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特許7599909メタクリル系共重合体、組成物、成形体、フィルム又はシートの製造方法および積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】メタクリル系共重合体、組成物、成形体、フィルム又はシートの製造方法および積層体
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/32 20060101AFI20241209BHJP
   C08F 220/14 20060101ALI20241209BHJP
   C08F 212/06 20060101ALI20241209BHJP
   C08L 33/12 20060101ALI20241209BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20241209BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20241209BHJP
   C08F 222/06 20060101ALN20241209BHJP
【FI】
C08F8/32
C08F220/14
C08F212/06
C08L33/12
C08J5/18 CEY
B32B27/30 A
C08F222/06
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020181775
(22)【出願日】2020-10-29
(65)【公開番号】P2022072382
(43)【公開日】2022-05-17
【審査請求日】2023-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅田 康成
(72)【発明者】
【氏名】松橋 広大
(72)【発明者】
【氏名】戒能 誠史
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-072065(JP,A)
【文献】特開2009-003445(JP,A)
【文献】特開2013-231188(JP,A)
【文献】国際公開第2015/079693(WO,A1)
【文献】特開平01-308413(JP,A)
【文献】特開昭61-152758(JP,A)
【文献】特開昭61-155443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
C08J
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸メチル単位27~85質量%と、α-メチルスチレン単位7~30質量%と、無水マレイン酸単位0質量%と、下記式(2)及び(3)からなる群より選ばれる少なくともひとつの環構造を主鎖に有する構造単位(R)5~65質量%とを含有し、光弾性係数の絶対値が3.0×10-12Pa-1以下であり、かつ20mm×40mm×厚さ1.0mmのシートをガラス転移温度より10℃高い温度にて3mm/分の速度で一方向に100%延伸して得られる延伸フィルムの配向複屈折の絶対値が2.5×10-4以下である、メタクリル系共重合体。
【化1】
(式(2)中、R21とR22はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基であり、R23は水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数3~12のシクロアルキル基、または芳香環を含む炭素数6~15の有機基である。)
【化2】
(式(3)中、R31とR32はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~12のアルキル基、または炭素数6~14のアリール基であり、R33は、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数3~12のシクロアルキル基、または芳香環を含む炭素数6~15の有機基である。)
【請求項2】
ガラス転移温度が120℃以上である、請求項1に記載のメタクリル系共重合体。
【請求項3】
共重合可能なその他のビニル系単量体単位を0~30質量%含有する、請求項1又は2に記載のメタクリル系共重合体。
【請求項4】
共重合可能なその他のビニル系単量体単位が、アクリル酸アルキルエステル単位、α-メチルスチレンを除く芳香族ビニル単位、シアン化ビニル単位からなる群から選ばれる少なくともひとつの構造単位である、請求項3に記載のメタクリル系共重合体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかひとつに記載のメタクリル系共重合体を含む樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかひとつに記載のメタクリル系共重合体または請求項5に記載の組成物を含む成形体。
【請求項7】
前記成形体がフィルム又はシートである、請求項6に記載の成形体。
【請求項8】
請求項1~4のいずれかひとつに記載のメタクリル系共重合体または請求項5に記載の組成物を溶融成形法によりフィルム又はシートに成形する工程を含む、フィルム又はシートの製造方法。
【請求項9】
請求項1~4のいずれかひとつに記載のメタクリル系共重合体または請求項5に記載の組成物を溶液キャスト法によりフィルム又はシートに成形する工程を含む、フィルム又はシートの製造方法。
【請求項10】
請求項1~4のいずれかひとつに記載のメタクリル系共重合体または請求項5に記載の組成物を含むフィルム又はシートからなる層を少なくとも1層有する、積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクリル系共重合体、組成物、成形体、フィルム又はシートの製造方法、および積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル樹脂は、透明性に優れ光学歪も少ないことからレンズ、プリズム、位相差フィルム、導光板、光拡散フィルム、偏光板保護フィルムなどの光学部材を構成する材料として広く用いられている。これらの用途では、成形品の複屈折がデバイスの性能に影響を与える。たとえば、液晶表示装置や光ディスク装置、プロジェクションスクリーン等のデバイスにおいては、複屈折性を持つフィルム、レンズ等が光路中に存在すると、像質や信号読み取り性能に悪影響を及ぼす。そのため近年では、複屈折性をできるだけ小さく抑えた材料が求められている。
【0003】
樹脂が示す複屈折には、ポリマー分子の配向に起因する配向複屈折と、応力に起因する光弾性複屈折があり、これらはポリマーの一次構造に由来するポリマー固有の性質である。
【0004】
一般的なポリマーの繰り返し単位では、主鎖方向と側鎖方向の分極率が異なり、分極率の異方性を有している。ポリマーに歪みが印加されていない状態では、繰り返し単位がランダムに配向しているため、繰り返し単位の異方性は互いに打ち消しあい、巨視的な屈折率は等方的となる。しかし、一般的なポリマーを成形するプロセス、例えば、ポリマーフィルム製造時の押出成形や延伸のプロセス、または、各種光学部材の製造時に多用されている射出成形プロセスなど、材料の流動を伴うプロセスでは、ポリマー主鎖の配向が生じ、光学部材に配向が固定されて残留する。主鎖が配向した状態では、巨視的な等方性が崩れ、ポリマーの繰り返し単位由来の分極率異方性が主鎖の配向の程度に応じて光学部材に発現することとなる。このような、ポリマー主鎖の配向によって生じる複屈折を配向複屈折と呼ぶ。ここで、主鎖の配向方向に対して平行方向に屈折率が大きくなる場合は、正の配向複屈折、直交方向に屈折率が大きくなる場合は、負の配向複屈折と表現する。
【0005】
また、ポリマーが弾性変形することで複屈折が発現することも知られており、光弾性複屈折と呼ばれる。例えば、ポリマーを含む光学部材が機器に固定されている状態で外力を受け、弾性変形している場合、光弾性係数に応じた光弾性複屈折を発現する。また、光学部材の成形時に、ポリマーのガラス転移温度以上の成形温度から冷却する際の体積収縮により、材料中に残留する歪みも、光弾性複屈折を発現する原因となりうる。
【0006】
配向複屈折と光弾性複屈折を同時に小さくし、ポリマーの複屈折性を抑制する試みは種々なされている。
【0007】
低複屈折性の材料を得る方法として、ホモポリマーとしての固有複屈折及び光弾性係数の各々の符号が異なるモノマーを複数組み合わせて、固有複屈折及び光弾性係数が相殺されるように組成を調整して共重合することにより、共重合体としての配向複屈折と光弾性複屈折を低減する技術が知られている。例えば特許文献1には、メタクリル酸メチル単位、メタクリル酸2,2,2-トリフルオロエチル単位、メタクリル酸ベンジル単位を含む共重合体は、配向複屈折と光弾性複屈折を同時に小さくできることが開示されている。しかし、樹脂のガラス転移温度が低いために耐熱性に劣り、高温条件下での使用が想定される電子機器や車載用途への適用が制限される課題があった。
【0008】
そのため、耐熱性を具備しつつ複屈折性を低減した樹脂として、特許文献2にはグルタルイミド単位を含む(メタ)アクリル系樹脂が提案されている。しかしこの樹脂は、配向複屈折は低いものの光弾性複屈折を十分に低減できていないため、成形品の残留歪みや光学部材をデバイスに装着した場合に印加される応力によって複屈折が発現するという課題があった。
【0009】
これらの要請を受け、耐熱性を具備しつつ、配向複屈折と光弾性複屈折の両方を低減した樹脂として、メタクリレート単量体単位、ビニル芳香族単量体単位、芳香族基を有するメタクリレート単量体単位、環状酸無水物繰り返し単位を含有するアクリル系熱可塑性樹脂(特許文献3)、N-置換若しくは無置換グルタルイミド単位、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、ビニル芳香族単量体単位を含有するイミド樹脂(特許文献4)が開示されている。しかし、特許文献3および4の樹脂では、筆者らの検討によれば、表面硬度が不十分であり、光学部材としての応用には未だ課題が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2006-308682号公報
【文献】特開2006-328330号公報
【文献】WO2009/084541 A1
【文献】WO2005/054311 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、耐熱性に優れるとともに、配向複屈折と光弾性複屈折がともに小さく、表面硬度が高いメタクリル系共重合体、および前記共重合体を含む組成物、成形体、フィルム又はシートの製造方法、積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、以下の形態を包含する本発明を完成するに至った。
〔1〕
メタクリル酸メチル単位と、α―メチルスチレン単位と、無水マレイン酸単位と、下記式(1)~(3)からなる群より選ばれる少なくともひとつの環構造を主鎖に有する構造単位(R)とを含有し、光弾性係数の絶対値が3.0×10-12Pa-1以下であり、かつ20mm×40mm×厚さ1.0mmのシートをガラス転移温度より10℃高い温度にて3mm/分の速度で一方向に100%延伸して得られる延伸フィルムの配向複屈折の絶対値が2.5×10-4以下である、メタクリル系共重合体。
【0013】
【化1】
【0014】
(式(1)中、R11とR12はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1~5のアルキル基である。)
【0015】
【化2】
【0016】
(式(2)中、R21とR22はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基であり、R23は水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数3~12のシクロアルキル基、または芳香環を含む炭素数6~15の有機基である。)
【0017】
【化3】
【0018】
(式(3)中、R31とR32はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~12のアルキル基、または炭素数6~14のアリール基であり、R33は、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数3~12のシクロアルキル基、または芳香環を含む炭素数6~15の有機基である。)
〔2〕
構造単位(R)が、式(2)で表されるN-置換若しくは無置換グルタルイミド単位、または式(3)で表されるN-置換若しくは無置換マレイミド単位からなる群より選ばれる少なくともひとつの構造単位である、〔1〕に記載のメタクリル系共重合体。
〔3〕
ガラス転移温度が120℃以上である、〔1〕または〔2〕記載のメタクリル系共重合体。
〔4〕
メタクリル酸メチル単位を22~87質量%、α-メチルスチレン単位を7~30質量%、無水マレイン酸単位を1~30質量%、構造単位(R)を3~70質量%含有する、〔1〕~〔3〕のいずれかひとつに記載のメタクリル系共重合体。
〔5〕
〔1〕~〔4〕のいずれかひとつに記載のメタクリル系共重合体を含む樹脂組成物。
〔6〕
〔1〕~〔4〕のいずれかひとつに記載のメタクリル系共重合体または〔5〕に記載の組成物を含む成形体。
〔7〕
前記成形体がフィルム又はシートである、〔6〕に記載の成形体。
〔8〕
〔1〕~〔4〕のいずれかひとつに記載のメタクリル系共重合体または〔5〕に記載の組成物を溶融成形法によりフィルム又はシートに成形する工程を含む、フィルム又はシートの製造方法。
〔9〕
〔1〕~〔4〕のいずれかひとつに記載のメタクリル系共重合体または〔5〕に記載の組成物を溶液キャスト法によりフィルム又はシートに成形する工程を含む、フィルム又はシートの製造方法。
〔10〕
〔1〕~〔4〕のいずれかひとつに記載のメタクリル系共重合体または〔5〕に記載の組成物を含むフィルム又はシートからなる層を少なくとも1層有する、積層体。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、耐熱性に優れるとともに、配向複屈折と光弾性複屈折がともに小さく、表面硬度が高いメタクリル系共重合体、および前記共重合体を含む組成物、成形体、フィルム又はシートの製造方法、積層体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(メタクリル系共重合体)
本発明のメタクリル系共重合体は、メタクリル酸メチル単位と、α-メチルスチレン単位と、無水マレイン酸単位と、構造単位(R)とを含有する。
【0021】
本発明のメタクリル系共重合体は、メタクリル酸メチル単位の割合が、全構造単位に対して、好ましくは22~87質量%、より好ましくは27~85質量%、さらに好ましくは32~80質量%である。メタクリル酸メチル単位の割合がこの範囲よりも少ないと、得られるメタクリル系共重合体の全光線透過率が悪化し、メタクリル酸メチル単位の割合がこの範囲よりも多いと、得られるメタクリル系共重合体の耐熱性は低くなる。
【0022】
本発明のメタクリル系共重合体は、α-メチルスチレン単位の割合が、全構造単位に対して、好ましくは7~30質量%、より好ましくは8~27質量%、さらに好ましくは11~25質量%である。α-メチルスチレン単位の割合がこの範囲よりも少ないと、得られるメタクリル系共重合体の表面硬度が低くなる。また、α-メチルスチレン単位の割合がこの範囲よりも多いと、得られるメタクリル系共重合体の重合性が低く、生産性が低下する。
【0024】
構造単位(R)は、無水グルタル酸単位、N-置換若しくは無置換グルタルイミド単位、N-置換若しくは無置換マレイミド単位からなる群より選ばれる少なくともひとつの環構造を主鎖に有する構造単位である。
【0025】
無水グルタル酸単位は、2,6-ジオキソジヒドロピランジイル構造を有する単位である。2,6-ジオキソジヒドロピランジイル構造を有する単位としては、式(1)で表される構造単位を挙げることができる。
【0026】
【化4】
【0027】
式(1)中、R11とR12はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1~5のアルキル基であり、メチル基であるのが好ましい。
【0028】
2,6-ジオキソジヒドロピランジイル構造を有する単位は、特開2007-197703号公報、特開2010-96919号公報などに記載の方法、例えば、隣り合う二つの(メタ)アクリル酸に由来する構造単位の分子内環化、(メタ)アクリル酸に由来する構造単位と(メタ)アクリル酸メチルに由来する構造単位との分子内環化などによって、メタクリル系共重合体に含有させることができる。
【0029】
N-置換若しくは無置換グルタルイミド単位は、N-置換若しくは無置換2,6-ジオキソピペリジンジイル構造を有する単位である。
【0030】
N-置換若しくは無置換2,6-ジオキソピペリジンジイル構造を有する単位としては、式(2)で表される構造単位を挙げることができる。
【0031】
【化5】
【0032】
式(2)中、R21とR22はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基であり、メチル基であるのが好ましい。R23は水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数3~12のシクロアルキル基、または芳香環を含む炭素数6~15の有機基であり、好ましくは水素原子、メチル基、n-ブチル基、シクロヘキシル基またはベンジル基であり、より好ましくはメチル基、n-ブチル基、またはシクロヘキシル基である。
【0033】
式(2)で表される構造単位は、例えばスキーム(i)で示されるように対応する酸無水物(1a)とR23-NHで表されるイミド化剤の反応により生成してもよく、式(4)の部分構造を有する共重合体の分子内環化反応により生成してもよい。分子内環化反応により式(4)で表される構造単位を式(2)で表される構造単位に変換するために加熱することが好ましい。
スキーム(i)
【0034】
【化6】
【0035】
(式中、R21、R22、R23は前記に定義される通りである。)
N-置換若しくは無置換グルタルイミド単位は、WO2005/10838A1、特開2010-254742号公報、特開2008-273140号公報、特開2008-274187号公報などに記載の方法、具体的には、隣り合う二つのメタクリル酸メチルに由来する構造単位または無水グルタル酸単位に、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、n-ブチルアミン、イソブチルアミン、tert-ブチルアミン、n-ヘキシルアミン等の脂肪族炭化水素基含有アミン、アニリン、トルイジン、トリクロロアニリン等の芳香族炭化水素基含有アミン、シクロヘキシルアミン等などの脂環式炭化水素基含有アミン、尿素、1,3-ジメチル尿素、1,3-ジエチル尿素、1,3-ジプロピル尿素などのイミド化剤を反応させることによって得ることができる。これらの中で、メチルアミンが好ましい。
【0036】
N-置換若しくは無置換マレイミド単位は、N-置換若しくは無置換2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロピロール-3,4-ジイル構造を有する単位である。
【0037】
N-置換若しくは無置換2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロピロール-3,4-ジイル構造を有する単位としては、式(3)で表される構造単位を挙げることができる。
【0038】
【化7】
【0039】
式(3)中、R31とR32はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~12のアルキル基、または炭素数6~14のアリール基であり、R33は、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数3~12のシクロアルキル基、または芳香環を含む炭素数6~15の有機基である。
【0040】
N-置換若しくは無置換マレイミド単位を形成する方法は、特に限定されず、対応するN-置換若しくは無置換マレイミド単量体を共重合する方法により形成してもよい。N-置換若しくは無置換マレイミド単量体としては、マレイミド;N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-n-プロピルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-n-ブチルマレイミド、N-イソブチルマレイミド、N-s-ブチルマレイミド、N-t-ブチルマレイミド、N-n-ペンチルマレイミド、N-n-ヘキシルマレイミド、N-n-ヘプチルマレイミド、N-n-オクチルマレイミド、N-ラウリルマレイミド、N-ステアリルマレイミド等のN-アルキルマレイミド;N-シクロペンチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、1-シクロヘキシル-3-メチル-1-フェニル-1H-ピロール-2,5-ジオン、1-シクロヘキシル-3,4-ジメチル-1-フェニル-1H-ピロール-2,5-ジオン、1-シクロヘキシル-3-フェニル-1H-ピロール-2,5-ジオン、1-シクロヘキシル-3,4-ジフェニル-1H-ピロール-2,5-ジオン等のN-シクロアルキルマレイミド;N-フェニルマレイミド、N-(2-クロロフェニル)マレイミド、N-(4-クロロフェニル)マレイミド、N-(4-ブロモフェニル)マレイミド、N-(2-メチルフェニル)マレイミド、N-(2-エチルフェニル)マレイミド、N-(2-メトキシフェニル)マレイミド、N-(2-ニトロフェニル)マレイミド、N-(2、4、6-トリメチルフェニル)マレイミド、N-(4-ベンジルフェニル)マレイミド、N-(2、4、6-トリブロモフェニル)マレイミド、N-ナフチルマレイミド、N-アントラセニルマレイミド、3-メチル-1-フェニル-1H-ピロール-2,5-ジオン、3,4-ジメチル-1-フェニル-1H-ピロール-2,5-ジオン、1,3-ジフェニル-1H-ピロール-2,5-ジオン、1,3,4-トリフェニル-1H-ピロール-2,5-ジオン等のN-アリールマレイミド;N-ベンジルマレイミド等が挙げられる。これらの単量体のうち、メタクリル系共重合体の耐候性の観点から、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-ベンジルマレイミドが好ましく、N-メチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミドが特に好ましい。
【0041】
N-置換若しくは無置換マレイミド単位は、特開2006-124592号公報に記載の方法、具体的には、無水マレイン酸単位にイミド化剤を反応させることによっても得ることができる。イミド化剤としては、例えば、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、n-ブチルアミン、イソブチルアミン、tert-ブチルアミン、n-ヘキシルアミン等の脂肪族炭化水素基含有アミン、アニリン、トルイジン、トリクロロアニリン、ベンジルアミン等の芳香族炭化水素基含有アミン、シクロヘキシルアミン等の脂環式炭化水素基含有アミン、尿素、1,3-ジメチル尿素、1,3-ジエチル尿素、1,3-ジプロピル尿素などが挙げられ、これらイミド化剤のうち、メチルアミンが好ましい。
【0042】
本発明のメタクリル系共重合体は、構造単位(R)の割合が、全構造単位に対して、好ましくは3~70質量%、より好ましくは5~65質量%、さらに好ましくは8~60質量%である。構造単位(R)の割合が全構造単位に対して上記の範囲内であれば、耐熱性が高く、樹脂の複屈折を好適に制御しつつ、成形加工性に優れたメタクリル系共重合体が得られるので、好ましい。
【0043】
本発明のメタクリル系共重合体は、メタクリル酸メチル単位、α-メチルスチレン単位、無水マレイン酸単位、構造単位(R)の他に、共重合可能なその他のビニル系単量体単位を任意に含んでもよい。共重合可能なその他のビニル系単量体としては、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどのメタクリル酸メチル以外のメタクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸フェニルなどのメタクリル酸アリールエステル;メタクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸ノルボルネニルなどのメタクリル酸シクロアルキルエステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチルなどのアクリル酸アルキルエステル;アクリル酸フェニルなどのアクリル酸アリールエステル;アクリル酸シクロへキシル、アクリル酸ノルボルネニルなどのアクリル酸シクロアルキルエステル;スチレンなどα-メチルスチレン以外の芳香族ビニル単量体;アクリルアミド;メタクリルアミド;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル単量体;などの一分子中に重合性アルケニル基を一つだけ有するビニル単量体が挙げられる。これら単量体のうち、メタクリル共重合体の複屈折を高度に制御する観点から、アクリル酸アルキルエステル、α-メチルスチレン以外の芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体が好ましく、アクリル酸メチル、スチレン、アクリロニトリルがより好ましく、スチレンがさらに好ましい。
【0044】
本発明のメタクリル系共重合体は、共重合可能なその他のビニル系単量体単位の割合が、全構造単位に対して、好ましくは30質量%以下である。
【0045】
本発明のメタクリル系共重合体は、重量平均分子量(Mw)が、好ましくは40000~200000、より好ましくは50000~180000、さらに好ましくは55000~160000である。Mwが40000以上であると、本発明の成形体の強度および靭性等が向上する。Mwが200000以下であると、本発明のメタクリル系共重合体の流動性が向上し、成形加工性が向上する。
【0046】
重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定されるクロマトグラムを標準ポリスチレンの分子量に換算して算出される値である。
【0047】
本発明のメタクリル系共重合体は、酸価が、好ましくは0.01~0.30mmol/g、より好ましくは0.05~0.28mmol/gである。酸価は、メタクリル系共重合体中のカルボン酸単位、カルボン酸無水物単位の含有量に比例する値である。酸価は、例えば、特開2005-23272号公報に記載の方法によって算出することができる。酸価が上記範囲内にあると、耐熱性、機械物性、成形加工性のバランスに優れる。
【0048】
本発明のメタクリル系共重合体は、ガラス転移温度が、下限として、好ましくは120℃、より好ましくは121℃、さらに好ましくは122℃であり、上限として、特に制限されないが、好ましくは200℃である。メタクリル系共重合体のガラス転移温度が高くなるほど、メタクリル系共重合体を含む成形体は熱による変形や収縮を起こしにくく、すなわち耐熱性が高い。
【0049】
本明細書において、「ガラス転移温度(Tg)」は、JIS K7121に準拠して測定する。具体的には、230℃まで一度昇温し、次いで室温まで冷却し、その後、室温から230℃までを10℃/分で昇温させる条件にてDSC曲線を測定する。2回目の昇温時に測定されるDSC曲線から求められる中間点を「ガラス転移温度(Tg)」として求める。
【0050】
本発明のメタクリル系共重合体は、後述する方法により測定した光弾性係数の絶対値が、3.0×10-12Pa-1以下であることが好ましい。より好ましくは、2.5×10-12Pa-1以下、さらに好ましくは、2.0×10-12Pa-1以下である。
【0051】
光弾性係数は、メタクリル系共重合体からなる幅15mm×長さ60mm×厚さ1.0mmのプレス成形シートに、チャック間距離45mm、温度23℃にて、張力を0Nから10Nずつ増して100Nまで付与し、張力増加の都度に、シートの中央部分を、温度23℃、NaのD線波長にて、複屈折を測定し、測定された応力と複屈折との関係を最小二乗法で一次関数に近似したときに算出される傾きである。なお、応力は、張力をシート断面積で除した値である。シート断面積はシート幅15mmとシートの中央部分の測定点における厚さとの積として算出した。複屈折は、引張方向に平行な偏光面を持つ光の屈折率npと引張方向に垂直な偏光面を持つ光の屈折率noとの差(Δn=np-no)として定義される。
【0052】
本発明のメタクリル系共重合体は、後述する方法により測定した配向複屈折の絶対値が、2.5×10-4以下であることが好ましい。より好ましくは、2.3×10-4以下、さらに好ましくは、2.2×10-4以下、よりさらに好ましくは、2.0×10-4以下である。
【0053】
配向複屈折は、メタクリル系共重合体からなる幅20mm×長さ40mm×厚さ1.0mmのプレス成形シートをガラス転移温度より10℃高い温度にて3mm/分の速度で一方向に100%延伸して得られる延伸フィルムの中央部分を、温度23℃、NaのD線波長にて、張力を掛けずに、計測された複屈折である。
(メタクリル系共重合体の製造方法)
本発明のメタクリル系共重合体は、例えば、メタクリル酸メチル、α-メチルスチレン、無水マレイン酸、及び任意に選択される共重合可能なその他のビニル系単量体の共重合体(以下、前駆体ポリマーということがある)を環構造形成反応させることを含む方法によって得ることができる。
【0054】
すなわち本発明のメタクリル系共重合体の製造方法は、メタクリル酸メチル51~94質量%、α-メチルスチレン5~30質量%、無水マレイン酸1~30質量%、共重合可能なその他のビニル系単量体0~30質量%を含む単量体混合物と、ラジカル重合開始剤と、必要に応じ連鎖移動剤とを含んでなる反応原料を、槽型反応器に連続的に供給する工程、
槽型反応器内で前記単量体混合物を重合転化率30~60質量%まで塊状重合して反応生成物を得る工程、および
反応生成物中の単量体混合物を除去して前駆体ポリマーを得る工程、
得られた前駆体ポリマーに環構造形成反応をさせる工程
を含み、各工程は公知の技術によって実施することができる。
【0055】
前駆体ポリマーは、単量体混合物とラジカル重合開始剤と必要に応じて連鎖移動剤とを含む反応原料から重合して製造されるものであり、単量体混合物はメタクリル酸メチルを単量体混合物の中に51~94質量%、好ましくは55~85質量%含むものである。α-メチルスチレンは、5~30質量%、好ましくは7~25質量%含むものである。無水マレイン酸は、1~30質量%、好ましくは、3~25質量%含むものである。共重合可能なその他のビニル系単量体は0~30質量%、好ましくは、3~25質量%含むものである。
【0056】
単量体混合物は、メタクリル酸メチル、α-メチルスチレン、無水マレイン酸以外の共重合可能なその他のビニル系単量体を含んでいてもよく、具体的には、上記で例示した単量体が挙げられ、好ましい例も同様である。
【0057】
単量体混合物は、b*が-1~2であることが好ましく、-0.5~1.5であることがより好ましい。b*がこの範囲にあると、得られるメタクリル系共重合体組成物を成形した場合に、着色が殆んどない成形品を、高い生産効率で得る上で有利となる。なお、b*は国際照明委員会(CIE)規格(1976年)またはJIS Z-8722に準拠して測定した値である。
【0058】
用いられる重合開始剤は、反応性ラジカルを発生するものであれば特に限定されない。例えば、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシドなどのペルオキシド系開始剤、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)などのアゾ系開始剤が挙げられる。
【0059】
用いられる重合開始剤は、後述する槽型反応器内の重合温度における未開裂の平均開始剤濃度が5.1×10-5~2.4×10-4(mol/L)の範囲であることが望ましい。
【0060】
重合開始剤の使用量は、重合温度に合わせ、上記開始剤濃度となる様に、単量体混合物に添加する。
【0061】
用いられる連鎖移動剤としては、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタンなどの単官能アルキルメルカプタンが好ましい。これら連鎖移動剤は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。連鎖移動剤の使用量は、単量体混合物100質量部に対して、好ましくは0~1質量部、より好ましくは0.01~0.8質量部、さらに好ましくは0.02~0.6質量部である。
【0062】
塊状重合においては溶剤を原則使用しないが、重合反応速度や反応液の粘度を調整するなどの目的において、必要に応じて有機溶剤を反応原料に含めることができる。有機溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、1、4-ジオキサン等のエーテル類などが挙げられるが、単量体や共重合体の溶解度、溶剤回収のし易さの観点から、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエンが好ましい。有機溶剤は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。有機溶剤の使用量の上限は、単量体混合物100質量部に対して、好ましくは30質量部、より好ましくは25質量部、さらに好ましくは20質量部である。有機溶剤の使用量の下限は、通常、0質量部、好ましくは1質量部である。
【0063】
槽型反応器内の温度、すなわち反応槽内にある液の温度は、好ましくは110~140℃、より好ましくは114~135℃である。温度がこの範囲よりも高いと、α-メチルスチレンを含む高分子量体が生成しづらく、耐熱性の低下の原因となる。
【0064】
槽型反応器においては塊状重合を、重合転化率が30~65質量%となるまで、好ましくは35~60質量%となるまで行うことが好ましい。
【0065】
また、槽型反応器における反応原料の平均滞留時間(θ)は、好ましくは1.5~5時間、より好ましくは2~4.5時間、さらに好ましくは2.5~4時間である。平均滞留時間が短すぎると重合開始剤の必要量が増える。また重合開始剤の増量により重合反応の制御が難しくなるとともに、分子量の制御が困難になる傾向がある。一方、平均滞留時間が長すぎると反応が定常状態になるまでに時間を要し、生産性が低下する傾向がある。平均滞留時間は槽型反応器の容量と反応原料の供給量によって調整することができる。
【0066】
塊状重合は窒素ガスなど不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。
【0067】
本発明に関わる好ましい製造方法は、反応生成物中の単量体混合物を除去する工程を有する。除去方法は特に制限されないが、加熱脱揮法が好ましい。単量体混合物を除去した後、メタクリル系共重合体組成物は、成形材料としての扱い易さを容易にするために、公知の方法に従って、ペレットや粉粒にすることができる。得られるメタクリル系樹脂組成物中の単量体混合物の含有量は、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。
【0068】
前駆体ポリマーは、ガラス転移温度が、下限として好ましくは114℃、より好ましくは115℃、さらに好ましくは117℃である。ガラス転移温度は、分子量やα-メチルスチレン共重合量などを調節することによって変えることができる。前駆体ポリマーのガラス転移温度が高いほど耐熱性が向上する。ガラス転移温度の高い前駆体ポリマーを用いて得られるメタクリル系共重合体は、構造単位(R)の量が少なくても高い耐熱性を有するので、飽和吸水率の悪化等を引き起し難い。
【0069】
前駆体ポリマーは、メタクリル酸メチルに由来する構造単位の総含有量が51~92質量%、α-メチルスチレンに由来する構造単位の総含有量が5~30質量%、無水マレイン酸に由来する構造単位の総含有量が1~30質量%のものであれば、特に制限されない。重合性、透明性などの観点から、前駆体ポリマーのメタクリル酸メチルに由来する構造単位の総含有量は、好ましくは51質量%以上92質量%以下、より好ましくは55質量%以上92質量%以下、最も好ましくは60質量%以上92質量%以下である。
【0070】
耐熱性、重合性、吸水率などの観点から、前駆体ポリマーのα-メチルスチレンに由来する構造単位の総含有量は、好ましくは7~30質量%、より好ましくは8~27質量%、さらに好ましくは11~25質量%である。α-メチルスチレンに由来する構造単位がこの範囲よりも少ないと、十分な耐熱性が得られず、この範囲よりも多いと、重合性が著しく低下する。
【0071】
耐熱性、光学物性(特に複屈折性)の制御性の観点から、前駆体ポリマーの無水マレイン酸に由来する構造単位の総含有量は、好ましくは1~30質量%、より好ましくは2~27質量%、さらに好ましくは3~27質量%である。無水マレイン酸に由来する構造単位がこの範囲よりも少ないと、複屈折が高くなり、この範囲よりも多いと、前駆体ポリマーの耐熱性、溶融粘度が不必要に上がり、後述する環構造形成反応における生産性が低下する。
【0072】
前駆体ポリマーは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで得られるクロマトグラムにおいて、ポリスチレン換算の重量平均分子量Mwが、好ましくは40000以上200000以下、より好ましくは40000以上180000以下、さらに好ましくは50000以上160000以下である。重量平均分子量Mwがこの範囲よりも小さいと、得られる成形体が脆くなり、この範囲よりも高いと生産性が悪化する。Mwは、前駆体ポリマーの製造の際に使用する重合開始剤や連鎖移動剤(任意成分)の種類、量、添加時期などを調整することによって制御できる。
【0073】
環構造形成反応は、例えば、押出機を用いて、行うことができる。押出機として例えば単軸押出機、二軸押出機、多軸押出機などが挙げられる。混合性能の点から、二軸押出機が好ましい。二軸押出機には非噛合い型同方向回転式、噛合い型同方向回転式、非噛合い型異方向回転式、噛合い型異方向回転式が含まれる。噛合い型同方向回転式は、高速回転が可能であり、混合を効率的に促進できるので好ましい。これらの押出機は、単独で用いても、直列に繋いで用いてもよい。
【0074】
押出機を用いての環構造形成反応では、例えば、原料である前駆体ポリマーを押出機の原料投入部から投入し、該前駆体ポリマーを溶融させ、シリンダ内に充満させた後、添加ポンプを用いてイミド化剤(任意成分)などを押出機中に注入することにより、押出機中で環構造形成反応を進行させることができる。イミド化剤を用いると、構造単位(R)は、N-置換若しくは無置換グルタルイミド単位、N-置換若しくは無置換マレイミド単位のうち少なくとも一つを含み、必要に応じてラクトン環単位及び/又は無水グルタル酸単位を含んでいてもよい。好ましいイミド化剤はR23-NH(R23は前記に定義される通りである)、または、R33-NH(R33は前記に定義される通りである)で表される。イミド化剤は、メタクリル系共重合体100質量部に対し好ましくは1.6~20質量部使用される。イミド化剤が上記範囲内の使用量であると、メタクリル酸アミド単位の副生を抑制できる。なお、イミド化剤R33-NH(R33は前記に定義される通りである)を使用すると、前駆体ポリマーの無水マレイン酸単位の一部が式(3)で表されるマレイミド単位(R31=R32=H)に変換される。本発明の1つの実施形態において、イミド化剤R23-NH(R23は前記に定義される通りである)を使用して式(2)で表される構造単位(R)を生成させると、同時に式(3)で表されるマレイミド単位(R31=R32=H)が生成し、構造単位(R)は式(2)と式(3)の構造単位を含み、かつ、R23=R33となる。
【0075】
押出機中の反応ゾーンの樹脂温度は180~300℃の範囲にすることが好ましく、200~300℃の範囲にすることがより好ましい。反応ゾーンの樹脂温度が180℃未満だと環構造形成反応の反応効率の低下、メタクリル酸アミド単位の副生、等によりメタクリル系共重合体の耐熱性が低下する傾向となる。反応ゾーンの樹脂温度が300℃を超えると樹脂の分解が著しくなり得られるメタクリル系共重合体からなる成形体およびフィルムの引張り破断強度等の機械的強度が低下する傾向となる。なお、押出機中の反応ゾーンとは、押出機のシリンダにおいてイミド化剤などの注入位置から樹脂吐出口(ダイス部)までの間の領域をいう。
【0076】
押出機の反応ゾーン内での反応時間を長くすることにより、環構造形成反応をより進行させることができる。押出機の反応ゾーン内の反応時間は10秒より長くすることが好ましく、さらには30秒より長くすることがより好ましい。10秒以下の反応時間では環構造形成反応がほとんど進行しない可能性がある。
【0077】
押出機での樹脂圧力は、大気圧~50MPaの範囲内とすることが好ましく、さらには1~30MPaの範囲内とすることがより好ましい。50MPa以上では通常の押出機の機械耐圧の限界を越え、特殊な装置が必要となりコスト的に好ましくない。
【0078】
大気圧以下に減圧可能なベント孔を有する押出機を使用することが好ましい。このような構成によれば、未反応物、もしくはメタノール等の副生物やモノマー類を除去することができ、本発明のアクリル系樹脂組成物を含む成形体の破断強度が向上する傾向となる。
【0079】
環構造形成反応には、押出機の代わりに、例えば、住友重機械工業(株)製のバイボラックのような横型二軸反応装置やスーパーブレンドのような竪型二軸攪拌槽などの高粘度対応の反応装置も好適に使用できる。
【0080】
環構造形成反応時にメタクリル系共重合体中にカルボキシ基が副生することがある。このカルボキシ基は、必要に応じてエステル化剤や触媒などによりエステル基に変換してもよい。これにより光学フィルムを製造する際の樹脂の発泡が低減できる。かかるエステル基は、使用するエステル化剤や触媒により異なるが、溶融成形時の樹脂溶融粘度の低減およびエステル化の反応性、エステル化後の樹脂の耐熱性の観点から、メタクリル酸メチル単位を含むことが好ましく、メタクリル酸メチル単位とメタクリル酸エチル単位を共に含むことがより好ましい。
【0081】
エステル化剤としては、コスト、反応性などの観点から、ジメチルカーボネートが好ましい。
【0082】
エステル化剤の添加量は、例えば、メタクリル系共重合体の酸価が所望の値になるように設定することができる。
【0083】
上記エステル化剤に加え、触媒を併用することもできる。触媒の種類は特に限定されるものではないが、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノメチルジエチルアミン、ジメチルモノエチルアミン等のアミン系化合物が挙げられる。これらの中でもコスト、反応性などの観点からトリエチルアミンが好ましい。
【0084】
(樹脂組成物)
一般的に樹脂組成物に用いられる添加剤を、本発明の目的が損なわれない範囲で含んでいてもよい。添加剤としては、フィラー、酸化防止剤、熱劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、離型剤、高分子加工助剤、帯電防止剤、難燃剤、着色剤、染料、顔料、光拡散剤、有機色素、艶消し剤、耐衝撃性改質剤、蛍光体などが挙げられる。フィラー以外のかかる添加剤の合計量は、好ましくは7質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは4質量%以下である。
【0085】
フィラーとしては、炭酸カルシウム、タルク、カーボンブラック、酸化チタン、シリカ、クレー、硫酸バリウム、炭酸マグネシウムなどを挙げることができる。本発明のメタクリル系共重合体組成物に含有し得るフィラーの量は、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下である。
【0086】
酸化防止剤は、酸素存在下においてそれ単体で樹脂の酸化劣化防止に効果を有するものである。例えば、リン系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤などを挙げることができる。これらの酸化防止剤は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0087】
熱劣化防止剤は、実質上無酸素の状態下で高熱にさらされたときに生じるポリマーラジカルを捕捉することによって樹脂の熱劣化を防止できるものである。
【0088】
該熱劣化防止剤としては、2-tert-ブチル-6-(3’-tert-ブチル-5’-メチル-ヒドロキシベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート(住友化学社製;商品名スミライザーGM)、2,4-ジ-tert-アミル-6-(3’,5’-ジ-tert-アミル-2’-ヒドロキシ-α-メチルベンジル)フェニルアクリレート(住友化学社製;商品名スミライザーGS)などを挙げることができる。
【0089】
紫外線吸収剤は、紫外線を吸収する能力を有する化合物である。紫外線吸収剤は、主に光エネルギーを熱エネルギーに変換する機能を有すると言われる化合物である。
【0090】
紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン類、ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、ベンゾエート類、サリシレート類、シアノアクリレート類、蓚酸アニリド類、マロン酸エステル類、ホルムアミジン類などを挙げることができる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、または波長380~450nmにおけるモル吸光係数の最大値εmaxが1200dm・mol-1cm-1以下である紫外線吸収剤が好ましい。
【0091】
光安定剤は、主に光による酸化で生成するラジカルを捕捉する機能を有すると言われる化合物である。好適な光安定剤としては、2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格を持つ化合物などのヒンダードアミン類を挙げることができる。
【0092】
滑剤としては、例えば、ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアロアミド酸、メチレンビスステアロアミド、ヒドロキシステアリン酸トリグリセリド、パラフィンワックス、ケトンワックス、オクチルアルコール、硬化油などを挙げることができる。
【0093】
離型剤としては、セチルアルコール、ステアリルアルコールなどの高級アルコール類;ステアリン酸モノグリセライド、ステアリン酸ジグリセライドなどのグリセリン高級脂肪酸エステルなどを挙げることができる。本発明においては、離型剤として、高級アルコール類とグリセリン脂肪酸モノエステルとを併用することが好ましい。高級アルコール類とグリセリン脂肪酸モノエステルとを併用する場合、その割合は特に制限されないが、高級アルコール類の使用量:グリセリン脂肪酸モノエステルの使用量は、質量比で、2.5:1~3.5:1が好ましく、2.8:1~3.2:1がより好ましい。
【0094】
高分子加工助剤としては、通常、乳化重合法によって製造できる、0.05~0.5μmの粒子径を有する重合体粒子(非架橋ゴム粒子)を用いる。該重合体粒子は、単一組成比および単一極限粘度の重合体からなる単層粒子であってもよいし、また組成比または極限粘度の異なる2種以上の重合体からなる多層粒子であってもよい。
【0095】
帯電防止剤としては、ヘプチルスルホン酸ナトリウム、オクチルスルホン酸ナトリウム、ノニルスルホン酸ナトリウム、デシルスルホン酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウム、セチルスルホン酸ナトリウム、オクタデシルスルホン酸ナトリウム、ジヘプチルスルホン酸ナトリウム、ヘプチルスルホン酸カリウム、オクチルスルホン酸カリウム、ノニルスルホン酸カリウム、デシルスルホン酸カリウム、ドデシルスルホン酸カリウム、セチルスルホン酸カリウム、オクタデシルスルホン酸カリウム、ジヘプチルスルホン酸カリウム、ヘプチルスルホン酸リチウム、オクチルスルホン酸リチウム、ノニルスルホン酸リチウム、デシルスルホン酸リチウム、ドデシルスルホン酸リチウム、セチルスルホン酸リチウム、オクタデシルスルホン酸リチウム、ジヘプチルスルホン酸リチウム等のアルキルスルホン酸塩等が挙げられる。
【0096】
難燃剤としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水和珪酸アルミニウム、水和珪酸マグネシウム、ハイドロタルサイト等の水酸基または結晶水を有する金属水和物、ポリリン酸アミン、リン酸エステル等のリン酸化合物、シリコン化合物等が挙げられ、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリプロピルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリペンチルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリシクロヘキシルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、ジメチルエチルホスフェート、メチルジブチルホスフェート、エチルジプロピルホスフェート、ヒドロキシフェニルジフェニルホスフェートなどのリン酸エステル系難燃剤が好ましい。
【0097】
染料・顔料としては、パラレッド、ファイヤーレッド、ピラゾロンレッド、チオインジコレッド、ペリレンレッドなどの赤色有機顔料、としてシアニンブルー、インダンスレンブルーなどの青色有機顔料、シアニングリーン、ナフトールグリーンなどの緑色有機顔料が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
【0098】
有機色素としては、紫外線を可視光線に変換する機能を有する化合物が好ましく用いられる。
【0099】
光拡散剤や艶消し剤としては、ガラス微粒子、ポリシロキサン系架橋微粒子、架橋ポリマー微粒子、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウムなどを挙げることができる。
【0100】
蛍光体としては、蛍光顔料、蛍光染料、蛍光白色染料、蛍光増白剤、蛍光漂白剤などを挙げることができる。
【0101】
本発明のメタクリル系共重合体組成物は、その製造方法によって特に限定されず、例えば、本発明のメタクリル系共重合体と紫外線吸収剤などの添加剤と必要に応じて他の重合体とを溶融混練することによって、製造することができる。溶融混練は、例えば、ニーダールーダー、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサーなどの溶融混練装置を用いて行うことができる。混練時の温度は、メタクリル系共重合体および他の重合体の軟化温度に応じて適宜設定でき、例えば150~300℃に設定することができる。また、混練時の剪断速度は、例えば、10~5000sec-1に設定することができる。
【0102】
本発明のメタクリル系共重合体組成物は、保存、運搬、または成形時の利便性を高めるために、ペレットなどの形態にすることができる。
(成形体)
本発明の成形体は本発明のメタクリル系共重合体またはメタクリル系共重合体組成物を含む。本発明の成形体の製造法は特に限定されない。例えばTダイ法(ラミネート法、共押出法など)、インフレーション法(共押出法など)、圧縮成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法、真空成形法、射出成形法(インサート法、二色法、プレス法、コアバック法、サンドイッチ法など)などの溶融成形法ならびに溶液キャスト法などを挙げることができる。これらのうち、生産性の高さ、コストなどの点から、Tダイ法、インフレーション法、射出成形法または溶液キャスト法が好ましい。成形体の種類に制限はないが、フィルム(厚さ5μm以上250μm以下の平面状成形体)やシート(250μmより厚い平面状成形体)が好ましいものとして挙げられる。
【0103】
本発明の成形体は、成形体の面内位相差(Re)の絶対値の平均値が、厚み1mmあたりの値として、好ましくは10.0nm以下であり、より好ましくは、6.0nm以下であり、さらに好ましくは5.0nm以下であり、さらにより好ましくは3.0nm以下である。
【0104】
本発明の成形体の一形態であるフィルムは、溶液キャスト法、溶融流延法、押出成形法、インフレーション成形法、ブロー成形法などによって製造することができる。これらのうち、透明性に優れ、改善された靭性を持ち、取扱い性に優れ、靭性と表面硬度および剛性とのバランスに優れたフィルムを得ることができるという観点から、押出成形法または溶液キャスト法が好ましい。押出機から吐出される溶融樹脂の温度は好ましくは160~270℃、より好ましくは220~260℃に設定する。
【0105】
押出成形法のうち、良好な表面平滑性、良好な鏡面光沢、低ヘイズのフィルムが得られるという観点からTダイ法が好ましい。このTダイ法では、押出機、ギアポンプ、ポリマーフィルター、ミキサーを経てTダイから吐出される溶融樹脂を、2本以上の鏡面ロールもしくは鏡面ベルトに挟み込んでフィルムに成形することが好ましい。鏡面ロールもしくは鏡面ベルトに挟み込む際にバンクを形成させてもよいし、形成させなくてもよい。ダイは、リップ開度の自動調整機能を有したものであり、エアギャップは100mm以下が好ましい。
【0106】
鏡面ロールまたは鏡面ベルトは金属製であることが好ましい。鏡面ロールとしては金属剛体ロール、金属弾性体ロールなどを用いることができ、金弾弾性体ロールと金属剛体ロールとを組み合わせて用いることが好ましい。また、鏡面ロールまたは鏡面ベルトの表面温度は共に130℃以下であることが好ましい。また、一対の鏡面ロール若しくは鏡面ベルトは、少なくとも一方の表面温度が60℃以上であることが好ましい。このような表面温度に設定すると、押出機から吐出される溶融樹脂を自然放冷よりも速い速度で冷却することができ、表面平滑性に優れ且つヘイズの低いフィルムを製造し易い。一対のロールまたはベルトの間の線圧は好ましくは10N/mm以上、より好ましくは30N/mm以上である。押出成形で得られる未延伸フィルムの厚さは、10~300μmであることが好ましい。フィルムのヘイズは、厚さ100μmにおいて、好ましくは0.7%以下、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.3%以下である。
【0107】
上記のようにして得られる未延伸フィルムに延伸処理を施してもよい。延伸処理によって機械的強度が高まり、ひび割れし難いフィルムを得ることができる。延伸方法は特に限定されず、同時二軸延伸法、逐次二軸延伸法、チュブラー延伸法などを挙げることができる。均一に延伸でき高い強度のフィルムが得られるという観点から、延伸時の温度の下限はメタクリル系共重合体またはメタクリル系共重合体組成物のガラス転移温度より10℃高い温度であり、延伸時の温度の上限はメタクリル系共重合体またはメタクリル系共重合体組成物のガラス転移温度より40℃高い温度である。延伸は通常100~5000%/分で行われる。延伸の後、熱固定を行うことによって、熱収縮の少ないフィルムを得ることができる。延伸後のフィルムの厚さは10~200μmであることが好ましい。
【0108】
本発明の成形体の一形態であるフィルムの表面に機能層を設けてもよい。機能層としては、ハードコート層、アンチグレア層、反射防止層、スティッキング防止層、拡散層、防眩層、静電気防止層、防汚層、微粒子などの易滑性層を挙げることができる。
【0109】
また、本発明のフィルムの少なくとも片面に、上記機能層との密着強度を向上させたり、他のフィルムとの接着剤もしくは粘着剤を介しての積層における接着強度を向上させたりするために、アンダーコート層を設けることが好ましい。
【0110】
本発明のメタクリル系共重合体またはメタクリル系共重合体組成物は、成形材料として好適である。本発明の成形体は、各種用途の部材にすることができる。具体的な用途としては、例えば、広告塔、スタンド看板、袖看板、欄間看板、屋上看板等の看板部品やマーキングフィルム;ショーケース、仕切板、店舗ディスプレイ等のディスプレイ部品;蛍光灯カバー、ムード照明カバー、ランプシェード、光天井、光壁、シャンデリア等の照明部品;家具、ペンダント、ミラー等のインテリア部品;ドア、ドーム、安全窓ガラス、間仕切り、階段腰板、バルコニー腰板、レジャー用建築物の屋根等の建築用部品;航空機風防、パイロット用バイザー、オートバイ、モーターボート風防、バス用遮光板、自動車用サイドバイザー、リアバイザー、ヘッドウィング、ヘッドライトカバー、自動車内装部材、バンパーなどの自動車外装部材等の輸送機関係部品;音響映像用銘板、ステレオカバー、テレビ保護マスク、自動販売機、携帯電話、パソコン等の電子機器部品;保育器、レントゲン部品等の医療機器部品;機械カバー、計器カバー、実験装置、定規、文字盤、観察窓等の機器関係部品;液晶保護板、導光板、導光フィルム、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、各種ディスプレイの前面板、拡散板等の光学関係部品;道路標識、案内板、カーブミラー、防音壁等の交通関係部品;その他、温室、大型水槽、箱水槽、浴室部材、時計パネル、バスタブ、サニタリー、デスクマット、遊技部品、玩具、楽器、熔接時の顔面保護用マスク、太陽電池のバックシート、フレキシブル太陽電池用フロントシート、加飾フィルム;パソコン、携帯電話、家具、自動販売機、浴室部材などに用いる表面材料等を挙げることができる。
【0111】
本発明のメタクリル系共重合体またはメタクリル系共重合体組成物を含有する層と、他の材料(例えば、他の熱可塑性共重合体を含有する層)とを積層することによって、積層体を得ることができる。積層体に用いられる他の材料としては、鋼材、プラスチック(例えば、熱可塑性樹脂)、木材、ガラス等を挙げることができる。本発明によって得られる積層体は、壁紙;自動車内装部材表面;バンパーなどの自動車外装部材表面;携帯電話表面;家具表面;パソコン表面;自動販売機表面;浴槽などの浴室部材表面等に好適に用いることができる。
【0112】
本発明の成形体の一形態であるフィルムは透明性、耐熱性が高いため、光学用途に好適であり、偏光子保護フィルム、液晶保護板、携帯型情報端末の表面材、携帯型情報端末の表示窓保護フィルム、導光フィルム、銀ナノワイヤーやカーボンナノチューブを表面に塗布した透明導電フィルム、各種ディスプレイの前面板用途に特に好適である。本発明のフィルムは透明性、耐熱性が高いため、光学用途以外の用途として、赤外線カットフィルムや、防犯フィルム、飛散防止フィルム、加飾フィルム、金属加飾フィルム、シュリンクフィルム、インモールドラベル用フィルムに使用することができる。
【0113】
本発明の成形体の一形態であるフィルムを偏光子保護フィルムや位相差フィルムとして用いる場合、偏光子フィルムの片面だけに積層してもよいし、両面に積層してもよい。偏光子フィルムと積層する際は、接着層や粘着層を介して積層することができる。偏光子フィルムとしては、ポリビニルアルコール系樹脂とヨウ素からなる延伸フィルムを用いることができ、その膜厚は1~100μmであることが好ましい。
【実施例
【0114】
次に実施例を示して本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は実施例によって制限されるものではない。
【0115】
物性等の測定は以下の方法によって実施した。
(重合転化率)
島津製作所社製ガスクロマトグラフGC-14Aに、カラムとしてGL Sciences Inc.製INERTCAP1(df=0.4μm、0.25mmI.D.×60m)を繋ぎ、下記の条件にて分析を行い、それに基づいて算出した。
【0116】
injection温度=250℃
detector温度=250℃
温度条件:60℃で5分間保持→10℃/分で250℃まで昇温→250℃で10分間保持
【0117】
(分子量)
樹脂の重量平均分子量(Mw)は、GPC法(ゲル浸透クロマトグラフィ法)により求めた。測定対象樹脂4mgをテトラヒドロフラン5mlに溶解させて試料溶液を調整した。カラムオーブンの温度を40℃に設定し、溶離液流量0.35ml/分で、試料溶液20μlを装置内に注入して、クロマトグラムを測定した。分子量が400~5,000,000の範囲内にある標準ポリスチレン10点をGPC測定し、保持時間と分子量との関係を示す検量線を作成した。この検量線に基づいて測定対象樹脂のMwを決定した 。
【0118】
装置:東ソー社製GPC装置HLC-8320
分離カラム:東ソー社製のTSKguardcoIumSuperHZ-HとTSKgeIHZM-MとTSKgeISuperHZ4000とを直列に連結
溶離剤:テトラヒドロフラン
溶離剤流量:0.35mI/分
カラム温度:40℃
検出方法:示差屈折率(RI)
【0119】
(前駆体ポリマー中の各単位組成)
インバースゲートデカップリング法13C-NMRによりメタクリル酸メチル単位のカルボニル炭素と、α-メチルスチレン単位の1位の芳香族炭素と、スチレン単位の1位の芳香族炭素と、無水マレイン酸単位のカルボニル炭素の積分値比を求め、これによって前駆体ポリマー中の各単位組成を算出した。
【0120】
(ガラス転移温度Tg)
製造例及び実施例で得られたメタクリル系共重合体を、JIS K7121に準拠して、示差走査熱量測定装置(島津製作所製、DSC-50(品番))を用いて、250℃まで一度昇温し、次いで室温まで冷却し、その後、室温から230℃までを10℃/分で昇温させる条件にてDSC曲線を測定した。2回目の昇温時に測定されるDSC曲線から求められる中間点ガラス転移温度を本発明におけるガラス転移温度とした。
【0121】
(イミド化率)
H-NMR(Bruker社製;商品名ULTRA SHIELD 400 PLUS)を用いて、共重合体のH-NMR測定を行い、3.5~3.8ppm付近のメタクリル酸メチルのO-CH基に由来するピークの面積Aと、3.0~3.3ppm付近のグルタルイミド、マレイミドのN-CH基に由来するピークの面積Bより、次式で求めた値をイミド化率(Im)とした。
イミド化率(R)(%)=[B/(A+B)]×100
【0122】
(メタクリル系共重合体中の無水マレイン酸単位量)
実施例で得られたメタクリル系共重合体を、ThermoScientific社製Nicolet iN10MXを用いて、室温にてIRスペクトルを測定した。得られたスペクトルより、1780cm-1付近の無水マレイン酸のカルボニルに由来するピークの吸収強度と、1685cm-1付近のマレイミドのカルボニルに由来するピークの吸収強度から無水マレイン酸のイミド化率(Im’;モル%)を求めた。13C-NMRで求めた前駆体ポリマーの無水マレイン酸単位量(m;質量%)とイミド化率より、次式で求めた値を実施例、比較例で得られた樹脂中の無水マレイン酸単位量(R-;質量%)とした。
無水マレイン酸単位量(R-)=m×(100-Im’´)/100
【0123】
(表面硬度)
射出成形機(株式会社名機製作所製、M-100C)を用いて、シリンダ温度260℃、金型温度50℃、射出速度50mm/秒の条件で実施例および比較例で得られたアクリル系樹脂組成物を射出成形して、厚さ3mm、一辺50mmの正方形の試験片を得た。
また、軸径20mの単軸押出機を用いて、樹脂温度260℃にて、実施例および比較例で得られたアクリル系樹脂組成物を150mm幅のTダイから押出し、幅100mm、厚さ80μmの単層フィルムを得た。
各試験片および単層フィルムをJIS K5600-5-4に準拠して、0.75Kg荷重で、鉛筆硬度を測定した。
○:試験片および単層フィルムの鉛筆硬度がH以上
×:試験片または単層フィルムの鉛筆硬度がF以下
【0124】
(光弾性係数)
メタクリル系共重合体をプレス成形により、1.0mmのシートを得た。得られたプレス成形シートの中央部から、15mm×60mmの試験片を切り出した。切り出したシートの長辺方向両端をチャック間距離が45mmとなるように固定し、駿河精機製X軸アリ式ステージB05-11BMを用いてシートに、0Nから100Nまで10N毎に段階的に張力を付与した。張力Tは株式会社イマダ製センサーセパレート型デジタルフォースゲージZPS-DPU-50Nによりモニターした。各張力を付与した状態での位相差PDを王子計測機器製KOBRA-WRを用いてNaのD線波長にて測定した。位相差測定後シートを治具より外し、位相差測定部分の厚さdを測定した。測定値から、シートの断面積S=15mm×d、応力σ(=T/S)および複屈折Δn(=PD/d)を算出し、横軸に応力σ、縦軸に複屈折Δnをプロットし、最小自乗法により求め得られた直線の傾きを光弾性係数とした。
【0125】
(配向複屈折)
メタクリル系共重合体をプレス成形により、1.0mmのシートを得た。得られたプレス成形シートの中央部から、20mm×40mmの試験片を切り出し、加熱チャンバー付きオートグラフ(SHIMADZU社製)に試験片を設置した。オートグラフでのつかみ間距離を20mmとし、ガラス転移温度+10℃にて3分間保持した。その後、3mm/分の速度で一方向に100%延伸(つかみ間距離が40mmになる)した。得られた延伸フィルムを23℃に冷却し、オートグラフから取外し、延伸フィルム中央部分の位相差PDを王子計測機器製KOBRA-WRを用いてNaのD線波長にて測定した。位相差測定部分の厚さdを測定した。測定値から、複屈折Δn(=PD/d)を算出し、これを配向複屈折とした。
【0126】
製造例1
撹拌機付オートクレーブAに、精製されたメタクリル酸メチル(MMA)、α-メチルスチレン、無水マレイン酸、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)(AIBN)およびn-オクチルメルカプタン(n-OM)を表1に記載の割合で仕込み、均一に溶解させて重合原料を得た。
【0127】
重合原料を、オートクレーブAから1.5kg/hrで、重合温度120℃に制御された槽型反応器に連続的に供給し、平均滞留時間2.5時間で塊状重合法によって重合反応させ、槽型反応器からメタクリル系共重合体を含む液を連続的に排出した。重合転化率は表1に記載の値になった。次いで、反応器から排出された液を230℃に加温し、240℃に制御された二軸押出機に供給した。該二軸押出機において未反応単量体を主成分とする揮発分を分離除去して、メタクリル系共重合体をストランドにして押出した。該ストランドをペレタイザーでカットし、前駆体ポリマーA-aを得た。得られた前駆体ポリマーA-aの重量平均分子量Mw、共重合体の各単位組成、ガラス転移温度Tgを測定した。その結果を表1に示す。なお、本製造例において、MMAに由来する単位の量は、α-メチルスチレン単位、スチレン単位、無水マレイン酸単位以外の単位の量であるので、表への記載を省略した。
【0128】
【表1】
【0129】
製造例2~7
重合原料中のモノマー組成、連鎖移動剤の使用量を表1に示す通り変更した以外は、製造例1と同様にして前駆体ポリマーA-b~A-gを得た。
【0130】
製造例8
特開2003-231785号公報の[実施例]の項に記載の共重合体(A)の製造方法に従って、MS樹脂(メタクリル酸メチル(MMA)とスチレン(St)との共重合体)を製造した。オートクレーブ内に仕込むMMAとStとt-ドデシルメルカプタン(t-DM)の質量比を変えて、前駆体ポリマーA-h;Mw=95000、Tg=113℃、スチレン単量体単位の含有量20質量%を得た。
【0131】
<実施例1>
輸送部、溶融混練部、脱揮部および排出部からなり且つスクリュー回転数120rpmおよび温度280℃に設定された二軸押出機(テクノベル社製;商品名KZW20TW-45MG-NH-600)の輸送部に製造例1で示した前駆体ポリマー〔A-a〕を2kg/hrで供給し、ニーディングブロックの設置された溶融混練部においてモノメチルアミンを0.41kg/hrで二軸押出機の添加剤供給口から注入し、前駆体ポリマー〔A-a〕とモノメチルアミンとを反応させた。なお、反応ゾーンの末端のスクリューにリバースフライトを設置した。
【0132】
20Torr(約2.7kPa)に設定された脱揮部において、副生成物および過剰のモノメチルアミンを、溶融混練部を通過した溶融樹脂から揮発させ、ベントを通して排出した。
【0133】
二軸押出機の排出部の末端に設けられたダイスからストランドとして押出された溶融樹脂を、水槽で冷却し、その後、ペレタイザでカットしてペレット状のメタクリル系共重合体(A-a-1)を得た。
【0134】
輸送部、溶融混練部、脱揮部および排出部からなり且つスクリュー回転数100rpmおよび温度280℃に設定された二軸押出機(テクノベル社製;商品名KZW20TW-45MG-NH-600)の輸送部に共重合体(A-a-1)を1kg/hrで供給し、ニーディングブロックの設置された溶融混練部において、炭酸ジメチル0.8質量部およびトリエチルアミン0.2質量部からなる液を0.112kg/hrで注入し、メタクリル系共重合体(A-a-1)中のカルボキシ基に炭酸ジメチルを反応させた。なお、反応ゾーンの末端のスクリューにリバースフライトを設置した。
【0135】
20Torr(約2.7kPa)に設定された脱揮部において、副生成物および過剰の炭酸ジメチルを、溶融混練部を通過した溶融樹脂から揮発させ、ベントを通して排出した。
【0136】
二軸押出機の排出部の末端に設けられたダイスからストランドとして押出された溶融樹脂を、水槽で冷却し、その後、ペレタイザでカットしてペレット状のメタクリル系共重合体(A-a-2)を得た。
【0137】
輸送部、溶融混練部、脱揮部および排出部からなり且つスクリュー回転数100rpmおよび温度280℃に設定された二軸押出機(テクノベル社製;商品名KZW20TW-45MG-NH-600)の輸送部にメタクリル系共重合体(A-a-2)を1kg/hrで供給した。
【0138】
20Torr(約2.7kPa)に設定された脱揮部において、未反応物などの揮発分を、溶融混練部を通過した溶融樹脂から揮発させ、ベントを通して排出した。
【0139】
二軸押出機の排出部の末端に設けられたダイスからストランドとして押出された溶融樹脂を、水槽で冷却し、その後、ペレタイザでカットしてペレット状のメタクリル系共重合体(A-1)を得た。メタクリル系共重合体(A-1)は、イミド化率Imが62wt%、無水マレイン酸単位量Mがwt%、ガラス転移温度が186℃、配向複屈折が0.10×10-4、光弾性係数が0.21×10-12Pa-1であった。メタクリル系共重合体(A-1)の物性を表2に示す。
【0140】
<実施例2>
前駆体ポリマー〔A-a〕の替わりに、前駆体ポリマー〔A-b〕を用い、モノメチルアミンの添加量を0.29kg/hr、炭酸ジメチル0.8質量部およびトリエチルアミン0.2質量部からなる液を0.077kg/hrで注入した以外は、実施例1と同じ方法で、メタクリル系共重合体(A-2)を得た。メタクリル系共重合体(A-2)の物性を表2に示す。
【0141】
<実施例3>
前駆体ポリマー〔A-a〕の替わりに、前駆体ポリマー〔A-c〕を用い、モノメチルアミンの添加量を0.32kg/hr、炭酸ジメチル0.8質量部およびトリエチルアミン0.2質量部からなる液を0.086kg/hrで注入した以外は、実施例1と同じ方法で、メタクリル系共重合体(A-3)を得た。メタクリル系共重合体(A-3)の物性を表2に示す。
【0142】
<実施例4>
前駆体ポリマー〔A-a〕の替わりに、前駆体ポリマー〔A-d〕を用い、モノメチルアミンの添加量を0.38kg/hr、炭酸ジメチル0.8質量部およびトリエチルアミン0.2質量部からなる液を0.103kg/hrで注入した以外は、実施例1と同じ方法で、メタクリル系共重合体(A-4)を得た。メタクリル系共重合体(A-4)の物性を表2に示す。
【0143】
<実施例5>
前駆体ポリマー〔A-a〕の替わりに、前駆体ポリマー〔A-e〕を用い、モノメチルアミンの添加量を0.33kg/hr、炭酸ジメチル0.8質量部およびトリエチルアミン0.2質量部からなる液を0.088kg/hrで注入した以外は、実施例1と同じ方法で、メタクリル系共重合体(A-5)を得た。メタクリル系共重合体(A-5)の物性を表2に示す。
【0144】
<比較例1>
前駆体ポリマー〔A-a〕の替わりに、前駆体ポリマー〔A-f〕を用い、二軸押出機の温度を250℃に設定し、モノメチルアミンの添加量を0.03kg/hr、炭酸ジメチル0.8質量部およびトリエチルアミン0.2質量部からなる液を0.009kg/hrで注入した以外は、実施例1と同じ方法で、メタクリル系共重合体(A-6)を得た。メタクリル系共重合体(A-6)の物性を表2に示す。
【0145】
<比較例2>
前駆体ポリマー〔A-a〕の替わりに、前駆体ポリマー〔A-g〕を用い、二軸押出機の温度を250℃に設定し、モノメチルアミンの添加量を0.15kg/hr、炭酸ジメチル0.8質量部およびトリエチルアミン0.2質量部からなる液を0.04kg/hrで注入した以外は、実施例1と同じ方法で、メタクリル系共重合体(A-7)を得た。メタクリル系共重合体(A-7)の物性を表2に示す。
【0146】
<比較例3>
前駆体ポリマー〔A-a〕の替わりに、前駆体ポリマー〔A-h〕を用い、二軸押出機の温度を250℃に設定し、モノメチルアミンの添加量を0.26kg/hr、炭酸ジメチル0.8質量部およびトリエチルアミン0.2質量部からなる液を0.07kg/hrで注入した以外は、実施例1と同じ方法で、メタクリル系共重合体(A-8)を得た。メタクリル系共重合体(A-8)の物性を表2に示す。
【0147】
<比較例4>
前駆体ポリマー〔A-a〕を用い、添加剤を加えず、押出機を素通しした以外は、実施例1と同じ方法で、アクリル系共重合体(A-9)を得た。アクリル系共重合体(A-9)の物性を表2に示す。
【0148】
【表2】
【0149】
実施例1~5で得られたメタクリル系重合体は、耐熱性が高く、高い光学的等方性(極めて小さな配向複屈折および極めて小さな光弾性係数)を有しており、表面硬度が高いため、光学部材を構成する材料として好適に使用することができる。一方、比較例1~4で得られたメタクリル系共重合体は、本発明の範囲にないため、光学的等方性が低い、または表面硬度が低いため、本発明と比べて劣るものであった。