(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】油脂組成物の製造方法、ならびに、油脂組成物およびそれを含む食用添加剤
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20241206BHJP
A23D 9/04 20060101ALI20241206BHJP
A21D 2/16 20060101ALN20241206BHJP
A23L 13/60 20160101ALN20241206BHJP
A23L 13/72 20230101ALN20241206BHJP
【FI】
A23D9/00 504
A23D9/04
A21D2/16
A23L13/60 Z
A23L13/72
(21)【出願番号】P 2020033580
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2023-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】大村 泰子
(72)【発明者】
【氏名】阿部 一勝
(72)【発明者】
【氏名】茂木 和之
(72)【発明者】
【氏名】菊地 宏輔
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-130052(JP,A)
【文献】特開2002-265981(JP,A)
【文献】国際公開第2016/084788(WO,A1)
【文献】特開2014-054248(JP,A)
【文献】特開平06-303903(JP,A)
【文献】特開2007-110984(JP,A)
【文献】特許第6590094(JP,B1)
【文献】特開2009-268430(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104824178(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A23L
C11B
C11C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用油脂を含む油脂原料であって過酸化物価が1.0meq/kg以下である油脂原料を加圧しながら加熱することを含み、前記加熱の際にまたは前記加熱の後に、前記油脂原料の過酸化物価を1.0~3.3meq/kgの範囲に調整することを含
み、
前記油脂原料中の水分含量が1質量%未満であり、
前記加熱を低酸素下で行う、油脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記油脂原料における前記食用油脂の含量が90~100質量%である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記加圧時の加圧量が、大気圧を基準として0.05~0.22MPaである、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記加熱時の加熱処理量が、4000~23000℃・分であり、
前記加熱処理量は、[前記油脂原料の加熱温度(℃)-常温(℃)]と加熱時間(分)の積分値である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記加熱時に105~135℃の範囲で加熱温度を保持する、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記加熱温度を保持する保持時間が0.25~3.75時間である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記加熱時の昇温速度が1~20℃/分である、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記加熱時の降温速度が1~40℃/分である、請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記油脂原料が酸化防止剤を含む、請求項
1~8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記食用油脂が、米油、ゴマ油、オリーブ油、牛脂、豚脂、乳脂およびカカオ脂のうち少なくとも1種の動植物油脂、前記動植物油脂に改質処理を施した加工油脂、または、前記動植物油脂および前記加工油脂の混合油脂を含む、請求項
1~9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記過酸化物価の前記調整を前記加熱の際に実施する、請求項
1~10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
請求項
1~11のいずれか1項に記載の製造方法により製造された油脂組成物。
【請求項13】
請求項
12に記載の油脂組成物を含む食用添加剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂組成物の製造方法、ならびに、油脂組成物およびそれを含む食用添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、飲食品に対する消費者の要望は多様化、高度化する傾向にある。例えば、健康志向から、飲食品中の油脂分を低減することへの要望は強い。しかし、油脂には飲食品の風味やコク味を強くする働きがあり、飲食品中の油脂分を低減しただけでは、飲食品の風味およびコク味が低下してしまうことが知られている。
【0003】
また、例えば、飲食品に対して強いコク味が求められる場合がある。飲食品に対してコク味を付与する手法として、飲食品の製造に際し油脂を使用することが知られているが、食感や風味の観点などから、油脂の添加量やそれによって得られる効果の程度には限界があった。
【0004】
そこで、飲食品の原材料の特定の風味を底上げし、風味およびコク味を改良することができる素材として、従来、酸化油脂や風味油脂といった油脂加工品が提案されてきた。例えば特許文献1では、過酸化物価が15~180であり、10質量%以上100質量%以下の乳脂を含む酸化油脂を有効成分とする、甘味及び/または塩味の増強剤が提案されている。また、例えば特許文献2では、100℃以上の工程を有さず、動植物性油脂に香味性素材を加え、これを、内圧(ゲージ圧)が0.1~15MPaである密封された容器内で1~60分間保持した後、油分を採取することを特徴とする香味油の製造方法が提案されている。また、例えば特許文献3では、反応温度までの昇温を始める前の反応系内の水分量が1.5質量%以下であり、チーズパウダーの存在下、油脂を70~130℃に加温し、反応後に固形分を除去することを特徴とする焦がしチーズ風味を有する風味油の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2018/037926号
【文献】特開2009-268430号公報
【文献】特許6590094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような風味の改良剤によっても飲食品の風味およびコク味を改良することは可能であるが、次のような問題もある。
【0007】
特許文献1のような酸化油脂においては、極度に酸化させた油脂を飲食品中に含有させるため、風味の強化と異味の抑制とのバランスをとるのが難しい。したがって、酸化油脂を用いて飲食品の風味を充分に強化しようとすると、酸化油脂由来の異味が顕在化する場合がある。
【0008】
また、特許文献2や特許文献3のような風味油の製造は、特徴的な風味を有する食用素材と油脂類とを混合し、食用素材から油脂類へ風味を移行させるという製造工程を経る。しかしながら、そのような工程では、食用素材を濾過等により取り除く必要があり製造工程が複雑になりやすい。また、選択する食用素材によって得られる風味油の風味が限定され、飲食品によって風味油を使い分ける必要があるため、コク味を付与する観点においては汎用性に乏しい。
【0009】
このため、異味の付与を抑制しかつ汎用的に使用できる風味およびコク味の増強剤があれば好ましい。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、飲食品への異味の付与を抑制しかつ飲食品の風味およびコク味を増強できる油脂組成物の製造方法を提供すること、を目的とする。また、本発明は、上記製造方法により製造された油脂組成物およびそれを含有する食用添加剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、油脂を加圧しながら加熱し、さらに油脂の過酸化物価を特定範囲に調整することにより、解決できた。具体的には、以下の手段<1>により、好ましくは<2>以降の手段により、上記課題は解決された。
【0012】
<1>
食用油脂を含む油脂原料を加圧しながら加熱することを含み、上記加熱の際にまたは上記加熱の後に、油脂原料の過酸化物価を1.0~3.3meq/kgの範囲に調整することを含む、油脂組成物の製造方法。
<2>
油脂原料における食用油脂の含量が90~100質量%である、<1>に記載の製造方法。
<3>
上記加圧時の加圧量が、大気圧を基準として0.05~0.22MPaである、<1>または<2>に記載の製造方法。
<4>
上記加熱時の加熱処理量が、4000~23000℃・分であり、
加熱処理量は、[油脂原料の加熱温度(℃)-常温(℃)]と加熱時間(分)の積分値である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の製造方法。
<5>
上記加熱時に105~135℃の範囲で加熱温度を保持する、<1>~<4>のいずれか1つに記載の製造方法。
<6>
加熱温度を保持する保持時間が0.25~3.75時間である、<5>に記載の製造方法。
<7>
上記加熱時の昇温速度が1~20℃/分である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の製造方法。
<8>
上記加熱時の降温速度が1~40℃/分である、<1>~<7>のいずれか1つに記載の製造方法。
<9>
油脂原料の過酸化物価が1.0meq/kg以下である、<1>~<8>のいずれか1つに記載の製造方法。
<10>
上記加熱を低酸素下で行う、<1>~<9>のいずれか1つに記載の製造方法。
<11>
油脂原料が酸化防止剤を含む、<1>~<10>のいずれか1つに記載の製造方法。
<12>
食用油脂が、米油、ゴマ油、オリーブ油、牛脂、豚脂、乳脂およびカカオ脂のうち少なくとも1種の動植物油脂、上記動植物油脂に改質処理を施した加工油脂、または、上記動植物油脂および上記加工油脂の混合油脂を含む、<1>~<11>のいずれか1つに記載の製造方法。
<13>
過酸化物価の上記調整を上記加熱の際に実施する、<1>~<12>のいずれか1つに記載の製造方法。
<14>
<1>~<13>のいずれか1つに記載の製造方法により製造された油脂組成物。
<15>
<14>に記載の油脂組成物を含む食用添加剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明の油脂組成物の製造方法により、飲食品への異味の付与を抑制しかつ飲食品の風味およびコク味を増強できる油脂組成物が得られる。また、本発明の油脂組成物により、飲食品への異味の付与を抑制しつつ、飲食品の風味およびコク味を増強することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】温度制御および圧力制御の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。各構成要素は、便宜上、この好適な実施形態に基づいて説明されるが、本発明は、そのような実施形態に限定されるものではない。
【0016】
<油脂組成物>
まず、本発明の製造方法によって製造される油脂組成物について説明する。本発明の油脂組成物は、食用油脂を含む油脂原料を加圧しながら加熱し、さらに、上記加熱の際にまたは上記加熱の後に、油脂原料の過酸化物価を1.0~3.3meq/kgの範囲に調整することにより得られる。なお、加圧しながら加熱することを「加圧加熱」ともいい、原料を加圧加熱することにより得られる加工物を「加圧加熱物」ともいう。
【0017】
上記のような本発明の油脂組成物である加圧加熱物を飲食品へ添加することにより、飲食品への異味の付与を抑制しつつ、飲食品の風味およびコク味を増強することができる。
【0018】
本発明および本明細書において「食用油脂」とは、動物油脂や植物油脂等の種類、さらにはそれらの油脂を水素添加等で加工して得られる加工油脂であるか否かを問わず、遊離の脂肪酸、グリセリン、モノグリセリド、ジグリセリドおよびトリグリセリド等を含有する任意の食用の油脂を指す。本発明および本明細書において、動物油脂と植物油脂を合わせて、単に「動植物油脂」と記載する場合がある。
【0019】
上記加圧加熱物は、技術常識に照らして、油脂由来の成分(例えば、遊離の脂肪酸、グリセリン、モノグリセリド、ジグリセリドおよびトリグリセリド等)と、加圧加熱することにより二次的に産生された成分(例えば、有機酸類、炭化水素類、アルコール類、アルデヒド類、エステル類、含硫化合物、ケトン類、脂肪酸類、脂肪酸エステル類、芳香族化合物およびラクトン類等)の混合物と推定される。このように多種多様な成分構成を有する加圧加熱物につき、本発明の課題を解決するのに必要な構造または特性を明らかにし、本発明をその構造または特性により直接特定することは、膨大な時間とコストを要すると予想され、およそ実際的でない。したがって、本発明の加圧加熱物について、その製造方法によって特定するのが合理的であると思量する。
【0020】
本発明の加圧加熱物の過酸化物価は1.0~3.3meq/kgである。過酸化物価が1.0meq/kg以上であることで、本発明の加圧加熱物を含有する飲食品の風味およびコク味が良好に増強されやすくなる。また、過酸化物価が3.3meq/kg以下であることで、本発明の加圧加熱物を含有する飲食品への異味の付与が良好に抑制されやすくなる。加圧加熱物の過酸化物価は、飲食品の風味およびコク味をより増強する観点から、1.2meq/kg以上であることがより好ましく、1.5meq/kg以上であることがさらに好ましく、1.8meq/kg以上であることが特に好ましい。また、加圧加熱物の過酸化物価は、飲食品への異味の付与をより抑制する観点から、3.0meq/kg以下であることがより好ましく、2.8meq/kg以下であることがさらに好ましく、2.6meq/kg以下であることが特に好ましい。
【0021】
材料の過酸化物価は、常法により測定でき、例えば日本油化学会制定の「基準油脂分析試験法2.5.2-2013」に示された手法により測定することができる。
【0022】
本発明の加圧加熱物の酸価は0.5mgKOH/g以下であることが好ましい。酸価が上記範囲にあることで、本発明の加圧加熱物を含有する飲食品への異味の付与をより抑制しやすくなる。また、加圧加熱物の酸価は、飲食品への異味の付与をより抑制しかつ飲食品の風味およびコク味をより増強する観点から、0.3mgKOH/g以下であることがより好ましく、0.2mgKOH/g以下であることがさらに好ましい。加圧加熱物の酸価の下限は、特に制限されず、例えば0.00mgKOH/g以上である。
【0023】
材料の酸価は、常法により測定でき、例えば日本油化学会制定の「基準油脂分析試験法2.3.1-2013」に示された手法により測定することができる。
【0024】
本発明の加圧加熱物の形態は、通常、油脂原料の種類によって決まり、液状でも固体状でもよく、さらにそれらの混成状態でもよい。
【0025】
<油脂組成物の製造方法>
本発明の油脂組成物の製造方法は、上記のとおり、食用油脂を含む油脂原料を加圧しながら加熱することを含み、上記加熱の際にまたは上記加熱の後に、油脂原料の過酸化物価を1.0~3.3meq/kgの範囲に調整することを含む。
【0026】
<<油脂原料>>
油脂原料は、食用油脂を含み、必要に応じて他の材料を含むこともできる。
【0027】
油脂原料の加熱前の過酸化物価は1.0meq/kg以下であることが好ましい。油脂原料の過酸化物価が1.0meq/kg以下であることで、本発明の加圧加熱物を含有する飲食品への異味の付与をより抑制しやすくなりかつ飲食品の風味およびコク味をより増強しやすくなる。油脂原料の過酸化物価は、0.9meq/kg以下であることがより好ましく、0.8meq/kg以下であることがさらに好ましい。油脂原料の過酸化物価の下限は、特に制限されず、例えば0.0meq/kg以上である。
【0028】
油脂原料の加熱前の酸価は0.5mgKOH/g以下であることが好ましい。油脂原料の酸価が0.5mgKOH/g以下であることで、本発明の加圧加熱物を含有する飲食品への異味の付与をより抑制しやすくなりかつ飲食品の風味およびコク味をより増強しやすくなる。油脂原料の酸価は、0.2mgKOH/g以下であることがより好ましく、0.1mgKOH/g以下であることがさらに好ましい。油脂原料の酸価の下限は、特に制限されず、例えば0.0mgKOH/g以上である。
【0029】
食用油脂は、特に制限されず、上記のとおり任意の食用の油脂を使用できる。例えば、食用油脂は、大豆油、菜種油(キャノーラ油、ハイエルシン菜種油なども含む。)、パーム油、パーム核油、ヒマワリ油(ハイオレイックヒマワリ油なども含む。)、トウモロコシ油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、ゴマ油、紅花油(ハイオレイック紅花油なども含む。)、カポック油、月見草油、カラシ油、ヤシ油、マンゴー核油、カカオ脂、シア脂、サル脂、イリッペ脂、乳脂、牛脂、豚脂、羊脂、魚油および鯨油等の少なくとも1種の動植物油脂である。また、食用油脂は、そのような動植物油脂に改質処理を施した加工油脂でもよく、上記のような動植物油脂および加工油脂の混合油脂でもよい。「改質処理」は、物理的または化学的に油脂を改質できる処理を指し、特に制限されないが、例えば水素添加、分別およびエステル交換等の少なくとも1種の処理である。食用油脂が、常温(例えば23~25℃)で固体の油脂を含む場合には、加圧加熱の前に、食用油脂全体を充分に溶解させ混合しておくことが好ましい。
【0030】
また、本発明の加圧加熱物を含有する飲食品への異味の付与をより抑制しやすくする観点から、食用油脂の構成脂肪酸組成において、ラウリン酸(C12:0脂肪酸)の含量は、好ましくは40質量%以下である。この含量の上限は、より好ましくは35質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以下である。この含量の下限は、特に制限されず、例えば0質量%以上である。脂肪酸の「C12:0」といった記載において、左側は脂肪酸中の炭素数を表し、右側は二重結合の数を表す。したがって、本発明において、構成脂肪酸組成においてラウリン酸を多く含む動植物油脂を、原料となる食用油脂として使用しないことが好ましい。あるいは、そのような油脂を使用する場合には、食用油脂全体において、ラウリン酸の含量が40質量%以下となるように、他の動植物油脂と混合したり油脂の改質処理を施したりして構成脂肪酸組成を調整することが好ましい。構成脂肪酸組成においてラウリン酸を多く含む動植物油脂としては、例えばヤシ油およびパーム核油ならびにこれらの油脂に改質処理が施された加工油脂が挙げられる。
【0031】
油脂の構成脂肪酸組成および各成分の含量は、常法により測定でき、例えば日本油化学会制定の「基準油脂分析試験法2.4.2.3-2013」や「基準油脂分析試験法2.4.4.3-2013」を参考に、キャピラリーガスクロマトグラフ法により測定することができる。
【0032】
特に、本発明の製造方法において、液状のまま或いは適宜溶融して液体の状態で食した場合に良好な風味を有する食用油脂を原料として使用することが好ましい。これにより、本発明の加圧加熱物を含有する飲食品への異味の付与をより抑制しやすくなりかつ飲食品の風味およびコク味をより増強しやすくなる。このような油脂としては、例えば、米油、ゴマ油、オリーブ油、牛脂、豚脂、乳脂およびカカオ脂のうち少なくとも1種の動植物油脂、上記動植物油脂に改質処理を施した加工油脂、または、上記動植物油脂および上記加工油脂の混合油脂などが挙げられる。
【0033】
食用油脂の加熱前の過酸化物価は1.0meq/kg以下であることが好ましい。食用油脂の過酸化物価が1.0meq/kg以下であることで、本発明の加圧加熱物を含有する飲食品への異味の付与をより抑制しやすくなりかつ飲食品の風味およびコク味をより増強しやすくなる。食用油脂の過酸化物価は、0.9meq/kg以下であることがより好ましく、0.8meq/kg以下であることがさらに好ましい。一般に、精製後の食用油脂の過酸化物価は、0.1~1.0meq/kg程度である。
【0034】
食用油脂の加熱前の酸価は0.5mgKOH/g以下であることが好ましい。食用油脂の酸価が0.5mgKOH/g以下であることで、本発明の加圧加熱物を含有する飲食品への異味の付与をより抑制しやすくなりかつ飲食品の風味およびコク味をより増強しやすくなる。食用油脂の酸価は、0.2mgKOH/g以下であることがより好ましく、0.1mgKOH/g以下であることがさらに好ましい。一般に、精製後の食用油脂の酸価は、0.1mgKOH/g程度以下である。
【0035】
油脂原料中の食用油脂の含量は、特に制限はないが、90~100質量%あるいは95~100質量%であることが好ましい。これにより、飲食品への異味の付与が特に抑制され、油脂による風味およびコク味の増強効果の汎用性をより高めることができる。増強効果の汎用性をより高める観点から、油脂原料中の食用油脂の含量は、96質量%以上であることがより好ましく、97質量%以上であることがさらに好ましい。特に、本発明の製造方法において、油脂原料中の食用油脂の含量は100質量%であること、つまり、食用油脂のみを加圧加熱することが好ましい。しかしながら、食用油脂の含量は、99.9質量%以下でもよく、99.5質量%以下でもよく、99質量%以下でもよい。食用油脂は、1種単独で使用されてもよく、2種以上の組み合わせで使用されてもよい。2種以上の組み合わせで使用される場合には、それらの合計含量が上記範囲にあることが好ましい。
【0036】
本発明の製造方法において、油脂原料は、食用油脂に加えて、食用の酸化防止剤を含有することも好ましい。これにより、本発明の加圧加熱物の過酸化物価を上記所定の範囲に調整しやすくなり、場合によっては、酸価についても上記所定の範囲に調整しやすくなる。酸化防止剤としては、特に制限されず、公知の材料を使用できる。酸化防止剤は、例えばビタミンE、ビタミンC、ローズマリー抽出物および茶抽出物などが挙げられる。酸化防止剤の含量は、特に制限はないが、食用油脂100質量部に対し0.01~0.1質量部であることが好ましい。過酸化物価および/または酸価の調整をより容易にする観点から、酸化防止剤の含量は、0.02質量部以上であることがより好ましく、0.03質量部以上であることがさらに好ましい。また、同様の観点から、酸化防止剤の含量は、0.07質量部以下であることがより好ましく、0.05質量部以下であることがさらに好ましい。酸化防止剤は、1種単独で使用されてもよく、2種以上の組み合わせで使用されてもよい。2種以上の組み合わせで使用される場合には、それらの合計含量が上記範囲にあることが好ましい。
【0037】
そして、本発明の製造方法によれば、風味付け用の食用素材と一緒に加熱せずとも、飲食品の風味およびコク味を増強することができるため、上記食用油脂および上記酸化防止剤以外の食用素材の油脂原料中の合計含量を、1質量%以下とすることができる。これにより、飲食品への異味の付与が特に抑制され、油脂による風味およびコク味の増強効果の汎用性をより高めることができる。さらに、従来の風味増強剤の製造で実施していた濾過工程のような、共に加熱した食用素材の除去工程が不要となり、効率よく油脂組成物を製造することができる。油脂原料がそのような食用素材を含む場合において、そのような食用素材の油脂原料中の合計含量は0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下である(そのような食用素材が実質的に含有されない)ことがさらに好ましい。
【0038】
食用油脂および酸化防止剤以外の食用素材としては、例えば下記のような材料が挙げられる。
・水、乳化剤。
・食塩や塩化カリウム等の塩味剤。
・クエン酸、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料。
・糖類や糖アルコール類。
・乳や乳製品。
・ステビア、アスパルテーム等の甘味料。
・β-カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料。
・トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤。
・小麦蛋白や大豆蛋白等の植物蛋白。
・卵及および各種卵加工品。
・グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、CMC(カルボキシメチルセルロース)、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、澱粉、化工澱粉等の増粘安定剤。
・アミラーゼ、プロテアーゼ、アミログルコシダーゼ、プルラナーゼ、ペントサナーゼ、セルラーゼ、リパーゼ、ホスフォリパーゼ、カタラーゼ、リポキシゲナーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、スルフィドリルオキシダーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ等の酵素。
・原料アルコール(食用エタノールなど)、蒸留酒(焼酎、ウイスキー、ウォッカ、ブランデーなど)、醸造酒(ワイン、日本酒、ビールなど)、および各種リキュール等の酒類。
・着香料、調味料、アミノ酸、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤等の他の食品添加物。
・果実、果汁、コーヒー、紅茶、緑茶、ナッツペースト、香料、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の他の食用素材。
【0039】
特に、油脂原料中の水分含量は、1質量%未満であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下である(水分が実質的に含有されない)ことがさらに好ましい。油脂原料中の水分を少なくすることにより、加圧加熱中にグリセリドが加水分解されてしまうことを抑制できる。油脂原料中に水分が存在する場合には、加圧加熱の前に油脂原料から水分を除去することが好ましい。水分の除去は、例えば、減圧脱気しながら油脂を加熱する方法(例えば90~110℃)、遠心分離法、および、油水分離フィルタ(コアレッサー、濾材など)を使用した吸着脱水法などにより実施できる。材料中の水分含量は、常法により測定でき、例えば日本油化学会制定の「基準油脂分析試験法2.1.3.4-2013」に示された手法により測定することができる。
【0040】
<<加圧加熱>>
本発明の製造方法において、加熱条件は、加圧条件や求める効果の程度に応じて適宜調整される。例えば、保温時の加熱温度は、105~135℃であることが好ましい。加熱温度が105℃以上であることにより、後述の加圧条件との調整をとりやすくなる。また、加熱温度が135℃以下であることにより、後述の加圧条件との調整をとりやすくなるとともに、飲食品への異味の付与をより抑制しかつ飲食品の風味およびコク味をより増強する好適な加圧加熱物が得られやすくなる。保温時の加熱温度は、108℃以上であることがより好ましく、110℃以上であることがさらに好ましい。また、保温時の加熱温度は、133℃以下であることがより好ましく、130℃以下であることがさらに好ましい。
【0041】
保温時の加熱時間(保温時間)は、0.25~3.5時間であることが好ましい。保温時間が0.25時間以上であることにより、飲食品の風味およびコク味をより増強する好適な加圧加熱物が得られやすくなる。また、保温時間が3.5時間以下であることにより、飲食品への異味の付与をより抑制する好適な加圧加熱物が得られやすくなる。保温時間は、0.5時間以上であることがより好ましく、0.75時間以上であることがさらに好ましい。また、保温時間は、3時間以下であることがより好ましく、2.75時間以下であることがさらに好ましい。
【0042】
加熱を開始する際の初期温度は、適宜調整でき、例えば常温(例えば23~25℃)でもよく、常温より高い温度(例えば60℃)から加熱を開始してもよい。加熱開始から保温期間までの昇温速度は1~20℃/分であることが好ましい。昇温速度は、1.5℃/分以上であることがより好ましく、2.0℃/分以上であることがさらに好ましい。また、昇温速度は、10℃/分以下であることがより好ましく、5℃/分以下であることがさらに好ましい。
【0043】
保温期間が終了した後は、油脂原料を冷却することが好ましい。冷却は、急速に実施してもよく、緩慢に実施してもよい。冷却方法は、特に制限されず、公知の手法を採用でき、冷蔵庫や冷凍庫を使用する方法、室温下で静置する方法、および、加熱機器内の冷却機能(注水など)を使用する方法でもよい。油脂原料の冷却は、温度が5~60℃の範囲になるまで実施することが好ましく、温度が15~40℃の範囲になるまで実施することがより好ましく、温度が20~30℃の範囲になるまで実施することがさらに好ましい。降温速度は1~40℃/分であることが好ましい。降温速度は、3℃/分以上であることがより好ましく、4℃/分以上であることがさらに好ましい。また、降温速度は、25℃/分以下であることがより好ましく、20℃/分以下であることがさらに好ましい。
【0044】
なお、加熱処理される油脂原料自体の昇温速度を直接測定できない場合には、加熱処理における熱媒の昇温速度を測定し、その測定値を油脂原料の昇温速度として扱ってもよい。例えば、後述するように、加圧加熱の方法としてオートクレーブを採用した場合には、熱媒となる水の昇温速度をもって、油脂を加熱する際の昇温速度とすることができる。また、油脂原料を冷却する際の降温速度についても同様である。
【0045】
加圧加熱状態を脱した後は、冷蔵もしくは冷凍により-20~+15℃の範囲で加圧加熱物を保管することが好ましい。
【0046】
本発明の製造方法において、加圧加熱における加熱処理量は、4000~23000℃・分であることが好ましい。これにより、飲食品への異味の付与をより抑制しかつ飲食品の風味およびコク味をより増強する好適な加圧加熱物が得られやすくなる。本発明および本明細書において、「加熱処理量」は、[油脂原料の加熱温度(℃)-常温(℃)]と、加熱時間(分)(つまり、常温よりも高い温度にあった時間であり、昇温時および降温時も含む。)との積分値とする。常温は、概ね23~25℃であるが、加圧加熱を行う環境に応じて適宜設定される。このような加熱処理量は加熱処理の強さの目安となる。例えば、
図1は、温度制御および圧力制御の例を示すグラフである。
図1では、加熱初期(t
0)における初期温度(T
2)から昇温し、時刻t=t
1において温度がT
3となり、時刻t=t
2までT
3の温度を保持し、その後降温し、時刻t=t
3において温度が常温(T
1)となる温度履歴を示している。また、
図1は、大気圧(P
1)に対して加圧された加圧条件(圧力P=P
2)も示している。このような温度制御を行った場合、加熱処理量は、温度履歴のグラフおよびT=T
1の線の間の網かけ領域の面積に相当する。加圧加熱における加熱処理量は、7000℃・分以上であることがより好ましく、8000℃・分以上であることがさらに好ましく、9000℃・分以上であることが特に好ましい。また、加圧加熱における加熱処理量は、20000℃・分以下であることがより好ましく、17000℃・分以下であることがさらに好ましく、15000℃・分以下であることが特に好ましい。
【0047】
本発明の製造方法において、加圧条件は、系内を加圧状態で加熱する温度および時間によって適宜調整されるが、加圧時の加圧量は、大気圧(約0.10MPa)を基準として0.03~0.22MPaであることが好ましい。「加圧量」は、加圧時の圧力と大気圧との差分で表示している。加圧量が0.03MPa以上であることにより、飲食品への異味の付与をより抑制しかつ飲食品の風味およびコク味をより増強する好適な加圧加熱物が得られやすくなる。また、加圧量が0.22MPa以下であることにより、上記の加熱条件との調整をとりやすくなる。一方、系内の圧力条件を常圧下すなわち大気圧下や減圧下として加熱を実施した場合には、飲食品の風味およびコク味の増強効果が得られず、強い異味が生じ、飲食品の品質を低下させてしまう。
【0048】
加圧時の加圧量は、0.05MPa以上であることがより好ましく、0.08MPa以上であることがさらに好ましい。また、加圧時の加圧量は、0.20MPa以下であることがより好ましく、0.18MPa以下であることがさらに好ましい。加圧は、
図1のように、少なくとも保温期間(t
1-t
2間)において継続して実施することが好ましく、昇温および降温の期間も含めた加熱期間(t
0-t
3間)において継続して実施することがさらに好ましい。
【0049】
上記の加圧条件や加熱条件を満たすように油脂原料を加圧加熱する方法としては、例えばオートクレーブ、レトルト殺菌装置または圧力容器などを用いて、加圧しながら加熱する方法を挙げることができる。加圧加熱する際には、レトルトパウチ等の耐熱耐圧容器に油脂原料を封入してもよい。レトルト殺菌装置を使用する場合には、その加圧加熱の方式は、熱水スプレー式、熱水貯湯式および蒸気式のいずれの方式でも構わない。
【0050】
<<過酸化物価の調整>>
本発明の製造方法においては、過酸化物価の調整は、上記加熱(加圧加熱)の際にまたは上記加熱の後に実施される。上記加熱の際における過酸化物価の調整は、加熱の終了時に加圧加熱物の過酸化物価が1.0~3.3meq/kgの範囲になるように、上記加熱条件および加圧条件を調整することにより実施できる。例えば、過酸化物価を増加させたい場合には、加熱温度を上げたり、加熱時間を増やしたり、加圧量を増やしたりすればよい。過酸化物価を減少させたい場合には、加熱温度を下げたり、加熱時間を減らしたり、加圧量を減らしたりすればよい。上述した加熱条件および加圧条件であれば、概ね加圧加熱物の過酸化物価は1.0~3.3meq/kgの範囲になりやすい。
【0051】
一方、上記加熱の後における過酸化物価の調整は、加熱の終了時に過酸化物価が3.3meq/kgを超える加圧加熱物を、過酸化物価が1.0~3.3meq/kgの範囲になるように精製することにより実施できる。精製手法は、公知の方法を採用でき、例えば白土やシリカゲル等の吸着剤と接触させる方法を採用できる。この場合において、精製前の加圧加熱物の過酸化物価は4.0meq/kg以下であることが好ましく、3.7meq/kg以下であることがより好ましく、3.5meq/kg以下であることがより好ましい。精製前の加圧加熱物の過酸化物価が3.3meq/kgを大きく超えてしまうと、精製によって過酸化物価が1.0~3.3meq/kgの範囲になっても本発明の効果が得られにくいためである。なお、本発明の効果が得られる範囲で、精製前に過酸化物価が1.0~3.3meq/kgの範囲にある加圧加熱物を常法により精製してもよい。
【0052】
本発明の油脂組成物である加圧加熱物は、飲食品に添加されることで、その飲食品への異味の付与を抑制しかつ飲食品の風味およびコク味を増強することができる。特に、本発明の加圧加熱物は、飲食品が元来有している塩味、甘味および旨味に優れた増強効果を発揮するため、塩味、甘味および旨味の風味増強剤として好適である。また、本発明の加圧加熱物は、飲食品がコク味を有していない場合であっても、飲食品にコク味を付与することが可能であり、汎用性が高い。なお、コク味とは、飲食品の特徴を決める味わいの持続性や広がりを指す。
【0053】
本発明の製造方法のように、食用油脂を含む油脂原料を加圧加熱することを含み、上記加熱の際にまたは上記加熱の後に、油脂原料の過酸化物価を1.0~3.3meq/kgの範囲に調整することにより、本発明の「飲食品への異味の付与を抑制しかつ飲食品の風味およびコク味を増強できる」という効果が得られる理由は定かではない。例えば、上述したような加圧加熱により、酸化による油脂の劣化を抑制しながら、風味およびコク味の増強に適した油脂の改質が生じていると推定される。なお、異味の付与の「抑制」は、原料として油脂が使用された飲食品(コントロール)と、その油脂の一部を本発明の加圧加熱物で置き換えた飲食品とを比較して、本発明の加圧加熱物が使用された飲食品の味がコントロールと大きく異ならないことを意味する。風味またはコク味の「増強」は、原料として油脂が使用された飲食品(コントロール)と、その油脂の一部を本発明の加圧加熱物で置き換えた飲食品とを比較して、本発明の加圧加熱物が使用された飲食品の風味またはコク味がコントロールよりも強く感じられることを意味する。
【0054】
<<その他の条件>>
本発明の製造方法においては、油脂原料を加圧加熱する前に、系内の酸素を排除し、低酸素下で加圧加熱を実施することが好ましい。系内の酸素を排除する手法としては、例えば、窒素や二酸化炭素等の加圧加熱に対し不活性なガスで雰囲気を置換する方法、および耐熱耐圧容器に油脂原料を封入する際に容器内を脱気する方法などが挙げられる。系内の酸素を排除した状態で油脂原料を加圧加熱することにより、加圧加熱中の油脂の酸化劣化がより抑制され、得られる加圧加熱物における異味の発生をより抑制することができる。不活性なガスによる系内の置換を採用した場合には、置換後の酸素濃度は5体積%以下であることが好ましく、2体積%以下であることがより好ましく、1体積%以下であることがさらに好ましい。
【0055】
<食用添加剤>
次に、本発明の食用添加剤(食品の他、飲料品に使用されるものも含む。)について述べる。本発明の食用添加剤は、上記のようにして得られた油脂原料の加圧加熱物を含有し、とりわけ、飲食品の風味やコク味の増強に用いることができる。
【0056】
本発明の食用添加剤は、有効成分である上記加圧加熱物のみから構成されてもよい。また、本発明の食用添加剤は、必要に応じて、上記加圧加熱物に加えて、他の食用素材(例えば、水、食用の動植物油脂、乳化剤、酸化防止剤、糖類および糖アルコール、増粘剤、澱粉、小麦粉、無機塩および有機酸塩、ゲル化剤、乳製品、卵製品、着香料、調味料、着色料、保存料ならびにpH調整剤等)を含むことができる。上記他の食用素材の含有量は、上記加圧加熱物が有効成分として機能する(つまり、加圧加熱物の異味の抑制効果ならびに風味およびコク味の増強効果が発揮できる)範囲で適宜調整される。例えば、上記他の食用素材の含有量は、加圧加熱物100質量部に対して合計で20質量部以下であることが好ましく、15質量部であることがより好ましく、10質量部以下でも5質量部以下でもよい。本発明の食用添加剤が上記他の食用素材を含む場合には、均一な組成となるように充分に混合および撹拌することが好ましい。その手法としては特に制限されない。例えば、本発明の加圧加熱物が常温で固体である場合には、加圧加熱物を溶解させた後に加圧加熱物と他の食用素材を混合および撹拌する方法、加圧加熱物を粉末状あるいは粒状となるまで粉砕した後に加圧加熱物と他の食用素材を混合および撹拌する方法、または、公知の方法で加圧加熱物を粉末油脂とした後に加圧加熱物と他の食用素材を混合および撹拌する方法などが挙げられる。
【0057】
本発明の食用添加剤の最終的な製品形態は、特に限定されず、油脂原料の特質および用途等に応じて、任意の形態の乳化物とされてもよく、粉末タイプやショートニングタイプの固体状製品とされてもよい。また、加圧加熱物、または、加圧加熱物と他の食用素材の混合物を濾過して油分を抽出した抽出物製品とすることもできる。
【0058】
本発明の食用添加剤は、飲食品の製造または飲食の際に任意の手法およびタイミングで飲食品に添加することができる。本発明の食用添加剤が添加される対象の飲食品の種類は、特に制限されない。例えば、以下に示す飲食品に対して適用することができる。
・レトルト食品:カレー、スープ、粥、丼物の具等。
・インスタント飲食品:即席麺、即席スープ、インスタントココア等。
・チルド・冷凍食品:唐揚げ、コロッケ、メンチカツ、トンカツ、グラタン、ピザ、チャーハン、ピラフ、肉まん、餃子等。
・ルウ:カレー、シチュー、ハヤシライス等。
・ベーカリー食品:食パン、菓子パン、バターロール、バラエティブレッド、フランスパン、デニッシュ、ペストリー等のパン類、パイ、シュー、ドーナツ、ケーキ、クラッカー、クッキー、ハードビスケット、ワッフル、スコーン等の菓子類。
・畜肉食品:ハム、ソーセージ、ベーコン、ハンバーグ、焼肉等。
・水産物食品:蒲鉾、ちくわ、魚肉ソーセージ、ねぎとろ、焼き魚等。
・菓子および冷菓類:ポテトチップス、チョコレート、グミ、キャラメル、キャンデー、ゼリー、プリン、杏仁豆腐、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、氷菓等。
・飲料:ブラックコーヒー・ミルクコーヒー・ラクトコーヒー・コーヒー牛乳・カフェオレなどのコーヒー飲料、ココア飲料、チョコレート飲料、紅茶・ティーオレ、乳酸炭酸、栄養ドリンク、健康飲料、牛乳、豆乳・果汁豆乳・麦芽豆乳・乳酸発酵豆乳などの豆乳類、乳酸飲料、乳酸菌飲料、ミルクセーキ、チーズドリンク、乳清飲料、香料入り乳飲料等。
・調味料:醤油、味噌、マヨネーズ、ケチャップ、ソース、ドレッシング、調味油等。
【0059】
本発明の食用添加剤および加圧加熱物の飲食品への添加量は、対象とする飲食品の種類、所望の風味強度およびコク味強度、時には個人使用者の好み等に応じて、適宜調整可能である。例えば、飲食品が油脂を含まない場合には、食用添加剤の添加量は、飲食品の量に対して0.0001~1質量%であることが好ましい。一方、飲食品が油脂を含む場合には、食用添加剤の添加量は、飲食品に含有されている油脂量に対して例えば0.01~3質量%であることが好ましく、0.01~1質量%であることがより好ましい。また、同様に、飲食品が油脂を含まない場合には、加圧加熱物の添加量は、飲食品の量に対して0.0001~1質量%であることが好ましい。一方、飲食品が油脂を含む場合には、加圧加熱物の添加量は、飲食品に含有されている油脂量に対して例えば0.01~3質量%であることが好ましく、0.01~1質量%であることがより好ましい。
【実施例】
【0060】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。したがって、本発明の範囲は、以下に示す具体例に限定されない。実施例において、特に述べない限り、「部」および「%」は質量基準である。
【0061】
過酸化物価の測定は、日本油化学会制定の「基準油脂分析試験法2.5.2-2013」に準拠して行った。また、酸価の測定は、日本油化学会制定の「基準油脂分析試験法2.3.1-2013」に準拠して行った。以下、過酸化物価の単位はmeq/kgであり、酸価の単位はmgKOH/gである。
【0062】
[検討1]
検討1では、食用油脂を変えずに製造条件を変えて、油脂が加熱処理された加工油脂(加圧加熱物を含む。)を複数種製造した。そして、製造した加工油脂を使用してベーカリー食品としてパンを作製し、当該パンを食したときの官能評価に基づいて、各加工油脂が食品に与える効果を評価した。
【0063】
<加工油脂の製造>
まず、下記に示す方法で油脂を加熱処理することにより、実施例および比較例の加工油脂を製造した。製造条件および物性の詳細は表1にまとめて示した。なお、下記の実施例および比較例では、常温を25℃と設定した。
【0064】
<<実施例1>>
パームステアリン(ADEKA社製、ヨウ素価36.5)50質量部、ラード(ADEKA社製、ヨウ素価65.0)50質量部をそれぞれ加熱溶解し、その後、混合および撹拌することにより、混合油脂Aを得た。上記パームステアリンの過酸化物価は0.5であり、酸価は0.04であった。また、上記ラードの過酸化物価は0.3であり、酸価は0.02であった。混合油脂Aの過酸化物価は0.4であり、酸価は0.05であった。この混合油脂Aをレトルトパウチ(福助工業社製 レトルトパウチNタイプ 14-18)に100g測りとり、レトルトパウチのヘッドスペースに空気が入らないように口を閉じ、ヒートシーラーでレトルトパウチを密閉した。このとき、レトルトパウチ内は充分に脱気され、酸素ガスはほとんど存在しないと推定できる。
【0065】
次に、
図1に示すような温度制御に従い、加圧加熱を行った。具体的には、密閉したレトルトパウチを、オートクレーブの加圧槽内に入れ、60℃(T
2)の温水を所定量注水し、大気圧に対する加圧量0.1MPa、設定温度120℃(T
3)および昇温速度2.6℃/分の条件の下で、加圧加熱を開始した。加圧槽内の温度が設定温度に到達するまで(t
0-t
1間)の時間は約23.1分であった。加圧槽内の温度が設定温度に到達してから、設定温度を保持しながら2時間(t
1-t
2間)、加圧加熱を行った。その後、9.5℃/分の降温速度で加圧槽内を常温(T
1)まで冷却した後に常圧に戻し、レトルトパウチを取り出した。加圧槽内の温度が設定温度から常温に下がるまで(t
2-t
3間)の時間は10分であり、上記工程における加熱処理量は13375℃・分であった。上記の工程により、加圧下で油脂が加熱処理された加圧加熱物を得た。
【0066】
<<比較例1>>
実施例1と同様に密閉したレトルトパウチを60℃(T2)に設定された大気下のオイルバスに浸漬し、その後、設定温度120℃(T3)および昇温速度2.6℃/分の条件の下で、加熱を開始した。オイルバスの温度が設定温度に到達してから、設定温度を保持しながら2時間(t1-t2間)、加熱を行った。その後、9.5℃/分の降温速度でオイルバスの温度を常温(T1)まで冷却し、レトルトパウチを取り出した。上記の工程により、常圧下で油脂が加熱処理された加工油脂を得た。
【0067】
<<比較例2>>
混合油脂A100gを4口フラスコに測りとり、フラスコ内を大気圧に対して-0.1MPa減圧した。次に、60℃に設定されたマントルヒーターに上記フラスコを設置し、設定温度120℃(T3)および昇温速度2.6℃/分の条件の下で、撹拌速度300rpmで撹拌しながら加熱を開始した。マントルヒーターの温度が設定温度に到達してから、設定温度を保持しながら2時間(t1-t2間)、加熱を行った。その後、9.5℃/分の降温速度でマントルヒーターの温度を常温(T1)まで冷却し、内容物を取り出した。上記の工程により、減圧下で油脂が加熱処理された加工油脂を得た。
【0068】
<<実施例2>>
加圧量を大気圧に対して0.05MPa、および、オートクレーブの設定温度(T3)を110℃とした点以外は、実施例1と同様の製造方法により、油脂の加圧加熱物を得た。
【0069】
<<実施例3>>
加圧量を大気圧に対して0.05MPa、オートクレーブの設定温度(T3)を110℃、および、設定温度下の保温時間(t1-t2間)を4時間とした点以外は、実施例1と同様の製造方法により、油脂の加圧加熱物を得た。
【0070】
<<実施例4>>
設定温度下の保温時間(t1-t2間)を0.5時間とした点以外は、実施例1と同様の製造方法により、油脂の加圧加熱物を得た。
【0071】
<<実施例5>>
設定温度下の保温時間(t1-t2間)を1時間とした点以外は、実施例1と同様の製造方法により、油脂の加圧加熱物を得た。
【0072】
<<比較例3>>
設定温度下の保温時間(t1-t2間)を4時間とした点以外は、実施例1と同様の製造方法により、油脂の加圧加熱物を得た。
【0073】
<<実施例6>>
加圧量を大気圧に対して0.17MPa、オートクレーブの設定温度(T3)を130℃、および、設定温度下の保温時間(t1-t2間)を0.5時間とした点以外は、実施例1と同様の製造方法により、油脂の加圧加熱物を得た。
【0074】
<<実施例7>>
加圧量を大気圧に対して0.17MPa、オートクレーブの設定温度(T3)を130℃、および、設定温度下の保温時間(t1-t2間)を1時間とした点以外は、実施例1と同様の製造方法により、油脂の加圧加熱物を得た。
【0075】
<<比較例4>>
加圧量を大気圧に対して0.17MPa、オートクレーブの設定温度(T3)を130℃、および、設定温度下の保温時間(t1-t2間)を2時間とした点以外は、実施例1と同様の製造方法により、油脂の加圧加熱物を得た。
【0076】
<<比較例5>>
加圧量を大気圧に対して0.26MPa、オートクレーブの設定温度(T3)を140℃、および、設定温度下の保温時間(t1-t2間)を0.5時間とした点以外は、実施例1と同様の製造方法により、油脂の加圧加熱物を得た。
【0077】
<<比較例6>>
加圧量を大気圧に対して0.26MPa、オートクレーブの設定温度(T3)を140℃、および、設定温度下の保温時間(t1-t2間)を1時間とした点以外は、実施例1と同様の製造方法により、油脂の加圧加熱物を得た。
【0078】
<油脂物性の測定>
上記実施例および比較例の各加工油脂について、過酸化物価および酸価を測定し、その結果を表1に示した。
【0079】
<パンの製造>
実施例および比較例の各加工油脂を使用したパンの配合は表2のとおりである。まず、表2の中種生地の配合に示された全原材料を、縦型ミキサーを用いて充分に混合して中種生地(捏ね上げ温度26℃)を得た。得られた中種生地について、温度28℃および相対湿度80%にて2時間の中種発酵を行った。次に、強力粉、上白糖、食塩、脱脂粉乳および水を上記中種生地に加え、縦型ミキサーを用いてこれを充分に混合した。その後、予め各加工油脂が含有されたマーガリンを縦型ミキサーに添加し、これをさらに充分に混合して、本捏生地(捏ね上げ温度28℃)を得た。上記で得られた本捏生地について、30分のフロアタイム(一次発酵)をとった後、45g/個となるように分割し、分割した生地を丸め、30分のベンチタイムを取った。さらに、個々の生地を天板に乗せ、温度38℃および相対湿度80%にて50分のホイロ(二次発酵)をとった。ホイロが済んだ生地を200℃のオーブンで10分焼成することにより、実施例および比較例の各加工油脂が使用されたパンを得た。
【0080】
なお、表2に示すように、各本捏生地の配合において、加工油脂を、同量のマーガリンで置換した配合で同様に製造したパンを、比較対象品(コントロール)とした。
【0081】
<評価方法>
上記で得られたパンを食し、コントロールと比較した場合における異味の抑制、パンの風味の増強、およびコク味の増強について官能評価を行い、各加工油脂が食品に与える効果を評価した。官能評価は、下記評価基準に基づき、12名のパネラーにより実施した。官能評価に先立ち、事前にパネラー間で各点数に対応する官能の程度をすり合わせた。
【0082】
<<評価基準:異味の抑制>>
5点:コントロールと同等の風味であり、異味が感じられない。
3点:コントロールと比較して、わずかに異味が感じられるが許容範囲である。
1点:コントロールと比較して、異味が感じられる。
0点:コントロールと比較して、強い異味が感じられる。
<<評価基準:パンの風味の増強>>
5点:コントロールと比較して、非常に強い。
3点:コントロールと比較して、強い。
1点:コントロールと比較して、やや強い。
0点:コントロールと同等である、またはコントロールと比較して弱い。
<<評価基準:コク味の増強>>
5点:コントロールと比較して、非常に強い。
3点:コントロールと比較して、強い。
1点:コントロールと比較して、やや強い。
0点:コントロールと同等である、またはコントロールと比較して弱い。
【0083】
評価結果は表1のとおりである。官能評価の結果は、全パネラーの合計点に応じて、[54~60点:+++、44~53点:++、36~43点:+、18~35点:-、0~17点:--]として表記した。異味の抑制、風味の増強およびコク味の増強のすべての項目において、プラス記号「+」が1つ以上であれば、本発明の課題達成レベルと言える。
【0084】
【0085】
【0086】
[検討2]
検討2では、食用油脂および製造条件を変えて、油脂が加熱処理された加工油脂を複数種製造した。そして、製造した加工油脂を使用してハンバーグを作製し、当該ハンバーグを食したときの官能評価に基づいて、各加工油脂が食品に与える効果を評価した。
【0087】
<加工油脂の製造>
まず、下記に示す方法で油脂を加熱処理することにより、実施例および比較例の加工油脂を製造した。製造条件および物性の詳細は表3にまとめて示した。なお、下記の実施例および比較例では、常温を25℃と設定した。
【0088】
<<実施例8>>
ラード(ADEKA社製、ヨウ素価65.0)を加熱溶解し、これをレトルトパウチ(福助工業社製 レトルトパウチNタイプ 14-18)に100g測りとり、レトルトパウチのヘッドスペースに空気が入らないように口を閉じ、ヒートシーラーでレトルトパウチを密閉した。上記ラードの過酸化物価は0.3であり、酸価は0.02であった。このとき、レトルトパウチ内は充分に脱気され、酸素ガスはほとんど存在しないと推定できる。
【0089】
次に、
図1に示すような温度制御に従い、加圧加熱を行った。具体的には、密閉したレトルトパウチを、オートクレーブの加圧槽内に入れ、60℃(T
2)の温水を所定量注水し、大気圧に対する加圧量0.1MPa、設定温度120℃(T
3)および昇温速度2.6℃/分の条件の下で、加圧加熱を開始した。加圧槽内の温度が設定温度に到達してから、設定温度を保持しながら1時間(t
1-t
2間)、加圧加熱を行った。その後、9.5℃/分の降温速度で加圧槽内を常温(T
1)まで冷却した後に常圧に戻し、レトルトパウチを取り出した。上記の工程により、加圧下で油脂が加熱処理された加圧加熱物を得た。
【0090】
<<実施例9>>
加圧量を大気圧に対して0.17MPa、および、オートクレーブの設定温度(T3)を130℃とした点以外は、実施例8と同様の製造方法により、油脂の加圧加熱物を得た。
【0091】
<<比較例7>>
加圧量を大気圧に対して0.26MPa、および、オートクレーブの設定温度(T3)を140℃とした点以外は、実施例8と同様の製造方法により、油脂の加圧加熱物を得た。
【0092】
<<実施例10,11および比較例8>>
原材料とする食用油脂として米油(ADEKA社製、ヨウ素価106.0)を使用した点以外は、実施例8,9および比較例7とそれぞれ同様の製造方法により、3種類の加圧加熱物を得た。上記米油の過酸化物価は0.7であり、酸価は0.2であった。
【0093】
<<実施例12,13および比較例9>>
原材料とする食用油脂として牛脂(ADEKA社製、ヨウ素価48.0)を使用した点以外は、実施例8,9および比較例7とそれぞれ同様の製造方法により、3種類の加圧加熱物を得た。上記牛脂の過酸化物価は0.5であり、酸価は0.02であった。
【0094】
<<実施例14,15および比較例10>>
それぞれ実施例5,7および比較例6の加圧加熱物である。
【0095】
<油脂物性の測定>
上記実施例および比較例の各加工油脂について、過酸化物価および酸価を測定し、その結果を表3に示した。
【0096】
<ハンバーグの製造>
実施例および比較例の各加工油脂を使用したハンバーグの配合は表4のとおりである。まず、加熱処理されていない油脂(ラード、米油、牛脂または実施例1で説明した混合油脂A)に、実施例および比較例の各加工油脂を充分に混合および拡散させた。次に、合挽き肉(牛豚比7:3)、食塩、ソテーオニオン、全卵、パン粉、牛乳、水、粉末大豆たんぱく、および、上記で得た油脂をミキサーボウルに投入し、卓上ミキサーを使用して充分に混合することにより、畜肉生地を得た。上記で得られた畜肉生地を50g/個となるように成形し、オーブン(設定温度190℃)で10分間焼成することにより、ハンバーグを得た。ここで、上記のソテーオニオン(※1)は、キユーピー社製「オニオンアッセ60」であり、上記の粉末大豆たんぱく(※2)は、昭和産業社製「フレッシュCXフレーク」を事前に水で戻し、茹でこぼしたものである。
【0097】
なお、表4に示すように、各畜肉生地の配合において、加工油脂を、加熱処理されていない同量の油脂で置換した配合で同様に製造したハンバーグを、比較対象品(コントロール)とした。
<評価方法>
上記で得られたハンバーグを食し、コントロールと比較した場合における異味の抑制、ハンバーグの風味の増強、およびコク味の増強について官能評価を行い、各加工油脂が食品に与える効果を評価した。官能評価は、下記評価基準に基づき、12名のパネラーにより実施した。官能評価に先立ち、事前にパネラー間で各点数に対応する官能の程度をすり合わせた。
【0098】
<<評価基準:異味の抑制>>
5点:コントロールと同等の風味であり、異味が感じられない。
3点:コントロールと比較して、わずかに異味が感じられるが許容範囲である。
1点:コントロールと比較して、異味が感じられる。
0点:コントロールと比較して、強い異味が感じられる。
<<評価基準:ハンバーグの風味の増強>>
5点:コントロールと比較して、非常に強い。
3点:コントロールと比較して、強い。
1点:コントロールと比較して、やや強い。
0点:コントロールと同等である、またはコントロールと比較して弱い。
<<評価基準:コク味の増強>>
5点:コントロールと比較して、非常に強い。
3点:コントロールと比較して、強い。
1点:コントロールと比較して、やや強い。
0点:コントロールと同等である、またはコントロールと比較して弱い。
【0099】
評価結果は表3のとおりである。官能評価の結果は、全パネラーの合計点に応じて、[54~60点:+++、44~53点:++、36~43点:+、18~35点:-、0~17点:--]として表記した。異味の抑制、風味の増強およびコク味の増強のすべての項目において、プラス記号「+」が1つ以上であれば、本発明の課題達成レベルと言える。
【0100】
【0101】
【0102】
[検討結果]
検討1および2の結果から、本発明の加工油脂の製造方法により、飲食品への異味の付与を抑制しかつ飲食品の風味およびコク味を増強できる油脂組成物(加圧加熱物)が得られることが分かった。また、本発明の油脂組成物および食用添加剤により、飲食品への異味の付与を抑制できかつ飲食品の風味およびコク味を増強できることが分かった。
【0103】
また、昇温速度を3.5℃/分および降温速度を20℃/分にした点(加熱処理量12740℃・分)以外、実施例1と同様の製造方法により製造した加圧加熱物においても、本発明の課題達成レベルの効果が得られた。また、混合油脂A100質量部に対し酸化防止剤を0.1質量部添加した点以外、実施例1と同様の製造方法により製造した加圧加熱物においても、本発明の課題達成レベルの効果が得られた。さらに、比較例4の加圧加熱物をシリカゲルカラムに通すことで精製して過酸化物価を1.0~3.3の範囲に調整した加工油脂を使用して、比較例4と同様にパンを製造した場合においても、本発明の課題達成レベルの効果が得られた。