(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】セメント組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20241205BHJP
C04B 22/10 20060101ALI20241205BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20241205BHJP
C04B 14/28 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B22/10
C04B22/14 B
C04B14/28
(21)【出願番号】P 2023070497
(22)【出願日】2023-04-21
【審査請求日】2024-08-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020~2022年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/CO2排出削減・有効利用実用化技術開発/コンクリート、セメント、炭酸塩、炭素、炭化物などへのCO2利用技術開発/産業廃棄物中カルシウム等を用いた加速炭酸塩化プロセス研究開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 卓
(72)【発明者】
【氏名】大崎 雅史
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-152631(JP,A)
【文献】特開平11-319765(JP,A)
【文献】特開2013-129543(JP,A)
【文献】特開2019-123653(JP,A)
【文献】特開平03-295839(JP,A)
【文献】特開2022-131418(JP,A)
【文献】特開2016-023105(JP,A)
【文献】特開2021-155271(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02272598(EP,A1)
【文献】国際公開第2021/074003(WO,A1)
【文献】特開2006-069860(JP,A)
【文献】特許第7470262(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
B01D 53/34-53/73
B01D 53/74-53/85
B01D 53/92
B01D 53/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽質炭酸カルシウムと、ポルトランドセメントクリンカと、石膏と、を含むセメント組成物であって、
前記軽質炭酸カルシウムは、
その体積基準累積50%粒子径が10μm以上35μm以下であり、
1μm通過分が体積基準で3.0%以下であり、且つ、
35μm残分が体積基準で5.0%以上50.0%以下であり、
前記セメント組成物を100質量%とした場合、
前記軽質炭酸カルシウムの含有量が1質量%以上20質量%以下であり、且つ、
前記ポルトランドセメントクリンカの含有量及び前記石膏の含有量の合計量が80質量%以上99質量%以下である、セメント組成物。
【請求項2】
前記軽質炭酸カルシウムは、15μm通過分が体積基準で5.0%以上60.0%以下である、請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項3】
前記軽質炭酸カルシウムの粒度分布におけるロジンラムラー式のn値が2.2以上4.0以下である、請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項4】
前記軽質炭酸カルシウム中の水酸化カルシウムの含有量が5質量%以下である、請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項5】
更に重質炭酸カルシウムを含み、
前記セメント組成物を100質量%とした場合、前記軽質炭酸カルシウムの含有量及び重質炭酸カルシウムの含有量の合計量が1質量%以上20質量%以下である、請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項6】
前記セメント組成物の粒度分布におけるロジンラムラー式のn値が1.14以上1.50以下である、請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項7】
前記セメント組成物はそのブレーン比表面積値が2000cm
2/g以上4000cm
2/g以下である、請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項8】
軽質炭酸カルシウムと、ポルトランドセメントクリンカと、石膏と、を含むセメント組成物の製造方法であって、
前記軽質炭酸カルシウムは、
その体積基準累積50%粒子径が10μm以上35μm以下であり、
1μm通過分が体積基準で3.0%以下であり、且つ、
35μm残分が体積基準で5.0%以上50.0%以下であり、
前記セメント組成物を100質量%とした場合、
前記軽質炭酸カルシウムが前記セメント組成物中に1質量%以上20質量%以下含まれ、且つ、
前記ポルトランドセメントクリンカ及び前記石膏が前記セメント組成物中にこれらの合計で80質量%以上99質量%以下含まれるように、前記軽質炭酸カルシウムと該ポルトランドセメントクリンカと該石膏とを混合する、セメント組成物の製造方法。
【請求項9】
前記軽質炭酸カルシウムは、15μm通過分が体積基準で5.0%以上60.0%以下である、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
カルシウムを含む廃棄物又は副産物を準備し、
二酸化炭素の分圧を0.1MPa超5.0MPa以下に設定し、該分圧の状態下に、前記廃棄物又は前記副産物を水に分散又は溶解させて抽出対象液を調製し、
前記抽出対象液から液体成分を回収し、
前記液体成分と炭酸カルシウム種結晶とを混合し、
二酸化炭素の分圧を36Pa以上1.0MPa以下に設定し、該分圧の状態下に、前記
液体成分から前記軽質炭酸カルシウムを析出させる、請求項
8に記載の製造方法。
【請求項11】
前記廃棄物及び前記副産物が、廃コンクリート、廃モルタル又は廃セメントペーストである、請求項10に記載のセメント組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セメント組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントの技術分野における低炭素化を推進する取り組みとして、製造に係る二酸化炭素の排出量の大きな普通ポルトランドセメントの一部を混和材によって置換したセメント組成物が使用されている。普通ポルトランドセメントを置換する混和材として、入手しやすく、安価でもあることから、石灰石が広く使用されている。しかし、現状、普通ポルトランドセメントに対して添加可能な混和材の配合量は5質量%以下であると、JIS規格によって規定されている。
【0003】
更なる地球温暖化防止及び低炭素化の観点から、セメントクリンカの使用量を減じることを目的として、セメントクリンカにおける混和材の置換割合を更に増加させることが望まれている。例えば、非特許文献1では、普通ポルトランドセメントに対して混和材を、JIS規格での規定量である5質量%を超えて配合することについて検討が行われている。しかしながら、混和材の配合量を増加させることに起因する各種物性への影響を考慮する必要がある。
【0004】
ところで、二酸化炭素を液相に溶解させ、カルシウムと反応させて軽質炭酸カルシウムを化学的に製造する技術に注目が集まっている。軽質炭酸カルシウムは、二酸化炭素を安定な炭酸カルシウムの形態で固定化することから、二酸化炭素の排出量の削減に直接的に寄与する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】第72回セメント技術大会講演要旨2018、「3315少量混合成分を増量したセメントの品質評価」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
膨大な量の二酸化炭素を軽質炭酸カルシウムとして固定化する場合、該軽質炭酸カルシウムの利用先としては製造量が多いセメントへの添加が考えられる。セメントの混和材として軽質炭酸カルシウムを使用する場合、該軽質炭酸カルシウムとして固定化された二酸化炭素の量に加えて、セメントクリンカの使用量の低減に起因した二酸化炭素の排出量を減少することができる。
【0007】
しかしながら、前記の従来技術で製造された軽質炭酸カルシウムには、該軽質炭酸カルシウムをセメントに添加し、セメント組成物として利用した場合、硬化前における該セメント組成物の降伏応力及び粘性が増加するという課題があった。降伏応力の増加はセメント組成物に対する混和剤の使用量の増加といった問題に繋がり、粘性の増加はポンプ圧送性の低下といった問題に繋がる。
【0008】
したがって、本開示は、軽質炭酸カルシウムを混和材として利用し、それによって石灰石(重質炭酸カルシウム)を使用した場合よりも二酸化炭素の排出量を低減することが可能であり、且つ、降伏応力及び粘性を該石灰石を使用した場合と同等以下に低減できるセメント組成物、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一側面は、軽質炭酸カルシウムと、ポルトランドセメントクリンカと、石膏と、を含むセメント組成物であって、
前記軽質炭酸カルシウムは、
その体積基準累積50%粒子径が10μm以上35μm以下であり、
1μm通過分が体積基準で3.0%以下であり、且つ、
35μm残分が体積基準で5.0%以上50.0%以下であり、
前記セメント組成物を100質量%とした場合、
前記軽質炭酸カルシウムの含有量が1質量%以上20質量%以下であり、且つ、
前記ポルトランドセメントクリンカの含有量及び前記石膏の含有量の合計量が80質量%以上99質量%以下である、セメント組成物を提供することにある。
【0010】
また、本開示の別の側面は、軽質炭酸カルシウムと、ポルトランドセメントクリンカと、石膏と、を含むセメント組成物の製造方法であって、
前記軽質炭酸カルシウムは、
その体積基準累積50%粒子径が10μm以上35μm以下であり、
1μm通過分が体積基準で3%以下であり、且つ、
35μm残分が体積基準で5.0%以上50.0%以下であり、
前記セメント組成物を100質量%とした場合、
前記軽質炭酸カルシウムが前記セメント組成物中に1質量%以上20質量%以下含まれ、且つ、
前記ポルトランドセメントクリンカ及び前記石膏が前記セメント組成物中にこれらの合計で80質量%以上99質量%以下含まれるように、前記軽質炭酸カルシウムと該ポルトランドセメントクリンカと該石膏とを混合する、セメント組成物の製造方法を提供することにある。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、特定の軽質炭酸カルシウムを混和材として利用することによって、石灰石を使用した場合よりも二酸化炭素の排出量の低減に寄与することが可能であり、且つ降伏応力及び粘性が低減されたセメント組成物、及びその製造方法を提供できる。更に、現状の普通ポルトランドセメントに比べ、混和材量を増加させた場合においても、降伏応力及び粘性がより低減されたセメント組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、参考例1及び2で用いた軽質炭酸カルシウムの走査型電子顕微鏡像である。
【
図2】
図2は、比較例1及び2で用いた重質炭酸カルシウムの走査型電子顕微鏡像である。
【
図3】
図3は、実施例1及び2で用いた軽質炭酸カルシウムの走査型電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示において例示する原料は特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本開示に係るセメント組成物中の各成分の含有量は、該セメント組成物中の各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、該セメント組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0014】
本開示に係るセメント組成物の一実施形態は、軽質炭酸カルシウムと、ポルトランドセメントクリンカと、石膏とを含む。セメント組成物は、ポルトランドセメントクリンカの一部代替として軽質炭酸カルシウムを使用しており、それによって一部代替として石灰石を使用する場合に比べて二酸化炭素の排出量を低減できるセメント組成物として有益である。
【0015】
本開示に係るセメント組成物に含まれるポルトランドセメントクリンカとしては、当該技術分野においてこれまで知られているポルトランドセメントクリンカを特に制限なく用いることができる。例えば普通ポルトランドセメントクリンカ、早強ポルトランドセメントクリンカ、中庸熱ポルトランドセメントクリンカ、低熱ポルトランドセメントクリンカ、及び油井ポルトランドセメントクリンカ等を用いることができる。ポルトランドセメントクリンカは、入手のしやすさ及び初期材齢強度をより向上させる観点から、好ましくは普通ポルトランドセメントクリンカ及び早強ポルトランドセメントクリンカの少なくとも一方を含み、より好ましくは普通ポルトランドセメントクリンカを含み、普通ポルトランドセメントクリンカのみを用いてもよい。
【0016】
ポルトランドセメントクリンカは、C3S、C2S、C3A、及びC4AFを含む。C3S、C2S、C3A、及びC4AFのそれぞれの含有量はBogue式によって算出することができる。Bogue式とは、化学組成の含有比率からセメントクリンカ中の主要鉱物の含有率を算定する式として広く用いられる式である。以下に示すBogue式を用いることによって、ポルトランドセメントクリンカ中のケイ酸三カルシウム(3CaO・SiO2、C3Sで示す。)、ケイ酸二カルシウム(2CaO・SiO2、C2Sで示す。)、アルミン酸三カルシウム(3CaO・Al2O3、C3Aで示す。)、及び鉄アルミン酸四カルシウム(4CaO・Al2O3・Fe2O3、C4AFで示す。)の含有量を算出することができる。化学式は、JIS R 5204:2019「セメントの蛍光X線分析方法」による化学分析値が示す各化合物の含有比率(質量%)を表す。
【0017】
<Bogue式>
C3S[質量%]=(4.07×CaO[質量%])-(7.60×SiO2[質量%])-(6.72×Al2O3[質量%])-(1.43×Fe2O3[質量%])-(2.85×SO3[質量%])
C2S[質量%]=(2.87×SiO2[質量%])-(0.754×C3S[質量%])
C3A[質量%]=(2.65×Al2O3[質量%])-(1.69×Fe2O3[質量%])
C4AF[質量%]=3.04×Fe2O3[質量%]
【0018】
ポルトランドセメントクリンカ中のC3S量は、好ましくは30.0質量%以上であり、より好ましくは40.0質量%以上であり、更に好ましくは50.0質量%以上であり、更により好ましくは54.0質量%以上であり、特に好ましくは56.0質量%以上である。C3S量の値を前記の値以上とすることによって、セメント組成物の硬化における初期強度をより向上させることができる。
ポルトランドセメントクリンカ中のC3S量は、好ましくは70.0質量%以下であり、より好ましくは66.0質量%以下であり、更に好ましくは63.0質量%以下であり、更により好ましくは59.0質量%以下であり、特に好ましくは57.0質量%以下である。C3S量の値を前記の値以下とすることによって、セメント組成物の硬化時における発熱を抑制することができる。
【0019】
ポルトランドセメントクリンカ中のC2S量は、好ましくは5.0質量%以上であり、より好ましくは10.0質量%以上であり、更に好ましくは12.0質量%以上であり、更により好ましくは15.0質量%以上であり、特に好ましくは18.0質量%以上である。C2S量の値を前記の値以上とすることによって、セメント組成物の硬化における長期強度をより向上させることができる。
ポルトランドセメントクリンカ中のC2S量は、好ましくは50.0質量%以下であり、より好ましくは40.0質量%以下であり、更に好ましくは35.0質量%以下であり、更により好ましくは30.0質量%以下であり、特に好ましくは22.0質量%以下である。C2S量の値を前記の値以下とすることによって、セメント組成物の硬化における初期強度をより向上させることができる。
【0020】
ポルトランドセメントクリンカ中のC3A量は、好ましくは7.0質量%以上であり、より好ましくは8.0質量%以上であり、更に好ましくは8.5質量%以上であり、更により好ましくは9.0質量%以上であり、特に好ましくは9.5質量%以上である。C3A量の値を前記の値以上とすることによって、セメントクリンカ原料となる石炭灰等の廃棄物・副産物利用量を増加させたセメント組成物を製造することができる。
ポルトランドセメントクリンカ中のC3A量は、好ましくは13.0質量%以下であり、より好ましくは12.0質量%以下であり、更に好ましくは11.0質量%以下であり、更により好ましくは10.0質量%以下であり、特に好ましくは9.8質量%以下である。C3A量の値を前記の値以下とすることによって、セメント組成物の降伏応力及び粘性をより低減することができる。
【0021】
ポルトランドセメントクリンカ中のC4AF量は、好ましくは7.0質量%以上であり、より好ましくは8.0質量%以上であり、更に好ましくは9.0質量%以上であり、更により好ましくは9.5質量%以上であり、特に好ましくは10.0質量%以上である。C4AF量の値を前記の値以上とすることによって、セメントクリンカ原料となる石炭灰等の廃棄物・副産物利用量を増加させたセメント組成物を製造することができる。
ポルトランドセメントクリンカ中のC4AF量は、好ましくは14.0質量%以下であり、より好ましくは13.0質量%以下であり、更に好ましくは12.0質量%以下であり、更により好ましくは11.0質量%以下であり、特に好ましくは10.5質量%以下である。C4AF量の値を前記の値以下とすることによって、セメント組成物の降伏応力及び粘性をより低減することができる。
【0022】
ポルトランドセメントクリンカの含有量は、セメント組成物全量を100質量%とした場合、好ましくは70質量%以上95質量%以下であり、更に好ましくは75質量%以上93質量%以下であり、一層好ましくは85質量%以上90質量%以下である。
【0023】
本開示に係るセメント組成物に含まれる石膏としては、当該技術分野においてこれまで知られている石膏を特に制限なく用いることができる。例えば二水石膏、半水石膏、及び無水石膏等を用いることができる。石膏は、1種を単独で使用してもよく、また複数を組み合わせて使用してもよい。セメント組成物における石膏の含有量は、一般的なポルトランドセメントにおける石膏の含有量と同等であってよい。具体的には、セメント組成物における石膏の含有量は、SO3換算で、セメント組成物全量を100質量%として、好ましくは0.5質量%以上3.5質量%以下であり、更に好ましくは0.7質量%以上3.0質量%以下であり、一層好ましくは1.0質量%以上2.5質量%以下である。
【0024】
本開示に係るセメント組成物は、ポルトランドセメントクリンカの含有量及び石膏の含有量の合計量が所定の範囲にあることが好ましい。具体的には、セメント組成物を100質量%とした場合、ポルトランドセメントクリンカの含有量及び石膏の含有量の合計量は、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは85質量%以上であり、更に好ましくは88質量%以上であり、更により好ましくは90質量%以上である。ポルトランドセメントクリンカの含有量及び石膏の含有量の合計量が80質量%以上であることは、強度発現の観点から好ましい。
セメント組成物を100質量%とした場合、ポルトランドセメントクリンカの含有量及び石膏の含有量の合計量は、好ましくは99質量%以下であり、より好ましくは97質量%以下であり、更に好ましくは95質量%未満であり、更により好ましくは93質量%以下である。ポルトランドセメントクリンカの含有量及び石膏の含有量の合計量が99質量%以下であることで、二酸化炭素の排出量の低減に十分量の軽質炭酸カルシウムを用いることができる。
【0025】
本開示に係るセメント組成物は、後述する軽質炭酸カルシウムの含有量が所定の範囲にあることが好ましい。具体的には、セメント組成物を100質量%とした場合、軽質炭酸カルシウムの含有量は、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上であり、更に好ましくは5質量%超であり、更により好ましくは7質量%以上である。軽質炭酸カルシウムの含有量が1質量%以上であることで、該軽質炭酸カルシウムに代えて石灰石を使用した場合に比べて二酸化炭素の排出量の低減に寄与することが可能であり、且つ該セメント組成物の降伏応力及び粘性を低減することができる。
セメント組成物を100質量%とした場合、軽質炭酸カルシウムの含有量は、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下であり、更に好ましくは12質量%以下であり、更により好ましくは10質量%以下である。軽質炭酸カルシウムの含有量が20質量%以下であることは、強度発現の観点から好ましい。
【0026】
炭酸カルシウムは、一般に軽質炭酸カルシウムと重質炭酸カルシウムとに分類されるところ、本開示に係るセメント組成物は軽質炭酸カルシウムを含む。重質炭酸カルシウムは、石灰石を物理的に粉砕し、得られた粉砕物を分級することによって得られるものである。これに対し、軽質炭酸カルシウムは、工業的には水酸化カルシウムの水スラリー中に二酸化炭素を吹き込み化学的に合成することによって得られることが多く、主として炭酸カルシウムを含む。なお、その原理として、液相のカルシウム源は水酸化カルシウムに限らず、カルシウムを溶解した水溶液中に二酸化炭素を吹き込むことによっても軽質炭酸カルシウムを化学的に生成できる。
軽質炭酸カルシウムと重質炭酸カルシウムとは、その製造方法に起因して両者の形状が異なっている。具体的には、軽質炭酸カルシウムの形状は比較的均一であるのに対し、重質炭酸カルシウムの形状は不定形である。
【0027】
本開示に係るセメント組成物が軽質炭酸カルシウムを含むことによって、特に二酸化炭素を原料として合成された軽質炭酸カルシウムを含むことによって、該軽質炭酸カルシウムに代えて石灰石を使用した場合に比べて二酸化炭素の排出量の低減に寄与することが可能であり、且つ該セメント組成物の降伏応力及び粘性を低減することができる。
【0028】
軽質炭酸カルシウムは、その体積基準累積50%粒子径D50(以下、単に「粒子径D50」ともいう。)が所定の範囲にあることが好ましい。具体的には、軽質炭酸カルシウムの粒子径D50は、好ましくは10μm以上であり、より好ましくは15μm以上であり、更に好ましくは20μm以上であり、更により好ましくは25μm以上である。軽質炭酸カルシウムの粒子径D50が10μm以上であることで、セメント組成物の降伏応力及び粘性を低減することができる。
軽質炭酸カルシウムの粒子径D50は、好ましくは35μm以下であり、より好ましくは32μm以下であり、更に好ましくは30μm以下であり、更により好ましくは28μm以下である。軽質炭酸カルシウムの粒子径D50が35μm以下であることは、セメントの強度発現及び該軽質炭酸カルシウムの生産性の観点から好ましい。
【0029】
軽質炭酸カルシウムの粒子径D50は、例えば以下の方法で測定することができる。具体的には、まず、循環経路内をエタノール(屈折率1.36、25℃)で満たしたレーザー回折散乱式粒度分布測定装置(マルバーン社製、マスターサイザー3000E)に測定対象のサンプルを投入し、装置内蔵の超音波分散装置で該サンプルを分散させ、分散液を得て粒度分布を測定する。得られた体積基準粒度分布のチャートから、体積基準累積50%粒子径D50を得る。このようにして得られたD50を、本明細書における粒子径D50とする。上述した測定装置において、粒子情報の設定は、屈折率:1.57(25℃)、形状:非球形、透過/非透過の別:透過、とする。
【0030】
軽質炭酸カルシウムは、所定の粒度分布を満たすものであることが好ましい。軽質炭酸カルシウムの粒度分布は、例えばレーザー回折散乱式粒度分布測定装置を用い、所定の粒子径D50未満又は所定の粒子径D50以上である軽質炭酸カルシウムの割合によって決定することができる。本開示における軽質炭酸カルシウムの粒度は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって求められる値を意味する。
【0031】
軽質炭酸カルシウムは、1μm通過分が体積基準で、好ましくは3.0%以下であり、より好ましくは1.5%以下であり、更に好ましくは0%である。軽質炭酸カルシウムの1μm通過分が体積基準で3%以下であることで、セメント組成物の降伏応力及び粘性を低減することができる。
「1μm通過分」とは、軽質炭酸カルシウム全体の体積に対する粒子径D50が1μm未満である軽質炭酸カルシウムの体積比率(%)をいう。
【0032】
1μm通過分は、以下の式(1)に基づき算出することができる。
(粒子径D50が1μm未満である軽質炭酸カルシウムの体積)/(軽質炭酸カルシウム全体の体積)×100 (1)
【0033】
軽質炭酸カルシウムは、35μm残分が体積基準で、好ましくは5.0%以上であり、より好ましくは8.0%以上であり、更に好ましくは9.0%以上であり、更により好ましくは10.0%以上である。軽質炭酸カルシウムの35μm残分が体積基準で5.0%以上であることで、セメント組成物の降伏応力及び粘性を低減することができる。
軽質炭酸カルシウムは、35μm残分が体積基準で、好ましくは50.0%以下であり、より好ましくは40.0%以下であり、更に好ましくは25.0%以下であり、更により好ましくは15.0%以下である。軽質炭酸カルシウムの35μm残分が体積基準で50.0%以下であることは、セメントの強度発現及び該軽質炭酸カルシウムの生産性の観点から好ましい。
「35μm残分」とは、軽質炭酸カルシウム全体の体積に対する粒子径D50が35μm以上である軽質炭酸カルシウムの体積比率(%)をいう。
【0034】
35μm残分は、以下の式(2)に基づき算出することができる。
(粒子径D50が35μm以上である軽質炭酸カルシウムの体積)/(軽質炭酸カルシウム全体の体積)×100 (2)
【0035】
軽質炭酸カルシウムは、1μm通過分及び35μm残分が上述の範囲内にあることに加えて、15μm通過分が所定の割合であることも好ましい。具体的には、軽質炭酸カルシウムは、15μm通過分が体積基準で、好ましくは60%以下であり、より好ましくは40%以下であり、更に好ましくは20%以下である。軽質炭酸カルシウムの15μm通過分が体積基準で60%以下であることで、セメント組成物の降伏応力及び粘性を低減することができる。
軽質炭酸カルシウムは、15μm通過分が体積基準で、好ましくは5%以上であり、より好ましくは7%以上であり、更に好ましくは10%以上である。軽質炭酸カルシウムの15μm通過分が体積基準で5%以上であることで、セメント組成物の強度が増進し、且つ軽質炭酸カルシウムの生産性が向上する。
「15μm通過分」とは、軽質炭酸カルシウム全体の体積に対する粒子径D50が15μm未満である軽質炭酸カルシウムの体積比率(%)をいう。
【0036】
15μm通過分は、以下の式(3)に基づき算出することができる。
(粒子径D50が15μm未満である軽質炭酸カルシウムの体積)/(軽質炭酸カルシウム全体の体積)×100 (3)
【0037】
軽質炭酸カルシウムの粒度分布は、例えばロジンラムラー式に基づき算出される値であり、粒度の均一性を表すn値によっても決定することができる。ロジンラムラー式は、軽質炭酸カルシウムのふるい上の積算分布を表す式であり、以下の式(4)で示される。
【0038】
【0039】
式(4)中のb及びnは定数である。xは軽質炭酸カルシウムの代表粒子径D50である。式(4)に基づき算出されるn値が大きいほど、粒度分布が狭く、且つ粒度が揃っていることを意味する。なお、通常は、ロジンラムラー式は質量基準の式であるとされているが、本明細書では、同質の粒子どうしを比較する目的で、体積基準においてもロジンラムラー式が成立するとみなして、それぞれの粒子径D50に対する体積基準の積算値を使用してn値を算出する。
【0040】
軽質炭酸カルシウムの粒度分布におけるロジンラムラー式のn値は、好ましくは2.2以上であり、より好ましくは2.8以上であり、更に好ましくは3.0以上である。n値が2.2以上であることは、軽質炭酸カルシウム中の微粒子が少なく、それによってセメント組成物の降伏応力及び粘性を低減することができるので好ましい。
軽質炭酸カルシウムの粒度分布におけるロジンラムラー式のn値は、好ましくは4.0以下であり、より好ましくは3.8以下であり、更に好ましくは3.5以下である。n値が4.0以下であることは、軽質炭酸カルシウムの生産性の観点から好ましい。
【0041】
軽質炭酸カルシウムの粒度分布を上述の範囲内にするためには、本開示の趣旨を損なわない範囲で、軽質炭酸カルシウムに対して粉砕、分級、ふるい分け等をすることによって調整できる。あるいは、粒度分布が異なる複数種類の軽質炭酸カルシウムを混合等をすることによって調整してもよい。あるいは、後述する製造方法によって軽質炭酸カルシウムを得てもよい。
【0042】
軽質炭酸カルシウムは、上述のとおり主として炭酸カルシウムを含むところ、本開示の効果を損なわない範囲で、炭酸カルシウムの他に、各種成分を含んでいてもよい。各種成分としては、例えば水酸化カルシウム、生石灰、原料由来の砂、硬化セメントペースト等が挙げられる。各種成分は、1種を単独で含んでいてもよく、また複数を組み合わせて含んでいてもよい。各種成分は、セメント組成物に要求される性質に基づき必要に応じて含ませることができ、含ませる場合の量としては、該セメント組成物中にそれぞれ好ましくは0.1質量%以上40質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以上20質量%以下、更により好ましくは1質量%以上10質量%以下、特に好ましくは2質量%以上5質量%以下の量とすることができる。
軽質炭酸カルシウム中の炭酸カルシウムの含有量は、好ましくは60.0質量%以上、より好ましくは80.0質量%以上、更に好ましくは90.0質量%以上、特に好ましくは95.0質量%以上、一層好ましくは97.0質量%以上である。
【0043】
軽質炭酸カルシウム中の炭酸カルシウムの含有量は、例えばTG-DTAによって測定される。この測定において、500℃以上800℃以下の温度範囲での重量減少を、炭酸カルシウムからのCO2の脱炭酸と仮定することで、当該重量減少の値に基づき炭酸カルシウムの量を算出することができる。以下の式(5)より炭酸カルシウム量を計算する。
炭酸カルシウム量(質量%)=(500℃~800℃の重量減少)(質量%)×100/44 (5)
【0044】
軽質炭酸カルシウムが生石灰を含む場合、該軽質炭酸カルシウム中の該生石灰の含有量は、好ましくは5.0質量%以下であり、より好ましくは3.0質量%以下であり、更に好ましくは1.0質量%以下であり、一層好ましくは0.1質量%以下である。軽質炭酸カルシウム中の生石灰の含有量が5.0質量%以下であることは、セメント組成物における流動性及び凝結を制御する観点から好ましい。この理由から、軽質炭酸カルシウム中の生石灰の含有量は少ないほど好ましいが、0.01質量%程度に少なければ前述の効果は十分に発現する。
軽質炭酸カルシウム中の生石灰の含有量は、例えばX線回折(XRD)パターンをリートベルト解析することによって定量することができる。
【0045】
軽質炭酸カルシウムが水酸化カルシウムを含む場合、該軽質炭酸カルシウム中の該水酸化カルシウムの含有量は、好ましくは5.0質量%以下であり、より好ましくは3.0質量%以下であり、更に好ましくは1.7質量%以下である。軽質炭酸カルシウム中の水酸化カルシウムの含有量が5.0質量%以下であることは、軽質炭酸カルシウムに対する二酸化炭素の固定化量を増加させる観点から好ましい。
軽質炭酸カルシウムが水酸化カルシウムを含む場合、該軽質炭酸カルシウム中の該水酸化カルシウムの含有量は、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上であり、更に好ましくは1.0質量%以上である。軽質炭酸カルシウム中の水酸化カルシウムの含有量が0.1質量%以上であることは、軽質炭酸カルシウムの生産性の観点から好ましい。
【0046】
軽質炭酸カルシウムは、消石灰と二酸化炭素とを反応させて化学的に合成することによって得られるものであるところ、その合成方法に特に制限はない。例えば従来技術のように、水酸化カルシウムと二酸化炭素とを液相中で反応させて軽質炭酸カルシウムを得てもよい。上述の粒度分布を有する軽質炭酸カルシウムを効率よく且つ十分に合成し得る方法としては、以下(a)-(e)の工程を備えた方法を採用することが好ましい。その理由として、従来技術では、溶解度の低いカルシウム源である水酸化カルシウムと二酸化炭素とを反応させて軽質炭酸カルシウムを析出させるので、該軽質炭酸カルシウムの粒子径D50は比較的小さいものとなってしまい、セメント組成物の降伏応力及び粘性が増加してしまうからである。これに対して、以下の方法によれば、粒子径D50が大きく、1μm通過分が少なく、且つ35μm残分が多い軽質炭酸カルシウムを得ることができ、セメント組成物の降伏応力及び粘性を低減することができるので好ましい。これに加えて、15μm通過分も少ない軽質炭酸カルシウムを得ることができるので、セメント組成物の降伏応力及び粘性を一層低減することができる。
(a)カルシウムを含む廃棄物又は副産物を準備する工程。
(b)二酸化炭素の分圧を0.1MPa超5.0MPa以下に設定し、該分圧の状態下に、前記廃棄物又は前記副産物を水に分散又は溶解させて抽出対象液を調製する工程。
(c)前記抽出対象液から液体成分を回収する工程。
(d)前記液体成分と炭酸カルシウムの種結晶とを混合する工程。
(e)二酸化炭素の分圧を36Pa以上1.0MPa以下に設定し、該分圧の状態下に、前記液体成分から軽質炭酸カルシウムを析出させる工程。
【0047】
(a)工程で準備する廃棄物又は副産物としては、カルシウムを含んでいればよく、その種類に特に制限はない。ここでいう廃棄物又は副産物とは、例えばセメントの製造によって副次的に発生する廃棄物又は副産物をいう。このような廃棄物又は副産物として、例えば石灰石、生石灰、水酸化カルシウム等の天然原料を含ませた廃棄物又は副産物が挙げられる。あるいは、廃コンクリート、廃モルタル、廃セメントペースト、生コンスラッジ、ペーパースラッジ、高炉スラグ、電炉スラグ、徐冷スラグ、転炉スラグ、塩素パイパスダスト、石炭灰、バイオマス灰、焼却灰等のカルシウムを多く含有する廃棄物又は副産物そのものが挙げられる。地球環境に対する負荷を低減する観点から、廃棄物又は副産物としては後者を用いることが好ましく、廃コンクリート、廃モルタル又は廃セメントペーストを用いることが特に好ましい。
【0048】
(a)工程では、必要に応じて廃棄物又は副産物を粉末化してもよい。粉末化は、従来公知の種々の技術を用いて行うことができる。粉末化された廃棄物又は副産物の粒子径D50は、該廃棄物又は該副産物からカルシウムを効率よく抽出できる程度に広い比表面積を有する程度であればよく、例えば10枚栗μm以上5mm以下に設定することができる。
【0049】
(b)工程においては、前記抽出対象液と接する気相における二酸化炭素の分圧を前記範囲内に設定することで、液相に抽出されるカルシウムイオン濃度を高めることができ、カルシウムを含む廃棄物又は副産物からのカルシウムのリサイクル効率を高めることができる。この観点から、二酸化炭素の分圧は0.1MPa超3MPa以下であることが更に好ましい。
【0050】
前記気相における二酸化炭素以外の成分は、一般に大気に含まれる成分とすることができる。すなわち、前記気相における二酸化炭素以外の成分としては、例えば窒素及び酸素が挙げられる。前記気相は、大気に二酸化炭素を供給して、二酸化炭素の分圧を高めたガスであることが簡便である。
【0051】
(b)工程は、上述の二酸化炭素分圧下、廃棄物又は副産物を水に添加し、所定の時間、例えば1分間以上90分間以下にわたって撹拌することにより行うことが、カルシウムの効率的な抽出の観点から好ましい。
同様の観点から、前記抽出対象液を20℃以上80℃以下に保つことが好ましく、更に好ましくは20℃以上50℃以下、一層好ましくは20℃以上30℃に保つ。
【0052】
(c)工程では、気相の二酸化炭素分圧を上述の範囲内で保ち、且つ、前記抽出対象液の温度を上述の範囲内で保った状態下に、固液分離の操作を行い液体成分を回収することが好ましい。固液分離は従来公知の濾過技術を用いて行うことができる。回収した液体成分には、廃棄物又は副産物由来のカルシウムが含まれる。
【0053】
(d)工程では、前記液体成分中のカルシウムから軽質炭酸カルシウムを効率よく且つ十分に析出させ得る観点から、前記液体成分100mLに対して炭酸カルシウム種結晶を0.5g混合することが好ましく、より好ましくは2g以上、更に好ましくは5g以上である。
同様の観点から、炭酸カルシウム種結晶の純度が、好ましくは98質量%以上であり、より好ましくは99.5質量%であり、更に好ましくは99.9質量%である。
同様の観点から、炭酸カルシウム種結晶の粒子径D50が、好ましくは0.1μm以上50μm以下であり、より好ましくは0.1μm以上10μm以下であり、更に好ましくは0.1μm以上5μm以下である。
同様の観点から、炭酸カルシウム種結晶の比表面積が、好ましくは6×104m2/m3以上3×1012m2/m3以下であり、より好ましくは3×105m2/m3以上3×1012m2/m3以下であり、更に好ましくは6×105m2/m3以上3×1012m2/m3以下である。
【0054】
(e)工程においては、前記液体成分及び前記炭酸カルシウム種結晶の混合液と接する気相における二酸化炭素の分圧を前記範囲内に設定することで、前記液体成分中のカルシウムから軽質炭酸カルシウムを効率よく且つ十分に析出することができる。この観点から、二酸化炭素の分圧は36Pa以上0.3MPa以下であることがより好ましく、36Pa以上0.2MPa以下であることが更に好ましい。
前記気相における二酸化炭素以外の成分は、(b)工程と同様に、一般に大気に含まれる成分とすることができる。
【0055】
(e)工程は、上述の二酸化炭素分圧下、混合液を所定の時間、例えば1分間以上90分間以下にわたって撹拌することにより行うことが、軽質炭酸カルシウムの効率的な析出の観点から好ましい。
また、(e)工程は、上述の二酸化炭素分圧下、前記混合液を好ましくは20℃以上80℃以下、更に好ましくは20℃以上50℃以下に保つことが、軽質炭酸カルシウムを素早く析出させる観点から好ましい。
【0056】
このようにして、上述の粒度分布を有する軽質炭酸カルシウムを得ることができる。その後、必要に応じて前記混合液に対して固液分離の操作を行い、軽質炭酸カルシウムを回収することが好ましい。固液分離は従来公知の濾過技術を用いて行うことができる。回収した軽質炭酸カルシウムに対して、乾燥処理を行ってもよい。乾燥処理後、必要に応じて分級処理を行ってもよい。
【0057】
セメント組成物は、上述したポルトランドセメントクリンカ、石膏及び軽質炭酸カルシウムに加えて、本開示の趣旨を損なわない範囲で、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば重質炭酸カルシウム、水酸化カルシウム(ただし軽質炭酸カルシウムに含まれる水酸化カルシウムを除く。)、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、硅石粉、その他カルシウムを含む粉末(石膏、石灰石、及びアロフェンを除く)、コンクリート用減水剤、促進剤、及び遅延剤等が挙げられる。他の成分は、1種を単独で含んでいてもよく、また複数を組み合わせて含んでいてもよい。他の成分は、セメント組成物に要求される性質に基づき必要に応じて含ませることができ、含ませる場合の量としては、該セメント組成物中にそれぞれ好ましくは0.1質量%以上20質量%以下の量とすることができる。
【0058】
重質炭酸カルシウムとしては、当該技術分野においてこれまで知られている重質炭酸カルシウムを特に制限なく用いることができる。例えば、一般に販売されている、石灰石、石灰石粉、及び寒水石粉等の炭酸カルシウムを主成分とする粉末を使用することができる。石灰石は、好ましくは、JIS R 5210:2019「ポルトランドセメント」に記載の少量混合成分に適合するものを含む。
【0059】
重質炭酸カルシウムを軽質炭酸カルシウムと混合して、セメント組成物に使用してもよい。セメント組成物全量を100質量%とした場合、軽質炭酸カルシウムの含有量及び重質炭酸カルシウムの含有量の合計量は、例えば、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは2質量%以上であり、更に好ましくは5質量%超であり、一層好ましくは7.5質量%以上である。軽質炭酸カルシウムの含有量及び重質炭酸カルシウムの含有量の合計量が1質量%以上であることは、二酸化炭素の排出量の削減、並びにセメント組成物の強度発現の観点から好ましい。
セメント組成物全量を100質量%とした場合、軽質炭酸カルシウムの含有量及び重質炭酸カルシウムの含有量の合計量は、例えば、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下であり、更に好ましくは12質量%以下であり、一層好ましくは10質量%以下である。軽質炭酸カルシウムの含有量及び重質炭酸カルシウムの含有量の合計量が20質量%以下であることは、セメント組成物の強度発現の観点から好ましい。
【0060】
軽質炭酸カルシウムの含有量及び重質炭酸カルシウム含有量の合計量を100質量%とした場合、軽質炭酸カルシウムの含有量は、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上であり、更に好ましくは30質量%以上であり、一層好ましくは40質量%以上である。軽質炭酸カルシウムの含有量が10質量%以上であることは、二酸化炭素の排出量の削減、並びにセメント組成物の強度発現の観点から好ましい。
軽質炭酸カルシウムの含有量及び重質炭酸カルシウム含有量の合計量を100質量%とした場合、軽質炭酸カルシウムの含有量は、好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは80質量%以下であり、更に好ましくは70質量%以下であり、一層好ましくは60質量%以下である。軽質炭酸カルシウムの含有量が90質量%以下であることは、セメント組成物の強度発現の観点から好ましい。
【0061】
セメント組成物は、ロジンラムラー式に基づき算出されるn値が所定の範囲にあることが好ましい。具体的には、セメント組成物の粒度分布におけるロジンラムラー式のn値は、好ましくは1.14以上であり、より好ましくは1.15以上であり、更に好ましくは1.17以上である。n値が1.14以上であることは、セメント組成物の製造が容易になるので好ましい。
セメント組成物の粒度分布におけるロジンラムラー式のn値は、好ましくは1.50以下であり、より好ましくは1.30以下であり、更に好ましくは1.20以下である。n値が1.50以下であることは、セメント組成物の降伏応力及び粘性の低減の観点から好ましい。
セメント組成物の粒度分布におけるロジンラムラー式のn値は、上述の式(4)に基づき算出される。なお、式(4)中のb及びnは定数である。xはセメント組成物の代表粒子径D50である。
【0062】
セメント組成物の粒度分布を上述の範囲内にするためには、本開示の趣旨を損なわない範囲で、該組成物中の原料に対して粉砕、分級、ふるい分け等したりすることによって調整できる。あるいは、粒度分布が異なる複数種類の原料を混合等したりすることによって調整してもよい。
【0063】
セメント組成物は、そのブレーン比表面積が所定の範囲にあることが好ましい。具体的には、セメント組成物は、そのブレーン比表面積が、好ましくは2000cm2/g以上であり、より好ましくは2500cm2/g以上であり、更に好ましくは2800cm2/g以上である。セメント組成物のブレーン比表面積が2000cm2/g以上であることは、セメント組成物の強度発現の観点から好ましい。
セメント組成物は、そのブレーン比表面積が、好ましくは4000cm2/g以下であり、より好ましくは3800cm2/g以下であり、更に好ましくは3500cm2/g以下であり、一層好ましくは3200cm2/g以下であり、最も好ましくは2950cm2/g以下である。セメント組成物のブレーン比表面積が4000cm2/g以下であることは、セメント組成物の製造コストを低減する観点から好ましい。
ブレーン比表面積は、例えばJIS R5201:2015「セメントの物理測定方法」の記載に準拠して測定することができる。
【0064】
セメント組成物のブレーン比表面積を上述の範囲内にするためには、本開示の趣旨を損なわない範囲で、粉砕、分級、ふるい分け等をすることによって調整できる。あるいは、複数のセメント組成物を混合することによって調整できる。
【0065】
本開示に係るセメント組成物が上述の構成を有することによって、該セメント組成物は、20℃における0.1s-1での見かけ粘度として、好ましくは100Pa・s以下を示すことができる。セメント組成物の20℃における0.1s-1での見かけ粘度は、より好ましくは80Pa・s以下であり、更に好ましくは75Pa・s以下、一層好ましくは70Pa・s以下である。20℃における0.1s-1での見かけ粘度は、セメントの硬化前における降伏応力の指標であり、この値が低いほど所定のスランプにするためにセメント組成物添加する混和材量を少なくすることができる。
20℃における0.1s-1での見かけ粘度の測定方法は、後述する実施例において説明する。
【0066】
本開示に係るセメント組成物が上述の構成を有することによって、該セメント組成物は、20℃における100s-1での見かけ粘度として、好ましくは0.55Pa・s以下を示すことができる。セメント組成物の20℃における100s-1での見かけ粘度は、より好ましくは0.53Pa・s以下であり、更に好ましくは0.50Pa・s以下であり、一層好ましくは0.45Pa・s以下である。20℃における0.1s-1での見かけ粘度は、セメントの硬化前における粘性の指標であり、この値が低いほど高速流動時の抵抗を小さくすることができ、ポンプ圧送性が向上する。
20℃における100s-1での見かけ粘度の測定方法は、後述する実施例において説明する。
【0067】
本開示に係るセメント組成物は、これを高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカフューム等と混合し、混合セメントとして使用してもよい。また、ポゾランセメント、LC3(Lime Calcined Clay Cement)など、JIS外のセメントに使用してもよい。
【0068】
本開示に係るセメント組成物は、上述のポルトランドセメントクリンカと、石膏と、軽質炭酸カルシウムとを混合することによって製造することができる。軽質炭酸カルシウムは、粉末状で混合してもよく、あるいはスラリー状で混合してもよい。また、セメント組成物は、ポルトランドセメントクリンカ、石膏及び軽質炭酸カルシウムを別々に粉砕し、その後混合して製造してもよい。あるいは、ポルトランドセメントクリンカ、石膏及び軽質炭酸カルシウムのうち2つ以上の原料を同時に粉砕し、その後混合して製造してもよい。あるいは、セメントの仕上げ工程において、軽質炭酸カルシウムとポルトランドセメントとを混合して製造してもよい。セメント組成物には、必要に応じて、ポルトランドセメントクリンカ、石膏及び軽質炭酸カルシウムに加えて、他の成分を混合させてもよい。この場合、セメント組成物は、ポルトランドセメントクリンカ、石膏、並びに石灰石、高炉スラグ、フライアッシュ等の他の成分とともに、軽質炭酸カルシウムの粉末又はスラリーを仕上げミルに投入し、混合粉砕して製造してもよい。あるいは、上述の原料のうち2つ以上の原料を混合粉砕し、その後残りの原料を混合して製造してもよい。いずれか1つ以上の原料と、材料と混合粉砕後に混合して製造しても良い。
【実施例】
【0069】
以下、実施例、比較例、及び参考例を参照して本開示の内容をより詳細に説明する。ただし、本開示は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0070】
[セメント組成物の原料]
セメント組成物の原料として以下の物を用いた。
【0071】
(1)ポルトランドセメントクリンカの準備
ポルトランドセメントクリンカとして、Bogue式による鉱物組成が下記表1の記載である普通ポルトランドセメントクリンカを用いた。Bogue式の計算に用いたセメントの化学組成は、JIS R 5204:2019「セメントの蛍光X線分析方法」に記載の方法に準拠して測定した。
【0072】
【0073】
(2)石膏の準備
石膏として、JIS R 9151:2009「セメント用天然せっこう」に記載の要件を満たす石膏を用いた。
【0074】
(3)炭酸カルシウムの準備
炭酸カルシウムとして、以下の炭酸カルシウムA、炭酸カルシウムB及び炭酸カルシウムCを用いた。
【0075】
(3-1)炭酸カルシウムA
炭酸カルシウムAとして、石灰石を粉砕して製造された重質炭酸カルシウムを用いた。炭酸カルシウムAは、炭酸カルシウム含有量が90質量%以上であり、酸化アルミニウム含有量が1.0質量%以下であり、JIS R 5210:2019「ポルトランドセメント」に記載の少量混合成分の要件を満たす石灰石微粉末であった。
【0076】
(3-2)炭酸カルシウムB
炭酸カルシウムBとして、市販の軽質炭酸カルシウムを用いた。
【0077】
(3-3)炭酸カルシウムC
炭酸カルシウムCとして、上述の(a)-(e)の工程を備えた方法によって製造した軽質炭酸カルシウムを用いた。
具体的には、廃コンクリートを破砕し、目開き2mmアンダーの粉末を篩い分けして得て、この粉末を純水に投入して分散液を得た。
この分散液を、耐圧撹拌槽型抽出装置内に気密に充填し、撹拌を行いながら装置内に二酸化炭素を供給し、その分圧を1.0MPaに高めて液相へのカルシウムの抽出を行った。その間、気相の圧力をモニターし、二酸化炭素の分圧を保持した。
その後、装置内から液相と抽出残渣とを固液分離して、液体成分を回収した。この液体成分に炭酸カルシウムの種結晶を添加し、該液体成分と接する気相における二酸化炭素の分圧を減圧して炭酸カルシウムを得た。炭酸カルシウムを105℃で乾燥して水分を除去し、炭酸カルシウムCを製造した。
【0078】
使用した炭酸カルシウムを走査型電子顕微鏡(SEM)で倍率500倍にて観察した。SEM像を
図1ないし
図3に示す。
また、使用した炭酸カルシウムの物性を下記表2に示す。
炭酸カルシウムの含有量は、式(5)に基づき算出した。水酸化カルシウムの含有量は、TG-DTA測定(窒素ガスフロー環境)における400℃~500℃の減量を水酸化カルシウムの脱水による水の減量と仮定し、算出した。
炭酸カルシウムの粒子径D
50は、上述の方法に従い測定した。
炭酸カルシウムの1μm通過分は、式(1)に基づき算出した。炭酸カルシウムの35μm残分は、式(2)に基づき算出した。炭酸カルシウムの15μm通過分は、式(3)に基づき算出した。
炭酸カルシウムの粒度分布におけるロジンラムラー式のn値は、式(4)に基づき算出した。
炭酸カルシウム中の生石灰の含有量は、上述の方法に従い測定した。得られたXRDのピークプロファイルでは、炭酸カルシウムA、B及びCのいずれにおいても生石灰のピークが観察されず、生石灰を含有しないことを確認した。
【0079】
【0080】
[セメント組成物の製造]
表1に示すポルトランドセメントクリンカと石膏とを粉砕してベースセメントを得た。ベースセメントと炭酸カルシウムとを表3に示す配合で混合し、セメント組成物を得た。
得られたセメント組成物の粒度分布におけるロジンラムラー式のn値、及びブレーン比表面積値を表5に示す。n値は式(4)に基づき算出した。ブレーン比表面積は、JIS R 5201:2015「セメントの物理測定方法」の記載に準拠して測定した。
【0081】
[セメント組成物の評価]
得られたセメント組成物について、その見かけ粘度を評価した。具体的には、まず、セメント組成物100gに対して水50g及び珪砂100g(商品名:豊浦珪砂、メーカー:豊浦珪石工業株式会社、粒度:表3に示す)を加えて練り混ぜることによって、流動性を有するセメントペーストを調製した。練混ぜは、20℃の恒温室内にて、撹拌容器に水を量り取った後、セメント組成物及び珪砂を投入し、ケミカルミキサ(新東科学株式会社製、型番:BL1200)で500rpm、3分間練り混ぜた。
見かけ粘度の測定は、共軸二重円筒型レオメータ(Anton Paar社製、製品名:MCR101、治具:CC27/T200/SS及びCC27/P6)を用い、20℃の恒温室内にてせん断速度を10-5~103s-1まで段階的に変更して行った。より具体的には、上記せん断速度の変化幅を対数軸で36点に分割し、上記36点の各点において、その時点でのせん断速度で5秒間ずつせん断をかけ見かけ粘度を測定し、合計180秒間で10-5から103s-1まで上昇させ(上昇曲線)た。その後、せん断速度を同様に段階的に下げていきながら(下降曲線)、その際の見かけ粘度を測定した。流動性の測定中は測定容器内を20℃に保持した。下降曲線の0.1s-1で5秒間せん断を加えた後の見かけ粘度(0.1s-1での見かけ粘度)を降伏応力の指標とし、下降曲線の100s-1で5秒間せん断を加えた後の見かけ粘度(100s-1での見かけ粘度)を粘性の指標として、いずれも見かけ粘度が低いほど優れていると評価した。
なお、降伏応力は流動するために必要な応力であり、コンクリートスランプ等に影響し、降伏応力が低いほど所定のスランプにするためにセメント組成物に添加する混和材量を少なくすることができる。また、粘性(塑性粘度)が小さいほど高速流動時の抵抗を小さくすることができ、ポンプ圧送性が向上する。
【0082】
【0083】
【0084】
表4に示すとおり、従来の方法で製造された軽質炭酸カルシウム(炭酸カルシウムB)を使用したセメント組成物は、普通ポルトランドセメント相当の参考例1(石灰石微粉末を5%添加したセメント)と比べて、5%の添加量及び10%の添加量のいずれにおいても粘性が高くなることがわかった。
一方で、炭酸カルシウムCを使用したセメントでは、炭酸カルシウムAを使用したセメントと比較して、同一添加量で比較した場合に、0.1s
-1での見かけ粘度はいずれも低減し、100s
-1での見かけ粘度は同等もしくは低減するという結果であり、セメント組成物として良好な降伏応力及び粘性が得られることがわかった。
更に、比較例1及び2並びに参考例1及び2の炭酸カルシウムA又はBを使用したセメントでは、該炭酸カルシウムA又はBの添加量を5%から10%へ増加させた場合、降伏応力及び粘性に相当する見かけ粘度はいずれも増加した。これに対して、実施例1及び2の炭酸カルシウムCを使用したセメントでは、該炭酸カルシウムCの添加量を5%から10%へ増加することで、むしろ降伏応力及び粘性が改善するという効果が得られた。
一般的には粒度分布を広げて、セメント組成物全体の粒度分布におけるロジンラムラー式のn値を下げる方向とすることによって、セメントの硬化前における粘性を低下できると考えられてきた。しかし、本開示においては、セメント組成物全体のn値が高いほうが良好な粘性を示した。したがって、軽質炭酸カルシウムの添加に起因するセメントの硬化前における粘性に及ぼす影響としては、単なるフィラーとしての効果だけでなく、セメントの反応性による効果も影響している可能性が示唆された。
図1ないし
図3に示す結果からわかるとおり、上述の(a)-(e)の工程を備えた方法によって製造した軽質炭酸カルシウム(炭酸カルシウムC)は、その粒子径D
50が、従来技術で得られた軽質炭酸カルシウム(炭酸カルシウムA)に比べて大きかった。また、炭酸カルシウムAは、その粒子径D
50が1μm以下である紡錘形の粒子が多くみられ、重質炭酸カルシウム(炭酸カルシウムB)は、角ばっており長辺の長い形状をしていた。これに対して、炭酸カルシウムCは、その形状が比較的均一で立方体に近く、長辺が短いものであった。これらの形状の違いにも、流動性が影響したものと推察される。