の経路制御方法を説明するためのフローチャートである。
図14】リンクにおけるパラメータの変動の一例を示す図である。
図15A】従来の経路制御方法の問題について説明するための図である。
図15B】従来の経路制御方法の問題について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、本開示の一実施形態に係る経路制御装置100を含む通信システム1の構成例を示す図である。図1において、図12と同様の構成には同じ符号を付し、説明を省略する。
【0016】
図1に示すように、通信システム1は、複数のエンド端末10-1~10-2と、複数の転送装置20-1~20-4と、経路制御装置100とを備える。通信システム1においては、複数の転送装置20-1~20-4により、エンド端末10-1,10-2間でデータが転送される。
【0017】
複数の転送装置20はそれぞれ、転送装置20間のリンクまたは伝送されるデータ転送のフローごとの、通信トラフィックに関するパラメータを測定する。転送装置20は、例えば、パラメータとして、リンクまたはフローのトラフィック統計またはリソース利用率などを測定する。
【0018】
経路制御装置100は、複数の転送装置20それぞれからパラメータの測定結果を取得し、取得したパラメータの測定結果に基づき、エンド端末10-1とエンド端末10-2との間でデータを転送する経路を制御する。
【0019】
図2は、本実施形態に係る経路制御装置100の構成例を示す図である。
【0020】
図2に示すように、本実施形態に係る経路制御装置100は、通信I/F部110と、入力部120と、出力部130と、記憶部140と、制御部150とを備える。通信I/F部110、入力部120、出力部130、記憶部140および制御部150は、データバス160を介して接続される。
【0021】
通信I/F部110は、転送装置20と通信を行うためのインタフェースである。
【0022】
入力部120は、ユーザの入力操作を受け付けて、ユーザの操作に基づく情報を取得する1つ以上の入力インタフェースを含む。例えば、入力部120は、ポインティングデバイス、キーボード、マウスなどであるが、これらに限定されない。入力部120は、例えば、後述する制御部150によるパラメータの分布の予測に用いられる、フローの設定に関するデータ(フロー設定データ)が入力される。フロー設定データには、例えば、データ転送のフローの設定数などの情報が含まれる。
【0023】
出力部130は、情報を出力する1つ以上の出力インタフェースを含む。出力部130は、例えば、情報を映像で出力するディスプレイまたは情報を音声で出力するスピーカであるが、これらに限定されない。出力部130は、例えば、経路選択の結果を出力する。なお、出力部130は、タッチパネル方式のディスプレイである場合には、入力部120としても機能してもよい。
【0024】
記憶部140は、種々の情報などを格納する。記憶部140は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ストレージなどの種々のメモリにより構成される。記憶部140は、例えば、通信I/F部110を介して転送装置20から収集した、リンクあるいはフローごとのパラメータの測定結果を収集データとして格納する。また、記憶部140は、例えば、入力部120を介して入力された、フロー設定データを格納する。また、記憶部140は、後述する制御部150による、パラメータの分布の予測に必要なパラメータ(演算用パラメータ)を格納する。また、記憶部140は、後述する制御部150の演算結果を格納する。
【0025】
制御部150は、経路制御装置100全体の動作を制御する。制御部150は、例えば、プロセッサにより構成される。プロセッサは、具体的には、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、SoC(System on a Chip)などであり、同種または異種の複数のプロセッサにより構成されてもよい。プロセッサは、各構成の制御および各種の演算処理を実行する。プロセッサは、例えば、記憶部140からプログラムを読み出し、実行する。プロセッサは、記憶部140に記憶されているプログラムに従って、上記各構成の制御および各種の演算処理を行う。
【0026】
プログラムは、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体に記憶されていてもよい。このような記憶媒体を用いれば、プログラムをコンピュータにインストールすることが可能である。ここで、プログラムが記憶された記憶媒体は、非一時的(non-transitory)記憶媒体であってもよい。非一時的記憶媒体は、特に限定されるものではないが、例えば、CD-ROM、DVD-ROM、USB(Universal Serial Bus)メモリなどであってもよい。また、このプログラムは、ネットワークを介して外部装置からダウンロードされる形態としてもよい。
【0027】
プログラムがプロセッサにより読み込まれて実行されることにより、制御部150は、予測部151、判定部152および選択部153として機能する。
【0028】
予測部151は、転送装置20間のリンクごとの、通信トラフィックに関するパラメータ(トラフィック統計またはリソース利用率など)の分布を予測する。トラフィック量をパラメータとすると、予測部151は、例えば、以下のようにして、パラメータの分布を予測する。
【0029】
まず、予測部151は、現在までの観測期間における、転送装置20間のリンクに収容される回線ごとのトラフィック量と、観測期間およびパラメータを予測する予測期間における回線ごとの契約帯域と、を取得する。現在までの観測期間における、リンクに収容される回線ごとのトラフィック量は、各転送装置20により測定され、収集データとして記憶部140に格納されている。また、観測期間および予測期間における回線ごとの契約帯域は、フロー設定データとして予め入力され、記憶部140に格納されている。予測部151は、記憶部140からこれらのデータを取得する。
【0030】
次に、予測部151は、観測期間における時間帯ごとの契約帯域とトラフィック量とを機械学習し、契約帯域からトラフィック量を予測する予測モデルを作成する。次に、予測部151は、予測期間における回線ごとの契約帯域を予測モデルに入力して、予測期間における時間帯ごとのトラフィック量を推定する。そして、予測部151は、推定した予測期間における時間帯ごとのトラフィック量から確率密度関数を推定する。上述した処理により、予測部151は、パラメータの分布を予測する。
【0031】
判定部152は、転送装置20により測定されたパラメータの測定値が信頼区間内であるか否かを判定する。信頼区間は、予測部151により予測されたパラメータの分布における、信頼度が所定値β(例えば、99%)以上の区間である。例えば、パラメータの分布が正規分布であるとした場合、信頼区間と信頼度との関係(信頼区間に対する信頼度の推移)は既知であるため、判定部152は、このような関係に基づき、信頼区間を設定することができる。
【0032】
選択部153は、パラメータの測定値が信頼区間内であると判定部152により判定された場合、その測定値に基づき、経路の選択を行う。また、選択部153は、パラメータの測定値が信頼区間外であると判定部152により判定された場合、経路選択を行わない。
【0033】
次に、経路制御装置100の動作について説明する。
【0034】
図3は、本実施形態に係る経路制御装置100の動作の一例を示すフローチャートであり、経路制御装置100による経路制御方法について説明するための図である。
【0035】
予測部151は、転送装置20間のリンクごとの通信トラフィックに関するパラメータの分布を予測する(ステップS11)。上述したように、予測部151は、記憶部140に格納されている、収集データ、フロー設定データおよび演算用パラメータに基づき、パラメータの分布を予測する。
【0036】
判定部152は、転送装置20によるパラメータの測定値が、予測部151により予測されたパラメータの分布における、信頼度が所定値β以上の区間である信頼区間内であるか否かを判定する(ステップS12)。信頼区間は、例えば、信頼度が99%以上の区間である。
【0037】
パラメータの測定値が信頼区間内であると判定部152により判定された場合(ステップS12:Yes)、選択部153は、パラメータの測定値に基づき、経路の選択を行う(ステップS13)。
【0038】
パラメータの測定値が信頼区間外であると判定部152により判定された場合(ステップS12:No)、選択部153は、経路の選択を行わない。この場合、ステップS11から上述した処理が繰り返される。
【0039】
パラメータの測定値が信頼区間外である場合、パラメータが不規則に大きく変動している可能性がある。このような変動な瞬間的なものであることが多い。そのため、瞬間的なパラメータの変動に応じて経路の選択を行っても、パラメータがすぐに定常状態に戻り、再び、経路選択を行う必要が生じてしまう。このような不要な経路変更は、ネットワークの負荷の増大を招いてしまう。本実施形態においては、パラメータの測定値が信頼区間に含まれない場合には、経路の選択を行わないため、パラメータが不規則に大きく変動する場合にも、不要な経路変更の発生を抑制し、ネットワークの負荷の軽減を図ることができる。
【0040】
なお、パラメータの測定値が信頼区間外である場合であっても、その測定値が、トラフィックが急増したことなどに起因して、パラメータの本来の値を示していることがある。このような場合には、測定値に基づき、経路の選択を行うことが望ましい。
【0041】
そこで、パラメータの測定値が信頼区間外であると判定部152により判定された場合(ステップS12:No)、選択部153は、図4に示すように、測定値が所定時間以上、信頼区間外であるか否かを判定する(ステップS14)。所定時間は、パラメータの瞬間的な変動が起こる時間よりも長い時間である。
【0042】
測定値が所定時間以上、信頼区間外である場合、パラメータの瞬間的な変動ではなく、定常的な変動により、測定値が信頼区間外になっていると考えられる。そこで、選択部153は、測定値が信頼区間外であっても、測定値が所定時間以上、信頼区間外である場合(ステップS14:Yes)、ステップS13の処理に進み、測定値に基づき経路の選択を行う。
【0043】
一方、測定値が所定時間以上、信頼区間外でない場合、パラメータの瞬間的な変動により、測定値が信頼区間外になったと考えられる。そのため、測定値が所定時間以上、信頼区間外でないと判定した場合(ステップS14:No)、選択部153は、経路の選択を行わない。この場合、ステップS11から上述した処理が繰り返される。
【0044】
以下では、選択部153による経路の選択について、具体例を挙げて説明する。なお、以下では、信頼区間は、パラメータの分布における信頼度が99%以上の区間(以下、「99%信頼区間」と称する。)であるとする。
【0045】
図5は、選択部153の動作の一例を説明するための図であり、リンク#12およびリンク#34におけるパラメータの変動の一例を示す図である。また、以下では、図6に示すように、リンク#12を含む経路が選択されているとする。
【0046】
予測部151は、図5に示すように、リンク#12について収集された過去のパラメータおよびリンク#12を通るフローのフロー設定データなどに基づいて作成された予測モデルに、将来のリンク#12に対するフロー設定データを入力して、リンク#12における将来のパラメータの分布を予測する。同様に、予測部151は、リンク#34における将来のパラメータの分布を予測する。
【0047】
図5に示すように、ある時刻t1において、リンク#12におけるパラメータの測定値が増加したとする。ただし、測定値は、99%信頼区間内であるものとする。すなわち、測定値は、99%信頼区間の下限値以上であり、かつ、99%信頼区間の上限値以下であるとする。
【0048】
測定値が99%信頼区間内であるため、選択部153は、経路の選択を行う。ここで、図5に示すように、時刻t1におけるリンク#34でのパラメータの測定値は、99%信頼区間内であるとする。また、例えば、時刻t1におけるリンク#34でのパラメータの測定値とリンク#34におけるパラメータの分布の平均との差が、時刻t1におけるリンク#12でのパラメータの測定値とリンク#12におけるパラメータの分布の平均との差よりも小さいとする。この場合、選択部153は、リンク#12を経路から削除し、リンク#12を迂回するとともに、パラメータの測定値が99%信頼区間内のリンクのみで構成される最短経路に切り替える。図6に示す例では、選択部153は、リンク#12を経路から削除し、リンク#13、リンク#34およびリンク#24で構成される経路に切り替える。
【0049】
図7は、選択部153の動作の別の一例を説明するための図であり、リンク#12におけるパラメータの変動の一例を示す図である。また、以下では、図6に示すように、リンク#12を含む経路が選択されているとする。
【0050】
予測部151は、図5を参照して説明したように、リンク#12における将来のパラメータの分布を予測する。ここで、図7に示すように、ある時刻t1において、リンク#12におけるパラメータの測定値が増加し、測定値が、99%信頼区間の上限値を超えたとする。測定値が信頼区間外となるような変動が起こるのは、予測モデルの学習に用いられた学習データに、このような変動が含まれていない場合に起こる。したがって、測定値が信頼区間外となるような変動が起こるのは稀であり、すぐに定常状態に戻る可能性が高い。そのため、選択部153は、パラメータの測定値が信頼区間外である場合、経路の選択を行わない。
【0051】
図8は、選択部153の動作のさらに別の一例を説明するための図であり、リンク#12におけるパラメータの変動の一例を示す図である。また、以下では、図6に示すように、リンク#12を含む経路が選択されているとする。
【0052】
予測部151は、図5を参照して説明したように、リンク#12における将来のパラメータの分布を予測する。ここで、図8に示すように、ある時刻t1において、リンク#12におけるパラメータの測定値が増加し、測定値が、99%信頼区間の上限値を超えたとする。上述したように、測定値が信頼区間外となるような変動は通常、瞬間的な変動であり、すぐに定常状態に戻る可能性が高い。しかしながら、例えば、将来的にリンク#12を流れるフローの数が増加する場合、図8に示すように、パラメータの分布の平均値および信頼区間も増加する。その結果、パラメータの測定値が、パラメータの分布の信頼区間内となることがある。この場合、選択部153は、パラメータが信頼区間内であるため、経路の選択を行う。
【0053】
図9は、選択部153の動作のさらに別の一例を説明するための図であり、リンク#12およびリンク#34におけるパラメータの変動の一例を示す図である。また、以下では、図6に示すように、例えば、ネットワーク設定により、リンク#12を含む経路が予め選択されているとする。
【0054】
予測部151は、図5を参照して説明したように、リンク#12およびリンク#34における将来のパラメータの分布を予測する。
【0055】
図9に示すように、リンク#12におけるパラメータの測定値が増加したとする。ただし、測定値は、99%信頼区間内であるものとする。すなわち、測定値は、99%信頼区間の下限値以上であり、かつ、99%信頼区間の上限値以下であるとする。したがって、選択部153は、経路の選択を行う。
【0056】
ここで、ある時刻t1において、リンク#12およびリンク#34それぞれの測定値が99%信頼区間内であるとする。また、時刻t1におけるリンク#34でのパラメータの測定値とリンク#34におけるパラメータの分布の平均との差が、時刻t1におけるリンク#12でのパラメータの測定値とリンク#12におけるパラメータの分布の平均との差よりも小さいとする。この場合、選択部153は、図6に示すように、リンク#12を経路から削除し、リンク#12を迂回するとともに、パラメータの測定値が99%信頼区間に含まれるリンクのみで構成される最短経路に切り替える。
【0057】
次に、予め設定された、リンク#12を含む経路から、リンク#12を含まず、リンク#34に迂回した経路に切り替えられると、予測部151は、リンク#34で収集された収集データおよびリンク#34を通るフローのフロー設定データに基づき作成された予測モデルに、将来のリンク#12に対するフロー設定データを入力し、将来のリンク#12のパラメータの分布を予測する。
【0058】
選択部153は、リンク#12におけるパラメータの測定値が、リンク#12のパラメータの分布の信頼区間内であれば、経路選択を行う。上述したように、リンク#12を含む経路は、ネットワーク設定などにより予め設定された経路であり、リンク#12を含まず、リンク#34に迂回した経路は、リンク#12におけるトラフィックの増加などにより、一時的に設定された経路である。そのため、ネットワーク設定などにより予め設定された、リンク#12を選択可能であれば、予め設定された、リンク#12を含む経路を選択する方が好ましい。そこで、選択部153は、予め設定された第1の経路(図6の例では、リンク#12を含む経路)から第2の経路(図6の例では、リンク#12を含まず、リンク#34に迂回した経路)に経路を切り替えたのち、第1の経路におけるパラメータの測定値が信頼区間内であると判定されると、その測定値に基づき、第2の経路から第1の経路に経路を切り替えるか否かを判定する。
【0059】
例えば、図9に示すように、時刻t2におけるリンク#12でのパラメータの測定値とリンク#12におけるパラメータの分布の平均との差が、時刻t2におけるリンク#34でのパラメータの測定値とリンク#34におけるパラメータの分布の平均との差よりも小さくなったとする。この場合、選択部153は、図10に示すように、第2の経路(リンク#12を含まず、リンク#34に迂回した経路)から第1の経路(リンク#12を含む経路)に経路を切り替える。
【0060】
次に、信頼区間の設定方法について、図11を参照して説明する。
【0061】
上述したように、パラメータの分布を予測する予測モデルは、観測期間における時間ごとの契約帯域とトラフィック量とを機械学習することで生成される。ここで、図11に示すように、予測モデルの学習期間Tのうち、経路の選択が不要な、不規則かつ大きなパラメータの変動が発生した時間がΔtである。この場合、不規則かつ大きなパラメータの変動の発生確率pは以下の式(1)で表される。
p=Δt/T ・・・式(1)
【0062】
上述したように、信頼区間は、パラメータの分布における信頼度が所定値β以上の区間である。所定値βは、発生確率pを用いて、例えば、式(2)に従い設定することができる。
β=(1-p*0.5)*100
【0063】
このように本実施形態に係る経路制御装置100は、予測部151と、判定部152と、選択部153とを備える。予測部151は、転送装置20間のリンクごとの通信トラフィックに関するパラメータの分布を予測する。判定部152は、パラメータの測定値が、予測部151により予測されたパラメータの分布における、信頼度が所定値以上の区間である信頼区間内であるか否かを判定する。選択部153は、測定値が信頼区間外であると判定部152により判定された場合、経路の選択を行わず、測定値が信頼区間内であると判定部152により判定された場合、測定値に基づき経路の選択を行う。
【0064】
こうすることで、本来は経路の選択が不要な、パラメータの測定値の瞬時的な変動が発生した場合には、パラメータの測定値が信頼区間外となるので、経路の選択が行われない。そのため、パラメータが不規則に大きく変動する場合にも、不要な経路変更の発生を抑制し、ネットワークの負荷の軽減を図ることができる。
【0065】
以上の実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0066】
(付記項1)
複数の転送装置により、複数のエンド端末間でデータを転送する通信システムにおいて、前記データを転送する経路を制御する経路制御方法であって、
前記転送装置間のリンクごとの通信トラフィックに関するパラメータの分布を予測し、
前記パラメータの測定値が、前記予測された前記パラメータの分布における、信頼度が所定値以上の区間である信頼区間内であるか否かを判定し、
前記測定値が前記信頼区間外であると判定した場合、前記経路の選択を行わず、前記測定値が前記信頼区間内であると判定した場合、前記測定値に基づき前記経路の選択を行う、経路制御方法。
【0067】
(付記項2)
付記項1に記載の経路制御方法において、
前記測定値が前記信頼区間外であっても、前記測定値が所定時間以上、前記信頼区間外である場合、前記測定値に基づき前記経路の選択を行う、経路制御方法。
【0068】
(付記項3)
付記項1に記載の経理制御方法において、
前記測定値に基づき、予め設定された第1の経路から第2の経路に前記経路を切り替えたのち、前記第1の経路における前記パラメータの測定値が前記信頼区間内であると判定すると、前記測定値に基づき、前記第2の経路から前記第1の経路に前記経路を切り替えるか否かを判定する、経路制御方法。
【0069】
(付記項4)
複数の転送装置により、複数のエンド端末間でデータを転送する通信システムにおいて、前記データを転送する経路を制御する経路制御装置であって、
制御部を備え、
前記制御部は、
前記転送装置間のリンクごとの通信トラフィックに関するパラメータの分布を予測し、
前記パラメータの測定値が、前記予測された前記パラメータの分布における、信頼度が所定値以上の区間である信頼区間内であるか否かを判定し、
前記測定値が前記信頼区間外であると判定した場合、前記経路の選択を行わず、前記測定値が前記信頼区間内であると判定した場合、前記測定値に基づき前記経路の選択を行う、経路制御装置。
【0070】
(付記項5)
付記項4に記載の経路制御装置において、
前記制御部は、前記測定値が前記信頼区間外であっても、前記測定値が所定時間以上、前記信頼区間外である場合、前記測定値に基づき前記経路の選択を行う、経路制御装置。
【0071】
(付記項6)
付記項4に記載の経路制御装置において、
前記制御部は、前記測定値に基づき、予め設定された第1の経路から第2の経路に前記経路を切り替えたのち、前記第1の経路における前記パラメータの測定値が前記信頼区間内であると判定すると、前記測定値に基づき、前記第2の経路から前記第1の経路に前記経路を切り替えるか否かを判定する、経路制御装置。
【0072】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本開示の趣旨および範囲内で、多くの変更および置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形または変更が可能である。例えば、実施形態の構成図に記載の複数の構成ブロックを1つに組み合わせたり、あるいは1つの構成ブロックを分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0073】
1 通信システム
10-1,10-2 エンド端末
20-1,20-2,20-3,20-4 転送装置
100 経路制御装置
110 通信I/F部
120 入力部
130 出力部
140 記憶部
150 制御部
151 予測部
152 判定部
153 選択部
160 データバス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15A
図15B