(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】光硬化性マレイミド樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 2/50 20060101AFI20241209BHJP
C08F 22/40 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
C08F2/50
C08F22/40
(21)【出願番号】P 2021115064
(22)【出願日】2021-07-12
【審査請求日】2023-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堤 吉弘
(72)【発明者】
【氏名】井口 洋之
(72)【発明者】
【氏名】工藤 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】津浦 篤司
(72)【発明者】
【氏名】池田 多春
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-042711(JP,A)
【文献】特表2020-525575(JP,A)
【文献】国際公開第2020/203834(WO,A1)
【文献】特開2006-053425(JP,A)
【文献】国際公開第2018/116928(WO,A1)
【文献】特開2021-021027(JP,A)
【文献】特開2003-020403(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08F 2/00-2/60
C08F 6/00-246/00
C08F 299/00-299/08
C08F 290/00-290/14
C08J 5/04-5/10
H01L 23/28-23/30
C09K 3/10-3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中に飽和又は不飽和の炭素数6から200の2価の脂肪族炭化水素基を1個以上有するマレイミド化合物、
(B)重合禁止剤を(A)成分100質量部に対して、0.01~0.50質量部、
(C)光硬化開始剤を(A)成分100質量部に対して、0.1~5.0質量部
及び
(D)
マレイミド基、エポキシ基、(メタ)アクリル基、ビニル基、アリル基、フェノール性水酸基、及びアミノ基から選ばれる(A)成分中のマレイミド基と反応しうる官能基を有する接着助剤を(A)成分100質量部に対して、
0.1~5.0質量部
を含有する光硬化性マレイミド樹脂組成物
であって、(A)成分のマレイミド化合物と、(A’)(A)成分以外の、マレイミド基と反応しうる反応性基を有する光硬化性樹脂との合計を100質量%とした場合における(A)成分のマレイミド化合物の含有量が80~100質量%であり、(A’)の含有量が0~20質量%である光硬化性マレイミド樹脂組成物。
【請求項2】
(A)成分のマレイミド化合物が1分子中に2個のマレイミド基を有するビスマレイミド化合物である請求項1に記載の光硬化性マレイミド樹脂組成物。
【請求項3】
(A)成分のマレイミド化合物が1分子中に一つ以上ダイマー酸骨格由来の炭化水素基を有するものである請求項1又は2に記載の光硬化性マレイミド樹脂組成物。
【請求項4】
(A)成分のマレイミド化合物が、下記式(1)で示されるマレイミド化合物であって、1分子中に少なくとも1つのダイマー酸骨格を有するマレイミド化合物である請求項1~3のいずれか1項に記載の光硬化性マレイミド樹脂組成物。
【化1】
(式(1)中、Aは独立して環状構造を有する4価の有機基であり、Bは独立して炭素数6~200の2価炭化水素基であり、少なくとも1つはダイマー酸骨格である。nは0~100である。)
【請求項5】
式(1)中のAが下記構造式で示される4価の有機基のいずれかである請求項4に記載の光硬化性マレイミド樹脂組成物。
【化2】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(1)において環状イミド構造を形成するカルボニル炭素と結合するものである。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性マレイミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
UV硬化樹脂を代表とする光硬化樹脂(感光性樹脂)はすでに多くの場所で使用されている。光硬化樹脂は、アクリル基などの不飽和二重結合のラジカル重合により硬化するタイプと、エポキシ基などのカチオン重合により硬化するタイプに大別することができるが、一般的に酸素原子を始めとするヘテロ原子を含む官能基を有することが多く、硬化物の比誘電率、誘電正接の値は大きいものが多い。
【0003】
近年、5Gという次世代通信システムが開発されており、今以上の高速、大容量、低遅延通信を実現しようとしている。これらを実現するためには、高周波帯用の材料が必要であり、ノイズ対策として伝送損失の低減が必須となる。そのため、基板のバインダー樹脂や半導体用配線積層用材料、接着剤などに誘電特性の優れた(低比誘電率かつ低誘電正接)絶縁材料の開発が求められている。
【0004】
上述のように、光硬化樹脂は誘電特性に劣る(高比誘電率かつ高誘電正接)ものが多いが、有色ではあるが透明性のある特殊なマレイミド樹脂を用いることで優れた誘電特性を有する光硬化材料の報告がなされている(特許文献1)が、深部硬化が不十分となるなど硬化性に課題を残している。
【0005】
一方で、硬化性を解決するための報告がなされている(特許文献2~5)。特定の光硬化開始剤を使用するものや、反応性の高い官能基当量の小さいマレイミド樹脂を併用する提案がなされているが、もともとマレイミド樹脂は長期間光にさらされるとゲル化が進行してしまうことがすでにわかっているだけでなく、これらの報告の組成物は保存性に乏しく、長期遮光で保管しておいても部分的に反応が進行してしまうことがわかってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2018/56466号
【文献】特開2020-33470号公報
【文献】特開2020-33472号公報
【文献】国際公開第2020/45489号
【文献】国際公開第2020/262577号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明は、優れた誘電特性を有し、保存安定性や接着力にも優れる光硬化性マレイミド樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、下記光硬化性マレイミド樹脂組成物が、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
<1>
(A)1分子中に飽和又は不飽和の炭素数6から200の2価の脂肪族炭化水素基を1個以上有するマレイミド化合物、
(B)重合禁止剤、
(C)光硬化開始剤
及び
(D)接着助剤
を含有する光硬化性マレイミド樹脂組成物。
<2>
(A)成分のマレイミド化合物が1分子中に2個のマレイミド基を有するビスマレイミド化合物である<1>に記載の光硬化性マレイミド樹脂組成物。
<3>
(A)成分のマレイミド化合物が1分子中に一つ以上ダイマー酸骨格由来の炭化水素基を有するものである<1>又は<2>に記載の光硬化性マレイミド樹脂組成物。
<4>
(A)成分のマレイミド化合物が、下記式(1)で示されるマレイミド化合物であって、1分子中に少なくとも1つのダイマー酸骨格を有するマレイミド化合物である<1>~<3>のいずれか1項に記載の光硬化性マレイミド樹脂組成物。
【化1】
(式(1)中、Aは独立して環状構造を有する4価の有機基であり、Bは独立して炭素数6~200の2価炭化水素基であり、少なくとも1つはダイマー酸骨格である。nは0~100である。)
<5>
式(1)中のAが下記構造式で示される4価の有機基のいずれかである<4>に記載の光硬化性マレイミド樹脂組成物。
【化2】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(1)において環状イミド構造を形成するカルボニル炭素と結合するものである。)
<6>
(B)成分の重合禁止剤の含有量が(A)成分100質量部に対して、0.01~0.50質量部である<1>~<5>のいずれか1項に記載の光硬化性マレイミド樹脂組成物。
<7>
(C)成分の光硬化開始剤の含有量が(A)成分100質量部に対して、0.1~5.0質量部である<1>~<6>のいずれか1項に記載の光硬化性マレイミド樹脂組成物。
<8>
(D)成分の接着助剤が(A)成分中のマレイミド基と反応しうる官能基を有するものである<1>~<7>のいずれか1項に記載の光硬化性マレイミド樹脂組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の光硬化性マレイミド樹脂組成物は、誘電特性に優れ(低比誘電率かつ低誘電正接)、保存安定性や接着力に優れる樹脂組成物である。従って、本発明の光硬化性マレイミド樹脂組成物は例えば、配線層間絶縁層及びソルダーレジストなどの保護膜、ガラス基板などへの接着剤として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
【0012】
[(A)1分子中に飽和又は不飽和の炭素数6から200の2価の脂肪族炭化水素基を1個以上有するマレイミド化合物]
本発明で用いる(A)成分は、特定のマレイミド化合物であり、1分子中に飽和又は不飽和の炭素数6から200の2価の脂肪族炭化水素基を1個以上有するものである。脂肪族炭化水素基を有することで、これを含む樹脂組成物の硬化物は優れた誘電特性を得ることができる。
【0013】
前記(A)成分のマレイミド化合物は原料の入手のしやすさや、合成の安定性の観点から、1分子中に2個のマレイミド基を有するビスマレイミド化合物であることが好ましい。
【0014】
前記(A)成分のマレイミド化合物は、2価の脂肪族炭化水素基の中でも、ダイマー酸骨格由来の炭化水素基を有することがより好ましい。
【0015】
ここで言う、ダイマー酸とは、植物系油脂などの天然物を原料とする炭素数18の不飽和脂肪酸の二量化によって生成された、炭素数36のジカルボン酸を主成分とする液状の二塩基酸であり、ダイマー酸は単一の骨格ではなく、複数の構造を有し、何種類かの異性体が存在する。ダイマー酸の代表的なものは直鎖型(a)、単環型(b)、芳香族環型(c)、多環型(d)という名称で分類される。本明細書において、ダイマー酸骨格とは、このようなダイマー酸のカルボキシ基を1級アミノメチル基で置換した構造を有するダイマージアミンから誘導される基をいう。すなわち、(A)成分は、ダイマー酸骨格として、下記(a)~(d)で示される各ダイマー酸において、2つのカルボキシ基がメチレン基で置換された基を有するものが好ましい。
また、(A)成分のマレイミド化合物がダイマー酸骨格由来の炭化水素基を有する場合、該ダイマー酸骨格由来の炭化水素基は、水添反応により、該ダイマー酸骨格由来の炭化水素基中の炭素-炭素二重結合が低減した構造を有するものが、硬化物の耐熱性や信頼性の観点からより好ましい。
【化3】
【0016】
(A)成分のマレイミド化合物としては、下記式(1)で示されるマレイミド化合物であって、1分子中に少なくとも1つのダイマー酸骨格を有するマレイミド化合物が好ましい。この下記式(1)で示されるマレイミド化合物を使用すると、硬化前後共に、誘電特性に優れ、また金属との密着力が強く、信頼性の高い組成物となる。
【化4】
(式(1)中、Aは独立して環状構造を有する4価の有機基であり、Bは独立して炭素数6~200の2価炭化水素基であり、少なくとも1つはダイマー酸骨格である。nは0~100である。)
【0017】
ここで、前記式(1)中、Aは独立して環状構造を有する4価の有機基を示し、中でも下記構造式で示される4価の有機基のいずれかであることが好ましい。
【化5】
【0018】
また、前記式(1)中、Bは独立して炭素数6~200、好ましくは8~100、より好ましくは10~50の2価炭化水素基である。中でも、前記2価炭化水素基中の水素原子の1個以上が、炭素数1~200、好ましくは1~100、より好ましくは1~50のアルキル基又はアルケニル基で置換されている分岐状2価炭化水素基であることが好ましい。分岐状2価炭化水素基としては、飽和脂肪族炭化水素基、不飽和炭化水素基のいずれでもよい。
前記分岐状2価炭化水素基として、具体的には、ダイマージアミンと呼ばれる両末端ジアミン由来の2価炭化水素基が挙げられる。なお、ダイマージアミンとは、オレイン酸などの不飽和脂肪酸の二量体(ダイマー酸)から誘導される化合物であり、従って、Bとしては、上記(a)~(d)で示される各ダイマー酸において、2つのカルボキシ基がそれぞれメチレン基で置換された基が特に好ましい。
【0019】
前記式(1)において、nは0~100であり、好ましくは0~60であり、より好ましくは0~50である。nが大きすぎると溶解性や流動性が低下し、成形性に劣るおそれがある。
【0020】
(A)成分のマレイミド化合物の数平均分子量は特に制限はないが、組成物のハンドリング性の観点から800~50,000が好ましく、より好ましくは900~30,000である。また、(A)成分は1種単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。
なお、本明細書中で言及する数平均分子量とは、下記条件で測定したゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレンを標準物質とした数平均分子量を指すこととする。
【0021】
[測定条件]
展開溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流量:0.35mL/min
検出器:示差屈折率検出器(RI)
カラム:TSK Guardcolumn SuperH-L
TSKgel SuperHZ4000(4.6mmI.D.×15cm×1)
TSKgel SuperHZ3000(4.6mmI.D.×15cm×1)
TSKgel SuperHZ2000(4.6mmI.D.×15cm×2)
(いずれも東ソー社製)
カラム温度:40℃
試料注入量:5μL(濃度0.2質量%のTHF溶液)
【0022】
[(B)重合禁止剤]
本発明で用いる(B)成分は重合禁止剤である。重合禁止剤は、本発明の光硬化性樹脂組成物の保存安定性を高めるために配合するものであり、保存安定性を向上できるものであれば特に制限はない。
【0023】
重合禁止剤としては、例えば、カテコール、レゾルシノール、1,4-ヒドロキノンなど一般的によく使用されるものを始め、2-メチルカテコール、3-メチルカテコール、4-メチルカテコール、2-エチルカテコール、3-エチルカテコール、4-エチルカテコール、2-プロピルカテコール、3-プロピルカテコール、4-プロピルカテコール、2-n-ブチルカテコール、3-n-ブチルカテコール、4-n-ブチルカテコール、2-tert-ブチルカテコール、3-tert-ブチルカテコール、4-tert-ブチルカテコール、3,5-ジ-tert-ブチルカテコール等のアルキルカテコール系化合物;2-メチルレゾルシノール、4-メチルレゾルシノール、2-エチルレゾルシノール、4-エチルレゾルシノール、2-プロピルレゾルシノール、4-プロピルレゾルシノール、2-n-ブチルレゾルシノール、4-n-ブチルレゾルシノール、2-tert-ブチルレゾルシノール、4-tert-ブチルレゾルシノール等のアルキルレゾルシノール系化合物;メチルヒドロキノン、エチルヒドロキノン、プロピルヒドロキノン、tert-ブチルヒドロキノン等のアルキルヒドロキノン系化合物;トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィン等のホスフィン化合物;トリオクチルホスフィンオキサイド、トリフェニルホスフィンオキサイドなどのホスフィンオキサイド化合物;トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト等のホスファイト化合物;2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル等のヒンダードアミン系化合物;1,4-ジヒドロキシ-2-ナフタレンスルホン酸アンモニウム、4-メトキシ-1-ナフトール等のナフタレン化合物;1,4-ナフトキノン、2-ヒドロキシ-1,4-ナフトキノン、アントロン等のナフトキノン化合物;ピロガロール、フロログルシン、4,4'-ブチリデン-ビス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)等のフェノール系酸化防止剤等が挙げられる。
【0024】
(B)成分の重合禁止剤の含有量は(A)成分100質量部に対して、好ましくは0.01~0.50質量部であり、より好ましくは0.02~0.45質量部であり、更に好ましくは0.03~0.40質量部である。
また、本発明の組成物が後述する(A)成分以外の、マレイミド基と反応しうる反応性基を有する光硬化性樹脂を含有する場合、(B)成分の含有量は、(A)成分及び(A)成分以外の、マレイミド基と反応しうる反応性基を有する光硬化性樹脂の総和(以下、両成分を合わせて単に「光硬化性樹脂成分」という場合がある)100質量部に対して、好ましくは0.01~0.70質量部であり、より好ましくは0.02~0.60質量部であり、更に好ましくは0.03~0.50質量部である。
(A)成分100質量部に対する(B)成分の配合量が0.01質量部未満では重合禁止の効果が弱くなることがあり、0.50質量部より多くなると効果が頭打ちとなり保存安定性の向上もあまり期待できないだけでなく、硬化性に影響を及ぼす可能性がある。
また、(B)成分は1種単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。
【0025】
[(C)光硬化開始剤]
(C)成分である光硬化開始剤は、(A)成分であるマレイミド化合物の架橋反応や(A)成分中のマレイミド基と反応しうる反応基との架橋反応を促進するために添加するものである。また、アミン化合物、尿素化合物、含硫黄化合物、含リン化合物、ニトリル化合物等の光増感剤を併用してもよい。
【0026】
光硬化開始剤としては、光によって反応を開始させるものであれば特に限定はしない。光硬化開始剤としては、例えば、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-メチル-1-(4-(メチルチオ)フェニル)-2-モルフォリノプロパノン-1、2,4-ジエチルチオキサントン、2-エチルアントラキノン、及びフェナントレンキノン等の芳香族ケトン;ベンジルジメチルケタール等のベンジル誘導体;2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジ(m-メトキシフェニル)イミダゾール二量体、2-(o-フルオロフェニル)-4,5-フェニルイミダゾール二量体、2-(o-メトキシフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(p-メトキシフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2,4-ジ(p-メトキシフェニル)-5-フェニルイミダゾール二量体、及び2-(2,4-ジメトキシフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体等の2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体;9-フェニルアクリジン、及び1,7-ビス(9,9’-アクリジニル)ヘプタン等のアクリジン誘導体;ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルホスフィンオキサイド、及びビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド等のビスアシルホスフィンオキサイド;1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン等のアルキルフェノン系化合物;2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド系化合物;ベンゾフェノン化合物等が挙げられる。
【0027】
(C)成分の光硬化開始剤の含有量は(A)成分100質量部に対して、好ましくは0.1~5.0質量部であり、より好ましくは0.2~4.5質量部であり、更に好ましくは0.5~4.0質量部である。
また、本発明の組成物が後述する(A)成分以外の、マレイミド基と反応しうる反応性基を有する光硬化性樹脂を含有する場合、(C)成分の含有量は、光硬化性樹脂成分100質量部に対して、好ましくは0.1~7.0質量部であり、より好ましくは0.2~6.0質量部であり、更に好ましくは0.5~5.0質量部である。
(A)成分100質量部に対する(C)成分の配合量が0.1質量部未満では光硬化の進行が遅くなることがあり、5.0質量部より多くなると重合禁止剤を入れても保存安定性に欠けるものになってしまう場合がある。
また、(C)成分は1種単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。
【0028】
[(D)接着助剤]
(D)成分である接着助剤は、本光硬化性樹脂組成物の接着力を向上させるために配合される。(A)成分のマレイミド化合物は金属に対して強い接着力を有するが、ガラス等一部の物質に対する接着力には課題があり、(D)接着助剤はこれらの被着体に対する接着力を向上させる効果がある。
【0029】
接着助剤としては、シランカップリング剤、トリアゾール系化合物、テトラゾール系化合物等が挙げられる。
【0030】
接着助剤としては、特に種類を問わないが、(A)成分中のマレイミド基と反応しうる官能基を有することが好ましい。マレイミド基と反応しうる官能基としては、マレイミド基、エポキシ基、(メタ)アクリル基、ビニル基、アリル基、フェノール性水酸基、アミノ基等が挙げられる。中でも光硬化性に優れるマレイミド基及び(メタ)アクリル基のうちいずれかを有するものが好ましい。
【0031】
シランカップリング剤としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有アルコキシシラン;3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の(メタ)アクリル基含有アルコキシシラン;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のアルケニル基含有アルコキシシラン及びN-2-(アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン等が挙げられる。
トリアゾール系化合物としては、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、ベンゾトリアゾール、N-トリメチルシリル-ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
テトラゾール系化合物としては、1H-テトラゾール、5-アミノ-1H-テトラゾール、5-フェニル-1H-テトラゾール、1-フェニル-5-メルカプト-1H-テトラゾール等が挙げられる。
【0032】
(D)成分の接着助剤の含有量は(A)成分100質量部に対して、好ましくは0.01~10.0質量部であり、より好ましくは0.05~8.0質量部であり、更に好ましくは0.1~5.0質量部である。
また、本発明の組成物が後述する(A)成分以外の、マレイミド基と反応しうる反応性基を有する光硬化性樹脂を含有する場合、(D)成分の含有量は、光硬化性樹脂成分100質量部に対して、好ましくは0.01~12.0質量部であり、より好ましくは0.05~10.0質量部であり、更に好ましくは0.1~8.0質量部である。
また、(D)成分は1種単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。
【0033】
その他の添加剤
本発明の光硬化性マレイミド樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、更に必要に応じて各種の添加剤を配合することができる。その他の添加剤を以下に例示する。
【0034】
[マレイミド基と反応しうる反応性基を有する光硬化性樹脂]
本発明ではさらに、(A)成分以外の、マレイミド基と反応しうる反応性基を有する光硬化性樹脂(A’)を添加してもよい。
該光硬化性樹脂としてはその種類を限定するものではなく、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、(A)成分以外のマレイミド化合物を始めとする環状イミド樹脂、ユリア樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、熱硬化性アクリル樹脂、エポキシ・シリコーンハイブリッド樹脂など(A)成分以外の各種樹脂が挙げられる。また、マレイミド基と反応しうる反応性基としては、エポキシ基、マレイミド基、水酸基、酸無水物基、アリル基やビニル基のようなアルケニル基、(メタ)アクリル基、チオール基などが挙げられる。
【0035】
反応性の観点から、光硬化性樹脂の反応性基は、マレイミド基、(メタ)アクリル基であることが好ましい。ただし、マレイミド基と反応しうる反応性基を有する光硬化性樹脂の配合量は、光硬化性樹脂の総和中、0~50質量%である。
【0036】
[無機充填材]
本発明ではさらに、無機充填材を添加してもよい。本発明の光硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物の強度や剛性を高めたり、熱膨張係数や硬化物の寸法安定性を調整したりする目的で配合することができる。無機充填材としては、通常エポキシ樹脂組成物やシリコーン樹脂組成物に配合されるものを使用することができる。例えば、球状シリカ、溶融シリカ及び結晶性シリカ等のシリカ類、アルミナ、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、硫酸バリウム、タルク、クレー、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、ガラス繊維及びガラス粒子等が挙げられる。さらに誘電特性改善のために含フッ素樹脂、コーティングフィラー、及び/又は中空粒子を添加してもよい。無機充填材は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
無機充填材の平均粒径及び形状は特に限定されないが、平均粒径が0.5~5μmの球状シリカが好適に用いられる。なお、平均粒径は、レーザー光回折法による粒度分布測定における質量平均値D50(又はメジアン径)として求めた値である。
【0038】
さらに無機充填材は特性を向上させるために、マレイミド基と反応しうる有機基を有するシランカップリング剤で表面処理されていることが好ましい。このようなシランカップリング剤としては、エポキシ基含有アルコキシシラン、アミノ基含有アルコキシシラン、(メタ)アクリル基含有アルコキシシラン、及びアルケニル基含有アルコキシシラン等が挙げられる。
前記シランカップリング剤としては、(メタ)アクリル基及び/又はアミノ基含有アルコキシシランが好適に用いられ、具体的には、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0039】
無機充填材の配合量は、光の透過性の観点から光硬化性樹脂の総和中、0~70質量%である。
【0040】
[その他]
上記以外に、光増感剤、無官能シリコーンオイル、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、有機合成ゴム、光安定剤、難燃剤、顔料、染料等を配合してもよい。
【0041】
[製造方法]
本発明の光硬化性マレイミド樹脂組成物の製造方法としては、上述した各成分を混合する方法が挙げられる。
本発明の光硬化性マレイミド樹脂組成物は、有機溶剤に溶解してワニスとして扱うこともでき、上述した各成分と有機溶剤とを混合することにより、ワニスとして光硬化性マレイミド樹脂組成物を製造してもよい。有機溶剤に関しては(A)成分及びその他の添加剤としてのマレイミド基と反応しうる反応性基を有する光硬化性樹脂が溶解するものであれば制限なく使用することができ、例えば、アニソール、キシレン、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0042】
他にも、(A)成分が室温で液状であれば、各成分を配合し、プラネタリーミキサー(井上製作所(株)製)や、攪拌機THINKY CONDITIONING MIXER(シンキー(株)製)を使用して混合することができる。
他にも、各成分をあらかじめ予備混合し、溶融混練機を用いてシート状又はフィルム状に押し出してそのまま使用することもできる。さらにはそのシート状やフィルム状のものを加工して、顆粒やタブレット状として使用することもできる。
【0043】
[用途]
本発明の光硬化性マレイミド樹脂組成物は、絶縁性の樹脂組成物が必要とされる用途に使用することができ、特に限定されないが、室温でフィルム化可能な樹脂組成物であれば、感光性フィルム、支持体付き感光性フィルム、プリプレグ等の絶縁樹脂シート、回路基板(積層板用途、多層プリント配線板用途等)、ソルダーレジスト、アンダーフィル材、ダイボンディング材、半導体封止材、穴埋め樹脂、部品埋め込み樹脂、金属と金属を接合する接着剤等の用途に使用することができる。中でも、多層プリント配線板の絶縁層用樹脂組成物やソルダーレジスト、熱をあまりかけられない部位に使用する接着剤として好適に使用することができる。
【0044】
本発明の光硬化性マレイミド樹脂組成物は、光硬化樹脂の硬化条件として常法の波長、照度、時間等の諸条件の光照射により硬化するものであり、例えば、365nmなどのUV光を照射することにより硬化する。また、用途に応じて、前述の条件で光硬化後、180℃、1時間等の条件で熱硬化を組み合わせてもよい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0046】
[(A)マレイミド化合物]
(A-1):下記式で示される直鎖アルキレン基含有ビスマレイミド化合物(商品名:BMI-3000J、Designer Molecules Inc.製)
【化6】
-C
36H
72-はダイマー酸骨格由来の構造を示す。
n≒5(平均値)
(A-2):1,6-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン(商品名:BMI-TMH、大和化成工業(株)製)
【0047】
[(A')マレイミド基と反応しうる反応性基を有する光硬化性樹脂((A)成分以外のマレイミド化合物)]
(A-3):4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド(商品名:BMI-1000、大和化成工業(株)製)
(A-4):ビスフェノールA-ジフェニルエーテルビスマレイミド(商品名:BMI-4000、大和化成工業(株)製)
【0048】
[(B)重合禁止剤]
(B-1)4,4'-ブチリデン-ビス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)(商品名:ANTAGE W-300、川口化学工業株式会社製)
【0049】
[(C)光硬化開始剤]
(C-1):ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニル-ホスフィンオキシド(商品名:Ominirad819、iGM Resins製)
【0050】
[(D)接着助剤]
(D-1):3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM-503、信越化学工業(株)製)
【0051】
[実施例1~3、比較例1~10]
<ワニスの作製>
表1及び2の配合で、ジムロート冷却管及び撹拌装置を備えた500mLの4つ口フラスコに、表1及び2に示す各成分を投入し、50℃で2時間撹拌させることでワニス状の樹脂組成物を得た。
【0052】
<ワニス安定性>
上記方法で作製したワニスを無色透明のガラス瓶に移し、栓をし、製造後のワニスの状態を確認し、流動性を有しているものを○、流動性を有しているが、中に細かい不溶物が発生していたものを△、完全にゲル化し、流動性を失っているものを×として、ワニスの安定性を評価した。
続いて、ワニスが入ったガラス瓶を、その栓をした状態で40℃のインキュベーター内に2か月放置した。2か月後のワニスの状態を確認し、流動性を維持していたものを〇、流動性を有しているが、中に細かい不溶物が発生していたものを△、完全にゲル化し、流動性を失っていたものを×として、ワニスの保存安定性を評価した。
【0053】
<比誘電率、誘電正接、硬化性>
上記方法で作製したワニス状光硬化性環状イミド樹脂組成物を厚さ38μmのPETフィルム上にローラーコーターで塗布し、実施例と比較例1~3、5及び6は100℃で10分間、比較例4及び7~10は180℃で10分間乾燥させて厚さ50μmの未硬化樹脂フィルムを得た。次に、得られた未硬化樹脂フィルムに2000mJ/cm2のUVを照射し、光硬化させ硬化樹脂フィルムを得た。
この硬化樹脂フィルムを用いて、ネットワークアナライザ(キーサイト製、製品名:E5063-2D5)とストリップライン(キーコム株式会社製)を接続し、上記硬化樹脂フィルムの周波数10GHzにおける比誘電率と誘電正接を測定した。
また、硬化樹脂フィルムをアニソールに6時間浸漬させた前後の硬化樹脂フィルム重量において、初期の重量に対して重量変化が0.1%以下のものを〇、0.1%超のものを×として硬化性を評価した。
【0054】
<銅箔及びガラスへの接着性>
上記方法で作製したワニス状光硬化性環状イミド樹脂組成物をRz=0.6μm、18μm厚の銅箔(商品名:TQ-M4-VLP、三井金属製)の上にローラーコーターで塗布し、100℃で10分間乾燥させて銅箔上に厚さ50μmの未硬化樹脂フィルムを作製した。この銅箔上の未硬化樹脂フィルムを形成した面にスライドガラス(商品名:S1111、松波硝子工業製)を真空プレス(ニッコーマテリアル(株)製、製品名:V-130)を用いて100℃、0.3MPa圧、60秒の条件でラミネートした。それをスライドガラス側から2000mJ/cm2のUVを照射し、光硬化させ、追加で180℃で1時間熱硬化させた。
接着性を評価するために、JIS-C-6481「プリント配線板用銅張積層板試験方法」に準拠し、温度23℃及び引張速度50mm/分の条件で、初期及び85℃85%RH168時間後の接着試験片の銅箔をスライドガラスから剥がすときの90°はく離接着強さ(kN/m)を測定した。
【0055】
【0056】
【表2】
*銅箔のピール試験を実施する前にガラス面から剥離し、ガラスへの接着力不足で銅箔とのピール強度が測定できなかった。
**硬化後、すでに接着力不足で銅箔からの剥離が見られたため、測定できなかった。
【0057】
以上より、本発明の光硬化性マレイミド樹脂組成物は、誘電特性に優れ(低比誘電率誘電率かつ低誘電正接であり)、保存安定性や接着力に優れ、配線層間絶縁層及びソルダーレジストなどの保護膜、ガラス基板などへの接着剤としての有用性を確認することができた。