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  • 特許-エポキシ樹脂組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/20 20060101AFI20241209BHJP
   C08G 59/66 20060101ALI20241209BHJP
   C08G 59/40 20060101ALI20241209BHJP
   C08G 59/14 20060101ALI20241209BHJP
   C08G 77/38 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
C08G59/20
C08G59/66
C08G59/40
C08G59/14
C08G77/38
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021182227
(22)【出願日】2021-11-09
(65)【公開番号】P2023070208
(43)【公開日】2023-05-19
【審査請求日】2023-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】串原 直行
(72)【発明者】
【氏名】隅田 和昌
(72)【発明者】
【氏名】矢島 章
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/033329(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/033327(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0160317(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G59
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)~(E)成分を含有するエポキシ樹脂組成物。
(A)1分子中に2個以上のエポキシ基を有する、シリコーン変性されていないエポキシ樹脂 100質量部
(B)1分子中に3個以上のチオール基を有するチオール化合物
(C)シリコーン変性エポキシ樹脂 0.5~100質量部
(D)マイクロカプセル型硬化促進剤 1.0~200質量部
(E)反応抑制剤 0.05~10質量部
但し、(B)成分の量は、(A)成分及び(C)成分中の合計エポキシ基1モル当量に対し(B)成分中のチオール基のモル当量比が0.1~1.0となる量であって、前記(C)シリコーン変性エポキシ樹脂が式(1)~(3)で示されるアルケニル基含有エポキシ樹脂の1種又は2種以上と、式(5)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンとを反応させて得られる共重合体である。
【化1】
【化2】
【化3】
(式(1)~(3)において、R 1 はグリシジル基(2,3-エポキシプロピル基)であり、Xは独立に水素原子又は臭素原子であり、nは0~50の数であり、mは1~5の数である。)
【化4】
(式(5)中、R 2 は独立に置換又は非置換の、炭素原子数1~10の1価炭化水素基、ヒドロキシ基、炭素原子数1~10のアルコキシ基若しくは炭素原子数2~10のアルケニルオキシ基であり、pは0~1,000の数であり、qは0~20の数であり、さらにp+qは、1<p+q≦1,000を満たす数である。)
【請求項2】
(B)成分がチオール基を1分子中に4個以上有するチオール化合物である、請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
(A)成分及び(C)成分中の合計エポキシ基1モル当量に対し、(B)成分中のチオール基のモル当量比が0.1~0.5である、請求項1又は2記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
(D)成分が、リン化合物、第3級アミン化合物、イミダゾール化合物、ウレア化合物及びアミンアダクト化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むマイクロカプセル型硬化促進剤である、請求項1~3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
(E)成分がホウ酸エステル化合物及び/又は亜リン酸エステル化合物である、請求項1~4のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
(D)成分の体積平均粒径が0.1~10μmである、請求項1~5のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエポキシ樹脂組成物に関する。より詳細にはチオール化合物を含むエポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂組成物は、接着力、耐熱性、電気特性に優れることから、電気・電子機器部品、自動車部品などの分野で、接着剤や封止材として使用されている。近年、高温条件下での部品劣化を抑える目的や生産性向上の観点から、低温かつ短時間での硬化性を有するエポキシ樹脂組成物が求められている。
【0003】
低温かつ短時間で硬化可能なエポキシ樹脂組成物の硬化剤として、チオール系硬化剤が知られている。例えば、特許文献1及び特許文献2には、エポキシ樹脂とチオール化合物を有する組成物が記載されている。特許文献1には、化合物中に4つのチオール基を有し、かつ、エステル結合を有しないエポキシ樹脂の硬化剤として作用する化合物、エポキシ樹脂、硬化促進剤及びシランカップリング剤を含む、樹脂組成物が記載されている。特許文献1は、該チオール化合物は、高温多湿環境下で加水分解することなく、接着強度の低下が起こりにくいと記載している。特許文献2は、エポキシ樹脂、エステル構造含有ポリチオール化合物、及びカルボジイミドを含む樹脂組成物を記載している。該樹脂組成物は、耐湿性に優れると記載している。特許文献3及び4に記載の組成物では、硬化剤としてチオール系硬化剤と、硬化促進剤としてマイクロカプセル型硬化剤とを用いることで、低温での短時間硬化性と貯蔵安定性を可能にしている。
【0004】
しかしながら、これらの特許文献に記載のような、チオール系硬化剤を含む従来のエポキシ樹脂組成物は、低温で硬化可能であるものの、硬化までに長時間を要するため十分な硬化性を有しているとは言えなかった。また、チオール系硬化剤を含む従来のエポキシ樹脂組成物は、生産性向上の観点から高温で短時間で硬化可能であるが、硬化物にボイドが発生したり、樹脂の揮発成分により基板が汚染されたりするため、取り扱い性の面で満足できるものではなかった。さらに、チオール系硬化剤を含む従来のエポキシ樹脂組成物は、得られる硬化物はTgが低く、耐熱性が不十分であり、高温高湿条件下での保管後に接着力が大幅に低下することから、信頼性の面でも満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6534189号
【文献】特開2019-123825号公報
【文献】国際公開第2017/057019号
【文献】特開2021-38314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、優れた耐熱性及び耐湿性を有する硬化物を与える、低温硬化性、短時間硬化性に優れ、硬化時の揮発成分が少ないエポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、エポキシ樹脂、チオール化合物、シリコーン変性エポキシ樹脂、マイクロカプセル型硬化促進剤及び反応抑制剤を含むエポキシ樹脂組成物において、1分子中にチオール基を3つ以上有する特定のチオール化合物を特定量で配合することにより、得られる組成物は優れた低温硬化性及び短時間硬化性を有し、硬化時の揮発成分が少なく、かつ優れた耐熱性、及び耐湿性を有する硬化物を与えることを見出し、本発明を成すに至った。
【0008】
即ち、本発明は、下記のエポキシ樹脂組成物等を提供するものである。
【0009】
[1]
以下の(A)~(E)成分を含有するエポキシ樹脂組成物。
(A)1分子中に2個以上のエポキシ基を有する、シリコーン変性されていないエポキシ樹脂 100質量部
(B)1分子中に3個以上のチオール基を有するチオール化合物
(C)シリコーン変性エポキシ樹脂 0.5~100質量部
(D)マイクロカプセル型硬化促進剤 1.0~200質量部
(E)反応抑制剤 0.05~10質量部
但し、(B)成分の量は、(A)成分及び(C)成分中の合計エポキシ基1モル当量に対し(B)成分中のチオール基のモル当量比が0.1~1.0となる量である。

[2]
(B)成分がチオール基を1分子中に4個以上有するチオール化合物である、[1]に記載のエポキシ樹脂組成物。

[3]
(A)成分及び(C)成分中の合計エポキシ基1モル当量に対し、(B)成分中のチオール基のモル当量比が0.1~0.5である、[1]又は[2]記載のエポキシ樹脂組成物。

[4]
(D)成分が、リン化合物、第3級アミン化合物、イミダゾール化合物、ウレア化合物及びアミンアダクト化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むマイクロカプセル型硬化促進剤である、[1]~[3]のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。

[5]
(E)成分がホウ酸エステル化合物及び/又は亜リン酸エステル化合物である、[1]~[4]のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。

[6]
(D)成分の体積平均粒径が0.1~10μmである、[1]~[5]のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、優れた低温硬化性及び短時間硬化性を有し、硬化時の揮発成分が少なく、かつ優れた耐熱性、及び耐湿性を有する硬化物を与える。従って、本発明のエポキシ樹脂組成物は接着剤、封止材等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例にて、25℃から300℃までの間で試験片の寸法変化を測定した結果についての該寸法と温度との関係をプロットしたグラフの一例であり、ガラス転移温度の決定方法を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂、チオール化合物、シリコーン変性エポキシ樹脂、マイクロカプセル型硬化促進剤、及び反応抑制剤を含み、該チオール化合物が1分子中にチオール基を3つ以上有するものであることを特徴とする。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
(A)シリコーン変性されていないエポキシ樹脂
(A)エポキシ樹脂は本発明の主成分であり、、シリコーン変性されておらず、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する。さらに、1分子中に芳香族環を1個以上有するエポキシ樹脂が好ましい。
【0014】
エポキシ樹脂はエポキシ基を1分子中に2個以上、好ましくは3個以上有するものであればよく、従来公知のエポキシ樹脂であってよい。ただし、シリコーン変性エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂である。(A)成分のエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、3,4-エポキシシクロヘキセニルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキセンカルボキシレートなどの脂環式エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、レゾルシノールノボラック型エポキシ樹脂などの多官能フェノール型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、トリアジン骨格含有エポキシ樹脂、フルオレン骨格含有エポキシ樹脂、トリスフェノールアルカン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、キシリレン型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂及びアントラセン等の多環芳香族類のジグリシジルエーテル化合物、並びにこれらにリン化合物を導入したリン含有エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0015】
(A)成分は、25℃での粘度10~100,000mPa・s、好ましくは20~50,000mPa・sを有することが好ましい。該粘度はJIS K 7117-1:1999に準じ、B型粘度計を用いて測定される値である。
【0016】
(A)成分の量は、エポキシ樹脂組成物全質量に対して4~60質量%であることが好ましく、8~55質量%がより好ましく、12~50質量%がさらに好ましい。
【0017】
(B)1分子中に3個以上のチオール基を有するチオール化合物
(B)成分はエポキシ樹脂の硬化剤として作用するポリチオール化合物であり、すなわち、上記(A)成分及び後述する(C)成分の硬化剤である。ポリチオール化合物は低温硬化性が高く、低温短時間でエポキシ樹脂を硬化させる。(B)成分は、1分子中に3個以上のチオール基を有することを特徴とし、好ましくは1分子中に4個以上、より好ましくは4~6個のチオール基を有する。チオール基の数が1分子中に2個以下では、得られる硬化物のガラス転移温度が低く、耐熱性や耐湿性に劣るため好ましくない。
【0018】
ポリチオール化合物としては、例えば、脂肪族ポリチオール化合物、芳香族ポリチオール化合物、エーテル結合を有するポリチオール化合物、エステル結合を有するポリチオール化合物、及びメルカプトアルキルグリコールウリル化合物などのポリチオール化合物が挙げられる。
エステル結合を有するポリチオール化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、トリス-[(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル]-イソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)、1,3,5-トリス(3-メルカプトブチリルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオンなどが挙げられる。
メルカプトアルキルグリコールウリル化合物としては、例えば、1,3,4,6-テトラキス(メルカプトメチル)グリコールウリル、1,3,4,6-テトラキス(2-メルカプトエチル)グリコールウリル、1,3,4,6-テトラキス(3-メルカプトプロピル)グリコールウリル、1,3,4,6-テトラキス(メルカプトメチル)-3a-メチルグリコールウリル、1,3,4,6-テトラキス(2-メルカプトエチル)-3a-メチルグリコールウリル、1,3,4,6-テトラキス(3-メルカプトプロピル)-3a-メチルグリコールウリル、1,3,4,6-テトラキス(メルカプトメチル)-3a,6a-ジメチルグリコールウリル、1,3,4,6-テトラキス(2-メルカプトエチル)-3a,6a-ジメチルグリコールウリル、1,3,4,6-テトラキス(3-メルカプトプロピル)-3a,6a-ジメチルグリコールウリル、1,3,4,6-テトラキス(メルカプトメチル)-3a,6a-ジフェニルグリコールウリル、1,3,4,6-テトラキス(2-メルカプトエチル)-3a,6a-ジフェニルグリコールウリル、1,3,4,6-テトラキス(3-メルカプトプロピル)-3a,6a-ジフェニルグリコールウリル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
これらは1種単独でも2種以上を組み合せて使用してもよい。
【0019】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、ポリチオール化合物を、(A)成分及び後述する(C)成分中の全エポキシ基1モル当量に対し、ポリチオール化合物中のチオール基のモル当量比が0.1~1.0となる量で含有することを特徴とする。好ましくは、モル当量比が0.1~0.8が好ましく、より好ましくは0.1~0.5、更に好ましくは0.2~0.5、特に好ましくは0.2~0.4となる量である。該当量比が0.1未満では、低温硬化性が損なわれ、未反応のエポキシ基が残存し、ガラス転移温度が低下、あるいは密着性が低下するおそれがある。また1.0を超えると、未反応のチオール基が残存し、リフロー時又は温度サイクル時にクラックが発生するおそれがある。
なお、本発明において当量とは官能基1個当たりの分子量である。チオール当量は活性水素当量を意味する。上記当量比(モル当量比)とは、(A)成分及び(C)成分中に含まれるエポキシ1当量に対する(B)チオール化合物中のチオール当量(活性水素当量)の比であり、0.1~1.0、好ましくは上述した範囲の当量比となるチオール活性水素を含む量の(B)チオール化合物を配合させればよい。
【0020】
(C)シリコーン変性エポキシ樹脂
(C)成分はシリコーン変性エポキシ樹脂である。シリコーン変性エポキシ樹脂を含有することでエポキシ樹脂組成物の硬化性及び耐湿信頼性を向上する。該シリコーン変性エポキシ樹脂としては、アルケニル基含有エポキシ樹脂とオルガノハイドロジェンポリシロキサンとを反応させて得られる共重合体が挙げられる。アルケニル基含有エポキシ樹脂としては、例えば、下記式(1)~(3)に示されるものが挙げられる。
【化1】

【化2】

【化3】
【0021】
上記式(1)~(3)において、R1はグリシジル基(2,3-エポキシプロピル基)であり、Xは独立に水素原子又は臭素原子であり、nは0以上の数、好ましくは0~50、より好ましくは1~20の数である。mは0以上の整数、好ましくは1~5の数、より好ましくは1である。
【0022】
オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、下記平均組成式(4)で示される化合物が挙げられる。
a(R2bSiO(4-a-b)/2 (4)
【0023】
上記式(4)において、R2は独立に置換又は非置換の、炭素原子数1~10の1価炭化水素基、ヒドロキシ基、炭素原子数1~10のアルコキシ基若しくは炭素原子数2~10のアルケニルオキシ基である。1価炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基や、これらの炭化水素基の水素原子の一部または全部をハロゲン原子等で置換したハロゲン置換1価炭化水素基が挙げられる。アルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ヘキシルオキシ基等が挙げられる。アルケニルオキシ基の例としては、ビニルオキシ基、プロペノキシ基、イソプロペノキシ基等が挙げられる。
【0024】
上記式(4)中、a、bは0.001≦a≦1、1≦b≦3、1<a+b≦4を満足する数であり、好ましくは0.01≦a≦0.1、1.8≦b≦2、1.85≦a+b≦2.1である。
【0025】
上記式(4)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1分子中にケイ素原子を1~1,000個、好ましくは2~400個、さらに好ましくは5~200個有するものが望ましい。該オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、式(5)に示される化合物が挙げられる。
【化4】
【0026】
上記式(5)中、R2は上記と同一のものであり、好ましくはメチル基又はフェニル基である。pは0~1,000の数、好ましくは3~400の数であり、qは0~20の数、好ましくは0~5の数であり、より好ましくはq=0である。さらにp+qは、1<p+q≦1,000であり、好ましくは2<p+q<400、さらに好ましくは5<p+q<200を満たす数である。
【0027】
このようなオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、例えば、下記式の化合物を挙げることができる。
【化5】
【0028】
オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、重量平均分子量100~100,000であることが好ましく、より好ましくは500~20,000である。オルガノハイドロジェンポリシロキサンの重量平均分子量が前記範囲内である場合、該オルガノハイドロジェンポリシロキサンと反応させるアルケニル基含有エポキシ樹脂の構造又は重量平均分子量に応じて、オルガノハイドロジェンポリシロキサンがマトリクスに均一に分散した均一構造又はオルガノハイドロジェンポリシロキサンがマトリクスに微細な層分離を形成する海島構造が出現する。
【0029】
オルガノハイドロジェンポリシロキサンの重量平均分子量が比較的小さい場合、特に100~10,000である場合は均一構造が形成される。また、オルガノハイドロジェンポリシロキサンの重量平均分子量が比較的大きい場合、特に10,000~100,000である場合は海島構造が形成される。均一構造と海島構造とは、用途に応じてどちらかを選択すればよい。オルガノハイドロジェンポリシロキサンの重量平均分子量が100未満の場合、得られる硬化物が剛直で脆くなるため好ましくない。また、オルガノハイドロジェンポリシロキサンの重量平均分子量が100,000より大きい場合、海島構造が大きくなり、得られる硬化物に局所的な応力が発生するため好ましくない。
【0030】
本明細書において重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレンを標準物質とした重量平均分子量であり、下記条件で測定した値である。
[GPC測定条件]
展開溶媒:テトラヒドロフラン
流量:0.6mL/min
カラム:TSK Guardcolumn SuperH-L
TSKgel SuperH4000(6.0mmI.D.×15cm×1)
TSKgel SuperH3000(6.0mmI.D.×15cm×1)
TSKgel SuperH2000(6.0mmI.D.×15cm×2)
(いずれも東ソー社製)
カラム温度:40℃
試料注入量:20μL(試料濃度:0.5質量%-テトラヒドロフラン溶液)
検出器:示差屈折率計(RI)
【0031】
アルケニル基含有エポキシ樹脂とオルガノハイドロジェンポリシロキサンとを反応させる方法は、公知の方法を用いることができ、例えば、白金系触媒の存在下で、アルケニル基含有エポキシ樹脂とオルガノハイドロジェンポリシロキサンとを付加反応させる方法が挙げられる。このようにして、シリコーン変性エポキシ樹脂を得ることができる。オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、アルケニル基含有エポキシ樹脂が有するアルケニル基1モルに対し、オルガノハイドロジェンポリシロキサンが有するSiH基が0.1~1モルとなる量で共重合させることが好ましい。
【0032】
本発明の組成物における(C)シリコーン変性エポキシ樹脂の配合量は、(A)成分100質量部に対して、0.5~100質量部であり、好ましくは1~80質量部であり、更に好ましくは2~60質量部である。
【0033】
(D)マイクロカプセル型硬化促進剤
(D)成分はマイクロカプセル型硬化促進剤であり上記(A)成分及び(C)成分であるエポキシ樹脂と、(B)チオール化合物との反応を促進する。なお、このマイクロカプセルのコア材(コア粒子)に有効成分として使用される硬化促進剤(触媒)としては、保存安定性と一定温度以上の低温で速硬化性を発現するように、反応温度(即ち、触媒作用を発現する温度)が50℃以上であることが好ましい。かかる硬化促進剤としては、例えば、リン化合物、第3級アミン化合物、イミダゾール化合物、ウレア化合物及びアミンアダクト化合物等を挙げることができる。
【0034】
上記リン化合物としては、例えば、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリ(メチルフェニル)ホスフィン、トリ(ノニルフェニル)ホスフィン、トリ(メトキシフェニル)ホスフィン、ジフェニルトリルホスフィン、トリフェニルホスフィン・トリフェニルボラン等のトリオルガノホスフィン化合物;テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート等の4級ホスホニウム塩等等が挙げられる。これらの中で、トリフェニルホスフィン、トリ(メチルフェニル)ホスフィンが好ましい。
【0035】
上記第3級アミン化合物としては、例えば、トリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン、ベンジルトリメチルアミン、α-メチルベンジルジメチルアミン等の窒素原子に結合する置換基としてアルキル基やアラルキル基を有するアミン化合物;1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7及び1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン及びそのフェノール塩、オクチル酸塩、オレイン酸塩等のシクロアミジン化合物やその有機酸との塩と第4級ホウ素化合物との塩又は錯塩等が挙げられる。これらの中で、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7及び1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンが好ましい。
【0036】
上記イミダゾール化合物としては、例えば、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2,4-ジメチルイミダゾール、2-へプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1,2-ジエチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2,4,5-トリフェニルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-アリル-4,5-ジフェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール等が挙げられる。これらの中で、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1,2-ジエチルイミダゾール、2,4-ジメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾールが好ましい。
【0037】
上記ウレア化合物としては、例えば、N,N-ジメチル-N’-フェニルウレア、N,N-ジメチル-N’-(3,4-ジクロロフェニル)ウレア、4,4’-メチレンビス(フェニルジメチルウレア)、芳香族ジメチルウレア化合物、脂肪族ジメチルウレア化合物、トルエンビスジメチルウレア、ジメチルアミノカルボキシルアミノメチルトリメチルシクロヘキシルジメチルウレア等が挙げられる。これらの中で、芳香族ジメチルウレア化合物、脂肪族ジメチルウレア化合物が好ましい。
【0038】
上記アミンアダクト化合物としては、例えば、カルボン酸化合物、フェノール化合物、イソシアネート化合物及びエポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と、アミン化合物とを反応して得られる、アミノ基を有する化合物等が挙げられる。
【0039】
カルボン酸化合物としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、ダイマー酸等が挙げられる。
【0040】
フェノール化合物としては、例えば、石炭酸、クレゾール、キシレノール、カルバクロール、モチール、ナフトール等のモノフェノール類、カテコール、レゾルシン、ヒドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ピロガロール、フロログルシン等の多価フェノール類が挙げられる。
【0041】
イソシアネート化合物としては、例えば、エチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、ブチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4-4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、1,4-イソシアナトシクロヘキサン、1,3-ビス(イソシアナトメチル)-シクロヘキサン、1,3-ビス(2-イソシアナトプロピル-2-イル)-シクロヘキサン、トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0042】
エポキシ化合物としては、例えば、ブチルグリシジルエーテル、ヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、パラ-tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル、パラキシリルグリシジルエーテル、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、3,4-エポキシシクロヘキセニルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキセンカルボキシレートなどの脂環式エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、レゾルシノールノボラック型エポキシ樹脂などの多官能フェノール型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、トリアジン骨格含有エポキシ樹脂、フルオレン骨格含有エポキシ樹脂、トリフェノールアルカン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、キシリレン型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂及びアントラセン等の多環芳香族類のジグリシジルエーテル化合物、並びにこれらにリン化合物を導入したリン含有エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0043】
アミン化合物としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、テトラメチレンアミン、1,5-ジアミノペンタン、ヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,2,4-トリエチルヘキサメチルジアミン、1,2-ジアミノプロパン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペン、シクロヘキシルアミン、イソホロンジアミン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、アミノエチルピペラジン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、ピペラジン等が挙げられる。
【0044】
これらの中で、イソシアネート樹脂又はエポキシ樹脂と、アミン化合物とを反応して得られるアミンアダクト化合物が好ましい。
【0045】
これらの硬化促進剤は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0046】
硬化促進剤をマイクロカプセル化させるシェル材は、保存安定性の維持と速硬化性確保の観点から融点が50~90℃である必要がある。シェル材の材料はこのような融点を有するものであれば特に限定されず、公知のものを全て使用することができ、例えば、(メタ)アクリル系単量体、例えばアクリル酸エステル、イタコン酸エステル、クロトン酸エステル等の炭素原子数1~8のアルキルエステル;このアルキルエステルのアルキル基がアリル基等の置換基を有するもの;スチレン、α-メチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル等の単官能性単量体;及びエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、メチレンビス(メタ)アクリルアミド等の多官能単量体から選ばれる1種又は2種以上の単量体を(共)重合することにより得られたポリマー等が挙げられる。これらの中で、(メタ)アクリレート系単量体の重合物が好ましい。
【0047】
(D)成分のマイクロカプセル型硬化促進剤は、このようなシェル材中にイミダゾール化合物、第3級アミン化合物等の硬化促進剤をコア成分として含有するマイクロカプセルで、製法は、以下の(a)~(c)のような方法が挙げられるが、特に限定されない。
【0048】
(a)分散媒である溶剤中に、シェル材とマイクロカプセル型硬化促進剤のコア粒子を溶解又は分散させた後、分散媒中のシェル材の溶解度を下げて、マイクロカプセル型硬化促進剤のコア粒子の表面にシェルを析出させる方法。
【0049】
(b)マイクロカプセル型硬化促進剤のコア粒子を分散媒に分散させ、この分散媒に上記のシェル材を添加してマイクロカプセル型硬化促進剤のコア粒子上に析出させる方法。
【0050】
(c)分散媒に上記のシェル材を添加し、マイクロカプセル型硬化促進剤のコア粒子の表面を反応の場として、そこでシェルを形成する方法。
【0051】
上記(a)~(c)の製法で使用される分散媒としては、溶媒、樹脂類等が挙げられる。
溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸-n-ブチル、プロピレングリコールモノメチルエチルエーテルアセテート、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、ブチルカルビトール、水等が挙げられる。
樹脂類としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、マレイミド樹脂、シアネートエステル樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。
これらの中で、分散性が良好な分散媒として、トルエン等の芳香族炭化水素類及びn―ブタノール等のアルコール類が好ましい。
【0052】
このような方法で得られるマイクロカプセル型硬化促進剤は、平均粒径0.1~10μm、特に、平均粒径1~5μmのものが望ましい。平均粒径が小さすぎると、比表面積が大きくなり、混合した時にエポキシ樹脂組成物の粘度が高くなるおそれがある。また平均粒径が10μmを超えると、エポキシ樹脂組成物中での分散が不均一になり信頼性の低下を引き起こすおそれがある。なお、平均粒径は、レーザー回折法で測定して求めた体積平均粒径である。
【0053】
(D)成分の配合量は、上述の(A)エポキシ樹脂100質量部に対して、1.0~200質量部であり、特に5~150質量部であることがより好ましい。(D)成分の配合量が、1.0~200質量部であれば、組成物の硬化物の耐熱性及び耐湿性のバランスが悪くなったり、成形時の硬化速度が非常に遅く又は速くなったりするおそれがない。
【0054】
(E)反応抑制剤
(E)反応抑制剤は、貯蔵安定性を向上させる目的で添加され、特に制限されることなく公知のものを全て使用することができる。該反応抑制剤としては、例えば、ホウ酸エステル化合物、アルミニウムキレート化合物、亜リン酸エステル化合物、有機酸等が挙げられる。中でも、ホウ酸エステル化合物及び亜リン酸エステル化合物が好ましい。
【0055】
ホウ酸エステル化合物としては例えば、トリメチルボレート、トリエチルボレート、トリ-n-プロピルボレート、トリイソプロピルボレート、トリ-n-ブチルボレート、トリペンチルボレート、トリアリルボレート、トリヘキシルボレート、トリシクロヘキシルボレート、トリオクチルボレート、トリノニルボレート、トリデシルボレート、トリドデシルボレート、トリヘキサデシルボレート、トリオクタデシルボレート、トリス(2-エチルヘキシロキシ)ボラン、ビス(1,4,7,10-テトラオキサウンデシル)(1,4,7,10,13-ペンタオキサテトラデシル)(1,4,7-トリオキサウンデシル)ボラン、トリベンジルボレート、トリフェニルボレート、トリ-o-トリルボレート、トリ-m-トリルボレート、トリエタノールアミンボレート等が挙げられる。これらの中で、トリイソプロピルボレートが好ましい。
【0056】
アルミニウムキレート化合物としては、例えば、トリエチルアルミネート、トリプロピルアルミネート、トリイソプロピルアルミネート、トリブチルアルミネート、トリオクチルアルミネート等が挙げられる。
【0057】
亜リン酸エステル化合物としては、例えば、亜リン酸、亜リン酸モノメチル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸モノエチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸モノブチル、亜リン酸ジブチル、亜リン酸モノラウリル、亜リン酸ジラウリル、亜リン酸モノオレイル、亜リン酸ジオレイル、亜リン酸モノフェニル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸モノナフチル、亜リン酸ジナフチル、亜リン酸ジ-o-トリル、亜リン酸ジ-m-トリル、亜リン酸ジ-p-トリル、亜リン酸ジ-p-クロロフェニル、亜リン酸ジ-p-ブロモフェニル、亜リン酸ジ-p-フルオロフェニル等が挙げられる。これらの中で、亜リン酸が好ましい。これらの反応抑制剤は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0058】
(E)成分の配合量は、上述の(A)エポキシ樹脂100質量部に対して、0.05~10質量部であり、より好ましくは0.05~5であり、更に好ましくは0.1~3質量部である。(E)成分の配合量が、0.05~10質量部であれば、反応抑制効果が十分に得られ、更に硬化不良によるTgの低下や曲げ強度の低下が起こるおそれがない。
【0059】
その他の添加剤
本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記(A)~(E)成分の所定量を配合することによって得られるが、その他の添加剤を必要に応じて本発明の目的、効果を損なわない範囲で添加することができる。かかる添加剤としては、無機充填材、難燃剤、イオントラップ剤、酸化防止剤、接着付与剤、低応力剤、着色剤、及びカップリング剤等が挙げられる。
【0060】
無機充填材は、エポキシ樹脂組成物の熱膨張率低下及び耐湿信頼性向上の目的で添加される。無機充填材は球状であるのが好ましい。本明細書において「球状」とは、アスペクト比が2.0以下、好ましくは1.5以下であるような形状の粒子を指す。無機充填材が球状粒子であることにより、エポキシ樹脂組成物の粘度をより低下させることができ、25℃で液状のエポキシ樹脂を好適に与えることができる。
【0061】
無機充填材としては、例えば、溶融シリカ、結晶性シリカ、クリストバライト等のシリカ類、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム等の金属酸化物類、窒化珪素、窒化アルミニウム、ボロンナイトライド等の窒化物類などが挙げられる。中でも、材料の入手容易性や品質の安定性等を勘案するとシリカ類が好ましく用いられる。これら無機充填材の平均粒径は、好ましくは0.01~50μm、更に好ましくは0.05~30μmであり、用途に応じて選択することができる。平均粒径は、例えばレーザー回折法で測定される体積平均粒径であればよい。また、無機充填材の種類は、1種単独でも2種以上を併用することもできる。
【0062】
上記無機充填材は、樹脂成分と無機充填材との結合強度を強くするために、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等のカップリング剤で予め表面処理されることが好ましい。このようなカップリング剤としては、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、イミダゾールとγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランの反応物、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-(チイラニルメトキシ)プロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン等のシランカップリング剤が挙げられる。なお、表面処理に用いるカップリング剤の配合量及び表面処理方法については特に制限されるものではない。なお、該カップリング剤は、(F)成分として別途、本発明の組成物に添加してもよい。
【0063】
本発明の組成物における無機充填材の含有量は、上記(A)~(E)合計100質量部に対して好ましくは20~1,200質量部、より好ましくは50~1,000質量部、さらに好ましくは100~800質量部である。
【0064】
前記難燃剤は、難燃性を付与する目的で添加され、特に制限されることなく公知のものを全て使用することができる。該難燃剤としては、例えば、ホスファゼン化合物、シリコーン化合物、モリブデン酸亜鉛担持タルク、モリブデン酸亜鉛担持酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化モリブデン等が挙げられる。
【0065】
前記イオントラップ剤は、樹脂組成物中に含まれるイオン不純物を捕捉し、熱劣化や吸湿劣化を防ぐ目的で添加され、特に制限されることなく公知のものを全て使用することができる。イオントラップ剤としては、例えば、ハイドロタルサイト類、水酸化ビスマス化合物、希土類酸化物等が挙げられる。
【0066】
上記その他の成分の配合量は本発明のエポキシ樹脂組成物の用途により相違するが、通常は、合計で組成物全体の5質量%以下の量であればよい。
【0067】
エポキシ樹脂組成物の製造方法
本発明のエポキシ樹脂組成物の製造方法は特に制限されるものでない。
例えば、(A)シリコーン変性されていないエポキシ樹脂と(B)チオール化合物と(C)シリコーン変性エポキシ樹脂と(D)マイクロカプセル型硬化促進剤と(E)反応抑制剤とを、同時に又は別々に必要に応じて加熱処理を行いながら混合、撹拌、溶解及び/又は分散させることにより組成物を得ればよい。また、用途によって、(A)~(E)成分の混合物に、無機充填材、難燃剤、イオントラップ剤及びカップリング剤などのその他の添加剤のうち少なくとも1種を添加して混合し、本発明のエポキシ樹脂組成物を得ることができる。
【0068】
本発明のエポキシ樹脂組成物は好ましくは25℃で液状である。組成物の粘度は、25℃にて1~650Pa・sが好ましく、より好ましくは5~500Pa・sである。粘度は、JIS Z 8803:2011に準じ、E型粘度計を用いて測定される。
【0069】
組成物の製造方法、並びに、混合、撹拌及び分散を行う装置については、特に限定されない。例えば、撹拌及び加熱装置を備えたライカイ機、2本ロールミル、3本ロールミル、ボールミル、プラネタリーミキサー、又はマスコロイダー等を用いることができ、これらの装置を適宜組み合わせて使用してもよい。エポキシ樹脂組成物の硬化条件は特に制限されないが、例えば、60~200℃、好ましくは80~180℃の範囲にある温度で、30分~10時間、好ましくは1~5時間加熱すればよい。本発明のエポキシ樹脂組成物は低温かつ短時間での硬化が可能である。そのため、70℃~130℃の範囲にある温度で、10分間~2時間程度でも良好に硬化することができる。
【実施例
【0070】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0071】
実施例及び比較例にて用いた各成分は以下の通りである。
(A)シリコーン変性されていないエポキシ樹脂
(A1)エポキシ樹脂:ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂の混合品(ZX1059、25℃での粘度1,900~2,600mPa・s:新日鉄住金化学社製)
(A2)エポキシ樹脂:ナフタレン型エポキシ樹脂(HP4032D、25℃での粘度25Pa・s:DIC社製)
【0072】
(B)チオール化合物
(B1)チオール化合物:1,3,4,6-テトラキス(2-メルカプトエチル)グリコールウリル(TS-G、四国化成工業社製)
(B2)チオール化合物:1,3,4,6-テトラキス(3-メルカプトプロピル)グリコールウリル(C3TS-G、四国化成工業社製)
(B3)チオール化合物:ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)(カレンズMT PE1、昭和電工社製)
(B4)チオール化合物:1,3,5-トリス(3-メルカプトブチリルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン(カレンズMT NR1、昭和電工社製)
(B5)比較用チオール化合物:テトラエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)(EGMP-4、SC有機化学社製)
【0073】
(C)シリコーン変性エポキシ樹脂
リフラックスコンデンサー、温度計、撹拌機及び滴下ロートを具備した内容積1リットルの四つ口フラスコへ、下記式(6)
【化6】
で表されるアリルグリシジルエーテルで変性されたフェノールノボラック樹脂(フェノール当量125、アリル当量1,100)200g、クロロメチルオキシラン800g、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド0.6gをそれぞれ入れて加熱し、温度110℃で3時間撹拌混合した。これを冷却して温度70℃とし、160mmHgに減圧してから、この中に水酸化ナトリウムの50%水溶液128gを共沸脱水しながら3時間かけて滴下した。得られた内容物を減圧して溶剤を留去し、次いでメチルイソブチルケトン300gとアセトン300gの混合溶剤にて溶解させた後、水洗し、これを減圧下で溶剤留去して下記式(7)
【化7】
で表されるアリル基含有のエポキシ樹脂(アリル当量1590、エポキシ当量190)を得た。このエポキシ樹脂とメチルイソブチルケトン170g、トルエン330g、2質量%の白金濃度の2-エチルヘキサノール変性塩化白金酸溶液0.07gを入れ、1時間の共沸脱水を行ない、還流温度にて下記式(8)
【化8】
で表されるオルガノポリシロキサン133g(重量平均分子量8000)を滴下時間30分にて滴下した。更に、同一温度で4時間撹拌して反応させた後、得られた内容物を水洗し、溶剤を減圧下で留去したところ黄白色不透明固体の共重合体が得られた。エポキシ当量は280であり、ASTM D4287に従い、コーン/プレート粘度計を用いて測定した150℃でのICI溶融粘度は800mPa・sであり、ケイ素含有量31質量%であった。
【0074】
(D)マイクロカプセル型硬化促進剤
(D1)第3級アミン系マイクロカプセル型硬化促進剤(HX5945HP、平均粒径2μm、旭化成社製)
(D2)イミダゾール系マイクロカプセル型硬化促進剤(HX9322HP、平均粒径2μm、旭化成社製)
(D3)イミダゾール系マイクロカプセル型硬化促進剤(HX3941HP、平均粒径5μm、旭化成社製)

比較例用硬化促進剤(非マイクロカプセル型硬化促進剤)
(D4)2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール(2P4MHZ-PW、四国化成社製)
(D5)アミン-エポキシアダクト系潜在性硬化触媒(商品名:フジキュアーFXR-1081、株式会社T&K TOKA社製)
【0075】
(E)反応抑制剤
(E1)トリイソプロピルボレート(東京化成工業社製)
(E2)亜リン酸(東京化成工業社製)
【0076】
(F)その他の添加剤
(F1)シランカップリング剤:γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-403、信越化学工業社製)
【0077】
上記各成分を表1及び表2に記載の配合量(質量部)にて混合して、エポキシ樹脂組成物を得た。各組成物、及び、各組成物を硬化して成る硬化物について、以下に示す方法により、粘度、保存安定性、接着力、ガラス転移温度(Tg)、耐熱性、耐湿性、耐落下試験の評価試験を行った。結果を表1及び表2に示す。なお、表1及び表2に記載の「モル当量比」とは、(A)成分及び(C)成分中のエポキシ当量に対する(B)成分中のチオール当量(活性水素当量)の比であり、モル当量を意味する。
【0078】
(1)粘度の測定
実施例1~17及び比較例1~7で得られたエポキシ樹脂組成物はいずれも25℃で液状であった。JIS Z 8803:2011に準じ、25℃の測定温度で、E型粘度計を用いて、試料をセットして2分後の粘度を測定した(初期粘度)。
【0079】
(2)保存安定性の確認
各エポキシ樹脂組成物を25℃で24時間保持した後の粘度を、上記と同様に測定した。上記初期粘度に対する24時間後の粘度の変化率(%)を求め、保存安定性を評価した。
【0080】
(3)低温硬化後の接着力
実施例及び比較例の各エポキシ樹脂組成物を型に流し込み、上面の直径2mm、下面の直径5mm、高さ3mmの円錐台形状の試験片を得た。該試験片をアルミニウム板上に載せ、該試験片を80℃で10分間硬化させた。硬化後、得られた試験片を室温の状態まで冷却して剪断接着力を測定した。
【0081】
(4)高温硬化後の接着力
実施例及び比較例の各エポキシ樹脂組成物を型に流し込み、上面の直径2mm、下面の直径5mm、高さ3mmの円錐台形状の試験片を得た。該試験片をアルミニウム板上に載せ、該試験片を180℃で10秒間硬化させた。硬化後、得られた試験片を室温の状態まで冷却して剪断接着力を測定した。
【0082】
硬化物サンプルの作製
実施例及び比較例の各エポキシ樹脂組成物を80℃で1時間、さらに120℃で1時間で加熱硬化して成型し硬化物を得た。
【0083】
(5)ガラス転移温度(Tg)の測定
上記で得た硬化物を、5×5×15mmの試験片にそれぞれを加工した後、それらの試験片を熱膨張計TMA8140C(株式会社リガク社製)にセットした。そして、昇温プログラムを昇温速度5℃/分に設定し、19.6mNの一定荷重が加わるように設定した後、25℃から300℃までの間で試験片の寸法変化を測定した。この寸法変化と温度との関係をグラフにプロットした(グラフの一例を図1に示す)。このようにして得られた寸法変化と温度とのグラフから、下記に説明するガラス転移温度の決定方法により、実施例及び比較例におけるガラス転移温度を求めた。
【0084】
ガラス転移温度(Tg)の決定方法
図1に示すように、変曲点の温度以下で寸法変化-温度曲線の接線が得られる任意の温度2点をT1及びT2とし、変曲点の温度以上で同様の接線が得られる任意の温度2点をT1’及びT2’とした。T1及びT2における寸法変化をそれぞれD1及びD2として、点(T1、D1)と点(T2、D2)とを結ぶ直線と、T1’及びT2’における寸法変化をそれぞれD1’及びD2’として、点(T1’、D1’)と点(T2’、D2’)とを結ぶ直線との交点をガラス転移温度(Tg)とした。
【0085】
(6)耐熱性(150℃保管後の接着力保持率)
実施例及び比較例の各エポキシ樹脂組成物を型に流し込み、上面の直径2mm、下面の直径5mm、高さ3mmの円錐台形状の試験片を得た。該試験片をアルミニウム板上に載せ、該試験片を80℃で1時間、さらに120℃で1時間加熱して硬化させた。硬化後、得られた試験片を室温の状態まで冷却して剪断接着力を測定し、その測定結果を初期値とした。得られた試験片を150℃のオーブンにて150時間保管後、室温の状態まで冷却して剪断接着力を測定した。150℃保管後の接着力保持率は、より詳細には下記式で算出した。
【数1】
【0086】
(7)耐湿性(PCT保管後の接着力保持率)
実施例及び比較例の各エポキシ樹脂組成物を型に流し込み、上面の直径2mm、下面の直径5mm、高さ3mmの円錐台形状の試験片を得た。該試験片をアルミニウム板上に載せ、該試験片を80℃で1時間、さらに120℃で1時間加熱して硬化させた。硬化後、得られた試験片を室温の状態まで冷却して剪断接着力を測定し、その測定結果を初期値とした。得られた試験片をPCT(121℃/湿度100%/2atm)にて96時間保管後、室温の状態まで冷却して剪断接着力を測定した。PCT保管後の接着力保持率は、より詳細には下記式で算出した。
【数2】
【0087】
(8)耐落下試験
実施例及び比較例の各エポキシ樹脂組成物を銅基板上に塗布し、塗布面に10mm×10mm×厚さ10mmの銅のブロックを載せ、該試験片を80℃で1時間、さらに120℃で1時間加熱して硬化させた。硬化後、得られた試験片を室温の状態まで冷却した。得られた試験片を100cmの高さから落下させた。落下を10回繰り返し行い、銅のブロックが銅基板から剥離するまでの落下回数を記載した。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
図1