(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】球状銀粉、球状銀粉の製造方法、球状銀粉製造装置、及び導電性ペースト
(51)【国際特許分類】
B22F 9/24 20060101AFI20241205BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20241205BHJP
B22F 1/105 20220101ALI20241205BHJP
B22F 1/103 20220101ALN20241205BHJP
【FI】
B22F9/24 E
B22F1/00 K
B22F1/105
B22F1/103
(21)【出願番号】P 2022075431
(22)【出願日】2022-04-28
【審査請求日】2023-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【氏名又は名称】福井 敏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100119079
【氏名又は名称】伊藤 佐保子
(72)【発明者】
【氏名】大迫 将也
(72)【発明者】
【氏名】中野谷 太郎
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 哲
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2022/0055941(US,A1)
【文献】特開2012-214873(JP,A)
【文献】特開2011-042839(JP,A)
【文献】特開2005-048236(JP,A)
【文献】国際公開第2019/117234(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0083226(KR,A)
【文献】中国実用新案第210280682(CN,U)
【文献】特開2013-014790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/24
B22F 1/00
B22F 1/105
B22F 1/103
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー回折法による体積基準の累積10%径D
10、累積50%径D
50及び累積90%径D
90が、式:
(D
90-D
10)/D
50 < 1
を満たし、かつBET径D
BETに対する、前記D
50の比(D
50/D
BET)が、0.90以上
1.05以下である、球状銀粉。
【請求項2】
前記D
50が0.2μm以上3.5μm以下である、請求項1に記載の球状銀粉。
【請求項3】
BET比表面積が0.17m
2/g以上3.23m
2/g以下である、請求項1に記載の球状銀粉。
【請求項4】
前記D
BETが0.18μm以上3.9μm以下である、請求項1に記載の球状銀粉。
【請求項5】
銀錯体溶液を流路に流し、流路の途中の還元剤添加位置で還元剤を前記流路に添加し、流路内で銀粉を還元析出させる球状銀粉の製造方法であって、前記還元剤の添加を流路に対して複数の方向から行う、球状銀粉の製造方法。
【請求項6】
前記複数の方向が、それぞれ流路に対して75度以上105度以下の角度をなす、請求項
5に記載の球状銀粉の製造方法。
【請求項7】
前記還元剤の添加を、流路の外周の全方向から行う、請求項
5に記載の球状銀粉の製造方法。
【請求項8】
前記還元剤の添加を、表面処理剤を含む銀錯体溶液に対して行う、請求項
5に記載の球状銀粉の製造方法。
【請求項9】
流路における還元剤添加位置の上流で銀含有溶液と錯化剤を混合し、前記流路内で前記銀錯体溶液を生成する、請求項
5~
8のいずれか一項に記載の球状銀粉の製造方法。
【請求項10】
銀錯体溶液に還元剤を添加して銀粉を還元析出させる銀粉製造装置であって、前記銀錯体溶液の流路を形成する管を有し、前記管にはその内周に沿って径方向外側に向いた開口を有するスリットが設けられ、前記スリットには前記還元剤の供給管が接続している、球状銀粉製造装置。
【請求項11】
前記還元剤の供給管を複数有し、少なくとも2本の前記還元剤の供給管が互いに偏心して前記スリットに接続している、請求項
10に記載の球状銀粉製造装置。
【請求項12】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の球状銀粉、有機バインダ及び溶剤を含有する導電性ペースト。
【請求項13】
太陽電池の電極形成用である、請求項1
2に記載の導電性ペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状銀粉、球状銀粉の製造方法、球状銀粉製造装置及び導電性ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
積層コンデンサの内部電極、回路基板の導体パターン、太陽電池やその他の電子部品に使用する導電性ペーストとして、銀粉をガラスフリットとともに有機ビヒクル中に加えて混練することによって製造される導電性ペーストが使用されている。当該導電性ペースト用の銀粉は、電子部品の小型化、導体パターンの高密度化、ファインライン化などに対応するため、粒径が適度に小さく、粒度が揃い、高分散性であることが要求されている。
【0003】
このような導電性ペースト用の銀粉を製造する方法として、特許文献1では、硝酸銀水溶液とアンモニア水とを混合して反応させ銀アンミン錯体水溶液を得て、この水溶液を一定の流路(第一流路)に流し、その第一流路の途中で合流する第二流路を設け、この第二流路を通じて有機還元剤を流し、第一流路と第二流路との合流点で接触混合させることを特徴とした微粒銀粉の製造方法が提案されている。
【0004】
また、特許文献2では、銀錯体を含む銀溶液と還元剤溶液とをそれぞれ定量的かつ連続的に流路内に供給し、該銀溶液と該還元剤溶液とを流路内で混合させた反応液中で銀錯体を定量的かつ連続的に還元して銀粉を得る銀粉の製造方法において、前記流路を形成する配管内の前記銀溶液の流速に対する該配管内の同軸上に設けた配管から該銀溶液の供給方向と同方向に供給する前記還元剤溶液の流速の比を、該銀溶液と該還元剤溶液の混合時において1.5以上とすることを特徴とする銀粉の製造方法が提案されている。
【0005】
さらに、特許文献3では、硝酸銀水溶液とアンモニア水とを混合して反応させて銀アンミン錯体水溶液を得、種になる粒子及びイミン化合物の存在下において、当該銀アンミン錯体水溶液と還元剤水溶液とを混合して、銀粒子を還元析出させる球状銀粉の製造方法であって、銀アンミン錯体水溶液と前記還元剤水溶液とを、合流点で合流する別々の流路に流し、当該合流点において、前記銀アンミン錯体水溶液と前記還元剤水溶液とを、接触混合させる球状銀粉の製造方法が提案されている。
【0006】
また、特許文献4では、銀イオン溶液にアンモニアと還元剤を添加して銀微粒子を還元析出させる方法において、アンモニア添加後20秒以内に還元剤を添加することによって、微細な銀微粒子を析出させる銀微粒子の製造方法が提示されているが、アンモニア添加の銀イオン溶液と還元液とは管路の外側で混合するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-48236号公報
【文献】特開2015-45064号公報
【文献】特開2010-70793号公報
【文献】特開2008-255378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
銀粉を含有する導電性ペーストを用いて内部電極や、導体パターン等を形成する場合、銀粉にはペースト等とした際に、従来よりも細い線幅で印刷できることが求められるようになってきている。特許文献1~4の製造方法で得られる銀粉はこの点において改善の余地があるものである。
【0009】
本発明は、導電性ペースト等に用いた場合に、優れた細線印刷性をもたらすことが可能な球状銀粉を、その製造方法及び製造装置とともに提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討し、優れた細線印刷性を得るには、粒度分布を、レーザー回折法による体積基準の累積10%径D10、累積50%径D50及び累積90%径D90が、
(D90-D10)/D50 < 1
を満たすように制御することに加え、分散性をBET径DBETに対する、レーザー回折法による体積基準の累積50%径D50の比(D50/DBET)が0.9以上1.2以下を満たすように制御することが有利であることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
BET径DBETは、BET一点法により測定されるBET比表面積SSA(単位m2/g)及び真密度(単位g/cm3)から換算される粒子径であり、式:
DBET=6/(SSA)/真密度
で求められる。
ここで、D10、D50、D90、DBET、SSA及び真密度は、実施例に記載の方法で測定した値とする。これらは分級前の測定値である。
【0012】
(D90-D10)/D50は、粒度分布の指標であり、この値が1より小さいことは、球状銀粉の粒度分布がシャープで、粒度が均一であることを意味する。
ただし、銀粉は、通常、個々の粒子が完全に分離しておらず、複数個の粒子が凝集した状態になっていることがある。レーザー回折法による粒径の測定は、粒子の回折パターンから粒径を算出しているため、凝集した状態の粒子の粒径が測定される。一方、BET一点法は、粒子に吸着するガスの量を利用して比表面積を測定するものであり、この比表面積から換算したBET径は測定した粒子が真球と仮定した場合の粒子の粒径(粒子径)を示す。比(D50/DBET)が1に近いことは、凝集状態が少なく、単分散に近い状態を意味する。
【0013】
本発明者らは、銀錯体溶液を流路に流し、その流路の途中の還元剤添加位置で還元剤を流路に添加し、流路内で銀粉を還元析出させる球状銀粉の製造方法において、還元剤の添加を流路に対し複数の方向から行うことにより、粒度が均一で、かつ単分散に近い状態の球状銀粉が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1]レーザー回折法による体積基準の累積10%径D10、累積50%径D50及び累積90%径D90が、式:
(D90-D10)/D50 < 1
を満たし、かつBET径DBETに対する、前記D50の比(D50/DBET)が、0.90以上1.20以下である、球状銀粉。
[2]前記D50が0.2μm以上3.5μm以下である、上記[1]の球状銀粉。
[3]BET比表面積が0.17m2/g以上3.23m2/g以下である、上記[1]又は[2]の球状銀粉。
[4]前記比(D50/DBET)が0.95以上1.05以下である、上記[1]~[3]のいずれかの球状銀粉。
[5]前記DBETが0.18μm以上3.9μm以下である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の球状銀粉。
[6]銀錯体溶液を流路に流し、流路の途中の還元剤添加位置で還元剤を前記流路に添加し、流路内で銀粉を還元析出させる球状銀粉の製造方法であって、前記還元剤の添加を流路に対して複数の方向から行う、球状銀粉の製造方法。
[7]前記複数の方向が、それぞれ流路に対して75度以上105度以下の角度をなす、上記[6]の球状銀粉の製造方法。
[8]前記還元剤の添加を、流路の外周の全方向から行う、上記[6]又は[7]の球状銀粉の製造方法。
[9]前記還元剤の添加を、表面処理剤を含む銀錯体溶液に対して行う、上記[6]~[8]のいずれかの球状銀粉の製造方法。
[10]流路における還元剤添加位置の上流で銀含有溶液と錯化剤を混合し、前記流路内で前記銀錯体溶液を生成する、上記[6]~[9]のいずれかの球状銀粉の製造方法。
[11]銀錯体溶液に還元剤を添加して銀粉を還元析出させる銀粉製造装置であって、前記銀錯体溶液の流路を形成する管を有し、前記管にはその内周に沿って径方向外側に向いた開口を有するスリットが設けられ、前記スリットには前記還元剤の供給管が接続している、球状銀粉製造装置。
[12]前記還元剤の供給管を複数有し、少なくとも2本の前記還元剤の供給管が互いに偏心して前記スリットに接続している、上記[11]の球状銀粉製造装置。
[13]上記[1]~[5]のいずれかの球状銀粉、有機バインダ及び溶剤を含有する導電性ペースト。
[14]太陽電池の電極形成用である、上記[13}に記載の導電性ペースト。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、導電性ペースト等に用いた場合に、優れた印刷性をもたらすことが可能な球状銀粉が、その製造方法及び製造装置とともに提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の銀粉製造装置の一例の外観斜視図である。
【
図2A】本発明の銀粉製造装置の還元剤添加部材の還元剤供給管の中心位置における銀錯体溶液の流路に垂直な断面図である。
【
図2B】銀錯体溶液の流路と水平方向の
図2AのA-A線断面図である。
【
図2C】銀錯体溶液の流路と水平方向の
図2AのB-B線断面図である。
【
図3】本発明の銀粉製造装置の他の例の外観斜視図である。
【
図4】実施例1の銀粉のSEM写真(5000倍)である。
【
図5】実施例2の銀粉のSEM写真(5000倍)である。
【
図6】実施例3の銀粉のSEM写真(5000倍)である。
【
図7】実施例4の銀粉のSEM写真(5000倍)である。
【
図8】比較例1の銀粉のSEM写真(5000倍)である。
【
図9】細線印刷性のEL評価を行うための電極パターンの形状を示す図である。
【
図10】実施例1の銀粉を使用した導電性ペーストのEL評価結果を示す写真である。
【
図11】実施例2の銀粉を使用した導電性ペーストのEL評価結果を示す写真である。
【
図12】実施例3の銀粉を使用した導電性ペーストのEL評価結果を示す写真である。
【
図13】実施例4の銀粉を使用した導電性ペーストのEL評価結果を示す写真である。
【
図14】比較例1の銀粉を使用した導電性ペーストのEL評価結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<球状銀粉>
本発明の球状銀粉は、レーザー回折法による体積基準の累積10%径D10、累積50%径D50及び累積90%径D90が、式:
(D90-D10)/D50 < 1
を満たし、かつBET径DBETに対する、前記D50の比(D50/DBET)が、0.9以上1.2以下である。ここで、球状は、略球状を包含し、平均アスペクト比(長径/短径の比の平均)が1.5以下である形状を意味する。
【0018】
本発明の球状銀粉の(D90-D10)/D50の値は1未満であり、好ましくは0.96以下である。この値が小さいほど粒度分布の幅がシャープであり、粒度がそろっていることを意味し、優れた印刷性が得られるため、有利である。理論的に下限は0であるが、0.75以上であれば、十分な効果が得られる。
【0019】
D50は、導電性ペーストとした際のペーストの取り扱いの容易さの点から、0.2μm以上が好ましく、より好ましくは0.5μm以上であり、また、導電性ペースト等を用いて形成される配線パターンの低温焼結性の点で有利であることと高密度化等への対応が容易である点から、3.5μm以下が好ましく、より好ましくは3.0μm以下である。
【0020】
本発明の球状銀粉の比(D50/DBET)は0.90以上1.20以下であり、一層優れた分散性が得られる点からは、0.95以上1.05以下が好ましく、1.04以下がさらに好ましい。
【0021】
BET比表面積(SSA)は、BET一点法による測定される比表面積であり、導電性ペースト等を用いて形成される配線パターンの低温焼結性の点で有利であることと高密度化等への対応が容易である点から、0.17m2/g以上が好ましく、より好ましくは0.20m2/g以上である。また、導電性ペーストとした際のペーストの取り扱いの容易さの点から、3.23m2/g以下が好ましく、より好ましくは2.40m2/g以下である。
【0022】
真密度は、配線パターンの高密度化等への対応が容易となるの点から、9.0g/cm3超が好ましく、より好ましくは9.4g/cm3以上であり、また、低温焼結性の点から、10.45g/cm3未満が好ましく、10.0g/cm3以下がより好ましく、9.9g/cm3以下がさらに好ましい。
【0023】
DBETは、 BET一点法による測定される比表面積(m2/g)と真密度(g/cm3)を用いて、次式で計算されるBET径(μm)である。
BET径=6/比表面積/真密度
DBETは、0.18μm以上が好ましく、より好ましくは0.45μm以上であり、また、3.9μm以下が好ましく、より好ましくは3.2μm以下である。
【0024】
本発明の球状銀粉は、高精度パターン等への対応を容易とする点から、タップ密度が2.5g/cm3以上であることが好ましく、より好ましくは4.5g/cm3以上である。一方、銀の真密度と均一な球状粉の最密充填を考慮すると、タップ密度の上限値は7.8g/cm3である。
【0025】
<球状銀粉の製造方法>
本発明の球状銀粉の製造方法は、銀錯体溶液を流路に流し、流路の途中の還元剤添加位置で還元剤を流路に添加し、流路内で銀粉を還元析出させる球状銀粉の製造方法であって、還元剤の添加を流路に対し複数の方向から行うものである。本発明の製造方法では、連続的に銀錯体溶液及び還元剤を供給し、これらを定量的に混合することで、銀粉の還元析出の速度を一定に保つことができ、球状銀粉を定量的かつ連続的に得ることができる。
【0026】
本発明の球状銀粉の製造方法では、還元剤添加位置で、流路に対し複数の方向から、還元剤を流路に添加することで、還元剤と銀錯体溶液を混合する。還元剤を添加する流路の位置(還元剤添加位置)で、銀錯体溶液に複数の方向から還元剤を添加することにより、還元剤と銀錯体溶液の混合効率が向上し、未反応の銀イオンが低減することで、未反応の銀イオンが二次核を生成することが抑制される。これによって、(D90-D10)/D50及び比(D50/DBET)が所定の範囲に入るように制御することができるものと推測される。分級処理がなくても粒度分布の幅がシャープな銀粉を得ることができるため、製造工程を簡略化することが可能となる。
流路に対し一方向から還元剤を添加するのでは、還元剤が添加点と反対側に到達するまでに時間を要し、還元剤添加位置における還元剤の濃度バラつきが発生するため、このような作用を得ることはできず、Y字管やT字管を用いて、銀錯体溶液と還元剤とを合流部で接触させ、混合する場合についても同様の理由で得ることはできない。
また、同軸二重管により流路の中心位置で還元剤を添加する場合は、銀錯体溶液の流れと並行に還元剤が添加されるため、銀錯体溶液と還元剤が混ざりあうまでに時間を要する上、同軸二重管では、管中央の流速が相対的に速く、壁面付近の流速が相対的に遅くなるため、粒子の成長が不均一になりやすい。
【0027】
還元剤の添加は、流路に対して2以上の方向で行われることが好ましく、より好ましくは4以上の方向であり、流路の外周の全方向から添加されることが特に好ましい。後述する開口の個数と形状によって還元剤の添加を流路に対し複数の方向から行うことができる。
【0028】
複数の方向は、それぞれ前記流路に対して75度以上105度以下の角度をなすことが好ましい。略垂直で還元剤を流路に添加することは、銀錯体溶液と還元剤が速やかに混合する点から有利である。流路に対する角度はより好ましくは80度以上100度以下である。前記「流路に対して」とは、「銀錯体溶液が流れる管の軸方向に対して」と言い換えることができる。
【0029】
本発明の製造方法では、銀錯体溶液は、還元剤により還元され銀を析出する溶液であれば、特に限定されず、銀アンミン錯体溶液が好ましい。銀アンミン錯体溶液は、例えば、塩化銀をアンモニア水に溶解させるか、硝酸銀水溶液とアンモニア水とを混合するなどの方法で調製することができる。
【0030】
別途調製した銀錯体溶液を流路に流してもよく、あるいは流路の還元剤添加位置よりも上流で銀含有溶液(例えば、硝酸銀水溶液等)と錯化剤(例えば、アンモニア水)を反応させて、流路内で銀錯体溶液としてもよい。流路外で銀錯体溶液を調製した場合、流路に銀錯体溶液を供給するまでの時間によって、還元される時点の錯体の安定性が変動し得る。すなわち、銀含有溶液と錯化剤が混合してから還元剤を添加するまでの時間が、短すぎると十分に錯体化されていない場合があり、長すぎると銀錯体溶液内に副生成物が生じる恐れが出るため、安定しない。一方、流路内で調製した銀錯体溶液の場合、一定の時間経過後に還元剤が添加されるため、還元される時点の錯体の状態が一定であり、球状銀粉の形状の制御の点で有利である。例えば、流路内に銀含有溶液(例えば、硝酸銀水溶液等)を流し、同軸二重管等により錯化剤(例えば、アンモニア水)を供給し、両者を混合し、反応させて銀錯体溶液とすることができる。
【0031】
本発明の製造方法では、還元剤は特に限定されず、ヒドラジン、アスコルビン酸、ヒドロキノン、ホルマリン(ホルムアルデヒド水溶液)等を用いることができる。還元反応を制御しやすい点から、ホルマリン、ヒドラジン等が好ましい。
【0032】
還元剤の添加量は、十分な反応効率を確保し未反応の銀錯体が残留しないようにする点から、銀に対して、1.1当量以上であることが好ましく、より好ましくは1.2当量以上であり、また、経済性の点から、銀に対して、25.0当量以下であることが好ましく、より好ましくは20.0当量以下である。
【0033】
銀錯体溶液の銀濃度は、十分な反応効率を確保する点から、還元剤を混合した後の銀濃度が、0.01モル/L以上であることが好ましく、より好ましくは0.05モル/L以上であり、また、還元析出する銀粉の粒径及び粒度分布を厳密に調整する点から、0.5モル/L以下であることが好ましく、より好ましくは0.3モル/L以下である。
【0034】
本発明の製造方法では、還元剤を流路に添加する直前の銀錯体溶液の流速は、生産性の点から、8L/分以上が好ましく、より好ましくは12L/分以上であり、また、凝集を抑制し、単分散な粒子を形成する点から、275L/分以下が好ましく、より好ましくは230L/分以下である。
還元剤を流路に添加するときの還元剤の流速は、還元剤添加直前の銀錯体溶液の流速に対して、0.5倍以上であり、また、配管壁面への液流れが大きくなり、混合効率が低下することを抑制する点から、2.5倍以下が好ましく、より好ましくは1.3倍以下である。0.9倍以上1.1倍以下であることがさらに好ましい。
【0035】
本発明の製造方法では、表面処理剤の存在下で、銀錯体溶液と還元剤の反応を行うことが、還元析出した銀粉の凝集を抑制する点で有利である。表面処理剤は、銀錯体溶液に配合しておく場合と還元剤に混合しておく場合のどちらでもよい。あるいは銀含有溶液と錯化剤を用いて流路内で銀錯体溶液とする場合には、銀含有溶液等に配合しておいてもよい。表面処理剤は、還元剤添加位置の上流又は下流で流路内に添加してもよく、凝集を抑制し、単分散な粒子を形成する点から、還元剤添加位置の上流で添加することが好ましい。
【0036】
表面処理剤としては、脂肪酸、脂肪酸塩、界面活性剤、有機金属、キレート形成剤、保護コロイド等が挙げられる。表面処理剤は、銀含有溶液の銀に対して、0.03質量%以上1.0質量%以下となる量で使用することができる。
【0037】
(1)脂肪酸
脂肪酸としては、プロピオン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、アクリル酸、オレイン酸、リノール酸、アラキドン酸、リシノール酸等が挙げられる。表面処理剤は、エマルション、溶液等の形態で用いてもよい。
【0038】
(2)脂肪酸塩
脂肪酸塩としては、上記(1)の脂肪酸の金属塩が挙げられ、金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、バリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、鉄、コバルト、マンガン、鉛、亜鉛、スズ、ストロンチウム、ジルコニウム、銀、銅等が挙げられる。
【0039】
(3)界面活性剤
界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩等の陰イオン界面活性剤、脂肪族4級アンモニウム塩等の陽イオン界面活性剤、イミダゾリニウムベタイン等の両性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤等が挙げられる。
【0040】
(4)有機金属
有機金属としては、アセチルアセトントリブトキシジルコニウム、クエン酸マグネシウム、ジエチル亜鉛、ジブチルスズオキサイド、ジメチル亜鉛、テトラ-n-ブトキシジルコニウム、トリエチルインジウム、トリエチルガリウム、トリメチルインジイウム、トリメチルガリウム、モノブチルスズオキサイド、テトライソシアネートシラン、テトラメチルシラン、テトラメトキシシラン、モノメチルトリイソシアネートシラン、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等が挙げられる。
【0041】
(5)キレート形成剤
キレート形成剤としては、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、セレナゾール、ピラゾール、イソオキサゾール、イソチアゾール、1H-1,2,3-トリアゾール、2H-1,2,3-トリアゾール、1H-1,2,4-トリアゾール、4H-1,2,4-トリアゾール、1,2,3-オキサジアゾール、1,2,4-オキサジアゾール、1,2,5-オキサジアゾール、1,3,4-オキサジアゾール、1,2,3-チアジアゾール、1,2,4-チアジアゾール、1,2,5-チアジアゾール、1,3,4-チアジアゾール、1H-1,2,3,4-テトラゾール、1,2,3,4-オキサトリアゾール、1,2,3,4-チアトリアゾール、2H-1,2,3,4-テトラゾール、1,2,3,5-オキサトリアゾール、1,2,3,5-チアトリアゾール、インダゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾトリアゾール等及びこれらのキレート形成剤の塩やコハク酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸等のジカルボン酸をはじめとするポリカルボン酸等が挙げられる。
【0042】
(6)保護コロイド
保護コロイドとしては、ペプチド、ゼラチン、アルブミン、アラビアゴム、プロタルビン酸、リサルビン酸、膠等が挙げられる。
【0043】
表面処理剤としては、銀粒子表面への修飾のしやすさの点から、(1)脂肪酸が好ましく、中でも、ステアリン酸が好ましい。(1)脂肪酸はエマルションの形態であることが好ましく、例えばステアリン酸エマルション等が挙げられる。
【0044】
本発明の製造方法では、流路を流れる液の温度が、還元反応の点から5℃以上であることが好ましく、より好ましくは15℃以上であり、また、操業上、60℃以下であることが好ましく、より好ましくは50℃以下である。
【0045】
本発明の製造方法では、ミキサーを用いて、流路の軸方向に螺旋回転を加えて液混合を行ってもよい。
【0046】
本発明の製造方法では、還元析出した銀粉を含む液(以下「銀粉含有液」ともいう。)を流路外に放出し、回収することで球状銀粉を得ることができる。還元剤添加位置から銀粉含有液の出口までの時間は、還元反応の終了を見込むことができる点から、1秒以上であることが好ましく、より好ましくは2秒以上であり、また、配管への居着きを抑制する点から、10秒以下であることが好ましく、より好ましくは5秒以下である。
【0047】
流路外に放出した銀粉含有液を、濾過、水洗することによって、銀粉と水を含み、流動性がほとんどない塊状のケーキが得られる。
このケーキを、強制循環式大気乾燥機、真空乾燥機、気流乾燥装置等の乾燥機で乾燥することにより本発明の球状銀粉が得られる。当該ケーキ中の水分を低級アルコール等で置換することにより、乾燥を早めることができる。
当該ケーキに対し、乾式解砕処理、表面平滑処理等を施すことができる。表面平滑処理は、高速撹拌機を使用して粒子同士を機械的に衝突させることにより行うことができる。
その後、分級処理により、所定粒径より大きい銀粉の凝集体を除去してもよい。
さらに、当該ケーキに対し、乾燥、解砕及び分級を行なうことができる一体型の装置((株)ホソカワミクロン製のドライマイスタ、ミクロンドライヤ等)を用いて、乾燥、粉砕、分級を行なってもよい。
【0048】
<銀粉製造装置>
本発明の製造方法では、還元剤の添加を流路に対し複数の方向から行うことができれば、使用する装置は特に限定されない。例えば、銀錯体溶液の流路を形成する管を有し、管に2か所以上または管の全周に開口が設けられ、該開口には還元剤の供給管が接続している銀粉製造装置を利用することが有利である。
図1及び
図2A~Cを用いて、そのような銀粉製造装置の一例を説明する。
【0049】
図1は、本発明の銀粉製造装置の一例の外観斜視図であり、銀錯体溶液を流す管2、還元剤を供給する還元剤供給管4a及び4b、還元剤添加部材10を有する。
【0050】
図2Aは、
図1の還元剤添加部材10の還元剤供給管4a及び4bの中心位置における銀錯体溶液の流路に垂直な断面図である。
図2Bは、銀錯体溶液の流路と水平方向の断面図であり、
図2AのA-A線断面図である。
図2Cは、銀錯体溶液の流路と水平方向の断面図であり、
図2AのB-B線断面図である。
【0051】
図2Aでは、銀錯体溶液の流路となる管2の外周に沿って隙間13を有し、隙間13と還元剤供給管4a及び4bの管内が接続している。
図2AのB-B線断面図である
図2Cに示すように、隙間13の銀錯体溶液の流路の下流側は、管2の内周に沿って径方向外側に向いた開口11を有するスリット部12に繋がっている。そして、
図2AのA-A線断面図である
図2Bに示すように、還元剤供給管4aの管内及び4bの管内より、隙間13に還元剤が流し込まれると、還元剤は隙間13内を介してスリット部12に到達し、還元剤がスリット部12の開口11から管2内に、管2の周全体から略垂直(例えば、75度以上105度以下)に入り、銀錯体溶液に添加される。ここで、銀錯体溶液の流路に対して還元剤が入る角度は、管2の軸方向と、還元剤が管2内に入る開口11の開口方向とが交わる角度である。開口方向は、
図2Bに示すようにスリット部12の開口近辺の壁面に沿う方向であるとみなすことができる。
【0052】
還元剤供給管4a及び4bに流す還元剤の流量と開口11の総面積の大きさによって、還元剤を銀錯体溶液の流路に添加するときの還元剤の流速を制御することができる。前述の範囲に還元剤の流速を制御することにより、銀錯体と還元剤の反応を速やかに行うことができ、それにより、粒度分布の幅がシャープな銀粉を得ることができる。
【0053】
図2B及び
図2Cにおけるスリット部12が有する開口11の幅をスリット幅と呼称する。スリット幅は、開口11の総面積の大きさを小さくするために、還元剤供給管の直径よりも狭くすることが好ましい。還元剤の添加が流路に対し複数の方向から行うことができ、還元剤供給管の直径よりも狭いスリット幅を形成することができる隙間13及びスリット部12の形状としては、
図2A~Cの構造に限定されず、様々な変形が可能である。また、スリット部12の開口11を管2の全周に設けるのではなく複数の貫通孔とするなどの変形も可能である。
【0054】
還元剤添加部材10に還元剤を流し込む還元剤供給管は、1つ以上あればよく、2つ以上あることも好ましい。還元剤供給管が2つ以上ある場合は、還元剤供給管から開口11につながる還元剤の流路は、対向させたり、偏心させたりすることができる。
図2A~Cでは、還元剤供給管4a及び4bが、管2の中心に対して互いに偏心して接続しており、還元剤供給管4a及び4bの流路は、開口11を有するスリット部12に接続している。複数の還元剤供給管を接続するに当たり、少なくとも2本の還元剤供給管が互いに偏心するようにすると、銀錯体溶液の流路(管2)の外周を一方向に回転させながら、還元剤をスリット部12が有する開口11に流入させることができる。
還元剤が銀錯体溶液の流路の外周を回転するにあたって、還元剤の流路(隙間13またはスリット部12)の断面積を変化させることで、開口11に向かう還元剤の流量を調整してもよい。
【0055】
図1では、管2に銀錯体溶液が供給されているが、これに代えて、
図3に示すように、管2の還元剤添加部材10の上流側で、管2の内側に錯化剤を供給する同軸の錯化剤供給管6を配置した同軸二重管とし、外側管路である管2から銀含有溶液を供給し、内側管路である錯化剤供給管6から錯化剤を供給し、両者を混合し、反応させて銀錯体溶液としてもよい。
【0056】
また、
図1及び3では、管2の還元剤添加部材10の上流側に、任意の表面処理剤の表面処理剤供給管5が設けられている。表面処理剤供給管5は、還元剤添加部材10の下流側に設置されるよりも、上流側に設けることが好ましい。上流側に設けることで、還元剤の添加を、表面処理剤を含む銀錯体溶液に対して行うことができる。このようにすることで、得られる銀粉の粒度分布の幅を、よりシャープにすることができる。
【0057】
<導電性ペースト>
本発明の球状銀粉は、印刷性及び低温焼結性に優れた導電性ペーストをもたらすことができ、積層コンデンサの内部電極、回路基板の導体パターン、太陽電池やその他の電子部品の電極や回路などに使用する導電性ペーストとして好適である。
【0058】
本発明の導電性ペーストは、本発明の球状銀粉と、有機バインダ及び溶剤を含有することができる。
【0059】
有機バインダは、特に限定されず、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノキシ樹脂、セルロース系樹脂(エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)等が挙げられる。これらは単独でも、2種以上の任意の比率での組み合わせでもよい。
【0060】
溶剤は、特に限定されず、例えば、テルピネオール、ブチルカルビトール、テキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等のアルコール系溶剤;ブチルカルビトールアセテート、酢酸エチル等のエステル系溶剤;トルエン、キシレン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶剤等が挙げられる。これらは単独でも、2種以上の任意の比率での組み合わせでもよい。
【0061】
導電性ペースト中の本発明の球状銀粉の含有量は、80質量%以上とすることができ、好ましくは85質量%以上であり、また、95質量%以下とすることができ、好ましくは90質量%以下である。
導電性ペースト中の有機バインダの含有量は、0.1質量%以上とすることができ、好ましくは0.2質量%以上であり、また、0.4質量%以下とすることができ、好ましくは0.3質量%以下である。
導電性ペースト中の溶剤の含有量は、6質量%以上とすることができ、好ましくは7質量%以上であり、また、20質量%未満とすることができ、好ましくは15質量%以下である。
【0062】
導電性ペーストは、任意成分として、ガラスフリット、分散剤、界面活性剤、粘度調整剤、スリップ剤等を含有することができる。太陽電池の電極の製造に用いられる導電性ペーストは、ガラスフリットを含有することが好ましく、例えば、Pb-Te-Bi系、Pb-Si-B系等のガラスフリットが挙げられる。
【0063】
導電性ペーストの製造方法は、特に限定されず、本発明の球状銀粉、有機バインダ、溶剤及び場合により任意成分を混合する方法が挙げられる。混合の方法は、特に限定されず、例えば、自公転式攪拌機、超音波分散、ディスパー、3本ロールミル、ボールミル、ビーズミル、2軸ニーダー等を用いることができる。
【0064】
本発明の導電性ペーストは、例えば、スクリーン印刷、オフセット印刷、フォトリソグラフィ法等の印刷、ディッピング等により、基板上に塗布し、塗膜を形成することができる。レジストを利用したフォトリソグラフィ等により、塗膜を所定パターン形状としてもよい。
【0065】
塗膜を焼成して導電膜を形成することができる。焼成は、大気雰囲気下で行っても、窒素等の非酸化性雰囲気下で行ってもよい。
塗膜の焼成温度を600℃以上800℃以下とすることができ、好ましくは690℃以上760℃以下である。焼成時間は、20秒以上1時間以下とすることができる。好ましくは40秒以上であり、また、好ましくは20分以下、さらに好ましくは2分以下である。
【0066】
本発明の導電性ペーストは、積層コンデンサの内部電極、回路基板の導体パターン、太陽電池やその他の電子部品の電極や回路の形成に好適に用いることができる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0068】
[銀粉の評価]
実施例・比較例の銀粉の評価は以下のようにして行った。
【0069】
<真密度>
真密度は、乾式自動密度計(マイクロメリティクス社製、装置名:AccuPyc(アキュピック)II 1340)を用いて、定容積膨張法(日本薬局方における「気体ピクノメータ法」)により測定した。
【0070】
<BET比表面積>
BET比表面積は、全自動比表面積測定装置(マウンテック社製、装置名:Macsorb HM-model 1210)を用いた。銀粉を装置内に入れ、60℃で10分間He-N2混合ガス(窒素30%)を流して脱気した後、BET一点法により測定した。
【0071】
<D10、D50、D90>
D10、D50、D90は、マイクロトラック粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、装置名:MT-3300EXII)を用いて、レーザー回折法湿式サンプル測定により測定を行った。測定に当たり、試料(銀粉)0.1gをイソプロピルアルコール(IPA)40mLに加えて分散した。分散には、超音波ホモジナイザー(日本精機製作所製、装置名:US-150T;19.5kHz、チップ先端直径18mm)を用いた。分散時間は、2分間とした。分散後の試料を上記装置に供し、付属の解析ソフトにより粒度分布を求めた。
【0072】
<タップ密度>
タップ密度(TAP)は、タップ密度測定装置(柴山科学社製、カサ比重測定装置SS-DA-2)を使用して求めた値を採用した。タップ密度の測定は、以下のようにして行った。銀粉30gを秤量して20mLの試験管に入れ、落差20mmで1000回タッピングした。そして、タッピング後の試料容積(cm3)を求めた。タップ密度(g/cm3)は、次式により求める。
タップ密度(g/cm3)=30(g)/タッピング後の試料容積(cm3)
【0073】
[銀粉の作製]
実施例・比較例の銀粉の調製は以下のようにして行った。
<実施例1>
図3及び
図2A~Cに示す装置を用いて銀粉を製造した。
0.13モル/Lの硝酸銀水溶液を、液温22℃で、管2(内径20mm)に流量25.1L/minで導入し、同軸二重管である供給管6(内径6mm)から9.2質量%のアンモニア水溶液を流量2.69L/minで導入し、管2内で銀アンミン錯体を生成した。
還元剤添加部材10の上流の供給管5(内径6mm)から、表面処理剤(0.18質量%セロゾール920(中京油脂株式会社製、ステアリン酸15.5wt%含有)を流量2.19L/minで導入した。硝酸銀水溶液の量は、錯化剤・ホルマリン・表面処理剤を添加した後の総液量中の銀濃度が0.1モル/Lとなる量である。銀に対するステアリン酸の添加量(目標値)が0.18質量%となる量である。
還元剤添加部材10のスリット部(スリット幅0.44mm、管内径20.6mm)の全周からホルマリン(19.8質量%ホルムアルデヒド水溶液)を流量2.55L/minで導入し、銀粉を析出させた。スリット幅0.44mmのスリット部から入る還元剤の流速は1.49m/sであり、還元剤が入る位置の管2内径20.6mmにおける還元剤の添加直前の銀アンミン錯体の流速は1.50m/sであり、還元剤の流速に対する錯体の流速の比(錯体流速/還元剤流速)は1.01である。
銀粉製造装置の稼働時間(表面処理剤を導入した銀アンミン錯体の流れが安定した後の、銀アンミン錯体への還元剤導入の開始から停止までの時間)は37秒とした。
上記において、硝酸銀水溶液の流路入口からアンモニア水溶液添加位置まで1秒、アンモニア水溶液添加位置からホルマリン添加位置まで2.12秒(2.1m)、表面処理剤添加位置からホルマリン添加位置まで0.123秒、ホルマリン添加位置の直前の銀アンミン錯体溶液の温度は27.8℃であった。
【0074】
管2から銀粉含有スラリーを放出した。ホルマリン添加位置から放出までの時間は約2秒であった。還元反応が安定化した後の銀粉含有スラリーを回収し、固液分離して得られた固形物を純水で洗浄して、固形物中の不純物を除去する。この洗浄の終点は、洗浄後の水の電気伝導度により判断することができ、この電気伝導度が0.5mS/m以下になるまで洗浄し、銀粉217gを得た。
その他の作製条件及び評価結果を表1及び2に示す。SEM写真(5000倍)を
図4に示す。
【0075】
<実施例2~4>
表1に示す条件に変更したほかは、実施例1と同様にして銀粉を作製した。実施例3及び4では、ミキサーを用いた。実施例2、実施例3、実施例4における銀粉製造装置の稼働時間は、それぞれ、33秒、43秒、870秒とした。得られた銀粉は、それぞれ、193g、126g、5091gであった。
実施例2~4の評価結果を表2に示す。また、実施例2~4の銀粉のSEM写真(5000倍)を
図5~7に示す。
【0076】
<比較例1>
図3の銀粉製造装置の還元剤添加部材10に代えて、管2の内側にホルマリンを供給する同軸の供給管(内径6mm)を配置した同軸二重管を設置し、ホルマリン(19.8質量%ホルムアルデヒド水溶液)を流量2.55L/minで導入し、銀粉を析出させた。銀粉製造装置の稼働時間は47秒とした。それ以外は、実施例1と同様であるか、表1に示すとおりである。得られた銀粉は、275gであった。評価結果を表2に示す。比較例1の銀粉のSEM写真(5000倍)を
図8に示す。
【0077】
【0078】
【0079】
[導電性ペーストの作製]
実施例及び比較例の銀粉を使用して、以下のようにして導電性ペーストを調製した。
下記の表3に示す組成比として、以下の処理を行い、実施例・比較例の銀粉を使用した導電性ペーストを得た。プロペラレス自公転式撹拌脱泡装置(株式会社シンキ―製のAR310)を用いて1400rpmで30秒撹拌し混合した後、3本ロール(EXAKT社製の80S)を用いて、ロールギャップを100μmから20μmまで通過させて混練した。
【0080】
【0081】
[細線印刷性の評価]
細線評価(EL)は、導電パターンを形成して評価した。導電パターンの形成は以下のように行った。まず、太陽電池用シリコン基板(100Ω/□)上に、スクリーン印刷機(マイクロテック社製、MT-320TV)を用いて、基板裏面にアルミニウムペースト(Rutech社製、28D22G-2)を用いて154mmのベタパターンを形成した。次に、実施例・比較例の銀粉を用いて作製した上記の導電性ペーストを500メッシュにてろ過した後、基板表面側に、
図9に示すパターンで、14μmから26μmの線幅の電極(フィンガー電極)と幅1mmの電極(バスバー電極)をスキージ速度350mm/secにて印刷(塗布)を行った。200℃で10分間の熱風乾燥を行った後、高速焼成炉IR炉(日本ガイシ社製、高速焼成試験4室炉)を用いて、ピーク温度750℃、インアウト時間41秒の焼成を行い、導電パターンを得た。
【0082】
導電パターンを得た後、EL/PL評価装置(アイテス社製、PVX330+POPLI-3C)を用いて、電極の断線有無の確認を行った。なお、EL/PL評価装置では、バスバー電極に電流を流してEL(エレクトロルミネッセンス)評価を行った。バスバー電極間の電極(フィンガー電極)に断線があった場合に、断線がある位置での発光がなく黒色に見える。
図10~14に実施例1~4、比較例1の銀粉を使用した導電性ペーストのEL評価結果を示す。比較例の銀粉を使用した導電性ペーストでは、線幅が細いほど断線によって発光していない黒色部分が多くみられた結果となっており、実施例の銀粉を使用した導電性ペーストの方が細線印刷可能であることがわかる。焼成時のピーク温度を750℃から710℃、690℃に下げた場合でも、750℃の時と同様に線幅が細い部分でも発光が見られており、発光細線印刷可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によれば、導電性ペースト等に用いた場合に、優れた印刷性をもたらすことが可能な球状銀粉が、その製造方法及び製造装置とともに提供される。
【符号の説明】
【0084】
1 銀粉製造装置
2 管
4a 還元剤供給管
4b 還元剤供給管
5 表面処理剤供給管
6 錯化剤供給管
10 還元剤添加部材
11 開口
12 スリット部
13 隙間