(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】描画装置の制御方法および描画装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20241206BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20241206BHJP
H01J 37/305 20060101ALI20241206BHJP
H01J 37/147 20060101ALI20241206BHJP
H01J 37/09 20060101ALI20241206BHJP
【FI】
H01L21/30 541W
G03F7/20 504
H01J37/305 B
H01J37/147 C
H01J37/09 Z
(21)【出願番号】P 2021188110
(22)【出願日】2021-11-18
【審査請求日】2024-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【氏名又は名称】赤岡 明
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 英太
(72)【発明者】
【氏名】中山 貴仁
(72)【発明者】
【氏名】中橋 怜
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-245176(JP,A)
【文献】特開2010-067809(JP,A)
【文献】特開2018-078187(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
H01J 37/305
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチ荷電粒子ビームを照射対象の所定位置に照射して前記照射対象上に所定パターンを描画する描画装置であって、
マルチ荷電粒子ビームを生成するビーム生成機構と、
生成された前記マルチ荷電粒子ビームを遮蔽する制限アパーチャ基板と、前記マルチ荷電粒子ビームを所定方向に偏向する偏向器と、を備え、前記マルチ荷電粒子ビームをブランキングするブランキングアパーチャ機構と、
前記照射対象を載置し、移動可能なステージと、
前記制限アパーチャ基板を移動させる駆動部と、
前記描画装置を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記ブランキングの期間中に、前記制限アパーチャ基板を
描画処理の期間中の配置位置から前記マルチ荷電粒子ビームの軸方向に対して垂直な面内で移動させ
、描画処理の期間中は、前記制限アパーチャ基板を前記配置位置に戻す、描画装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記制限アパーチャ基板を前記所定方向に対して逆方向に移動させる、請求項1に記載の描画装置。
【請求項3】
前記制限アパーチャ基板の移動距離は、前記制限アパーチャ基板に設けられたアパーチャの開口径以上である、請求項1または請求項2に記載の描画装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記ブランキングの期間に、前記照射対象の温度を一定にするためのソーキングを行う、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の描画装置の制御方法。
【請求項5】
マルチ荷電粒子ビームを照射対象の所定位置に照射して前記照射対象上に所定パターンを描画する描画方法であって、
マルチ荷電粒子ビームを生成し、
生成された前記マルチ荷電粒子ビームを所定方向に偏向して制限アパーチャ基板により前記マルチ荷電粒子ビームをブランキングし、
前記ブランキングの期間に、前記制限アパーチャ基板を
描画処理の期間中の配置位置から前記マルチ荷電粒子ビームの軸方向に対して垂直な面内で移動させ
、描画処理の期間中は、前記制限アパーチャ基板を前記配置位置に戻す、描画方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、描画装置の制御方法および描画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
描画装置は、電子銃から放出された荷電粒子ビームをマスクブランクスに照射して、マスクブランクス上の感光材料を所望のパターンに感光させる。描画装置において、荷電粒子ビームをアパーチャアレイに通過させて所望のマルチビームを生成する。
【0003】
また、散乱ビームを無視できるほど小さくするために、ブランカの電極間ギャップを狭くして、マルチビームを大きく偏向させることが考えられる。しかし、ブランカの電極間を極端に狭くすると、マルチビームが電極に照射されてしまう等の問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-140267号公報
【文献】特開2020-136289号公報
【文献】特開2017-098429号公報
【文献】特開平02-285629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マルチビームを生成する際、荷電粒子ビームは、アパーチャの側壁等にも照射され、アパーチャ側壁からの散乱電子が大量に発生することで漏れビームを生成する。成型アパーチャアレイの下流側には、マルチビームの照射を個別にまたは全体的に制御するために、ブランキングアパーチャ機構が設けられている。しかし、漏れビームは、これらにより制御することができず、マスクブランクスへ照射されるおそれがある。この場合、マスクブランクス上の感光材料が漏れビームによって意図せず露光されるおそれがある。
【0006】
すなわち、本実施形態は、このような漏れビームが描画処理に与える影響を抑制することができる描画装置の制御方法および描画装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態による描画装置は、マルチ荷電粒子ビームを照射対象の所定位置に照射して照射対象上に所定パターンを描画する描画装置であって、マルチ荷電粒子ビームを生成するビーム生成機構と、生成されたマルチ荷電粒子ビームを遮蔽する制限アパーチャ基板と、マルチ荷電粒子ビームを所定方向に偏向する偏向器とを備え、マルチ荷電粒子ビームをブランキングするブランキングアパーチャ機構と、照射対象を載置し、移動可能なステージと、制限アパーチャ基板を移動させる駆動部と、描画装置を制御する制御部と、を備え、制御部は、ブランキングの期間中に、制限アパーチャ基板をマルチ荷電粒子ビームの軸方向に対して垂直な面内で移動させる。
【0008】
本実施形態による描画方法は、マルチ荷電粒子ビームを照射対象の所定位置に照射して照射対象上に所定パターンを描画する描画方法であって、マルチ荷電粒子ビームを生成し、生成されたマルチ荷電粒子ビームを所定方向に偏向して制限アパーチャ基板によりマルチ荷電粒子ビームをブランキングし、ブランキングの期間に、制限アパーチャ基板をマルチ荷電粒子ビームの軸方向に対して垂直な面内で移動させる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態による描画装置の構成例を示す図。
【
図2A】ビームONにおける描画装置の状態を示す概念図。
【
図2B】ビームOFFにおける描画装置の状態を示す概念図。
【
図3】ソーキング処理における描画装置の制御方法を示すフロー図。
【
図4】Zマップ測定処理における描画装置の制御方法を示すフロー図。
【
図5】描画処理中における描画装置の制御方法を示すフロー図。
【
図6】描画処理におけるマルチビームの走査を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態を説明する。本実施形態は、本発明を限定するものではない。図面は模式的または概念的なものであり、各部分の比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。明細書と図面において、既出の図面に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態による描画装置の構成例を示す図である。描画装置100は、例えば、マルチビーム方式の荷電粒子ビーム露光装置であり、半導体装置の製造に用いられるリソグラフィのフォトマスクやテンプレートを描画するために用いられる。本実施形態は、描画装置の他、露光装置、電子顕微鏡等の電子ビーム、イオンビームを試料Wに照射する装置であってもよい。従って、処理対象としての試料Wは、マスクブランクスの他、半導体基板等であってもよい。
【0012】
描画装置100は、描画部150と制御部160とを備えている。描画部150は、電子鏡筒102と、描画室103とを備えている。制御部160は、照射制御部4と、ステージ制御部5と、ステージ位置測定器7と、ロジック回路131と、DACアンプ134と、制限アパーチャ制御部135とを備えている。
【0013】
電子鏡筒102内には、電子銃201と、照明レンズ202と、成形アパーチャアレイ基板203と、ブランキングアパーチャアレイ基板204と、縮小レンズ205と、制限アパーチャ基板206と、対物レンズ207と、主偏向器208と、副偏向器209と、ブランキング偏向器212と、制限アパーチャ駆動部136とが配置されている。
【0014】
描画室(ライティングチャンバ)103内には、互いに直交するX方向およびY方向(略水平方向)に移動可能なステージ105が配置される。ステージ105は、描画時にマルチビームの照射対象となるマスクブランクス等の試料Wを載置可能である。試料Wは、例えば、ガラス基板上にクロム膜等の遮光膜とレジスト膜とが積層されたマスクブランクスである。また、ステージ105上には、ステージ105の位置を測定するためにミラー210が配置される。尚、電子鏡筒102および描画室103の内部は、真空引きされており、減圧状態となっている。
【0015】
ビーム照射部としての電子銃201は、荷電粒子ビームB0を生成する。荷電粒子ビームB0は、例えば、電子ビーム、イオンビームである。電子銃201で生成された荷電粒子ビームB0は、試料Wに照射される。
【0016】
成形アパーチャアレイ基板203は、例えば、縦m列×横n列(m,n≧2)に所定の配列ピッチで配列された複数の開口30を有する。開口30は、それぞれ同じ寸法および形状の矩形で形成される。開口30の形状は、円形であっても構わない。電子銃201から放出された荷電粒子ビームB0は、照明レンズ202によりほぼ垂直に成形アパーチャアレイ基板203全体を照明する。荷電粒子ビームB0は、成形アパーチャアレイ基板203のすべての開口30が含まれる領域を照明する。荷電粒子ビームB0の一部は、複数の開口30を通過することによって、マルチビームBに成形される。このように、成形アパーチャアレイ基板203は、電子銃201からの荷電粒子ビームB0を成形してマルチビームBを生成する。
【0017】
ブランキングアパーチャアレイ基板204は、成形アパーチャアレイ基板203の各開口30の配置位置に対応するように複数の開口40を有する。図示しないが、各開口40には、対となる2つの電極の組(ブランカ)がそれぞれ配置される。各開口40を通過するマルチビームBは、対となる2つの電極に印加される電圧によってそれぞれ独立に偏向される。即ち、複数のブランカは、成形アパーチャアレイ基板203の複数の開口30を通過したマルチビームBのうち、それぞれに対応するビームのブランキング偏向を行う。これにより、ブランキングアパーチャアレイ基板204は、成形アパーチャアレイ基板203を通過したマルチビームBのそれぞれに対してビーム毎に個別にビームのON/OFF制御を行うことができる。即ち、ブランキングアパーチャアレイ基板204は、マルチビームBの各々を試料Wへ照射するか否かのブランキング制御を行うことができる。ブランキングアパーチャアレイ基板204は、偏向制御回路130によって制御される。ブランキングアパーチャアレイ基板204の開口40は、成形アパーチャアレイ基板203の開口30より大きくなっており、マルチビームBの各ビームを通過させやすくなっている。
【0018】
ブランキングアパーチャアレイ基板204の下方には、マルチビーム全体を一括してブランキング制御するブランキング偏向器212が設けられている。ブランキング偏向器212は、マルチビームBの全体を試料Wへ照射するか否かのブランキング制御を行うことができる。
【0019】
ブランキング偏向器212の下方には、中心部に開口50が形成された制限アパーチャ基板206が設けられている。ブランキングアパーチャアレイ基板204またはブランキング偏向器212によってビームOFFの状態になるように偏向された電子ビームは、制限アパーチャ基板206の中心の開口50から位置が外れ、制限アパーチャ基板206によって遮蔽される。このように、電子ビームが制限アパーチャ基板206によって遮蔽されている状態をビームOFFと呼ぶ。ブランキングアパーチャアレイ基板204およびブランキング偏向器212によって偏向されなかった電子ビームは制限アパーチャ基板206を通過し、偏向器208、209で偏向されて試料W上の所望の位置へと照射される。このように、電子ビームが制限アパーチャ基板206の開口50を通過して試料Wに照射されている状態をビームONと呼ぶ。
【0020】
このように、制限アパーチャ基板206は、その中心に設けられた開口50を通してマルチビームB全体を通過させるか、あるいは、ブランキング偏向器212によって偏向されたマルチビームB全体を遮蔽する。
【0021】
ブランキング偏向器212は、成形アパーチャアレイ基板203またはブランキングアパーチャアレイ基板204と制限アパーチャ基板206との間に設けられている。ブランキング偏向器212は、ロジック回路131および偏向制御回路130によって制御され、ブランキングアパーチャアレイ基板204を通過したマルチビームBを、全体として試料Wへ照射するか否かのブランキング制御を行う。これにより、ブランキングアパーチャアレイ基板204の制御状態を変更することなく、マルチビームB全体をビームON/ビームOFFに制御することができる。偏向器208、209は、それぞれDACアンプ134を介して偏向制御回路130によって制御される。
【0022】
制限アパーチャ駆動部136は、制限アパーチャ基板206に接続されており、制限アパーチャ基板206をX方向またはY方向へ移動させることができる。制限アパーチャ基板206は、荷電粒子ビームB0またはマルチビームBの照射方向に対して略垂直なX-Y面(略水平面)内で移動することができる。
【0023】
制限アパーチャ制御部135は、制限アパーチャ駆動部136に接続されており、制限アパーチャ駆動部136を制御する。制限アパーチャ制御部135は、制限アパーチャ駆動部136を制御することによって、制限アパーチャ基板206の位置を制御することができる。
【0024】
例えば、上述の通り、ビームOFF(ブランキング)の期間において、マルチビームBは、ブランキング偏向器212によってX-Y面内(略水平面内)の任意の方向に偏向され、制限アパーチャ基板206の開口50から外れた位置に照射される。マルチビームBがブランキング偏向器212によって偏向されている方向を偏向方向と呼ぶ。このようなブランキングの期間において、制限アパーチャ制御部135は、制限アパーチャ基板206をマルチビームBの偏向方向に対して逆方向に移動させる。これにより、ブランキング偏向器212によるマルチビームB全体の偏向に加えて、制限アパーチャ基板206の開口50の移動によって、散乱ビームは、制限アパーチャ基板206の開口50をさらに通過し難くなる。
【0025】
制御部160は、1つまたは複数のコンピュータ、CPU、PLC等で構成すればよい。例えば、制限アパーチャ制御部135は、1つまたは複数のコンピュータ、CPU、PLC等で構成してよい。制御部160は、描画部150と一体として構成されていてもよく、別体として構成されていてもよい。制限アパーチャ駆動部136は、例えば、ピエゾ素子、超音波モータ等でよい。
【0026】
ステージ制御部5は、ステージ105をX方向またはY方向(略水平方向)に移動させるようにステージ105の動作を制御する。
【0027】
ステージ位置測定器7は、例えば、レーザ測長計で構成され、ステージ105に固定されたミラー210へレーザ光を照射し、その反射光でステージ105のX方向の位置を測定する。ステージ位置測定器7およびミラー210と同様の構成は、X方向だけでなく、Y方向にも設けられており、ステージ105のY方向の位置も測定する。
【0028】
図1では、第1実施形態を説明する上で必要な構成を記載している。描画装置100は、その他の必要な構成を備えていても構わない。
【0029】
描画装置100は、XYステージ105が移動しながらショットビームを連続して順に照射していくラスタースキャン方式で描画動作を行う。所望のパターンを描画する際、パターンに応じて必要なビームがブランキング制御によりビームONまたはビームOFFに制御される。
【0030】
図2Aは、ビームONにおける描画装置100の状態を示す概念図である。
図2Bは、ビームOFFにおける描画装置100の状態を示す概念図である。
【0031】
図2Aに示すように、ビームONにおいて、ブランキングアパーチャアレイ基板204からのマルチビームBは、ブランキング偏向器212および制限アパーチャ基板206の開口50を通過して、
図1の試料Wに照射される。このとき、ブランキング偏向器212は、マルチビームBをほぼ偏向せず、制限アパーチャ基板206においてマルチビームBを遮蔽(ブランキング)しない。ビームONは、例えば、描画処理を実行しているときに用いられる状態である。
【0032】
図2Bに示すように、ビームOFFにおいて、ブランキングアパーチャアレイ基板204からのマルチビームBは、ブランキング偏向器212によって+X方向に偏向されている。さらに、制限アパーチャ制御部135および制限アパーチャ駆動部136は、制限アパーチャ基板206を偏向方向(+X方向)とは逆方向(-X方向)へ移動させる。このように、マルチビームBを+X方向に偏向し、かつ、制限アパーチャ基板206を-X方向へ移動させることにより、制限アパーチャ基板206は、マルチビームBをほぼ完全に遮蔽することができる。このとき、制限アパーチャ基板206は、散乱ビームも遮蔽することができる。即ち、本実施形態によるビームOFF状態では、マルチビームBおよび散乱ビームが制限アパーチャ基板206によって遮蔽(ブランキング)される。ビームOFFは、例えば、描画処理を実行していない描画前の準備期間(例えば、ソーキング処理、Zマップ測定)に用いられる。また、マルチビームBを試料W上の複数のラインに沿って照射しスキャンする場合、ブランキングの期間は、第1ラインの照射終了から次の第2ラインの照射開始までの期間(ストライプエンド)にとしてもよい。
【0033】
次に、本実施形態による描画装置100の制御方法を説明する。
【0034】
図3は、ソーキング処理における描画装置100の制御方法を示すフロー図である。ソーキング処理は、マスクブランクス等の試料Wをステージ105上に載置した後に、試料Wの温度が描画室103内のステージ105の温度に適合するまで待機する描画前の処理である。ソーキング期間は、試料Wをステージ105上に搭載してから試料Wが所定温度になるまでの期間である。ソーキング処理において、試料WにマルチビームBを照射しないように、ブランキングアパーチャアレイ基板204およびブランキング偏向器212がビームOFF状態となっている。従って、マルチビームBは、制限アパーチャ基板206によって遮蔽されており、試料Wには届いていない。
【0035】
しかし、上述のように成形アパーチャアレイ基板203の開口30の側面等で散乱した散乱ビームの一部は、ブランキングアパーチャアレイ基板204およびブランキング偏向器212では充分に遮蔽できない場合がある。このような散乱ビームの一部は、ブランキングアパーチャアレイ基板204およびブランキング偏向器212を通過して試料Wへ照射されるおそれがある。この場合、試料W上の感光材料が局所的に散乱ビームによって意図せず露光されてしまう。
【0036】
そこで、本実施形態では、ブランキングアパーチャアレイ基板204またはブランキング偏向器212がマルチビームBを試料Wに照射しないようにブランキング制御している期間(ブランキングの期間)中において、制限アパーチャ制御部135は、制限アパーチャ基板206をマルチビームBの偏向方向(例えば、+X方向)に対して逆方向(例えば、-X方向)に移動させる。これにより、ビームOFF時に、マルチビームBを制限アパーチャ基板206の開口50から大きくずらすことができ、試料Wが散乱ビームによって露光されないようにすることができる。
【0037】
例えば、まず、ブランキングアパーチャアレイ基板204および/またはブランキング偏向器212がマルチビームB全体を偏向させて制限アパーチャ基板206上に照射し、ビームOFFにする(S10)。このとき、例えば、マルチビームB全体は、+X方向に偏向される。
【0038】
次に、あるいは、ステップS10と同時に、制限アパーチャ制御部135および制限アパーチャ駆動部136が制限アパーチャ基板206をビームの軸方向(Z方向)に対して略垂直な面内で移動させる。例えばマルチビームBの偏向方向とは逆方向の遮蔽位置まで移動させる(S20)。より具体的には、制限アパーチャ制御部135および制限アパーチャ駆動部136は、制限アパーチャ基板206を-X方向に移動させる。これにより、制限アパーチャ基板206の開口50から漏れるマルチビームBが抑制される。このとき、制限アパーチャ基板206の移動距離は、開口50の開口径以上であることが好ましい。これにより、開口50は、元の位置における開口50と重複しないように大きくずれるので、制限アパーチャ基板206の開口50から漏れるマルチビームBがさらに抑制され得る。
【0039】
次に、あるいは、ステップS10、S20と同時に、時間tを0にリセットし、計時を開始する(S30)。例えば、偏向制御回路130または制限アパーチャ制御部135は、図示しないタイマを備え、ソーキング処理開始(t=0)から時間tを計測する。また、ソーキング処理時間Tは、試料Wがステージ105に載置されてから試料Wの温度がステージ105の温度とほぼ同じ所定温度になるまでの時間(平衡状態になるまでの時間)であり、予め設定されている。ソーキング処理は、時間tがソーキング処理時間Tになるまで継続される。
【0040】
次に、偏向制御回路130または制限アパーチャ制御部135は、時間tとソーキング処理時間Tとを比較する(S40)。時間tがソーキング処理時間Tに達していない場合(S40のNO)、偏向制御回路130または制限アパーチャ制御部135は、計時を継続する(S40)。
【0041】
次に、時間tがソーキング処理時間Tに達した場合(S40のYES)、制限アパーチャ制御部135および制限アパーチャ駆動部136は、マルチビームBを通過させる照射位置に制限アパーチャ基板206を戻す(S50)。例えば、制限アパーチャ制御部135および制限アパーチャ駆動部136は、制限アパーチャ基板206を+X方向に移動させる。これにより、マルチビームBは、制限アパーチャ基板206の開口50を通過可能になる。このとき、制限アパーチャ基板206の+X方向への移動距離は、ステップS20における移動距離と同じ距離である。これにより、開口50は、元の位置に戻る。これにより、ソーキング処理が終了する。
【0042】
その後、描画前の他の処理が実行され、ビームOFFからビームONになると、描画処理が開始される。
【0043】
本実施形態によれば、ソーキング処理のビームOFFの期間中において、制限アパーチャ制御部135は、例えば、制限アパーチャ基板206をマルチビームBの偏向方向に対して逆方向に移動させる。これにより、マルチビームBを制限アパーチャ基板206の開口50から大きくずらすことができ、試料Wが散乱ビームによって露光されることを抑制することができる。
【0044】
尚、ブランキングの期間における制限アパーチャ基板206の移動方向は、マルチビームBの照射方向に対して略垂直面(例えば、略水平面)内において、マルチビームBの偏向方向と逆方向であることが好ましい。従って、マルチビームBの偏向方向が+Y方向である場合、制限アパーチャ基板206の移動方向は、-Y方向にすればよい。また、マルチビームBの偏向方向がX方向およびY方向に対して傾斜方向である場合、制限アパーチャ基板206の移動方向は、マルチビームBの偏向方向とは逆の傾斜方向にすればよい。但し、逆方向とは、180°の位相差である必要はなく、180°±10°程度であってもよく、以下の実施形態においても同様である。
【0045】
(第2実施形態)
図4は、Zマップ測定処理における描画装置100の制御方法を示すフロー図である。Zマップ測定は、試料Wの歪みを測定するために、試料Wの表面の高さ(Z方向の位置)を測定し、マッピングする処理である。Zマップ測定は、ソーキング処理の後、偏向制御回路130によって実行される。
【0046】
Zマップ測定においても、試料WにマルチビームBを照射しないように、ブランキングアパーチャアレイ基板204およびブランキング偏向器212がビームOFF状態となっている。従って、マルチビームBは、制限アパーチャ基板206によって遮蔽されており、試料Wには届いていない。
【0047】
まず、ステップS10およびS20が実行される。即ち、ビームOFFとともに、制限アパーチャ制御部135および制限アパーチャ駆動部136が制限アパーチャ基板206をマルチビームBの偏向方向とは逆方向の遮蔽位置まで移動させる。
【0048】
次に、Zマップ測定が開始される(S60)。Zマップ測定では、試料Wの表面にレーザ光を照射して、その反射光を検出し、試料Wの表面の高さ(Z方向の位置)を検出すればよい。レーザ光発生装置およびレーザ光検出装置の図示および詳細な説明は、ここでは省略する。
【0049】
レーザ光の照射は、試料Wの表面内において略等間隔に行われる。従って、試料Wの表面のZ方向の高さ位置は、マトリックス状に二次元的に測定される。これにより、Zマップのデータが得られる。Zマップ測定は、試料Wの表面全体に対して実行される(S70のNO)。
【0050】
試料Wの表面全体に対してZマップ測定が実行され、Zマップが完成すると、Zマップ測定が終了する(S70のYES)。Zマップは、描画処理において、試料Wの高さの調整、あるいは、縮小レンズ205および/または対物レンズ207の調整に用いられる。
【0051】
Zマップ測定が終了すると(S70のYES)、
図3のステップS50と同様に、制限アパーチャ制御部135および制限アパーチャ駆動部136は、マルチビームBを通過させる照射位置に制限アパーチャ基板206を戻す(S50)。これにより、Zマップ測定処理が終了する。
【0052】
その後、描画前の他の処理が実行され、ビームOFFからビームONになると、描画処理が開始される。
【0053】
第2実施形態のようにZマップ測定処理においても、ビームOFFの期間中において、制限アパーチャ制御部135は、制限アパーチャ基板206をマルチビームBの偏向方向に対して逆方向に移動させる。第2実施形態の構成およびその他の動作は、第1実施形態の構成および動作と同様でよい。これにより、第2実施形態は第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0054】
(第3実施形態)
図5は、描画処理中における描画装置100の制御方法を示すフロー図である。
図6は、描画処理におけるマルチビームBの走査を示す概念図である。
【0055】
描画処理において、試料W上の感光材料を所望のパターンに感光させるために、ブランキングアパーチャアレイ基板204およびブランキング偏向器212がビームON状態となっている。これにより、マルチビームBが試料Wの表面を走査して描画する。
【0056】
描画処理は、ソーキング処理およびZマップ測定等の前処理の後、実行される。
図6に示すように、描画処理は、マルチビームBを試料Wの表面上の複数のラインL1、L2、L3・・・に沿ってジグザグ状に走査する。尚、複数のラインL1、L2、L3・・・をまとめてラインLとも呼ぶ。各ラインLに沿ってマルチビームBを走査する際に、ブランキングアパーチャアレイ基板204およびブランキング偏向器212はビームON状態となっている。
【0057】
しかし、複数のラインLうち、或るライン(例えば、L1)の照射終了から次のライン(例えば、L2)の照射開始までの期間は、試料Wの端部E1において矢印A1方向へ移動する。このとき、描画処理は一旦停止し、試料WにマルチビームBを照射しないように、ブランキングアパーチャアレイ基板204およびブランキング偏向器212はビームOFF状態となっている。また、或るライン(例えば、L2)の照射終了から次のライン(例えば、L3)の照射開始までの期間は、試料Wの端部E2において矢印A2方向へ移動する。このとき、描画処理は一旦停止し、試料WにマルチビームBを照射しないように、ブランキングアパーチャアレイ基板204およびブランキング偏向器212はビームOFF状態となっている。
【0058】
このように、描画処理は、描画処理の途中においても、或るラインと次のラインとの間で一旦停止する場合がある。このとき、描画装置100は、ビームOFF状態となっており、制限アパーチャ制御部135および制限アパーチャ駆動部136が制限アパーチャ基板206をマルチビームBの偏向方向とは逆方向の遮蔽位置まで移動させる。
【0059】
例えば、描画処理に入ると、制限アパーチャ制御部135および制限アパーチャ駆動部136がビームONになり、描画処理を実行する(S80)。このとき、制限アパーチャ基板206は、開口50にマルチビームBを通過させる位置(描画位置)に配置される。これにより、マルチビームBが開口50を通過可能になり、試料Wに所望のパターンを描画することができる。
【0060】
描画処理が実行される(S100)。このとき、
図6に示すように、試料Wの表面上のラインL1、L2、L3・・・とラインごとにマルチビームBを走査する(S110のNO)。
【0061】
或るラインと次のラインとの間の端部E1またはE2において、描画処理の途中で一旦停止した場合(S110の一端停止)、ブランキングアパーチャアレイ基板204およびブランキング偏向器212はビームOFF状態となる(S10)。このとき、ビームOFFとともに、制限アパーチャ制御部135および制限アパーチャ駆動部136が制限アパーチャ基板206をマルチビームBの偏向方向とは逆方向の遮蔽位置まで移動させる(S20)。
【0062】
描画処理が再開されるまで、ビームOFF状態を継続する(S130のNO)。
【0063】
描画処理が再開されると(S130のYES)、ステップS80に戻り、ビームONから再度実行される。
【0064】
全てのラインLに沿ってマルチビームBの走査が終了すると(S110の終了)、描画処理が終了する。
【0065】
このように、描画処理において、或るラインの照射終了から次のラインの照射開始までのストライプエンドの期間においては、制限アパーチャ制御部135および制限アパーチャ駆動部136がビームOFF状態となる。このビームOFFの期間中において、制限アパーチャ制御部135は、制限アパーチャ基板206をマルチビームBの照射軸方向に対して垂直な面内において、例えばマルチビームBの偏向方向に対して逆方向に移動させる。
【0066】
第3実施形態の構成およびその他の動作は、第1実施形態の構成および動作と同様でよい。これにより、第3実施形態は第1実施形態と同様の効果を得ることができる。第3実施形態は、第2実施形態と組み合わせてもよい。さらに、マルチビームBが描画されていない状態、例えばエラー発生で描画を止めた場合、Z位置測定や、マーク検出時などに適用されてもよい。
【0067】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0068】
100 描画装置、150 描画部、160 制御部、102 電子鏡筒、103 描画室、4 照射制御部、5 ステージ制御部、7 ステージ位置測定器、131 ロジック回路、134 DACアンプ、135 制限アパーチャ制御部、201 電子銃、202 照明レンズ、203 成形アパーチャアレイ基板、204 ブランキングアパーチャアレイ基板、205 縮小レンズ、206 制限アパーチャ基板、207 対物レンズ、208 主偏向器、209 副偏向器、212 ブランキング偏向器、136 制限アパーチャ駆動部、W 試料