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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】二酸化炭素吸収繊維及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/26 20060101AFI20241209BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20241209BHJP
   D01F 6/14 20060101ALI20241209BHJP
   D01F 6/50 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
B01J20/26 A
B01J20/30
D01F6/14 Z
D01F6/50 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022511964
(86)(22)【出願日】2021-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2021011771
(87)【国際公開番号】W WO2021200348
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2020063759
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100172605
【弁理士】
【氏名又は名称】岩木 郁子
(72)【発明者】
【氏名】椛山 博文
(72)【発明者】
【氏名】和志武 洋祐
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-091577(JP,A)
【文献】国際公開第2019/059368(WO,A1)
【文献】特表2012-519226(JP,A)
【文献】特開2015-120873(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28
B01J 20/30-20/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコールとアミン系ポリマーとを含有する二酸化炭素吸収繊維であって、
該繊維は、ポリビニルアルコールとアミン系ポリマーとが複合化された繊維であり、
該繊維表面の窒素元素濃度は、該繊維全体の窒素元素濃度に対して1.40倍以上である、二酸化炭素吸収繊維。
【請求項2】
前記繊維表面の窒素元素濃度は、50モル%以上である、請求項1に記載の二酸化炭素吸収繊維。
【請求項3】
前記アミン系ポリマーの含有量は、二酸化炭素吸収繊維の質量に対して5~50質量%である、請求項1又は2に記載の二酸化炭素吸収繊維。
【請求項4】
前記アミン系ポリマーは、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリジアリルアミン、ポリアルキレンアミン、ポリエチレンイミン、ポリジアリル4級アンモニウム、及びこれらの塩からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1~3のいずれかに記載の二酸化炭素吸収繊維。
【請求項5】
前記アミン系ポリマーは、分岐構造を有するアミン系ポリマーである、請求項1~3のいずれかに記載の二酸化炭素吸収繊維。
【請求項6】
前記アミン系ポリマーの数平均分子量は、500~50,000である、請求項1~5のいずれかに記載の二酸化炭素吸収繊維。
【請求項7】
ポリビニルアルコール、アミン系ポリマー及び溶媒を含有する紡糸原液を得る工程(1)、該紡糸原液を乾燥空気中に押し出し、溶媒を除去して未延伸繊維を形成する工程(2)、及び、該未延伸繊維を2.5倍以上に延伸する工程(3)を含む、請求項1~6のいずれかに記載の二酸化炭素吸収繊維の製造方法。
【請求項8】
工程(3)における延伸温度は、150~250℃である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1~6のいずれかに記載の二酸化炭素吸収繊維を含有する、繊維集合体。
【請求項10】
不織布である、請求項9に記載の繊維集合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコールとアミン系ポリマーとを含有する二酸化炭素吸収繊維及びその製造方法、並びに該二酸化炭素吸収繊維を含有する繊維集合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、住環境の二酸化炭素濃度への関心が高まっている。住環境内の二酸化炭素濃度が増加すると、認知能力の低下、不快感を招くことが報告されており、快適で生産性の高い環境構築のためには二酸化炭素濃度を制御する必要があることが明らかになってきた。空気中から二酸化炭素を除去する材料の1つに無機多孔質材料の使用が挙げられる。しかし、ゼオライトに代表される無機多孔質材料は二酸化炭素に限らず多孔質中に吸着するため、住環境のような水蒸気存在下では、吸着能力が著しく損なわれ、気体の乾燥設備が必要となり適用は現実的ではない。
【0003】
水存在下でも二酸化炭素を吸収し得る材料としては、アミン系ポリマーとアルコール化合物とを含む二酸化炭素吸収材が挙げられる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2019/059368号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者の検討によれば、特許文献1のような二酸化炭素吸収材は、特に繊維状に加工した場合、アルコール化合物のガスバリア性等に起因して材料内部でのガス拡散が著しく遅いため、住環境下に存在する二酸化炭素を十分に吸収できないことがわかった。
【0006】
従って、本発明の目的は、二酸化炭素吸収性に優れた二酸化炭素吸収繊維及びその製造方法、並びに該二酸化炭素吸収繊維を含有する繊維集合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリビニルアルコールとアミン系ポリマーとを含有する二酸化炭素吸収繊維において、該繊維表面の窒素元素濃度を、該繊維全体の窒素元素濃度に対して1.40倍以上に調整すれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の態様を含む。
【0008】
[1]ポリビニルアルコールとアミン系ポリマーとを含有する二酸化炭素吸収繊維であって、該繊維表面の窒素元素濃度は、該繊維全体の窒素元素濃度に対して1.40倍以上である、二酸化炭素吸収繊維。
[2]前記繊維表面の窒素元素濃度は、50モル%以上である、[1]に記載の二酸化炭素吸収繊維。
[3]前記アミン系ポリマーの含有量は、二酸化炭素吸収繊維の質量に対して5~50質量%である、[1]又は[2]に記載の二酸化炭素吸収繊維。
[4]前記アミン系ポリマーは、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリジアリルアミン、ポリアルキレンアミン、ポリエチレンイミン、ポリジアリル4級アンモニウム、及びこれらの塩からなる群から選択される少なくとも1つである、[1]~[3]のいずれかに記載の二酸化炭素吸収繊維。
[5]前記アミン系ポリマーは、分岐構造を有するアミン系ポリマーである、[1]~[3]のいずれかに記載の二酸化炭素吸収繊維。
[6]前記アミン系ポリマーの数平均分子量は、500~50,000である、[1]~[5]のいずれかに記載の二酸化炭素吸収繊維。
[7]ポリビニルアルコール、アミン系ポリマー及び溶媒を含有する紡糸原液を得る工程(1)、該紡糸原液を乾燥空気中に押し出し、溶媒を除去して未延伸繊維を形成する工程(2)、及び、該未延伸繊維を2.5倍以上に延伸する工程(3)を含む、[1]~[6]のいずれかに記載の二酸化炭素吸収繊維の製造方法。
[8]工程(3)における延伸温度は、150~250℃である、[7]に記載の方法。
[9][1]~[6]のいずれかに記載の二酸化炭素吸収繊維を含有する、繊維集合体。
[10]不織布である、[9]に記載の繊維集合体。
【発明の効果】
【0009】
本発明の二酸化炭素吸収繊維は、二酸化炭素吸収性に優れている。そのため、住環境下に存在する二酸化炭素を有効に除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[二酸化炭素吸収繊維]
本発明の二酸化炭素吸収繊維は、ポリビニルアルコールとアミン系ポリマーとを含有する。本明細書において、二酸化炭素吸収性とは、二酸化炭素を吸収し得る特性を示す。
【0011】
<ポリビニルアルコール>
本発明の二酸化炭素吸収繊維に含まれるポリビニルアルコール(PVAという場合がある)は、主にビニルアルコール由来の構成単位とビニルエステル(好ましくは酢酸ビニル)由来の構成単位を有するポリマーである。ポリビニルアルコールは、本発明の効果を損なわない範囲で、これらの構成単位以外の単量体(他の単量体という場合がある)由来の構成単位を含んでいてもよい。他の単量体としては、例えばエチレン、プロピレン、n-ブテン、イソブチレンなどのα-オレフィン;アクリル酸およびその塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸i-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸i-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシルなどのアクリル酸エステル類;メタクリル酸およびその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシルなどのメタクリル酸エステル類;アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩またはその4級塩、N-メチロールアクリルアミドおよびその誘導体などのアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩またはその4級塩、N-メチロールメタクリルアミドおよびその誘導体などのメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル類;塩化ビニル、フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、塩化アリルなどのアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和ジカルボン酸およびその塩またはそのエステル;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニルなどが挙げられる。これらの他の単量体は単独又は2種以上組み合わせて使用できる。他の単量体由来の構成単位の含有量は、二酸化炭素吸収性を高めやすい観点から、ポリビニルアルコールを構成する構成単位の総モル量に対して、通常20モル%以下であり、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下、さらに好ましくは1モル%以下である。なお、ポリビニルアルコールは単独又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0012】
ポリビニルアルコールは、ビニルエステル(好ましくは酢酸ビニル)及び必要に応じて前記他の単量体を重合した樹脂を、公知の方法、例えばアルコール等の溶媒に溶解した状態でケン化する方法により製造してよい。この方法で使用される溶媒としては、例えばメタノール、エタノール等の低級アルコールが挙げられる。ケン化反応に使用されるアルコールは、その量が40質量%以下であれば、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、ベンゼンなどの溶媒を含有していてよい。ケン化反応に用いられる触媒としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、ナトリウムメトキシドなどのアルカリ触媒、又は鉱酸などの酸触媒が挙げられる。ケン化反応の温度について特に制限はないが、例えば20~60℃の範囲が好ましい。ケン化反応によって得られるビニルアルコールは、洗浄後、乾燥に供されることが好ましい。
【0013】
ポリビニルアルコールのケン化度は、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上であり、好ましくは100モル%以下、より好ましくは99.5モル%以下である。ケン化度が上記の下限以上であると、紡糸時の原液の安定性が向上しやすく、またケン化度が上記の上限以下であると、二酸化炭素吸収性が向上しやすい。なお、ポリビニルアルコールのケン化度は、JIS-K6726に従って測定することができる。
【0014】
ポリビニルアルコールの粘度平均重合度は、好ましくは200以上、より好ましくは500以上、さらに好ましくは700以上、特に好ましくは1000以上であり、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、さらに好ましくは3000以下、特に好ましくは2500以下である。ポリビニルアルコールの粘度平均重合度が上記の下限以上であると、紡糸性が向上しやすい。該粘度平均重合度が上記の上限以下であると、圧力損失が抑えられ、生産性が向上しやすい。また、繊維同士の凝集を抑制しやすいため、強度の点で有利であり、成形性も良好となりやすい。なお、ポリビニルアルコールの粘度平均重合度は、例えばJIS-K6726「ポリビニルアルコール試験方法」に基づいて測定でき、例えば実施例に記載の方法により測定できる。
【0015】
二酸化炭素吸収繊維に含まれるポリビニルアルコールの含有量は、二酸化炭素吸収繊維の質量に対して、好ましくは95質量%以下、より好ましくは85質量%以下、さらに好ましくは75質量%以下、さらにより好ましくは70質量%以下、特に好ましくは65質量%以下であり、好ましくは50質量%以上である。ポリビニルアルコールの含有量が上記の上限以下であると、ガスバリア性が低減するため、二酸化炭素吸収性を高めやすく、またポリビニルアルコールの含有量が上記の下限以上であると、強度及び成形性の観点から有利となる。
【0016】
<アミン系ポリマー>
二酸化炭素吸収繊維に含まれるアミン系ポリマーは、アミノ基及び第4級アンモニウム基により、二酸化炭素(CO)を吸着し得るポリマーである。アミン系ポリマーが有するアミノ基は、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基のいずれであってもよい。また、アミノ基を有する繰り返し単位(構成単位ということがある)は1種であっても、2種以上であってもよい。そのため、アミン系ポリマーは、アミノ基又は第4級アンモニウム基を有する2種以上の繰り返し単位が、ランダム、ブロック、交互又はグラフト共重合したポリマーであってもよい。また、本発明の効果を阻害しない範囲内で、アミノ基又は第4級アンモニウム基を有しない繰り返し単位を有していてもよい。
【0017】
アミン系ポリマーとしては、例えば、ポリビニルアミン、ポリビニルアルキルアミン、ポリアルキレンアミン、ポリエチレンイミン、第4級アンモニウム含有ポリマー、ポリアニリン、ポリヌクレオチド、ポリアリルアミン、ポリジアリルアミン、ポリアルキレンアミン、ポリジアリル4級アンモニウム及びこれらの塩などが挙げられる。アミン系ポリマーは単独又は2種以上組み合わせて使用できる。これらのポリマーの繰り返し単位が2種以上共重合した共重合体を用いることもできる。これらの中でも、二酸化炭素吸収性を高めやすい観点から、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリジアリルアミン、ポリアルキレンアミン、ポリエチレンイミン、ポリジアリル4級アンモニウム、及びこれらの塩からなる群から選択される少なくとも1つが好ましく、ポリアリルアミン、ポリジアリルアミン、ポリジアリル4級アンモニウム、ポリエチレンイミン、及びこれらの塩からなる群から選択される少なくとも1つがより好ましく、ポリエチレンイミン及び/又はその塩がさらに好ましい。
【0018】
本発明の一実施態様では、アミン系ポリマーは、分岐構造を有するアミン系ポリマーであることが好ましい。このような分岐構造を有するアミン系ポリマーを用いると、アミン系ポリマーが繊維表面に偏在しやすいため、繊維表面の窒素元素濃度を高めやすく、二酸化炭素吸収性を向上しやすい。例えば、ポリエチレンイミンには、第1級アミン及び第2級アミンを含む直鎖構造のものや、少なくとも第3級アミンを含む分岐構造を有するものが存在するが、二酸化炭素吸収性を高めやすい観点からは、分岐構造を有するポリエチレンイミンが好ましい。
【0019】
アミン系ポリマーの数平均分子量は、好ましくは500以上、より好ましくは1,000以上、さらに好ましくは3,000以上、さらにより好ましくは5,000以上、特に好ましくは8,000以上であり、好ましくは50,000以下、より好ましくは30,000以下、さらに好ましくは20,000以下、特に好ましくは15,000以下である。アミン系ポリマーの数平均分子量が上記の下限以上であると、ポリビニルアルコールとの密着性が向上し、アミン系ポリマーのブリードアウトを防止しやすい。該数平均分子量が上記の上限以下であると、ポリビニルアルコールとの相溶性を高めやすいため、紡糸性を向上しやすい。また、繊維表面の窒素元素濃度を高めやすいため、二酸化炭素吸収性を向上しやすい。なお、アミン系ポリマーの数平均分子量は、アミン系ポリマーを溶解可能な溶媒に溶かし、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて求めることができ、例えば実施例に記載の方法により測定できる。
【0020】
本発明の二酸化炭素吸収繊維に含まれるアミン系ポリマーの含有量は、二酸化炭素吸収繊維の質量に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましく15質量%以上、さらに好ましくは25質量%以上、さらにより好ましくは30質量%以上、特に好ましくは35質量%以上、特により好ましくは40質量%以上であり、好ましくは50質量%以下である。アミン系ポリマーの含有量が上記の下限以上であると、二酸化炭素吸収性を向上しやすい。アミン系ポリマーの含有量が上記の上限以下であると、強度及び成形性の観点から有利である。
【0021】
<二酸化炭素吸収繊維>
本発明の二酸化炭素吸収繊維は、前記ポリビニルアルコールと前記アミン系ポリマーとを含有し、該繊維表面の窒素元素濃度が、該繊維全体の窒素元素濃度に対して1.40倍以上であるため、優れた二酸化炭素吸収性を有することができる。ポリビニルアルコールを含有する吸着繊維は、繊維表面に存在するポリビニルアルコールのガスバリア性の影響により、表面内部のアミン系ポリマーが二酸化炭素の吸着に部分的に寄与し得ないが、本発明ではそのようなアミン系ポリマーが繊維表面に偏在している(又は繊維表面に多く存在している)ため、二酸化炭素吸収性が向上されると推定される。従って、本発明の二酸化炭素吸収繊維は、繊維形態の吸着材として好適に使用でき、住環境下での二酸化炭素濃度を制御することができる。しかも、住環境での微量な二酸化炭素であっても吸収できるため、ヒトに与える認知能力の低下や不快感などの悪影響を回避できる。
【0022】
前記繊維表面の窒素元素濃度は、前記繊維全体の窒素元素濃度に対して、好ましくは1.70倍以上、より好ましくは1.90倍以上、さらに好ましくは2.00倍以上、特に好ましくは2.10倍以上である。繊維全体の窒素元素濃度に対する繊維表面の窒素元素濃度(窒素濃度比(表面/全体)ということがある)が上記の下限以上であると、アミン系ポリマーが繊維表面に、より偏在化しているため、二酸化炭素吸収性をより向上しやすい。また、窒素濃度比(表面/全体)の上限は、好ましくは20倍以下であり、より好ましくは10倍以下であり、さらに好ましくは5倍以下である。
【0023】
本明細書において、窒素元素濃度とは、窒素元素量と酸素元素量の合計に対する、窒素元素量の割合を意味し、以下の式(1)により算出できる。
窒素元素濃度(モル%)=窒素元素量(モル)/[窒素元素量(モル)+酸素元素量(モル)]×100 (1)
【0024】
繊維表面の窒素元素濃度は、XPS(X線光電分光法)を用いて、酸素元素量(モル)及び窒素元素量(モル)を測定し、式(1)により求めることができる。より詳細には、繊維表面の窒素元素濃度は、励起源:MgKα、分析サイズ:1mm、入射角:45°の測定条件により、光電子分光装置を用いて測定することができ、例えば実施例に記載の方法により測定できる。本発明の好適な実施態様では、酸素元素のスペクトルピーク及び窒素元素のスペクトルピークはそれぞれ、530eV付近及び398eV付近に出現し得る。なお、二酸化炭素吸収繊維が後述の添加剤等を含む場合、測定前に、アミン系ポリマーやポリビニルアルコールが溶解しない溶剤を用いて、該添加剤を除去してからXPS測定及び後述の元素分析を行ってもよい。例えば、繊維表面に油剤等が付着している態様では、元素量測定前にアミン系ポリマーやポリビニルアルコールが溶解せず、かつ油剤等が溶解し得るヘキサン等の有機溶剤で洗浄してから測定してもよい。
【0025】
繊維全体の窒素元素濃度は、元素分析法を用いて、酸素元素量(モル)及び窒素元素量(モル)を算出し、式(1)により求めることができる。より詳細には、繊維全体の窒素元素濃度は、分析条件:CNHS、焼却炉温度:950℃、オーブン温度:65℃、ヘリウム:140mL/min、酸素:250mL、標準サンプル:スルファニルアミドの測定条件により、有機元素分析装置を用いて測定でき、例えば実施例に記載の方法により測定できる。
なお、繊維表面の窒素元素濃度及び繊維全体の窒素元素濃度は、酸素元素量と窒素元素量との元素比(モル比)を用いて、式(1)から求めてもよい。
【0026】
繊維表面の窒素元素濃度は、好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは65モル%以上、さらにより好ましくは70モル%以上、特に好ましくは75モル%以上、特により好ましくは80モル%以上である。繊維表面の窒素元素濃度が上記の下限以上であると二酸化炭素吸収性を高めやすい。また、繊維表面の窒素元素濃度の上限は、好ましくは95モル%以下、より好ましくは90モル%以下である。繊維表面の窒素元素濃度が上記の上限以下であると、繊維表面の粘着性が抑えられ、取扱い性が向上しやすい。このように本発明の好適な実施態様では、繊維表面の窒素元素濃度が95モル%以下であり、ポリビニルアルコール表面にアミン系ポリマーを塗布して形成された繊維ではなく、ポリビニルアルコールとアミン系ポリマーとが複合化された繊維である。
【0027】
繊維全体の窒素元素濃度は、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上であり、好ましくは50モル%以下、より好ましくは45モル%以下、さらに好ましくは40モル%以下である。繊維全体の窒素元素濃度が上記範囲であると、二酸化炭素吸収性を向上しやすい。なお、窒素濃度比(表面/全体)及び窒素元素濃度を上記範囲に調整する方法は、特に限定されないが、例えば、後述の製造方法(特に工程(3)を含む製造方法)を使用したり、上記のポリビニルアルコール又はアミン系ポリマー(特に上記に記載の好適なもの)を使用する方法等が挙げられる。
【0028】
本発明の一実施態様において、本発明の二酸化炭素吸収繊維の単糸繊度は、特に限定されないが、好ましくは0.1dtex以上、より好ましくは1dtex以上、さらに好ましくは5dtex以上、特に好ましくは8dtex以上であり、好ましくは100dtex以下、より好ましくは70dtex以下、さらに好ましくは45dtex以下である。単糸繊度が上記範囲であると、二酸化炭素吸収性を高めやすい。なお、単糸繊度は、例えば実施例に記載の方法により測定できる。
【0029】
本発明の一実施態様において、本発明の二酸化炭素吸収繊維の飽和二酸化炭素吸収量は、好ましくは42mg/g以上、より好ましくは45mg/g以上、さらに好ましくは60mg/g以上、さらにより好ましくは80mg/g以上、特に好ましくは100mg/g以上、特により好ましくは110mg/g以上である。飽和二酸化炭素吸収量が上記の下限以上であると、優れた二酸化炭素吸収性を発現できる。なお、飽和二酸化炭素吸収量は、気温20℃、相対湿度60%、二酸化炭素濃度400ppmの環境下に、該二酸化炭素吸収繊維を1週間(168時間)静置した後に二酸化炭素吸収繊維が吸収した二酸化炭素量を意味し、例えば実施例に記載の方法により測定できる。
【0030】
本発明の一実施態様において、本発明の二酸化炭素吸収繊維が12時間で吸収可能な二酸化炭素吸収量は、好ましくは20mg/g以上、より好ましくは25mg/g以上、さらに好ましくは30mg/g以上である。12時間で吸収可能な二酸化炭素吸収量が上記の下限以上であると、優れた二酸化炭素吸収性を発現できる。なお、12時間で吸収可能な二酸化炭素吸収量は、上記飽和二酸化炭素吸収量において、二酸化炭素吸収繊維の静置時間を12時間に変えたものであり、例えば実施例に記載の方法により測定できる。
【0031】
本発明の二酸化炭素吸収繊維は、前記ポリビニルアルコール及び前記アミン系ポリマー以外の任意の添加剤を含んでいてよい。添加剤としては、例えば、ポリビニルアルコール及びアミン系ポリマー以外のポリマー;酸化防止剤;安定剤;滑剤;加工助剤;帯電防止剤;着色剤;耐衝撃助剤;発泡剤;架橋剤などが挙げられる。添加剤は単独又は2種以上組み合わせて使用できる。添加剤の含有量は、二酸化炭素吸収繊維の質量に対して、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下であってよい。
【0032】
本発明の一実施態様において、本発明の二酸化炭素吸収繊維は、その動摩擦係数が1.0以下であることが好ましく、0.8以下であることがより好ましく、0.6以下であることがさらに好ましく、0.4以下であることが特に好ましい。動摩擦係数が上記の上限以下であると、二酸化炭素吸収繊維は、繊維加工性(織編・不織布)及び取り扱い性に優れ、様々な形態の繊維製品へと展開しやすい。下限は特に制限はないが、通常、0以上である。なお、動摩擦係数は、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。また、動摩擦係数は、二酸化炭素吸収繊維に含まれるポリビニルアルコールやアミン系ポリマーの種類又は含有量、二酸化炭素吸収繊維の製造方法などを適宜選択することにより調整でき、例えば、前述の好ましいポリビニルアルコールやアミン系ポリマーの種類及び含有量、後述の二酸化炭素吸収繊維の好適な製造方法を用いること等により上記範囲に調整してもよい。
【0033】
[二酸化炭素吸収繊維の製造方法]
本発明の二酸化炭素吸収繊維の製造方法は、例えば、前記ポリビニルアルコール、前記アミン系ポリマー及び溶媒を含有する紡糸原液を得る工程(1)、該紡糸原液を乾燥空気中に押し出し、溶媒を除去して未延伸繊維を形成する工程(2)、及び、該未延伸繊維を2.5倍以上に延伸する工程(3)を含む方法を好適に使用できる。
【0034】
工程(1)では、前記ポリビニルアルコール、前記アミン系ポリマー、溶媒、及び任意に前記添加剤を混合することにより紡糸原液を得ることができる。溶媒としては、水、ジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセリン、エチレングリコール及びこれらの混合溶媒等が挙げられるが、ポリマーの溶解性や溶媒を除去しやすい観点から、水を使用することが好ましい。好ましい実施態様では、前記ポリビニルアルコール、前記アミン系ポリマー、溶媒、及び任意に前記添加剤を、バッチ式の溶解タンク、押出機を用いて溶解することで紡糸原液を得ることが好ましい。押出機は単軸押出機又は二軸押出機であってもよく、混合性の観点から二軸押出機を好適に使用できる。押出機に導入する順序は特に限定されないが、混合性の観点から、ポリビニルアルコールと溶媒の混合液を押出機に投入して混練した後、さらにアミン系ポリマー及び任意に添加剤を押出機に導入して混練することが好適である。混合時の温度や押出機のスクリュー回転数等はポリマーが溶媒に溶解し得るように適宜調整すればよい。混合時の温度は、例えば80~160℃、好ましくは110~150℃であってよい。
【0035】
工程(2)は、乾式紡糸法により、工程(1)で得られた紡糸原液から未延伸繊維を形成する工程である。本発明の二酸化炭素吸収繊維は、湿式紡糸法、乾・湿式紡糸法又は乾式紡糸法により繊維化することができるが、湿式紡糸法若しくは乾・湿式紡糸法により繊維化する場合、固化浴中にアミン系ポリマーが溶出し得るため、特にアミン系ポリマーの含有量が比較的多い二酸化炭素吸収繊維を得ることが困難である。そのため、本発明の製造方法では、工程(2)の通り、このような問題が生じ得ない乾式紡糸法を用いて繊維化することが好ましい。
【0036】
工程(2)の乾式紡糸法としては、前記紡糸原液をノズルを通して、加熱された乾燥空気中に押し出し、溶媒を蒸発除去して繊維を形成する方法が挙げられる。乾燥された繊維は、巻き取り装置等を用いて巻き取ってもよい。乾式紡糸法では、上記の通り、固化浴を使用する必要がないため、湿式紡糸法若しくは乾・湿式紡糸法と比べ、アミン系ポリマーの含有量の多い二酸化炭素吸収繊維を簡便かつ効率的に得ることができる。ノズルの孔数は特に限定されず、例えば10~1000である。乾燥空気の温度は、溶媒を除去し得る温度であればよく、好ましくは50~200℃、より好ましくは60~150℃である。
【0037】
工程(3)は、工程(2)で得られた未延伸繊維を2.5倍以上に延伸する工程である。本発明者は、意外なことに、未延伸繊維に延伸倍率2.5倍以上で所定の延伸処理を施すことにより、二酸化炭素吸収繊維中のアミン系ポリマーを繊維表面に偏在させることができ、窒素濃度比(表面/全体)を1.40倍以上に調整できることを見出した。これは、繊維状の形態では、アミン系ポリマーは内部に存在するよりも、表面に存在した方がエネルギー的に安定であるからだと推定される。延伸倍率は、好ましくは2.8倍以上、より好ましくは3.0倍以上、さらに好ましくは3.5倍以上、さらにより好ましくは4.0倍以上、特に好ましくは4.5倍以上、特により好ましくは5.0倍以上である。延伸倍率が上記の下限以上であると、アミン系ポリマーを繊維表面に、より偏在させやすいため、窒素濃度比(表面/全体)及び繊維表面の窒素元素濃度を増加させやすい。
【0038】
工程(3)において、延伸温度は、好ましくは150℃以上、より好ましくは155℃以上、さらに好ましくは160℃以上であり、好ましくは250℃以下、より好ましくは240℃以下、さらに好ましくは230℃以下である。延伸温度が上記の下限以上であると、アミン系ポリマーを繊維表面に、より偏在化させやすいため、窒素濃度比(表面/全体)及び繊維表面の窒素元素濃度を増加させやすい。延伸温度が上記の上限以下であると、融解による繊維膠着、アミン系ポリマーの酸化分解による二酸化炭素吸収性の低下を抑制しやすい。また、延伸時間は、好ましくは5秒以上、より好ましくは10秒以上であり、好ましくは60秒以下、より好ましくは40秒以下である。延伸時間が上記の下限以上であると、アミン系ポリマーを繊維表面により偏在させやすいため、窒素濃度比(表面/全体)及び繊維表面の窒素元素濃度を増加させやすい。延伸時間が上記の上限以下であると、アミン系ポリマーの熱分解を抑制しやすい。延伸は慣用の方法で実施することができ、例えば熱風炉中で延伸を行ってもよい。
【0039】
[二酸化炭素の吸収及び脱離]
本発明の二酸化炭素吸収繊維は、例えば、二酸化炭素放出温度未満、好ましくは該放出温度よりも20℃以上低い温度で二酸化炭素と接触させることにより、二酸化炭素を吸収でき、また二酸化炭素放出温度以上、好ましくは該放出温度よりも50℃以上高い温度に加熱することにより、二酸化炭素を脱離できる。本発明の二酸化炭素吸収繊維は、住環境の温度、湿度及び二酸化炭素量であっても、優れた二酸化炭素吸収性を発現し得るため、住環境下における二酸化炭素吸収材として好適に使用できる。また、該二酸化炭素吸収繊維は、繊維形態であるため、強度が高く、例えば宇宙服や宇宙船内の二酸化炭素除去等、様々な応用が可能となる。その適用分野は、特に限定されず、例えば、火力発電所、鉄工所、化学工場、食品、医薬品、化粧品、電池等に広く適用できる。
【0040】
[繊維集合体]
本発明は、前記二酸化炭素吸収繊維を含有する、繊維集合体を包含する。該繊維集合体の具体例としては、織物、編物、不織布、フェルト、スポンジなどが挙げられる。これらの中でも、生産性が良好であり、固気の均一な接触が可能という観点から、繊維集合体は不織布であることが好ましい。
【実施例
【0041】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0042】
<粘度平均重合度>
ケン化度が99.5モル%以上になるまでケン化したPVAについて、水中、30℃で測定した極限粘度[η](リットル/g)を用いて、下記式により、実施例及び比較例におけるPVAの粘度平均重合度(P)を求めた。
P=([η]×10/8.29)(1/0.62)
【0043】
<ケン化度>
実施例及び比較例におけるPVAのケン化度は、JIS-K6726に従って測定した。
【0044】
<数平均分子量>
実施例及び比較例で使用されたアミン系ポリマーの数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、HLC-8320GPCEcoSEC(東ソー株式会社製)を用いて以下の条件で行った。
カラム:SHODEXOHpakSB-802.5HQ、SB-803HQ
カラム温度:40℃
溶離液:0.5M酢酸+0.2M硝酸ナトリウム水溶液/アセトニトリル=50/50(体積比)
検出器:RI
検量線:標準ポリエチレングリコール(アジレントテクノロジー(株)社製)。
【0045】
<単糸繊度>
実施例及び比較例で得られた二酸化炭素吸収繊維の単糸繊度は繊維を20m巻きとり、その重量から計算した。
【0046】
<二酸化炭素吸収量>
(評価用サンプルの調製)
実施例及び比較例で得られた二酸化炭素吸収繊維を160℃の熱風オーブンで3分熱処理し、事前に吸収しているガスを除去後、気温20℃、相対湿度60%、二酸化炭素濃度400ppmの環境下に、二酸化炭素吸収繊維を12時間静置し、二酸化炭素を吸収させた。また、上記環境下に1週間(168時間)静置した二酸化炭素吸着繊維が吸収した二酸化炭素量を飽和吸収量とした。
【0047】
(二酸化炭素吸収量測定方法)
ガス吸着量測定装置「BELCAT II」(マイクロトラック・ベル製)を用いて、上記で調製した評価用サンプルを、10℃/minで常温から200℃まで昇温し、放出された二酸化炭素量を、BELMASS(マイクロトラック・ベル製)を用いて測定した。測定中はキャリアガスとしてヘリウムを100cc/minでフローした。
【0048】
<繊維表面の窒素元素濃度の測定>
(XPS測定)
実施例及び比較例で得られた二酸化炭素吸収繊維における繊維表面の窒素元素濃度(モル%)を、光電子分光装置「JPS-9200」(JEOL製)を用いて測定した。励起源にはMgKαを使用した。
より詳細には、常温減圧下で十分に乾燥した二酸化炭素吸収繊維を、1×10Paの真空下で、分析サイズ1mm、入射角45°で測定を実施した。得られたスペクトルの530eV付近のピークを酸素元素、398eV付近のピークを窒素元素として、積分値と相対感度因子より、酸素元素と窒素元素との元素比を算出した。算出した元素比を用いて、式(1):
窒素元素濃度(モル%)=窒素元素量(モル)/[窒素元素量(モル)+酸素元素量(モル)]×100 (1)
より、二酸化炭素吸収繊維表面の窒素元素濃度(モル%)を算出した。
【0049】
<繊維全体の窒素元素濃度の測定>
(元素分析)
有機元素分析装置「FLASH2000」(Thermo Fishet製)を使用し、CNHS分析条件で焼却炉温度950℃、オーブン温度65℃として、ヘリウム140mL/min、酸素250mLをフローし測定を行った。なお、スルファニルアミドを標準サンプルとしてサンプル容器にはスズ箔を用い、分析資料は1.5mg、分析時間は720秒とした。得られた酸素元素と窒素元素との元素比を用いて、前記式(1)により、二酸化炭素吸収繊維全体の窒素元素濃度(モル%)を算出した。
【0050】
<二酸化炭素吸収繊維の動摩擦係数の測定>
実施例及び比較例で得られた二酸化炭素吸収繊維に1kgの荷重をかけ、張力がかかった状態で動摩擦係数測定装置(トリニティーラボ社製、商品名:トリラボ ハンディーラブテスター)の測定部を繊維に対して垂直に押し当て繊維軸方向に15cm動かすことで測定した。ほぼ同一部分を3回測定し、その平均値を動摩擦係数とした。
なお、動摩擦係数は、動摩擦係数=動摩擦力[N]/垂直応力[N]により計算できる。
【0051】
[実施例1]
ポリビニルアルコール(PVA、粘度平均重合度1700、ケン化度99mol%)の含水チップを調製し、押出機に投入することでPVAを溶解した。溶解したPVA水溶液と、アミン系ポリマーとしてポリエチレンイミン(「エポミンSP-200」、日本触媒(株)、数平均分子量10000、第1級アミノ基、第2級アミノ基及び第3級アミノ基で構成された分岐構造を有するポリマー)の水溶液を混合し、PVAとポリエチレンイミンの質量比を60/40とした。この原液を、孔数70個のノズルより100℃の空気中に押し出し、乾燥後に巻き取ることで未延伸繊維を得た。得られた未延伸繊維を160℃の熱風炉下、延伸倍率3倍、延伸時間30秒で延伸し、二酸化炭素吸収繊維(繊度35dtex)を得た。
【0052】
[実施例2]
熱風炉の温度を210℃、延伸倍率を5倍にしたこと以外は、実施例1と同様の方法で二酸化炭素吸収繊維(繊度14dtex)を得た。
【0053】
[実施例3]
熱延伸の倍率を7倍にしたこと以外は、実施例1と同様の方法で二酸化炭素吸収繊維(繊度10dtex)を得た。
【0054】
[実施例4]
PVAとポリエチレンイミンの質量比を80/20とし、熱延伸倍率を5倍にしたこと以外は、実施例1と同様の方法で二酸化炭素吸収繊維(繊度12dtex)を得た。
【0055】
[実施例5]
ポリエチレンイミンの数平均分子量を1200とし、PVAとポリエチレンイミンの質量比を70/30とし、熱延伸倍率を5倍にしたこと以外は、実施例1と同様の方法で二酸化炭素吸収繊維(繊度14dtex)を得た。
【0056】
[比較例1]
延伸処理を施さないこと以外は、実施例1と同様の方法で二酸化炭素吸収繊維(繊度70dtex)を得た。
【0057】
[比較例2]
延伸倍率を2倍にしたこと以外は、実施例1と同様の方法で二酸化炭素吸収繊維(繊度47dtex)を得た。
【0058】
実施例1~5及び比較例1、2で得られた二酸化炭素吸収繊維において、繊維表面の窒素元素濃度、繊維全体の窒素元素濃度、繊維表面の窒素元素濃度と繊維全体の窒素元素濃度との窒素濃度比(表面/全体)、動摩擦係数、12時間静置後の二酸化炭素(CO)吸収量、及び飽和二酸化炭素(CO)吸収量を測定した結果を表1に示す。
【0059】
[参考例1]
ポリビニルアルコール(PVA、粘度平均重合度1700、ケン化度99mol%)の含水チップを調製し、押出機に投入することでPVAを溶解した。この原液を、孔数70個のノズルより100℃の空気中に押し出し、乾燥後に巻き取ることで未延伸繊維を得た。得られた未延伸繊維を160℃の熱風炉下、延伸倍率3倍、延伸時間30秒で延伸し、ポリビニルアルコール繊維(繊度35dtex)を得た。この繊維を、アミン系ポリマーとしてポリエチレンイミン(「エポミンSP-200」、日本触媒(株)、数平均分子量10000、第1級アミノ基、第2級アミノ基及び第3級アミノ基で構成された分岐構造を有するポリマー)の40質量%水溶液に浸し、乾燥させ、二酸化炭素吸収繊維を得た。乾燥後のポリビニルアルコール/アミン系ポリマーの質量比は83/17であった。該二酸化炭素吸収繊維の動摩擦係数を測定したところ、1.1であった。また、当該繊維は解除時に繊維同士の摩擦により毛羽が発生した。一方、動摩擦係数が1.0以下であると、毛羽は発生せず、繊維の品質・品位、繊維加工性、取り扱い性に優れる傾向にあった。
【0060】
【表1】
【0061】
表1に示される通り、実施例1~5で得られた二酸化炭素吸収繊維は、比較例1及び2と比べ、12時間静置後の二酸化炭素吸収量、及び飽和二酸化炭素吸収量の両方が大きいことが確認された。従って、本発明の二酸化炭素吸収繊維は、二酸化炭素吸収性に優れていることがわかった。また、実施例1~5で得られた二酸化炭素吸収繊維は、動摩擦係数が0.3と低い値を示すため、解除時に毛羽は発生せず、繊維の品質・品位、繊維加工性、及び取り扱い性に優れることがわかった。