(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】偏光フィルムの製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20241206BHJP
【FI】
G02B5/30
(21)【出願番号】P 2020147514
(22)【出願日】2020-09-02
【審査請求日】2023-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2019165524
(32)【優先日】2019-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鄭 信發
(72)【発明者】
【氏名】陳 志耕
(72)【発明者】
【氏名】林 春輝
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-140345(JP,A)
【文献】特開2017-102467(JP,A)
【文献】特開2017-003834(JP,A)
【文献】特開2015-102615(JP,A)
【文献】特開2000-147251(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0084993(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムから偏光フィルムを作製する偏光フィルムの製造方法であって、
前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを処理液に接触させる複数の処理工程を備え、
前記複数の処理工程の少なくとも一つは、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを全幅に亘って均一な量の処理液に接触させる均一接触工程と、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを全幅の幅方向の位置に応じて調整した量の処理液に接触させる調整接触工程と、を有する多段処理工程であり、
前記調整接触工程において、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを全幅について中央部と両端部とに分けて、前記中央部に接触させる前記処理液の量が、前記両端部に接触させる前記処理液の量より多くなるように調整し、
かつ前記中央部には前記処理液を接触させ、前記両端部には前記処理液を接触させないように調整し、
前記多段処理工程において、前記均一接触工程で用いられる処理液と、前記調整接触工程で用いられる処理液とは、ともに一致して、染色液、架橋液、又は補色液であり、さらに、ともに同じ
組成であり、
前記組成は、二色性色素、及びホウ素化合物の少なくとも一つを含む、
偏光フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記調整接触工程において、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの前記中央部は全幅を基準に5~80%である、請求項1に記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記均一接触工程は、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを処理槽に収容された前記処理液に浸漬させる工程である、請求項1
または2に記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記調整接触工程は、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに前記処理液のシャワーを浴びせる工程である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの全幅は、400mm以上8000mm以下である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項6】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムから偏光フィルムを作製する偏光フィルムの製造装置であって、
前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを処理液に接触させる複数の処理部を備え、
前記複数の処理部の少なくとも一つは、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを全幅に亘って均一な量の処理液に接触させる均一接触部と、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを全幅の幅方向の位置に応じて調整した量の処理液に接触させる調整接触部と、を有する多段処理部であり、
前記調整接触部において、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを全幅について中央部と両端部とに分けて、前記中央部に接触させる前記処理液の量が、前記両端部に接触させる前記処理液の量より多くなるように調整し、
かつ前記中央部には前記処理液を接触させ、前記両端部には前記処理液を接触させないように調整し、
前記多段処理部において、前記均一接触部で用いられる処理液と、前記調整接触部で用いられる処理液とは、ともに一致して、染色液、架橋液、又は補色液であり、さらには、ともに同じ
組成であり、
前記組成は、二色性色素、及びホウ素化合物の少なくとも一つを含む、偏光フィルムの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムから偏光フィルムを製造する方法、及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光板は、液晶表示装置等の画像表示装置における偏光素子などとして広く用いられている。偏光板としては、偏光フィルムの片面又は両面に接着剤等を用いて透明樹脂フィルム(保護フィルム等)を貼合した構成のものが一般的である。
【0003】
偏光フィルムは主に、ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルムに対して、ヨウ素等の二色性色素を含有する染色浴に浸漬させる処理、次いでホウ酸等の架橋剤を含有する架橋浴に浸漬させる処理などを施すとともに、いずれかの段階でフィルムを一軸延伸することによって製造されている。一軸延伸には、空中で延伸を行う乾式延伸と、上記染色浴及び架橋浴等の液中で延伸を行う湿式延伸とがある。
【0004】
従来、偏光フィルムの製造方法において、幅方向の光学特性のバラつきを抑制するための工夫がなされている。特開2018-32026号公報(特許文献1)には、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに、幅方向に分布を有する照射熱量で赤外線を含む電磁波を照射して、幅方向の光学特性のバラつきを抑制する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、幅方向の光学特性のバラつきを低減することができる新規な偏光フィルムの製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下に示す偏光フィルムの製造方法及び製造装置を提供する。
〔1〕ポリビニルアルコール系樹脂フィルムから偏光フィルムを作製する偏光フィルムの製造方法であって、
前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを処理液に接触させる複数の処理工程を備え、
前記複数の処理工程の少なくとも一つは、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを全幅に亘って均一な量の処理液に接触させる均一接触工程と、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを全幅の幅方向の位置に応じて調整した量の前記処理液に接触させる調整接触工程と、を有する多段処理工程であり、
前記多段処理工程において用いられる前記処理液は、二色性色素、及びホウ素化合物の少なくとも一つを含む、偏光フィルムの製造方法。
〔2〕 前記多段処理工程において、前記処理液は染色液、架橋液、又は補色液である、〔1〕に記載の偏光フィルムの製造方法。
〔3〕 前記調整接触工程において、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを全幅について中央部と両端部とに分けて、前記中央部に接触させる前記処理液の量が、前記両端部に接触させる前記処理液の量より多くなるように調整する、〔1〕又は〔2〕に記載の偏光フィルムの製造方法。
〔4〕 前記調整接触工程において、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの前記中央部は全幅を基準に5~80%である、〔3〕に記載の偏光フィルムの製造方法。
〔5〕 前記調整接触工程において、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの前記中央部には前記処理液を接触させ、前記両端部には前記処理液を接触させないように調整する、〔3〕又は〔4〕に記載の偏光フィルムの製造方法。
〔6〕 前記均一接触工程は、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを処理槽に収容された前記処理液に浸漬させる工程である、〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の偏光フィルムの製造方法。
〔7〕 前記調整接触工程は、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに前記処理液のシャワーを浴びせる工程である、〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の偏光フィルムの製造方法。
〔8〕 前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの全幅は、400mm以上8000mm以下である、〔1〕~〔9〕のいずれか1項に記載の偏光フィルムの製造方法。
〔9〕 ポリビニルアルコール系樹脂フィルムから偏光フィルムを作製する偏光フィルムの製造装置であって、
前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを処理液に接触させる複数の処理部を備え、
前記複数の処理部の少なくとも一つは、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを全幅に亘って均一な量の処理液に接触させる均一接触部と、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを全幅の幅方向の位置に応じて調整した量の前記処理液に接触させる調整接触部と、を有する多段処理部であり、
前記多段処理部において用いられる前記処理液は、二色性色素、及びホウ素化合物の少なくとも一つを含む、偏光フィルムの製造装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、偏光フィルムの幅方向の光学特性のバラつきを低減させる偏光フィルムの製造方法及び製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る偏光フィルムの製造方法及びそれに用いる偏光フィルム製造装置の一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図1に示す製造装置の染色部を上面側から見た図である。
【
図3】シャワー装置からの染色液の噴出量の調整方法を説明するための断面図である。
【
図4】実施例1,2及び比較例1の視感度補正偏光度Pyをプロットしたグラフである。
【
図5】実施例3,4及び比較例2の視感度補正偏光度Pyをプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<偏光フィルムの製造方法>
本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムから偏光フィルムを作製する偏光フィルムの製造方法であって、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを処理液に接触させる複数の処理工程を備え、前記処理工程の少なくとも一つは、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを全幅に亘って均一な量の処理液に接触させる均一接触工程と、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを全幅の幅方向の位置に応じて調整した量の前記処理液に接触させる調整接触工程とを、を有する多段処理工程である。多段処理工程において用いられる前記処理液は、二色性色素、及びホウ素化合物の少なくとも一つを含み、例えば、染色液、架橋液、補色液等である。
【0011】
本発明において偏光フィルムは、一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素(ヨウ素、二色性染料等)が吸着配向しているものである。ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを構成するポリビニルアルコール系樹脂は通常、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化することにより得られる。そのケン化度は、通常約85モル%以上、好ましくは約90モル%以上、より好ましくは約99モル%以上である。ポリ酢酸ビニル系樹脂は、例えば、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルの他、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体等であることができる。共重合可能な他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類等を挙げることができる。ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、通常約1000~10000、好ましくは約1500~5000程度である。
【0012】
これらのポリビニルアルコール系樹脂は変性されていてもよく、例えば、アルデヒド類で変性されたポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等も使用し得る。
【0013】
本発明では、偏光フィルム製造の開始材料として、厚みが65μm以下(例えば60μm以下)、好ましくは50μm以下、より好ましくは35μm以下、さらに好ましくは30μm以下の未延伸のポリビニルアルコール系樹脂フィルム(原反フィルム)を用いる。これにより市場要求が益々高まっている薄膜の偏光フィルムを得ることができる。原反フィルムの幅は特に制限されず、例えば400mm以上8000mm以下であり、好ましくは2000mm以上5500mm以下である。特に、原反フィルムの幅が2000mm以上である場合に偏光フィルムの幅方向の特性がバラつきやすいものの、本発明の製造方法によるとバラつきを低減することができる。原反フィルムは、例えば長尺の未延伸ポリビニルアルコール系樹脂フィルムのロール(原反ロール)として用意される。
【0014】
また本発明で用いられるポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、これを支持する基材フィルムに積層されたものであってもよく、すなわち、当該ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、基材フィルムとその上に積層されるポリビニルアルコール系樹脂フィルムとの積層フィルムとして用意されてもよい。この場合、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、例えば、基材フィルムの少なくとも一方の面にポリビニルアルコール系樹脂を含有する塗工液を塗工した後、乾燥させることによって製造することができる。
【0015】
基材フィルムとしては、例えば、熱可塑性樹脂からなるフィルムを用いることができる。具体例としては、透光性を有する熱可塑性樹脂、好ましくは光学的に透明な熱可塑性樹脂で構成されるフィルムであり、例えば、鎖状ポリオレフィン系樹脂(ポリプロピレン系樹脂等)、環状ポリオレフィン系樹脂(ノルボルネン系樹脂等)のようなポリオレフィン系樹脂;トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロースのようなセルロース系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートのようなポリエステル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;メタクリル酸メチル系樹脂のような(メタ)アクリル系樹脂;ポリスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル系樹脂;アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン系樹脂;アクリロニトリル・スチレン系樹脂;ポリ酢酸ビニル系樹脂;ポリ塩化ビニリデン系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリアセタール系樹脂;変性ポリフェニレンエーテル系樹脂;ポリスルホン系樹脂;ポリエーテルスルホン系樹脂;ポリアリレート系樹脂;ポリアミドイミド系樹脂;ポリイミド系樹脂等であることができる。
【0016】
偏光フィルムは、上記の長尺の原反フィルムを原反ロールから巻出しつつ、偏光フィルム製造装置のフィルム搬送経路に沿って連続的に搬送させて、処理槽に収容された処理液(以下、「処理浴」ともいう)に浸漬させた後に引き出す所定の処理工程を実施した後に乾燥工程を実施することにより長尺の偏光フィルムとして連続製造することができる。なお、処理工程は、フィルムに処理液を接触させて処理する方法であればフィルムを処理浴に浸漬させる方法に限定されることはなく、処理液をフィルム表面に浴びせる方法であってもよい。処理液をフィルム表面に浴びせる方法としては、処理液のシャワーをフィルム表面に浴びせる方法が好適である。ここで、処理液のシャワーとは、複数の噴出口から噴出された処理液の流れを意味し、流れにおいて処理液は断続的に含まれていても(例えば、粒状、霧状で含まれる)、連続的に含まれていてもよい。シャワー装置は、複数の噴出口を有しここから液を噴出させて液の流れを作る装置である。処理液のシャワーをフィルム表面に浴びせるために、通常、シャワー装置が用いられる。処理工程が、フィルムを処理浴に浸漬させる方法によってなされる場合、一つの処理工程を行う処理浴は一つに限定されることはなく、二つ以上の処理浴にフィルムを順次浸漬させて一つの処理工程を完成させてもよい。
【0017】
上記処理液としては、膨潤液、染色液、架橋液、補色液、洗浄液等が例示される。そして、上記処理工程としては、原反フィルムに膨潤液を接触させて膨潤処理を行う膨潤工程と、膨潤処理後のフィルムに染色液を接触させて染色処理を行う染色工程と、染色処理後のフィルムに架橋液を接触させて架橋処理を行う架橋工程と、架橋処理後のフィルムに補色液を接触させて色調整処理を行う補色工程と、補色処理後のフィルムに洗浄液を接触させて洗浄処理を行う洗浄工程とが例示される。また、これら一連の処理工程の間(すなわち、いずれか1以上の処理工程の前後及び/又はいずれか1以上の処理工程中)に、湿式又は乾式にて一軸延伸処理を施す。必要に応じて他の処理工程を付加してもよい。
【0018】
本発明者らは、二色性色素、及びホウ素化合物の少なくとも一つを含む処理液を用いる処理工程において、幅方向の光学特性のバラつきを抑制できるという観点から、フィルムを全幅に亘って均一な処理液に接触させる均一接触工程と、フィルムを全幅の幅方向の位置に応じて調整した量の処理液に接触させる調整接触工程と、を有する多段処理工程であることが好ましいとの知見て本発明に至ったものである。二色性色素、及びホウ素化合物の少なくとも一つを含む処理液を用いる処理工程としては、染色工程、架橋工程、補色工程等が挙げられる。
【0019】
以下、
図1を参照しながら、本発明に係る偏光フィルムの製造方法の一例を説明する。
図1は、本発明に係る偏光フィルムの製造方法及びそれに用いる偏光フィルム製造装置の一例を模式的に示す断面図である。
図1に示される偏光フィルム製造装置は、ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反(未延伸)フィルム10を、原反ロール11より連続的に巻出しながらフィルム搬送経路に沿って搬送させることにより、フィルム搬送経路上に設けられる膨潤浴(膨潤槽内に収容された膨潤液)13、染色浴(染色槽内に収容された染色液)15、架橋浴(架橋槽内に収容された架橋液)17a、補色浴(架橋槽内に収容された補色液)17b、及び洗浄浴(洗浄槽内に収容された洗浄液)19を順次通過させ、最後に乾燥炉21を通過させるように構成されている。得られた偏光フィルム23は、例えば、そのまま次の偏光板作製工程(偏光フィルム23の片面又は両面に保護フィルムを貼合する工程)に搬送することができる。
図1における矢印は、フィルムの搬送方向を示している。染色浴15にはシャワー装置16が設置されており、染色浴15を通過したフィルム10は、その後シャワー装置16を通過するように構成されている。
【0020】
図1の説明において、「処理槽」は、膨潤槽、染色槽、架橋槽、補色槽、及び洗浄槽を含む総称であり、「処理液」は、膨潤液、染色液、架橋液、補色槽液、及び洗浄液を含む総称であり、「処理浴」は、膨潤浴、染色浴、架橋浴、補色浴、及び洗浄浴を含む総称である。膨潤浴、染色浴及びシャワー装置、架橋浴、補色浴、及び洗浄浴は、それぞれ、本発明の製造装置における膨潤部、染色部、架橋部、補色部、及び洗浄部を構成する。
【0021】
図1に示す製造装置において、染色部は、染色浴15で均一接触工程が行われた後に、シャワー装置16を通過することにより調整接触工程が行われ、多段処理工程が行われるように構成されている。すなわち、染色部は、均一接触部である染色浴15と、調整接触部であるシャワー装置16とを備える、多段処理部として構成されている。
【0022】
偏光フィルム製造装置のフィルム搬送経路は、上記処理浴及びシャワー装置の他、搬送されるフィルムを支持する、あるいはさらにフィルム搬送方向を変更することができるガイドロール30~35,37~48,60,61や、搬送されるフィルムを押圧・挟持し、その回転による駆動力をフィルムに与えることができる、あるいはさらにフィルム搬送方向を変更することができるニップロール50~56を適宜の位置に配置することによって構築することができる。ガイドロールやニップロールは、各処理浴の前後や処理浴中に配置することができ、これにより処理浴へのフィルムの導入・浸漬及び処理浴からの引き出しを行うことができる〔
図1参照〕。例えば、各処理浴中に1以上のガイドロールを設け、これらのガイドロールに沿ってフィルムを搬送させることにより、各処理浴にフィルムを浸漬させることができる。
【0023】
図1に示される偏光フィルム製造装置は、各処理浴の前後にニップロールが配置されており(ニップロール50~54,56)、これにより、いずれか1以上の処理浴中で、その前後に配置されるニップロール間に周速差をつけて縦一軸延伸を行うロール間延伸を実施することが可能になっている。以下、各工程について説明する。
【0024】
(膨潤工程)
膨潤工程は、原反フィルム10表面の異物除去、原反フィルム10中の可塑剤除去、易染色性の付与、原反フィルム10の可塑化等の目的で行われる。処理条件は、当該目的が達成できる範囲で、かつ原反フィルム10の極端な溶解や失透等の不具合を生じない範囲で決定される。
【0025】
図1を参照して、膨潤工程は、原反フィルム10を原反ロール11より連続的に巻出しながら、フィルム搬送経路に沿って搬送させ、原反フィルム10を膨潤浴13に所定時間浸漬し、次いで引き出すことによって実施することができる。
図1の例において、原反フィルム10を巻き出してから膨潤浴13に浸漬させるまでの間、原反フィルム10は、ガイドロール60,61及びニップロール50によって構築されたフィルム搬送経路に沿って搬送される。膨潤処理においては、ガイドロール30~32及びニップロール51によって構築されたフィルム搬送経路に沿って搬送される。
【0026】
膨潤浴13の膨潤液としては、純水のほか、ホウ酸(特開平10-153709号公報)、塩化物(特開平06-281816号公報)、無機酸、無機塩、水溶性有機溶媒、アルコール類等を約0.01~10質量%の範囲で添加した水溶液を使用することも可能である。
【0027】
膨潤浴13の温度は、例えば10~50℃程度、好ましくは10~40℃程度、より好ましくは15~30℃程度である。原反フィルム10の浸漬時間は、好ましくは10~300秒程度、より好ましくは20~200秒程度である。また、原反フィルム10が予め気体中で延伸したポリビニルアルコール系樹脂フィルムである場合、膨潤浴13の温度は、例えば20~70℃程度、好ましくは30~60℃程度である。原反フィルム10の浸漬時間は、好ましくは30~300秒程度、より好ましくは60~240秒程度である。
【0028】
膨潤処理では、原反フィルム10が幅方向に膨潤してフィルムにシワが入るといった問題が生じやすい。このシワを取りつつフィルムを搬送するための1つの手段として、ガイドロール30,31及び/又は32にエキスパンダーロール、スパイラルロール、クラウンロールのような拡幅機能を有するロールを用いたり、クロスガイダー、ベンドバー、テンタークリップのような他の拡幅装置を用いたりすることが挙げられる。シワの発生を抑制するためのもう1つの手段は延伸処理を施すことである。例えば、ニップロール50とニップロール51との周速差を利用して膨潤浴13中で一軸延伸処理を施すことができる。
【0029】
膨潤処理では、フィルムの搬送方向にもフィルムが膨潤拡大するので、フィルムに積極的な延伸を行わない場合は、搬送方向のフィルムのたるみを無くすために、例えば、膨潤浴13の前後に配置するニップロール50,51の速度をコントロールする等の手段を講ずることが好ましい。また、膨潤浴13中のフィルム搬送を安定化させる目的で、膨潤浴13中での水流を水中シャワー装置で制御したり、EPC装置(Edge Position Control装置:フィルムの端部を検出し、フィルムの蛇行を防止する装置)等を併用したりすることも有用である。
【0030】
図1に示される例において、膨潤浴13から引き出されたフィルムは、ガイドロール32、ニップロール51、ガイドロール33を順に通過して染色浴15へ導入される。
【0031】
(染色工程)
染色工程は、膨潤処理後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムにヨウ素等の二色性色素を吸着、配向させる等の目的で行われる。処理条件は、当該目的が達成できる範囲で、かつフィルムの極端な溶解や失透等の不具合が生じない範囲で決定される。
図1を参照して、染色工程は、ニップロール51、ガイドロール33~35及びニップロール56,52によって構築されたフィルム搬送経路に沿って搬送させ、膨潤処理後のフィルムを染色浴15(染色槽に収容された処理液)に所定時間浸漬し、次いで引き出した後にシャワー装置16を通過させることによって実施することができる。二色性色素の染色性を高めるために、染色工程に供されるフィルムは、少なくともある程度の一軸延伸処理を施したフィルムであることが好ましく、又は染色処理前の一軸延伸処理の代わりに、あるいは染色処理前の一軸延伸処理に加えて、染色処理時に一軸延伸処理を行うことが好ましい。
【0032】
二色性色素としてヨウ素を用いことが好ましく、染色浴15の染色液には、例えば、濃度が質量比でヨウ素/ヨウ化カリウム/水=0.003~0.3/0.1~10/100である水溶液を用いることができる。ヨウ化カリウムに代えて、ヨウ化亜鉛等の他のヨウ化物を用いてもよく、ヨウ化カリウムと他のヨウ化物を併用してもよい。また、ヨウ化物以外の化合物、例えば、ホウ酸、塩化亜鉛、塩化コバルト等を共存させてもよい。ホウ酸を添加する場合は、二色性色素を含む点で後述する架橋液と区別され、水溶液が水100質量部に対し、二色性色素を0.003質量部以上含んでいるものであれば、染色液とみなすことができる。フィルムを浸漬するときの染色浴15の温度は、通常10~45℃程度、好ましくは10~40℃であり、より好ましくは20~35℃であり、フィルムの浸漬時間は、通常30~600秒程度、好ましくは60~300秒である。
【0033】
二色性色素としてヨウ素とともに水溶性二色性染料を用いてもよく、染色浴15の染色液には、例えば、濃度が質量比で二色性染料/水=約0.001~0.1/100である水溶液を用いることができる。この染色液には、染色助剤等を共存させてもよく、例えば、硫酸ナトリウム等の無機塩や界面活性剤などを含有していてもよい。二色性染料は1種のみを単独で用いてもよいし、2種類以上の二色性染料を併用してもよい。
【0034】
上述のように染色工程では、染色浴15でフィルムの一軸延伸を行うことができる。フィルムの一軸延伸は、染色浴15の前後に配置したニップロール51とニップロール56との間に周速差をつける方法などによって行うことができる。
【0035】
染色処理においても、膨潤処理と同様にフィルムのシワを除きつつポリビニルアルコール系樹脂フィルムを搬送するために、ガイドロール33,34,及び/又は35にエキスパンダーロール、スパイラルロール、クラウンロールのような拡幅機能を有するロールを用いたり、クロスガイダー、ベンドバー、テンタークリップのような他の拡幅装置を用いたりすることができる。シワの発生を抑制するためのもう1つの手段は、膨潤処理と同様、延伸処理を施すことである。
【0036】
図1に示される例において、染色浴15から引き出されたフィルムは、シャワー装置16を通過して、ニップロール56、ニップロール52、及びガイドロール37を順に通過して架橋浴17aへ導入される。このように、
図1に示される例において、染色工程は、多段処理工程となっている。多段処理工程の詳細については後述する。
【0037】
(架橋工程)
架橋工程は、架橋による耐水化などの目的で行う処理である。架橋工程は複数回行ってもよい。
図1を参照して、架橋工程は、ニップロール52,ガイドロール37~40及びニップロール53aによって構築されたフィルム搬送経路に沿って搬送させ、架橋浴17a(架橋槽に収容された架橋液)に染色処理後のフィルムを所定時間浸漬し、次いで引き出すことによって実施することができる。
【0038】
架橋液としては、架橋剤を溶媒に溶解した溶液を使用できる。架橋剤としては、例えば、ホウ酸、ホウ砂等のホウ素化合物や、グリオキザール、グルタルアルデヒドなどが挙げられる。これらは一種類でもよいし、二種類以上を併用してもよい。溶媒としては、例えば水が使用できるが、さらに、水と相溶性のある有機溶媒を含んでも良い。架橋溶液における架橋剤の濃度は、これに限定されるものではないが、1~20質量%の範囲にあることが好ましく、4~15質量%であることがより好ましい。
【0039】
架橋液としては、水100質量部に対してホウ酸を例えば約1~10質量部含有する水溶液であることができる。架橋液は、染色処理で使用した二色性色素がヨウ素の場合、ホウ酸に加えてヨウ化物を含有することが好ましく、その量は、水100質量部に対して、例えば1~30質量部とすることができる。ヨウ化物としては、ヨウ化カリウム、ヨウ化亜鉛等が挙げられる。また、ヨウ化物以外の化合物、例えば、塩化亜鉛、塩化コバルト、塩化ジルコニウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、硫酸ナトリウム等を共存させてもよい。
【0040】
架橋処理においては、その目的によって、ホウ酸及びヨウ化物の濃度、並びに架橋浴17の温度を適宜変更することができる。例えば、濃度が質量比でホウ酸/ヨウ化物/水=3~10/1~20/100の水溶液であることができる。必要に応じ、ホウ酸に代えて他の架橋剤を用いてもよく、ホウ酸と他の架橋剤を併用してもよい。フィルムを浸漬するときの架橋浴17aの温度は、通常50~70℃程度、好ましくは53~65℃であり、フィルムの浸漬時間は、通常10~600秒程度、好ましくは20~300秒、より好ましくは20~200秒である。
【0041】
架橋処理は複数回行ってもよく、通常2~5回行われる。この場合、使用する各架橋浴の組成及び温度は、上記の範囲内であれば同じであってもよく、異なっていてもよい。また、ニップロール52とニップロール53aとの周速差を利用して架橋浴17a中で一軸延伸処理を施すこともできる。
【0042】
架橋処理においても、膨潤処理と同様にフィルムのシワを除きつつポリビニルアルコール系樹脂フィルムを搬送するために、ガイドロール38,39,40,41,42,43及び/又は44にエキスパンダーロール、スパイラルロール、クラウンロールのような拡幅機能を有するロールを用いたり、クロスガイダー、ベンドバー、テンタークリップのような他の拡幅装置を用いたりすることができる。シワの発生を抑制するためのもう1つの手段は、膨潤処理と同様、延伸処理を施すことである。
【0043】
(補色工程)
色相調整を目的とする補色液としては、例えば、染色液において二色性色素としてヨウ素を用いた場合、濃度が質量比でホウ酸/ヨウ化物/水=1~5/3~30/100を使用することができる。フィルムを浸漬するときの補色浴17bの温度は、通常20~65℃程度であり、フィルムの浸漬時間は、通常1~300秒程度、好ましくは2~100秒である。
【0044】
ニップロール52とニップロール53aとの周速差を利用して架橋浴17a中で一軸延伸処理を施すこともできる。また、ニップロール53aとニップロール53bとの周速差を利用して補色浴17b中で一軸延伸処理を施すこともできる。
【0045】
図1に示される例において、補色浴17bから引き出されたフィルムは、ガイドロール44、ニップロール53bを順に通過して洗浄浴19へ導入される。
【0046】
(洗浄工程)
図1に示される例においては、架橋工程後の洗浄工程を含む。洗浄処理は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに付着した余分なホウ酸やヨウ素等の薬剤を除去する目的で行われる。洗浄工程は、例えば、架橋処理したポリビニルアルコール系樹脂フィルムを洗浄浴19に浸漬することによって行われる。なお、洗浄工程は、洗浄浴19にフィルムを浸漬させる工程に代えて、フィルムに対して洗浄液のシャワーを浴びせることにより、若しくは洗浄浴19への浸漬と洗浄液のシャワーを浴びせることを併用することによって行うこともできる。
【0047】
図1には、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを洗浄浴19に浸漬して洗浄処理を行う場合の例を示している。洗浄処理における洗浄浴19の温度は、通常2~50℃程度であり、フィルムの浸漬時間は、通常2~120秒程度である。
【0048】
なお、洗浄処理においても、シワを除きつつポリビニルアルコール系樹脂フィルムを搬送する目的で、ガイドロール45,46,47及び/又は48にエキスパンダーロール、スパイラルロール、クラウンロールのような拡幅機能を有するロールを用いたり、クロスガイダー、ベンドバー、テンタークリップのような他の拡幅装置を用いたりすることができる。また、フィルム洗浄処理において、シワの発生を抑制するために延伸処理を施してもよい。
【0049】
(延伸工程)
上述のように原反フィルム10は、上記一連の処理工程の間(すなわち、いずれか1以上の処理工程の前後及び/又はいずれか1以上の処理工程中)に、湿式又は乾式にて一軸延伸処理される。一軸延伸処理の具体的方法は、例えば、フィルム搬送経路を構成する2つのニップロール(例えば、処理浴の前後に配置される2つのニップロール)間に周速差をつけて縦一軸延伸を行うロール間延伸、特許第2731813号公報に記載されるような熱ロール延伸、テンター延伸等であることができ、好ましくはロール間延伸である。一軸延伸工程は、原反フィルム10から偏光フィルム23を得るまでの間に複数回にわたって実施することができる。上述のように延伸処理は、フィルムのシワの発生の抑制にも有利である。
【0050】
原反フィルム10を基準とする、偏光フィルム23の最終的な累積延伸倍率は通常、4.5~7倍程度であり、好ましくは5~6.5倍である。延伸工程はいずれの処理工程で行ってもよく、2以上の処理工程で延伸処理を行う場合においても延伸処理はいずれの処理工程で行ってもよい。
【0051】
(乾燥工程)
洗浄工程の後、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを乾燥させる処理を行うことが好ましい。フィルムの乾燥は特に制限されないが、
図1に示される例のように乾燥炉21を用いて行うことができる。乾燥炉21は例えば熱風乾燥機を備えるものとすることができる。乾燥温度は、例えば30~100℃程度であり、乾燥時間は、例えば30~600秒程度である。ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを乾燥させる処理は、遠赤外線ヒーターを用いて行うこともできる。以上のようにして得られる偏光フィルム23の厚みは、例えば約5~30μmである。
【0052】
(多段処理工程)
図1に示される偏光フィルム製造装置において、染色工程は多段処理工程であり、染色浴15による均一接触処理工程と、シャワー装置16による調整接触工程とが行われる。染色浴15内の染色液と、シャワー装置16より噴出される染色液は、同じまたは近似の組成であることが好ましい。また、シャワー装置16より噴出される染色液の温度は、上述した染色浴の温度の範囲内で調整されていることが好ましい。シャワー装置16より噴出される染色液は、染色浴15中より導出された染色液であることが好ましく、またフィルムに浴びせられた後に染色浴15に回収されることが好ましい。
【0053】
シャワー装置16は、処理対象のフィルムに、全幅の幅方向の位置に応じて調整した量の染色液を浴びせることができるように構成されている。このように、染色工程が、均一接触工程とともに調整接触工程を有する多段処理工程であることにより、フィルムの幅方向における染色ムラを抑制することができ、得られる偏光フィルムの光学特性のバラつきを低減させることができる。
【0054】
図2は、
図1に示される偏光フィルム製造装置における染色工程を行う染色部を上面側から見た図である。
図2に示すように、フィルム10は、搬送用ガイドロール33により図中の矢印の方向に搬送される。これにより、フィルム10は、染色浴15に浸漬された後、シャワー装置16を通過する。シャワー装置16は、フィルム10の両面に対向するように配置された2本のシャワーバー16a,16bからなり、各シャワーバー16a,16bには、複数のシャワーノズル161がフィルムの幅方向に配列され、各シャワーノズル161から染色液が噴出される。各シャワーノズル161から噴出される染色液の噴出量を調整することにより、フィルム10の全幅の幅方向の位置に応じて調整した量の染色液を接触させることができる。フィルム10は、シャワー装置16を通過した後、ニップロール56に送られる。ニップロール56は、フィルム10の表面に付着した染色液を除去する除液手段としても機能する。
【0055】
図3は、シャワー装置16から噴出される染色液の量の調整方法を説明するための断面図である。シャワー装置16から噴出される染色液の量の調整方法は、フィルム10の幅方向に配列されているシャワーノズル161について、フィルム10の中央部に相当する部分のシャワーノズル161aと、フィルムの両端部に相当する部分のシャワーノズル161bとに分けて、フィルム10の中央部に相当する部分のシャワーノズル161aの噴出量と、フィルム10の両端部に相当する部分のシャワーノズル161bの噴出量とを調整する態様が挙げられる。
【0056】
例えば、
図3に示すように、シャワー装置16では、シャワーノズル161の内、フィルム10の中央部に相当する部分のシャワーノズル161aのみから染色液が噴出され、フィルム10の両端部に相当する部分のシャワーノズル161bから染色液が噴出されないようにする具体的態様が挙げられる。
【0057】
フィルムの中央部は、フィルムの全幅を基準に5~80%であることが好ましく、20~70%がより好ましく、40~60%であることがさらに好ましい。フィルムの全幅に対する中央部の割合は、改善対象とする光学特性のバラつきの状況に応じて選択することができる。フィルムの両端部は、フィルムの中央部の両端にあり、一端の幅と他端の幅が同じであることが好ましい。
【0058】
偏光フィルムにおける光学特性のバラつきは、上述の各処理工程において、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの表面よりも端面から処理液が浸入しやすく端部近傍と中心部近傍とで処理液の浸入量に違いが生じ処理程度に違いが生じることが一つの要因であると推測される。また、延伸により幅方向で厚みにバラつきが生じ、厚みに応じて各処理工程における処理程度に違いが生じることが一つの要因であると推測される。このような要因に基づくと、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、幅方向に、上述のように、「端部/中央部/端部」と区分する方法に限定されることはなく、端部と中央部の間にさらに1つ以上の領域が存在するように分けて、領域毎で接触される染色液の量を調整した調整接触工程としてもよい。
【0059】
多段処理工程における均一接触工程と調整接触工程の順番は限定されない。したがって、シャワー装置の配置位置は
図1に示すような染色浴15の出口側に限定されることはなく、入口側であってもよく、入口側と出口側の両方に設けられている構成であってもよい。さらに、出口側にシャワー装置が設けられている構成において、シャワー装置の配置位置は除液手段でもあるニップロール56の上流側であっても下流側であってもよい。特定の領域にシャワーを浴びせる観点から、除液手段であるニップロール56の下流側に配置されていてもよい。また染色液の接触量の異なる二つの領域間の光学特性の境界がはっきりと形成されることを抑制する観点から、除液手段であるニップロール56の上流側に配置され、浸漬直後のフィルム表面に染色液が残っている状態で調整接触工程が行われてもよい。
【0060】
シャワーは、フィルムの両方の表面に浴びせてもよく、また一方の表面のみに浴びせてもよい。鉛直方向に対して所定の角度を有する方向に搬送されているフィルムに対してシャワーを浴びせる場合は、すなわちフィルムの両面が鉛直方向に対して上側と下側とで区別することができる状態で搬送されているフィルムに対してシャワーを浴びせる場合は、液切れや均一性の観点から、少なくともフィルムの上面に対してシャワーを浴びせるのが好ましい。シャワーを浴びせる領域において、フィルムの単位面積あたりのシャワーを浴びせる総量は、例えば、0.05~20L/m2であり、0.1~10L/m2であることが好ましい。フィルムに浴びせるシャワーの総量は、シャワー装置からの処理液の噴出量の調整、フィルムの搬送速度の調整等により調整することができる。
【0061】
フィルムの表面から染色液を除去する除液手段としては、
図1に示すニップロール56以外にも、フィルムにエアーを吹き付けて除液を行う手段、フィルムに接触して除液を行うスクレイパー等を用いてもよい。
【0062】
染色工程、架橋工程及び補色工程の少なくとも一つの工程が多段処理工程であることが好ましく、染色工程、架橋工程及び補色工程の全てが多段処理工程であってもよい。架橋工程及び/又は補色工程が多段処理工程である場合、架橋部、補色部の構成は上述の染色部の構成を適用することができる。多段処理工程が適用される処理工程が、二つ以上の処理浴にフィルムを順次浸漬させて行う構成である場合、いずれかの処理浴にシャワー装置が設置されていればよい。
【0063】
また、多段処理工程は、染色工程、架橋工程及び補色工程に限定されることはなく、洗浄工程が多段処理工程であってもよい。洗浄工程が多段処理工程である場合、調整接触工程は、フィルムの両端部に接触させる洗浄液の量が、フィルムの中央部に接触させる洗浄液の量よりも多くなるように調整されることが好ましい。
【0064】
複数の処理工程が多段処理工程である場合に、各多段処理工程の調整接触工程毎に異なる調整方法を採用することができ、例えば中央部の幅は、調整接触工程毎に異なる幅であってよい。
【0065】
(ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対するその他の処理工程)
上記した処理以外の処理を付加することもできる。追加されうる処理の例として、架橋工程の後に行われる、ホウ素化合物を含まず塩化亜鉛等を含有する水溶液への浸漬処理(亜鉛処理)等が挙げられる。
【0066】
<偏光フィルム>
上述の方法により、幅方向の光学特性のバラつきが抑制された偏光フィルムを得ることができる。得られる偏光フィルムの視感度補正単体透過率Tyは、視感度補正偏光度Pyとのバランスを考慮して、40~47%であることが好ましく、41~45%であることがより好ましい。視感度補正偏光度Pyは、幅方向のいずれの位置においても、99.9%以上であることが好ましく、99.95%以上であることがより好ましい。なお、視感度補正偏光度Pyの幅方向における最大値と最小値の差は、0.0015%以下であることが好ましく、差は小さいほど好ましい。
【0067】
偏光フィルムについて、積分球付き分光光度計〔日本分光(株)製の「V7100」〕を用いて波長380~780nmの範囲におけるMD透過率とTD透過率を測定し、下記式:
単体透過率(%)=(MD+TD)/2
偏光度(%)={(MD-TD)/(MD+TD)}×100
に基づいて各波長における単体透過率及び偏光度を算出する。
【0068】
「MD透過率」とは、グラントムソンプリズムから出る偏光の向きと偏光フィルム試料の透過軸とを平行にしたときの透過率であり、上記式においては「MD」と表す。また、「TD透過率」とは、グラントムソンプリズムから出る偏光の向きと偏光フィルム試料の透過軸とを直交にしたときの透過率であり、上記式においては「TD」と表す。得られた単体透過率及び偏光度について、JIS Z 8701:1999「色の表示方法-XYZ表色系及びX10Y10Z10表色系」の2度視野(C光源)により視感度補正を行い、視感度補正単体透過率(Ty)、及び視感度補正偏光度(Py)を求める。
【0069】
本発明の偏光フィルムの幅は、例えば、50mm以上5000mm以下であり、好ましくは500mm以上4000mm以下である。得られた偏光フィルムは、巻取ロールに順次巻き取ってロール形態としてもよいし、巻き取ることなくそのまま偏光板作製工程(偏光フィルムの片面又は両面に保護フィルム等を積層する工程)に供することもできる。
【0070】
<偏光板>
以上のようにして製造される偏光フィルムの少なくとも片面に、接着剤を介して保護フィルムを貼合することにより偏光板を得ることができる。保護フィルムとしては、例えば、トリアセチルセルロースやジアセチルセルロースのようなアセチルセルロース系樹脂からなるフィルム;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート及びポリブチレンテレフタレートのようなポリエステル系樹脂からなるフィルム;ポリカーボネート系樹脂フィルム、シクロオレフィン系樹脂フィルム;アクリル系樹脂フィルム;ポリプロピレン系樹脂の鎖状オレフィン系樹脂からなるフィルムが挙げられる。
【0071】
偏光フィルムと保護フィルムとの接着性を向上させるために、偏光フィルム及び/又は保護フィルムの貼合面に、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理、紫外線照射、プライマー塗布処理、ケン化処理などの表面処理を施してもよい。偏光フィルムと保護フィルムとの貼合に用いる接着剤としては、紫外線硬化性接着剤のような活性エネルギー線硬化性接着剤や、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液、又はこれに架橋剤が配合された水溶液、ウレタン系エマルジョン接着剤のような水系接着剤を挙げることができる。紫外線硬化型接着剤は、アクリル系化合物と光ラジカル重合開始剤の混合物や、エポキシ化合物と光カチオン重合開始剤の混合物等であることができる。また、カチオン重合性のエポキシ化合物とラジカル重合性のアクリル系化合物とを併用し、開始剤として光カチオン重合開始剤と光ラジカル重合開始剤を併用することもできる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0073】
[偏光フィルムの製造]
<実施例1>
上流側から順に、膨潤浴、二つの染色浴(第1染色浴及び第2染色浴)、二つの架橋浴(第1架橋浴、第2架橋浴)、補色浴、洗浄浴を有し、第1染色浴の入口側及び出口側、第2染色浴の入口側、補色浴の入口側と出口側にシャワー装置が配置されている製造装置であり、他の構成は
図1に示す製造装置の構成と同様である製造装置を用いて、実施例1の偏光フィルムを製造した。
【0074】
具体的には、幅4260mm、厚み60μmの長尺のポリビニルアルコール(PVA)原反フィルム〔三菱ケミカル製の商品名「M6000」、ケン化度99.9モル%以上〕をロールから巻き出しながら連続的に搬送し、純水からなる膨潤浴(26℃)に滞留時間が15秒となるように浸漬させた(膨潤工程)。その後、膨潤浴から引き出したフィルムを、ヨウ素を含む30℃の第1染色浴(水100質量部、ヨウ素0.028質量部、ヨウ化カリウム1.3質量部)及び30℃の第2染色浴(水100質量部、ヨウ素0.023質量部、ヨウ化カリウム1.7質量部、ホウ酸0.4質量部)に、第1染色浴及び第2染色浴の合計の滞留時間が58秒となるように連続して浸漬させた(染色工程)。次いで、第2染色浴から引き出したフィルムを、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水が12/5/100(質量比)である56℃の第1架橋浴に滞留時間20秒、同じ液組成である58℃の第2架橋浴に滞留時間38秒で浸漬させた。さらにヨウ化カリウム/ホウ酸/水が13/5/100(質量比)である40℃の補色浴に滞留時間17秒で浸漬させた(補色工程)。その後フィルムを5℃の純水からなる洗浄浴に浸漬させた(洗浄工程)。
【0075】
第1染色浴では、第1染色浴の入口側と出口側にそれぞれ設置されたシャワー装置により、フィルム幅4803mmに対し、中央部2420mm(全幅に対する中央部の割合50%)のみに第1染色浴と同じ組成の染色液のシャワーを浴びせた。第2染色浴では、入口側に設置されたシャワー装置により、フィルム幅4646mmに対し、中央部2310mm(全幅に対する中央部の割合50%)のみに第2染色浴と同じ組成の染色液のシャワーを浴びせた。補色浴では、入口側と出口側に設置されたシャワー装置により、フィルム幅2406mmに対し、中央部1210mm(全幅に対する中央部の割合50%)のみに補色浴と同じ組成の補色液のシャワーを浴びせた。また、染色工程、架橋工程、及び補色工程において、浴中でのロール間延伸により縦一軸延伸を行い、原反フィルムを基準とする総延伸倍率は6倍とした。洗浄工程の後、最初に温度48℃で乾燥を行い、その後温度91℃で乾燥を行い、厚み24μm、幅1920mmの偏光フィルムを得た。
【0076】
<実施例2>
実施例1において、シャワー装置により処理液を浴びせる工程は第1染色浴の入口側と出口側に設置されたシャワー装置のみによりフィルム幅4803mmに対し、中央部2420mm(全幅に対する中央部の割合50%)のみに第1染色浴と同じ組成の染色液のシャワーを浴びせ、第2染色浴及び補色浴に設置されているシャワー装置は作動させなかった点以外は、実施例1と同様の方法により偏光フィルムを製造した。
【0077】
<比較例1>
実施例1において、いずれの処理浴においてもシャワー装置を作動させず処理液のシャワーをフィルムに浴びせる工程を行わなかった点以外は、実施例1と同様の方法により偏光フィルムを製造した。
【0078】
<偏光度の測定>
得られた1920mm幅の実施例1,2及び比較例1の偏光フィルムのうち、幅方向に延在する3本の直線において、左端から20mm(位置1)、100mm(位置2)、500mm(位置3)、960mm(位置4)、1420mm(位置5)、1820mm(位置6)、1900mm(位置7)の7つの位置において、上述の方法に基づき視感度補正偏光度(Py)を測定した。表1に、7つの位置における3本の直線の視感度補正偏光度(Py)の平均値(かかる平均値を各位置における視感度補正偏光度(Py)とする)を示す。また、表1には、7つの位置における視感度補正偏光度の最大値と最小値の差の算出値を示す。
図4は、表1に示す偏光度をプロットしたグラフである。
【0079】
【0080】
表1及び
図4に示す結果から、実施例1,2の偏光フィルムは、幅方向の視感度補正偏光度の最大値と最小値の差が比較例1のものと比較して小さく、幅方向の視感度補正偏光度のバラつきが抑制されていることがわかる。
【0081】
<実施例3>
実施例1において、偏光フィルムとして幅3390mmのポリビニルアルコール原反フィルムを使用した。
【0082】
第1染色浴では、第1染色浴の入口側と出口側にそれぞれ設置されたシャワー装置にて、フィルム幅3859mmに対し、中央部1925mm(全幅に対する中央部の割合50%)のみに第1染色浴と同じ組成の染色液のシャワーを浴びせた。第2染色浴では、入口側に設置されたシャワー装置により、フィルム幅3751mmに対し、中央部1760mm(全幅に対する中央部の割合47%)のみに第2染色浴と同じ組成の染色液のシャワーを浴びせた。補色浴では、入口側と出口側に設置されたシャワー装置により、フィルム幅1962mmに対し、中央部990mm(全幅に対する中央部の割合50%)のみに補色浴と同じ組成の補色液のシャワーを浴びせた。
【0083】
また、染色工程、架橋工程、及び補色工程において、浴中でのロール間延伸により縦一軸延伸を行い、原反フィルムを基準とする総延伸倍率は6倍とした。洗浄工程の後、最初に温度46℃で乾燥を行い、その後温度92℃で乾燥を行い、厚み24μm、幅1460mmの偏光フィルムを得た。上記以外は、実施例1と同じ製造方法により偏光フィルムを作製した。
【0084】
<実施例4>
実施例3において、シャワー装置による処理液のシャワーを浴びせる工程は第1染色浴の入口側と出口側に設置されたシャワー装置のみによりフィルム幅3859mmに対し、中央部1925mm(全幅に対する中央部の割合50%)のみに第1染色浴と同じ組成の染色液のシャワーを浴びせ、第2染色浴及び補色浴に設置されているシャワー装置は作動させなかった点以外は、実施例3と同様の方法により偏光フィルムを製造した。
【0085】
<比較例2>
実施例3において、シャワー装置による処理液のシャワーを浴びせる工程は、いずれの処理浴でも行わなかった点以外は、実施例1と同様の方法により偏光フィルムを製造した。
【0086】
<偏光度の測定>
得られた1460mm幅の実施例3,4,及び比較例2の偏光フィルムのうち、幅方向に延在する4本の直線において、左端から20mm(位置1)、100mm(位置2)、730mm(位置3)、1360mm(位置4)、1440mm(位置5)の5つの位置において、上述の方法にしたがって視感度補正偏光度(Py)を算出した。表2に、5つの位置における4本の直線の視感度補正偏光度(Py)の平均値(かかる平均値を各位置における視感度補正偏光度(Py)とする)を示す。また、表2には、5つの位置における視感度補正偏光度(Py)の最大値と最小値の差の算出値を示す。
図5は、表2に示す視感度補正偏光度(Py)をプロットしたグラフである。
【0087】
【0088】
表2及び
図5に示す結果から、実施例3,4の偏光フィルムは、幅方向の視感度補正偏光度の最大値と最小値の差が比較例2のものと比較して小さく、幅方向の視感度補正偏光度のバラつきが抑制されていることがわかる。
【符号の説明】
【0089】
10 ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルム、11 原反ロール、13 膨潤浴、15 染色浴、16 シャワー装置、17a 架橋浴、17b 補色浴、19 洗浄浴、21 乾燥炉、23 偏光フィルム、30~35,37~48,60,61 ガイドロール、50~52,53a,53b,54,55,56 ニップロール。