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特許7598592化合物、および該化合物を含む有機半導体材料
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  • 特許-化合物、および該化合物を含む有機半導体材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】化合物、および該化合物を含む有機半導体材料
(51)【国際特許分類】
   C07D 471/04 20060101AFI20241205BHJP
   H10K 10/40 20230101ALI20241205BHJP
   H10K 85/60 20230101ALI20241205BHJP
【FI】
C07D471/04 101
C07D471/04 CSP
H10K10/40
H10K85/60
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021508907
(86)(22)【出願日】2020-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2020009093
(87)【国際公開番号】W WO2020195632
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2019061484
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】家 裕隆
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 卓司
(72)【発明者】
【氏名】萩谷 一剛
(72)【発明者】
【氏名】田中 光
(72)【発明者】
【氏名】三枝 真理奈
【審査官】神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第16/143823(WO,A1)
【文献】国際公開第18/051979(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0251922(US,A1)
【文献】特開平07-168377(JP,A)
【文献】YAMASHITA,Y. et al.,Novel electron acceptors containing thiadiazole and thiophene units,Synthetic Metals,2003年,Vol.133-134,pp.341-343,DOI 10.1016/S0379-6779(02)00332-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
H10K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される化合物。
【化1】
[式(1)中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は複素環基を示す。
mは、0~2の整数を示す。
、Aは、それぞれ独立して、下記式(Ar1)の基である。]
【化2】
[式(Ar1)で表される基は、B及びBの一方で式(1)のジヒドロテトラゾロピリジンと結合し、B及びBの他方は、下記式(2)で表される基である。
式(Ar1)中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は複素環基を示す
1は0~2の整数を示す。]
【化3】
[式(2)で表される基は、式(Ar1)で表される基とCで結合し、
式(2)中、
及びEの一方は、ニトリル基を表し、
及びEの他方は、アルコキシカルボニル基である。]
【請求項2】
サイクリックボルタンメトリー法で測定される還元電位が-3.5eV以下である請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の化合物を含む有機半導体材料。
【請求項4】
請求項3に記載の有機半導体材料を含む有機電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物、および該化合物を含む有機半導体材料に関する。
【背景技術】
【0002】
有機半導体材料は、有機エレクトロニクス分野において重要な材料の1つであり、電子供与性のp型有機半導体材料や電子受容性のn型有機半導体材料に分類できる。p型有機半導体材料やn型有機半導体材料を適切に組み合わせることによって様々な半導体素子を製造でき、このような半導体素子は、例えば、電子と正孔が再結合して形成する励起子(エキシトン)の作用により発光する有機エレクトロルミネッセンス(OEL)や、光を電力に変換する有機薄膜太陽電池、電流量や電圧量を制御する有機薄膜トランジスタなどの有機電子デバイスに応用されている。
【0003】
本発明者らは、有機半導体材料としてテトラゾロピリジン化合物を用いる技術を特許文献1に提案した。この特許文献1に開示した化合物は、テトラゾロピリジン部に、置換されていてもよい芳香族環、またはハロゲン原子が結合しており、水素原子、脂肪族炭化水素基、または脂環式炭化水素基が結合していてもよい。この化合物を用いれば、LUMO準位を低く維持したままHOMO準位を高くすることができるため、この化合物は電子受容性のn型有機半導体材料として有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/143823号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
有機半導体材料としては、上述したように、電子受容性のn型有機半導体材料も必要であり、n型有機半導体材料には、LUMO準位を低く維持したままHOMO準位も低く維持することが求められる。
【0006】
本発明の目的は、有機半導体材料、特にn型有機半導体材料として好ましく用いることができる新規の化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の発明を含む。
[1] 式(1)で表される化合物。
【化1】

[式(1)中、R1は、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は複素環基を示す。mは、0~2の整数を示す。A1、A2は、それぞれ独立して、下記式(Ar1)~式(Ar14)から選ばれるいずれかの基である。]
【化2】

[式(Ar1)~式(Ar14)で表される基は、B1及びB2の一方で式(1)のジヒドロテトラゾロピリジンと結合し、B1及びB2の他方は、下記式(2)で表される基である。式(Ar1)~式(Ar14)中、R2は、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は複素環基を示す。R3は、水素原子、又はアルキル基を示す。p1は0~2の整数、p2は0~1の整数、p3は0~4の整数、p4は0~3の整数を示す。]
【化3】

[式(2)で表される基は、式(Ar1)~式(Ar14)で表される基とC1で結合し、式(2)中、E1及びE2の一方は、ハロゲン原子、ニトリル基、ニトロ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化硫黄、エステル基、アミド基、又はアシル基を表し、E1及びE2の他方は、水素原子、炭化水素基、ハロゲン原子、ニトリル基、ニトロ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化硫黄、エステル基、アミド基、又はアシル基を表す。]
[2] サイクリックボルタンメトリー法で測定される還元電位が-3.5eV以下である[1]に記載の化合物。
[3] [1]または[2]に記載の化合物を含む有機半導体材料。
[4] [3]に記載の有機半導体材料を含む有機電子デバイス。
【発明の効果】
【0008】
本発明の化合物は、テトラゾロピリジン化合物が特定の官能基とキノイド構造を形成し、且つ電子求引性基を含んでいるため、本発明によれば、LUMO準位を低く維持したままHOMO準位も低くすることができ、有機半導体材料、特にn型有機半導体材料として有用である新規の化合物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、スピンコートして形成したOFET素子1について、130℃でアニール行った後におけるトランスファー曲線の測定結果を示すグラフである。
図2図2は、スピンコートして形成したOFET素子1について、大気中に取り出した後におけるトランスファー曲線の測定結果を示すグラフである。
図3図3は、ドロップキャストして形成したOFET素子2について、130℃でアニール行った後におけるトランスファー曲線の測定結果を示すグラフである。
図4図4は、ドロップキャストして形成したOFET素子2について、大気中に取り出した後におけるトランスファー曲線の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ジヒドロテトラゾロピリジンと、特定の官能基とがキノイド構造を形成して結合し、且つこの特定の官能基に電子求引性基が結合している化合物は、LUMO準位を低く維持したままHOMO準位も低くすることができ、有機半導体材料、特にn型有機半導体材料として有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
以下、本発明について説明する。なお、以下「式(x)で表される化合物」を、単に「化合物(x)」という場合がある。
【0012】
1.化合物
本発明の化合物は、下記式(1)で表される。
【0013】
【化4】
【0014】
式(1)中、R1は、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は複素環基を示す。mは、0~2の整数を示す。A1、A2は、それぞれ独立して、下記式(Ar1)~式(Ar14)から選ばれるいずれかの基である。
【0015】
【化5】
【0016】
式(Ar1)~式(Ar14)で表される基は、B1及びB2の一方で式(1)のジヒドロテトラゾロピリジンと結合し、B1及びB2の他方は、下記式(2)で表される基である。式(Ar1)~式(Ar14)中、R2は、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は複素環基を示す。R3は、水素原子、又はアルキル基を示す。p1は0~2の整数、p2は0~1の整数、p3は0~4の整数、p4は0~3の整数を示す。
【0017】
【化6】
【0018】
式(2)で表される基は、式(Ar1)~式(Ar14)で表される基とC1で結合し、式(2)中、E1及びE2の一方は、ハロゲン原子、ニトリル基、ニトロ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化硫黄、エステル基、アミド基、又はアシル基を表し、E1及びE2の他方は、水素原子、炭化水素基、ハロゲン原子、ニトリル基、ニトロ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化硫黄、エステル基、アミド基、又はアシル基を表す。
【0019】
まず、上記式(1)のR1について説明する。
【0020】
式(1)において、mが2の場合は、R1のそれぞれは、同一でも異なっていてもよい。mが1の場合は、R1は、3位または4位のいずれの位置に結合してもよい。mは、好ましくは0~1の整数である。
【0021】
(ハロゲン原子)
1のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、好ましくはフッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子であり、より好ましくはフッ素原子である。
【0022】
(脂肪族炭化水素基)
1の脂肪族炭化水素基は、直鎖状又は分岐鎖状のいずれであってもよい。
【0023】
1の脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基であるアルキル基、或いはアルケニル基、アルキニル基等の不飽和脂肪族炭化水素基のいずれであってもよく、アルキル基が好ましい。R1の脂肪族炭化水素基の炭素数は1~30が好ましい。R1の脂肪族炭化水素基の炭素数は、より好ましくは1~24であり、更に好ましくは1~20である。
【0024】
1の脂肪族炭化水素基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、1-n-ブチルブチル基、1-n-プロピルペンチル基、1-エチルヘキシル基、2-エチルヘキシル基、3-エチルヘキシル基、4-エチルヘキシル基、1-メチルヘプチル基、2-メチルヘプチル基、6-メチルヘプチル基、2,4,4-トリメチルペンチル基、2,5-ジメチルヘキシル基、n-ノニル基、1-n-プロピルヘキシル基、2-n-プロピルヘキシル基、1-エチルヘプチル基、2-エチルヘプチル基、1-メチルオクチル基、2-メチルオクチル基、6-メチルオクチル基、2,3,3,4-テトラメチルペンチル基、3,5,5-トリメチルヘキシル基、n-デシル基、1-n-ペンチルペンチル基、1-n-ブチルヘキシル基、2-n-ブチルヘキシル基、1-n-プロピルヘプチル基、1-エチルオクチル基、2-エチルオクチル基、1-メチルノニル基、2-メチルノニル基、3,7-ジメチルオクチル基、n-ウンデシル基、1-n-ブチルヘプチル基、2-n-ブチルヘプチル基、1-n-プロピルオクチル基、2-n-プロピルオクチル基、1-エチルノニル基、2-エチルノニル基、n-ドデシル基、1-n-ペンチルヘプチル基、2-n-ペンチルヘプチル基、1-n-ブチルオクチル基、2-n-ブチルオクチル基、1-n-プロピルノニル基、2-n-プロピルノニル基、n-トリデシル基、1-n-ペンチルオクチル基、2-n-ペンチルオクチル基、1-n-ブチルノニル基、2-n-ブチルノニル基、1-メチルデシル基、2-メチルデシル基、n-テトラデシル基、1-n-ヘプチルヘプチル基、1-n-ヘキシルオクチル基、2-n-ヘキシルオクチル基、1-n-ペンチルノニル基、2-n-ペンチルノニル基、n-ペンタデシル基、1-n-ヘプチルオクチル基、1-n-ヘキシルノニル基、2-n-ヘキシルノニル基、n-ヘキサデシル基、2-ヘキシルデシル基、1-n-オクチルオクチル基、1-n-ヘプチルノニル基、2-n-ヘプチルノニル基、n-ヘプタデシル基、1-n-オクチルノニル基、n-オクタデシル基、1-n-ノニルノニル基、n-ノナデシル基、n-エイコシル基、2-オクチルドデシル基、n-ヘンエイコシル基、n-ドコシル基、n-トリコシル基、n-テトラコシル基、2-デシルテトラデシル基等が挙げられる。
【0025】
(脂環式炭化水素基)
1の脂環式炭化水素基は、単環、多環のいずれであってもよい。
【0026】
1の脂環式炭化水素基は、飽和脂環式炭化水素基であるシクロアルキル基、或いはシクロアルケニル基、シクロアルキニル基等の不飽和脂環式炭化水素基のいずれであってもよく、シクロアルキル基が好ましい。R1の脂環式炭化水素基の炭素数は3~30が好ましい。R1の脂環式炭化水素基の炭素数は、より好ましくは3~20であり、更に好ましくは3~14である。
【0027】
1の脂環式炭化水素基としては、具体的には、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基等の単環式のシクロアルキル基;ビシクロヘキシル基、ビシクロヘプチル基、ビシクロオクチル基等の多環式のシクロアルキル基等が挙げられる。
【0028】
(芳香族炭化水素基)
1の芳香族炭化水素基は、単環、多環のいずれであってもよい。R1の芳香族炭化水素基の炭素数は3~30が好ましい。R1の芳香族炭化水素基の炭素数は、より好ましくは5~20であり、更に好ましくは6~14である。R1の芳香族炭化水素基としては、具体的には、フェニル基、ナフチル基、フェナントレン基等が挙げられる。
【0029】
(複素環基)
1の複素環基としては、例えば、チオフェン環、チアゾール環、ピリジン環、ピロール環、イミダゾール環、フラン環、オキサゾール環等が好ましい。
【0030】
中でもR1としては、水素原子、又はハロゲン原子が好ましく、より好ましくは水素原子である。
【0031】
次に、上記式(1)のA1、A2について説明する。A1、A2は、それぞれ独立して、下記式(Ar1)~式(Ar14)から選ばれるいずれかの基である。
【0032】
【化7】
【0033】
1およびA2として選ばれる式(Ar1)~式(Ar14)で表される基は、同一でもよいし、異なっていてもよく、同一であることが好ましい。
【0034】
式(Ar1)~式(Ar14)で表される基は、B1及びB2の一方で式(1)のジヒドロテトラゾロピリジンと結合し、B1及びB2の他方は、下記式(2)で表される基である。
【0035】
【化8】
【0036】
式(2)で表される基は、式(Ar1)~式(Ar14)で表される基とC1で結合する。式(2)中、E1及びE2の一方は、ハロゲン原子、ニトリル基、ニトロ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化硫黄、エステル基、アミド基、又はアシル基を表し、E1及びE2の他方は、水素原子、炭化水素基、ハロゲン原子、ニトリル基、ニトロ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化硫黄、エステル基、アミド基、又はアシル基を示す。上記E1及びE2の少なくとも一方が必ず有するハロゲン原子、ニトリル基、ニトロ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化硫黄、エステル基、アミド基、又はアシル基は、電子求引性基である。このようにジヒドロテトラゾロピリジンと、式(Ar1)~式(Ar14)で表される特定の官能基とがキノイド構造を形成し、且つこの特定の官能基に、電子求引性基が結合することによって、LUMO準位およびHOMO準位の両方が低くなる。
【0037】
式(Ar1)~式(Ar14)中、R2は、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は複素環基を示す。R2のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、好ましくはフッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子であり、より好ましくはフッ素原子である。R2の脂肪族炭化水素基としては、上記R1の脂肪族炭化水素基として例示した基が挙げられ、炭素数は、好ましくは1~30、より好ましくは1~24、更に好ましくは1~20である。R2の脂環式炭化水素基としては、上記R1の脂環式炭化水素基として例示した基が挙げられ、炭素数は、好ましくは1~30、より好ましくは3~20、更に好ましくは3~14である。R2の芳香族炭化水素基としては、上記R1の芳香族炭化水素基として例示した基が挙げられ、炭素数は、好ましくは6~30、より好ましくは6~20、更に好ましくは6~14である。R2の複素環基としては、上記R1の複素環基として例示した基が挙げられる。
【0038】
式(Ar1)~式(Ar14)中、p1は0~2の整数、p2は0~1の整数、p3は0~4の整数、p4は0~3の整数を示す。p1、p3、p4は、それぞれ、0~1の整数がより好ましい。
【0039】
3は、水素原子、又はアルキル基を表す。R3のアルキル基としては、R1の脂肪族炭化水素基として例示したアルキル基と同様の基が挙げられ、炭素数は、好ましくは1~30、より好ましくは1~24、更に好ましくは1~20である。
【0040】
式(Ar1)~(Ar14)の中でも、式(Ar1)~式(Ar4)、式(Ar7)~式(A14)が好ましく、より好ましくは式(Ar1)~式(Ar4)、式(Ar11)、式(Ar12)であり、更に好ましくは式(Ar1)、式(Ar3)、式(Ar11)であり、特に好ましくは式(Ar1)である。
【0041】
式(2)中、E1及びE2の一方は、ハロゲン原子、ニトリル基、ニトロ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化硫黄、エステル基、アミド基、又はアシル基を表す。
【0042】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、好ましくはフッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子であり、より好ましくはフッ素原子である。式(2)で表される基が、2つのハロゲン原子を有するとき、両者は同一でも異なっていてもよい。
【0043】
ハロゲン化アルキル基としては、R1の脂肪族炭化水素基として例示したアルキル基の水素原子がフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子で置換された基が挙げられ、炭素数は、好ましくは1~30、より好ましくは1~10、さらに好ましくは1~4である。炭素数が小さいほど結晶化しやすく、LUMO準位が低下する傾向があり、炭素数が大きいほど溶媒に溶解しやすく、LUMO準位が高くなる傾向がある。中でも、フッ化アルキル基が好ましく、より好ましくはパーフルオロアルキル基である。パーフルオロアルキル基としては、具体的には、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ノナフルオロブチル基等が挙げられ、トリフルオロメチル基が特に好ましい。式(2)で表される基が、2つのハロゲン化アルキル基を有するとき、両者は同一でも異なっていてもよい。
【0044】
ハロゲン化硫黄としては、フッ化硫黄が好ましく、より好ましくは五フッ化硫黄(SF5)である。式(2)で表される基が、2つのハロゲン化硫黄を有するとき、両者は同一でも異なっていてもよい。
【0045】
エステル基としては、例えば、カルボキシル基またはアルコキシカルボニル基が挙げられ、アルコキシカルボニル基が好ましい。アルコキシ基は、直鎖であってもよいし、分岐鎖であってもよい。アルコキシ基の炭素数は、好ましくは1~15、より好ましくは3~10である。炭素数が小さいほど結晶化しやすく、LUMO準位が低下する傾向があり、炭素数が大きいほど溶媒に溶解しやすく、LUMO準位が高くなる傾向がある。式(2)で表される基が、2つのエステル基を有するとき、両者は同一でも異なっていてもよい。
【0046】
上記E1とE2は、E1及びE2の一方がニトリル基であり、E1及びE2の他方がエステル基(特に、アルコキシカルボニル基)であることが好ましい。
【0047】
式(2)のE1及びE2の他方は、E1及びE2の一方と同じであるか、異なっていてもよく、ハロゲン原子、ニトリル基、ニトロ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化硫黄、エステル基、アミド基、又はアシル基であってもよいし、水素原子または炭化水素基であってもよい。上記炭化水素基としては、例えば、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基が挙げられる。
【0048】
1として選択される式(Ar1)~式(Ar14)に結合しているE1とE2は、A2として選択される式(Ar1)~式(Ar14)に結合しているE1とE2と、それぞれ同じであってもよいし、異なっていてもよく、E1とE2で、それぞれ同じであることが好ましい。
【0049】
本発明に係る化合物は、サイクリックボルタンメトリー法で測定される還元電位が-3.5eV以下である。そのため酸素と反応しにくく、良好な安定性を示し、大気中でも電子の移動度が高くなる。
【0050】
2.製造方法
本発明に係る化合物の製造方法の概要は、下記スキームで表される。
【0051】
【化9】
【0052】
式中、R1、m、A1、A2は、それぞれ上記と同義である。A11、A12は、それぞれ独立して、下記式(Ar21)~式(Ar34)から選ばれるいずれかの基である。
【0053】
【化10】
【0054】
式(Ar21)~式(Ar34)中、R2、p1、p2、p3、p4、R3は、それぞれ、上記と同義である。式(Ar21)~式(Ar34)で表される基は、B11及びB12の一方で式(1)のジヒドロテトラゾロピリジンと結合し、B11及びB12の他方は水素原子である。A21は、上記A11に対応し、A22は、上記A12に対応している。Xは、ハロゲン原子を示し、Xは、式(II)における他方のB11またはB12に結合している。
【0055】
本発明に係る化合物(1)は、化合物(I)をハロゲン化(ハロゲン化工程:工程1)して化合物(II)を得て、この化合物(II)に、電子求引性基を結合した後、酸化剤と反応させてキノイド構造とすることによって製造できる(電子求引性基導入・酸化工程:工程2)。
【0056】
以下、各工程について説明する。
【0057】
2-1.ハロゲン化工程(工程1)
工程1では、上記化合物(I)をハロゲン化することによって、上記化合物(II)を得ることができる。
【0058】
式(I)中、A11、A12は、それぞれ独立して、上記式(Ar21)~式(Ar34)から選ばれるいずれかの基である。
【0059】
ハロゲン化は、種々の方法によって行うことができ、例えば、化合物(I)を、酸の共存下で、ハロゲン化試薬と接触させることによって行うことができる。
【0060】
上記酸としては、酢酸等の有機酸が好ましく、上記ハロゲン化試薬としては、N-ブロモスクシンイミド、N-クロロスクシンイミド、ピリジン臭素錯体塩、臭素、塩素等が好ましい。
【0061】
ハロゲン化工程は、溶媒の存在下で行えばよく、反応溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロプロパン等のハロゲン系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒;ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタンなどの炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの芳香族系溶媒;等が好ましい。
【0062】
2-2.電子求引性基導入・酸化工程(工程2)
工程2では、上記工程1で得られた化合物(II)に、強塩基の存在下で、下記式(3)を反応させた後、酸化剤と反応させることによって上記化合物(1)を製造できる。
【0063】
【化11】
【0064】
上記強塩基としては、例えば、水素化ナトリウムなどのヒドリド発生剤;リチウムブトキシド、カリウムブトキシドなどの金属アルコキシド;水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、n-BuLi、リチウムジイソプロピルアミドなどが挙げられる。
【0065】
上記化合物(II)と上記式(3)を接触させる際には、触媒を共存させることが好ましい。
【0066】
上記触媒としては、金属触媒が挙げられ、例えば、パラジウム系触媒、ニッケル系触媒、鉄系触媒、銅系触媒、ロジウム系触媒、ルテニウム系触媒などの遷移金属触媒が挙げられる。中でも、パラジウム系触媒が好ましい。
【0067】
上記パラジウム系触媒としては、塩化パラジウム(II)、臭化パラジウム(II)、ヨウ化パラジウム(II)、酸化パラジウム(II)、硫化パラジウム(II)、テルル化パラジウム(II)、水酸化パラジウム(II)、セレン化パラジウム(II)、パラジウムシアニド(II)、パラジウムアセテート(II)、パラジウムトリフルオロアセテート(II)、パラジウムアセチルアセトナート(II)、ジアセテートビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)[Pd(PPh34]、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム(II)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)、ジクロロ[1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム(II)、ジクロロ[1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]パラジウム(II)、ジクロロ[1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン]パラジウム(II)、ジクロロ[1,1-ビス(ジフェニルホスフィノフェロセン)]パラジウム(II)、ジクロロ[1,1-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロロメタン付加体、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム付加体、ジクロロ[1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾール-2-イリデン](3-クロロピリジル)パラジウム(II)、ビス(トリ-tert-ブチルホスフィン)パラジウム(0)、ジクロロ[2,5-ノルボルナジエン]パラジウム(II)、ジクロロビス(エチレンジアミン)パラジウム(II)、ジクロロ(1,5-シクロオクタジエン)パラジウム(II)、ジクロロビス(メチルジフェニルホスフィン)パラジウム(II)が挙げられる。これらの触媒は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。中でも、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)[Pd(PPh34]、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジクロロ[1,1-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロロメタン付加体、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)、又はトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム付加体が好ましく、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)[Pd(PPh34]、又はジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)がより好ましい。
【0068】
また、上記化合物(II)と上記式(3)を接触させる際には、配位子を配位させてもよい。
【0069】
上記配位子としては、例えば、有機リン化合物、有機アミン化合物、π共役系化合物(含窒素芳香族性化合物)などを用いることができる。
【0070】
上記配位子としては、例えば、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリ(n-ブチル)ホスフィン、トリ(イソプロピル)ホスフィン、トリ(tert-ブチル)ホスフィン、トリ-tert-ブチルホスホニウムテトラフルオロボラート、ビス(tert-ブチル)メチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、ジフェニル(メチル)ホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス(o-トリル)ホスフィン、トリス(m-トリル)ホスフィン、トリス(p-トリル)ホスフィン、トリス(2-フリル)ホスフィン、トリス(2-メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(3-メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(4-メトキシフェニル)ホスフィン、2-ジシクロヘキシルホスフィノビフェニル、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’-メチルビフェニル、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,4’,6’-トリイソプロピル-1,1’-ビフェニル、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ジメトキシ-1,1’-ビフェニル、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’-(N,N’-ジメチルアミノ)ビフェニル、2-ジフェニルホスフィノ-2’-(N,N’-ジメチルアミノ)ビフェニル、2-(ジ-tert-ブチル)ホスフィノ-2’-(N,N’-ジメチルアミノ)ビフェニル、2-(ジ-tert-ブチル)ホスフィノビフェニル、2-(ジ-tert-ブチル)ホスフィノ-2’-メチルビフェニル、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,2-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)エタン、1,3-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)プロパン、1,4-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)ブタン、1,2-ビスジフェニルホスフィノエチレン、1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン[dppf]、1,2-エチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、2,2’-ビピリジル、1,3-ジフェニルジヒドロイミダゾリリデン、1,3-ジメチルジヒドロイミダゾリリデン、ジエチルジヒドロイミダゾリリデン、1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)ジヒドロイミダゾリリデン、1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)ジヒドロイミダゾリリデン、1,10-フェナントロリン、5,6-ジメチル-1,10-フェナントロリン、バトフェナントロリンが挙げられる。上記配位子は、一種のみを用いてもよく、二種以上を用いてもよい。中でも、トリフェニルホスフィン、トリス(o-トリル)ホスフィン、トリス(2-メトキシフェニル)ホスフィン、又は1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン[dppf]が好ましい。
【0071】
上記化合物(II)に、強塩基の存在下で、上記式(3)を反応させた後は、酸化剤と接触させることによって、キノイド構造を形成でき、本発明に係る化合物(1)が得られる。
【0072】
上記酸化剤としては、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン(DDQ)メタクロロ過安息香酸等の過カルボン酸などを用いることができる。
【0073】
上記酸化剤の量は、化合物(II)に電子求引性基を結合させた化合物1モルに対して、0.1モル以上、10モル以下であることが好ましい。
【0074】
3.有機半導体材料
本発明に係る化合物(1)は、LUMO準位およびHOMO準位の両方が低いため、有機半導体材料、特にn型有機半導体材料として好ましく用いることができる。また、本発明に係る化合物(1)は、酸化されにくいため、大気中でも安定であり、大気中でも良好な電子移動度を示す。
【0075】
4.有機電子デバイス
本発明に係る有機半導体材料は、例えば、電子と正孔が再結合して形成する励起子(エキシトン)の作用により発光する有機エレクトロルミネッセンス(OEL)や、光を電力に変換する有機薄膜太陽電池、電流量や電圧量を制御する有機薄膜トランジスタなどの有機電子デバイスの材料として好適に用いることができる。
【0076】
本願は、2019年3月27日に出願された日本国特許出願第2019-061484号に基づく優先権の利益を主張するものである。上記日本国特許出願第2019-061484号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例
【0077】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限を受けるものではなく、前記および後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下においては、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0078】
(合成例1)
窒素雰囲気下で、下記スキームに示した化合物2(352mg、2.08mmol)とNaH(166mg、4.16mmol、60% in oil)を1,4-ジオキサン溶媒(2mL)中に0℃で加えた後、室温で30分撹拌した。この溶液に、下記スキームに示した化合物1(92mg、0.208mmol)、Pd(PPh34(36mg、0.0312mmol)、dppf(1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、35mg、0.0624mmol)を加えた後、還流条件下で2時間反応させた。反応後、冷却してから1NのHCl(4mL)とクロロホルム(2mL)を加えて10分撹拌した。撹拌後、DDQ(2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン、71mg、0.312mmol)を室温で加えてさらに5分撹拌した。反応終了後、水と飽和食塩水で洗浄し、有機層をNa2SO4で乾燥させた。溶媒を減圧下で除去した後、塩化メチレンとヘキサンで再結晶を行った。さらに、分取液体クロマトグラフィで精製を行い、下記スキームに示した目的化合物3を19mg(収率15%)の黒色固体で得た。
1H NMR(400MHz、CDCl3):9.18-9.00(m),7.71-7.65(m),7.51-7.21(m),4.37-4.33(m),1.81-1.78(m),1.52-1.46(m),1.45-1.34(m),0.93-0.90(m).
MALDI TOF-MS:616.25.
【0079】
【化12】
【0080】
(合成例2)
窒素雰囲気下で、下記スキームに示した化合物4(410mg、2.08mmol)とNaH(166mg、4.16mmol、60% in oil)を1,4-ジオキサン溶媒(2mL)中に0℃で加えた後、室温で30分撹拌した。この溶液に、下記スキームに示した化合物1(92mg、0.208mmol)、Pd(PPh34(36mg、0.0312mmol)、dppf(35mg、0.0624mmol)を加えた後、還流条件下で2時間反応させた。反応後、冷却してから1NのHCl(4mL)とクロロホルム(2mL)を加えて10分撹拌した。撹拌後、DDQ(71mg、0.312mmol)を室温で加えてさらに5分撹拌した。反応終了後、水と飽和食塩水で洗浄し、有機層をNa2SO4で乾燥させた。溶媒を減圧下で除去した後、塩化メチレンとヘキサンで再結晶を行った。さらに、分取液体クロマトグラフィで精製を行い、下記スキームに示した目的化合物5を54mg(収率39%)の黒色固体で得た。
1H NMR(400MHz、CDCl3):9.18-9.00(m),7.66-7.64(m),7.51-7.26(m),4.38-4.33(m),1.82-1.78(m),1.52-1.46(m),1.45-1.29(m),0.89-0.87(m).
MALDI TOF-MS:672.46.
【0081】
【化13】
【0082】
(合成例3)
窒素雰囲気下で、下記スキームに示した化合物6(410mg、2.08mmol)とNaH(166mg、4.16mmol、60% in oil)を1,4-ジオキサン溶媒(2mL)中に0℃で加えた後、室温で30分撹拌した。この溶液に、下記スキームに示した化合物1(92mg、0.208mmol)、Pd(PPh34(36mg、0.0312mmol)、dppf(35mg、0.0624mmol)を加えた後、還流条件下で2時間反応させた。反応後、冷却してから1NのHCl(4mL)とクロロホルム(2mL)を加えて10分撹拌した。撹拌後、DDQ(71mg、0.312mmol)を室温で加えてさらに5分撹拌した。反応終了後、水と飽和食塩水で洗浄し、有機層をNa2SO4で乾燥させた。溶媒を減圧下で除去した後、塩化メチレンとヘキサンで再結晶を行った。さらに、分取液体クロマトグラフィで精製を行い、下記スキームに示した目的化合物7を43mg(収率31%)の黒色固体で得た。
1H NMR(400MHz、CDCl3):9.17-9.10(m),7.88-7.26(m),4.33-4.23(m),1.82-1.75(m),1.52-1.33(m),0.95-0.92(m).
MALDI TOF-MS:673.30.
【0083】
【化14】
【0084】
(合成例4)
窒素雰囲気下で、下記スキームに示した化合物8(476mg、1.87mmol)とm-CPBA(2.31g、9.35mmol)を塩化メチレン溶媒(15mL)中に室温で加えた後、40℃で3日撹拌した。撹拌後、飽和重曹水でクエンチした後、有機層を抽出した。水と飽和食塩水で洗浄し、有機層をNa2SO4で乾燥させた。溶媒を減圧下で除去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(ヘキサン:塩化メチレン=1:1)で単離精製を行い、下記スキームに示した化合物9を230mg(収率45%)の白色固体で得た。
1H NMR(400MHz、CDCl3):8.38(m),7.26(m).
【0085】
【化15】
【0086】
次に、窒素雰囲気下で、上記スキームに示した化合物9(300mg、1.11mmol)と2-トリブチルスタニルチオフェン(994mg、2.66mmol、2.4eq.)、Pd(PPh34(128mg、0.11mmol、0.1eq.)をトルエン溶媒(3.5mL)中に室温で加えた後、マイクロウエーブ照射下、180℃で20分反応を行った。有機溶媒を減圧留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(ヘキサン:酢酸エチル:塩化メチレン=1:1:2)で単離精製を行い、下記スキームに示した化合物10を236mg(収率77%)の黄色固体で得た。
1H NMR(400MHz、CDCl3):8.54(m),8.18(m),7.65(m),7.44(m),7.41(m),7.26(m),7.16(m).
【0087】
【化16】
【0088】
次に、窒素雰囲気下で、上記スキームに示した化合物10(158mg、0.57mmol)とDPPA(1.57g、5.70mmol、10.0eq.)をピリジン溶媒(451mg)中に加えて、120℃で4日間撹拌した。撹拌後、有機溶媒を減圧留去してから、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(ヘキサン:塩化メチレン=2:3)で単離精製を行い、下記スキームに示した化合物11を74mg(収率43%)の黄色固体で得た。
1H NMR(400MHz、CDCl3):8.52(m),8.44(m),7.87(m),7.75(m),7.57(m),7.34(m),7.27(m).
【0089】
【化17】
【0090】
次に、窒素雰囲気下で、上記スキームに示した化合物11(100mg、0.33mmol)とNBS(147mg、0.83mmol、2.5eq.)をクロロホルム/酢酸(5/1)溶媒(10mL)中に室温で加えた後、60℃で24時間反応を行った。飽和重曹水でクエンチした後、有機層を抽出した。水と飽和食塩水で洗浄し、有機層をNa2SO4で乾燥させた。有機溶媒を減圧留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(塩化メチレン)で単離精製を行い、下記スキームに示した化合物12を133mg(収率87%)の黄色固体で得た。
1H NMR(400MHz、CDCl3):8.25(m),8.15(m),7.76(m),7.59(m),7.31(m).
【0091】
【化18】
【0092】
次に、窒素雰囲気下で、下記スキームに示した化合物2(352mg、2.08mmol)とNaH(166mg、4.16mmol、60% in oil)を1,4-ジオキサン溶媒(2mL)中に0℃で加えた後、室温で30分撹拌した。下記スキームに示した化合物12(96mg、0.208mmol)、Pd(PPh34(36mg、0.0312mmol)、dppf(35mg、0.0624mmol)をこの溶液に加えた後、還流条件下で2時間反応させた。冷却後、1NのHCl(4mL)とクロロホルム(2mL)を加えて10分撹拌を行った。DDQ(71mg、0.312mmol)を室温で加えてさらに5分撹拌した。反応終了後、水と飽和食塩水で洗浄し、有機層をNa2SO4で乾燥させた。溶媒を減圧下で除去した後、塩化メチレンとヘキサンで再結晶を行った。さらに、分取液体クロマトグラフィで精製を行い、下記スキームに示した目的化合物13を11mg(収率8%)の黒色固体で得た。
1H NMR(400MHz、CDCl3):9.29-9.13(m),7.60-7.59(m),4.36-4.19(m),1.80-1.76(m),1.49-1.34(m),0.96-0.90(m).
MALDI TOF-MS:635.31.
【0093】
【化19】
【0094】
(合成例5)
窒素雰囲気下で、下記スキームに示した化合物13(499.5mg、2.08mmol)とNaH(166mg、4.16mmol、60% in oil)を1,4-ジオキサン溶媒(2.5mL)中に0℃で加えた後、室温で120分攪拌した。この溶液に、下記スキームに示した化合物1(92mg、0.208mmol)、Pd(PPh34(36mg、0.0312mmol)、dppf(1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、35mg、0.0624mmol)を加えた後、還流条件下で2時間反応させた。反応後、冷却してから1NのHCl(4mL)とクロロホルム(2mL)を加えて10分攪拌した。撹拌後、DDQ(2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン、71mg、0.312mmol)を室温で加えてさらに5分攪拌した。反応終了後、水と飽和食塩水で洗浄し、有機層をNa2SO4で乾燥させた。溶媒を減圧下で除去した後、塩化メチレンとヘキサンで再結晶を行った。さらに、分取液体クロマトグラフィで精製を行い、下記スキームに示した目的化合物14を17mg(収率10.7%)の黒色固体で得た。
1H NMR(400MHz、CDCl3):9.18-9.00(m),7.66-7.65(m),7.51-7.21(m),4.34-4.29(m),1.80-1.77(m),1.51-1.44(m),1.44-1.33(m),0.93-0.90(m).
MALDI TOF-MS:758.31.
【化20】
【0095】
(合成例6)
窒素雰囲気下で、下記スキームに示した化合物15(919.0mg、2.05mmol)とNaH(166mg、4.16mmol、60% in oil)を1,4-ジオキサン溶媒(2mL)中に0℃で加えた後、室温で120分攪拌した。この溶液に、下記スキームに示した化合物1(92mg、0.208mmol)、Pd(PPh34(36mg、0.0312mmol)、dppf(1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、35mg、0.0624mmol)を加えた後、還流条件下で2時間反応させた。反応後、冷却してから1NのHCl(4mL)とクロロホルム(2mL)を加えて10分攪拌した。撹拌後、DDQ(2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン、71mg、0.312mmol)を室温で加えてさらに5分攪拌した。反応終了後、水と飽和食塩水で洗浄し、有機層をNa2SO4で乾燥させた。溶媒を減圧下で除去した後、塩化メチレンとヘキサンで再結晶を行った。さらに、分取液体クロマトグラフィで精製を行い、下記スキームに示した目的化合物16を22mg(収率9.1%)の黒色固体で得た。
1H NMR(400MHz、CDCl3):9.18-8.98(m),7.55-7.45(m),7.46-7.15(m),4.35-4.28(m),1.80-1.77(m),1.51-1.45(m),1.44-1.33(m),0.93-0.90(m).
MALDI TOF-MS:1159.25.
【化21】
【0096】
次に、上記合成例1で得られた目的化合物3について、各種特性を評価した。
【0097】
(X線回折、原子間力顕微鏡による観察)
上記目的化合物3のX線回折(XRD)を行った。また、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察を行った。その結果、上記目的化合物3は、結晶化していた。
【0098】
(熱重量分析測定:TGA)
上記目的化合物3について、熱重量分析装置(島津製作所社製、「TGA-50」)を用いて熱重量分析測定を行った。測定には、アルミパンを用い、窒素雰囲気下で、20℃から500℃まで測定した。その結果、重量減少開始温度は、254℃であった。この結果から、上記目的化合物3は、200℃以上まで安定でありデバイスの作製に用いることができると考えられる。
【0099】
(紫外可視吸収スペクトル測定:UV-VIS)
上記目的化合物3(0.1M)のジクロロメタン溶液を調製し、紫外・可視分光装置(島津製作所社製、「UV-3100PC」)を用いて紫外可視吸収スペクトル測定を行った。測定には、光路長1cmのセルを用いた。その結果、600nm付近に吸収ピークが認められた。
【0100】
また、測定したλonsetの値を下記表1に示す。またλonsetの値に基づいて算出したEg opt(=1240/λonset)の値を下記表1に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
上記表1から明らかなように、Eg optが小さいため、上記目的化合物3は、有機薄膜太陽電池の材料として好適に用いることができる。
【0103】
(サイクリックボルタンメトリー:CV)
上記目的化合物3について、サイクリックボルタンメトリー測定装置(BAS社製、「CV-620C voltammetric analyzer」)を用い、溶媒としてo-ジクロロベンゼン/MeCN(5:1)混合溶媒を用いて、サイクリックボルタンメトリー測定を行った。Ered 1/2の値を測定した結果、-0.50eVであり、Eox 1/2の値を測定した結果、0.96eVであり、これらの値に基づいてELUMO(=-(Ered 1/2+4.80))およびEHOMO(=-(Eox 1/2+4.80))の値を算出した。算出結果を上記表1に併せて示す。
【0104】
上記表1から明らかなように、上記目的化合物3は、LUMO準位を低く維持したままHOMO準位を低くすることができることが分かる。
【0105】
(OFET測定1)
オゾン処理したシリコン基板上を、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)を用いて処理した。処理後の基板表面に、上記目的化合物3を、0.1質量%の濃度となるようにクロロホルムに溶解した溶液をスピンコート(1000rpm、1分間)して、ボトムゲート-ボトムコンタクト型のOFET素子1を作製し、OFET測定1を行った。チャンネル長さは5μmとした。次に、得られたOFET素子1を100℃で1時間アニールし、真空中(10-4Pa)で、同様の方法でOFET測定1を行った。測定後、130℃で1時間アニールし、真空中(10-4Pa)で、同様の方法でOFET測定1を行った。測定後、150℃で1時間アニールし、真空中(10-4Pa)で、同様の方法でOFET測定1を行った。測定後、大気中に取り出し、同様の方法でOFET測定1を行った。得られた結果を下記表2に示す。μeは、電子移動度を示している。
【0106】
【表2】
【0107】
また、130℃でアニールを行った後における測定結果を図1、大気中に取り出した後における測定結果を図2に示す。図1に示した曲線1a、図2に示した曲線2aは、ION/IOFFの結果を示し、図1に示した曲線1b、図2に示した曲線2bは、μeの結果を示す。
【0108】
表2、図1図2から明らかなように、150℃でアニールを行っても化合物が分解することなく、良好な電子移動特性を示すことが分かった。また、150℃でアニールした後、大気中に取り出しても電子移動特性を示すことが分かった。従って上記目的化合物3は、酸素の影響を受けにくく、安定性に優れることが分かる。
【0109】
(OFET測定2)
上記OFET測定1で準備した基板表面に、上記目的化合物3を、0.1質量%の濃度となるようにクロロホルムに溶解した溶液をドロップキャスト(滴下)して、ボトムゲート-ボトムコンタクト型のOFET素子2を作製し、OFET測定2を行った。チャンネル長さは5μmとした。次に、上記OFET測定1と同様に、100℃、130℃、150℃でアニールし、OFET測定2を行った。また、上記OFET測定1と同様に、大気中に取り出し、OFET測定2を行った。得られた結果を上記表2に併せて示す。
【0110】
また、130℃でアニールを行った後における測定結果を図3、大気中に取り出した後における測定結果を図4に示す。図3に示した曲線3a、図4に示した曲線4aは、ION/IOFFの結果を示し、図3に示した曲線3b、図4に示した曲線4bは、μeの結果を示す。
【0111】
表2、図3図4から明らかなように、150℃でアニールを行っても化合物が分解することなく、良好な電子移動特性を示すことが分かった。また、150℃でアニールした後、大気中に取り出しても電子移動特性を示すことが分かった。従って上記目的化合物3は、酸素の影響を受けにくく、安定性に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明に係る化合物は、LUMO準位を低く維持したままHOMO準位も低くすることができるため、有機半導体材料、特にn型有機半導体材料として有用である。
図1
図2
図3
図4