(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】ベーカリー食品用組成物
(51)【国際特許分類】
A21D 6/00 20060101AFI20241204BHJP
A21D 13/00 20170101ALI20241204BHJP
【FI】
A21D6/00
A21D13/00
(21)【出願番号】P 2022558734
(86)(22)【出願日】2020-10-30
(86)【国際出願番号】 JP2020040761
(87)【国際公開番号】W WO2022091324
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】株式会社日清製粉ウェルナ
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴川 縁
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 圭介
(72)【発明者】
【氏名】田上 祐二
(72)【発明者】
【氏名】菅野 明彦
【審査官】▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-036610(JP,A)
【文献】特開2018-011555(JP,A)
【文献】特開2014-060944(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D6/00
A23L7/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAPLUS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱処理小麦粉と水とを含む混合物を加圧加熱処理してなる、ベーカリー食品用組成物
であって、
該混合物が、該熱処理小麦粉を含む原料100質量部と水50~200質量部との混合物である、
ベーカリー食品用組成物。
【請求項2】
前記熱処理小麦粉が湿熱処理小麦粉又は乾熱処理小麦粉である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
グルテンバイタリティが0~30%である、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
α化度が40~100%である、請求項1~3のいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
熱処理小麦粉と水とを含む混合物を加圧加熱処理することを含む、ベーカリー食品用組成物の製造方法
であって、
該混合物が、該熱処理小麦粉を含む原料100質量部と水50~200質量部との混合物である、
方法。
【請求項6】
前記熱処理小麦粉が湿熱処理小麦粉又は乾熱処理小麦粉である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記加圧加熱処理が密閉下での50~200℃で5~120分間の加熱処理である、請求項5
又は6記載の方法。
【請求項8】
前記ベーカリー食品用組成物のグルテンバイタリティが0~30%である、請求項5~
7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記ベーカリー食品用組成物のα化度が40~100%である、請求項5~
8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
請求項1~4のいずれか1項記載のベーカリー食品用組成物又は請求項5~
9のいずれか1項記載の方法で製造したベーカリー食品用組成物を含有する生地を調製することを含む、ベーカリー食品の製造方法。
【請求項11】
前記生地の全固形分中における前記ベーカリー食品用組成物の固形分量が2~50質量%である、請求項
10記載の方法。
【請求項12】
前記生地がさらに小麦粉を含む、請求項
10又は
11記載の方法。
【請求項13】
さらに調製した前記生地を加熱することを含む、請求項
10~
12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
請求項1~4のいずれか1項記載のベーカリー食品用組成物又は請求項5~
9のいずれか1項記載の方法で製造したベーカリー食品用組成物を含有するベーカリー食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーカリー食品などのための生地の製造に用いられる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パンやピザなどのベーカリー食品では、サクサクとした乾いた食感が好まれていた。一方で、ベーカリー食品や麺類などの生地から製造する食品においては、柔らかさやしっとりした食感も好ましい性質である。例えば、喫食時には唇に吸い付くようなしっとりした食感を有する一方で、咀嚼したときに口中にまとわりつきがなく歯切れのよい食感を有するベーカリー食品が好まれている。また麺類であれば、柔らかくもちもちする一方で、弾力があり歯切れのよい食感を有するものが好まれている。このような相矛盾する生地の食感は、例えば、ベーカリー食品であれば、生地の含水率を増加させつつ、多数の細かい起泡を含ませるように焼成して脆い構造の生地を製造することで達成できる。しかしながら、このような製法には複雑な又は熟練の技術が必要であり、簡便に行うことは困難であった。
【0003】
一般的に、ベーカリー食品や麺類の生地の主原料である穀粉や澱粉は、水と共に加熱すると、α化してもちもち又はしっとりした食感を有するようになる。これを利用して、ベーカリー食品の食感を改良する試みが提案されている。特許文献1には、原料小麦粉の一部を1~2.5倍の熱水と共に混合してα化させ、これに残りの原料を添加して混合することを含む、パンの製造方法が記載されている。特許文献2には、原料粉と水との混合物を加圧加熱処理して得られた前生地に残りの原料を混合することで、ソフトでしっとり、もちもちとした食感のパン類を製造することが記載されている。特許文献3には、α化穀粉を含む原料粉にイーストおよび水を添加して混捏し、得られた生地を発酵させることを含む、パン類用発酵種の製造方法が記載されている。
【0004】
小麦粉に含まれる蛋白質であるグルテンは、網目状の構造を形成する性質を有し、生地に成形性や弾力を付与する。その一方でグルテンは生地の食感を硬くするため、前述のようなもちもち又はしっとりした食感のためには好ましくない。特許文献4には、小麦蛋白質をpH2.5~8.0の溶媒に分散させ、温度50~100℃で2時間~30日間加熱して小麦蛋白質を部分的に変性させることで製造された食品品質改良剤が、食品に優れた伸展性を与えることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭59-156236号公報
【文献】特開2003-111555号公報
【文献】特開2019-024336号公報
【文献】特開2005-168499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
複雑な又は熟練の技術を必要とすることなく、簡便な手順で、しっとり又はもちもちとした食感があり、歯切れがよく、口溶けに優れた食感を有する生地を製造することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、予め加熱処理した小麦粉を水と混合し、次いで該混合物を加圧加熱処理して製造された組成物を、生地に配合することで、しっとり又はもちもちとした食感があり、歯切れがよく、かつ口溶けのよい食感を有する生地を製造できることを見出した。
【0008】
したがって、本発明は、以下を提供する:
〔1〕熱処理小麦粉と水とを含む混合物を加圧加熱処理してなる、生地食品用組成物。
〔2〕前記熱処理小麦粉が湿熱処理小麦粉又は乾熱処理小麦粉である、〔1〕記載の組成物。
〔3〕グルテンバイタリティが0~30%である、〔1〕又は〔2〕記載の組成物。
〔4〕α化度が40~100%である、〔1〕~〔3〕のいずれか1項記載の組成物。
〔5〕熱処理小麦粉と水とを含む混合物を加圧加熱処理することを含む、生地食品用組成物の製造方法。
〔6〕前記熱処理小麦粉が湿熱処理小麦粉又は乾熱処理小麦粉である、〔5〕記載の方法。
〔7〕前記混合物が、前記熱処理小麦粉を含む原料100質量部と水50~200質量部との混合物である、〔5〕又は〔6〕記載の方法。
〔8〕前記加圧加熱処理が密閉下での50~200℃で5~120分間の加熱処理である、〔5〕~〔7〕のいずれか1項記載の方法。
〔9〕前記生地食品用組成物のグルテンバイタリティが0~30%である、〔5〕~〔8〕のいずれか1項記載の方法。
〔10〕前記生地食品用組成物のα化度が40~100%である、〔5〕~〔9〕のいずれか1項記載の方法。
〔11〕〔1〕~〔4〕のいずれか1項記載の生地食品用組成物又は〔5〕~〔10〕のいずれか1項記載の方法で製造した生地食品用組成物を含有する生地を調製することを含む、生地食品の製造方法。
〔12〕前記生地の全固形分中における前記生地食品用組成物の固形分量が2~50質量%である、〔11〕記載の方法。
〔13〕前記生地がさらに小麦粉を含む、〔11〕又は〔12〕記載の方法。
〔14〕さらに調製した前記生地を加熱することを含む、〔11〕~〔13〕のいずれか1項記載の方法。
〔15〕〔1〕~〔4〕のいずれか1項記載の生地食品用組成物又は〔5〕~〔10〕のいずれか1項記載の方法で製造した生地食品用組成物を含有する生地食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、しっとり又はもちもちとした食感があり、歯切れがよく、かつ口溶けのよい食感の生地を有する生地食品を、簡便な手順で製造することができる。例えば、本発明によれば、しっとりした食感があり、かつ歯切れと口溶けのよい食感を有するベーカリー食品を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「生地食品」とは、穀粉を主体とする生地から製造される食品をいい、例えば、ベーカリー食品、麺類などが挙げられる。「ベーカリー食品」は、一般に、穀粉と副材料を含む生地を、必要に応じて発酵させた後、加熱調理(例えば、焼成、蒸し、揚げ等)することで製造される。ベーカリー食品の例としては、食パン(角型食パン、イギリスパン等)、ロールパン、菓子パン(あんパン、クリームパン等)、総菜パン(カレーパン等)、フランスパン、ドイツパン、クロワッサン、デニッシュ、イタリアパン、ワッフル、ナン、ピタパン等のパン;ピザ;中華まん及び蒸しパン;クッキー、クラッカー、ビスケット等の焼き菓子類、ドーナツ等の揚げ菓子類、などが挙げられる。また「麺類」は、一般に、穀粉を主体とする原料粉と水分を混捏して得られた生地を成形することで製造され、茹で、蒸しなどで調理されて喫食される。麺類の例としては、うどん、冷や麦、そば、中華麺、パスタ、麺皮類などが挙げられる。
【0011】
本発明の生地食品用組成物は、ベーカリー食品、麺類などの生地食品の生地の製造に使用される組成物である。該生地食品用組成物を生地に配合することで、該生地にしっとり又はもちもちとした食感と、歯切れのよさ、及び口溶けのよい食感を付与することができる。好ましくは、本発明の生地食品用組成物は、ベーカリー食品の生地の製造に使用される。
【0012】
本発明の生地食品用組成物(以下、本発明の組成物ともいう)は、熱処理小麦粉と水とを含む混合物を加圧加熱処理することで製造することができる。すなわち、本発明の組成物は、小麦粉を加熱して熱処理小麦粉を得る第1の加熱処理と、該加熱処理後の小麦粉と水とを含む混合物を加圧加熱する第2の加熱処理とを経て製造される。これらの手順が、本発明の組成物に澱粉のα化、蛋白質の変性、グルテン網目状構造の変質等の性質を与えることで、本発明の効果をもたらすと推定される。
【0013】
本発明の組成物の製造に用いられる熱処理小麦粉の原料となる小麦粉は、食品製造に使用される小麦粉であればよく、例えば、強力小麦粉、準強力小麦粉、中力小麦粉、薄力小麦粉、全粒小麦粉、デュラム粉、及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。本発明の組成物に用いる小麦粉の種類は、該組成物を用いて製造する生地の種類によって異なり得る。例えばパン生地を製造する場合は中力小麦粉、薄力小麦粉、又はそれらの混合粉を使用することが好ましい。
【0014】
熱処理小麦粉を得るための小麦粉の加熱処理(第1の加熱処理)の方法としては、湿熱処理及び乾熱処理のいずれも採用することができる。好ましくは、小麦粉が生地を形成しない、すなわち小麦粉中のグルテンが網目状構造を形成しない条件で加熱される。通常、小麦粉100質量部に対して40質量部以上の水を加えて混合すると、グルテンを構成するグルテニンとグリアジンが相互作用して網目状構造を形成する。そのため、本発明で用いる熱処理小麦粉は、好ましくは、原料小麦粉100質量部あたり40質量部未満の水を使用する湿熱処理か、又は乾熱処理で調製される。
【0015】
該湿熱処理の方法の例としては、小麦粉が生地を形成しない程度の量の水、好ましくは小麦粉100質量部に対し40質量部未満の水を、小麦粉に添加し加熱する方法;小麦粉に水蒸気を吹きかけながら加熱する方法、などが挙げられる。該湿熱処理のより具体的な例としては、小麦粉を高速撹拌機で攪拌しながら水を噴霧して加水し、撹拌機を加熱して機壁から伝達する熱で加熱する方法;小麦粉を撹拌機で攪拌しながら撹拌機内に高温の水蒸気を吹き込んで加熱処理する方法;エクストルーダーを用いて小麦粉と水とを加熱攪拌する方法;特開2009-34038号公報に記載の装置等を用いて飽和水蒸気雰囲気下で加熱処理する方法、などが挙げられる。生地の食感向上の観点から、該湿熱処理の条件は、温度が好ましくは50℃~300℃、より好ましくは60~240℃、さらに好ましくは100℃~220℃の範囲、時間が好ましくは10秒~2時間、より好ましくは1分~60分間、さらに好ましくは10分~30分間の範囲である。湿熱処理された小麦粉は、棚乾燥、熱風乾燥、流動層乾燥等の方法で乾燥処理して、粉末状にすることができる。湿熱処理によって小麦粉が造粒した場合等には、必要に応じて、乾燥後の小麦粉を適宜粉砕することができる。該粉砕には、ロール粉砕、ピンミル粉砕等の公知の粉砕手段を必要に応じて採用することができる。
【0016】
該乾熱処理の方法の例としては、小麦粉を開放系又は密閉系において熱風、赤外線、放射熱等により加熱する方法などが挙げられる。該乾熱処理のより具体的な例としては、小麦粉を撹拌機で攪拌しながら、撹拌機を加熱して機壁から伝達する熱で加熱する方法;小麦粉を転動槽で攪拌しながら、転動槽に熱風を吹き込んで加熱処理する方法;エクストルーダーを用いて小麦粉を加熱攪拌する方法、などが挙げられる。生地の食感向上の観点から、該乾熱処理の条件は、温度が好ましくは50℃~300℃、より好ましくは60~240℃、さらに好ましくは100℃~220℃の範囲、時間が好ましくは10秒~2時間、より好ましくは1分~60分間、さらに好ましくは10分~30分間の範囲である。
【0017】
次いで、得られた熱処理小麦粉と水とを含む混合物を加圧加熱処理する(第2の加熱処理)。該加圧加熱処理される混合物は、該熱処理小麦粉以外に、必要に応じて、生地食品に配合できる他の原料を含有することができる。当該他の原料としては、砂糖、ブドウ糖、果糖、転化糖、水あめ、麦芽糖、乳糖等の糖類;卵又は卵粉;グルテン、卵白粉等の蛋白質類;該熱処理小麦粉以外の穀粉類;加工もしくは未加工の澱粉類;脱脂粉乳、全脂粉乳、チーズ粉末、ホエー粉末等の乳製品;ショートニング、バター、マーガリン、その他の動植物油等の油脂類;乳化剤、膨張剤、増粘剤、甘味料、香料、着色料、アスコルビン酸等の添加剤;食塩等の無機塩類;グルコシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、アミラーゼ、リパーゼ、ヘミセルラーゼ等の酵素類;食物繊維、などから選択されるいずれか1種又はいずれか2種以上を使用することができる。当該他の原料は、合計で、加熱処理小麦粉100質量部あたり150質量部以下、好ましくは100質量部以下の量で使用することができる。
【0018】
該加熱処理小麦粉及び必要に応じて該他の原料を含む原料を、水と混合し、混合物を調製する。該水としては、清水、精製水等の食用に供される水であれば制限なく使用することができる。該混合物の調製に用いる水の量は、該加熱処理小麦粉を含む原料(該加熱処理小麦粉及び該他の原料の合計量)100質量部あたり、好ましくは50~200質量部、より好ましくは60~160質量部である。水温は、常温(例えば10℃~40℃)であればよい。該原料と水との混合は、10℃~40℃の常温付近で該原料と水が略均一に分散するように混合すればよく、過度に混合攪拌や混捏をする必要はない。該混合により略均一な混合物が調製される。好ましくは、該混合物はペースト状である。
【0019】
得られた混合物を加圧加熱処理する方法としては、例えば、該混合物を密閉下、例えば耐圧性の密閉容器内で、加熱する方法が挙げられる。生地の食感向上の観点から、該加圧加熱処理の温度条件は、好ましくは50℃~200℃、より好ましくは105℃~150℃、さらに好ましくは120℃~140℃であり、時間の条件は、好ましくは5分~120分間、より好ましくは10分~90分間、さらに好ましくは10分~30分間である。該加圧加熱処理後の混合物は、必要に応じて冷却した後、本発明の生地食品用組成物として用いることができる。本発明の組成物は、該加圧加熱処理後はペースト状である。あるいは、該組成物をさらに脱水又は乾燥して、固形状、顆粒状又は粉末状の組成物を調製してもよい。該組成物を乾燥する際は、50℃以上の熱がかからないようにすることが好ましい。
【0020】
本発明の組成物は、グルテンバイタリティ(以下、GVということがある)が、好ましくは0~40%、より好ましくは0~30%、さらに好ましくは0~20%である。本発明の組成物のGVがこの範囲であると、生地の食感向上の点で好ましい。GVは、小麦粉等の原料に含まれる蛋白質の性質を表す指標であり、該原料における蛋白質の含有量とは異なる。小麦粉の一般的なGVは50~60%である。本発明の組成物のGVは、該組成物を凍結乾燥して乾固後、粉砕した粉(以下、粉砕粉)を用いて、以下の手順で測定することができる。
【0021】
〔GVの測定法〕
1)粉砕粉の可溶性粗蛋白質含量の測定:
(a)100mL容のビーカーに粉砕粉を2g精秤して入れる。
(b)上記のビーカーに0.05規定酢酸40mLを加えて、室温で60分間攪拌して懸濁液を調製する。
(c)上記(b)で得た懸濁液を遠沈管に移して、5000rpmで5分間遠心分離を行った後、濾紙を用いて濾過し、濾液を回収する。
(d)上記で用いたビーカーを0.05規定酢酸40mLで洗って洗液を遠沈管に移して、5000rpmで5分間遠心分離を行った後、濾紙を用いて濾過し、濾液を回収する。
(e)上記(c)及び(d)で回収した濾液を一緒にして100mLにメスアップする。
(f)ティケーター社(スウェーデン)のケルテックオートシステムのケルダールチューブに上記(e)で得られた液体の25mLをホールピペットで入れて、分解促進剤(日本ゼネラル株式会社製「ケルタブC」;硫酸カリウム:硫酸銅=9:1(重量比))1錠及び濃硫酸15mLを加える。
(g)上記したケルテックオートシステムに組み込まれているケルテック分解炉(DIGESTION SYSTEM 20 1015型)を用いて、ダイヤル4で1時間分解処理を行い、更にダイヤル9又は10で1時間分解処理を自動的に行った後、この分解処理に続いて連続的にかつ自動的に、同じケルテックオートシステムに組み込まれているケルテック蒸留滴定システム(KJELTEC AUTO 1030型)を用いて、その分解処理を行った液体を蒸留及び滴定して(滴定には0.1規定硫酸を使用)、下記の数式1により、粉砕粉の可溶性粗蛋白質含量を求める。
(数式1)可溶性粗蛋白質含量(%)
=0.14×T×F×N×(100/S)×(1/25)
式中、
T=滴定に要した0.1規定硫酸の量(mL)
F=滴定に用いた0.1規定硫酸の力価(用時に測定するか又は力価の表示のある市販品を用いる)
N=窒素蛋白質換算係数(5.70)
S=粉砕粉の秤取量(g)
2)粉砕粉の全粗蛋白質含量の測定:
(a)上記1)で用いたのと同じティケーター社のケルテックオートシステムのケルダールチューブに、粉砕粉を0.5g精秤して入れ、これに上記1)の(f)で用いたのと同じ分解促進剤1錠及び濃硫酸5mLを加える。
(b)上記1)で用いたのと同じケルテックオートシステムのケルテック分解炉を用いて、ダイヤル9又は10で1時間分解処理を行った後、この分解処理に続いて連続的にかつ自動的に、同じケルテックオートシステムに組み込まれている上記1)で用いたのと同じケルテック蒸留滴定システムを用いて、上記で分解処理を行った液体を蒸留及び滴定して(滴定には0.1規定硫酸を使用)、下記の数式2により、粉砕粉の全粗蛋白質含量を求める。
(数式2)全粗蛋白質含量(%)=(0.14×T×F×N)/S
式中、
T=滴定に要した0.1規定硫酸の量(mL)
F=滴定に用いた0.1規定硫酸の力価(用時に測定)
N=窒素蛋白質換算係数(5.70)
S=粉砕粉の秤取量(g)
3)GVの算出:
上記1)で求めた粉砕粉の可溶性粗蛋白質含量及び上記2)で求めた粉砕粉の全粗蛋白質含量から、下記の数式3により、粉砕粉のGVを求める。
(数式3)GV(%)=(可溶性粗蛋白質含量/全粗蛋白質含量)×100
【0022】
本発明の組成物は、α化度が好ましくは40~100%、より好ましくは50~100%の範囲である。本発明の組成物のα化度がこの範囲であると、生地の食感向上の点で好ましい。本発明の組成物のα化度は、BAP法(β-アミラーゼ・プルラナーゼ法)で測定されたα化度をいう。BAP法の手順は、「澱粉化学 第28巻第4号p235~240(1981)」等に記載された公知の方法を採用することができる。例えば、本発明の組成物のα化度は、該組成物の粉砕粉を用いて、以下の手順で測定することができる。
【0023】
〔BAP法によるα化度の測定法〕
1)試薬
使用する試薬は、以下の通りである。
(a)0.8M酢酸-酢酸Na緩衝液
(b)10N水酸化ナトリウム溶液
(c)2N酢酸溶液
(d)酵素溶液:β-アミラーゼ(ナガセ生化学工業(株)#1500)0.017g及びプルラナーゼ(林原生物化学研究所、No.31001)0.17gを上記0.8M酢酸-酢酸Na緩衝液に溶かして100mLとしたもの
(e)失活酵素溶液:上記酵素溶液を10分間煮沸させて調製
(f)ソモギー試薬およびネルソン試薬(還元糖量の測定用試薬)
2)測定方法
(a)本発明の組成物をホモジナイザーで粉砕し、100メッシュ以下とする。得られた粉砕粉0.08~0.10gをガラスホモジナイザーに取る。
(b)これに脱塩水8.0mLを加え、ガラスホモジナイザーを10~20回上下させて分散を行う。
(c)2本の25mL容目盛り付き試験管に上記(b)の分散液を2mLずつとり、1本は0.8M酢酸-酢酸Na緩衝液で定容し、試験区とする。
(d)他の1本には、10N水酸化ナトリウム溶液0.2mLを添加し、50℃で3~5分間反応させ、完全に糊化させる。その後、2N酢酸溶液1.0mLを添加し、pHを6.0付近に調整した後、0.8M酢酸-酢酸Na緩衝液で定容し、糊化区とする。
(e)上記(c)及び(d)で調製した試験区および糊化区の試験液をそれぞれ0.4mLとり、それぞれに酵素溶液0.1mLを加えて、40℃で30分間酵素反応させる。同時に、ブランクとして、酵素溶液の代わりに失活酵素溶液0.1mLを加えたものも調製する。酵素反応は途中で反応液を時々攪拌させながら行う。
(f)上記反応済液0.5mLにソモギー試薬0.5mLを添加し、沸騰浴中で15分間煮沸する。煮沸後、流水中で5分間冷却した後、ネルソン試薬1.0mLを添加・攪拌し、15分間放置する。
(g)その後、脱塩水8.00mLを加えて攪拌し、500nmの吸光度を測定する。
3)α化度の算出
下記の数式によりα化度を算出する。
α化度(%)=(試験溶液の分解率)/(完全糊化試験溶液の分解率)×100
=(A-a)/(A’-a’)×100
式中、
A=試験区の吸光度
A’=糊化区の吸光度
a=試験区のブランクの吸光度
a’=糊化区のブランクの吸光度
【0024】
本発明の組成物は、ベーカリー食品、麺類などの食品用の生地の製造に用いることができる。本発明の組成物を生地原料の一部として用いることで、しっとり又はもちもちとした食感があり、歯切れがよく、かつ口溶けのよい食感を有する生地を製造することができる。例えば、生地原料(例えば穀粉及び副原料)に本発明の組成物、及び必要に応じて水分を添加し、混捏して生地を製造することができる。あるいは、原料と水分を混捏して中間生地を製造し、これに本発明の用組成物を添加し、さらに混捏して生地を製造してもよい。好ましくは、本発明の組成物を予め混捏してほぐしておき、ここに残りの生地原料を加え、混捏しながら必要に応じて水分を添加して生地を製造すると、本発明の組成物が生地中によく分散して、本発明の組成物による生地の食感向上効果がよりよく発揮され得る。
【0025】
該生地原料に含まれる穀粉としては、小麦粉、ライ麦粉、大麦粉、コーンフラワー、米粉、及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらの穀粉は、非加熱処理粉であっても、又は加熱処理粉であってもよい。該穀粉は、好ましくは小麦粉であり、より好ましくは非加熱処理小麦粉である。該小麦粉としては、食品製造に通常用いる小麦粉、例えば、強力小麦粉、準強力小麦粉、中力小麦粉、薄力小麦粉、全粒小麦粉、デュラム粉、及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。該生地原料に用いる小麦粉の種類は、製造する生地の種類によって異なり得る。例えばパン生地を製造する場合は強力小麦粉、準強力小麦粉、又はそれらの混合粉を使用することが好ましい。
【0026】
該生地原料に含まれる副原料としては、ベーカリー食品又は麺類の生地の製造に通常用いられる副原料、例えばイースト(生イースト、ドライイースト等);イーストフード;ベーキングパウダー;砂糖、ブドウ糖、果糖、転化糖、糖アルコール、水あめ、麦芽糖、乳糖等の糖類;卵または卵粉;グルテン、卵白粉等の蛋白質類;加工もしくは未加工の澱粉類;デキストリン;脱脂粉乳、全脂粉乳、チーズ粉末、ホエー粉末等の乳製品;ショートニング、バター、マーガリン、その他の動植物油等の油脂類;乳化剤、膨張剤、増粘剤、甘味料、香料、着色料、アスコルビン酸等の添加剤;食塩等の無機塩類;グルコシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、アミラーゼ、リパーゼ、ヘミセルラーゼ等の酵素類;食物繊維、などから選択されるいずれか1種又はいずれか2種以上を使用することができる。生地の製造に用いる水分としては、清水、精製水等の食用に供される水、乳、果汁などが挙げられる。
【0027】
該生地原料における本発明の組成物の含有量は、製造する生地の種類によって異なり得る。例えば、最終的に製造した生地の全固形分中における本発明の組成物の固形分量が、好ましくは2~50質量%、より好ましくは3~40質量%、さらに好ましくは4~30質量%であればよい。該生地原料における該穀粉及び副原料の含有量もまた、製造する生地の種類によって異なり得る。例えば、穀粉の含有量は、最終的に製造した生地の全固形分中、20~95質量%であればよい。
【0028】
本発明の組成物を含む生地から、ベーカリー食品、麺類などの生地食品を製造することができる。本発明による生地食品の製造方法は、本発明の組成物を含む生地を調製すること以外は、該生地食品の通常の製法に従って実施することができる。
【0029】
一例において、本発明によるベーカリー食品の製造は、ストレート法、中種法、速成法、液種法、冷凍生地法等の各種常法に従って行うことができる。例えば中種法の場合、本発明の組成物は中種、本捏のどちらの段階で添加してもよいが、本捏の段階で添加することが好ましい。次いで、本発明の組成物を配合したベーカリー食品生地を、必要に応じて発酵させ、さらに常法により成形して、その後加熱することで、ベーカリー食品を製造することができる。該加熱の方法としては、焼成、蒸し、揚げ(油ちょう)等が挙げられる。あるいは、本発明では、得られたベーカリー食品生地を、そのまま、又は発酵もしくは成形した状態で冷蔵又は冷凍保存し、必要に応じて解凍及び加熱してベーカリー食品を製造してもよい。
【0030】
別の一例において、本発明による麺類の製造は、ロール製麺法、押出製麺法等の各種常法に従って行うことができる。得られた生麺類は、そのまま調理してもよく、又は冷蔵もしくは冷凍保存してもよい。あるいは、生麺類を調理した後、冷蔵もしくは冷凍保存してもよい。あるいは、得られた生麺類を常法により乾燥させ、乾麺を製造してもよい。
【実施例】
【0031】
以下に、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
(製造例1)ベーカリー食品用組成物の製造
薄力小麦粉(日清フーズ製)100質量部に20質量部の水を添加し、エクストルーダーにフィードして50℃、20分間攪拌して湿熱処理小麦粉を調製した。得られた湿熱処理小麦粉を冷却した後、該湿熱処理小麦粉100質量部に対して水(約25℃)100質量部を添加し、攪拌して混合物を調製した。該混合物を耐熱性のアルミパウチに入れ、脱気して密封後、レトルト釜に入れて120℃、15分間加圧加熱処理した。加圧加熱後のパウチを放熱した後、そこから中身を取り出し、ベーカリー食品用組成物とした。得られたベーカリー食品用組成物の一部を取り、グルテンバイタリティ(GV)及びα化度を測定した。その結果を表1に示す。
【0033】
(製造例2~11)ベーカリー食品用組成物の製造
湿熱処理の条件又は加圧加熱処理の条件を表1のように変更した以外は、製造例1と同様の手順でベーカリー食品用組成物を製造した。得られたベーカリー食品用組成物の一部を取り、GV及びα化度を測定した。その結果を表1に示す。
【0034】
(比較例1~2)
薄力小麦粉(日清フーズ製;比較例1)又は強力小麦粉(日清フーズ製;比較例2)100質量部に20質量部の水を添加し、エクストルーダーにフィードして160℃、20分間攪拌して湿熱処理小麦粉を調製した。得られた湿熱処理小麦粉を冷却した後、該湿熱処理小麦粉100質量部に対して水(約25℃)100質量部を添加して攪拌し、得られた混合物をベーカリー食品用組成物とした。得られたベーカリー食品用組成物の一部を取り、GV及びα化度を測定した。その結果を表1に示す。
【0035】
(製造例12)ベーカリー食品用組成物の製造
薄力小麦粉(日清フーズ製)100質量部に水を添加せず、エクストルーダーにフィードして50℃、20分間攪拌して乾熱処理小麦粉を調製した。得られた乾熱処理小麦粉を冷却した後、該乾熱処理小麦粉100質量部に対して水(約25℃)100質量部を添加し、攪拌して混合物を調製した。該混合物を耐熱性のアルミパウチに入れ、脱気して密封後、レトルト釜に入れて120℃、15分間加圧加熱処理した。加圧加熱後のパウチを放熱した後、そこから中身を取り出し、ベーカリー食品用組成物とした。得られたベーカリー食品用組成物の一部を取り、GV及びα化度を測定した。その結果を表2に示す。
【0036】
(製造例13~22)ベーカリー食品用組成物の製造
乾熱処理の条件又は加圧加熱処理の条件を表2のように変更した以外は、製造例12と同様の手順でベーカリー食品用組成物を製造した。得られたベーカリー食品用組成物の一部を取り、GV及びα化度を測定した。その結果を表2に示す。
【0037】
(比較例3)
薄力小麦粉(日清フーズ製)100質量部に水を添加せず、エクストルーダーにフィードして160℃、20分間攪拌して乾熱処理小麦粉を調製した。得られた乾熱処理小麦粉を冷却した後、該乾熱処理小麦粉100質量部に対して水(約25℃)100質量部を添加して攪拌し、得られた混合物をベーカリー食品用組成物とした。得られたベーカリー食品用組成物の一部を取り、GV及びα化度を測定した。その結果を表2に示す。
【0038】
(比較例4)
薄力小麦粉(日清フーズ製)100質量部に対して水(約25℃)100質量部を添加し、攪拌して混合物を調製した。該混合物を耐熱性のアルミパウチに入れ、脱気して密封後、レトルト釜に入れて120℃、15分間加圧加熱処理した。加圧加熱後のパウチを放熱した後、そこから中身を取り出し、ベーカリー食品用組成物とした。得られたベーカリー食品用組成物の一部を取り、GV及びα化度を測定した。その結果を表3に示す。
【0039】
(比較例5~6)
薄力小麦粉(日清フーズ製)100質量部に対して水(約25℃)100質量部を添加し、攪拌して混合物を調製した。該混合物を耐熱性のアルミパウチに入れ、開封したまま湯煎し、95℃で5分間又は60分間加熱処理した。加熱後のパウチを放熱した後、そこから中身を取り出し、ベーカリー食品用組成物とした。得られたベーカリー食品用組成物の一部を取り、GV及びα化度を測定した。その結果を表3に示す。
【0040】
(比較例7~8)
薄力小麦粉(日清フーズ製)100質量部に水を添加せず、エクストルーダーにフィードして160℃、20分間攪拌して乾熱処理小麦粉を調製した。得られた乾熱処理小麦粉を冷却した後、該乾熱処理小麦粉100質量部に対して水100質量部を添加し、攪拌して混合物を調製した。該混合物を耐熱性のアルミパウチに入れ、開封したまま湯煎し、95℃で5分間又は60分間加熱処理した。加熱後のパウチを放熱した後、そこから中身を取り出し、ベーカリー食品用組成物とした。得られたベーカリー食品用組成物の一部を取り、GV及びα化度を測定した。その結果を表3に示す。
【0041】
(試験例1)パンの製造
製造例又は比較例のベーカリー食品用組成物を含む下記パン原料を用いてストレート法でコッペパンを製造した。まずボウルにベーカリー食品用組成物をいれて広げるようによくほぐした。ここに残りのパン原料を加え、ミキサーで低速3分、中速5分、低速2分の順でミキシングしてパン生地を調製した。パン生地を湿度75%、27℃で60分間発酵させた後、分割、成形し、60分間ホイロを行った後、210℃のオーブンで15分焼成してコッペパンを製造した。各コッペパンを室温になるまで放冷後、訓練されたパネラー10名に喫食させ、パンの食感を評価した。評価は下記評価基準により行い、10名の評価結果の平均値を求めた。結果を表1~3に示す。
<パン原料>
・ベーカリー食品用組成物 15質量部
・強力小麦粉(カメリヤ;日清フーズ製) 45質量部
・イースト 0.5質量部
・イーストフード 0.2質量部
・砂糖 5質量部
・塩 2質量部
・マーガリン 5質量部
・全卵 5質量部
・水 残部
合計 100質量部
【0042】
<評価基準>
(しっとり感)
5点:唇に吸い付くようなしっとり感が充分にあり、極めて良好
4点:吸い付くようなしっとり感があり、良好
3点:パサつきはないが、しっとりした感じがややある
2点:しっとりした感じが少なく、ややパサつくか、やや脆く、不良
1点:しっとりした感じが少なく、パサつくか、脆い食感が強く、極めて不良
(歯切れ、口溶け感)
5点:口中でまとわりつく感じが全くなく、歯切れが非常によく、極めて良好
4点:口中でまとわりつく感じがわずかにあるが、歯切れがよく、良好
3点:口中でまとわりつく感じがややあるが、歯切れ感がある
2点:口中でまとわりつく感じがややあり、歯切れ感にやや劣り残る感じがあり、不良
1点:口中でまとわりつく感じ、歯切れ感に劣り残る感じがあり、極めて不良
【0043】
【0044】
【0045】