(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】ギヤ、ウォームギヤ及びロボット
(51)【国際特許分類】
F16H 55/06 20060101AFI20241204BHJP
C08L 81/02 20060101ALI20241204BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20241204BHJP
C08K 5/541 20060101ALI20241204BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20241204BHJP
B25J 19/00 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
F16H55/06
C08L81/02
C08L1/02
C08K5/541
C08L101/00
B25J19/00 A
(21)【出願番号】P 2024502574
(86)(22)【出願日】2023-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2023012342
(87)【国際公開番号】W WO2024004299
(87)【国際公開日】2024-01-04
【審査請求日】2024-01-16
(31)【優先権主張番号】P 2022107384
(32)【優先日】2022-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【氏名又は名称】貴志 浩充
(72)【発明者】
【氏名】高橋 良尚
(72)【発明者】
【氏名】森 耕太郎
(72)【発明者】
【氏名】黒川 隆平
(72)【発明者】
【氏名】倉田 地人
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-020011(JP,A)
【文献】特開平07-088866(JP,A)
【文献】特開2014-136787(JP,A)
【文献】特開2017-128210(JP,A)
【文献】国際公開第2015/159712(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/06
C08L 81/02
C08L 1/02
C08K 5/541
C08L 101/00
B25J 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に形成された第1の歯部を有し、溶融粘度(V6)が50~4000Pa・sであるポリアリーレンスルフィド樹脂を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を構成成分とする、ギヤであって、
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に対して前記ポリアリーレンスルフィド樹脂を50~100質量%含有し、
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物
の構成成分は、
必須成分である前記ポリアリーレンスルフィド樹脂と、合成樹脂
、セルロースナノファイバー及び添加剤からなる群から選択される任意成分とのみから構成され、かつ前記ポリアリーレンスルフィド樹脂と前記合成樹脂との合計に対して前記ポリアリーレンスルフィド樹脂の割合は、質量基準で、(100/105)以上であり、
前記添加剤は、充填剤、熱可塑性エラストマー、着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、発泡剤、難燃剤、難燃助剤、防錆剤、及びカップリング剤であり、
前記合成樹脂は、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂
、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリアリーレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ四弗化エチレン樹脂、ポリ二弗化エチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂又は液晶ポリマーである、ギヤ。
【請求項2】
下記式(I):
【数1】
(上記式(I)中、L80は、80℃におけるギヤの歯先円直径を表し、L0は、0℃におけるギヤの歯先円直径を表す。)
で表される0℃から80℃の温度変化による寸法変化率(%)が、0.7%以下である、請求項1に記載のギヤ。
【請求項3】
セルロースナノファイバーを前記構成成分としてさらに含有し、かつ前記セルロースナノファイバーの含有量は、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂と前記セルロースナノファイバーとの合計総量に対して0.5質量%未満である、請求項1又は2に記載のギヤ。
【請求項4】
シランカップリング剤を前記構成成分としてさらに含有する、請求項1又は2に記載のギヤ。
【請求項5】
ウォームホイールである請求項1又は2に記載のギヤと、前記ギヤの前記第1の歯部と噛合う第2の歯部を有するウォームと、を有するウォームギヤであって、
前記ウォームは、溶融粘度(V6)が50~4000Pa・sであるポリアリーレンスルフィド樹脂を構成成分とする、ウォームギヤ。
【請求項6】
請求項5に記載のウォームギヤを有するロボット用ギヤシステム。
【請求項7】
請求項6に記載のロボット用ギヤシステムを有するロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ギヤ、ウォームギヤ及びロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ロボットの軽量化、省メンテナンス化(グリスレス)又は静音化の観点から、従来金属製であったギヤを樹脂化するニーズに反映して、ギヤ又は軸受の摺動部の材料にPOM又はPAが使用されている。例えば、特許文献1には、熱可塑性樹脂と平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバー(以下、CNFとも称する。)とを含有する樹脂製のギヤが開示されている。また、特許文献2には、金属製の芯管と、当該芯管の外周部に一体的に設けられ外周面に複数のギヤ歯が形成された環状の樹脂部とを有するギヤが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-108959号公報
【文献】特開2016-064714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の金属製のギヤと同様に樹脂製のギヤにも、熱安定性、吸水性、機械的強度及び寸法安定性等の材料特性が当然求められる。しかしながら、上記特許文献1及び特許文献2の技術では、高温又は高湿度下での耐久性と寸法精度とを満足する樹脂製ギヤが得られていない。例えば、特許文献1の技術では、CNF自体が凝集することにより熱可塑性樹脂に対して分散し難く、結果として機械的強度又は耐久性が低下するという問題が生じる。また、特許文献2の技術では、軟質繊維からなる強化材と熱可塑性樹脂とを含有する樹脂材料により外周面のギヤ歯を形成しているが、当該強化材と当該熱可塑性樹脂との相溶性について検討していないため、当該強化材と当該熱可塑性樹脂との密着性が乏しく、結果として、実用に足りうる高温又は高湿度下での耐久性及び寸法精度を備えたギヤが得られていない。
【0005】
そこで本開示は、樹脂製のギヤであっても、熱及び吸水による寸法変化率が低く、かつ高温及び高湿度下での優れた耐久性及び寸法精度を有する、ギヤ、ウォームギヤ及びロボットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決する方途について鋭意検討した。その結果、特定のポリアリーレンスルフィド樹脂(以下、PAS樹脂と称する。)を主成分として含有するPAS樹脂組成物を使用することにより、上記課題が解決することを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本開示は以下の通りである。
[1]本開示は、外周に形成された第1の歯部を有し、溶融粘度(V6)が50~4000Pa・sであるポリアリーレンスルフィド樹脂を構成成分とするギヤである。
【0007】
[2]下記式(I):
【数1】
(上記式(I)中、L
80は、80℃におけるギヤの歯先円直径を表し、L
0は、0℃におけるギヤの歯先円直径を表す。)
で表される0℃から80℃の温度変化による寸法変化率(%)が、0.7%以下である、上記[1]に記載のギヤ。
【0008】
[3]セルロースナノファイバーを前記構成成分としてさらに含有し、かつ前記ポリアリーレンスルフィド樹脂と前記セルロースナノファイバーとの合計総量に対して、前記セルロースナノファイバーの含有量が0.5質量%未満である、[1]又は[2]に記載のギヤ。
【0009】
[4]シランカップリング剤を前記構成成分としてさらに含有する、上記[1]~[3]のいずれかに記載のギヤ。
【0010】
[5]ウォームホイールである上記[1]~[4]のいずれかのギヤと、前記ギヤの前記第1の歯部と噛合う第2の歯部を有するウォームと、を有するウォームギヤであって、
前記ウォームは、溶融粘度(V6)が50~4000Pa・sであるポリアリーレンスルフィド樹脂を構成成分とする、ウォームギヤ。
【0011】
[6]上記[5]に記載のウォームギヤを有するロボット用ギヤシステム。
【0012】
[7]上記[6]に記載のロボット用ギヤシステムを有するロボット。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、熱及び吸水による寸法変化率が低く、かつ高温及び高湿度下での優れた耐久性及び寸法精度を有するギヤ、ウォームギヤ及びロボットを提供する。
本開示によれば、ウォームホイール又はウォームギヤの寸法精度が良好であり、耐久性及び位置決めに優れたウォームホイール、ウォームギヤ又はロボットを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本開示の一実施形態に係るギヤの一例としてウォームホイールの一例を示す模式図である。
【
図2】本開示の一実施形態に係るギヤの一例としてウォームの一例を示す模式図である。
【
図3】本開示の一実施形態に係るウォームギヤの構成の一例を示す模式図である。
【
図4】
図3のウォームギヤを有するロボット用アーム機構の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について、詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
本実施形態のギヤは、外周に形成された第1の歯部を有し、溶融粘度(V6)が50~4000Pa・sであるPAS樹脂を構成成分とするギヤである。
本実施形態のギヤは、所定の特性を有するPAS樹脂を含有することにより、熱及び吸水による寸法変化率が低く、かつ高温及び高湿度下での優れた耐久性及び寸法精度を有する。
溶融粘度(V6)が50Pa・s以上であるPAS樹脂を用いることにより、ギヤを構成するPAS樹脂の強度が高くなるため、ギヤ全体の耐久性を向上することができる。一方、溶融粘度(V6)が4000Pa・s以下であるPAS樹脂を用いることにより、射出成形時に歯先までPAS樹脂を充填させることができるため、ギヤの金型転写性を向上することができ、外観の良好なギヤを作製することができる。
ここでいう「PAS樹脂を構成成分とする」とは、ギヤを構成する材料が、PAS樹脂を含有することをいう。したがって、ギヤを構成する材料としてPAS樹脂を含有すればよく、当該ギヤを構成する材料は、PAS樹脂であっても、あるいはPAS樹脂を主成分として配合されたPAS樹脂組成物であってもよい。
なお、本明細書における「PAS樹脂を主成分として配合されたPAS樹脂組成物」とは、PAS樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、50質量%以上PAS樹脂を含有することをいう。
【0016】
本実施形態のギヤは、PAS樹脂を含有し、かつ平板状の本体部と、前記本体部の外周(すなわち径方向外側)に設けられる第1の歯部とを有する。そのため、本実施形態のギヤは、熱及び吸水による寸法変化率が低く、かつ高温及び高湿度下での優れた耐久性及び寸法精度を有するため、偏芯又は歯厚のバラツキ等が生じにくく、使用中にガタつくことを軽減できると考えられる。
本実施形態のギヤの好ましい態様としては、ウォーム、ウォームホイール、又はウォームと当該ウォームに噛み合う歯面を有するウォームホイールとから構成されるウォームギヤでありうる。
いわゆる一般的な、ギヤ(歯車)は、転がり接触をするのに対して、ウォームギヤは滑り接触となるため、静音性に優れるが熱を発生する難点がある。しかし、本実施形態のギヤは、PAS樹脂を含有することから、グリスレスであっても静音性及び耐熱性に優れ、転がり接触するギヤ及びウォームギヤの両方に優れた性能を発揮する。特に、本実施形態のギヤは、熱及び吸水による寸法変化率が低く、かつ高温及び高湿度下での優れた耐久性及び寸法精度を有するため、ウォーム、ウォームホイール、又はウォームギヤとして本実施形態のギヤを用いる場合、偏芯又は歯厚のバラツキ、使用中のガタつきの軽減により効果を奏すると考えられる。
以下、本実施形態のギヤを構成するPAS樹脂、PAS樹脂の製造方法及びPAS樹脂組成物を説明した後、本実施形態の好適なギヤである、ウォーム、ウォームホイール及びウォームギヤ、並びにロボットについて図を用いて順に説明する。
【0017】
(PAS樹脂)
本実施形態のPAS樹脂は、溶融粘度(V6)が50~4000Pa・sであり、かつ芳香族環と硫黄原子とが結合した構造を繰り返し単位として有する樹脂である。すなわち、本実施形態のPAS樹脂の化学構造は、芳香族環と硫黄原子とが結合した構造を繰り返し単位とする樹脂構造を有する。実施形態のPAS樹脂は、具体的には、下記一般式(1)
【化1】
(上記一般式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1~4の範囲のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基又はエトキシ基を表す。)で表される構造部位と、必要に応じてさらに含有される下記一般式(2)
【化2】
で表される3官能性の構造部位と、を繰り返し単位とする樹脂であることが好ましい。上記一般式(2)で表される3官能性の構造部位は、他の構造部位との合計モル数に対して0.001~3モル%の範囲が好ましく、特に0.01~1モル%の範囲であることが好ましい。
【0018】
ここで、前記一般式(1)で表される構造部位は、特に該一般式(1)中のR
1及びR
2は、前記PAS樹脂の機械的強度の点から水素原子であることが好ましく、その場合、下記一般式(3)で表されるパラ位で結合する構造部位、及び下記一般式(4)で表されるメタ位で結合する構造部位が挙げられる。
【化3】
これらの中でも、前記一般式(1)で表される構造部位は、特に繰り返し単位中の芳香族環に対する硫黄原子の結合は前記一般式(3)で表されるパラ位で結合した構造であることがPAS樹脂の耐熱性及び結晶性の面で好ましい。
【0019】
また、前記PAS樹脂は、前記一般式(1)及び(2)で表される構造部位のみならず、下記の一般式(5)~(8)
【化4】
で表される構造部位を、前記一般式(1)と一般式(2)で表される構造部位との合計の30モル%以下で含んでいてもよい。特に本実施形態において、上記一般式(5)~(8)で表される構造部位は10モル%以下であることが、PAS樹脂の耐熱性、機械的強度の点から好ましい。前記PAS樹脂中に、上記一般式(5)~(8)で表される構造部位を含む場合、それらの結合様式としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体の何れであってもよい。
【0020】
また、本実施形態のPAS樹脂は、その分子構造中に、ナフチルスルフィド結合などを有していてもよいが、他の構造部位との合計モル数に対して、3モル%以下が好ましく、特に1モル%以下であることが好ましい。
【0021】
本実施形態のPAS樹脂の溶融粘度(V6)は、50Pa・s以上4000Pa・s以下の範囲である。本実施形態のPAS樹脂の溶融粘度(V6)の上限は、好ましくは2000Pa・s以下、より好ましくは700Pa・s以下であり、さらに好ましくは300Pa・s以下である。また、本実施形態のPAS樹脂の溶融粘度(V6)の下限は、好ましくは70Pa・s以上、より好ましくは80Pa・s以上であり、さらに好ましくは90Pa・s以上である。上記上限及び下限は任意に組み合わせすることができる。
溶融粘度(V6)が50Pa・s以上4000Pa・s以下の範囲のPAS樹脂を用いることにより、ギヤ全体の耐久性を向上させ、かつ外観の良好なギヤを作製することができる。また、成形したギヤの外観を重視する場合、PAS樹脂の溶融粘度(V6)は50Pa・s以上300Pa・以下が好ましい。一方、ギヤの耐久性を重視する場合、PAS樹脂の溶融粘度(V6)は90Pa・s以上4000Pa・s以下が好ましい。
本明細書における溶融粘度(V6)の測定は、PAS樹脂を島津製作所製フローテスター、CFT-500Dを用いて行い、300℃、荷重:1.96×106Pa、L/D=10(mm)/1(mm)にて、6分間保持した後に測定した溶融粘度の測定値とする。
【0022】
本実施形態のPAS樹脂は、その分子内にカルボキシル基を有することが好ましい。当該カルボキシル基はカップリング剤との反応性を有するため、構成成分としてカップリング剤をさらに配合させた場合、当該カップリング剤との併用によってギヤ耐久性の向上効果を発揮しうる。
本実施形態のPAS樹脂の分子構造中に存在するカルボキシル基の含有量は、PAS樹脂1gあたり10μmol以上200μmol以下であることが好ましく、PAS樹脂1gあたり20μmol以上100μmol以下であることがより好ましく、PAS樹脂1gあたり20μmol以上50μmol以下であることがさらに好ましい
本明細書において、PAS樹脂に含まれるカルボキシル基の量は、実施例の欄に記載した通り、前処理を行ったサンプルを作製した後、顕微FT-IR装置によって測定した。
【0023】
本実施形態のPAS樹脂の非ニュートン指数は特に限定されないが、0.90以上から、2.00以下の範囲であることが好ましい。リニア型PAS樹脂を用いる場合には、非ニュートン指数が、好ましくは0.90以上の範囲、より好ましくは0.95以上の範囲から、好ましくは1.50以下の範囲、より好ましくは1.20以下の範囲である。このようなPAS樹脂は機械的物性、流動性、耐磨耗性に優れる。ただし、本開示において非ニュートン指数(N値)は、キャピログラフを用いて融点+20℃、オリフィス長(L)とオリフィス径(D)の比、L/D=40の条件下で、剪断速度(SR)及び剪断応力(SS)を測定し、下記式(II)を用いて算出した値である。非ニュートン指数(N値)が1に近いほど線状に近い構造であり、非ニュートン指数(N値)が高いほど分岐が進んだ構造であることを示す。
【数2】
[ただし、上記式(II)中、SRは剪断速度(秒
-1)を表し、SSは剪断応力(ダイン/cm
2)を表し、そしてKは定数を表す。]
本実施形態のPAS樹脂のピーク分子量(以下、M
topとも称する。)は、30000~80000の範囲であることが好ましく、32000~72000の範囲であることがより好ましく、35000~46000の範囲であることがさらに好ましい。また、PAS樹脂のM
topの下限は、好ましくは30000以上、より好ましくは32000以上、さらに好ましくは35000以上である。一方、PAS樹脂のM
topの上限は、80000以下、より好ましくは72000以下、さらに好ましくは46000以下である。上記上限及び下限は任意に組み合わせすることができる。
本実施形態のPAS樹脂のM
w/M
topは、好ましくは0.80~1.70の範囲であり、より好ましくは0.90~1.30の範囲である。M
w/M
topをこのような範囲とすることで、PAS樹脂の加工性を向上させることができ、良好なキャビティーバランスを付与することができる。本明細書において、M
wはゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される重量平均分子量のことを示し、M
topは同測定により得られるクロマトグラムの検出強度が最大となる点の平均分子量(ピーク分子量)を示す。M
w/M
topは、測定対象の分子量の分布を示し、通常、この値が1に近いと分子量の分布が狭いことを示し、この値が大きくなるにつれて、分子量の分布が広いことを示す。
なお、本明細書におけるピーク分子量の測定法は、ゲル浸透クロマトグラフ測定において、標準物質としてポリスチレンを用いて、ポリスチレン換算量として求められる数値に基づくものである。数平均分子量又は重量平均分子量が、ゲル浸透クロマトグラフィーの分子量分布曲線のベースラインの取り方次第で値が変化するのに対し、ピーク分子量は、値が分子量分布曲線のベースラインの取り方に左右されないものである。
【0024】
(PAS樹脂の製造方法)
本実施形態のPAS樹脂の製造方法としては、溶融粘度(V6)は、50Pa・s以上4000Pa・s以下のPAS樹脂が得られる限り特に限定されないが、例えば(製造法1)硫黄と炭酸ソーダの存在下でジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、(製造法2)極性溶媒中でスルフィド化剤等の存在下にジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、(製造法3)p-クロルチオフェノールを、必要ならばその他の共重合成分を加えて、自己縮合させる方法、(製造法4)ジヨード芳香族化合物と単体硫黄とを、カルボキシ基やアミノ基等の官能基を有していてもよい重合禁止剤の存在下、減圧させながら溶融重合させる方法、等が挙げられる。これらの方法のなかでも、(製造法2)の方法が汎用的であり好ましい。反応の際に、重合度を調節するためにカルボン酸やスルホン酸のアルカリ金属塩や、水酸化アルカリを添加しても良い。上記(製造法2)方法のなかでも、加熱した有機極性溶媒とジハロゲノ芳香族化合物とを含む混合物に含水スルフィド化剤を水が反応混合物から除去され得る速度で導入し、有機極性溶媒中でジハロゲノ芳香族化合物とスルフィド化剤とを、必要に応じてポリハロゲノ芳香族化合物と加え、反応させること、及び反応系内の水分量を該有機極性溶媒1モルに対して0.02~0.5モルの範囲にコントロールすることによりPAS樹脂を製造する方法(特開平07-228699号公報参照。)や、固形のアルカリ金属硫化物及び非プロトン性極性有機溶媒の存在下でジハロゲノ芳香族化合物と必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加え、アルカリ金属水硫化物及び有機酸アルカリ金属塩を、硫黄源1モルに対して0.01~0.9モルの範囲の有機酸アルカリ金属塩及び反応系内の水分量を非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して0.02モル以下の範囲にコントロールしながら反応させる方法(国際公開第2010/058713号パンフレット参照。)で得られるものが特に好ましい。ジハロゲノ芳香族化合物の具体的な例としては、p-ジハロベンゼン、m-ジハロベンゼン、o-ジハロベンゼン、2,5-ジハロトルエン、1,4-ジハロナフタレン、1-メトキシ-2,5-ジハロベンゼン、4,4’-ジハロビフェニル、3,5-ジハロ安息香酸、2,4-ジハロ安息香酸、2,5-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロアニソール、p,p’-ジハロジフェニルエーテル、4,4’-ジハロベンゾフェノン、4,4’-ジハロジフェニルスルホン、4,4’-ジハロジフェニルスルホキシド、4,4’-ジハロジフェニルスルフィド、及び、上記各化合物の芳香環に炭素原子数1~18の範囲のアルキル基を有する化合物が挙げられ、ポリハロゲノ芳香族化合物としては1,2,3-トリハロベンゼン、1,2,4-トリハロベンゼン、1,3,5-トリハロベンゼン、1,2,3,5-テトラハロベンゼン、1,2,4,5-テトラハロベンゼン、1,4,6-トリハロナフタレンなどが挙げられる。また、上記各化合物中に含まれるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子であることが望ましい。
【0025】
重合工程により得られたPAS樹脂を含む反応混合物の後処理方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、(後処理1)重合反応終了後、先ず反応混合物をそのまま、あるいは酸又は塩基を加えた後、減圧下又は常圧下で溶媒を留去し、次いで溶媒留去後の固形物を水、反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回又は2回以上洗浄し、更に中和、水洗、濾過及び乾燥する方法、或いは、(後処理2)重合反応終了後、反応混合物に水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素などの溶媒(使用した重合溶媒に可溶であり、かつ少なくともPAS樹脂に対しては貧溶媒である溶媒)を沈降剤として添加して、PAS樹脂や無機塩等の固体状生成物を沈降させ、これらを濾別、洗浄、乾燥する方法、或いは、(後処理3)重合反応終了後、反応混合物に反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)を加えて撹拌した後、濾過して低分子量重合体を除いた後、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回又は2回以上洗浄し、その後中和、水洗、濾過及び乾燥をする方法、(後処理4)重合反応終了後、反応混合物に水を加えて水洗浄、濾過、必要に応じて水洗浄の時に酸を加えて酸処理し、乾燥をする方法、(5)重合反応終了後、反応混合物を濾過し、必要に応じ、反応溶媒で1回又は2回以上洗浄し、更に水洗浄、濾過及び乾燥する方法、等が挙げられる。
【0026】
尚、上記(後処理1)~(後処理5)に例示したような後処理方法において、PAS樹脂の乾燥は真空中で行なってもよいし、空気中或いは窒素のような不活性ガス雰囲気中で行なってもよい。
【0027】
(PAS樹脂組成物)
本実施形態のギヤは、PAS樹脂組成物としてPAS樹脂を含有してもよい。本実施形態のギヤの構成成分としてPAS樹脂を含有するPAS樹脂組成物を使用することにより、所望の材料物性を付与しやすくなる。
本実施形態のPAS樹脂組成物の溶融粘度(V6)は、50Pa・s以上4000Pa・s以下の範囲であることが好ましい。本実施形態のPAS樹脂組成物の溶融粘度(V6)の上限は、好ましくは2000Pa・s以下、より好ましくは700Pa・s以下であり、さらに好ましくは300Pa・s以下である。また、本実施形態のPAS樹脂の溶融粘度(V6)の下限は、好ましくは70Pa・s以上、より好ましくは80Pa・s以上であり、さらに好ましくは90Pa・s以上である。上記上限及び下限は任意に組み合わせすることができる。
50Pa・s以上であるPAS樹脂組成物を用いることにより、ギヤの強度が高くなるため、ギヤ全体の耐久性を向上すること、あるいは成形時のバリを低減することができる。ができる。一方、溶融粘度(V6)が4000Pa・s以下であるPAS樹脂組成物を用いることにより、射出成形時に歯先までPAS樹脂組成物を充填させることができるため、ギヤの金型転写性を向上することができ、外観の良好なギヤを作製することができる。
本実施形態のPAS樹脂組成物は、PAS樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、PAS樹脂を50~100質量%含有することが好ましく、PAS樹脂を60~95質量%含有することがより好ましく、PAS樹脂を70~95質量%含有することがさらに好ましい。
本実施形態のPAS樹脂組成物は、必要に応じて、充填剤を任意成分として含有することができる。前記充填剤としては本開示の効果を損なうものでなければ公知慣用の材料を用いることもでき、例えば、繊維状のもの、粒状又は板状などの非繊維状のものなど、さまざまな形状の充填剤等が挙げられる。具体的には、ガラス繊維、炭素繊維、シランガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、金属繊維、チタン酸カリウム、炭化珪素、珪酸カルシウム、ワラストナイト等の繊維、天然繊維等の繊維状充填剤が使用でき、またガラスビーズ、ガラスフレーク、硫酸バリウム、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、セリサイト、マイカ、雲母、タルク、アタパルジャイト、フェライト、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ゼオライト、ミルドファイバー、硫酸カルシウム等の非繊維状充填剤も使用できる。
【0028】
本実施形態において、充填剤は必須成分ではなく、配合する場合、その含有量は本開示の効果を損ねなければ特に限定されるものではない。充填剤の配合量としては、例えば、PAS樹脂100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは10質量部以上から、好ましくは600質量部以下、より好ましくは200質量部以下の範囲である。かかる範囲において、PAS樹脂組成物が良好な機械的強度と成形性を示すため好ましい。
【0029】
本実施形態のPAS樹脂組成物又は構成成分は、実質的にセルロースナノファイバーを含まないことが好ましい。そして、「実質的にセルロースナノファイバーを含まない」とは、PAS樹脂組成物又は構成成分にセルロースナノファイバーを含む場合において、PAS樹脂とセルロースナノファイバーとの合計総量に対して、セルロースナノファイバーの含有量が0.5質量%未満、より好ましくは0.3質量%未満であることが好ましい。セルロースナノファイバーの含有量が0.5質量%以上であると、PAS樹脂組成物を作製する際にセルロースナノファイバーが分解して炭化又は分解ガスが発生し、機械強度が低下する。
【0030】
本実施形態のPAS樹脂組成物は、シランカップリング剤を含有することが好ましい。本実施形態において、ギヤを構成する構成成分としてシランカップリング剤をさらに含有することにより、良好な成形性、特に離形性を有し、かつ機械的強度がより向上する。
本実施形態のPAS樹脂組成物に含有されうるシランカップリング剤としては、本開示の効果を損ねなければ特に限定されないが、カルボキシ基と反応する官能基、例えば、エポキシ基、イソシアナト基、アミノ基又は水酸基を有するシランカップリング剤が好ましいものとして挙げられる。このようなシランカップリング剤としては、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリクロロシラン等のイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン化合物、γ-ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン等の水酸基含有アルコキシシラン化合物が挙げられる。本開示においてシランカップリング剤は必須成分ではないが、配合する場合、その配合量は、本開示の効果を損ねなければその添加量は特に限定されないが、PAS樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上から、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下までの範囲である。かかる範囲において、PAS樹脂組成物が良好な成形性、特に離形性を有し、かつ成形品がエポキシ樹脂と優れた接着性を呈しつつ、さらに機械的強度が向上するため好ましい。
【0031】
本実施形態のPAS樹脂組成物は、必要に応じて、熱可塑性エラストマーを任意成分として含有することができる。熱可塑性エラストマーとしては、ポリオレフィン系エラストマー、弗素系エラストマー又はシリコーン系エラストマーが挙げられ、このうちポリオレフィン系エラストマーが好ましいものとして挙げられる。これらのエラストマーを添加する場合、その配合量は、本開示の効果を損ねなければ特に限定されないが、PAS樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上から、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下までの範囲である。かかる範囲において、得られるPAS樹脂組成物の耐衝撃性が向上するため好ましい。
【0032】
例えば、前記ポリオレフィン系エラストマーは、α-オレフィンの単独重合体、又は2以上のα-オレフィンの共重合体、1又は2以上のα-オレフィンと、官能基を有するビニル重合性化合物との共重合体が挙げられる。この際、前記α-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン等の炭素原子数が2以上から8以下までの範囲のα-オレフィンが挙げられる。また、前記官能基としては、カルボキシ基、酸無水物基(-C(=O)OC(=O)-)、エポキシ基、アミノ基、水酸基、メルカプト基、イソシアネート基、オキサゾリン基等が挙げられる。そして、前記官能基を有するビニル重合性化合物としては、酢酸ビニル;(メタ)アクリル酸等のα,β-不飽和カルボン酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のα,β-不飽和カルボン酸のアルキルエステル;アイオノマー等のα,β-不飽和カルボン酸の金属塩(金属としてはナトリウムなどのアルカリ金属、カルシウムなどのアルカリ土類金属、亜鉛等);グリシジルメタクリレート等のα,β-不飽和カルボン酸のグリシジルエステル等;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のα,β-不飽和ジカルボン酸;前記α,β-不飽和ジカルボン酸の誘導体(モノエステル、ジエステル、酸無水物)等の1種又は2種以上が挙げられる。上述の熱可塑性エラストマーは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
更に、本実施形態のPAS樹脂組成物は、上記成分に加えて、さらに用途に応じて、適宜、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリアリーレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ四弗化エチレン樹脂、ポリ二弗化エチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等の合成樹脂(以下、単に合成樹脂という)を任意成分として配合することができる。本開示において前記合成樹脂は必須成分ではないが、配合する場合、その配合の割合は本開示の効果を損ねなければ特に限定されるものではなく、また、それぞれの目的に応じて異なり、一概に規定することはできないが、本実施形態に係るPAS樹脂組成物中に配合する合成樹脂の割合として、例えばPAS樹脂100質量部に対し5質量部以上の範囲であり、15質量部以下の範囲の程度が挙げられる。換言すれば、PAS樹脂と合成樹脂との合計に対してPAS樹脂の割合は質量基準で、好ましくは(100/115)以上の範囲であり、より好ましくは(100/105)以上の範囲である。
【0034】
また本実施形態のPAS樹脂組成物は、その他にも着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、発泡剤、難燃剤、難燃助剤、防錆剤、及びカップリング剤等の公知慣用の添加剤を必要に応じ、任意成分として含有してもよい。これらの添加剤は必須成分ではなく、例えば、PAS樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上の範囲であり、好ましくは1000質量部以下の範囲で、本開示の効果を損なわないよう目的又は用途に応じて適宜調整して用いればよい。
【0035】
<PAS樹脂組成物の好適な形態>
本実施形態のギヤの構成成分であるPAS樹脂組成物の好ましい形態は、溶融粘度(V6)が50~4000Pa・sであるPAS樹脂、シランカップリング剤及び充填剤を含有し、前記PAS樹脂と、前記シランカップリング剤と、前記充填剤との合計含有量が、PAS樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、50~100質量%であることが好ましく、70~100質量%であることがより好ましい。
本実施形態のギヤの構成成分として上記組成のPAS樹脂組成物を使用することにより、ギヤの寸法変化率及び/又はギヤの吸水率を所定の範囲内(例えば、温度変化による寸法変化率が0.7%以下、及び/又は吸水率が0.5%以上)に制御しやすくなる。
これにより、本実施形態のギヤ、ウォームギヤ及びロボットは、熱及び吸水による寸法変化率がより低く、かつ高温及び高湿度下でのより優れた耐久性及び寸法精度を有しうる。また、前記PAS樹脂はその分子内にカルボキシル基を有し、かつ前記PAS樹脂の分子構造中に存在するカルボキシル基の含有量は、PAS樹脂1gあたり10μmol以上200μmol以下であることが好ましい。
当該カルボキシル基はカップリング剤との反応性を有するため、カップリング剤との併用によってギヤ耐久性の向上効果を発揮しうる。
【0036】
本実施形態のPAS樹脂組成物は、主成分、及び必要に応じてその他の任意成分を配合してなる。本開示に用いるPAS樹脂組成物を製造する方法としては、特に限定されないが、主成分と必要に応じて任意成分を配合して、溶融混錬する方法、より詳しくは、必要に応じてタンブラー又はヘンシェルミキサー等で均一に乾式混合し、次いで、二軸押出機に投入して溶融混練する方法が挙げられる。
【0037】
溶融混錬は、樹脂温度がPAS樹脂の融点以上となる温度範囲、好ましくは該融点+10℃以上となる温度範囲、より好ましくは該融点+10℃以上、さらに好ましくは該融点+20℃以上から、好ましくは該融点+100℃以下、より好ましくは該融点+50℃以下までの範囲の温度に加熱して行うことができる。
【0038】
前記溶融混練機としては分散性又は生産性の観点から二軸混練押出機が好ましく、例えば、樹脂成分の吐出量5~500(kg/hr)の範囲と、スクリュー回転数50~500(rpm)の範囲とを適宜調整しながら溶融混練することが好ましく、それらの比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02~5(kg/hr/rpm)の範囲となる条件下に溶融混練することがさらに好ましい。また、溶融混練機への各成分の添加、混合は同時に行ってもよいし、分割して行っても良い。例えば、前記成分のうち、添加剤を添加する場合は、前記二軸混練押出機のサイドフィーダーから該押出機内に投入することが分散性の観点から好ましい。かかるサイドフィーダーの位置は、前記二軸混練押出機のスクリュー全長に対する、該押出機樹脂投入部(トップフィーダー)から該サイドフィーダーまでの距離の比率が、0.1以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましい。また、かかる比率は0.9以下であることが好ましく、0.7以下であることがより好ましい。
【0039】
このように溶融混練して得られる本開示に係るPAS樹脂組成物は、前記主成分と、必要に応じて加える任意成分及びそれらの由来成分を含む溶融混合物であり、該溶融混練後に、公知の方法、例えば、溶融状態のPAS樹脂組成物をストランド状に押出成形した後、ペレット、チップ、顆粒、粉末などの形態に加工してから、必要に応じて100~150℃の温度範囲で予備乾燥を施すことが好ましい。
【0040】
(好適なギヤの態様)
本実施形態のギヤの好ましい態様である、ウォームホイール、ウォーム及びウォームギヤについて、添付図面を参照しながら本開示のギヤの一実施形態について主に説明する。
【0041】
<ウォームホイール>
図1は、本開示の一実施形態に係るウォームホイール1の構成を示す模式図である。
図1を参照しながら、一実施形態に係るウォームホイール1の構成について主に説明する。
本実施形態のウォームホイール1は、いわゆるスパーギヤ(平歯車)である。より詳細には、ウォームホイール1は、径方向の外方に突出する第1の歯部2と、第1の歯部2が外周に形成された(略)円盤形状の本体部とを有する。そして、第1の歯部2及び隣接する第1の歯部2との間に形成された溝3は、周期的に配置されている。
換言するとウォームホイール1は、(略)円盤状の側面に第1の歯部2を所定間隔で並べた形状を有する。また当該本体部の中心部に、カムシャフト等の軸体が挿通される貫通孔4が形成されている。必要により、本体部の一方の面には、カムシャフトのフランジが配置される凹部が貫通孔4の外周部に形成されていてもよい。また、必要により、本体部の他方の面には、貫通孔4の外周部に、カムシャフトに他のギヤ等を取り付ける取付部材(例えば、止めねじ機構)が配置される凹部が形成されていてもよい。
また、ウォームホイール1は、回転軸を有し、かつ前記回転軸がベアリングを介してウォームホイールベースに回転可能な状態で支持され、後述のウォームギヤ100の駆動力の出力側となりうる。
本実施形態の好適なギヤは、外周に形成された第1の歯部2を有し、溶融粘度(V6)が50~4000Pa・sであるPAS樹脂を構成成分とするウォームホイール1である。
ウォームホイール1はPAS樹脂又はPAS樹脂組成物を含有するため、熱及び吸水による低寸法変化率と、高温及び高湿度下での優れた耐久性及び寸法精度とを有する。これにより、ウォーム10の第2の歯部5と第1の歯部2との噛み合わせや他の部材との組み合わせによるガタつき又は騒音の軽減等により効果を奏すると考えられる。
また、
図1では、ウォームホイール1をPAS樹脂又はPAS樹脂組成物のみから構成された例を示しているが、ウォームホイール1の一部をPAS樹脂又はPAS樹脂組成物から構成してもよい。例えば、第1の歯部2だけをPAS樹脂又はPAS樹脂組成物で構成してもよく、あるいはカムシャフト等の軸体が挿通される貫通孔4の部分を金属材料で構成してもよい。当該金属材料としては、特に制限されることはなく、鉄、鉄鋼材、ステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、銅、銅合金、チタン及びチタン合金から選択される一種又は二種以上を含む金属が挙げられる。
【0042】
<ウォーム>
図2は、本開示の一実施形態に係るウォーム10の構成を示す模式図である。
図2を参照しながら、一実施形態に係るウォーム10の構成について主に説明する。
本実施形態のウォーム10は、連続的に溝6を螺旋状に切り込んだ形状を有する歯面を備えた(略)円柱状ギヤである。より詳細には、ウォーム10は、径方向の外方に突出する螺旋状の第2の歯部5と、第2の歯部5が外周に形成された(略)円柱状のウォームシャフト8とを有する。そして、第2の歯部5及び隣接する第2の歯部5との間に形成された溝6は、周期的に配置されている。また、ウォーム10は、ウォームシャフト8と、螺旋状の第2の歯部5と、シャフト又は挿通軸(図示せず)を挿通又は固定する固定穴7とを有する。ウォーム10は、ベアリングを備えたウォームベースに対して回転可能に取付けられうる。そのため、必要により、ウォームシャフト8の一端側及び/又は他端側に、ウォーム10を回転可能に支持するウォームベースのベアリングに固定するベアリング部(図示せず)を設けてもよい。
ウォーム10の一方の軸端は、動力源であるモーター(図示せず)の回転軸に連結されて、後述のウォームギヤ100の駆動力の入力側となりうる。そのため、固定穴7は、動力源であるモーター(図示せず)の回転軸に連結する部位でありうる。
第2の歯部5は、ウォームシャフト8と同軸的に形成され、例えばウォームシャフト8より直径が大きい円柱状の側面に対して、連続的に螺旋状に切り込んだ形状である。なお、溝6及び第2の歯部5は、
図2とは逆の方向に回転する螺旋状に連続的に切り込んだ形状であってもよい。
【0043】
本実施形態の好適なギヤは、外周に形成された第2の歯部5を有し、溶融粘度(V6)が50~4000Pa・sであるPAS樹脂を構成成分とするウォーム10である。
ウォーム10はPAS樹脂又はPAS樹脂組成物を含有するため、熱及び吸水による低寸法変化率と、高温及び高湿度下での優れた耐久性及び寸法精度とを有する。これにより、ウォームホイール1の第1の歯部2と第2の歯部5との噛み合わせ、モーターが有する挿通軸などの他の部材との組み合わせによるガタつき又は騒音の軽減等により効果を奏すると考えられる。
また、
図2では、ウォーム10をPAS樹脂又はPAS樹脂組成物のみから構成された例を示しているが、ウォーム10の一部をPAS樹脂又はPAS樹脂組成物から構成してもよい。例えば、第2の歯部5だけをPAS樹脂又はPAS樹脂組成物で構成してもよく、あるいはウォームシャフト8又は固定穴7の部分を金属材料で構成してもよい。当該金属材料としては、特に制限されることはなく、鉄、鉄鋼材、ステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、銅、銅合金、チタン及びチタン合金から選択される一種又は二種以上を含む金属が挙げられる。
【0044】
<ウォームギヤ>
図3は、本開示の一実施形態に係るウォームギヤ100の構成を示す模式図である。
図3を参照しながら、一実施形態に係るウォームギヤ100の構成について主に説明する。
本実施形態のウォームギヤ100は、ウォームホイール1及びウォーム10を有するギヤである。また、ウォームギヤ100は、螺旋状の第2の歯部5を備えた歯面を有するウォーム10と、螺旋状の第2の歯部5に噛み合う第1の歯部2を備えた歯面を有するウォームホイール1とから構成される回転運動の伝達機構である。
ウォームホイール1は、ウォーム10とは方向が異なる回転軸を中心に回転可能に支持され、かつ第1の歯部2を備えた歯面を外周に有する。また、ウォーム10は、ウォームホイール1とは方向が異なる回転軸を中心に回転可能に支持され、かつ第2の歯部5が螺旋状に形成された歯面を外周に有する。そして、ウォームホイール1の歯部2(第1の歯部2)が、ウォーム10の歯部5(第2の歯部5)に噛み合わされている。
ウォーム10が矢印θ1方向に回転することにより、ウォーム10の第2の歯部5が矢印X1方向に向けて移動すると、ウォームホイール1が矢印φ1で示す方向に回転駆動される。また逆に、ウォームホイール1が矢印φ1の方向に回転駆動すると、ウォーム10の歯部5が矢印X1方向に向けて移動してウォーム10が矢印θ1方向に回転駆動する。
一方、ウォーム10が矢印θ2方向に回転して、ウォーム10の歯部5が矢印X2方向に向けて移動すると、ウォームホイール1は矢印φ2で示す方向に回転駆動される。また逆に、ウォームホイール1が矢印φ2で示す方向に回転すると、ウォーム10の歯部5が矢印X2方向に移動して、ウォーム10が矢印θ2方向に回転駆動する。
【0045】
本実施形態の好適なギヤは、外周に形成された第1の歯部2を有し、溶融粘度(V6)が50~4000Pa・sであるPAS樹脂を構成成分とするウォームホイール1と、外周に形成され、かつ第1の歯部2と噛合う第2の歯部5を有し、溶融粘度(V6)が50~4000Pa・sであるPAS樹脂を構成成分とするウォーム10とを有するウォームギヤ100である。
ウォームギヤ100を構成するウォームホイール1及びウォーム10はPAS樹脂又はPAS樹脂組成物を含有するため、熱及び吸水による低寸法変化率と、高温及び高湿度下での優れた耐久性及び寸法精度とを有する。
これにより、ウォームホイール1及びウォーム10が互いに最適な噛み合わせとなり、モーターが有する挿通軸などの他の部材との組み合わせによるガタつき又は騒音の軽減等により効果を奏すると考えられる。
【0046】
<ギヤの物性>
本実施形態のギヤにおいて、吸水による寸法変化率は、0.2%以下にあることが好ましく、より好ましくは0.15%以下、さらに好ましくは0.1%以下である。
一般的に樹脂の吸水現象は、樹脂の非晶部当に水が浸入し、高分子鎖が膨潤するものであるため、高分子鎖間に保持される水の量と寸法変化とは比例関係にある。そのため、吸水による寸法変化率が0.2%以下であると、本実施形態のギヤをウォームホイール、ウォーム等に使用しても歯部同士の噛み合わせやモーターが有する挿通軸などの他の部材との組み合わせに影響が生じにくく、高湿度下でのより優れた寸法精度を示す。すなわち、本実施形態のギヤは、吸水性が低いPAS樹脂を構成成分としているため、吸水による寸法変化率が低く、かつ高湿度下での優れた寸法精度を有しうる。
上記吸水による寸法変化率の測定方法は、後述の実施例の欄に記載の通り、本実施形態のギヤを水に浸漬した前後における当該ギヤの歯先円直径の変化率(%)=|{(h1-h0)/h0}|×100を吸水による寸法変化率とした。
本明細書における「歯先円直径」とは、ギヤの歯先円直径を任意に10箇所測定した値の数平均値である。また、歯先円直径は、歯部の先端を連ねる円の直径を測定している。例えば、
図1に示す通り、歯先円直径Raは、ギヤ(例えば、ウォームホイール1)の歯部2の先端と、ギヤ(例えば、ウォームホイール1)の中心部と、前記ギヤ(例えば、ウォームホイール1)の歯部2の先端と対向する他の歯部2の先端と、を結ぶ線の長さをいう。また、本明細書における寸法変化率(%)は、吸水又は温度変化における基準時点(例えば、吸水前あるいは温度変化前)の長さを分母とし、前記基準時点から、吸水又は温度変化に伴う比較時点までの長さの変化前後の増減分を分子とした比率をいい、絶対値である。したがって、厳密には、0℃から80℃の温度変化による寸法変化率(%)とは、下記式(I)の絶対値である。
【0047】
本実施形態のギヤにおいて、0℃から80℃の温度変化による寸法変化率(%)は、下記式(I):
【数3】
(上記式(I)中、L
80は、80℃におけるギヤの歯先円直径を表し、L
0は、0℃におけるギヤの歯先円直径を表す。)で表され、かつ前記寸法変化率(%)が、0.7%以下であることが好ましく、0.65%以下であることがより好ましく、0.6%以下であることがさらに好ましい。
温度変化による寸法変化率が0.7%以下であると、本実施形態のギヤをウォームホイール、ウォーム等に使用しても歯部同士の噛み合わせやモーターが有する挿通軸などの他の部材との組み合わせに影響が生じにくく、高温下でのより優れた耐久性及び寸法精度を示す。すなわち、本実施形態のギヤは、線熱膨張係数が低いPAS樹脂又はPAS樹脂組成物を構成成分としているため、熱による寸法変化率が低く、かつ高温下での優れた耐久性及び寸法精度を有しうる。
【0048】
本実施形態のギヤにおいて、モジュールは、0.5~25mmの範囲内にあることが好ましい。
本実施形態のギヤにおいて、歯厚は、0.8mm~40mmの範囲内にあることが好ましい。
本実施形態のギヤにおいて、ピッチ円直径は、1.5mm~3200mmの範囲内にあることが好ましい。
なお、モジュールと歯厚とは、1.6×モジュール=歯厚(mm)という関係式によって互いに関連付けられる。また、モジュールとは、[基底円直径(単位はミリメートル)]÷(歯数)で表される。
【0049】
<ギヤの製造方法>
本実施形態のギヤは、PAS樹脂又はPAS樹脂組成物を成形してなることが好ましい。また、本実施形態のギヤの製造方法は、前記PAS樹脂組成物を溶融成形する工程を有する。以下、詳述する。
【0050】
本実施形態のギヤの構成成分であるPAS樹脂又はPAS樹脂組成物は、射出成形、ガスインジェクション成形、圧縮成形、コンポジット、シート、パイプなどの押出成形、引抜成形、ブロー成形、トランスファー成形など各種成形に供することが可能であるが、特に離形性にも優れるため射出成形用途に適している。射出成形にて成形する場合、各種成形条件は特に限定されず、通常一般的な方法にて成形することができる。例えば、射出成形機内で、樹脂温度がPAS樹脂の融点以上の温度範囲、好ましくは該融点+10℃以上の温度範囲、より好ましくは融点+10℃~融点+100℃の温度範囲、さらに好ましくは融点+20~融点+50℃の温度範囲で前記PAS樹脂組成物を溶融する工程を経た後、樹脂吐出口よりを金型内に注入して成形すればよい。その際、金型温度も公知の温度範囲、例えば、室温(23℃)~300℃、好ましくは120~180℃に設定すればよい。
【0051】
以上のようなウォームギヤ100は、任意の機械に用いることができる。例えば、ウォームギヤ100は、産業用ロボットアーム、医療用途のアクチュエータ、水回り部品、及び自動車部品などに応用可能である。以下では、一例としてロボット、より具体的にはロボットアームにウォームギヤ100が用いられるときの一実施形態について説明する。
【0052】
図4は、
図3のウォームギヤ100を有するロボット用アーム機構1000の模式図である。
ロボット用アーム機構1000は、ウォームギヤ100に加えて、例えばロボット本体などに接続される第1アームA1と、ロボット用アーム機構1000の先端で稼働する部分を含む第2アームA2と、を有する。ロボット用アーム機構1000は、第1アームA1と第2アームA2と間に位置する関節部Jにウォームギヤ100を有する。
【0053】
ロボット用アーム機構1000では、ウォームギヤ100が動作することで、長さLの第2アームA2が関節部Jを支点として円運動する。ロボット用アーム機構1000は、制御信号に基づいてウォームギヤ100を駆動し、指定された位置へと第2アームA2の先端を移動させる。
【0054】
図4では、ウォームギヤ100はロボットのアーム機構に用いられているが、ウォームギヤ100の用途はこれに限定されない。ウォームギヤ100は、ロボットのアーム機構に加えて、又は代えて、任意の他の構成部に用いられてもよい。ロボットは、ギヤによる駆動を必要とするような任意の構成部においてウォームギヤ100を有してもよい。
【実施例】
【0055】
以下、実施例、比較例を用いて説明するが、本開示はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下、特に断りが無い場合「%」又は「部」は質量基準とする。
【0056】
<実施例及び比較例で使用した原料>
<PAS樹脂>
ポリフェニレンスルフィド樹脂(以下、PPS樹脂と称する。)、溶融粘度30Pa・s、カルボキシ基30μmol/g
PPS樹脂、溶融粘度50Pa・s、カルボキシ基30μmol/g
PPS樹脂、溶融粘度300Pa・s、カルボキシ基30μmol/g
PPS樹脂、溶融粘度4000Pa・s、カルボキシ基30μmol/g
PPS樹脂、溶融粘度7000Pa・s、カルボキシ基30μmol/g
【0057】
<シランカップリング剤>
エポキシシラン 3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン ダウ・コーニング株式会社製「SH-6040」
アミノシラン N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン 信越化学工業株式会社製「KBM-603」
【0058】
<他の樹脂>
POM(ポリアセタール樹脂) ポリプラスチックス株式会社製「M90-44」
PA6(ポリアミド樹脂) 東レ株式会社製「CM1017」
【0059】
<実施例及び比較例における評価方法>
(1)カルボキシル基の定量
実施例、比較例で得たPPS樹脂中のカルボキシル基の定量は、以下の手順で測定した。
前処理として、各実施例、比較例で使用したPPS樹脂をジメチルイミダゾリジノン(DMI)中で不活性雰囲気下、210℃で一旦溶解した後、冷却して再度PPS樹脂を析出させた。次いで、得られたスラリーをイオン交換水で何度もよく洗浄、ろ過した後、一旦塩酸でpH2.5以下に調整し、再度イオン交換水で何度も洗浄を繰り返した。そして得られたケーキを熱風乾燥機中、120℃の条件下において乾燥した。乾燥後の固形物をサンプルとした。
次に、上記で得られた各サンプルをプレス機でディスク状にプレスし、顕微FT-IR装置で測定を行った。そして、得られた吸収のうち2666cm-1の吸収に対する1705cm-1の吸収の相対強度を求めた。そして、別途、p-クロロフェニル酢酸を各実施例、比較例で使用したPPS樹脂中に所定量混合し、同様な操作によって得られた吸収曲線における2666cm-1の吸収強度に対する1705cm-1の吸収強度の相対強度のプロットにより得られた検量線より得られた数値を、該PPS樹脂中に含まれるカルボキシ基量とした。
【0060】
(2)寸法変化率(%)の測定
(2-1)ギヤの吸水による寸法変化率の測定
実施例及び比較例で作製した各ウォームホイール及び各ウォームのギヤを50℃24時間乾燥させた後、デシケータ内で室温(23℃)に戻して乾燥後のギヤの歯先円直径を任意の10箇所の歯部において測定して、その数平均値を乾燥後のギヤの歯先円直径(h0)とした。その後、室温(20~28℃)の蒸留水に80日間浸漬し、浸漬後のギヤの歯先円直径を任意の10箇所測定して、その数平均値を浸漬後のギヤの歯先円直径(h1)とした。そして、浸漬前後の歯先円直径の変化率(%)=|{(h1-h0)/h0}|×100を吸水による寸法変化率とした。
(2-2)ギヤの温度変化による寸法変化率の測定
実施例及び比較例で作製した各ウォームホイール及び各ウォームのギヤにおける0℃から80℃の温度変化による寸法変化率(%)は、下記式(I):
【数4】
(上記式(I)中、L
80は、80℃におけるギヤの歯先円直径を表し、L
0は、0℃におけるギヤの歯先円直径を表す。)で定義した。
前記ギヤを50℃24時間乾燥させた後、0℃に設定した恒温槽内で1間維持したギヤの歯先円直径を30秒以内に任意の10箇所の歯部において測定して、その数平均値をギヤの歯先円直径(L0)とした。その後、ギヤを80℃に設定した恒温槽内で1時間維持した後、恒温槽から取り出した直後のギヤの歯先円直径を30秒以内に任意の10箇所の歯部において測定して、その数の平均値をギヤの歯先円直径(L80)とした。
【0061】
(3)成形性の評価
得られたペレットをシリンダー温度320℃に設定した住友重機製射出成形機(SE-75D-HP)に供給し、150℃に温調した金型を用いて射出成形を行い、ギヤを得た。得られたギヤの外観を目視により観察し、表面に光沢があり歯先まで樹脂が充填されているものを良好とし、表面に光沢がなく歯先まで樹脂が充填されていないものを不良とした。また、射出成形中にガスが多量に発生して成形が困難なものを成形不可とし、ギヤの歯先にバリが発生したものをバリ大とした。
【0062】
(4)Mw/Mtop比
PPS樹脂の重量平均分子量(Mw)及びピーク分子量(Mtop)を、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて、下記の測定条件により測定した。得られたMw及びMtopからMw/Mtop比を算出した。6種類の単分散ポリスチレンを校正に用いた。
装置:超高温ポリマー分子量分布測定装置(株式会社センシュー科学製「SSC-7000」)
カラム:UT-805L(昭和電工株式会社製)
カラム温度:210℃
溶媒:1-クロロナフタレン
測定方法:UV検出器(360nm)
【0063】
(5)溶融粘度(V6)の測定
PPS樹脂を島津製作所製フローテスター、CFT-500Cを用い、300℃、荷重:1.96×106Pa、L/D=10/1にて、6分間保持した後に溶融粘度を測定した。
【0064】
<実施例1~10及び比較例1~10>
表1に記載する組成成分及び配合量に基づいて、各材料を配合した。その後、株式会社日本製鋼所製ベント付2軸押出機「TEX-30(製品名)」にこれら配合材料を投入し、樹脂成分吐出量25kg/hr、スクリュー回転数200rpm、設定樹脂温度330℃で溶融混練してPPS樹脂組成物のペレットを得た。
実施例1~10及び比較例1~10におけるウォーム及びウォームホイールの各部品は、上記で得られたペレット状の各PPS樹脂組成物を用いて、シリンダー温度320℃、金型温度150℃の条件下における射出成形により得られた。各ウォームの形状は、モジュール0.8mm、1条、右ねじれ、進み角3.17°であった。また、いずれのウォームホイールの形状もモジュール0.8、圧力角20°、歯数38、進み角3.17°のヘリカルギヤとした。
実施例1~10及び比較例1~10におけるウォーム及びウォームホイールの各部品について、種々の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0065】
【0066】
【0067】
実施例で得られたウォーム及びウォームホイールは、比較例で得られたウォーム及びウォームホイールより、熱及び吸水による寸法変化率が低くいことから、高温及び高湿度下での優れた耐久性及び寸法精度を有することが確認された。
また、比較例1~6で得られたウォーム及びウォームホイールは、成形不良等により、吸水による寸法変化率及び温度変化による寸法変化率の評価ができなかった。
尚、本出願は、2022年7月1日に出願した日本国特許出願2022-107384号の利益及び優先権を主張し、前記出願の全内容を参照により本明細書に援用するものとする。
【0068】
[符号の説明]
1 ウォームホイール
2 第1の歯部
3 溝
4 貫通孔
5 第2の歯部
6 溝
7 固定穴
8 ウォームシャフト
10 ウォーム
100 ウォームギヤ
Ra 歯先円直径
A1 第1アーム
A2 第2アーム
J 関節部
L 長さ
Δθ 角度誤差量