(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】ワーク分割装置及びワーク分割方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20241206BHJP
【FI】
H01L21/78 X
(21)【出願番号】P 2023003080
(22)【出願日】2023-01-12
(62)【分割の表示】P 2021118776の分割
【原出願日】2017-10-24
【審査請求日】2023-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2016212089
(32)【優先日】2016-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【氏名又は名称】松浦 憲政
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【氏名又は名称】松村 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【氏名又は名称】松浦 憲三
(72)【発明者】
【氏名】清水 翼
【審査官】境 周一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-092992(JP,A)
【文献】特開2016-063016(JP,A)
【文献】特開2009-054803(JP,A)
【文献】特開2004-146727(JP,A)
【文献】特開2011-228399(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの外径よりも大きい内径を有するリング状フレームにダイシングテープの外周部が固定され、前記ダイシングテープに貼付された前記ワークを分割予定ラインに沿って個々のチップに分割するワーク分割装置であって、
前記ダイシングテープにおける前記ワークの貼付面と反対側の裏面側に配置され、前記リング状フレームの内径よりも小さく、かつ前記ワークの外径よりも大きいリング状に形成され、前記ダイシングテープの裏面を押圧して前記ダイシングテープを拡張させるエキスパンドリングと、
前記ダイシングテープにおける前記ワークの貼付面と同一側に配置され、前記リング状フレームの内径よりも小さく、かつ前記エキスパンドリングの外径よりも大きい開口部を有するリング状に形成され、前記エキスパンドリングによる前記ダイシングテープの拡張の際に前記ダイシングテープが当接される拡張規制リングと、
を備え、
前記ダイシングテープのうち、前記ワークが貼付される領域よりも外側であって前記拡張規制リングの当接位置よりも内側の領域の幅寸法は、前記分割予定ラインの本数又は前記チップのサイズに応じて設定される、ワーク分割装置。
【請求項2】
前記拡張規制リングは、前記ダイシングテープの当接位置に、前記ダイシングテープの滑り防止のための表面加工が施されている、請求項1に記載のワーク分割装置。
【請求項3】
ワークの外径よりも大きい内径を有するリング状フレームにダイシングテープの外周部が固定され、前記ダイシングテープに貼付された前記ワークを分割予定ラインに沿って個々のチップに分割するワーク分割装置であって、
前記ダイシングテープにおける前記ワークの貼付面と反対側の裏面側に配置され、前記リング状フレームの内径よりも小さく、かつ前記ワークの外径よりも大きいリング状に形成され、前記ダイシングテープの裏面を押圧して前記ダイシングテープを拡張させるエキスパンドリングと、
前記ダイシングテープにおける前記ワークの貼付面と同一側に配置され、前記リング状フレームの内径よりも小さく、かつ前記エキスパンドリングの外径よりも大きい開口部を有するリング状に形成され、前記エキスパンドリングによる前記ダイシングテープの拡張の際に前記ダイシングテープが当接される拡張規制リングと、
を備え、
前記拡張規制リングは、前記ダイシングテープの当接位置に、前記ダイシングテープの滑り防止のための表面加工が施されている、ワーク分割装置。
【請求項4】
前記拡張規制リングは、前記エキスパンドリングによる前記ダイシングテープの拡張の際に、前記ダイシングテープに当接するテープ位置規制部を有し、
前記テープ位置規制部は、前記リング状フレームの前記ダイシングテープが貼付されたテープ貼付面と同一面上、又は前記同一面よりも前記エキスパンドリングが配置される側に配置される、請求項1から3のいずれか1項に記載のワーク分割装置。
【請求項5】
前記拡張規制リングは、前記リング状フレームに固定されるフレーム固定部と、前記拡張規制リングの前記開口部の周縁部に沿って前記ダイシングテープに向けて突出した凸条部と、を備え、
前記テープ位置規制部は、前記凸条部の先端部によって構成される、請求項4に記載のワーク分割装置。
【請求項6】
前記拡張規制リングには、前記ダイシングテープにおける前記ワークの貼付面と同一側に配置されたフレーム固定部であって、前記リング状フレームに当接して前記リング状フレームを固定するフレーム固定部が備えられる、請求項1から5のいずれか1項に記載のワーク分割装置。
【請求項7】
前記拡張規制リングは、前記ダイシングテープにおける前記ワークの貼付面と同一側に配置されたフレーム固定部材であって、前記拡張規制リングを介して前記リング状フレームを固定するフレーム固定部材に着脱自在に固定される、請求項1から5のいずれか1項に記載のワーク分割装置。
【請求項8】
前記拡張規制リングは、前記ダイシングテープの当接位置に、前記ダイシングテープの破れ防止のための面取り加工が施されている、請求項1から
7のいずれか1項に記載のワーク分割装置。
【請求項9】
ワークの外径よりも大きい内径を有するリング状フレームにダイシングテープの外周部が固定され、前記ダイシングテープに貼付された前記ワークを分割予定ラインに沿って個々のチップに分割するワーク分割方法であって、
前記ダイシングテープを押圧して前記ダイシングテープを拡張することにより前記ダイシングテープに張力を発生させる拡張工程と、
前記ダイシングテープの拡張の際に前記ダイシングテープのうち外周側に位置する外周側領域の拡張を規制する拡張規制工程と、
前記外周側領域を除く前記ダイシングテープの拡張を継続して前記ワークを個々のチップに分割する分割工程と、
前記拡張規制工程は、前記リング状フレームの内径よりも小さく、前記ワークの外径よりも大きい開口部を有する拡張規制リングを前記ダイシングテープに当接させることを含み、
前記ダイシングテープのうち、前記ワークが貼付される領域よりも外側であって前記拡張規制リングの当接位置よりも内側の領域の幅寸法は、前記分割予定ラインの本数又は前記チップのサイズに応じて設定される、ワーク分割方法。
【請求項10】
前記拡張規制リングは、前記ダイシングテープの当接位置に、前記ダイシングテープの滑り防止のための表面加工が施されている、請求項
9に記載のワーク分割方法。
【請求項11】
ワークの外径よりも大きい内径を有するリング状フレームにダイシングテープの外周部が固定され、前記ダイシングテープに貼付された前記ワークを分割予定ラインに沿って個々のチップに分割するワーク分割方法であって、
前記ダイシングテープを押圧して前記ダイシングテープを拡張することにより前記ダイシングテープに張力を発生させる拡張工程と、
前記ダイシングテープの拡張の際に前記ダイシングテープのうち外周側に位置する外周側領域の拡張を規制する拡張規制工程と、
前記外周側領域を除く前記ダイシングテープの拡張を継続して前記ワークを個々のチップに分割する分割工程と、
前記拡張規制工程は、前記リング状フレームの内径よりも小さく、前記ワークの外径よりも大きい開口部を有する拡張規制リングを前記ダイシングテープに当接させることを含み、
前記拡張規制リングは、前記ダイシングテープの当接位置に、前記ダイシングテープの滑り防止のための表面加工が施されている、ワーク分割方法。
【請求項12】
前記拡張規制リングは、前記ダイシングテープにおける前記ワークの貼付面と同一側に配置されたフレーム固定部材であって、前記拡張規制リングを介して前記リング状フレームを固定するフレーム固定部材に着脱自在に固定される、請求項
9から
11のいずれか1項に記載のワーク分割方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワーク分割装置及びワーク分割方法に係り、特に、半導体ウェーハ等のワークを分割予定ラインに沿って個々のチップに分割するワーク分割装置及びワーク分割方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体チップ(以下、チップと言う。)の製造にあたり、ダイシングブレードによるハーフカット或いはレーザ照射による改質領域形成により予めその内部に分割予定ラインが形成された半導体ウェーハ(以下、ウェーハと言う。)を、分割予定ラインに沿って個々のチップに分割するワーク分割装置が知られている(特許文献1等参照)。
【0003】
図22は、ワーク分割装置にて分割される円盤状のウェーハ1が貼付されたウェーハユニット2の説明図であり、
図22(A)はウェーハユニット2の斜視図、
図22(B)はウェーハユニット2の断面図である。
【0004】
ウェーハ1は、片面に粘着層が形成された厚さ約100μmのダイシングテープ(拡張テープ又は粘着シートとも言う。)3の中央部に貼付され、ダイシングテープ3は、その外周部が剛性のあるリング状フレーム(以下、フレームと言う。)4に固定されている。
【0005】
ワーク分割装置では、ウェーハユニット2のフレーム4が、二点鎖線で示すフレーム固定部材(フレーム固定機構とも言う。)7によって固定される。この後、ウェーハユニット2の下方から二点鎖線で示すエキスパンドリング(突上げリングとも言う。)8が上昇移動され、このエキスパンドリング8によってダイシングテープ3が押圧されて放射状に拡張される。このときに生じるダイシングテープ3の張力が、ウェーハ1の分割予定ライン5に付与されることにより、ウェーハ1が個々のチップ6に分割される。分割予定ライン5は、互いに交差するX方向及びY方向に形成されている。分割予定ライン5に関して、X方向と平行な本数とY方向と平行な本数とが同数の場合であって、それぞれの方向の間隔が等しい場合には、分割されたチップ6の形状は正方形となる。また、X方向と平行な本数とY方向と平行な本数とが異なる場合であって、それぞれの方向の間隔が等しい場合には、分割されたチップ6の形状は長方形となる。
【0006】
ところで、ダイシングテープ3はヤング率が低く柔軟な部材である。このため、ウェーハ1を個々のチップ6に円滑に分割するためには、ダイシングテープ3を冷却し、ダイシングテープ3のバネ定数を大きくした状態でダイシングテープ3を拡張することが考えられる。
【0007】
特許文献2のテープ拡張装置(ワーク分割装置)は、冷気供給手段を備えている。特許文献2によれば、冷気供給手段を作動して、処理空間内に冷気を供給し、処理空間内を例えば0℃以下に冷却することにより、ダイシングテープを冷却している。
【0008】
一方、特許文献3のチップ分割離間装置(ワーク分割装置)では、ダイシングテープに異方性があることに着目し、その異方性を加味してダイシングテープを一様にエキスパンドさせるために、フィルム面支持機構を備えている。このフィルム面支持機構は、円周方向において独立した複数の支持機構を備え、複数の支持機構の相対的な高さを個別に制御してダイシングテープの張力を調整することにより、ダイシングテープのX方向の伸びとY方向の伸びを独立して制御している。
【0009】
ここで、本願明細書において、ダイシングテープ3のうち、ウェーハ1が貼付される平面視円形状の領域を中央部領域3Aと称し、中央部領域3Aの外縁部とフレーム4の内縁部との間に備えられる平面視ドーナツ形状の領域を環状部領域3Bと称し、フレーム4に固定される最外周部分の平面視ドーナツ形状の領域を固定部領域3Cと称する。環状部領域3Bが、エキスパンドリング8に押圧されて拡張される領域である。
【0010】
なお、ウェーハ1の分割に要する力は、すなわち、ウェーハ1を分割するために環状部領域3Bに発生させなければならない張力は、分割予定ライン5の本数が多くなるに従って大きくしなければならないことが知られている。分割予定ライン5の本数について、例えば、直径300mmのウェーハ1でチップサイズが5mmの場合には約120本(XY方向に各60本)の分割予定ライン5が形成され、チップサイズが1mmの場合は約600本の分割予定ライン5が形成される。よって、環状部領域3Bに発生させなければならない張力は、チップサイズが小さくなるに従って大きくしなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2016-149581号公報
【文献】特開2016-12585号公報
【文献】特開2012-204747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、直径300mmのウェーハ1がマウントされるフレーム4の内径(フレームの内縁部の径)は、SEMI規格(Semiconductor Equipment and Materials International standards)(G74-0699 300mmウェーハに関するテープフレームのための仕様)により350mmと定められている。この規格により、
図23のウェーハユニット2の縦断面図の如く、ウェーハ1の外縁部とフレーム4の内縁部との間には、25mmの幅寸法を有する環状部領域3Bが存在することになる。また、
図24(A)、(B)で示すワーク分割装置の要部縦断面図の如く、フレーム4を固定するフレーム固定部材7は、エキスパンドリング8によって拡張される環状部領域3Bに接触しないように、矢印Aで示すダイシングテープ3の面内方向において環状部領域3Bから外方に離間した位置に設置されている。
【0013】
このため、エキスパンドリング8の上昇動作によって生じるウェーハ1を分割する力は、(i)環状部領域3Bの全領域を拡張する力、(ii)ウェーハ1をチップ6に分割する力、(iii)隣接するチップ6とチップ6との間のダイシングテープ3を拡張する力の3つの力に分解される。
【0014】
図25(A)~(E)に示すワーク分割装置の動作図の如く、ダイシングテープ3の環状部領域3Bにエキスパンドリング8が当接し、エキスパンドリング8の上昇動作によってダイシングテープ3の拡張が始まると(
図25(A))、まず最もバネ定数の低い環状部領域3Bの拡張が始まる(
図25(B))。これにより、環状部領域3Bに張力が発生し、この張力がある程度大きくなると、大きくなった張力がウェーハ1に伝達されてウェーハ1のチップ6への分割が始まる(
図25(C))。ウェーハ1が個々のチップ6に分割されると、環状部領域3Bの拡張とチップ間のダイシングテープ3の拡張とが同時に進行する(
図25(D)~(E))。
【0015】
従来のワーク分割装置では、直径300mmのウェーハ1において、チップサイズが5mm以上の場合には、環状部領域3Bで発生した張力により、個々のチップ6に問題無く分割することができた。しかしながら、ウェーハ1に形成される回路パターンの微細化に伴いチップサイズがより小さい1mm以下のチップも現れてきた。この場合、ウェーハ1を分割する分割予定ライン5の本数が増大することに起因して、ウェーハ1の分割に要する力が大きくなり、環状部領域3Bの拡張による張力以上の力が必要となる場合があった。そうすると、
図26のウェーハユニット2の縦断面図の如く、エキスパンドリング8による拡張動作が終了しても、ウェーハ1に形成された分割予定ライン5の一部が分割されずに未分割のまま残存するという問題が発生した。
【0016】
このような分割予定ライン5の未分割の問題は、ダイシングテープ3の拡張量や拡張速度を増加させても解消することはできない。例えば、ダイシングテープ3の拡張量を増やした場合には、環状部領域3Bが塑性変形を始めてしまうからである。塑性変形中の環状部領域3Bのバネ定数は、弾性変形中のバネ定数よりも小さいことから、環状部領域3Bの弾性変形を超えた領域では、ウェーハ1を個々のチップ6に分割する張力は発生しない。一方、ダイシングテープ3の拡張速度を増やした場合でも、環状部領域3Bの一部分が塑性変形を始めてしまうので、ウェーハ1を個々のチップ6に分割する張力は発生しない。これはダイシングテープ3の周波数応答が低いため、ダイシングテープ3の全体に時間差なく力が伝達しないからである。
【0017】
分割予定ライン5の未分割の問題を解消するために特許文献2では、ダイシングテープを冷却し、ダイシングテープのバネ定数を大きくすることで対応しているが、近年の1mm以下の小チップに対しては十分な効果を得ることができない。
【0018】
また、特許文献3のチップ分割離間装置は、ダイシングテープのX方向の伸びとY方向の伸びを独立して制御することはできるが、環状部領域の拡張による張力以上の力をウェーハに付与することができないので、分割予定ラインの未分割の問題を解消することはできない。
【0019】
本発明はこのような問題に鑑みて成されたものであり、チップサイズが小チップの場合に生じる分割予定ラインの未分割問題を解消することができるワーク分割装置及びワーク分割方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明のワーク分割装置は、本発明の目的を達成するために、ワークの外径よりも大きい内径を有するリング状フレームにダイシングテープの外周部が固定され、ダイシングテープに貼付されたワークを分割予定ラインに沿って個々のチップに分割するワーク分割装置において、リング状フレームを固定するフレーム固定部材と、ダイシングテープにおけるワークの貼付面と反対側の裏面側に配置され、リング状フレームの内径よりも小さく、かつワークの外径よりも大きいリング状に形成され、ダイシングテープの裏面を押圧してダイシングテープを拡張することによりダイシングテープに張力を発生させるエキスパンドリングと、ダイシングテープにおけるワークの貼付面と同一側に配置され、リング状フレームの内径よりも小さく、かつエキスパンドリングの外径よりも大きい開口部を有するリング状に形成され、エキスパンドリングによるダイシングテープの拡張の際にダイシングテープが当接される拡張規制リングと、を備える。
【0021】
本発明のワーク分割装置によれば、エキスパンドリングによってダイシングテープの拡張を開始すると、ダイシングテープの拡張の際にダイシングテープが拡張規制リングに当接する。このとき、ダイシングテープは、拡張規制リングに当接した当接部を境界として、外周側に位置する外周側領域と、内周側に位置する内周側領域とに分けられる。そして、ダイシングテープが拡張規制リングに当接した以降のエキスパンドリングによる拡張動作では、外周側領域の拡張が拡張規制リングによって規制され、内周側領域のみが拡張されていく。つまり、ダイシングテープのバネ定数よりも大きくなった内周側領域のバネ定数の張力がワークに付与される。これにより、ワークに付与される張力が増大するので、チップサイズが小チップの場合に生じる分割予定ラインの未分割問題を解消することができる。
【0022】
本発明の一形態は、拡張規制リングは、エキスパンドリングによるダイシングテープの拡張の際に、ダイシングテープに当接するテープ位置規制部を有し、テープ位置規制部は、リング状フレームのダイシングテープが貼付されたテープ貼付面と同一面上、又は同一面よりもエキスパンドリングが配置される側に配置されることが好ましい。
【0023】
本発明の一形態は、拡張規制リングは、リング状フレームに固定されるフレーム固定部と、拡張規制リングの開口部の周縁部に沿ってダイシングテープに向けて突出した凸条部と、を備え、テープ位置規制部は、凸条部の先端部によって構成されることが好ましい。
【0024】
本発明の一態様は、拡張規制リングには、ダイシングテープにおけるワークの貼付面と同一側に配置されたフレーム固定部であって、リング状フレームに当接してリング状フレームを固定するフレーム固定部が備えられることが好ましい。
【0025】
本発明の一態様によれば、拡張規制リングがリング状フレームを固定する機能も具備しているので、ワーク分割装置の部品点数を削減することができ、また、拡張規制リングをワーク分割装置に組み付ける作業でフレームをフレーム固定部によって固定することができる。
【0026】
本発明の一態様は、拡張規制リングは、ダイシングテープにおけるワークの貼付面と同一側に配置されたフレーム固定部材であって、拡張規制リングを介してリング状フレームを固定するフレーム固定部材に着脱自在に固定されることが好ましい。
【0027】
本発明の一態様によれば、チップサイズが小チップの場合には、拡張規制リングをフレーム固定部材に組み付けることができ、チップサイズが大チップの場合には、拡張規制リングをフレーム固定部材から取り外すことができる。つまり、拡張規制リングを備えていない既存のワーク分割装置であっても、そのワーク分割装置のフレーム固定部材に拡張規制リングを取り付けることで、チップサイズが小チップのワークを分割処理することができる。
【0028】
本発明の一態様は、拡張規制リングの開口部は円形に形成されることが好ましい。
【0029】
本発明の一態様によれば、互いに交差するX方向とY方向において、例えば、X方向とY方向の寸法が同一である正方形のチップに分割されるワークのように、X方向とY方向における分割予定ラインの本数(密度)が等しいワークの場合には、円形の開口部を有する拡張規制リングを使用することが好ましい。同様に、X方向のバネ定数とY方向のバネ定数とが同一であるダイシングテープに貼付されたワークの場合には、円形の開口部を有する拡張規制リングを使用することが好ましい。これにより、拡張される内周側領域からワークの周縁部に均等な張力を付与することができるので、このようなワークに対して好適な分割能力を実現できる。
【0030】
本発明の一態様は、拡張規制リングの開口部は楕円形に形成されることが好ましい。
【0031】
本発明の一態様によれば、互いに直交するX方向とY方向において、例えば、X方向とY方向の寸法が異なる長方形のチップに分割されるワークのように、X方向とY方向において分割予定ラインの本数(密度)が異なるワークの場合には、楕円形の開口部を有する拡張規制リングを使用することが好ましい。
【0032】
この場合、楕円の短径の方向を、分割予定ラインの密度が高い方向(チップの短辺に沿った方向、チップの密度の高い方向)と平行に合わせ、楕円の長径の方向を、分割予定ラインの密度が低い方向(チップの長辺に沿った方向、チップの密度の低い方向)と平行に合わせる。これにより、分割予定ラインの密度が高い方向に位置する内周側領域は、バネ定数が大きくなるので、本数の多い分割予定ラインを分割するための好適な張力をワークに付与することができる。一方、分割予定ラインの密度が低い方向に位置する環状部領域は、バネ定数が小さいが、本数の少ない分割予定ラインを分割するための好適な張力をワークに付与することができる。よって、このようなワークに対して好適な分割能力を実現することができる。
【0033】
また、X方向のバネ定数とY方向のバネ定数とが異なる異方性のあるダイシングテープに貼付されたワークの場合にも、楕円形の拡張規制リングを使用することが好ましい。
【0034】
この場合、楕円の短径の方向をバネ定数が小さい方向と平行に合わせ、楕円の長径の方向を、バネ定数が大きい方向と平行に合わせる。これにより、内周側領域の拡張時には、バネ定数の小さい方向と平行な方向に位置する内周側領域のバネ定数が高くなって、楕円の長径の方向と平行な方向に位置する内周側領域のバネ定数に近づくので、内周側領域からワークに略均等な張力を付与することができる。よって、X方向のバネ定数とY方向のバネ定数とが異なる異方性のあるダイシングテープにマウントされたワークに対して、好適な分割能力を実現することができる。
【0035】
本発明のワーク分割方法は、本発明の目的を達成するために、ワークの外径よりも大きい内径を有するリング状フレームにダイシングテープの外周部が固定され、ダイシングテープに貼付されたワークを分割予定ラインに沿って個々のチップに分割するワーク分割方法において、ダイシングテープを押圧してダイシングテープを拡張することによりダイシングテープに張力を発生させる拡張工程と、ダイシングテープの拡張の際にダイシングテープのうち外周側に位置する外周側領域の拡張を規制する拡張規制工程と、外周側領域を除くダイシングテープの拡張を継続してワークを個々のチップに分割する分割工程と、を備える。
【0036】
本発明のワーク分割方法によれば、チップサイズが小チップの場合に生じる分割予定ラインの未分割問題を解消することができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、チップサイズが小チップの場合に生じる分割予定ラインの未分割問題を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図2】
図1に示したワーク分割装置の要部拡大斜視図
【
図3】拡張途中の環状部領域の形状を示したウェーハユニットの断面図
【
図7】
図6に示したワーク分割装置の要部拡大斜視図
【
図9】円形の拡張規制用開口部を有する拡張規制リングとウェーハユニットとを重ねた平面図
【
図10】楕円形の拡張規制用開口部を有する拡張規制リングとウェーハユニットとを重ねた平面図
【
図11】拡張規制リングを使用しないときと使用したときの環状部領域及び内周側領域の拡張率を示したグラフ
【
図12】拡張規制リングを使用しないときと使用したときのチップの分割率を示したグラフ
【
図13】第3実施形態に係るワーク分割装置の要部断面図
【
図15】第4実施形態に係るワーク分割装置の要部断面図
【
図17】
図6に示した拡張規制リングの第1変形例を示した説明図
【
図18】
図6に示した拡張規制リングの第2変形例を示した説明図
【
図19】突き上げ量に対する拡張率の変化を算出したグラフ
【
図21】突き上げ速度に対する拡張率速度の変化を算出したグラフ
【
図22】ウェーハが貼付されたウェーハユニットの説明図
【
図26】ウェーハが分割されたウェーハユニットの縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、添付図面に従って本発明に係るワーク分割装置及びワーク分割方法の好ましい実施形態について詳説する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲であれば、以下の実施形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0040】
〔第1実施形態のワーク分割装置10A〕
図1は、第1実施形態に係るワーク分割装置10Aの要部縦断面図であり、
図2は、ワーク分割装置10Aの要部拡大斜視図である。なお、ワーク分割装置10Aによって分割処理されるウェーハユニットのサイズは限定されるものではないが、実施形態では、
図23に示した直径300mmのウェーハ1がマウントされたウェーハユニット2を例示する。
【0041】
ワーク分割装置10Aは、分割予定ライン5が形成されたウェーハ1を分割予定ライン5に沿って個々のチップ6に分割する装置である。分割予定ライン5は、互いに交差するX方向及びY方向に複数本形成される。実施形態では、X方向と平行な分割予定ライン5の本数と、Y方向と平行な分割予定ライン5の本数とがそれぞれ300本でそれぞれの間隔が等しいウェーハ1、すなわち、チップサイズが1mmのチップ6に分割されるウェーハ1を例示する。
【0042】
ウェーハ1は
図1、
図2の如く、フレーム4に外周部が固定されたダイシングテープ3の中央部に貼付される。ダイシングテープ3は、ウェーハ1が貼付される平面視円形状の中央部領域3A、及び中央部領域3Aの外縁部とフレーム4の内縁部との間の平面視ドーナツ形状の環状部領域3Bを有する。
【0043】
ウェーハ1の厚さは、例えば50μm程度である。また、ダイシングテープ3としては、例えばPVC(polyvinyl chloride:ポリ塩化ビニール)系のテープが使用される。なお、ウェーハ1をDAF(Die Attach Film)等のフィルム状接着材を介してダイシングテープ3に貼付してもよい。フィルム状接着材としては、例えばPO(polyolefin:ポリオレフィン)系のものを使用することができる。
【0044】
ワーク分割装置10Aは、フレーム4を固定するフレーム固定部12を備えた拡張規制リング16と、ダイシングテープ3の環状部領域3Bに下方側から当接されるエキスパンドリング14と、を備える。
【0045】
エキスパンドリング14は、ダイシングテープ3におけるウェーハ1の貼付面と反対側の裏面側に配置され、フレーム4の内径(350mm)よりも小さく、かつウェーハ1の外径(300mm)よりも大きい拡張用開口部14Aを有するリング状に形成される。このエキスパンドリング14は、ダイシングテープ3の環状部領域3Bの裏面を押圧して環状部領域3Bを拡張する。すなわち、エキスパンドリング14は、環状部領域3Bに対してダイシングテープ3の矢印Aで示す面内方向と交差するB方向に上昇移動される。これによって、環状部領域3Bがエキスパンドリング14に突き上げられて放射状に拡張される。なお、エキスパンドリング14を固定して、ウェーハユニット2を矢印C方向に下降移動させることにより、環状部領域3Bをエキスパンドリング14によって拡張してもよい。
【0046】
拡張規制リング16は、拡張規制部17とフレーム固定部12とから構成される。フレーム固定部12は、ダイシングテープ3におけるウェーハ1の貼付面と同一側に配置され、その下面12Aにフレーム4が固定される。拡張規制部17は、フレーム固定部12からフレーム4よりも拡張規制リング16の中心に向けて延設される。ダイシングテープ3の環状部領域3Bは、エキスパンドリング14による拡張の際に、拡張規制部17に当接される。なお、フレーム固定部12と拡張規制部17との境界を、
図1、
図2では符号Dで示している。
【0047】
拡張規制部17は、フレーム4の内径(350mm)よりも小さく、かつエキスパンドリング14の外径よりも大きい拡張規制用開口部(開口部)16Aを有するリング状に形成される。
【0048】
図3は、エキスパンドリング14によって拡張途中の環状部領域3Bの形状を示したウェーハユニット2の縦断面図である。
図4は、拡張途中の環状部領域3Bの拡大断面図である。
【0049】
図3、
図4に示すように、エキスパンドリング14による環状部領域3Bの拡張の際に、環状部領域3Bが拡張規制部17に当接される。具体的には、拡張規制部17の内縁部16Bに環状部領域3Bが当接される。
【0050】
実施形態では、
図1の如く、拡張規制用開口部16Aの径が338mmに設定されている。これにより、拡張規制部17によって拡張が規制される外周側領域3Eの幅寸法が6mmに設定され、環状部領域3Bのうち外周側領域3Eを除く内周側領域3Fの幅寸法が19mmに設定される。
【0051】
ここで、環状部領域3Bのうち拡張規制部17によって拡張が規制されない内周側領域3Fが、ウェーハ1の分割に実質的に寄与する領域となる。すなわち、内周側領域3Fの幅寸法を小さくするに従って、内周側領域3Fのバネ定数が大きくなるので、内周側領域3Fからウェーハ1に付与する張力を増大することができる。よって、内周側領域3Fの幅寸法は、分割予定ライン5の本数及びチップ6のサイズに応じて設定することが好ましい。
【0052】
以下、
図5のフローチャートに従って、ワーク分割装置10Aによるワーク分割方法を説明する。
【0053】
まず、
図5のステップS100において、
図1の如く、ウェーハユニット2のフレーム4を、拡張規制リング16のフレーム固定部12によって固定する(固定工程)。
【0054】
次に、
図5のステップS110において、エキスパンドリング14を
図1の位置から矢印B方向に上昇移動させ、環状部領域3Bの全領域の拡張を開始する(拡張工程)。
【0055】
次に、
図5のステップS120において、エキスパンドリング14の上昇移動量が、フレーム4の厚さを超えると、環状部領域3Bが拡張規制部17に当接する。このとき、
図4の如く環状部領域3Bは、拡張規制部17の内縁部16Bに当接した当接部3Dを境界として、外周側に位置する外周側領域3Eと、内周側に位置する内周側領域3Fとに分けられる。そして、環状部領域3Bのうち、外周側領域3Eの拡張が拡張規制部17によって規制される(拡張規制工程)。
【0056】
次に、
図5のステップS130において、エキスパンドリング14の上昇移動を続行し、環状部領域3Bのうち、外周側領域3Eを除く内周側領域3Fの拡張を継続して行うことにより、ウェーハ1を個々のチップ6に分割する(分割工程)。この後、エキスパンドリング14の上昇移動を停止する。
【0057】
分割工程(S130)において、環状部領域3Bが拡張規制部17の内縁部16Bに当接した以降のエキスパンドリング14による拡張動作では、外周側領域3Eの拡張が拡張規制部17によって規制され、内周側領域3Fのみが拡張されていく。つまり、環状部領域3Bのバネ定数よりも大きくなった内周側領域3Fのバネ定数の張力がウェーハ1に付与される。
【0058】
具体的に説明すると、ウェーハ1の分割に寄与する環状部領域3Bの長さが25mm(環状部領域3Bの幅寸法)から19mm(内周側領域3Fの幅寸法)に短くなるので、バネ定数はそれに反比例して増大する。これにより、内周側領域3Fのみを拡張しても、内周側領域3Fのバネ定数は環状部領域3Bのバネ定数よりも大きいので、チップサイズが小チップ(1mm)であっても個々のチップ6に分割するだけの張力をウェーハ1に付与することができる。よって、ワーク分割装置10Aによれば、チップサイズが小チップ(1mm)の場合に生じる分割予定ラインの未分割問題を解消することができる。
【0059】
なお、環状部領域3Bの粘着層に線接触される拡張規制部17の内縁部16Bには、一例として算術平均粗さ(Ra)が1.6(μm)となる表面加工が施されている。これにより、内縁部16Bと環状部領域3Bとの間の摩擦力によって、内縁部16Bと環状部領域3Bとが相対的に滑ることを防止することができる。また、内縁部16Bには、一例としてC0.2(0.2mm Chamfer)の面取り加工が行われている。これにより、環状部領域3Bから拡張力を受けた際に、その反力で環状部領域3Bが破れることを防止することができる。
【0060】
また、ワーク分割装置10Aの拡張規制リング16は、フレーム固定部12を備えることで、フレーム4を固定する機能も具備しているので、ワーク分割装置10Aの部品点数を削減することができ、また、拡張規制リング16をワーク分割装置10Aに組み付ける作業でフレーム4をフレーム固定部12によって固定することができる。
【0061】
また、ワーク分割装置10Aのエキスパンドリング14は、フレーム固定部12に固定されたウェーハユニット2のウェーハ1を包囲する拡張用開口部14Aを有するリング状に構成されている。また、拡張規制部17は、リング状のエキスパンドリング14を包囲する拡張規制用開口部16Aを備えている。これにより、ワーク分割装置10Aによれば、リング状のエキスパンドリング14によって環状部領域3Bが全領域において均等に拡張されていき、そして、拡張規制部17の拡張規制用開口部16Aの内縁部16Bに、環状部領域3Bが均等に線接触する。これにより、外周側領域3Eの拡張を確実に規制することができる。
【0062】
〔第2実施形態のワーク分割装置10B〕
図6は、第2実施形態に係るワーク分割装置10Bの要部縦断面図であり、
図7は、ワーク分割装置10Bの要部拡大斜視図である。なお、ワーク分割装置10Bによって処理されるウェーハユニットについても、
図23に示した直径300mmのウェーハ1がマウントされたウェーハユニット2を例示する。また、
図1、
図2に示したワーク分割装置10Aと同一又は類似の部材については同一の符号を付して説明する。
【0063】
第1実施形態のワーク分割装置10Aに対する、第2実施形態のワーク分割装置10Bの相違点は、フレーム固定部材7(
図24参照:既存のフレーム固定部材)と拡張規制リング18とを別々に構成し、フレーム固定部材7に対して拡張規制リング18を着脱自在に設けた点にある。フレーム固定部材7に対する拡張規制リング18の着脱構造は、特に限定されるものでないが、一例としてボルトを使用した締結構造でもよく、クランプ機構によるクランプ構造でもよい。
【0064】
フレーム固定部材7は、ダイシングテープ3におけるウェーハ1の貼付面と同一側に配置される。また、フレーム固定部材7は、エキスパンドリング14によって拡張される環状部領域3Bに接触しないように、矢印Aで示すダイシングテープ3の面内方向において環状部領域3Bから外方に離間した位置に設置されている。
図7の如く、フレーム固定部材7の形状はリング状であるが、その形状は特に限定されるものではなく、拡張規制リング18が着脱自在に取り付け可能な形状であればよい。
【0065】
拡張規制リング18は、フレーム4の内径(350mm)よりも小さく、かつエキスパンドリング14の外径よりも大きい拡張規制用開口部(開口部)18Aを備える。この拡張規制用開口部18Aの径も338mmである。
【0066】
図8は、エキスパンドリング14によって拡張途中の環状部領域3Bの形状を示したウェーハユニット2の縦断面図である。
【0067】
図8の如く、環状部領域3Bは、エキスパンドリング14による拡張の際に、拡張規制リング18の内縁部18Bに当接される。これにより、環状部領域3Bのうち、内縁部18Bに当接される当接部3Dとフレーム4の内縁部との間の外周側領域3Eの拡張が、拡張規制リング18によって規制される。
【0068】
次に、ワーク分割装置10Bによるワーク分割方法を説明するが、ワーク分割装置10Aによるワーク分割方法と略同一である。
【0069】
まず、
図6の如く、ウェーハユニット2のフレーム4をフレーム固定部材7に、拡張規制リング18を介して固定する(固定工程)。
【0070】
次に、エキスパンドリング14を
図6の位置から矢印B方向に上昇移動させ、環状部領域3Bの全領域の拡張を開始する(拡張工程)。
【0071】
次に、エキスパンドリング14の上昇移動量が、フレーム4の厚さを超えると、環状部領域3Bが拡張規制リング18の内縁部18Bに当接し、環状部領域3Bのうち、外周側に位置する外周側領域3Eの拡張を規制する(拡張規制工程)。このとき、
図8の如く環状部領域3Bは、内縁部18Bに当接した当接部3Dを境界として、外周側に位置する外周側領域3Eと、内周側に位置する内周側領域3Fとに分けられる。
【0072】
次に、エキスパンドリング14の上昇移動を続行し、環状部領域3Bのうち、外周側領域3Eを除く内周側領域3Fの拡張を継続して行うことにより、ウェーハ1を個々のチップ6に分割する(分割工程)。この後、エキスパンドリング14の上昇移動を停止する。
【0073】
分割工程において、環状部領域3Bが拡張規制リング18の内縁部18Bに当接した以降のエキスパンドリング14による拡張動作では、外周側領域3Eの拡張が拡張規制リング18によって規制され、内周側領域3Fのみが拡張されていく。つまり、環状部領域3Bのバネ定数よりも大きくなった内周側領域3Fのバネ定数の張力がウェーハ1に付与される。これにより、ワーク分割装置10Bによれば、ワーク分割装置10Aと同様にチップサイズが小チップ(1mm)の場合に生じる分割予定ラインの未分割問題を解消することができる。
【0074】
また、エキスパンドリング14による環状部領域3Bの拡張時において、拡張規制リング18は、フレーム固定部材7とフレーム4に挟持された状態で外周側領域3Eの拡張を規制する。すなわち、フレーム固定部材7の内径(例えば361mm)が、フレーム4の内径である350mmよりも大きい場合であっても、拡張規制用開口部18Aの径が338mmの拡張規制リング18を別途設けることにより、フレーム固定部材7の内径が350mm未満であるのと同等の効果を得ることができる。つまり、第1実施形態の拡張規制リング16(
図1、
図2参照)と同等の効果を得ることができる。
【0075】
また、ワーク分割装置10Bでは、拡張規制用開口部18Aの径(内径)が異なる複数の拡張規制リング18を予め揃えておくことが好ましい。これにより、予め加工条件として指定された内径の拡張規制リング18を選択して使用することができる。また、拡張規制リング18を備えていない既存(出荷済み)のワーク分割装置に拡張規制リング18を後付けすることができるので、既存のワーク分割装置を使用して、大きなチップから小さなチップまで処理することができるようになる。また、チップサイズが大チップの場合には、拡張規制リング18を既存のワーク分割装置から取り外すこともできる。なお、拡張規制用開口部18Aの径(内径)としては、338mmの他、例えば346mm、342mm、334mmを例示することができる。
【0076】
ところで、ウェーハ1に形成される分割予定ライン5の本数が多くなるに従って、ウェーハ1の分割に要する力を大きくしなければならないことは説明したが、ウェーハによっては、互いに交差するX方向及びY方向において、X方向と平行な分割予定ライン5の本数と、Y方向と平行な分割予定ライン5の本数とが同数のもの(
図9参照)、又はX方向と平行な分割予定ライン5の本数と、Y方向と平行な分割予定ライン5の本数とが異なるもの(
図10参照)がある。
【0077】
図9は、円形の拡張規制用開口部20Aを有する拡張規制リング20とウェーハユニット2とを重ねた平面図である。
図9に示すウェーハ22は、X方向と平行な分割予定ライン5の本数と、Y方向と平行な分割予定ライン5の本数とが同数で、それらの間隔が等しいウェーハであり、分割されるチップ24の形状が、X方向とY方向の寸法が同一である正方形のものである。すなわち、
図9に示すウェーハ22は、X方向とY方向において分割予定ライン5の密度が等しいウェーハである。このようなウェーハ22を円滑に分割する場合には、拡張規制用開口部20Aが円形の拡張規制リング20を使用することが好ましい。つまり、ウェーハ22と拡張規制用開口部20Aとは円形であり、ウェーハ22の外縁部と拡張規制用開口部20Aの内縁部とで囲まれる平面視ドーナツ形状の内周側領域3Fは、周方向のどの位置において同一の幅寸法eを有する。
【0078】
これにより、拡張される内周側領域3Fからウェーハ22の周縁部に均等な張力を付与することができる。すなわち、円形の拡張規制用開口部20Aを有する拡張規制リング20を使用することにより、X方向とY方向において分割予定ライン5の密度が等しいウェーハ22を分割するために好適な張力をウェーハ22に付与することができる。なお、X方向とY方向において分割予定ライン5の密度が等しいことと、X方向とY方向においてチップ6の密度が等しいことは等価である。
【0079】
図10は、楕円形の拡張規制用開口部26Aを有する拡張規制リング26とウェーハユニット2とを重ねた平面図である。
図10に示すウェーハ28は、X方向と平行な分割予定ライン5の本数よりも、Y方向と平行な分割予定ライン5の本数が多いウェーハであって、分割されるチップ30の形状が、X方向の寸法が短くY方向の寸法が長い長方形のものである。すなわち、
図10に示すウェーハ28は、X方向とY方向において分割予定ライン5の密度(チップ6の密度)が異なるウェーハである。このようなウェーハ28を円滑に分割する場合には、拡張規制用開口部26Aが楕円形の拡張規制リング26を使用することが好ましい。
【0080】
この場合、拡張規制用開口部26Aの楕円の短径aの方向を、分割予定ライン5の密度の高いX方向(チップ30の密度が高い方向、チップ30の短辺に平行な方向)と平行に合わせ、楕円の長径bの方向を、分割予定ライン5の密度の低いY方向(チップ30の密度の低い方向、チップ30の長辺に平行な方向)と平行に合わせる。
【0081】
これにより、分割予定ライン5の密度の高いX方向と平行な方向に位置する内周側領域3FAは、幅寸法が小さくなってバネ定数が高くなるので、密度の高いX方向の分割予定ライン5を分割するための好適な張力をウェーハ28に付与することができる。一方、分割予定ライン5の密度の低いY方向と平行な方向に位置する内周側領域3FBは、幅寸法は小さくならずバネ定数は小さいが、密度の低いY方向の分割予定ライン5を分割するための好適な張力をウェーハ28に付与することができる。よって、X方向とY方向において分割予定ライン5の密度が異なるウェーハ28に対して好適な分割能力を実現することができる。
【0082】
また、ダイシングテープ3には、X方向のバネ定数とY方向のバネ定数とが等しいもの、又はテープの生成方向に起因してX方向のバネ定数とY方向のバネ定数とに差が生じ、X方向とY方向の伸び方に違いがあるものがある。原則的には、テープの生成方向に対して平行な方向が伸び易く、交差する方向が伸び難い傾向にある。
【0083】
このようなダイシングテープ3の伸び特性に着目し、X方向のバネ定数とY方向のバネ定数とが等しいダイシングテープ3の場合には、
図9に示したような拡張規制用開口部20Aが円形の拡張規制リング20を使用することが好ましい。これにより、拡張時における内周側領域のX方向の伸び量とY方向の伸び量とが等しくなるので、内周側領域3Fからウェーハに均等な張力を付与することができる。
【0084】
一方、X方向のバネ定数とY方向のバネ定数とが異なる異方性のあるダイシングテープ3の場合には、
図10に示したような楕円形の拡張規制用開口部26Aを有する拡張規制リング26を使用することが好ましい。
【0085】
この場合、楕円の短径aの方向をバネ定数が小さいX方向と平行に合わせ、楕円の長径bの方向を、バネ定数が大きいY方向と平行に合わせる。これにより、内周側領域の拡張時には、バネ定数の小さい方向と平行なX方向に位置する内周側領域3FAのバネ定数が高くなって、楕円の長径bの方向と平行な方向に位置する内周側領域3FBのバネ定数に近づくので、内周側領域3FA、3FBからウェーハに略均等な張力を付与することができる。よって、X方向のバネ定数とY方向のバネ定数とが異なる異方性のあるダイシングテープ3にマウントされたウェーハに対して好適な分割能力を実現することができる。
【0086】
ここで本発明の効果を確認するために、本発明者が行った実験結果について説明する。
【0087】
図11のグラフには、
図23のウェーハユニット2に対し、拡張規制リングを使用しないときの環状部領域の拡張率(径350mm)と、拡張規制リングを使用したときの内周側領域の拡張率であって、その拡張規制用開口部の径を346mm、342mm、338mmに設定したときの拡張率とが示されている。なお、
図11の「MD(Machine Direction)」とは、ダイシングテープ3の製造時の送り方向に平行な方向であって、バネ定数の小さい方向である。また、「CD(Cross Direction)」とは、MDと直交する方向であって、バネ定数の大きい方向である。
【0088】
図11の実験結果によれば、拡張規制リングを使用しないときの環状部領域の拡張率が「MD」では6.1%、「CD」では6.0%であった。これに対して、拡張規制用開口部の径を346mm、342mm、338mmと小さくしていくに従って、内周側領域の拡張率が「MD」では6.8%、7.5%、8.4%に上昇し、「CD」では7.2%、7.5%、8.1%に上昇した。つまり、拡張規制用開口部の径を小さくするに従い、チップの分割能力が向上することを確認できた。
【0089】
図12のグラフには、
図23のウェーハユニット2に対し、拡張規制リングを使用しないときのチップの分割率(径350mm)と、拡張規制リングを使用したときのチップの分割率であって、その拡張規制用開口部の径を338mmに設定した場合の分割率が示されている。なお、
図12の「DAF有り」の分割率とは、DAFを介してウェーハ1をダイシングテープ3に貼付したときのチップ6の分割率であり、また、「DAF無し」の分割率とは、ウェーハ1をダイシングテープ3に直接貼付したときのチップ6の分割率である。
【0090】
図12の実験結果によれば、拡張規制リングを使用しないときのチップ6の分割率が「DAF有り」では15.0%、「DAF無し」では41.0%であった。これに対して、拡張規制用開口部の径が338mmの拡張規制リングを使用したときのチップ6の分割率が「DAF有り」では61.0%に上昇し、「DAF無し」では100%に上昇した。つまり、「DAF有り」であっても「DAF無し」であっても、拡張規制リングを使用することにより、チップ6の分割能力が向上することを確認できた。
【0091】
上記の実験結果から、実施形態のワーク分割装置10A、10Bによれば、拡張規制リング16によって外周側領域3Eの拡張を規制し、内周側領域3Fのみを拡張させることで、環状部領域3Bよりも拡張率が増加し、ウェーハ1に付与する張力を増大させることができるので、チップサイズが小チップの場合に生じる分割予定ライン5の未分割問題を解消できることを確認できた。
【0092】
〔第3実施形態のワーク分割装置10C〕
図13は、第3実施形態に係るワーク分割装置10Cの要部断面図である。
【0093】
図13のワーク分割装置10Cと
図1に示したワーク分割装置10Aとの構造の相違点は、
図13のワーク分割装置10Cの拡張規制リング32に凸条部34が設けられている点にある。
【0094】
図13の拡張規制リング32を説明するに当たり、
図1の拡張規制リング16と同一又は類似の部材については同一の符号を付してその説明は省略する。
【0095】
図13の拡張規制リング32には、フレーム固定部12と、ダイシングテープ3の貼付面3Gに向けて突出形成された凸条部34と、が備えられる。凸条部34は、拡張規制リング32の拡張規制用開口部32Aの周縁部に沿って設けられている。また、凸条部34の先端部34Aによってテープ位置規制部が構成されており、先端部34Aは、ダイシングテープ3の外周部が固定(貼付)されるフレーム4の裏面(テープ貼付面)4Aと同一面上の位置に配置されている。つまり、テープ位置規制部を構成する凸条部34の先端部34Aは、フレーム4が拡張規制リング32に固定された際に、ダイシングテープ3の貼付面3Gと同一面上の位置に配置されている。
【0096】
図13の拡張規制リング32によれば、エキスパンドリング14によるダイシングテープ3の拡張前の状態から拡張規制リング32の凸条部34の先端部34Aがダイシングテープ3の貼付面3Gに既に当接されている。つまり、エキスパンドリング14によるダイシングテープ3の拡張前の状態からダイシングテープ3の外周側領域3Eの拡張が拡張規制リング32によって規制されている。
【0097】
これにより、
図13のワーク分割装置10Cによれば、エキスパンドリング14がダイシングテープ3に当接した直後からダイシングテープの内周側領域3Fの拡張を開始することができる。よって、ワーク分割装置10Cによれば、凸条部32を備えていない
図1の拡張規制リング14を用いた場合よりも、チップサイズが小チップの場合に生じる分割予定ラインの未分割問題を更に効率よく解消することができる。
【0098】
また、
図1のワーク分割装置10A、及び
図13のワーク分割装置10Cにおいて、エキスパンドリング14の拡張動作終了位置の高さを同一とした場合、
図13のワーク分割装置10Cでは、
図1のワーク分割装置10Aよりも、ダイシングテープ3の内側領域3Fの拡張量(張力)が増加する。よって、
図13のワーク分割装置10Cによれば、チップサイズが小チップの場合に生じる分割予定ラインの未分割問題を更に解消することができる。
【0099】
一方で、エキスパンドリング14の拡張動作終了時における、ダイシングテープ3の内側領域3Fの拡張量を、
図1のダイシング装置10Aを基準とした場合、
図13のワーク分割装置10Cでは、
図1のワーク分割装置10Aと比較して、エキスパンドリング14の拡張動作終了位置の高さをフレーム4の厚さ分だけ低くすることができる。これにより、
図13のワーク分割装置10Cによれば、エキスパンドリング14の少ない上昇移動量であっても十分な拡張量(張力)を得ることができるので、チップサイズが小チップの場合に生じる分割予定ラインの未分割問題を更に効率よく解消することができる。
【0100】
具体的に説明すると、
図14に示すワーク分割装置10Cの要部拡大断面図の如く、拡張規制リング32を用いた場合には、凸条部34を備えていない
図1の拡張規制リング14を用いた場合と比較して、エキスパンドリング14の拡張動作終了位置の高さをフレーム4の厚さ分だけ低くすることができ、その分だけチップサイズが小チップの場合に生じる分割予定ラインの未分割問題を効率よく解消することができる。なお、
図14には、凸条部32を備えていない拡張規制リング14を用いた場合における、エキスパンドリング14の拡張動作終了位置を二点鎖線で示している。
【0101】
また、ワーク分割装置10Cによれば、拡張規制リング32の凸条部34の先端部34Aにおいて、
図1の拡張規制リング14の内縁部16Bと同様に、一例として算術平均粗さ(Ra)が1.6(μm)となる表面加工が施されている。これにより、先端部34Aと環状部領域3Bとの間の摩擦力によって、先端部34Aと環状部領域3Bとが相対的に滑ることを防止している。
【0102】
〔第4実施形態のワーク分割装置10D〕
図15は、第4実施形態に係るワーク分割装置10Dの要部断面図である。
【0103】
図15のワーク分割装置10Dと
図13に示したワーク分割装置10Cとの構造の相違点は、ワーク分割装置10Dの拡張規制リング36の凸条部38の先端部38Aが、ダイシングテープ3の貼付面3Gと同一面よりも拡張動作前のエキスパンドリング14が配置される側に配置されている点にある。
【0104】
図15の拡張規制リング36を説明するに当たり、
図13の拡張規制リング32と同一又は類似の部材については同一の符号を付してその説明は省略する。
【0105】
図15の拡張規制リング36によれば、エキスパンドリング14によるダイシングテープ3の拡張前の状態から、ダイシングテープ3の貼付面3Gが拡張規制リング36の凸条部38の先端部38Aに既に押圧されている。つまり、エキスパンドリング14によるダイシングテープ3の拡張前の状態からダイシングテープ3の外周側領域3Eの拡張が拡張規制リング32によって規制され、かつ内周側領域3Fの拡張が既に行われている。よって、ワーク分割装置10Dによれば、
図13のワーク分割装置Cと比較して、チップサイズが小チップの場合に生じる分割予定ラインの未分割問題を更に効率よく解消することができる。
【0106】
また、
図15のワーク分割装置10D、及び
図13のワーク分割装置10Cにおいて、エキスパンドリング14の拡張動作終了位置の高さを同一とした場合、
図15のワーク分割装置10Dでは、
図13のワーク分割装置10Cよりも、ダイシングテープ3の内側領域3Fの拡張量(張力)が増加する。よって、
図15のワーク分割装置10Dによれば、チップサイズが小チップの場合に生じる分割予定ラインの未分割問題を更に解消することができる。
【0107】
一方で、エキスパンドリング14の拡張動作終了時における、ダイシングテープ3の内側領域3Fの拡張量を、
図13のダイシング装置10Cを基準とした場合、
図15のワーク分割装置10Dでは、
図13のワーク分割装置10Cと比較して、エキスパンドリング14の拡張動作終了位置の高さを、凸条部34に対する凸条部38の突出長さの差分だけ低くすることができる。これにより、
図15のワーク分割装置10Dによれば、
図13のワーク分割装置10Cよりも、チップサイズが小チップの場合に生じる分割予定ラインの未分割問題を更に効率よく解消することができる。
【0108】
具体的に説明すると、
図16に示すワーク分割装置10Dの要部拡大断面図の如く、拡張規制リング36を用いた場合には、凸条部32を備えている
図13の拡張規制リング32を用いた場合と比較して、エキスパンドリング14の拡張終了位置の高さを、凸条部34に対する凸条部38の突出長さの差分だけ短くすることができ、その差分だけチップサイズが小チップの場合に生じる分割予定ラインの未分割問題を効率よく解消することができる。なお、
図16には、凸条部32を備えている拡張規制リング32を用いた場合における、エキスパンドリング14の拡張動作終了位置を二点鎖線で示している。
【0109】
また、ワーク分割装置10Dによれば、拡張規制リング36の凸条部38の先端部38Aにおいて、
図1の拡張規制リング14の内縁部16Bと同様に、一例として算術平均粗さ(Ra)が1.6(μm)となる表面加工が施されている。これにより、先端部38Aと環状部領域3Bとの間の摩擦力によって、先端部38Aと環状部領域3Bとが相対的に滑ることを防止している。
【0110】
〔第5実施形態のワーク分割装置10E〕
図17は、第5実施形態に係るワーク分割装置10Eの要部拡大断面図である。
【0111】
図17のワーク分割装置10Eは、フレーム固定部材7に拡張規制リング40が着脱自在に設けられたものである。なお、拡張規制リング40を説明するに当たり、
図13の拡張規制リング32と同一又は類似の部材については同一の符号を付してその説明する。
【0112】
図17の拡張規制リング40には、ダイシングテープ3の貼付面3Gに向けた凸条部34が、拡張規制リング40の拡張規制用開口部40Aの周縁部に沿って設けられている。また、凸条部34の先端部34Aは、ダイシングテープ3の貼付面3Gと同一面上の位置(
図13参照)に配置されている。
【0113】
これにより、
図17のワーク分割装置10Eによれば、エキスパンドリング14がダイシングテープ3に当接した直後からダイシングテープの内周側領域3Fの拡張を開始することができる。よって、ワーク分割装置10Eによれば、凸条部32を備えていない
図1の拡張規制リング14を用いた場合よりも、チップサイズが小チップの場合に生じる分割予定ラインの未分割問題を更に効率よく解消することができる。
【0114】
〔第6実施形態のワーク分割装置10F〕
図18は、第6実施形態に係るワーク分割装置10Fの要部拡大断面図である。
【0115】
図18のワーク分割装置10Fは、フレーム固定部材7に拡張規制リング42が着脱自在に設けられたものである。なお、拡張規制リング42を説明するに当たり、
図15の拡張規制リング36と同一又は類似の部材については同一の符号を付してその説明する。
【0116】
図18の拡張規制リング42には、ダイシングテープ3の貼付面3Gに向けた凸条部38が、拡張規制リング42の拡張規制用開口部42Aの周縁部に沿って設けられている。また、凸条部38の先端部38Aは、拡張動作前のエキスパンドリング14が配置される側に配置されている。
【0117】
これにより、
図18のワーク分割装置10Fによれば、エキスパンドリング14がダイシングテープ3に当接する前からダイシングテープの内周側領域3Fの拡張が開始されているので、凸条部34を備えている
図17の拡張規制リング40を用いた場合よりも、チップサイズが小チップの場合に生じる分割予定ラインの未分割問題を更に効率よく解消することができる。
【0118】
ところで、
図5に示した分割工程S130の後工程において、サブリングと称される拡張保持リングをフレーム4に嵌合させてダイシングテープ3の拡張状態を保持する場合がある。この拡張保持リングは、外周側領域3Eを引き延ばした状態でフレーム4に嵌合される。拡張保持リングを使用することにより、隣接する分割されたチップ同士の接触を規制できるので、チップの損傷を防止できるという効果がある。
【0119】
既述した
図13~
図18のワーク分割装置10C~10Fによれば、凸条部34、38の先端部34A、38Aによって、外周側領域3Eの拡張を規制することができるので、外周側領域3Eのダイシングテープ3が伸びず、その厚さが薄くなることを防止できる。そのため、拡張保持リングが外周側領域3Eを引き延ばした状態でフレーム4に装着された場合でも、外周側領域3Eが破れることを防止できる。
【0120】
また、
図5に示した分割工程S130の後工程において、拡張後の弛んだ外周側領域3Eのダイシングテープ3を光加熱によって熱収縮させて再度緊張させる加熱工程が行われる場合がある。この加熱工程が行われることにより、外周側領域3Eのダイシングテープ3を再度緊張させることができ、分割工程S130の後工程での処理が容易になるという効果がある。
【0121】
既述した
図13~
図18のワーク分割装置10C~10Fによれば、外周側領域3Eの厚さが薄くならないので、光加熱による外周側領域3Eの熱収縮工程において、外周側領域3Eの光吸収率が上がり、光から熱への変換効率が高くなる。これにより、外周側領域3Eを短時間で熱収縮させることができる。
【0122】
図19のグラフは、ダイシングテープ3の拡張率(%)が縦軸に示され、エキスパンドリング14の上昇移動による環状部領域3Bの突き上げ量(mm)が横軸に示されている。
【0123】
また、
図19では、後述するように突き上げ量に応じた拡張率が、拡張規制リング16、18、32、36、40、42毎に異なることが示されている。なお、拡張規制リング18による拡張率は、拡張規制リング16による拡張率と等しいので、拡張規制リング18による拡張率の説明は省略する。同様に、拡張規制リング40による拡張率は、拡張規制リング32による拡張率と等しく、拡張規制リング42による拡張率は、拡張規制リング36による拡張率と等しいので、拡張規制リング40、42による拡張率の説明も省略する。
【0124】
図19の線Aは、拡張規制リングを使用しない場合(拡張規制用開口部16Aの径が350mmに相当)の拡張率の変化を示している。線Bは、拡張規制用開口部16Aの径が338mmの拡張規制リング16を適用した場合の拡張率の変化を示している。線Cは、拡張規制用開口部32Aの径が338mmの拡張規制リング32を適用した場合の拡張率の変化を示している。線Dは、拡張規制用開口部36Aの径が338mmの拡張規制リング36を適用した場合の拡張率の変化を示している。なお、一例として、拡張規制リング32の凸条部34の突出長は、後述するようにフレーム4の厚さと等しい1.5mmに設定し、拡張規制リング36の凸条部38の突出長は、4.5mmに設定した。
【0125】
図20は、拡張分割工程時のエキスパンドリング14の動作を示した概略図である。
図20には、
図19で示した線A、B、C、Dの拡張率を算出するための各部材の寸法が示されている。
【0126】
図20によれば、フレーム4の内径D1が350mm、フレーム4の厚さtが1.5mm、拡張規制リング16(32、36)の拡張規制用開口部16A(32A、36A)の径D2が338mmであることが示されている。
【0127】
また、
図20の符号xは、エキスパンドリング14の上昇移動による環状部領域3Bの突き上げ量を示している。更に、エキスパンドリング14の上端には、ダイシングテープ3との摩擦力を低減するローラ44が配置され、ローラ44の配置径D3が323.2mmであることが示されている。
図20の符号dは、ローラ44の直径を示している。なお、線Aの拡張率(%)は、ローラ44の直径dを5mmとして算出し、線B、C、Dの拡張率(%)は、ローラ44の直径dを7mmとして算出した。
【0128】
以下、
図19に基づいて、拡張規制リング16、32、36の各拡張率について説明する。
【0129】
まず、拡張規制リング16を適用(線B参照)すると、エキスパンドリング14の上昇移動により環状部領域3Bが突き上げられて拡張規制リング16に接触する。その接触直後からの拡張率が、拡張規制リングを適用しない場合(線A参照)の拡張率よりも高くなる。つまり、拡張規制リング16を適用すると、突き上げ量が約5.0mmを超えてからの拡張率が、拡張規制リングを適用しない場合の拡張率よりも高くなる。
【0130】
また、拡張規制リング32を適用(線C参照)すると、凸条部34の先端部34Aが環状部領域3Bに予め当接されている。このため、拡張規制リング32を適用すると、環状部領域3Bにエキスパンドリング14が接触した直後からの拡張率が、拡張規制リング16を適用した場合(線B参照)の拡張率よりも高くなる。
【0131】
また、拡張規制リング36を適用(線D参照)すると、凸条部38の先端部38が環状部領域3Bを予め押下しているので、環状部領域3Bにエキスパンドリング14が接触する以前に拡張率は既に0%を超えている。このため、拡張規制リング36を適用すると、環状部領域3Bにエキスパンドリング14が接触した直後からの拡張率が、拡張規制リング32を適用した場合(線C参照)の拡張率よりも高くなる。
【0132】
ここで、
図21は、
図19に示した線A、B、C、Dの各拡張率(%)の単位時間当たりの上昇率(以下、拡張率速度(%/sec)と言う。)の変化を示したグラフが示されている。
【0133】
図21のグラフは、拡張率速度(%/sec)が左縦軸に示され、環状部領域3Bの突き上げ速度(mm/sec)が右縦軸に示され、エキスパンドリング14の上昇移動による環状部領域3Bの突き上げ量(mm)が横軸に示されている。
【0134】
図21では、一例として、環状部領域3Bの突き上げ速度を一定とした場合における、拡張率速度の変化が示されている。拡張率速度が高いほど、ダイシングテープ3に発生する張力が大きくなりウェーハをチップ毎に分割する力が大きくなる。
【0135】
図21の線Eは、0.00mm~20.00mmまでの突き上げ量における突き上げ速度の変化を示している。換言すると線Eは、エキスパンドリング14の上昇移動速度を示している。線Eによれば、エキスパンドリング14は、0.00mm~約18.50mmの範囲内では一定の速度(200mm/sec)で上昇移動し、それ以降は減速しながら20.00mmまで上昇移動する。
【0136】
図21の線Fは、拡張規制リングを適用しない、
図19の線Aの拡張率に対応した拡張率速度の変化を示している。
【0137】
図21の線Gは、拡張規制用開口部16Aの径が338mmの拡張規制リング16を適用した場合の、
図19の線Bの拡張率に対応した拡張率速度の変化を示している。
【0138】
図21の線Hは、拡張規制用開口部32A、36Aの径が338mmの拡張規制リング32、36を適用した場合の、
図19の線C、Dの拡張率に対応した拡張率速度の変化を示している。なお、拡張規制リング36を適用した場合、環状部領域3Bはエキスパンドリング14による拡張前に凸条部38によって予め拡張されているが、拡張率速度に関しては拡張規制リング32を適用した場合と変わりはない。このため、拡張規制リング32、36を適用した場合の拡張率速度の変化を、同一の線Hで示している。
【0139】
図21の線F、G、Hで示す各拡張率速度によれば、突き上げ量に応じてそれぞれ上昇していき、突き上げ量が約18.50mmに到達した時点で最大(最大拡張率速度)となり、それ以降はそれぞれ下降していく。
【0140】
ここで、拡張規制リング16を適用(線G参照)すると、エキスパンドリング14の上昇移動により、環状部領域3Bが突き上げられて拡張規制リング16に接触する。その接触直後からの拡張率速度が、拡張規制リングを適用しない場合(線F参照)の拡張率速度よりも高くなっていく。具体的には、突き上げ量が約4.00mmを超えてからの拡張率速度が、拡張規制リングを適用しない場合の拡張率速度よりも高くなっていき、最大拡張率速度が拡張規制リングを適用しない場合よりも増加(約95%/secから約115%/secに増加)する。
【0141】
したがって、拡張規制リング16を適用することにより、拡張規制リングを適用しない場合よりも、ダイシングテープ3の拡張量が増加(
図19参照)するとともに、最大拡張率速度も増加してダイシングテープ3に発生する張力が増加するので、チップサイズが小チップの場合に生じる分割予定ラインの未分割問題を解消することができる。
【0142】
また、拡張規制リング32、36を適用した場合(線H参照)、環状部領域3Bにエキスパンドリング14が接触すると、接触直後からの拡張率速度が拡張規制リング16を適用した場合(線G参照)の拡張率速度よりも高くなっていく。また、拡張規制リング32、36を適用することにより、最大拡張率速度が拡張規制リングを適用しない場合よりも、増加(約95%/secから約115%/secに増加)する。
【0143】
したがって、拡張規制リング32、36を適用することにより、拡張規制リングを適用しない場合よりも、ダイシングテープ3の拡張量が増加(
図19参照)するとともに、最大拡張率速度も増加してダイシングテープ3に発生する張力が増加するので、既述の未分割問題を解消することができる。
【0144】
以上の如く、実施形態の拡張規制リング16、18、32、36、40、42を適用することにより、チップサイズが小チップの場合に生じる分割予定ラインの未分割問題を解消することができる。
【符号の説明】
【0145】
1…ウェーハ、2…ウェーハユニット、3…ダイシングテープ、3A…中央部領域、3B…環状部領域、3C…固定部領域、3D…当接部、3E…外周側領域、3F…内周側領域、3FA…内周側領域、3FB…内周側領域、4…フレーム、4A…裏面、5…分割予定ライン、6…チップ、7…フレーム固定部材、8…エキスパンドリング、10A…ワーク分割装置、10B…ワーク分割装置、10C…ワーク分割装置、10D…ワーク分割装置、10E…ワーク分割装置、10F…ワーク分割装置、12…フレーム固定部、14…エキスパンドリング、14A…拡張用開口部、16…拡張規制リング、16A…拡張規制用開口部、16B…内縁部、17…拡張規制部、18…拡張規制リング、18A…拡張規制用開口部、18B…内縁部、20…拡張規制リング、20A…拡張規制用開口部、22…ウェーハ、24…チップ、26…拡張規制リング、26A…拡張規制用開口部、28…ウェーハ、30…チップ、32…拡張規制リング、32A…拡張規制用開口部、34…凸条部、34A…先端部、36…拡張規制リング、36A…拡張規制用開口部、38…凸条部、38A…先端部、40…拡張規制リング、40A…拡張規制用開口部、42…拡張規制リング、42A…拡張規制用開口部、44…ローラ