(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】ラマン分光測定装置、ラマン分光測定方法および表面増強ラマン散乱デバイス
(51)【国際特許分類】
G01N 21/65 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
G01N21/65
(21)【出願番号】P 2020163256
(22)【出願日】2020-09-29
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三澤 弘明
(72)【発明者】
【氏名】押切 友也
(72)【発明者】
【氏名】石 旭
(72)【発明者】
【氏名】臧 瀟倩
(72)【発明者】
【氏名】上野 貢生
(72)【発明者】
【氏名】笹木 敬司
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-190912(JP,A)
【文献】特開2009-115492(JP,A)
【文献】特開2014-190915(JP,A)
【文献】特開2016-128814(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62 - G01N 21/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面増強ラマン散乱デバイスと、
前記表面増強ラマン散乱デバイスに励起光を照射する光源と、
前記表面増強ラマン散乱デバイスからのラマン散乱光を分光する分光器と、
前記分光器により分光されたラマン散乱光を検出する検出器と、
を有し、
前記表面増強ラマン散乱デバイスは、
光反射層と、
前記光反射層上に配置された誘電体層と、
前記誘電体層上に配置され
、前記励起光を照射されたときに局在表面プラズモン共鳴を発生させる複数の金属ナノ構造体と、
を有
し、
前記光反射層および前記誘電体層は、前記励起光を照射されたときにファブリ・ペロー共振器として機能し、
前記ファブリ・ペロー共振器の共振波長は、前記局在表面プラズモン共鳴のピーク波長±当該ピークの半値幅の範囲内であり、
前記局在表面プラズモン共鳴と前記ファブリ・ペロー共振器との間で強結合が生じている、
ラマン分光測定装置。
【請求項2】
前記複数の金属ナノ構造体は、前記誘電体層上にランダムに配置されている、請求項1に記載のラマン分光測定装置。
【請求項3】
前記複数の金属ナノ構造体は、前記誘電体層
に埋まらないように前記誘電体層上に配置されている、請求項1
または請求項2に記載のラマン分光測定装置。
【請求項4】
表面増強ラマン散乱デバイスに励起光を照射し、前記表面増強ラマン散乱デバイスからのラマン散乱光を検出する工程を有し、
前記表面増強ラマン散乱デバイスは、
光反射層と、
前記光反射層上に配置された誘電体層と、
前記誘電体層上に配置され
、前記励起光を照射されたときに局在表面プラズモン共鳴を発生させる複数の金属ナノ構造体と、
を有
し、
前記光反射層および前記誘電体層は、前記励起光を照射されたときにファブリ・ペロー共振器として機能し、
前記ファブリ・ペロー共振器の共振波長は、前記局在表面プラズモン共鳴のピーク波長±当該ピークの半値幅の範囲内であり、
前記局在表面プラズモン共鳴と前記ファブリ・ペロー共振器との間で強結合が生じている、
ラマン分光測定方法。
【請求項5】
前記複数の金属ナノ構造体は、前記誘電体層上にランダムに配置されている、請求項4に記載のラマン分光測定方法。
【請求項6】
前記複数の金属ナノ構造体は、前記誘電体層
に埋まらないように前記誘電体層上に配置されている、請求項
4または請求項5に記載のラマン分光測定方法。
【請求項7】
光反射層と、
前記光反射層上に配置された誘電体層と、
前記誘電体層上に配置され
、励起光を照射されたときに局在表面プラズモン共鳴を発生させる複数の金属ナノ構造体と、
を有
し、
前記光反射層および前記誘電体層は、前記励起光を照射されたときにファブリ・ペロー共振器として機能し、
前記ファブリ・ペロー共振器の共振波長は、前記局在表面プラズモン共鳴のピーク波長±当該ピークの半値幅の範囲内であり、
前記局在表面プラズモン共鳴と前記ファブリ・ペロー共振器との間で強結合が生じている、
表面増強ラマン散乱デバイス。
【請求項8】
前記複数の金属ナノ構造体は、前記誘電体層上にランダムに配置されている、請求項7に記載の表面増強ラマン散乱デバイス。
【請求項9】
前記複数の金属ナノ構造体は、前記誘電体層
に埋まらないように前記誘電体層上に配置されている、請求項
7または請求項8に記載の表面増強ラマン散乱デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラマン分光測定装置、ラマン分光測定方法および表面増強ラマン散乱デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、被測定分子を高感度に測定する技術の1つとして、表面プラズモン共鳴(SPR:Surface Plasmon Resonance)、特に局在表面プラズモン共鳴(LSPR:Localized Surface Plasmon Resonance)を利用した表面増強ラマン散乱分光が注目されている。表面増強ラマン散乱(SERS:Surface-Enhanced Raman Scattering)は、ナノメートルスケールの凹凸構造を有する金属の表面に分子が吸着したとき、その分子から放出されるラマン散乱光の強度が顕著に増大する現象である。表面増強ラマン散乱分光(SERS:Surface-Enhanced Raman Spectroscopy)では、金属の表面に吸着した被測定分子にレーザー光などの単一波長の励起光を照射し、被測定分子から放出されたラマン散乱光を分光検出してラマンスペクトルを得る。このラマンスペクトルから被測定分子を同定することができる。
【0003】
表面増強ラマン散乱分光に用いられる表面増強ラマン散乱デバイスとしては、基板上に複数の金属ナノ構造体を配置したチップが用いられている。このような表面増強ラマン散乱デバイスとしては、感度を高めるためにナノ空間の局所電場を増強することに主眼をおいて、基板上に特徴的な形状の金属ナノ構造体を配置したチップが開示されている(例えば特許文献1、非特許文献1および非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Christopher G. Khoury and Tuan Vo-Dinh, "Gold Nanostars For Surface-Enhanced Raman Scattering: Synthesis, Characterization and Optimization", J. Phys. Chem. C, Vol. 112, No. 48, pp. 18849-18859.
【文献】Adam D. McFarland, Matthew A. Young, Jon A. Dieringer, and Richard P. Van Duyne, "Wavelength-scanned surface-enhanced Raman excitation spectroscopy", J. Phys. Chem. B, Vol. 109, No. 22, pp. 11279-11285.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の従来の表面増強ラマン散乱デバイスでは、高感度化のために、ナノメートルスケールの増強電場(ホットスポット)の強度を強くするための構造が採用されているが、数十nmの構造の限られた一部の空間のみがホットスポットとなる。このため、ホットスポットの空間分布は、一様ではなく点在して不均一となる。したがって、サンプル中の被測定分子の濃度が低い場合には、ホットスポットに被測定分子が吸着する確率が低下するために、測定結果の定量性および再現性が低いという問題がある。一方、この問題を解決するために、表面増強ラマン散乱デバイスにおける電場増強度の分布を均一化すると、電場の増強度が小さくなるため、測定結果の検出感度が低下してしまうという問題が新たに生じる。
【0007】
以上のことから、高強度でかつ空間的にある程度均一な表面増強ラマン散乱強度を示し、定量性および再現性の高いラマン分光測定を行うことができる表面増強ラマン散乱デバイスが望まれている。
【0008】
そこで、本発明は、高強度でかつある程度均一な分布の表面増強ラマン散乱強度を示す表面増強ラマン散乱デバイスを提供することを目的とする。また、本発明は、前記表面増強ラマン散乱デバイスを用いたラマン分光測定装置およびラマン分光測定方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るラマン分光測定装置は、表面増強ラマン散乱デバイスと、前記表面増強ラマン散乱デバイスに励起光を照射する光源と、前記表面増強ラマン散乱デバイスからのラマン散乱光を分光する分光器と、前記分光器により分光されたラマン散乱光を検出する検出器と、を有し、前記表面増強ラマン散乱デバイスは、光反射層と、前記光反射層上に配置された誘電体層と、前記誘電体層上に配置された複数の金属ナノ構造体と、を有する。
【0010】
本発明に係るラマン分光測定方法は、表面増強ラマン散乱デバイスに励起光を照射し、前記表面増強ラマン散乱デバイスからのラマン散乱光を検出する工程を有し、前記表面増強ラマン散乱デバイスは、光反射層と、前記光反射層上に配置された誘電体層と、前記誘電体層上に配置された複数の金属ナノ構造体と、を有する。
【0011】
本発明に係る表面増強ラマン散乱デバイスは、光反射層と、前記光反射層上に配置された誘電体層と、前記誘電体層上に配置された複数の金属ナノ構造体と、を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高強度でかつある程度均一な分布の表面増強ラマン散乱強度を示す表面増強ラマン散乱デバイスを提供することができる。また、本発明によれば、定量性および再現性の高いラマン分光測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明に係る表面増強ラマン散乱デバイスの構成の一例を示す断面模式図である。
【
図2】
図2は、金薄膜の厚みとQ値との関係を示すグラフである。
【
図3】
図3A~Cは、本発明に係る表面増強ラマン散乱デバイスの製造方法の一例を示す断面模式図である。
【
図4】
図4は、本発明に係るラマン分光測定装置の構成を示す模式図である。
【
図5】
図5は、実験1で作製した表面増強ラマン散乱デバイスの表面の様子を示す走査型電子顕微鏡像である。
【
図6】
図6Aおよび
図6Bは、実験1で作製した表面増強ラマン散乱デバイスの吸収スペクトルを示すグラフである。
【
図7】
図7A~Cは、実験1におけるラマン散乱光の強度分布を示す図であり、
図7D~Fは、実験1におけるラマン散乱光の強度分布を示すグラフである。
【
図8】
図8Aおよび
図8Bは、実験1におけるラマン散乱光の強度分布を示す図であり、
図8Cおよび
図8Dは、実験1におけるラマン散乱光の強度分布を示すグラフである。
【
図9】
図9Aおよび
図9Bは、実験2で作製した表面増強ラマン散乱デバイスの構成を示す断面模式図である。
【
図10】
図10は、金ナノ粒子の埋め込み深さとラマンスペクトルとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
(表面増強ラマン散乱デバイス)
図1は、本発明の一実施の形態に係る表面増強ラマン散乱デバイス100の構成を示す断面模式図である。
図1に示されるように、表面増強ラマン散乱デバイス100は、支持基板110、光反射層120、誘電体層130および複数の金属ナノ構造体140を有する。以下、各構成要素について説明する。
【0016】
支持基板110は、光反射層120および誘電体層130を支持する。支持基板110は、表面増強ラマン散乱デバイス100の機能の観点からは必須の構成要素ではないが、表面増強ラマン散乱デバイス100の構造を維持する観点からは、表面増強ラマン散乱デバイス100は支持基板110を有することが好ましい。支持基板110の材料および形状は、特に限定されない。表面増強ラマン散乱デバイス100の構造を維持する観点からは、支持基板110は、ある程度の機械的強度を有することが好ましい。支持基板110の例には、ガラス板、セラミックス板、金属板および樹脂板が含まれる。
【0017】
光反射層120は、支持基板110上に配置されており、励起光を反射させる。光反射層120の構成は、上記機能を発揮できれば特に限定されず、励起光の波長に応じて適宜選択すればよい。たとえば、光反射層120は、金属からなる層(金属薄膜)や、誘電体多層膜などである。また、金属板に、光反射層120と支持基板110の両方の機能を担わせてもよい。光反射層120が金属からなる場合、金属の種類は、特に限定されない。光反射層120を構成する金属の例には、金、銀、銅、チタンおよびアルミニウムが含まれる。光反射層120の厚みも、上記機能を発揮できれば特に限定されず、例えば10~10000nmの範囲内である。なお、金属板が、光反射層120と支持基板110の両方の機能を担う場合は、金属板(光反射層120)は、当然10000nm以上の厚みを有している。
【0018】
誘電体層130は、光反射層120上に配置されている誘電体からなる層(誘電体薄膜)である。この後説明するように、本実施の形態に係る表面増強ラマン散乱デバイス100では、光反射層120および誘電体層130は、励起光を照射されたときにファブリ・ペロー共振器として機能する。したがって、誘電体層130の表面および裏面は、互いに平行であることが好ましい。誘電体層130を構成する誘電体の種類は、ファブリ・ペロー共振器として機能することができれば、特に限定されない。ファブリ・ペロー共振器として機能する観点からは、誘電体の屈折率は高いことが好ましい。具体的には、ファブリ・ペロー共振器の共振波長における屈折率は、1.4以上であることが好ましく、より効率的な光閉じ込めのためには2.0以上であることがより好ましい。誘電体層130を構成する誘電体の例には、酸化チタン、チタン酸ストロンチウム、窒化ガリウム、酸化ジルコニウムおよび酸化ニッケルが含まれる。誘電体層130の厚みも、励起光を照射されたときにファブリ・ペロー共振器として機能させることができれば、特に限定されない。たとえば、誘電体層130の厚みは、20~1000nm程度である。誘電体層130の厚みを調整することで、ファブリ・ペロー共振器の共振波長を変更することができる。本実施の形態に係る表面増強ラマン散乱デバイス100では、誘電体層130の厚みは、20nm以上であってもよく、50nm以上であってもよく、100nm以上であってもよい。
【0019】
検出感度を向上させる観点からは、ファブリ・ペロー共振器のQ値(Quality factor、共進周波数f
0/半値全幅Δf)が大きくなるように、光反射層120および誘電体層130を構成することが好ましい。たとえば、
図2は、金薄膜(光反射層120)の厚みとQ値との関係を示すグラフである。この結果から、Q値を大きくする観点からは、金薄膜(光反射層120)の厚みは、ある程度大きい(例えば40nm以上である)ことが好ましいことがわかる。これは、金薄膜(光反射層120)が薄すぎると、励起光が部分的に透過してしまうからだと考えられる。Q値を大きくする観点からは、光反射層120と誘電体層130との界面、および誘電体層130と外部との界面は、いずれも平滑であることが好ましい。すなわち、誘電体層130の表面および裏面のラフネスが小さいほど好ましい。また、媒質間の屈折率差が大きいほど好ましい。すなわち、誘電体層130を構成する誘電体の屈折率が高いことが好ましい。また、誘電体層130による励起光の吸収が小さいほど好ましい。
【0020】
複数の金属ナノ構造体140は、励起光を照射されたときに局在表面プラズモン共鳴を発生させる。複数の金属ナノ構造体140は、その一部が誘電体層130内に埋め込まれるように誘電体層130の表面に配置されていてもよいが、表面増強ラマン散乱強度を高める観点からは、誘電体層130に実質的に埋まらないように誘電体層130上に配置されていることが好ましい(
図10参照)。これは、金属ナノ構造体140を部分的に誘電体層130に埋めてしまうと、金属ナノ構造体140の下部に存在するホットスポットが誘電体層130内に埋もれてしまい、電場増強の効果が低減してしまうためと考えられる。ここで、「誘電体層130に実質的に埋まらない」とは、金属ナノ構造体140のうち、その周囲の誘電体層130の表面よりも光反射層120側に位置する部分(誘電体層130に埋まっている部分)の割合が10%以下であることを意味する。誘電体層130に埋まっている部分の割合は、5%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、0%であることが特に好ましい。誘電体層130に埋まっている部分の割合が0%の場合、金属ナノ構造体140の全体が誘電体層130の表面の上に存在している。各金属ナノ構造体140の誘電体層130と接触していない表面は、外部に露出している。この表面に、被測定分子が吸着する。
【0021】
金属ナノ構造体140の形状、大きさおよび間隔は、光を照射されたときに局在表面プラズモン共鳴を発生させることができれば特に限定されない。金属ナノ構造体140の形状、大きさまたは間隔を調整することで、局在表面プラズモン共鳴の共鳴波長を可視域から近赤外域まで変更することができる。したがって、金属ナノ構造体140の形状、大きさおよび間隔は、励起光の波長において局在表面プラズモン共鳴が生じるように適宜選択されうる。たとえば、金属ナノ構造体140の形状は、略球状、略球冠状(略半球状を含む)、ロッド状、ディスク状および錐体状が含まれる。また、金属ナノ構造体140の最大長さは、5~1000nm程度である。金属ナノ構造体140の間隔は、3~1000nm程度である。前述のとおり、複数の金属ナノ構造体140は、その表面の一部が外部に露出している。
【0022】
前述のとおり、本実施の形態に係る表面増強ラマン散乱デバイス100では、複数の金属ナノ構造体140は、励起光を照射されたときに局在表面プラズモン共鳴を発生させ、かつ光反射層120および誘電体層130は、励起光を照射されたときにファブリ・ペロー共振器として機能する。また、本実施の形態に係る表面増強ラマン散乱デバイス100は、ファブリ・ペロー共振器の共振波長が局在表面プラズモン共鳴のピーク波長±当該ピークの半値幅の範囲内となるように構成されている。このようにファブリ・ペロー共振器の共振波長が局在表面プラズモン共鳴のピーク波長±当該ピークの半値幅の範囲内となる場合、局在表面プラズモンとファブリ・ペロー共振器との間で強結合が生じ、表面増強ラマン散乱デバイス100の表面に多数のホットスポットをある程度均一な分布で形成することができるようになる。強結合の度合いを高める観点からは、局在表面プラズモン共鳴の共鳴波長とファブリ・ペロー共振器の共振波長とが一致することが好ましい。
【0023】
上記のように局在表面プラズモンとファブリ・ペロー共振器との間で強結合または超強結合が生じると、個々の金属ナノ構造体140のプラズモンにファブリ・ペロー共振器を介した量子コヒーレント相互作用が誘起され、プラズモン振動が全ての金属ナノ構造体140に広がるとともに位相が揃った状態になると考えられる。その相互作用を最大化し、電場増強分布を均一化するためには、金属ナノ構造体140同士が近傍に存在することが好ましい。具体的には、表面増強ラマン散乱デバイス100の表面(複数の金属ナノ構造体140が配置されている領域の表面)における金属ナノ構造体140が閉める占有率(被覆率)は、20%以上であることが好ましく、35%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。
【0024】
本実施の形態に係る表面増強ラマン散乱デバイス100の製造方法は、特に限定されない。たとえば、以下の手順により、表面増強ラマン散乱デバイス100を製造することができる(
図3A~C参照)。
【0025】
まず、光反射層120としての金属層を準備する(
図3A)。
図3Aに示される例では、支持基板110上に光反射層120としての金属層を形成している。金属層の形成方法は、特に限定されない。金属層の形成方法の例には、スパッタリング、真空蒸着、電気還元およびイオンプレーティングが含まれる。また、光反射層120(および支持基板110)として、金属板を準備してもよい。
【0026】
次に、金属層(光反射層120)の表面に誘電体層130を形成する(
図3B)。誘電体層130の形成方法は、特に限定されない。誘電体層130の形成方法の例には、原子層堆積法、パルスレーザー堆積法、スパッタリング、ソルボサーマル法、スプレー熱分解法および分子線エピタキシー法が含まれる。なお、原子層堆積法により誘電体層130を形成する場合は、金属層(光反射層120)の表面に誘電体層130を緻密に形成するために、前処理を行うことが好ましい。前処理の例には、金属層(光反射層120)の表面にヒドロキシル基を付加する表面処理、および金属層(光反射層120)の表面に別の層(例えばチタン薄膜)を形成する処理が含まれる。たとえば、金属層(光反射層120)への結合部位として一方の末端にSまたはNを含む官能基(例えばチオール基)を有し、他方の末端にヒドロキシル基を有する化合物(例えば2-メルカプトエタノール)を用いて表面処理をすればよい。また、金属層(光反射層120)の表面にチタン薄膜を形成した場合、チタン薄膜は大気下で自然酸化し、チタン薄膜の表面にヒドロキシル基が生成する。
【0027】
最後に、誘電体層130の上に、複数の金属ナノ構造体140を形成する(
図3C)。金属ナノ構造体140の形成方法は、特に限定されない。たとえば、誘電体層130の上に金属層を形成した後、この金属層をアニールして粒子化することで、略球冠状の複数の金属ナノ構造体140を同時に形成することができる。また、フォトリソグラフィーを利用して複数の金属ナノ構造体140を形成してもよい。
【0028】
以上の手順により、表面増強ラマン散乱デバイス100を製造することができる。
【0029】
(ラマン分光測定装置およびラマン分光測定方法)
図4は、本発明の一実施の形態に係るラマン分光測定装置200の構成を示す模式図である。
図4に示されるように、ラマン分光測定装置200は、上記の表面増強ラマン散乱デバイス100、光源220、光学系230、分光器240および検出器250を有する。本実施の形態では、ラマン分光測定装置200はデバイスホルダ210を有しており、上記の表面増強ラマン散乱デバイス100はデバイスホルダ210に設置される。以下、各構成要素について説明する。
【0030】
デバイスホルダ210は、表面増強ラマン散乱デバイス100を所定の位置に支持する。デバイスホルダ210の構成は、特に限定されない。デバイスホルダ210は、表面増強ラマン散乱デバイス100を載置するためのステージであってもよいし、表面増強ラマン散乱デバイス100を保持する構造を有していてもよい。
【0031】
光源220は、表面増強ラマン散乱デバイス100に励起光260を照射する。ラマンシフトを適切に測定する観点からは、励起光260は、実質的に単一波長の光であることが好ましい。励起光260の波長は、特に限定されず、被測定分子の種類などに応じて適宜設定されうる。また、ラマン散乱光の強度を高める観点からは、励起光260は、強度が高い光であることが好ましい。たとえば、励起光260としてはレーザー光が用いられる。光源220の種類は、所望の波長および強度の励起光260を出射することができれば特に限定されず、例えばレーザーダイオードである。
【0032】
光学系230は、光源220から出射された励起光260を表面増強ラマン散乱デバイス100に導くとともに、表面増強ラマン散乱デバイス100からのラマン散乱光270を分光器240に導く。光学系230の構成は、上記の機能を実現できれば特に限定されない。
図4では、励起光260を透過させ、ラマン散乱光270を反射させるビームスプリッタ231と、レンズ(集光レンズ)232を示しているが、光学系230の構成はこれに限定されない。たとえば、光学系230は、レイリー散乱光を除去するための励起光カットフィルターなどの各種フィルターや、コリメーターレンズなどの各種レンズなどをさらに有していてもよい。
【0033】
分光器240は、表面増強ラマン散乱デバイス100からのラマン散乱光270を分光する。ラマン散乱光270から被測定分子の情報を得るためには、ラマン散乱光270を波数ごとに分解する必要がある。このため、分光器240は、ラマン散乱光270を分光する。分光器240の構成は、特に限定されない。たとえば、分光器240は、回折格子を含むポリクロメーターである。
【0034】
検出器250は、分光器240により分光されたラマン散乱光270を検出する。検出器250の種類は、微弱なラマン散乱光を適切に検出できれば特に限定されず、検出する波長(波数)範囲に応じて適宜選択されうる。たとえば、検出器は、冷却CCDである。
【0035】
なお、ラマン分光測定装置200としては、表面増強ラマン散乱デバイス100以外の構成要素については公知のラマン分光測定装置を用いることができる。
【0036】
次に、ラマン分光測定装置200を用いたラマン分光測定(本発明の一実施の形態に係るラマン分光測定方法)について説明する。
【0037】
まず、表面増強ラマン散乱デバイス100の複数の金属ナノ構造体140が配置されている領域に被測定分子を含む液体サンプルを提供する。液体サンプル中の被測定分子の一部は、表面増強ラマン散乱デバイス100の金属ナノ構造体140に吸着する。この後、液体サンプルを乾燥させて溶媒を除去する。乾燥後の表面増強ラマン散乱デバイス100は、デバイスホルダ210に設置される。
【0038】
次に、光源220から表面増強ラマン散乱デバイス100に励起光260を照射する。これにより、複数の金属ナノ構造体140の表面と被測定分子との界面において表面増強ラマン散乱が生じ、被測定分子由来のラマン散乱光が例えば108倍まで増強されて放出される。前述のとおり、本実施の形態に係る表面増強ラマン散乱デバイス100では、複数の金属ナノ構造体140は、励起光を照射されたときに局在表面プラズモン共鳴を発生させ、かつ光反射層120および誘電体層130は、励起光を照射されたときにファブリ・ペロー共振器として機能する。これにより、表面増強ラマン散乱デバイス100の表面において、多数のホットスポットが、ある程度均一な分布で形成される。したがって、表面増強ラマン散乱デバイス100の複数の金属ナノ構造体140が配置されている領域からは、強度分布がある程度均一な状態で、高強度のラマン散乱光が放出される。
【0039】
そして、表面増強ラマン散乱デバイス100から放出されたラマン散乱光を分光器240において分光し、分光したラマン散乱光を検出器250で検出する。検出器250の検出結果から、ラマンスペクトルを得ることができる。このラマンスペクトルから、例えば被測定分子を同定することができる。
【0040】
以上の手順により、液体サンプル中の被測定分子を分析することができる。
【0041】
なお、上記の説明では、表面増強ラマン散乱デバイス100上において液体サンプルを乾燥させる例について説明したが、液体サンプルを乾燥させずにラマン分光測定を行うことももちろん可能である。このとき、溶媒の揮発による濃度変化を防止するため、表面増強ラマン散乱デバイス100上に提供された液体サンプルを封止して測定することが好ましい。
【0042】
(効果)
以上のように、本実施の形態に係る表面増強ラマン散乱デバイス100では、局在表面プラズモン共鳴による電場増強効果と、ファブリ・ペロー共振器による光閉じ込め効果とを組み合わせることで、多数のホットスポットをある程度均一な分布で配置することを実現している。よって、本実施の形態に係る表面増強ラマン散乱デバイス100の複数の金属ナノ構造体140が配置されている領域からは、強度分布がある程度均一な状態で、高強度のラマン散乱光が放出される。したがって、本実施の形態に係る表面増強ラマン散乱デバイス、ラマン分光測定装置およびラマン分光測定方法は、定量性および再現性の高いラマン分光測定を行うことができる。
【0043】
また、本実施の形態に係る表面増強ラマン散乱デバイス100では、可視光を照射すると、デバイス表面において酸化反応が進行する。このため、本実施の形態に係る表面増強ラマン散乱デバイス100は、被測定分子などを酸化分解して除去することで再利用することが可能である。
【実施例】
【0044】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0045】
[実験1]
1.表面増強ラマン散乱デバイスの作製
支持基板としてのガラス板上に、スパッタリングにより厚み100nmの金薄膜(光反射層)を形成した。金薄膜を形成したガラス板の上に、スパッタリングにより厚み2nmのチタン薄膜を形成した。チタン薄膜は大気下で自然酸化し、チタン薄膜の表面にはヒドロキシル基が生成する。チタン薄膜の上に、原子層堆積装置を用いて膜厚30nmの酸化チタン(TiO
2)薄膜(誘電体層)を形成した。酸化チタン薄膜の上に真空蒸着により厚み3nmの金薄膜を形成し、300℃で2時間アニールすることによりこの金薄膜を粒子化して、略球冠状の複数の金ナノ粒子(金属ナノ構造体)を形成した。金ナノ粒子の平均粒径は、16nmであった。実質的にすべての金ナノ粒子は、酸化チタン薄膜内に部分的にも埋まることなく酸化チタン薄膜上に配置された。
図5は、作製した表面増強ラマン散乱デバイスの金ナノ粒子が配置されている面の様子を示す走査型電子顕微鏡像である。以上の手順で、実施例に係る表面増強ラマン散乱デバイスを作製した。
【0046】
比較のため、金薄膜(光反射層)を形成しない点を除いては、上記と同じ手順で比較例に係る表面増強ラマン散乱デバイスを作製した。また、比較のため、市販の表面増強ラマン散乱デバイスとして、浜松ホトニクス株式外会社のSERS基板(J12853)と、株式会社ニデックのSERS測定用Auナノロッドアレイ基板(Wavelet)を準備した。
【0047】
図6Aは、実施例に係る表面増強ラマン散乱デバイスの吸収スペクトルを示すグラフであり、
図6Bは、金薄膜(光反射層)を有さない比較例に係る表面増強ラマン散乱デバイスの吸収スペクトルを示すグラフである。縦軸は、透過スペクトルの値(T)および反射スペクトルの値(R)から算出した吸収スペクトルの値(実スケール)である。また、
図5Aでは、この後の評価で使用する励起光の波長532nmを破線で示している。
【0048】
上記実施例に係る表面増強ラマン散乱デバイスでは、金ナノ粒子のプラズモン共鳴波長である650nmに、金薄膜、酸化チタン薄膜および金ナノ粒子により構成されるファブリ・ペロー共振器の1/4n(nは酸化チタンの屈折率)に対応する共振波長が一致している。このことは、ファブリ・ペロー共振器の共振波長と金ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴波長とが重なり、電磁場相互作用により2つの振動子の位相が一定の関係を有してエネルギーをやり取りしている状態が形成されていることを意味する。その結果、結合性と反結合性の新たな二つのエネルギー準位が生じることから吸収スペクトルが2峰性を示し、その応答範囲および強度が大幅に増大している。
【0049】
2.表面増強ラマン散乱デバイスの評価
各表面増強ラマン散乱デバイスについて、顕微ラマン測定装置(
図4参照)を用いて表面増強ラマン散乱スペクトルを測定した。表面増強ラマン散乱デバイスを1μMクリスタルバイオレット水溶液に浸漬させた後、乾燥させた。この後、顕微ラマン測定装置を用いて、波長532nmの励起光(レーザーパワー:~300μW、照射時間:0.5秒)を複数の金属ナノ構造体が配置されている領域に集光照射し、クリスタルバイオレット分子の表面増強ラマン散乱スペクトルを得た。いずれの表面増強ラマン散乱デバイスを用いた場合であっても、ラマンスペクトルでは、1617cm
-1や1371cm
-1などにクリスタルバイオレット分子に起因する大きなピークが観察された(
図10参照)。
【0050】
図7A~Cは、1617cm
-1についてのラマン散乱光の強度分布を示す図であり、
図7D~Fは、1617cm
-1についてのラマン散乱光の強度分布を示すグラフである。
図7Aおよび
図7Dは、実施例に係る表面増強ラマン散乱デバイスの結果を示し、
図7Bおよび
図7Eは、市販の表面増強ラマン散乱デバイス(J12853)の結果を示し、
図7Cおよび
図7Fは、市販の表面増強ラマン散乱デバイス(Wavelet)の結果を示している。
図7A~Cでは、20μm×20μmの範囲における強度分布をグレースケールで示している。
図7D~Fでは、この範囲を625の区画に分割し、各区画の強度をプロットしている。また、
図7D~Fでは、強度の平均値(Mean)、標準偏差(Standard Deviation)および変動係数(CV)(%)も示している。
【0051】
まず、各デバイスの強度の平均値(Mean)について見てみると、実施例に係るデバイスは、市販のデバイスと同等以上の感度でクリスタルバイオレット分子に起因するラマン散乱光を検出できていることがわかる。また、各デバイスの強度の変動係数(CV)について見てみると、実施例に係るデバイスは、市販のデバイスに比べて強度分布が均一である(変動係数が1/5以下となる)ことがわかる。これらのことから、実施例に係るデバイスは、市販のデバイスと同等以上の感度を有しながら、サンプル中の被測定分子の濃度が低い場合であっても高い定量性および再現性で被測定分子を測定できることがわかる。
【0052】
図8Aおよび
図8Bは、1617cm
-1についてのラマン散乱光の強度分布を示す図であり、
図8および
図8Dは、1617cm
-1についてのラマン散乱光の強度分布を示すグラフである。
図8Aおよび
図8Cは、実施例に係る表面増強ラマン散乱デバイスの結果を示し(
図7Aおよび
図7Dと同じデータ)、
図8Bおよび
図8Dは、金薄膜(光反射層)を有さない比較例に係る表面増強ラマン散乱デバイスの結果を示している。
図8Aおよび
図8Bでは、20μm×20μmの範囲における強度分布をグレースケールで示している。
図8Cおよび
図8Dでは、この範囲を625の区画に分割し、各区画の強度をプロットしている。また、
図8Cおよび
図8Dでは、強度の平均値(Mean)、標準偏差(Standard Deviation)および変動係数(CV)(%)も示している。なお、
図8Cと
図8Dとでは、縦軸の数値の桁が異なっている点に留意すべきである。
【0053】
図8Bおよび
図8Dから、金薄膜(光反射層)を有さない比較例に係るデバイスは、局在表面プラズモン共鳴による電場増強効果だけを利用しているため、ラマン散乱光を十分に増強できないことがわかる(強度の平均値:13.6)。これに対して、
図8Aおよび
図8Cから、金薄膜(光反射層)を有する実施例に係るデバイスは、局在表面プラズモン共鳴による電場増強効果だけでなくファブリ・ペロー共振器による光閉じ込め効果も利用しているため、ラマン散乱光を十分に増強できていることがわかる(強度の平均値:189)。また、ファブリ・ペロー共振器による光閉じ込め効果を利用することで、強度分布が均一になる(変動係数が1/3以下となる)こともわかる。
【0054】
[実験2]
1.表面増強ラマン散乱デバイスの作製
支持基板としてのガラス板上に、スパッタリングにより厚み100nmの金薄膜(光反射層)を形成した。金薄膜を形成したガラス板の上に、スパッタリングにより厚み2nmのチタン薄膜を形成した。チタン薄膜は大気下で自然酸化し、チタン薄膜の表面にはヒドロキシル基が生成する。チタン薄膜の上に、原子層堆積装置を用いて膜厚30nmの酸化チタン(TiO2)薄膜(誘電体層)を形成した。酸化チタン薄膜の上に真空蒸着により厚み3nmの金薄膜を形成し、300℃で2時間アニールすることによりこの金薄膜を粒子化して、略球冠状の複数の金ナノ粒子(金属ナノ構造体)を形成した。金ナノ粒子の平均粒径は、16nmであった。この後、再度原子層堆積装置を用いて所定の厚みの酸化チタン薄膜(誘電体層)を形成した。このとき、金ナノ粒子の表面にヒドロキシル基を修飾する表面処理を行わずに酸化チタン薄膜を形成することで、複数の金ナノ粒子の上に酸化チタン薄膜を形成させずに、複数の金ナノ粒子の間に所定の厚みの酸化チタン薄膜を形成した。これにより、実質的にすべての金ナノ粒子は、部分的に酸化チタン薄膜内に埋まった状態(部分的に外部に露出している状態)となった。
【0055】
図9Aは、酸化チタン薄膜(誘電体層130)の上に金ナノ粒子(金属ナノ構造体140)を形成した後に、酸化チタン薄膜を形成しなかった場合の、表面増強ラマン散乱デバイスの構成を示す模式図である。このデバイスでは、金ナノ粒子(金属ナノ構造体140)の埋まっている部分の深さは、0nmである。
【0056】
図9Bは、酸化チタン薄膜(誘電体層130a)の上に金ナノ粒子(金属ナノ構造体140)を形成した後に、酸化チタン薄膜(誘電体層130b)をさらに形成した場合の、表面増強ラマン散乱デバイスの構成を示す模式図である。本実験では、上の酸化チタン薄膜(誘電体層130b)の厚みを3nm、5nm、7nmまたは9nmとした。したがって、このデバイスでは、金ナノ粒子(金属ナノ構造体140)の埋まっている部分の深さは、3nm、5nm、7nmまたは9nmである。なお、上の酸化チタン薄膜(誘電体層130b)の厚みを9nmとした場合であっても、金ナノ粒子(金属ナノ構造体140)の上部は外部に露出していた。
【0057】
2.表面増強ラマン散乱デバイスの評価
各表面増強ラマン散乱デバイスについて、顕微ラマン測定装置(
図4参照)を用いて表面増強ラマン散乱スペクトルを測定した。表面増強ラマン散乱デバイスを1μMクリスタルバイオレット水溶液に浸漬させた後、乾燥させた。この後、顕微ラマン測定装置を用いて、波長532nmの励起光(レーザーパワー:3.08mW、照射時間:2秒)を複数の金属ナノ構造体が配置されている領域に集光照射し、クリスタルバイオレット分子の表面増強ラマン散乱スペクトルを得た。
【0058】
図10は、金ナノ粒子の埋め込み深さとラマンスペクトルとの関係を示すグラフである。上から順に、金ナノ粒子の埋め込み深さが0nmのデバイスのスペクトル(Inlaid 0 nm)、埋め込み深さが3nmのデバイスのスペクトル(Inlaid 3 nm)、埋め込み深さが5nmのデバイスのスペクトル(Inlaid 5 nm)、埋め込み深さが7nmのデバイスのスペクトル(Inlaid 7 nm)、埋め込み深さが9nmのデバイスのスペクトル(Inlaid 9 nm)、埋め込み深さが11nmのデバイスのスペクトル(Inlaid 11 nm)を示している。
【0059】
このグラフから、金ナノ粒子の埋め込み深さが小さくなるにつれて、ラマンシフトを示すピーク強度が大きくなることがわかる。これは、金属ナノ粒子を部分的に酸化チタン薄膜に埋めてしまうと、金属ナノ粒子の下部に存在する増強場(ホットスポット)が酸化チタン薄膜内に埋もれてしまい、電場増強の効果が低減してしまうためと考えられる。この結果から、電場の増強度を大きくして測定感度を高めるためには、金ナノ粒子を酸化チタン薄膜に埋め込まないことが好ましいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係る表面増強ラマン散乱デバイス、ラマン分光測定装置およびラマン分光測定方法は、定量性および再現性の高いラマン分光測定を行うことができるため、例えば各種分析などに有用である。
【符号の説明】
【0061】
100 表面増強ラマン散乱デバイス
110 支持基板
120 光反射層
130 誘電体層
140 金属ナノ構造体
200 ラマン分光測定装置
210 デバイスホルダ
220 光源
230 光学系
231 ビームスプリッタ
232 レンズ
240 分光器
250 検出器
260 励起光
270 ラマン散乱光