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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】紙の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/58 20230101AFI20241205BHJP
   C02F 1/56 20230101ALI20241205BHJP
   D21H 17/53 20060101ALI20241205BHJP
   D21H 21/02 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C02F1/58 E
C02F1/56 A
C02F1/56 C
C02F1/56 K
D21H17/53
D21H21/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019190547
(22)【出願日】2019-10-17
(65)【公開番号】P2021065805
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-09-08
【審判番号】
【審判請求日】2024-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】三枝 隆
【合議体】
【審判長】原 賢一
【審判官】田口 裕健
【審判官】深草 祐一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-255749(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0041092(US,A1)
【文献】特開昭49-1055(JP,A)
【文献】特開昭50-97157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/58-1/64
C02F 1/52-1/56
C02F 1/28
B01D 21/01
B01D 15/00-15/42
D21B 1/00-1/38
D21C 1/00-11/14
D21D 1/00-99/00
D21F 1/00-13/12
D21G 1/00-9/00
D21H 11/00-27/42
D21J 1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアルキレンオキサイド部位を有するポリマーを、水溶性デンプンを含有する排水処理原水に添加して、水溶性デンプンを不溶化する不溶化処理工程を含み、
以下の方法で測定したときの前記ポリマーの塩粘度が2mPa・s以上であり、
前記ポリマーを構成する全モノマーに対する、前記ポリアルキレンオキサイド部位を構成するモノマーの割合が13モル%以上100モル%以下である、排水処理方法。
<塩粘度の測定方法>
25℃、ローターの回転数が60rpmの条件で、水溶液100mlに対して、4gの塩化ナトリウムおよび0.5gの前記ポリマーを含有する水溶液の粘度(塩粘度)を測定する。粘度測定方法はJIS K 7117-2:1999に基づく。
【請求項2】
前記不溶化処理工程では、前記排水処理原水がさらに懸濁物質を含む、請求項1に記載の排水処理方法。
【請求項3】
前記不溶化処理工程で前記排水処理原水中に添加する前記ポリマーの濃度が0.1mg/L以上100mg/L以下である、請求項1または2に記載の排水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙・パルプ工場では、紙や板紙を製造する際、得られる紙や板紙の強度を向上させることを目的として、原料に対してデンプンが添加、散布、塗布される。また、各種の食品工場では、食品の原料としてデンプンが用いられる。これらに代表されるデンプンを使用する工場や、デンプン工場などでは、排水にデンプンが溶解し化学的酸素要求量(COD)が増加し、排水処理の負荷を高めている。
【0003】
ところで、一般的に、排水を処理するために、アニオン性またはカチオン性の沈殿剤が用いられている。しかしながら、排水に溶解するデンプンは、ノニオン性のものが多く、一般に用いられるアニオン性またはカチオン性の沈殿剤によって除去することは困難である。
【0004】
このような課題を解決するため、排水処理原水に含まれる水溶性デンプンを凝集させて除去可能な凝集剤についての検討がなされている。
【0005】
例えば、特許文献1では、メラミンホルマリン樹脂酸コロイドによる有機性排水の処理が提案されている。また、特許文献2では、水膨潤性カチオン重合体粒子によるデンプン含有水の処理が提案されている。さらに、特許文献3では、カチオン性又はノニオン性のポリマー微粒子を含む液を、ホモジナイザーで30秒以上処理を施して、排水処理に使用することが提案されている。特許文献4では、有効成分をスメクタイトとし、そのスメクタイトの層間に含まれるナトリウムイオンがカルシウムイオンに対して1.8倍以上のミリ当量比であるか、又はスメクタイトに含まれるノントロナイトがスメクタイトに対して6.0モル%以上である、溶解性COD成分除去剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭59-177190号公報
【文献】特開昭63-232888公報
【文献】特開2008-246372号公報
【文献】特開2007-268357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~4に記載のいずれの処理剤も、ノニオン性の除去対象物中の微量アニオンとのイオン結合や、ノニオン性の除去対象物と物理的な吸着を利用するものであり、十分な除去率が得られないことが多かった。特に、水溶性デンプンは、親水性が強いので、物理的な吸着によって不溶化および凝集をさせることは困難である。
【0008】
また、以上のような不溶化・凝集機構を用いる以外には、生物処理、活性炭処理、紫外線照射、オゾン処理、硫酸第一鉄と過酸化水素とを組み合わせたフェントン処理などの方法が提案されている。しかしながら、これらのような方法では、処理施設が大型になること、薬剤や電力コストが高いこと、操業の維持管理の難易度が高いことなどの理由から実用的でないことが多い。
【0009】
一方で、近年、水資源の不足や環境保護の観点から、排水中のCOD濃度には低い排出基準が設けられるなど、排水処理において高いCOD除去能が求められている。
【0010】
本発明は、以上のような実情に鑑みてなされたものであり、排水処理原水に含まれる水溶性デンプンを効率的かつ簡易的に不溶化して、CODを低減させることができる排水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、所定の方法で計測したときの塩粘度が2mPa・s以上であるポリアルキレンオキサイド部位を有するポリマーを、水溶性デンプンを含有する排水処理原水に添加して、水溶性デンプンを不溶化する不溶化処理工程を含む排水処理方法によれば、排水処理原水に含まれる水溶性デンプンを効率的かつ簡易的に不溶化して分離することにより、排水処理水中のCODを低減させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は、以下のものを提供する。
【0012】
(1)ポリアルキレンオキサイド部位を有するポリマーを、水溶性デンプンを含有する排水処理原水に添加して、水溶性デンプンを不溶化する不溶化処理工程を含み、以下の方法で計測したときの前記ポリマーの塩粘度が2mPa・s以上である、排水処理方法。
<塩粘度の計測方法>
25℃、ローターの回転数が60rpmの条件で、水溶液100mlに対して、4gの塩化ナトリウムおよび0.5gの前記ポリマーを含有する水溶液の粘度(塩粘度)を測定する。粘度測定方法はJIS K 7117-2:1999に基づく。
【0013】
(2)前記ポリマーを構成する全モノマーに対する、前記ポリアルキレンオキサイド部位を構成するモノマーの割合が10モル%以上100モル%以下である、上記(1)に記載の排水処理方法。
【0014】
(3)前記不溶化処理工程では、前記排水処理原水がさらに懸濁物質を含む、上記(1)または(2)に記載の排水処理方法。
【0015】
(4)前記不溶化処理工程で前記排水処理原水中に添加する前記ポリマーの濃度が0.1mg/L以上100mg/L以下である、上記(1)、(2)または(3)に記載の排水処理方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、排水処理原水に含まれる水溶性デンプンを効率的かつ簡易的に不溶化して、排水処理原水中のCODを低減させることができる。また、本発明の排水処理方法を、生物処理工程の前段の凝集分離工程で行う場合に、その生物処理工程の負荷を低減(微生物量や処理時間の低減など)させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0018】
≪排水処理方法≫
本実施形態における排水処理方法は、ポリアルキレンオキサイド部位を有するポリマーを、水溶性デンプンを含有する排水処理原水に添加して、水溶性デンプンを不溶化する不溶化処理工程を含み、以下の方法で計測したときのポリマーの塩粘度が2mPa・s以上であることを特徴とするものである。
<塩粘度の計測方法>
25℃、ローターの回転数が60rpmの条件で、水溶液100mlに対して、4gの塩化ナトリウムおよび0.5gのポリマーを含有する水溶液の粘度(塩粘度)を測定する。粘度測定方法はJIS K 7117-2:1999に基づく。
【0019】
〔不溶化処理工程〕
[排水処理原水]
「排水処理原水」とは、水溶性デンプンを含有する水であり、少なくとも水溶性デンプンに対して不溶化処理を施す対象の水をいう。具体的な「排水処理原水」の例としては、上述したとおり、紙・パルプ工場から排出される抄紙工程水や、食品工場から排出される製造工程水などが挙げられる。
【0020】
(水溶性デンプン)
本実施形態において、水溶性デンプンとは、孔径7μmのろ紙を通過するデンプンをいう。このような水溶性デンプンとしては、加熱などにより糊化した(α化した)デンプンが挙げられる。一方、糊化していない粒子状の生デンプンは比較的容易に凝集し、例えば上述したろ紙によって固液分離可能である。したがって、粒子状のデンプンと水に溶解またはコロイド状に分散したデンプンとは、孔径7mmの5Aろ紙によって分離することができる。
【0021】
排水処理原水に含まれる水溶性デンプンの濃度としては、特に限定されず、排水処理原水中のCOD濃度と、不溶化処理工程を含む排水処理後または排出時の排水中のCOD濃度との兼ね合いで適宜選択すればよいが、通常、0.1mg/L以上であることが好ましい。水溶性デンプン濃度が低すぎると、不溶化される水溶性デンプンの量も少なくなり、ポリアルキレンオキサイド部位を有するポリマーの添加に対して、除去される水溶性デンプンが見合わないことがある。一方で、排水処理原水に含まれる水溶性デンプンの濃度は、特に限定されない。なお、水溶性デンプンの濃度が高すぎる場合には、ポリアルキレンオキサイド部位を有するポリマーの添加と、不溶化した水溶性デンプン(以下、「不溶化デンプン」ということもある。)のろ過を複数回繰り返してもよい。
【0022】
本実施形態において、水溶性デンプンの濃度は、次の方法で測定するものとする。排水処理原水を5Aろ紙でろ過したろ液を、10倍希釈塩酸を用いて体積比で2~20倍に希釈した後、ろ液100体積%に対して、0.002Nヨウ素溶液を5.26体積%加えて分光光度計で580nmの吸光度を測定する。そして、測定値を、キシダ化学製試薬特級のデンプンを用いて予め作成した検量線にあてはめ、水溶性デンプンの濃度を得る。
【0023】
(懸濁物質(SS))
必須の構成要素ではないが、排水処理原水は、懸濁物質(SS)を含むことが好ましい。懸濁物質は、紙・パルプ工場の排水処理原水を処理する場合には、パルプ繊維、化学繊維、填料、顔料などが挙げられ、食品工場の排水処理原水を処理する場合には、食品原料の残渣などが挙げられる。このように、排水処理原水中に懸濁物質が存在することにより、不溶化デンプンが懸濁物質に付着し、不溶化デンプンを固液分離しやすくなる。
【0024】
排水処理原水に含まれる懸濁物質の濃度としては、0.1g/L以上であることが好ましく、0.2g/L以上であることがより好ましく、0.5g/L以上であることがさらに好ましく、1g/L以上であることが特に好ましい。懸濁物質の濃度が低すぎると、排水処理原水に含まれる水溶性デンプンを、ポリアルキレンオキサイド部位を有するポリマーで不溶化させたとしても、水溶性デンプンの付着対象である懸濁物質の量が十分でなく、不溶化デンプンの固液分離の容易性を高める効果が得られない可能性がある。また、懸濁物質の濃度としては、後段での除去処理などの観点から、例えば200g/L以下であることが好ましく、100g/L以下であることがより好ましく、50g/L以下であることがさらに好ましい。
【0025】
本実施形態において、排水処理原水に含まれる懸濁物質の濃度は、JIS P 8225:2003にしたがって測定するものとする。
【0026】
[ポリアルキレンオキサイド部位を有するポリマー:デンプン不溶化剤]
本実施形態に係る排水処理方法は、上述した排水処理原水に、ポリアルキレンオキサイド部位を有するポリマーを添加する工程を含む。そして、このポリマーは、排水処理原水に含まれる水溶性デンプンを不溶化させる機能を有する。
【0027】
ポリマーに含まれるポリアルキレンオキサイド部位と、排水処理原水に含まれる水溶性デンプンとが反応し、水溶性デンプンが不溶化する。具体的に、水溶性デンプンの不溶化は、水酸基の水素結合による分子の会合により起こると推測される。このような分子の会合は、強い結合力を有し、これによって水溶性デンプンが効率的に不溶化される。
【0028】
本実施形態の排水処理方法において、不溶化デンプンの形状としては、固い粒子状の完全な不溶化物に限るものでなく、ゼリー状、高粘度液状の態様も含まれるものとする。
【0029】
本実施形態の排水処理方法において、ポリアルキレンオキサイド部位としては、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリブチレンオキサイドなど、ポリアルキレンオキサイドの構造を有するものであれば、特に限定されない。ポリアルキレンオキサイド部位は、アルキレンオキサイドを重合した構成単位を繰り返し単位としてポリエーテル構造を有し、アルキレンオキサイドの種類としては、単独のものが用いられていても、複数種の組み合わせであってもよく、モノマーの配列がランダム構造であってもブロック構造であってもよい。ポリマーの構造としては、ポリアルキレンオキサイド部位を主鎖とするものであってもよいし何らかのポリマー主鎖にポリアルキレンオキサイド部位を側鎖として付加したものであってもよい。
【0030】
ポリアルキレンオキサイド部位を有するポリマーの塩粘度としては、上述したとおり、2mPa・s以上であれば特に限定されないが、例えば3mPa・s以上であることが好ましく、5mPa・s以上であることがより好ましく、10mPa・s以上であることがさらに好ましく、50mPa・s以上であることが特に好ましい。ポリマーの塩粘度が低すぎると、排水処理原水に含まれる水溶性デンプンを、ポリアルキレンオキサイド部位を有するポリマーで不溶化させたとしても、不溶化デンプンの凝集効率が悪く、適切に固液分離できない可能性がある。一方で、ポリアルキレンオキサイド部位を有するポリマーの塩粘度としては、排水処理原水への水溶性や、ポリマーの取り扱い性に影響が及ぶのを防ぐため、2,000mPa・s以下であることが好ましく、1,000mPa・s以下であることがより好ましく、500mPa・s以下であることがさらに好ましい。
【0031】
なお、本実施形態の排水処理方法において、塩濃度の計測は、次の手法にて行うものとする。25℃、ローターの回転数が60rpmの条件で、水溶液100mlに対して、4gの塩化ナトリウムおよび0.5gのポリマーを含有する水溶液の粘度(塩粘度)を測定する。粘度測定方法はJIS K 7117-2:1999に基づく。
【0032】
デンプン不溶化剤を構成するポリマーに含まれるポリアルキレンオキサイド部位の割合としては、ポリマー全体に対して5モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることがより好ましく、30モル%以上であることがさらに好ましく、50モル%以上であることが特に好ましい。デンプン不溶化剤を構成するポリマーに含まれるポリアルキレンオキサイド部位の割合の上限値としては、ポリマーの塩粘度が好適な範囲内にある限りにおいては特に限定されず、ポリマー全体に対して100モル%であってもよい。すなわち、「ポリアルキレンオキサイド部位を有するポリマー」には、ポリアルキレンオキサイド部位のみから構成される(ポリアルキレンオキサイド部位以外の部位を有しない)ものも含まれる。また、このポリマーは架橋していてもよい。
【0033】
ポリマーを構成する官能基のうち、ポリアルキレンオキサイド部位以外の部位(モノマー)としては、特に限定されず、合成物を用いてもよいし、天然物を用いてもよい。また、ポリアルキレンオキサイド部位による水素結合は、イオン結合や他の官能基による水素結合により阻害されることはないので、ポリアルキレンオキサイド部位以外の部位としては、カチオン性部位(モノマー)、アニオン性部位(モノマー)、両性部位(モノマー)、ノニオン性部位(モノマー)のいずれを用いることもできる。
【0034】
カチオン性モノマーとしては、特に限定されないが、アクリル酸ジアルキルアミノアルキル(アクリル酸ジエチルアミノエチルなど)、メタクリル酸ジアルキルアミノアルキル(メタクリル酸ジエチルアミノエチルなど)、アクリル酸ジアルキルアミノアルキルまたはメタクリル酸ジアルキルアミノアルキルの4級塩または酸塩(アクリル酸ジメチルアミノエチル塩化メチル4級塩、アクリル酸ジメチルアミノエチルスルホン酸メチル4級塩、アクリル酸ジメチルアミノエチル塩化ベンジル4級塩、アクリル酸ジメチルアミノエチルスルホン酸塩、アクリル酸ジメチルアミノエチル塩酸塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチル塩化メチル4級塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチルスルホン酸メチル4級塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチル塩化ベンジル4級塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチルスルホン酸塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチル塩酸塩など)が挙げられる。また、塩化アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウム、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドスルホン酸メチル4級塩、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドスルホン酸塩、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩酸塩、塩化メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウム、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミドスルホン酸メチル4級塩、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミドスルホン酸塩、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド塩酸塩のようなジアルキルアミノアルキルアクリルアミド又はジアルキルアミノアルキルメタクリルアミド、およびそれらの4級塩および酸塩も挙げられる。さらに、ハロゲン化ジアリルジアルキルアンモニウム(塩化ジアリルジエチルアンモニウムおよび塩化ジアリルジメチルアンモニウムなど)も挙げられる。
【0035】
アニオン性モノマーとしては、特に限定されないが、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、メチルプロペンスルホン酸などが挙げられる。
【0036】
ノニオン性モノマーとしては、特に限定されないが、アクリルアミド、メタアクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド等の水溶性であるN置換低級(直鎖状、または分枝鎖状の炭素数1~6)アルキルアクリルアミド、メタクリロニトリル、アクリロニトリル、アルキルアクリレート、ヒドロキシアクリレート、酢酸ビニルなどが挙げられる。
【0037】
ポリアルキレンオキサイド部位以外の部位としては、以上に示した、カチオン性部位(モノマー)、アニオン性部位(モノマー)、両性部位(モノマー)、ノニオン性部位(モノマー)などのうち1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
ポリマーの添加量としては、特に限定されないが、例えば、通常、排水処理原水1Lに対して0.1mg以上100mg以下の範囲で添加することができる。または、排水処理に懸濁物質が含まれる場合には、懸濁物質1kgに対して10g以上10,000g以下の範囲で添加してもよい。また、水溶性デンプンに対して重量比で1/1000倍以上10倍以下の範囲で添加してもよい。
【0039】
[他の添加剤]
デンプン不溶化物の凝集、沈殿および後段での固液分離の効率を高めるため、または、水溶性デンプン以外のものを除去するため、ポリアルキレンオキサイド部位を有するポリマー以外の従来公知の凝集剤、凝結剤(以下、「凝集剤」という。)を併用することもできる。具体的に、このような凝集剤としては、無機凝集剤、有機凝集剤のいずれを用いることもできる。また、凝集剤としては、アニオン性凝集剤、カチオン性凝集剤、両性凝集剤、ノニオン性凝集剤のいずれを用いることもできる。このような凝集剤は、単独または複数を組み合わせて用いることができる。また、このような凝集剤は、ポリアルキレンオキサイド部位を有するポリマーの添加の前、後、添加と同時いずれの時期に添加してもよいが、このような凝集剤を固液分離目的で使用する場合には、ポリアルキレンオキサイド部位を有するポリマーの添加の後に添加することが好ましい。
【0040】
〔固液分離工程〕
必須の構成要素ではないが、本実施形態の排水処理方法は、不溶化デンプンを固液分離する固液分離工程を含んでもよい。
【0041】
具体的に、固液分離の方法としては、特に限定されないが、沈降分離、加圧浮上分離、ろ過などの方法を用いることができる。
【0042】
〔その他の工程〕
必須の構成要素ではないが、本実施形態の排水処理方法は、処理すべき排水処理原水の水質などに応じて、生物処理、吸着処理、酸化処理、紫外線処理などを併用してもよい。これらの処理は、通常、固液分離より後に行うことが好ましいが、これに制限されず、例えば処理すべき排水処理原水の水質などに応じて、適宜順序を設定することができる。
【実施例
【0043】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるもので
はない。
【0044】
デンプン不溶化剤として、以下の表1に示すポリマーA~Jおよび表2に示す薬剤K~Pを用意した。
【0045】
なお、表1および表2に示した塩粘度は、25℃、ローターの回転数が60rpmの条件で、水溶液100mlに対して、4gの塩化ナトリウムおよび0.5gのポリマーを含有する水溶液の粘度(塩粘度)である。粘度測定方法はJIS K 7117-2:1999に基づいて行った。また、表2の薬剤Mに関し、ベントナイトの膨潤力は、日本ベントナイト工業会標準試験法、ベントナイト(粉体)の膨潤試験方法(JBAS・104・77),1977に準拠して測定した。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
次いで、水溶性デンプンを約400mg/L、懸濁物質を1500mg/L含有する紙・パルプ工場から排出された排水処理原水を撹拌しながら、デンプン不溶化剤試料を表3に示す量で添加し、2分間撹拌した後、1分間沈降分離し、上澄み液の水溶性デンプン濃度と過マンガン酸カリウムによる化学的酸素要求(CODMn)を測定した。
【0049】
具体的に、水溶性デンプン濃度は、上澄み液を5Aろ紙でろ過して得たろ液を、10倍希釈塩酸を用いて体積比で2~20倍に希釈した後、ろ液100体積%に対して、0.002Nヨウ素溶液を5.26体積%加えて分光光度計で580nmの吸光度を測定した。そして、測定値を、キシダ化学製試薬特級のデンプンを用いて予め作成した検量線と対比して、上澄み液に残存する水溶性デンプンの濃度を算出した。水溶性デンプンの残存濃度の測定結果を表3にあわせて示す。
【0050】
また、CODMnは、JIS K 0102:2019の第17項に規定される方法で測定した。測定結果を表3にあわせて示す。
【0051】
【表3】
【0052】
表3に示すとおり、塩粘度が2mPa・s以上であるポリアルキレンオキサイド部位を有するポリマーを、水溶性デンプンを含有する排水処理原水に添加した実施例1~8は、比較例1~19よりも上澄み液の水溶性デンプン濃度およびCODMnが低かった。
【0053】
以上のことから、塩粘度が2mPa・s以上であるポリアルキレンオキサイド部位を有するポリマーを、水溶性デンプンを含有する排水処理原水に添加することにより、排水処理原水に含まれる水溶性デンプンを効率的かつ簡易的に不溶化して、排水処理原水中のCODを低減させることができることが分かった。