(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】ハイブリッドアレイ導波路型光偏向器
(51)【国際特許分類】
G02F 1/295 20060101AFI20241205BHJP
G02B 6/12 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
G02F1/295
G02B6/12 371
G02B6/12 363
(21)【出願番号】P 2021031835
(22)【出願日】2021-03-01
【審査請求日】2024-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮本 裕司
(72)【発明者】
【氏名】三浦 雅人
(72)【発明者】
【氏名】平野 芳邦
(72)【発明者】
【氏名】町田 賢司
【審査官】林 祥恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-146002(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0259256(US,A1)
【文献】特開2019-100932(JP,A)
【文献】特開2015-114631(JP,A)
【文献】特開2019-174750(JP,A)
【文献】国際公開第2015/087988(WO,A1)
【文献】特開平10-197737(JP,A)
【文献】特開平06-067230(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-1/39
G02B 6/12-6/14
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にコアおよびクラッドを有する
光導波路の材料として無機材料と有機材料とを両方とも用いたハイブリッド光導波路構造が形成され、入力される光の位相を制御して光変調を行う光変調部を備えるハイブリッドアレイ導波路型光偏向器であって、
前記
ハイブリッド光導波路構造のクラッドは、電気光学材料からなり平面状に形成されたスラブ状クラッドと、前記スラブ状クラッドとは異なる材料からなりコア周辺に形成された周辺クラッドと、を含んでおり、
前記光変調部は、複数のコアと、前記スラブ状クラッドと、前記周辺クラッドと、を備え、複数のコアに並列に入射するそれぞれの光の位相を前記スラブ状クラッドの電気光学効果による屈折率変化によって変調
し、
前記光変調部は、
前記周辺クラッドの一部であって前記基板に積層された下部クラッドと、
前記下部クラッドの上に並列に積層された複数の前記コアと、
前記周辺クラッドの一部であって複数の前記コアの間に形成された上部クラッドと、
複数の前記コアの上で複数の前記コアすべてに重なる領域に形成された透明電極からなる下部電極と、
前記下部電極を覆うように形成された前記スラブ状クラッドと、
前記スラブ状クラッドの上に前記コア毎に形成された複数の上部電極と、を備えることを特徴とするハイブリッドアレイ導波路型光偏向器。
【請求項2】
基板上にコアおよびクラッドを有する光導波路の材料として無機材料と有機材料とを両方とも用いたハイブリッド光導波路構造が形成され、入力される光の位相を制御して光変調を行う光変調部を備えるハイブリッドアレイ導波路型光偏向器であって、
前記ハイブリッド光導波路構造のクラッドは、電気光学材料からなり平面状に形成されたスラブ状クラッドと、前記スラブ状クラッドとは異なる材料からなりコア周辺に形成された周辺クラッドと、を含んでおり、
前記光変調部は、複数のコアと、前記スラブ状クラッドと、前記周辺クラッドと、を備え、複数のコアに並列に入射するそれぞれの光の位相を前記スラブ状クラッドの電気光学効果による屈折率変化によって変調し、
前記光変調部は、
前記周辺クラッドの一部であって前記基板に積層された下部クラッドと、
前記下部クラッドの上に並列に積層された複数の前記コアと、
複数の前記コアの上に前記コア毎に形成された
透明電極からなる複数の下部電極と、
前記周辺クラッドの一部であって複数の前記コアの間に形成された上部クラッドと、
複数の前記下部電極を覆うように形成された前記スラブ状クラッドと、
前記スラブ状クラッドの上で複数の前記コアすべてに重なる領域に形成された上部電極と、を備えることを特徴とす
るハイブリッドアレイ導波路型光偏向器。
【請求項3】
前記スラブ状クラッドは、EOポリマーで形成されていることを特徴とする請求項
1または請求項
2に記載のハイブリッドアレイ導波路型光偏向器。
【請求項4】
前記コアは、Si
3N
4、Ta
2O
5、およびNb
2O
5からなる群から選択される1つの材料で形成されていることを特徴とする請求項
1から請求項
3のいずれか一項に記載のハイブリッドアレイ導波路型光偏向器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッドアレイ導波路型光偏向器に係り、特に、電気光学効果を利用するハイブリッドアレイ導波路型光偏向器に関する。
【背景技術】
【0002】
光偏向器は、光の偏向を制御するものであり、例えば3D映像表示、LiDAR(Light Detection And Ranging)などの3次元測距、バイオメディカルイメージングなど様々な分野で多岐の用途を有する。偏向器の技術分野では、従来から、ポリゴンミラーやガルバノミラーによる光の偏向制御や、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)と呼ばれるマイクロマシン技術を利用した偏向器も提案されている。
【0003】
近年では、機械的稼働部を持たないナノフォトニクス技術を利用した光偏向デバイスの研究が盛んに行われている。そのような一例として熱光学(TO:Thermo-Optic)効果や電気光学(EO:Electro-Optic)効果を利用したアレイ導波路型光偏向器が挙げられる。この種の偏向器は、光の回折と干渉を利用した光偏向器であり、アレイ導波路の各導波路を導波される光を対象にしてTO効果やEO効果などによって光の位相を制御することで干渉パターンを変えて光偏向を実現している。
【0004】
光導波路は、屈折率の高いコアと、コアより屈折率の小さいクラッドと、を備え、光をコアに閉じ込めて伝搬させる。例えば、アレイ導波路型光偏向器は、光入射部と、光スプリッタと、光の位相を制御する光変調部と、光出射部と、を備えているものが多い。光変調部には、主にTO効果やEO効果を用いたものが知られている。
【0005】
アレイ導波路型光偏向器において、TO効果を利用したものとしては、コアに、主にシリコン(Si)を用いたもの(以下、従来例1という)や、主に窒化シリコン(化学式はSi3N4:略称はSiN)を用いたもの(以下、従来例2という)が挙げられる。これらの光偏向器は、コアに対してヒータを介して熱を与えることでコアにTO効果を発現させ、TO効果によってコアの屈折率を変化させることで光の位相を制御する。また、非特許文献1には、TO効果を利用しコアにSiを用いた光偏向器である光フェーズドアレイについて、キャリアプラズマ効果と呼ばれる、Siにおける自由キャリア密度変化による屈折率変化を利用した技術が記載されている。
【0006】
アレイ導波路型光偏向器において、EO効果を利用したものとしては、コアに、例えばEOポリマーを用いたもの(以下、従来例3という)や、ニオブ酸リチウム(化学式はLiNbO3:略称はLN)などの結晶材料を用いたもの(以下、従来例4という)などが挙げられる。これらの光偏向器は、コアに対して電圧を印加することでコアにEO効果を発現させ、EO効果によってコアの屈折率を変化させることで光の位相を制御する。なお、非特許文献2には、EOポリマーを用いた光フェーズドアレイが記載されている。
【0007】
アレイ導波路型光偏向器から出射される光の偏向角度は、光の回折・干渉の原理から、光出射部において隣接する導波路間の配列間隔(導波路ピッチ)に依存する。詳細には、偏向角度θは、次の式(1)で表される。ここで、pは導波路ピッチ、λは光の波長、Δφは隣接する導波路間の位相差をそれぞれ示す。
【0008】
【0009】
式(1)によれば、導波路ピッチpが小さいほど、つまり、隣接する導波路コアの配列間隔が狭ピッチであるほど、偏向角度θの拡大が可能である。狭ピッチ化のためには、導波路コアを小さくし、かつ、クラッドに光が染み出さないようコアに光を閉じ込めることが必要になる。このうちコアへの光閉じ込めに関しては、導波路のコアとクラッドとの屈折率差が大きいほど光閉じ込めを強くできることが知られている。つまり、コアには高い屈折率を有する材料が求められ、クラッドには低い屈折率を有する材料が求められる。
【0010】
導波路コアに適用される材料としては、例えば、シリコン(Si)、窒化シリコン(SiN)、ニオブ酸リチウム(LN)、ポリマーが挙げられる。ポリマーは、例えば、ポリイミド系、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、アモルファスパーフルオロ樹脂(サイトップ)、エポキシ樹脂などをベースとしたものが挙げられる。導波路クラッドに適用される材料としては、屈折率が約1.5の二酸化ケイ素(SiO2)やポリマーが用いられることが多い。
【0011】
また、光導波路の材料として無機材料と有機材料とを両方とも用いたハイブリッド光導波路構造が知られている。一例として、有機材料のコア部分としてのEOポリマーコアと、無機材料のコア部分としてのSiNコアと、を接合したハイブリッド光導波路構造が挙げられる(以下、従来例5という)。従来例5の構造は、無機材料の屈折率を持った所定形状のコアの導波路と、有機材料の屈折率を持った別形状のコアの導波路とを接合した構造である。なお、非特許文献3には、他のハイブリッド光導波路構造として、シリコンコアと、EOポリマークラッドと、を用いたハイブリッド光導波路変調器が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【文献】Karel Van Acoleyen, et al., “One-dimensional off-chip beam steering and shaping using optical phased arrays on silicon-on-insulator”, Journal of Lightwave Technology Vol.29, No.23, 2011, p.3500-3505
【文献】平野芳邦、外4名、「電気光学ポリマーを用いた光フェーズドアレーの動作解析」、NHK技研 R&D、2017年11月、No.166、p.46-52
【文献】Feng Qiu, et al. “Ultra-thin silicon/electro-optic polymer hybrid waveguide modulators”, Appl. Phys. Lett. September 21, 2015, Volume 107, Issue 12, (123302)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来例1のアレイ導波路型光偏向器では、導波路コアに用いるSiの屈折率が3.5程度であることから、狭ピッチ化が可能であって偏向角度θを拡大する効果を有すると共に、TO効果やキャリアプラズマ効果による光変調が可能である。しかし、この従来例1では、導波路コアに用いるSiが、可視光波長域に強い光吸収特性を有するため、光偏向器として使用できる光の波長帯域が、ブロードバンドとは言えず、赤外光領域だけになってしまうという制約がある。
【0014】
従来例2のアレイ導波路型光偏向器では、導波路コアに用いるSiNが、可視光から赤外までの幅広い波長域の光透過特性を有し、また、SiNの屈折率が2という高い値を有することから、幅広い波長域、かつ狭ピッチ化された導波路アレイが実現できる。しかし、この従来例2では、導波路コアに用いるSiNのTO係数が、SiのTO係数に比べて1桁程度も小さい値であるため、低い変調効率が課題である。なお、TO係数は、TO効果の度合を示すものであり、その値が大きいほど、光変調効率が高くなる指標である。
【0015】
従来例3のアレイ導波路型光偏向器では、導波路コアにEOポリマーを用いているので、可視光から赤外までの幅広い波長域の光の伝播が可能である。また、EOポリマーのEO効果は、有機材料の電子分極に基づくものであるから、印加電界に対する応答が速く、TO効果やキャリアプラズマ効果と比べても更なる高速動作が可能である。しかし、この従来例3では、導波路コアに用いるポリマーの屈折率が1.6程度であるため、コアに光を閉じ込めるために必要なコア径が、SiコアやSiNコアに比べて大きくなることから、導波路の狭ピッチ化が難しい。
【0016】
従来例4のアレイ導波路型光偏向器では、導波路コアに無機材料としてLN結晶を用いるので、EO効果を利用できる。しかし、この従来例4では、導波路コアに用いるLNが結晶材料であるため、ポリマーなどに比べて微細加工が難しく、そのため、狭ピッチ光導波路には適さない。
【0017】
従来例5のハイブリッド光導波路構造では、導波路コアが、EOポリマーコアとSiNコアとを接合して形成されているので、EOポリマーの高速応答性能と、SiNによる狭ピッチ化による光の大偏向動作を、ブロードバンドな波長域で得ることが可能である。しかし、この従来例5では、屈折率およびコア形状が互いに異なる2つの導波路を接合した構造なので、2つの異なる導波路の接続部において、スポットサイズ変換を使ったコア変換が必須であり、この接続部で光の反射が生じて光損失の要因になる。
【0018】
また、EOポリマーのEO係数を大きくしてEO効果を発現するためには、偏向器の製造工程において電場配向処理(ポーリング)工程が必要である。ポーリングとは、材料をガラス転移温度まで昇温させ、かつ強電場を与えることで極性分子を配向させることである。従来例5の構造では、コアのEOポリマーに対して均一にポーリング処理が行えなかったり、または、絶縁破壊を予防するために高電界によるポーリング処理が行えずに低いEO効果しか得られなかったりするなどの問題がある。
【0019】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、ポーリング処理が簡易なハイブリッドアレイ導波路型光偏向器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記課題を解決するために、本発明の第1の観点に係るハイブリッドアレイ導波路型光偏向器は、基板上にコアおよびクラッドを有する光導波路の材料として無機材料と有機材料とを両方とも用いたハイブリッド光導波路構造が形成され、入力される光の位相を制御して光変調を行う光変調部を備えるハイブリッドアレイ導波路型光偏向器であって、前記ハイブリッド光導波路構造のクラッドは、電気光学材料からなり平面状に形成されたスラブ状クラッドと、前記スラブ状クラッドとは異なる材料からなりコア周辺に形成された周辺クラッドと、を含んでおり、前記光変調部は、複数のコアと、前記スラブ状クラッドと、前記周辺クラッドと、を備え、複数のコアに並列に入射するそれぞれの光の位相を前記スラブ状クラッドの電気光学効果による屈折率変化によって変調し、前記光変調部は、前記周辺クラッドの一部であって前記基板に積層された下部クラッドと、前記下部クラッドの上に並列に積層された複数の前記コアと、前記周辺クラッドの一部であって複数の前記コアの間に形成された上部クラッドと、複数の前記コアの上で複数の前記コアすべてに重なる領域に形成された透明電極からなる下部電極と、前記下部電極を覆うように形成された前記スラブ状クラッドと、前記スラブ状クラッドの上に前記コア毎に形成された複数の上部電極と、を備える、こととした。
また、本発明の第2の観点に係るハイブリッドアレイ導波路型光偏向器は、基板上にコアおよびクラッドを有する光導波路の材料として無機材料と有機材料とを両方とも用いたハイブリッド光導波路構造が形成され、入力される光の位相を制御して光変調を行う光変調部を備えるハイブリッドアレイ導波路型光偏向器であって、前記ハイブリッド光導波路構造のクラッドは、電気光学材料からなり平面状に形成されたスラブ状クラッドと、前記スラブ状クラッドとは異なる材料からなりコア周辺に形成された周辺クラッドと、を含んでおり、前記光変調部は、複数のコアと、前記スラブ状クラッドと、前記周辺クラッドと、を備え、複数のコアに並列に入射するそれぞれの光の位相を前記スラブ状クラッドの電気光学効果による屈折率変化によって変調し、前記光変調部は、前記周辺クラッドの一部であって前記基板に積層された下部クラッドと、前記下部クラッドの上に並列に積層された複数の前記コアと、複数の前記コアの上に前記コア毎に形成された透明電極からなる複数の下部電極と、前記周辺クラッドの一部であって複数の前記コアの間に形成された上部クラッドと、複数の前記下部電極を覆うように形成された前記スラブ状クラッドと、前記スラブ状クラッドの上で複数の前記コアすべてに重なる領域に形成された上部電極と、を備える、こととした。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ポーリング処理が簡易なハイブリッドアレイ導波路型光偏向器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態に係るハイブリッドアレイ導波路型光偏向器を模式的に示す全体概略図である。
【
図2】光スプリッタの構成例であって、(a)は1×8MMIカプラ、(b)は1×2MMIカプラのカスケード接続による構成例をそれぞれ示している。
【
図3】光変調部における光導波路断面図であって、
図1のA-A線断面矢視図である。
【
図4】光変調部以外の光導波路断面図であって、
図1のB-B線断面矢視図である。
【
図5】実施例に係る光変調部における導波路断面図である。
【
図6】実施例に係る光変調部における位相分布の一例を示す図である。
【
図7】実施例に係る光変調部に対する印加電圧と隣接する導波路の位相差との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
ハイブリッドアレイ導波路型光偏向器の構成について図面を参照して説明する。なお、各図面に示される部材のサイズや位置関係は、説明を明確にするため誇張していることがある。
図1に示すハイブリッドアレイ導波路型光偏向器10は、基板上にコアおよびクラッドを有する導波路構造が形成され、入力される光の位相を制御して光変調を行う光変調部を備えるハイブリッドアレイ導波路型光偏向器である。
【0024】
以下では、ハイブリッドアレイ導波路型光偏向器10を単に光偏向器10と呼称する。光偏向器10は、光の使用波長域を可視光から赤外まで適用することを前提とする。ここでは、
図1に示すように、光偏向器10の光出射方向におけるデバイス中心軸をZ軸に一致させ、Z軸の正の方向を正面としているものとして説明する。
図1に示すように光偏向器10は、例えば8本の光導波路を備えている。これらの光導波路(チャネル)を区別する場合、
図1に示したようにチャネル1(ch1)、…、チャネル8(ch8)と呼ぶ場合がある。光偏向器10は、光導波路コアの周囲にクラッドを備えているが、
図1ではクラッドの一部の図示を省略した。光偏向器10は、基板20と、光入射部30と、光スプリッタ40と、光変調部50と、中継導波路部60と、光出射部70と、を備えている。
【0025】
基板20は、様々な材料を用いて形成することができる。例えば、基板20の材料としては、ソーダガラス、SiO2、石英、メチルアクリレート、Si、LiNbO3、LiTaO3、アルミナ、GaAlAs、InP等を用いることが可能である。中でも、積層される各層を支持できる機械的強度があるものを使用することができ、各層との線膨張係数値の差が小さいものを選ぶことが望ましい。そのような基板としては例えば、ガラス基板やSi基板などを挙げることができる。基板20の一方の面には、光入射部30と、光スプリッタ40と、光変調部50と、中継導波路部60と、光出射部70と、が形成されている。
【0026】
光入射部30は、外部から光偏向器10に光を入力するものである。光の入力方法として、本実施形態では、光入射部30は、例えば光偏向器10の端面の導波路から光を入力することとする。なお、他の入力方法として、光入射部30をグレーティングカプラー構造にすることで面直方向から光を入射することとしてもよい。また、光入射部30は、本実施形態では、
図1に示すように例えば1入力とする。なお、光入力数は複数でもよく、2以上の整数をNとして、N入力の光入射部を構成するようにしてもよい。
使用する光源は、例えば、コヒーレンス性が優れ、偏波を整えられるレーザーが好ましい。また、光源として、LED(light emitting diode)やSLD(Super luminescent diode)を用いてもよい。
【0027】
光スプリッタ40は、入力した光を、光変調部50を構成する導波路の本数分だけ光を等強度で分配するものである。本実施形態では、光スプリッタ40は、
図1および
図2(a)に示すように、1入力8分岐の多モード干渉、すなわち、1×8MMI(Multi Mode Interference)を用いて8本の導波路に光分配する。なお、光スプリッタ40は、
図2(b)に示すように、1×2MMIやY分岐からなる7個の分離部41をカスケード状に配置した構成を用いて8本の導波路に光分配することとしてもよい。
【0028】
光変調部50は、入力される光の位相を制御して光変調を行うものである。光変調部50は、チャネルごとに光変調可能に構成されている。本実施形態では、上部電極55ごとに光変調可能にした。具体的には、光変調部50には、信号線9a,9bを介して電圧が印加される。光変調部50の各導波路(チャネル1~チャネル8)は、信号線9a,9bを介して電圧源V
1~電圧源V
8がそれぞれ接続されている。例えばチャネル1の上部電極55は、信号線9aを介して電圧源V
1の一方の極性の端子に接続されている。電圧源V
1の他方の極性の端子は、信号線9bを介して全チャネル共通の電極である下部電極53(
図3参照)に接続されている。
【0029】
信号線9a,9bの材料としては、例えば、Al、Cu、Au、Ti、Crなどの金属を用いることができる。信号線9a,9bを透明電極としてもよく、その場合、材料としては、IZO(Indium Zinc Oxide:インジウム亜鉛酸化物)やITO(Indium Tin Oxide:インジウム-スズ酸化物)などを挙げることができる。
【0030】
光変調部50において、コア層は導波路形状がパターニングされ、削られた箇所はクラッドで埋められている。導波路構造のクラッドは、電気光学材料からなり平面状に形成されたスラブ状クラッドと、スラブ状クラッドとは異なる材料からなりコア周辺に形成された周辺クラッドと、を含んでいる。光変調部50は、複数のコアと、スラブ状クラッドと、周辺クラッドと、を備え、複数のコアに並列に入射するそれぞれの光の位相をスラブ状クラッドの電気光学効果による屈折率変化によって変調する。ここで、スラブ状とは、平面状または平板状といった形状を意味する。なお、詳細は後記するが、スラブ状クラッドは上下を電極で挟まれている。
【0031】
図3は、光変調部50の断面構造を示す図である。光変調部50は、
図3に示すように、基板20の上に、下部クラッド51と、コア52と、下部電極53と、スラブ状クラッド54と、上部電極55と、上部クラッド56と、を備えている。光変調部50の断面視における各部材の配置は次の通りである。下部クラッド51は、基板20に積層されている。下部クラッド51の上には、並列に複数のコア52が積層されている。複数のコア52の間には上部クラッド56が形成されている。複数のコア52の上で複数のコア52に重なる領域には下部電極53が形成されている。下部電極53を覆うスラブ状クラッド54は、電気光学効果を発現する材料で平面状に形成されている。スラブ状クラッド54の上にはコア52毎に複数の上部電極55が形成されている。
以下、各部材の構成について詳細に説明する。
【0032】
(下部クラッド51、上部クラッド56)
下部クラッド51および上部クラッド56は、スラブ状クラッド54とは異なる材料からなりコア52周辺に形成された周辺クラッドである。下部クラッド51は、周辺クラッドの一部であり、コア52の下面から下側に配置されているクラッドである。上部クラッド56は、周辺クラッドの一部であり、下部クラッド51よりも上側に配置されているクラッドである。上部クラッド56は、コア52の側面等の周辺を埋めるクラッド材料や、コア52の上側に配置されるクラッド材料を含んでいる。下部クラッド51と上部クラッド56とは例えば異なる製造工程で形成される。
【0033】
下部クラッド51や上部クラッド56の材料としては、その屈折率がコア材料の屈折率よりも小さく、コア材料との屈折率差がなるべく大きなものがよい。一例として、屈折率が1.48のSiO2を用いることができる。他の例として、例えば、屈折率が1.5前後のポリマー樹脂などを用いてもよい。下部クラッド51の材料と上部クラッド56の材料とは同じでもよいし、異なっていてもよい。
下部クラッド51の厚みは、コア52を伝搬する光が基板20へ到達しない厚みが必要であり、最低限の必要な厚みはコア52の厚みや光の波長によって異なる。
【0034】
(コア52)
コア52の材料としては、クラッドに比べて屈折率が高いものを適用することが望ましい。本実施形態のように使用波長域を可視光から赤外まで適用する場合、コア52の材料としては、例えば、屈折率2.01の窒化シリコン(SiN)、屈折率2.16の五酸化タンタル(Ta2O5)、屈折率2.33の五酸化ニオブ(Nb2O5)を用いることができる。なお、使用波長域を1.3~1.6μmの通信帯域の用途に限る場合には、コア52の材料として、例えば、屈折率3.5のSiなどを選択してもよい。コア52の大きさは、シングルモード伝搬を許容する大きさが望ましい。
【0035】
(下部電極53、上部電極55)
上部電極55および下部電極53の一方はパターニングする必要があるため、電極材料は、パターニング可能な材料であることが望ましい。本実施形態では、上部電極55をパターニングし、下部電極53をパターニングしないことにする。パターニングしない下部電極53は、平面状に全面成膜とし、各導波路の共通電極とする。そのため、下部電極53は、複数のコア52の上で複数のコア52すべてに重なる領域に形成されている。また、上部電極55は、スラブ状クラッド54の上にコア52毎に形成されている。
上部電極55および下部電極53に用いる材料としては、例えばTi,Cr,Au,Cuの金属電極、または、ZnO,ITO,IZOなどの透明電極を選択できる。上部電極55の材料と下部電極53の材料とは同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0036】
(スラブ状クラッド54)
スラブ状クラッド54は、下部電極53を覆うように形成されている。スラブ状クラッド54の材料は、電圧印加により屈折率が変化する電気光学材料が利用できる。そのような電気光学材料は、例えば、EOポリマー、ニオブ酸リチウム(LN)が挙げられる。なお、使用波長域を1.0~1.6μmの通信帯域の用途に限る場合には、スラブ状クラッド54の材料として、GaAs(屈折率3.3)やInP(屈折率3.2)を選択しても良い。本実施形態では、スラブ状クラッド54の材料は、EOポリマーであるものとする。EOポリマーは、基本骨格樹脂にPMMA(ポリメチルメタクリレート)を用いて、EO色素としてDisperse red系などを適用することが可能である。
【0037】
スラブ状クラッド54は、平面状に形成されているため、ポリマー(スラブ状クラッド54)のポーリング処理において、全面的に電場を印加することができる。
また、本実施形態の光変調部50は、スラブ状クラッド54を上下電極で挟んだ構造であり、電極間にはスラブ状クラッド54以外に構造物がない。そのため、ポーリング処理において、構造物のエッジなどに誘発される電界集中から生じる絶縁破壊を避けることができる。前記した従来例5のようなハイブリッド構造では、ポーリング処理の際に、絶縁破壊を防ぐためにポーリングに要する電圧を下げる必要があった。しかしながら、本実施形態では、ポーリング処理の際に、このような従来の絶縁破壊予防の電圧値まで電圧を下げる必要がなく、材料が壊れない程度の最大電圧を印加することが可能となる。したがって、本実施形態では、効率よくポーリングを行うことができ、従来よりも高いEO効果を得ることができる。加えて、前記した従来例5におけるSiNコアとEOポリマーコアとの接続構造と対比すると、本実施形態では、従来例5のようなスポットサイズ変換を使ったコア変換が不要であるため、コア変換によって異なるコアを伝播した際に生じる結合損失等の光損失が抑制し、光利用効率を向上できる効果も奏する。
【0038】
中継導波路部60は、光変調部50で変調された光を光出射部70へ中継するものである。本実施形態では、中継導波路部60は、曲げ光導波路を含み、ピッチコンバータとして機能する。すなわち、中継導波路部60(ピッチコンバータ)を介して、光出射部70における光導波路ピッチは、光変調部50における光導波路ピッチよりも小さくなっている。
図4は、光変調部50以外の断面構造の一例として中継導波路部60の断面構造を示す図である。なお、光変調部50以外の断面構造は、中継導波路部60の断面構造と同様である。中継導波路部60においては、基板20の上に、下部クラッド51と、コア52と、上部クラッド56と、を備えており、下部電極53、スラブ状クラッド54および上部電極55が積層されていない。ここでは、光変調部50におけるコア52と、中継導波路部60におけるコア52とは、同じ形状かつ同じサイズで連続的に形成されている。
【0039】
光出射部70は、光偏向器10の外部へ光を出力するものである。光の出射方法として、本実施形態では、光出射部70は、光偏向器10の端面から光を出力することとする。なお、他の出射方法として、光出射部70をグレーティングカプラー構造にすることで面直方向へ光を出射することとしてもよい。
【0040】
[光変調の原理]
次に、光変調部50における光変調の原理について説明する。
光変調部50のスラブ状クラッド54の材料は、電圧印加により屈折率が変化する電気光学材料である。電気光学材料は、電圧が印加されることで、次の式(2)で示される電気光学効果による屈折率変化を起こす。電気光学材料が、例えば、EOポリマーであれば、式(2)の右辺のnは電圧を印加していない状態でのポリマーの屈折率を示し、rはポリマーの電気光学係数を示し、Eはポリマーに印加される印加電場を示す。
【0041】
【0042】
導波路コア中に閉じ込められる光は、コアとクラッドの屈折率差から全反射を繰り返して伝搬する。厳密には、波動方程式から導かれるモードと呼ばれる光の電磁界分布を有して伝搬し、モードの性質は進行方向に関する波数に相当する伝搬定数βで記述される。光の電磁界分布をΦとし、虚数単位をjとして、伝搬方向をz軸にとると、モードは次の式(3)で表されることが知られている。
【0043】
【0044】
モードが存在するためには、波動方程式におけるコア・クラッド間での境界条件を満たすことが必要であることから、モードは、コアやクラッドの形状、コアやクラッドの材料自体の屈折率に依存する。これらを考慮した、伝搬するモードに対する実効的な屈折率値である実効屈折率neffを使って伝播について記述すれば、真空中での波数をk0として伝搬定数βは次の式(4)で表される。
【0045】
【0046】
なお、屈折率には、材料自体の屈折率と実効屈折率という2種類の屈折率がある。実効屈折率とは、光から見た、ある媒質の構造中を伝搬する際に実質的に受けている屈折率である。詳細は、例えば、参考非特許文献「國分泰雄、光波光学、共立出版株式会社、1999年、p.45-53」に記載されている。
【0047】
光はコアを伝搬するが、コアの周囲に染み出した電磁界分布は、コアに近接したクラッド材料にもかかってくるので、本実施形態では、コアに近接したクラッド材料の屈折率変化を利用して光の位相を制御することとした。本実施形態においてEOポリマー(スラブ状クラッド54)は、コア52の上部に積層されている。EOポリマーは、電圧が印加されることによって、EOポリマーの材料自体の屈折率が変化する。そして、EOポリマー、すなわち、スラブ状クラッド54の屈折率が変化すると、スラブ状クラッド54の下に配置されたコア52を伝播するモードに対する実効屈折率neffを変化させることができる。実効屈折率neffを変化させることは、式(4)によれば、伝搬定数βを変化させることと同義である。これにより、光変調が可能となり、光出射部70から出力した光ビームの偏向動作を得ることが可能となる。したがって、本実施形態の光偏向器1は、ポーリング処理が簡易であり、かつ可視光から赤外域まで対応し高速・大偏向角動作をすることができる。
【0048】
[ハイブリッドアレイ導波路型光偏向器の製造方法]
次に、光偏向器の製造方法について説明する。光偏向器10は、一般的な半導体装置製造プロセスにより製造することができる。一例として、2つの観点の製造方法の概略を説明する。
(第1の製造方法)
第1の製造方法は、例えば、下部クラッド形成工程と、コア形成工程と、光変調部50の予定領域に対してそれぞれ行う下部電極形成工程、スラブ状クラッド形成工程、上部電極形成工程およびポーリング工程と、を含んでいる。なお、
図3は光変調部50の断面構造を示している。下部クラッド形成工程は、基板20に下部クラッド51を製膜する工程である。コア形成工程は、パターニングにより下部クラッド51の上に並列に複数のコア52を形成する工程である。下部電極形成工程は、複数のコア52すべてに重なる領域に下部電極53を形成する工程である。スラブ状クラッド形成工程は、下部電極53を覆うスラブ状クラッド54を電気光学材料を用いて形成する工程である。スラブ状クラッド54は、平面状なので製造に際しパターンを作る必要がない。上部電極形成工程は、パターニングによりスラブ状クラッド54の上にコア52毎の上部電極55を形成する工程である。ポーリング工程は、下部電極53と上部電極55との間に所定の高温状態で所定の高電圧を印加することでスラブ状クラッド54のポーリング処理を行う工程である。以上の工程により、光偏向器10を製造することができる。
【0049】
(第2の製造方法)
第2の製造方法は、例えば、基板20上で行う下部クラッド形成工程およびコア形成工程と、別の第2の基板においてそれぞれ行う上部電極形成工程、スラブ状クラッド形成工程、下部電極形成工程およびポーリング工程と、基板貼合工程と、を備えている。下部クラッド形成工程は、基板20に下部クラッド51を形成する工程である。コア形成工程は、下部クラッド51の上に並列に複数のコア52を形成する工程である。上部電極形成工程は、第2の基板にコア52毎の上部電極55を形成する工程である。スラブ状クラッド形成工程は、コア52毎の上部電極55を覆うスラブ状クラッド54を電気光学材料を用いて形成する工程である。下部電極形成工程は、スラブ状クラッド54を覆う下部電極53を形成する工程である。ポーリング工程は、第2の基板において下部電極53と上部電極55との間に所定の高温状態で所定の高電圧を印加することでスラブ状クラッド54のポーリング処理を行う工程である。基板貼合工程は、基板20とポーリング処理が行われた第2の基板とを、複数のコア52と下部電極53とが対向するように貼り合わせる工程である。以上の工程によっても、光偏向器10を製造することができる。
【0050】
[シミュレーション]
本願発明者らは、以下のシミュレーションを行うことで、光偏向器10の効果を確認した。まず、
図5を参照(適宜他の図面を参照)してシミュレーションの条件について説明する。
図5には実施例としての光変調部50の断面構造を示す。
(全体構成の条件)
光偏向器10は、8本の光導波路を備えている。光偏向器10は、光の使用波長域を可視光から赤外まで適用するため、一例として、使用する光の波長が630nmであることとした。
(光変調部50の条件)
光変調部の長さ(L、
図7参照):L=1.5mm
<基板20>
基板の種類:Si基板
<下部クラッド51>
下部クラッドの材料:SiO
2
下部クラッドの厚み(T1、
図5参照):T1=3μm
<コア52>
コアの材料:SiN
コアの幅(W2、
図5参照):W2=0.6μm
コアの厚み(T2、
図5参照):T2=0.6μm
<下部電極53>
下部電極の材料:ITO(屈折率1.9)
このITOは630nmの光に対して透明である。
下部電極の厚み(T3、
図5参照):T3=100nm
<スラブ状クラッド54>
スラブ状クラッドの材料:EOポリマー(屈折率1.66)
EOポリマーのEO係数=67pm/V
EO係数とは、EO効果の発現度合いを示す値である。pは10
-12を表す。
スラブ状クラッドの厚み(T4、
図5参照):T4=0.3μm
<上部電極55>
上部電極の材料:ITO(屈折率1.9)
上部電極の厚み(T5、
図5参照):T5=100nm
上部電極の幅(W5、
図5参照):W5=0.9μm
電極幅W5は、コアの幅W2=0.6μmと比較すると、1.5倍の幅である。
<上部クラッド56>
上部クラッドの材料:SiO
2
上部クラッドの厚み(T6、
図5参照):T6=4μm
この上部クラッドの厚みとは、下部クラッドの上面から測った膜厚である。
【0051】
(中継導波路部60における条件について)
<基板20>
基板の種類:Si基板
<下部クラッド51>
下部クラッドの材料:SiO
2
下部クラッドの厚み(T1、
図5および
図4参照):T1=3μm
<コア52>
コアの材料:SiN
コアの幅(W2、
図5および
図4参照):W2=0.6μm
コアの厚み(T2、
図5および
図4参照):T2=0.6μm
導波路間ピッチ:20μm
<上部クラッド56>
上部クラッドの材料:SiO
2
上部クラッドの厚み(T6、
図5および
図4参照):T6=4μm
【0052】
(実験1)
実験1では、光変調部50への印加電圧、すなわち、上部電極55と下部電極53との間の電位差を30[V]とする条件で以下の実験を行った。具体的には、チャネルが奇数番目の導波路(ch1、ch3、ch5、ch7)それぞれに電圧(30[V])を印加し、偶数番目の導波路(ch2、ch4、ch6、ch8)それぞれには電圧を印加しなかった。
【0053】
(実験結果1)
30[V]の電圧を印加することで、前記した式(2)に基づくEO効果により、ポリマー(スラブ状クラッド54)の屈折率は、材料自体の屈折率が1.66から1.6469へ変化した。
また、このときの導波路形状に依存する実効屈折率neffを、導波路断面におけるシミュレーションプログラム(会社名Optiwave Systems Inc.:商品名:OptiMode)を用いて計算した。
ポリマーの屈折率が変化する前の実効屈折率neffは、1.913567であった。
一方、30[V]の電圧印加後の実効屈折率neffは、1.913369に変化した。
この変化量は、電気光学効果によるポリマーの屈折率変化の影響を受けて、導波路を伝搬する光(伝搬モード)が実際に感じ取る屈折率がどの程度変化したかを示している。前記した式(3)および式(4)により、実効屈折率neff(伝搬モード)が変化することは、光の位相が変化することに相当する。
【0054】
また、このときの光変調部50における位相分布を
図6に示す。ここでは、簡便のため、光変調部50に相当する部分だけを計算対象としてシミュレーションを行った。また、光が、光変調部50Aの
図6における左から入力し、光変調部50Aの
図6における右から各導波路の導波路ピッチを変えずに光出射部70Aから出射することとした。なお、光出射部70Aの長さLは1.5mm、導波路間ピッチは20μmとした。
図6において光出射部70Aの右に記載された数字1~8は、チャネル1~チャネル8を示している。また、
図6において下に記載されたスケールは、ラジアン単位の-3.14~3.14(-π~π)の光の位相と、シミュレーション結果の濃淡表示との対応関係を示している。
【0055】
図6では、所定の導波路だけに着目すると、光変調部50Aの左端(光入射部に相当)から測った光導波路の距離が長くなるにつれて、光の位相は、例えば、0から-πまで徐々に変化し、-πになった直後に+πになって、πから0まで徐々に変化し、再び0から-πまで徐々に変化するという変化を何度も繰り返しながら光出射部70Aに到達することを示している。
【0056】
また、
図6では、光変調部50Aの左端(光入射部に相当)では、チャネル1~チャネル8の位相がすべて揃っていていることを示している。全チャネルに着目すると、光入射部の位置で揃っていた位相が、
図6の例えばC-C線上では、偶数番目のチャネルの位相と、奇数番目のチャネルの位相とがおよそπだけずれることが分かる。すなわち、光出射部70Aにおいて隣接する導波路間の位相差をπとすることにより、最大出射角度方向に出射される光ビームが成形可能であることを確かめることができた。
【0057】
(実験2)
実験2では、光変調部50の奇数番目の導波路に印加する電圧を、0Vから30Vまで、5V刻みで変化させて、それぞれ異なる印加電圧を用いて光出射部70Aにおける隣接導波路間位相差を求めた。その他の実験条件は、実験1と同様である。
(実験結果2)
異なる印加電圧を用いた6回の実験結果のそれぞれについて、計算した位相差をプロットした結果を
図7に示す。
図7に示すグラフの横軸は、印加電圧であり、縦軸は、隣接する導波路の位相差である。前記した式(2)に示すように屈折率変化n(E)は、電場(印加電圧E)に比例する。また、
図7によれば、隣接する導波路の位相差は、印加電圧に比例する。これらの関係から、コア52上部にあるEOポリマー(スラブ状クラッド54)の屈折率変化n(E)によって、位相変調を得られていることが
図7から確かめることができた。なお、この実験2でも、光変調部50の偶数番目の導波路には電圧を印加しないので、
図7の結果は、1つの導波路に、電圧を印加したときに光出射部70Aで得られる位相と、印加しないときに得られる位相との差に相当している。
【0058】
[変形例]
前記実施形態に係る光偏向器10においては、光変調部50の上部電極をパターニングして下部電極をパターニングしないこととして説明したが、これらを入れ替えて下部電極をパターニングして上部電極をパターニングしないこととしても同様の効果を奏することができる。このようにする場合、パターニングしない上部電極55は、平面状に全面成膜とし、各導波路の共通電極とする。そのため、上部電極55は、スラブ状クラッド54の上で複数のコア52すべてに重なる領域に形成される。また、下部電極55は、複数のコア52の上にコア毎に形成される。
【0059】
使用する光の波長域に応じて、スラブ状クラッド54を挟む上下電極の材料や周辺クラッド(SiO
2)の構造を適宜変更してもよい。例えば、
図5に示す実施例では、可視光を前提に上部電極および下部電極の材料をITO電極としているため、コア52の上部と下部電極53との間に、SiO
2からなるクラッド材料のマージンは無いものとしたが、コア52の上部にもクラッド材料があってもよい。すなわち、コア52と下部電極53との間にもクラッド材料が存在してもよい。例えば製造プロセスの都合上、クラッドを積層してもよい。あるいは、使用する光の波長域に応じて、クラッドを積層してもよい。例えば赤外光は、ZnO系電膜以外に対して吸収を示すものが多い。そのため、透明電極(ITO)を使う実施形態と同様の構造で赤外光(1.55mm)を使用したい場合、コア52上部にクラッド材料を積層させて下部電極53とコア52とが直接接触しないようにすることが望ましい。その場合にコア52と下部電極53との間に配置されるクラッド厚みは、使用波長やコアの構造ごとに異なるため、数値解析などより減衰が生じない厚みを求めればよい。また、コア52と下部電極53との間にクラッドを配置しない構造で赤外光(1.55mm)を使用したい場合には、透明電極材料を、赤外光の吸収が少ないZnO系(ジンクオキサイド)に置換することで対策することも可能である。
【0060】
また、下部電極53とスラブ状クラッド54との間にもクラッド材料が存在してもよいし、スラブ状クラッド54と上部電極55との間にもクラッド材料が存在してもよい。
また、光変調部50以外の中継導波路部60等においては、周辺クラッドの一部である上部クラッド56が空気層でも構わない。
また、光偏向器10として、光導波路の本数が8本である形態を説明したが、これに限らず、本数は例えば16本、あるいはそれ以上でも構わない。
【0061】
以上、本発明の実施形態に係るハイブリッドアレイ導波路型光偏向器について説明したが、本発明の趣旨はこれらの記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。また、これらの記載に基づいて種々変更、改変などしたものも本発明の趣旨に含まれることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0062】
10 光偏向器(ハイブリッドアレイ導波路型光偏向器)
20 基板
30 光入射部
40 光スプリッタ
50 光変調部
51 下部クラッド
52 コア
53 下部電極
54 スラブ状クラッド
55 上部電極
56 上部クラッド
60 中継導波路部
70 光出射部