(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】シリコーン樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 83/04 20060101AFI20241206BHJP
C08K 3/16 20060101ALI20241206BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20241206BHJP
C08K 3/105 20180101ALI20241206BHJP
【FI】
C08L83/04
C08K3/16
C08K3/013
C08K3/105
(21)【出願番号】P 2020197868
(22)【出願日】2020-11-30
【審査請求日】2023-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】池田 祐一
(72)【発明者】
【氏名】福田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】藤井 彩子
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-158379(JP,A)
【文献】特開2016-216606(JP,A)
【文献】特開2016-108456(JP,A)
【文献】特開2015-209481(JP,A)
【文献】特開2010-202857(JP,A)
【文献】特開2008-001755(JP,A)
【文献】特開昭56-163149(JP,A)
【文献】特開平04-202366(JP,A)
【文献】特表2017-525834(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K
C08L
C08G
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率が1.40~1.42であり、側鎖の有機基の90質量%以上がメチル基であるメチル系シリコーン樹脂と、フッ化マグネシウム粒子を
99容量%以上含み、体積平均粒径1~
10μmの無機充填材と、からなるシリコーン樹脂組成物。
【請求項2】
前記無機充填材の配合量が、前記メチル系シリコーン樹脂100容量部に対して60~200容量部である、請求項1に記載のシリコーン樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシリコーン樹脂組成物よりなる放熱材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なシリコーン樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体素子などの熱源から熱を逃がすための放熱材料として、熱伝導性フィラーをエポキシ樹脂やシリコーン樹脂の様な樹脂に配合した複合材料が広く使用されている。この放熱材料のマトリクス材として使用される樹脂の中でも、シリコーン樹脂は耐熱性と耐光性が高いことから広く使用されている。
【0003】
このような放熱材料として使用されるシリコーン樹脂組成物に必要な特性として、放熱性や耐熱性のほか、透明性が求められる場合がある。例えば、発光ダイオードにおいては、発光ダイオード素子の周囲にリフレクターが配されており、発光ダイオード素子から発せられた光はリフレクターによって反射されて採光される。ここで、発光ダイオード素子はリフレクターの一部に接着剤によって接着されている。この接着剤が不透明である場合、発光ダイオード素子の接着面から発せられた光はリフレクターに到達することができず、採光されない。一方、接着剤を透明にすることができれば、発光ダイオード素子の接着面から発せられた光は接着剤中を透過してリフレクターに到達することができ、採光することが可能となり、光の利用効率が向上する。
【0004】
ところで、上記発光ダイオードは、発光時、その温度は200℃前後の高温にまで上昇するため、かかる温度において上記特性を示すシリコーン樹脂組成物が必要となる。
【0005】
しかしながら、公知のシリコーン樹脂組成物において、このような特性を有するものは存在しないのが現状である。即ち、特許文献1には、無機充填材として非晶性球状シリカを使用し、上記無機充填材に対して、複数のシリコーン樹脂を組み合わせることにより、使用温度における屈折率を調整したシリコーン樹脂組成物が提案されているが、上記シリコーン樹脂組成物は、100℃程度での使用を意図したものであり、200℃前後の高温においての使用ができないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はそのような事情を鑑みてなされたものであり、前記発光ダイオード素子の稼働中の温度である200℃前後で使用可能であり、且つ、かかる使用温度において高い透明性を発揮することが可能なシリコーン樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、耐熱性の高いメチル系シリコーン樹脂に、フッ化マグネシウム粒子を90容量%以上含む体積平均粒径が1~20μmの無機充填材を配合することによって、発光ダイオード素子の稼働中の温度である200℃前後で使用可能で、且つ、かかる使用温度領域で高い透明性を示すシリコーン樹脂組成物を提供できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明は、メチル系シリコーン樹脂と、フッ化マグネシウム粒子を90容量%以上含み、体積平均粒径が1~20μmの無機充填材と、からなるシリコーン樹脂組成物である。
【0010】
また、前記無機充填材の配合量が、前記シリコーン樹脂100容量部に対して60~200容量部であることが、シリコーン樹脂組成物が、より高い熱伝導性と接着剤として使用した場合の強度を発揮するために好ましい。
【0011】
さらにまた、前記シリコーン樹脂組成物は、放熱材、特には発光ダイオードの発光素子とリフレクターとの間の接着剤として使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のシリコーン樹脂組成物により、耐熱性と熱伝導性が高く、且つ200℃前後での透明性が高いシリコーン樹脂組成物を提供することが可能となる。このシリコーン樹脂組成物は、透明性を要求される放熱材として好適に使用される。特に、発光ダイオードの稼働中の温度である200℃前後での透明性が高いため、例えば発光ダイオードの発光素子とリフレクターとの間の接着剤として使用することにより、発光ダイオードの採光効率を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のシリコーン樹脂組成物は、メチル系シリコーン樹脂と、フッ化マグネシウム粒子を90容量%以上含む体積平均粒径1~20μmの無機充填材と、からなるものである。
【0014】
本発明において、マトリクス材は耐熱性が高いメチル系シリコーン樹脂を使用する。シリコーン樹脂はシロキサン結合を主鎖とし、側鎖として有機基を有する樹脂である。本発明におけるメチル系シリコーン樹脂は、上記シリコーン樹脂のうち、側鎖の有機基が主にメチル基からなるものである。
【0015】
シリコーン樹脂の耐熱性はその構造の影響を強く受け、側鎖の有機基にメチル基以外の官能基が多量に含まれていたり、他の樹脂により変性されていたりすると、その耐熱性は低下する。換言すれば、メチル系シリコーン樹脂を使用することで、高い耐熱性を有するシリコーン樹脂組成物を得ることが出来る。
【0016】
本発明のメチル系シリコーン樹脂は、上述のように側鎖の有機基は主にメチル基であり、耐熱性の観点から、側鎖の有機基のうち、90質量%以上がメチル基であることが好ましく、94質量%以上がメチル基であることがより好ましい。
【0017】
本発明のメチル系シリコーン樹脂は、公知のものを何ら際限なく利用でき、数種類のメチル系シリコーン樹脂を混合して使用しても良い。市販の入手可能なメチル系シリコーン樹脂として、例えば、信越化学工業社製のKER-2500、KER-2700,旭化成ワッカーシリコーン社製のLUMISIL202 UV、LUMISIL203UV、LUMISIL205 UV、LUMISIL245 UV、LUMISIL307 UV DAM、森日シリコン社製のSR2524、SR2650、SR2680、SR2630などを挙げることができる。
【0018】
なお、側鎖が全てメチル基で変性されていない純粋なメチル系シリコーン樹脂の屈折率は1.41程度である。ここで、シリコーン樹脂の屈折率は、側鎖の有機基や変性の影響を強く受けるため、側鎖の有機基にメチル基以外の官能基が多量に導入されていたり、他の樹脂により変性されていたりすると、通常は耐熱性が著しく低下し、屈折率が1.41から大きく離れることとなる。屈折率が1.41に近い1.40~1.42の範囲内であれば、側鎖が主にメチル基であり、他の樹脂による変性も多量にされていないメチル系シリコーン樹脂であると言え、高い耐熱性を有しており、本発明の効果が得られる。そのため、本発明のメチル系シリコーン樹脂の屈折率は1.40~1.42であり、特には1.41である。
【0019】
本発明においてシリコーン樹脂の屈折率は、光源がD線近似波長であるアッベ屈折率計を使用して、25℃で測定したものである。なお、シリコーン樹脂の屈折率はペースト状態におけるものであり、後述するようにシリコーン樹脂組成物を硬化させる場合は、硬化前のシリコーン樹脂の屈折率を測定する。
【0020】
本発明の無機充填材は、フッ化マグネシウム粒子を90容量%以上含むものが利用可能である。従来使用されているシリカやアルミナ等の充填材では屈折率が高く、メチル系シリコーン樹脂からなるマトリクス材と充填材の屈折率を整合させて、透明な樹脂組成物を得ることができなかった。これに対し、本発明は、無機充填材としてフッ化マグネシウム粒子を用いることが最大の特徴である。フッ化マグネシウムは熱伝導性が高いため、これを含む無機充填材を使用することで、シリコーン樹脂組成物の熱伝導率が十分に高いものとすることが可能である。さらに、フッ化マグネシウムはその屈折率が1.38であるため、発光ダイオード等の発熱素子が稼働して発熱することにより200℃付近となり、メチル系シリコーン樹脂組成物が膨張して屈折率が低下した際に、マトリクスと充填材の屈折率がほぼ合致し、シリコーン樹脂組成物が透明となる。
【0021】
なお、無機充填材にはフッ化マグネシウム粒子以外の無機粒子が10容量%未満で含まれていても良いが、シリコーン樹脂組成物において高い熱伝導率が得られやすいことと、200℃における高い透明性が得られやすいことから、無機充填材におけるフッ化マグネシウム粒子の割合は95容量%以上であることが好ましく、99容量%以上であることがより好ましく、100容量%であることが特に好ましい。
【0022】
無機充填材の体積平均粒径は1~20μmである。無機充填材の体積平均粒径を1~20μmとすることで、メチル系シリコーン樹脂への充填性が良好となり、シリコーン樹脂組成物が十分な熱伝導性を得ることが可能となる。粒径は1~15μmであることがより好ましく、1~10μmであることが最も好ましい。なお、本発明の体積平均粒径は、レーザー回折散乱法により測定したものである。
【0023】
無機充填材の形状は特に制限されないが、球状であることが好ましい。球状であることによりメチル系シリコーン樹脂への充填性が良好となり、シリコーン樹脂組成物に良好な操作性と高い熱伝導性を与えることが容易になる。本発明において球状とは、SEM画像の画像解析により測定した円形度が0.5以上であることを意味する。円形度は0.7以上であることがより好ましい。
【0024】
本発明の無機充填材の屈折率は、1.37~1.39であることが好ましく、1.38であることが好ましい。無機充填材の屈折率を前記範囲とすることで、200℃前後でのシリコーン樹脂組成物の透明性を高めることができる。
【0025】
無機充填材がフッ化マグネシウム粒子以外の無機粒子を含む場合、該無機粒子の屈折率は、1.34~1.42であることが好ましく、1.37~1.39であることがさらに好ましい。これは、無機粒子の屈折率がフッ化マグネシウムと大きく異なる、すなわち200℃におけるメチル系シリコーン樹脂の屈折率と大きく異なる場合、シリコーン樹脂組成物の透明性が低下する場合があるためである。
【0026】
本発明において、無機充填材に含まれるフッ化マグネシウム粒子及びその他の無機粒子の屈折率は、25℃で632.8nmの光におけるものである。フッ化マグネシウムのように複屈折率を示す場合は、測定によって得られた2つの屈折率の値の算術平均を、本発明の無機充填材に含まれるフッ化マグネシウム及びその他の無機粒子の屈折率とする。屈折率は液浸法で測定したものである。
【0027】
本発明の無機充填材に配合されるフッ化マグネシウム粒子は、公知の方法で製造することが可能であるが、その製造工程でアトマイズ処理による造粒をすることが好ましい。一般的なアトマイズ処理とは、底に封じられた孔を持ち、前記孔の開放を任意の時機で行うことが可能な機構を備えるルツボについて、このルツボ内に保持した原料(フッ化マグネシウム)を加熱して溶解させ、溶湯とし、前記溶湯を開放した孔から流下させつつ高速のガスあるいは水などの媒体を孔から流下された溶湯に吹き付けることにより微細化する、または、回転するディスクに孔から流下された溶湯を接触させ遠心力を利用して微細化するものである。微細化された溶湯は凝固するまでに表面張力により球状化することで球形度の高い粉末を容易に得ることが出来る。よってアトマイズ処理による造粒をすることで、体積平均粒径が1~20μmであり、且つ球状のフッ化マグネシウム粒子を得ることが容易となる。アトマイズ処理は公知のアトマイズ処理装置(アトマイザー)を使用して行うことができる。アトマイズ処理による造粒工程の条件は、目的の粒径に応じて、溶湯温度、ルツボの孔径、吹き付けるガスや媒体の流量・速度、回転するディスクの回転数などを適宜決定すれば良い。
【0028】
本発明のシリコーン樹脂組成物は、前記メチル系シリコーン樹脂と前記無機充填材とからなるものである。前記無機充填材の配合量は、前記メチル系シリコーン樹脂100容量部に対して、60~200容量部であることが好ましく、100~200容量部であることがより好ましく、100~150容量部であることがさらに好ましい。
【0029】
本発明のシリコーン樹脂組成物は、メチル系シリコーン樹脂とフッ化マグネシウム粒子を含む無機充填材とからなるものであるが、後述のように硬化触媒を含む場合もある。
【0030】
本発明のシリコーン樹脂組成物の製造方法は、公知の方法を使用することが可能である。具体的には、ペースト状の前記メチル系シリコーン樹脂と、フッ化マグネシウム粒子を含む無機充填材とを所定の混合比で混合することにより製造可能である。メチル系シリコーン樹脂と無機充填材との混合方法としては、乳鉢等により混合してもよいし、ゲートミキサー、バンバリーミキサー、プラネタリーミキサー等の一般的な装置により混合してもよい。また、混合時に、系に添加する順序も、公知の添加順序が特に制限無く採用される。例えば、無機充填材がフッ化マグネシウム以外の無機粒子を含む場合、フッ化マグネシウムとその他の無機粒子を混合した後にメチル系シリコーン樹脂に添加しても良いし、メチル系シリコーン樹脂にフッ化マグネシウムとその他の無機粒子を、所定の割合となるように、同時に、または順次添加して行っても良い。
【0031】
ペースト状のメチル系シリコーン樹脂とフッ化マグネシウムを混合した後、公知の方法で硬化させて使用することも可能である。後述のような放熱材や接着剤として使用する際には、通常硬化させて使用する。硬化させる方法としては、例えば、ペースト状のメチル系シリコーン樹脂が縮合型シリコーン樹脂であり、シラノール結合を形成可能な反応性官能基(例えば、シラノール基、アルコキシシリル基)を有しており、これの反応性官能基を加熱したり触媒を使用したりして活性化することで互いに反応させ、硬化させる方法が挙げられる。また、ペースト状のメチル系シリコーン樹脂が付加型シリコーン樹脂であり、ヒドロシリル反応が可能な反応性官能基(例えば、ヒドロキシシリル基とビニル基)を有しており、これの反応性官能基を加熱したり触媒を使用したりしてヒドロシリル反応により硬化させる方法も挙げられる。触媒としては公知のものが特に制限なく利用可能であり、縮合型シリコーン樹脂における触媒としては、例えば有機スズ化合物、有機チタン化合物、第4級アンモニウム塩化合物などが挙げられ、付加型シリコーン樹脂における触媒としては、白金系金属触媒、パラジウム系金属触媒、ロジウム系金属触媒、ニッケル系金属触媒、鉄系金属触媒、コバルト系金属触媒などが挙げられる。
【0032】
本発明のシリコーン樹脂組成物の用途は特に限定されないが、高い放熱性と透明性が要求される部位における放熱材として使用することが好ましい。具体的に例示すれば、発光ダイオード素子やレーザー素子等の光学素子周辺に設置される放熱材、半導体素子と基板の間に設置され、放熱性と共に位置合わせのための透明性が要求される放熱材、及び自動車や建築物の窓周辺に設置され、放熱性と共に審美性向上のための透明性が要求される放熱材等が挙げられる。中でも発光ダイオードにおける発光ダイオード素子とリフレクターの接着剤として使用することが好ましい。発光ダイオードでは、発光ダイオード組成から発せられた光がリフレクターによって反射されつつ集められ、採光される。発光素子は、リフレクターの一部に接着剤によって接着されて固定されている。発光素子からは全方位に光が発せられるため、当然接着剤方向にも光が発せられるが、この接着剤が不透明であると接着剤側に発せられた光は全く採光されない。一方、本発明のシリコーン樹脂組成物のような発光ダイオードの稼働温度で透明な接着剤を使用することにより、接着剤側に発せられた光は接着剤を透過してリフレクターに到達し、反射されて採光されるようになる。本発明のシリコーン樹脂組成物は、発光ダイオードの稼働時の温度である200℃付近で透明性が高くなり、且つ高い放熱性により発光ダイオード素子から発生した熱を効率的に逃がすための放熱材としても作用することが出来るため、発光ダイオード組成とリフレクターとの接着剤として使用することが、好ましい使用形態の一つである。
【実施例】
【0033】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。実施例中に示した略号、称号については以下のとおりである。
<メチル系シリコーン樹脂>
・S1:KER-2500(信越化学工業製)、屈折率1.41。
<無機充填材>
・F1:球状フッ化マグネシウム粒子、体積平均粒径7.4μm、屈折率1.38。なお、本無機充填材は後述するF1の製造に記載の方法に従って得た。
・F2:球状アルミナ粒子、CB-P05(昭和電工製)、体積平均粒径4.0μm、屈折率1.77。
・F3:球状シリカ粒子、エクセリカSE8(トクヤマ製)、体積平均粒径8.0μm、屈折率1.46。
【0034】
表1にシリコーン樹脂組成物の組成を示す。
【0035】
【0036】
各試験方法は以下のとおりである。
【0037】
(無機充填材F1の製造)
無機充填材F1の製造にはガスアトマイズ装置(日新技研社製:NEVA―GP2T型)を用いた。カーボンルツボに塊状のフッ化マグネシウムを充填し高周波加熱により1350℃に加熱して溶融させ、溶湯とした。フッ化マグネシウムの溶湯をルツボ底の孔から流下させつつArガスを1.0MPaの圧力で吹き付け、溶湯を微細化し粉末化し球状フッ化マグネシウム粒子を得た。
【0038】
(シリコーン樹脂組成物の製造)
所定量のシリコーン樹脂並びに無機充填材を計量し、自転公転ミキサーを用いて混合及び脱泡を行った。得られたスラリーを50mm×50mm×厚さ0.3mmの金型に充填し、100℃、650kPa/m2の圧力で1時間プレスした。プレス後、サンプルを150℃の乾燥器内に5時間静置し、完全に硬化させた。
【0039】
(シリコーン樹脂の屈折率の測定)
メチル系シリコーン樹脂の屈折率は、アッベ屈折率計(アタゴ社製)を用いて25℃の恒温室内で測定した。
【0040】
(無機充填材の屈折率の測定)
用いた無機充填材の屈折率は、アッベ屈折率計(アタゴ社製)を用いて液浸法によって測定した。すなわち、25℃の恒温室において、100mlサンプルビン中、無機充填材1gをメタノール50ml中に分散させる。この分散液をスターラーで攪拌しながら1-ブロモナフタレンを少しずつ滴下し、分散液が最も透明になった時点の分散液の屈折率を測定し、得られた値を無機充填材の屈折率とした。
【0041】
(無機充填材の体積平均粒径の測定)
無機充填材の体積平均粒径はレーザー回折散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所LA―950)を用いて測定した。試料調整は、分散媒に水、分散剤にヘキサメタりん酸ナトリウム(NaHMP)を0.1wt%を使用した溶液に、無機充填材を添加して5分間超音波処理をすることで行った。
【0042】
(シリコーン樹脂組成物の熱伝導率の測定)
シリコーン樹脂組成物の熱伝導率(W/m・K)は、熱拡散率(m2/秒)×密度(kg/m3)×比熱(J/kg・K)で求めた。シリコーン樹脂組成物の熱拡散率は、熱拡散/熱伝導率測定装置(日立ハイテク社製:ai-Phase Mobile 2)を使用して、温度波熱分析法により求めた。シリコーン樹脂組成物の密度は、空気中での重量と水中での重量より算出するアルキメデス法により求めた。シリコーン樹脂組成物の比熱は、示差走査熱量計(リガク社製:Thermo Plus Evo DSC8230)を使用して測定した。
【0043】
(シリコーン樹脂組成物の透明性の評価)
ホットプレートの上に文字が印刷された台紙を設置し、さらにそのプレートの上に厚さ0.3mmに製造したシリコーン樹脂組成物を置いた。ホットプレートを200℃に加熱し、15分間静置した後に、シリコーン樹脂組成物の下の印刷された文字の見え方を目視で確認し、以下の基準に従って評価した。
○:シリコーン樹脂組成物の下の文字がはっきりと確認できる。
△:シリコーン樹脂組成物の下の文字が僅かに確認できる。
×:シリコーン樹脂組成物の下の文字が見えない。
【0044】
<実施例1>
シリコーン樹脂S1を4.24gと、無機充填材F1を19.02gとを、上記シリコーン樹脂組成物の製造方法に従って撹拌混合し、シリコーン樹脂100容量部に対して無機充填材150容量部であるシリコーン樹脂組成物を得た。得られたシリコーン樹脂組成物の熱伝導率の測定と透明性の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0045】
<実施例2,3、比較例1~4>
表1に従って無機充填材の種類と配合量を変更した以外は、実施例1と同様にシリコーン樹脂組成物を製造し、得られたシリコーン樹脂組成物の熱伝導率と透明性の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0046】
【0047】
表2の評価結果より、フッ化マグネシウム粒子を含む無機充填材を配合した実施例1~3は、アルミナまたはシリカを配合した比較例1~5と同等以上の熱伝導率を示した。これは、フッ化マグネシウム粒子を含む無機充填材を配合したシリコーン樹脂組成物は放熱材料として十分な熱伝導率を有していることを示している。
【0048】
さらに、フッ化マグネシウム粒子を含む無機充填材を配合した実施例1~3は、200℃に加熱したホットプレート上で高い透明性を示した。これはすなわち、シリコーン樹脂組成物が発光ダイオードの稼働中の温度である200℃付近に加熱された際に、高い透明性を有していることを意味している。
【0049】
以上の結果から、メチル系シリコーン樹脂と、フッ化マグネシウム粒子を含む体積平均粒径1~20μmの無機充填材と、からなるシリコーン樹脂組成物は、放熱材料として十分な熱伝導性と、発光ダイオードの稼働中の温度である200℃付近に加熱された際に高い透明性を有しており、例えば発光ダイオードの発光ダイオード素子とリフレクターとの接着剤として有用であると言える。