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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】真空処理装置及び真空処理方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/56 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
C23C14/56 A
C23C14/56 J
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022130962
(22)【出願日】2022-08-19
(65)【公開番号】P2024027829
(43)【公開日】2024-03-01
【審査請求日】2023-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 俊介
(72)【発明者】
【氏名】木本 孝仁
(72)【発明者】
【氏名】福田 義朗
(72)【発明者】
【氏名】前平 謙
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-054132(JP,A)
【文献】特開昭63-277750(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜面と前記成膜面とは反対側の非成膜面とを有する第1基材を繰り出す第1巻出ローラと、
前記第1基材を巻き取る第1巻取ローラと、
前記第1基材が搬送される方向において前記第1巻出ローラと前記第1巻取ローラとの間に設けられ、前記非成膜面に当接する外周面を有し、前記第1基材を巻回搬送する主ローラと、
前記非成膜面に当接する前記主ローラの前記外周面に対向する成膜源と、
前記主ローラによって巻回搬送され、前記主ローラの前記外周面において前記第1基材の前記成膜面の一部を覆う第2基材を繰り出す第2巻出ローラと、
前記第2基材を巻き取る第2巻取ローラと、
前記主ローラにバイアス電位を供給する電源と
前記第1基材から露出された前記主ローラの前記外周面の両端部全域を覆い、前記第1基材と前記第2基材との間に形成される放電プラズマ中の電荷が前記外周面へ到達することを遮断する絶縁材と
を具備する真空処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載された真空処理装置であって、
前記絶縁材上に前記第1基材の一方の端部及び他方の端部が位置し、
前記第2基材は、前記絶縁材と、前記第1基材の前記一方の端部と、前記第1基材の前記他方の端部とを被覆する
真空処理装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載された真空処理装置であって、
前記主ローラの前記外周面上において前記第2基材が前記絶縁材と接触しながら、前記第2基材が前記主ローラによって巻回搬送される
真空処理装置。
【請求項4】
成膜面と前記成膜面とは反対側の非成膜面とを有する第1基材を繰り出す第1巻出ローラと、
前記第1基材を巻き取る第1巻取ローラと、
前記第1基材が搬送される方向において前記第1巻出ローラと前記第1巻取ローラとの間に設けられ、前記非成膜面に当接する外周面を有し、前記第1基材を巻回搬送する主ローラと、
前記非成膜面に当接する前記主ローラの前記外周面に対向する成膜源と、
前記主ローラによって巻回搬送され、前記主ローラの前記外周面において前記第1基材の前記成膜面の一部を覆う第2基材を繰り出す第2巻出ローラと、
前記第2基材を巻き取る第2巻取ローラと
前記第1基材から露出された前記主ローラの前記外周面の両端部全域を覆い、前記第1基材と前記第2基材との間に形成される放電プラズマ中の電荷が前記外周面へ到達することを遮断する絶縁材と
を用いて、
前記主ローラにバイアス電位を供給しながら前記成膜面に成膜材料を形成する
真空処理方法。
【請求項5】
請求項4に記載された真空処理方法であって、
前記絶縁材上に前記第1基材の一方の端部及び他方の端部を位置させ、
前記第2基材を前記絶縁材と、前記第1基材の前記一方の端部と、前記第1基材の前記他方の端部とに被覆させる
真空処理方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載された真空処理方法であって、
前記主ローラの前記外周面上において前記第2基材を前記絶縁材と接触させながら、前記第2基材を前記主ローラによって巻回搬送する
真空処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空処理装置及び真空処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
長尺状の成膜用基材(帯状フィルム)を減圧雰囲気で主ローラに巻回しながら、この成膜用基材に被膜を形成するロール・トゥ・ロール方式の成膜装置がある。このような成膜装置では、主ローラによって巻回搬送される成膜用基材に成膜源を対向させて、成膜源から放出される成膜材料を成膜用基材に堆積させる(例えば、特許文献1参照)。これにより、主ローラによって巻回搬送される成膜用基材に被膜が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-019246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の成膜装置においては、成膜用基材とともに、成膜用基材の一部を被覆するマスク用基材を主ローラによって併せて巻回搬送して、成膜用基材の所定の部分に成膜材料を成膜する場合がある。
【0005】
しかしながら、この場合、マスク用基材を成膜用基材から剥がすときに、静電帯電によってマスク用基材に帯電した電荷が主ローラに流れ落ちる電気的短絡が起き得る。このような短絡が発生すると、主ローラにバイアス電位を印加しながら成膜を行う場合、成膜中に、このバイアス電位が不安定になる可能性がある。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、成膜中に主ローラにバイアス電位を安定して供給することが可能な真空処理装置及び真空処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る真空処理装置は、第1巻出ローラと、第1巻取ローラと、主ローラと、成膜源と、第2巻出ローラと、第2巻取ローラと、電源とを具備する。
上記第1巻出ローラは、成膜面と上記成膜面とは反対側の非成膜面とを有する第1基材を繰り出す。
上記第1巻取ローラは、上記第1基材を巻き取る。
上記主ローラは、上記第1基材が搬送される方向において上記第1巻出ローラと上記第1巻取ローラとの間に設けられ、上記非成膜面に当接する外周面を有し、少なくとも上記第1基材から露出される上記外周面が絶縁材で覆われ、上記第1基材を巻回搬送する。
上記成膜源は、上記非成膜面に当接する上記主ローラの上記外周面に対向する。
上記第2巻出ローラは、上記主ローラによって巻回搬送され、上記主ローラの上記外周面において上記第1基材の上記成膜面の一部を覆う第2基材を繰り出す。
上記第2巻取ローラは、上記第2基材を巻き取る。
上記電源は、上記主ローラにバイアス電位を供給する。
【0008】
このような真空処理装置によれば、成膜中に主ローラにバイアス電位を安定して供給することができる。
【0009】
上記真空処理装置においては、上記主ローラの両端部が上記絶縁材で覆われてもよい。
【0010】
このような真空処理装置によれば、成膜中に主ローラにバイアス電位を安定して供給することができる。
【0011】
上記真空処理装置においては、上記主ローラの上記外周面上において上記第2基材が上記絶縁材と接触しながら、上記第2基材が上記主ローラによって巻回搬送されてもよい。
【0012】
このような真空処理装置によれば、成膜中に主ローラにバイアス電位を安定して供給することができる。
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る真空処理方法では、
成膜面と上記成膜面とは反対側の非成膜面とを有する第1基材を繰り出す第1巻出ローラと、
上記第1基材を巻き取る第1巻取ローラと、
上記第1基材が搬送される方向において上記第1巻出ローラと上記第1巻取ローラとの間に設けられ、上記非成膜面に当接する外周面を有し、少なくとも上記第1基材から露出される上記外周面が絶縁材で覆われ、上記第1基材を巻回搬送する主ローラと、
上記非成膜面に当接する上記主ローラの上記外周面に対向する成膜源と、
上記主ローラによって巻回搬送され、上記主ローラの上記外周面において上記第1基材の上記成膜面の一部を覆う第2基材を繰り出す第2巻出ローラと、
上記第2基材を巻き取る第2巻取ローラと
が用いられ、
上記主ローラにバイアス電位を供給しながら上記成膜面に成膜材料が形成される。
【0014】
このような真空処理方法によれば、成膜中に主ローラにバイアス電位を安定して供給することができる。
【0015】
上記真空処理方法においては、上記主ローラの両端部を上記絶縁材で覆ってもよい。
【0016】
このような真空処理方法によれば、成膜中に主ローラにバイアス電位を安定して供給することができる。
【0017】
上記真空処理方法においては、上記主ローラの上記外周面上において上記第2基材を上記絶縁材と接触させながら、上記第2基材を上記主ローラによって巻回搬送してもよい。
【0018】
このような真空処理方法によれば、成膜中に主ローラにバイアス電位を安定して供給することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上述べたように、本発明によれば、成膜中に主ローラにバイアス電位を安定して供給することが可能な真空処理装置及び真空処理方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態に係る真空処理装置の一例を示す模式図である。
図2】本実施形態の真空処理方法の一例を示す模式的断面図である。
図3】比較例に係る真空処理装置の作用を説明する図である。
図4】本実施形態に係る真空処理装置の作用を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。各図面には、XYZ軸座標が導入される場合がある。また、同一の部材または同一の機能を有する部材には同一の符号を付す場合があり、その部材を説明した後には適宜説明を省略する場合がある。また、以下に示す数値は例示であり、この例に限らない。
【0022】
図1は、本実施形態に係る真空処理装置の一例を示す模式図である。図1に例示された真空処理装置1は、大気圧未満の減圧雰囲気の条件下で長尺状の基材90に被膜を形成するロール・トゥ・ロール方式の真空処理装置である。図1では、主ローラ40の中心軸40cの方向がY軸方向とされ、成膜源20から主ローラ40に向かう方向がZ軸方向とされる。Y軸方向とZ軸方向とに直交する方向がX軸方向とされる。
【0023】
真空処理装置1は、真空槽10と、成膜源20と、主ローラ40と、巻出ローラ41(第1巻出ローラ)と、巻取ローラ42(第1巻取ローラ)と、巻出ローラ45(第2巻出ローラ)と、巻取ローラ46(第2巻取ローラ)と、バイアス電源50と、排気機構70とを具備する。主ローラ40と巻出ローラ41との間、または、主ローラ40と巻取ローラ42との間には、基材90(第1基材)をガイドするガイドローラ(不図示)が設けられてもよい。主ローラ40と巻出ローラ45との間、または、主ローラ40と巻取ローラ46との間には、基材95(第2基材)をガイドするガイドローラ(不図示)が設けられてもよい。真空処理装置1は、主ローラ40、巻出ローラ41、巻取ローラ42、巻出ローラ45、巻取ローラ46、及びガイドローラのそれぞれを回転する回転駆動機構(不図示)を備える。また、真空処理装置1は、真空槽10にガスを供給するガス供給機構を備えてもよい。
【0024】
真空処理装置1において、基材90は、成膜用基材であって、真空槽10内で巻出ローラ41から主ローラ40、主ローラ40から巻取ローラ42に所定の搬送速度で搬送される。例えば、基材90は、巻出ローラ41に巻かれ、巻出ローラ41から主ローラ40に繰り出される。巻出ローラ41から主ローラ40に繰り出された基材90は、主ローラ40によって巻回搬送され、巻取ローラ42によって巻き取られる。主ローラ40によって巻回搬送された基材90には、成膜源20から放出された成膜材料が堆積して、基材90に被膜が形成される。
【0025】
基材95は、基材90を被覆するマスク用基材であって、真空槽10内で巻出ローラ45から主ローラ40、主ローラ40から巻取ローラ46に所定の搬送速度で搬送される。例えば、基材95は、巻出ローラ45に巻かれ、巻出ローラ45から主ローラ40に繰り出される。巻出ローラ45から主ローラ40に繰り出された基材90は、主ローラ40によって巻回搬送される基材90の一部を被覆しながら主ローラ40によって巻回搬送され、巻取ローラ46によって巻き取られる。
【0026】
真空槽10は、密閉構造を有する。真空槽10は、真空ポンプP1を有する排気機構70によって、所定の減圧雰囲気に維持可能となる。真空処理装置1は、例えば、成膜室11と、処理室12とを有する。成膜室11と処理室12とは、仕切壁13によって区分けされる。真空槽10は、図1の例では、成膜源20と、主ローラ40と、巻出ローラ41と、巻取ローラ42、巻出ローラ45と、巻取ローラ46とを収容する。
【0027】
仕切壁13には、主ローラ40が仕切壁13に接触せずに処理室12から、主ローラ40の一部が成膜室11に入り込めるように開口14が設けられている。また、仕切壁13に開口14が設けられることによって、主ローラ40と仕切壁13との間に隙間が形成される。主ローラ40に巻回搬送された基材90、95は、この隙間を通じて、処理室12と成膜室11との間を通過する。
【0028】
成膜源20は、成膜室11に設けられる。成膜源20は、例えば、蒸発源を含む。成膜源20は、主ローラ40の外周面403に対向する。成膜源20は、抵抗加熱式蒸発源、誘導加熱式蒸発源、または電子ビーム加熱式蒸発源等で構成される。成膜源20からは、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の成膜材料が主ローラ40に向けて蒸発する。成膜材料は、例えば、Li、Na等のアルカリ金属、Mg、Ca等のアルカリ土類金属等を含む。基材90に形成される被膜の厚みは、20μm以下である。この被膜がLi膜の場合、この被膜は、例えば、リチウム電池の負極に適用される。
【0029】
成膜室11は、排気機構70に接続される。成膜室11は、排気機構70によって減圧状態を維持する。処理室12は、開口14を介して成膜室11と連通する。成膜室11が排気されると、開口14を介して処理室12が排気される。図1の例では、処理室12には排気機構70に接続されていない。これにより、成膜室11が排気されると成膜室11よりも処理室12の方が高圧となる圧力差が生じる。この圧力差によって、成膜源20からの蒸気流21(成膜材料)が開口14を通じて処理室12に侵入することが抑制される。なお、必要に応じて、処理室12を排気機構で排気してもよい。
【0030】
主ローラ40は、基材90が搬送される方向(搬送される基材90の方向に沿った方向)において、巻出ローラ41と巻取ローラ42との間に設けられる。主ローラ40の一部は、成膜室11に配置され、残りの部分が処理室12に配置される。主ローラ40は、成膜源20に対向する。主ローラ40は、基材90の非成膜面(裏面)90rに当接する外周面403を有する。図1の例では、主ローラ40は、反時計回りに回転する。本実施形態では、主ローラ40が回転する方向を回転方向Rとする。
【0031】
主ローラ40は、ステンレス鋼、鉄、アルミニウム等の金属材料を含み、筒状に構成される。主ローラ40の内部には、例えば、温調機構(不図示)が設けられてもよい。主ローラ40の中心軸40cの方向の幅は、基材90の幅よりも大きく設定される。主ローラ40は、巻出ローラ41によって巻き出された基材90を巻回搬送し、被膜が形成された基材90を巻取ローラ42に向けて繰り出す。
【0032】
主ローラ40の外周面403の少なくとも一部は、層状の絶縁材410で覆われている。絶縁材410は、外周面403に沿って主ローラ40に周設される。例えば、主ローラ40が基材90を巻回搬送しているとき、少なくとも基材90から露出される外周面403が絶縁材410で覆われている。絶縁材410の厚みは、例えば、10μm以上100μm以下である。絶縁材410の厚みが10μmより小さいと絶縁材410の絶縁性が損なわれるので好ましくなく、絶縁材410の厚みが100μmより大きいと主ローラ40上で絶縁材410に接する基材90の段差が大きくなり好ましくない。
【0033】
絶縁材410の材料は、OPP(延伸ポリプロピレン)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイト)樹脂、PI(ポリイミド)樹脂等を含む。
【0034】
巻出ローラ41は、処理室12に設けられる。巻出ローラ41には、基材90が予め巻回される。巻出ローラ41は、その中心軸周りに所定の回転速度で矢印方向に回転する。巻出ローラ41は、基材90を主ローラ40に向けて繰り出す。
【0035】
巻取ローラ42は、処理室12に設けられる。巻取ローラ42は、その中心軸周りに所定の回転速度で矢印方向に回転する。巻取ローラ42は、主ローラ40によって巻回搬送され、成膜材料が堆積した基材90を巻き取る。
【0036】
巻出ローラ45は、処理室12に設けられる。巻出ローラ45には、基材95が予め巻回される。巻出ローラ45は、その中心軸周りに所定の回転速度で矢印方向に回転する。巻出ローラ45は、基材95を主ローラ40に向けて繰り出す。
【0037】
巻取ローラ46は、処理室12に設けられる。巻取ローラ46は、その中心軸周りに所定の回転速度で矢印方向に回転する。巻取ローラ46は、主ローラ40上で基材90の一部を被覆する基材95が基材90から剥がれた後、基材95を巻き取る。
【0038】
基材90は、成膜面90dと、成膜面90dとは反対側の非成膜面90rとを有する。成膜面90dは、成膜源20に対向する。成膜面90dには、成膜源20から放出される蒸気流21が堆積して、主ローラ40上で基材90の成膜面90dに被膜が形成される。非成膜面90rは、主ローラ40の外周面403に当接する。
【0039】
基材90は、シート状且つ長尺状のフィルムである(厚み:50μm以下)。基材90は、可撓性を有する。例えば、基材90は、OPP(延伸ポリプロピレン)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイト)樹脂、PI(ポリイミド)樹脂等の帯状のフィルムである。基材90は、Cu、Al、Ni、SUS鋼等の帯状の金属箔であってもよい。
【0040】
基材95は、成膜面90dの一部を覆う被覆面95rと、被覆面95rとは反対側の非被覆面95sとを有する。基材95は、主ローラ40の外周面403において基材90の成膜面90dの一部を覆う。基材95の非被覆面95sは、成膜源20に対向する。基材95によって基材90の成膜面90dの一部が被覆されることによって、主ローラ40上において基材90の成膜面90dの所定の部分に被膜が形成される。
【0041】
基材95は、シート状且つ長尺状のフィルムである(厚み:50μm以下)。基材95は、可撓性を有する。例えば、基材95は、OPP(延伸ポリプロピレン)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイト)樹脂、PI(ポリイミド)樹脂等の帯状のフィルムである。
【0042】
バイアス電源50は、真空槽10の外部に設けられる。バイアス電源50は、主ローラ40にバイアス電位(例えば、正電位)を供給する。主ローラ40にバイアス電位を供給することにより、基材90及び基材95と、主ローラとの間に静電力が働く。これにより、主ローラ40によって基材90、95を巻回搬送しているとき、主ローラ40と基材90、95との間に静電密着力が働いて、主ローラ40上での基材90及び基材95のずれ、皺が抑制される。なお、真空槽10、巻出ローラ41、巻取ローラ42、巻出ローラ45、及び巻取ローラ46は、接地電位となっている。
【0043】
真空処理装置1を用いて、基材90の成膜面90dに成膜源20の成膜材料を成膜する動作について説明する。図2(a)~図2(c)は、本実施形態の真空処理方法の一例を示す模式的断面図である。
【0044】
図2(a)には、図1に示す一点鎖線C1に沿って各基材、被膜、絶縁材及び主ローラを切断した場合の模式的断面が示されている。
【0045】
図2(a)に示すように、主ローラ40の両端部(端部401、402)は、絶縁材410で覆われている。絶縁材410は、例えば、2つに分かれ、絶縁材411と、絶縁材412とを有する。例えば、主ローラ40の一方の端部401は、絶縁材411で覆われ、主ローラ40の他方の端部402は、絶縁材412で覆われている。一点鎖線C1の位置では、基材90が主ローラ40によって巻回搬送され、基材90の一方の端部901は、絶縁材411上に位置し、基材90の他方の端部902は、絶縁材412上に位置する。
【0046】
また、一点鎖線C1の位置では、マスク用の基材95は、主ローラ40の外周面403上において絶縁材410と接触しながら主ローラ40によって巻回搬送される。基材95は、例えば、2つの長尺状の基材によって構成され、例えば、基材951と、基材952とを有する。基材951は、絶縁材411の側において、絶縁材411と、基材90の一方の端部901とを被覆する。基材952は、絶縁材412の側において、絶縁材412と、基材90の他方の端部902とを被覆する。
【0047】
なお、このような2に分かれた基材95を搬送する場合、真空処理装置1では、巻出ローラ45が基材951と基材952とを同時に繰り出す一体的な巻出ローラで構成されてもよく、基材951と基材952とをそれぞれ独立に繰り出す一対の巻出ローラで構成されてもよい。巻出ローラ45が一対の巻出ローラで構成されている場合、一対の巻出ローラは、主ローラ40の中心軸40cの方向に並設される。同様に、巻取ローラ46は、基材951と基材952とを同時に巻き取る一体的な巻取ローラで構成されてもよく、基材951と基材952とをそれぞれ独立に巻き取る一対の巻取ローラで構成されてもよい。巻取ローラ46が一対の巻取ローラで構成されている場合、一対の巻取ローラは、主ローラ40の中心軸40cの方向に並設される。
【0048】
図2(a)に示すように、一点鎖線C1の位置においては、蒸気流21は、基材95から露出された基材90と、基材95(基材951、952)に堆積する。これにより、基材90には、成膜源20からの成膜材料を含む被膜91が形成される。また、基材95(基材951、952)には、成膜材料を含む余剰膜910が形成される。なお、成膜中においては、主ローラ40にバイアス電位を供給しながら基材90の成膜面90dに成膜材料が形成される。
【0049】
図2(b)には、図1に示す一点鎖線C2に沿って各基材、被膜、絶縁材、余剰膜及び主ローラを切断した場合の模式的断面が示されている。
【0050】
一点鎖線C2の位置では、基材95(基材951、952)が余剰膜910とともに、絶縁材410及び基材90から離れる。この後、基材95は、余剰膜910とともに、巻取ローラ46によって巻き取られる。
【0051】
一方、主ローラ40上には、基材95から露出された部分に被膜91が形成された基材90が残る。この後、基材90は、被膜91とともに主ローラ40から離れ、巻取ローラ42によって巻き取られる。この状態を図2(c)に示す。例えば、図2(c)には、図1に示す一点鎖線C3に沿って主ローラ及び絶縁材を切断した場合の模式的断面が示されている。
【0052】
図2(c)に示すように、基材90が被膜91とともに主ローラ40から離れ、主ローラ40の外周面403の一部が絶縁材410(絶縁材411、412)で覆われている。この後、再び、図2(a)の状態となり、続いて、図2(b)、図2(c)の順に示す動作が繰り返される。
【0053】
真空処理装置1の作用を説明する前に、比較例に係る真空処理装置の作用について説明する。図3(a)~図3(c)は、比較例に係る真空処理装置の作用を説明する図である。図3(a)には、図1の一点鎖線C1の位置に対応した比較例が示され、図3(b)には、図1の一点鎖線C2の位置に対応した比較例が示されている。図3(c)には、図3(b)の状態を示す等価回路が示される。図3(a)~図3(c)では、主ローラ40の両端部の中、端部401の側での作用が示されている。図3(a)~図3(c)に示す現象は、主ローラ40の端部402の側でも起き得る。
【0054】
比較例では、主ローラ40に絶縁材410(絶縁材411、412)が設けられていない。このような構成では、以下に示す現象が起き得る。
【0055】
例えば、主ローラ40によって、基材90、95を巻回搬送すると、基材90と基材95との帯電列の違い、及び基材90と基材95との摩擦によって基材90、95がともに静電気を帯びる場合がある。
【0056】
例えば、図3(a)には、一例として、基材90の端部901が正電位となり、基材951が負電位に帯電した状態が示されている。なお、基材90に形成された被膜91は、巻取ローラ42に巻き取られ、基材951に形成された余剰膜910は、巻取ローラ46に巻き取られることから、それぞれの膜はともに接地電位である。また、主ローラ40には、バイアス電源50から正電位が印加されている。
【0057】
この状態のまま、図3(b)に示すように、基材951が主ローラ40から離れ、例えば、基材951から脱ガスが起きると、基材951と基材90の端部901との間の真空度が局所的に増加する。さらに、基材951に帯電した静電気と、基材90に帯電した静電気とによって、基材951と基材90の端部901との間に電界が形成される。これにより、基材951と基材90の端部901との間に放電プラズマ80が形成される場合がある。放電プラズマ80は、基材90の端部901が負電位となり、基材951が正電位に帯電し場合でも起き得る。
【0058】
このような放電プラズマ80が主ローラ40の外周面403が露出された部分の近傍に形成されると、放電プラズマ80中の電荷が主ローラ40の外周面403に引き込まれる。この結果、放電プラズマ80と主ローラ40の外周面403との間に電気的なパス80pが形成される(図3(c))。すなわち、放電プラズマ80と主ローラ40との間において電気的な短絡が起きる。
【0059】
このような電気的な短絡が発生すると、主ローラ40に印加されるバイアス電位が不安定になって、主ローラ40と基材90、95との間の静電密着力が不安定になる。これにより、成膜中に基材90、95が主ローラ40の外周面403上でずれたり、基材90、95に皺が発生したりする場合がある。
【0060】
次に、本実施形態に係る真空処理装置の作用について説明する。図4(a)、(b)は、本実施形態に係る真空処理装置の作用を説明する図である。図4(a)には、図1の一点鎖線C2の位置に対応した例が示されている。図4(b)には、図4(a)の状態を示す等価回路が示される。図4(a)、(b)では、主ローラ40の両端部の中、端部401の側での作用が示されている。図4(a)、(b)に示す現象は、主ローラ40の端部402の側でも起きる。
【0061】
図4(a)に示すように、本実施形態では、主ローラ40が絶縁材410(絶縁材411、412)によって被覆されている。これにより、図4(a)に示すように、基材951と基材90の端部901との間に放電プラズマ80が形成されたとしても、放電プラズマ80中の電荷が絶縁材411によって遮断される。これにより、電気的なパス80pは形成されず(図4(b))、主ローラ40の外周面403に放電プラズマ80中の電荷が到達することが防止される。
【0062】
従って、主ローラ40に印加されるバイアス電位は安定し、主ローラ40と基材90、95との間の静電密着力が安定する。これにより、成膜中に基材90、95が主ローラ40の外周面403上でずれたり、基材90、95に皺が発生したりすることが防止される。
【0063】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、主ローラ40の外周面403の全域が絶縁材で被覆された構成も本実施形態に含まれ、この構成でも同様の作用効果を奏する。各実施形態は、独立の形態とは限らず、技術的に可能な限り複合することができる。
【符号の説明】
【0064】
1…真空処理装置
10…真空槽
11…成膜室
12…処理室
13…仕切壁
14…開口
20…成膜源
21…蒸気流
40…主ローラ
40c…中心軸
401、402…端部
403…外周面
41…巻出ローラ(第1巻出ローラ)
42…巻取ローラ(第1巻取ローラ)
45…巻出ローラ(第2巻出ローラ)
46…巻取ローラ(第2巻取ローラ)
50…バイアス電源
70…排気機構
80…放電プラズマ
80…パス
90…基材(第1基材)
90d…成膜面
90r…非成膜面
901、902…端部
91…被膜
95…基材(第2基材)
951、952…基材
95r…被覆面
95s…非被覆面
410、411、412…絶縁材
910…余剰膜
図1
図2
図3
図4