(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】配線基板
(51)【国際特許分類】
H05K 1/02 20060101AFI20241205BHJP
H01P 3/08 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
H05K1/02 N
H05K1/02 P
H01P3/08 200
(21)【出願番号】P 2020177704
(22)【出願日】2020-10-23
【審査請求日】2023-07-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】中島 滉
(72)【発明者】
【氏名】鳥光 悟
(72)【発明者】
【氏名】杉本 薫
(72)【発明者】
【氏名】中村 優斗
【審査官】沼生 泰伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-231105(JP,A)
【文献】実開平03-097973(JP,U)
【文献】特開平11-177247(JP,A)
【文献】特表平08-506696(JP,A)
【文献】特開2013-157308(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/02
H01P 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁層と、第1の方向に延在する信号線を有する信号導体層と、第1の開口部及び第1の非開口部を有する第1の接地導体層と、第2の開口部及び第2の非開口部を有する第2の接地導体層と、を備え、
前記第1の接地導体層は、前記絶縁層を挟んで前記信号導体層の一方の側に位置し、
前記第1の開口部及び前記第1の非開口部は、それぞれ前記第1の方向と交差して第2の方向に延在する帯領域をなして前記第2の方向と直交する方向に交互に並び、
前記第2の接地導体層は、前記絶縁層を挟んで前記信号導体層の前記一方の側とは反対の側に位置し、
前記第2の開口部及び前記第2の非開口部は、それぞれ前記第1の方向と交差して第3の方向に延在する帯領域をなして前記第3の方向と直交する方向に交互に並び、
前記第1の開口部の各々は、それぞれ少なくとも一部が前記第2の非開口部と前記信号導体層に対して垂直な方向から見た平面視で重なり、
前記第2の開口部の各々は、それぞれ少なくとも一部が前記第1の非開口部と前記平面視で重なる
ことを特徴とする配線基板。
【請求項2】
前記第2の方向に垂直な方向について前記第1の接地導体層における前記第1の開口部が占める第1の開口率と、前記第3の方向に垂直な方向について前記第2の接地導体層における前記第2の開口部が占める第2の開口率とが等しくなるように構成される
ことを特徴とする請求項1記載の配線基板。
【請求項3】
前記第1の開口部の配列周期と前記第2の開口部の配列周期とが等しいことを特徴とする請求項1又は2記載の配線基板。
【請求項4】
前記第2の方向に垂直な方向について前記第1の接地導体層における前記第1の開口部が占める第1の開口率及び前記第3の方向に垂直な方向について前記第2の接地導体層における前記第2の開口部が占める第2の開口率は、いずれも0.2以上0.8以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の配線基板。
【請求項5】
前記第1の開口率及び前記第2の開口率は、いずれも0.4以上0.6以下であることを特徴とする請求項4記載の配線基板。
【請求項6】
前記第1の開口率及び前記第2の開口率は、いずれも0.5以上0.6以下であることを特徴とする請求項5記載の配線基板。
【請求項7】
前記第1の開口部と前記第2の開口部とが前記平面視で重ならないことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の配線基板。
【請求項8】
前記第2の方向に垂直な方向について前記第1の接地導体層における前記第1の開口部が占める第1の開口率及び前記第3の方向に垂直な方向について前記第2の接地導体層における前記第2の開口部が占める第2の開口率は、いずれも0.5未満であることを特徴とする請求項7記載の配線基板。
【請求項9】
前記絶縁層の厚さは、0.1mm以上0.3mm以下であることを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の配線基板。
【請求項10】
前記絶縁層の厚さは、0.2mm以上0.3mm以下であることを特徴とする請求項9記載の配線基板。
【請求項11】
当該配線基板は可撓性を有することを特徴とする請求項1~10のいずれか一項に記載の配線基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
信号線を絶縁層の内部に有し、外面を導体層でシールドした薄板状のフラットケーブルといった配線基板では、薄くするほど信号線と導体層とが近くなることで特性インピーダンスが低下する。これに対し、導体層に開口部を設けて信号線との対向面積を減少させることで特性インピーダンスの低下を抑制する技術がある。
【0003】
この技術では、導体層の開口が大きくなるほど当該導体層が信号線に対して外部電磁場をシールドする機能が低下するので、外部の導体などとの位置関係により特性インピーダンスが変動しやすくなる場合があるという問題がある。特許文献1には、絶縁層内に位置する信号線に対し、一方の側の導体層は他方の側の導体層よりも離れて位置し、かつ当該一方の側の導体層の開口は、他方の側の開口よりも小さくなるような非対称な構造により、この一方の側にバッテリパックなどが位置していても、薄型化しながら特性インピーダンスの変動が低減される技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、配線基板の中には、使用時に移動、変形したり、外部の構成との位置関係が変化したりするものがある。このような場合に、従来技術では、使用時に特性インピーダンスを安定的に維持しづらいという課題がある。
【0006】
この発明の目的は、使用時の特性インピーダンスをより安定的に適切な範囲に維持可能な配線基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、
絶縁層と、第1の方向に延在する信号線を有する信号導体層と、第1の開口部及び第1の非開口部を有する第1の接地導体層と、第2の開口部及び第2の非開口部を有する第2の接地導体層と、を備え、
前記第1の接地導体層は、前記絶縁層を挟んで前記信号導体層の一方の側に位置し、
前記第1の開口部及び前記第1の非開口部は、それぞれ前記第1の方向と交差して第2の方向に延在する帯領域をなして前記第2の方向と直交する方向に交互に並び、
前記第2の接地導体層は、前記絶縁層を挟んで前記信号導体層の前記一方の側とは反対の側に位置し、
前記第2の開口部及び前記第2の非開口部は、それぞれ前記第1の方向と交差して第3の方向に延在する帯領域をなして前記第3の方向と直交する方向に交互に並び、
前記第1の開口部の各々は、それぞれ少なくとも一部が前記第2の非開口部と前記信号導体層に対して垂直な方向から見た平面視で重なり、
前記第2の開口部の各々は、それぞれ少なくとも一部が前記第1の非開口部と前記平面視で重なる
ことを特徴とする配線基板である。
【発明の効果】
【0008】
本発明に従うと、配線基板において、使用時の特性インピーダンスをより安定的に適切な範囲に維持することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】フラットケーブルの上下に導体を接近させた場合のモデルについて説明する断面図である。
【
図4】シミュレーションの結果評価について説明する図である。
【
図5】上側導体層の第1の非開口部及び下側導体層の第2の非開口部の位置関係の変形例1、2を示す図である。
【
図6】上側導体層の第1の非開口部及び下側導体層の第2の非開口部の位置関係の変形例3を示す図である。
【
図7】上側導体層の第1の非開口部及び下側導体層の第2の非開口部の位置関係の変形例4について説明する図表である。
【
図8】上側導体層の第1の非開口部及び下側導体層の第2の非開口部の位置関係の変形例5を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1及び
図2は、本実施形態の配線基板1の構造を示す図である。
図1(a)には配線基板1の信号線131に垂直な断面を示す。
図1(b)には、配線基板1を上面側(+Zの側)から見た図と各部の位置関係とを示す。ここで、下面側(-Zの側)の下側導体層14の非開口部142は、不可視であるが、説明のためにハッチを付している。
図2には、配線基板1の1本の信号線を含む断面を示す。なお、これらの図面は説明のためのものであり、各構成における縦横厚さ高さなどの比や構成間のサイズの比などは、必ずしも実際のものを反映していない。
【0011】
本実施形態の配線基板1は、長さ方向(X方向)や幅方向(Y方向)に比して厚さ方向(Z方向)に薄いフラットケーブルである。
図1(a)に示すように、配線基板1は、絶縁層12と、信号層13(信号導体層)と、上側導体層11(第1の接地導体層)と、下側導体層14(第2の接地導体層)とを備える。各層11~14は、いずれもZ方向に直交している。
【0012】
信号層13は、絶縁部材で分離された複数の信号線131を有する。絶縁部材は、絶縁層12と同一のものであってよく、すなわち、信号線131は、絶縁層12内の所定の高さ方向(Z方向)位置に埋め込まれた構造となっている。信号層13(信号線131)に対して+Zの側、すなわち上面側(一方の側)に絶縁層12を挟んで位置する上側導体層11と、信号層13(信号線131)に対して-Zの側、すなわち下面側(上記一方の側とは反対の側)に絶縁層12を挟んで位置する下側導体層14とが絶縁層12に対して積層されている。上側導体層11及び下側導体層14は、接地面となり、外部から信号線131への電磁ノイズの混入を遮断する。
【0013】
絶縁層12は、信号線131を各々絶縁する。絶縁層12の厚さhi(上側導体層11と下側導体層14との間の距離と等しい)は、特には限られないが、現在広く販売、利用されている製品に基づいて0.1mm~0.3mmであり、例えば、0.125mmである。絶縁層12は、信号層13の絶縁部材とともに、信号線131を挟んで上側と下側に別個の層が積層されて信号線131の間を埋め込み結合されたものであってもよい。絶縁層12は、特には限られないが、可撓性を有し、曲げ伸ばしに応じて絶縁性の低下、すなわち劣化が十分に小さい材質であって、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)である。
【0014】
信号層13には、厚さhs、幅wsの信号線131が複数本、ここでは8本がY方向に間隔dsで平行に並んでおり、それぞれX方向(第1の方向)に延在している。信号線131は、主に高周波信号を伝送するものであるが、特に配線基板1の用途や特性を限定するものではない。
【0015】
上側導体層11は、開口部111(第1の開口部)及び非開口部112(第1の非開口部)を有し、下側導体層14は、開口部141(第2の開口部)及び非開口部142(第2の非開口部)を有する。非開口部112、142とは、すなわち、導体が存在する部分であり、それぞれ、上側導体層11のうち開口部111ではない部分、下側導体層14のうち開口部141ではない部分全体であってもよい。
【0016】
図1(b)では、上側導体層11の開口部111が実線で示され、下側導体層14の開口部141が点線で示されている。開口部111、141は、いずれも幅pоで信号線131(X方向)と交差する方向(第2の方向、第3の方向)、ここでは直交する方向(Y方向)に延在する複数の帯領域をなしている。これらの開口部111、141(複数の帯領域)は、それぞれ第2の方向及び第3の方向と直交する方向について周期長2p(配列周期)ごとに位置している。開口部111の帯領域は、上側導体層11において、同様にY方向に伸びる非開口部112の帯領域とX方向(第2の方向と直交する方向)に交互に並ぶ。また、開口部141の帯領域は、下側導体層14において、同様にY方向に伸びる非開口部142の帯領域とX方向(第3の方向と直交する方向)に交互に並ぶ。本実施形態の配線基板1では、開口部111、141の帯領域は、例えば、非開口部112、142間に各々個別の孔部として設けられている。
非開口部112、142は、開口部111、141と同一方向(ここではY方向)に延在する複数の帯領域をなしている。非開口部112、142は、ここでは、Y方向についての両端にそれぞれ位置する導体部分の間を各々つないでいる。すなわち、上側導体層11及び下側導体層14において、導体部分は、それぞれ一つながりとなっている。上側導体層11及び下側導体層14は、それぞれ外部の電磁波を十分に遮断する範囲で薄くてもよく、絶縁層12とともに折れ曲がり可能である。したがって、配線基板1は全体として可撓性を有する。
なお、上側導体層11及び下側導体層14は、絶縁層12をY方向両端まで完全に覆っていなくてもよいし、あるいは、上下面だけでなくY方向両端で側面の一部又は全部を覆っていてもよい。また、配線基板1は、上側導体層11及び下側導体層14の更に外側(信号層13とは反対の側)に図示略の絶縁性保護膜を有していてもよい。
【0017】
図2にも示すように、開口部111は、第2の方向(X方向)について周期的に位置し、開口部141は、第3の方向(X方向)について周期的に位置している。開口部111の各帯領域の配列周期(周期長2p)と開口部141の配列周期は等しい。つまり、ここでは、X方向について上側導体層11における開口部111の占める割合(第1の開口率。ここでは、周期長2pに対する開口部111の開口長(幅pо)の割合)と、X方向について下側導体層14における開口部141の占める割合(第2の開口率。ここでは、周期長2pに対する開口部141の開口長(幅pо)の割合)は等しくなるように構成されている。ここで、等しくなるように構成されるとは、製造上のばらつきなど、実質的に等しいといえる程度のずれを含み得ることを示す。第1の開口率及び第2の開口率は、それぞれ1/2(半分)を若干超過している。すなわち、開口部111、141の幅pоは、非開口部112、142の幅pcよりも広い。上面側における開口部111の帯領域の配置パターンと、下面側における開口部141の帯領域の配置パターンとは、逆位相になっており、すなわち、周期長2pごとの開口が半周期p(周期長2pの半分)互いにずれて位置している。言い換えると、Z方向から見た平面視で開口部111の中心位置と開口部141の中心位置(同じように、非開口部112の延在方向に伸びる中心線C1の位置と非開口部142の延在方向に伸びる中心線C2の位置(
図2では、中心線C1、C2のX方向についての位置を示している))とが異なっており、そのずれの大きさをずれ量dpとすると、周期長2pに対するずれ量dpの割合は1/2(ずれの位相がπ)である。
これにより、開口部111と開口部141とが平面視で重なって位置する(以下ではこれを対向と記す)部分(対向部分wо)が最小となっている。すなわち、開口部111の帯領域の各々は、それぞれ大部分(少なくとも一部)が非開口部142と対向し、開口部141の帯領域の各々は、それぞれ大部分(少なくとも一部)が非開口部112と対向している。
【0018】
上側導体層11の開口部111及び下側導体層14の開口部141についての共通の開口率rоは、絶縁層12の厚さhi及び絶縁層12の比誘電率(すなわち材質)とともに、信号線131の電気容量Cを定める。信号線131の特性インピーダンスZは、電気容量Cの逆数の平方根に依存するので、電気容量Cが大きいほど特性インピーダンスZは小さくなる。一般的に、特性インピーダンスZは、50Ωなどのある程度の値にそろえられるので、絶縁層12を薄くした場合に特性インピーダンスZを低下させすぎないために、開口率rоを増加させて信号線131と上側導体層11/下側導体層14との間の容量を低下させる。
【0019】
しかしながら、開口率rоが大きくなっていくと、上側導体層11及び下側導体層14による電磁ノイズや、外部導体の接近による信号線131との間での寄生容量の発生に応じた特性インピーダンスZの変化、特に低下を防ぐ効果が減少する。配線基板1の使用時の変形などに応じて他の導体との距離が変化する場合や、例えば、配線基板1が巻回されていて配線基板1内の他の部分と近くに位置し、変形に応じて巻回の度合(他の部分との距離や位置関係)が変化するような動作、例えば、回転動作などを行う部品に使用される場合などでは、開口率rоの増加に応じて使用中に特性インピーダンスZが大きく変化しやすくなる。
【0020】
そこで、開口率rоを変化させながら、配線基板1の上下に導体を接近させた場合と、これらの導体がない場合とについて、それぞれ数値シミュレーションにより特性インピーダンスZを算出して比較、評価した。
【0021】
図3は、配線基板1の上下に導体を接近させる場合のモデルについて説明する断面図である。配線基板1は、絶縁層12の厚みを0.125mmとし、また、絶縁層として使用するポリエチレンテレフタレートに応じて比誘電率を3.0とした。絶縁層12の縦方向中心に厚さ0.035mm、幅0.2mmの信号線131を2本平行に間隔0.6mmで配置した。上側導体層11及び下側導体層14の厚さは0.01mmとしている。
【0022】
これに対し、下側には、配線基板1と同一の構造2を重ねて配置し、上側には、配線基板1のうち上側導体層11及び下側導体層14を有さない構造3を当接させている。信号線131の長さを25mmとして、一端から100psecのパルス信号を入力し、TDR(Time Domain Reflectometry)波形を取得する。シミュレーションには、ANSYS社(登録商標)の3次元電磁界シミュレーションソフトウェアHFSSを利用した。
【0023】
図4(a)は、TDR波形の取得例を示す図である。
この図では、パルス信号が入力されてから0.05~0.30nsec程度の期間では、入力されたパルス信号が他端で1回反射した状態の適切な信号が取得されている。そこで、ここでは、パルス信号の入力後、0.1nsecにおける反射波の反射量に基づいて信号線131の特性インピーダンスZを得る。周期長2pを0.4mmとして、開口率rоを0.0(開口なし)から0.1ずつ変化させながら、上下の導体層がある場合(接近時)とない場合(離隔時)の特性インピーダンスZをそれぞれ求めて評価した。
【0024】
図4(b)は、評価結果を示す図表である。
この図表において、変動幅は、離隔時の特性インピーダンスと接近時の特性インピーダンスの差分であり、平均は離隔時の特性インピーダンスと接近時の特性インピーダンスとの平均値である。各々についての評価はA~Dの4段階で行う。
【0025】
平均値の評価は、ここでは、特性インピーダンスZが60Ω以上で評価A(最善)、55Ω以上60Ω未満でB、40Ω以上55Ω未満でC、40Ω未満でDである。変動幅の評価は、ここでは、35Ω以下でA(最善)、35Ωより大きく40Ω以下でB、40Ωより大きく60Ω以下でC、60Ωより大きいとDである。配線基板1では、これら変動幅及び平均値がいずれも良好である必要があるので、総合評価は、両者の評価のうち低い方に応じて定められる。
【0026】
評価結果から明らかなように、変動幅は、開口率rоが小さいほど小さく、開口率rоが大きくなるとシールドが不十分となって変動幅が拡大する。一方、平均は、開口率rоが小さいほど小さく、開口が広くなるにつれて大きくなる。すなわち、変動幅の傾向と平均の傾向は反対である。したがって、開口率rоが中程度であれば、所望の平均値と小さい変動幅が同時に得られることになる。
【0027】
ここでは、開口率rоが0.6以下で変動幅の評価がAであり、開口率rоが0.5以上で平均値の評価がAとなる。したがって、開口率rоが0.5以上0.6以下では総合評価がAとなる。開口率rоが0.4以上0.6以下では総合評価B以上が得られ、開口率rоが0.2以上0.8以下では総合評価C以上が得られる。どの総合評価を基準にするかは、配線基板1の要求精度、使用条件、接続される配線や電子部品などの一部又は全部に応じて適宜定められてよい。また、片側からのみ外部の導体が近づく場合には、上記シミュレーション結果と比較して、変動幅は小さくなり、平均値は大きくなると想定される。したがって、総合評価が高くなる開口率roの範囲が広がる。
【0028】
[変形例]
図5~
図8は、上側導体層11の非開口部112及び下側導体層14の非開口部142の位置関係の変形例を示す図である。これらの各変形例では、開口率をそれぞれ約0.6として示している。
【0029】
図5(a)に示す第1の変形例では、開口部111及び非開口部112、並びに開口部141及び非開口部142は、それぞれ、信号線131の延在方向(X方向)に対して斜めに交差し、各帯領域はそれぞれX方向と直交しない第2の方向及び第3の方向に延在している。この場合、開口部111及び開口部141のX方向についての周期長2piと、第2の方向又は第3の方向(
図5では第2の方向を図示)にそれぞれ直交する方向についての周期長2pを傾き角度に応じて広く定めた場合とでは、顕著な効果の差は生じない。
【0030】
図5(b)に示す第2の変形例では、開口部111及び非開口部112の各帯領域のX方向に対する傾き角(すなわち、第2方向)と、開口部141及び非開口部142の各帯領域の傾き角(すなわち、第3方向)とが異なっている。ここでは、第2方向と第3方向とでX方向に対する傾き角度の絶対値がほぼ等しく正負が異なるパターンを示しているが、絶対値が異なっていてもよい。傾き角度の絶対値が異なる場合には、上側導体層11と下側導体層14とで各帯領域に直交する方向についての周期長2pが等しくてもX方向についての周期長2piが異なることになる。
【0031】
図6に示す第3の変形例では、上側導体層11及び下側導体層14の開口率rоが一定ではない。ここでは、周期長2pは一定であるが、領域11a、12aの開口幅pо1は、領域11b、12bの開口幅pо2よりも小さい。反対に、領域11a、12aの非開口部112、142の幅pc1は、領域11b、12bの非開口部112、142の幅pc2よりも大きい。特性インピーダンスZは、各領域の開口率の平均値(上側導体層11におけるこの平均値が本変形例における第1の開口率に対応し、下側導体層14におけるこの平均値が本変形例における第2の開口率に対応する)に応じて定まる。当該開口率の平均値に応じた特性インピーダンスZの変動幅と平均値に係る評価は、一定の開口率の場合に比して特徴的な差異を生じない。したがって、X方向(第2の方向/第3の方向と垂直な方向)について配線基板全体又は配線基板の所定の領域における開口率である平均開口率が、所定の範囲になっていればよい。
【0032】
図7(a)に示す第4の変形例では、絶縁層12の厚さを上記実施形態の厚さhiの2倍に拡張している。もともと配線基板1では、厚さhiを薄くするのが好ましいが、電気的特性を考慮して、製造上の限界まで薄くしなくてもよい。厚さhiを大きくすることで平均値が増加する。厚さhiの最低値が上記実施形態で示した値の2倍とされ、厚さhiが0.2mm~0.3mm、例えば、0.25mmとされることで、
図7(b)に示した評価結果(評価基準は
図4(b)と同一)において、平均値の評価は、開口率rоが小さくても改善される。また、変化量についても、開口率rоが大きい場合に改善されることが分かる。総合評価Aは、0.5以上0.6以下だけでなく、0.1以上0.8以下であれば得られる。すなわち、開口率rоを0.5未満とすることで、配線基板1は、評価Aかつ対向部分wоを有さない形状とすることができる。なお、これ以上厚さhiが増すと、必要以上に特性インピーダンスZの平均値が増加することになり、評価はこれ以上改善されない一方で、剛性も増してたわみにくくなる、占有体積が必要以上に増加するなどの短所が大きくなり得る。
【0033】
上記実施形態及び各変形例1~4では、開口部111と開口部141とが重なる部分を最も小さくするように、周期長2pに対して開口位置が半周期p(周期長2pの半分)互いにずれて位置している(すなわち、半周期pに対するずれ量dpの割合が1(ずれの位相がπ))。これにより、X方向について各位置で、なるべく上面側又は下面側のうち少なくともいずれかに導体面(非開口部)が存在し、開口部111と開口部141の対向部分wоの面積が小さくなる。特に、開口率rоが0.5未満であれば、ずれの位相がπから多少ずれたとしても、開口部111と開口部141とが対向しない状態が維持される。これにより、外部導体の離隔時と接近時とでの変動幅が多少小さく抑えられる。
【0034】
図8に示す第5の変形例では、半周期pに対するずれ量dpの割合は、1よりも小さく、開口部111は非開口部142と部分的に対向し、開口部141は、非開口部112と部分的に対向する。すなわち、完全に開口部111と開口部141とが対向しているわけではないが、部分的に対向部分wоが生じている。このように、上側導体層11と下側導体層14とで開口部111、141の位置、すなわち、上側導体層11の非開口部112(第1の非開口部)及び下側導体層14の非開口部142(第2の非開口部)の中心線が完全に一致せずに多少であってもずれるように配置することで、開口部111と開口部141の対向部分wоの面積が小さくなる。これにより、外部の導体が接近したり離隔したりすることによる当該外部導体と信号線131との間での容量の増減が抑制され、特性インピーダンスZの変動を抑制することができる。
【0035】
以上のように、本実施形態の配線基板1は、絶縁層12と、X方向に延在する信号線131を有する信号層13と、開口部111及び非開口部112を有する上側導体層11と、開口部141及び非開口部142を有する下側導体層14と、を備える。上側導体層11は、絶縁層12を挟んで信号層13の上側(+Zの側)に位置し、開口部111及び非開口部112は、それぞれX方向と交差して第2の方向(Y方向など)に延在する帯領域をなして第2の方向(Y方向)と直交する方向(X方向)に交互に並んでいる。下側導体層14は、絶縁層12を挟んで信号層13の上側とは反対の下側(-Zの側)に位置し、開口部141及び非開口部142は、それぞれX方向と交差して第3の方向(Y方向など)に延在する帯領域をなして第3の方向(Y方向)と直交する方向(X方向)に交互に並んでいる。この配線基板1では、開口部111の各々は、それぞれ少なくとも一部が非開口部142と平面視で重なり、開口部141の各々は、それぞれ少なくとも一部が非開口部112と平面視で重なる。
両面に接地導体層を有する配線基板1において、定量的な評価に基づき、特性インピーダンスZを上げるための開口部111、141(非開口部112、142)が完全に平面視で重ならず(対向せず)、X方向について多少のずれを有する位置関係で配置させることで、開口部111、141の対向部分wоの面積を小さくすることができる。これにより、配線基板1の使用時に外部導体がどちらの側から接近しても、外部導体との間で生じる容量による特性インピーダンスZの変動を従来よりも適切に抑制することができる。よって、この配線基板1では、使用時の特性インピーダンスをより安定的に適切な範囲に維持することができる。また、この配線基板1では、耐ノイズ性能を適切に得ることができる。また、微小な変更を行いにくいインダクタンスや比誘電率の調整と比較して、容易に適切な構造が得られやすい。
【0036】
また、配線基板1は、X方向(第2の方向に垂直な方向)について上側導体層11における開口部111が占める第1の開口率と、X方向(第3の方向に垂直な方向)について下側導体層14における開口部141が占める第2の開口率とが等しく開口率rоである。
これにより、配線基板1では、同一周期で開口部が生じることになるので、外部導体の接近や離隔に応じた信号線131と当該外部導体との間での容量の変動幅をより安定して抑制する。これにより、配線基板1の特性インピーダンスZをより安定的に定めることができる。
【0037】
また、この配線基板1では、開口部111の配列周期と開口部141の配列周期とが等しい。すなわち、上側導体層11と下側導体層14とでは同一の開口パターンを有するので、位置の調整などが容易である。
【0038】
また、開口率rоは、0.2以上0.8以下である。シミュレーション結果から示されているように、この範囲内であれば、外部の導体の接近有無や接近方向に応じた特性インピーダンスZの変動幅も平均値も適正な範囲内とすることができる。
【0039】
さらに、開口率rоは、0.4以上0.6以下であれば特性インピーダンスZをより適切な範囲内に維持することができる。、
【0040】
さらに、開口率rоは、0.5以上0.6以下であれば、特性インピーダンスZを更に適切な範囲内に維持することができる。
【0041】
また、配線基板1では、開口部111と開口部141とが平面視で重ならない(対向しない)。これにより、外部導体の接近時における特性インピーダンスZの変動を抑制することができる。
【0042】
また、開口率rоは、0.5未満である。開口率rоを正確に0.5とせず、これよりも若干小さくすることで、設計及び組み立て製造上若干余裕を持って開口部111、141が対向しないように位置を定めることができる。
【0043】
また、絶縁層12の厚さは、0.1mm以上0.3mm以下である。すなわち、本配線基板1は、現在広く利用されている製品程度の厚さで特性インピーダンスZを適切な範囲内に維持することができる。
【0044】
また、絶縁層12の厚さは、0.2mm以上0.3mm以下であってもよい。使用時に移動したり曲げ伸ばしが生じたりする用途の配線基板1などでは、精一杯薄くするよりも若干の厚さを持たせることで、外部導体の接近状況によらず特性インピーダンスZを適切な範囲に維持するとともに、製品に耐久性を持たせることができる。
【0045】
また、配線基板1は、可撓性を有する。これにより、使用時に曲げ伸ばしが生じたり巻回状態が変化したりするような使い方であっても適切かつ安定した精度で利用することができる。
【0046】
なお、本発明は、上記実施の形態に限られるものではなく、様々な変更が可能である。
例えば、上記実施の形態では、長矩形状の開口部111、141がそれぞれ第2の方向、第3の方向に延在しているが、これらの開口部111、141は、長矩形状でなくてもよい。角が丸められた形状などであってもよい。また、開口率rоに大きなばらつきが生じない範囲で開口部111、141の長辺が直線でなくてもよい。
【0047】
また、上記実施の形態では、非開口部112、142間に複数の独立した長方形の開口が並んでいる開口部111、141を示したが、非開口部112、142の接地状態が得られれば、この形態に限られない。例えば、各開口部111、141は、それぞれ非開口部112、142のY方向一端側から切り込み形状で設けられ、非開口部112、142がY方向他端側のみでそれぞれつながり、導体部分が櫛型の形状を有していてもよい。また、非開口部112、142がスルービアなどを介して電気的に接続されていてもよい。
【0048】
また、上記実施の形態では、上側導体層11の周期長2pと下側導体層14の周期長2pとが等しいものとして説明したが、必ずしも等しくなくてもよい。この場合、開口率に応じて開口部111と開口部141のサイズが異なるので、サイズが小さい方の開口部は、必ずしも全てが他方の非開口部の少なくとも一部と対向しなくてもよい。また、上側導体層11に係る第2の方向と下側導体層14に係る第3の方向のX方向からの角度に応じてX方向についての周期長2piが等しくなるように第2の方向に垂直な方向についての開口部111及び非開口部112の帯領域の幅と、第3の方向に垂直な方向についての開口部141及び非開口部142の帯領域の幅とが調節されてもよい。
【0049】
また、第1の開口率(上側導体層11の開口率)と第2の開口率(下側導体層14の開口率)とは異なっても良い。第1の開口率と第2の開口率が異なる場合でも、第1の開口部の各々は、それぞれ少なくとも一部が第2の非開口部と前記平面視で重なり、第2の開口部の各々は、それぞれ少なくとも一部が第1の非開口部と前記平面視で重なるよう構成されることで、配線基板1は、外部導体と離隔している状態でも初めから信号線131の少なくとも一方の側にはなるべく接地面が対向している形状となる。したがって、配線基板1では、外部導体の接近や離隔に応じた信号線131と当該外部導体との間での容量の変動幅が抑制される。これにより、配線基板1の特性インピーダンスZをより安定的に定めることができる。
【0050】
また、上記実施の形態では、厚さが0.1~0.3mmの場合を例に挙げて説明したが、この範囲内でなくてもよい。また、上記実施の形態では、信号層13が一層のみであるとして説明したが、厚さ方向(Z方向)に複数層重ねられて、各層間にそれぞれ絶縁層12が位置していてもよい。この場合でも、本実施形態で示した上側導体層11及び下側導体層14の構成により少なくとも最も上側及び下側の信号層に位置する信号線131の特性インピーダンスZを適切に調整することができる。なお、複数の信号層13間にも接地導体層が位置していてもよく、この場合、各信号層13の上下の接地導体層間で各開口が反対側の接地導体層の非開口と少なくとも一部で対向するような位置関係とされていてもよい。
【0051】
また、上記実施の形態では、配線基板1として可撓性を有するフラットケーブルを例に挙げて説明したが、撓まないリジッドな配線基板であってもよい。また、上記実施例の配線基板1は、幅15mm、長さ700mmのものを例として挙げることができるが、本形状に限定されるものではない。例えば、配線基板1幅方向に比してそれほど長くなくてもよい。また、絶縁層12内の信号線131の本数は任意であってよい。
【0052】
その他、上記実施の形態で示した具体的な構成、処理動作の内容及び手順などは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。本発明の範囲は、特許請求の範囲に記載した発明の範囲とその均等の範囲を含む。
【符号の説明】
【0053】
1 配線基板
11 上側導体層
111 開口部
112 非開口部
12 絶縁層
13 信号層
131 信号線
14 下側導体層
141 開口部
142 非開口部
rо 開口率