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特許7599474易分散性の親水コロイド組成物を調製するための方法
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  • 特許-易分散性の親水コロイド組成物を調製するための方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】易分散性の親水コロイド組成物を調製するための方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/269 20160101AFI20241206BHJP
   A23L 29/262 20160101ALI20241206BHJP
   A23L 29/30 20160101ALI20241206BHJP
   A23L 29/294 20160101ALI20241206BHJP
【FI】
A23L29/269
A23L29/262
A23L29/30
A23L29/294
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022501603
(86)(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-10
(86)【国際出願番号】 JP2020012465
(87)【国際公開番号】W WO2020196324
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-03-20
(31)【優先権主張番号】P 2019055510
(32)【優先日】2019-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100188651
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 広介
(72)【発明者】
【氏名】グラハム、スウォーン
(72)【発明者】
【氏名】ニール、ヤング
(72)【発明者】
【氏名】カレン、ファルク
(72)【発明者】
【氏名】トーベン、スナーベ
(72)【発明者】
【氏名】井上 元幹
(72)【発明者】
【氏名】外山 義雄
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-229440(JP,A)
【文献】特開2008-068194(JP,A)
【文献】特開2011-244809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 29/00-29/30
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
易分散性親水コロイド組成物を調製するための方法であって、
(a)粉末の形態にあるキサンタンガム、カルボキシメチルセルロースおよびマルトデキストリンのドライブレンドを提供する工程;
(b)第1凝集体を提供するために、工程(a)の前記ドライブレンドをカルシウム塩の溶液と接触させる工程;
(c)第2凝集体を提供するために、工程(b)の前記第1凝集体をマルトデキストリンの溶液と接触させる工程;および
(d)前記第2凝集体を回収する工程を含む方法。
【請求項2】
前記凝集工程(b)は、流動床内で工程(a)において提供された前記ドライブレンド上にカルシウム塩の溶液を噴霧する工程によって実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記凝集工程(c)は、流動床内で工程(b)の前記凝集体上にマルトデキストリンの溶液を噴霧する工程によって実施される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程(a)におけるキサンタンガム対カルボキシメチルセルロースの比率は、90:10~30:70である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程(a)におけるキサンタンガムおよびカルボキシメチルセルロースの濃度は、前記組成物の乾燥重量で10~60%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程(a)におけるマルトデキストリンの濃度は、前記組成物の乾燥重量で40~90%である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程(b)における前記カルシウム塩の濃度は、前記組成物の乾燥重量で1~10%である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記カルシウム塩は、乳酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、クエン酸カルシウムおよび塩化カルシウムからなる群から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程(c)におけるマルトデキストリンの濃度は、前記組成物の乾燥重量で2~20%である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程(d)において回収された前記第2凝集体の20~80%は200μmを超える粒径を有し、工程(d)の前記凝集した粒子の少なくとも90%は、50μmを超える粒径を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法によって調製された、易分散性親水コロイド組成物。
【請求項12】
水中の凝集した粒子の2%w/wサンプルは、50s-1の剪断速度で100~400mPa.sの粘度を有する、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
集した粒子は、10秒間にわたりマグネチックスターラーを600rpmで使用して水中で前記凝集した粒子の2%サンプルを撹拌する工程および前記水中で塊の発生度を視覚的に評価する工程を含む方法によって決定した場合に3以上の分散性を有する、請求項11または12に記載の組成物。
【請求項14】
集した粒子は、20~50g/100mLのバルク密度を有する、請求項11~13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
嚥下困難の管理において使用するための請求項11~14のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
本特許出願は、2019年3月22日に出願された日本国特許出願2019-055510号に基づく優先権の主張を伴うものであり、かかる先の特許出願における全開示内容は、引用することにより本明細書の一部とされる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、易分散性親水コロイド組成物を調製するための方法および嚥下困難の管理において前記方法によって調製された前記組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
嚥下困難は、飲食の安全性、効率もしくは質の損傷をもたらす可能性がある、嚥下の機構における障害の結果として生じる状態である。嚥下困難は、例えば脳卒中、外傷性脳損傷、ハンチントン病、多発性硬化症、パーキンソン病および脳性麻痺などの神経障害を含む多数の障害によって誘発され得る。これらの状態の多くには高齢者および継続的人口統計学的変動が結び付いており、嚥下困難は深刻さが高まっている問題である。
【0004】
嚥下困難に対応するためには、食感もしくはレオロジーが改質された食品や液体を使用することが確立された臨床実践である。この実践は、普通の食品や液体のレオロジーを改質することがそれらをより容易およびより安全に嚥下させるという仮説に基づいてきた。一般には、水、お茶、コーヒー、スカッシュおよびジュースなどの濃度の薄い液体は、嚥下過程中に口腔内を速く流れ、誤嚥を誘発し得ると了解されている。誤嚥とは、気道内へ食品もしくは液体が進入することであり、嚥下中の咳嗽もしくは窒息として発現することが多い。これは食べたり飲んだりすることへの抵抗をもたらし、その後の栄養失調もしくは脱水のリスクを伴う。長期間にわたって管理されない場合、誤嚥は、例えば慢性閉塞性肺疾患もしくは誤嚥性肺炎などの呼吸器系に関する合併症をもたらす可能性がある。一般的実践は、リスクを減少させるために液体粘度を増加させることである。
【0005】
嚥下困難を管理するための製品において使用される1クラスの増粘剤は、親水コロイドである。親水コロイドは、製造業者によって乾燥顆粒の形態で提供されることが多く、水や他の液体中に分散させることは、それらが水和中に塊になる傾向があるので、困難な可能性がある。水和および分散中に親水コロイドが塊になることについての物理化学的根拠は、親水コロイド顆粒の表面でのポリマー分子の表面-表面架橋結合および/またはゲル化である。この段階で、顆粒表面での水和ポリマー分子は、表面から完全もしくは部分的に放出される。これは、顆粒表面もしくはその近くで高濃度の水和ポリマーを生じさせる。顆粒が液体/水に加えられた場合、何千個もの粒子が少容量で存在するが、それらの各々は、潜在的に架橋結合して顆粒間でゲルを形成し得る高い局所的ポリマー濃度を伴う液体「クラウド」によって取り囲まれており、それらはその後に粘着性になって一緒に塊になるであろう。塊の形成は、塊の内部への液体の接近が制限される結果として、全溶解過程を緩徐化する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
迅速な水和および可溶化を可能にする水もしくは水溶液中での改善された分散性により嚥下困難を管理するための、親水コロイドをベースとする増粘剤組成物を開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
嚥下困難を管理するための改善されたレオロジー特性を備える親水コロイドをベースとする生成物を開発する経過において、本発明者らは、水中に分散させた場合に塊を作らない、および分散するために強力な攪拌を必要としない、しかし最終使用者(例えば、嚥下困難の患者もしくは介護者)がスプーンを用いて撹拌することができる組成物中でキサンタンガムおよびカルボキシメチルセルロースを結合する方法を開発してきた。
【0008】
したがって、本発明は、易分散性親水コロイド組成物を調製するための方法であって、
(a)粉末の形態にあるキサンタンガム、カルボキシメチルセルロースおよびマルトデキストリンのドライブレンドを提供する工程;
(b)第1凝集体を提供するために、工程(a)のドライブレンドをカルシウム塩の溶液と接触させる工程:
(c)第2凝集体を提供するために、工程(b)の第1凝集体をマルトデキストリンの溶液と接触させる工程:および
(d)第2凝集体を回収する工程を含む方法に関する。
【0009】
また別の態様では、本発明は、本方法によって調製された易分散性親水コロイド組成物に関する。
【0010】
さらに別の態様では、本発明は、嚥下困難の管理において使用するための易分散性親水コロイド組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(A)良好な分散および迅速な溶解;(B)不良な分散および緩徐な溶解ならびに(C)極めて不良な分散および極度に緩徐な溶解を示している、水和中の粉末顆粒を示す略図である。易分散性は分離した顆粒の迅速な水和および溶解として示されており、他方不良もしくは極めて不良な分散性は顆粒の緩徐な水和として示されている。
図2】不良な分散性の親水コロイド顆粒が結合剤成分の溶液とともに噴霧され、それによって親水コロイド顆粒がより大きな凝集した粒子に結合する簡易化流動層プロセスにおける親水コロイド顆粒(不規則な形状で示されている)および結合剤成分(丸い形状で示されている)の凝集化の略図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
定義
本発明の状況では、用語「親水コロイド」は、液体中、特に水中で微粒子のコロイド分散系を形成することができる親水性物質を示すことが意図されている。コロイド粒子は,水素結合によって水と結合する。親水コロイドの例は、バイオポリマー、例えばアルギネート、カラゲナン、ペクチン、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、キサンタンガム、スクシノグリカン、ジェラン、グアーガム、ローカストビーンガムおよびデンプンなどである。好ましい親水コロイドはセルロース誘導体、キサンタンガムである。本発明の状況では、「親水コロイド」は、キサンタンガムおよびカルボキシメチルセルロースを意味するために集合的に使用される。「親水コロイド組成物」は、親水コロイドの粒子を含む組成物である。
【0013】
用語「易分散性の」もしくは「易分散性」は、親水コロイド組成物の凝集した粒子が、塊化もしくは凝集化することなく水もしくは水溶液中に遊離単一粒子として浸漬されて流動し、その直後に粒子が完全に水和して最終的には溶解する能力を示すことが意図されている。図1Aを参照されたい。好ましくは、粒子の分散は、高剪断力を適用せずに、例えばスプーンを用いて撹拌することによって実行することができ、塊のない分散は、1分間未満の撹拌時間以内に実行される。
【0014】
用語「凝集体」は、親水コロイドの多数の顆粒と親水コロイド顆粒を一緒にくっつける結合剤として作用する1種以上の易分散性もしくは水溶性成分とから構成される粒子を示すことが意図されている。図2を参照されたい。水和すると、主として液体微小環境内および凝集体内の攪乱および液体分散の結果として、易分散性成分は溶解し、親水コロイド顆粒は分離する。
【0015】
用語「キサンタンガム」は、微生物ザントモナス・カンペストリス(Xanthomonas campestris)の発光によって生成された多糖を意味することが意図されている。市販で入手可能なキサンタンガムの例は、GRINDSTED Xanthan Clear80(DuPont社から入手可能)、GRINDSTED Xanthan MAS-SH(DuPont社から入手可能)、SAN ACE(三栄源エフエフアイ社から入手可能)、KELTROL(CP Kelco社から入手可能)およびECHO GUM(DSP五協フード&ケミカル社から入手可能)である。
【0016】
用語「カルボキシメチルセルロース」(本明細書では「CMC」と略記する)は、セルロースポリマーのアンヒドログルコース単位上のヒドロキシ基の一部における水素をカルボキシメチル基(-CH-COOH)と置換することによって調製されるセルロース誘導体を意味することが意図されている。市販で入手可能なカルボキシメチルセルロースの例としては、GRINDSTED BEV130(DuPont社から入手可能)、GRINDSTED BEV150(DuPont社から入手可能)、GRINDSTED BEV 350(DuPont社から入手可能)およびWALOCEL C(Dow Chemical社から入手可能)が挙げられる。
【0017】
実施形態
驚くべきことに、2段階凝集プロセスは、粉末の形態にある易分散性親水コロイド組成物を提供できることが見いだされている。
【0018】
本方法の工程(a)では、顆粒状キサンタンガムおよびCMCは、マルトデキストリン粉末とドライブレンドされる。マルトデキストリンは、水中に易分散性である水溶性糖であり、キサンタンガムおよびCMC顆粒の希釈および物理的分離を提供する。工程(a)のドライブレンド内のマルトデキストリンの濃度は、好都合には乾燥重量の40~90%、好ましくは乾燥重量の50~80%の範囲内にある。
【0019】
本発明の方法の目的は、食品および飲料にとろみを提供して食品および飲料の嚥下性を改善する、嚥下困難の管理のために好適であるレオロジーを有する易分散性親水コロイド組成物を提供することである。誤嚥を防止するため、嚥下困難を有する人々のために滑らかな液体にとろみを付ける努力がなされている。そのようなとろみ付けの程度は、個々の患者の嚥下困難の重症度に依存して変動し、医師、言語療法士(ST)、栄養士などの専門家は、個々の患者の行動にしたがってとろみ付けを調整することが要求される。水和組成物は、下記の特徴を示さなければならない:
水和組成物は、非ニュートン性流動挙動を示さなければならない。水和組成物は、これは舌上での滞留時間を増加させるであろうから、低剪断速度で相当に高い粘度を示さなければならない。
水和組成物は、咽頭壁内を流動している間は50~100s-1の剪断速度ではより低いが、それでも液体が喉頭蓋の周囲を流れるときには誤嚥のリスクを十分に低下させる粘度を示さなければならない。
【0020】
一般には、工程(a)におけるキサンタンガム対カルボキシメチルセルロースの比率は、90:10~30:70、好ましくは85:15~40:60、より好ましくは80:20~50:50である場合に所望の粘度を達成できることが見いだされている。
【0021】
工程(a)のドライブレンド内の2種の親水コロイドの総濃度は、好都合にはドライブレンドの、乾燥重量の10~60%、好ましくは乾燥重量の20~50%の範囲内にある。
【0022】
2段階凝集は、本方法の工程(b)および(c)において行われる。凝集は、易分散性成分が親水コロイド顆粒に加えられ、同時に、粒径が増加させられ、これが典型的には分散性を改善して塊化を減少させるプロセスである。拡大した粒子は、易分散性結合剤成分(例えば、マルトデキストリン)と一緒に物理的に結合された2種の親水コロイドの多数の顆粒から構成される。水和および溶解すると、主として液体微小環境内および凝集体内の攪乱および液体分散の結果として、結合剤は溶解して親水コロイド顆粒を離させる。2段階凝集プロセスによって調製されているそれらの親水コロイド組成物については、カルシウム塩およびマルトデキストリンの溶液が同時に適用されるプロセスにおいて調製される組成物とは対照的に、優れた分散性が見いだされている。実施例4と比較して実施例1を参照されたい。
【0023】
本方法では、凝集は、易分散性成分の水溶液を流動層(特に、移動式流動層)内の親水コロイドおよびマルトデキストリンのドライブレンド上に噴霧することによって実施することができる。噴霧速度は、使用される装置内の乾燥速度および剪断と平衡が取られなければならず、共同して、これらのパラメーターが凝集体のサイズ成長を管理する。本方法のパラメーターのそれぞれを本方法において使用される装置に合わせて調整できることは、当業者には容易に明白であろう。本方法の工程(b)では、水溶液は、カルシウム塩を含有する。現在は、カルシウムの存在は、水和、および結果として親水コロイドの粘着性を遅延させるので、このため親水コロイド顆粒が粘着性になって放置されて塊を形成する前に水中に分散することを可能にすると考えられている。好適なカルシウム塩の例は、乳酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、クエン酸カルシウムおよび塩化カルシウムである。問題の特定カルシウム塩の溶解限度に近い濃度にあるカルシウム塩を含むことが好ましいが、これは噴霧時間を減少させることを許容するからである。現在好ましいカルシウム塩は、親水コロイド組成物の所望の分散性を生じさせるとの見地から、乳酸カルシウムである。工程(b)の水溶液中の乳酸カルシウムの濃度は、乳酸カルシウム無水物については、例えば、10%まで、好ましくは9.1%まで、より好ましくは5%~9.1%、および乳酸カルシウム、5HOについては、例えば、15%まで、好ましくは12.8%まで、より好ましくは5%~12.8%であってよい。また別のカルシウム塩であるプロピオン酸カルシウムは、工程(b)の水溶液中に15%までの濃度で含まれてよい。最終組成物中のカルシウム塩の濃度は、典型的には、組成物の乾燥重量の1~10%の範囲内にあり、好ましくは組成物の乾燥重量の1~5%の範囲内にある。
【0024】
本方法の工程(c)では、工程(b)において調製された凝集した粒子上に噴霧された液体溶液は、好ましくはマルトデキストリンを含み、より好ましくは特定グレードのマルトデキストリンの溶解限度に近い濃度でマルトデキストリンを含む。マルトデキストリンは、3~20のデキストロース当量(DE)として表示される様々なグレードで入手可能である。DE値が高いほど、グルコース鎖は短くなって溶解度は高くなる。例えば、マルトデキストリンが6のDE値を備えるマルトデキストリンである場合、33.3%の濃度で工程(c)の水溶液中に含まれ得る。工程(c)において組成物に添加されたマルトデキストリンの濃度は、組成物の乾燥重量の2~20%の範囲内にあってよい。マルトデキストリン溶液とのその後の凝集は、カルシウム塩が不良な結合剤であるために凝集体を構築して強化することが必要とされ、単独で使用された場合は小さく弱い凝集体を生じさせるが、他方マルトデキストリンは粘着性を提供して本方法において形成されるより強力およびより大きな凝集体をもたらすものと考えられる。
【0025】
凝集した粒子は、それらを流動層から放出することによって回収することができる。粒子は、典型的には粒子の20~80%が200μm以上の粒径を有する、および粒子の少なくとも90%が50μm超の粒径を有する。粒径は、ミー散乱モデルを使用してMalvern Mastersizer 3000上で決定することができる。
【0026】
結果として生じる親水コロイド組成物は、水中もしくは水溶液中で易分散性である。分散性は、マグネチックスターラー上に100mLのモデル水道水(重量で0.025%のNaClを含有する脱イオン水)を含有するガラス製ビーカー(Φ 4cm、3cmの撹拌磁石を備える)を配置することによって決定できる。次に、2gの凝集した粒子をガラス製ビーカー内に注入し、2秒後にマグネチックスターラーのスイッチを入れる。600rpmでの撹拌を10秒間維持し、その後にマグネチックスターラーのスイッチを切る。塊の発生度は、視覚的に評価する。サンプルを1~5にランク付けするが、ここで1は極めて大きな、不良に水和した塊の外観を意味し、2はどちらも良好および不良に水和した、大および中サイズの塊の外観を意味し、3はどちらも良好および不良に水和した、中サイズおよび小さい塊の外観を意味し、4は数分間以内に溶解する小数の小さな、良好に水和した塊の外観を意味し、5は塊が存在しないことを意味する。3の分散性は許容できると考えられるが、4もしくは5の分散性が好ましい。
【0027】
親水コロイド組成物は、水中の凝集した粒子のサンプルが2重量%であると決定した場合に、50s-1の剪断速度で100~400mPa.sの粘度を有する。この粘度範囲は、嚥下困難の管理のために効果的であることが見いだされている。粘度は、下記のように決定することができる:
サンプルは、凝集した粒子をビーカー内の水道水に緩徐に添加することによって調製する。
サンプルは、30分間にわたり500rpmで撹拌し、次にスターラーから取り出してマグネチックバーを加え、サンプルを一晩攪拌する。
サンプルを撹拌せずに少なくとも5分間放置し、その後にMCR501レオメーター(Anton Paar製)内で流動曲線(20℃で0.001s-1~1,000s-1)を測定する。
凝集した粒子は、好ましくは、100mLのガラスシリンダー(Φ、約4cm)内で重力計によって測定した場合に、20~50g/100mLのバルク密度を有する。
【0028】
嚥下困難の管理において使用するためには、20~50重量%の親水コロイドおよび50~80重量%のマルトデキストリンを含む1~3重量%の親水コロイド組成物は、好適には、低温水道水中に分散させ、その直後にスプーンを用いて撹拌することによって所望の粘度を提供することができる。本発明の親水コロイド組成物は、同様に、例えば茶、コーヒー、ブロスなどの熱い飲物に、所望の粘度を提供するために好適な濃度で添加することができる。
【0029】
本発明の別の態様によれば、嚥下困難の管理において使用するための組成物の製造における、易分散性親水コロイド組成物の使用が提供される。
【0030】
本発明の別の態様によれば、飲食品にとろみを提供して飲食品の嚥下性を改善するための組成物の製造における、易分散性親水コロイド組成物の使用が提供される。
【0031】
本発明の別の態様によれば、飲食品にとろみを提供して飲食品の嚥下性を改善するための、易分散性親水コロイド組成物が提供される。
【0032】
本発明の別の態様によれば、嚥下困難の管理において使用するための、易分散性親水コロイド組成物の使用が提供される。本発明の一つの好ましい実施態様によれば、本発明の使用は、非治療的使用とされる。
【0033】
本発明の別の態様によれば、飲食品にとろみを提供して飲食品の嚥下性を改善するための、易分散性親水コロイド組成物の使用が提供される。
【0034】
本発明の別の態様によれば、易分散性親水コロイド組成物を飲食品に添加することを含んでなる、飲食品にとろみを提供して飲食品の嚥下性を改善する方法が提供される。
【0035】
本発明の別の態様によれば、易分散性親水コロイド組成物を添加した飲食品を嚥下困難者に摂食させることを含んでなる、嚥下困難を管理する方法が提供される。ここで、本発明の別の好ましい態様によれば、上記方法はヒトに対する医療行為を除くものとされる。
【0036】
上記の使用、組成物、方法の態様はいずれも、本発明の易分散性親水コロイド組成物やその調製方法に関する記載に準じて実施することができる。
【0037】
以下の実施例では本発明についてさらに詳しく説明するが、それらの実施例は決して、請求した本発明の請求の範囲を限定するものではない。
【実施例
【0038】
実施例1:2段階凝集プロセス
プロトタイプは、1.0mmの液体パイプを備えた二流体ノズル(Schlick 970-S4)を使用して、トップスプレーを備えたパイロット規模の流動床(Aeromatic Fielder社製MP1)内において1,000gのバッチサイズで調製した。
【0039】
300gの親水コロイド(キサンタンガムMAS-SHおよびCMC BEV 150、50:50、どちらもDuPont社から入手可能)は、572gのマルトデキストリンDE6(Glucidex 6 IT、Roquette社から入手可能)とともにドライブレンドした。結合剤溶液は乳酸カルシウムもしくはマルトデキストリンをそれぞれ予備沸騰させた80℃の脱イオン水中に混合することによって調製し、その後は、溶液を後に続く噴霧プロセスを通して65℃で維持した。
【0040】
流動床は、27~32℃の排気温度へ70℃のプロセスエアーを用いて予備加熱した。流動床には、次に親水コロイドおよびマルトデキストリンのドライブレンドを装填した。生成物床の十分な流動化が25m/時(1分間)で観察された場合は、凝集プロセスは、ドライブレンド上に水中の9.1重量%の乳酸カルシウム無水物もしくは12.8重量%の乳酸カルシウム、5HOを含有する300gの第1結合剤溶液を噴霧することによって開始させた。第1凝集体を形成するために親水コロイドおよびマルトデキストリンのドライブレンド上に第1結合剤溶液を噴霧した(約30~45分間)後、第2結合剤溶液(200gの水中に溶解させた100gのマルトデキストリン)を第1凝集体上に30~45分間にわたり噴霧して第2凝集体を形成した。
【0041】
両方の凝集工程において、噴霧エアーは1.8barの圧力および45℃の温度を有していた。流動化エアー温度は、全凝集プロセスを通して70℃で一定であった。流動化プロセスエアーの流量は、プロセスの初期15分間中に25m/時~50m/時へ増加させ、プロセスの残りの時間は50m/時で維持した。
【0042】
第2結合剤溶液の全部が添加されている時点に、第2凝集体は、特注の真空システムを用いてΦ20mmのチューブ内のサンプリングホールを介して流動床から直ちに排出させた。排出は、内部フィルターから微粒子が凝集体内に落下するのを回避するために凝集体が流動化している間に実施した。
【0043】
結果として生じた凝集体は、25g/100mLのバルク密度および(上述したマグネチックスターラー法によって決定した)4の分散性を有していた。
【0044】
実施例2:2段階凝集プロセス
親水コロイドであるキサンタンガムMAS-SHおよびCMC BEV150ならびにマルトデキストリンを含有する凝集体は、水溶液の量を150gに減少させた以外は、実施例1に記載したように調製した。
【0045】
結果として生じた凝集体は、19g/100mLのバルク密度および(上述したマグネチックスターラー法によって決定した)4の分散性を有していた。
【0046】
実施例3:2段階凝集プロセス
親水コロイドであるキサンタンガムMAS-SHおよびCMC BEV150ならびにマルトデキストリンを含有する凝集体は、第1結合剤溶液が200gの水中に15重量%のプロピオン酸カルシウムを含有していた以外は、実施例1に記載したように調製した。
【0047】
結果として生じた凝集体は、(上述したマグネチックスターラー法によって決定した)4の分散性を有していた。
【0048】
実施例4(比較例):1段階凝集プロセス
親水コロイドであるキサンタンガムMAS-SHおよびCMC BEV150ならびにマルトデキストリンを含有する凝集体は、9.1重量%の乳酸カルシウム無水物もしくは12.8重量%の乳酸カルシウム、5HOおよび50gのマルトデキストリンが水300g中に溶解させられて単一結合剤溶液として適用された以外は、実施例1に記載したように調製した。
【0049】
結果として生じた凝集体は、23.9g/100mLのバルク密度および(上述したマグネチックスターラー法によって決定した)2の分散性を有していた。
【0050】
実施例5(比較例):1段階凝集プロセス
マルトデキストリンとブレンドされたキサンタンガムMAS-SHおよびCMC BEV150を含有する凝集体は、水200g中に100gのマルトデキストリンを含有する1つの結合剤溶液だけが適用された以外は、上述したように調製した。
【0051】
結果として生じた凝集体は、(上述したマグネチックスターラー法によって決定した)3の分散性を有していた。
【0052】
実施例6:2段階凝集プロセス
45kgの親水コロイド(キサンタンガムMAS-SHおよびCMC BEV150、50:50)は、85.73kgのマルトデキストリン パインデックス#2AG(松谷化学工業株式会社から入手可能)とともにドライブレンドした。45kgの乳酸カルシウムの12.8w/w%溶液、5HOを第1結合剤溶液として調製し、45kgの30w/w%のマルトデキストリン溶液を第2結合剤溶液として調製した。
【0053】
凝集プロセスは、下記のパラメーター下で実施した:
入口空気温度:70℃
出口空気温度:45~50℃
乳酸カルシウム添加中の噴霧速度:0.55~0.67kg/分(33~40kg/時)
マルトデキストリン添加中の噴霧速度:0.95kg/分(57kg/時)
【0054】
カルシウム噴霧溶液および次にマルトデキストリン溶液の全量を適用した後、約5分間にわたり後乾燥を実施した。
【0055】
排出のために流動床を開放した後、生成物床の上部の微粒子層を擦り取り、分散性試験のためにサンプルを採取した。結果として生じた凝集体は、(上述したマグネチックスターラー法によって決定した)5の分散性を有していた。
【0056】
実施例7:異なるグレードのCMCを使用する2段階凝集プロセス
プロトタイプは、1.0mmの液体パイプを備えた二流体ノズル(Schlick 970-S4)を使用して、トップスプレーを備えたパイロット規模の流動床(Aeromatic Fielder MP1)内において1,000gのバッチサイズで調製した。
【0057】
400gの親水コロイド(キサンタンガムMAS-SHとカルボキシメチルセルロース:DuPont社から入手可能なCMC BEV 150;Ashland社から入手可能なBlanose 7H3SF;Dow Chemical Company社から入手可能なWalocel CRT 20000PAのうちの1つ)の50:50ブレンドを498gのマルトデキストリンDE20とともにドライブレンドした。結合剤溶液は、乳酸カルシウムもしくはマルトデキストリンをそれぞれ予備沸騰させた80℃の脱イオン水中に混合することによって調製し、その後は溶液を後に続く噴霧プロセスを通して65℃で維持した。
【0058】
流動床は、70℃のプロセスエアーを用いて27~32℃の排気温度へ予備加熱した。流動床には、次に親水コロイドおよびマルトデキストリンのドライブレンドを装填した。生成物床の十分な流動化が25m/時(1分間)で観察された場合は、凝集プロセスは、ドライブレンド上に水中の9.1重量%の乳酸カルシウム無水物もしくは12.8重量%の乳酸カルシウム、5HOを含有する240gの第1結合剤溶液を噴霧することによって開始した。第1凝集体を形成するために親水コロイドおよびマルトデキストリンのブレンド上に第1結合剤溶液を噴霧した(約30~45分間)後、第2凝集体を形成するため第2結合剤溶液(水中の240gの33.3%のマルトデキストリン溶液)を第1凝集体上に30~45分間にわたり噴霧した。
【0059】
両方の凝集工程において、噴霧エアーは、1.8barの圧力および45℃の温度を有していた。流動化エアー温度は、全凝集プロセスを通して70℃で一定であった。流動化プロセスエアーの流量は、プロセスの初期15分間中に25m/時から50m/時へ増加させ、第1結合剤溶液を噴霧する時間中は50m/時で維持した。第2結合剤溶液を噴霧するためには、流動化エアーの流量を60m/時へ増加させた。
【0060】
第2結合剤溶液の全部が添加されている時点に、第2凝集体は、特注の真空システムを用いてΦ20mmのチューブ内のサンプリングホールを介して流動床から直ちに排出させた。排出は、凝集体が内部フィルターから微粒子が凝集体内に落下するのを回避するために流動化している間に実施した。
【0061】
結果として生じた、CMC BEV150を含んでいる凝集体は、40g/100mLのバルク密度および(上述したマグネチックスターラー法によって決定した)4の分散性を有していた;Blanose 7H3SFを含んでいた凝集体は、50g/100mLのバルク密度および(上述したマグネチックスターラー法によって決定した)4の分散性を有していた;ならびにWalocel CRT20000PAを含んでいた凝集体は、44g/100mLのバルク密度および(上述したマグネチックスターラー法によって決定した)3の分散性を有していた。
図1
図2