(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】ジメチルシリル基を有する有機ケイ素化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 7/08 20060101AFI20241206BHJP
B01J 31/02 20060101ALI20241206BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20241206BHJP
【FI】
C07F7/08 C
B01J31/02 Z
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020175890
(22)【出願日】2020-10-20
【審査請求日】2023-07-13
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「有機ケイ素機能性化学品製造プロセス技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】松本 和弘
(72)【発明者】
【氏名】河津 貴大
(72)【発明者】
【氏名】崔 準哲
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一彦
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-500321(JP,A)
【文献】特表2016-529303(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02845857(EP,A1)
【文献】米国特許第07148370(US,B1)
【文献】特表2014-530205(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0247408(US,A1)
【文献】Jomon Mathew, et al. ,Tris(pentafluorophenyl)borane-Catalyzed Reactions of Siloxanes: A Combined Experimental and Computational Study,European Journal of Organic Chemistry,2017年,Vol.2017, No.33,4922-4927
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 7/08
B01J 31/02
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(B-1
)で表されるジメチルシリル基を有する有機ケイ素化合物を製造する方法であって、
【化1】
(式(B-1
)中、R
1~R
3はそれぞれ独立して、水素原子、又は少なくとも1種のハロゲン原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基を表す。但し、R
1~R
3の2以上が炭化水素基である場合、R
1~R
3の2以上の炭化水素基が連結して環状構造を形成していてもよい。)
トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、および、下記式(A)で表される化合物の存在下、1,1,3,3,5,5,7,7-オクタメチルテトラシロキサンから不均化反応によりジメチルシランを生じさせる工程であって、前記ジメチルシランが前記式(A)で表される化合物をヒドロシリル化し、式(B
-1)で表されるジメチルシリル基を有する有機ケイ素化合物を生成する工程を含む、製造方法:
【化2】
(式(A)中、R
1~R
3はそれぞれ独立して、水素原子、又は少なくとも1種のハロゲン原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基を表す。但し、R
1~R
3の2以上が炭化水素基である場合、R
1~R
3の2以上の炭化水素基が連結して環状構造を形成していてもよい。)
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法であって、前記不均化反応および前記ヒドロシリル化反応が同一の反応容器内で行われる、製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法であって、
前記工程により得られたジメチルシリル基を有する有機ケイ素化合物を精製する工程をさらに含む、製造方法。
【請求項4】
トリス(ペンタフルオロフェニル)ボランを触媒として使用する方法であって、
下記式(A)で表される化合物と1,1,3,3,5,5,7,7-オクタメチルテトラシロキサンとを用いて
下記式(B-1)で表されるジメチルシリル基を有する有機ケイ素化合物を製造する方法において、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボランを触媒として使用する方法。
【化2】
【化1】
(式(A)および式(B-1)中、R
1
~R
3
はそれぞれ独立して、水素原子、又は少なくとも1種のハロゲン原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基を表す。但し、R
1
~R
3
の2以上が炭化水素基である場合、R
1
~R
3
の2以上の炭化水素基が連結して環状構造を形成していてもよい。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はジメチルシリル基を有する有機ケイ素化合物の製造方法に関し、より詳しくは、1,1,3,3,5,5,7,7-オクタメチルテトラシロキサンを触媒量のトリス(ペンタフルオロフェニル)ボランの存在下で不均化させることで発生させたジメチルシランを用いてアルケンをヒドロシリル化することによる、ジメチルシリル基を有する有機ケイ素化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジメチルシランは常温常圧で気体であり、高い可燃性を有することから、その取り扱いには細心の注意を要する。例えば、ジメチルシランガスを充填したガスボンベをシリンダーキャビネット内に設置するなどのガス漏洩対策が必要となる。また、液相での合成反応に用いる場合には、気体であるため、所定量を反応溶液に正確に導入して反応させることが困難である。この困難さは反応スケールが少量になればなるほど顕著になる。
そのため、取り扱いの容易な前駆体からジメチルシランを発生させ、同一の反応容器内で目的とする反応に用いる手法が開発されている。例えば、Oestreichらは、触媒量のトリス(ペンタフルオロフェニル)ボランの存在下で、シクロヘキサ-2,5-ジエン-1-イルジメチルシランからジメチルシランを発生させ、これを用いたアルケンのヒドロシリル化やアルコールとの脱水素縮合を報告している(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。しかしながら、シクロヘキサ-2,5-ジエン-1-イルジメチルシランの合成には、自然発火性物質であるアルキルリチウムを使用しなければならないという問題がある。加えて、末端アルケンの一種であるスチレンを基質に用いた場合には、発生させたジメチルシランとスチレンが1対2で反応した生成物のみが得られ、1対1で反応した生成物を得ることはできない。
一方、安定で取り扱いの容易な液体である1,1,3,3,5,5,7,7-オクタメチルテトラシロキサンは、触媒量のトリス(ペンタフルオロフェニル)ボランの存在下で不均化反応を起こし、ジメチルシランとヘキサメチルシクロトリシロキサンを生じることが知られている(特許文献2、非特許文献2参照)。しかしながら、この不均化反応は平衡反応であり、発生させたジメチルシランを同一の反応容器内で別の合成反応に用いた例は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】欧州公開公報2845857号
【文献】米国特許第7148370号
【非特許文献】
【0004】
【文献】A.Simonneau,M.Oestreich,Angew.Chem.Int.Ed.,2013,52,11905.
【文献】A.Simonneau,J.Friebel,M.Oestreich,Eur.J.Org.Chem.,2014,2077.
【文献】J.Chojnowsk,W.Fortuniak,J.Kurjata,S.Rubinsztajn,J.A.Cella,Macromolecules,2006,39, 3802.
【文献】J.Chojnowsk, S.Rubinsztajn, J.A.Cella, W.Fortuniak, M.Cypryk, J.Kurjata, K.Kazmierski, Organometallics 2005, 24, 6077-6084.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、ジメチルシリル基を有する有機ケイ素化合物の簡便な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、1,1,3,3,5,5,7,7-オクタメチルテトラシロキサンの不均化によりジメチルシランを発生させる触媒であるトリス(ペンタフルオロフェニル)ボランが、アルケンのヒドロシリル化反応の触媒としても知られていることに着目し、不均化反応を行う反応容器内にアルケンを加えておくことで、不均化反応とヒドロシリル化反応が同時に進行して、目的とするジメチルシリル基を有する有機ケイ素化合物が効率よく得られることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は以下を含む。
<1>下記式(B-1)または(B-2)で表されるジメチルシリル基を有する有機ケイ素化合物を製造する方法であって、
【化1】
(式(B-1)、(B-2)中、R
1~R
3はそれぞれ独立して、水素原子、又は少なくとも1種のハロゲン原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基を表す。但し、R
1~R
3の2以上が炭化水素基である場合、R
1~R
3の2以上の炭化水素基が連結して環状構造を形成していてもよい。)
トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、および、下記式(A)で表される化合物の存在下、1,1,3,3,5,5,7,7-オクタメチルテトラシロキサンから不均化反応によりジメチルシランを生じさせる工程であって、前記ジメチルシランが前記式(A)で表される化合物をヒドロシリル化し、式(B)で表されるジメチルシリル基を有する有機ケイ素化合物を生成する工程を含む、製造方法に関する:
【化2】
(式(A)中、R
1~R
3はそれぞれ独立して、水素原子、又は少なくとも1種のハロゲン原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基を表す。但し、R
1~R
3の2以上が炭化水素基である場合、R
1~R
3の2以上の炭化水素基が連結して環状構造を形成していてもよい。)
【0007】
ここで、本発明の製造方法の一実施の形態は、
<2>上記<1>に記載の製造方法であって、前記不均化反応および前記ヒドロシリル化反応が同一の反応容器内で行われることを特徴とする。
また、本発明の製造方法の一実施の形態は、
<3>上記<1>または<2>に記載の製造方法であって、
前記工程により得られたジメチルシリル基を有する有機ケイ素化合物を精製する工程をさらに含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明は別の態様において、
<4>トリス(ペンタフルオロフェニル)ボランを触媒として使用する方法であって、
アルケンと1,1,3,3,5,5,7,7-オクタメチルテトラシロキサンとを用いてジメチルシリル基を有する有機ケイ素化合物を製造する方法において、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボランを触媒として使用する方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、可燃性のガスであるため取り扱いが困難であるジメチルシランを直接用いることなく、安定で取り扱いの容易な液体である1,1,3,3,5,5,7,7-オクタメチルテトラシロキサンの不均化反応によってジメチルシランを発生させて、これをアルケンのヒドロシリル化反応に用いることで、合成化学上有用なビルディングブロックであるジメチルシリル基を有する有機ケイ素化合物の簡便な製造方法が提供される。また、1,1,3,3,5,5,7,7-オクタメチルテトラシロキサンからジメチルシランを発生させるための触媒とアルケンのヒドロシリル化反応の触媒が同一であるため、複数の触媒を用いる必要がない。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の詳細を説明するに当たり、具体例を挙げて説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り以下の内容に限定されるものではなく、適宜変更して実施することができる。
【0011】
<ジメチルシリル基を有する有機ケイ素化合物の製造方法>
本発明の一態様であるジメチルシリル基を有する有機ケイ素化合物の製造方法は、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボランの存在下、1,1,3,3,5,5,7,7-オクタメチルテトラシロキサンの不均化反応によって発生させたジメチルシランが、下記式(A)で表されるアルケンをヒドロシリル化することで下記式(B-1)~(B-2)で表されるジメチルシリル基を有する有機ケイ素化合物を生成する反応工程を含むことを特徴とする。
【化3】
(式(A)及び式(B-1)~(B-2)中、R
1~R
3はそれぞれ独立して、水素原子、又は少なくとも1種のハロゲン原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基を表す。但し、R
1~R
3の2以上が炭化水素基である場合、R
1~R
3の2以上の炭化水素基が連結して環状構造を形成していてもよい。)
【0012】
本発明者らは、ジメチルシリル基を有する有機ケイ素化合物の製造方法について検討を重ねた結果、取り扱いが困難なジメチルシランガスを用いなくても、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボランの存在下、1,1,3,3,5,5,7,7-オクタメチルテトラシロキサンの不均化反応によってジメチルシランを発生させ、これを様々なアルケンのヒドロシリル化反応に用いることができ、合成化学上有用なビルディングブロックであるジメチルシリル基を有する有機ケイ素化合物の簡便な製造方法となり得ることを見出した。
本発明のジメチルシリル基を有する有機ケイ素化合物の製造方法は、好ましい実施の形態において、1,1,3,3,5,5,7,7-オクタメチルテトラシロキサンの不均化反応によって発生させたジメチルシランを、不均化反応と同一の反応容器内で上記式(A)で表されるアルケンをヒドロシリル化させる。同じ触媒を用いることができることから同一の反応容器内で不均化反応とヒドロシリル化を行うことで、取り扱いが困難であるジメチルシランを直接用いることなく、より簡便にジメチルシリル基を有する有機ケイ素化合物を製造することができる。
【0013】
式(A)中、R
1~R
3はそれぞれ独立して、水素原子、又は少なくとも1種のハロゲン原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基を表しているが、「炭化水素基」は、分岐構造及び/又は環状構造を有していてもよく、飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基等の何れであってもよいものとする。また、「R
1~R
3の2以上が炭化水素基である場合、R
1~R
3の2以上の炭化水素基が連結して環状構造を形成していてもよい」が、環状構造を形成している式(A)で表されるアルケンとしては、下記式で表されるものが挙げられる。
【化4】
【0014】
R1~R3の具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、iso-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-イコシル基等のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、4-メチルフェニル基、2,4-ジメチルフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-ピレニル基、2-ピレニル基、4-ピレニル基、1-トリフェニレニル基、2-トリフェニレニル基等の芳香族炭化水素基;ベンジル基、フェネチル基、1-ナフチルメチル基、2-ナフチルメチル基等のアラルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;2-クロロフェニル基、3-クロロフェニル基、4-クロロフェニル基、4-ブロモフェニル基、4-ヨードフェニル基、4-トリフルオロメチルフェニル基等のハロゲン原子を含む置換基を有していてもよい置換フェニル基等が挙げられる。
【0015】
R1~R3としては、入手容易性の観点から、好ましくは少なくとも1種のハロゲン原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、より好ましくは少なくとも1種のハロゲン原子を含んでいてもよい、炭素原子数1~20のアルキル基若しくはアルケニル基、又は炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり;さらに好ましくは、炭素数1~10のアルキル基若しくはアルケニル基、又は少なくとも1種のハロゲン原子を含んでいてもよい炭素原子数6~10の芳香族炭化水素基であり;特に好ましくはメチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、ビニル基、アリル基、フェニル基、4-メチルフェニル基、4-メトキシフェニル基、4-アセトキシフェニル基、4-クロロフェニル基、4-フルオロフェニル基、4-ニトロフェニル基、2,4-ジメチルフェニル基であり;最も好ましくは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、フェニル基、4-メチルフェニル基、4-クロロフェニル基、4-トリフルオロメチルフェニル基である。
【0016】
反応工程におけるトリス(ペンタフルオロフェニル)ボランの使用量(仕込量)は、式(A)で表される構造を有するアルケンに対して物質量換算で、通常0.01mol%以上、好ましくは0.1mol%以上、より好ましくは1mol%以上であり、通常40mol%以下、好ましくは20mol%以下、より好ましくは10mol%以下である。前記範囲内であると、より効率良くジメチルシリル基を有する有機ケイ素化合物を生成することができる。
【0017】
(溶媒)
反応工程は、通常、溶媒中で行う。反応工程に用いられる溶媒の種類は、酸素原子や窒素原子を含んでいない溶媒が適している。ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリフルオロメチルベンゼン等の炭化水素系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、o-ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒等が挙げられる。
【0018】
(反応条件)
反応工程の反応温度は、通常-20℃以上、好ましくは0℃以上、より好ましくは20℃以上であり、通常70℃以下、好ましくは50℃以下、より好ましくは30℃以下である。前記範囲内であると、より効率良くジメチルシリル基を有する有機ケイ素化合物を生成することができる。
反応工程の反応時間は、通常1時間以上、好ましくは2時間以上、より好ましくは6時間以上であり、通常72時間以下、好ましくは48時間以下、より好ましくは24時間以下である。
反応工程は、通常窒素、アルゴン等の不活性雰囲気下で行う。
【0019】
(その他の工程)
本実施形態に係るジメチルシリル基を有する有機ケイ素化合物の製造方法においては、上記反応工程の他、任意の工程を含んでいてもよい。任意の工程としては、ジメチルシリル基を有する有機ケイ素化合物の純度を高めるための精製工程が挙げられる。精製工程においては、ろ過、吸着、カラムクロマトグラフィー、蒸留等の有機合成分野で通常行われる精製方法を採用することができる。具体的には、反応工程後、例えば、反応混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することができる。
【0020】
反応工程によって生成する式(B-1)または(B-2)で表される構造を有するジメチルシリル基を有する有機ケイ素化合物の具体的種類は、特に限定されず、製造目的に応じて適宜選択することができる。
【化5】
(式(B-1)~(B-2)中、R
1~R
3はそれぞれ独立して、水素原子、又は少なくとも1種のハロゲン原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基を表す。但し、R
1~R
3の2以上が炭化水素基である場合、R
1~R
3の2以上の炭化水素基が連結して環状構造を形成していてもよい。)
なお、R
1~R
3は、「式(A)で表されるアルケン」のものと同義である。
【実施例】
【0021】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0022】
<実施例1>
窒素雰囲気のグローブボックス内にて、B(C
6F
5)
3(25.6mg,0.05mmol)をジクロロメタン(1.0mL)に溶解させた。この溶液に、4-クロロスチレン(127μL,1.0mmol)を加えた。さらに、1,1,3,3,5,5,7,7-オクタメチルテトラシロキサン(
HMD
2M
H,328μL,1.0mmol)を加えて室温で撹拌した。15時間後、反応混合物の
1H NMR(内部標準:メシチレン)を測定し、モノヒドロシリル化体(61%)とジヒドロシリル化体(10%)が得られたことを確認した。
【化6】
【0023】
<実施例2>
窒素雰囲気のグローブボックス内にて、B(C
6F
5)
3(25.6mg,0.05mmol)をジクロロメタン(1.0mL)に溶解させた。この溶液に、1-オクテン(157μL,1.0mmol)を加えた。さらに、1,1,3,3,5,5,7,7-オクタメチルテトラシロキサン(
HMD
2M
H,328μL,1.0mmol)を加えて室温で撹拌した。15時間後、反応混合物の
1H NMR(内部標準:メシチレン)を測定し、モノヒドロシリル化体(12%)とジヒドロシリル化体(44%)が得られたことを確認した。
【化7】
【0024】
<実施例3>
窒素雰囲気のグローブボックス内にて、B(C
6F
5)
3(25.6mg,0.05mmol)をジクロロメタン(1.0mL)に溶解させた。この溶液に、シクロヘキセン(101μL,1.0mmol)を加えた。さらに、1,1,3,3,5,5,7,7-オクタメチルテトラシロキサン(
HMD
2M
H,328μL,1.0mmol)を加えて室温で撹拌した。15時間後、反応混合物の
1H NMR(内部標準:メシチレン)を測定し、モノヒドロシリル化体(46%)とジヒドロシリル化体(12%)が得られたことを確認した。
【化8】
【0025】
<実施例4>
窒素雰囲気のグローブボックス内にて、B(C
6F
5)
3(25.6mg,0.05mmol)をジクロロメタン(1.0mL)に溶解させた。この溶液に、4-クロロスチレン(127μL,1.0mmol)を加えた。さらに、1,1,3,3,5,5,7,7-オクタメチルテトラシロキサン(
HMD
2M
H,164μL,0.5mmol)を加えて室温で撹拌した。15時間後、反応混合物の
1H NMR(内部標準:メシチレン)を測定し、モノヒドロシリル化体(25%)とジヒドロシリル化体(4%)が得られたことを確認した。
【化9】
【0026】
<実施例5>
窒素雰囲気のグローブボックス内にて、B(C
6F
5)
3(25.6mg,0.05mmol)をジクロロメタン(1.0mL)に溶解させた。この溶液に、1-オクテン(127μL,1.0mmol)を加えた。さらに、1,1,3,3,5,5,7,7-オクタメチルテトラシロキサン(
HMD
2M
H,164μL,0.5mmol)を加えて室温で撹拌した。15時間後、反応混合物の
1H NMR(内部標準:メシチレン)を測定し、ジヒドロシリル化体(>95%)が得られたことを確認した。
【化10】
【0027】
<実施例6>
窒素雰囲気のグローブボックス内にて、B(C
6F
5)
3(25.6mg,0.05mmol)をジクロロメタン(1.0mL)に溶解させた。この溶液に、1-オクテン(127μL,1.0mmol)を加えた。さらに、1,1,3,3,5,5,7,7-オクタメチルテトラシロキサン(164μL,0.5mmol)を加えて室温で撹拌した。15時間後、反応混合物の
1H NMR(内部標準:メシチレン)を測定し、モノヒドロシリル化体(10%)とジヒドロシリル化体(31%)が得られたことを確認した。
【化11】
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の製造方法によって、ジメチルシリル基を有する有機ケイ素化合物を簡便に製造することができる。製造されるジメチルシリル基を有する有機ケイ素化合物は、合成化学上有用なビルディングブロックであり、各種機能性材料やその原料として有用である。