(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】シリカ触媒を使用した2-オキサゾリジノン類の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 263/38 20060101AFI20241206BHJP
B01J 29/03 20060101ALI20241206BHJP
B01J 21/08 20060101ALI20241206BHJP
B01J 23/745 20060101ALI20241206BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20241206BHJP
【FI】
C07D263/38
B01J29/03 Z
B01J21/08 Z
B01J23/745 Z
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020151222
(22)【出願日】2020-09-09
【審査請求日】2023-06-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】崔 準哲
(72)【発明者】
【氏名】松尾 英明
【審査官】谷尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-132602(JP,A)
【文献】Catalysis Letters,2018年,148(6),p.1692-1702
【文献】Applied Organometallic Chemistry,2018年,32(1),e3941(p.1-10)
【文献】Applied Organometallic Chemistry,2016年,30(10),p.835-842
【文献】Tetrahedron Letters,2007年,48(12),p.2131-2134
【文献】Bulletin of the Chemical Society of Japan,2011年,84(7),p.698-717
【文献】Organometallics,2013年,32(19),p.5285-5288
【文献】Tetrahedron,2016年,72(9),p.1205-1212
【文献】Journal of the Chemical Society, Perkin Transactions 1: Organic and Bio-Organic Chemistry,1998年,(9),p.1541-1546
【文献】Hideaki MATSUO et al.,TETRAHEDRON LETTERS,2020年10月17日,61,152557(p.1-4)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 263/38
B01J 29/03
B01J 21/08
B01J 23/745
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカを
含有する触媒の存在下、下記一般式(I)で表されるプロパルギルアミン類と二酸化炭素を
、前記プロパルギルアミン類1molに対して前記シリカ1g以上を使用し、反応温度110℃以上で反応させて、下記一般式(II)で表される2-オキサゾリジノン類を生成させる環化反応工程を有
し、
前記シリカが、前記プロパルギルアミン類と二酸化炭素を反応させて前記2-オキサゾリジノン類を生成させる反応の有効成分である2-オキサゾリジノン類の製造方法。
【化1】
【化2】
(R
1
は、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、4-CF
3
C
6
H
4
基、または4-CNC
6
H
4
基を表す。R
2
およびR
3
は、水素原子、または炭素数1~6のアルキル基を表す。R
4は、
水素原子、炭素数1~7のアルキル基、またはベンジル基を表す。)
【請求項2】
請求項1において、
反応温度120~140℃で前記プロパルギルアミン類と二酸化炭素を反応させる2-オキサゾリジノン類の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
シリカがメソポーラスシリカである2-オキサゾリジノン類の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかにおいて、
前記触媒がシリカのみから構成される2-オキサゾリジノン類の製造方法。
【請求項5】
シリカを含有する触媒の存在下、下記一般式(I)で表されるプロパルギルアミン類と二酸化炭素を
、前記プロパルギルアミン類1molに対して前記シリカ1g以上を使用し、反応温度110℃以上で反応させて、下記一般式(II)で表される2-オキサゾリジノン類を生成させる環化反応工程を有
し、
前記触媒が、前記プロパルギルアミン類と二酸化炭素を反応させて前記2-オキサゾリジノン類を生成させる反応を進行させる触媒性金属および触媒性有機物を含有しない2-オキサゾリジノン類の製造方法。
【化1】
【化2】
(R
1
は、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、4-CF
3
C
6
H
4
基、または4-CNC
6
H
4
基を表す。R
2
およびR
3
は、水素原子、または炭素数1~6のアルキル基を表す。R
4は、
水素原子、炭素数1~7のアルキル基、またはベンジル基を表す。)
【請求項6】
請求項1、2、または5において、
前記触媒が、磁性ナノ粒子と、前記磁性ナノ粒子を被覆するシリカから構成されるシリカ被覆磁性ナノ粒子を備える2-オキサゾリジノン類の製造方法。
【請求項7】
請求項6において、
前記触媒が、前記シリカ被覆磁性ナノ粒子のみから構成される2-オキサゾリジノン類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、シリカ触媒を使用して2-オキサゾリジノン類を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2-オキサゾリジノン類は、抗生物質およびフラルタドン等の医農薬中間体として有用であることが知られている。また、二酸化炭素は無毒で安価である。このため、二酸化炭素を利用した2-オキサゾリジノン類の合成が求められている。例えば、二酸化炭素を炭素源とし、遷移金属錯体を触媒として、プロパルギルアミン類を原料とした2-オキサゾリジノン類の製造方法が報告されている(非特許文献1-3参照)。
【0003】
また、重金属使用の削減を図り、強塩基などの有機触媒を使用した2-オキサゾリジノン類の製造方法も報告されている(非特許文献4参照)。近年、グリーンケミストリーの観点から、触媒の回収・再利用(リサイクル)が求められている。シリカ固定化塩基触媒を用いて二酸化炭素を活性化し、プロパルギルアミン類を原料とした2-オキサゾリジノン類の製造方法が報告されており、反応終了後、反応液の濾過により触媒が回収され、触媒の再利用が可能となる(非特許文献5参照)。
【0004】
また、マグネタイト含有シリカ固定化金(I)錯体触媒を使用した2-オキサゾリジノン類の製造方法も最近報告されている。この製造方法では、反応終了後、磁石を反応容器に近づけて触媒を引き寄せ、デカンテーションにより反応溶液を取り出し、さらに反応容器に反応基質等を加えることにより、濾過操作をすることなく触媒を再利用できる(非特許文献6参照)。しかしながら、固相担体固定化触媒は、多くの場合多段階で合成されるため、その合成は容易でない。また、貴金属を含有する触媒は高価であるため、安価で入手できる触媒の出現が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】「ビュレタン・オブ・ケミカル・ソサイアティー・オブ・ジャパン(Bull.Chem.Soc.Jpn)」、2011年、第84巻、p.698
【文献】「オルガノメタリクス(Organometallics)」、2013年、第32巻、p.5285
【文献】「テトラヘドロン(Tetrahedron)」、2016年、第72巻、p.1205
【文献】「ジャーナル・オブ・ケミカル・ソサイアティー・パーキン・トランスアクション(J.Chem.Soc.,Perkin Trans.1)」、1998年、p.1541
【文献】「テトラヘドロン・レターズ(Tetrahedron Lett.)」、2007年、第48巻、p.2131
【文献】「アプライド・オルガノメタリック・ケミストリー(Appl.Organometal.Chem.)」、2016年、第30巻、p.835
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願は、安価で入手でき、再利用可能な触媒を使用して、2-オキサゾリジノン類を製造できる新規な製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、シリカ触媒を使用することにより、プロパルギルアミン類と二酸化炭素から2-オキサゾリジノン類が生成することを見出し、本願で開示する発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本願のある態様の2-オキサゾリジノン類の製造方法は、シリカを有効成分とする触媒の存在下、下記一般式(I)で表されるプロパルギルアミン類と二酸化炭素を反応させて、下記一般式(II)で表される2-オキサゾリジノン類を生成させる環化反応工程を有する。
【0009】
【0010】
【0011】
R1、R2、R3、およびR4は、それぞれ独立して水素原子、または窒素原子、酸素原子、硫黄原子、およびハロゲン原子の少なくとも一種を含んでいてもよい炭素数1~20の置換基を表す。R2とR3は結合して環を形成していてもよい。
【0012】
本願の他の態様の2-オキサゾリジノン類の製造方法は、触媒性金属および触媒性有機物を含有せずに、シリカを含有する触媒の存在下、上記一般式(I)で表されるプロパルギルアミン類と、二酸化炭素を反応させて、上記一般式(II)で表される2-オキサゾリジノン類を生成させる環化反応工程を有する。なお、R1、R2、R3、およびR4は上記と同じである。
【発明の効果】
【0013】
本願の2-オキサゾリジノン類の製造方法は、シリカを有効成分とする触媒、または触媒性金属および触媒性有機物を含有せずに、シリカを含有する触媒を使用する。このため、安価で入手でき、再利用可能な触媒を使用して、2-オキサゾリジノン類を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本願の2-オキサゾリジノン類の製造方法について、具体例を挙げて以下で説明する。しかし、本願の趣旨を逸脱しない限り、本願の2-オキサゾリジノン類の製造方法は、以下の内容に限定されるものではなく、適宜変更して実施することができる。なお、本願では、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載される数値を下限値および上限値として含む。
【0015】
本願発明者らは、医農薬中間体として有用な2-オキサゾリジノン類を製造できる新規な製造方法を求めて検討を重ねた結果、シリカ触媒存在下で、プロパルギルアミン類と二酸化炭素から2-オキサゾリジノン類が生成する環化反応工程を見出した。シリカは、触媒としては安価で入手できる。また、無毒で安価、さらに地球温暖化の原因の1つとして考えられている二酸化炭素を利用できる。すなわち、本願の実施形態の2-オキサゾリジノンの製造方法は、シリカを有効成分とする触媒の存在下、下記一般式(I)で表されるプロパルギルアミン類と二酸化炭素を反応させて、下記一般式(II)で表される2-オキサゾリジノン類を生成させる環化反応工程を備えている。
【0016】
【0017】
【0018】
R1、R2、R3、およびR4は、それぞれ独立して、水素原子であってもよいし、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、およびハロゲン原子の少なくとも一種を含んでいてもよい炭素数1~20の置換基であってもよい。「窒素原子、酸素原子、硫黄原子、およびハロゲン原子の少なくとも一種を含んでいてもよい」とは、アミノ基(-NH2)、ヒドロキシ基(-OH)、メルカプト基(-SH)、またはフルオロ基(-F)等に含まれる窒素原子、酸素原子、硫黄原子、およびハロゲン原子の少なくとも一種を含んでいてもよいこと、ならびにイミノ基(-NH-)、エーテル基(-O-)、カルボニル基(-C(=O)-)、またはチオエーテル基(-S-)等の窒素原子、酸素原子、または硫黄原子を含む連結基を炭素骨格の間に含んでいてもよいことを示す。
【0019】
また、炭素数1~20の置換基は、炭素数1~20の炭化水素基、または炭化水素基の炭素もしくは水素の少なくとも一部が上記の窒素原子等で置換され、置換後の炭素数が1~20である置換基である。この炭化水素基は、直鎖状の飽和炭化水素基に限定されず、炭素-炭素不飽和結合、分岐構造、および環状構造の一種以上を含んでいてもよい。また、R2とR3は結合して環を形成していてもよい。環化反応工程は、下記の化学反応式で表される。
【0020】
【0021】
触媒中のシリカがプロパルギルアミン類の三重結合を活性化させることによって、この環化反応が進行すると考えられる。より詳細には、下記の反応機構で表されるように、シリカ表面上の水酸基-π相互作用によるプロパルギルアミン類の三重結合の活性化により、環化反応が進行すると考えられる。触媒はシリカのみから構成されていてもよい。なお、シリカとシリカ以外の不可避的不純物から構成される触媒も、シリカのみから構成される触媒に該当する。
【0022】
【0023】
シリカの具体的種類は特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。シリカには、結晶構造を有する結晶質シリカと結晶構造を有しない非晶質シリカに大別される。本実施形態の2-オキサゾリジノンの製造方法に用いられる触媒中のシリカはいずれでもよい。結晶質シリカとしては、MCM-41またはSBA-15などのメソポーラスシリカが挙げられる。非晶質シリカとしては、CARiACT Q-6またはクロマト用シリカなどのシリカゲルが挙げられる。これらの中でも、シリカはメソポーラスシリカであることが好ましい。2-オキサゾリジノン類が高収率で得られるからである。
【0024】
シリカの粒径は、0.5nm~5mmが好ましく、0.1~300μmがより好ましい。シリカは、反応溶媒となり得るほとんどの有機溶媒に不溶である。このため、反応終了後に反応液を濾過することにより、シリカを回収でき、触媒の再利用(リサイクル)が可能である。本実施形態の2-オキサゾリジノンの製造方法では、触媒性金属および触媒性有機物を含有せずに、シリカを含有する触媒を用いてもよい。シリカを含有する触媒に触媒性金属および触媒性有機物が含有されていなくても、環化反応が十分進行するからである。また、触媒性金属および触媒性有機物が含有されない触媒は、安価で入手できるからである。
【0025】
触媒は、磁性ナノ粒子と、この磁性ナノ粒子を被覆するシリカから構成されるシリカ被覆磁性ナノ粒子を備えていてもよい。反応終了後、磁石に引き寄せることによって触媒を回収でき、触媒のリサイクルが可能となるからである。磁性ナノ粒子としては、マグへマイト(γ-Fe2O3)等の磁性鉄化合物ナノ粒子などが挙げられる。磁性ナノ粒子としては、M(II)Fe2O4を組成とするフェライトナノ粒子が好ましく、マグネタイトFe3O4を主成分とする(例えば50wt%以上含有する)磁性ナノ粒子がより好ましい。M(II)としては、Fe2+、Co2+、Ni2+、Mn2+、Zn2+、Mg2+、Cu2+、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0026】
シリカ被覆磁性ナノ粒子は、例えば以下の方法によって作製できる。まず、水中で磁性ナノ粒子を調製する。つぎに、この懸濁液にテトラエトキシシランを添加し、激しく撹拌することにより、シリカ被覆磁性ナノ粒子が得られる。また、シリカ被覆磁性ナノ粒子は水懸濁液として市販されており、分散媒である水を反応溶媒に置換することによりそのまま利用できる。
【0027】
磁性ナノ粒子の一次粒子の粒径は、0.5~1000nmが好ましく、5~100nmがより好ましい。なお、磁性ナノ粒子の一次粒子は、一般に凝集していることが多い。シリカ被覆磁性ナノ粒子中のシリカは、一つの磁性ナノ粒子を被覆していてもよいし、複数の磁性ナノ粒子を被覆していてもよい。また、シリカの質量に対する磁性ナノ粒子の質量の比(磁性ナノ粒子の質量/シリカの質量)は限定されないが、通常100以下、好ましくは10以下であり、通常0.1以上、好ましくは1以上である。触媒は、シリカ被覆磁性ナノ粒子のみから構成されていてもよい。なお、シリカ被覆磁性ナノ粒子とシリカ被覆磁性ナノ粒子以外の不可避的不純物から構成される触媒も、シリカ被覆磁性ナノ粒子のみから構成される触媒に該当する。
【0028】
環化反応工程における触媒の使用量は、プロパルギルアミン類1mmolに対して、通常1mg以上、好ましくは10mg以上、より好ましくは50mg以上であり、通常5g以下、好ましくは1g以下、より好ましくは200mg以下である。2-オキサゾリジノン類が高収率で得られるからである。2-オキサゾリジノン類は、製造目的に応じて適宜選択できる。そして、原料のプロパルギルアミン類は、製造する2-オキサゾリジノン類に応じて選択される。
【0029】
R1が水素原子以外の置換基である場合、R1の炭素数は、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくは4以上であり、好ましくは15以下、より好ましくは10以下である。R2およびR3が水素原子以外の置換基である場合、R2およびR3の炭素数は、好ましくは15以下、より好ましくは12以下、さらに好ましくは6以下である。R4が水素原子以外の置換基である場合、R4の炭素数は、好ましくは15以下、より好ましくは12以下、さらに好ましくは7以下である。
【0030】
また、R1、R2、R3、およびR4に含まれる官能基としては、アミノ基(-NH2)、ニトロ基(-NO2)、シアノ基(-CN)、ヒドロキシ基(-OH)、メルカプト基(-SH)、フルオロ基(-F)、クロロ基(-Cl)、ブロモ基(-Br)、カルボキシ基(-COOH)、イミノ基(-NH-)、エーテル基(-O-)、カルボニル基(-C(=O)-)、およびチオエーテル基(-S-)などが挙げられる。
【0031】
R1、R2、R3、およびR4としては、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、およびt-ブチル基等のアルキル基、フェニル基、シアノフェニル基、メトキシフェニル基、メチルフェニル基、(トリフルオロメチル)フェニル基、およびクロロフェニル基等のアリール基、ならびにベンジル基およびジフェニルメチル基等のアラルキル基が挙げられる。
【0032】
これらの中でも、R1は、水素原子、フェニル基、シアノフェニル基、メトキシフェニル基、メチルフェニル基、(トリフルオロメチル)フェニル基、およびクロロフェニル基等のアリール基が好ましく、水素原子、フェニル基、シアノフェニル基、および(トリフルオロメチル)フェニル基が特に好ましい。また、R2およびR3は、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、およびt-ブチル基等のアルキル基、ならびにベンジル基等のアラルキル基が好ましく、水素原子およびメチル基が特に好ましい。また、R4は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、およびt-ブチル基等のアルキル基、ならびにベンジル基等のアラルキル基が好ましく、メチル基およびベンジル基が特に好ましい。
【0033】
環化反応工程での具体的な操作手順および反応条件等は特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。なお、二酸化炭素は、室温~反応温度・常圧で気体であるため、通常、反応容器内に気相として投入して、プロパルギルアミン類と気液反応させる。回分式反応容器で反応を行う場合、反応容器にプロパルギルアミン類、触媒、および溶媒を投入し、反応容器内を所定の反応温度まで昇温した後、反応容器内に二酸化炭素ガスを充填して圧力を設定し、撹拌しながら所定の反応時間反応させる。反応温度は、通常30℃以上、好ましくは70℃以上、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは120℃以上であり、通常250℃以下、好ましくは180℃以下、より好ましくは140℃以下である。2-オキサゾリジノン類が高収率で得られるからである。
【0034】
二酸化炭素が反応によって消費されるため、反応の進行とともに反応容器内の圧力が低下する。したがって、反応容器内に絶えず二酸化炭素を供給して圧力を保持するか、十分な二酸化炭素を反応容器内に予め充填しておけばよい。反応開始時の反応容器内の圧力を反応圧力とすると、反応圧力の下限は反応スケールおよび反応容器の体積にもよるが、反応圧力は、通常0.001MPa以上、好ましくは0.1MPa以上、より好ましくは1MPa以上であり、通常10MPa以下、好ましくは7MPa以下、より好ましくは5MPa以下である。
【0035】
なお、反応圧力を高く設定できるため、耐圧性の金属製反応容器(オートクレーブ)を反応容器として使用することが好ましい。気相には、二酸化炭素ガスのほかに、窒素ガスまたはアルゴンガス等の不活性ガスなどが共存していてもよい。二酸化炭素ガスと不活性ガスが共存する場合、上記の反応圧力の範囲は、反応開始時の反応容器内の二酸化炭素ガスの分圧の範囲に置き換えられる。
【0036】
溶媒は使用してもしなくてもよい。溶媒を使用する場合、溶媒は、トルエン、キシレン、オクタン、ノナン、およびデカンなどの炭化水素系溶媒が好ましい。なお、溶媒は、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、もしくはt-ブタノールなどのアルコール系溶媒、またはアセトニトリル、プロピオニトリル、アセトン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、もしくはジオキサンなどの非プロトン性溶媒であってもよい。
【0037】
反応時間は、通常0.5時間以上、好ましくは3時間以上、より好ましくは6時間以上であり、通常72時間以下、好ましくは48時間以下、より好ましくは24時間以下である。反応終了後、反応液をグラスフィルターで濾過することにより、触媒を回収できる。回収した触媒と反応基質等を再度反応容器に添加することにより、触媒を再利用できる。シリカ被覆磁性ナノ粒子を備える触媒を使用する場合、反応終了後、磁石を反応容器に近づけ触媒を引き寄せ、デカンテーションにより反応溶液を取り出すことにより、触媒を回収できる。そして、再度反応容器に反応基質等を添加することにより、触媒を再利用できる。このように、簡便な操作で触媒のリサイクルが可能である。
【0038】
触媒を回収した後、反応溶液の1H NMR測定より、2-オキサゾリジノン類が生成したことが確認される。また、反応溶液を濃縮した後、カラムクロマトグラフィーによる分離精製によって、生成物を単離できる。カラムクロマトグラフィーの溶離液は、酢酸エチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル、およびプロピオン酸メチル等のエステル系溶媒、ヘキサンおよびトルエン等の炭化水素系溶媒、メタノールおよびエタノール等のアルコール系溶媒、ハロゲン系溶媒、ならびにこれらの混合溶媒が使用できるが、特に制限はない。
【実施例】
【0039】
以下に実施例と比較例を挙げて本願の発明をさらに具体的に説明する。本願の趣旨を逸脱しない限り、本願の発明は適宜変更できる。したがって、本願の発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0040】
実施例1~3、比較例1~4:触媒の種類
アルゴン雰囲気下、室温にて、下記化学式(III)で表されるプロパルギルアミン類(0.4mmol)、トルエン(1mL)、および下記の表1に記載した各種触媒(80mg)を、反応容器であるオートクレーブに投入し密閉した後、120℃に加熱し、二酸化炭素ガスを3MPa充填し、反応液を撹拌しながらそれぞれ5時間反応させた。なお、実施例1ではQ-6(富士シリシア化学、CARiACT Q-6)、実施例2ではMCM-41(Aldrich、643645)、実施例3ではSBA-15(Aldrich 777242)のそれぞれシリカを、110℃において真空減圧下20時間乾燥して用いた。塩基性アルミナ(比較例1)と酸性アルミナ(比較例2)は、この乾燥条件において質量の減少がみられなかったため、またハイドロタルサイト(比較例3)は、組成式中に水分子を含んでいるため、市販の試薬をそのまま用いた。また、比較例4では触媒を使用しなかった。
【0041】
【0042】
反応終了後、氷冷下でオートクレーブから二酸化炭素ガスを抜き、オートクレーブ内を常圧とした。触媒を濾別し、ジクロロメタンで触媒を洗浄した。反応溶液と触媒洗浄液の混合液に、2-(ベンジルオキシ)ナフタレンを内部標準として加えて溶解させた後、一部を取り出して減圧下で溶媒留去した。1H NMRより上記化学式(IV)で表される2-オキサゾリジノン類の構造を特定し、この2-オキサゾリジノン類の収率を算出した(以下同様)。結果を表1に示す。表1に示すように、メソポーラスシリカであるMCM-41を使用した場合、最も高収率で2-オキサゾリジノン類が得られた。
【0043】
【0044】
実施例4~5:触媒の量
触媒の質量を20mgまたは40mgに変更したことを除いて、SiO2(MCM-41)を用いた実施例2と同様にして2-オキサゾリジノン類を合成した。結果を表2に示す。表2に示すように、触媒を40mg用いた場合、最も高収率で2-オキサゾリジノン類が得られた。
【0045】
【0046】
実施例6~11:二酸化炭素の圧力と反応温度
二酸化炭素の圧力と反応温度を表3に記載のように変更したこと、および反応時間を3時間に変更したことを除いて、実施例5と同様にして2-オキサゾリジノン類を合成した。結果を表3に示す。表3に示すように、二酸化炭素の圧力が5MPaで反応温度が120~140℃のとき、高収率で2-オキサゾリジノン類が得られた。
【0047】
【0048】
実施例12~17:各種2-オキサゾリジノン類の合成
表4に記載の反応条件で、実施例9と同様の操作によって、各種2-オキサゾリジノン類を合成した(下記化学反応式参照)。ただし、実施例13では、室温にて二酸化炭素ガスを5MPa充填した後に反応温度まで昇温した。反応温度に到達したときのオートクレーブ内のゲージ圧は5.98MPaであった。結果を表4に示す。表4に示すように、各種プロパルギルアミン類から各種2-オキサゾリジノン類が得られた。
【0049】
【0050】
【0051】
また、実施例12で得られた上記化学式(IV)で表される2-オキサゾリジノン類を以下の手順で単離精製した。反応終了後、氷冷下でオートクレーブから二酸化炭素ガスを抜き、オートクレーブ内を常圧とした。触媒を濾別し、ジクロロメタンで触媒を洗浄した。反応溶液と触媒洗浄液の混合液を減圧留去し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン-酢酸エチル)により精製した(収率84%)。
【0052】
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ/ppm 7.40-7.30(m,3H),7.29-7.26(m,2H),4.74(td,1H,J=3.0,2.7Hz),4.47(s,2H),4.24(td,1H,J=3.1,2.2Hz),4.02(dd,2H,J=2.4,2.4Hz).
【0053】
実施例18:触媒の再利用
アルゴン雰囲気下、室温にて、下記化学式(V)で表されるプロパルギルアミン類(4mmol)、トルエン(5mL)、およびSiO2(MCM-41)(400mg)を、オートクレーブに投入し密閉した後、二酸化炭素ガスを5MPa充填した。そして、110℃に加熱し(オートクレーブ内のゲージ圧は6.60MPa)、反応液を撹拌しながら10時間反応させた(下記化学反応式参照)。
【0054】
【0055】
反応終了後、氷冷下でオートクレーブから二酸化炭素ガスを抜き、オートクレーブ内を常圧とした。アルゴン雰囲気下で触媒を濾別し、ジクロロメタンと2-プロパノールで触媒を洗浄した。真空乾燥後、回収した触媒をオートクレーブに投入し、再利用した。一方、実施例1と同様にして、反応溶液と触媒洗浄液の混合液に含まれており、上記化学式(VI)で表される2-オキサゾリジノン類の構造を特定し、この2-オキサゾリジノン類の収率を68%と算出した(利用1回目)。これを繰り返して、触媒の利用2回目~利用10回目の2-オキサゾリジノン類の収率を算出した。その結果、2-オキサゾリジノン類の収率は、74%(利用2回目)~81%(利用5回目、利用7回目、利用8回目)であった。すなわち、触媒を再利用しても、2-オキサゾリジノン類が高収率で得られた。
【0056】
実施例19~23、比較例5~6、参考例1:シリカ被覆マグネタイト触媒
アルゴン雰囲気下、シリカSiO2の質量に対するマグネタイトFe3O4の質量の比(Fe3O4の質量/SiO2の質量)が4であるシリカ被覆マグネタイト(SiO2/Fe3O4)0.5gを水25mLに懸濁させた懸濁液(コスモバイオ、TS-1010-1)4mLをオートクレーブに加え、オートクレーブ外壁に磁石を近づけて、シリカ被覆マグネタイトをオートクレーブ内壁に引き寄せた後、デカンテーションによりオートクレーブ内の水を除いた。2-プロパノールをオートクレーブ内に加えてよく振った後、デカンテーションを行うことを3回繰り返した。さらに、トルエンをオートクレーブ内に加えてよく振った後、デカンテーションを行うことを3回繰り返した。こうして、トルエンに含浸されたシリカ被覆マグネタイトがオートクレーブ内に得られた。
【0057】
アルゴン雰囲気下、室温にて、上記化学式(III)で表されるプロパルギルアミン類(0.4mmol)とトルエン(4mL)をこのオートクレーブに投入し密閉した後、二酸化炭素ガスを1~3MPa充填し、表5に記載の反応温度に加熱し、反応液を撹拌しながら20時間反応させて、上記化学式(IV)で表される2-オキサゾリジノン類を合成した。反応終了後、氷冷下でオートクレーブから二酸化炭素ガスを抜き、オートクレーブ内を常圧とした。オートクレーブ外壁に磁石を近づけることにより、シリカ被覆マグネタイトをオートクレーブ内壁に引き寄せ、反応溶液をデカンテーションし、さらに2-プロパノールで4回、トルエンで3回洗浄した(実施例19~23)。
【0058】
一方、比較例5では触媒を使用しなかった。また、比較例6と参考例1では、アルゴン雰囲気下、室温にて、原料のプロパルギルアミン類(0.4mmol)、トルエン(4mL)、および触媒(80mg)を空のオートクレーブに投入し、その後は実施例19~23と同様にして反応させた。なお、参考例1では、実施例1と同様にして、反応溶液と触媒洗浄液の混合液を得て収率を求めた。結果を表5に示す。表5に示すように、表面にシリカが存在するシリカ被覆マグネタイトによって、反応が促進されることがわかった。また、二酸化炭素の圧力が2~3MPaで反応温度が120℃のとき、高収率で2-オキサゾリジノン類が得られた。
【0059】
【0060】
実施例24:シリカ被覆マグネタイト触媒の再利用
実施例19の反応終了後、氷冷下でオートクレーブから二酸化炭素ガスを抜き、オートクレーブ内を常圧とした。アルゴン雰囲気下でオートクレーブ外壁に磁石を近づけて、シリカ被覆マグネタイトをオートクレーブ内壁に引き寄せ、反応溶液をデカンテーションした。さらに、2-プロパノールで4回、トルエンで3回、シリカ被覆マグネタイト触媒を洗浄した。シリカ被覆マグネタイト触媒が存在するこのオートクレーブに、原料のプロパルギルアミン類とトルエンを投入し、実施例19と同様にして再度反応を行った。これを繰り返して、触媒の利用2回目~利用7回目の2-オキサゾリジノン類の収率を算出した。その結果、2-オキサゾリジノン類の収率は、82%(利用6回目)~89%(利用2回目、利用3回目)であった。すなわち、触媒を再利用しても、2-オキサゾリジノン類が高収率で得られた。
【0061】
実施例25~29:シリカ被覆マグネタイト触媒を使用した各種2-オキサゾリジノン類の合成
表6に記載の反応条件で、実施例19と同様の操作によって、各種2-オキサゾリジノン類を合成した(下記化学反応式参照)。ただし、実施例27~29では、反応容器を密閉後、反応温度まで昇温した後、二酸化炭素ガスを充填した。結果を表6に示す。表6に示すように、各種プロパルギルアミン類から各種2-オキサゾリジノン類が得られた。
【0062】
【0063】