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特許7598771光ファイバ母材の製造装置及び光ファイバ母材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】光ファイバ母材の製造装置及び光ファイバ母材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 37/018 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
C03B37/018 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021007466
(22)【出願日】2021-01-20
(65)【公開番号】P2022111799
(43)【公開日】2022-08-01
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100114915
【弁理士】
【氏名又は名称】三村 治彦
(74)【代理人】
【識別番号】100125139
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 洋
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-081537(JP,A)
【文献】特開2002-167228(JP,A)
【文献】特開2001-031431(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 37/018
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットの中心軸を回転軸として前記ターゲットを回転可能に保持する保持部と、
前記ターゲットの周方向の互いに異なる位置に配置され、前記ターゲットに堆積するガラス粒子を生成するための火炎を形成し、前記ターゲットの一端側の第1の位置と前記ターゲットの他端側の第2の位置との間の可動範囲において前記ターゲットに沿って往復移動可能な複数のバーナー部と、
往復移動する前記複数のバーナー部の復路移動の速度が互いに異なるように前記複数のバーナー部を制御する制御部と
を有し、
前記制御部は、前記複数のバーナー部のうちの1つのバーナー部を基準バーナー部として、他のバーナー部の前記復路移動の速度を、前記基準バーナー部の前記復路移動の速度の±20%以内の速度に設定する
ことを特徴とする光ファイバ母材の製造装置。
【請求項2】
前記制御部は、往復移動する前記複数のバーナー部の往路移動の速度が、少なくとも前記往路移動ごとに同一の速度になるように前記複数のバーナー部を制御する
ことを特徴とする請求項1記載の光ファイバ母材の製造装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記複数のバーナー部の前記復路移動の速度を、それぞれ前記往路移動の速度の2倍よりも速くなるように設定する
ことを特徴とする請求項2記載の光ファイバ母材の製造装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記複数のバーナー部の数をN(ただし、NはN≧2を満足する自然数である。)、前記可動範囲の前記ターゲットの前記中心軸に沿った方向の距離をL、前記往復移動の往路において順に並んで移動する前記複数のバーナー部のうちのm番目(ただし、mは1≦m≦N-1を満足する自然数である。)のバーナー部と(m+1)番目のバーナー部との間の距離をd(m,m+1)として、次式(1)及び(2)を満足するように前記複数のバーナー部を制御する
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光ファイバ母材の製造装置。
【数1】
0<d(m,m+1) (2)
【請求項5】
前記制御部は、次式(3)を満足するように前記複数のバーナー部を制御する
ことを特徴とする請求項4記載の光ファイバ母材の製造装置。
【数2】
【請求項6】
前記制御部は、前記複数のバーナー部の前記復路移動の速度を、400mm/分よりも速く、28,000mm/分よりも遅くなるように設定する
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の光ファイバ母材の製造装置。
【請求項7】
ターゲットの中心軸を回転軸として前記ターゲットを回転可能に保持する保持部と、
前記ターゲットの周方向の互いに異なる位置に配置され、前記ターゲットに堆積するガラス粒子を生成するための火炎を形成し、前記ターゲットの一端側の第1の位置と前記ターゲットの他端側の第2の位置との間の可動範囲において前記ターゲットに沿って往復移動可能な複数のバーナー部とを有する光ファイバ母材の製造装置を用いた光ファイバ母材の製造方法であって、
前記保持部により前記ターゲットを回転させながら、前記火炎を形成した前記複数のバーナー部を前記可動範囲において前記ターゲットに沿って往復移動させて前記ターゲットに前記ガラス粒子を堆積させ、
往復移動する前記複数のバーナー部の復路移動の速度が互いに異なるように前記複数のバーナー部を制御し、前記複数のバーナー部のうちの1つのバーナー部を基準バーナー部として、他のバーナー部の前記復路移動の速度を、前記基準バーナー部の前記復路移動の速度の±20%以内の速度に設定する
ことを特徴とする光ファイバ母材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ母材の製造装置及び光ファイバ母材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ターゲット棒を垂直に配置して回転させ、複数のガラス微粒子発生装置を、上下方向に間隔をあけて、吹き出し口をターゲット棒に向けたまま、周方向に異なる位置で上下方向に往復移動させる光ファイバ母材の製造方法が記載されている。特許文献1に記載の製造方法は、ガラス微粒子発生装置への燃料ガスおよび原料ガスの供給条件は上昇時、下降時とも同じとし、ガラス微粒子発生装置が上昇する時と下降する時の両方でガラス微粒子を堆積させる。
【0003】
かかる光ファイバ母材の製造方法により得られた光ファイバ母材は、不均一な密度分布によりガラス化時に気泡が生じるおそれがある。そこで、特許文献2には、ガラス化時の気泡の発生を抑制する光ファイバ母材の製造方法が記載されている。特許文献2に記載の製造方法は、複数のバーナーをターゲットの一方の端部近傍から他方の端部近傍までの間を往復移動させてバーナーによる火炎中で形成したガラス粒子をターゲットに堆積させる際に、往復サイクルに応じて異なる位置でバーナーを反転させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-7430号公報
【文献】特開2013-249233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載の製造方法では、バーナーの反転位置をずらした距離の分だけ、光ファイバ母材の端部において非有効部であるテーパー部が長尺化し、その結果、コストの上昇を招いてしまうおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、上述した課題を鑑み、コストの上昇を伴うことなく、高品質の光ファイバ母材を製造することができる光ファイバ母材の製造装置及び光ファイバ母材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によれば、ターゲットの中心軸を回転軸として前記ターゲットを回転可能に保持する保持部と、前記ターゲットの周方向の互いに異なる位置に配置され、前記ターゲットに堆積するガラス粒子を生成するための火炎を形成し、前記ターゲットの一端側の第1の位置と前記ターゲットの他端側の第2の位置との間の可動範囲において前記ターゲットに沿って往復移動可能な複数のバーナー部と、往復移動する前記複数のバーナー部の復路移動の速度が互いに異なるように前記複数のバーナー部を制御する制御部とを有することを特徴とする光ファイバ母材の製造装置が提供される。
【0008】
本発明の他の観点によれば、ターゲットの中心軸を回転軸として前記ターゲットを回転可能に保持する保持部と、前記ターゲットの周方向の互いに異なる位置に配置され、前記ターゲットに堆積するガラス粒子を生成するための火炎を形成し、前記ターゲットの一端側の第1の位置と前記ターゲットの他端側の第2の位置との間の可動範囲において前記ターゲットに沿って往復移動可能な複数のバーナー部とを有する光ファイバ母材の製造装置を用いた光ファイバ母材の製造方法であって、前記保持部により前記ターゲットを回転させながら、前記火炎を形成した前記複数のバーナー部を前記可動範囲において前記ターゲットに沿って往復移動させて前記ターゲットに前記ガラス粒子を堆積させ、往復移動する前記複数のバーナー部の復路移動の速度が互いに異なるように前記複数のバーナー部を制御することを特徴とする光ファイバ母材の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、コストの上昇を伴うことなく、高品質の光ファイバ母材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施形態による光ファイバ母材の製造装置を示す概略図である。
図2図2は、本発明の一実施形態による光ファイバ母材の製造方法を示す概略図(その1)である。
図3図3は、本発明の一実施形態による光ファイバ母材の製造方法を示す概略図(その2)である。
図4図4は、本発明の一実施形態による光ファイバ母材の製造方法を示す概略図(その3)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[一実施形態]
本発明の一実施形態による光ファイバ母材の製造装置及び光ファイバ母材の製造方法について図1乃至図4を用いて説明する。以下の説明では、鉛直方向に沿った方向をZ方向とする。また、Z方向のうち、上から下に向かう方向を+Z方向、+Z方向とは逆の下から上に向かう方向を-Z方向とする。なお、Z方向は、必ずしも鉛直方向に沿った方向である必要はなく、鉛直方向に対して傾斜した方向であってもよい。また、Z方向は、水平方向に沿った方向であってもよい。
【0012】
まず、本実施形態による光ファイバ母材の製造装置の構成について図1を用いて説明する。図1は、本実施形態による光ファイバ母材の製造装置を示す概略図である。
【0013】
本実施形態による光ファイバ母材の製造装置は、例えばOVD(Outside Vapor Deposition)法により光ファイバ母材を製造する製造装置である。図1に示すように、本実施形態による光ファイバ母材の製造装置10は、装置ベース12と、ターゲット棒14を保持する保持部16a、16bとを有している。また、光ファイバ母材の製造装置10は、複数のバーナーガイド18a、18b、18cと、複数のバーナー20a、20b、20cと、排気機構22と、制御装置24とを有している。なお、本実施形態では、3つのバーナー20a、20b、20c及びこれらに対応する3つのバーナーガイド18a、18b、18cが設置されたバーナー数Nが3の場合を例に説明するが、バーナー数Nは2以上の自然数であれば特に限定されるものではない。
【0014】
装置ベース12は、保持部16a、16b及びバーナーガイド18a、18b、18cを支持する支持部として機能する。また、装置ベース12は、保持部16aと保持部16bとが互いにZ方向に対向するように保持部16a、16bを支持する。また、装置ベース12は、Z方向に沿ってバーナーガイド18a、18b、18cを支持する。装置ベース12は、特に限定されるものではないが、例えば、保持部16a、16b及びバーナーガイド18a、18b、18cをあわせて又は個別に支持する台状、板状、枠状の構造体である。
【0015】
ターゲット棒14は、光ファイバ母材を形成するためのターゲットとなる円柱棒状の芯材である。ターゲット棒14は、例えば、光ファイバのコア用の石英ガラス棒である。ターゲット棒14の外周面には、後述するように複数のバーナー20a、20b、20cにより生成されたスートと呼ばれる例えば石英ガラスのガラス微粒子が堆積して、ガラス微粒子の堆積体からなる多孔質の光ファイバ母材が形成される。堆積するガラス微粒子は、特に限定されるものではなく、製造条件によって変わりうるが、例えば、粒径0.01μm~0.2μmのガラス粒子である。
【0016】
保持部16a、16bは、ターゲット棒14の中心軸を回転軸としてターゲット棒14を回転可能に保持する。保持部16a、16bは、Z方向においてターゲット棒14を保持可能な間隔を空けて設置されている。保持部16aはターゲット棒14の一端である上端を、保持部16bはターゲット棒14の他端である下端を回転可能に保持する。これにより、保持部16a、16bは、ターゲット棒14の中心軸がZ方向に沿うように保持するとともに、ターゲット棒14の中心軸を回転軸としてターゲット棒14を回転可能に保持する。
【0017】
また、保持部16a、16bは、制御装置24による制御に従って、ターゲット棒14の中心軸を回転軸としてターゲット棒14を回転させるように構成されている。保持部16a、16bは、制御装置24による制御に従って、ターゲット棒14を回転させる回転速度を変更することができる。
【0018】
バーナーガイド18a、18b、18cは、それぞれバーナー20a、20b、20cをZ方向に沿った所定の可動範囲において往復移動可能に支持する支持体である。バーナーガイド18a、18b、18cは、保持部16a、16bによりZ方向に沿って保持されたターゲット棒14に沿うようにZ方向に沿って装置ベース12により支持されている。バーナーガイド18a、18b、18cは、ターゲット棒14の外周面から所定の位置にターゲット棒14の外周方向の所定の範囲に所定の間隔を空けて配置されている。
【0019】
複数のバーナー20a、20b、20cは、それぞれターゲット棒14に対向するようにバーナーガイド18a、18b、18cに支持され、ターゲット棒14の周方向の互いに異なる位置に配置されている。複数のバーナー20a、20b、20cは、制御装置24による制御に従って、所定の可動範囲においてターゲット棒14の中心軸に沿った移動方向であるZ方向に繰り返し往復移動可能に構成されている。すなわち、複数のバーナー20a、20b、20cは、所定の可動範囲において+Z方向への移動と-Z方向への移動とを交互に繰り返すことができるように構成されている。
【0020】
複数のバーナー20a、20b、20cの可動範囲は、Z方向において、ターゲット棒14の上端側の位置である起点とターゲット棒14の下端側の位置である折り返し点との間の範囲である。複数のバーナー20a、20b、20cの起点は、Z方向における位置が互いに同じであっても異なっていてもよい。複数のバーナー20a、20b、20cの折り返し点も、Z方向における位置が互いに同じであっても異なっていてもよい。なお、起点と折り返し点とは、上下が逆であってもよい。
【0021】
複数のバーナー20a、20b、20cは、制御装置24による制御に従って、往復移動の際の+Z方向及び-Z方向への移動における移動速度及び移動方向を変更することができる。複数のバーナー20a、20b、20cの移動機構は、特に限定されるものではないが、例えば、リニアモータ、ボールねじ等による移動機構である。複数のバーナー20a、20b、20cの移動速度及び移動方向の詳細については後述する。
【0022】
各バーナー20a、20b、20cは、ターゲット棒14に向けて、ガラス微粒子を生成するための火炎を噴出口から形成するバーナー部である。各バーナー20a、20b、20cは、例えば、火炎の噴出口において同心円状に多層に形成された火炎形成用ガスの噴出ノズルを有している。火炎形成用ガスは、例えば、水素等の燃焼性ガス、酸素等の助燃性ガスを含んでいる。なお、バーナー部は、バーナー単体に限定されるものではない。すなわち、複数のバーナー20a、20b、20cのそれぞれ又は少なくとも1つに代えて、複数のバーナーが一体となったバーナーアレイをバーナー部として用いることができる。バーナーアレイは、各バーナー20a、20b、20cと同様に往復移動するアレイと、アレイに装着された複数のバーナーとを有するように構成することができる。バーナーアレイにおけるバーナーは、各バーナー20a、20b、20cと同様に構成することができる。
【0023】
複数のバーナー20a、20b、20cは、噴出口から火炎を形成してその火炎中に原料ガスを導入するため、火炎形成用ガス及び原料ガスを含む複数種のガスが供給されるようになっている。複数のバーナー20a、20b、20cに供給される複数種のガスは、例えば、水素ガス、酸素ガス、アルゴンガス、原料ガス等である。原料ガスには、四塩化ケイ素等が含まれる。キャリアガス等としてアルゴンガスが適宜用いられる。各バーナー20a、20b、20cにおいて、水素ガス及び酸素ガスの燃焼により酸水素火炎が形成されるとともに、その酸水素火炎中に原料ガスが導入される。火炎に導入された原料ガスが火炎加水分解を受けることにより、ガラス微粒子が生成されてターゲット棒14の外周面に堆積する。
【0024】
複数のバーナー20a、20b、20cは、Z方向に直交する面に沿って、それぞれの火炎の噴出口がターゲット棒14の中心軸を向くように18a、18b、18cに支持されている。各バーナー20a、20b、20cは、このように噴出口をターゲット棒14の中心軸を向けつつ+Z方向及び-Z方向に移動可能になっている。各バーナー20a、20b、20cとターゲット棒14との間の距離は、各バーナー20a、20b、20cにより生成されたガラス微粒子がターゲット棒14に堆積可能な距離に設定されている。
【0025】
排気機構22は、ターゲット棒14を介してバーナーガイド18a、18b、18cに対向するようにバーナーガイド18a、18b、18cの側を向いて設置されている。排気機構22は、複数のバーナー20a、20b、20cによる火炎の燃焼後の排気を集めるための排気フード22aを有している。排気フード22aは、複数のバーナー20a、20b、20cのZ方向に沿った可動範囲の一部又全部にわたって設けられている。排気機構22には、不図示の排風機が接続されている。排気機構22は、バーナーガイド18a、18b、18cにおける複数のバーナー20a、20b、20cの可動範囲を含む領域と排気機構22との間の空間の気体を排気フード22aを通して排風機により集めて排気する。排気機構22は、複数のバーナー20a、20b、20cにより生成されたガラス微粒子のうちターゲット棒14に堆積せずに浮遊する余分なガラス微粒子を含む気体を排気して、複数のバーナー20a、20b、20cの火炎を安定化させることができる。
【0026】
制御装置24は、ターゲット棒14へガラス微粒子を堆積して光ファイバ母材を製造する間、光ファイバ母材の製造装置10の各部の管理及び制御を行う制御部として機能する情報処理装置である。制御装置24は、種々の演算、制御、判別等の処理を実行するCPU(Central Processing Unit)(図示せず)を有している。また、制御装置24は、CPUによって実行される様々な制御プログラム、CPUが参照するデータベース等を格納する記憶装置(図示せず)を有している。また、制御装置24は、CPUが処理しているデータ、入力データ等を一時的に格納するRAM(Random Access Memory)(図示せず)を有している。
【0027】
なお、制御装置24は、特に限定されるものではないが、パーソナルコンピュータ等の汎用のコンピュータ装置により構成することもできるし、光ファイバ母材の製造装置10に専用のコンピュータ装置により構成することもできる。また、制御装置24の各機能は、単一のコンピュータ装置により実現することもできるし、複数台のコンピュータ装置により実現することもできる。
【0028】
制御装置24は、例えば、保持部16a、16b、複数のバーナー20a、20b、20c及び排気機構22と通信可能に接続されている。これにより、制御装置24は、光ファイバ母材の製造装置10における保持部16a、16b、複数のバーナー20a、20b、20c、排気機構22等の各部を制御することが可能になっている。
【0029】
制御装置24は、保持部16a、16bを制御して、保持部16a、16bによるターゲット棒14の回転速度を制御することができる。制御装置24は、光ファイバ母材を製造する間、例えば、ターゲット棒14の回転速度を一定の回転速度に維持することもできるし、ターゲット棒14の回転速度を製造開始からの時間に応じて変更することもできる。
【0030】
また、制御装置24は、保持部16a、16bによりターゲット棒14を回転させながら、以下のように火炎を形成した複数のバーナー20a、20b、20cの移動速度及び移動方向を制御することができる。
【0031】
まず、制御装置24は、複数のバーナー20a、20b、20cの往復移動における起点から折り返し点に+Z方向に向かう往路移動では、複数のバーナー20a、20b、20cを同一の速度Vaで移動させることができる。なお、制御装置24は、往路移動の速度Vaが、繰り返される往路移動において少なくとも往路移動ごとに同一になるように複数のバーナー20a、20b、20cを制御することができる。すなわち、繰り返される往復移動において、異なる回の往路移動における速度Vaは、同一であっても異なっていてもよい。なお、本実施形態では、複数のバーナー20a、20b、20cの往復移動において+Z方向に向かう移動を往路移動、-Z方向に向かう移動を復路移動と定義しているが、往路移動及び復路移動の定義は互いに逆であってもよい。すなわち、複数のバーナー20a、20b、20cの往復移動において、-Z方向に向かう移動を往路移動、+Z方向に向かう移動を復路移動と定義することもできる。
【0032】
また、制御装置24は、複数のバーナー20a、20b、20cの往復移動における折り返し点から起点に-Z方向に向かう復路移動では、複数のバーナー20a、20b、20cをそれぞれ互いに異なる速度Vb1、Vb2、Vb3で移動させることができる。ここで、制御装置24は、速度Vb1、Vb2、Vb3を、それぞれ往路移動の速度Vaの2倍よりも速くなるように設定することができる。
【0033】
具体的には、制御装置24は、次のようにして復路移動の速度Vb1、Vb2、Vb3を制御することができる。すなわち、制御装置24は、例えば、移動経路において互いに隣接するバーナー20aとバーナー20bとの間の距離、及び移動経路において互いに隣接するバーナー20bとバーナー20cとの間の距離について、それぞれ最大値及び最小値を設定する。ここで、バーナー20aが先頭を移動しているとして、Vb1<Vb2の場合、バーナー20aとバーナー20bとの間の距離は復路ごとに近づいていく。この場合、制御装置24は、当該距離が最小値より短くなったとき、その次の復路でVb1>Vb2になるようにバーナー20a、20bの速度Vb1、Vb2を切り換える。それ以降、Vb1>Vb2を継続することにより、バーナー20aとバーナー20bとの間の距離が復路ごとに遠ざかっていく。そして、当該距離が最大値を超えるまで遠ざかると、制御装置24は、そこで再度Vb1<Vb2となるようにバーナー20a、20bの速度Vb1、Vb2を切り替える。以後、制御装置24は、速度Vb1、Vb2の切り替えを同様に繰り返す。このような制御によって、往復移動ごとにバーナー20aとバーナー20bとの間の距離が変化することで、バーナー20aとバーナー20bと互いが交差する位置を不規則に変化させることができる。なお、制御装置24は、速度Vb1、Vb2と同様に、速度Vb2、Vb3についても、バーナー20bとバーナー20cとの間の距離について設定された最大値及び最小値を用いて切り替えることができる。
【0034】
このように、制御装置24は、往復移動する複数のバーナー20a、20b、20cの復路移動の速度Vb1、Vb2、Vb3が互いに異なるように複数のバーナー20a、20b、20cを制御する。
【0035】
また、制御装置24は、複数のバーナー20a、20b、20cのうちの1つのバーナーを基準バーナーとして、残りの他のバーナーの復路移動の速度を、基準バーナーの復路移動の速度の±20%以内の速度に設定することができる。
【0036】
制御装置24は、複数のバーナー20a、20b、20cの復路移動の速度Vb1、Vb2、Vb3を、例えば具体的には、それぞれ、400mm/分よりも速く、28,000mm/分よりも遅くなるように設定することができる。
【0037】
制御装置24は、往路を+Z方向に移動させた複数のバーナー20a、20b、20cの移動方向を、折り返し点において+Z方向から-Z方向に切り替える。また、制御装置24は、復路を-Z方向に移動させて複数のバーナー20a、20b、20cの移動方向を、起点において-Z方向から+Z方向に切り替える。制御装置24は、こうして移動方向を切り替えることにより、複数のバーナー20a、20b、20cをZ方向に沿った可動範囲において往復移動を繰り返させる。
【0038】
複数のバーナー20a、20b、20cは、上述した制御装置24による速度制御により生じる速度差のため、往復移動する移動経路に沿って間隔を空けて往復移動する。ここで、複数のバーナー20a、20b、20cが往復移動する可動範囲のZ方向の距離をL、すなわち往復移動の往路のZ方向の距離及び復路のZ方向の距離をそれぞれLとする。制御装置24は、複数のバーナー20a、20b、20cの移動経路に沿って並ぶ複数のバーナー20a、20b、20cのうちの往路において互いに隣接するバーナー間の距離の総和が距離L未満になるように、複数のバーナー20a、20b、20cの速度を制御することができる。ただし、制御装置24は、前述の隣接するバーナー間の各距離がいずれも0より大きくなるように各バーナーの速度を制御することができる。
【0039】
例えば、移動経路に沿って往路においてバーナー20a、バーナー20b及びバーナー20cがこの順で並ぶ場合を考える。この場合、制御装置24は、バーナー20aとバーナー20bとの間の距離及びバーナー20bとバーナー20cとの間の距離の和が距離L未満になるように、複数のバーナー20a、20b、20cの速度を制御することができる。すなわち、制御装置24は、往路において並んだ複数のバーナー20a、20b、20cのうちの往路において互いに隣接するバーナー間の距離の総和が距離L未満になるように、複数のバーナー20a、20b、20cの速度を制御することができる。
【0040】
バーナー数がNの場合、制御装置24は、往路において順に並んで移動するN個のバーナーの並びにおいて例えば起点から数えてm番目のバーナーと(m+1)番目のバーナーとの間の距離をd(m,m+1)として、次式(1)を満足するようにN個のバーナーの速度を制御することができる。ただし、mは1≦m≦N-1を満足する自然数である。
【数1】
【0041】
ただし、制御装置24は、N個のバーナーがそれぞれ重なって往復移動を行わないように、さらに次式(2)を満足するようにN個のバーナーの速度を制御することができる。
0<d(m,m+1) (2)
【0042】
なお、往路におけるN個のバーナーの並びは、移動順での先頭、中間及び最後尾の各バーナーの並び順で、次の第1乃至第3の場合を含みうる。第1の場合は、往路において、起点から折り返し点に向かって、最後尾のバーナー、中間のバーナー及び先頭のバーナーの順で並んだ場合である。第2の場合は、往路において、起点から折り返し点に向かって、先頭のバーナー、最後尾のバーナー及び中間のバーナーの順で並んだ場合である。第3の場合は、往路において、起点から折り返し点に向かって、中間のバーナー、先頭のバーナー及び最後尾のバーナーの順で並んだ場合である。
【0043】
制御装置24は、複数のバーナー20a、20b、20cのうちの移動経路において互いに隣接するバーナー間の距離の上述した最大値及び最小値をそれぞれ例えば0.3L、0.1Lに設定することができる。なお、隣接するバーナー間の距離の最大値及び最小値は、例示の値に限定されるものではなく、バーナー数Nによって変わりうる値である。バーナー数がNの場合、制御装置24は、上記の距離d(m,m+1)について、次式(3)を満足するようにN個のバーナーの速度を制御することができる。
【数2】
【0044】
なお、隣接するバーナー間の距離の最小値については、バーナー又はバーナーアレイの各火炎が互いに干渉しない条件として、d(m,m+1)を、互いに隣接するバーナー又はバーナーアレイの火炎が互いに干渉しない距離以上にすることが望ましい。制御装置24は、d(m,m+1)が、かかる距離以上になるようにN個のバーナーの速度を制御することができる。
【0045】
また、制御装置24は、複数のバーナー20a、20b、20cを制御して、複数のバーナー20a、20b、20cに供給される各種ガスの流量等を制御しつつ、複数のバーナー20a、20b、20cによるガラス微粒子の生成を制御することができる。また、制御装置24は、排気機構22を含む排気機構による排気を制御することができる。
【0046】
こうして、本実施形態による光ファイバ母材の製造装置10が構成されている。
【0047】
次に、本実施形態による光ファイバ母材の製造装置10による光ファイバ母材の製造方法についてさらに図2乃至図4を用いて説明する。図2乃至図4は、本実施形態による光ファイバ母材の製造方法を示す概略図である。
【0048】
光ファイバ母材の製造装置10は、次の初期状態から光ファイバ母材の製造を開始する。すなわち、初期状態では、バーナーガイド18a、18b、18cにおいてそれぞれバーナー20a、20b、20cがZ方向におけるターゲット棒14の上端側に位置する往復移動の起点に停止している。複数のバーナーガイド18a、18b、18cの起点は、互いにZ方向における位置が互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、初期状態において、複数のバーナー20a、20b、20cが往復移動の起点に停止している必要は必ずしもなく、往復移動の起点と折り返し点との間の位置に位置していてもよい。
【0049】
制御装置24は、排気機構22を制御して排気機構22による排気を開始する。また、制御装置24は、複数のバーナー20a、20b、20cを制御して複数のバーナー20a、20b、20cにより火炎を形成してガラス微粒子の生成を開始する。さらに、制御装置24は、保持部16a、16bを制御して、保持部16a、16bによるターゲット棒14の回転を開始する。制御装置24は、光ファイバ母材の製造開始から終了までの間、各バーナー20a、20b、20cに対して火炎ガス及び原料ガスを含む各種ガスを継続的に供給する。なお、制御装置24は、保持部16a、16bによるターゲット棒14の回転速度、各バーナー20a、20b、20cに供給する各種ガスの流量等を適宜変更することができる。
【0050】
次いで、制御装置24は、複数のバーナー20a、20b、20cを制御して、図2に示すように、複数のバーナー20a、20b、20cを同一の速度Vaで起点から+Z方向に移動させる。
【0051】
こうして、制御装置24は、保持部16a、16bによりターゲット棒14を回転させながら、火炎を形成した複数のバーナー20a、20b、20cを同一の速度Vaで+Z方向に移動させて往路移動させる。同一の速度Vaで複数のバーナー20a、20b、20cを往路移動させることにより、ターゲット棒14により均一にガラス微粒子を堆積させることができる。なお、制御装置24は、繰り返される往復移動において少なくとも往復移動ごとに速度Vaが同一になるように複数のバーナー20a、20b、20cを制御することができる。複数のバーナー20a、20b、20cが+Z方向に移動して往路移動する間、回転するターゲット棒14の外周面には、各バーナー20a、20b、20cにより生成されるガラス微粒子が堆積していく。
【0052】
なお、制御装置24は、複数のバーナー20a、20b、20cを往路移動の速度を必ずしも同一の速度に設定する必要はなく、所定の速度範囲において異なる速度に設定することもできる。
【0053】
複数のバーナー20a、20b、20cが往路移動を行って折り返し点に到達すると、制御装置24は、複数のバーナー20a、20b、20cの移動方向を+Z方向から-Z方向に切り替える。また、制御装置24は、図3に示すように、-Z方向に切り替えた複数のバーナー20a、20b、20cを、それぞれ互いに異なる速度Vb1、Vb2、Vb3で折り返し点から-Z方向に移動させる。
【0054】
こうして、制御装置24は、上述のようにターゲット棒14にガラス微粒子を堆積させる間、往復移動する複数のバーナー20a、20b、20cの復路移動の速度が互いに異なるように複数のバーナー20a、20b、20cを制御する。すなわち、制御装置24は、引き続き保持部16a、16bによりターゲット棒14を回転させながら、火炎を形成した複数のバーナー20a、20b、20cを互いに異なる速度Vb1、Vb2、Vb3で-Z方向に移動させる。複数のバーナー20a、20b、20cが-Z方向に移動して復路移動する間、制御装置24は、復路移動の各速度Vb1、Vb2、Vb3を、往路移動の速度Vaの2倍よりも速く設定することができる。
【0055】
複数のバーナー20a、20b、20cが復路移動を行って順次起点に到達すると、制御装置24は、複数のバーナー20a、20b、20cの移動方向を-Z方向から+Z方向に順次切り替える。また、制御装置24は、図4に示すように、+Z方向に切り替えた複数のバーナー20a、20b、20cを、同一の速度Vaで起点から+Z方向に移動させる。
【0056】
以後、制御装置24は、上記と同様にして複数のバーナー20a、20b、20cについて往路移動及び復路移動を含む往復移動を繰り返して行って、ターゲット棒14の外周面へガラス微粒子を堆積させていく。
【0057】
制御装置24は、例えば、ターゲット棒14の重量変化を検出した結果、堆積したガラス微粒子の厚さを検出した結果、製造開始からの経過時間等に基づき、光ファイバ母材の製造装置10の各部の動作を停止して光ファイバ母材の製造を終了する。
【0058】
こうして、ターゲット棒14と、ターゲット棒14の外周に堆積されたガラス微粒子の多孔質の堆積体とを有する光ファイバ母材が製造される。製造された光ファイバ母材は、電気炉等の加熱炉での加熱により脱水及び焼結が行われて透明な光ファイバ母材となる。なお、ターゲット棒14は、光ファイバ母材を構成するコア用ロッドのほか、加熱前に引き抜かれる芯棒であってもよい。
【0059】
ガラス微粒子を堆積させるための複数のバーナーをターゲット棒に対して往復移動させる際に、復路移動の速度が遅いと、繰り返される往復移動において往路を移動するバーナーと復路を移動するバーナーとがすれ違って交差する時間が長くなる。この結果、バーナーが交差する位置に対応するターゲット棒の部分において、ガラス微粒子の堆積量等の堆積状態が局所的に変動することになる。
【0060】
一方、本実施形態では、復路移動における各速度Vb1、Vb2、Vb3を往路移動の速度Vaの2倍よりも速く設定することにより、バーナーが交差する時間を短縮することができる。これにより、各バーナー20a、20b、20cの往路移動において、各バーナー20a、20b、20cにより生成されるガラス微粒子のターゲット棒14の外周面への堆積を低減し、さらにはガラス微粒子の堆積を実質的に防止することができる。この結果、バーナーの交差によるガラス微粒子の堆積状態の局所的な変動を低減し、さらには堆積状態の局所的な変動を防止することができる。
【0061】
ここで、復路移動の速度が往路移動の速度に対して少しだけ速いだけでは、バーナーに供給するガスの条件を変化しなければ、往路でガラス微粒子が堆積した部分と違う堆積状態のガラス微粒子が復路で堆積するおそれがある。このような堆積が繰り返されると、堆積したガラス微粒子の密度に層状に濃淡が繰り返され、ガラス母材に発生するクラックの原因となりうる。復路移動の速度が往路移動の速度よりも少しだけ速い場合であっても、バーナーに供給するガスの条件を変化することで、理論上は密度の濃淡による不整を抑制できる可能性はある。しかしながら、ガラス微粒子が堆積されてスート径が徐々に増加する中で、速度変化をガス条件で補正して同じ堆積状態を実現することは困難である。
【0062】
これに対して、本実施形態では、復路移動における各速度Vb1、Vb2、Vb3を、往路移動の速度Vaの2倍よりも速い一定以上の速度に設定して速度Vaよりも十分に速い速度とすることができる。これにより、復路移動におけるガラス微粒子の堆積を実質的に防止して、ターゲット棒14に堆積したガラス微粒子の密度の濃淡による不整の発生を実質的に防止することができる。
【0063】
ただし、往路を移動するバーナーと復路を移動するバーナーとが交差するときに生じる密度の濃淡による不整は、復路の高速化により低減されるが、厳密に零にはならない。このため、バーナーが交差する交差位置が常に同じ、すなわちバーナー間の距離が常に同じであると、その交差位置での不整による微小変動が累積されて、最終製品では無視することができない外径変動が生じうる。仮に第1バーナー、第2バーナー及び第3バーナーの3本のバーナーの場合、最大で次の6箇所の交差位置が常に同じになって外径変動が発生しうる。6箇所の交差位置は、復路移動中の第1バーナーと往路移動中の第2バーナーとの交差位置、復路移動中の第1バーナーと往路移動中の第3バーナーとの交差位置、復路移動中の第2バーナーと往路移動中の第1バーナーとの交差位置、復路移動中の第2バーナーと往路移動中の第3バーナーとの交差位置、復路移動中の第3バーナーと往路移動中の第1バーナーとの交差位置、復路移動中の第3バーナーと往路移動中の第2バーナーとの交差位置である。
【0064】
これに対して、本実施形態では、複数のバーナー20a、20b、20cの復路移動の速度Vb1、Vb2、Vb3が互いに異なるため、複数のバーナー20a、20b、20cの間の距離が変化して交差位置が変化する。この結果、微小変動が特定の位置に偏って累積されることが回避される。こうして、本実施形態では、光ファイバ母材における構造不整や構造変動を低減して高品質の光ファイバ母材を製造することができる。
【0065】
往路移動の速度Vb1、Vb2、Vb3は、複数のバーナー20a、20b、20cのうちの1つのバーナーを基準バーナーとして、残りの他のバーナーの復路移動の速度が、基準バーナーの復路移動の速度の±20%以内の速度になるように設定することができる。このような範囲内に往路移動の速度Vb1、Vb2、Vb3の速度を設定することにより、ターゲット棒14の中心軸に沿った方向にわたって高い均一性でガラス微粒子をターゲット棒14の外周面に堆積させることができる。
【0066】
また、複数のバーナー20a、20b、20cの復路移動の速度Vb1、Vb2、Vb3は、例えば具体的には、それぞれ、400mm/分よりも速く、28,000mm/分よりも遅くなるように設定することができる。このような範囲の速度に往路移動の速度を設定することにより、高い効率かつ高い安定性で光ファイバ母材を製造することができる。
【0067】
また、複数のバーナー20a、20b、20cの速度Va、Vb1、Vb2、Vb3は、上述のように、複数のバーナー20a、20b、20cのうちの移動経路において互いに隣接するバーナー間の距離が最大値と最小値の間に入るように低速側速度と高速側速度との間の速度範囲内で制御することができる。例えば、複数のバーナー20a、20b、20cのうち、基準バーナーの復路移動の速度を一定とし、他のバーナーの復路移動の速度を基準バーナーの往路移動の速度の±20%の範囲内で制御することができる。
【0068】
本実施形態では、複数のバーナー20a、20b、20cの往復移動における起点又は折り返し点を互いにずらす必要がないため、製造される光ファイバ母材の両端部におけるテーパー部が長尺化することがない。したがって、コストの上昇を伴うことなく光ファイバ母材を製造することができる。
【0069】
このように、本実施形態によれば、コストの上昇を伴うことなく、高品質の光ファイバ母材を製造することができる。
【0070】
[実施例]
ターゲット棒として直径30mmのコア用石英ガラス棒を使用し、これを60rpmで回転させた。このターゲット棒に向けた3つのバーナーをターゲット棒に沿った方向に往復移動させた。各バーナーとして酸水素バーナーを用いた。各バーナーの口径は60mm、各バーナーの先端からターゲット棒表面までの距離は120mmであった。
【0071】
以下の表1及び表2に示すとおり、3つのバーナーB1、B2、B3は、往復運動において往路と復路とで速度を変更した。2つのバーナーB1、B3の復路移動の速度については、上述のように、移動経路において互いに隣接するバーナー間の距離について設定した最大値及び最小値を用いて、低速側速度と高速側速度とを切り替える制御を行った。これにより、移動経路において互いに隣接するバーナー間の距離が0.1L~0.3Lになるようにした。なお、距離Lは、表1及び表2に示す母材有効長と同じに設定した。
【0072】
ターゲット棒の外周方向に並ぶ3つのバーナーB1、B2、B3のうちの真ん中のバーナーB2を基準とし、基準のバーナーB2の復路の速度をVb2としてバーナーB1、B3の復路の速度Vb1、Vb3をVb2±13%以内となるように設定した。これにより、3つのバーナーを、移動経路におけるバーナー間の距離が最大900mm、最小500mmとなる範囲内において互いに離れる移動と互いに近づく移動とを繰り返すように制御した。
【0073】
各バーナーB1、B2、B3には、ガス供給装置から水素20リットル/分、酸素80リットル/分を供給して、酸水素火炎を発生させた。この火炎中にガス供給装置から四塩化ケイ素100g/分を導入し、酸化反応によってSiOガラス微粒子を生成した。このガラス微粒子をターゲット棒に堆積させ、多孔質光ファイバ母材を製造した。製造された光ファイバ母材について、平均外径に対する外径変動の比率により径方向のばらつきを評価した。平均外径に対する外径変動の比率が1%未満であった場合、高品質の光ファイバ母材が得られたものとして、径方向のばらつきに関する評価結果を「OK」とした。
【0074】
表1、2は、実施例1~6について各種条件及び評価結果を示す。各実施例1~6では、堆積中のスートの不整や変動が規定より少なかった。また、各実施例1~6では、3つのバーナーの速度条件として、往路の速度が統一され、往路に比べ復路の速度が非常に速く設定されているため、復路でのガラス微粒子の堆積が実質的に零となる結果、径方向における層状の不均一さを低減することができた。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
[変形実施形態]
本発明は、上記実施形態に限らず、種々の変形が可能である。
【0078】
例えば、上記実施形態では、複数のバーナーとして3つのバーナー20a、20b、20cを用いる場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。複数のバーナーは、2つ以上であればよい。
【0079】
また、上記実施形態では、ターゲット棒14の中心軸が鉛直方向に沿うように保持部16a、16bによりターゲット棒14が保持される場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。光ファイバ母材の製造装置10は、例えば、ターゲット棒14の中心軸が水平方向に沿うように保持部16a、16bによりターゲット棒14が保持されるように構成されてもよい。
【符号の説明】
【0080】
10…光ファイバ母材の製造装置
12…装置ベース
14…ターゲット棒
16a、16b…保持部
18a、18b、18c…バーナーガイド
20a、20b、20c…バーナー
22…排気機構
24…制御装置
図1
図2
図3
図4