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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】荷役機器の制御システムおよび制御方法
(51)【国際特許分類】
   B66C 13/22 20060101AFI20241205BHJP
   G01C 21/28 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B66C13/22 H
G01C21/28
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022158959
(22)【出願日】2022-09-30
(65)【公開番号】P2024052314
(43)【公開日】2024-04-11
【審査請求日】2024-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005902
【氏名又は名称】株式会社三井E&S
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】星島 一輝
(72)【発明者】
【氏名】宮田 淳也
(72)【発明者】
【氏名】中田 成幸
【審査官】山田 拓実
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-144879(JP,A)
【文献】特開2006-176283(JP,A)
【文献】特開2005-239415(JP,A)
【文献】特開2006-235702(JP,A)
【文献】特開2003-261284(JP,A)
【文献】特開2021-024660(JP,A)
【文献】特開2020-038498(JP,A)
【文献】特開2020-204548(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0046587(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/00-15/06
B66C 19/00
G01C 21/28
G01C 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷役機器による荷役作業が行われる箇所を含む多数の停止箇所ごとの停止座標データが集積している地図データと前記荷役機器の自己座標データとに基づいて、前記荷役機器の走行を制御する制御システムにおいて、
前記荷役機器の走行による前記停止箇所の通過に伴って前記多数の停止箇所ごとに設置されている測定対象物を検知する外界センサと、前記荷役機器の走行距離を逐次、測定する走行距離計と、少なくとも一つの電波送受信機との電波の送受信により前記荷役機器の所定箇所の位置座標を逐次、取得する電波式測位装置と、座標演算装置と、を備え、
前記座標演算装置は、
前記多数の停止箇所のなかの一つである測定開始箇所から前記走行距離計が逐次、測定した前記走行距離を累計した累計走行距離とその測定開始箇所の座標データとに基づいて前記自己座標データを推定するデータ処理を逐次、実行し、
前記外界センサが前記測定対象物を検知すると、前記累計走行距離をゼロに更新するとともに、前記外界センサが前記測定対象物を検知した時の直前に実行された前記推定するデータ処理により出力されていた前記自己座標データと前記地図データとを比較して、前記地図データに集積された多数の前記停止座標データのなかからその自己座標データに近似した停止座標データを特定し、前記測定開始箇所の座標データを特定されたその停止座標データに更新するデータ処理を実行し、
前記更新するデータ処理では、前記電波式測位装置の電波の送受信の感度が基準よりも高い場合に、前記自己座標データの代わりに前記電波式測位装置が取得した前記位置座標が用いられることを特徴とする荷役機器の制御システム。
【請求項2】
前記座標演算装置は、前記電波式測位装置の電波の送受信の感度が基準よりも高い場合に、前記電波式測位装置が取得した前記位置座標に基づいた測位座標データと前記地図データとを比較し、その測位座標データと前記地図データに集積された多数の前記停止座標データのなかの一つの前記停止座標データとが一致した場合に、前記累計走行距離をゼロに更新し、前記測定開始箇所の座標データを前記地図データに基づいて更新するデータ処理を実行する請求項に記載の荷役機器の制御システム。
【請求項3】
荷役機器による荷役作業が行われる箇所を含む多数の停止箇所ごとの停止座標データが集積している地図データと前記荷役機器の自己座標データとに基づいて、前記荷役機器の走行を制御する制御システムにおいて、
前記荷役機器の走行による前記停止箇所の通過に伴って前記多数の停止箇所ごとに設置されている測定対象物を検知する外界センサと、前記荷役機器の走行距離を逐次、測定する走行距離計と、少なくとも一つの電波送受信機との電波の送受信により前記荷役機器の所定箇所の位置座標を逐次、取得する電波式測位装置と、座標演算装置と、を備え、
前記座標演算装置は、
前記多数の停止箇所のなかの一つである測定開始箇所から前記走行距離計が逐次、測定した前記走行距離を累計した累計走行距離とその測定開始箇所の座標データとに基づいて前記自己座標データを推定するデータ処理を逐次、実行し、
前記外界センサが前記測定対象物を検知すると、または、前記電波式測位装置の電波の送受信の感度が基準よりも高い場合に、前記電波式測位装置が取得した前記位置座標に基づいた測位座標データと前記地図データとを比較し、その測位座標データと前記地図データに集積された多数の前記停止座標データのなかの一つの前記停止座標データとが一致すると、前記累計走行距離をゼロに更新し、前記測定開始箇所の座標データを前記地図データに基づいて更新するデータ処理を実行することを特徴とする荷役機器の制御システム。
【請求項4】
前記走行距離計は、前記荷役機器の走行輪の所定周期ごとの回転数を検出する内界センサを有し、その内界センサが検出したその回転数と前記走行輪の外径とに基づいて前記走行距離を測定する構成であり、
前記座標演算装置は、前記更新するデータ処理の実行により更新された前記測定開始箇所の座標データと更新される前の前記測定開始箇所の座標データと更新される前の前記累計走行距離とに基づいて、前記走行輪の外径を更新するデータ処理を実行する請求項1~3のいずれかに記載の荷役機器の制御システム。
【請求項5】
荷役機器による荷役作業が行われる箇所を含む多数の停止箇所ごとの停止座標データが集積している地図データと荷役機器の自己座標データとに基づいて、前記荷役機器の走行を制御する制御方法において、
走行距離計により、前記荷役機器の走行距離を逐次、測定し、
電波式測位装置により、少なくとも一つの電波送受信機との電波の送受信により前記荷役機器の所定箇所の位置座標を逐次、取得し、
座標演算装置により、前記多数の停止箇所のなかの一つである測定開始箇所から前記走行距離計が逐次、測定した前記走行距離を累計した累計走行距離とその測定開始箇所の座標データとに基づいて前記自己座標データを推定する推定工程を逐次、行い、
前記荷役機器の走行による前記停止箇所の通過に伴って、外界センサにより前記多数の停止箇所ごとに設置されている測定対象物が検知されると、前記座標演算装置により、前記累計走行距離をゼロに更新するとともに、前記外界センサが前記測定対象物を検知した時の直前に実行された前記推定工程により出力されていた前記自己座標データと前記地図データとを比較して、前記地図データに集積された多数の前記停止座標データのなかからその自己座標データに近似した停止座標データを特定し、前記測定開始箇所の座標データを特定されたその停止座標データに更新する更新工程を行い、
前記更新工程では、前記電波式測位装置の電波の送受信の感度が基準よりも高い場合に、前記自己座標データの代わりに前記電波式測位装置が取得した前記位置座標を用いることを特徴とする荷役機器の制御方法。
【請求項6】
荷役機器による荷役作業が行われる箇所を含む多数の停止箇所ごとの停止座標データが集積している地図データと荷役機器の自己座標データとに基づいて、前記荷役機器の走行を制御する制御方法において、
走行距離計により、前記荷役機器の走行距離を逐次、測定し、
電波式測位装置により、少なくとも一つの電波送受信機との電波の送受信により前記荷役機器の所定箇所の位置座標を逐次、取得し、
座標演算装置により、前記多数の停止箇所のなかの一つである測定開始箇所から前記走行距離計が逐次、測定した前記走行距離を累計した累計走行距離とその測定開始箇所の座標データとに基づいて前記自己座標データを推定する推定工程を逐次、行い、
前記荷役機器の走行による前記停止箇所の通過に伴って、外界センサにより前記多数の停止箇所ごとに設置されている測定対象物が検知されると、または、前記電波式測位装置の電波の送受信の感度が基準よりも高い場合に、前記電波式測位装置が取得した前記位置座標に基づいた測位座標データと前記地図データとを比較し、その測位座標データと前記地図データに集積された多数の前記停止座標データのなかの一つの前記停止座標データとが一致すると、前記座標演算装置により、前記累計走行距離をゼロに更新するとともに、前記測定開始箇所の座標データを前記地図データに基づいて更新する更新工程を行うことを特徴とする荷役機器の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷役機器の制御システムおよび制御方法に関し、より詳しくは、地図データと荷役機器の自己座標データとに基づいて荷役機器の走行を制御する荷役機器の制御システムおよび制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンテナターミナルなどの倉庫施設では、クレーンや搬送台車などの荷役機器による荷役作業が行われる箇所や荷役物の蔵置位置を示す地図データが予め作成されている。そこで、荷役機器の走行制御においては、その地図データに示された目標停止箇所の停止座標データと荷役機器の自己座標データとに基づいた速度指令をインバータに出力する走行制御(位置フィードバック制御)が行われている。自己座標データは、全球測位衛星システム(GNSS)測位を利用する電波式測位装置が取得した荷役機器の所定箇所の位置座標に基づいて算出されている。
【0003】
この種の電波式測位装置は、非常に簡便に荷役機器の所定箇所の位置座標を取得できるが、電波の送受信の感度(精度低下率、信号強度、測位使用衛星数など)が基準よりも低下した場合に、位置座標の精度が低下したり、位置座標を取得できなかったりする。感度が低下する状況としては、電離圏や対流圏での電波の伝搬が遅延する状況や、高層構造物の影響により電波を送受信可能な全球測位衛星システムの衛星数が減少したり、電波のマルチパスが生じたりする状況が例示される。また、海外の空港や港湾で報告事例が挙げられているように、ジャミングやスプーフィングといった電波妨害が生じる状況も例示される。それ故、電波式測位装置を用いた荷役機器の走行制御では、電波の感度が悪く、電波式測位装置が取得する位置座標に基づいた自己座標データが得られない場合に、荷役機器の走行を停止せざるを得ない。
【0004】
そこで、自己座標データを推定する手法が種々提案されている(特許文献1参照)。特許文献1に記載の発明は、自己位置推定と環境地図作成を同時に行うSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)を利用している。SLAMは、距離センサやカメラなどの外界センサが計測した点群データにICP(Iterative Closest Point)アルゴリズムやNDT(Normal Distribution Transform)アルゴリズムなどのスキャンマッチングアルゴリズムを用いて、地図データをマッピングしてから自己位置を推定する手法である。このようにSLAMを用いた手法では、予め地図データを作成する必要がなく汎用性が高く、屋内でも利用可能となっている。
【0005】
しかしながら、SLAMを用いた手法により自己座標データを高精度に推定するには、点群処理などのスキャンマッチングを速い周期で繰り返す必要があり、推定による演算負荷が高くなることに加えて、点群データなどの推定に要するデータが記憶領域を専有する割合が高くなる。また、SLAMを用いた手法は、予め地図データが作成されていない場合を想定した汎用的な手法であり、予め精度の高い地図データが作成されている倉庫施設に適していない。それ故、倉庫施設の荷役機器の走行制御に関して、計算資源を低減しつつ、高精度な自己座標データをより簡便に推定するには改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2020-038498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、計算資源を低減しつつ、高精度な自己座標データをより簡便に推定することが可能な荷役機器の制御システムおよび制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成する本発明の荷役機器の制御システムは、荷役機器による荷役作業が行われる箇所を含む多数の停止箇所ごとの停止座標データが集積している地図データと前記荷役機器の自己座標データとに基づいて、前記荷役機器の走行を制御する制御システムにおいて、前記荷役機器の走行による前記停止箇所の通過に伴って前記多数の停止箇所ごとに設置されている測定対象物を検知する外界センサと、前記荷役機器の走行距離を逐次、測定する走行距離計と、少なくとも一つの電波送受信機との電波の送受信により前記荷役機器の所定箇所の位置座標を逐次、取得する電波式測位装置と、座標演算装置と、を備え、前記座標演算装置は、前記多数の停止箇所のなかの一つである測定開始箇所から前記走行距離計が逐次、測定した前記走行距離を累計した累計走行距離とその測定開始箇所の座標データとに基づいて前記自己座標データを推定するデータ処理を逐次、実行し、前記外界センサが前記測定対象物を検知すると、前記累計走行距離をゼロに更新するとともに、前記外界センサが前記測定対象物を検知した時の直前に実行された前記推定するデータ処理により出力されていた前記自己座標データと前記地図データとを比較して、前記地図データに集積された多数の前記停止座標データのなかからその自己座標データに近似した停止座標データを特定し、前記測定開始箇所の座標データを特定されたその停止座標データに更新するデータ処理を実行し、前記更新するデータ処理では、前記電波式測位装置の電波の送受信の感度が基準よりも高い場合に、前記自己座標データの代わりに前記電波式測位装置が取得した前記位置座標が用いられることを特徴とする。
本発明の荷役機器の制御システムは、荷役機器による荷役作業が行われる箇所を含む多数の停止箇所ごとの停止座標データが集積している地図データと前記荷役機器の自己座標データとに基づいて、前記荷役機器の走行を制御する制御システムにおいて、前記荷役機器の走行による前記停止箇所の通過に伴って前記多数の停止箇所ごとに設置されている測定対象物を検知する外界センサと、前記荷役機器の走行距離を逐次、測定する走行距離計と、少なくとも一つの電波送受信機との電波の送受信により前記荷役機器の所定箇所の位置座標を逐次、取得する電波式測位装置と、座標演算装置と、を備え、前記座標演算装置は、前記多数の停止箇所のなかの一つである測定開始箇所から前記走行距離計が逐次、測定した前記走行距離を累計した累計走行距離とその測定開始箇所の座標データとに基づいて前記自己座標データを推定するデータ処理を逐次、実行し、前記外界センサが前記測定対象物を検知すると、または、前記電波式測位装置の電波の送受信の感度が基準よりも高い場合に、前記電波式測位装置が取得した前記位置座標に基づいた測位座標データと前記地図データとを比較し、その測位座標データと前記地図データに集積された多数の前記停止座標データのなかの一つの前記停止座標データとが一致すると、前記累計走行距離をゼロに更新し、前記測定開始箇所の座標データを前記地図データに基づいて更新するデータ処理を実行することを特徴とする。
【0009】
上記の目的を達成する本発明の荷役機器の制御方法は、荷役機器による荷役作業が行われる箇所を含む多数の停止箇所ごとの停止座標データが集積している地図データと荷役機器の自己座標データとに基づいて、前記荷役機器の走行を制御する制御方法において、走行距離計により、前記荷役機器の走行距離を逐次、測定し、電波式即位装置により、少なくとも一つの電波送受信機との電波の送受信により前記荷役機器の所定箇所の位置座標を逐次、取得し、座標演算装置により、前記多数の停止箇所のなかの一つである測定開始箇所から前記走行距離計が逐次、測定した前記走行距離を累計した累計走行距離とその測定開始箇所の座標データとに基づいて前記自己座標データを推定する推定工程を逐次、行い、前記荷役機器の走行による前記停止箇所の通過に伴って、外界センサにより前記多数の停止箇所ごとに設置されている測定対象物が検知されると、前記座標演算装置により、前記累計走行距離をゼロに更新するとともに、前記外界センサが前記測定対象物を検知した時の直前に実行された前記推定工程により出力されていた前記自己座標データと前記地図データとを比較して、前記地図データに集積された多数の前記停止座標データのなかからその自己座標データに近似した停止座標データを特定し、前記測定開始箇所の座標データを特定されたその停止座標データに更新する更新工程を行い、前記更新工程では、前記電波式測位装置の電波の送受信の感度が基準よりも高い場合に、前記自己座標データの代わりに前記電波式測位装置が取得した前記位置座標を用いることを特徴とする。
本発明の荷役機器の制御方法は、荷役機器による荷役作業が行われる箇所を含む多数の停止箇所ごとの停止座標データが集積している地図データと荷役機器の自己座標データとに基づいて、前記荷役機器の走行を制御する制御方法において、走行距離計により、前記荷役機器の走行距離を逐次、測定し、電波式即位装置により、少なくとも一つの電波送受信機との電波の送受信により前記荷役機器の所定箇所の位置座標を逐次、取得し、座標演算装置により、前記多数の停止箇所のなかの一つである測定開始箇所から前記走行距離計が逐次、測定した前記走行距離を累計した累計走行距離とその測定開始箇所の座標データとに基づいて前記自己座標データを推定する推定工程を逐次、行い、前記荷役機器の走行による前記停止箇所の通過に伴って、外界センサにより前記多数の停止箇所ごとに設置されている測定対象物が検知されると、または、前記電波式測位装置の電波の送受信の感度が基準よりも高い場合に、前記電波式測位装置が取得した前記位置座標に基づいた測位座標データと前記地図データとを比較し、その測位座標データと前記地図データに集積された多数の前記停止座標データのなかの一つの前記停止座標データとが一致すると、前記座標演算装置により、前記累計走行距離をゼロに更新するとともに、前記測定開始箇所の座標データを前記地図データに基づいて更新する更新工程を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、累計走行距離と測定開始箇所の座標データは、外界センサが測定対象物を検知するごとにリセットされて、その測定開始箇所の座標データとして予め作成されている地図データに集積されている精度の高い停止座標データが用いられる。それ故、それらのデータをデータ処理することで推定された第一座標データは、累計誤差が小さく、測定精度が高くなっている。つまり、本発明は、走行距離計を利用した非常に簡便な自己座標データの推定手法を用いることで、計算資源を低減することが可能な構成でありながら、自己座標データを高精度に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】荷役機器を例示する説明図である。
図2】地図データを例示する説明図である。
図3】荷役機器の制御システムを例示する説明図である。
図4】自己座標データを例示する説明図である。
図5図3の距離計と測定対象物とを例示する説明図である。
図6図3の距離データを例示する説明図である。
図7】距離計の測定方法を例示するフロー図である。
図8】荷役機器の制御方法において、荷役機器の所定箇所の位置座標を取得する方法を例示するブロック図である。
図9】荷役機器の制御方法において、自己座標データを出力する方法を例示するフロー図である。
図10図9のサブルーチン(S210)、(S220)を例示するフロー図である。
図11図10のIの続きを例示するフロー図である。
図12】経過時間に伴う第一寄与率と第二寄与率との変化を例示する説明図である。
図13】時間の経過で変化する条件での自己座標データを例示する説明図である。
図14】荷役機器の走行制御による走行速度の変化を例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の荷役機器の制御システムおよび制御方法を、図に示す実施形態に基づいて説明する。図中では、倉庫施設の座標系におけるX軸方向を蔵置レーン3の延在方向とし、Y軸方向を延在方向に直交する左右方向とし、Z方向を鉛直方向とする。なお、座標系は、絶対座標系を用いることもできる。
【0013】
図1に例示する荷役機器1は、コンテナターミナルなどの公知の種々の倉庫施設で、コンテナなどの荷役物2を荷役するクレーンや運搬車両(コンテナトラック)などの公知の種々の荷役機器を用いることができる。荷役機器1は、コンテナターミナルで、多数の荷役物2が蔵置されている蔵置レーン3をY軸方向に跨いで蔵置レーン3の延在方向に走行するクレーンが例示される。荷役機器1の走行輪4が接する走行路面5は、蔵置レーン3の両側方の各々に隣接して配置されており、各々の走行路面5がその蔵置レーン3に沿ってX軸方向に延在している。倉庫施設には、荷役機器1が荷役作業を行う箇所である多数の停止箇所が設定されており、多数の停止箇所のなかの一つが目標停止箇所となっている。例えば、倉庫施設がコンテナターミナルの場合に、多数の停止箇所は、蔵置レーン3のベイごとに設定されている。このような倉庫施設では、荷役物2の蔵置位置を示す地図データ20が予め作成されている。
【0014】
図2に例示する地図データ20は、荷役物2の蔵置位置として、荷役機器1が荷役作業を行う箇所を含む多数の停止箇所での荷役機器1の停止姿勢の目標値を示す停止座標データ(図中の「(・・・、・・・)」)が集積しているデータセットである。地図データ20は、表の最左列に記載された指定番号ごとの停止箇所の停止姿勢データを備えている。指定番号(A1、・・・、An、・・・、Dn、・・・)は、蔵置レーン3のレーン番号(A、・・・、D、・・・)と、ベイ番号(1~n)を示している。なお、蔵置レーン3ごとのベイ数は異なっていてもよい。
【0015】
荷役機器1の停止姿勢の目標値としては、荷役機器1の停止位置(X軸方向の位置)とZ方向視での荷役機器1の停止向き(X軸に対する傾き)とが少なくとも必要である。一箇所の停止箇所に対して、Y軸方向に離間した少なくとも二点の停止座標データがあれば、その停止箇所でのZ方向視での向きが算出可能である。よって、停止位置データは、一箇所の停止箇所の複数地点ごとに用意されている。停止座標データは、X座標とY座標とで構成されることが望ましいが、X座標のみで構成されていてもよい。
【0016】
停止座標データは、そのX座標が停止箇所での荷役物2の蔵置位置のX軸方向での中心位置を示している。一箇所の停止箇所の複数地点の停止座標データから得られる停止姿勢角は、停止箇所ごとに異なっていてもよいが、蔵置レーン3では、Z方向視でX軸に対する傾きを用いており、複数の停止箇所で「ゼロ°」に設定されている。つまり、停止箇所における複数地点の停止座標データに合わせて荷役機器1が停止することで、停止箇所の荷役物2の蔵置位置に対してX軸方向でのずれが無く、X軸方向での位置合わせが完了した状態になる。また、Z方向視での向きにずれが無く、Z方向視での位置合わせが完了した状態になる。
【0017】
図2の地図データ20の一例では、(・・・、・・・)が停止座標データ(X座標、Y座標)を示しており、一箇所の停止箇所の停止姿勢データが、P点、Q点、および、R点の各々の停止座標データで構成されている。P点、Q点、および、R点の各々のX座標は、蔵置レーン3のベイのX軸方向の中心位置を示している。P点は、一台の荷役機器1が走行する走行路面5のなかの一方の走行路面5に設定されている。R点は、他方の走行路面5に設定されている。つまり、P点とR点とは、停止箇所での荷役機器1のY軸方向の両端部に対応した地点を示している。Q点は、P点とR点との中点を示している。
【0018】
荷役機器1の荷役作業では、荷役機器1の走行によるY軸方向の位置合わせは必須ではない。そのため、停止座標データは、Y座標を有することが必須ではない。ただし、停止座標データが、Y座標を有することで、一つの蔵置レーン3において、各P点を結んだP線、各Q点を結んだQ線、各R点を結んだR線を、目標線(図中の点線で囲われた平面座標の集合)として用いることが可能となる。この目標線に沿って荷役機器1の走行を制御することで、荷役機器1の走行の直進性の向上には有利になる。
【0019】
図3は、荷役機器1が、地図データ20に従って指定番号A1から指定番号Anまで走行している状態を示している。図3の塗り潰した点は、地図データ20の各P点、各Q点、各R点を示している。図3の白抜きした点は、荷役機器1の所定箇所のp点、q点、r点を示しており、p点、q点、r点の各々は、地図データ20の各P点、各Q点、各R点の各々に対応している。
【0020】
図3に例示する制御システム10の実施形態は、座標取得装置11、距離計12、演算装置13を備えている。座標取得装置11は、電波式測位装置14(14p、14r)と内界センサ15(15r、15p)と座標演算装置16とを有している。距離計12は、外界センサ17(17p、17r、17y)と距離演算装置18とを有している。
【0021】
制御システム10は、座標取得装置11、距離計12、および、演算装置13の全てが、荷役機器1に設置されているものに限定されるものではない。制御システム10は、座標取得装置11および距離計12が荷役機器1に設置されていて、演算装置13が荷役機器1から離間した場所に設置されていてもよい。同様に、座標取得装置11および距離計12も、電波式測位装置14、内界センサ15、および、外界センサ17が荷役機器1に設置されていて、座標演算装置16および距離演算装置18が荷役機器1から離間した場所に設置されていてもよい。また、演算装置13、座標演算装置16、および、距離演算装置18は、各々が別体の装置であるが、各々の機能を統合した一つの装置で構成されていてもよい。
【0022】
制御システム10は、地図データ20に示されている多数の停止座標データと荷役機器1の所定箇所の自己座標データ21とに基づいて、荷役機器1の走行輪4の回転数を調節する走行制御処理を実行する。制御システム10は、その走行制御処理に用いる自己座標データ21を出力するデータ処理を実行する。
【0023】
図4に例示する自己座標データ21は、荷役機器1の現在の姿勢を示している。荷役機器1の現在の姿勢は、荷役機器1の所定箇所のX座標とZ方向視での荷役機器1の現在の姿勢角θ(X軸に対する傾き)で表すことができる。図4の一例では、自己座標データ21が、地図データ20のP点、R点の各々に対応したp点、r点のX座標で構成されている。なお、q点のX座標は、q点がp点、r点の中点であることから、p点、r点のX座標から算出可能である。また、姿勢角θも同様に、p点、r点のX座標から算出可能である。
【0024】
自己座標データ21は、座標取得装置11が取得した位置座標に基づいた第一座標姿勢データと、距離計12が取得した残距離に基づいた第二座標データと、第一座標データおよび第二座標データの両方のデータに基づいた第三座標データと、のいずれかの座標データで構成される。自己座標データ21は、各点のY座標が必須ではないが、Y座標を有していてもよい。
【0025】
図3に例示する座標取得装置11は、荷役機器1の所定箇所としてp点、r点の位置座標を取得する装置であり、電波式測位装置14、内界センサ15、および、座標演算装置16を有している。座標取得装置11は、公知の種々の電波式測位装置と公知の種々の内界センサを用いる慣性航法装置(自律航法装置)との組み合わせを用いることができる。内界センサ15および座標演算装置16の組み合わせが慣性航法装置を構成しており、この慣性航法装置は、所定周期ごとの荷役機器1の走行距離を取得する走行距離計であればよい。つまり、座標取得装置11の一例は、電波式測位装置14と走行距離計(15、16)の組み合わせで構成されている。なお、走行距離計が、内界センサ15と座標演算装置16ではない別の演算装置との組み合わせで構成されていてもよい。
【0026】
電波式測位装置14は、所定周期で電波送受信機6と電波を送受信することにより自己位置座標を取得している。電波式測位装置14としては、全球測位衛星システム(GNSS)の電波を送受信するアンテナが例示される。電波式測位装置14としては、ビーコン測位、超広帯域無線(UWB)測位、IEEE802.11規格の無線LAN測位などの屋内測位システム(IPS)を利用する装置を用いることもできる。ただし、それらの屋内測位を利用する装置では、電波送受信機6との電波を送受信可能な範囲が狭く、電波送受信機6の設置数が多くなる。そこで、電波式測位装置14は、全地球航法衛星システムのアンテナで構成されることが望ましい。電波送受信機6は、少なくとも一つ、存在していればよく、全球測位衛星システムでは、GPS、QZSS、GLONASS、BeiDou、Galileo、IRNSSなどの測位衛星が例示される。
【0027】
電波式測位装置14pは、荷役機器1のY軸方向の一端部に配置されており、電波式測位装置14rは、荷役機器1のY軸方向の他端部に配置されている。電波式測位装置14pは、自己位置座標(xgp、ygp)を取得している。電波式測位装置14rは、自己位置座標(xgr、ygr)を取得している。電波式測位装置14は、自己位置座標として、経度、緯度、および、高度から成る空間座標を、あるいは、経度および緯度から成る平面座標を取得可能な構成であればよい。電波式測位装置14は、荷役機器1に設置されていればその設置場所は特に限定されるものではないが、電波送受信機6との電波の送受信が良好になることから、荷役機器1の上部に設置されることが望ましい。荷役機器1がクレーンの場合に、電波式測位装置14は、クレーンの構造体(例えば、ガーダや脚部)の上部に設置されることが望ましい。
【0028】
電波式測位装置14p、14rの各々の荷役機器1での設置位置は、p点、r点の各々を基準とすることが望ましい。より具体的に、電波式測位装置14p、14rの各々が取得する自己位置座標のX座標が、荷役機器1の姿勢角θが「ゼロ°」の場合に略一致することが望ましい。電波式測位装置14pは、取得する自己位置座標のY座標が、荷役機器1の姿勢角θが「ゼロ°」の場合に荷役機器1のp点のY座標に略一致することが望ましい。同様に、電波式測位装置14rは、取得する自己位置座標のY座標が、荷役機器1の姿勢角θが「ゼロ°」の場合に荷役機器1のr点のY座標に略一致することが望ましい。
【0029】
走行距離計(15、16)は、所定周期で内界センサ15により荷役機器1の状態を測定して、座標演算装置16により内界センサ15が測定した荷役機器1の状態から所定周期ごとの走行距離を算出している。内界センサ15は、荷役機器1の状態を測定するセンサであればよく、ロータリエンコーダ、慣性計測装置(IMU:ジャイロセンサおよび加速度センサの組み合わせ)、姿勢方位基準装置(AHRS:IMUおよび地磁気センサの組み合わせ)などの公知の種々の内界センサを用いることができる。また、内界センサ15としては、荷役機器1の走行輪4への回転動力を出力する電動モータの回転数を調節するインバータの電流や電圧を検知するセンサを用いることもできる。ただし、IMUなどのセンサでは、荷役機器1がクレーンの場合にそのセンサがクレーンの振動の影響により荷役機器1の状態を検出できないおそれがある。また、クレーンの走行速度および走行方向は、走行輪4の回転数で制御されている。それ故、荷役機器1がクレーンで構成されている場合の内界センサ15は、走行輪の回転数、車軸の回転数、駆動源である電動モータの回転数のいずれかの回転数を検知するセンサであることが望ましい。
【0030】
座標演算装置16は、公知の種々のコンピュータを用いることができる。座標演算装置16は、中央演算処理部(CPU)、主記憶部(メモリ)、補助記憶部(例えば、HDD)、入出力部を有している。座標演算装置16は、補助記憶部に記憶された所定のプログラムが起動し、起動したその所定のプログラムにより指示された各手順を実行する。具体的に、座標演算装置16は、内界センサ15が測定した荷役機器1の状態から所定周期ごとの走行距離を算出するデータ処理と、算出した走行距離を用いて第一座標データを算出するデータ処理とを実行し、算出した第一座標データを演算装置13に出力する。
【0031】
距離計12は、所定周期で停止箇所までの残距離を測定する磁気誘導式距離センサ、光学式や磁気式のリニアエンコーダ、リニアポジションセンサなどの公知の種々の距離計を用いることができる。距離計12の外界センサ17は、荷役機器1の走行に伴って変化する周囲環境の状態を検出するセンサである。外界センサ17は、停止箇所ごとに配置されたリニアスケールやターゲットなどの測定対象物7(7p、7r、7y)を測定対象としている。
【0032】
距離演算装置18は、公知の種々のコンピュータを用いることができる。距離演算装置18は、中央演算処理部(CPU)、主記憶部(メモリ)、補助記憶部(例えば、HDD)、入出力部を有している。距離演算装置18は、その記憶部に距離データ22が記憶されている。距離演算装置18は、外界センサ17の測定対象物7の検知状況に基づいて算出した残距離を演算装置13に出力するデータ処理を実行する。また、距離演算装置18は、算出した残距離がゼロになったタイミングで所定の信号S1を座標演算装置16に出力するデータ処理を実行する。
【0033】
演算装置13は、公知の種々のコンピュータを用いることができる。演算装置13は、中央演算処理部(CPU)、主記憶部(メモリ)、補助記憶部(例えば、HDD)、入出力部を有している。演算装置13は、入出力部を介して座標取得装置11および距離計12に電気的に接続されている。また、演算装置13は、入出力部を介してインバータに電気的に接続されている。補助記憶部には、地図データ20が記憶されている。
【0034】
演算装置13は、補助記憶部に記憶された所定のプログラムが起動し、起動したその所定のプログラムにより各手順を実行して、荷役機器1の走行を制御している。具体的に、制御システム10よりも上位の図示しない上位システムにより指定番号が指定されると、制御システム10は、上位システムから指定された指定番号が示す停止箇所を目標停止箇所として、その目標停止箇所まで荷役機器1を走行させている。
【0035】
次に、距離計12について詳述する。
【0036】
図5は、停止箇所に設置された複数の測定対象物7(7p、7r、7y)と距離計12の複数の外界センサ17(17p、17r、17y)とを拡大した一例を示している。距離計12は、停止箇所ごとに設置された測定対象物7を外界センサ17により検知し、距離演算装置18が外界センサ17の測定対象物7の検知状況に基づいて、停止箇所までの残距離を算出するデータ処理を実行している。
【0037】
複数の測定対象物7は、多数の停止箇所ごとに配置されている。複数の測定対象物7は、外界センサ17により検知可能なものであれば特に限定されるものではない。本実施形態の距離計12は、外界センサ17としてリニアポジションセンサを用いており、測定対象物7が磁気を帯びた強磁性体で構成されている。測定対象物7pは、停止箇所のP点のX座標を示している。測定対象物7rは、停止箇所のR点のX座標を示している。測定対象物7yは、P点、Q点、R点のY座標、あるいは、P線、Q線、R線のいずれかの目標線のY座標を示している。
【0038】
測定対象物7p、7rの各々は、Y軸方向に延在しており、Z方向視の中心に停止箇所のP点、Q点が位置するように配置されている。測定対象物7p、7rがY軸方向に延在することにより、荷役機器1の走行がY軸方向にずれた場合でもX軸方向の残距離が測定可能になっている。測定対象物7yは、X軸方向に延在しており、P線などの目標線に平行な線上に配置されている。測定対象物7yがX軸方向に延在することにより、荷役機器1の走行がX軸方向にずれた場合でもY軸方向の残距離を測定可能になっている。測定対象物7yは、特に配置位置が限定されるものではないが、蔵置レーン3の両側方の走行路面5のなかの一つに配置されていればよい。本実施形態では、測定対象物7p、7yが一方の走行路面5に配置され、測定対象物7rが他方の走行路面5に配置されている。
【0039】
外界センサ17の各々は、複数の検知素子19で構成されている。外界センサ17p、17rの各々は、複数の検知素子19がX軸方向に等間隔に配置されている。外界センサ17p、17rは、複数の検知素子19の一つに、Z方向視で荷役機器1のp点、q点が位置している。それらの複数の検知素子19は、外界センサ17p、17rのX軸方向の一端(例えば、図中の左端)に配置された検知素子19から他端(図中の右端)に配置された検知素子19に向かって順に数が大きくなる素子番号(例えば、No.1~No.20)が付与されている。外界センサ17yは、複数の検知素子19がY軸方向に等間隔に配置されている。それらの複数の検知素子19は、外界センサ17yのY軸方向の一端(例えば、図中の上端)に配置された検知素子19から他端(図中の下端)に配置された検知素子19に向かって順に数が大きくなる素子番号(例えば、No.1~No.20)が付与されている。
【0040】
図6に例示する距離データ22は、距離演算装置18の記憶部に記憶されている。距離データ22は、外界センサ17ごとに作成されている。距離データ22は、外界センサ17の各々の複数の検知素子19に付与された素子番号と、原点位置(p点、r点)となる検知素子19からの距離と、が集積している。図6の一例では、外界センサ17が有する検知素子19を二十個とし、隣接する検知素子19どうしの間の距離を100mmとし、原点位置を素子番号No.10の検知素子19とした。なお、距離演算装置18は、距離データ22の代わりに、複数の検知素子19に付与された素子番号と、隣接する検知素子19どうしの間の距離とを用いた数式を記憶部に記憶していてもよい。
【0041】
図7に距離計12の測定方法の一例を示す。この測定方法は、外界センサ17ごとに個別に行われている。以下では、測定方法の一例として、外界センサ17pを用いている。この測定方法では、外界センサ17pの測定対象物7pを検出状況に基づいて、距離演算装置18により、各データ処理が実行される(S110~S170)。最終的に、距離演算装置18により、荷役機器1のp点から停止箇所のP点までの残距離ΔXpが算出されるとスタートへ戻る。この測定方法は、所定の周期ごとに繰り返し行われて、所定の周期ごとに残距離が算出される。以下に、(S110)~(S170)の各ステップを詳述する。
【0042】
センサが検知したか否かを判定するステップ(S110)では、距離演算装置18により、外界センサ17pの複数の検知素子19のいずれかが測定対象物7pを検知した場合にセンサが検知したと判定し、複数の検知素子19のいずれもが測定対象物7pを検知していない場合にセンサが検知していないと判定するデータ処理が実行される。外界センサ17pは、測定対象物7pの直上に位置すると、複数の検知素子19のなかの付与された素子番号が連続した所定数の検知素子19が測定対象物7を検知する。また、外界センサ17pは、測定対象物7pの直上から外れると、複数の検知素子19のいずれもが測定対象物7pを検知しない。外界センサ17pが測定対象物7pの直上に位置した場合にその測定対象物7pを検知する検知素子19の所定数は、測定対象物7pの磁界の強さと隣接する検知素子19どうしの間の距離とに基づいて、任意に設定可能である。その所定数は、固定値であることが望ましく、三つ以上、五つ以下が望ましい。
【0043】
フラグAをオンにするステップ(S120)とフラグAをオフにするステップ(S130)では、距離演算装置18により後述する制御方法で用いるフラグAを、ステップ(S110)の判定結果に基づいて立てたり、降ろしたりするデータ処理が実行される。具体的に、センサが検知したと判定される(S110:YES)とフラグAが立てられ(flagA:ON)、センサが検知していないと判定される(S110:NO)とフラグAが降ろされる(flagA:OFF)。
【0044】
位置関係を特定するステップ(S140)では、距離演算装置18により外界センサ17pの測定対象物7pの検知状況に基づいて、外界センサ17pと測定対象物7pとの位置関係を特定するデータ処理が実行される。具体的に、距離演算装置18は、測定対象物7pを検知した検知素子19の所定数と、所定数の検知素子198の各々に付与されている素子番号とに基づいて、外界センサ17pと測定対象物7pとの位置関係を特定している。距離演算装置18は、測定対象物7pを検知した検知素子19の所定数が奇数の場合に、その所定数の検知素子19のなかの中間の素子番号が付与されている検知素子19の直下に測定対象物7pが存在すると見做している。また、距離演算装置18は、その所定数が偶数の場合に、素子番号が最大値の検知素子19と素子番号が最小値の検知素子19との中間位置の直下に測定対象物7pが存在すると見做している。
【0045】
残距離を算出するステップ(S150)では、距離演算装置18により距離データ22と特定した外界センサ17pおよび測定対象物7pとの位置関係とに基づいて、p点を示す検知素子19から停止箇所のP点までの残距離ΔXpを算出するデータ処理が実行される。測定対象物7pを検知した検知素子19の所定数が奇数の場合には、測定対象物7pの直上に位置する検知素子19に付与された素子番号から残距離ΔXpが算出される。測定対象物7pを検知した検知素子19の所定数が偶数の場合には、測定対象物7pの直上の位置の両側に隣接する検知素子19に付与された素子番号から得られる二つの距離の中央値として残距離ΔXpが算出される。
【0046】
残距離ΔXpがゼロか否かを判定するステップ(S160)と信号を出力するステップ(S170)では、距離演算装置18により算出した残距離ΔXpがゼロか否かを判定するデータ処理が実行され、残距離ΔXpがゼロであると判定されると、信号S1を座標取得装置11に送信するデータ処理が実行される。この送信された信号S1は、後述する座標取得装置11での第一座標データの取得に使用される。(S160)のステップは省略することもできる。この場合に、(S170)のステップでは、距離演算装置18により外界センサ17pが測定対象物7pを検知した場合に(flagA:ON)、信号S1を座標取得装置11に送信するデータ処理が実行される。
【0047】
以上の(S110)~(S170)の各ステップは、荷役機器1が目標停止箇所に到着する際には必ず行われるが、荷役機器1が出発箇所から目標停止箇所に到着するまでの間の全ての停止箇所で行われない可能性もある。荷役機器1の走行制御処理では、目標停止箇所に到着するまで、荷役機器1が蔵置レーン3や他の荷役機器などに接触しない範囲で目標線からY軸方向にずれて走行させる場合もある。この場合に、荷役機器1が停止箇所を通過しても外界センサ17pが通過した停止箇所の測定対象物7pを検知できない状況が生じ得る。また、荷役機器1の走行速度が速く、外界センサ17pが測定対象物7pを検知しても、残距離ΔXpがゼロになったタイミングを検知できない状況も生じ得る。
【0048】
図5の一例では、測定対象物7を検知した検知素子19の所定数が固定値の「三」に設定されている。外界センサ17pにおいて、素子番号:No.3の検知素子19の直下に測定対象物7pが存在しており、測定される残距離ΔXpは、+700mmになる。外界センサ17rにおいて、素子番号:No.1の検知素子19の直下に測定対象物7rが存在しており、測定される残距離ΔXrは、+900mmになる。外界センサ17yにおいて、素子番号:No.8の検知素子19の直下に測定対象物7yが存在しており、測定される残距離ΔYは、+200mmになる。
【0049】
次に、座標取得装置11について詳述する。座標取得装置11は、走行距離計(15、16)と外界センサ17とを用いて、p点、r点の位置座標である第一座標データを取得している。より具体的に、座標取得装置11は、走行距離計(15p、16)と外界センサ17pとを用いて、荷役機器1のp点の第一座標データを取得し、走行距離計(15r、16)と外界センサ17rとを用いて、r点の第一座標データを取得している。
【0050】
第一座標データの取得方法は、p点、r点の各々で同様であるため、以下ではp点の第一座標データの取得方法を例に説明する。この取得方法は、座標演算装置16により、測定開始箇所からの累計走行距離Lpとその測定開始箇所の座標データとに基づいてp点の第一座標データを推定する推定処理が逐次、実行される。また、座標演算装置16により、外界センサ17pが測定対象物7pを検知し信号S1を受信すると、累計走行距離Lpをゼロに更新し、測定開始箇所の座標データを地図データ20に基づいて更新する更新処理が実行される。
【0051】
累計走行距離Lpは、測定開始箇所からゼロに更新されるまで、所定周期ごとに測定された走行距離ΔLpを累計した距離である。走行距離ΔLpは、内界センサ15pが測定した荷役機器1の走行輪4の回転数と座標演算装置16の記憶部に予め記憶されている走行輪4の外径とに基づいて、座標演算装置16により算出される。つまり、累計走行距離Lpは、内界センサ15pの測定周期ごとに累計されて延びることになる。
【0052】
測定開始箇所は、累計走行距離Lpの累計が開始される箇所である。測定開始箇所は、多数の停止箇所のなかの一つの停止箇所のP点を示している。つまり、測定開始箇所は、外界センサ17pが測定対象物7pを検知した箇所であり、より具体的に、距離計12により測定されたp点からP点までの残距離ΔXpがゼロの箇所である。
【0053】
図8に例示するブロック図は、荷役機器1の制御方法の一例を示している。荷役機器1の制御方法は、荷役機器1の走行制御処理に用いる第一座標データ(自己座標データ)を算出するデータ処理を含み、図8のブロック図はそのデータ処理の一例を示している。座標演算装置16は、累計部23、選択部24、ルックアップテーブル25、設定部26、および、加算部27を有している。ブロック図に示す各部位は、プログラムとして座標演算装置16の記憶部に記憶されているが、各部位が電子回路で構成されていてもよい。
【0054】
累計部23は、走行距離計(15p、16)が測定した走行距離ΔLpと、距離計12から送信された信号S1が入力される。累計部23は、入力された走行距離ΔLpを逐次、累計し、累計した累計走行距離Lpを出力する。累計部23は、信号S1が入力されると、累計していた累計走行距離Lpをゼロに更新する。つまり、累計部23は、信号S1が入力されたタイミングから、次に信号S1が入力されるタイミングになるまでの、累計走行距離Lpを出力する。この累計部23によるデータ処理が本発明の推定処理の一部のデータ処理に相当する。また、この累計部23によるデータ処理が本発明の更新処理の一部のデータ処理に相当する。
【0055】
選択部24は、電波式測位装置14pが測定した自己位置座標のX座標(xgp)、電波式測位装置14pの電波の送受信の感度、および、このブロック図に示す一連のデータ処理により出力されるp点の第一座標データ(xcp)が入力される。選択部24は、入力された感度が基準よりも高い場合に(感度が良好な場合に)、自己位置座標(xgp)を出力し、それ以外の場合に、p点の第一座標データ(xcp)を出力する。
【0056】
選択部24は、電波式測位装置14pが測定した自己位置座標の代わりに、電波式測位装置14pが測定した自己位置座標と電波式測位装置14rが測定した自己位置座標(xgr)とに基づいて算出したp点の測位座標データを用いてもよい。p点の測位座標データは、座標演算装置16により、測位装置14pが取得した自己位置座標(xgp、ygp)および測位装置14rが取得した自己位置座標(xgr、ygr)に基づいて算出可能である。
【0057】
感度は、自己位置座標の精度の高低の指標であり、電波式測位装置14pと電波送受信機6との間の送受信した電波の品質に及ぼす度合いや受信可能な電波の強弱に及ぼす度合いを示している。感度としては、精度低下率、信号強度、測位使用衛星数などを用いることもでき、それらを総合的に定量化した値を用いてもよい。感度が高い状態で取得された自己位置座標では精度が高いが、感度が低い状態で取得された自己位置座標では精度が低く、信頼性を欠くことになる。感度の基準のレベルは任意に設定することができ、倉庫施設での恒常的な電波状況、倉庫施設の特定の箇所での電波状況などを考慮するとよい。図中では、感度が基準よりも高い状態を良好と称している。
【0058】
ルックアップテーブル25は、選択部24から出力された座標データと信号S1とが入力される。ルックアップテーブル25は、照合するデータとして地図データ20を有している。ルックアップテーブル25は、信号S1が入力されたタイミングで、入力された座標データ(自己位置座標または第一座標データ)と地図データ20とを比較して、入力された座標データに近似する停止座標データが特定される。信号S1が入力されたタイミングで特定された停止座標データは、そのタイミングで、荷役機器1のp点の直下に存在する停止箇所のP点の停止座標データを示している。
【0059】
設定部26は、ルックアップテーブル25から出力された停止座標データと信号S1と、が入力される。設定部26は、信号S1が入力されたタイミングで、そのタイミングの前までに設定されていた測定開始箇所の座標データをリセットして、その座標データをルックアップテーブル25から出力された停止座標データに更新する。この設定部26によるデータ処理が本発明の更新処理の一部のデータ処理に相当する。
【0060】
加算部27は、累計部23から出力された累計走行距離Lpと、設定部26から出力された測定開始箇所の座標データと、が入力される。加算部27は、累計走行距離Lpと測定開始箇所の座標データとを加算した値を、p点の第一座標データ(xcp)として出力する。この加算部27によるデータ処理が本発明の推定処理の一部のデータ処理に相当する。
【0061】
同様に、r点の第一座標データ(xcr)も出力される。この推定方法により得られたp点、r点の第一座標データが演算装置13に入力される。演算装置13は、後述するデータ処理を経て、その第一座標データを自己座標データとして用いて荷役機器1の走行制御処理を実行する。
【0062】
以上のように、本実施形態によれば、累計走行距離と測定開始箇所の座標データは、外界センサ17が測定対象物7を検知するごとにリセットされて、その測定開始箇所の座標データとして予め作成されている精度の高い地図データ20に集積されている停止座標データが用いられる。それ故、その累計走行距離は、累計誤差が小さく、測定精度が高くなっている。つまり、本実施形態の制御システム10は、走行距離計(15、16)を利用した非常に簡便な第一座標データ(自己座標データ)の推定手法を用いることで、計算資源を低減することが可能な構成でありながら、第一座標データ(自己座標データ)を高精度に推定することができる。
【0063】
走行距離計(15、16)による測定により得られる累計走行距離は、荷役機器1の走行輪4の外径が実際の値に近いほど精度が高くなる。しかし、荷役機器1は、荷役物2を搭載することにより重量が変化し、その重量の変化により走行輪4の外径が変化する。また、走行輪4の外径は、経年劣化により変化する。このような走行輪の外径の変化が、累計走行距離の累積誤差が大きくなる要因となっている。
【0064】
これに関して、本実施形態によれば、距離計12が測定した残距離ΔXpがゼロになったタイミングを、荷役機器1のp点の直下に停止箇所のP点が位置したタイミングとして、測定開始箇所の座標データを更新している。つまり、制御システム10は、p点の直下に停止箇所のP点が位置するごとに、そのP点の停止座標データを次の累計走行距離の測定開始箇所の座標データとして用いることで、累計走行距離の累積誤差の影響を小さくすることができる。
【0065】
測定開始箇所の座標データの特定には、電波式測位装置14が取得した自己位置座標を用いずに、累計走行距離に基づいて推定した第一座標データのみを用いる構成にすることもできる。ただし、累計走行距離には累積誤差が含まれており、累計走行距離に基づいて推定した第一座標データの精度よりも電波式測位装置14が取得した自己位置座標の精度が高い場合がある。そこで、測定開始箇所の座標データの特定には、累計走行距離に基づいて推定した第一座標データと、電波式測位装置14が取得した自己位置座標との両方を用いていることで、より正確に測定開始箇所の座標データを特定することができる。また、電波式測位装置14の電波の送受信の感度が基準よりも低く、取得した自己位置座標の精度の信頼性が確保できない場合は、累計走行距離に基づいて推定した第一座標データを用いるため、電波状況が悪い場合でも測定開始箇所の座標データを特定することが可能になっている。なお、座標取得装置11は、電波式測位装置14は必須ではなく、電波状況が恒常的に悪い場合に、電波式測位装置14を備えずに、走行距離計(15、16)のみで構成することもできる。
【0066】
また、測定開始箇所の座標データを更新するトリガとして、距離計12が測定した残距離がゼロになったタイミングを用いている。このトリガとして、電波式測位装置14の電波の送受信の感度が基準よりも高い場合に、電波式測位装置14が取得した自己位置座標に基づいた測位座標データが停止座標データに一致したタイミングを用いることもできる。荷役機器1の走行状態によっては、距離計12が測定した残距離がゼロになったタイミングを検知できない場合がある。例えば、荷役機器1がY軸方向にずれて走行していて、荷役機器1が停止箇所を通過しても外界センサ17が通過した停止箇所の測定対象物7を検知できない場合が例示される。また、荷役機器1の走行速度が速く、外界センサ17が測定対象物7を検知しても、残距離がゼロになったタイミングを検知できない場合も例示される。このような場合に、距離計12が測定した残距離がゼロになったタイミングの代わりに、測位座標データが停止座標データに一致したタイミングを測定開始箇所の座標データを更新するトリガとして用いるとよい。これにより、測定開始箇所の座標データの更新頻度が多くなり、累計走行距離が短くなることで、自己座標データの精度をより高めることができる。
【0067】
走行距離計(15、16)が測定する走行距離は、内界センサ15が測定した走行輪4の回転数とその走行輪4の外径とに基づいて算出される。よって、走行輪4の外径の精度が高いほど、走行距離の精度も高くなり、第一座標データの推定精度も高くなる。そこで、座標演算装置16は、更新処理を実行した後も、その更新処理で更新された測定開始箇所の座標データよりも前の測定開始箇所の座標データとゼロに更新される前の累計走行距離とを記憶部に記憶しておくとよい。そして、座標演算訴追16は、更新された測定開始箇所の座標データと更新される前の測定開始箇所の座標データと更新される前の累計走行距離とに基づいて、予め記憶されていた走行輪4の外径を更新するデータ処理を実行することが望ましい。具体的に、座標演算装置16は、走行距離の算出に用いる走行輪4の外径を、更新された測定開始箇所の座標データと更新される前の測定開始箇所の座標データとの差分を更新される前の累計走行距離で除算した値を記憶されている走行輪4の外径に乗算した値に更新するデータ処理を実行することが望ましい。
【0068】
更新された測定開始箇所の座標データと更新される前の測定開始箇所の座標データとの差分(座標データどうしの間の距離)は、地図データ20における二箇所の停止座標データの差分になっている。つまり、その差分が、実際に荷役機器1が走行した距離を示しており、その差分と更新される前の累計走行距離との差は、その累計走行距離に含まれる累積誤差を示している。累積誤差の主な要因は、走行輪4の外径の変化である。よって、走行輪4の外径を更新することで、第一座標データの推定精度の向上には有利になる。
【0069】
なお、累計走行距離の累積誤差の要因が、荷役機器1への荷役物2の搭載による荷役機器1の総重量の変化に伴った走行輪4の外径の変化であることが特定可能な場合は、荷役機器1の荷役作業の前後で走行輪4の外径を更新するとよい。例えば、荷役機器1への荷役物2の搭載時は、前述したデータ処理により予め記憶していた走行輪4の外径を更新し、搭載していた荷役物2が荷役された時に、予め記憶していた走行輪4の外径に戻すとよい。また、荷役機器1の総重量の変化に伴った走行輪4の外径の変化以外で、走行輪4の外径の更新の頻度が多い場合は、走行輪4が経年劣化していると判断できる。その場合に、走行輪4の点検や交換を促すことが可能となる。
【0070】
図9図11に荷役機器1の走行制御工程の一例を示す。図10および図11に例示する一連のフローは図9の(S210)および(S220)に示すサブルーチンの詳細なフローである。荷役機器1の走行制御工程は、走行制御工程で用いる自己座標データ21の推定方法を含む。所定周期は、図9のリターンによりスタートに戻るごとに次の周期に移る。なお、図6に例示する距離計12の測定方法は、この制御方法と並列して行われているものとする。また、図8に例示する第一座標データの取得方法は、図10の(S310)のステップで行われているものとする。
【0071】
まず、演算装置13によりp点とr点の各々のX座標が算出されて、自己座標データ21が作成される(S210、S220)。ついで、演算装置13により、自己座標データ21に基づいて、q点のX座標と姿勢角θとが算出されて(S230)、算出したq点のX座標と姿勢角θと地図データ20とに基づいて、走行制御工程を行う(S240)。最終的に、目標停止箇所の停止座標データに合わせて荷役機器1が停止すると終了する。
【0072】
p点のX座標の算出(r点のX座標の算出も同様)では、まず、座標演算装置16により、第一座標データ(xcp)が算出される(S310)。ついで、演算装置13により、各ステップ(S320~S350、S410~S450)が行われる。最終的に、距離計12が測定可能になるまでは(S410:NOまたはS4320:NO)、演算装置13によりp点のX座標としてとして第一座標データ(xcp)が出力される(S460)。また、距離計12が測定可能になってから所定時間Taが経過するまでは(S440:NO)、演算装置13によりp点のX座標として第三座標データ(xcmp)が出力される(S470)。また、所定時間Taが経過した以後は(S440:YES)、演算装置13によりp点のX座標として第二座標データ(xmp)が出力される(S480)。以下に、(S210)~(S240)、(S310)~(S350)、(S410)~(S480)の各ステップの内容を詳述する。
【0073】
p点のX座標を算出するステップ(S210)とr点のX座標を算出するステップ(S220)では、演算装置13によりp点、r点の各々のX座標を算出するデータ処理が実行される。これらの両ステップにより、自己座標データ21が作成されて、演算装置13の記憶部に記憶される。
【0074】
q点のX座標と姿勢角θとを算出するステップ(S230)では、演算装置13により、自己座標データ21のp点、q点の中点としてq点のX座標を算出するデータ処理が実行される。また、演算装置13により、p点、r点の各々のX座標とp点およびr点を結ぶ線分の長さBcとに基づいて、荷役機器1の姿勢角θを算出するデータ処理が実行される。姿勢角θは、p点およびr点を結ぶ線分の法線のX軸に対する傾きを示している。p点およびr点を結ぶ線分の長さBcは、予め把握されている荷役機器1の形状パラメータであり、荷役機器1の設計、製造の段階で把握可能な数値である。長さBcとしては、電波式測位装置14p、14rの間の長さ、あるいは、外界センサ17p、17rの間の長さが例示される。姿勢角θは、p点およびr点の各々のX座標の差分をp点およびr点を結ぶ線分の長さBcで除算した値の余接(tan-1)として算出される。
【0075】
走行制御工程(S240)では、演算装置13により、q点のX座標および地図データ20の目標停止箇所のQ点のX座標の偏差と、算出した姿勢角θとに基づいて、荷役機器1の走行を制御する走行制御処理が実行される。走行制御処理では、荷役機器1の走行速度の調節と走行方向の調節とが行われる。走行速度の調節は、X座標の偏差に基づいて、目標停止箇所の近傍で荷役機器1の減速度の調節が行われ、それ以外で定加速度、定速度、定減速度の切り替えが行われる。走行方向の調節は、姿勢角θに基づいて、荷役機器1のY軸方向の両端部の走行速度の差の調節が行われる。
【0076】
p点の第一座標データを算出するステップ(S310)では、座標演算装置16により、図8に例示したデータ処理が実行される。具体的に、座標演算装置16は、走行距離計(15p、16)と外界センサ17pとを用いて、荷役機器1のp点の第一座標データ(xcp)を算出する。
【0077】
偏差Δxpを算出するステップ(S320)では、演算装置13により、算出された第一座標データ(xcp)と地図データ20の目標停止箇所のP点のX座標(xP)とのX軸方向の偏差Δxpを算出するデータ処理が実行される。偏差Δxpは、荷役機器1のp点から目標停止箇所のP点までの大凡の距離を示している。
【0078】
偏差Δxpが所定距離ΔL以下になったか否かを判定するステップ(S330)では、演算装置13により、算出した偏差Δxpと予め設定されている所定距離ΔLとを比較して、距離計12が測定可能になったか否かを判定するデータ処理が実行される。偏差Δxpは、荷役機器1のp点から目標停止箇所のP点までの大凡の距離を示していることから荷役機器1のp点が目標停止箇所のP点の近傍に近接したか否かを判断する指標となっている。つまり、偏差Δxpは、距離計12が残距離を測定可能になったことを示す指標となっている。
【0079】
所定距離ΔLは、距離計12が目標停止箇所のP点までの残距離ΔXpを測定可能になったことを示す基準として設定されている。指標である偏差Δxpが基準である所定距離ΔLよりも長い場合に距離計12が残距離ΔXpを測定可能になっていないことを示し、偏差Δxpが所定距離ΔL以下の場合に距離計12が残距離ΔXpを測定可能になったことを示す。所定距離ΔLは、外界センサ17pのX軸方向の長さや測定対象物7pの磁界の強さに応じて適宜設定可能である。所定距離ΔLの下限は、外界センサ17pが測定対象物7pを検知可能な距離であればよい。また、所定距離ΔLの上限は、荷役機器1の走行方向で隣り合う停止箇所どうしの間の最短距離よりも短く、その最短距離の半分の距離よりも短い距離であることが望ましく、50mm~500mmの範囲内の距離であることがより望ましい。
【0080】
フラグBをオンにするステップ(S340)とフラグBをオフにするステップ(S350)では、演算装置13によりフラグBを、ステップ(S330)の判定結果に基づいて立てたり、降ろしたりするデータ処理が実行される。具体的に、偏差Δxpと所定距離ΔLとの比較により、距離計12が残距離ΔXpを測定可能になったと判定される(S330:YES)とフラグBが立てられ(flagB:ON)、距離計12が測定可能になっていないと判定される(S330:NO)とフラグBが降ろされる(flagB:OFF)。
【0081】
フラグA、Bがオンになったか否かを判定するステップ(S410、S420)では、演算装置13により、各フラグのオン、オフを判定するデータ処理が実行される。荷役機器1は、目標停止箇所に到着するまでの間に複数の停止箇所を通過する場合がある。この場合に、外界センサ17pは、目標停止箇所に到着するまでの間の停止箇所に設置された測定対象物7pを検知することになる。つまり、距離計12が測定した残距離ΔXpのみでは、測定したその残距離ΔXpが目標停止箇所までの残距離であるかを判定することができない。そこで、偏差Δxpと所定距離ΔLとの比較により立てられたフラグBを判定することで、距離計12が測定可能な状態になったことが判定可能になっている。一方で、ステップ(S330)では、指標として偏差Δxpを用いたが、フラグBがオンになった状態でも、実際に外界センサ17pが測定対象物7pを検知可能になっていない場合もある。そこで、実際に外界センサ17pが測定対象物7pを検知したことで立てられたフラグAを判定することで、距離計12が確実の目標停止箇所までの残距離ΔXpを測定可能になったことを判定することができる。したがって、フラグの判定では、フラグBの判定を先に行い、その判定後に、フラグAを判定することが望ましい。このように、二つのフラグの判定を順番どおりに行うことで、距離計12が目標停止箇所までの残距離ΔXpを測定可能になったことをより確実に判定することが可能となる。
【0082】
(S120)、(S130)、(S330)~(S350)、(S410)、(S420)の各ステップが、距離計12が目標停止箇所までの残距離を測定可能になったことを特定するデータ処理になっている。このデータ処理は、偏差Δxpの精度が高い場合に、(S330)~(S350)、(S410)の各ステップのみで構成されてもよい。
【0083】
第二座標データを算出するステップ(S430)では、演算装置13により距離計12が測定した残距離ΔXpに基づいて、p点の第二座標データ(xmp)を算出するデータ処理が実行される。具体的に、演算装置13は、残距離ΔXpをp点から目標停止箇所のP点までの相対距離として、目標停止箇所の停止姿座標データを利用して、第二座標データ(xmp)を算出する。第二座標データは、目標停止箇所のP点のX座標(xP)から残距離ΔXpを減算して算出される。
【0084】
経過時間Tが所定時間Taを経過したか否かを判定するステップ(S440)では、演算装置13により、フラグAがオンになってから経過した経過時間Tと予め設定された所定時間Taとを比較し、経過時間Tが所定時間Taを経過したか否かを判定するデータ処理が実行される。経過時間Tは、演算装置13が有するタイマにより測定されてもよく、演算装置13が有するカウンタにより計測された周期数から推定されてもよい。所定時間Taは、フラグAがオンになってから荷役機器1の走行が停止するまでの間の時間よりも短く、所定の周期が複数回繰り返される時間に設定されることが望ましい。所定時間Taは、任意に設定可能である。このステップの経過時間Tは、フラグBがオンになってから経過した時間としてもよい。
【0085】
第三座標データ(xcmp)を算出するステップ(S450)では、経過時間Taが所定時間Taを経過するまで、演算装置13により、第一座標データ(xcp)と第二座標データ(xmp)との両方の座標に基づいて第三座標データ(xcmp)を算出するデータ処理が実行される。フラグA、Bがオンになった直後に、自己座標データ21が、第一座標データから第二座標データに即座に切り替わると、第一座標データと第二座標データとの差分が大きい場合に、走行制御処理での走行速度に急変動が生じるおそれがある。走行速度の急変動は、荷役機器1のピッチング振動やそのピッチング振動による吊具の振れの要因になる。荷役機器1が目標停止箇所にずれなく停止しても、振動や振れが生じている場合に、その振動や振れが収まるまで荷役物2との正確な位置合わせを行うことができず、荷役作業が停滞する。そこで、フラグA、Bがオンになった直後は、第一座標データと第二座標データとの両方の座標に基づいた第三座標データを用いることで、座標データの推移を滑らかにできる。このように、座標データの推移が滑らかになることにより、走行速度の急変動を抑制するには有利になる。
【0086】
第三座標データは、第一座標データと第二座標データとの中央値(平均値)を用いることもできる。第三座標データは、経過時間Taが進むほど第三座標データへの第一座標データの寄与度を低くし、反対に、第二座標データの寄与度を高くすることが望ましい。これにより、第三座標データは、経過時間Taの進行とともに第一座標データに近い値から第二座標データに近い値に滑らかに推移する。寄与度は、経過時間Taの進行に伴う第三座標データの推移に及ぼす貢献の度合いを示す。つまり、第三座標データは、寄与度が高い方の座標データに近い値になり、寄与度が低い方の座標データから遠い値になる。
【0087】
図12の実線は、第一寄与率の一例を示し、一点鎖線は、第二寄与率の一例を示している。第一寄与率は、第一座標データの寄与度の割合を示し、第二寄与率は、第二座標データの寄与度の割合を示している。第一寄与率と第二寄与率との合計は、経過時間Tによらずに「1.0」となっている。第一寄与率は、時間経過Taが進むにつれて「1.0」から「0.0」に徐々に変化し、第二寄与率は、時間経過Taが進むにつれて「0.0」から「1.0」に変化する。第三座標データは、第一座標データに第一寄与率を乗算した値と、第二座標データに第二寄与率を乗算した値と、の平均の値として算出される。このように、経過時間Taの進行に伴って第一座標データの寄与度と第二座標データの寄与度を変化させることにより、第三座標データの推移がより滑らかになる。
【0088】
第一座標データを出力するステップ(S460)、第三座標データを出力するステップ(S470)、第二座標データを出力するステップ(S480)では、演算装置13により、それぞれのデータを出力するデータ処理が実行される。より具体的に、演算装置13は、フラグA、Bが共にオンでない場合に、距離計12が目標停止箇所までの残距離ΔXpを測定可能になっていないと見做して、第一座標データ(xcp)を出力する。また、演算装置13は、フラグA、Bが共にオンになってからの経過時間Tが所定時間Taを経過していない場合に、第三座標データ(xcmp)を出力する。また、演算装置13は、フラグA、Bが共にオンになってからの経過時間Tが所定時間Taを経過した場合に、第二座標データ(xmp)を出力する。
【0089】
図13は、時間の経過で変化する条件でのq点のX座標を示している。図中の最上段が時間の経過を示している。p点側は、荷役機器1のY軸方向の一端側を示しており、電波式測位装置14p、内界センサ15p、および、外界センサ17pが設置されている側を示す。r点側は、荷役機器1のY軸方向の他端側を示しており、電波式測位装置14r、内界センサ15r、および、外界センサ17rが設置されている側を示す。
【0090】
時刻t1では、p点側、r点側の各々のフラグA、Bが共にオフになっている。時刻t1のq点のX座標は、p点の第一座標データ(xcp)とr点の第一座標データ(xcr)との中間の座標として算出される。
【0091】
時刻t2では、p点側のフラグA、Bが共にオンで、r点側のフラグA、Bが共にオフになっている。また、時刻t2では、p点側のフラグBがオンになってからの経過時間Tpが所定時間Ta未満となっている。時刻t2のq点のX座標は、p点の第三座標データ(xcmp)とr点の第一座標データ(xcr)との中間の座標として算出される。
【0092】
時刻t3では、p点側、r点側の各々のフラグA、Bが共にオンになっている。また、時刻t3では、p点側、r点側のフラグBがオンになってからの経過時間Tp、Trが所定時間Ta未満となっている。時刻t3のq点のX座標は、p点の第三座標データ(xcmp)とr点の第三座標データ(xcmr)との中間の座標として算出される。
【0093】
時刻t4では、p点側の経過時間Tpが所定時間Taを経過し、r点側の経過時間Trが所定時間Ta未満となっている。時刻t4のq点のX座標は、p点の第二座標データ(xmp)とr点の第三座標データ(xcmr)との中間の座標として算出される。
【0094】
時刻t5では、p点側、r点側の経過時間Tp、Trが所定時間Taを経過している。時刻t5のq点のX座標は、p点の第二座標データ(xmp)とr点の第二座標データ(xmr)との中間の座標として算出される。
【0095】
図14は走行制御処理での時間の経過と荷役機器1の走行速度との関係の一例を示している。自己座標データ21が出力されると、演算装置13により、荷役機器1の走行制御処理が実行される(図9のS240)。走行制御処理は、荷役機器1の走行速度の調節と、荷役機器1の走行方向(走行が停止したときの荷役機器1の向きを含む)の調節と、の二つの調節が行われている。
【0096】
走行速度の調節では、地図データ20の目標停止箇所の停止座標データと自己座標データ21の自己座標データとの偏差(具体的に、目標停止箇所のQ点のX座標とq点のX座標の偏差)に基づいて、荷役機器1の走行速度が調整されている。走行速度の調節では、荷役機器1が走行を開始してから停止するまでの経過時間と走行速度との関係が略台形となっており、偏差に基づいて予め設定された定加速度、定速度、および、定減速度が切り替えられている。定加速度、定速度、および、定減速度の各々は任意に設定可能になっている。また、走行速度の調節では、荷役機器1の走行速度が定減速度に切り替えられた以後に、目標停止箇所の停止座標データと自己座標データとが一致する(具体的に、目標停止箇所のQ点のX座標とq点のX座標とが一致する)ように、減速度が調節されている。つまり、第一座標データに基づく自己座標データ21を用いて、定加速度、定速度、および、定減速度が切り替えられており、第二座標データに基づく自己座標データ21を用いて、減速度が調節されている。
【0097】
走行方向の調節では、姿勢角θに基づいて、荷役機器1のY軸方向の両端部の走行速度差が調節されている。走行方向の調節では、走行速度の制御で調節された走行速度を補正して、Y方向の両端部の速度差により荷役機器1の走行方向が調節されている。なお、荷役機器1の走行輪が操舵可能な場合の走行方向の調節では、荷役機器1の操舵角が調節されてもよい。
【0098】
走行制御処理では、荷役機器1の走行の直進性をより向上させるために、Y軸方向での地図データ20の目標線に対するズレ量に基づいて、荷役機器1のY軸方向の両端部の走行速度差を調節するとよい。具体的に、実施形態では、このY軸方向でのズレ量に基づいた走行速度差の調節に、目標線の代わりに、多数の停止箇所ごとに設置された測定対象物7yを用いている。荷役機器1が目標停止箇所に到着するまでの間に通過する複数の停止箇所ごとで、外界センサ17yが測定対象物7yを検知することにより得られる残距離ΔYを走行速度差の調節に用いている。なお、測定対象物7yは、多数の停止箇所のみではなく、停止箇所どうしの間に設置してもよく、蔵置レーン3の全長に亘って延在させてもよい。
【0099】
以上のように、荷役機器1の走行制御工程によれば、目標停止箇所の近傍では、距離計12による測定により得られた第二座標データが用いられる。この第二座標データは、目標停止箇所に設置された測定対象物7を測定対象とした測定により得られており、精度が高い。それ故、第二座標データを用いた走行制御処理により荷役機器1を目標停止箇所に高精度に停止させることができる。
【0100】
また、この走行制御工程によれば、目標停止箇所の近傍に至るまでは、座標取得装置11が取得した第一座標データが用いられる。座標取得装置11は、走行路面5の多数の停止箇所の間の区間に測位用の装置や部材を設置する必要がなくなり、それらの設置費用やメンテナンスが削減可能になっている。
【0101】
つまり、この走行制御工程は、精度がある程度低い状態でもよい走行区間での走行制御に第一座標データを用いて、高い精度が必要な走行区間での走行制御に残距離に基づいた高精度の第二座標データを用いている。このように、座標取得装置11と距離計12とを使い分けることにより、座標取得装置11の精度が低いという欠点を距離計12で補い、距離計12により荷役機器1の走行範囲の全域を測定するのに要するコストが高いという欠点を座標取得装置11で補うことができる。それ故、本実施形態は、コストの増加を抑制する構成でありながら、荷役機器1を目標停止箇所に高精度に停止させることができる。これにより、荷役機器1の荷役作業における位置合わせに必要な±20mm以下の精度を確保することが可能となる。その結果、位置合わせに要する時間を大幅に削減して、荷役効率を向上させることができる。
【0102】
また、距離計12が多数の停止箇所のなかの一つである目標停止箇所までの残距離を測定可能になったことを、座標取得装置11により得られた第一座標データを利用して特定している。それ故、距離計12が絶対位置情報を取得する必要がなくなり、目標停止箇所までの残距離のみを測定可能な構成で済むため、距離計12に要するコストを低減することができる。同様に、多数の停止箇所の各々に設置される測定対象物7に要するコストも最小限で済む。
【0103】
第一座標データから第二座標データへ切り替わる際に、第一座標データと第二座標データとの両方のデータに基づいた第三座標データを用いている。これにより、第一座標データから第二座標データへ切り替わる際に滑らかに推移させることができる。それ故、第一座標データと第二座標データとの差分による走行制御処理での走行速度の急変動を抑制することができる。なお、第一座標データと第二座標データとの差分が小さく、第一座標データから第二座標データへ切り替えても走行制御処理での走行速度の急変動が生じない場合には、第三座標データを用いる必要はない。この場合には、上記の制御フローの(S440)、(S450)、(S470)の各ステップを省略することができる。
【0104】
クレーンのようにY軸方向の両端部の速度差により走行方向が制御される荷役機器1では、荷役機器1の姿勢角θによって、p点側とr点側との各々で、フラブBがオンになる時間や、フラグBがオンになってからフラグAがオンになるまでに要する時間が異なる場合がある。そこで、自己座標データ21は、荷役機器1のY軸方向の両端部(p点側、q点側)ごとに推定されることが望ましい。このように、荷役機器1のY軸方向の両端部の自己座標データが各々、推定されることで自己座標データの推定精度の向上には有利になる。なお、荷役機器1がクレーンであっても、自己座標データ21を両端部ごとに推定しない場合もある。例えば、自己座標データ21がq点のX座標で構成される場合が例示される。この場合には、図10および図11に示すフローのみでq点のX座標と姿勢角θとを出力する。つまり、(S310)、(S430)、(S450)の各ステップでは、p点のX座標とr点のX座標から算出されるq点のX座標と姿勢角θとを各々の座標データとして算出される。
【0105】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の荷役機器の制御システムおよび制御方法は特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0106】
荷役機器1は、蔵置レーン3を跨いで走行するクレーンに限定されるものではない。荷役機器1は、コンテナターミナルの岸壁に接岸した船舶に対して荷役するクレーンや倉庫施設で荷役する天井クレーンでもよい。荷役機器1は、コンテナターミナルなどの倉庫施設内で走行する運搬車両でもよい。また、荷役機器1が荷役する荷役物2はコンテナに限定されるものではない。走行路面5は、蔵置レーン3に沿って延在するものに限定されるものではない。走行路面5は、蔵置レーン3どうしの間を繋ぐ連絡路を含んでもよい。また、走行路面5は、コンテナターミナルの出入口から蔵置レーン3に至るまでの運搬車両用の走行路面でもよい。
【0107】
多数の停止箇所は、荷役機器1による荷役作業が行われる箇所以外の箇所を含んでいてもよい。その箇所としては、荷役機器1による荷役作業が行われる箇所に到着するまでの道中で停止する箇所や走行方向を変更する箇所が例示される。具体的に、その箇所は、荷役機器1がクレーンである場合に、レーン替えで使用される連絡路の所定の箇所が例示される。また、その箇所は、荷役機器1が運搬車両である場合に、コンテナターミナルで運搬車両が一時停止する箇所や右左折する箇所が例示される。さらに、その箇所は、荷役機器1の整備や点検を行う箇所や荷役機器1の駆動源のエネルギを補充する箇所も例示される。
【0108】
制御システム10は、制御対象の荷役機器1の種類に応じて、構成を変えてもよい。荷役機器1が運搬車両の場合には、座標制御装置11が一つの電波式測位装置と一つの走行距離計とを有していればよく、距離計12が一つの外界センサを有していればよい。
【0109】
座標取得装置11は、電波式測位装置14が、電波の送受信の感度が低い場合に、取得した自己位置座標の精度が低かったり、自己位置座標を取得できなかったりするため、必須ではない。しかし、電波測位装置14は、電波の送受信の感度が高い場合に取得した自己位置座標を第一座標データの推定に用いることで、第一座標データの推定精度の向上には有利になる。
【0110】
電波式測位装置14は、荷役機器1が倉庫の中で荷役するものである場合に、屋内測位システムとして、IMES(Indoor Messaging System)を利用してもよい。電波式測位装置14は、取得する自己位置座標の精度が高くなくてもよい。したがって、電波式測位装置14は、荷役機器1に設置されるものの他に、荷役機器1に搭乗する運転者が携帯する携帯機器を利用することもできる。携帯機器としては、タブレットパーソナルコンピュータ、パーソナルデジタルアシスタント、スマートフォン(モバイルフォン、セルフォン)、ウェアラブルデバイスなどが例示される。電波式測位装置14として携帯機器を利用する場合に、座標演算装置16や演算装置13はその携帯機器と相互に通信可能に接続されたコンピュータで構成されることが望ましい。
【0111】
座標取得装置11は、距離計12が測定した残距離がゼロになったことを示す信号S1に基づいて、累計走行距離をゼロに更新し、測定開始箇所の座標データを更新する更新処理が実行されるが、信号S1は荷役機器1の所定箇所の直下に停止箇所が位置したタイミングを図ることが可能であればよい。例えば、距離計12とは別に、停止箇所ごとに設置した測定対象物を検知する外界センサを備えてもよい。この外界センサは、測定対象物までの距離を測定する必要はなく、測定対象物の直上に位置したときにその測定対象物を検知できればよい。ただし、更新処理のタイミングを距離計12の測定結果を利用して図ることで、高精度の累計走行距離を取得可能になる。
【0112】
距離計12は、目標停止箇所までのY軸方向の残距離ΔYの測定が必須ではない。自己座標データ21が姿勢角θを有している、あるいは、自己座標データ21から姿勢角θが算出可能であれば、荷役機器1の走行の直進性を確保することが可能である。ただし、距離計12が残距離ΔYを測定可能であれば、目標停止箇所にX軸方向およびY軸方向の両軸方向におけるずれが無い状態で停止することが可能となる。目標停止箇所でのY軸方向のずれは、荷役物2の荷役作業で修正することが可能である。それ故、距離計12は、少なくとも目標停止箇所までのX軸方向の残距離を測定できればよい。
【0113】
測定対象物7は、外界センサ17により検知可能であれば特に限定されるものではないが、例えば、リニアスケールの場合に、荷役機器1の走行のずれを考慮すると、リニアスケールの幅を広くする必要があり、実用的ではない。また、測定対象物7は、絶対位置情報を有していなくてもよい。測定対象物7が絶対位置情報を有さないことで、アブソリュート型のリニアスケールなどの絶対位置情報を有するものに比して導入コストを低減するには有利になる。よって、測定対象物7と外界センサ17との組み合わせは、磁気を帯びた強磁性体とリニアポジションセンサとの組み合わせが適切である。なお、磁気を帯びた強磁性体は、一度設置すれば半永久的に使用可能であり、メンテナンスに要するコストを大幅に削減することができる。なお、その組み合わせに比して、メンテナンスコストが掛かるが、測定対象物7と外界センサ17との組み合わせは、白線などの走行路面5に設置された目印とカメラとの組み合わせを用いることもできる。カメラにより目印を含む目印の周辺の画像を画像処理することにより、目印までの距離を測定することが可能である。
【0114】
測定対象物7が外界センサ17の両端部(例えば、素子番号:No.1、No.20の検知素子19)の直下、あるいは、直下から外れた位置に存在して、所定数未満の数の検知素子19が測定対象物7を検知する場合でも、所定数が固定値であれば残距離は算出可能な場合もある。例えば、距離データ22に検知素子19に付与される素子番号とは別の番号(例えば、No.-1、No.0、No.21、No.22など)と距離とを追加すればよい。所定数が「三」の場合に素子番号No.1の検知素子19のみ測定対象物7を検知した場合に、No.0の位置の直下に測定対象物7が存在すると見做せる。
【符号の説明】
【0115】
1 荷役機器
6 電波送受信機
7 測定対象物
10 制御システム
11 座標取得装置
12 距離計
13 姿勢演算装置
14 電波式測位装置
15 内界センサ
16 座標演算装置
17 外界センサ
18 距離演算装置
19 検知素子
20 地図データ
21 自己座標データ
22 距離データ
図1
図2
図3
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図5
図6
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